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【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】02/01~
【 02 】02/01~
【 03 】02/02~
【 04 】02/03~
【 05 】02/05~
【 06 】01/27~
【 07 】00/00~
【 08 】01/27~
【 09 】00/00~
【 05 】02/01
02 01 31日のニュース
(1) 全日空・日航、搭乗認めず 米国便、入国禁止7カ国の客 国際団体周知で
(2) (トランプの時代)入国禁止、議会・司法が対抗
(3) (トランプの時代)圧力回避策、首相と協議へ トヨタ社長、週内会談
(4) 米入国禁止、欧州で批判 EUが対応を協議へ
(5) (社説)日米安保 「前のめり」では危うい
(6) (社説)米の入国規制 世界の分断を招く過ち
(7) (2030 SDGsで変える)「SDGs」日本が牽引を 国谷さん、国連責任者に聞く
(8) (2030 SDGsで変える)「自国第一」を超え、共に未来へ 国谷さんがインタビュー
(9) (2030 SDGsで変える)「新しいものさし」で考えよう
(10) 規制一つ設ければ二つ撤廃 公約実現へ大統領令 米国
(11) 米軍駐留経費、日本の負担率は 防衛省試算「86.4%」 米国防総省「74.5%」
(12) トランプ国会、首相守勢 入国禁止「コメントする立場にない」
(13) スタバ、難民1万人雇用へ CEO「5年間で」 トランプ氏に異議
(14) 米国務省、高官5人留任せず 政権と確執か 外交の空白に懸念
(15) イラン人監督、欠席表明 米アカデミー賞授賞式 米大統領令「私が例外でも許せない」
(16) (耕論)渦巻く偽ニュース ダン・ギルモアさん、五十嵐中さん、藤代裕之さん
(17) 高梨圧倒、85戦で50勝 歴代最多53勝も目前 スキージャンプ・W杯
(1) 全日空・日航、搭乗認めず 米国便、入国禁止7カ国の客 国際団体周知で
トランプ米大統領が大統領令で、中東・アフリカの7カ国の国民や難民の入国を一時禁止としたことを受け、全日空と日本航空は30日、対象の人の米国便への搭乗を原則として断る方針を決めた。国際航空運送協会(IATA)が、大統領令の内容を世界の航空各社に周知したことを受けた措置。▼3面=米議会・司法が対抗、7面=首相とトヨタ社長会談へ、11面=欧州でも批判噴出、14面=社説
IATAは世界の航空会社でつくる業界団体。強制力のある指示は出せないが、運賃などに関する共通のルールを決めたり、業界全体の指針をまとめたりする役割がある。仏エールフランスやKLMオランダ航空など欧州の航空会社も、同様の対応を取っている。
全日空と日本航空は、予約や搭乗手続きで対象7カ国のパスポートを持つ利用客だと判明した場合、搭乗できないことを本人に伝える。外交官ビザ(査証)や、北大西洋条約機構(NATO)のビザを持つ人は例外とする。
日航は当初、対象者から米国便への搭乗希望があってもすぐには搭乗を拒否せず、米担当当局に入国できるかを照会し、本人に知らせる対応をとるとしていた。だがIATAの動きを受け、対応を強めた。両社によると、30日夕の時点で、対象の人が搭乗を申し出たケースはないという。
一方、安倍晋三首相は30日の参院予算委員会で、「大統領令という形で米政府の考え方を示したものだろうと思う。私はこの場でコメントする立場にはない」と述べるにとどめた。菅義偉官房長官もこの日の記者会見で、「入国管理政策は基本的には(米国の)内政事項だ」とした。(伊藤嘉孝、岩尾真宏)
(2) (トランプの時代)入国禁止、議会・司法が対抗
トランプ米大統領が中東・アフリカの7カ国の国民や難民の入国を一時禁止した問題で、大統領令を無効にする動きが司法や立法の場で出始めた。アピール狙いで決定を急いだが、米政府の対応が二転三転した上、関係省庁への周知不足などもあり混乱に拍車がかかった。▼1面参照
■大統領令覆す法案提出へ/「違憲で違法」声明
「心が狭く米国になじまない。直ちに無効にしなければならない」。民主党のシューマー上院院内総務は29日、ニューヨークで難民とともに記者会見し、涙ながらに訴えた。大統領令を覆す法案を30日にも提出し、入国禁止解除を目指す考えを示した。
現在、連邦議会は上下両院とも共和党が多数を占める。シューマー氏は「共和党の何人かが賛同すれば、覆すことができる」と共和党議員に呼びかけた。
大統領令は、大統領が議会の承認を経ずに、行政に直接命令できる。ただ、議会は反対する法案で対抗でき、最高裁の違憲判断でも無効にできる。
司法の動きはあった。ニューヨークを含む計15州と首都ワシントンの司法長官が29日、大統領令を「違憲で違法」と批判する連名の声明を発表、無効を求めて提訴する考えを示した。
シューマー氏の呼びかけは、立法でも大統領令を無効にしようとする動きだ。焦点は与党・共和党の対応だ。同党のマケイン上院軍事委員長とグラハム上院議員は大統領令について、29日に連名で「米国はイスラム教徒に入国してほしくないとのシグナルを送り、テロリストによる勧誘活動を手助けする」と非難する声明を出した。
しかし、肝心の共和党執行部は黙認する構えだ。選挙期間中は、トランプ氏を「差別の教科書だ」などと批判したライアン下院議長は28日、「米国にどういう人物が入国するかを正確に知るためにすべきことを行っている」と擁護。共和党議員の大半も様子見の構えで、民主党が出す法案に何人が賛同するかは不透明だ。
■政権、二転三転で混乱
今回の大統領令では、政権側の発言が二転三転し、混乱を広げた。
大統領令には米国に永住権(グリーンカード)がある人の扱いの記載はない。米政府高官は28日、「ケース・バイ・ケースでの判断となる」と述べていた。しかし、永住権を持つ人が拘束されたことに批判が起きると、ホワイトハウスのプリーバス首席補佐官は29日、インタビューで「グリーンカード所持者に新しい負担をかける内容ではない」と発言。同日夜にはケリー国土安全保障長官が「永住権を持っている人の入国を認めることは国益にかなっている」と声明を発表し、原則として認める姿勢になった。
混乱の背景には、大統領令作成の中心を担ったスティーブン・バノン首席戦略官が、内容が漏れるのを恐れて関係省庁に中身を伝えていなかったことがある。ニューヨーク・タイムズによると、ケリー氏が内容を説明されたのはトランプ氏が署名する最中。入管当局も28日未明まで、実施についての指示を受けていなかったため、その場しのぎの対応になったという。
