雑 記 帳

日々の生活やプレイ中のゲームについての呟きなど。
※今後ヒムロが書き込むことはありません。


2006-05-11(Thu)  ■在処
在処です…
妹がPS2を返してくれんとです…
夕食を詰め込んだ後、黙々と「大神」をやっとるとです…
時々「あ〜癒される〜わんこ〜」という怪しい呟きが聞こえるとです…
癒される、って本当に口に出してる人を初めて見たとです…在処です…在処です…

「Fate/staynight」クリア&「Fate/hollow ataraxia」100%コンプしたのでそろそろワンダの2周目と天下人の続きやりたいんですが、無理っぽい。しばらくエロゲで繋ぐしかないのか。未クリアのやつもう1本あったしな。
バサラ2が出る夏までには返してくれるかのう…(遠い目)


自転車屋の盗難保険に入っていたため、半額のお値段で前と同ランクの自転車を購入できました。これでまた行動半径が家から徒歩5分圏内からチャリで10分圏内に。
前のはとても気に入って買ったので、できることなら戻ってきて欲しいけど…パクられたチャリにそれは無理な相談だろうしなあ。
私の行動半径の外で、身勝手な誰かに乗り捨てられて雨ざらしの中朽ちてゆくのかと思うと、残念でなりません。
マンションの駐輪場からだろうが、鍵がかかっていようが、盗られるときは盗られる。イヤな世の中です。
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2006-05-08(Mon)  これで完結。◆ヒムロ
 十文字がコーヒーのガムを混ぜながら戸叶はハムレットで黒木はマクベスだよな、と言った。
 題名しか聞いた事がなかったけど、それ両方死ぬんじゃねえのと返したら、生命の停止と言う概念においては悲劇の最中でも喜劇の末でも同じ事象だと思うよ、とやられた。



