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【心に浮かぶよしなしごと】

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【 06 】02/01

  02 01 1日のニュース
        (1) 入国禁止、広がる反旗 米国務省・州政府・企業も トランプ氏、司法省トップ解任
        (2) トランプ氏、金融緩和批判 日本や中国に言及
        (3) 中国「租借」次々 インド洋
        (4) 「租借」99年、治外法権要請も スリランカ、中国企業が開発
        (5) 日本の防衛義務 首相、米に確認へ 日米会談
        (6) 竹島・尖閣「領土」明記を検討 小中学校の新学習指導要領
        (7) (トランプの時代)米政権「身内」から批判 解任の長官代理「合法と確信ない」
        (8) 米を刺激、避ける首相 入国禁止、首脳会談へ「信頼」重視 移民論争かわす思惑も
        (9) トランプ相場急落 東証は327円下げ
        (10) 日銀「米の方向性、注視」 成長率見通し引き上げ
        (11) 特例法へ、ひた走る自民 「皇室典範改正」党内に意見あるのに
        (12) マイナス金利、乏しい成果 導入決定1年 年金運用が悪化
        (13) 経団連会長「トランプ氏に現状伝えて」
        (14) 反入国禁止、行動で示す 英 国賓で招待反対、署名170万
        (15) 反入国禁止、行動で示す イスラム教団体 「空港で人権侵害」提訴
        (16) イラン、対抗措置表明 米国人のビザ発給停止 反入国禁止
        (17) NSC、バノン氏を常任に 安保に影響力強化か 行政経験なし
        (18) (インタビュー)外国人に国をひらく 元警察庁長官・国松孝次さん
        (19) 石原氏の責任再検討「私が考えた」 就任半年、小池都知事インタビュー
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 02 01 (水) 1日のニュース     



(1) 入国禁止、広がる反旗 米国務省・州政府・企業も トランプ氏、司法省トップ解任

 トランプ米大統領が出した中東・アフリカ7カ国から入国を禁止する大統領令に対し、政府内や政権と近い企業から批判の声が上がりだした。サリー・イェイツ司法長官代理(56)が大統領令の合法性に異論を唱え、解任された。国務省の一部外交官が反対を表明する準備を進めるなど、身内からも反旗の嵐が起きている。▼2面=「身内」から批判、3面=避ける首相、13面=英でデモや署名

 イェイツ氏は30日、声明で「大統領令が合法だという確信がない」とした上で、大統領令に従わないよう司法省に通知した。

 これに対し、ホワイトハウスはすぐに声明を発表。「イェイツ氏は米国民を保護するよう作られた命令を拒否し、司法省を裏切った」として解任。連邦検事のデイナ・ボエンテ氏を司法長官代理に任命した。

 外交を担う国務省の多くの職員が「米国の主要な価値観、憲法に反する」として、大統領令に反対する署名を集める動きもあり、すでに100人以上が賛同しているという。

 また、ワシントン州のファーガソン司法長官は30日、大統領令は信教の自由などを規定した憲法に反するとして、提訴することを明らかにした。

 反発の声は、トランプ氏と近いとされた企業にも広がった。トランプ政権の助言委員会メンバーでもある電気自動車テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はツイッターに「主にイスラム教の国からの市民を全面的に入国禁止にするのは、この国の課題に取り組む上で最善のやり方ではない」と書いた。

 ■首相、論評せず

 一方、安倍晋三首相は論評を避けている。31日の国会審議で、民進党の福山哲郎氏から「排外主義、差別主義との批判の声が上がるなか、自由や民主主義を標榜(ひょうぼう)する国の総理としてよいのか」などと追及されたが、「各国の入国管理政策は基本的には内政事項で、直ちにコメントすることは差し控えたい」と答えるにとどめた。2月10日に初の日米首脳会談を控えており、トランプ氏を刺激したくない思いがあるようだ。(ワシントン=佐藤武嗣、五十嵐大介)



(2) トランプ氏、金融緩和批判 日本や中国に言及

 トランプ米大統領は31日、「他国は、通貨やマネーサプライ、通貨の切り下げを利用し、我々を出し抜いている。中国がやっていることをみてみろ。日本がこの数年でやってきたことをみてみろ。彼らは金融市場を利用している」と話し、中国と並んで日本の為替政策を批判した。発言を受け、ニューヨーク外国為替市場では、1ドル=113円台前半で取引されていた円相場が一時1ドル=112円近くまで上昇し、約2カ月ぶりの円高ドル安水準となった。

 トランプ氏は、米大手製薬会社の首脳らとの会合に臨み、「他の国が通貨切り下げをして、米国企業が我々の国で薬を作れなくなっている」などと話す中で、日中の為替政策に触れた。

 発言は、日本が進めてきた金融緩和も批判したものとみられる。米国の大統領が他国の金融政策を批判するのは極めて異例。金融危機後、金融緩和は米国や欧州の中央銀行も進めてきた。景気が回復している米国が利上げに転じたことでドル高が進んでおり、輸出に不利となるドル高を牽制(けんせい)した形だ。トランプ氏は二国間の貿易交渉を重視しており、2月10日の日米首脳会談でも為替の問題が取り上げられる可能性がある。(ワシントン=五十嵐大介)



(3) 中国「租借」次々 インド洋

 インド洋に浮かぶ島国スリランカ。最大都市コロンボの海岸には16世紀以降、この島を植民地支配した欧州列強が設置した砲台が並ぶ。その目の前の海が埋め立てられている。

 工事するのは中国国有企業の子会社だ。2020年までに269ヘクタールを造成。道路や護岸などのインフラ部分を除いた178ヘクタールのうち65%に当たる116ヘクタールを99年間、同社が無償で借りる。

 中国企業による外国の港や土地の長期の借り上げは、パキスタンなどでも見られる。帝国主義の時代、日本や列強は中国に租借地の提供を迫った。100年余りを経て、中国が反対の動きをしているかのように見える。(コロンボ=武石英史郎) (12面に続く)



(4) 「租借」99年、治外法権要請も スリランカ、中国企業が開発

 (1面から続く) スリランカ最大の都市コロンボの海沿いを埋め立て、国際金融センターをつくろうという「コロンボ・ポート・シティー(CPC)」プロジェクト。開発を一手に担う中国の国有企業「中国港湾(CHEC)」の子会社の事務所は、英領時代の歴史的建造物「旧中央銀行」の上層階にある。

 取材に応じた営業担当幹部リャン・ゾウ・ミン氏が言った。「我々が投資しなければ、何の価値もない海だった。ただ魚がいるだけ。そこを埋め立て、都市をつくる。14億ドル(約1600億円)の資金も用意する。すべてこちらの負担だ。スリランカ政府単独ではできない」

