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【 09】11/20
「積極的防衛」日本は手探り「対応には限界」
田中宇の世界はどう動いているか 新しいニュース (19日・17日)
◆下平評
2022/11/20 (安保の行方 サイバー)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15479435.html?ref=pcviewer
戦争は、サイバー空間から始まる
【写真】海上自衛隊サイバー対処部隊と米海軍による共同訓練が6月末、ハワイの米海軍施設や護衛艦「いずも」内などで行われた。海自サイバー部隊が海外で共同訓練するのは初という=海上自衛隊HPから
ロシアによるウクライナ侵攻で、軍事介入しないと宣言した米国。だが、サイバー空間での対ロシアのサイバー戦には積極的に「参戦」し、主導している。
「米国は攻撃的、防御的、そして情報戦の、全領域にまたがる一連の(サイバー)作戦を実行した」。米国家安全保障局長官で米サイバー軍司令官でもあるポール・ナカソネ陸軍大将は今年6月の英メディアのインタビューでこう明かした。米軍がウクライナ支援で攻撃的サイバー手法を使ったと認めるのは極めて異例だ。
「攻撃的サイバー手法」とは何か。相手国内のサーバーなどに侵入して活動を監視し、発信源を特定して、時にはデータを消去したり、サーバーを破壊したりする行為を意味する。
■ウクライナ侵攻前、米は「参戦」していた
米国はロシアによる侵攻前の昨年末までにウクライナへ要員を派遣。ロシアのサイバー活動や潜在的な脅威を探り、あらかじめ攻撃を阻止する「Hunt Forward(前方追跡)作戦」を実施した。
クリミアに侵攻した2014年に比べると「今回のロシアのサイバー攻撃は低調」(自衛隊幹部)との見方が強い。その理由をサイバー戦に詳しい大澤淳・中曽根平和研究所主任研究員は「米軍とIT企業がウクライナで展開したサイバー作戦が功を奏した」と見る。
近年では武力衝突前からサイバー戦が展開される。政府も年内に改定する国家安全保障戦略にサイバー能力強化を盛り込む方針だ。
政府は「サイバー空間でも専守防衛が前提。関係する国内法、国際法を順守する考えに変わりはない」(河野太郎元防衛相)と抑制的な立場をとってきた。
かつて米国から米軍の「Hunt Forward部隊」を日本に派遣したいと打診されたが、断った。
自民党は国家安保戦略改定に向け、4月にまとめた提言で「アクティブ・サイバー・ディフェンス(積極的サイバー防衛)」を提唱。「受動的な対策にとどまらず、反撃を含む能動的な防御策」が必要だとし、「現行法令等との関係の整理」を政府に求めた。
「積極的サイバー防衛」を実施する条件や手続きをどう定めるか。監視や諜報(ちょうほう)が市民に及び、個人情報やプライバシーが侵されることはないのか。そして米国が世界で展開するサイバー作戦に加わるのか。政府・与党内では導入論ばかりが先行し、そうした議論が積み残されている。(編集委員・土居貴輝、同・佐藤武嗣)(2面に続く)
▼2面=(安保の行方 サイバー)
「積極的防衛」日本は手探り
国境越えた攻撃増「対応には限界」
【図版】サイバー攻撃対処のイメージ
積極的サイバー防衛で議論されている「相手サーバーへの侵入」で、何が明らかになるのか。その一端をうかがえる出来事が、2015年にあった。
日本年金機構へのサイバー攻撃で、約125万件の年金加入者情報が外部に流出。捜査に着手した警視庁は数日後、東京都港区にある海運会社にたどり着いた。その会社のサーバーは乗っ取られ、年金機構が感染したウイルスに指示を出す司令塔になっていた。
捜査関係者によれば、サーバー内の痕跡から、中国系ハッカー集団の関与を裏付ける情報がいくつか判明した。サーバー経由でウイルスに指示を出していた攻撃源のパソコンの情報まで把握できたという。事実が明らかになった背景について、捜査関係者は「日本国内にサーバーがあったため、捜査できた数少ない事例だ。攻撃者特定につながる材料も見つかる」と話す。
ただ、現在の日本の国内法では、海外にサーバーがあり、相手国が捜査の協力依頼を受け入れなければ、手が出せないのが現状だ。
それでは国境を越えたサイバー活動は国際的に認められるのか。米国は、平時は内政干渉や武力行使に該当しない程度のサイバー攻撃を他国に仕掛けても国際法違反にはならないとの立場をとる。
昨年5月、米東海岸のコロニアル・パイプライン社が、ハッカー集団「ダークサイド」からランサムウェア攻撃を受け、石油パイプラインが停止した。米政府は非常事態を宣言し、ハッカー集団が利用したサーバーを司法省などが追跡し、パイプライン社が支払った暗号資産の大半を回収した。迅速な対応の背景には、事件前から、海外も含めた相手の活動を監視していたことがあるとされる。
