フレンズ...04
...side amane...


とは小さい頃からのいわゆる幼なじみで、昔はよくバネさんたちもみんな一緒に遊んだ。

子どものとき周囲にいた女の子はどうにもお姉さんぶりたい子ばかりだったけど、は全然そんな感じじゃなくて、歳は俺より一つ上だったけど少しも偉ぶったり、やたらと世話を焼きたがることもなかった。

だから、俺はいつもを同い年の友達のように思っていた。

それでもやっぱり俺との間には一年の差があって、それは仕方のないことなのだと、中学に上がってからはよく思うようになっていた。


「バネ、ダビ」
「サエさん」
「ごめんな遅れて。それで、話って……何かな?」

俺は昼休みの屋上にわざわざ、バネさんとサエさんを呼び出していた。サエさんも一応何かな、なんて聞いているけど本当はそんなことわかっているはずだ。

「……のことだろ?」

俺が口を開く前に、フェンスにもたれ掛りながらさっきからずっと黙っていたバネさんがため息混じりに言ったので、俺はそれに小さく頷いた。

二人の、に対する気持ちが、知りたかったから。

「うん、それで?何か俺に聞きたいこと、あるんだろ」

サエさんの声は、バネさんのように不機嫌そうなわけでもなくて、いつも通りだった。聞いていると、なんだか安心する優しくて落ち着いた声。前にが、サエさんの声が好きだと言っていたのを思い出す。

「サエさん、どうして……を避けるんだ?」

はサエさんにもう構わないでくれと言った、と言っていた。だからなのか、最近サエさんは少しものことを話題に出したりしないし、ましてや話しかけたりなんてところも見ない。

だけど何故は、サエさんにそんなことを言ったのだろう。はサエさんのことが好きなはずなのに。……小さい時から、ずっと。

「……が、もう自分に構わないでくれと言ったんだ」

それはすでに知っていたので俺は頷いたけれど、まだ知らなかったらしいバネさんは「なんだよ、それ」と声を上げる。この前の理科室の時にそこは聞いてなかったのか、と頭の片隅で思った。

「それで、の言う通りにしたのか?」

柔らかい風に吹かれて、髪が揺れる。サエさんは眩しそうに目を細めた。

「俺は……、がそう言うなら、と思って……」

サエさんものことが嫌いになったわけではないのだろう。ただ、以前と比べて明らかに俺たちに接する態度の変化したに戸惑い、どう扱っていいのかわからないだけで。

を避けるようになったのは、彼女のことを気遣っているからこそなのだ。
それがわかっただけでも、よかった。

「もう、放っとけばいいんだ」

バネさんがうんざりしたように呟いたので、俺は声のした方へ首だけを動かした。

「これ以上、あいつに振り回されるのはごめんだ」

静かに、低い声で言い放ったその顔は険しかった。そして、「お前ももうに関わるなよ」とだけ言い残し早足で屋上を出て行くと、そこには重い鉄の扉の勢いよく閉まる音だけが、残った。

バネさんは、どうやら近頃のの態度に苛立っているらしい。思いやりがあって優しいけど、はっきりしてる性格だからこういうのは苦手なのかもしれない。

サエさんと同じように、きっとバネさんもに戸惑ってるんだ。

確かに、今のは昔とだいぶ変わってしまったように思うけど、それでもだ。俺にとってはずっと同じだし、どれだけ変わったって、べつにそれでもいい。

だけど俺やみんなといる時のはいつも苦しそうに見えて、笑ってくれないしあまり喋らない。もう関わらないでと言うはすごく寂しそうで悲しそうだった。

、どうして)

に泣かれるのは、昔からすごく胸の苦しい思いがする。何がそんなに悲しいのか。どうしてなのか理解してあげたいのに、答えはずっとわからないまま。

このままだと、一人だけがみんなのそばから離れて行ってしまう。もう一生ずっと、一緒に遊ぶことも話しかけることもできない、他人になってしまう。

(俺は……そんなのは、絶対嫌だ)

ずっとと一緒にいたい。そばにいたい。


自然と顔はうつむいてしまったけれど、サエさんの「そうだな」という声で、俺はまたすぐに顔を上げた。

「……もう、お互い干渉しないほうがいいのかもしれない」

サエさんはどこか諦めているような、疲れているような、そんな雰囲気だった。そんな風に言うとは思わなくて、ちょっと待ってくれと言いたくても声にならない。

「お前の気持ちもわかるよ、ダビ。だけど……その方が、のためだ」
の……、ため……」

本当に?本当にそれが、のためになるのか……?

俺は一体、のために何ができるんだろう。みんな小さい頃からずっと一緒にいて、友達だからそれが当たり前だと思っていたけどそんなことはなくて、が俺たちのそばを離れていこうとしてからやっと気付いた。

苦しいなら、悩んでるなら、助けてあげたいの思うのに。は何も言わない。俺にはどうしてなのかわからない。

幼なじみっていうのは、こういうものなんだろうか。どんなに仲が良かったとしても、時が経って成長すれば、離れて当たり前なのか。

がそう望むなら、そうするべきなのか……?


「サエさんは、本当にそう思ってるのか」

どこか縋りつくようなその問いに、サエさんは何も答えない。違うと言って欲しいのに。嘘だと言って欲しいのに、ただ風がその髪を揺らすだけ。

(……

大切なものがみんな、離れていくよ。
それでも、いいのか。

俺は……、そうするべきなのか。





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