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【 07 】02/02

  02 02 2日のニュース
        (1) トランプの「文化大革命」  田中宇の国際ニュース解説
        (2) 「円安誘導、あたらない」 首相、トランプ氏発言に反論
        (3) トランプ政権、緩和やり玉 日本反論「G20合意でも容認」
        (4) (デジタル版から)小池知事、自民と火花
        (5) 同盟「応分の負担」焦点 米国防長官あす来日
        (6) 共同経済活動へ、3月に公式協議 日ロ次官級で合意
        (7) 共産機関誌に3野党幹部 共闘への思い紹介 創刊以来初
        (8) 憲法解釈変更、残る多くの謎 集団的自衛権審議の「想定問答」、内閣法制局が開示
        (9) (トランプの時代)中国・北朝鮮への警戒強く マティス国防長官、初外遊に日韓
        (10) 日本とイスラエル、連携加速 サイバー防衛、年内に覚書
        (11) (社説)「円安」批判 国際合意無視するのか
        (12) (ザ・コラム)長寿の魔性 兜の緒をほどく時 駒野剛
        (13) 
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 02 02 (水) 2日のニュース     



(1) トランプの「文化大革命」 田中宇の国際ニュース解説

2017年1月31日   田中 宇

 私が注目する米国の分析者ゲレス・ポーターが「トランプは、文化大革命の時の毛沢東のようだ」と書いている。「トランプのツイッターは、毛沢東の壁新聞と同じだ。司令部を砲撃せよと書いた壁新聞を貼り出して文化大革命を引き起こした毛沢東は、米政府のエリート支配を潰せと大統領就任演説で呼びかけたトランプと同じだ」と。そのとおりだと思った。 (US Intervention Against Syria? Not Under Trump by Gareth Porter)

 中国共産党の毛沢東は、国民党との内戦に勝って権力を握ったが、その後の経済運営で失敗し、市場経済をある程度肯定する側近たち(トウ小平ら)によって外されかけた。それを挽回し、中国を不断の革命に引き戻すために毛沢東は、国営マスコミを迂回して人々を決起させる壁新聞(大字報)を貼り出し「資本主義に傾注する党本部を攻撃する政治運動を起こせ」「政府に反逆せよ」と呼びかけ、中国の伝統文化を破壊する文化大革命を起こしたが、大惨事になって失敗した。 (トランプ革命の檄文としての就任演説)

 毛沢東はプロの生涯革命家(政治家)だ。文化大革命の前に中国革命を主導し、今に続く共産党政権(という名の王朝)を樹立した。文革は、晩年の毛沢東の老害的な「あやまち」だ。対照的に、トランプは政治家の経歴が皆無で、昨年の選挙で道場破り的に権力に殴りこみをかけて奪取し、大統領になる初日の就任演説で「司令部を砲撃せよ」という趣旨の言葉を放った。毛沢東は、自分が作った共産党の政府を文革でぶち壊したが、トランプは自分と全く関係なく70年前から存在してきた軍産支配の米国の単独覇権政府をぶち壊すために大統領になった。2人の経緯はかなり違う。類似点は、自分が持っている権威・権力を利用して、自分がいる政府の破壊を、政府(中国は共産党、米国は軍産)支配下のマスコミを迂回する宣伝ツールを使って人々に呼びかけた点だ。 (As Trump stresses 'America First', China plays the world leader)

 トランプが使い続けているツイッターは、もともとイランなど中東の独裁政権を倒す民主化運動(市民革命、中東の春)の道具として、米イスラエル諜報機関の肝いりで作られたと言われる。それが今や米国の軍産独裁政権を倒すトランプ革命の道具になっているのが皮肉(諜報用語でブローバック)だ。もうひとつ、毛沢東が死んで文革が終わった後、中国は「資本主義傾注者(走資派)」のトウ小平によって自由貿易を信奉する国になり、今やトランプによって米国が放棄した自由貿易の世界的主導役(経済覇権)を、中国が引き受ける展開になっているのもブローバックだ。その意味で、毛沢東とトランプは「革命の同志」である(ふたりは「奔放さ」や「女好き」な点でも同志だ)。 ('China Will Expand Influence': TPP Countries Look for Post-US Trade Deal)

