童話集2

 

 

 

 

 

 

 

かわむらあきら創作童話集

(第2集)

  

第11回  ゆうれいのおうち   

 

こくどうの そばに、 ぼろのおうちが いっけん、 まだ とりこわされずに のっています。 そこには、 カサゆうれいと チョウチンゆうれいが ながらく すんでおりました。 ゆうれいは、よるに でていって にんげんを こわがらせるのが しごとです。 ずっと まえには、 ひとつめこぞうやら ろくろくくびの ゆうれいも いて、 みんなで にぎやかに すんでいたのですが、 こくどうの ハイキガスで ひとつめこぞうは めを わずらい、 とうとう ひとつめさえなくなって しまいました。 しごとを あきらめた めなしこぞうは、 やまむこうの おはかに かえってしまったのです。 ろくろくくびも、 ひとの まくらもとの あんどんの あぶらを なめようにも、 いまの じだいには アンドンは なく、 のまずくわずで、 どうたいまで くびと おなじほどに ほそく ながくなり、 ひからびて きえてしまいました。

カサゆうれいと チョウチンゆうれいだけが、 なんとか がんばって はたらいているのです。 もう とおくまで でかける げんきのない カサゆうれいは、 いえの まえの こくどうに でて、 いっぽんあしで たっていました。 ところが、 じどうしゃは すごい スピードで とおりすぎます。 カサゆうれいの ほうが おもわず みちの はたに のけぞる しまつです。

ある ばんのこと、 とうとう じどうしゃを さけそこなって、 カサゆうれいは 10メートルも はねとばされてしまったのです。 たった ひとりの ともだち、 チョウチンゆうれいが すぐにたすけに きてくれなかったら、 つぎの くるまに カサの ほねまで ばらばらに ひきさかれた かもしれません。 チョウチンに かつがれて、 いえには もどりましたが、 たったいっぽんの たいせつな あしが おれて、 にどと たてなくなりました。

はたらきては チョウチンゆうれい ひとりになりました。 それも、 ちかごろの まちは、 でんとうの ひかりで あかるくて、 ろうそくがわりの ヒノタマていどでは、 こどもだって こわがりは しなかったのです。 それでも、 いえで ねたっきりの カサゆうれいの ためにも、チョウチンゆうれいは がんばって まいばん にんげんを こわがらせに でかけました。

あるひの ごご、 ふたりが ねている ところへ、 3にんの にんげんたちが かってに いえの なかを のぞきこんで いいました。

「 これは ひどい! さっさと こわさないと おおかぜでも ふけば ひとたまりもなく ぺしゃんこだ。 あぶない あぶない。 」

にさんにち たつと、 こんどは パワーショベルが やってきて、 ほんとうに いえを こわしに かかりました。 ゆうれいたちは びっくりして、 チョウチンが カサをかかえて おもてにとびだしました。 それを みつけて にんげんが、

「 つかいものに ならない やつらだ。 ゴミやきばにしか いききどころが ない。 」

と いって、 ぼろガサと、 ぼろチョウチンを トラックの にだいに ほうりあげました。

こわされていく すみなれた わがやを、 トラックの うえから ながめていると、 なみだが いくらでも でてきました。 がんばっても がんばっても でてくるのです。 チョウチンゆうれいは、 やっと すこしだけ になりましたが、 カサゆうれいは まだまだ たくさん なみだがでてきました。 ごみやきばに つくと、 にんげんが カサゆうれいを みて、

「 こいつ、 あめも ふってないのに びしょびしょだ。 」

と、 へんな かおを していました。

  • ・おしまい・・

 

第12回 きんいろの きんぎょ

 

