折々の記 2017 ピケティ
【心に浮かぶよしなしごと】

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特別編集 ピケティ氏 21世紀の資本  r > g

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トマ・ピケティに関する最新ニュース

2015/7月~2016/12月

トマ・ピケティ 知恵蔵2015の解説

フランスの経済学者。1971年生まれ、パリ近郊クリシー出身。主要研究テーマは経済格差と不平等の問題。2013年に出した『21世紀の資本(Capital in the Twenty-First Century)』の英訳版が翌14年にアメリカで出版されると、ノーベル賞受賞経済学者のR.ソロー、P.クルーグマンや元財務長官R.サマーズらから絶賛され、700頁にも及ぶ学術書にもかかわらず異例の大ベストセラーになった。

約15年をかけて収集した20カ国以上のデータ(18世紀以降のマクロな経済資料)を基に、資本主義がもたらした不平等拡大のメカニズムを実証的に暴き出し、健全で民主的な社会の再生には、国境を超えた公平な税制度(具体的には資産への累進課税)の導入が必要と提言する。14年12月には日本語版も刊行され、15年1月に初来日すると「ピケティ現象」と呼ばれるほど大きな話題になった。

ピケティは超難関のパリ高等師範学校に入学し、1993年にEHESS(社会科学高等研究院)とLSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)で博士号を取得。その後2年間、米マサチューセッツ工科大で教鞭をとった後、2006年に設立されたPSE(パリ経済学校)の初代校長に就任した。07年の大統領選挙では、社会党ロワイヤル候補の経済ブレーンを務めている。政治的には穏健なリベラル派と見られるが、社会党が導入した週35時間労働制に異議を唱えたこともあり、国内の左派からは批判の目も向けられている。15年1月、社会党オランド政権は仏最高勲章のレジオン・ドヌール賞にノミネートしたが、ピケティは「名誉を決めるのは政府の役割ではない。経済成長に集中すべき」と述べ、受賞を拒否した。
(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)



【動画】 ピケティ氏 21世紀の資本 r>g

【最新ニュース】 (01)~(20)

    http://www.asahi.com/topics/word/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3.html

(01)(書評)『経済学のすすめ 人文知と批判精神の復権』 佐和隆光〈著〉(2016/12/11)
 ■「文系軽視」が招く社会の危機 本書は、「国立大学改革プラン」の一環として「文系廃止」を求めた2015年6月の文科省通知を契機に書かれた。背景にある文系軽視が社会にとっていかに危険か、著者は全編を通[続きを読む]

(02)(読み解き経済)途上国発展の方策 経済史を研究する岡崎哲二さん(2016/7/27)
 ■戦前日本の少額金融にヒント 現代の世界が直面している深刻な問題に、経済格差がある。一国の中での所得格差は、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏などが論じているが、国や地域間にも所得格差はある。世界に…

(03)「『落日』の資本主義」 水野和夫×白井聡(2016/7/5)
 政治学者の白井聡さんがホスト役を務める対談・対論イベント「第8回 関西スクエア 中之島クロストーク」(朝日新聞社主催)が6月11日、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。ゲストに元大手証券…

(04)(天声人語)大統領選とアメリカ資本主義(2016/6/9)
 経済的な不平等を分析し、金持ちに高い税金を払わせることを主張する。そんなフランスの経済学者トマ・ピケティがなぜアメリカで人気になったのか。ちょうど2年前、シカゴの学者と話をしたことがある▼自由競争の…

(05)英主要株価指数に採用される企業のCEOの平均報酬は、英企業の従業員の賃金の100倍を超える 欧州株主「高額報酬許さぬ」 ゴーン氏に8億8千万円、54%反対(2016/6/7)
 欧州企業の株主総会で、経営陣の高額報酬に対して株主の批判が強まり、報酬体系の見直しに着手する企業が相次いでいる。フランスでは、格差拡大を問題視する政府が対応策の検討を始めた。 ■フランス、法改正審議…

(06)タックスヘイブン対策、国内の経済学者47人が呼びかけ(2016/5/26)
 主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の開幕を前に、岩井克人・東大名誉教授ら日本の経済学者ら47人は25日、議長国の日本に対し、タックスヘイブン(租税回避地)対策を積極的に進めるように求める…

(07)(読み解き経済)ピケティ氏の格差論 経済史を研究する岡崎哲二さん(2016/5/19)
 ■単純化で見えなくなった現実 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」は、日本を含む世界で、専門的な内容を含む書物としては異例のベストセラーとなっている。世界的に生じている所得格差の拡…

(08)[29]パナマ文書と「日本死ね!!!」(2016/5/12)
 パナマ文書が話題になっている。日本では当初、中国やロシアの政府の腐敗ぶりを示すものとして報じられた。日本の大手企業経営者の名がちらつき始めた最近でも、税金を払わない富裕層など、どこか遠くの人々のスキ…

(09)パナマ文書に登場する法人の株主ら(企業・個人)の主な住所地は…/主にどこに設立したか… (時時刻刻)パナマ文書、闇の一端 タックスヘイブンの金融資産、日米GDP合計以上か(2016/5/10)
 世界の首脳らと租税回避地(タックスヘイブン)の関わりを暴いた「パナマ文書」。富裕層の蓄財の闇を照らし、税負担の不公正さに対する市民の怒りに各国で火をつけた。だが明らかになったのは、租税回避のほんの一…

(10)(書評)『21世紀の不平等』 アンソニー・B・アトキンソン〈著〉(2016/1/17)
 ■上手な再分配策を!明快で具体的提言 それにしても、政府はいつになったら再分配政策に本気を出すのだろう。経済政策の三本柱といえば「安定」「成長」「再分配」。だが、アベノミクス「第一の矢」でも「第二の…

(11)(フロンティア2.0)臆測呼ぶ巨額寄付 富裕層の富がもたらすものとは?(2015/12/29)
 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者が今月初め、保有する自社株の99%を寄付すると発表して話題になった。時価総額で5兆5千億円という額の寄付に驚きと称賛の声が集まった。ところが、数日…

