童話集4

 

 

 

 

 

 

 

 

かわむらあきら創作童話集

(第4集)

 

31回 こザメの そだてかた

 

うみの そこの ほらあなに、 サメの おかあさんが たまごを うみました。 やがて みずの いろが あおから みどりいろに かわりかけたころ、 たまごが かえって なかから かわいい サメの あかちゃんが たんじょうしました。 サメの おとさんと おかさんは よろこんで、 こザメに 「キング」 という なを つけました。 「キング」は 「おうさま」 という いみ ですから、 やがて つよくて やさしい おうさまの ような サメに そだってくれるに ちがいないと、 おとさんも おかさんも ねがったのです。

あかちゃんキングは みるみる りっぱな 子ザメと なりました。 その あたりから

 こどもの しつけかたに ついて、 おとさんザメと おかさんザメの いけんが わかれ、 おとさんは、

「 キング なんだから つよく そだてなきゃあ・・・ 」

と いいました。

「 とんでもない。 やさしいから キングなのよ。 」

と、おかあさんも まけてはいません。 それから まいにち どなりあい、 けんかばかり するように なりました。

こザメの キングは、 そとに あそびに でかけて、 ちょうちんアンコウの おばさんに ききました。

「 ねえ、 ぼくは つよい ほうが いいのか、 それとも やさしい ほうが いいのか、 どっちだと おもう? 」

アンコーのおばさんは、ちょうちんであたりをてらしながら、

「 そりゃあ サメは つよいのが あたりまえ だけど、 わたしには やさしくしておくれ。 」

「 わかったよ。 おばさん。 」

やがて お昼になって、 キングは おなかが すいてきたのに きが つきました。 そこへ やってきたのが まダコの あんちゃんです。 じぶんの あしを かじりながら とおりかかりました。

「 おいしいなあ、 キングくんにも 一ぽん わけてやろうかなあ。 」

「 タコさん タコさん。 ぼくは きみを まるごと たべたいんだけど ねえ。 それには この するどい はで かみついた ほうが いいのか、 そろそろっと のみこんだ ほうが いいのか、 どちらが いいのかしら。 」 

「 それは むつかしい もんだいだね。 じっくり かんがえた ほうが いいよ。 」

そう いって、 あたり いちめんに まっくろな すみを はきだして まダコの あんちゃんは にげていって しまいました。

うみの そこの どうくつに もどった こザメの キングが、 かあさんザメに いいました。

「 ぼく おなかが へったんだ! はやく ひるごはんに しておくれよ。 」

おとうさんザメと おかあさんざめは あいかわらず 「しつけ方」に ついて ギロンを していて ほかの ことは みみに はいりません。

「 わからないのかい。 キングは おとこのこ なんだ。 つよくなくっちゃ。 」

「 いいえ、 わたしに にて みんなに すかれるように やさしくなくっちゃ。 」

「 いつまで やってんの! ふたりとも。 じゃんけんでも して はやく きめてよ。 」

キングも そばから ことばを はさみました。

「 それも いいなあ。 じゃあ ふたりで じゃんけんで きめよう。 かったほうの いう とおりに そだてるんだぞ。 」

「 いいわよ。 」

そこで とうさんザメと かあさんザメが じゃんけんを はじめました。

「 ・・・あいこでしょ。 あいこでしょ。・・・ 」

いつまでも じゃんけんは おわりません。

「 おなかが へったよう! 」

「 まちなさい! 」

「 あぁん! あぁん! 」

うみの そこから みあげる そらが、 だんだん むらさきいろに くれかかりました。

おしまい

 

 32回 あかい じてんしゃ

 

るひ、りつこちゃんの うちに まっかな じてんしゃが とどきました。

「 すてき! おとうさん ありがとう! 」

 

その よるの ことです。 げんかんが がたがた いうのです。 りつこちゃんは しんぱいに なって パジャマの ままで げんかんに いってみました。 すると なんと いうことでしょう! いましも とびらから りつこちゃんの まっかな じてんしゃが ひとりで でていこうと しているでは ありませんか。

「 だめ! こんな まよなかに どこへ いくの? みつかったら おかあさんに しかられるわよ。 」

りつこちゃんは はだしの まま しっくいに とびおりて じてんしゃを おっかけました。 しかし じてんしゃは それより はやく おもてに とびだして、 くらい よみちを だれも のっていないのに すごい スピードで はしっていって しまいました。

「 おかあさん たいへん! わたしの じてんしゃが! 」

ねぼけまなこで おかあさんが やっと おきてきて くれました。

「 どうしたの? 」

「 じてんしゃが ひとりで かけて いってしまったのよ。 」

「 そんなバカな・・・! 」

「 ほんとうなの。 どうしよう・・・ 」

「 ・・・しかたないわねえ。 」

おかあさんは ねまぎの うえから ひっかけた タンゼンに ふところでを して、 もう あきらめがおです。

「 ひとりで とびだして いったんだから ひとりで もどってくるわよ。 」

「 そうかしら? 」

「 はやく ねましょう。 かぜを ひくわ、 りっちゃん。 」

あくるあさ、 めが さめるや いなや りつこちゃんは おそるおそる げんかんに いってみました。 すると! りっちゃんの あかい じてんしゃは まるで なにごとも なかったように ちゃんと かたすみに おかれて ありました。

そのばん、 おかあさんに ないしょで りつこちゃんは みずいろの トレーナーに おそろいの ズボン、それに うんどうぐつも はいたまま ベッドに もぐりこみました。

よなか。 げんかんが また がたがたと なりました。 ハッと とびおきて とんでいくと、 あんのじょう じてんしゃが とびらの カンヌキを じょうずに はずして そとへ はしりだした ところでした。

「 まちなさい! 」

りつこちゃんは これでも うんどうかいでは せんしゅだったので はしることには じしんが ありました。 でも、 じてんしゃも また はやかったのです。 とっても かないません。 たちまち ぼんやり ともる ガイトウの まちかどから あかい てんに なって、 やがて やみの なかに きえて しまいました。