トランプ大統領は30日朝、ツイッターで「拘束されて尋問されたのは、32万5千人のうち、わずか109人だけだ」とつづった。一日の入国者数と比べて影響を受けた人が少ないことを強調した。(ワシントン=佐藤武嗣、杉山正、ニューヨーク=中井大助)
■米国民入国禁止、イラク国会要求
イラクの国会にあたる国民議会は30日、トランプ氏の出した大統領令に対抗するため、米国民のイラクへの入国を禁止する報復措置をとるよう、イラク政府に求める決議を全会一致で可決した。
イラク国内には過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いを支援する米軍人ら数千人の米国人が滞在。米国の石油企業もイラクでの原油生産に深く関わっている。このため、アバディ首相が実際に米国人の入国制限に踏み切るのは難しいとみられている。(ドバイ)
(3) (トランプの時代)圧力回避策、首相と協議へ トヨタ社長、週内会談
安倍晋三首相とトヨタ自動車の豊田章男社長が、2月10日の日米首脳会談を前に、週内にも会談する見通しだ。自動車をはじめ、対日貿易を「不公平」とやり玉にあげるトランプ米大統領から理解を得ることは共通課題。首脳会談でのトランプ氏の出方は見通せず、対応策を話し合うことになりそうだ。
豊田氏は、安倍首相が頻繁に会食する財界メンバーではない。異例のトップ会談は、それだけ日本側が困惑していることの表れともいえる。
トランプ氏は、巨額の対日貿易赤字解消に向け、二国間協議を迫る構えだ。28日の安倍首相との電話会談で「言ってきたことは全部やりたい」と明言。通商政策も話題になるとみられる首脳会談では、自動車産業などで日本が要求を突きつけられる可能性が高いと政府は身構える。
安倍首相は、投資額や雇用者数などを引き合いにして、日本がすでに米経済に「貢献」を重ねていると、トランプ氏に説明する方向だ。その内容を、豊田氏と話し合う構えだ。
政府は米国車の輸入拡大には慎重だ。世耕弘成経済産業相は30日の参院予算委で「輸入車に日本は関税をかけていない。安全基準も欧米日、まったく同じ扱いだ」と強調。1995年に日本国内で販売シェア2・6%だった欧州車が5・4%に伸び、米国車は逆に1・4%から0・3%に減ったデータを示し、「競争の結果だ」と語った。
米国の狙いについて、政府内では「投資を引き出すこと」(官邸幹部)とみて、日本から輸出していて利益も大きい高級車について、米国での生産を増やす検討は避けられない、との声もあがる。米国の貿易赤字が減り、雇用増にもつながるからだ。一方で、政府による企業経営への介入という批判も招きかねない。現地生産の増加は日本国内生産の減少につながり、自動車産業の裾野に広がる中堅・中小企業の雇用に影響が及ぶ懸念も大きい。(南日慶子)
■やまぬ批判に焦り
トヨタの豊田社長には、トランプ政権の圧力を安倍首相を通じて回避したい思いがありそうだ。適切な対策を見いだせない困惑も透けて見える。
トランプ氏は今月上旬、トヨタのメキシコ新工場計画をツイッターで「とんでもない」と批判した。これに対し、豊田社長は直後の北米国際モーターショーで、米国で今後5年間に100億ドル(1・1兆円)を投じる計画を発表した。
だが、同様の投資計画を打ち出したフォード・モーターやフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)にトランプ氏は「ありがとう」とツイートした一方、トヨタへの謝意はなかった。
批判を抑えきれたとは言えず、トヨタ経営陣の口数も少なくなりつつある。幹部の一人は「長い目で考えていくしかない」と話す。事態を進展させるためにも安倍首相との会談は重要だ。豊田社長はトヨタなどの日本メーカーが米国現地での生産や雇用を増やして「貢献」してきたことを改めて首相に説明し、トランプ氏に伝えてもらうよう要請するとみられる。
トヨタの別の幹部は30日、「自動車産業への日本経済の依存度を考えれば、トヨタだけの問題じゃない」と打ち明けた。首相や政府と業界が一丸となって摩擦回避に取り組む必要性を強調する。(山本知弘)
(4) 米入国禁止、欧州で批判 EUが対応を協議へ
トランプ米大統領が大統領令で中東・アフリカ7カ国の国民や難民の入国を一時禁止したことに対し、欧州でも批判が噴出した。▼1面参照
ドイツのメルケル首相は30日、ベルリンでの会見で、「テロとの戦いは、いかなる場合でも、特定の信条の人々に対し、一様に疑いをかけることを正当化しない。大統領令は難民を支援する国際法や国際協力に反する」と非難。二重国籍者の利益を守るため、「あらゆることをする」と強調した。
欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会の報道官は同日、定例会見で、法的な問題などの分析に入ったことを明らかにした。
ドイツのガブリエル副首相兼外相とオランダのクーンデルス外相は29日、連名で声明を発表し、「欧州では出身や信仰で人々に汚名を着せるような政策はとっていない。難民の保護は国際的な義務であることに疑いの余地はない」と指摘。米政府に説明を求める方針を示した。英国のメイ首相の報道官も、大統領令には「同意できない」とした。
また、欧州議員でベルギー元首相のフェルホフスタット氏は「西欧の価値と人権に反している。我々は無関心でいてはならない」とツイート。イタリアのジェンティローニ首相も「開かれた社会、多元主義、無差別は欧州の柱だ」と暗にトランプ氏を非難した。
一方、「自国第一」を掲げる欧州のポピュリスト政党は歓迎している。
EU離脱の旗を振った英国独立党(UKIP)のファラージ前党首は「トランプ氏はテロとどう向き合うかについて、フランスやドイツにアドバイスを求めてはならない」。移民排斥を主張するオランダ自由党(PVV)のウィルダース党首も「よくやった。それだけが、安全かつ自由でいるための唯一の方策だ。私も同じことをする」とツイートした。(ブリュッセル=吉田美智子
(5) (社説)日米安保 「前のめり」では危うい
安倍首相とトランプ米大統領が電話で協議し、日米同盟の重要性を確認した。2月3日にマティス国防長官が来日するほか、首相が訪米し、10日に首脳会談を開くことで合意した。
日米関係は、アジア太平洋地域の平和と安定に資する「公共財」でもある。両国が矢継ぎ早の意見交換でそれを確かめあうことは、日米のみならず地域にとっても重要なことだ。
一方で心配なのは、日本の防衛力強化に対する、首相の前のめりの姿勢が目立つことだ。
