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折々の記 2014 ⑨
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 03 】11/03
11 03 世界の金融(その一) FRBの動き リーマンショックの二の舞
11 03 世界の金融(その二) 日銀の金融政策 これでいいのか
11 05 世界の金融(その三) 田中宇の解説から アンテナは高く、そして広く
11 03 (月) 世界の金融(その一) FRBの動き リーマンショックの二の舞
世界の金融は何を求めて動くのだろうか。
自分を中心とした「金儲けの動き」は、所属する個人の金融市場での動き(株式市場の売買取引が中核)、
自分の投資先会社の「金儲けの動き」の動向
自分が所属する企業(銀行を含めるあらゆる企業)の「金儲けの動き」の動向
自分が所属する国家の「金儲けの動き」の動向(国益という都合のいい言葉を使う)
この「金儲けの動き」は、都合のいいプロパガンダを模索し、マスコミを統御しようとする
こうした守銭奴の活動の結果は人間の不平等という格差社会を増大し、人殺しすら合理化して平然とする。
こんなことが許される社会や国家を、孫子に伝えていい筈がない。
米、憂い抱えた好景気 FRB、量的緩和終了
FRB議長、ゼロ金利継続を強調 バブル懸念は否定
ドル高の影響、FOMC懸念 9月分議事録公開
11 03 (月) 世界の金融(その二) 日銀の金融政策 これでいいのか
日銀決定会合:追加緩和 異例の僅差…賛成5、反対4
は維持した。
2014/09/24 田中 宇
① 敵としてイスラム国を作って戦争する米国
9月23日、米国とアラブ諸国の軍隊が「イスラム国」(ISIS)の中心拠点(首都)であるシリア西部の都市ラッカなどに空爆を開始した。ISISは、異教徒の侵略者である米欧に宣戦布告し、イスラム帝国(カリフ)の再生を目標とする、イスラム主義者の一部から見ると「正統」なイスラム教徒の組織だ。この視点に立つと、アラブ諸国のISIS空爆は、同じイスラム教徒を殺してはならないという教えに反するうえ、異教徒の侵略者に追随する、イスラム教徒として許されない行為となる(ISISも「異端」として同胞を多数殺しているが)。アラブのどの国が空爆に参加しているか、米政府は当初発表しなかったが、その後、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダンなどが参加していると、米軍が発表した。 (The Arab allies helping the US fight Isis)
米国防総省は、ISISとの戦争がかなり長く続くとの予測を発表している。2-4年続くと予測する米諜報関係者もいる。予測の根拠は示されていない。米国の国防総省や、好戦派(軍産複合体系)の連邦議員たちが、ISISとの戦争の長期化を予測するのは、ISISが強いからでなく、軍産複合体がISISを裏から支援し続け、自作自演的な戦争をできるだけ長く続けたいと考えているからだろう。 (US says attacks on Isis could last years) (New US war in Syria, Iraq to last 4 yrs)
以前の記事に書いたように、ISISの司令官たちの多くは、米軍が駐留していた時期に、イラクで米軍が運営する監獄に何年か投獄され、その間に思想が過激化し、出獄後ISIS創設につながる動きを開始している。ISISの兵士たちは、米国が「穏健派」とみなした(実際には大半が過激派だった)シリア反政府勢力の兵士に混じって、ヨルダン北部で米軍から訓練を受けた。米国やサウジなどが「穏健派」のシリア反政府勢力に渡した武器のかなりの部分がISISにわたっている。イラクでは政府高官から一般市民まで「ISISは米当局の創造物だ」と思っている。 (クルドとイスラム国のやらせ戦争) (What Iraq Thinks: "It Is Obvious To Everyone That ISIS Is A Creation Of The United States And Israel")
ISISの総兵力の規模についての米当局の概算数は、以前の1万人前後から、今では3万人まで増えている。対照的に、英国の諜報機関が概算したISISの総兵力は2-3千人だ。英国は今回の戦争で傍観者なので、英国の概算の方が正しそうだ。ISISの正体が不明であることを使って、米国ではISISの規模が誇張されている。 (Opaque structure adds to challenge of defeating Isis)
米国はブッシュ政権の時代にイラクに侵攻した。軍産複合体は、イラク占領の長期化を狙い、イラクが安定して米軍が撤退せざるを得ない状況を作らないよう、のちのISISにつながるスンニ派の過激派勢力を獄中で育成(扇動)した。次の大統領になったオバマは、イラク占領の長期化によって米政府の財政が疲弊することを懸念し、米軍の反対を押し切ってイラクから撤退した。 (ISIS Is Run By Former Iraqi Generals)
米軍がイラクやアフガニスタンから撤退すると、中東やユーラシア大陸中央部に対する米国の関与が低下し、米政府の防衛費が削られて軍産複合体の利権が減り、軍産の盟友であるイスラエルも軍事的後ろ盾を失って困窮する。そうした事態を防ぐため米軍(やCIA)は、イラクでこっそり育てた過激派に入れ知恵し、シリア反政府勢力として軍事訓練を施し、米国製の武器が詰まっているイラク軍の武器庫の襲撃方法も教え、ISISを強化して敵に仕立てたのだろう。「ISISを育てたのはCIAだ」という見方が、米反戦派やイラクで根強いが、CIAにはISISを使った自作自演的な戦争再燃に消極的な意見がある。CIAは、ヨルダンの基地などでISISなど反アサド勢力を訓練してきたが、国防総省には、その担当をCIAから奪おうとする動きがある。 (CIA Privately Skeptical About New Syria Strategy, Sources Say)
ISISは、米国の中東戦略をめぐる国防総省のオバマに対するクーデターの道具である。「オバマ自身がイラクやシリアに侵攻したいんだ」という米反戦派がいるが、たぶん間違いだ。オバマは、大統領就任から3年かけて、国防総省や好戦派議員の猛反対をはねのけて、ようやくイラクからの全軍撤退にこぎつけた。そのオバマが、今になってイラクに再侵攻したいはずがない。オバマは、米国の国力浪費を止めるため、イラクとアフガンから撤退した。対照的に軍産複合体は、浪費の中で利権を拡大するため、浪費の戦争を何とか再燃させたい。 (Anarchy In Washington: Is Anybody In Charge?)