日本を狙ったサイバー攻撃も増加している。総務省によれば、サイバー攻撃関連の通信数は3年間で2・4倍に膨らみ、防衛省幹部も「現状では、高度化・巧妙化するサイバー攻撃への対応には限界がある」と話す。政府・与党が「積極的サイバー防衛」を模索するのもこうした背景がある。 (編集委員・須藤龍也、同・土居貴輝)
■監視・プライバシー侵害、懸念
ミサイル攻撃をめぐる「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の議論と同様、「積極的サイバー防衛」の導入にも課題は多い。
海外から武力行使の一環としてサイバー攻撃を受ければ、自衛権を発動して反撃できるというのが政府の立場だ。ただ、どの程度のサイバー攻撃が「武力行使」にあたるのか。どの程度のサイバー反撃なら適当なのか。その線引きは、国際的にも定まっていない。
サイバー攻撃は、攻撃者が個人なのか、国主体なのかを特定するのは難しい。このため、攻撃される前から相手のサイバー活動を探知・監視し、ネットワークに侵入して攻撃を阻止する積極的サイバー防衛の必要性を説く声も根強い。
ただ、システムへの侵入や通信傍受が、市民に対する監視やプライバシーの侵害につながる懸念もある。
憲法21条や電気通信事業法では「通信の秘密の保護」が規定され、本人の承諾なくデータへのアクセスを禁じた「不正アクセス禁止法」などがある。政府・与党内には「攻撃者を監視・傍受するには、現行法の改正が必要になる」(自民党国防族)と個人の権利に一定の制限をかける必要があるとの声があがる。
米国では2001年の同時多発テロを機に愛国者法などを根拠に、テロ対策名目で国家安全保障局(NSA)が外国人だけでなく、米国市民の通信データを大量に収集。「PRISM(プリズム)」と呼ばれる極秘の大量監視プログラムで個人の情報を収集・監視していたことも発覚した。
国内外から批判を浴び、15年に米国自由法を定め、NSAによる情報収集活動を制限した経緯がある。
自民、公明両党の今月9日の実務者協議では、積極的サイバー防衛が議題になったが、協議後、公明党の浜地雅一衆院議員は、「具体的な話まで詰めていない」と語った。個人情報やプライバシー保護の議論が、後回しにされている。(松山尚幹、編集委員・佐藤武嗣)
■内閣官房・自衛隊・警察…縦割りの壁
日本では、サイバー攻撃に政府全体で対処する態勢も整っているとは言い難いのが現状だ。
サイバー攻撃は、相手が個人か、国家か、国家と関連のあるハッカー集団か、特定が困難だ。また、その行為が犯罪か、テロか、武力行使か判別も容易でない。このため、防衛省・自衛隊のネットワークが直接攻撃されない限り、平時は、「犯罪」として原則、警察が対応している。
警察庁は今年4月、サイバー警察局とサイバー特別捜査隊を発足させ、サイバー犯罪捜査の強化を図る。一方、防衛省・自衛隊も今年3月、従来の組織を改編して「自衛隊サイバー防衛隊」を新たに編成した。
ただ、防衛相経験者は「海外からのサイバー攻撃で、警察と自衛隊の情報共有もなく、意思疎通すらできていない」と語る。
内閣官房には、省庁などのサイバー攻撃事案の監視を担う内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)がある。ただ、ここでも警察と自衛隊の出向者の情報共有が不十分で、「省庁や民間企業への注意喚起が主な役割になっている」(関係者)という。
積極的サイバー防衛を導入して、海外に潜む攻撃者を特定(アトリビューション)するには、高度な技術が必要となる。さらに、攻撃者の特定を公表するかについては高度な政治判断が求められる。
政府は司令塔機能の強化を図ろうと、NISCを発展させた組織の再編成を検討しているが、省庁間の縦割りと技術力の壁は厚い。(松山紫乃)
◆下平評
とんでもないことが国際間で起こっていた。 由由しき問題である。
2022/11/19 田中宇の国際ニュース解説
世界はどう動いているか 新しいニュース (A11月19日・B11月17)
A
ウクライナ戦争を世界大戦に発展させる
https://tanakanews.com/221119ukraine.htm
【2022年11月19日】「ロシアが、NATO加盟国であるポーランドをミサイルで攻撃した」という歪曲話を「事実」とみなし、ロシアを敵として4条から5条への発動に進むと、米国が主導するNATOとロシアが世界大戦に突入する構図ができあがる。11月15日のミサイル騒動は、米露が戦う「第三次世界大戦」を引き起こす捏造された引き金になりかねなかった。