きんぎょやの キンゾウさんが、きんいろの きんぎょを、タマゴからかえしたというのです。たちまち、まちじゅうの ひょうばんになりました。

はなしを ききつけて、みにくる ひとで、おみせは おおにぎわいです。みんなが いいました。

「キンゾウさんは、きんいろの きんぎょの おかげで、いまに おおがねもちに なるだろうね。」

「おおもうけをして、おかねが、いえに やまほど たまったという はなしだ。」

「そのうえ、キンゾウさんは きんぎょのことなら、なんでも しってる。きんぎょの ハカセだよ。」

「おかねもちの きんぎょハカセだ。」

とうとう きんぞうさんは、「おかねもち きんぎょハカセ」と よばれるように なりました。

その おこぼれを いただこうとする ひとも、あらわれました。それは くすりやの ブンゾウさんです。ブンゾウさんは キンゾウさんに たのんで、きんいろの きんぎょのフンを わけてもらいました。きんいろの きんぎょのフンは、キンが まじっているにちがいない。キンの まじった フンなら、きっと いいネで うれるだろう、と ブンゾウさんは おもったのです。

「へえ、さすがだねえ。いいところに メをつけたものだ。そのうえ ブンゾウさんは くすりのことなら、すみからすみまで しってるものなあ。」

と まちのひとが ウワサをしあいました。

そこで、いつしか ブンゾウさんのことを、

「おかねもちの くすりハカセ」と よぶようになりました。

ところで、キンゾウさんは、ほんとうは おかねは、たまらなかったのです。なぜかというと、きんいろの きんぎょの エサには、キンのコナを まぜなければならなかったのです。キンのコナは たかくて、ブンゾウさんに うる、きんいろの フンの ねだんより、たかくついたのです。だから、きんぞうさんの なまえは、「たまりません きんぎょびんほう」と よぶのが、ほんとうだったのです。

ブンゾウさんの きんいろの きんぎょの フンも、けっきょく、だれも かってくれませんでした。だから、フンばかりが いえに たまってしまい、そこで ブンゾウさんのことを、「フンたまり クスリびんぼう」と よぶのが、ほんとうだったのです。だれが、ほんとうの おかねもちかと いいますと・・それは、キンのこなやの コナゾウさんでした。それでも、そのことは、まちのひとは だれも しりません。

ところが、きんいろの きんぎょは、あるひ とつぜん、キンのコナをたべたくなくなりました。

「やっぱり、わたしは、ふつうに あかい きんぎょ でいたいもの・・・!」

と きんぎょが いったかどうかは、しりません。

それから、だんだん きんぎょは、きんいろから もとの あかいろにもどっていきました。まちのひとも、

「やっぱり きんぎょは あかいほうがいい。」

と いいだしました。

キンゾウさんと ブンゾウさんは、ほっとしました。コナゾウさんだけが、だれにも しられず、がっかりしました。

おしまい・・

 

第13回 どろぼうと カレーライス

 

どろぼうが、よそのいえの とをあけて、なかを のぞきこみました。くつが 一そくも ないのをみて、

「しめしめ、だれもいないようだ。それにしても、ブヨウジンだなあ・・・」

と、ぶつくさ いいながら、ドソクのままで、へやのなかに はいっていきました。ザシキにきて、タンスのひきだしを あけたり しめたりしているうちに、そこのいえの ママさんが かえってきたのです。

「あれ? とがあいてるわ。カギを かけわすれたみたい。どろぼうにでも、はいられたら、たいへんだったわね。」

いそいで いえに あがりました。びっくりして、にわに とびおりたドロボウは、ヤツデの はっぱの うしろに かくれました。

「だいじょうぶだったみたい。」

へやに、だれもいないし、タンスの ひきだしも しまっていたので、ママさんは、ほっとしました。げんきになると、うたも とびだします。

しかたなく、どろぼうは、じっと ひのくれるのを まつことにしました。

おにわの まんなかには、せのたかい イチョウのきが、えだという えだに、きいろい はっぱを イッパイつけて、たっておりました。あきは、ゆうがたともなると、きゅうに ひえてまいります。ヤツデの はのうらで、どろぼうは、こころぼそくて ガタガタと ふるえだしました。