同じことは、米当局内の好戦派が扇動して起こしたウクライナ危機で再燃したロシアとの対立についても言える。ウクライナ危機が起きなければ、今ごろ「アフガンからも撤退するし、もうNATOは要らないんじゃないか」という議論が欧州から出ていただろう。NATOは、軍産複合体が欧州に軍事費を出させるための利権組織だ。 (NATO延命策としてのウクライナ危機)
軍産複合体は、ISISとの戦いを口実に、イラクに地上軍を再派兵したい。オバマは、今回のシリア空爆に先立つ9月11日、911事件の記念日に、イラクとシリアでISISを空爆する戦争を始めると演説した。その際オバマは、空爆を行うが地上軍の派兵はしないと断言した。オバマ政権は、地上軍を派兵するとしたら、それは米国でなくアラブなど近傍の諸国になるとも表明した。 (Obama Touts `Coalition,' But US to Lead War) (Obama prepares US for `steady, relentless' war with ISIS)
オバマが911の日を選んで演説した理由は、ISISとの戦争を行う法的根拠を、01年の911事件の直後に立法された、大統領が議会の決議を経ずにテロ組織との戦争を開始することを許す法律に依拠したからだ。米国では本来、戦争開始を決定できるのが米議会(下院)だけだ。しかし議会は、与党の民主党を含めて全体に好戦的で、オバマが望まないイラクやシリアへの地上軍侵攻を決議しかねない。だからオバマは、議会を無視できる911テロ戦争の法律を持ち出し、空爆だけやろうとしている。 (Obama's ISIS War Is Not Only Illegal, It Makes George W. Bush Look Like A Constitutional Scholar) (Obama's isolation deepens over ISIS)
これに対して国防総省の高官たちは「最初から地上軍を派兵しないと宣言して戦うのは敵を利するだけだ」と反論し、制服組最高位のデンプシー統合参謀本部議長は「必要に応じて地上軍の派兵もありうる」と、オバマの演説と矛盾することを発表した。イラク撤退以来の、オバマと国防総省との対立が表面化している。折衷策として、数百人の米軍兵士がイラク政府軍の顧問団としてイラクに派遣されたが、戦闘要員ではない。 (Anarchy in Washington: Is Anybody in Charge?) (Rift widens between Obama, U.S. military over strategy to fight Islamic State)
オバマは、ISISに対する空爆に参加してくれと、欧州や中東の同盟諸国に要請したが、当初まったく参加が得られなかった。英仏独など欧州とトルコは、空爆への参加を正式に断った。軍産複合体が最初から長期化を予定している、大失敗したイラク戦争の二の舞になりそうな、米国の自作自演くさいISISとの戦争に参加するのは、どこの国でもごめんだ。 (First Germany, Now France Folds On Syrian Airstrikes) (UK, Germany reject joint strikes against ISIL in Syria)
英国では9月11日、この日のオバマ演説へのコメントとして外相が「英国は空爆に参加しない」と断言した。だがその後、オバマ政権から英首相官邸に「米英同盟がどうなっても良いのか」と怒りの電話が入ったらしく、首相が「まだ選択肢は何も除外していない」と、空爆参加もあり得る風に言い直した。しかし結局、英国は空爆に参加していない。フランスは、大手のBNPパリバ銀行が米当局から巨額の罰金をまた取られそうなので、イラク領内でのISIS空爆に参加したが、その後のシリアに対する空爆には参加していない。 (UK disarray over Syria airstrikes: Foreign Secretary says we won't join US in bombing Islamic State, then No10 says 'we don't rule anything out') (Pentagon Prepares To Unveil Syria War Plans As "Broad Coalition" Crumbles) (米国自身を危うくする経済制裁策) (France rules out air strikes in Syria)
アラブ諸国も「異教徒に率いられた同胞殺し」とそしられる空爆への参加はしたくなかっただろう。しかしアラブ諸国は、サウジもヨルダンもUAEも、兵器や軍隊の訓練を米国に全面依存している。米国から「空爆に参加しないなら、もう軍事支援しないぞ」と脅されれば、参加しますと言わざるを得ない。アラブ諸国は空爆に参加したと発表されたものの、どれだけ参加したか不明だ。アラブで最も強国なのはサウジだが、サウジ王政は軍部の反乱を恐れ、空軍を含む軍隊にほとんど訓練を施していない。 (Saudis Tip-Toe Into the War on ISIS)
アラブ諸国は空爆に参加したことで、イスラム主義化するアラブの人々から、米国の傀儡政権として批判される傾向を強める。これは軍産複合体にとって好都合だ。アラブ諸国の政権は、国民から批判されて潜在的に弱体化するほど、米軍に頼る傾向を強め、米軍は中東に居続けることができ、軍産はアラブに石油収入を使って武器を買わせる状況を続けられる。 (U.S. officials: Obama wants Arab states to airstrike Islamic State)
米議会の好戦派は、シリア反政府勢力に武器を支援してISISと戦わせろとオバマに圧力をかけている。しかし、シリア反政府勢力の主要部分は、ISISでなくアサド政権が敵だと言って、ISISと停戦協定を結んでしまった。米国がシリア反政府勢力に武器を支援すると、そのかなりの部分がISISに譲渡されていく構図ができている。米国の好戦派は、そのあたりのことを知っているはずだが、反政府勢力を武器支援すべきだと言っている。好戦派は、こっそりISISを強化することに熱心だ。 (Rand Paul: Arming Syrian Rebels Will Empower ISIS)
シリアでは、ISISとアサド政権が敵同士だ。これまでアサドを敵視してきた米国が、アサドを許して協調・軍事支援するなら、アサド政権にISISを倒させることが可能になり、最も効率的なISIS掃討策となる。米軍の元幹部の中にも、それが良いと言っている人がいる。しかし米政府は、アサド政権を転覆する方針を掲げ続けている。米政府は、今回のシリア空爆の内容を事前にアサド政権に伝えて黙認させ、アサド軍と米軍との戦争になることを防いだ。米政府にとって、アサドは敵だが戦争の相手でない。 (US, Iran, Syria should slay ISIL monster) (U.S. and Arab allies launch first strikes on fighters in Syria)
米国とISISとの戦争をできるだけ長期化したい国防総省など軍産複合体としては、アサド政権と和解しない方が戦争を長期化できるので好都合だ。しかし軍産にやられている側であるはずのオバマ自身も、アサド政権と和解しない方針を掲げている。それはなぜなのか。 (Power: Syria Rebel Training to Aid in Fight Against Assad)
その答えとして、最近の中東の動きの全体から見えてくる流れは、軍産が中東戦略を乗っ取るために起こしたISISとの戦争を、オバマが、多極化、つまりロシアやイランなどを力づけてシリアやイランの問題を任せ、彼らにISISを潰させて切り返そうとしていることだ。オバマは、シリアと直接和解するのでなく、シリアの背後にいるイランやロシアにISIS掃討を任せていく可能性がある。米政府は、ISIS掃討を目的に、イランの事実上の軍隊である革命防衛隊に対する支援を開始したと報じられている。 (Strange Bedfellows: To Fight ISIS, US Now Supports Iranian Revolutionary Guard, Other Terror Groups)