(12)(今こそ河上肇)「貧困と格差」論、まるでピケティ(2015/12/7)
 豊かな時代の貧しさについて、解決策を考え抜いた経済学者が1世紀前の日本にいた。 99年前の師走、日本国内が第1次世界大戦下の好景気にわくなか、大阪朝日新聞には夏目漱石「明暗」とともに、「貧乏物語」が…

(13)「大半の資産を社会貢献に」 ビル・ゲイツ氏の一問一答(2015/12/5)
 ビル・ゲイツ氏との主なやりとりは以下の通り。 ――世界一の富豪であるあなたが、なぜ資産の多くを社会貢献活動に使おうと考えたのですか。 いずれ、ほとんどの資産を社会貢献に使うことになる。お金を自分のた…

(14)格差問題、学生と考えた格差問題、若い世代の受け止め方は? 記者が授業に参加(2015/9/7)
 日本にはどんな格差があり、どう解決すればいいのか――。3~4月にフォーラム面などで「格差問題」を取り上げたところ、「授業で記事を使います」「学生と議論してもらえませんか」と連絡をいただきました。20…

(15)平日夜にゲンロンカフェで開かれるイベントには、若い世代が集まる=7月31日、東京都品川区 (教養なんていらないの?:4)知りたい衝動に応える(2015/8/21)
 人間には、知りたいという気持ちを抑えられない瞬間がある。そんな知的好奇心に応える場を作ってきた人たちがいる。 東京・五反田の雑居ビルにある「ゲンロンカフェ」で開かれるトークイベントのテーマは、SF小…

(16)漱石「それから」 格差社会と愛、読み解く 姜尚中さん(2015/7/31)
 朝日新聞で再連載中の夏目漱石『それから』を、東京大学名誉教授の姜尚中さんが3回シリーズで解説する連続講座が6~7月、東京・神田神保町の東京堂書店であった(WEBRONZA主催)。格差社会や明治の家制…

(17)(漱石「それから」2015)格差・愛のあり方、読み解く 姜尚中さんが解説講座(2015/7/31)
 朝日新聞で再連載中の夏目漱石『それから』を、東京大学名誉教授の姜尚中さんが3回シリーズで解説する連続講座が6~7月、東京・神田神保町の東京堂書店であった(WEBRONZA主催)。格差社会や明治の家制…

(18)ギリシャ危機とピケティの経済議会構想(2015/7/28)
 ギリシャのユーロ圏離脱は回避された。一時は離脱が現実味を帯びていたが、一貫してギリシャ救済をとなえていた唯一の国がフランスだった。その空気の中でトマ・ピケティはル・モンド紙のインタビューに答え、ユー…

(19)桂文珍、新作「玄海集落」 地方の実情笑って考える3席(2015/7/13)
 地方の実情や経済のあり方、そしてパワーハラスメントを笑いで考えたら――。桂文珍(66)が8月8日に大阪・なんばグランド花月で開く通算33回目の「8・8独演会」で、現代の問題とつながる落語3席を披露す…

(20)ユーロ圏離脱でギリシャは蘇り、EUは政治分裂?(2015/7/11)
借りた側が悪いのか、貸した側が悪いのか 2002年にユーロ圏への加盟が認められて以降、ギリシャ政府は「強い通貨」ユーロの低金利を利用して大量の借入を行い、バラマキ財政を行った。ところが、2009年秋の…


digital.asahi.com
(01)(書評)『経済学のすすめ 人文知と批判精神の復権』 佐和隆光〈著〉(2016/12/11)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12701350.html

 ■「文系軽視」が招く社会の危機

 本書は、「国立大学改革プラン」の一環として「文系廃止」を求めた2015年6月の文科省通知を契機に書かれた。背景にある文系軽視が社会にとっていかに危険か、著者は全編を通じて強い警告を発する。

 著者は、一見して分かりやすい有用性を学問に求めることは、かえって社会や組織を衰退させるとする。学問が「テクノロジーの僕(しもべ)」と化して現状追認に終われば、健全な批判精神の育成が難しくなるからだ。批判を通じて異質性や多様性を自らのうちに育み、自己変革を遂げられない社会や組織は脆(もろ)い。人文知を排斥する国は、全体主義国家になると著者は警告する。

 この点、数学化・計量化が進んだ経済学は、人文知(文学、哲学、歴史、心理、芸術など)と絶縁し現状肯定的な学問となった。だが、もっとも独創的な人々は往々にして旺盛な批判精神の持ち主でもある。アップル社のスティーブ・ジョブズは、人文知と融合したテクノロジーの重要性を説いたという。

 政府の政策を科学的に正当化するためだけに、経済学の意義があるのではない。アダム・スミスからトマ・ピケティまで脈々と流れる、人文知と融合した経済学の伝統にこそ、その真価を見出(みいだ)せるのだ。現状への鋭い批判意識こそが、新しい社会構想(ユートピア)を生み出す契機となる。過去の偉大な経済学者はいずれも、こうした伝統に連なっていた。

 近い将来、人間の知識・技能が人工知能と代替可能な時代が来るとすれば、思考力・判断力・表現力を涵養(かんよう)できる人文知の重要性はむしろ高まる。そのとき、人文知と融合した経済学を学ぶことは大きな力になると、著者は若い人々に呼びかける。筆者も同感だ。経済学は価値中立性を志向するが、現実社会の思考・判断・表現の過程では「何が望ましいのか」、価値観が問われる。その判断力を鍛えるには、やはり人文知しかない。碩学(せきがく)の渾身(こんしん)のメッセージを真摯(しんし)に受け取りたい。

 評・諸富徹(京都大学教授・経済学)

     *

 『経済学のすすめ 人文知と批判精神の復権』 佐和隆光〈著〉 岩波新書 842円

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 さわ・たかみつ 42年生まれ。滋賀大学前学長、京都大学名誉教授。『日本経済の憂鬱』『グリーン資本主義』など。


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  テーマ 『21世紀の資本』と資本主義の未来

(03)「『落日』の資本主義」 水野和夫×白井聡(2016/7/5)
    http://webronza.asahi.com/politics/articles/2016063000008.html?returl=http://webronza.asahi.com/politics/articles/2016063000008.html&code=101WRA