解説
2022年11月19日 田中 宇
11月15日の午後、ポーランドの対ウクライナ国境近くのプシェボドフ村に1発のミサイルが着弾し、村の2人が死亡した。ミサイルはウクライナから飛んできたものだった。ロシアとの戦場になっているウクライナの上空は、防空レーダーなどによってNATOに詳細に監視されている。ウクライナからポーランドに飛んだミサイルは、瞬時にNATOによつて確認され、即時にポーランドを含むNATO加盟諸国に伝達されたはずだ。だがポーランド政府(外務省)は事件発生後まもなく、着弾したのは「ロシア製のミサイル」だと発表し、ポーランドに駐在するロシアの大使を呼びつけて詰問した。 (NATO’s hair trigger: The Polish missile incident was a close brush with nuclear annihilation) (2022 missile explosion in Poland - Wikipedia)
実のところ、着弾したのは「ロシア製」でなく、ロシアの前身であるソ連が開発したS300地対空迎撃システムのミサイル(5V55)だった。S300はソ連時代にロシアやウクライナなど旧ソ連諸国に配備され、ウクライナは冷戦後にソ連から独立した後もそのままS300を使用し、ミサイル部分は自国のキエフ工場で製造してきた。ポーランドに着弾したのは「旧ソ連が開発したウクライナ製のミサイル」だった。ミサイルの胴体部分にはウクライナ語で製造番号などが記載されており、プシェボドフ村に着弾し爆発したミサイルの破片もウクライナ語の製造番号が読み取れた。ポーランド政府が着弾の現場を調べて「着弾したのはウクライナのミサイルのようだ」と言い直したのは事件発生から1日たった後で、それまでポーランド政府は不正確なロシア犯人説を言い続けていた。 (NATO Admits Zelensky 'Openly Lied' About Poland Strike as Observers Slam Kiev for Pushing for WW3) (Missile incident was Ukrainian ‘provocation’ - Polish politician)
ウクライナ戦争の戦闘がNATO加盟国に飛び火したのは2月の開戦以来、これが初めてだった。ポーランド政府はロシアを非難するだけでなくNATOにも連絡し、加盟国であるポーランドの安全が脅かされているので条約の第4条を発動して対策を協議してほしいと要請した。「ロシアがミサイルを撃ち込んできたので、NATOとして反撃するかどうか協議してほしい」という意味だ。NATO4条の協議は、集団的自衛権の行使である5条を発動する際の前提となる。「ロシアが、NATO加盟国であるポーランドをミサイルで攻撃した」という歪曲話を「事実」とみなし、ロシアを敵として4条から5条への発動に進むと、米国が主導するNATOとロシアが世界大戦に突入する構図ができあがる。11月15日のミサイル騒動は、米露が戦う「第三次世界大戦」を引き起こすための「トンキン湾事件(ベトナム戦争を誘発した捏造の事件)」になりかねなかった。 (Deep breaths: Article 5 will never be a flip switch for war) (Analysts: Poland Operating on 'Hair Trigger' Seeking Any Excuse to Drag NATO Into Ukraine Conflict)
NATOの事務局や米国は結局、ロシア犯人説を採用しなかった。ポーランドに着弾したのがロシアでなくウクライナのミサイルだったことは着弾した瞬間からNATOのレーダーに映っており、NATOや米国がロシア犯人説を採用しなかったのは「常識」で考えると当然だ。だが、常識が通らず、ウソと非常識が次々に延々とまかり通るのがウクライナ戦争だ。ポーランド政府は、レーダー情報などから、着弾したのがウクライナのミサイルだったことを最初から知っていたはずだが、意図的にそれを無視してロシア犯人説をとった。NATOや米国も、ロシア犯人説こそ正式採用しなかったが、誰が撃ったのかわからないという姿勢をとり、米国側のマスコミがロシア犯人説を喧伝するのを誘発した。 (Ukraine and western allies at odds over missile that exploded in Poland) (US says Russia ‘ultimately responsible’ for Poland missile incident)