首相は施政方針演説で、日米同盟を「不変の原則」と位置づけた。参院での代表質問では、日本として「防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていく」と踏み込んだ。
「世界の警察官」をやめるというトランプ政権をアジア太平洋地域に引き留めるためには、日本としてもっと防衛負担を増やす必要がある。首相はそう考えているのかもしれない。
だが、トランプ政権の出方も見えないのに、先走って防衛力強化を打ち出すのは危うい。激変する国際情勢のもと、対米一辺倒で地域の平和と安定を維持することは難しい。
大事なことは、日米関係をどのように地域の「公共財」として機能させるのか、まず日米の認識をすり合わせることだ。
中国とどう向き合うか。韓国や豪州、東南アジア諸国などとどう協調していくか。
軍事にとどまらず、幅広い外交・安全保障の青写真を描くなかで、米軍と自衛隊の役割と能力を再検討する。日本として何をどこまで負担するかの議論はそこから始める必要がある。
在日米軍の駐留経費の増額要求に対しても、駐留がいかに地域や米国自身の利益になっているか、日米が認識を共有することがスタート台になる。
沖縄の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設も、日米両政府が強引に進めれば県民との分断を深め、日米関係を不安定にしかねない。トランプ政権の発足を機に、在沖海兵隊の規模と機能を再検討し、県外・国外への分散を進めるべきだ。
自由と民主主義、法の支配など普遍的な原則を重んじる。それも日米共通の役割である。
残念なのは、中東・アフリカ7カ国の国民の入国を一時禁止する米大統領令について、首相がきのうの国会で「この場でコメントする立場にはない」と述べるにとどめたことだ。
米国に過ちがあれば指摘し、責任ある行動を促す。そうした姿勢を世界に示すことも同盟国としての重要な使命である。
(6) (社説)米の入国規制 世界の分断を招く過ち
弾圧を逃れた人々が渡りついた自由の新天地。それが米国の成り立ちだったはずだ。
現代に至るまで移民国家として発展してきた大国が、いまや建国の理念を見失い、自由の扉を閉ざそうとしている。
トランプ政権の新たな大統領令である。テロの懸念がある国を指定し、その国民の入国を当面禁じた。シリア、イラン、イラクなど7カ国が対象となる。難民の受け入れも停止した。
各地の空港で拘束された人々がいる。待望の渡米前だった難民家族も、迫害や苦難の中に取り残される。米国に暮らす移民らも不安に突き落とされた。
あまりにも短慮で非寛容な政策というほかない。人道に反するだけではない。名指しされた国々が一斉に反発しており、世界の分断を招きかねない。
多くの市民が抗議デモをし、一部の州政府も異議を唱えている。ニューヨークなどの連邦裁は、国外退去を見合わせるよう命じる仮処分を出した。
米政界は、政権の暴走をこれ以上黙認してはならない。
議会が行動すべきである。野党民主党は対抗法案をめざす構えだが、上下両院の過半数をもつ共和党こそ責任を自覚すべきだ。米国にも世界にも傷を広げる過ちを正さねばならない。
この大統領令の題名は「外国テロリストの入国からの米国の保護」。対象となるイスラムの国々の人たちを一律に犯罪者扱いするかのように見える。
トランプ氏はかねてイスラム教徒への嫌悪を公言してきた。政権は否定しているが、トランプ氏のそうした認識が反映しているのは間違いあるまい。
オバマ政権はもちろん、ブッシュ政権もかかげたテロ対策の柱がある。それは、戦う相手は過激派なのであって、イスラムは友人である、との原則だ。
米欧のキリスト教世界と、イスラム世界との憎悪の連鎖が深まれば、世界の危険度は増す。その配慮からオバマ氏は文明間対話をめざしたが、トランプ政権にその理解はないようだ。
ここは国際社会も毅然(きぜん)と動くべき時だ。入国規制についてメイ英首相は訪米後に「同意しない」と表明。メルケル独首相とオランド仏大統領はトランプ氏との電話で直接懸念を伝えた。
「テロとの戦いであっても、特定の背景や信仰の人々をひとくくりに疑うことは正当化できないと首相は確信している」。ドイツ報道官は明言した。
身勝手な「自国第一」が蔓延(まんえん)すれば、それこそ世界の安全を脅かす。その流れを止める結束力が国際社会に問われている。
(7) (2030 SDGsで変える)「SDGs」日本が牽引を 国谷さん、国連責任者に聞く
気候変動やグローバル化で深刻化する問題に対応するため、2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs〈エスディージーズ〉)に、超大国の孤立主義という逆風が吹いている。国際協調の機運をどう守り、発展させていくのか。キャスターの国谷裕子(くにやひろこ)さんが、国連の責任者に展望を聞いた。▼2面=インタビュー詳報、5面=SDGsとは
トーマス・ガス国連事務次長補は、相互依存のなか、米国といえども一国だけでは課題解決は進まず、各国と共同であたる方が合理的だと指摘。国連を通じたこれまでの多国間の枠組みにより、国際協力の土台はゆるがないと強調した。
ガス氏は日本がSDGsを牽引(けんいん)するよう期待を表明。「力のある国として、貿易や金融、人の移動など世界の国々に関係する課題に、持続可能性を高める観点から一貫して取り組んでほしい」と述べた。
SDGsは、17分野の目標を2030年までに達成することにより、地球を持続可能で強靱(きょうじん)なものに変革することを目指す。働き方や消費のあり方、格差の是正、教育の質の確保、海や森の保護など、先進国が直面する課題が並ぶ。極度な貧困と飢餓の撲滅、妊産婦の安全など、従来の開発協力の目標も引き継いでいる。包摂性を重視し、「誰も置き去りにしない」を共通理念に掲げている。
◇このままでは地球がもたないという危機感が広がっています。朝日新聞社は「2030 SDGsで変える」をテーマに、17分野の課題の解決策を探ります。キャスターの国谷裕子さんをナビゲーター役に、動きを作り出している人たちを紹介していきます。
地球規模の課題については、貧困や感染症の対策に取り組むビル・ゲイツ夫妻とともに、企画特集「2030 未来をつくろう」をお届けしてきました。今後も読者のみなさんとともに考えていきます。
(8) (2030 SDGsで変える)「自国第一」を超え、共に未来へ 国谷さんがインタビュー