 政治学者の白井聡さんがホスト役を務める対談・対論イベント「第8回 関西スクエア 中之島クロストーク」(朝日新聞社主催)が6月11日、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。ゲストに元大手証券チーフエコノミストの水野和夫さんを迎え、行き詰まりつつあるように映る資本主義について語り合った。

「成長戦略は間違い」

 白井さんはまず、参院選を前にアベノミクスの是非について問うた。

日本の資本主義について話す経済学者の水野和夫さん(左)とホスト役の白井聡さん=201661111日午後、大阪市北区 拡大日本の資本主義について話す経済学者の水野和夫さん(左)とホスト役の白井聡さん=2016年6月11日、大阪市北区  水野さんは「そもそも成長戦略をとることが間違っている。日本は1990年代半ばから成長できない仕組み」「量的緩和をして国内で投資をしてくれと言っても、グローバリゼーションの下では海外へとお金が容易に出ていく」と答えた。

 白井さんは、自らも水野さんも読んでいるという話題の書『時間かせぎの資本主義』(ヴォルフガング・シュトレーク著)の内容に触れながら、「需要を拡大するため個人に借金をさせてきたが、そのどん詰まりがリーマン・ショック。不良債権化した個人の借金が国家の借金に付け替えられた」と、ここ数十年の世界経済を概観した。

 これを受けて水野さんは「70年代に入り、(米国が金とドルの交換を停止した)ニクソン・ショックや、ベトナム戦争で政治と経済の秩序がおかしくなった。それを打破するための金融自由化やグローバル化だったが、先進国は成長率が上がらず、新興国の代表の中国も過剰生産に陥った」「サハラ砂漠より南では生死のぎりぎりのラインで生活する4億人がいる。ここ30年で、資本主義は70億人すべてを豊かにする仕組みではないことがわかった。ただ、代替案がない」と話した。

 また水野さんは国内政治について、「政府が東証1部上場企業に対して自己資本利益率(ROE)を現状の約8%から欧米並みの15%程度に上げるよう求めている。国家資本主義的な状況。売買シェアの6割を占める外国人投資家の利益額を倍増しなさいと暗に言っており、これは日本の政府の政策なのかとさえ思えてくる」と指摘した。

  ※ 自己資本利益率とは → 自己資本利益率(ROE) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 (下平・註)

資産課税を基幹税に

 白井さんは、国債がマイナス金利になる中、三菱東京UFJ銀行が国債入札に特別な条件で参加できる資格を国に返上する手続きに入ったことについて、「日本国家と心中するのはごめんだと宣言したと解釈できそうだ。国債の引き受け手がなくなる」と話した。

 水野さんは「非常によい選択で、国債が優良な資産ではないと民間が言い始めた画期的な出来事。これを機に、日本銀行は国民の資産を減らすことになるマイナス金利政策を反省すべきだ」と答えた。

 白井さんは「国家が徴税できなくなっている。歴史的に言うと、租税国家の終焉(しゅうえん)」と言い表した。水野さんは「企業やお金持ちの個人は外国へ出て行って租税回避をするので、国家は一般国民に税金をより課そうと消費税を一番のベースにする。今後は経済学者のトマ・ピケティも指摘するように、資産課税を基幹税に変えることが一つの方向性。外国へ逃げても、国籍がある限り徴税するのも一つの方法」と話した。

別の体制へ移行「何世代もかけ、社会実験を」

 会場の約120人からは多くの質問が寄せられた。国債を不安視する質問に対して、水野さんは「外国人投資家は10%しか日本の国債を持っておらず、いますぐ危険な状態ではない。ただ、ドルから円への交換でプラスの手数料が得られる米国の銀行などは、交換後の円でマイナス金利の国債を買っても差し引き利回りがプラスになる。マイナス金利は結果的に外国人投資家の日本国債のウェートを増やし、日本の破綻(はたん)を早める」と答えた。

 「資本主義から別のシステムへ移行するには」との質問に、水野さんは「中世から近代に変わるのに200年かかったとホイジンガが言ったように、何世代もかけて社会実験を繰り返すしかない」と話した。

 地方創生と東京一極集中についての質問に、白井さんは「東北の復興では、流入した東京資本が利益を吸い上げているとの声が上がっている。根を持たない資本の活動を制約しなければならない」と指摘。

 水野さんは「九州のある地方銀行のトップは、親元を離れて東京で暮らす息子さんが相続を受けると、地銀にあった親の預金がメガバンクに移ると言っていた。相続税が発生した場合は地域に残る仕掛けを考えるべきだ」と話した。(構成・河野通高)

◇第9回の「関西スクエア 中之島クロストーク」は8月に開催予定です。


朝日新聞デジタル > 記事
(05)欧州株主「高額報酬許さぬ」 ゴーン氏に8億8千万円、54%反対(2016/6/7)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12396561.html

【写真・図版】英主要株価指数に採用される企業のCEOの平均報酬は、英企業の従業員の賃金の100倍を超える

 欧州企業の株主総会で、経営陣の高額報酬に対して株主の批判が強まり、報酬体系の見直しに着手する企業が相次いでいる。フランスでは、格差拡大を問題視する政府が対応策の検討を始めた。

 ■フランス、法改正審議

 原油安で大幅な赤字に見舞われた英石油大手BPの株主総会では、ボブ・ダドリー最高経営責任者(CEO)の2015年の報酬(年金などを含む)として前年比約2割増の1960万ドル(約21億円)を支払う議案の採決で59%(議決権ベース)が反対した。報酬のうち年金関係の会社負担分の増加が大きかったが、コスト削減や事故を防ぐ安全面の取り組みなどが評価項目にあるボーナス(株式などを除く現金払い分)も4割ほど増えた。

 英国では、同じく大幅赤字に陥っている資源大手アングロアメリカンなどでも、CEOの報酬案に4割超が反対するなど高額報酬への風当たりが強まっている。BPが来年の株主総会で報酬体系の見直しを提案すると表明するなど、報酬のあり方を見直す動きも出てきた。

 フランスでもルノーが4月末の株主総会で、カルロス・ゴーンCEOに15年の報酬として725万ユーロ(約8億8千万円)を払う議案に約54%が反対した。

 ルノーの場合、15年12月期決算は増収増益。しかもゴーン氏の報酬額自体は14年の721万ユーロと大きな変化はなかったが、報酬案への反対票は前年の約42%から増えた。総会での議決に拘束力はなく、ルノーは総会後に予定通りの支払いを決めた。