 黒木がうまくやったらしい。帰ってきたらいきなりキスシーンで多少固まりはしたが。どうせ先にやってしまうのは黒木だろうと、戸叶も思ってはいた。
 好きだとは思っていても口には出せない。触れたいと思っても触れる行動に移せない。『始められない男』が自分なのだと言われた、そう分かった時には図星を突かれた逆ギレに近い怒りを感じるよりも先に、やはりそうかと納得すらしてしまった。勿論マクベスこと黒木が『終わらせられない男』だ。放っておけばどこまででも暴走する。
「おい、マクベスさんよぅ」
 日曜の朝、転がった黒木の頭を足で蹴る。十文字はまだ来ていない。奇特なことにあの気の悪い父親はゴールデンウィーク中ずっと家にいて、十文字が外泊することを許さなかったのだそうだ。今頃起きたころだろうか。練習は今日は昼から。
「何そのマクベスって」
「タイトル兼主人公の名前」
「何の」
「悲劇?」
 詳しくは戸叶もあまり知らない。タイトルは聞いたことはあっても読んだことはないし、読みたくなる本ではないだろう。何せ純文学だ。
「何だよそれ!」
「安心しろ、俺も悲劇の主人公らしいから」
「トガが?」
 ハムレットはマクベスよりは少しだけ有名だろうか。生きるべきか死ぬべきか、は聞いたことがあるようなないような。
 日曜の朝から人の家でごろごろしながら黒木が一回転して言った。
「トガはあ、悲劇の王子様が死んじゃうのをみすみす助けられないでいる家来って感じ」
「……踏むぞ」
「あー、ちょっ、股間はやめろ股間はぁぁぁああああ」
 行動力が欠如しているのは自分でも分かっているから、行動力だけが売りの奴に言われたくない。
 死んだ王子の顛末を空しく民衆に伝える役が似合いだ。
「で、何か用トガ」
 人の家でごろ寝しておきながら、と頭に来たが、そんなことが用件なのではない。
「聞きてえ事があって」
「なーにさぁ」
 自分の分だけ麦茶を入れて座る。
「その……お前って、行動力あるだろ。猪突猛進っつか」
「一言多いよトガ」
 ブー、と実際口で言いながら黒木は片頬をついた。
「いいだろ、ほんとの事だし」
「まあ、したいと思ったらすぐやっちゃうのが俺ですけど?」
「じゃあ……」
 十文字がまだ来ていないから口に出来る話だな、と内心自嘲する。
「もうやったか?」
「何を」
「キスから先……十文字と」
 黒木の目が丸くなって、弛緩して、次には体ごと弛緩してべったり伏せて長くなった。
「……全然。ぜーんぜん。ダメなんだぁ、俺。ちゅーしてぎゅーってしたら、十文字が嬉しそうにこう、さ、もたれてくるじゃん。そっから先、ダメ」
 かわいいんだもん、黒木はそう言って顔ごとべったり伏せた。
「……してんだ」
「だからしてないって、……え」
 黒木がガバッと顔を上げた。戸叶はその頭を蹴って伏せさせた。
「……やってないんだ」
「黙れ」
 キスしたのはあの一回だけ。その後は手に触れたり肩を抱いたりしたことはあっても、それ以上のスキンシップはなかった。どうしても、踏み出せないのだ。
「トガ、意外と奥手〜」
 奥手とは少し違うとは思う。
「……お前もだろーが、進んでないなら同じ、」
「同じじゃねーよぅ」
 黒木はごろりと仰向けになった。
「俺はー、あれからちゅーだけは結構してるもん。十文字も初めそんなにちゅーすんの好きじゃなかったみたいだけど、今はちょっとだけ慣れてくれたしー」
 力抜けちゃうと十文字肩に頭置いてくんだぜぇ、黒木は嬉しそうに笑った。
「ちゅーちゅーって、お前、恥ずかしくないのかよ、言ってて」
「キスっつったほうが恥ずかしいんだよな、何か」
 鼻の頭をかく、その手がぱたりと畳に投げ出された。
「トガはしたくねえの、ちゅーとかそれ以降とか」
「してえよ」
「なんでしねえの」
「……する雰囲気とかじゃねえし、それに、」
「友達だから?」
 ともだちだから。
「……友達とすることじゃねえだろ……」
「男同士だから」
「そうだよ!」
 戸叶を縛っているのはたぶんそれだ。コモン・センスは同性愛を許容しない。
 ふぅん、と鼻を鳴らして黒木はまた半回転した。
「誰かが見てる訳じゃねえよトガ、それにさ」
 半回転。ごろごろしながら近づいてきている。
「十文字だってそれ分かってて、好きでいさせてくれるし、キスだってさせてくれたんだ」
 俺は大部分開き直りだけどな、とまた半回転。
「どうせ俺はハムレットだよ」
「なにそれ」
「十文字が言ったんだよ、黒木はマクベスで俺はハムレット。どっちもシェイクスピアの四大悲劇のうちの一作」
「十文字らしいっちゃらしいなー。どんな話?」
 言って分かるのかよ。
「よく知らねえけど、マクベスがやりすぎて自滅した奴で、ハムレットが決心つかなくて行動できなかった奴、みたいな」
「はは、ぴったり!」
「笑うなっつの」
 黒木は起き上がり、急に真面目な顔になってまっすぐ戸叶を見据えた。
「トガもさ、いつまでもうじうじしてたらそれだけずーっと先に進めねえし、十文字だって呆れちゃうかもよ?いつまでもキスひとつできねえお友達のままでいいの?」
 欲望を叫ぶ自分と、調和を保とうとする自分がせめぎあう。調和?調和って何の調和だよ、世間から見て表面上仲良しのことか?
「十文字はどうなんだろな」
「あいつはダメだよ、バクゼンとした事しか言わねえもん。いつまでも一緒にいられたらそれでいい、って」
「本人に訊いた?」
「訊けるわけねえじゃん」
 それもそうか。
「トガはねえ、確かに無理かもなあ。トガ十文字の望むようにしたい、でしょ。自分が何したいかほんとは分かってねえんだ」
「グッサリ突くな」
「キスはしたい?十文字と」
「十文字がそう望むなら」
「トガはしたいのしたくないの」
「……」
 したい。したくない?したくないのは何で?したいのは何で?
「……したら、だめだ」
「そやってカッコつけてないでさあ、本音言ってみ?」
「……一回やったら、そのまま止められねえだろ」
 黒木はにまっと笑った。
「あら、かっこいい」
「十文字が嫌がることはしたくねぇんだよ」
「流されやすいもんなあ、十文字」
 まあ流すまで俺らがしっかりしてたらの話ねぇ、そう言われると手を出す事も出来ていない戸叶には耳が痛い。
「でもさあ、十文字だって嫌なのに流されることってねーと思うんだよな」
「でも黒木、これは……何つか、男のプライドの問題だろ」
「まあねえ。ケツ掘られんだもんなー、普通は嫌だわな」
 でも、と黒木は上目遣いに戸叶を見た。
「十文字はさ、俺らの好きなように満足なように動くの大好きだべ?」
 つまり、望むなら抱かれるのも覚悟してくれる、と。笑う黒木に、戸叶は頭を抱えた。
「……最低じゃねえの、お前」
「そう?」
 足を伸ばして軽く全屈しながら黒木は言った。
「やって後悔するより、やんなくて後悔するほうが痛いって言うじゃん。俺は後悔とかしたくねえし、やれるだけのことはやっときたいわけよ」
 この、よく考えればどの漢字当ててんだよと言いたくなる黒木の台詞は、至極強くてまともな事のように戸叶には聞こえた。
「黒木、つえー……」
「トガみたいに余計なこと考えてねえもん」
 黒木の笑顔は曇りがなくて強くて真っ直ぐで、こういう気持ちになっていなければさぞや女生徒に受けただろう。馬鹿だから真っ直ぐなのか、真っ直ぐだから馬鹿なのかは分からないが、そういえばこういうところに惹かれてコイツと友達やってんだと戸叶は実感した。
 チャイムが鳴る。十文字だ。