つぎの ばん、 りつこちゃんは じぶんでも いやに なるような いじわるを かんがえつきました。 げんかんさきの じぶんの じてんしゃに カギを かけたのです。

よなかの ことです。 げんかんから ジージーと なきごえが きこえて きました。 いってみると、 はしりだせないで じてんしゃの ペタル だけが まわっているのです。

「 いくら ないたって だめなものは ダメなの! いいかげんに あきらめなさい。 」

おかさんの くちぐせを まねて、 りつこちゃんが しかりつけました。 ところが こんどは、 とびらの そとでも ものおとが するのです。 きになって とびらを あけると、 そとに あおい いろの じてんしゃが くるくると みちの まんなかを わを かいて ひとりで はしっている ではありませんか。

「 へえ、 あんたたち ひょっとして なかよしなの? 」

りつこちゃんは じぶんの イジワルを こうかい しました。 じてんしゃの カギを あけてやると、 うれしそうに あかい じてんしゃは リリンリリンと ベルを ならしながら とびらを くぐって そとへ かけだして いきました。 あおい じてんしゃと あかい じてんしゃは、 まえになり うしろになりして やがて よるの やみに きえました。

 

「 どうしたの? りっちゃん。 めが さめた? 」

おかあさんが のぞきこんで いました。

「 よんでも よんでも おきなかったのよ。 」

「 じてんしゃは? おかあさん。 もう もどってるかしら・・・」

「 なにいってるの。 きのう おとうさんに かっていただいた あかい じてんしゃの こと? あるに きまってるじゃない。 きょうは にちようだから れんしゅうしなくっちゃ。 」

「 だって ゆうべ、 わたしの じてんしゃったら デートに でかけちゃったのよ。 」

「 りっちゃん どうかしたの? 」

「 ゆめだったのかしら・・・ 」

そとから おとうさんのこえが よんでいます。

「 はやく おきておいで りつこ! いい おてんきだ。 れんしゅうだぞ。 」

おにわの モチのきに あかい ことりと あおい ことりが たわむれあって とんでいます。

「 はああい! 」

りつこちゃんは ベッドから うさぎの ように ぴょんと とびおりました。

おしまい

 

 33回 ライオンと おへそ

 

 むかし、 ライオンが まだ うみの なかで くらしていた ころの おはなしです。

むろん そのころの ライオンは およげたのです。 それどころか、 もぐることだって できました。 いまの ような りっぱな 4ほんの あしは なくて、かたちは おさかな そっくり。 ただ、 つよい は と ふさふさの タテガミだけは いまと かわらずでしたから、 その ときも ライオンは 「 ライオン 」 という なまえ でした。

うみの なかで およぐ ライオンは それはそれは いさましかったのですよ。 かおは ライオンですが からだは おおきく いまより もっと ながい タテガミを なびかせて、 きたの はてから みなみの はてまで さっそうと およいだ ものです。 タイヘイヨウの こと、 タイセイヨウの こと、 しりつくして おりました。 イワシや サバ、 タコ、 イカは もとより、 カツオ、 マグロ、 サメで さえ、 ライオンの てきでは なかったのです。 クジラも、 ライオンに きがつくと みてみぬふりを して とおりました。

ところで、 ライオンは とても くいしんぼう だったのです。 ねている ときの ほかは、 せかいじゅうの さかなたちを おっかけては たべまくって いたのです。 と いっても、 おさかを まるごと たべるのでは ありません。 おさかなの 「 おへそ 」 だけを たべるのです。

「 へえ! 」

びっくりした? ほんとう なんですよ。 そうなんです。 おさかなには もともと 「 おへそ 」が ついていた のです。 イワシ、 サバ、 タコ、 イカ、 カツオ、 マグロ、 サメ、 などなど・・・ どの おさかなにも ついていた のです。

ライオンが あんまり おさかなの おへそを たべまくるので、 せかいじゅうに おさかなの かずは ひゃくまん せんまんも あったの ですが、 とうとう どの おさかなの おなかにも おへそが なくなって しまいました。

サメを かしらに おさかなたちは なきながら かみさまに うったえました。

「 ライオンの くいしんぼうを どうにかして ください! もう がまん できません。 これ いじょう おへそを ライオンに たべられたくない・・・ わーん わーん! 」

「 よしよし わかった。 」

と、 かみさまは おっしゃいました。 そして、 ライオンは これから さき うみで およげない ように、 からだに 4ほんの あしを つけて、 りくに ほうりあげられた

 のです。 そこは サバクで、 おひさまが かんかん ジリジリと てりつけていた ので、 たちまち ライオンの ながい タテガミは ちぢれて、 みごとな しっぽは ひょろひょろと いま ぐらいの みじかさに なりました。

そのうえ、 ライオンと その こどもの 「 おへそ 」を つみとって、 それは もちろん うみの さかなに かえしてやった のです。

ようやく うみに へいわが もどりました。

ところで、 かみさまから 「 おへそ 」を かえしてもらった さかなたちが、 おれいを いうと、

「 にどと おへそを だれにも とられない ように してやろう。 」

かみさまは、 うえからと したからと かたい 2まいの カラで さかなの からだを つつんで くれました。 わたしの はなしが ほんとうか うそか、 おかあさんに きいてごらん。

「 ハマグリや アサリの おへそは どれ? 」

って。 でも、 まだまだ ライオンに 「 おへそ 」を とられた おさかなは せかいの うみの なかに、 ひゃくまん せんまんと いるのです。 カミナリさまが ライオンの こどもと まちがえて、 きみの 「 おへそ 」を かわいそうな うみの おさかなの ために とりにきたら、 いそいで はらまきの したに かくしなさい。 うっかり わすれると カイの おへそに されてしまいますぞ。

おしまい 

 

34回 エンピツの ウチュウ りょこう 

 

ひとの いない うちに、 コンパスと マッチと エンピツと だけが すんでいました。

コンパスの みぎの あしは くぎの ように とんがって いたのです。 ひだりの あしは ひざから したが ワッカに なっていて、 いつも エンピツが コンパスの その ひざの ワッカに はまりこんで ひだりあしの かわりを してやっているんです。 コンパスは みぎあしの トンガリで つったったまま ひだりあしの エンピツに てつだわせると、 それは じょうずに まんまるく あるくんです。 だから、 コンパスは よのなかは、 「 まる 」で できている、 と おもっていたんです。

