あれから何度か仁に、私を可愛いと言ったのは本心か聞いてみたけど絶対に肯定はしてくれなかった。

「私のこと、可愛いとか思わないの」
「思うわけねえだろ。いい加減にしろ」
「ふうん……」

まあ、べつにいいんだけど。もしそうだったなら嬉しいな、って思っただけ。でもはっきりそう否定されちゃうとちょっと傷付くな……と、若干しゅんとしてしまう。

清純くんは、あんなに可愛い、可愛いと言ってくれるのに。二人ともタイプが違うんだから、比べても仕方ないんだけど。そもそも仁がそんなこと言う男とは思えないし。

「……」

ソファに座りながらそんなことを考えていると、仁は黙ったまま私のことを見ていたので「なに?」と聞いてみても、それは無視されて返答はなかった。





「ねえ仁、このお菓子買ってもいい?」

二人とも休日だったので午後になって一緒にスーパーへ買い物に来ると、私は好きなお菓子の箱を手に持って仁に見せる。普段なら「だめだ」と一度は却下され、それに、お願い!と頼んで買ってもらう流れになるはずだけれど、今日はその箱を見ているだけで何も言わない。

(……どうしたんだろう)

買ってもいいのかな。仁の様子を窺いつつ、その手に持っている買い物かごにそっとお菓子を入れてみても、怒らずに黙ったまま。すると、そこを離れて移動して行ってしまったので、追い掛けて横に並んで歩く。

それから買い物している間も、家に帰る間も、仁は何も言わなかった。自分からあれこれ喋るタイプじゃないから、べつにいつも通りなんだけど。なんとなく、気になった。



「食え」

夕ご飯、テーブルの上に並べられたお皿には私の好きな食べ物が山盛りになっている。ほかほかと湯気を立てる美味しそうなこの食事を作ったのが、向かいの席に座っている怖い顔した男だということはにわかには信じ難いのだけれど事実、そうなのだ。

「どうしたの、こんなに……」

聞いてみても返事はない。私の好物がたくさん……、どうしちゃったんだろう。だけど仁は無言で箸を進めているので、私も大人しく食べ始める。

もしかしたら、昼間、仁の言ったことに私がちょっと落ち込んでたから?まさか。と思うけれど、でもそうじゃなきゃこんなことしない気もする。仁は割と、言葉より行動で表すタイプだからな。

要は「ごめん」という意味なのだろう。それならば、それは、素直になれなくてごめん、のごめんなのかな。それとも、嘘吐いちゃってごめん、のごめん?

「昼間のこと、気にしてるの?」
「……」
「じゃあ本当は、私を可愛いと思ってるってことだよね」

にこっと笑って聞いてみる。後で気にしてこんなことするくらいなら、最初から素直になっちゃえばいいのに……と思いつつ本当はそんなところも可愛いけど。仁のことをからかいたくなる、あの後輩の子の気持ちが私もよくわかってしまう。

「んなわけねえだろ」
「嘘。内緒にしちゃうくらい、可愛くて大好きなんでしょ」
「馬鹿かテメエ、寝言は寝て言え」
「それに私のこと、ちゃんと周りに嫁って言ってるし……」
「うるせえな」

仁は苛立った様に不機嫌そうな顔をする。

「ふうん……、私のこと可愛くないんだ。……残念……」
「……」
「じゃあ、もっと可愛いって言ってくれる人のところに行っちゃおっかな」

言い終わらないうちに、ゴン!という大きな音がして見れば仁が持っている茶碗をテーブルに勢いよく置いた音だった。すごく怖い顔して、無言でじっと私のことを見ている。

「お茶碗が割れちゃうよ」
「……」
「冗談だってば……。嘘だよ」

なだめるようにそう言うと、また黙々とご飯を食べ始めた。素直じゃない割には、相変わらずヤキモチやきなんだな……と、内心ちょっと笑っていた。私のつい意地悪する癖も、なかなか直らない。




「……オイ」

夕ご飯を食べ終わった後、今日は二人とも早めにお風呂に入った。私はリビングのソファに座っている仁に近付いて行き、その膝の上に乗ってまったりしていると急に耳元で低い声が聞こえる。

「なに?仁」
「なにじゃねえ、人の上で菓子食うな」

今日スーパーで買ってもらったお菓子を食べながら、「仁も食べる?」と聞いてみると「いらねえよ」と即答で断られた。それから「カスが落ちんだろ」と怒られたけど、「はあ」という適当な返事をする。