「おはよ」
「おう」
「十文字、おせーよ」
「だって黒木まだ来てねえと思ったんだ」
「コイツ昨日から居座ってんだぜ」
「ずりィの、黒木」
 十文字がケラケラ笑う。笑う顔が好きだ。
「な、十文字、おはようのちゅー」
「ばぁか」
 ばぁか、と言ったくせに十文字は笑って黒木とキスをした。腹の底をちろりと嫉妬の炎が舐める。黒木のニヤニヤした視線は煽っているのか。
 続きのことを考える。
 この体を、抱きしめる、それはしたい。抱きしめて、至るところにキスをして、感じさせてやりたい。
 その後は?女じゃないんだから、入れるところはひとつ。十文字だって男だ、そんなことをされて痛くないわけがないし、されたいとは思わないだろう、いくらこちらが望んだとしても。
 ふざけて頬にキスを繰り返す黒木の髪がくすぐったいらしい、十文字はまだ笑っている。
 どんなに愛しくて、愛情の証として行為に至りたくても、それは十文字のこの笑顔を崩すに値するだろうか?
 十文字が戸叶の顔を伺うように見つめる。何考えてんの、だろ?戸叶はできるだけ優しく笑った。はぐらかされたのが分かったのか、十文字はぷいと目を逸らした。敷きっぱなしの布団に陣取って、漫画に手を伸ばす。つまらなさそうに読んでいるが、実はそうでない事も知っている。
 そうまでして抱きたいか?―――答えはノー、だ。何より十文字が大切で、傷つけたくない、守りたい。十文字が笑っていて、撫でてやれるところにいるのなら、多くは望まない。キスできなくてもいい、抱けなくてもいい、見守っていてやれればそれでいい。
 十文字からキスをねだる事もそれ以降を望む事もないだろうし、それなら戸叶がそれを望む事もない。
「十文字」
 読んでるのに何だよ、というポーズなのも知っている。戸叶と黒木に構ってもらうのが一番好きな十文字だから。戸叶は少し伸びた金髪の頭を撫でた。
「朝飯食ったか?」
「食った」
「そか」
 練習は昼から。さて、何をしよう。未来永劫のハムレットはとりあえず、マクベスともう一人のハムレットのためにコーラを開けた。






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いかがでしたでしょうか。割とギリギリまでエロにするかしないかで悩んでましたが、結局こっちになりました。
前の2編から、それぞれ【Notice】【Practice】【Armistice】というタイトルになります。前の2編はうまいこと動詞と名詞の意味の単語を持ってこれてたんですが3つ目になって詰まりました。Armisticeは、「休戦」という意味です。とりあえず韻だけ踏んだ。
 戸叶をもっと15歳の少年らしくかけるようになりたいです。こんな悟った15歳、嫌だ。(もう原作の今では16ですか。そうですか)