NATOや米国は、ポーランド政府がウクライナ犯人説に転向するのと前後して「着弾したのはウクライナのミサイルのようだ」と言い出した。ウクライナ犯人説が優勢になったが、それで確定したわけでなく、この事件の全容は曖昧なままだ。11月15日、ロシア軍がウクライナのエネルギーインフラをミサイル攻撃しており、露軍が飛ばしてきたミサイルをウクライナ軍がS300で迎撃している時に、迎撃用ミサイルの1発が正しく発射されずポーランドに飛んでしまった可能性がある。米高官の中には「だから今回の事件で悪いのはロシアだ」と言っている者がいる。民間専用の設備を破壊すると戦争犯罪だが、露軍が攻撃したのは軍民共用の設備なので戦争犯罪にならないという説もある(ウクライナがロシアのインフラを攻撃してきたので露軍が報復した)。どちらにせよ、ウクライナ軍が発射した迎撃ミサイルの1発がポーランドに着弾したことは、NATOもポーランドもウクライナもレーダーで瞬時に知ったはずだ。それをウクライナがすぐに認めて発表していたら、今回のような世界大戦につながりうる事態にならなかった。 (Russian experts explain why NATO brushed the Poland missile incident under the carpet) (Kyiv Demands Access To Poland Blast Site, Doubles Down On 'Russian Attack' Narrative)
ゼレンスキー大統領のウクライナ政府は、事件発生後すぐにロシア犯人説を声高に言い出し、翌日にポーランドがウクライナ犯人説に転向した後もロシア犯人説に拘泥し、転向したポーランドに対して「ウクライナのミサイルだというなら証拠を見せろ」と言い続けた。NATOや米国がウクライナ犯人説に傾き、米高官がウクライナ政府に電話してロシア犯人説への拘泥を批判したと報じられた後、ようやくゼレンスキーはこの件について沈黙した。ウクライナではメディアの論調がゼレンスキーに批判的になったが、ゼレンスキーは批判的なメディアを潰しにかかっている。 (Washington reprimanded Kiev over missile incident - CNN) (Zelensky cracks down on popular news outlet as repressions against media intensify in Ukraine)
こうした経緯からして、ミサイルがポーランドに飛んだこと自体は偶発的な事件だったとしても、その直後に米政府の担当者がウクライナとポーランドに連絡してロシア犯人説を採らせた可能性がある。米国は2014年の政権転覆(マイダン革命)以来、ウクライナ政府を傀儡として動かしている。レーダーの記録や現場のミサイル破片の製造番号など、物的証拠があまりに明白なのてポーランド政府が転向し、はしごを外されて犯人扱いされたゼレンスキーが「証拠を見せろ」と騒ぎ、米当局者が電話して黙らせた。そんな経緯が感じ取れる。 (Did Ukraine Try To Trick NATO Into Starting World War III After It Accidentally Bombed Poland?) (Zelensky Backtracks After Urging NATO Action For Polish Border Blast)
ロシアは戦争プロパガンダの戦いでは、米英にボロ負け、というか不戦敗している。今回のミサイル騒動で、ロシア犯人説は引っ込められたもののウソと確定しておらず、ロシアへの濡れ衣は晴らされていない。4月初めの「ブチャ虐殺事件」も、ロシアに濡れ衣がかけられたままだ。今回ロシアにかけられた戦争犯罪の濡れ衣はいくつもあるが、いずれに対してもロシアがあまり反論せずに話が終わっている。 (市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア) (濡れ衣をかけられ続けるロシア)
2014年7月にウクライナ東部のドネツク上空を飛んでいたマレーシア航空機MH17便が何者かに撃墜された事件について、オランダの裁判所が11月18日に、ウクライナ軍でなくロシア人らの仕業だと結論づける判決を出した。ウクライナ政府は、当日のレーダーの記録を裁判所に出すことも拒否しており証拠を隠匿しているが、オランダの裁判所はウクライナ(と米NATO)に味方してロシア側の犯行と断定した。実際のMH17便は、ウクライナ内戦でウクライナ軍が撃った流れ弾に当たって墜落した可能性が高い。ロシアは判決を非難している。この濡れ衣も晴らされないままだ。 (MH17撃墜事件:ひどくなるロシア敵視の濡れ衣) (Moscow Slams Dutch Court's Politically-Motivated Verdict in MH17 Trial) (You Can't Escape The Fourth Turning's Winter Of Death)