「お前重てぇんだよ」
「えー?」
「んな菓子ばっか食ってるからだろが」
「仁だっていつもケーキとかスイーツ食べてるじゃん」
「うるせえ、テメエと一緒にすんな」

コワモテのくせに昔から甘党なんだから……。ケーキ屋やカフェで、メルヘンチックな商品名呼んで注文するの嫌がるから、いつも代わりに頼んであげてるのは誰?と思いつつ、どうせまた「うるせえ」って言われるから口には出さない。

「わかったよ……、重くてごめんね」

確かに最近、ちょっと体重増えちゃったのは本当だけど……。仁もそう言うから、やっぱり重いんだ。とショックを受けつつも、寝る前にお菓子なんて食べてれば太って当然だしな。とちょっと反省する。

膝の上から下りようとすると、何故か腕を掴まれ、ぎゅっと引き寄せられたのでそこから動けなくなった。

「どけとは言ってねえだろ」
「……え?」

じっと見つめてくる仁の目を見返しているうちに、気が付けば抱き締められていて、そして唇には柔らかい感触がする。驚いた私は、手に持っていたお菓子の箱を落としてしまい、あ、と思って拾おうとしたけれどその伸ばした腕さえも掴まれて、いつの間にかソファの上にごろりと押し倒されていた。

「……仁……?」
「……」
「お菓子が、……ん」

喋ろうとするとまたキスをされて、それ以上は続けられなかった。

視界の端の方に、お菓子の箱が床に転がっているのが映ってる。中身がこぼれでもしたら、また仁に怒られちゃう……と、心配だから早く拾いたいのに。起き上がろうとしたらやっぱり阻止されて、仁は私の体を解放してはくれない。

「あ……ふ、ぅん……」

舌がぬるりと口の中に入り込んできて、まるで味わっているみたいに、ゆっくりと絡み合う。急にどうして……と思いながらも、仁に自由を奪われたまま次第に鼓動が速まり、体はぼんやりと火照るのを感じていた。

「……甘ぇな」

唇が離れると、仁がぼそりと呟く。ついさっきまで、チョコレート菓子を食べていたせいだろうか。しばらく私の目を黙って見つめたかと思えば、再び口付けられる。角度を変えては、二度、三度……と何回も。

やっと唇が離れた際に「ね、どうしたの……」と聞いてみても、何も答えない。すると今度は私の首の辺りを舌でべろりと舐めるので、思わず声が出てしまった。

「あっ、やぁ……っ仁……」

くすぐったさに体を捻じってみても、ぐっと腕を掴まれたまま押さえ付けられているのでちっとも逃れることなどできない。

「私の体は、舐めても甘くないよ……」
「……」

視界がなんだか潤んで見える。仁は少し動きを止めた後、私のことを抱きかかえながらおもむろに立ち上がった。そしてそのまま歩き出し、着いた先は寝室のベッドの上。私は仁に抱き締められたまま、そっとそこへ下ろされた。

「……なら、確かめてみるか」

暗い部屋の中で、頼りは開け放ったままのドアから入り込んで来るリビングの明かりだけ。そこにぼんやりと浮かぶ仁の顔は、片方の口角だけを上げて笑っている。どうしたのだろう……。

覆い被さって唇に口付けた後それは首や鎖骨の辺りへと下がっていき、キスをしては舌でぺろりと舐められる。私はそのなんとも言えない快感に溜め息をこぼしながらも、心の中でいつもとは様子の異なる仁に少し動揺していた。

「ねぇ、お菓子落としちゃったの……拾いに行ってもいい?」
「んなもん、放っとけ」
「……だってぇ、仁に怒られちゃうぅ……、あっ」

起き上がろうとしたけれど、抑え付けられていてちっとも動けない。Tシャツの下には下着しか履いていない私の太股を仁の大きな手が撫でると、それはショーツの中に入り込んでくる。

「だめえ……」と言っても、止まることはない。そのままするりと脱がされて、秘部を指でそっと擦られると小さく声を漏らしつつそこはどんどん熱を持ち、とろりと濡れてしまう。

「仁……ねえ、お菓子……」
「テメエを食うのが先だ」
「……私は、食べてもきっと美味しくないよ……」
「食ってみなきゃわかんねえだろが」

中でずぷりと指を動かしながら、仁は私の耳元でそう言うと耳たぶを舐めた後に甘噛みした。それに背筋の辺りがぞくりとして、思わずこれまで口にしたこともない様な声が出てしまう。