ケリー国務長官は先日、国連総会の傍らでイランのザリフ外相と会談した。そこで米国とイランは、米国が提案している核問題の解決策(ウラン濃縮用の遠心分離器の重要部品であるアルミパイプを米欧側に引き渡し、装置自体はイランが保有し続けるが、稼働できないようにする)を受け入れる代わりに、核問題を解決して米欧に経済制裁を解いてもらい(イランは自国で原発の核燃料製造のウラン濃縮ができなくても、燃料を海外から輸入できるようになる)、イランは米国の希望であるISISとの戦争に本格参入するという交換条件について話し合った。 (Kerry, Iran FM Meet on ISIS, Nuclear Talks) (US Plan: Iran Could Keep Centrifuges But Not Use Them)
シリアのアサド政権にとって、イランとロシアは数少ない後ろ盾の諸国だ。イラクのシーア派政権に最も影響力を持っているのもイランだ。一方、米国がイランに核兵器開発の濡れ衣をかけてきた問題で、最もイランの味方をしているのはロシアだ。つまり、米国がイランへの核の濡れ衣を解いてISISとの戦争に参加させることは、イランとシリアの後見人ともいえるロシアも引っぱり込み、イランとロシアに、シリアとイラクの事態を任せることを意味している。 (Why Obama's ISIS Strategy is Incoherent) (Iran, Russia call for promotion of ties)
ISIS掃討は、米国が手を引き、イラン、ロシア、シリア(アサド)に任せるのが一番うまくいく。この策が実現するとしたら、イラン核問題と、ISISとの自作自演戦争の両方がいっぺんに解決される。 (Syria is sticking point between Russia and U.S. on defeating Islamic State)
米国は、イランに対する核の濡れ衣をなかなか解かない。以前は濡れ衣をかける役を担っていたIAEA(国際原子力機関)も、最近はイランの対応を賞賛するようになっている。しかし、米政界でまだ強い影響力を持っているイスラエルが、仇敵であるイランを米国が許すことに強く反対しているため、イラン敵視が解除されない。今後すぐにイランが許される可能性は低い。米政界の好戦派は、オバマがイランを許そうとしていると警戒を強めている。 (Amano hails Iran resolve for cooperation) (Concern over US concessions as Iran seeks to leverage ISIS issue in nuke talks)
しかし今後、米政府が無策なまま、ISISとの戦争が長引くほど、米国が敵視するイラン・ロシア・アサドにISIS退治を任せるべきだという声が、国際社会で強まるだろう。国連は、ISISとの戦争にイランの参加を求めている。 (U.N. Representative Urges Iran Involvement in Iraq Situation)
オバマは昨年9月に、シリアのアサド政権が化学兵器で市民を殺害したと濡れ衣をかけてシリアを空爆しようとした挙げ句、そのやり方が稚拙すぎて米議会が了承しないとみるや、アサドを支援するロシアに問題を丸投げし、ロシアがアサド政権の化学兵器全廃を監督する新たな構図をオバマが作った。昨秋の丸投げと似たような、ISISとの戦争のイラン・ロシアへの丸投げが、いずれあるかもしれない。 (シリア空爆策の崩壊)
オバマ政権は中国に対しても、ISISとの戦争への協力を要請した。中国がテロリスト扱いしているウイグル人が、何十人かISISの兵士として参加している。米国に要請された後、中国がやったのは、ペルシャ湾のホルムズ海峡にある要衝の地バンダルアバス港に、史上初めて中国の軍艦を寄港させたことだった。オバマが要請したISIS退治への参加は、米国の覇権縮小につながりかねない、中国とイランの地政学的な結束拡大を生み出している。 (The PetroYuan Cometh: China Docks Navy Destroyer In Iran's Strait Of Hormuz Port)
また米政府は、テロ組織に指定されているレバノンのシーア派武装組織ヒズボラに、ISISと戦うための支援を開始している。ISISはシリアからレバノンに越境攻撃をかけており、それに応戦しているのがヒズボラだ。ヒズボラはイラン傘下の軍勢で、アサド政権とも親しい。米国は、親米的なレバノンの政府軍を通じてヒズボラに武器と軍事諜報を渡している。 (Report: US Sending Indirect Military Aid to Hezbollah)
ヒズボラは、レバノンの南隣のイスラエルにとって仇敵だ。米国は最近、ガザ侵攻で市民を大量殺害したイスラエルを非難し、武器輸出を停止している。イスラエルは、同盟国である自国に武器を渡さない一方で、イスラエルの脅威であるヒズボラに武器や諜報を渡すオバマ政権への警戒を強めている。イスラエル政府は「世界にとって、ISISよりイランの方がずっと脅威だ」と叫んでいる。 (Israeli Envoy: Nuclear Iran Would Be a Thousand Times Worse than ISIS)
イスラエルは、いずれオバマがイスラエルの敵であるアサドやイラン、ヒズボラを、ISIS掃討の名目で公式に許し、彼らの台頭を容認しかねないと懸念している。それに対抗するための先制攻撃なのか、米軍がシリアのISISの拠点を空爆した日、イスラエル軍は、自国の国境近くを飛んでいたシリア軍の爆撃機をどさくさ紛れに撃墜した。 (Israel Joins The Fighting, Shoots Down Syrian Warplane Which Acted In "Threatening Manner")
イスラエル政府は「シリア軍機が脅威となる飛び方をしていたので撃墜した」と、あいまいな説明をしている。いずれ米国がアサドを許すなら、その前にアサドの爆撃機を1機でも撃墜しておこうという腹づもりだろう。ISISをめぐる、ねじまがった戦争は始まったばかりだ。
2014/10/02
② 逆説のアベノミクス
この記事は「経済の歪曲延命策がまだ続く?」(田中宇プラス)の続きです。
日本銀行は今年8月、日銀史上最大額の株式を買い支えた。日銀は8月、ETF市場を通じて1236億円分の日本株を買った。毎日、朝方に株価が下がると、日銀が100億-200億円分の株をETFで買い、株価をテコ入れするのが常で、日銀の株買い支えは市場関係者の間で広く知られたことだった。日銀は以前から株が下がると買い支えてきた。9月は株価が下がらなかったので買い支えをしていないという。日銀は、東証の株式の時価総額(480兆円)の1・5%にあたる7兆円分を保有し、日本生命を抜いて最大の日本株保有者となった。 (Bank of Japan emerging as big Japanese stock buyer)
日銀は特に8月第一週に、924億円分の株を買い入れた。アベノミクスの失敗が取り沙汰されて株が下落した時期で、日銀が買い支えなければ株価はもっと下がっただろう。経済成長の実現は、アベノミクスの3本目の矢である。安倍政権は、株価の上昇が続いていることをもって、経済成長が実現していると言っている。その株価が下落しそうなときに、総裁を黒田にすげ替えて財務省に乗っ取らせて以来、安倍政権の命令を何でも聞くようになった日銀が株を買い支え、株価をテコ入れし、アベノミクスの成功が続いているように装っている。かなりインチキな技であるが、今の日本でこれを批判する人は少ない。 (Bank Of Japan Buys A Record Amount Of Equities In August)
当局が株を買い支えるのは、相場の不正な操作であり、大っぴらにやるべきことでない。米国の連銀や政府も、株価が下がると買い支えてテコ入れする策(Plunge Protection Team)をやってきたが、米当局は隠然と買い支えをやっている。対照的に今の日銀は、市場や国民に買い支えがわかってもかまわないという態度で、大っぴらに株式や日本国債の買い支えをやっている。 (BOJ Steps Up ETF Purchases as Shares Slump) (米株価は粉飾されている)
日銀が大っぴらに株価の不正操作をやる理由は、これによって投資家に「株は下がり出すと日銀が買い支えるので上がりやすい。今が買い時だ」という印象を持たせ、株を買う人を増やし、株が上がっている限り安倍政権はアベノミクスの経済成長策が成功していると豪語でき、人気を保持できるという策略だろう。 (Bank Of Japan Plunge Protection Team Goes Into Overdrive, Buys Most ETFs Since 2010)