※修正しました
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2006-05-07(Sun)  ◆ヒムロ
もう少しなのかもっとかかるのか。とりあえずss書いてます。時期的にかのお方と被る書き方で心苦しいのですが、順番に書いて戸叶だけ書かないのも心苦しいのです。


雑記帳EXと言うブログですが、もうTWのことしか書いてないのでそちら専用にして名前を変えようかと思います。
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2006-05-05(Fri)  またもや日付を跨ぎました◆ヒムロ
 照れくさそうに片頬をたわませて、黒木が見上げるようにして手を合わせた。
「なっ、練習さしてよ。頼むって」
 十文字はその黒木を見下ろして心底嫌そうに片頬を歪ませて言った。
「何馬鹿言ってんだ、気持ちの悪い」
 戸叶が漫画と炭酸を買いに行っているその間に、
「いいじゃん、させてよ。キスの練習」
「ばぁか!!」


 勝負はあと精々十五分。キスなら、二分もあればできる。そこまで持っていくのに十三分。いけるか?
「大体なんで練習なんかしようと思うんだよ。つかやったことあんだろ黒木」
「ばっかやろ、自慢じゃねーけどしたことねーよ!悪ぶってたりケンカしたりで忙しかったんだから!」
「あ、そ」
 本当は抜け駆けだから、トガに見つかったらしばかれる。しばかれて済んだら奇跡かもしれない。最悪ここの裏手に埋められるかも。
「キスくらい、好きな子とすれば」
「だからー、今現在好きな女子なんていませんっての。今はアメフトで忙しいの」
 好きな男子なら目の前で寝転んで先週のジャンプ読んでるけどな!暇になった足をパタパタ振るのは何か、無意識か。それともおちょくってんのか。
「じゃあ何で今その練習しようと思うんだよ」
「それはっ、あとあと恥かかないように、だよ」
 十文字が胡散臭そうに黒木を見た。十文字は色が白いから、唇が他の男子より赤く見える。それが柔らかいのは何度か寝ている間に指で触ったから分かっている。荒れるのに気を使っていないから、多少ささくれているのは勿体無い。
「黒木が恥かくのかかないのは俺に関係ねえし」
「ああん、そんなこと言わないでぇ」
「キモい」
 あと十一分。
「大体なんで俺で練習しようとか思うんだよ」
 来た。それとなーく、さり気なーく、納得させないと。
「十文字だったらさ、多少の触れ合いに慣れてるし、顔もどっちかっつーときれいだから男だって気にならねーだろ?」
「慣れてない。きれいとかばっかじゃねーの。慣れてんだったら戸叶とでもしてろよ」
「トガはいくら何でもきついよ!!」
 十文字は読み終わったジャンプを横に寄せてぺたりと腹ばいになった。
「俺も黒木きつい」
「え」
 そう来られるとは思ってなかった。どうしたらいいのか、耳の穴から流出しそうな脳みそで考える。
「嘘だよ。冗談」
「冗談キツいっすよ十文字さん」
「何で俺を練習台にしたいの」
「練習台って、そういうわけじゃなくって……」
「誰かの踏み台に、何で俺がならなくちゃなんねーのかなァ」
 怒ってんのかな。
「ばっかみてェ、そんなことで練習してたら、ファーストキスとか全然違うじゃん。初めてなら初めてでいいんじゃねえの」
「うう」
「……なんでそんな苦しんでんのかがわかんねえ」
 そりゃあ頭も抱えるよ。
「チクショ、言うよ。素直に言うよ」
 こんなはずじゃなかったのに。おれって自分で思ってたよりずっとバカ?
「……十文字、かわいいから、ちゅーしてェ」
 ちょっと言い方がふててたかもしれない。十文字はこっちを見ることすらなく一言。
「冷水に頭突っ込んで溺死すれば」
 残り六分の時点で負け確実ってどうよ……。
「十文字はしたことあんのー?」
「……」
 十文字の片眉がぴくりとつり上がり、眉間に皺が寄る。したことあるのかちょっと分かりづらい反応。でも機嫌を悪くさせたのだけははっきりしてしまった。
「……十文字だって好きな子とすればって言ったじゃん」
「言ったけど」
「俺な、十文字のことかわいいって思うよ」
「思わなくていいっつの」
「思っちゃったんだからしゃーねーだろ……」
「それってさあ、黒木」
 十文字が腹ばいのまま顔を上げて、黒木の顔を見る前にまた伏せてしまった。
「……やっぱいい」
 十文字の横に体育座りでスタンバイしている黒木には、腹ばいになられると手の出しようがない。
「ちゃんと、言うよ十文字、だからこっち向けよ」
「気まずい」
「分かってるよそんなこと!今の十文字、風呂入るのが嫌で逃げてる犬と一緒」
「変なもんに例えんなよ……」
「じゃあ早く起きろって」
 耳の端を赤くして、十文字が言う。
「……だって、このまま行ったら、絶対黒木とキスする流れになる」
「ならなくたって、するよ、そう」
 見える耳がますます赤くなる。
「……嫌なら、冷水に頭突っ込んで溺死するから」
「……嫌、とかじゃなくて、なんか違う、……」
「嫌じゃないならキスしちゃうよ?」
「も……やだ、わけわかんね……」
 わけわかんねえのはこっちだよ。無理矢理起こしていいものか黒木は逡巡した。
「起きねえんなら、……起こすけど、いいか」
「……好きに、すれば」
「そういうこと言うなって十文字、好きにしたらどうなるかわかんねえぞ」
「……変態」
「変態、かなあ……」
 否定は出来ないけど肯定も出来ない。黒木は十文字は腕に触れた。ぴくん、と震える―――緊張してんのかな?―――してる。よな、そりゃ。
 腕を持ち上げて、脇の下で支えて、向かい合わせに起こす。怒ったような、照れたような赤い顔が黒木を睨んだ。睨んではいるけど、覚悟はできたみたい―――な気がする。
「こういう顔見たって、かわいいと思うんだよ……」
 かわいい、じゃなくって。そう思えるのは―――照れているような、怯えたような顔になっている十文字の頬を両手で包む。
「好き、だ、十文字」
 返事は待たずに、口を被せた。



