離ればなれの日々

11月22日 1912g

樹:心拍、血圧、体温、共に昨日に比べ多少安定しつつあるが、依然、肺出血が止まらず、危険な状態。染色体による異常の可能性があるということで検査されたが、現段階では見当たらないとの事。パパが映してきてくれたビデオの中の樹は、ほとんど動かない。ただピクッピクッと、鼓動の度に微かに胸のあたりが上下して、それだけが「生きている」という安心感を与えてくれた。

パパ(夫):出生届け、国保、乳児医療、一時金、養育医療(2000g未満児対象)等の各種手続きに奔走。樹の病院とママ(私)の病院を電車と車で、荷物を持って何度か往復。夜は仕事。

ママ:樹に早く会いたくて頑張って足を動かすが、まだ麻酔が残っていてほとんど動けない。心配されていた高熱は出なかった。

身体中むくみでパンパンに腫れ上がっている。依然、容態は厳しい。



11月23日 1912g ママ:術後はじめて歩く

樹:肺出血が、まだ続いている。依然、厳しい状態。

パパ:この日も両方の病院を往復。夜は仕事。樹の写真をプリントして持って来てくれた。

ママ:回復室から移動。看護婦さんにそれとなく個室を薦められた。病室で授乳するので、大部屋だとお互いに気を使うのでは?という言葉に、それもそうかな…と個室にした。この時、術後はじめて歩いたので、個室までが遠く感じた。(実際、ずっと端のほうで遠かった)

実家の両親に直接電話をと、公衆電話まで歩く。およそ20Mの距離。たどりついたら息苦しくなり、まともに喋れなかった。安心させようと電話したのに、かえって心配させてしまった…。夕方、今度はゆっくり歩いて行き、息を整えてから話した。私の実家は遠く(飛行機で2時間半)、仕事の都合もあり、そう簡単には両親もこちらに来れない。わかっているだけに「初孫が今、危篤の状態」とはとても言えなかった。(あとで知ったが、夫がすでに伝えていたらしい。)

術後歩行初日だというのに、けっこう歩いて疲れた。広い個室は静かだが、いろんな思いが巡ってなかなか寝つけない。樹の写真を見ると泣かないつもりでも涙があふれて止まらない。

「会いに行けなくてごめんね。ママが行くまで、がんばってね…。」


11月24日 2045g

樹:少しづつからだのむくみが引いてきた。3日続いた肺出血も収まってきた。状態も昨日よりは安定に向かいつつある。動いたのを見たことがなかったが、今日はパパが見てる時に少しだけ手を動かしたらしい。

重症仮死の影響で、身体に麻痺などの重い後遺症が残る可能性があるらしい。植物状態、もしくは寝たきりで歩けない等の可能性も現時点では否定できないとのこと。

今、私達に出来るのはただ祈ることだけ。言いようのない焦燥感。胸が苦しくて息が詰まりそう。

パパ:おじいちゃんのお墓参り。「どうか樹をお守りください。」樹にお守りを買う。ママの病室用に樹の写真を入れるフォトフレームを買う。両方の病院を往復。夜は仕事。

ママ:先生に外出許可をお願いしたが、まだ無理と却下された。


ほとんど動きがない・・


11月25日 初うんち!

樹:状態は昨日と変わらず。この日、初めてうんちをしたらしい。

パパ:養育医療の書類を提出。両方の病院を往復。夜は仕事。

ママ:再度先生に外出許可をお願いしてみた。樹の病院までは車移動。駐車場から病室まで歩く距離も長い。でも大丈夫!と言い張った。先生は「気持ちはわかるから…う〜ん。仕方ない。でもいい?絶対に無理しちゃダメだよ!」と何度も念を押し、明日、診察の上で最終決定すると約束。



やっと会えたね。
11月26日 ママ、樹と初対面!

誕生から5日目。やっと樹に会うことが出来た。写真やビデオで見てはいたものの実際に会うと、やはり小さい。保育器の小窓から、そっと樹に触れてみる。暖かくて柔らかい。今はまだ、ここから触れる事しか出来ない。この腕に抱けるのはいつになるんだろう?考えると涙が出そうになったが、泣いたら何もかもが悪いほうに行ってしまいそうで恐かったので、人前では泣かないとこの時、心に決めた。

樹の容態は、一時に比べ安定してはいるものの、まだ安心できる状態ではないようだ。

パパはこの時、やっと私を樹に会わせる事が出来たとほっとしていた。ただ、デジカメの電池が切れて、ママと樹の初対面の写真が撮れなかったと、すごくがっかりしていた。

産院の先生に、なるべく早く退院させてあげるから外出許可は今日だけで、あとは退院まで我慢してねと言われた。次に樹に会えるのは、私が退院してから。早く退院したい…。


11月27日 1650g ママ:初乳20cc

樹の体重が1650gに減る。新生児の場合、出生後には体重が少し落ちるものだそうだ。身体のむくみが取れ痩せた感じ。パパは、樹が初めて目を少し開けたところを見た。

私は樹に会って触れたことで、ようやく身体が母親になったと判断したのか、おっぱいが張ってきて、ようやく初乳を搾れた。早産で抵抗力のない樹に、初乳はとても大事と説明を受けていたので、痛くてたまらなかったが、がんばって搾った。たとえ僅かでも、出るのであれば与えたい。

20ccの初乳。

母乳は赤ちゃんに触れることで分泌され、そして吸われる刺激で分泌が増えるのだそうだ。私の場合、赤ちゃんに触れたのは産後5日目で、吸われる刺激もないので、母乳の量が少なかったとしても、それは仕方のないことらしい。授乳出来る時まで、母乳が止まりませんように。


11月28日 1545g お七夜

樹の体重がさらに減って、1545g。まだ減るのだろうか?

搾乳した母乳を持って行くが、まだ与えられない状態だと言われ、がっかり。母乳は脂肪分が多く含まれていて、今現在の樹にはそれを分解する肝臓の働きが思わしくなく、母乳を与えると肝臓に負担がかかってしまうため、もう少し時期をみて与えるとのこと。母乳は冷凍で2週間は持つらしいが…。それまでになんとか状態が改善されて大事な初乳、飲めるといいね。

私の退院は30日に決まった。

(本当は今日の予定が、姑曰く「日が悪い」そうで2日も退院が伸びた。私はあまりそういう事を信じないし、樹も安定してきたとはいえ手放しで大丈夫とはまだ言えない状態で、とにかく一日でも早く逢いたかったから、正直言ってこの2日間はとても長く長く感じた。)


体重が減りすぎているらしい



11月30日 1530g 

ママ:退院。樹に2回目の面会。樹:点滴がひとつ外された。

樹:昨日の計測では1490gだった体重が40g戻った。少し減り過ぎていたので、増えて良かった。今日から「血圧を安定させる薬」の点滴が外された。片手、片足がフリーになっていた。よかったね。人工呼吸器の酸素濃度も40%から30%に下がった。(私達が通常吸っている空気中の酸素濃度は21%)

樹が産まれてから、ようやく、ちょっとだけ安心できた気がした。

私は退院して家に帰れたけど…樹は今、何してるんだろう。泣いてないかな?ミルクはもらったかな?おっぱい、いっぱい出なくてごめんね。痛くて恐い思いさせてごめんね。早く家に帰りたいよね。一緒に帰れなくてママも寂しいよ…。

まだ誰にも「(出産)おめでとう」と言われてない。

空っぽのベビーベッドを一日中眺めていた。