その手法は完全な不正だが、日本にとって絶対の「お上」である米国が、中央銀行による通貨の過剰発行によって債券や株を買い支える量的緩和策(QE)をやり、日本など他の先進諸国にも奨励しているのだから、QEの一環である日銀による株価操作は「良いこと」「やるべきこと」になる。株価操作を「悪」だという奴は「お上」である米国に楯突く非国民だ、ということになる。 (時代遅れな日米同盟)
安倍政権は日銀だけでなく、国民年金基金にも株式を買う割合を増やすよう命じ、株価のテコ入れに余念がない。株価の不正なテコ入れは長期的に成功し続けるものでなく、いずれバブル崩壊的な株価急落に見舞われ、年金基金も赤字になって、今の若い人が老人になるころには年金支給額が大幅に減るだろう。しかし安倍政権にとっては、自分たちの政権が続いている間だけ株が上がり続ければ良く、その後の年金支給がどうなろうと関係ないのだろう。 (Japan Pension Giant Signals Portfolio Shift)
アベノミクスの3本の矢は、資金増加、財政支出、経済成長であるが、これらはすべて、米国当局が、日本や欧州などの同盟諸国にやらせたいことだ。資金増加とは、米連銀や日銀がやっているQEのことであり、08年のリーマン倒産後、流動性が欠如したままの債券金融システムに当局が資金を注入し続ける、植物人間化した金融システムへの生命維持装置である。米国だけが通貨(ドル)を大量発行し、日本や欧州が引き締めたままだと、ドルの価値が下がりすぎるので、日本や欧州にもQEをやらせたい。 (さらに弱くなる日本)
2本目の矢である財政出動もQEと同様、公的資金で経済を回し(米国の)金融界を救済するものだ。米国はすでにリーマン倒産後の2年間で財政出動をやり尽くし、これ以上赤字を増やせない法定財政上限に達している。そこで米国は、安倍政権になるまで財政緊縮をやっていた日本に方向転換を迫り、安倍政権になってから、それまでの財政再建の話はどこ吹く風で、財政赤字の急拡大が奨励されている。3本目の矢である経済成長は、見かけ上のものだ。日米ともに、QEによる資金供給で株価を操作し、雇用統計などを粉飾するかたちで行われている。米国の例は、前回の記事に書いたとおりだ。 (経済の歪曲延命策がまだ続く?) (米雇用統計の粉飾)
日本の場合、失業率は統計上3%台だが、新卒者の就職な困難さ、失業した中高年の再就職が困難さなどから考えて、実際の失業率はそれよりはるかに高く、10%を超えていると推測される。政権の人気取りのため「お上」である米国と似たような方法で、日本の当局が失業率を粉飾していることは十分に考えられる。 (Japan's Labour Market: Lifers, temps and banishment rooms) (Japan's Hidden Unemployment Problem) (Abenomics Is Working: Japanese Households On Welfare Rise To Record)
日銀がQEで円を過剰発行するのと連動して、為替市場の円安が進んでいる。これまで円安は日本の輸出産業を繁栄させるので良いことだとされてきた。しかし実のところ、円安が進んでいるのに日本を代表する輸出企業だったソニーが破綻に向かっているなど、製造業の不振がひどくなっている。日本経済の大黒柱だった製造業の不振の加速から考えても、最近の失業率は粉飾である感じが強い。 (Abenomics Crushes Sony: Electronics Giant Forced To Cancel Dividend For First Time Ever)
大手の輸出企業の中には、生産工程を国際化して円だけの為替の影響を受けにくくなっているところが多く、以前からの円安待望論は浅薄な間違いである。今の円安は、むしろ輸入価格の上昇を招き、貿易収支のひどい赤字化を生んでいる。このまま貿易赤字が改善しないと、今後の日本は衰退感が増していくだろう。私が見るところ、日本が円安(ドル高)を望むのは、経済的な理由からでなく、覇権国である米国より劣った存在であり続けねばならないという国際政治の理由からだ。 (日本経済を自滅にみちびく対米従属)
国際的に強い国、(地域)覇権国になるには、通貨が強く(為替高)、財政が強く(財政黒字)、製造業など経済生産が強く(持続的成長)なければならない。通貨が強いと他国への支払いが自国通貨で行えるし、財政が強いと戦争に強いし、国債を外国に買ってもらう必要もない。通貨が強いと輸出産業が苦戦するが、それを補うだけの技術力・開発力を持つことで、為替が強くても強い製造業を持てる。今の世界でこれをやっているのはドイツだ。 (金地金不正操作めぐるドイツの復讐) (ドイツの軍事再台頭)
米国は自国の延命のため、日欧にも自国同様のQEや財政赤字化を求め、世界中の通貨と財政を横並びに弱体化させようとして、日本は米国の要求に完全に応えたが、ドイツ(EU)は拒否している。そのためEUは、ギリシャなど周辺の弱い部分の国債市場を米国の投機筋に攻撃され、ユーロ危機によって強制的に財政や通貨を弱体化させられている。 (ユーロ危機からEU統合強化へ) (Mario Draghi pushes for ECB to accept Greek and Cypriot ‘junk’ loan bundles)
ドイツと対照的に日本は、経済力で米国を抜きそうになった1980年代から、米国を抜くことを回避するように、通貨安、財政赤字化をずっと追求し、バブル崩壊を放置して金融や経済を自ら弱体化している。日本人はもともと倹約を美徳とする民族なのに、財政赤字の急拡大が黙認されてきた。これらは、対米従属を続けるためという国際政治上の日本の国是の維持のために行われてきたと考えられる。 (財政破綻したがる日本)
人為的な政治でなく「自然」な経済の動きで説明したがる人が日本に多いが、実のところ、経済が非人為な「市場原理」「需給」で動いていると考えるのは馬鹿げている。重要な経済の動きの多くは、官僚らによる政治的な意志決定に基づいており、本質を隠すため、経済学者やマスコミが動員され、政治でなく自然な動きであると国民に思わせている。近年、先進諸国における株価、金利、債券相場、雇用や物価など経済統計、為替相場、金相場など、これまで「自然な市場原理」で動いてきたと考えられてきた重要指標の多くが、実はずっと以前から金融界や当局の政治的な操作によって上下してきたことが暴露されている。経済ぐらい政治的なものはない。日本人がそれを知らないのは、対米従属(官僚独裁)の敗戦国民だからだ。 (揺らぐ経済指標の信頼性) (Banks could face record fines totalling £1.8bn over currency rigging)
通貨を過剰発行すると、どこかの時点でひどいインフレ(物価高騰)になると考えるのが、従来の経済学の常識だった。しかし今の世界では、10年以上通貨の過剰発行を続けてもインフレになっていない。これは、従来の経済の大部分が実体的な商品(モノ)で構成されていたのと対照的に、今の経済はモノがない金融が肥大化し、金融がモノの経済(実体経済)の何百倍もの大きさになっているため、通貨の過剰発行がモノの価格高騰に直結しなくなっているからと考えられる。今の経済では、物価上昇の代わりに金融部門で信用収縮や金利高騰、つまりバブル崩壊が起きる。
アベノミクスは、日本を(中国に負けないよう)強くするため、国民生活を良くするための政策として打ち出されたが、実のところ、米国の弱体化に合わせて日本を弱体化する策であり、円を弱くし、日本の財政を弱くし、国民生活を悪化させている。アベノミクスは、米国の命令に従って、日本を意図的に弱くしている。中国は「敵」として置かれているが、それは日本が米国の言いつけどおり防衛費を増やすための口実的存在でしかない。中国は日本にとって本質的な敵でない。日本人は、政府や傘下のプロパガンダ機関から「中国を嫌え」と示唆されているが「中国と戦え」とは示唆されていない。戦えと示唆されたら、観光で訪日した中国人を殴りたがる人がもっと多くなるはずだ。今の日本政府が気にしているのは米国だけだ。 (Japan's factory output falls in August)
米当局は、QEなどの金融救済策を続けずに放置したら米経済が崩壊すると知っている。従来の危機対策のように、救済策を一定期間続けたらその後は自律的に経済が上向くのでなく、救済策を永久に続けねばならないと知っている。しかし、救済策を永久に続けることなどできない。だから米当局は困窮し、相場の不正操作や経済統計の歪曲など、長期的に見ると自滅策になることを含む、なりふりかまわぬ「何でもあり」の延命策を続けている。短期的なバブルの大崩壊を回避できるなら、長期的な自滅策の方がましだというわけだ。 (It's The Dollar, Stupid!)