 はむ、と唇で十文字の唇を甘く噛む。少し荒れてはいるけど柔らかくて熱い感触に黒木はとろとろにとろけた。むにゅむにゅと触れさせて舌で舐める。十文字がそれに反応して少しだけ口を開けた。
 いいの?と目で問う。恥ずかしそうに伏せた目は肯定しているように思えたので、黒木は遠慮なく―――いや、遠慮がちに舌を伸ばして、その隙間に忍び込ませた。
「ん」
 十文字が呻いた。その口の中は程よく熱い。唇の裏側をなぞって、つるつるする歯をそろりと撫でて、舌先が触れ合う。
「ふ、ぅ」
 十文字がビクッとしたので黒木はその頬を固定するのはやめて、腰を抱いた。首を前に出して、もっと深く繋がれるようにして。
 十文字も舌をそろりと出してきたのが嬉しくて、絡めて吸う。舌先が触れるとぴりりとするのが気持ちよかった。無意識に体を強く抱いて、密着させる。お互いの速い鼓動が妙におかしかった。
「く、は……ァ」
 いい加減呼吸が苦しくなって、キスをやめて、それでも名残惜しくて舌先で十文字の唇を舐めた。どちらのものかも分からない、たぶん混じりあった唾液が十文字の口の端からこぼれているのがひどくいやらしく見えた。
 とろけて緊張感の無くなった十文字の頬に何度と無くキスを繰り返す。
「ちゅーすんの、気持ちいい、な」
 十文字は赤くなって俯いた。困らせてしまったらしい。
「ダメだった?」
「ダメ、じゃなかったけど……」
「けど?」
 けど。十文字がちらちらと黒木の背後を気にするので、黒木も振り返る。
「……」
「あ、ら……トガ……いつからいたの」
 戸叶がコンビニの袋を提げてそこに突っ立っていた。さすがに玄関のドアは閉めてある。
「黒木が舌入れる直前」
「うわーあ……」
 戸叶の表情はグラサンが影を作っていてわからない。相当怒っていることは確かなようだった。
「十文字も分かってたんなら……」
「……違う、んだ」
「何がどう違うっての!」
 十文字が突付けば泣き出しそうな顔を上げた。
「だって……俺……黒木と同じくらい、戸叶の事も好きなんだから……」
 戸叶が袋を卓袱台に置いて十文字の頭をぐりぐり撫でた。
 最初から、十文字にはどっちかなんてなかったんだ。黒木は急に脱力してうずくまった。
「十文字とキスできてよかったなあ、黒木」
 肘で黒木の側頭部を殴りながら戸叶が意地悪く笑った。
「気持ちよかったか?」
「チョー気持ちよかったよ、チクショウ」
「じゃあ今度はお前が見る番な。十文字、俺で嫌じゃなかったらお相手よろしく」
 それから黒木はたっぷり十文字と戸叶のキスシーンを見せ付けられながら考えた。