 中国政府は、国内のマスコミが、トランプの就任式を実況中継したり、自由に取材して番組や記事を流すことを禁じた。新華社が作った記事や映像を流すことしか許さなかった。この理由は明白だ。「司令部を砲撃せよ」という毛沢東の文革発動を想起させるトランプの革命的な大統領就任演説が同時通訳つきで中国に実況中継されたら、文革を覚えている中国の紅衛兵世代はピンときてしまう。中国で習近平の独裁強化を嫌う人々は、毛沢東懐古趣味に仮託して抵抗運動をやってきた。当選前から、トランプの奔放な革命姿勢は、中国人にとって気になる存在だった。革命したことのない日本人は気づかないが、トランプの就任演説は危険文書だ。習近平に恐怖や敵愾心を感じさせている点でも、毛沢東とトランプは同志だ。 (China steps up censorship for Trump inauguration)

▼毛沢東は中国を壊し、トランプは米国を壊す

 毛沢東の文革は、中国を経済的、政治的、社会的に破壊し、後進国にした。トランプの革命も、米国を経済的、政治的(覇権的)、社会的に破壊する可能性がかなりある。ブッシュとオバマ時代の16年間の米国は、軍産複合体(軍、諜報機関、マスコミ、政界などの連合体)がアルカイダやISISといったイスラムなテロ組織と戦うふりをして実はテロ組織を涵養支援し続け、米国がテロ戦争の名目で恒久的に中東など世界に軍事駐留し、気に入らない政権を武力や政治介入(民主化運動の扇動)で転覆してますますテロを増やし、米国内的にも軍産複合体がテロ戦争の名目で権力を握り続ける軍産独裁の体制を敷いてきた。トランプ革命の前向きな点は、こうした米国の軍産支配を破壊しようとしていることだ。だがその際に、米国の政治経済の体制や、米国中心の国際体制(覇権体制)ごと破壊されてしまうことがあり得る。それは、米国と世界の経済危機や政治混乱につながる。 (The Trump Doctrine) (米国を覇権国からふつうの国に戻すトランプ)

 トランプ革命が成功すると、世界を軍事的に不安定化させて支配し続けようとする軍産複合体がいなくなるので、世界は今よりかなり安定する(革命中は暗闘で逆に激動する)。米国が単独覇権国であり続けると、いったんテロ戦争の構図を潰しても、またその後何らかの形で軍産支配が復活しかねないので、トランプは米国の単独覇権構造を破壊すると同時に、覇権を中国やロシアなどに分散移譲(押し付け)して、世界の覇権構造を恒久的に多極型に転換しようとしている。 (米欧同盟を内側から壊す) (Trump, Merkel agree NATO members must pay fair share)

 トランプは、政権の上層部に何人も軍人を入れており、それだけ見ると軍産支配を壊す人に見えない。だが、トランプは、ロシアと協調してやると言っているシリアでのテロ退治の詳細を、国防総省に全く伝えていない。軍産系とおぼしきマティス国防長官に、トランプがどれだけ権限をわたしているか大きな疑問だ。トランプはマティスを、軍産に対する「目くらまし」として国防長官に据えた可能性がある。マティスが間もなく日韓を訪問するからといって、トランプが日韓との同盟関係を大事にしているとは言い切れない。トランプが軍事費の急拡大をうたっているのも軍産敵視と矛盾する。だがこれも、軍産の傀儡議員ばかりである議会の共和党がトランプに反旗を翻さないようにするための短期的な贈賄行為に見える。 (Tensions Rising Between Trump Team, Mattis Over Appointments)

 トランプは、軍事費を増やすと宣言する一方で、共和党(ブッシュドクトリン)的な軍事による強制民主化(政権転覆)も、オバマ政権時代にエジプトやウクライナで行われた民主党的な民主化運動の扇動による政権転覆もやらない、自国にとって明確な脅威がない限り、外国に対するあらゆる形の介入をしないと、英国のメイ首相が訪米した時に宣言している。外国に軍事介入しないなら、そんなに軍事費は要らない。 (Why US giving up on policy of direct military interventions)