安倍政権は、日本でも米国のコピーの「何でもあり」の策をやるための政権として生まれた。経済面だけでなく、軍事面でも従来のタブーを破って米国の要求に沿った「集団的自衛権」の行使を国策に取り込んだ。国内の反対勢力の無力化と官僚独裁体制の強化の中で、財務省はかねてからやりたかった消費税値上げを敢行した。見かけだけの経済成長、多くの人の所得の減少、失業の実質的な増加、貧富格差の拡大など、貧しい人が増える中で消費税の値上げをするのはタイミングとして悪く、日本の衰退に拍車をかける。しかし消費増税は安倍政権に政治力があるうちにしかやれないので財務省は敢行した。 (集団的自衛権と米国の濡れ衣戦争)
マスコミに対する言論統制も強化されている。象徴的なのが、戦争犯罪報道の「誤報」をめぐる、官民挙げての朝日新聞たたきだ。8月の株価急落が象徴するように、今後アベノミクスの失敗が露呈する可能性がある。その前に、安倍政権に楯突きそうなマスコミ内の勢力をできるだけ無力化しておく必要がある。朝日新聞の尊大な社風を考えると「ざまあみろ」でもあるが、今の朝日たたきの本質は、朝日新聞がどうなのかという話でなく、マスコミ全体に政府批判を許さなくするための、安倍政権の延命策として見る必要がある。
いずれ安倍首相が退陣しても、米国が今の金融救済策・覇権延命策を続けている限り、誰が日本の政権に就いても、安倍と似たようなことをやり続けるだろう。日本が対米従属をやめて自立する戦略は、09年に民主党の鳩山・小沢が試みたが官僚機構から猛反撃されて潰されて以来、再起の可能性がほとんどない。日本の方から対米自立していく道は閉ざされている。 (鳩山辞任と日本の今後) (まだ続き危険が増す日本の対米従属)
すでに述べたように、米国は延命策をやめたらバブル大崩壊だ。米国は延命策を効かなくなるまでやり続け、最終的にバブル大崩壊するだろう。それまで何年かかるのかわからないが、その間ずっと日本は対米従属で、米国に求められるまま、自分で自分を弱める策をやり続けることになりそうだ。非常に暗い結論なので、日本のことはあまり書きたくなかったのだが、大事な話なので書くことにした。
2014/10/15
③ イスラム国はアルカイダのブランド再編
2001年の911事件の直前、米捜査当局FBIで傍受情報を翻訳する仕事をしていた時に、米当局がテロ組織(アルカイダ)の活動を知りながら放置していることを発見し、911後にそれを内部告発して有名になった諜報専門家のシベル・エドモンズが、最近、ISIS(イスラム国)について「アルカイダがすたれたことを受け、米当局がアルカイダのテロリストたちを別のブランドとして立て直し、マーケティング策を変更してISISが出てきた」という趣旨の発言をした。アルカイダは、米当局にとって、自分たちに都合の良いようにテロをやらせる道具として育てた組織だったが、同様にISISも、米当局の都合に合わせて動く新たなバージョンの組織として、米当局によって育てられたという意味だ。 (US cultivated, financed ISIS - FBI whistleblower Sibel Edmonds)
エドモンズは、米国のマスコミを動かしている(米中枢の)勢力が、ISISが強い軍事力を持っているかのように報道させ、その結果、実際にはそれほど強くないISISが、非常に強いかのような幻影が流布しているとも指摘している。こうした幻影策は、かつてアルカイダに対しても行われていたという。アルカイダが米当局による作り物の観があることは、以前から指摘されていた。ISISも、主導的な5人の司令官のうち4人が米軍運営のイラクの監獄に長くいた人物であり、米当局の要員である疑いが強い。米軍は、ISISをシリア反政府勢力としてヨルダン国内の基地で訓練していた。しかもISISは、昨年までアルカイダに属していた。ISISがアルカイダと同様、米当局の作り物であるというエドモンズの見方は納得できる。 (アルカイダは諜報機関の作りもの) (◆敵としてイスラム国を作って戦争する米国)
ISISの支配地は、記者たちが入れない場所だ。入ると捕まって処刑されてしまう。記者の多くがISISの支配地に入らないので、ISISは外から見て実体不明の組織のままになっている。米当局がISISにテコ入れしても、その実態が報じられることはない。この状態は米当局にとって好都合な機密保持策だ。同様の傾向はアルカイダに関してもあった。マスコミはISISの脅威を喧伝するが、米政府のいくつもの諜報機関が、ISISは米本土に脅威を与える勢力でないと認める報告書を出している。 (War reporters lament news 'black holes' in IS-held zones) (America's intelligence agencies agree: ISIS isn't that big of a threat)
ISISがアルカイダの焼き直し・ブランド再編であると考えられる根拠はほかにもある。911事件が起きて、米政府がアルカイダと戦う「テロ戦争」を宣言した直後、CIAのウールジー元長官が「テロ戦争は40年続くだろう」との予測を発した。「40年」という数字は、軍産英複合体が引き起こした米ソ冷戦(1950-90)が40年続いたので、それと同程度の期間続くという意味と考えられる。 (911十周年で再考するテロ戦争の意味)
最近、パネッタ元国防長官が「ISISとの戦争は30年間続くだろう」との予測を発した。なぜ30年間かを考えると、アルカイダとの「テロ戦争」が2001年から40年続くはずだったが、10年後の2011年に、米当局がビンラディンを殺害(する演技を挙行)し、テロ戦争は事実上10年で終わった。残りの30年の分について、アルカイダの焼き直しであるISISとの戦争として続けることにしたという宣言であると考えると納得できる。 (Can America Fight a Thirty Years' War?)
米当局は、なぜ今になってテロ戦争の焼き直しを再開するのだろうか。一つ考えられることは、これから11月に米国で中間選挙があり、野党の共和党が勝ちそうなこととの関係だ。中間選挙から任期末までの2年間、民主党のオバマ政権は、政治力が低下したレイムダック状態になりそうだ。軍産複合体は、911事件の発生を黙認(誘発)して01年のテロ戦争を開始したが、当時のブッシュ政権の内部にはテロ戦争を過剰に自滅的にやってしまう「ネオコン」などの勢力がいて、イラクもアフガニスタンも泥沼の占領に陥った。 (Gallup: Republicans Are Likely to Win Congress Next Month)
09年から大統領になったオバマは、国防総省の反対を押し切って、国力の浪費になるイラクとアフガンの占領をやめて撤退を挙行した。またオバマは、テロ戦争の構造自体も良くないと考え、11年5月にビンラディンをパキスタンで発見して殺したことにして、テロ戦争を終わらせた。しかし軍産複合体は、こうしたオバマのやり方に反対で、ISISを育て上げ、オバマが中間選挙後にレイムダックになる今のタイミングを見計らって、ISISとの30年戦争を打ち出したと考えられる。ISISとの戦い方をめぐり、国防総省はオバマの言うことを聞かない傾向を強めている。 (Rift widens between Obama, U.S. military over strategy to fight Islamic State)
オバマ自身は、テロ戦争の焼き直しなどしたくないだろう。オバマの意に反して、軍産複合体が勝手にISISを育ててテロ戦争の焼き直しを開始したこと自体、オバマがすでにレイムダックに陥っていることを示している。パネッタが「30年戦争」を言い出したのを聞いて、バイデン副大統領は「ISISとの戦争を30年戦争と呼ぶのは、オバマ政権が終わってからにしてくれ」と苦言を呈している。 (Panetta Predicts '30-Year War' Against ISIS)