持続可能な開発目標(SDGs)をどう実現していくのか。キャスターの国谷裕子さんが国連の責任者トーマス・ガス氏に聞いた。SDGsは、世界が直面するさまざまな課題を2030年までに解決することをめざす。その実現には、すべての国々、企業、人々が取り組むことを求められている。▼1面参照
国谷 SDGsが定められて1年あまり。なぜこの目標が重要なのか、まだ市民に十分に伝わっていないのではないでしょうか。
ガス おっしゃる通りです。今、世界中で「自国第一」「壁を造ろう」などと掲げる孤立主義や保護貿易主義が到来しつつあります。それは、これまでの資本主義のあり方に市民がうんざりしているからだ、と言われています。こうした保護主義や孤立主義の台頭は、SDGsがまさに解決しようとしている問題によって起きているのです。
国谷 現在の資本主義のあり方が、さらなる問題を生んでいる。SDGsは、それを人間中心の資本主義へと変える、新しい手段だということですね。
ガス その通り。服、携帯電話、食べ物……。私たちが日々使っている物は遠い国で生産されたものです。国家同士の相互依存性はすでに非常に進んでいて、後戻りできません。閉じこもるのではなく、共に課題に取り組むべきです。
国谷 ですが、政治家や企業は短期的な利益に目を向けがちです。
ガス 一番重要なのは、若い人を議論の輪に入れることです。今の若者は、すてきなジャケットがほしいだけではありません。持続可能な形で生産されたものが欲しいのです。自分たちの将来を破壊することに加担したくないからです。指導者とこうした若い市民の間に新しい社会契約が結ばれて初めて、SDGsは実現できるのです。
国谷 世界中で内向きの政権が権力を握りつつある傾向は、SDGsに不利なのでは。
ガス 灯台は、晴れた日のために建てるのではありません。夜のため、嵐の日のためにあるのです。確かにこうした枠組みは今、試される時期を迎えようとしているのかもしれない。ですが、いずれ試されるものだとは分かっていました。今こそ、決意を試す時です。
国谷 トランプ大統領は以前、米国の環境保護規制を緩和させ、パリ協定から離脱すると発言しました。
ガス トランプ氏は企業家です。実業界では、地球が繰り返し送っている警告をもう無視できないという認識が広がっています。今のやり方を続ければ子どもたちの未来はない。多くの企業はこうした状況を理解するようになりました。ですから米国の逆行は想定されるほど激しくはならないと思います。
国谷 しかし米国は力のある大国です。トランプ氏が掲げる「米国第一」主義は、企業や各国政府に対して間違ったメッセージを送りはしないでしょうか。
ガス もちろん米国の大統領が、もっと強い形でSDGsやパリ協定を受け入れるのならば、その方がよかった。でも米国だけが国ではありません。中国はとても熱心で、SDGsや持続可能な開発を前面に打ち出しています。ほかの国にとっては主導権を握り、米国に追随するよう促す機会なのです。米国は力のある国ですが、日本も同じ。大変に重要な国なのです。(構成・仲村和代、守真弓 写真・金川雄策)
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国谷裕子(くにや・ひろこ) 1993年~2016年、NHK総合「クローズアップ現代」を担当。近著に「キャスターという仕事」(岩波新書)。
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トーマス・ガス(Thomas Gass) スイス出身。国連職員としての経歴が長い。駐ネパール大使を務め、13年から国連経済社会局事務次長補。
■食品廃棄、削減に挑戦 日本でも年632万トン
まだ食べられるのに、捨てられる食べ物。それが食品ロスだ。日本では年間632万トン。国連食糧農業機関によると、世界では生産された食料の3分の1にあたる13億トンが毎年廃棄される一方で、9人に1人が栄養不足に苦しんでいる。
*
<豚の飼料に再生> 昨年のクリスマス翌日。サンタクロースとマスカットで飾られたロールケーキが、「グシャッ」と潰され歯車にのみ込まれていく。
神奈川県相模原市の「日本フードエコロジーセンター」(高橋巧一社長)にはスーパーや食品工場から廃棄食品が持ち込まれる。
140リットル入りの容器から食べ物が破砕機へ流れ落ちた。色つやのいいリンゴや黄色のパプリカ。容器にぎゅうぎゅうに詰め込まれ、大きな四角い塊になった大量のおにぎり。有名デパートのローストチキンとロブスターも投げ込まれた。
量が一番多いのが白いご飯だ。「なくならないよう多めに炊くため、大量に余るのでしょう」と担当者。
ここでは、廃棄食品から異物を取り除き、高温で殺菌後、乳酸発酵させて豚の液体飼料を製造している。
パンが山積みになった台車があった。1斤340円の「玄米食パン」や、イチジクが練り込まれた高級パン「カンパーニュ」。賞味期限は「12月27日」。期限切れまで、まだ1日ある。
この日、持ち込まれたのは34・4トン。いつもより約2トン多かった。
*
<気象で需要予測> 食品ロスの削減をビジネスチャンスにつなげようという動きも出ている。
前橋市の豆腐メーカー「相模屋食料」には平日1日1回、「焼き豆腐指数」がメールで届く。作成しているのは日本気象協会(東京都豊島区)だ。
今月21日の東京の焼き豆腐指数は84。前日の92より少し下がった。「昨日より暖かくなって、スーパーからの受注も減りそう」。生産計画担当の鈴木隆元(たかゆき)さん(26)はコンピューターに製造予定数を打ち込んだ。
以前は特売情報を集め、経験と勘で製造量を決めた。予測が外れて余れば廃棄せざるを得ない。
日本気象協会は3年前、寄せ豆腐の売り上げは夏に伸びることに着目。真夏日が続く期間より、20度台から30度に上がり前日との気温差が大きい日によく売れることが分かった。この「体感温度」予測と受注実績からはじき出したのが、夏の「寄せ豆腐指数」と冬の「焼き豆腐指数」だ。
相模屋食料では指数を活用し始めて、製造量と受注量のずれが約3割減った。鳥越淳司社長(43)は「食品メーカーである以上、廃棄は必ず出る。食品ロスの削減は使命として続けないといけない」と語る。
日本気象協会は現在、食品メーカー6社へ需要予測を提供。プロジェクトを発案した中野俊夫技師(41)はさらなる展開を見据える。「小売りや流通、企業グループの壁も越えて気象でつながれば、食品ロスやコストをもっと減らせる。全体にとって利益が出る仕組みを作ってこそ、うまく回ると思う」(藤田さつき)
◇
朝日新聞デジタルでは、国谷さんによるガス氏へのインタビュー動画など、関連するコンテンツをまとめた特設ページ「SDGs 国谷裕子さんと考える」をオープンしました。http://t.asahi.com/mvjf別ウインドウで開きます