 取締役会メンバーの一人は仏メディアに「ルノー・日産に欠かせないゴーン氏には、他社からの(引き抜き)オファーもある」と高額報酬の必要性に理解を求めた。

 だが、ルノーの大株主でもある仏政府は「企業側が対応しないなら立法措置に動く」との立場を表明。国民議会(下院)では、左派の議員が株主総会の決定に拘束力を持たせる法改正を提案。6日から本会議での審議が始まる。

 ■世論、所得格差に厳しい目

 高額報酬に厳しい視線が寄せられる背景には、所得格差の是正を進めるべきだという世論の広がりがある。経済学者のトマ・ピケティ氏らは「企業トップの報酬を最低賃金の100倍以内に抑えるべきだ」との意見を仏紙上で表明した。仏株価指数に採用された大企業の平均で240倍に達しているといい、賛同者にはパリ市長や下院議長らの名前も並ぶ。

 英国の個人株主団体も5月に発表した新しい報酬指針で、英FTSE100種平均株価指数に採用されている上場企業のCEOの報酬は高すぎるとして、報酬を現在の半分以下にするように求めた。多くは給与の約2倍に上るボーナスを、最大でも給与と同額にすることなどを提案している。

 独フォルクスワーゲンが22日に開く株主総会でも、「もの言う株主」として知られる英投資会社のザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドが高額報酬の見直しを求めるなど、高額報酬への圧力は強まりそうだ。(ロンドン=寺西和男、パリ=青田秀樹)


朝日新聞デジタル > 記事
(06)タックスヘイブン対策、国内の経済学者47人が呼びかけ(2016/5/26)
    http://digital.asahi.com/articles/ASJ5S7DRRJ5SULFA031.html

 主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の開幕を前に、岩井克人・東大名誉教授ら日本の経済学者ら47人は25日、議長国の日本に対し、タックスヘイブン(租税回避地)対策を積極的に進めるように求める呼びかけを発表した。

 呼びかけに加わったのは岩井氏のほか、西川潤・早大名誉教授、三木義一・青山学院大学長、上村雄彦・横浜市立大教授、諸富徹・京都大教授ら。フランスのトマ・ピケティ氏など世界の経済学者ら約350人が9日に発表した、タックスヘイブンをなくすよう求める書簡への賛同も表明した。

 呼びかけは「タックスヘイブンにより途上国も先進国も税収を失っており、ツケを払わされるのは各国の一般市民と中小企業、世界の最も貧しい人々」として「格差拡大の要因であるタックスヘイブンの時代を今こそ終わらせるため、すべての国が参加する国際的な取り組みが必要」と指摘。

 サミット議長国の日本に対して、多国籍企業の情報公開▽(資産の)実質的所有者の透明性の確保▽途上国を含む広範な国々が参加できる国際的枠組みの構築――の3項目を、首脳宣言と行動計画に盛り込むよう求めている。


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(07)(読み解き経済)ピケティ氏の格差論 経済史を研究する岡崎哲二さん(2016/5/19)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12364126.html

 ■単純化で見えなくなった現実

 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」は、日本を含む世界で、専門的な内容を含む書物としては異例のベストセラーとなっている。世界的に生じている所得格差の拡大という現実を背景に、所得格差の長期的な動態を豊富なデータに基づいて一般読者にも接しやすい形で論じたことが、広く受け入れられた理由であろう。

 とはいえ、この本は必ずしもわかりやすいものではない。大部であり、対象の広がりが時間的にも地域的にも大きい。また、理論的な記述と経験的観察が織り交ぜられている。

     *

 本書の第1の大きな特徴は、主要国の所得格差を、100年以上にわたる長期的データに基づいて取り上げていることにある。これらのデータは主に、ピケティ氏と共同研究者が作成した「世界トップ所得データベース」によるものだ。

 100年以上前の所得格差について、信頼できるデータを得ることは非常に困難に見えるかもしれない。しかし、主要国は長い所得税の歴史を持っていて、所得税が導入されると多くの場合、関連する公式の統計が作られる。その統計に、各所得階層についての所得税額と納税者の人数のデータが含まれていれば、高所得者の所得分布を推定できる。

 一方、主要国の人口統計は過去にさかのぼって得ることができる。国民所得も、オランダのフローニンゲン大学の故アンガス・マディソン氏など多くの研究者の努力によって、世界各国について長期遡及(そきゅう)推計が行われている。これらのデータを組み合わせることで、ある国の中で所得の水準が上位1%、5%、10%などのグループに入る高所得者の所得が、その国の総所得(国民所得)に占めるシェアを計算できる。

 ピケティ氏はこうした方法で、主要国における上位所得層が、総所得にどの程度の割合を占めているのかを、100年以上にわたって比較可能な形で提示した。それによると、上位所得層のシェアの長期的な動きには、日本を含む主要国で共通のパターンが観察される。

 すなわち、第1次世界大戦期までは、上位所得層のシェアは高い水準で安定していた。その後、第2次大戦直後にかけて大きく低下した。そして戦後は低い水準で安定していたが、1980年代から再び上昇し、特にアメリカでは21世紀初頭に高い水準に達している。

 本書の第2の特徴は、こうした所得格差の長期的な動きをもたらす原動力を、単純な形で特定している点にある。ピケティ氏が強調するのは、「資本に対する収益率が経済成長率よりも高い」という関係だ。これは論理的に導かれるものではなく、経験的に観察される関係である、とされている。そして、この関係が所得分配に対して持つ、次のような含意が強調される。

 株式・債券などへの投資による資本収益率が経済成長率より高いと、資本収益の一部を資本に追加投資することで、資本の増加率を経済成長率より大きくできる。その場合、所得全体の中で、資本から得られる所得の比率(資本分配率)が上昇する。言い換えれば、資本家は、投資収益の一部を貯蓄して資本に付け加えることにより、平均以上に自分の所得を高められる。これが、ピケティ氏が考える格差拡大の原動力だ。