ISISとの長期戦争の開始は、中東の政治状況でなく、米国の政治状況の変化を反映した動きだ。911のテロ事件も同様だ。00年までの民主党クリントン大統領は、アフガンや中東でスンニ派テロ組織と本格的に戦うと泥沼化するので嫌がり、米軍に空爆以上のことをやらせなかった。そのため、01年に共和党ブッシュ政権ができた後になってから、軍産がクーデター的な大規模テロ事件の誘発策を強め、ブッシュの就任8カ月後に911事件が起きた。 (田中宇:911事件関係の記事)
もう一つ、軍産複合体が今のタイミングでISISとの長期戦争を始める必要があった理由として考えられることは、シリアの関係だ。昨年8月、米国は、シリアのアサド政権が化学兵器で市民を攻撃したと濡れ衣をかけ、アサド政権に対する空爆を決めたが、その後オバマの判断で空爆をとりやめ、代わりにロシアに監督させてシリアの化学兵器を撤去させる策に転換した。シリアの化学兵器は今年8月末に完全撤去され、アサド政権が国際社会に再び受け入れられる素地が整った。ロシアや中国は国連で、早くアサド政権を許すべきだと言い出した。 (Destruction Of Syria Chemical Weapons Complete) (World powers see Assad as bulwark against Islamic State)
当時、すでにISISはシリアとイラクで勢力を拡大し始めていた。米国が黙っていたら、国際社会がアサド政権(やその背後にいるイラン)を再受容し、ISISとの戦いの正式な参加者になってもらうべきだという主張が強まっていただろう。それを防ぐには、2016年にオバマ政権が終わるのを待たず、今のタイミングで米軍がテロ戦争の焼き直しとしてISISへの空爆を開始し、アサドやイラン抜きのISISと国際社会の戦争の構図を作る必要があった。
米国はアサド敵視をやめておらず、ISISを戦争で潰した後「穏健派」のシリア反政府勢力を支援してアサド政権を潰すといっている。ロシアの外相は、米国がISISと戦争しつつ、同時にアサドも潰す気だろうと言っている。 (Lavrov: West may use ISIS as pretext to bomb Syrian govt forces)
しかし、もしISISより先にアサド政権が潰されると、イランやロシアといった親アサド勢力にとってだけでなく、サウジアラビアやイスラエル、トルコといったアサドを敵視してきた国々にとっても非常に危険なことになる。ISISが存続したままアサドが潰れると、シリアはすべてISISのものになる。米国が支援したい「穏健派」のシリア反政府勢力は弱い勢力でしかない。ISISは強くなり、トルコやイスラエル(ゴラン高原)、サウジアラビアなどに戦いを挑むだろう。ISISを育てることに協力してきたイスラエルやサウジは、強くなったISISに逆にやられる「ブローバック」を受ける。 (A Look Inside The Secret Deal With Saudi Arabia That Unleashed The Syrian Bombing)
サウジ王政がアサドの打倒を心底望んでいると米国のマスコミが喧伝しているが、それは考えにくい。サウジ王政は、自分たちの権力温存策として何より安定を重視する。アサドが倒れたらシリアがISISの国になり、メッカを侵攻して陥落し、イスラム国の首都にしようとサウジを攻撃しかねない。たとえISISを撃退できたとしても、サウジは不安定化する。イスラエルには、アサド政権が温存された方が良いと本音を表明する高官がいる。サウジやイスラエルにとって、シリアはISISとアサド政権が並存していた方が良い。
911事件で起きたテロ戦争が「スンニ過激派」との恒久戦争という形をとった理由の一つは「イスラエル」である。1970年代以来、米国の軍産複合体を牛耳る傾向を強めたイスラエルは、90年の冷戦終結後、中東で米国と「敵」との冷戦型の恒久対立構造を作り、米軍を中東に長期に貼りつけ、イスラエルを守らせる衛兵の役割をさせようとした。そして起きたのが、イスラエルのライバルであるスンニ派アラブを敵とする911テロ戦争だった。だから、テロ戦争の焼き直しであるISISとの戦争も、スンニ派アラブを敵とする中東の恒久対立である必要があった。
イスラエルは自国の安全上、アサド政権の転覆を望まないが、イランの傀儡であるアサド政権が国際社会に再受容され、イランの勢力が堂々とイスラエルの隣に存在するようになることも望まない。イスラエルは、シリアでISISとアサド政権の内戦が恒久化することや、ISISがイラン、イラク、サウジ、トルコなどイスラム諸国に長い戦いを強いる存在になることを望んでいる。米国がISISとの戦いの一環として、クルド人に急いで大量の武器を与えている動きも、米国の背後にいるイスラエルが、イラン、イラク、トルコを苛立たせる存在であるクルド人を強化したいと考えていることを踏まえると納得できる。
ISISとの戦争が本当に何十年も続くのか、まだわからない。もしオバマが任期中に軍産複合体に一矢報いようとするなら、昨年夏にシリア情勢に関してやったように、ロシアやイランに任せて丸投げするやり方が今後あり得る。これはオバマが、軍産と闘うためにロシアやイランの味方になってしまうことを意味する。逆に軍産は、ロシアやイランとの敵対構造をできるだけ長く続けようとしている。そのせめぎ合いがどうなるかによって、イランやISISといった中東情勢、それからウクライナ情勢の今後の展開が変わってくる。
2014/10/21
④ 揺らぐ金融市場
先週、世界的に株価が大幅下落した。今週に入ってやや持ち直したが、今後も不安定な相場が続くとの予測があちこちから出ている。金融システムが脆弱化しているとか、株も債券もまだ高すぎるといった指摘もある。 (stocks and bonds still look expensive) (Jim Chanos: "The Lesson That Shaped My Understanding Of How Fragile The System Is") (Expect market to remain volatile for some time: Ashu Madan, Religare Securities)
株価下落の主因は、米連銀が10月末で量的緩和策(QE3)を終了することだ。QE3は、連銀がドルを増刷(電子的に発行)して米国債やジャンク債を買い支える策で、QEによって債券金利が低く抑えられて、企業や機関投資家が低金利で起債して資金調達できるので金あまり現象が続き、資金が株式市場に流入し、株価上昇が続いた。 (After QE: Taking off the stabilisers)
QEは、08年のリーマン危機以来ほぼ連続的に続けられてきたが、その副作用として連銀の勘定(会計規模)がリーマン危機前の1兆ドル未満から今では4・3兆ドルに肥大化した。連銀が買い支えている債券の中には、債券バブルが崩壊すると紙屑になるものも多く、勘定の肥大化は連銀の信用失墜につながる。連銀はQEをやめざるを得なくなった。QEをやめたら、債券市場の下支えが失われて株式市場への資金供給が減るとの見通しから、投資家の強気が失われ、株価の大幅下落が起きた。 (Markets and the Fed have to practise a new dance)
QEは企業の資金調達をやりやすくするので景気テコ入れの効果もあると米政府やマスコミは喧伝してきたが、米国の実体経済は悪いままで、今や米国では国民の15%にあたる4800万人が貧困水準以下の生活をしている。 (Over 48 million Americans live in poverty)
米国の大企業(S&Pの500社)は、02年時点で、調達した資金のうち50%を本業の投資に回し、15%だけを自社株の買い戻しに回していた。しかし今では、実体経済の景気が悪いので、大企業は資金の40%しか本業に回さず、30%以上を自社株買いに回している。企業の自社株買いは株価上昇につながり、株価が上がっているのだから景気は回復しているのだとマスコミが喧伝するという、金融だけの幻影的な景気回復が続いてきた。 (Buybacks: Money well spent?)