やがて、ママさんが、エプロンをつけて、夕ごはんの したくを はじめたのです。ごはんの たけるニオイや、おにくの にえる ニオイが、おにわにまで、ただよってきました。あさも ひるも、なにも たべてなかった、どろぼうの おなかが、グウッと なりました。おにくが じゅうぶんに にえると、ママさんは、こどもたちと パパさんの よろこぶ かおを おもいうかべながら、カレーのモトを、おにくの おナベに いれて、おタマで かきまわしだしました。だいどころから おザシキを とおって、にわじゅうに、カレーの ニオイが みちていき、いきを すいこんだ、どろぼうの はなのあなに、カレーのニオイが、ツーンと しみとおりました。おなかが、こんどは、グウッグウッと ふたつ なったのです。

「たまらねえなあ。この、うまそうな におい!」

しだいに、どろぼうの からだが、ヤツデの うしろで、ゆらぎだしました。イチョウの はっぱが、いくつもいくつも、ゆうひに てりながら、ふってきます。

「ああ。かみさま、おたすけを・・・」

ついつい、どろぼうが、そうとなえると、どろぼうの からだは、きゅうに トロトロと とろけだし、やがて、ユゲのように、イチョウのきに そって たちのぼりはじめました。カレーライスの ニオイと いっしょに、きんいろの はっぱに まとわりつくように、のぼっていって、はては、ゆうやけの そらに きえていったのです。

うちのなかでは、おさらに もられた カレーライスが、テーブルのうえで、ユゲを たてています。

「さあ、みんな、ごはんですよ。」

と、パパと こどもたちを、ママさんが よんでいます。

・・おしまい・・

 

第14回 わんちゃんの スポーツカー

 

おてんきがいいので、わんちゃんはスポーツカーに のって、さんぽに でかけることにしました。まっかなスポーツカーを、うちのまえから しゅっぱつさせようとして、うんてんだいに のると、ともだちのぶーぶーが、みぎのとなりのうちから とびだしてきました。

「さんぽにいくなら、わんちゃん。ぼくも のせてってよ!」

「いいよ。ぼくのよこに のったら。」

ぶーぶーをのせて、しゅっぱつしようとしました。そこへ、ひだりのとなりの、めーめーが、おうちから おおいそぎで、でてきました。

「ねへへへ、ぼくものせてへへへ。」

「いいよ、うしろにのればいい。」

「さあ、しゅっぱつ!」

と三びきが、こえをそろえて いいました。

「ちょっと まってよ。」

こんどは、むかいのにゃあにゃが、

「まって まって!わたしも のせてちょうだいにゃ。」

「じゃあ、めーめーの よこに すわれば。これで、もうマンインだ。」

そこへ、かーかーが やねのうえから おりてきました。

「これは まっかなスポーツカー!のせてもらおうかー。」

「もうマンインだよ!」

「いやいや、おれはめーめーのツノのうえにだって とまれるんだ。」

「じあ、すきにしたら。こんどこそ、ほんとうに しゅっぱつだ!」

エンジンがかかりました。

「ぶるん、ぶるるん!」

そこへ、たまたま とおりかかったのが、かわいいミカちゃんです。

「みなさん、きょうはどうしたの?たのしそうね。」

「ぼくたち、これからドライブに いくんだよ、てんきがいいから。」

「へえ!ぜひとも、わたしも のせてって、おねがい!」

「だめだよ、ミカちゃん。みてのとおり、マンインなんだ。ぶるるん・・・」

と、うんてんせきの わんちゃんが、エンジンをふかしながら いいました。

「わたしには、そうは みえないわ!」

「どうしてさあ?」

「だって。」とミカちゃんが、にこにこしながら いいました。「だれか、ひとりが おりれば、わたしが のれるもの。」

「それはそうだけど、だれも おりたくないんだよ。ドライブに いきたいの!おてんきがいいんだから!」

と みんなが、くちぐちに いいました。

「しかたがない。わたしが、おりるひとの なまえを よびますからね。」

ミカちゃんは、ようちえんの、ほぼさんのまねをして、うでぐみをしました。みんな、じぶんのなまえが よばれないように、はらはらして、きいていました。

「わんちゃん!あんた おりなさい。」

「へえ!だってぼくは うんてんしゅだよ!ぼくがおりたら、だれがうんてんするのさ?」

「しんぱいしなくても、わたしがするわよ。」

「じぁ、ぼくはどうすればいいの?」

「あなたは、わたしたちのうしろから、かけてらっしゃい!」

カイドウを かぜをきりながら、まっかなスポーツカーが はしっていきます。たのしそうに、みんな、おおきなこえで うたをうたいながら・・・

「ぶーぶー、めーめー、にゃあにゃ!」

「わたしは、かわいい おんなのこ!」

「かあかあかあ、わんわんわん!」

わんちゃんのこえも きこえます。しんぱいはいりません。わんわんも チャンと、ニダイのところに のって、いつしょに うたをうたっていました。

 