ところで、 マッチは コンパスより ずっと なまけもので、 あるくこと など しないで、 いちにちじゅう はこの なかで きょうだいたちが ひるね ばかり していました。 ときどき はこから とびだしてきて あたまを ものに ぶっつけると、 ようやく めがさめて、 かおを まっかに して もえだし、 やがて もえつきて しまいます。 だから マッチには よのなかは 「 はなび 」の ような ものだと おもっていました。 その あいだだけ あたりが あかるくなり、 すこしは あたたかくも なるのです。 あまり ものも いわない マッチも コンパスと エンピツに とっては たよりになる いい ともだちだったのです。

エンピツだけは よのなかの ことを いちばん よく しっていました。 エイゴも ドイツゴも ホウリツも サンスウも むかしの ことも 今のことも これから さきの ことも、 ぜんぶ べんきょうして しっていたからです。

だから エンピツは、 ロケットの こと ウチュウの ことを きいて しっていました。

「 ああ いつまでも コンパスの ひだりあしに なって まる ばかり かいているのは つまらないなあ。 マッチは いつも ねて ばかりだし。 たまに おきだしてきても たちまち もえつきてしまう。 はなしが あわないんだよ。 みんな なに ひとつ よのなかの ことを しらないんだから。 ぼくは ウチュウに とびだしたいな。 」

エンピツの ためいきを ききつけて コンパスが いいました。

「 じゃあ いっておいでよ、 エンピツくん。 ながい あいだ きみは ぼくの ために ひだりあしの かわりを してくれた。 ありがとう。 おれいを いうよ。 だから もう きみを じゆうに してあげよう。 ぼくの ことは かまわないから すきに したらいい。 」

「 ほんとうなの! 」

エンピツが めを かがやかせました。

「 でも、 やっぱり だめだ。 ウチュウは とおいし、 あるいては いけないんだ。 」

「 そんなこと なんでも ないさ。 マッチが いるじゃないか。 」

「 ええ? 」

「 マッチの カヤクが きみを とばしてくれるよ。 」

「 ナルホド! あんがい コンパスくんは ものを かんがえてるんだなあ。 」

「 そりゃ きみよりは ながいき してるからなあ。 そんな ことより おもいついたら はやい ほうが いいよ。 さあ ぼくの ひだりの ワッカに つかまって ごらん。

まどに むかって うえむきに だよ。 」

エンピツが そうしました。

「 マッチくん! きみの でばんだぞ。 」

コンパスが どなると、 びっくりした マッチが とびだしてきました。

 「 1ぽん じゃだめだめ。 それでは くもにも とどかない。 5ほん いっぺんに もやしてよ。 」

ちゅうもんを つけたので エンピツの おしりから 5ほん いっぺんに マッチが ひを つけました。

「 みんな ありがとう! 」

エンピツが さけびました。

「 げんきでなあ! 」

コンパスが 1ぽんあしで くるくると まわりながら わかれを おしんで くれました。しばらくして ふりかえると チキュウの うえで たいまつのように もえている マッチが 1ぽん みえました。

「 さよなら! 」

エンピツの めから なみだが あふれて きました。 チキュウが ちいさく なるに つれ そらは くらくなり、 その かわり、 つぎつぎと ほしが あらわれ かがやきだしました。

「 すごいなあ! 」

と、 エンピツの しんぞうが どきどき しました。 どんどん とんで いきながら、 もう チキュウの ことは わすれかけて いました。 かたあしだちの コンパスと いっしょに かいた ちいさな 「 まる 」の ことも。 マッチの まずしい うすあかりや ぬくもりも。 ただただ じぶんの とんがった くろい あたまが むかう ところへ むかって とびつづけました。

「 ウチュウは ひろいぞ! 」

いましがた とおりすぎて いった おつきさまに、 うさぎが すんでいたか、 たしかめる ひまも ないまま どんどん うしろへ ちいさく なっていってしまいます。

「 きりが ないなあ ウチュウって! 」

エンピツが ひとりごとを いいました。 だって ひとりごとの ほかは もう ふたりごとも 3にんごとも いえなかったのです。

それでも エンピツは さびしがった わけでは ありません。 きぼうに むねが ふくらんで いたのですから。

さて、 この おはなしも きりが なくなってきました。 では・・・ エンピツの ウチュウ りょこうは まだまだ おわらないけど、 おはしは おわりにします。 

・・おわり・・

 

35回 ケズラー

 

1ねんせいの おとこの こが いました。 なまえは タロウです。 おとうさんは けいさつかん でしたから、 あさ はやくから でかけて、 よる おそくしか かえってきません。 おかあさんも びょういんへ かんごふさんの パートに はたらきに でていました。 それで、 ひるま タロウは たいてい ひとりぼっちで すごしました。

おかあさんは いつも でかけるまえ、

「 しっかり べんきょうするのよ。 」

と いうのが くちぐせ です。 おとうさんも、 べんきょうの どうぐなら なんでも かってくれました。 ほんだなには ほんが 15さつも あって、わからない ときには、どれかの ほんを みれば すぐに やくに たちました。

テレビも へやの かたすみに おいてあります。 それから、 れいぞうこ! この なかには、 まいにち おかあさんが いろいろの 「 おやつ 」を いれておいて くれるのです。

ただ、 あそびどうぐが なかったので、 タロウは いちばん きにいっている 「 えんぴつけずり 」で まいにち あそんでいました。 おなかの とうめいな はこに えんぴつの けずりかすが だんだん たまってくるのが タロウには とても たのしかったからです。 タロウには、 えんぴつけずりが ともだちの ようなものでした。

べんきょうべやには、 まどが ひとつ にわに むかって あいていました。 そとに でて あそぶのが にがての タロウは、 べんきょうが おわっても いつも うちの なかで ひとりで テレビを みて くらしていました。