 トランプは「どんどん軍艦を建造してやるからな」と海軍に言っているが、海軍は「そんなに要りません。それより当座の修理費や修理設備が足りません」と返答している。トランプの軍事費増加の宣言は頓珍漢であり、きちんと履行されるかどうかわからない。米議会は最近、超党派で、無駄な米軍基地を縮小する検討を再開すると言い出している。米軍が拡大縮小どちらの方向なのか不透明だ。 (Trump Signs Order for `Great Rebuilding' of US Military) (Trump wants a bigger Navy — but the Navy wants its fleet fixed first) (Top Dem plans to reintroduce base closure plan)

 トランプは「エリート支配を壊す」と言いながら、エリートの象徴であるゴールドマンサックス出身のムニューチンを財務長官にしている。閣僚に大金持ちが多い。トランプは、金融バブルの膨張を抑止するドッドフランク条項を大幅縮小するともいっている。いずれも大金持ち優遇策だ。だがこれらも、当座の金融バブルの崩壊を先送りして政権維持や再選を狙う現実策の可能性がある。トランプの経済政策は、経済ナショナリズムに名を借りた「覇権放棄」で、長期的に、軍産金融のエリート層が米国の覇権を使って金儲けや世界支配を続けてきた体制を壊す。それを実現する前に、金融危機が再燃したり、共和党が反トランプで固まってしまわないよう、目先の軍拡や金融バブル維持をやっている感じだ(不確定だが)。 (The Next Repeal And Replace: Dodd-Frank)

▼無意識に軍産の傀儡にされるリベラル派

 毛沢東の文化大革命が、中国の伝統文化を破壊したように、トランプの革命には、米国の伝統文化であるリベラルな社会風土を破壊しようとしている観がある。大統領選挙で、民主党のクリントン陣営がリベラル主義に立脚し、イスラム教徒やメキシコ系など移民への寛容さ、リベラルなマスコミへの支持、西欧など「リベラル自由主義体制」の同盟諸国やNATOとの関係維持、ロシアなど権威主義諸国への敵視維持を掲げたのと対照的に、トランプは、反リベラル的な、イスラム教徒移民=テロリスト予備軍、メキシコ系移民=米国民の雇用を奪う人々、リベラルマスコミ敵視、同盟諸国=防衛にカネを出さない奴ら、ロシア=テロ戦争での味方、自由貿易=国益毀損、反リベラルな欧州極右への隠然支持などの姿勢をとっていた。

 こうしたトランプの反リベラル姿勢は選挙終了とともに終わると思いきや、大統領就任後も全く変わらず、トランプはむしろ全速力で反リベラル政策を進めている。マスコミとの対決も続き、トランプはマスコミ迂回ツールであるツイッターでの発信をやめていない。トランプがリベラル敵視を続けるのは、リベラル派が中東民主化(政権転覆)や環境保護(米国内のエネルギー開発を禁止させ、米国が中東などの石油ガスに頼らざるを得ないようにして、米軍の世界支配を正当化する)などの点で、軍産複合体の無意識の傀儡になってしまっているからだろう。

 1月27日には、シリア、イラン、イラク、イエメン、リビア、スーダン、ソマリアという中東イスラム世界の7カ国からの移民難民の米国への渡航を暫定的に禁じる大統領令を出し、米国の空港などが混乱した。米国のリベラル運動家が人権擁護、難民保護の観点からトランプを非難する政治運動を強めている。 (Donald Trump’s Immigration Ban Sows Chaos)

 7カ国にテロリストが多いのは事実だ。もともと7カ国を列挙したのはオバマ政権だった。冷戦末期から、米軍やCIAがイスラム世界から観光客や移民のふりをして渡米したテロリストに軍事や諜報の訓練をほどこして本国に返す形で「テロ支援」していたのも事実だ。トランプのやり方は性急すぎると報じられているが、この政策はトランプが選挙前から言っていたことでもある。米国の権威ある世論調査の一つであるキニピアック大学の調査によると、トランプの7か国民に対する暫定入国禁止令に対し、米国民の米国民の48%が賛成し、42%が反対している。マスコミは、米国民の大多数が反対しているかのような印象を報じているが、実のところ賛成論の方が多い。 (Poll: Nearly Half of America Voters Support Trump's Immigration Order)

 思い返すと、こうした傾向や現象は、選挙戦の時から変わっていない。トランプが、テロ対策としてイスラム世界からの移民を規制せよとか、メキシコから出稼ぎにくる違法移民が米国民の雇用を奪っているので取り締まれと主張するたびに、マスコミやクリントン支持者が差別だと非難し、トランプの劣勢が加速したと報じられたが、実のところトランプを支持は減らず、リベラルかつ軍産傀儡のマスコミが歪曲報道しているだけだった。