株価がぐらつき出すとともに、金融主導の景気回復感が薄まっている。オバマ大統領ら米政府高官は「米経済は回復基調が続いている」と言い続けているが、ゴールドマンサックスは、9月の消費の落ち込みや在庫増の傾向の減速を見て、米景気の回復基調は終わりつつあると分析している。金融市場は、政府やマスコミが喧伝する「おとぎ話」を信じ続けないと下落する、と揶揄する評論も出てきた。 (And The GDP Downgrades Begin: Goldman Slashes Q3/Q4 GDP) (Quote Of The Day: Central Bank Fairy Tale Edition)
株価の急落を受け、連銀がQEの終了や利上げ傾向への転換を延期するだろうとか、QE3をやめた後にQE4をやるはずだといった楽観的な予測が飛び交っている。連銀理事のひとりは、景気が再び悪くなりそうならQE4が必要だと発言し、別の理事はQE3の終了を延期すべきだと発言した。これらの発言によって、連銀内でQEの延長が検討されている雰囲気が醸し出され、株価が短期的に上昇した。しかし別の理事は、QE終了と金利上昇の転換は予定どおりやるしかない、遅らせるわけにいかないと表明しており、こちらが現実論だろう。QE4の話はおそらく、株価下落を一時的に止めるための口だけの作戦だ。 (St Louis Fed chief calls for taper delay) (Dow Surges 400 Points After Fed's Bullard Prevents Plunge With QE4 Bluff) (Stick to tapering and rates pledge, says Boston Fed chief)
相場が急落したら本当に大変なのは、株でなく債券の方だ。株は民間だけのもので、民間経済が回復すれば株価もいずれ回復する。対照的に、債券は市場の崩壊が進むと最終的に米国の力の源泉である米国債の下落になる。米国債が破綻したら、世界的な覇権構造が不可逆的に転換し、米国は二度と覇権国に戻れず、米国債とドルが全ての富の原点に位置してきた戦後70年の歴史が終わる。 (Bulls run for the exit)
購買力平価で測定した経済の規模において、これまで世界一だった米国は、今年中に中国に抜かれる見通しだ。経済で世界最大の国は、米国から中国に代わる。(同様に、日本はインドに抜かれて世界第4位に転落した) (The world is defecting to the East)
IMFは、米欧経済が予測より早く衰退し、世界の経済的な中心がBRICSに移ると予測する報告書を発表した。欧州中央銀行は、備蓄通貨の中に人民元を加え、人民元の国際化が早く進むことを歓迎すると表明している。これらの動きは、こんご米国債のバブル崩壊が起きたら、それが世界的な経済覇権構造の不可逆的な多極化につながりそうなことを示している。 (Welcome to the new world order) (China Welcomes ECB Yuan Debate in Internationalizion Push)
米国債の相場は今、非常に高い。相場の逆関数である利回り(10年もの)は一時期2%を割った。連銀や金融界は、米国債相場を守るために株式相場の下落を看過したとも読める。株が下がると資金が米国債市場に逃避し、米国債の相場が上がる。2011年に米国債が格下げされたときも、その直後に債券でなく身代りに株式の相場が急落し、米国債市場の崩壊が防がれた。 (格下げされても減価しない米国債)
しかし構造的に見ると、今の米政府は、毎年の財政支出が、税収を中心とする財政収入を恒常的に上回っている。実体経済の景気が悪いので税収はこの先も増えにくく、今後も支出が収入を上回る状態がずっと続きそうだ。支出と収入の差額は、米国債の発行で埋められる。国債は、いずれ返済する前提で発行されている。しかし、政府の支出が収入を恒常的に上回っている米国では、満期がきた国債が借り換えられるだけで、本質的に返済されず、国債の累積発行額は増え続ける。 (This Will Make 2008 Look Like a Picnic)
所得より支出が多く、借金が増え続ける人や組織は、最終的に破産する。米政府も例外でないはずだが、特別な政治力を持つ米政府は借金が増え続けても破綻しないという「神話」が席巻している。この神話を維持する方法の一つが、連銀のQEだった。QEによる金余り現象は、米国債金利の低下を引き起こし、米政府が国債保有者に支払う金利の額を減らしてくれる。同時にQEは投資家に「米国債の相場が下がりかけたら必ず連銀が買い支えるので、米国債は安全な投資先だ」という安堵感を与え続け、国債利回りの低水準を維持する。
しかしQEは同時に、社債を含む債券市場の発行総額を増やしている。リーマン危機前に82兆ドルだった米債券市場の総額は、今や100兆ドルを超えている。実体経済が拡大していないのだから、この増分はいずれ崩壊する金融バブルだ。投資家が米連銀を信用している間は、バブル崩壊が先送りされ続ける。しかし、投資家の間に連銀やQEへの不信感がつのると、連銀がいくら買い支えても債券の利回りが下がらず、債券のバブル崩壊が起きる。 (Why Is the Put-Call Ratio (Fear Gauge) Higher Than in the Lehman Collapse of 2008?)
先週の株価急落の際、投資家が株を買うための資金調達に困窮する流動性の危機が起きた。金あまりなはずなのに、資金調達に苦労するのは、投資家の間での相互不信や、金を貸す側が市場の先行きに懸念を持っているからだ。金あまりなのに借りられない事態が頻発するようになると、リーマン倒産の時に起きた金利上昇、市場の信用不安、バブル崩壊が現実になる。 (Liquidity nightmare blamed for crazy market moves)
先週の株価急落時に、このバブル崩壊の地獄の割れ目が短期的に開いたことになる。米国では、著名な「専門家」の全員が、近いうちに金利が上昇すると予測している。金利の上昇は、債券崩壊の接近を意味する。 (Markets are parched for liquidity despite a flood of cash)
世界の中央銀行は、米連銀だけでない。日銀や欧州中央銀行(ECB)もある。しかし、米国以外の先進諸国の中央銀行は、いずれもQEに横並びの金融緩和策をすでにやっており、これ以上米連銀を助けられない。中国などBRICSの中央銀行は、米国を守るよりも、脱米的な多極化を進めることへの関心が増している。QEを5年以上も続けて疲弊している米連銀には、もうあまり余力がない。米当局が次のバブル崩壊への対策に出せる力は、リーマン危機の時よりもかなり減っている。これは非常に危険な事態だ。 (What Options Are Left For Central Banks?)
米国では民間の大手銀行が、かなりの勢いで米国債を買っている。おそらく連銀に余力がないため、金融界全体として米国債を買い支えないと債券崩壊が起きかねないのだろう。今後崩壊しかねない米国債を今の時点で買いあさるのは、大地震が予測される時に高級なグラスや瀬戸物の食器を買い集めているのと同じだ(地震がきたら全て破壊される)と、評論家が揶揄している。次のバブル崩壊が起きたら、米の大手銀行も潰れていきそうだ。 (Forget Ebola - Here's Why US Banks Are Now Extremely Vulnerable)
2014/11/01
⑤ 陰謀論者になったグリーンスパン
アラン・グリーンスパンは、債券金融システムの膨張による金融覇権体制の開始であるプラザ合意(85年)の後の1987年から、その体制の崩壊が始まったリーマンショック(08年)の前の2006年まで、約30年にわたって米連銀の議長だった。金融界のマエストロ(監督・巨匠・大作家)と呼ばれる彼は、米国(米英)が金融膨張によって金融主導で覇権を維持した30年間、米国の金融政策の総本山である連銀のトップをずっとつとめ、米国経済の黄金時代を演出した。 (Alan Greenspan From Wikipedia)
その彼が、連銀がQE3(ドル大量発行によるバブル膨張で米経済を延命する策)の終了を決めた10月29日に、米国の外交戦略を論じる奥の院であるニューヨークの外交問題評議会(CFR)で講話し、QE3は失敗だったと宣言した。グリーンスパンはQE3について、長期金利を引き下げ、株や債券の相場を引き上げ、金融で儲けで資産を増やした人ばかりである大金持ちをさらに富ます(貧富格差を拡げる)策として大成功だったが、実体経済の需要増という(最重要な)目標に関して失敗し、後始末はひどい事態になると述べた。 (Former Fed Chief Greenspan Worried About Future of Monetary Policy) (Alan Greenspan: QE Failed To Help The Economy, The Unwind Will Be Painful, "Buy Gold")
その上で彼は、米連銀の資産はQEの結果、バブル崩壊が起きた場合に価値が急落(金利が急騰)して超インフレの引き金を引きかねない債券が急増し、いずれ連銀が超インフレを引き起こす結果になりかねないという趣旨の警告を発した。そしてグリーンスパンは、昨今買うといい資産はインフレに強いとされる金地金であり、金地金は5年以内に値上がりすると述べた。 (Fed Ends QE? Greenspan Says Gold "Measurably" "Higher" In 5 Years)