第15回 ちっさおっき  

 

 てつくんは、こどもの くせに 「ちっさおっき」でした。

「ちっさおっき」というのは、あしを こすると ちいさくなり、あたまを こすると おおきくなる ひとのことです。だから、ともだちは、てつくんのことを たいそう、うらやましがりました。まるで マホウつかいみたいだったのです。ことし、一ねんせいに なったばかりの、てつくんも、そのことを、ジマンにしていました。

たんにんの まつざかセンセイは、てつくんに ちゅういしました。

「がっこうや どうろでは、マホウを つかってはいけませんよ。みんなビックリしますからね。」

おおきくなる といっても、おとうさんよりは、おおきくはなれません。おとうさんは、いえの テンジョウに あたまが つかえるほどの、おおオトコ だったのです。

それでも、てつくんも、うちのなかでは、いろいろと こまることがありました。あしのうらが かゆいからと、うっかり あしをこすりすぎると、しまいに ピンポンだまくらいになって、タタミを ころころと ころがりだして、にわに おちそうになるのです。そんなときには、できるだけ すばやく、いっしょうけんめい あたまを こすって、もとにもどらなければなりません。そうかといって、いつまでも あたまを こすっていると、こんどは、おおきくなりすぎて、あたまが カモイに ぶっつかってしまいます。

てつくんが いちばん こまるのは、おふろのときです。あたまを ちょっと あらっては、あしを ちょっと あらい、あたまを また あらい、あしを またあらいと、くりかえさなければなりません。てつくんの からだは、そのたびに おおきくなったり、ちいさくなったり、ひとめには たのしそうでも、てつくんは、たいへん つらかったのです。

そのたびに、もとの すんぽうが どのあたりだったのか、じぶんで わからなくなり、いつも おかあさんに、なきべそをかきながら、きかなければいけません。

「ねえ、おかあさん!ぼくは、どのへんで とめればいいの?」

おかあさんは、てつくんを てもとに だきよせて、

「もうすこし あしを こすってごらん。」

てつくんが あしを こすり、おかあさんの ひざのあたりに、ちぢまってくると、

「ちょっと ちぢまりすぎたわ。あたまを おさすり。」

おかあさんが さすっても、おおきくならないのです。じぶんで さすらないと、おおきくならないので、てつくんは じぶんの あたまを さすりました。

「ストップ!」

おかあさんが、てつくんを ストップさせると、

「ここが おまえの すんぽうだよ。」

と てつくんの あたまを こしの あたりで、しっかり だいてくれました。てつくんは、そのときが いちばん うれしくて、いつまでも、そのまま、おかあさんの うでの なかに、じっと だかれていたいと おもいました。でも、おかあさんは、きびしい かおで、てつくんを ひきはなしながら、いいました。

「ねえ、てつくん。いつまでも おかあさんに たよっていては いけませんよ。じぶんのことは じぶんで かんがえなければ。そんなことでは、いつまでたっても、チッサオッキは なおらないから。」

「どうしたら なおるの、おかあさん? もう、チッサオッキには、あきあきしちゃった。」

「それじゃ、わたしに ついていらっしゃい。」

おかあさんは、てつくんを がっこうに つれていきました。がっこうの にわに マットを しいて、

「さあ、てつくん。でんぐりがえりを 十ぺんしてごらん!」

てつくんは、でんぐりがえりが、なによりも ニガテでしたが、がんばって、でんぐりがえりを いたしました。そのうち、だんだんと、じょうずになってきて、十ぺんめは ほんとうに キレイに、まんまるく まわれました。おかあさんが てをたたいてくれました。いつのまにか、まつざかセンセイも、むこうのほうで、てを たたいてくれています。てつくんは、すこし てれて、あたまを かきました。そのとき、おかあさんが さけびました。