ロシアはプロパガンダの戦いで連敗しているが、戦場の戦いではおおむね優勢だ。「名を捨てて実を取る」の観がある。露軍は巧妙な攻撃でウクライナのエネルギーインフラの半分近くを破壊し、ウクライナはこれからの厳冬期、多くの地域で居住不能になり、国民の戦意喪失と難民化が加速する。ウクライナは厳しい戦いを迫られている。今後の厳冬期に居住不能になるのはウクライナだけでなく、ロシアからの石油ガス輸入を急減したドイツなど西欧諸国も同様だ。ドイツでは燃料不足が悪化して停電も予測され、市民生活が困難になり、経済成長が止まって自滅的な退化が進んでいる。ウクライナ戦争は世界大戦の懸念すら高めてしまい、ドイツなど欧州にとって何の利得もない。欧州人は馬鹿だ。 (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) (Ukraine - Switching The Lights Off) (Ukraine Has Lost 40% Of Energy System As Kyiv Sees First Snow, Freezing Temps)
露軍は10月後半、ドニエプル川右岸のケルソン(ヘルソン)から撤収してウクライナ軍に明け渡しており、これが「露軍の惨敗」として米国側で喧伝されている。だが、ロシアはウクライナで長い戦争を予定しており、露軍とウクライナ露系住民の犠牲を最小限にするため、ウクライナ軍が米欧から支援されてしつこく攻撃してくる場合は撤退するようにしている。ウクライナ戦争が長引くほど、ドイツなど欧州の自滅が進み、欧州が対米従属とロシア敵視をやめて親露・非米側に転換する可能性が強まる。欧州の非米化が、ロシアと米多極派が共有するウクライナ戦争の隠れた目標になっている。 (Escobar: Sun Tzu Walks Into A Kherson Bar...) (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) (濡れ衣をかけられ続けるロシア)
B
◆債券金融システムの終わり
https://tanakanews.com/221117credit.php
【2022年11月17日】1980年代から米英を中心に世界に資金を大量供給してきた「債券金融システム」が終わりにさしかかっている。このシステムは、1972年のニクソンショックによる金本位制の崩壊後の状況を利用して構築され、1980-90年代に開花・拡大した。だが、拡大はバブル膨張でもあり、2000年代になるとバブル崩壊し始め、2000年のIT株バブル崩壊、2007-08年のサブプライムローン危機からリーマン倒産で信用不安を引き起こし、いったんシステム破綻した。その後、米欧日の中央銀行群が造幣した資金で債券を買い支えるQEを開始し、破綻した債券システムを蘇生したように見せかけて延命させた。この延命体制は現在まで続いているが、かなり行き詰まっている。
解説
2022年11月17日 田中 宇
1980年代から米英を中心に世界に資金を大量供給してきた「債券金融システム」が終わりにさしかかっている。このシステムは、1972年のニクソンショック(金ドル交換停止)による金本位制の崩壊後の状況を利用して構築され、1980-90年代に開花・拡大した。だが、拡大はバブル膨張でもあり、2000年代になるとバブル崩壊し始め、2000年のIT株バブル崩壊、2007-08年のサブプライムローン危機からリーマン倒産で信用不安を引き起こし、いったんシステム破綻した。その後、米欧日の中央銀行群が造幣した資金で債券を買い支えるQE(量的緩和策)を開始し、破綻した債券システムを蘇生したように見せかけて延命させた。この延命体制は現在まで続いているが、かなり行き詰まっている。 (The End Of World Dollar Hegemony: Turning The US Into Weimar Germany)