 力関係はスリランカ政府との合意にも表れている。開発用地のうち、116ヘクタールを同社が99年間保有するため、政府が受け取るのは62ヘクタールにとどまる。

 完成は埋め立てが終わってから30年後。8万人が居住し、通勤者も含め25万人が活動すると見込む。周辺のインドやパキスタン、バングラデシュの富裕層を呼び込む考えだ。

 リャン氏は「ここではスリランカ国内とは異なる税制、法体系が適用され、裁判所も別の、いわば中国の香港のようになるかもしれない」と指摘。「スリランカ側が決めること」としながらも、何らかの治外法権を求める構えを示した。一方、投資を認可したスリランカ投資庁は「詳細は未定」と言葉を濁す。

 同社は「あくまで商業目的で軍事利用の可能性はない」と説明するが、すでに別の中国企業が管理している埋め立て地の北隣の埠頭(ふとう)には、2014年に中国の潜水艦が入港し、物議を醸した。

 開発にゴーサインが出たのは、中国寄りで知られたラジャパクサ前大統領の時代だった。14年の起工式には習近平(シーチンピン)・中国国家主席が立ち会った。

 しかし、翌15年の大統領選でラジャパクサ氏が敗北。シリセナ新政権は親欧米派で、埋め立て計画の白紙撤回を表明した。

 工事が中断されると、すでに1億ドル(約114億円)近くを投資していた中国側は、賠償金請求をちらつかせて強く反発した。再交渉の結果、16年8月に工事は再開された。中国側の取り分は、当初案よりも7%余り増えていた。

 ■11億ドル、債務免除と引き換え

 シリセナ政権が中国側に押し切られた背景には、前政権が中国から借りた巨額の債務がある。

 前大統領の地元の南部ハンバントタは04年末、インド洋大津波で5800人の死者を出し、壊滅的な被害を受けた。手をさしのべたのが中国だった。

 ペルシャ湾岸からマラッカ海峡へ向かう大型タンカーがすぐ目の前の海を行き交うシーレーン(海上交通路)上の要衝で、中国側が85%を融資して中継用の港を建設した。ほかにも、中国の融資で国際空港や高速道路網が造られた。

 当時、ラジャパクサ政権は少数派タミル人の武装勢力との内戦をめぐり、人権侵害や戦争犯罪を疑う欧米諸国と激しく対立。中国は、国際社会では貴重な頼れる存在で、融資額は14年までの5年間だけで3700億円に達した。

 港は10年に完成したが、利用する船の数はまったく伸びなかった。国際空港も同様で、定期便の発着は1日に1~2便程度。片側2車線の高速道路は、どこまで走っても他の車両とすれ違うことがほとんどない。

 巨費を投じたインフラが何の利益も生み出さないまま、中国側への借金の返済が始まった。国家歳入が100億ドル(約1兆1400億円)の同国で、対外債務の返済額は昨年の18億ドルから今年は24億ドルに急増。2年後には40億ドルに達する。港の建設資金の金利は最大6%を超え、金利がゼロに近い日本の円借款と比べて非常に高いのが響いている。

 結局、新政権は今年に入って、11億ドル分の実質的な債務免除と引き換えに、港の8割と周辺の土地6千ヘクタールを経済特区として中国側に貸し出すことを決断。ここでも期間は99年間だ。

 港近くの村では昨年の暮れごろから、地元役場の職員が「土地は収用する。ほかの場所へ移ってもらう」と通告し始めていた。今年1月、特区の起工式が行われると、地元住民らが反対デモを始め、20人以上が負傷。デモに参加した地元商店主アマラバシ・パティンゲさん(54)は「中国に土地を奪われ、支配される」と憤る。

 起工式を強行したウィクラマシンハ首相は前政権の失敗だと強調。「債務を帳消しにするには、ほかに方法がない」と話した。

 ■将来の軍事利用に疑念、インド洋沿岸

 中国による長期借地の動きは、インド洋周辺の各地で起きている。

 ペルシャ湾に近いパキスタン南部のグワダル港は中国の融資で07年に開港した。まったく利用されないまま、13年に港の運営はシンガポール企業から中国企業に移管された。15年には海岸の土地約800ヘクタールも約40年間、中国側が借りることが決まった。

 オーストラリア北部のダーウィンの港も、15年に中国企業が99年間賃借する契約が結ばれた。モルディブでは昨年、国際空港近くのフェイドゥフィノルフ島を、中国企業が50年間の長期契約で借りた。

 これらは、習国家主席が13年に提唱した陸と海のシルクロードを復活させる構想「一帯一路」の先行例と位置づけられている。

 構想の対象はアジアから西太平洋、中東アフリカ、欧州の60カ国以上にまたがる。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB、資金量1千億ドル)と、シルクロード基金(同400億ドル)が今後、資金提供を本格化する予定だ。

 対象国では強い期待感が広がる半面、案件選びは採算性よりも、将来の軍事利用など、中国の戦略的価値が優先されているのでは、との疑念もつきまとう。

 港のほか道路や発電所なども含め、総事業費約450億ドルの大半を中国側が投融資するパキスタンについては、国際通貨基金(IMF)が昨年、債務返済が今後重くのしかかるとの警告を出した。(コロンボ=武石英史郎)



(5) 日本の防衛義務 首相、米に確認へ 日米会談

 安倍晋三首相は31日、2月10日にあるトランプ米大統領との初の日米首脳会談で、米国による日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の重要性を確認する考えを示した。中国が海洋進出を強めるなか、日本政府は沖縄・尖閣諸島に条約が適用されるとの言質を得たいと考えており、首相発言はこうした狙いを念頭に置いたものとみられる。▼4面=焦点採録

 参院予算委員会で公明党の山本香苗氏の質問に答えた。首相は「日本にとっては日米安保条約5条が極めて重要だ。いざというときに米軍が来援して共同対処する基本は変わらない。条約は信頼関係があってはじめて実効性を持つものだということを改めて確認し、世界に示す会談にしたい」と述べた。

 さらにアジア太平洋地域の安全保障環境の変化に触れ、「一国のみで日本を守ることができないなか、最強の力を持つ米国のみがアジア太平洋地域でプレゼンスを確保でき、日本を守ることができる」とも指摘した。

 尖閣諸島が米軍の防衛義務の対象範囲となることを明言したのはオバマ前大統領。首相は日米同盟の意義について、「オバマ政権からトランプ政権になっても全く変わらない」との考えを強調した。(三輪さち子)▼4面=焦点採録



(6) 竹島・尖閣「領土」明記を検討 小中学校の新学習指導要領

▼4面=焦点採録 松野博一文部科学相は31日、教育目標などを定める小中学校の新しい学習指導要領に、竹島(島根県)と尖閣諸島(沖縄県)を「我が国固有の領土」と明記する方向で検討していることを明らかにした。指導要領に記載されれば初めてで、領土をめぐる政府の統一見解が、最低限教えるべき内容として位置づけられる。

