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続折々の記 2023 ①
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 06 】02/04
  30年…少子化対策、見えぬ効果  子育て家庭へ、手薄な現金支援
  児童虐待通告、また最多  昨年11.5万人、「心理的」が7割超
  13歳仲邑、最年少タイトル 囲碁・女流棋聖に   
     ロケット成長、驚異の13歳     
 2023/02/04
30年…少子化対策、見えぬ効果
予算増の転機3度、10兆円超に

子育て家庭へ、手薄な現金支援
   https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20230204000240.html
写真・図版 【図版】 わかりにくいので、上記URLを開いてみてほしい。

 少子化傾向が今後とも続き、社会経済への影響が一層深刻化しかねない――。政府の少子化対策にこう盛り込まれたのは約30年前。以来、数々のプランが名前を変えては打ち出され、子育て家庭向けの国と地方の予算も2020年度に初の10兆円規模になった。だが効果は見えない。どうしてなのか。

 「『異次元』とおっしゃるなら、本気でかつてない政策とかつてない規模の財源を投入していただきたい」

 3日の衆院予算委員会。立憲民主党の井坂信彦氏は政府に迫った。この日の同委の質疑でも、野党が追及を重ねたのは岸田文雄首相が打ち上げた異次元の少子化対策の中身だった。

 政府が少子化対策に本腰を入れたのは1990年。前年の合計特殊出生率が過去最低を下回り、「1・57ショック」といわれた。

 エンゼルプラン、新エンゼルプラン、子ども・子育て応援プランと立て続けに計画を連発。中身は「0~2歳児保育の充実」「仕事と子育ての両立支援」など、今と同じ内容が並ぶ。

 ところが、予算は大幅に増やされず、05年には合計特殊出生率が1・26にまで落ち込んだ。「本気度が足りなかった」。厚生労働省のある幹部は、過去の少子化対策をこう振り返る。

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 予算増へと向かう転機は3度訪れる。09年の政権交代と2度の消費増税だ。

 09年に政権を取った民主党は、それまでの児童手当より増額した子ども手当を導入。所得制限も撤廃した。現金による経済支援が強化された。

 一方、12年に政権を取り戻した自民党は、当時の安倍晋三首相の下、消費税率引き上げの財源を活用し、保育園を増やすサービスの拡充に力点を置いた。

 「17年度までに待機児童ゼロを目指す」。13年4月、安倍首相は待機児童問題を踏まえ表明。少子化対策とともに、出産や育児による女性の離職を防いで活躍できるようにするのを政権の「成長戦略の中核」とした。15年に「希望出生率1・8」を目標に掲げた。同年からの現物給付の伸びは安倍政権が保育園整備に注力した時期と重なる。

 たしかに保育園は増え、待機児童は減った。安倍首相の方針を受けた「待機児童解消加速化プラン」を始めた13年と、現在の保育園の整備計画「新子育て安心プラン」が始まった21年を比べると、全国の保育園などの定員は229万人分から302万人分へと1・3倍に。待機児童数は2万3千人から5千人台へと4分の1程度まで減った。

 19年には消費税率の10%引き上げ時に幼稚園や保育園を無償化。3歳以上の保育料はかからなくなった。

 子育て家庭を中心にした「家族」向けの予算は着実に増加した。90年度に約1兆5千億円だったのが、30年後の20年度は10兆円を超え、7倍近くに増えた。

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 それでも日本の子育てに関わる公的支出水準は他の先進国と比べ低いと指摘される。国内総生産(GDP)に占める割合では、合計特殊出生率が日本より高いスウェーデンやフランスとの差は大きい。際立つのは、現金給付の割合の低さだ。経済協力開発機構(OECD)の調査(17年)によると、日本の現金給付が占める割合は0・65%。英国2・12%、フランス1・42%で、スウェーデンの1・24%に比べても半分程度だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の調査で、理想とする数の子どもを持たない夫婦に理由を聞くと、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」との回答が、02~21年に5回あった調査でいずれも最も多かった。

 児童手当の所得制限はいったん廃止されたが、2年で復活。安倍政権でも消費税が児童手当増額に回されることはなかった。子育て家庭への現金支援が手薄だったことは否めない。