米英中銀は2020年春、新型コロナでへこんだ経済を立て直すためにQEを大膨張させた。米国やカナダの金融当局内では、コロナ危機が一段落したらQEで増やした中銀の資産総額を元に戻す(QEをやめてQTを進める)約束だったようで、コロナ危機が一段落した2021年後半からQE停止・QT開始の要求が強まった。超愚策なコロナ対策の都市閉鎖などにより、欧米では流通網が詰まり、2021年春からインフレがひどくなった。米政界などでは、QEがインフレをひどくしているという(間違った)批判が広がった。加えて2022年2月からのウクライナ戦争で行われた対露制裁が大失敗して欧米のインフレが加速し、これもQTと利上げを続けろという米英中銀に対する要求の強まりになった。QTや利上げは、リーマン危機後の債券システムの延命策を行き詰まらせ、インフレが激化した今年に入ってシステムが再崩壊する感じが強まっている。 (Von Greyerz Warns Of "$2.5 Quadrillion Disaster Waiting To Happen")
1944年に作られたブレトンウッズ体制(ドルの米覇権体制・基軸通貨制)は、金地金のドル建て価格を固定する金本位制で、それは米政府の健全財政を前提とし、政府支出拡大などでドルを過剰発行すると体制が破綻するものだった。戦後の米覇権は英国(諜報界)が黒幕であり、英諜報界は冷戦まで起こして米覇権を無理やり英国好みのかたち(米国好みの多極型でなく米英中心体制)にした。米国側(CFRなど)はこれを嫌い、米政府に金遣いを大盤振る舞いさせてドルを過剰発行させ、ブレトン・ウッズ体制を自滅させて1972年のニクソンショックを起こした。ドルは金地金に見放されて大幅に減価し、金地金から見たドルの価値はその後の8年間で20分の1に(1オンス38ドルから800ドルへ)下がった。米国側の思惑通り、ドルの米覇権はいったん壊れた。 (World Dollar Hegemony Is Ending (And That May Be A Good Thing))
だが金ドル交換停止は、見方を変えると、ドルが金地金の束縛を解かれ、自由に過剰発行して良い新体制の誕生を意味した。日独など世界の大半は、米国の覇権崩壊を望まず、ニクソンショックでドルが崩壊した後もずっと対米従属して経済取引を続けることを望んでいた。こうした世界の需要を活かし、米金融界と英諜報界は、米国がドルや債券を過剰発行し続け、それを日独など世界に買わせ続ける新体制を作り出した。世界が債券を買ってくれるので、米英は、あらゆるもの(クズ資産など)を担保に債券の種類と発行総額を急増した。クズ資産やジャンク企業の債券が崩壊しそうになると、金融界が資金供給して救済して金利上昇・信用失墜を防止し、金利全体をずっと低い状態に保った。低金利(リスクプレミアムが低い状態)が続く限り、クズを担保に債券を発行して資金を増やす錬金術的な体制を続けられた。これか債券金融システムのうまみだった。 (The Treasury Market Is The Fed's Next Crisis)
米英は、作った資金の一部を使って信用取引で金相場を下落・抑止させた。ニクソン・ショック時の1オンス38ドルから、1980年に800ドルまで高騰した金相場は、その後300-400ドルまで下がり、そのまま2008年のリーマン危機の前までずっと上昇抑止され続けた。1972年まで「資産の王様」「価値の中心」だった金地金は、1990年代以降、古臭い時代遅れの「野蛮な商品」に格下げされた。ドルが勝ち、地金は幽閉された。1970年代まで財政破綻していた英国は、債券金融システムを思いついて米国と一緒に拡大することで、経済の立て直しと、覇権の再獲得の両方を実現した。G7は、債券金融システムで覇権を蘇生した米英を、対米従属を堅持したい日独などが債券買い支えや市場介入で支援する「米英を支える会」風の覇権テコ入れ機関として作られた。G7が発足し、米英が債券金融システムを公式化(金融自由化策の開始)した1985年に、米覇権の蘇生が正式に始まった。 その後、アジアなど新興市場や発展途上諸国に債券金融システムを拡大しようとする動きがあったが、それは1997年のアジア通貨危機などで阻止された。債券金融システムはもともと米英覇権蘇生のために作られたものであり、それがアジアなど(今でいうBRICS諸国)にコピーされていくと、中国などが力をつけ、米英覇権が崩れて世界が多極化しかねない。米英上層部の単独覇権主義者たちは、それを阻止するため1990年代にアジアや中南米で金融危機を起こした。日本の上層部は対米従属が大好きでやめたくなかったので、日本自身が債券金融システムを持たないようにする目的で、1990年代にバブル崩壊を引き起こして金融的に自滅した。日本はその後「失われた20年」を演出し、自国の発展を自ら阻止し続け、対米従属に安住した。