     *

 それでは、このメカニズムでどの程度、現実の所得格差の動態を説明できるだろうか。一つの例として、戦前期の日本をとりあげよう。

 ピケティ氏が示しているように、戦前の日本では上位1%のグループが所得全体の20%近くを占めていた。これは当時の欧米諸国、今日の米国と同等の大きな所得格差である。また、日本の経済学者の南亮進氏と故・小野旭氏の推計によると、第2次、第3次産業における資本分配率は上昇する傾向にあった。そして、資本収益率は、マクロデータから推計すると14%程度で、経済成長率の3~4%を上回っていた。

 これら三つの事実から、ピケティ氏が強調する「資本収益率が経済成長率よりも大きい」という関係が、戦前日本の所得格差の動態の説明として、妥当であるように見える。

     *

 しかし、注意が必要である。

 南、小野両氏は、資本分配率を比較的規模の大きな法人企業と、自営業を中心とする非法人とに分けて推計し、資本分配率の上昇は主に後者で生じたことを示した。これは、経済が発展して自営業者らが抱えていた過剰労働力が減少し、その収益率が上昇したことによった。

 明治期の日本では、自営業者らは家族労働者を中心に生産性の低い過剰労働力を多く抱えており、彼らにその生産性以上の報酬を提供していた。経済発展に伴い、こうした状態が解消するにつれて、自営業者らの収益率が上がったのである。収益率の上昇が関係しているとはいえ、このメカニズムは、ピケティ氏が想定している単純なものとは異なる。

 ピケティ氏の単純化は、一方で本書の衝撃度を大きくすることに寄与しているが、他方で現実の重要な部分を視野から排除するリスクもあわせ持っている。

     ◇

 おかざきてつじ 58年生まれ。東京大学大学院経済学研究科教授。専門は経済史、歴史比較制度分析。著書に「日本の工業化と鉄鋼産業」「経済史の教訓」など。


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(09)(時時刻刻)パナマ文書、闇の一端 タックスヘイブンの金融資産、日米GDP合計以上か(2016/5/10)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12348181.html

【写真・図版】パナマ文書に登場する法人の株主ら(企業・個人)の主な住所地は…/主にどこに設立したか…

 世界の首脳らと租税回避地(タックスヘイブン)の関わりを暴いた「パナマ文書」。富裕層の蓄財の闇を照らし、税負担の不公正さに対する市民の怒りに各国で火をつけた。だが明らかになったのは、租税回避のほんの一端にすぎない。▼1面参照

 「タックスヘイブンは富裕層や国際的な企業を利する一方、それらの利益は他の人の犠牲の上にあり、不平等を拡大させている」。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏ら世界の約350人の経済学者やエコノミストが9日、タックスヘイブンをなくすよう求める書簡を発表した。

 ■経済学者ら批判

 書簡には、ピケティ氏のほか、ノーベル経済学賞を昨年受賞したアンガス・ディートン米プリンストン大教授、米コロンビア大のジェフリー・サックス地球研究所長らが名前を連ねた。書簡では「タックスヘイブンが持つ秘匿性が汚職を促している」などと批判し、「タックスヘイブンが世界経済をゆがめている」と強調した。

 タックスヘイブンは、富裕層らの資産隠しの舞台として利用されてきた。実体の無いペーパーカンパニーを簡単につくることができ、監視や規制が不十分なため、脱税や粉飾決算、資金洗浄に悪用されやすい。

 パナマ文書が明らかにしたのは、「氷山の一角」にすぎない。

 「(タックスヘイブンに移される資金は)公の統計などに出てこない、まさに『ブラック経済』だ。その規模はあまりにも大きい」。国際NGO「税公正ネットワーク」のジョン・クリステンセン事務局長はそう説明する。

 税公正ネットワークのスタッフの試算では、世界の富裕層がタックスヘイブンに持つ未申告の金融資産は、2014年時点で24兆ドル(約2570兆円)~35兆ドル(約3750兆円)にのぼる。米国と日本の14年の国内総生産(GDP)の合計約22兆ドルを上回る規模だ。その額は、21兆~32兆ドルと試算した10年時点より増えている。

 そうしたタックスヘイブンが政治家を含む富裕層らに広く使われている実態を、パナマ文書は浮き彫りにした。クリステンセン氏は「政治家が自国の法律で定められた税金を払わずに、自国のルールの外にあるタックスヘイブンに資金を移して税を逃れる。その一方で貧しい人たちに財政緊縮策を課す。これは民主主義の問題だ」と話す。

 ■政府税収目減り

 タックスヘイブンも含め国ごとに異なる税制を巧みに利用する、企業の「節税」はより一般的だ。経済協力開発機構(OECD)の推計では、企業による過度な節税策により、政府に入ってくるはずの税収が、毎年1千億~2400億ドル目減りしているとされる。世界全体の法人税収の4~10%にあたるという。

 タックスヘイブンは、政治家や富裕層と、庶民の格差を広げる原因になっているだけではない。国際NGO「グローバルウイットネス」(本部・英国)のロバート・パルマー氏は「タックスヘイブンに流れ込んでいるお金の一部は、海外援助を通じて途上国の教育やインフラなどに使われるべきものだ。税逃れは富裕層を富ませるだけでなく、途上国の発展を阻害する」と指摘する。

 (ロンドン=寺西和男)

 ■日本の経営者・上場企業も

 「パナマ文書」に含まれていたタックスヘイブン法人の株主や役員のうち、400余の法人と個人が日本を住所としている。重複などを除くと、日本企業は少なくとも約20社、日本人と見られる個人は約230人を数える。政治家の名前は見つかっていない。