 いまの指導要領は、中学校地理で北方領土を「我が国固有の領土」と記している。一方、竹島と尖閣諸島については、中学社会の指導要領を補う「解説」で「固有の領土」と明記。小中社会の全教科書は「日本の領土」と記述してはいるが、指導要領には明記していない。

 松野氏は31日の記者会見で「記載内容の充実に向けて、現在、検討を行っている」と述べた。新指導要領は3月末ごろに公表され、小学校は2020年度、中学は21年度から全面的に実施される。



(7) (トランプの時代)米政権「身内」から批判 解任の長官代理「合法と確信ない」

 トランプ米大統領が署名した中東・アフリカのイスラム圏7カ国からの入国を禁じる大統領令に対し、ついに政権内から反対の動きが噴出した。司法省のトップが憲法違反を示唆し、解任劇に発展した。距離が近いとみられていた大企業からも批判の声が上がるなど、「身内」からも反旗が翻り始めた。▼1面参照

 「私が司法長官代理である限り、司法省がこの大統領令を弁護するという意見を示すことはない」

 トランプ氏が大統領令に27日に署名してから、わずか3日後。司法長官代理のイェイツ氏は司法省内に通達を出し、公然と大統領令を批判した。

 同氏は検察官出身で、30年近く司法省に勤める法律のプロだ。2015年に、オバマ前大統領から司法副長官に任命された。トランプ政権が新しい司法長官に指名したセッションズ上院議員が米議会で承認されるまで、同省の事実上トップとなる長官代理の職を要請され、本人も受け入れた。

 トランプ政権でいずれ退任するとみられていたが、それでもイェイツ氏が声明で投げかけた言葉は重い。

 「常に公正を求め、正しいことを弁護するという司法省の厳粛な責務を果たし続けることを確実にする責任がある」と強調した上で、「この大統領令を弁護することが、私が果たすべき責任と矛盾しないという確信を持てない。大統領令が合法だという確信もない」と訴えた。

 大統領令に対しては、全米や世界で抗議の声が上がった。ニューヨークを含む15州と首都ワシントンの司法長官は29日、「大統領令は違憲で違法」と批判する連名の声明を発表。30日にはワシントン州の司法長官が差し止めを求めて提訴する方針を示した。

 こうした動きに対し、政府を代表して大統領令を弁護するはずの司法省のトップが、大統領令に従わないよう指示を出した。そのダメージは政権を直撃した。

 ホワイトハウス西棟では政権幹部が対応を協議。数時間後に声明を出し、「司法省を裏切った」「オバマ政権に任命されたイェイツ氏は、国境や不法移民に弱腰だ」などと批判し、更迭に踏み切った。これほどの激しい言葉で非難する政府の声明は極めて異例だ。

 就任11日目の解任劇は、トランプ政権の不寛容と強権ぶりを印象づけた。複数の米メディアは、ウォーターゲート事件で追い詰められたニクソン大統領が、自ら特別検察官に任命したコックス氏を解任した事案「土曜日の夜の虐殺」をもじり、「月曜日の夜の虐殺」などと報じている。(ワシントン=佐藤武嗣)

 ■国務省 数百人反対署名か

 大統領を支える主要な省庁でも、大統領令への反発や戸惑いが起きている。

 外交を担う国務省。ある外交官の男性のパソコンに30日午後、一通のメールが送られてきた。大統領令について「米国の主要な価値観、憲法に反する」と反対する内部文書が記され、「最終版」となっていた。「機微に触れるが、機密解除扱い」とも書かれ、賛同者の署名を募っていた。

 男性は、メールに自分の名前と肩書を打ち込んで、返信した。

 朝日新聞の取材に「憲法を順守すると誓約して外交官になった。でも、今回の入国禁止措置は憲法の趣旨に反している。大統領とはいえ、一人の人間が、変えてはならない米国の価値観がある」と語った。

 米メディアは、署名の人数は数百人に上る可能性を報じている。これに対し、ホワイトハウスのスパイサー報道官は30日の記者会見で、こうした国務省職員の動きについて「大統領の方針に従うか、(政府から)去るかのどちらかだ」と牽制(けんせい)した。

 しかし、男性はひるまない。「解雇はできないだろう。もし解雇するような政府になったのならば、その一員でいたくもない」。この点で、ほかの同僚とも考えは一致しているという。

 国防総省にも混乱は波及した。入国禁止の対象になったイラクは、政府治安部隊が米軍とともに過激派組織「イスラム国」(IS)と戦っている。大統領令は、その共闘関係に水を差しかねない状況だからだ。

 同省のデービス報道部長は30日、「我々と共に戦ったり、通訳として働いたりし、自らの命を危険にさらしてきた多くのイラク人たちがいる」と指摘。急きょ米軍に協力したイラク人のリストを作成し、入国禁止措置から除外するようにホワイトハウスに依頼するという。

 また、アリゾナ州の空軍基地では、イラク人パイロットが訓練を行っている。デービス氏は「大統領令の影響を精査中だ。多くのあらゆるレベルに広がっている」と語った。(ワシントン=杉山正)

 ■大企業 「様々な人いてこそ」

 大統領令への批判は米大企業にまで広がっている。

 米メディアによると、自動車大手フォード・モーターのビル・フォード会長とマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は30日、従業員向けの声明で「すべての人々への尊敬はフォードの基本的な価値観。こうした考えに反する政策は支持しない」と批判した。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルトCEOも29日、「様々な宗教、国籍、人種を持つ人々なしではGEは成り立たない」とするメッセージを従業員に送った。両社のトップとも、トランプ氏が1月に発表した、製造業活性化のための助言委員会に名を連ねている。

 トランプ政権に多くの幹部を送り込む金融大手ゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインCEOも29日、従業員へのメッセージで「多様性は我が社の証し。この政策は支持しない」と批判したという。

 移民の才能に頼ってきたシリコンバレーのIT企業も、声を上げ始めた。米メディアによると、グーグルはこれまでで最大規模になる400万ドル(約4億6千万円)の基金を設立。難民や移民のための国内外の機関に寄付する。

 ただ、トランプ氏はどこ吹く風だ。トランプ氏は30日、前日に民主党のシューマー上院院内総務が涙ながらに大統領令を「心が狭く米国になじまない」と批判したことについて「誰が演技のコーチか彼に聞く。昨日のはウソの涙だ」と批判。ツイッターでも「空港での重大な問題は、デルタ航空のコンピューターの機能停止とデモ抗議者ら、上院議員の涙に原因がある」と語り、問題の責任をほかに転嫁し続けている。(ワシントン=津阪直樹、宮地ゆう)

 ■EU議長、米政策に懸念

 米国のトランプ新政権について、欧州連合(EU)首脳会議のトゥスク常任議長(大統領に相当)は31日、「我々の将来を極めて不確実にしている」と批判した。2月3日に予定されているEUの非公式首脳会合を前に、英国を除く27加盟国の首脳にあてた書簡に記した。