 「ひと言で言えば、財源がなかった」(内閣府幹部)。婚姻率(人口1千人あたりの婚姻件数)は89年の5・8から21年は4・1に低下。パートやアルバイトの男性で配偶者がいる割合は正規雇用の4分の1程度といった非正規雇用をめぐる対策も遅れている。

 中央大学の山田昌弘教授(家庭社会学)は「これまで本気でお金を使ってこなかった。この30年間のつけを今払っている」と話す。

 対策の中身も「都市部の既婚正社員女性向けで、一部の若者にしか届かなかった」とし、「非正規雇用者や低収入の未婚者向けの対策も所得制限の撤廃も全部やらないといけない。覚悟を決めて、子育て家庭にお金を回す負担増を我慢できなければ、つけを払い続けるしかない」と指摘する。

 厚労省幹部は反省をにじませて話す。「30年間の対策で、やっぱりダメだというのが見えた。サービスと現金の両方が足りないのかも。それぞれにとって子育ての苦労への『報われ感』がないと、効果は出てこないと思う」

 今国会では、児童手当の所得制限撤廃を求める与野党の声など、予算拡大の議論が目立つ。一方、限られた財源をどう使うかといった課題は置き去りのままだ。(久永隆一 西村圭史 藤崎麻里)

 ◇岸田首相が掲げた「異次元の少子化対策」をめぐり、国会をはじめとして様々な議論がされています。今後も児童手当などの給付、財源の確保や負担の方法、働き方や教育の支援といった少子化対策にかかわる課題を幅広く取り上げていく予定です。

 2023/02/05
児童虐待通告、また最多   昨年11.5万人、「心理的」が7割超

 児童虐待の疑いがあるとして警察が2022年に児童相談所に通告した18歳未満の子どもは11万5730人(暫定値)で、前年より7・1%増え、過去最多を更新したことが警察庁のまとめでわかった。

 児相への通告児童の数は、統計がある04年以降、一貫して増え続け、11年に1万人、20年に10万人を超えた。児童虐待への社会的関心の高まりを背景に、周囲の人らから警察への通報が増えていることなどが要因と警察庁はみている。コロナ禍の中、潜在化のおそれを指摘する声もあり、同庁は「情報の把握に一層努める」としている。

 警察庁の2日の発表によると、昨年の通告の内訳は、言葉による脅しや無視など子どもの心を傷つける「心理的虐待」が8万4951人(前年比5・8%増)と約7割以上を占める。心理的虐待では、子どもの前で配偶者らに暴力を振るうといった「面前DV」も目立つという。続いて、体を傷つける「身体的虐待」は2万656人(同7・7%増)、「育児放棄(ネグレクト)」が9801人(同18・5%増)、「性的虐待」が322人(同8・8%増)となった。

 児童虐待で親などを摘発した事件は、過去最多だった前年から3件少ない2171件と横ばいだった。

 一方、ストーカー事案の相談件数は前年比3・0%減の1万9129件で、依然高い水準にある。刑法違反などでの摘発が1639件(前年比3・7%増)、禁止命令に従わないなどのストーカー規制法違反での摘発が1025件(同9・4%増)だった。

 配偶者などパートナーからの暴力(DV)の相談件数も増加が続く。01年の配偶者暴力防止法の施行以降、ほぼ毎年最多を更新し、昨年は前年比1・7%増の8万4493件。摘発件数は前年比1・4%減の8582件だった。(編集委員・吉田伸八)

 2023/02/07
13歳仲邑、最年少タイトル 囲碁・女流棋聖に

写真・図版 【写真】会見で笑顔を見せる仲邑菫三段

 囲碁界に史上最年少の中学生チャンピオンが誕生した。6日の第26期女流棋聖戦の三番勝負第3局で、挑戦者の中学2年生、仲邑菫(なかむらすみれ)三段(13)が上野愛咲美(あさみ)女流棋聖(21)を破り、シリーズ2勝1敗でタイトルを奪取した。▼27面=驚異の成長スピード

 男女合わせてこれまでのタイトル獲得最年少記録は、9年前の藤沢里菜女流本因坊(24)の15歳9カ月。現在中学2年生の仲邑は13歳11カ月。藤沢の記録を大幅に塗り替えた。