 トランプは、リベラル派の怒りを意図的に扇動している感じがある。リベラル派が怒るほど、非・反リベラルな人々がトランプを支持する傾向になり、国論が分裂するほどトランプが有利になる。今のところ騒いでいるのは反トランプなリベラル派が多く、トランプ支持の右派はあまり街頭行動などをしていないが、これはトランプが権力を握って今のところ優勢だからだろう。今後、軍産マスコミやリベラル派との対立でトランプが劣勢になると、草の根右派がトランプ支持の街頭行動を強めるだろう。

 移民に寛容な国策は、長らく米国の基盤だった。移民がもたらす才能が、米国の発展の原動力の一つだった。それを考えると、トランプの移民制限は、米国の覇権力を低下させる策とも考えられる。トランプは、最終的に米国が経済政治的に破綻して覇権力が低下することを容認(誘導)しているふしもある。ブッシュ政権も、イラク侵攻で米国の覇権力をなかば意図的に低下させており、この傾向は近年の共和党政権に一貫している。

 トランプは、就任から10日しか経っていないのに、前代未聞な大統領令を毎日発している。その多くは覇権放棄的な策か、覇権放棄策を自分の与党の共和党の議員たちに飲ませるための賄賂的な策だ(それぞれの策の分析は改めて書く。どんどん事態が進展するので解読が追いつかない。文革との比較などという悠長なことから書き出して時間を無駄にしたと、書きながら後悔している)。共和党を賄賂策で抱き込んでいるので、トランプはかなり強い。

 軍産側が反撃してくる前に、できるだけ多くの覇権破壊的な大統領令を矢継ぎ早に出してしまおうと、トランプは全力で急いでいる。大統領令の多くは、国務省や国防総省、司法省など現業官庁に相談せずに発令されている。トランプの大統領令は、実体的な政策というよりも、就任演説の延長にある「大統領宣言」だ。具体策を欠いているが、世界に対し、米国が覇権を放棄するのなら対策をとらざるを得ないと思わせる効果がある。日本のように対米従属しか策がない国は、トランプが引き起こす嵐が去るのを待つしかないが、自立的な国家戦略を持ちうる国(欧州、BRICSなど)や、米国以外の頼る大国がある国(中国依存の選択肢がある東南アジア、ロシアに頼る選択肢がある中東諸国など)は、トランプが覇権放棄の宣言を繰り返すほど、米国から離れていく。トランプが覇権放棄の大統領令を出すほど、世界は多極化していく。

 覇権放棄策を大急ぎで連発するトランプをなんとか無力化しようと、軍産複合体の側は、トランプを不利にする報道を展開したり、傀儡と化したリベラル派の大衆運動に反トランプの街頭行動を激化させたりしている。トランプ敵視の政治運動の黒幕である大金持ちのジョージソロスらは、米国で政権転覆のカラー革命を起こそうとしている。エジプトやリビアやウクライナの政権を転覆した、米民主党(ネオリベラル)系の扇動策を、米国でもやろうとしている。 (Ex-WSJ Reporter Finds George Soros Has Ties To More Than 50 "Partners" Of The Women’s March)

 最初がトランプ就任式の女性たちの50万人集会だったので、トランプ政権転覆の革命は「ピンク革命」と名付けられている。あの女性集会の首謀者の多く(56人)が、ジョージソロスとつながりがある。軍産は、軍産リベラル女性複合体になっている。「女性好き」のトランプが手がける反リベラル文化大革命を潰すのが、リベラル革命的な女性たち、というのもブローバックだ。 (Is a Pink Revolution beginning in America?)