「っひ、あ、……うぅん、……仁どうしちゃったのぉ」
「……」
「私が、他の人のとこ行くなんて言ったから……?」
「……」

一つ心当たりがあったので、聞いてみたけれどそれには答えない。黙ったままもう片方の手がTシャツの下へと潜り込み、それを捲り上げると露わになった乳房を撫で、柔らかい突起を親指で擦る。それから舌で舐めたり、唇で軽く吸われるとびくりと体が反応した。

「っ、はぅ……ぁ、……」
「……」
「……仁の、ヤキモチやき……」
「……うるせえ」

ちょっと不貞腐れた様な顔しながら私のTシャツを全部脱がせると、自分も同じに着ていたTシャツを脱ぎ、それから下にも手を掛ける。裸になると、着ていた物をベッドの下へポイと放った。

足を広げられてそこへ顔を埋めると、とろりとした温まったい蜜を舐められるので「やだ、甘くないよ……」と言ってみても仁はやめない。柔く弱いその部分を舌が這う感覚に、思わず泣き声にも似た喘ぎが漏れる。

やだ、やだと言葉のみで小さく抵抗してみるも本心ではないと気付いているのか、続けながら中へと入り込んだ指を動かす。しばらくの間そんなことを続ければ、次第に快感が押し寄せてきて、自分でも良くわからないままに甘えた声を上げながら達してしまっていた。

「……あ、……はぁ、ん」

呼吸を荒くしながら余韻に震えていると、再び覆い被さってきた仁が私の首筋の髪を払い、音を立てて口付ける。すると、すっかり大きく硬くなった仁のものが体に当たる感覚がした。先ほどの私の様子を見て、興奮でもしたのだろうか。

「……えっち」
「あ?」
「仁のえっち……」
「……るせえ、そりゃテメエだろ」

不機嫌そうな声を出しながら枕元にある避妊具に手を伸ばし、早々に装着すると、仁はその先端ですっかり敏感になった私の秘部を擦った。ぬらぬらと滑り、中から溢れ出した液のいやらしい音がする。

「違うもん……」
「へえ、違ぇのか」
「……うん……私じゃない」
「そうかよ、ならやらねえからな」
「あっ、やだぁ……」

仁は素っ気なくそう言うと、私の体からぱっと離れていこうとしたので、思わず手を伸ばしてその腕を掴んでしまう。

「なんだよ」
「……」
「自分が淫乱だって認めんのか」
「……やだ」

なんでそんなこと言うの……と思いつつも、もうとにかく仁が欲しくて仕方ない。仁が手に入るのなら、この際、淫乱と言われてもいいかなと理性の失いかけた頭のどこかで考えていたけれど、口に出した言葉はそれを否定していた。

「随分強情だな」
「っあ、……」

仁はそう言って口元を歪めると、またさっきの体勢へと戻り、何度か擦った後ぬるりと私の中へ入り込んでくる。それから手で前髪を軽くかき上げると私の腰を掴み、作り出されるその動きは、いつもより少し激しい気がした。

私がからかったりしたから、その仕返し……?よくわからないけれど、普段と比べて多少強引な抱き方になんだか興奮してしまう。溶けそうなくらいに優しいのも好きだけど、でも、少し手荒にされるのも堪らなく思える。

「認める気になったか」
「……あっ、……うぅ、ん」
「俺のが欲しかったんだろが。なあ?」

仁は腰を掴んでいた手を離すと、私の両手首を掴み、拘束する。見下す様なちょっと冷たい口調に、傷付くどころかこの胸はときめきにも似た甘い疼きを感じる。仁だって、我慢できなかったくせに……と思っても、声にまでは出せない。

「認めねえんならやめんぞ」
「やっ、やだぁ……」

私の心はもう完全に服従している。この体など、いくらでも好きな様に扱ってもらって構わない。それならもう、いっそ「そうです」と肯定してしまいたいけれど、何故だか素直に頷けない。

「なんか、今日の仁……いじわる……」
「意地悪されて喜んでんじゃねえか」
「あっ、あぅ……ん、……ちがう、もん……」
「じゃあこんなに濡らしてんのは誰だよ」

仁は絶えず腰を動かしながら、鼻で笑う。結合部から響く卑猥な水音は、いかに私が感じて濡れてしまっているかを、嫌というくらいに証明してくれていた。そして、そんな仁の意地悪な言葉に反応して、またとろりと溢れ出してしまう。

「……し、しらない……」
「とぼけんなよ」
「や、やぁ……うぅ」
「感じてんだろうが、淫乱」

仁は体をこちらへ倒して重なると、一度は離した手首を再び私の顔の両脇で抑え付けた。痛くはないけれど、それでも強い力を入れられているので動かせない。首筋に軽く噛み付かれると、ぞわりとして口からは嬌声が零れる。