 企業経営者では飲料大手の社長や大手警備会社の創業者らが英領バージン諸島の法人の株主となっていたが、取材に対し、いずれも租税回避の意図を否定している。

 海外との取引に法人を活用しようとした上場企業もあった。法人を保有していた大手商社は「法人設立や清算が簡単。効率的な運営ができる」と説明する。

 また、暴力団が関係する企業の役員とみられる人物が法人の株主となっている例もあった。

 株主の中には、住所地が存在しないなど実体がよくわからないものもある。

 ■手弁当の調査報道、前首相追い詰めた 33万人アイスランド、2万人が怒りのデモ

 グンロイグソン前首相(41)が退陣に追い込まれたアイスランド。首都レイキャビクの議会前では、抗議活動が続く。

 政治の透明性を求める「海賊党」の国会議員アスタ・ヘルガドッテルさん(26)は「パナマ文書によって、富裕層がフェアプレーをしていないことがはっきりした」と訴える。

 2008年のリーマン・ショックを受けて国家破綻(はたん)の瀬戸際に陥った国だ。13年から政権を担った前首相は、債権回収を迫る外国の投資家らを「ハゲタカ」と非難し、自らを「アイスランド金融再建の旗手」と標榜(ひょうぼう)した。

 だがパナマ文書で、前首相夫妻が、破綻した国内大手3銀行の債権者に名を連ねる英領バージン諸島の会社の所有者だったことが明らかになった。夫妻は同社を通じて、数億円の投資をしていた。前首相は潔白を主張したが辞任を余儀なくされた。

 追い詰めたのは、同国のフリージャーナリスト、ヨハネス・クリスチャンソンさん(44)だ。昨年6月からほぼ無収入でパナマ文書の分析に専念してきたという。

 国内で調査報道記者として知られるクリスチャンソンさんの要請では、前首相が取材に応じないのは目に見えていた。スウェーデン公共放送の記者の協力を得てインタビューを取り付けた。

 英領バージン諸島の会社について問うと、前首相は答えに窮した。「こんな取材は不適切」と色をなして部屋を出て行った。取材は打ち切られた。取材内容は、アイスランドの公共放送RUVでそのまま放映された。その様子が、国民に「やましさ」を印象づけた。

 放映の翌日、人口33万人の小国で2万人規模の抗議デモが起きた。「政治に期待していた高い倫理基準が保たれていなかったことへの怒りだ」

 今、クリスチャンソンさんの取材活動を支えるのは怒れる市民だ。インターネットで寄付を募ったところ、パナマ文書の公開から約1カ月で目標の2・5倍の約10万ユーロ(約1200万円)が集まった。

 パナマ文書に絡んで名が挙がった為政者への怒りは、アイスランドにとどまらない。スペインのソリア産業相は辞任。キャメロン英首相も強い批判を浴びた。一方、中国はパナマ文書関連の報道を厳しく規制。ネットでの検索も制限されている。

 (レイキャビク=渡辺志帆)


朝日新聞デジタル > 記事
(10)(書評)『21世紀の不平等』 アンソニー・B・アトキンソン〈著〉(2016/1/17)
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12163251.html

 ■上手な再分配策を!明快で具体的提言

 それにしても、政府はいつになったら再分配政策に本気を出すのだろう。経済政策の三本柱といえば「安定」「成長」「再分配」。だが、アベノミクス「第一の矢」でも「第二の矢」でも、「再分配」だけがごっそりと抜け落ちている。かと思えば野党も、整合的な経済ビジョンをつくれぬままか、緊縮に熱心な様子が目立つ。

 再分配モドキとして取りざたされている軽減税率論議も、「低所得者対策として効果があるのか」という論点が掘り下げられぬまま進んでいる。経済学者の大半が反対しているにもかかわらず、政局的な側面ばかりをとりあげる報道も問題だ(せっかくの新聞書評欄なので書いておくと、新聞購読者は非購読者よりも平均所得が高いので、消費税の逆進性緩和が名目の軽減税率論議に入れること自体おかしい。仮に活字文化を保護したいと言うなら、補助金を求めればいい)。つまり日本では、真正面からの「再分配政策論」が圧倒的に不足しているのだ。

 2014年12月、トマ・ピケティ『21世紀の資本』が発売された。「トリクルダウンは(自然発生し)ない」という分析部分や、「グローバルな資産課税を」といった提案部分のインパクトが強いが、「まじめに再分配政策を考えよう」という議題を真正面から再設定した、意義ある一冊だった。

 アトキンソンは、そんなピケティの師匠にあたる。格差論の大家で厳格な研究者が一般向けに書き下ろした本書の主張は実に明快。格差の現状を分析する第一部、格差是正のための15の政策提言(+五つの検討アイデア)を論じる第二部、想定される反論に対して応答する第三部を通じて、シンプルに「もっと上手な再分配政策を!」と訴えている。

 無論、ただの一般論ではない。累進税率はもっとあげよう。相続税や贈与税も見直そう。児童対象のベーシックインカムを導入しよう。政府は失業者を最低賃金で雇用しよう。雇用を奪う技術ではなく増やす技術を推進しよう。成人時点で全員に資本給付(相続)をしよう。富裕国は国民総所得の1%を公的開発援助(ODA)にあてよう。豊富なデータと経済理論をベースに、具体的提案を、連続パンチのように浴びせていく。

 本書は英国を対象として書かれた。しかし内容は重要かつ普遍的で、今の日本に求められる議論でもある。もちろん現状の日本では、「非緊縮・経済成長重視・再分配重視」の「リベラル・左派」は少数派で、その受け皿となる国政政党もないのだが、いずれはこのような「真正面からの再分配論議」を、国会論戦でも見てみたい。市民も議員も、未来をつくるためのアンチョコとしてどうぞ。

 〈評〉荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)

     *

 山形浩生、森本正史訳、東洋経済新報社・3888円/Anthony B. Atkinson 英オックスフォード大ナフィールドカレッジ元学長。現在は同大フェロー。所得分配論の第一人者。所得と財産の分配の歴史的トレンド研究で知られる。


NPO法人 働き方ASU-NET (カテゴリトップ » 情報資料室) 2016/1/20
(12)(今こそ河上肇)「貧困と格差」論、まるでピケティ(2015/12/7)
    朝日デジタル 2015年12月7日より収集された記事

    http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=1751

 豊かな時代の貧しさについて、解決策を考え抜いた経済学者が1世紀前の日本にいた。

 99年前の師走、日本国内が第1次世界大戦下の好景気にわくなか、大阪朝日新聞には夏目漱石「明暗」とともに、「貧乏物語」が連載されていた。筆者は京都帝国大教授、河上肇(かわかみはじめ)。社会問題になり始めていた貧困を経ログイン前の続き済学者の視点で取り上げ、翌年刊行の書籍はベストセラーとなった。