 トゥスク氏は、EUが直面する脅威として、中国の海洋進出や、ウクライナ危機をめぐるロシアの侵略的な政策、イスラム過激派などによるテロと並んで、トランプ新政権による政策変更を明示。「過去70年の米国の外交政策に疑問を投げかけ、EUを困難な状況にしている」と懸念を示した。その上で「米国の友人に、我々の信条を思い出させなければならない。団結してこそ我々は立て、分裂すれば倒れる」と呼びかけた。(ブリュッセル=吉田美智子)

 ■イェイツ前司法長官代理が出した抗議声明(要旨)

 この大統領令には、多くの異議が申し立てられている。司法長官代理として、私には司法省の立場を決める最終的な責任がある。

 私には、司法省の立場が法的に正当であるだけでなく、すべての事実を考慮した最善の法解釈にもとづくことを確実にする責任がある。加えて、法廷での私たちの立場について、常に公正を求め、正しいことを弁護するという司法省の厳粛な責務を果たし続けることを確実にする責任もある。今のところ、私はこの大統領令を弁護することが、私が果たすべき責任と矛盾しないという確信を持てない。大統領令が合法だという確信もない。

 その結果として、私が司法長官代理である限り、適切であると確信できるまで、司法省がこの大統領令を弁護するという意見を示すことはない。

 ■新司法長官代理を任命したホワイトハウス声明(要旨)

 ◆イェイツ司法長官代理は米国民を保護する目的で定められた命令を拒否し、司法省を裏切った。この命令は司法省法律顧問室によって、その形式と合法性が承認された

 ◆オバマ政権に任命されたイェイツ氏は、国境や不法移民に弱腰だ

 ◆(入国を禁止した)7カ国からの人々への審査強化は極端なものではなく、合理的で国の安全確保に必要だ

 ◆トランプ大統領が任命したデイナ・ボエンテ新司法長官代理は「米国民と米国を守るため、法を執行する」と語った



(8) 米を刺激、避ける首相 入国禁止、首脳会談へ「信頼」重視 移民論争かわす思惑も

 トランプ米大統領による一時入国の禁止措置について、安倍晋三首相は「コメントする立場にない」と繰り返している。トランプ氏との個人的な信頼関係づくりを重視していることや、「移民の是非」論に踏み込みたくないとの思惑がうかがえる。ただ、各国首脳らには明快な意思表示もあり、「沈黙」を貫く首相の姿勢には疑問や批判の声が上がっている。▼1面参照

 「米国がどのような出入国管理を行っていくか注視しているが、ただちにコメントすることは差し控えたい」。首相は31日の参院予算委員会で、入国禁止を命じる米大統領令について問われ、こう語った。

 首相は前日の参院予算委でも「コメントする立場にはない」と論評を避けた。欧州首脳らが「大統領令は難民を支援する国際法や国際協力に反する」(メルケル独首相)などと正面から向き合う姿とは対照的だ。

 首相が口をつぐむのは、2月10日にワシントンでトランプ氏との初の日米首脳会談を控えていることがある。自民党幹部は「いま大統領令を論評すれば批判的にならざるを得ない」と指摘。米国の内外に広がる「トランプ批判」とは一線を画して「沈黙」を守り、トランプ氏に寄り添う姿勢を印象づけた方が得策との見方を示す。

 また、トランプ新政権の対日政策が不透明なことも影響しているようだ。

 トランプ氏はこれまで、貿易不均衡の相手国として「中国、日本、メキシコ」を繰り返し批判。特に日本の自動車貿易について「不公平だ」と不満を述べている。安全保障面でも大統領選で、在日米軍の駐留経費について「日本の100%負担」を要求。首相官邸幹部は「首脳会談はハードな交渉のスタートになる」と述べており、安倍政権としては今はトランプ氏を刺激したくないのが本音だ。

 さらに、欧州諸国と違い日本は移民を受け入れておらず、難民に厳しい規制を敷いていることもある。2015年は7586人の難民申請に対し、政府が認定したのは27人だけだった。

 首相は31日の参院予算委で「難民にどう対応していくかはその国が判断することだ。日本は日本としての出入国管理、難民に対する対応を行っている」と強調した。国論を二分しかねない「移民・難民受け入れの是非」論争は避けたいとの姿勢がにじんでおり、閣僚経験者は「移民を受け入れていない日本はトランプ氏の対応にとやかく言えない」と話す。

 一方、野党は首相の姿勢に批判を強めている。民進党の大串博志政調会長は31日の記者会見で「大統領令は人権や自由、平等、普遍的価値とかけ離れているのではないか。世界のリーダーが声を上げているのに、日本だけ遠慮しているのはおかしい」と訴えた。

 社民党の又市征治幹事長も、会見で「(トランプ氏との)電話会談でも何も触れていない。難民の受け入れはもっと前向きになるよう追及する」と語り、今後の国会審議で取り上げていく考えを示した。(岩尾真宏、安倍龍太郎)

 ■「人権の尊重」、伝えてほしい

 前嶋和弘・上智大教授(米国政治)の話 テロ対策はトランプ氏の選挙公約で、入国禁止措置は支持者向けのアピールにはなっただろう。だが、イスラム教国を敵視するかのような措置はテロの温床である憎しみを助長するだけで、根本的な対策にはならない。

 安倍政権も、トランプ政権には「自由と民主主義のリーダーとして人権を尊重し、より思慮深い対応をするべきだ」と伝えてほしい。ただ、尖閣諸島の防衛義務の確認や通商交渉など多くの懸案があり、2月10日の日米首脳会談を前に、なるべく米新政権を刺激したくないという判断なのだろう。 (聞き手・下司佳代子)



(9) トランプ相場急落 東証は327円下げ

 31日の東京株式市場では、トランプ米大統領による入国制限など排他的な政策への警戒感から、日経平均株価は急落した。終値は前日より327円51銭(1・69%)安い1万9041円34銭で、年初来で最大の下げ幅だった。昨秋の米大統領選でトランプ氏が勝利後に株高が続いた「トランプ相場」以降で最大の下げ幅となった。

 前日の米国市場の株安を受け、東京市場も朝方から下落基調だったが、トランプ氏による司法長官代理の解任が伝わり、午後に下げ幅が急速に拡大した。

 三井住友アセットマネジメントの市川雅浩氏は「(解任は)強硬なやり方で、貿易や外交問題でも同じ手法が用いられる懸念が広がった」。ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏は「これまでは期待先行の上昇。トランプ氏の『負の側面』が市場で意識され始めた」とみる。(神山純一)



(10) 日銀「米の方向性、注視」 成長率見通し引き上げ

 日本銀行は31日の金融政策決定会合で、実質経済成長率の見通しを引き上げた。トランプ米政権の経済政策が日本経済にも追い風となるとの見立てだが、鮮明になってきた保護主義的な言動は、日本や世界経済の大きなリスクになる可能性もはらむ。▼経済面=マイナス金利 乏しい成果