「あっやだ……、やだぁ……っ」
「ならやめるか」
「だめぇ、……」
「お前、いじめられんのが好きなんだろ」
「……う、ん……好きぃっ……」

素直に淫乱と認めなかったのは、きっと、仁にいじめられたかったから。だから反抗して、無理やり、力尽くで言いなりにさせられたかったのかも、しれないな。相変わらずぎゅっと拘束されたまま、仁の目を見つめ返す。

「どうしようもねえ女だな」

そう言いながらも仁はなんだか機嫌が良さそうに見える。いつもはセックスする時だって、ずっと黙ったままなのに。

「淫乱」
「……や、ぁん……」
「もっといじめて欲しいって言えよ」
「あ、ぅ……もっと、いじめて欲しいのぉ……っ」

羞恥の情に駆られながらも従順に従えば、仁の口元は満足そうに笑ってる。

冷たくされて、意地悪されて、嫌なはずなのに。それなのにそんな痛みが快感で、仁の言う通り私……喜んでる。普段はこんな風じゃないから、拘束されて煽られて。激しく責め立てられることに、酷く興奮して気がどうにかなりそう。

「あ、っん……ぁ、きもちい……気持ちいいよぉ仁……」

気の遠くなりそうな快感に、目にはじわりと涙が滲む。仁は唇に噛み付くと、激しいキスをした。それによって完全に理性を失ってしまった私は、もう、沈み溺れること以外何も考えられない。

瞳に溜まった涙がぽたりと滑り落ちると、唇から離れた仁の舌がそれをぺろりと舐める。荒く繰り返す呼吸の中で、絶え間なく押し寄せる快感に、もう喘いでいるのか泣いているのかは、自分でもよくわからなかった。

「……あっ、ぁ……も、だめぇっ」

泣きながらそう訴えると、仁は拘束していた手首を離し、この体を抱き締める。自分もその背中に腕を回すと、もはや加減などわからずにとにかくぎゅっと強く力を込めながら、私は絶頂を迎えた。

あまりの心地良さにもう訳がわからず、ぼろぼろと涙が零れる。仁は動きを止めると、手で私の濡れている頬を拭い、唇に深く口付けた。私一体どうしちゃったのだろう……と、思いつつもこの体は意地悪されることに対してこの上もなく悦んでいる。

するとじきにまた仁がゆっくりと動き始めたので、「っあ、」と口から声が漏れた。だめ、と言いつつも本当はそんなこと思っていないし、仁もわかっているのかやめたりはしない。どうしてこんなことするの……とぼんやりと疑問は湧いても、もう考えることなどできない。

耳元で聞こえる仁の荒い息遣いと呻きに混じって、時折、私の名前を囁く声がする……。

何度もこの唇や首筋に口付けられながら、この心はぞわりとした快感にうち震え、強く求められているのだと感じれば今にもおかしくなりそうだった。大きな体にしがみ付いて喘ぎながら、涙は次から次へと溢れてくる。

「だ、だめぇ……もっ、やなのぉ……」
「嘘吐け」
「あっ、ぁう……ちが、……」
「俺無しじゃいられねえんだろうが、お前」
「……ひゃ、あっ……うぅん」

ぐりぐりと奥を犯されて、同時に首元をべろりと舐められると、逃れられない快感に小さく悲鳴を上げる。高圧的な言葉と態度に反抗するのとは裏腹に、私の体は素直すぎるほど仁を求めている。

好き、好き。朦朧とした意識の中で喘ぎながらもその名前を呼び、何度繰り返したかなど知らない。揺すられてしがみついているうちに、その背中に爪を立ててしまっている気がしても、仁は何も口には出さなかった。

「ぅ、ん……あ、っあ、いっちゃうぅ……」

甘ったるい嬌声を上げながら再び達してしまうと、両手で顔をグイと掴まれ、仁は貪る様に口付ける。絡みながら音を立てては溶けてしまうくらいに何度も交じり合い、唇の隙間からは小さく喘ぎが漏れる。苦しい、と感じて背中をさすってみてももやめてはくれない。

「……はっ、はぁ……あ、」

やっと離れた時にはすっかり息が上がっていたけれど、それは仁も同じことだった。仁……、と名前を呟きかけると私の視界には、余裕のない目をしている仁が映り、言葉は喉の奥へと消えていく。