 「物語」とあるが小説ではない。「いかに多数の人が貧乏しているか」「何ゆえに多数の人が貧乏しているか」「いかにして貧乏を根治しうべきか」の3章構成で、先進国における格差の広がりを、統計を図示しながら説明した経済書。ん、どこかで見たような。テーマといい、論の進め方といい、まるで今年話題になったトマ・ピケティ『21世紀の資本』ではないか。

 「豊かさの中の貧困に注目した点では、1世紀前のピケティと言ってもいい」と経済学者の田中秀臣・上武大教授は話す。河上は執筆前年までの約1年半、欧州に留学し、最強の先進国だった英国の貧困の現状を目のあたりにした。「それまでの日本で貧困問題といえば、都市と農村の格差でした。しかし、近代化が進むなか、豊かなはずの都市にも取り残される人が出てきた。先進国へと向かっていた日本に、警鐘を鳴らした学術書として新鮮だった」

 2章までの論述はさすがに学者らしい。人間は怠ける者だから貧乏は人間を働かせるために必要との意見に対し、今日の西洋の貧乏はいくら働いても貧乏は免れない「絶望的の貧乏」と指摘し、貧困の構造を解き明かしていく。日本はさらに貧しく、書籍刊行の翌年には米騒動が起きた。

 ではどうするか。ざっくりまとめると「みなぜいたくをやめよう。特に金持ちは。生産者はぜいたく品を作らなくなり、生活必要品が安価に行き渡るようになる」。え、個人の心がけで解決するのですか、先生。実際本人も「実につまらぬ夢のごときことを言うやつじゃと失望されたかたもあろうが」と書いている。

 経済学者の故・大内兵衛はこの時期の河上について「経済学をもって倫理の学と考えていた」と書いた。田中教授も「若い頃にキリスト教思想家の内村鑑三に影響を受け、利他的に生きることが結果的に社会の幸福を導くと考えていた。個人のエゴイズムをどう制御するかは、河上思想に一貫するテーマです」。

 「貧乏物語」は他の経済学者から批判を受け、河上は著書を自ら絶版にする。そして貧困の解決を当時の最先端思想のマルクス経済学に求めていく。貧乏を無くすには労働が必要だが、苦役ではなく楽しく働くにはどうすればいいか……。そんなことをあれこれ考えながら、新興国のソ連を、個人主義(資本主義)に対抗する理想社会と考え、教職を辞し、政治活動としてのマルクス研究に専心する。

 「河上経済学は富は人生の目的ではないと考えるところから始まっている」と話すのは、河上の近代中国への影響力を詳述した『甦(よみがえ)る河上肇』(03年)の著者、三田剛史・明治大専任講師だ。「貧乏が問題なのは、一個人が人生の目的を達するためのスタート地点に立てないから。解決のため、制度改革と人心改革をどうすればいいかを悩み続けた。社会主義と人道主義が混じり合うのが河上思想です」

 しかし、私たちはなお「貧乏物語」を解決できない時代を生きている。河上が期待した実験国家はとっくに滅びた。河上思想もまた滅びるだけなのか。三田さんはいう。

 「河上は貧困の解決を生涯考え続けた。その姿勢こそ学ぶべきです」

 (野波健祐)

 <足あと> 1879年、山口県生まれ。東京帝大卒業後、講師などを経て、1908年に京都帝大へ。16年に新聞連載した「貧乏物語」はベストセラーになる一方、厳しい批判も受けた。以降、マルクス経済学に傾倒し、28年、京大教授を辞して労働農民党に参加。32年からは共産党の地下活動に参加し、翌年、治安維持法違反で収監される。37年、刑期満了で出獄、戦後の活動再開を期したが、46年死去。

 <もっと学ぶ> 河上思想の変遷をたどるには、没後の47年刊行の『自叙伝』(岩波文庫、全5巻)。入獄生活を細かく書いた「獄中記」部分が圧巻で、伝記文学としても優れている。

 <かく語りき> 「人間は人情を食べる動物である。少(すくな)くとも私は、人から饗応(きょうおう)を受ける場合、食物と一緒に相手方の感情を味(あじわ)うことを免れ得ない」(『自叙伝』「御萩〈おはぎ〉と七種粥〈ななくさがゆ〉」から)