 日銀は同日、金融政策の「現状維持」を決定。3カ月に1度まとめる「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」も公表し、2016年度から3年間の実質経済成長率の見通しを0・2~0・4%幅引き上げた。

 新興国経済の減速懸念が後退し、米国の景気拡大が日本経済にプラスとなるためだ。足元でマイナス圏の物価上昇率は、来年度に一気に1%台半ばまで上がるシナリオを維持した。

 強気な見通しは、昨秋のトランプ氏勝利後の円安・株高による「トランプ相場」も影響している。日銀は展望リポートで「海外経済の上ぶれや円安などを背景に(成長率見通しは)上ぶれている」とした。黒田東彦(はるひこ)総裁は記者会見で、「(トランプ政権が掲げる)減税やインフラ投資は経済成長を押し上げる方向にいく」とし、「米国の政権運営は世界経済に大きな影響を及ぼす。方向性や影響を注意して見ていきたい」と述べた。

 ただ、トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を打ち出した。黒田総裁は「保護主義的な政策は世界貿易を縮小させ、世界経済の成長を減速させる恐れがある」と懸念を示す一方、「自由貿易の重要性は国際的に広く認識されているので、保護主義が広がる可能性は少ない」とも述べた。  今後の日銀の金融政策に大きく影響しそうなのが、トランプ氏のドル安志向だ。トランプ政権は各国との二国間交渉で、為替操作を制限する条項を盛り込む可能性を示唆している。緩和が続く日本と、利上げに動く米国の金利差もあって為替相場は円安ドル高傾向だ。黒田総裁は「日本の金融政策はあくまで物価目標の実現が目的だ」とするが、トランプ氏が日本に何らかの主張を突きつける懸念は消えない。

 市場ではトランプ氏への警戒感が強まる。みずほ証券の上野泰也氏は「日銀は強気の見通しだが、向かい風はもう吹き始めている」。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏も「トランプ氏の『影』がめだち始めており、今後は米国への投資が控えられてドル安円高が進む可能性がある」と話す。(藤田知也)

 ■日銀の新たな経済・物価見通し

       実質国内総生産(GDP)  消費者物価指数

2016年度 1.4(1.0)     -0.2(-0.1)

  17年度 1.5(1.3)      1.5( 1.5)

  18年度 1.1(0.9)      1.7( 1.7)

 〈数値はいずれも前年度比(%)。かっこ内は昨年11月1日時点の見通し。消費者物価指数は生鮮食品の影響を除く〉



(11) 特例法へ、ひた走る自民 「皇室典範改正」党内に意見あるのに

 天皇陛下の退位をめぐり、自民党は31日、党所属議員からの意見募集を締め切った。政府が検討する一代限りの特例法への支持だけでなく、退位を制度化する皇室典範改正を求める議員もいた。ただ、党の意見をまとめる懇談会には匿名で束ねられた形で報告されるだけ。少人数で結論を導き出そうとする党執行部への不満がくすぶる。

 自民党は党の意見をとりまとめるため、役員会メンバーを中心とする14人からなる「天皇の退位等についての懇談会」(座長=高村正彦副総裁)を設置。議員全体が参加できる議論の場は設けず、24~31日に書面で意見を募集した。個々の意見は匿名でまとめられ、懇談会に報告される。

 このやり方に異論が出た。村上誠一郎・元行革相は31日の党総務会で「名前を公表しても構わない。(個々の議員の)意見を一般党員に知らしめるべきだ」と主張。参院の執行部会でも、西田昌司・参院国対委員長代理が「大事なのは『公論』だ」と、議員が意見交換する場の必要性を訴えた。

 不満が出るのは退位実現への道筋をめぐる考え方に幅があるためだ。坂本哲志副幹事長は特例法容認。「皇室典範改正では時間的にも物理的にも困難。特例法で認めるべきだ」との意見を提出した。山下雄平参院議員は特例法を「今回限り」と認めたうえで、「人生100年時代を見据えた皇位継承のあり方を見いだしていく必要がある」と抜本的な議論を求めたという。

 一方、西田氏は皇室典範改正派。「国民的合意を重視して、皇室典範の改正で退位を認めるべきだ」との提出意見をホームページで公表した。石破茂・前地方創生相も「皇室典範の改正なしでは憲法に抵触する可能性が極めて大きい」と指摘したという。

 個々の議員にはこうした意見があるものの、執行部は懇談会で匿名化した意見をもとに特例法による退位実現でまとめる構えを崩していない。このため「執行部が考えればいい」(当選2回の衆院議員)などとして、意見を出さない議員も少なくないようだ。(二階堂友紀、藤原慎一)



(12) マイナス金利、乏しい成果 導入決定1年 年金運用が悪化

写真・図版 【住宅ローン金利と申込件数の推移】

 日本銀行が世界でも異例の「マイナス金利」政策の導入を決めて1年。その後の金利の急低下は、住宅ローンの借り換えなどでメリットをもたらしたが、消費や投資を大きく増やす効果は出ていない。金利低下による年金運用の悪化などの副作用も目立ち、政策への批判は今も根強い。

 ■住宅ローンにも陰り

 31日午前、新生銀行の窓口を訪れた公務員の男性(39)は、8年ほど前に他の大手行で組んだ自宅の住宅ローンを借り換えた。借入金利は1%ほど下がり、計約200万円の負担が軽くなるという。「金利が上がりそうなので、できるだけ早く申し込みたかった」

 日銀は昨年1月にマイナス金利政策の導入を決定。長期金利は1月の0・2%台から、2月にはマイナス圏となり、7月には一時、マイナス0・3%まで急降下。連動する住宅ローン金利も下がり、8月には過去最低水準となった。

 住宅ローンの申し込みは急増した。大手6行(三菱東京UFJ、三井住友、みずほ、三井住友信託、りそな、新生)の申込件数は、2016年の1年間で計約56万件となり、前年より3割増。中でも借り換え需要は旺盛で、前年の2・5倍になった。新規借り入れの15%増とは大きな差がある。新生銀行の担当部長は「借り換えの需要は落ち着いてきたが、最近は金利がやや上がっており、その前に借りようとする人もいるようだ」という。

 一方で、マイナス金利の「マイナス効果」も目立ってきている。長期金利の低下は、国債の利回り低下を意味する。安定資産として大量のお金を国債で運用する年金基金には、利回り低下のデメリットが直撃する。個人年金の商品の運用も悪化し、販売を中止する保険会社が相次いだ。

 ある大手企業の年金基金の幹部は昨春、年金運用の事務を担う信託銀行から、新たな手数料を徴収すると通告された。信託銀行は証券などの管理事務を行うが、運用資金の一部を現金で預かっている。しかしマイナス金利政策で、この現金にマイナス金利がかかりかねなくなった。そのため、年金基金に負担を求めた形だ。年金基金幹部は、「ただでさえ利回りが下がり、手数料までとられる。マイナス金利政策に良いことはない」と嘆く。