「お前は俺のもんだ」

顔を掴まれたまま真っ直ぐに見つめられ、どこか苦しげな低い声を出す仁に対して、私にできるのはその目を見返すことだけ。黙ったまま何も言えずにいると、仁はこの体を一層強く抱き締める。


加減など知らない仁の愛は、時に痛みすら伴って、紅く熱くうねる。激しく火花を散らしながら燃え上がる熾烈な炎に包まれて、今にも溶けてしまいそうだ。

(こんなことしなくたって、どこにも行ったりしないのに……)

それでも私は、本当は心のどこかで喜んでる。束縛され、自由を奪われ、何もかも仁のものにされてしまいたいと望んでる。そうされたくて仕方なくて、だからいつも気を惹くためにわざと嫉妬させる様なことを言うのだろうか。

「……うん……私のこと、仁だけのものにして……」

その腕の中で心からの思いを言葉にすると、少しだけ力を緩めた仁が、じっと私の目を見つめる。そして黙ったまま、また唇を奪われると薄暗い部屋には二つの乱れる呼吸と、擦れるシーツの音。そして混ざり合う水音が、静かな夜の空気の中、いつまでも響いていた……。











何日か経ったある日、ふとリビングのテーブルの上を見ると、そこに私の好きなお菓子の箱がいくつも積まれているのが目に入る。これなに?と指を差して聞いてみても、仁は何も言わない。でも、他にはいないし。

昨日はケーキを買って来てた……。よくわからないけど、この前の夜の謝罪のつもりなのだろうか。

私は自分でも知らないうちに随分と泣いていたみたい。だからか、あれから仁はやけに優しくて、ずっと黙ったままいつも以上にあれこれと世話を焼いてくれていたし、すぐにまたいつも通りの抱き方に戻った。

それはそれで確かに幸せだけど、でもたまにはまたああしてくれてもいいのにな……とちょっと、ううんだいぶ思ってしまう私は、やっぱり仁の言う通りマゾかもしれない。そんなこと言えないけど。いじめられて嬉しいだなんて。

「ありがと。でも、こんなに食べたらまた太っちゃうな」
「……」
「私……、ちょっと痩せなきゃ」
「あ?」

これからは甘い物を控えた上、食事制限もして痩せようと思っていることを話すと仁は眉間に皺を寄せてみるみるうちに不機嫌な顔になった。どうしてだろう。

「余計なことすんな阿呆」
「なに?余計なことって……」

仁だって、重いって言ってたのに。と思ったけどじろりと睨まれるので口には出せず。よくわかんないけどまあいいや、と思ってソファに座っている仁の前を通り過ぎようとすると、腕を掴まれて引っ張られてそのままその膝の上に座らされた。

じっと見つめられているうちに頬に手が伸びてきて、軽くむにと掴まれる。それからその手は肩から二の腕を撫でながら下がっていき、ショートパンツのルームウェアを着ている私の太股をさわりと撫でた。

「どうしたの」
「……」

何も言わないまま、仁の大きな手が肌を這う。「私、重たいよ?」と言ってみてもそれに返事はなく、不思議に思っているとじきに抱き締められたので目をぱちぱちさせながらその顔を見上げると、仁も私の目を見ていた。きっと何か言いたいことがあるんだろうけど……。

「……仁?」
「やめとけ」
「え?」
「やめとけ、っつってんだよ」

それというのは、痩せようとしてることに対してだろうか。なんでそんなこと言うんだろうと疑問に感じても、仁は機嫌が悪そうで、口答えしたらなんだか怒られそう。

そういえばそもそも体重が増えたのって、もちろんお菓子を食べていたせいもあるけど、よく考えてみると仁がいつもごはんをたくさん勧めてくるからの様な気もしてきた。あまり食べることに興味のなかった私だけど、最近は何を食べても美味しくて……だからついつい食べ過ぎてしまう。

重いとか言う割には、知らない間に私のこと太らせていたのだろうか……?でも、まさかね。

「……わかったよ」

とりあえず素直にそう返事をしておくと、仁の目はどこか満足そうに見える。やっぱりそうなのだろうか。でも仁は何も言わないままだったので、本当のところはどうなのかは、私にはわからない。

「ね、そういえば私美味しかった?」
「……」
「仁、ねえ食べた感想は?」
「……」
「ねえってば」
「うるせ」

問い詰めても相変わらず素直になんて答えてはくれない。また不機嫌そうな顔したかと思えばグイと顔が近付いてキスをされ、唇を塞がれてしまったのでそれ以上は聞けなかった。









BACK TOP NEXT