 トガともだけどキスさせてくれたって事は、その続きも望みはある?

 続きがあるにしても、どうせ独り占めはさせてくれないんだろうなと考える。……十文字がそれがいいって言うなら、喜んで従ってしまいそうな自分も簡単に想像できた。
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2006-05-03(Wed)  時間がかかりました◆ヒムロ(4日3時公開)
 自分でも淡白なほうだとは自覚していた。あんな父親で、こんな子供で、一生懸命に勉強した時期はあったけど、それは義務であって自由意志ではなかったし―――そもそも自由意志など持った事はなかったのだ、二人の友達に会うまでは。
 十文字はどこともなく部室の天井を見上げ、俯き、二人の友達の顔を見て、また俯いた。
「……いねーし、いたこともねえよ」




「十文字、練習夕方からだって」
 5月3日の昼に、十文字は戸叶の家でそう言って黒木に起こされた。きっとまた終日練習なのだろうし、家に帰ったら父親がいるかもしれないし、戸叶の家なら安心して寝られるだろうからと泊り込んだ朝―――に起きるつもりだったが寝過ごしたらしい。
「……りょーかい……」
「夕方からなんだから寝かしといてやれよ」
 戸叶が台所に立って背中を向けたまま言った。
「あれ?俺起こした?」
 悪気はないのはわかっているから、十文字はいいよ起きるよ、と言って被っていた布団を蹴った。そういえばここの主であるはずの戸叶は昨日何を被って寝たんだろうか。寝入る前の記憶がない。
「……酒とか、飲んだっけ俺」
「飲みたいの十文字」
 黒木が言いながら十文字の寝癖の付いた頭をかき回した。
「いや、何か記憶ねえから」
「疲れてたんだろ、割とすぐ寝てた」
 戸叶が卓袱台の上を軽く片付けて大きめの皿に盛った焼きうどんを置いた。
「五百円な」
「金取んのかよ」
 黒木が殴る振りをして戸叶の顔に拳を当てる。
「はい」
 十文字は財布を開けて五百円玉を出した。
「……いや、冗談だから」
「未だにそういう冗談わかんねえよな、十文字」
「……そう、なんか?」
 そーだよぉ、と言って黒木が箸を取った。山盛りのうどんを自分の皿に取る。
「お前もな、黒木」
 菜箸で残りを分けて戸叶が言う。
「こーいうときは他の奴の事考えて分けてやるとか箸取ってやるとかしろよな」
「ちげーだろ、トガの場合は」
 すすり入れてモフモフやりながら黒木は戸叶と十文字を交互に見た。
「俺が自分で自分の分とんないとさー、トガ十文字にばっかり箸取ってやったり多めに入れてやったりしてんじゃん?」
「別に、」
「だから俺は俺のことやんないと虐待されちゃうの。わかる?」
 ぴ、と黒木はソースや焼きうどんの破片で汚れた端を十文字の鼻先に突きつけた。
「人聞きの悪い」
 戸叶が、やはり十文字に多いほうの皿を置いて黒木を睨んだ。
「ちゃんとお前のリクエストで焼きうどんにしてやってんだろーが。虐待とまで言われんならもう作ってやんねーぞ」
「だって、十文字焼きうどん食ったことなさそーだろ?」
 たしかに食べたことのないものだとは思ったけれど。
「お前らってさー、ずっと俺のこと考えてんの?」
 箸先だけ噛んでじっと焼きうどんを見ながら十文字がぽつりと言う。二人は意外そうに顔を見合わせた。
「……いや、別にずっとってほどじゃ」
「そそ、構いたいっつか、つーよりアレだ、いじり甲斐があるっていうか」
 皿を空けてしまった黒木が十文字の皿に手を伸ばして戸叶に叩かれた。
「さっさと食わねえと黒木に食われんぞ」
 焼きそばの代わりにうどんだから焼きうどん。もちもちしてるけどこういうものなんだろう。そんなことを考えながらちびちび食べていると、黒木が下から覗きこんで言った。
「何かぼーっとしてんなあ」
「またいらねえこと考えてんじゃねえの」
 もちもちするけど、飲み物ほしい。戸叶と目が合った。
「ほれ」
 コップに麦茶。
「何でわかんの」
「慣れだ」
「俺が考えてることって何でもわかんの」
「何でもわかるわけねえだろ」
 黒木が横から言う。
「でも何でもわかりたいと思ってる」
「るせーな」
 ぱし、と戸叶の手が黒木の頭を叩く。十文字はそれを見てまた戸叶の目を見た。
「……いらんことは考えんでいい」
「何でいらんこと考えてるってわかんの」
「……黒木は慣れてるから叩くだけだっての」
「なになに」
「何でわかんの戸叶」
「俺は叩くけど十文字は叩かないなって?」
「そう」
「……それはぁ、トガが慣れてないから」
「俺に?」
「十文字叩くことに」
「うっせ」
 ばしっ。
「ばしばし叩いて俺みたいに馬鹿になったら悪いかもとか」
「黒木叩かなくても馬鹿なんじゃねえの」
「いやいやトガがばしばし叩くから脳みそシェイクされて馬鹿になったのよ」
「元々九割は天然の馬鹿だろーが」
 べしっ。
「つーかなんで十文字まで俺が馬鹿だって認めちゃってるわけ?」
「……」
「かたづかねえから食えって、十文字」
「何で今更そんなことが気になるんですかねえ」
「昨日の、あれ」
 あれ。
 十文字はもちもち食べながらまた気付いた。
「何で黒木俺が焼きうどん食ったことないのわかるんだよ!」