 昨年11月の米大統領選でのトランプ氏勝利後、長期金利は上昇傾向で、急速に伸びていた住宅ローンにも陰りが出ている。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は31日の記者会見で、昨年9月に長期金利操作の新政策を導入したことも踏まえて「マイナス金利導入後の政策運営は、必要かつ適切な政策だ」と強調した。しかし、金利低下が消費や投資を促し、賃金が上がり、物価も上がる、という循環はまだ見えてこない。(土居新平、真海喬生)

 ■不安をあおった

 東短リサーチ・加藤出氏の話 マイナス金利政策はうまく機能しなかった。日本では高齢化が進み、金利低下を喜ぶ人より、老後の暮らしの心配をする人のほうが多かった。将来不安を抱える社会では、やみくもに金利を下げることがプラスとは限らないことがはっきりした1年だった。

 年金運用の悪化など、国民生活に与える影響が大きい政策だが、決定時に丁寧に議論した形跡が見られなかったのも疑問が残る。

 異例のマイナス金利はもうやめたほうがいいのではないか。急激な金利上昇などの不安を市場に与えないように、タイミングを選ぶ必要があるが、少しずつ金利は正常化していくのが望ましい。

 ■消費低迷の一因

 BNPパリバ証券・河野龍太郎氏の話 マイナス金利で金利全体が下がり、借り入れコストが安くなり、投資が活発になる効果がなかったわけではない。ただ、大きく伸びたのは不動産で、節税目的のアパート建設を助長し、胸を張れる結果ではない。一方で副作用は大きかった。日本経済はそんなに悪いのか、と消費者心理を悪化させ、消費低迷の一因になった。金融機関や年金の収益悪化が懸念され、一時は株安・円高が進むなど金融市場も動揺した。

 金融緩和はやればやるほど効果が強まる、という考えは間違いだということがはっきりした。本来は成長戦略に邁進(まいしん)しないといけないが、再び財政の力を借りようという声が一部で盛り上がっているのは心配だ。(聞き手=藤田知也)



(13) 経団連会長「トランプ氏に現状伝えて」

 経団連の榊原定征会長は31日、大阪市での会見で、「トランプ米大統領は1980年代の日米貿易摩擦の頃の認識をベースに発言しているようにみえる」と指摘し、2月10日に予定される日米首脳会談で「安倍(晋三)首相から具体的なデータを伝えてほしい」と、トランプ氏に日本の自動車産業の現状を正しく理解することを促すよう求めた。



(14) 反入国禁止、行動で示す 英 国賓で招待反対、署名170万

 中東・アフリカ7カ国の国民や難民の米国入国を一時禁止する大統領令を出したトランプ米大統領について、英国への公式訪問招待に反対する動きが広がっている。英議会のサイトでは、招待に反対する請願への賛同署名が31日午後4時(日本時間1日午前1時)時点で約170万件寄せられた。ロンドン中心部では30日、大統領令や、トランプ氏を招いた英政府に抗議する数千人規模のデモがあった。▼1面参照

 英国のメイ首相は、トランプ氏就任後初の外国首脳との会談の相手として訪米。27日の会談後には、両国関係を「特別な関係」とうたい上げた。また、公式訪問に招待するというエリザベス女王の意向を伝え、承諾を得たと述べた。

 請願は、粗野な言動をとるトランプ氏は「女王を困惑させる」とし、女王の歓迎を受ける立場となる国賓としての招待はしないよう求める内容。トランプ氏が大統領選に勝利した昨年11月に提起されたが、署名はメイ氏が公式訪問を求めた直後から急増し、中東・アフリカ7カ国からの入国を禁止する大統領令が出されてから爆発的に増えた。

 メイ氏は30日、訪問先のアイルランドで、公式訪問の招待について「有効だ」と述べ、政府として招待を取り消すつもりはないと表明した。入国禁止の大統領令については直接的な批判は避け、「英国のやり方とは違う」と述べるにとどめた。ジョンソン外相は30日、下院で「英国籍保有者は入国禁止の対象にならない」などと説明。野党議員からは「声を大にして(米国に)意見する勇気を持てないのか」などと厳しい追及を受けた。ロイター通信によると、英下院は20日に招待反対の請願について審議する。(ロンドン=渡辺志帆)



(15) 反入国禁止、行動で示す イスラム教団体 「空港で人権侵害」提訴

 米国最大のイスラム教徒の人権団体「米イスラム関係委員会(CAIR)」は30日、イスラム教徒の多い中東・アフリカ7カ国の国民や難民の入国を一時禁止した大統領令について、「信教の自由」などを定めた憲法に違反するとして提訴した。CAIRロサンゼルス支部で開かれた記者会見では、ロサンゼルスの空港の入管で、入国しようとしたイスラム教徒への人権侵害が相次いだと訴えた。

 78歳のイラン人女性は、26時間拘束され、糖尿病が悪化。救急車を要請したが、拒否されたという。8カ月の乳児を連れたイラン人の母親も、食事も与えられずに12時間拘束されたという。米国の永住権を持っているにもかかわらず、永住権を放棄する書類に署名するよう強要されたという。会見にはヒスパニック系、ユダヤ教徒などの団体の代表者も参加。「イスラム教徒とともに闘う」と表明した。イスラム教徒の男性は「この大統領令は、かえってテロの危険を増やしている」と話した。

 CAIRロサンゼルス支部のエイルーシュ事務局長は、第2次大戦時の日系人の強制収容を例に挙げ、「当時と違い、今はイスラム教徒もヒスパニック系の指導者も、大統領令の不正義に対して結束している」と語った。(ロサンゼルス=平山亜理



(16) イラン、対抗措置表明 米国人のビザ発給停止 反入国禁止

 イランのザリフ外相は31日、米国がイランなど7カ国の国民の入国を一時禁止したことへの対抗措置として、「米国人に対するビザの発給はしない」と述べた。イランメディアが伝えた。

 AP通信は、イランのバスケットボールのプロリーグに所属する米国人選手2人がイランに入国できずにいると伝えた。2人は休暇でアラブ首長国連邦のドバイに滞在。ビザの期限が切れ再発行のめどが立たないという。(ドバイ=神田大介)



(17) NSC、バノン氏を常任に 安保に影響力強化か 行政経験なし

 トランプ米大統領が、米国の安全保障戦略を練る国家安全保障会議(NSC)を改編し、中央委員会の常任委員に、バノン大統領上級顧問兼首席戦略官を加えると発表したことが、物議をかもしている。一方で統合参謀本部議長らが非常任に「格下げ」され、共和党重鎮のマケイン上院軍事委員長も「前代未聞だ」と異を唱えた。

 トランプ氏は28日の大統領令でNSCの改編を発表。閣僚級で構成する中央委員会に関し、これまで常任メンバーだった統合参謀本部議長や国家情報長官を「彼らの責任や専門に関する問題が討議される」時だけ出席すると「非常任」に改定。一方で首席戦略官を務めるバノン氏を「常任」に格上げした。