■SDGsの目標12番 「つくる責任、つかう責任」
持続可能な生産と消費のあり方を提言。食品ロスについては「2030年までに1人あたりの食料廃棄の半減」を掲げる。廃棄物のリサイクルや、自然と調和したライフスタイルも盛り込んでいる。
(9) (2030 SDGsで変える)「新しいものさし」で考えよう
国内の課題と、国境を越えて絡み合う問題。それらを同時に解決していくために国際社会が合意した「ものさし」が、持続可能な開発目標(SDGs)だ。個人の行動も重要な要素。買い物の仕方を考え、働きがいを追求することなどが、目標の達成につながる。
■日本の問題もつながっている
日本政府がまとめたSDGs達成のための具体的施策には、「子どもの貧困対策の推進」「東日本大震災からの復興」など、国内でもよく耳にする話題が盛り込まれている。
実は、これこそが、SDGsとこれまでの国際支援の大きな違いの一つだ。
日々のニュースを見ていると、先進国と途上国の問題が決して切り離されたものではないことを実感させられる。国を追われる難民、米国や欧州で高まる排外主義や孤立主義、干ばつや大洪水といった異常気象――。一見、関係ないように見えても、実はどこかでつながっている。
だから、途上国を支援するだけでなく、先進国の人たちも自らの足元から暮らしを見直し、課題に取り組もうというのが、SDGsが掲げる理念だ。
例えば、日本で最近注目を浴びる「働き方改革」も、重要な課題の一つだ。
ブラック企業や長時間労働が話題となり、働く人たちは疲弊している。その背景にあるのは、グローバル化が進んで競争が激しくなっていることや、海外で安い労働力を使って生産された安い製品が入ってきていることだ。途上国の人たちにとって安全で働きがいのある環境ができることは、【人や国の不平等をなくそう】(目標10)という狙いだけでなく、先進国で【働きがいも経済成長も】(目標8)追求することにも通じる。
日本では、女性活躍がさけばれる一方、妊娠・出産を理由に退職を迫られるなど不当な扱いを受ける「マタハラ」や、育児に積極的な男性が昇進や昇給の機会を奪われたりする「パタハラ」も話題にのぼる。共働きを続けるために不可欠な保育所の待機児童問題も深刻だ。自分が抱える問題についてひとりひとりが声をあげることは、【ジェンダー平等を実現しよう】(目標5)という思いをかなえる一歩になる。
■まず、今日の買い物で
日常生活の中にも、SDGsにつながる動きはたくさんある。短いサイクルで大量に生産されるファストファッションのおかげで、おしゃれな服を安く手に入れることができるようになった。一方で、まだ着られるのに捨てられたり、数回着ただけでたんすの肥やしになったりする服もある。こうした服を作っている国では、大量生産に伴う環境汚染や、働く人たちが酷使されていることも問題になっている。
そんな生活への疑問は、物にあふれた暮らしを見つめ直す「断捨離」ブームや、環境や持続可能性に配慮した「エシカル(倫理的)消費」への関心の高まりにも表れている。少し高くてもお金を出す消費者が増えれば、企業も変わっていく。【つくる責任、つかう責任】(目標12)が掲げる理念だ。
すでに多くの企業が、SDGsに向けた取り組みを始めている。資源も人材も、持続可能な仕組みを作らなければ、ビジネスを続けられないということが、見え始めているからだ。
今日の買い物の仕方を見直すことは、SDGsで未来を変えていくことにつながっている。
■地球維持する取り組み、伝えたい 国谷裕子さん、SDGsへの思い
「地球は人間なしで存続できても、私たちは地球がなければ存続できない。先に消えるのは、私たちなのです」
SDGsのとりまとめに奔走したナイジェリア出身のアミーナ・モハメッドさんから聞いたことばが忘れられません。
先ごろ国連の副事務総長に抜擢(ばってき)されたアミーナさんは、故郷でチャド湖を見ながら育ちました。けれども、彼女が子どものころ海だと思っていた琵琶湖の40倍もある大きな湖は、今は温暖化と灌漑(かんがい)の影響で消滅の危機にあります。
このままだと地球がもたない。その危機感から各国が共同で変革に取り組んでいくために産み出されたのが、SDGsです。
2年半に及ぶ多国間交渉でようやくまとまった国際合意なのですが、私は2015年9月に国連総会で採択される直前まで知りませんでした。番組作りのためいろいろなアンテナを張って情報収集をしていたのに、動きがあることすら知らなかった。とても恥ずかしく思いました。
採択目前に取材に入ったニューヨーク。SDGsの合意形成に関わった人たちの間には、地球の限界が見えてしまっているという危機感が共有されていて、SDGsを手がかりに、世界を変えていくのだという強い思いを感じました。
けれども日本では、SDGsは積極的に取り上げられませんでした。1年以上たった今も、よく知られていません。どこまでできるかわかりませんが、SDGsを伝えていく使命を感じています。
キャスターとして16年3月まで23年間、日本社会の課題と世界の変化を追いながら、ありとあらゆるテーマに切り込みました。そうしたなかで、ひとつの問題に向き合って解決策だと思ったことが、別の問題を引き起こすことがあり、課題解決の難しさを実感することが多くなっていました。
そんな私にとって、SDGsとの出会いは、とても新鮮でした。地球を維持していくための17の目標から逆算して、必要な行動を考える発想。互いに深いところでつながっている課題を解決するために、経済、社会、環境などをつなげてとらえ、統合的に解決していく手法。かつてない意欲的な取り組みに、大きな可能性を感じています。
SDGsに合致しているかどうかを問うことが、政治や経済、生活のありようを変えていく糸口になります。私たちは「新しいものさし」を、手に入れたのです。それを使いこなしていくことは、政府だけでなく、企業や市民にも求められています。
目標の達成に向けて、日本が弱いと指摘されている分野があります。貧困やジェンダー、エネルギー、気候変動などです。一人ひとりの認識が変わらなければ、達成は遠のくばかりではないでしょうか。
情報の発信と共有が必要です。私もメディアの一員として、SDGsを広めていくお手伝いができたらと思っています。
◆キーワード
<SDGs(Sustainable Development Goals)> 地球環境や経済活動、人々の暮らしなどを持続可能とするために、すべての国連加盟国が2030年までに取り組む行動計画。15年の国連総会で全会一致で採択された。