「 たまには おにわで おあそびなさい。 」

と、 おかあさんが ちゅういしても、

「 それなら えんぴつけずりを つれていっても いいでしょう? 」

と、 そんな へんな ことを いう こ でした。

「 そんなもの うちの なかで つかう ものよ。 えんぴつけずりは そとに つれていっては いけません。 」

その ときだけ おかあさんの こえが みょうに きびしく ひびきました。

「 どうしてだろう? 」

あるひ、 タロウは おかあさんの いいつけに さからって みたくなりました。 そとは ぽかぽかと あたたかい 5がつでした。 そっと とを あけて あたりに きんじょの こどもも おとなも いない ことを たしかめると、 タロウは えんぴつけずりを だいじそうに かかえて おにわに でてきました。

その ときです。 おもいもよらないことが おこったのです。 まっさおな そらの まんなか、 さんさんと かがやいていた おひさまの ひかりが タロウの えんぴつけずりに むかって ふりそそいで きたのです。すると、 とつぜん えんぴつけずりが ググッと おおきくなり、たちまち タロウが かかえきれない ほどの 「 カイブツ 」に ふくれあがりました。

「 き、きみは だれだ! 」

「 おれさまは ケズラーだ! 」

と、 その カイブツが こたえました。 タロウは びっくりして えんぴつけずりを ほうりだし、 いえの なかへ かけこんで、 いそいで かぎを かけました。 まどから おそるおそる のぞいてみると、 つい さきほどまでの かわいい 「 えんぴつけずり 」が いまは とてつもなく おおきく たくましい 「 ケズラーかいじゅう 」と なって、 どすんどすん あしおとを ひびかせて とおざかっていくのが みえました。 タロウは いそいで テレビを かけてみました。 すると、 もう りんじニュースが ケズラーの ことを ほうそうしているのです。 まちじゅうの えんぴつけずりが ケズラーに ヘンシンしたらしい のです。 そして、 つぎつぎに にんげんを くちに ねじりこんでは かたっぱしから エンピツに してしまっいる とのことです。

「 けいさつが まちを まもって たたかっています。 」

タロウの おとうさんも きっと ケズラーと たたかっているに ちがいありません。 「 びょういんには けがにんが ぞくぞく はこばれて きている ようです。 」

タロウの おかあさんも ひっしで はたらいて いることでしょう。 タロウは こどもなので じっと ひとりで がまんして テレビを みていました。 でも このままでは ほどなく この まちが ケズラーに セイフクされて しまいます。 ニッポンも セカイも せいふくされて しまうと、 やがて この チキュウは 「 ケズラーぼし 」と よばれるように なるかもしれません。 タロウは いそいで ほんだなの ほんを さがしはじめました。 そして! みつけたのです!

・・・ケズラーかいじゅうを やっつける ほうほう・・・!

「 ケズラーが どうして ケズラーに なったかを かんがえて みましょう。 」

と かいてありました。

「 どうして だったかなあ? 」

「 もともと かわいい えんぴつけずりだった でしょう? おひさまの ひかりが ふいに ふりかかって きたのでは なかったですか。 すると たちまち おおきくて たくましい ケズラーかいじゅう と なったのです。 だれでも もし おなじように そとに でて、 おひさまの ひかりを からだ いっぱいに あびると ケズラーに まけない たくましい こどもに ヘンシンできる のです。 ケズラーを やっつけることが できるのです。 おとうさんや おかあさんを たすけだすことも できるのです! 」

タロウは いっしょうけんめい よみつづけました その あいだも テレビは せかいじゅうで ケズラーかいじゅうが おおあばれ していること、 どの まちにも むらにも コウソクドウロにも エンピツの タバが ごろごろ していること、 この ままでは にんげんは まもなく ケズラーかいじゅうに ほろぼされるに ちがいないと、 そんなことを たてつづけに しゃべっていました。

ところで、 タロウくんは まだまだ ほんを むちゅうに なって よみつづけながら、 ひだりてで れいぞうこを あけようと しているでは ありませんか。 そこには けさ おかあさんが いれておいてくれた イチゴつきの ショートケーキが ケズラーさわぎで たべるのを すっかり わすれていたので、 2きれも のこっていた のです。 だめだ タロウくん! そんな ひまは ないんだ! ないんだよ!

 

 36回 12ほんの いろえんぴつ

 

おとこのこの つくえの ひきだしに ふるびた いろえんぴつの はこが はいっていました。 この いろえんぴつを おとこのこは きょねん おねえさんから もらったのです。 でも まだ いちども つかったことが なくて、 つくえの ひきだしに しまったまま わすれてしまって いました。 でも いろえんぴつは ぜんぶで 12ほん、みんな なかよし でしたから けっして さびしがったり していません。 そのうえ、 これから おはなしするような ひみつの たのしみが あったのです。

おとこのこが しょうがっこうへ、 おねえさんは ちゅうがっこうへ、 おかあさんも おかいものに でかけた、 あさの 10じごろに なると、 いろえんぴつたちは そろそろっと はこの そとへ 1ぽんずつ ひきだしの すきまから つくえの うえに はいあがって くるのです。 さいごに でてくるのは いつも、 くろいろの おとうさんエンピツです。

 「 さあさ、 おかあさん、 みんな そろったかね? 」

「 はい、 みんな 1ぽん のこらず そろいましたよ。 」

その こえは しろいろの おかあさんエンピツ です。 くろいろと しろいろは あまり つかわないので、 2ほんとも せが、 ほかの だれよりも たかいのです。 いちばん ちびっこの あかいろエンピツは あかちゃんエンピツ でした。 ピンクいろエンピツは いもうとエンピツ ですよね。 そらいろは おとうとエンピツ、 みどりいろは にいさんエンピツ。 だいだいいろは・ ・ ・そう、 おねえさんエンピツ でした。 はいいろと きいろ、 これは おじいさんと おばあさん。 こげちゃいろは、 おじさんエンピツ。 むらさきいろは おばさんエンピツ・ ・ ・。これで 11ぽん。 あとの 1ぽんは? おにいさんの およめさんを わすれないでくださいね。 わかくさいろの! このあいだ けっこんしたて なんだから。 これで そろった 12ほん。 1ダースともいうんです。

「 きょうは おしょくじかい てのは どうだろう! 」 と、 おとうさんエンピツが いいました。 「 だれか テーブルとか いすを つくって くれるかね。 」

「 いいとも いいとも。 いつものところに がようしが ほおってあるから、 これで テーブルと いすを つくりましょう。 」

こげちゃいろの おじさんエンピツが がようしに テーブルと いすの えを かきました。 たちまち かわいい きづくりの テーブルと いすに なりました。 おかあさんエンピツが テーブルに まっしろい テーブルクロスを しきました。