「てつくん!あなた、あたまを かいても、もう おおきくならないわ!」

「ほんとうだ!やったー!」

と てつくんも さけびました。

 

第16回 ハぬけ ばあさん

 

おばあさんには、まえバが 1ぽんしか ありません。ほかのハは、ぜんぶ、ぬけてしまったのです。どうしてかというと、おばあさんは、チョコレートがだいすきでした。チョコレートばかりではありません。いちごジャムも、ようかんも、ショートケーキも だいすきでした。ハのなかの バイキンは、チョコレートや、いちごジャムや、ようかんや、ショートケーキの ついた ハが、すきだったので、おばあさんのハを かじりました。つぎつぎに バイキンに ハを かじられて、おばあさんの ハは、とうとう のこり一ぽんになってしまったのです。

それでも、おばあさんは、あまいものを たべるのを、やめたわけではありません。

あるひ、また、バイキンが、のこりの おばあさんの ハをかじりだしました。ショートケーキに かぶりつきながら、おばあさんは、うおんうおんと なきだしました。

「いたいよう・・・いたいよう・・・」

そこで、るすばんを イエネズミに たのむと、おおいそぎで ハいしゃさんに でかけました。まちかどの チョコレートやさんが、おばあさんをみかけて、こえをかけました。

「おばあさん!スイスからきた アーモンドチョコレートが あるんだけど・・・」

「わたしは ハがいたくて、それどころじゃないんだよ。」

と、おばあさんは かけながら いいました。つぎの かどは ジャムやさんです。

「おばあさん!カナダからやってきた ブルーベリージャムはどう?」

「じょうだんはよしとくれ。わたしは むしバが いたいんだから。」

つぎの つぎの カドは、ようかんやさんで、そのとなりには ケーキやさんも ならんでいます。

「おばあさん、おばあさん!でっちようかんの  おいしいのがあるんだよ。」

「なまクリームの たっぷり入った ショートケーキは いかが?」

「もう!だめだったら!」

おばあさんは、ハいしゃさんに かけこみました。

あいにく、ハのいたいひとが 5にんも まっていました。おばあさんは、じゅんばんを まちながら、あごを かかえて、うおんうおんと ないていました。

やっと じゅんばんが まわってきました。

「おばあさん、また きたね。」と おいしゃさんが いいました。「でも、もうこれで こなくてもよくなるよ。だって、さいごの この1ぽんを ぬいてしまうと、バイキンも かじるハが なくなるからね。」

「ありがとうございます。」

と、おばあさんは、おれいを いって、かえりました。すっかり きぶんの よくなった おばあさんは、かえりみちに、なまクリームたっぷりの ケーキと、でっちようかんと、ブルーベリージャムと、アーモンドチョコレートを かいこみました。

「ただいま!」

るすばんの イエネズミに アイサツすると、さっそく おばあさんは、チョコレートを かじろうとしました。でも、ハが 1ぽんも なくなって、かじることができません。おばあさんは、チョコレートを  ほうりだして、なきだしました。チョコレートは イエネズミが かじり、おばあさんは なきつづけました。いくら ないても いくら ないても、なみだが とまらないのです。

「どうしたんだろう?」

と じぶんでも フシギなほど、なみだが でてくるのです。とうとう、おばあさんは ひとばん なきつづけていました。

よくあさ、かんごふさんが、きのう、おばあさんが わすれてかえった くすりを とどけに やってきました。ところが、おばあさんが みあたりません。そのかわり、へやの まんなかに あかんぼうが、ちっちゃな てをにぎりしめて ないています。

「まあ、かわいい!」

かんごふさんが、だきあげて、びょういんに つれてかえりました。

のこりの アーモンドチョコレートと、ブルーベリージャムと、でっちようかんと、ショートケーキは、イエネズミが たべて、ついでに くすりものみました。

 

