フレンズ...06
...side kurobane...


「……何やってんだ、あいつら」

部活はもう始まっているというのに、ダビデがいつまでもやって来ない。
剣太郎もサエも知らないと言うし、仕方ないので探しに来てみたら、体育館の裏の薄暗いとこに、奴は、といた。二人はしゃがみ込み、キスするくらいの顔の近さで何か話している。

何だよ、この状況は。話しかけずれえにも程がある。


あいつらには昔から、二人だけの世界観のようなものがあった。
ガキの頃、夏の夜にみんなで浜辺で花火をしていた時、ロケット花火やねずみ花火で盛り上がっているのにいつのまにかあいつらだけいなくなっていて、探しに行ってみると岩の陰で二人で線香花火してたりしたし、他にもそういうことが何度もあった。

みんなで集まったりする時も、のとなりには必ずダビデがいるし。
あと何かあいつら話す時、今みたいに基本顔近けえし。

(何か、あいつらが二人だけでいるとやらしいんだよなあ)


「……げ」

が何か言って、そのあとダビデが何か言ったかと思ったらいきなりダビデがの頬を撫でていて俺は思わず周囲に人がいないか確認してしまった。

誰かに見られたら面倒な噂が流れるだろうが馬鹿、ときょろきょろしながら何で俺が焦ってんだと思う。

あんな風に気安くにべたべた触れるのも、俺たちの中じゃダビデだけだ。
……昔から。

「……あーあ、あほくせえ」

(俺こんなとこで何やってんだ……)

何だか急にどうでもよくなって、もういい、放っておいてさっさと部活に戻ろうと、くるりと方向を変えて歩き出した時、少し先にサエがいることに気がついた。

お前も探しにきたのかと声をかけようとしたけれど、その表情にはいつもの穏やかさがない。何だか冷めたような目をしている。

思わず躊躇したままでいると、サエは俺の存在に気付いているのかいないのか、ふいと顔を背けてそのまま歩いていってしまった。

「……?、何なんだよ、みんな……」

最近はどうも調子が狂う。原因はおそらくであろうことわかってはいるのに、うまい解決法が見つからない。あいつが一体何を考えているのか俺にはよくわからない。

昔からよく、お前は女心のわからない奴だと言われてきたけれど、それが関係あるのだろうか。

俺はモヤモヤしていることがあるならすぐにでもハッキリさせたい性分で、だからこの前もに聞いてみたけれど何故か逃げられたし、しかもそのあとダビデに「にあまり強くものを言わないでくれ」と注意されるし、まったくなんだってんだ。

(ダビデも、のことになるとなあ……)

好きなのはわかるけれど、いまいち冷静さに欠けるというか。学校には他にも大勢女子がいるというのにあいつにはしか見えてないみてえだし。元々、女には甘い奴だったけどに対してはその比じゃない。

「……ったく、どいつもこいつも」

めんどくせえな。もう俺たちも中学生だし、来年は高校生だし、いつまでも仲良しごっこなんかやってらんねえよ。……あ、そういや進路希望調査の紙まだ担任に出してなかったな。明日までだったか?

「……高校かあ」

なんだかまだ遠い世界のようだけれど、たぶん大体の奴が同じとこいくだろうし、きっと今と同じような毎日なんだろう。あ、でもダビデはいねえんだよな……。そういやは志望校何て書いたんだろうか。

「……ま、あいつのことなんかどうでもいいか……」




「あっ遅いよバネさーん!どこ行ってたの!」

コートに戻ると、剣太郎が走って近づいてきた。結局ダビデは連れ戻せなかったし、「悪りい」と謝ったあと、コートの端でフェンス越しにぼんやり空を眺めているサエに気がつく。

声をかけようとしたけれど、俺よりも先にマネージャーが「どうかしたの?」とその肩を叩いていた。サエが何でもないよ、と笑って返すと、彼女も同じように笑う。

マネージャーはサエのことが好きだ。一年のときから。

今までに何度か告白したけれど、その度にサエは「ありがとう。でも、ごめん」と優しく笑うだけで、振られた理由はわからない。どうしてだろう、とマネージャーに泣きながら相談されたことがあるけれど、俺はその頭を撫でるだけで何も言えなかった。

けれど相変わらずサエはマネージャーに優しくて、あいつもだからいつまでも諦められない。

(サエの優しさは罪だな……)


「ねえバネさん、サエさんとちゃんてケンカしてるのかな?」
「……あ?ケンカ?」
「さっきちゃんが来たんだけど、サエさん無視して行っちゃったんだ……」

剣太郎は浮かない顔をしていた。

「ちげえよ。剣太郎はそんなこと気にすんな」

その坊主頭をぽん、と叩いたあとぐしゃぐしゃっとしてやったら「もー!それやめてよー!」と頭を抑えながら走って逃げていった。

剣太郎にまで心配かけて、これ以上、周りの奴らを巻き込むわけにはいかねえなあ……。もうに構うなとダビデには言ったけれど、やっぱり白黒つけるときが来たのだろうか。

(……来たんだろうな)





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