「誰も置き去りにしない(leaving no one left behind)」を共通の理念に、平等な教育、気候変動への対策など17分野からなる。「各国の所得下位40%の人々に国内平均より高い所得の伸びを実現」といった具体的な目標は、169項目に及ぶ。
国連は01年にも、貧困の削減などを目指す開発指針「ミレニアム開発目標」(MDGs)を策定。乳幼児死亡率の削減など、発展途上国が抱える問題を挙げ、解決策を探った。だが、その内容は先進国が決めており、途上国からは反発もあった。進展には地域の偏りなどの「見落とし」があったとも指摘された。
その後継として策定されたSDGsは、目標作りから途上国が参画。グローバル化した世界では途上国への開発支援だけでは問題が解決しないとの認識のもと、先進国が国内で取り組む課題を新たに盛り込んだ。ジェンダー平等の達成や、国内の不平等を減らすこと、効果的で責任ある包摂的な制度を構築すること、安全で働きがいのある仕事の提供など、日本も取り組むべき課題が入っている。
日本政府は昨年5月、安倍晋三首相を本部長とする「SDGs推進本部」を発足。企業やNGO、有識者を招いた「円卓会議」の意見を集約した上で、昨年末に、実施計画を発表した。
◆「2030 SDGsで変える」では、私たちの日常生活にもつながる地球規模の課題をどのように解決すればいいのか、読者のみなさんとともに考えていきます。
◇この特集は、北郷美由紀、仲村和代、守真弓、水沢健一が担当しました。
(10) 規制一つ設ければ二つ撤廃 公約実現へ大統領令 米国
トランプ米大統領は30日、規制緩和に関する大統領令に署名した。トランプ氏が就任前から掲げてきた、新たな規制を一つ作るごとに、古い二つの規制を撤廃するとの公約を実現する内容という。
米メディアによると、この大統領令によって、今年9月までの今会計年度で、予算を伴う新たな規制は執行できなくする。トランプ氏は署名にあたり、「米国がこれまで見てきた同様の規制緩和のなかで、もっとも大きなものになる」と話した。トランプ氏は就任前から、米国内に企業の投資を促して雇用を創出するため、オバマ前政権が進めた環境分野などの規制を撤廃する考えを示していた。(ワシントン=五十嵐大介)
(11) 米軍駐留経費、日本の負担率は 防衛省試算「86.4%」 米国防総省「74.5%」
日本の在日米軍駐留経費負担は「86・4%」か、「74・5%」か――。2月10日の日米首脳会談を前に、二つの数字が焦点になっている。日米両政府の説明する負担率が食い違っているためだ。
両政府は1960年の日米地位協定で、日米で分担すると明記。防衛省の試算によると、2015年度の経費は日米両政府分を合わせると2210億円。このうち日本の負担は1910億円で割合は86・4%だった。
04年に米国防総省が作成した報告書では、在日米軍の日本側負担割合は74・5%。防衛省幹部は「米側の算出根拠は不明で食い違っている」。2月3日にはマティス国防長官が来日。その1週間後には安倍晋三首相が訪米する。トップ会談で経費負担の問題が議論される可能性もある。(相原亮)
(12) トランプ国会、首相守勢 入国禁止「コメントする立場にない」
来月10日に会談するトランプ米大統領とどう向き合うのか。野党が安倍晋三首相を追及している。人権、通商、安全保障。日々、米国で新たな政策が打ち出され、「トランプ国会」の様相になるなか、首相が守勢に回る場面が目立っている。
30日の参院予算委員会はトランプ氏に関する質問から始まった。
民進党の蓮舫氏が、世界的な混乱・反発を招いている中東・アフリカ7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令を取り上げ、「自由の制限、報復措置、分断を生むような対応に懸念を感じるが、首相はどう考えるか」とたずねた。
「コメントする立場にはない」。首相は移動の自由などを侵害しかねない政策への具体的な言及を避け、「難民への対応は国際社会が連携して対応していくべきだと考えている」と述べるにとどめた。
野党側は首相の沈黙を相次いで批判した。
共産党の志位和夫委員長は、欧米の指導者らがトランプ氏を非難していることに触れ、安倍政権に対して「国際的道理に立って言うべきことを言う姿勢に立つべきだ」と求めた。民進の野田佳彦幹事長も記者会見で「日本も当然、懸念を持たなければいけない。単なるノーコメントというのは思考停止ではないか」と苦言を呈した。
今国会の審議で、日米関係をめぐって最も質問を集めているのが通商政策だ。
環太平洋経済連携協定(TPP)にこだわってきた首相が「二国間交渉についてもしっかりと交渉していきたい」と述べたことを、民進の福島伸享氏が27日の衆院予算委で「最初から二国間もあると言ったらトランプ氏の思うつぼだ。土俵に乗らない姿勢を示すべきだ」と批判。首相が「(TPP批准を)粘り強く働きかけていく、この姿勢は不動の方針だ」と語気を強める場面もあった。
ツイッター上でトヨタ自動車を名指しで批判したトランプ氏の手法については、野田氏が23日の代表質問で「乱暴なやり方に対して、政府としてきちんと物を言うべきだ」と指摘。これに対して、首相は「主張すべきは主張し、理解を深めていきたい」としつつ、「政治家であればSNSを活用することは不可欠という時代に我々は生きている」と述べ、トランプ氏の手法を擁護した。
トランプ氏が大統領選で在日米軍駐留経費の日本側の負担増に言及するなか、首相が25日に「我が国としても防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていく」と踏み込んだ発言をした安全保障政策。民進の前原誠司元外相は翌日の衆院予算委で、集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法を挙げ、「あれほど日米の間合いを詰めるべきではなかった。トランプ氏のような大統領が出てきたときに危険な任務を担わされることになる」と懸念を示した。(南彰)
(13) スタバ、難民1万人雇用へ CEO「5年間で」 トランプ氏に異議
米コーヒーチェーン大手のスターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)は29日、トランプ大統領が出した難民らの入国を制限する大統領令を受け、世界中で今後5年間に1万人の難民を雇用する計画を策定中だと明らかにした。