金融の「専門家」のほとんどは「QEは実体経済(米国の景気)を良くしている」「株高は米景気回復の自然な帰結だ(QEが株高を引き起こしているのではない)」「超インフレが起こるなどと言っている奴は素人だ」「金地金は下がる。良くない投資先だ」と言っている。そのように言うのが「立派な専門家」だ。QEが株高を粉飾的に引き起こしているとか、米国の実体経済は改善していないとか、いずれ超インフレが起きるとか、債券バブルが崩壊して金地金が高騰するとか言っている人は、私自身を含めて「頭のおかしな陰謀論者」のレッテルを貼られる。しかし今回、専門家のさらに上位に立つシステム創造者のグリーンスパン自らが、頭のおかしな陰謀論者と同じことを言い出した。これは非常に興味深い。
グリーンスパンは今回、これまでで最も明確なかたちで「陰謀論者」の側に立ったが、彼は以前から折に触れて、今回ほど明確でないが、そちら側に立つ発言をするときがあった。2000年のIT株バブルの前の96年には、株価が高すぎることを示唆する発言をしている。2010年には、金融システムが崩壊する際に長期国債の金利が高騰するので、米国債金利は「炭鉱のカナリア」であり、自分は10年もの米国債の金利を毎日気にしていると述べ、いずれ米金融システムの崩壊があり得ることを示唆した。 (Irrational exuberance From Wikipedia) (Greenspan Calls Treasury Yields ‘Canary in the Mine') (危うくなる米国債)
米国にとって1985年のプラザ合意は、71年のニクソンショック(金ドル交換停止)やベトナム戦争の敗北によって弱体化した米国の覇権を立て直し、日独を含めたG7によるドルの買い支え(市場介入)や債券金融システムの拡大によって経済主導の覇権体制に転換する始まりだった。米国の経済覇権体制は、08年のリーマン危機で債券金融システムの崩壊が始まるまで続いていた。現在を含む、その後の期間は、米国の経済覇権体制が崩壊して今後の多極型の覇権に転換していく時期である。
(私はリーマン危機の直後に「世界がドルを棄てた日」という本を書いたが、あの本の題名は「世界がドルを棄てるプロセスに入った日」にすべきだった。私は、覇権転換のプロセスが長期化することを予測していなかった。リーマン危機が覇権の歴史的転換点だったことについては、今もその歴史認識で良いと思っている)
プラザ合意からリーマン倒産までの33年間のうちの29年間、連銀議長だったグリーンスパンは、米国の金融覇権のシステム(33年のバブル膨張システム)を作って動かした人だ。作曲家やオーケストラの指揮者に与えられる、システムを創造・運営する人の称号である「マエストロ」が彼に贈られているのはそのためだ。その点が、彼と、ふつうの金融専門家の違いだ。「裸の王様」の物語にたとえると、グリスパは、王様がすばらしい洋服を着ていると皆が絶賛せねばならない(バブルな)システムを作って運営した人であるのに対し、ふつうの専門家は、裸の王様の洋服を絶賛する(給料や世間体のために付和雷同する)人々である。そして頭のおかしい陰謀論者は、王様は裸だと叫んでしまう周縁的な人だ。王様が裸であることをマエストロが示唆し始める時は、裸の王様のウソのシステムが不可逆的に崩れ始めている時であり、示唆は、崩壊に対してマエストロ自身が警告を発しているととらえるべきだろう。
リーマン危機後、金融バブルの源泉である「影の銀行システム(債券金融システム)」を縮小すべきだという意見が米政府内などで強まった。しかし、バブル膨張策であるQEのせいで、影の銀行システムの総規模は昨年1年間で5兆ドル増えて75兆ドル(世界のGDP総額より2割大きい)になったと報じられている。グリスパが指摘したとおり、今後のバブル崩壊の悪影響はリーマン危機をしのぐものになる。 (Shadow Banking Assets Increase By $5 Trillion To Record $75 Trillion, 120% Of Global GDP) (世界の運命を握る「影の銀行システム」)
グリスパは06年に連銀議長を辞めた時点で、金融覇権崩壊の時期が近づいていると感じ、金融覇権の運営という自分の任務の終わりを察して辞めたのだろう。彼にしてみれば、リーマン危機以降の事態はつけたしのようなものだ。自分が作った金融覇権が、いったん不可逆的に崩壊したものの、QEなどで延命している。この延命が今後何年続くか、グリスパが自信ある予測を持っているかどうかわからない。今回彼は、金地金の相場が今後の5年でそこそこ(measurably)上がるだろうと述べた。米国債金利が上がり出すまで、あと1-3年というところか。
金融家のグリスパより一つ前の時代に米国覇権のマエストロをしていたのは、外交官のキッシンジャーだ。彼は72年のニクソン訪中を演出し、冷戦終結や多極化の先鞭をつけた。グリスパとキッシンジャーに共通しているのは、米国覇権がいずれ衰退していくことを時々、他人事のように示唆する(うそぶく)ことだ。2人とも覇権システムの作者として、かなりのことを知っているはずだ。うそぶきは、策略として発せられるのでなく、人間性の発露(守秘義務を踏まえた上での世の中に対する親切心)なのかもしれない。
王様の新しい衣装をめぐるウソのシステムが崩壊し始める時、システムを構築したマエストロは、王様が裸であることを示唆する。しかし周囲の人々は、突然気まぐれに何を言い出すんだ、と内心驚きつつ平然と無視する。グリスパが、QEの失敗、ウソの景気回復、インフレ懸念、いずれ起きる金地金高騰について語った時、その直後に起きたことは、株と債券の急落や金相場の上昇でなく、その正反対の、株の最高値更新と金相場の下落だった。マエストロの発言は、陰謀論者の発言と同様に無視され、相変わらずの粉飾相場が続いている。 (QE Ends in the US… And Won't Begin in the EU… The Markets Continue To Operate Based On Complete Delusions)
QEが始まる前、金融の投資は、株や債券、金地金や石油などコモディティ、不動産などの分野に分散して行うのがリスク回避として有効だった。しかしQEは、その中の多くの分野の相場を引き上げた。株も債券も不動産も高騰した。その反動として、QEが終わった後、株も債券も不動産も下がりそうだという予測になっている、分散投資がリスク回避として有効でない新事態が生まれている。今のところどの相場も維持されているが、いずれ急落する場合、全分野が急落する全崩壊が起きると予測されている(グリスパによると金だけは上がる)。 (Fed Exit Could Spark Slump in All Markets, ATP CEO Says)
全崩壊しそうだが、まだしていない不安定な現状を、精神を病みかけている人にたとえて「QEちゃん」にふられた「市場君」からの手紙の形式で書いてある示唆的な記事も出ている。 (QE's break-up with markets: no regrets?)
グリーンスパンも示唆するとおり、QEの副作用の一つは、投資やストックオプションなどで儲けている大金持ちをますます富ませ、給与所得者である中産階級や貧困層はさらに貧しくなって貧富格差が拡大することだ。リーマン危機以来、世界の億万長者(ビリオネラ)の総数が倍増して1646人になった。世界で最も裕福な85人の資産合計は、人類の貧しい方の半分の人々の資産総額と同じである。QEは人類に何も良いことをもたらしていない。 (Number of global billionaires has doubled since the financial crisis)
金持ちをますます富ませる一因は、米企業の「自社株買い」だ。銀行から借り入れたり社債を発行して作った資金を本業に投資せず自社株を買うことが、株高を演出する一つの方法だ。自社株買いは本来、自社株が下がって安値感が出ているときにやるべき策だが、近年の自社株買いのほとんどは株価が急騰している時に行われている。その理由は、株価が急騰している時に、企業の幹部がストックオプションを行使して自社株を売って現金に替えて大儲けしており、この会社幹部の自社株売りによる株価の下落を防止するために、自社株買いが行われているからだ。自社株買いは、企業の幹部自身が大金持ちになるための自社株売りの後始末として行われている。幹部は自分が儲けるために、自社に自社株を高値買いさせている。これは背任行為であるが、自社株買いで株価が上がるので株主も怒らない。 (Get Ready for the Buyback Hangover) (4 reasons to worry about share buybacks)
グリーンスパンがQE終了後の金融崩壊の懸念を表明し、放っておけば、その余波で株や債券が下落したかもしれない。しかし、裸の王様の周りにいた家臣が黙っていなかった。マエストロが王様が裸であることを暴露すると、一瞬、周りの家臣や人々は沈黙、動揺し、王様自身も当惑して急に手で前を隠したりした。しかし、その場に動揺が広がりそうになった次の瞬間、家臣のひとりが大きな声で王様の新しい服装の素晴らしさを絶賛する言葉を発する。すると、皆がはっと我に返り、これまでの絶賛モードに戻り、口々に王様の装束を賞賛した。声を挙げた家臣の名は「クロダ」である。彼の言動については、改めて書く。
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