第17回 ごきぶりの ゴリ

 

まよなかに だいどころで、ごきぶりの ゴリが リンゴの しんを たべています。おなかが へっていたので、むがむちゅうで たべていました。パジャマすがたで、ニンゲンが みずを のみに、だいどころへ おきだしてきたのに、ゴリは まったく きがつかなかったのです。でんとうが パッと つきました。ゴリは うろたえて、だいどころの ゆかへ とびおりました。

「かあさん、かあさん! ごきぶりだ!」と にんげんの おとうさんが さびごえを あげました。「おれは キライなんだよ、ごきぶりが! こいつの ツラを みると むかむかする。」

そう いったかと おもうと、あしを あげて、はいている スリッパごと、ゴリめがけて ふりおろしました。ギシャッという おとと いっしょに、ゴリの めだまから ひばなが とびちりました。ニンゲンの おとうさんが あしを もちあげると、ながい りっぱな 二ほんの ひげは、みぎと ひだりに おれて あたまから はずれ、ちゃいろく、すきとおった はねを ひろげたまま、ゆかのうえに ゴリは しんでいました。

ゴリが てんごくへ のぼっていく さなか、はるか したのほうで、ニンゲンの こえが どなりあっているのが、かすかに きこえました。

「どうしたのよ、おとうさん。まよなかに どたばたと・・・」

「こんなとこに なまごみを おいておくから、ごきぶりが くるんだ。」

「あれ! ころしちゃったの? シガイは ちゃんと しまつしておいてちょうだい。」

そんな こえも、 やがて きこえなくなりました。

てんごくへ つくと、 かみさまが にこにこして、ゴリに あくしゅを しました。

「もうここでは だれに ふみつぶされることもない。」

よかったなあ・・・と、 ゴリは こころから ほっとしました。てんごくの はしから したを のぞくと、 ちいさく ちいさく、いままで すんでいた おうちが みえています。すると、 きゅうに ゴリの めから ナミダが あふれてきました。

「かみさま。」 と ゴリが かみさまのほうを ふりかえって いいました。 「おうちへ かえるには どうすればいいんですか?」

「ここへ きたからは、」と かみさまが、 ゴリの あたまに てを おいていいました。 「にどと おうちには かえれないんだよ。」

ゴリの めからは、とめどなく ナミダが あふれました。

「しかし、」

と、 ためいきを ひとつ ついてから、かみさまが かなしそうな まなざしで、 ゴリを みつめました。

「おまえが にんげんに なってもいいと いうのなら、 もとのちじょうに もどしてやってもいいぞ。」

「へえ?ごきぶりの ボクが にんげんに なれるんですか!」

「そうだ。 にんげんになら、 だれだってなれる。」

と かみさまが もうされました。

「そのかわり、 あついときに クーラーを かけ、さむいときに ストーブを つけ、ぜいたくな くらしをして、 あげくのはてに、きにくわない いきものを、 あしで ふみころし、 てで たたきころしても、なんとも おもわないでいられるなら、 おまえは いつでも にんげんに なれる。どうだ。 にんげんに なってでも、ちじょうに もどりたいか?」

ごきぶりの ゴリは、 だまって あたまを ヨコに ふりました。

・・おしまい・・

 

第18回 ねぼけ がらす

 

からすの カンゴロウは、 むかしは、 サンドがらすと よばれていました。 どうしてかと いいますと、一にちに サンドなきするのです。 三どだけ、むらじゅうに ひびきわたる こえで、なけばよかったのです。 まず、あさの 五じ、

「おはよう、 かあ!」

と なきました。 そうすると、 みんなは おきだして、 あさごはんを たべ、 のらに はたらきに でかけるのです。 つぎは、 おひるの 一じ、

「たべよう、 かあ!」

と なきました。 そうすると、 はたらいている みんなが、 てをやすめ、 きのしたに こしをおろして、 おひるの おべんとうを たべだすのです。

それから、 ゆうがたの 六じになると、

「かえろう、 かあ!」

と なくのが さいごです。 みんなは クワを かたに かたげて、 うちに かえりました。

 