 昨日のあれ。
 マネージャーの姉崎がそれぞれに差し入れをしてくれたのだった。それぞれにスポーツドリンクと、十文字にはお手製のレモンの輪切り。
『好きだって言ってたでしょう。こんな事でも役に立てたらいいなって』
 嬉しいでしょう?と言外に押し付け、満足そうに去る姉崎の背中を十文字が呆然と見詰めていると、モン太こと雷門太郎が寄って来た。
『いいな〜、まもりさんの手作り〜』
 このモン太が姉崎を好きなのは有名な話で、本人も別段隠す気もないらしい。それどころか何かにつけかわいいきれい器量がいいと褒めまくっている。
 心底羨ましそうに手の中のものを見られては、十文字でもうざくなった。
『ならお前が食えば』
『いいのか?十文字好きなんだろこれ』
『別に……適当に言っただけだし』
 作ったものが同じものかは分からないが、姉崎は今度はヒル魔に構っている。一切れだけ口に入れて、あとのタッパーをモン太に渡した。
『まもりさんの手作り!』
 猿よろしく頭上に掲げて喜ぶモン太に、呆れたように十文字は言った。
『ほんと好きだな、お前』
『おうよ、好きな人のことなら何でも知りたいし触ったもの何でも触りたいし作ったものなら何でも食いたいさ!』
『変態……』
『うるせ、そういうもんなんだよ!……十文字は?』
『は?』
『十文字は好きな奴いねえの?』
 好き?十文字は心の中で反芻する。
 何でも知りたいと思うような、触れたいと思うような―――固執する人。固執したいと思う女性。
 好きなものだってあるのか分からないのに。十文字は俯いた。
『……いねーし、いたこともねえよ』