1990年代、米英は金融で覇権を蘇生し、新興市場諸国の債券金融化を止めるアジア通貨危機などを起こして多極化を防ぎ、ソ連は崩壊して米英中心の世界の最後尾についた。「(覇権争いの)歴史の終わり」が夢想された。だが実のところ、これは新たな破綻への道の始まりだった。アジア通貨危機で、アジアなど新興諸国に向かっていた資金は、行き場を失って米国側に逆流してきた。米国は金融バブルの膨張がひどくなり、2000年にIT株のバブル崩壊が起きた。その後も行き場のない資金が巨額に存在し、米国内の不動産担保(住宅ローン)債券市場が金融バブル膨張の行き過ぎとなり、2007年にサブプライム(優良以下)住宅ローン債券の市場がバブル崩壊した。これは広範な社債市場の凍結(取引急減、崩壊)を引き起こして長期化し、2008年のリーマン倒産で債券金融システムの全面崩壊になった。その後、自然にリスクプレミアムが低下することは二度となかった。 (Ex-Treasury Secretary Warns Of Deficit "Doom Loop", Says Fiscal Debates Need To Be "Back On The Table")
リーマン危機後、米金融界が全面崩壊をいったん認め、時間をかけて縮小再均衡を試みていたら、リスクプレミアムが再低下して債券金融システムの錬金術が蘇生していたかもしれない。だがその道は採られず、もっと近視眼的な、米連銀など中央銀行群が造幣して債券を買い支えて金利を人為的に引き下げるQE(量的緩和策)が行われた。金利はゼロやマイナスになったが、金融システムは、自然な需給関係が永久に戻らず、QEという生命維持装置によって形だけ生きている植物人間状態(死に体)になった。米欧日のマスコミ権威筋や金融界は、米英覇権主義勢力の傀儡なので、金融システム(金融覇権)が死に体になっていることを報じず、米金融が隆々と蘇生したかのようなウソばかり喧伝する「裸の王様」状態になった。それがリーマン危機後、今日まで15年間続いている。 (‘Fragile’ Treasury market is at risk of ‘large scale forced selling’ or surprise that leads to breakdown, BofA says)
米覇権を自滅させるイラクやアフガニスタンの泥沼の軍事占領や、シリア内戦を通じた中東覇権の米国から仇敵のはずの露イランへの移転、覇権放棄屋ドナルド・トランプの興亡(米中間選挙の不正)などをみればわかるように、米国上層部(諜報界)では、米英覇権主義勢力と、多極化勢力がずっと暗闘し続けている。この暗闘は経済金融部門でも行われている。倒産させる必要のなかったリーマンブラザーズを倒産させて金融危機を激化したのはその一例だ。リーマン危機後、米金融システム(金融覇権)がQE中毒の植物人間になったのを見て、多極化勢力は、これを放置すればいずれQEが限界に達し、金融覇権が再崩壊すると思っただろう。だが、10年経っても金融再崩壊は起きなかった。10年間のQEは米連銀の資産総額を10倍にした(1兆ドル以下から9兆ドルへ)。これは理論的に不健全だが、投資家など人々が実際に不健全だと思うかどうかは別だ。覇権主義勢力は傘下のマスコミ金融界に、QEや米連銀の資産急増が不健全でないと喧伝させれば、ほとんどの人が軽信し、連銀の資産勘定が20兆とか30兆ドルになっても問題は起こらない。多極化勢力は今回も負けてしまう。 (米金融界が米国をつぶす)
再敗北を防ぐため、多極化勢力はここ数年、いろいろやり出している。まず、2020年に始まった新型コロナ危機で超愚策な経済自滅の都市閉鎖を先進諸国にやらせ、都市閉鎖による経済停止の穴を埋めるために米英などの中銀群にQEを大幅増額させた。それまでQEに消極的だった英国やカナダの中銀群も、コロナ開始後にQEを急増した。そして、コロナの超愚策で経済が停止している状態を利用して、米諜報界の多極派が傘下の左翼労組などを動かし、米国などで国際流通網のボトルネックを悪化させ、2021年春からインフレを悪化させた。さらに、米傀儡のウクライナ政府に国内のロシア系住民への攻撃を強めさせてロシアの反撃を誘発して2022年2月からウクライナ戦争を起こし、米欧がロシアからの石油ガス資源類の輸入を厳禁する対露制裁の構造を作り、米欧のインフレや物不足を激化させた。 (無制限の最期のQEに入った中央銀行群) (Peter Schiff: The Fed Got Everybody Drunk On Cheap Money But The Party Is Over)