 バノン氏はトランプ氏の最側近の一人。大統領選では、陣営の選挙対策責任者を務めた。これまで白人至上主義など、人種差別的で女性蔑視の記事を掲載する右派のニュースサイト会長を務めてきた。中東・アフリカ7カ国の国民の一時入国禁止に関する大統領令を下書きしたのもバノン氏とされる。今後、安全保障など政策面で影響力を強める可能性が高い。

 行政経験のないバノン氏の起用について、オバマ前政権で、国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏は29日、ツイッターで「常軌を逸している。『イスラム国』(IS)やシリア、アフガニスタン、北朝鮮の対策を立案するのに、軍事的な助言や情報がなくてよいのか」と批判。サンダース上院議員も30日、「危険で前例がない。彼を追い出すべきだ」と述べた。

 与党・共和党のマケイン上院軍事委員長も同日、「歴代のNSCからの極端な逸脱だ」と強い懸念を示した。

 こうした批判に対し、ホワイトハウスのスパイサー報道官は30日の記者会見で、過去のブッシュ元政権でも、同じような構成にしたことがあったとし、批判は「まったくのナンセンスだ」と強弁した。(ワシントン=佐藤武嗣)

 ◆キーワード

 <国家安全保障会議(NSC)> 安全保障戦略の立案や大統領への政策助言、各省庁間の調整を担う機関。国家安全保障担当の大統領補佐官が中心的役割を担う。大統領や副大統領、国防長官、国務長官ら閣僚級が出席する「中央委員会」のほか、「次官級委員会」、次官補級による「政策調整委員会」の3層構造からなる。



(18) (インタビュー)外国人に国をひらく 元警察庁長官・国松孝次さん

 外国人を「生活者」として受け入れませんか――。かつて警察庁長官を務めた国松孝次さんが、そんな提言をしている。治安悪化やテロを心配する声もあるなか、なぜ国松さんは外国人の受け入れを説くのか。そう考えるに至った体験や受け入れのあり方、そして警察幹部や日本政府、社会全体へのメッセージを聞いた。

 ――警察庁長官をされた国松さんが、外国人の受け入れを呼びかけるのは意外な印象です。

 「先日もある政治家の方から『国松さんともあろう人が、どうしちゃったんですか』といわれましてね。どうも世の中の人は、警察の関係者といえば移民や外国人の受け入れにトータルに反対するものと思い込んでおられる。私は何も無条件に外国人を増やせとは主張していません。受け入れるならきちんと態勢を組みましょう。その方が治安はきちんと守られるんですよ、と。私としてはなんら矛盾はありません」

 「私が警察庁刑事局長だったころ外国人労働者が日本に入ってきて、たくさん捕まっているとメディアでも騒がれましてね。でも警察にいても、外国人の方が罪を犯す率が高いという実感はなかったですなあ。人数が増えれば検挙数が増えるのは当たり前ですよ」

 ――それでも、外国人の受け入れが必要だと考えるに至ったきっかけは何ですか。

 「日本大使としてスイスに滞在した3年間です。こりゃあスイス人的な知恵で日本も外国人受け入れに取り組まないと大変なことになる、と危機感を持ちました」

 ――スイス人的な知恵とは。

 「スイスの人口800万人の4分の1が外国人の定住者や短期労働者。難民にも寛容です。取締役に外国人がいる企業はざら。しかも特別視しないのです。日本大使公邸の使用人は3人とも外国出身者でしたね」

 「立派だと思うのは、外国人に言語教育や職業訓練を施し、能力に見合う仕事や役職に就く機会を与えていることです。使用人のフィリピン出身女性は地域のキリスト教会で要職を任されていました。でも罪を犯せば強制退去などの厳しい措置が取られ、社会に溶け込む意思も能力もなければ滞在許可の延長が拒否される場合もある。硬軟を使い分けるんです」

 「基本理念は『assimilation(同化)』ではなく、『integration(統合)』。経済、社会、文化的にスイスに溶け込んでもらうのが最優先で、政府もそのためにカネを出す。固有文化を守ることにはとやかくいわないけれど、移民だけで固まるのは妨げになるのでやめてほしい、という姿勢です」

 「そもそもスイスの時計産業はフランスからの移民が、繊維産業はイタリアからの移民が築きました。スイス人も傭兵(ようへい)として外国に出て、稼いできた。国を開いて豊かになった自負があるんですなあ。だから『プラグマティック(現実主義)』という言葉が大好きです。人道主義と国益の両立を考え、いいものは採り入れて、守るべきは守る。もちろん全てがうまくいっているわけではないし、近年は移民排斥の声も出ています。欧州の真ん中にあるスイスとアジアの島国の日本では地理も歴史も違います。でも、国土が狭くて『人材こそが資源』という点は似ていませんか」

     ■     ■

 ――そのスイスと比べ、日本の状況はどうでしょう。

 「日本全国から悲鳴が聞こえますよ。私が会長を務める財団は昨年、6自治体で外国人受け入れについて行政や住民、NGO、識者との意見交換会を開きました。兵庫県の城崎といえば温泉とカニ料理が魅力です。でもベテラン漁師が引退してカニ漁の担い手がいない。だから10年前からインドネシアから技能実習生を受け入れている。漁師の3割が実習生という漁協もあります。休漁の時は日本語を学び、あいさつがしっかりできて気持ちのいい若者たちだと地元の評判も上々です。でも実習期間が3年で、仕事に慣れてきたころに帰国しなければならない」

 「技能実習制度自体も問題がありますが、受け入れる側にも『せっかく教えた技能が継承されない』という不満がある。いずれ帰国するので日本語の習得意欲を持たせにくく、ますます社会に溶け込めない悪循環に陥りがちです」

 「城崎温泉も苦労しています。旅館はどこも人手不足。インバウンド需要は増えているのに、従業員がいないので部屋は空いていても予約を断らざるを得ない、と」

 「日系ブラジル人などを受け入れてきた浜松では、大学で優秀な成績をあげる若者がいる半面、日本語も母語のポルトガル語も中途半端で学校を落ちこぼれてしまう『ダブル・リミテッド』と呼ばれる子供もいる。外国人の間で格差が広がっているのです。自治体やNGOの工夫や善意に支えられている部分が大きいだけに、ばらつきも出てしまう」

     ■     ■

 ――でも、日本政府から移民を受け入れようという声は聞こえてきません。

 「国連によると、異なる国に1年以上居住した人を『移民』と呼ぶのが一般的です。ただ、日本では祖国を捨てた人という印象や、欧州での問題と結びついてネガティブな語感がある。安倍政権は日本に必要な外国人を受け入れる用意があると私は思います。その目的のため、あえて移民という言葉を使わないことも理解できます。だから私は『生活者』として受け入れませんか、と提案したい」