「 はいいろの おさらで よかったら わしが つくりだしても いいんだよ。 」

はいいろエンピツの おじいさんが なにか てつだいたげに もぐもぐと くちを はさみました。

「 いいんですよ おじいさん。 われわれで やりますから、 おじいさんと おばあさんは どうぞ いすに すわって、まってて ください。 」

と、 おとうさんエンピツが ふたりを いすに すわらせました。

「 せっかく しいてくれたけけど おかあさん。 きょうの テーブルクロスは わかくさいろがいい。 なにせ かわいい およめさんが めのまえに いるんだから。 」

「 そうですね。 じあ テーブルクロスは おねがいするとして、 わたしは いらなくなった テーブルクロスの しろいろで、 おおざら こざら スープざらに、デザートざら、 コーヒーカップに コーヒーソーサーまで つくりましょう。 」

「 そうしてくれるかい。 では、 おさらが そろったところで おりょうりだ。 やさいは みどり色。 にんじんは だいだい色。 そうだ、 オムレツ! わすれるところだった。 おばあさん。 すわっているところ わるいけれど オムレツは やっぱり おばあさんの きいろですよね。 」

「 いいとも いいとも、 オムレツは わたしで なきぁ できないよ。 」

「 じゃあ、 わたしは むらさきいろの あかワインを グラスごと かきましょう。 」

むらさきいろの おばさんエンピツが とくいげに まえに でてきました。

「 ありがとう!・ ・ ・それから、 きょうの デザートは ピンクの さくらんぼ。 」

「 ねえ ねえ、 わしにも なにか てつだわせておくれ、 すわってばかりいるのは かえって からだに わるいんだ。 」

と、 はいいろの おじいさんが たってきました。

「 じゃ、 しょっきを 12にんまえ つくってください。 」

「 ひきうけた。 ナイフに ホークに スプーンだね。 はいいろの ピカピカを 12にんまえ! 」

「 ぼくと あかちゃんは なにを したらいいの? 」

「 そうだな、 そんなら ちょうど テーブルの かざりものが ないから、 そらいろの かびんを かいてごらん。 あかちゃんは、 ばらいろの おはなだな。 そして、 さいごに わたしも、 くろくて りっぱな ピアノを かこう。 これで できあがり! ごくろうさま。 さあ、 みんな いすに ついて。 ごちそうですよ。 いただきましょう。 」

しばらくして・ ・ ・おべんとうを べんきょうべやに わすれてきてしまった にんげんの おとこのこが、 ひるやすみに とりに かえってきたのです。 なんだか へやのなかが にぎやかなので、 こっそり すきまから のぞいてみて おどろきました。おしょくじかいを おわった いろえんぴつたちが、 そのあと、 つくえの うえで おとうさんエンピツの ピアノに あわせて、 ダンスパーテーを はじめている ではありませんか! くさいろの テーブルクロスの うえには、 たべのこしが ちらかっています。 おとこのこは、 これは てっきり じぶんの おべんとうが たべられたのだ と おもったのです。

「 だれだ! これは ぼくの おかあさんに つくってもらった ぼくの おべんとうだぞ! 」

つくえの かたすみに おきわすれている おべんとうばこの ほうへ はしっていきました。 いろえんぴつたちも ふいを くらって、 われさきにと、 つくえの ひきだしに なだれこんで、 つくえの うえから きえていきます。 おとこのこは いそいで ふろしきづつみを といて、 ふたを あけてみました。 よかった、 セーフでした! たまごやきも ハンバーグも のりまきおにぎりも、 なにひとつ へってはいません。

「 やれやれ・ ・ ・」

もう いちど おべんとうを つつみなおして わきに かかえると、 にんげんの おとこのこは、 よにも ふしぎな いろえんぴつの パーテーの ことなぞ きにもとめずに、 いちもくさんに がっこうに はしって いきました。

 

37回 フクロウと キツツキ 

 

 まちの こうえんに、 おおきな くすのきが 1ぽん たっていました。 ほかの きと くらべても せが たかく えだぶりも りっぱだったので、 むしたちが よってきて きの しるを すって いきていました。 くすのきの みきの なかほどに、 あかちゃんの あたま ほどの あなが ひとつ あいています。 そこが フクロウの おうち でした。 ずっと まえから フクロウは そこに すんでいた のですが、 ひるまは たいてい あなの なかで ねていて、 あまり そとへは でてこない のです。 よるに なると、 たべものを さがしに こっそり でかける のでした。

ところで・ ・ ・フクロウの おうちより したの ほうに 3ぼんめの えだの つけねの ところを ようく みると、 そこにも おとなの こぶし ほどの あなが あいていて、 キツツキが、 これも ずっと まえから すんでいた のです。 ひるま、 フクロウが あなの なかで ねている ころ、 こんどは キツツキが じぶんの あなから でてきて、 くすのきの みきを トトトン トトトン、 と たたくのです。 きの なかに いる むしを、 くちばしの さきで たたきだして たべる おと です。 その おとは ずいぶん けたたましい ので、 あなの なかの フクロウには、 せっかくの おひるねの さまたげに なりました。

「 もう ちょっと しずかに してくれないかなあ、 ひとが ねているんだから・ ・ ・」

と、 フクロウは おもいました。 でも、 ひるまは フクロウは だれとも くちを きかないことに している のです。

よるに なると、 キツツキは じぶんの おうちに かえって、 ずいぶん しごとを したので ぐっすり ねむります。 こんどは、 ひるま ねていた フクロウが おきだす ばんです。 ゆうまぐれの のっぱらへ でかけて、 カヤネズミを つかまえたり、 ねしずまった フンスイいけで、 アオガエルを つかまえたり します。 ひとまず おなかが いっぱいに なると、 そのころ あたりは まっくらやみ。 さびしくなって くびを ぐるぐる まわしながら、 ひとりぼっちの ひとりごとを はじめるのです。