シュルツ氏は、ネット上に掲載した従業員向けのメッセージで「深い懸念と沈んだ気持ち、そして固い決意でこれを書いている」とした上で、「我々は、この国の良心やアメリカンドリームに疑問符がつくという、かつてない時代に生きている」と、トランプ政権の方向性に懸念を示した。
さらに、「戦争や暴力、差別などから逃れてきた人たちを歓迎し、5年間で1万人の難民を世界中の店舗などで雇用する計画を立てている」と明かした。
シュルツ氏はまた、「メキシコとの間に壁ではなく橋を架ける」と明言。メキシコのコーヒー農家などへの寄付や投資などを通じ、トランプ政権が検討している関税や入国制限などに対応する考えを示した。同社の従業員に対しては、「あなたたちの声と一票が何より大切になっている」として、政治家に個々の思いを届けるよう呼びかけた。(ワシントン=宮地ゆう)
(14) 米国務省、高官5人留任せず 政権と確執か 外交の空白に懸念
米国の外交を担う国務省の複数の高官が相次いで辞任していることがわかった。これまでの政権交代では、新体制が立ち上がるまでは、前政権の高官は残留することが慣例。トランプ新政権との確執も指摘されており、外交の空白が生まれる懸念が出てきた。
国務省当局者が明らかにした。辞任したのは、パトリック・ケネディ次官ら。ケネディ氏は1973年から職業外交官として勤務し、ブッシュ、オバマ両政権下で10年間にわたり、組織管理の責任者を務めてきた。
米ウォールストリート・ジャーナルによると、他にも4人の高官が立て続けに辞任した。一部は、トランプ政権から辞任するよう要求されたという。
いずれもオバマ前政権によって選ばれた政治任用の幹部だ。これまでも、新政権が前政権の幹部を交代させることはあった。しかし、新体制が発足するまでは留任することが一般的だった。(ワシントン=峯村健司)
(15) イラン人監督、欠席表明 米アカデミー賞授賞式 米大統領令「私が例外でも許せない」
2011年の「別離」で米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、最新作「セールスマン」が今年の同賞候補となっているイラン人映画監督、アスガー・ファルハディ氏が、2月26日に米ロサンゼルスで行われる授賞式に出席しないと表明した。米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。
トランプ米大統領が出した、イランなど7カ国の国民や難民の入国を一時禁止する大統領令への抗議だ。
ファルハディ氏は声明で、賞を主催する米映画芸術科学アカデミーが大統領令を批判したことに謝意を表明。授賞式への出席も考えたとした上で、「もし私の渡航が例外とされても到底許せない」「我が同胞と他の6カ国の人々に強制された不正を非難し、現下の状況が国家間の亀裂を深めないよう望む」とした。(テヘラン=神田大介)
(16) (耕論)渦巻く偽ニュース ダン・ギルモアさん、五十嵐中さん、藤代裕之さん
偽ニュースがあふれる状況を象徴する言葉、「ポスト・トゥルース(脱真実)」。米国でトランプ新政権が発足し、事実なんか関係ない時代にいよいよ入ったのか。
■信じたい時ほど懐疑的に ダン・ギルモアさん(アリゾナ州立大学教授)
米大統領選では、「ローマ法王がトランプ氏支持」「数百万人が違法投票」などの大量の偽ニュースがあふれ、選挙に影響を与えたのではないか、とも指摘されました。
選挙後には「ピザゲート」と呼ばれる陰謀論をきっかけに、ワシントンのピザ店で発砲事件まで起きています。
偽ニュースは、米国では、今に始まったことではありません。19世紀末のデマを含んだイエロージャーナリズムもそうでした。
変化したのは、ニュースを受け取る方法とその入手先が非常に拡大したことです。読みたいニュースだけを選び、それ以外は無視できる。メディア側も、唯一の関心は、人々が見てくれるか、クリックしてくれるかです。そこに、ネットで目を引く偽ニュースをつくり出す人々が現れた。
私は偽ニュースを、「ジャーナリズムを偽装して発信される、実際はウソの情報」と定義しています。それは、誤報とは別物です。誤報は間違いが原因ですが、偽ニュースは意図的なものです。
報道機関は多くの誤報を伝えてきたが、間違いに十分な対応をしてこなかった。その結果、信頼が失われて、人々が偽ニュースを信じる一因にもなりました。
私はシリコンバレーの地元紙のコラムニスト兼ブロガーを経て、大学でデジタルメディア・リテラシー(情報識別能力)の講義をしています。
本当に事実が顧みられない「ポスト・トゥルース」の世界になったのなら、私にできることはありません。だが、私はそんな世界がやってきたとは思わない。トランプ氏が言うことを、何でも信じるという人たちはいる。ただ幸い、それは多数派ではありません。
学生たちにはこうアドバイスしています。「フェイスブックなどで、信じたいと思う情報を目にした時ほど、より懐疑的に」。ネットで共有するのは、本文に目を通し、事実とわかってからだ、と。
世界が急に事実を重んじるようになるなら結構ですが、それは起きそうにない。現状を少しでも改善するために、リテラシー教育は必要です。
報道機関こそ、その役割を担うべきなんです。情報の選び方や確認の仕方など、報道機関には長年のノウハウの蓄積があります。それを読者と共有すれば、透明性の確保と信頼向上にもつながる。報道機関がこの数十年、リテラシー教育に取り組んでいれば、偽ニュース問題はこれほど深刻にならなかったでしょう。
私の大学では、フェイスブックと協力したリテラシー教育に取り組み始めています。フェイスブック、グーグルなどには膨大な規模の利用者がおり、リテラシーに関しても責務を負うべきです。偽ニュースを排除したい、と考えるのなら、今からでも遅くはないんです。(聞き手・平和博)
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Dan Gillmor 51年生まれ。著書に「あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術」「ブログ 世界を変える個人メディア」。
■データの出どころ意識を 五十嵐中さん(東京大学特任准教授)
民間療法や健康法など、科学的な根拠に乏しい医療情報は以前から流通しなかったわけではありません。あるがん患者が治った、あるいは体調がよくなったという「物語」を雑誌広告や口コミなどを通し強調する手法でした。
問題の多い内容が掲載されていることが昨年明らかになった医療・健康情報サイト「WELQ(ウェルク)」は、IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)が運営していたものです。検索サイトで上位になるよう、ネット上でよく用いられるキーワードを組み込んだ書き方を人為的にしていました。