 「労働力として利用して、用がすめば『はい、お帰り下さい』ですみますか。外国人も安定した人生を送りたい。であれば、日本社会に溶け込んで下さい、ルールを守って下さい、日本語習得の場など必要なことは国が責任を持って提供しますから、と。それでも『いやだ』という人には、厳正にお引き取りいただけばいい」

 ――女性登用や高齢者の参加が先決だとする意見や、「安い労働力に頼ると技術革新が生まれなくなる」と心配する声もあります。

 「順番からいえば女性や高齢者に活躍してもらうのが先です。しかし、これから起きるであろうものすごい人口減少を考えると、それではもたない段階にまで来ているというのが日本の現実です」

 「そもそも安い労働力が必要だから外国人を、との発想が、『生活者』の観点に反します。受け入れて日本で働いてもらう以上、待遇は日本人と同等にすべきでしょう。日本人か外国人かにかかわらず、優れた人材を育成していくのが競争の自然な姿です」

 「アジアの国々はどこも少子化です。中国もじきに労働力不足に苦しむでしょう。まだ若い労働力があるインドネシアやフィリピンの人材は取り合いになる。こちらからお願いしても来てくれなくなりますよ。『受け入れてあげる』という発想は時代錯誤です」

     ■     ■

 ――テロの不安から移民受け入れに慎重な国も増えています。

 「もちろん一般犯罪と組織犯罪は分けて考えるべきです。刑事局長時代は中国からトカレフ拳銃がじゃんじゃん入ってきて、中国の公安当局とよく連絡を取り合いました。あとは幇(パン)と呼ばれる台湾ヤクザによる麻薬取引。当時、オウム真理教はロシアで活発に活動していました」

 「今やイスラム国などテロ組織の侵入を警戒すべき時代になったのは確かです。現場の検挙力も大切ですが、やはり情報収集と外国の捜査機関との連携がカギ。その意味で通信傍受や司法取引が認められたことは助けになります」

 「心配なのは、技能実習制度など外国人が来る枠組みは増えているのに、受け入れ方についての首尾一貫した政策がないこと。実習先から姿を消したり違法就労になったりすれば警察の仕事は増えます。治安を考えるのならば、外国人が日本社会のアウトサイダーにならない方策を尽くし、警察が組織犯罪やテロ対策に傾注できるようにすべきです。『捜査が難しくなるから外国人に反対』という警察幹部はいないと思いますが、もし万一いたらプロ失格ですな」

 ――日本人は、増える外国人と仲良くやっていけるでしょうか。

 「日本には外国人を歓迎する伝統がないというのは思い込みです。飛鳥時代の昔から外国人を受け入れてきました。幕末から明治にかけて、お雇い外国人を招いて西欧の文明や技術を採り入れた。終戦直後の米軍進駐にしても、社会の大勢としてはなじんだのではないでしょうか」

 「一方で他のアジアを見下すような風潮は明治以降の近代化の過程で出てきた現象です。確かに言葉や生活習慣が異なる人と暮らすことに不安を感じる日本人がいるのは理解できる。外国人の受け入れが簡単だというつもりはありません。トラブルはありますよ。だからこそ、早く慣れて備えておく必要がある」

 「長崎県大村市で飲食業をされている若い経営者の方が意見交換会でおっしゃっていました。『外国人に期待するのは単なる労働力ではありません。新しい発想で日本の地方の停滞や閉塞(へいそく)感を破ってほしい』と。こんなふうに前向きに考えてみましょうよ」(聞き手 論説委員・沢村亙)

     *

 くにまつたかじ 1937年生まれ。警察庁長官だった95年、自宅前で何者かに狙撃され重傷。99~2002年、駐スイス大使。一般財団法人「未来を創る財団」会長。



(19) 石原氏の責任再検討「私が考えた」 就任半年、小池都知事インタビュー

 東京都の小池百合子知事は31日、2月2日の就任半年を前に朝日新聞のインタビューに応じ、豊洲市場の用地買収を巡る石原慎太郎元知事の賠償責任の有無について、「(再検討する方針は)私が考えた」と明かした。7月の都議選では「無党派層が動く」との見方を示し、支持勢力の過半数確保に意欲を示した。

 築地市場から豊洲市場への移転を巡っては、1月公表の地下水調査で環境基準の最大79倍の有害物質が検出された。小池氏は市場を巡る問題を都議選の争点にする考えを示している。

 都議選で「移転中止」を打ち出す可能性を尋ねると「挑発の質問にのる段階ではない」と述べ、1月末に始まった地下水再調査の結果を見る考えを示した。

 豊洲市場の用地買収を巡る住民訴訟では、石原氏に賠償責任はないとする都の方針を再検討する考えを1月に示した。この新方針の立案については「あれは私ですね。ずっと考えてきて」と明らかにした。

 都議選では支持勢力の過半数確保を目標に掲げる。「都議選がいかに重要か。かなりの方々が認識するようになった」とし、「かなり投票率が上がる可能性がある。無党派層も動く。どういう候補なら勝てるのか精査する」と述べた。

 争点としては「議会改革ということで(都議の)報酬問題についての対応も課題になる」と指摘。見直しに慎重な自民党を牽制(けんせい)してみせた。

 対立する自民との政策の違いについては「都政の体質を変えたい。あえて言うなら政治改革」とし、入札制度や議員による口利き問題や、会計制度などの改革などを挙げた。

 自民を離党する考えがないかを改めて問うと、「進退伺は出している」と重ねて答え、「相手に判断を委ねるのはどうか」との問いには「これは政治力学です」と述べるにとどめた。

 さらに、将来的に自民党総裁をめざす考えを尋ねると、「いやいや、総裁になるためには20人の推薦人が必要。それはよく承知していますし、つくづく日本の総理大臣ほど過酷な商売はないと思います」と述べ、明確に答えなかった。(末崎毅、野村周平)

 ■<視点>都政、明快さとあいまいさ

 分かりやすさと、分かりづらさ。東京都知事就任から半年、小池百合子氏はその二面性が目立っている。巧みな発信力で注目を集める半面、あいまいさを残して風向きを注視する。

 昨年8月の就任以降、豊洲市場への移転延期や、2020年東京五輪・パラリンピックの会場見直し作業が一定の世論の支持を得たのは、情報開示で政策決定過程を以前より明らかにしたからだ。黒塗りだった多くの開示文書も明るみに出て、豊洲移転を決めた過去の経緯などが見え始めた。

 一方で、「支持勢力の過半数の確保」をめざす7月の都議選に向け、自分を支持する地域政党をつくりながら、自民党を離れない。真意をインタビューで尋ねたが、言葉を濁し、政治の駆け引きに使う意図さえうかがわせた。自民との対立軸も明快とは言えない。

 都議選に向けて動きを加速させる小池氏だが、その後の都政をどう改革するかは、まだ見えてこない。(岡雄一郎)