センソウが ありました。 やがて、 センソウが おわって、 しばらくすると、 むらやくばの やねの うえに、 チャイムが とりつけられました。 チャイム というのは、 とても おおきな おとの でる キカイです。 それが むらじゅうに ひびきわたり、いいこえで、 うたを うたうのです。

「・・・かあらあすー、 なぜなくのー・・・」

と うたいました。 まず、 あさの 六じに うたいました。 だから、 五じに カンゴロウが、

「おはよう、 かあ!」

と ないても、 だれも おきだしてはきません。 おひるは 十二じに チャイムが なって、 さっさと みんな、 おひるごはんを たべてしまいます。だから、 カンゴロウが、

「たべよう、 かあ!」

と ないた ときには、 もうみんな たべおわっていたのです。

ゆうがたは、 五じに なると チャイムが、

「・・・からすが なくまに かあえろう・・・」

と うたいました。 だから、 カンゴロウが、 「かえろう、 かあ!」と なくころには、 みんな おうちに かえって、 ゆうごはんを たべていたのです。

カンゴロウは、 だんだん バカらしくなってきました。 そのうち、 三どなきが 二どなきになり、 とうとう なかなくなってしまいました。 その上、 からすの カンゴロウじいさんは、 ねむりびょうに とりつかれてしまったらしいのです。 いつまでも、 ぐうぐうと ながいこと ねています。

「きょうは まだ ひがでてないのかなあ。 まだ くらいものなあ。」

と ねぼけていました。

「くらいから、 よるに きまっている。 ねよう ねよう。」

と、 また ねました。

あるひ、 カンゴロウじいさんが、 まだ ねぼけている ところへ、 まごたちが やってきました。

「おじいさん、 もう おひるだよ。 おきようかあ! たべようかあ!」

と、 カンゴロウじいさんを ゆすりおこしました。

「ええ? もう おひるかい? まだ よるだとばっかり おもっていた。」

と、 おじいさんがらすは、 やっと めをさましました。

「おじいさん! おたんじょうびの プレゼントを もってきたよ。」

「へえ、 よく おぼえていてくれたねえ。 それにしても、 いつのまに としをとったのだろう・・・」

「さあ、 はやくあけてごらん!」

カンゴロウじいさんが、 プレゼントの はこを あけると、 かわいい めざましドケイが はいっていました。

「ちょうど、 トケイがあればと おもっていたんだ。 トケイなら、 いま なんじか しってるものなあ。」

カンゴロウじいさんが、 うれしそうに、 「かあ!」と なきました。

 

第19回 あさがおの がくたい

 

はるに、おじさんがまいた、あさがおの タネが、メを だしました。

「 ようこそ! あさがおくん! 」と、 おじさんが、えがおで あいさつしました。 「 はやく おおきくなれよ。」

そして、 ようやく なつに なりました。

あさに なって、 おじさんが、 ジョロに みずを くんで、 にわに おりてきました。 あさがおの はなが、 カキネいっぱいに さいています。

「 やあやあ! はじめまして! 」

と、 おじさんが えがおで アイサツしました。 すると、 いきなり あさがおたちが、 ガクタイを はじめたのです。 あかい あさがおが、 トランペットを ふきました。

「 パッパラ、 パラパー! 」

あおい あさがおは、 トロンボーンです。

「 ボボッボー・・・ボボッボー・・・ 」

むらさきの あさがおは、 バルーンです。

「 プルルー、 プル ルッルー・・・ 」

そして、 ピンクの あさがおは、 ソプラノで うたを うたいだしました。

「 ミソラシドー! 」

ぼうアメのような あさがおの つぼみは、 クラリネットと フルートです。

「 クラクラ、 クラクラ リー・・・ 」

「 フルフル、 ヒリヒリ ヒー! 」

あさがおの、おおきな はっぱが、 はっぱどうしで うちあいました。

「 シャシャーン! シャーン! 」

ジョロの みずを すっかり、 あさがおの ねっこに かけおわった おじさんは、 からに なった ジョロの そこを、 じょうずに たたきました。

「 ドンドコドンドン、 ドンドコドンドン・・・ 」

「 おみそしるが さめますよう! 」

と、 この いえの、 おばさんが よんでいます。 それでも おじさんは、あさごはんを たべるのを すっかりわすれて、 あさがおの ガクタイと いっしょに、 ジョロの そこの タイコを、 たたきつづけました。