例えば、有名ギョーザチェーン店名を挙げて、小麦アレルギーの危険性と結びつける記事です。小麦アレルギーの人がギョーザをわざわざ食べに行くとは思えませんから、アクセス稼ぎを狙った意図的な編集でしょう。
ネットの利用者は検索で上位に出てくれば、その情報を信頼してしまいます。情報が伝わるスピードも範囲も、昔とは桁違いです。その質はどうでしょう。1字0・5円とも報じられている安い原稿料ゆえ、外部筆者は既存記事の「コピペ」に頼りがちです。掲載したDeNAの責任は重大です。
昨年11月、ウェルクの記事に警鐘を鳴らす医師のブログを読んで、自分で検証しようと思い立ちました。医療制度のことなら、正解を突き止められる。実際、同じ「保険」の定義が途中で変わったり、重要な情報がまるごと抜けていたりといった矛盾や問題点がいくつも見つかりました。
日ごろ学生のリポートを読んでいるので、コピペの見破りは慣れています。問題の記事には、文章が妙にこなれていたり、専門用語が多かったりする特徴が見受けられ、「とされる」や「説がある」といった表現も目立ちました。五つのサイトからのコピペだったと結論づけました。
自分のフェイスブックに掲載したところ、大きな反響がありました。この問題はある意味、医療情報について考えるいい機会でした。検索サイトの順位をうのみにしない。例えば、がんなら国立がん研究センター、健康食品なら国立健康・栄養研究所といった、信頼できる情報がある。医療専門職が作っているサイトなら、引用元の論文を載せていて読み手がチェックできるかどうかが一つの基準になります。
私自身は専門外の情報についても、データの出どころはどこなのかを常に意識しています。加えて、絶対値の有無が重要です。0・1%が0・2%になるのも、50%が100%になるのも同じ「2倍」ですが、意味は全く違いますから。そして合わないと直感したら、すぐほかのデータを探すようにしています。(聞き手・川本裕司)
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いがらしあたる 79年生まれ。2年前から薬学系研究科で医療統計学を教える。共著に「『医療統計』わかりません!!」。
■企業の情報配信、責任伴う 藤代裕之さん(法政大学准教授)
不確実な情報や非科学的な情報、デマなどの偽ニュースは各国で関心をもたれる出来事やテーマに伴っています。
米国では大統領選。日本では東日本大震災や熊本地震で「有毒の雨が降る」「ライオンが逃げた」といったデマが流れた。最近では「肩こりの原因は幽霊」など非科学的、真偽不明なネット上の情報を寄せ集めた「キュレーションサイト」が問題になりました。
「ポスト・トゥルース」時代と言われるように拡大してきた要因は共通しています。
従来はニュースを扱うのはマスメディアだけでした。だがネットによって誰でも情報発信ができるようになった。するとネットに大量の情報があふれ、扱い切れなくなる。
そこでグーグルやフェイスブックなどのプラットフォーム(情報配信基盤)企業が、独自のプログラムで情報の自動選別をし始めます。情報を選別して利用者に届けるという従来、メディアが担ってきた編集機能です。しかし、メディアには情報への責任が伴いますが、プラットフォーム企業にはそんな意識はない。
そのビジネスは広告収入で成り立っています。より多くのアクセスが集まり、広告を表示できればいいわけです。そこに流れる情報が本当かどうかには、関心がない。それを判断するのは利用者の自己責任だ、と。ここに偽ニュース拡散の構造があります。
さらに、本物のニュースも偽ニュースも、フェイスブックなどのスマートフォンのアプリ上では同列に見えてしまう。見た目が皆同じだから、ニュースの発信者が誰か、虚偽かどうかも、利用者は明確には区別できていない。
これまで、情報の真偽を見分けるリテラシーが必要だと言われてきましたが、限界がある。情報配信を担っているプラットフォーム企業が、責任を負うべきだと思います。
ネット業界では、やらせの記事や口コミ投稿を用いて広告と気づかせずに宣伝をする「ステルスマーケティング(ステマ)」が批判を受け、私も業界団体「WOMマーケティング協議会」でガイドラインづくりの責任者として問題に取り組んだことがあります。
今回、日本でキュレーションサイト問題がこれだけ注目を集めたのは、運営していたディー・エヌ・エー(DeNA)などのプラットフォーム企業が、社会的な影響力を持つ存在になってきたということです。それに応じた情報配信に対する責任があることが広く理解されたと思います。
政治家を中傷する偽ニュースは日本にもありますが、米国ほどには注目を集めていない。ただ、既存メディアへの信頼低下と併せ、「ネットにこそ真実がある」という考え方は根強くあります。米国のようなことが起きる可能性は十分あるでしょう。(聞き手・平和博)
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ふじしろひろゆき 73年生まれ。ジャーナリスト。新著「ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか
(17) 高梨圧倒、85戦で50勝 歴代最多53勝も目前 スキージャンプ・W杯
15歳での初優勝から5年足らず。29日にルーマニアのルシュノフで行われた女子個人第12戦(HS100メートル)を制した高梨沙羅(クラレ)が短期間に積み上げた勝利数は、早くも50の節目に達した。世界トップクラスが競う国際スキー連盟(FIS)のW杯で、50勝を記録した選手は全種目を通じても数少ない。今季は49勝目を挙げてから調子を崩し、日本開催の4戦を含む5試合で優勝を逃して足踏みが続いたものの、女子ジャンプの第一人者がスキーの歴史にまた名を刻んだ。
FIS公式サイトによると、男女のW杯で通算50勝以上を挙げた選手はアルペン、ノルディックなど6部門で12人。その中でも高梨は85試合で50勝に届き、勝率は5割8分8厘と際立つ。ジャンプ女子では2位のサラ・ヘンドリクソン(米国)が13勝どまり。今季は新興勢力の台頭もあるが、高梨がこれまで同一種目内でいかに圧倒的な存在であり続けてきたかが分かる。
「今は女子ジャンプのレベルが上がって競争が難しくなってきている。その流れに置いていかれないように頑張りたい」と殊勝に語る20歳は、男女を通じジャンプ歴代最多の53勝も目前にした。 (AFP時事)