これらの構図の上に、米政界から米連銀に対し、インフレ対策としてQEをやめてQT(QEの巻き戻し)を開始し、利上げをせよという金融引き締めの圧力が強まった。米連銀はQTと利上げを続けている。コロナ危機も流通網の詰まりも対露制裁もずっと続くので、インフレはまだまだ終わらず、QTと利上げも続く。債券金融システムの維持には金利全体が低い状態を作り出すことが必要で、QTと利上げの長期化はシステムの破壊を引き起こす。金融システムは、すでにかなり破壊されている。だから、孫正義は金融投資をやめていくことを発表し、これからは半導体事業(アームなど)をやると言っている。ウクライナ戦争で作られた、米国側=金融力と、非米・中露側=現物の力・製造業や実体経済との対決は、現在進行中の米国側の金融崩壊によって、非米側の勝ちになる。孫正義はこの流れを察知し、注力する先を金融業から半導体製造業に移すと宣言したのだろう。 (SoftBank shares tumble after Vision Fund reports another big loss)
金融相場はまだ決定的な崩壊になっていない。大崩壊直前の状態で寸止めされている。長期米国債の金利が5%を大きく越え、ジャンク債の金利が10%を大きく越えて上昇していくと、金利が高止まりして不可逆的な大崩壊を引き起こし、債券金融システムと米金融覇権の終わりになる。大崩壊が今後いつ起きるかはわからないが、大崩壊が起きずに金融システムが蘇生していくことはない。きたるべき大崩壊は、米諜報界(深奥国家)の多極化勢力が意図的に起そうとしてきた動きだ。彼らは、米覇権を崩壊させて覇権構造を多極型に転換するという目的を達成するまで画策し続ける。コロナ超愚策や。ウクライナ戦争(対露制裁の失敗による非米側の台頭)などを見ると、多極派の目的が達成されつつあることがわかる。 (Stocks Sink As Yield Curve Tumbles To Biggest Inversion In 40 Years) (金融を破綻させ世界システムを入れ替える)
金融システムの周辺部分はすでに崩壊している。たとえば最近、仮想通貨が多くの銘柄で大幅下落し、今後さらに下がると予測されている。仮想通貨は「ドルなど政府管理の通貨に対抗する、政府が介入できない通貨」とされ、ドルの基軸性・覇権が低下するほど仮想通貨の価値が増すと言われてきた。だが実際には今年、QE中毒や長引くインフレ、対露制裁の大失敗などによってドルの基軸性が低下し続けても、ビットコインなど仮想通貨の相場は上がるどころか逆に下がり続けている。仮想通貨の価値の源泉は、ドルへの対抗性でなく、米金融界が債券発行などで作ったバブル資金で仮想通貨を買って相場をつり上げることだったと考えられる。今年、QTと利上げのの連続でバブル資金が急減しているが、これと並行して仮想通貨の価格も下がっている。仮想通貨は結局のところ「ドルの対抗馬」でなく、ドル(債券金融システム)が作った資金で膨張してきた「ドルの傀儡」に過ぎなかった。仮想通貨取引会社FTXの破綻を受け、以前から金融危機を予測してきた経済学者のヌリエル・ルビーニは、仮想通貨はひどく腐敗した存在だと指摘している。 (Crypto ‘totally corrupt’ – Nouriel Roubini) (Roubini Warns Of Imminent Dollar Crash: The Fed Is Going To "Wimp Out" In The Inflation Fight)
きたるべき金融の大崩壊が起こり、債券金融システムが不可逆的に崩れたら、それ以前に存在していた金本位制に戻るのか。金融の「専門家」たちは、そんなことあるわけない、金融システムはニクソンショックで金本位制を捨てた後、規模が大幅に拡大・膨張しており、金地金で支えられるような規模でない、と言ってきた。しかし、金融専門家自身が債券金融システムのバブル膨張を支える詐欺のために存在する傀儡勢力である。金地金についてボロクソに言うことは、専門家の詐欺行為の一つである。中国やロシアなど非米諸国は金地金を買い集めている。非米側は金地金の価値を重視している。そのことと、金本位制の導入とは別物だ。実際にこれから金融大崩壊が起きた後、金本位制に戻るのかどうかはわからない。まず、信用取引を使って金相場が不正に引き下げられている状況を解消せねばならない。それが達成されれば、少なくとも、国際決済や資産備蓄の一つの道具として金地金が使われるようになる。 (Establishment Supports Central Bank Gold Secrecy instead Of Exposing It) (金本位制の基軸通貨をめざす中国)