 要するに、自覚していたよりずっと十文字の心の中は空っぽだったのだ。それがショックだった。
「俺ってさあ」
 食後ごろりと横になる。ささくれ立った畳の感触は、好き。
「好きなものとか全然ないのな」
「いっぱいあるんじゃねえの」
 黒木も横になって十文字と目を合わせた。
「わかんねえ、考えてたら俺の中身なんか全然空っぽみたいに思えて、」
「ほらな、余計なことでうだうだ悩んでるだろ」
 逆側から戸叶も横になった。
「好きとかさあ、今まで……お前らに会うまでは自分で好きになったものなんかなかったし……改めて考えたら、好きで好きでいるものなんかないんじゃないかって思って」
 自分は本当に、それを自由意志で好きになったのか。または、誰かの思惑があって好きにならざるを得なかったのか。それとも―――誰かのために、それを好きになる必要があったのか。
 自分の意思で、好きになったものなどあるんだろうか。この、かけがえのない二人の友達以外は。
「ほんとに余計なことで悩んでんなー」
 黒木が十文字の頭をくしゃくしゃに撫でた。後ろから戸叶も撫でてくる。
「好きな女子とか、いないんだ?」
「……浮かぶ以前に誰が誰だか」
 俺ら教室の中なんかろくに見てねえもん、と黒木は笑った。
「別にいいんじゃないの、好きな女子いないくらい」
「変じゃねえ?」
「俺もいねえもん。トガもっしょ?」
「確かに」
 変じゃないんだ。少しだけ十文字は安心した。
「十文字の好きなもんだったら俺ら分かるしー」
「何?」
「まず俺でしょートガでしょー」
 十文字の頭の後ろで戸叶が毒づいた。
「図々しい」
「いーのいーの。で、イチゴ牛乳とメロンパン。クリーム入ってないやつ」
「マックシェイクよりはミスドのシェイク」
「コンビニのクリームプリン」
「シャーペンは重いやつが好き」
 前と後ろから次々に挙げられて、なんだか十文字は恥ずかしくなった。
「何でそんなわかんの……」
 黒木も少し赤くなって言う。
「十文字、かわいいから」
「答えになってねえ……」
 へへ、と黒木が笑う。
「下手にはぐらかすから」
「……わかんないくらいでいいんじゃねえの?」
「あー……まあ、そのほうが『かわいい』かもな」
「何お前ら、言ってること全然わかんねえし」
「俺らのことは好き、だろ?」
 黒木の笑う顔が幸せそうで、見ていられなくって、十文字は仰向けになった。逆隣には戸叶が陣取ってじっと見ているのが視線でも体温でも伝わってきて、とてもそちらを向くことはできなかった。
 きたねえ天井。
 黒木がニヤニヤだかニコニコだか笑って、逆側では戸叶が機嫌いいのだか悪いのだか分かりやしない妙は気配を発している。
「まあ……」
 本当は考えなくても、気を持たせるような間を開けなくてもそうなのだけれど、そのことを自覚してしまうと妙に照れくさくて十文字は天井に向かって答えた。
「……好き、だけど」
 死角で戸叶がふふ、と笑うのが分かった。
「それだけわかってればいーのっ」
「そっかあ……」
 黒木は、好き。戸叶は、好き。二人といる時間、すき。
「なんか言いくるめられたような気もするけどいっかあ……」



 食後横になったのが効いたのか、また眠り込んでしまった十文字の腹にタオルケットをかけて、戸叶がやれやれと溜息した。
 これから皿を片付けて着替えて部活に行かないといけないのだが、どうにも面倒くさい。出来ることは明日でいいやと卓袱台の上だけ片付けて、まどろんでいる黒木を見遣り、もといた位置に寝転がった。起こさないように気をつけて、指の背でそっと頬に触れた。
「次はどういう意味で『好き』なのか、考えてくれればいいけどな」
「無理なんじゃねえのぉ」
「そうかもな」
 ケータイに手を伸ばす。
「練習何時からって?」
「四時〜」
「じゃ、三時に目覚まししとくけど起きなかったら……」
「大丈夫でしょ、十文字が起きるって」
「そか」
「うん……俺も寝よ。十文字の傍、なんか眠くって」
「おう、俺も寝る」
 二人で十文字の頭を撫でて、目を瞑った。部活までおやすみ、かわいい十文字。
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