 仲邑は2019年、小学5年生、10歳0カ月の史上最年少(当時)でプロ入り。“天才少女”として異例の無試験で採用され、急伸を遂げた。昨年は二つの棋戦で初タイトルに挑んだが、あと一歩及ばなかった。3度目の挑戦となる今回、藤沢とともに女流2強の一角を占める上野に競り勝ち、ついに頂点に立った。終局後、仲邑は「実力的にタイトルを取れたのは奇跡。まだ実感はないですけど、日々の努力が結果につながってよかったです」と話した。(大出公二)

▼27面=驚異の成長スピード
ロケット成長、驚異の13歳 囲碁・仲邑菫三段
   https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20230207000295.html
写真・図版 【写真・図版】仲邑菫三段の歩みは文字が小さいので、上記URLを開いて見てほしい。

 囲碁の仲邑菫三段(13)が6日、女流5タイトルのひとつ、女流棋聖戦を制して史上最年少のタイトルホルダーになった。4年前、鳴り物入りで囲碁界に迎えられた小学5年生の女の子は、いま中学2年生。大半のプロ志望者が夢の途上にいる年齢でプロの頂点に立った。▼1面参照

 ■母の分析 負けてこそ考える/父の指導 努力を信じて打て

 1勝1敗のタイで迎えた女流棋聖戦三番勝負の決勝第3局。昨年、日本の女子初の世界タイトルを獲得した上野愛咲美(あさみ)女流棋聖(21)を相手に、仲邑は上野が得意とする力比べにひるまず、戦い抜いて勝利した。

 4年前、プロ入り会見で掲げた「中学生のうちにタイトルを取りたい」という目標を遂げた仲邑は、終局後の取材に「適当なことを言っちゃったなと思ってたんですけど、がんばっていれば結果は出るのかなと思いました」と話した。

 快挙は最年少記録にとどまらない。倒した相手がすごい。挑戦者決定トーナメント決勝戦では藤沢里菜女流本因坊(24)も破った。藤沢と上野はそれぞれ女流二冠を保持し、男女競合の若手棋戦優勝など、活躍の舞台は女流の枠を超えている。「ふたりは歴史上、どの女流棋士も到達できなかったレベルにある」と、元名人の張栩(ちょうう)九段は言う。「そのふたりを倒し、ただタイトルを取ったという以上の意味がある」

 トップ棋士が一様に目をみはるのが、驚異の成長スピードだ。「伸びかたがふつうではない。彼女のエンジンはターボかと思ったけど、ロケットかな」。日本棋院の元棋聖、小林覚理事長は言う。

 昨年4月、初めてタイトルに挑戦した藤沢との女流名人戦三番勝負は0勝2敗でストレート負けした。「あのときは手も足も出なかった。自分に自信が持てなかったんですね」

 転機は昨年7月、2度目のタイトル挑戦となった扇興杯決勝戦の敗局にあると小林はみる。好敵手の牛(にゅう)栄子四段(23)を相手に必勝形を築き、AIも99%仲邑の勝ちと判定したが、大逆転で敗れた。勝ちを意識して緩み、焦り、立て直せなかった。涙を抑えられなかった。「あれでへこむか、なにくそと頑張るか。どっちに転ぶかと思ったら、想像を超えて伸びてきた。メンタルが格段に強くなった」

 母の幸(みゆき)さんは「今までも負けを力にしてきた部分がある」と言う。「なぜ負けたか考える。勝ったら満足して考えない。成長に関しては負けたほうがいい。くさってはダメですけど。娘はくさらなかった」

 先輩棋士の父の信也九段は、娘に「自分を信じろ」と言い聞かせてきた。食べる寝る散歩する以外、碁に打ち込んできた。膨大な努力の蓄積がある。自分を信じて打てば大丈夫だと。

 「でも相手が強いほど自分を信じるのは難しい」と幸さん。「娘は天才でもなんでもない。凡人です。だから信じて打てるだけの努力を日々しなきゃいけないねって言ってるんです。それは本人が一番わかってる」

 まだまだ成長途上の13歳。初タイトルはほんの一里塚にすぎない。
 (大出公二)

 ■将来、受けて立ちたい

 井山裕太本因坊の話 大変な快挙。成長が目覚ましいので驚きはしないが実際に結果を残すのは素晴らしい。伸びしろはかなりのもの。将来的には(男女競合の)七大タイトル戦などでもトップ争いが期待できると思うし、自分が受けて立てる立場でいたい。