「ドンドコドンドン、ドンドコドンドン・・・」

お昼になると、赤色のあさがおが、まず、しぼんでしまいました。それから、青色のあさがおが、しぼみ、むらさき色のあさがおも、ピンク色のあさがおも、じゅんばんに、しぼんでいきました。やっと、あさがおたちの楽隊が、おさまりました。

あせを、いっぱいかいて、おじさんも、からのジョロを、かたにかついで、うちの中にはいりました。

「いいかげんにしないと。」と、おばさんが、台所からどなっています。「もう、そろそろ、お昼ごはんですよ!」

 

第20回 どろぼう おやこ

 

いつも、フエの ピッピーを、 ピッピーと ならせている ひとが いました。 だれかと おもったら、 おまわりさんです。 ひるでも よるでも、 おまわりさんは、 ピッピー ピッピーと uらせておりました。

それが、 よるに なっても、 おまわりさんが フエを 吹かなくなったのです。 ちかごろ なまけて、 ねてばかりばかり いたからです。 だから ピッピーも、 よるには ひっそりとして、 ならなくなりました。

あるよる ピッピーは、 おまわりさんの ポケットから、 こっそり ぬけでて、ひとりで まちに でかけることに しました。 よるの まちを ピッピーが、 ピッピー ピッピーと ならして あるいたので、 ちょうど みはりをしていた、 どろぼうの こどもが びっくりして、 あたりを キョトキョト みまわしました。 みちを おまわりさんの フエだけが とおっていきます。 おまわりさんは みえませんでした。

「きみは ただの フエなの?」

と こどもの どろぼうが、 ききました。

「ぼくは ピッピーだよ! 知らないのかい。」

と ピッピーが、 おこったように いいました。

「ひとりで あるく ピッピーなんて、 きいたことないよ。」

どろぼうの こどもが いいかえしました。

「じあ いま きくがいい!」

そう いって、 ピッピーが おおきな おとで、

「ピッピー! ピッピー!」

と ならしました。 その おとに めを さました おまわりさんが、 フエを さがしに かけだしてきました。 おまわりさんを みつけた どろぼうの こどもは、 いそいで とうちゃんどろぼうと、 かあちゃんどろぼうに しらせます。 とうちゃんどろぼうと、 かあちゃんどろぼうは、 よそのうちにはいって、 おかねを ぬすもうとしていたのです。

「とうちゃん、 かあちゃん! おまわりだよ!」

「ばか、」

と、 おかねを ほうりだして とうちゃんどろぼうが でてきて、 こどもを しかりました。

「そんな おおきな こえで さけぶ ヤツが あるか。 こんな ときは コソコソと いうもんだ。」

おまわりさんが やってきて、 みはりの こどもを、 みつけました。

「こら! どろぼうだな?」

それを きいて、 とうちゃんどろぼうが、

「このこは、 うちのこ です。 どうもすいません。」

と、 あたまを かいて みせました。

「あっ! こっちが ほんものの ドロボウだな。」

とうちゃんどろぼうは、 こどおを だきあげて、 かあちゃんどろぼうと いっしょに、 スキを みて にげだしました。

「こら、まて!」

おまわりさんは、 フエを ひろって、 ピッピーと ならしました。 どろぼうたちは、 じぶんの うちへ はしってかえって、 いそいで、 いりぐちの カギを かけました。

「あけろ あけろ! ピッピー!」

おしても 引いても あかないので、 おまわりさんは、

「とじまりのいい うちだなあ。」

と、ぶつくさと いい、

「また あしたにしよう・・・」

と フエを ポケットに しまうと、 ねむそうに あくびを して、 こうばんに かえりました。

おまわりさんの ポケットの なかで、 ピッピーも なんとなく ほっとして、 ぐっすりと ねむりました。