「 ねぼすけ ホッホ・ ・ ・ごろすけ ホッホ・ ・ ・ 」

キツツキは、 よなかに へんな こえで フクロウが なくので めを さまして しまうんです。

「 やれやれ、 いんきな こえだ。 おや? ねぼすけホッホ キツツキホッホ と  きこえるよ。 なんてことを いうんだ。 ねぼすけは じぶんじゃないか。 ひるまじゅう  いつも ねてばっかしいる くせに。 」

あさに なると、 キツツキが あかい ベレーぼうを かぶって しごとに でかけて、 その かわり、 フクロウは おうちに ねに かえります。 すぐそばから・ ・ ・

「 ドトンマ ドトンマ・ ・ ・トトトン ドトンマ・ ・ ・ 」

キツツキが くすのきを とんとん たたく おとが きこえてきて、 それは それは うるさい のです。

「 ああ! ねつけない。・ ・ ・それに、 ぼくのことを トンマだと いってるようだ。 トンマと いう やつが ほんとの トンマだ! とにかく これじゃあ ねむれやしない。 」

フクロウが あなの なかで ぶつぶつ ぼやいています。

そして、 また よるに なりました。 おおきな あおい おつきさまが、 くすのきの うえに ぽっかりと うかんで いると いうのに、 きみの わるい こえで フクロウが また くびを ぐるぐる まわして うたいだしたのです。

「 ・ ・ ・ぶすだよ ホッホ。・ ・ ・ごろすけ、ホッホ・ ・ ・ 」

「 なんだって? せかいいち ブスの フクロウに どうして ぼくが ブスと いわれなきゃ ならないんだ! 」

キツツキは あたまに ちが のぼって、 あかい ベレーが ますます まっかに そまりました。

さて、 こんどは あさに なり、 キツツキは さっそく はたらきだしました。

「 どびんぼ ケチケチ、 どびんぼ ケチケチ! 」

ひとばん はたらきづめで、 つかれていた フクロウは、 もう なきだしそうです。

「 ひどい! ぼくは びんぼうでも ケチでもないぞぉ。 」

おたがい いちども とっくみあった わけでも なく、 どなりあった ことも ないのに、 それどころか、 かおさえ ろくろく みたことも なかったのに、 いつも あいての ことを おこってばかり いたのです。 がまんに がまんを かさねている うち、 とうとう びょうきに なってしまいました。

ようやく フクロウが きがつきました。

「 そうだ、 キツツキの ためにも じぶんの ためにも、 ぼくは やまに ひっこそう! 」

キツツキは キツツキで けっしんしました。

「 そうだ、 フクロウの ためにも じぶんの ためにも、 ぼくは たにに ひっこそう! 」

こうえんには、 フクロウも キツツキも いなくなりました。

そこで・ ・ ・くすのきの みきには あかんぼう くらいの あなと、 おとなの こぶしぐらいの あなだけが のこっているのです。

 

38回 ふるい オルガン  

 

ある うちに ふるぼけた オルガンが ものいれの かたすみに おしこまれておりました。 もう なんねんも なんねんも だれの めにも ふれなかったのです。 あしぶみしきで、 みぎの ふみいたは とれていて、 ひだりの あしぶみいただけが なんとか ついていました。 ふたも なくなり むきだしの ケンバンが、 それでも ぎょうぎよく しろの つぎに くろが、 くろの つぎに しろが、 ならんでいます。 すこしは おんがくを かなでそうに みえましたが、 ケンバンを ゆびで おしても たかい

おとも ひくい おとも でません。 びようきの ひとの ためいきの ような、 「 ふううっ 」 と いう おと だけが もれて くるのです。

オルガンは、 むかしの ことを おもいだして いました。 ひろい へやで、 かわいい おかっぱの おんなのこが、 きれいな メロディーを ひいてくれた あの ころの ことを どうしても わすれることが できませんでした。 もういちど わかい ときの ような ぴかぴか オルガンに もどって うたを うたいたい!・・・

あるひ。 やもたてもたまらず オルガンは、 ちょうど ものおきの とびらが あいていたので、 こわれそうな からだを ひきずって、 ゆっくりと げんかんに むかって あるきだしました。 さいわい げんかんの と も あいて おりました。 おもてに でると、 そこは、 としとった オルガンには ものめずらしい ことばかり でした。 ものおきに たばねてある ふるざっしで しか みたことのない、 「 じどうしゃ 」 が なんだいも みちを はしっておりました。

「 ひぇぇ! はやいなあ! 」

「 おいおい! 」 と、 まどから うんてんしゅが かおを のぞけて どなっています。 「 おおきい ずうたいで そんな ところを よろよろと あるかないでくれ。 あぶない じゃないか。 じゃまだ じゃまだ。 」

オルガンは びっくりして みちの はしに よりました。

そこへ とおりかかった トラックが、

「 きみが きょうの おおがたゴミかい? 」

と、 オルガンを みて たずねました。

「 ぼ、 ぼくは ゴミ じゃないよ。 オルガンだよ、 みれば わかるだろう。 ばかに しないでくれ。 」

「 いくら みたって おまえは ゴミ としか みえないぜ。 でも もし ゴミで ないなら、 まぎらわしいから さっさと うちの なかへ はいった はいった! 」

そう いいのこして トラックは いってしまいました。

「 だって これから いくとこが あるんだ。 」

オルガンは かなしくなって とぼとぼと あるきつづけました。

まちかどに 「 なんでも そうだん、 なんともハカセ 」 と かいた かんばんが でていました。 オルガンは かんばんを みて、

「 とにかく はいってみよう・・・ 」

と ドアを くぐりました。

「 あなたは なんの そうだんで きたのですか? 」

と うけつけの ひとに きかれました。

「 ぼくは もとの オルガンに なって おんがくを うたいたいんです。 」

「 じゃあ、 どうぞ おはいりなさい。 」

おくへ とおると、 そこに しろい うわっぱりを きた おいしゃさまの ような ひとが いすに すわって いました。

「 どうしたんだ。 うん? 」

「 ぼくは もう ずいぶん ながく ものおきに いれられた ままで、 あちこち こわれて しまったんです。 なおしてください。 」

「 わかった わかった。 それにしても くたびれた オルガンだなあ。 」

「 あなたは どなたですか? 」

「 わしは なんともハカセじゃ。 」

「 それじゃ なんでも なおせるん ですか? 」

「 それは やって みなければ なんとも わからない。 」

ハカセは さっそく ケンバンに さわって みました。

「 こりゃあ ひどい・・・ 」

そして、 しろい ケンバンと くろい ケンバンを じゅんばんに はずし はじめました。 なかを のぞきこんで、 あちこちの しかけを ぶんかい しだした のです。 そして、 まだ のこっていた ひだりあしの ふみいたも はがして しまいました。