    ※「貧乏物語」 青空文庫<http://www.aozora.gr.jp/cards/000250/files/18353_30892.html
冒頭の一部

 この物語は、最初余が、大正五年九月十一日より同年十二月二十六日にわたり、断続して大阪おおさか朝日新聞に載せてもらったそのままのものである。今これを一冊子にまとめて公にせんとするに当たり、余は幾度かこれが訂正増補を企てたれども、筆を入るれば入るるほど統一が破れて襤褸ぼろが出る感じがするので、一二文字の末を改めたほかは、いったん加筆した部分もすべて取り消して、ただ各項の下へ掲載された新聞紙の月日を記入するにとどめておいた。ただし貧乏線を論ずるのちなみに額田ぬかだ博士の著書を批評した一節は、その後同博士の説明を聞くに及び、余にも誤解ありしを免れずと信ずるに至りしがゆえに、これを削除してやむなくその跡へ他の記事を填充てんじゅうし、また英国の食事公給条例のことを述べし項下には、事のついでと思って、この条例の全文を追加しておいた。ただこの二個所がおもなる加筆であるが、しかしそれでさえ、こうして印刷してみると、いかにもよけいなこぶができたようで、むだなことをしたものだと後悔している次第である。過去十数年間私はいろいろな物を書いたけれども、この論文ほどまとまったものはない。自分ではこれが今日までの最上の著作だと思う。と言ったからとて、――念のために付け加えておくが――世間の相場でこれを良書の一と認めてもらいたいなどという意味の要求をするのでは毛頭ない。
 人はパンのみにて生くものにあらず、されどまたパンなくして人は生くものにあらずというが、この物語の全体を貫く著者の精神の一である。思うに経済問題が真に人生問題の一部となり、また経済学が真に学ぶに足るの学問となるも、全くこれがためであろう。昔は孔子のいわく、富にして求むべくんば執鞭しつべんの士といえども吾われまたこれを為なさん、もし求むべからずんばわが好むところに従わんと。古いにしえの儒者これを読んで、富にして求めうべきものならば賤役せんえきといえどもこれをなさん、しかれども富は求めて得うべからず、ゆえにわが好むところに従いて古人の道を楽しまんと解せるがごときは、おそらく孔子の真意を得たるものにあらざらん。孔子また言わずや、朝あしたに道を聞かば夕べに死すとも可なりと。言うこころは、人生唯一の目的は道を聞くにある、もし人生の目的が富を求むるにあるならば、決して自分の好悪をもってこれを避くるものにあらず、たといいかようの賤役なりともこれに従事して人生の目的を遂ぐべけれども、いやしくもしからざる以上、わが好むところに従わんというにある。もし余にして、かく解釈することにおいてはなはだしき誤解をなしおるにあらざる以上、余はこの物語において、まさに孔子の立場を奉じて富を論じ貧を論ぜしつもりである。一部の経済学者は、いわゆる物質的文明の進歩――富の増殖――のみをもって文明の尺度となすの傾きあれども、余はできうるだけ多数の人が道を聞くに至る事をもってのみ、真実の意味における文明の進歩と信ずる。しかも一経済学者たる自己現在の境遇に安んじ、日々富を論じ貧を論じてあえて倦うむことなきゆえんのものは、かつて孟子もうしの言えるがごとく、恒産こうさんなくして恒心こうしんあるはただ士のみよくするをなす、民のごときはすなわち恒産なくんば因よって恒心なく、いやしくも恒心なくんば放辟邪侈ほうへきじゃし、ますます道に遠ざかるを免れざるに至るを信ずるがためのみである。ラスキンの有名なる句に There is no wealth, but life(富何者ぞただ生活あるのみ)ということがあるが、富なるものは人生の目的――道を聞くという人生唯一の目的、ただその目的を達するための手段としてのみ意義あるに過ぎない。しかして余が人類社会より貧乏を退治せんことを希望するも、ただその貧乏なるものがかくのごとく人の道を聞くの妨げとなるがためのみである。読者もしこの物語の著者を解して、飽食暖衣をもって人生の理想となすものとされずんば幸いである。


NPO法人 働き方ASU-NET (カテゴリトップ » 情報資料室) 2016/1/20
(14)格差問題、学生と考えた格差問題、若い世代の受け止め方は? 記者が授業に参加(2015/9/7)
    朝日デジタル 2015年9月7日記事が見つからない。下記を参考とする。
    http://www.tohoku-gakuin.ac.jp/faculty/economics/society/activity/characteristic/gap_widening.html

格差社会論

格差社会論では、日本やアジアに見られるさまざまな格差問題を取り上げています。複数の教員(7名)が講義を担当するオムニバス形式により、格差問題を多面的に捉え、より深く理解することができます。

学生の感想

全体について
•とてもユニークで、共生社会経済学科らしい講義だと思いました。後輩にも、ぜひとってもらいたい講義です。
•日本は、先進国の中で、私が思っていたより不公平な社会であることが、一番の驚きであった。
•それぞれの教授が自分の研究に特化した知識を講じるということで、毎回新鮮な気持ちで講義を受けることができました。近年「格差」という言葉を耳にする機会は増えましたが、「格差」によってどのような問題が生じるか、具体的にどのような格差が存在するのか、そもそもなぜ格差は生まれたのかなど、深いところまで考えたことはありませんでした。この一年、世界にはびこる格差問題をたくさん学ぶことで「格差問題」の深いところまで考える非常に良い機会になったと思います。興味深く、関心の持てる講義でした。
•共生社会経済学科の一学生として、社会に存在する数多くの格差と向き合い、解決策を模索することで、不平等・不公正のない社会の実現に役立ちたいと、格差社会論の授業を通して強く感じた。

日本(1) 日本の所得・資産格差と階層化
•私はこの講義が一番好きでした。一方的に話すのではなく学生に意見を求めたり、実際に電卓を用いてジニ係数を計算したりするという授業は、印象的でした。

日本(2) 雇用格差と健康格差
•今最も気になる正規労働者と非正規労働者の格差について学ぶことができました。今後、社会に出ていく私にとって、現実を知ると知らないとでは大きく違い、自分の為にもなったと感じる授業内容でした。また、「健康格差」について学んだことは無かったので、とても興味を持ちましたし、初めて知ることも多く勉強になりました。

日本(3) 格差と貧困
•生活保護制度について、申請から受給までの流れについて詳しく説明していただき、非常に分かりやすかったです。生活保護を受けることが許可されない人の事例も聞き、今の日本の現状に驚きました。不正受給の件数も多くあることも知りました。

日本(4) 世代間格差
•講義を受けて、日本の世代間格差が深刻であるということを学びました。世代が後になるにつれて失業率が高くなり、賃金上昇も期待できないうえに、追加負担を負わない限り格差は縮まらない状況だということを知りました。どこかの世代が財政的な犠牲にならなければならないのだと思いました。
•世代間格差を解消するには世代間の利害対立が発生するのはわかっていたが、若者と高齢者で、こんなにも差があるとは思っていなかった。高齢者は受益減で負担は増えないように見えるが、受益が減ったことによって生活が苦しくなったりなどの負担は増えるのだろうと思った。世代間格差を解消するのは難しいと感じた。

アジア(1) 中国の所得格差と社会階層
•アジア経済論の授業とも関連させながら、中国の格差について学べたので、良い勉強になりました。

アジア(2) インドの経済発展と地域・民族間格差
•識字率の内容が印象的でした。識字率が高くても1人当たりのGDPが低い地域もあることを知り、驚きました。

アジア(3) 現代タイの不均等発展と社会運動
•1番印象に残った話はタイの話でした。それまで私は、タイという国の事を全くと言っていいほど何も知りませんでした。この講義で、どのような国であったのかを知ることができました。急激に発展していくはなやかな面の裏には、都市部と農村部でのすさまじい地域格差の問題や、土地を開拓するため森林を切らなければならない環境・資源問題など、さまざま問題をかかえていました。これを機会に私自身もタイに興味を持っていきたいと思いました。