「 あ、 あ、 ぼくは どうなるんです・・・? 」

「 それは わしには なんとも わからない。 だから いっただろう。 わしは なんともハカセだって。 」

「 そんなバカな! なおせないなら やめてください! 」

「 いまさら もう おそい。 なんとも ならないよ。 」

かわいそうに、 ふるい オルガンは みるみる ばらばらに なって、 とうとう クズに なりました。 これで、 「 ふるい、オルガン 」 の おはなしも おしまい・・・

 

39回 こどもの ゆうれい  

 

れかが あるひ ふとしたことで しんでしまうと、 べつの ある いえに ゆうれいが ひとつ うまれます。 だから、 ゆうれい と いうのは いつでも こども ゆうれい なのです。 どうして それが ゆうれいか と いうと、 あしの さきが けむりの ようで、 さきが ないのに たっていて、 たっているけど あしが ないのです。 それから、 いきている ひとには だれにも ゆうれいの すがたは みえません。 こども ゆうれいは、 そこの うちの ことを いろいろと みて、 こんなふうに なりたいと おもえたら、 どこかの いえの おかあさんの おなかに はいって、 やがて あかちゃんに うまれかわるのです。

れいこちゃんの うちに あるひ、 だれも しらないうちに ゆうれいが ひとつ くうきに まざって うまれました。 ゆうれいは おんなのこでも おとこのこでも ないので、それは じぶんで きめるのです。 そのいえには、 おとうさんと おかあさん それに、 3ねんせいの たろうくん、 1ねんせいの れいこちゃんが すんでいました。 かわいい れいこちゃんを みて ゆうれいは、 おんなのこが いいなあと おもいました。 すると、 ゆうれいは まず おんなのこに なりました。

れいこちゃんの おかあさんは あさから ばんまで、 おそうじ、 せんたく、 ごはんの ようい、 おかいものと、 いそがしいのです。 「 おかあさん 」 というのは、 おんなのこが おおきくなって おかあさんに なるので、 それを みて、 ゆうれいは めを まるくして、 あんなに いそがしく はたらいているのに いつも にこにこ していられるのが とっても ふしぎでした。 おんなのこは いいけど、 おおきくなっても

 おかあさんの ようには なれない と おもいました。 やっぱり おとこのこに なろう。 と、 おもいなおしました。 すると、 ゆうれいは おとこのこに なりました。

たろうくんの おとうさんは タクシーの うんてんしゅさん でした。 ひるまは ねていて、 よるになると タクシーに のって まちに はたらきに でかけます。 ゆうれいは あしが ないから はしれないけど、 どこへでも あらわれることが できるのです。 あるひ、 くるまの じょしゅせきに こしかけて ひとばん いっしょに まちを はしってみました。 くるまの うんてんも むずかしいけど、 おきゃくさんを みつけて のせるのは もっと むずかしいのです。 そして あけがたに、 つかれて かえってきて、 おかあさんの つくった あさごはんを たべると、 あとは ふとんに もぐって ねてしまいます。 おとこのこが おおきくなると おとうさんに ならないと いけないのだ とすると、 こんなこと ぼくには とても できない。 ゆうれいは なきだしそうに なりました。

おとうさんが ねこんで しばらくすると、 れいこちゃんが おきてくるのです。

「 おかあさん おはよう! 」

あさの トーストと めだまやきを たべて、 ミルクを のんでから、 がっこうへ いくのです。 れいこちゃんは ことし 1ねんせいに なった ばかりなので、 はやく がっこうへ いきたくて、 おにいちゃんの たろうくんより はやく おきだしました。 あんまり たのしそうなので、 ゆうれいは やっぱり おんなのこが よくなりました。 すると、 ゆうれいは また おんなのこに なりました。

「 いってきまーす! 」

こども ゆうれいは、 れいこちゃんと いっしょに がっこうまで くうちゅうを とんで いくことに しました。 ところが、 はやすぎて まだ がっこうの もんは しまったままです。 れいこちゃんは もんの まえの しきいしに おしりを おろして まつことに しました。 そのとき、 あめが ポツポツ ふってきたのです。

「 そういえば かさが げんかんに おいてあったわ。 」

きのうの ばん、 おかあさんが 「 あすは あめよ。 」 と いっていたのを いま おもいだしました。 あわてて なきべそを かきながら かさを とりに はしつてかえることに なりました。 ゆうれいは れいこちゃんの あとに ついて、 ぬれながら くうちゅうを とびました。

「 おんなのこって、 どのこも こんなに ばかなのかしら? 」

と なさけなくなりました。 そのとき、 おうちの ほうから おにいちゃんの たろうくんが かさを さして やってくるのが みえました。 てには いもうとの れいこちゃんの かさを もっています。

「 れいこ! こんな あめの なかを はしっちゃ だめだ。 かぜをひくぞ。 」

「 あっ! おにいちゃん どうも ありがとう。 」

たろうくんの もってきてくれた かさを さして、 ふたりは なかよく ならんで がっこうへ いきました。

ゆうれいは かさも ささずに ずぶぬれで ふたりの あとから ついていきながら、 かんがえました。

「 やっぱり おとこのこの ほうが いいかなあ。 でも おんなのこも かわいいし。 まあ いいや、 それは かみさまに おまかせしよう。 おとうさんも おかあさんも あさから ばんまで こどもたちの ために いっしょうけんめい はたらいているんだ。 たろうくんは いもうとが かわいいし、 れいこちゃんも おにいちゃんが だいすきなんだ。 にんげんって いいなあ。 ゆうれいは つまらない。・・・ 」

そのとき、 どこかの びょういんで あかんぼうが うまれました。

「 おめでとう! あなたのこよ! 」

おかあさんに なりたての おかあさんに、 かんごふさんが わらいながら あかんぼうを だきあげて みせました。

「 ありがとうございます。 で、 おとこのこでしょうか? おんなのこでしょうか? 」

「 おんなのこだよ。 」

と、 おいしゃさまが おちついて おっしゃいました。

「 おんなのこだって。 ばんざい! 」

と、 そばの おとうさんに なりたての おとうさんが さけびました。

「 そいじゃあ・・・ れいこ って なまえに しょう! いいだろ? おかあさん! 」

おかあさんに なりたての おかあさんは なみだの めで 「 うん 」 と うなずきました。

おしまい

 

40回 どうぶつえん

 

い こないだ、 しょうがっこうに いった ばかりの タカシくんですが、 はじめての にちようびに、 おとうさんと おかあさんに つれらりて どうぶつえんに やってきました。

どうぶつえんには さくらの はなが さいています。 おどろいたことに さくらの きに おみずを やっているのは ぞうさんでした。 ぞうさんは ながい じぶんの はなに みずを すいこんでおいて さくらの きに、 ぷーっ! と ふきかけるのです。 でも、 あまり いきよいが いいと まんかいの はなが ふぶきの ように ぱっと ちることも あるので、 タカシくんは すこし しんぱいでした。

 「 おはなばたけの おはなにも そんなふうにして 水まきするの? 」

いいえ。 それは ペリカンの しごと だったのです。 おおきな くちに おみずを たっぷり ためて おはなばたけを ゆっくり あるきながら、 すこしずつ チューリップと すみれに かけてやっていました。

おうちの やねに はこべが はえたりすると、 くさむしりは キリンさんの おとくいでした。 はしごを かけたり しなくても、 ちょっと くびを のばせば はこべに とどきます。 むしった はこべは セキセイインコに わけてやるのです。  どうぶつえんの あちこちに ちらかった かみくずを ひろって まわっているのは ヤギさんです。 でも、 たべてしまったり しませんよ。 ちゃんと くずくずかごに ほおりこむんですから、 タカシくんも かんしんして しまいます。

「 ちらかすのは きみたち。 ひろうのは ぼくたち。 」

なんて いっていますよ。

どうぶつたちは それぞれ とおい くにから やってきたので、 ときどき てがみや こづつみが とどきます。 それを ラクダが みんなに くばって あるくのです。 せなかの ふくろが ずいぶん おもそうなのは、 じつは そのためなんです。 けっして らくでは ありません。 ラクダなんて とんでもない。 それぞれの かどくちで せなかの ハトが くちに くわえて くばって まわるのです。

「 くっく、 どうぞ どうぞ! 」

「 ありがとう! ハトさん。 」

おれいを いわれるのは ラクダではなく、 いつも ハトの ほうなんですよ。

ヤツデが いっぱい しげった ひかげの すずしい ばしょを、 ライオンが せんりょうして いました。 あさから ばんまで ひるねばかりの せいかつです。

「 でも、 そっとしておきましょうね。 」 と、 おかあさんが タカシくんの みみもとで ささやきました。 「 これで みんなが へいわに くらせるのですから・・・ 」

とくいがおの チンパンジーは きしゃの うんてんしゅです。

「 なんて ぼくは あたまが いいんだ。 それそれ のったのった。 タヌキに キツネに ハリネズミ。 ヒツジも ウサギも リスくんも・・・ はっしゃ オーライ。 」

はしりながら、 ふみきりの ところと トンネルに はいるときに、 「 ポーポー 」 と、 きてきを ならします。 とまるときだって ゆーっくりと、 アンゼンウンテン。

「 さあ、 しゅうてん! ・・・ あわてて おりたら けがをするよ。 」

でこぼこみちを クマさんが おもい からだを ゆすりながら いったり きたりしています。 たちまち でこぼこみちが たいらに なりました。

ブランコやさんの テナガザルが、 ぶーらん ゆーらん、 ぶーらん ゆーらん・・・それは じょうずに ゆらしてくれます。

さて、 ケヤキの てっぺんで ホオジロが ないています。

「 ちよっぴり さびしいな! ともだち いないかなあ! 」

スズメも やってきて、

「 わたしたちだって どうぶつえんの なかまなのよ、 チュンチュン。 」

シマウマは あたまから おしりまで しましまが あるので、 どちらが あたまか おしりか わかりません。 そうだ、 カバさんに きいてみよう。 カバは バカの はんたいだから、 ほんとうは おりこうなんです。

「 ねえ カバさん、 この シマウマ、 どっちが あたまなの? 」

「 カバでない やつは みんな バカだなあ。 しっぽが あるほうが おしりに きまってるじゃないか。 」

「 なるほど! 」

ヘビと ダイジャは ながさが ちがうんです。 だから、 ものの ながさを はかるときに よんでやれば きっと やくにたちますよ。 ヘビは 1メートル。 2ひきいれば 2メートル。 ダイジャが ねそべれば 10メートルと きめてあるんです。

「 おうい ワシ! 」

「 わしのことかい? 」

「 そうだよ きみのことだよ。 」

「 わしが キミな はずないだろう。 わしは ワシだ。 よく おぼえておけ! 」

タカシくんは おかしくなって わらってしまいました。

「 さあ、 もうそろそろ かえろえうか。 」 と おとうさん。

「 いつまで みたって きりがないもの・・・ 」 と おかあさん。

「 まだ トラを みてないし、 イノシシも クジャクも マントヒヒも みてないじゃないか。 ぜんぶ みてから かえるんだ! 」

タカシくんは とっとと ひとりで かけだして いってしまいました。

 「 ねえ、 ぼくの かあさんは どこいっちゃったの? 」

オウムがえしに こたえて くれたのは、 しんせつな オウムさんでした。

「 ぼくの かあさんは どこいっちゃったの?・・・ ぼくの とうさんは どこいっちゃったの? 」

「 きいてるのは ぼくなんだよ。 」

「 きいてるのは あたしなの・・・ 」

だから くれぐれも どうぶつえんで まいごにだけは ならないように。 もし まいごになったら、 「 マイゴ 」 という なふだの ついた オリが よういして ありますから ごようじん!