(2) 「円安誘導、あたらない」 首相、トランプ氏発言に反論

 安倍晋三首相は1日の衆院予算委員会で、トランプ米大統領が日本の為替政策を批判したことに「円安誘導という批判はあたらない」と反論した。首相はトランプ氏と初の首脳会談を10日に行う。貿易不均衡の問題が主要テーマとなる見通しだが、日本政府は、円安を後押ししてきた大規模な金融緩和政策も焦点になりかねないとみて警戒している。▼3面=緩和やり玉  複数の日本政府関係者によると、10日に米ワシントンである首脳会談に続き、両首脳は翌11日にトランプ氏の別荘がある南部フロリダ州のパームビーチに移動し、2日連続で首脳会談を行う方向で調整に入った。トランプ氏側からの提案で、通商や安全保障をめぐり時間をかけて議論を行う狙いがある。  首相は1日の衆院予算委で「リーマン・ショック以降、米国も我々がやった政策と同じ政策をやり、経済を引き上げ、リーマン・ショックを乗り越えた」と指摘。金融緩和策の目的は2%の物価安定目標だとの認識を示した。また、トランプ氏との首脳会談で「日本の経済が良くなることは、米国にとって実はマイナスではないということを淡々と説明していきたい」と強調した。  首相は「これからいかに日本が米国の雇用を生み出し、米産業界全体の生産性の向上や競争力強化に貢献していくか、大きな枠組みの中で話していきたい」とも述べた。首相は首脳会談で、日本の対米直接投資額や自動車産業による米国内での雇用状況などを説明。高速鉄道によるインフラ投資や米国産シェールガスの輸入など、日本としての貢献策を示す考えだ。


(3) トランプ政権、緩和やり玉 日本反論「G20合意でも容認」

 米トランプ政権が、日本などの自国通貨を巡る政策への批判を強めている。アベノミクスの主軸として、日本銀行が続ける大規模な金融緩和を「円安誘導」と見なすような発言もあり、日本政府は1日、一斉に反論。ただ、金融緩和が円安につながる面は否定しがたく、10日の日米首脳会談などでもやり玉に挙げられれば、今後の金融政策の足かせになる可能性もある。▼1面参照  「(批判は)まったくあたらない。金融緩和は物価安定目標のために設けられているもので、円安誘導を目的としたものではない」  菅義偉官房長官は1日の記者会見で、トランプ氏にこんな言葉で反論した。  わざわざ「金融緩和」の正当性を強調したのは、前日に飛び出したトランプ氏の「円安批判」が、日本の金融緩和を念頭においたものとみられるからだ。  トランプ氏は1月31日、中国や日本を名指しし、「彼らは金融市場や通貨安誘導を利用し、我々は馬鹿みたいに何もしていない」と痛烈に批判。トランプ政権からは、ドイツもユーロ安で恩恵を受けているとの批判も出ており、米国の貿易赤字に占める割合の上位3カ国をやり玉に挙げた形だ。  これに対し日本側は、主要国との為替や金融政策に関する合意を盾に反論していく構えだ。主要7カ国(G7)、主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、「通貨の競争目的での切り下げの回避」では合意しているが、経済の安定化のための金融緩和は認めており、財務省幹部は「米国がこの合意を無視するならすればいいが、多数派はこちらだ」と話す。  実際、日本や欧州だけでなく、米国も金融危機後、大規模な量的緩和を進めてきた。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁も1日の衆院予算委員会で「各国の中央銀行が物価安定のために金融緩和を進めることは、G20の各国とも了解している」と強調した。  ■アベノミクス、足かせの恐れ  トランプ氏の発言を受けた1月31日のニューヨーク市場では一時、約2カ月ぶりの水準となる1ドル=112円08銭までドル売り円買いが進んだ。だが、1日の東京市場では、夕方には前日とほぼ同じ1ドル=113円台半ばの水準に。SMBC日興証券の太田千尋氏は「日本政府が強い口調でトランプ氏の発言を否定したことで、市場が落ち着きを取り戻した」と指摘する。  ただ、トランプ氏が日本の「金融緩和」に矛先を向けるのには道理がないわけではない。安倍政権の発足後、2013年4月から続ける大規模な金融緩和が円安ドル高を後押ししてきたのは事実で、緩和開始直前は1ドル=90円台前半だった円相場は、15年夏に一時120円台半ばまで下落。この円安で企業業績は改善し、賃上げも進んだ。こうした経済の好循環を目指すアベノミクスにとって、金融緩和は最大の「エンジン」だが、今後は緩和に動きにくくなる恐れもある。  足もとでは、米国の連邦準備制度理事会(FRB)の利上げや、トランプ氏の減税などへの期待感から米国の金利が上昇しており、円よりも相対的に金利が高いドルが買われ、円安ドル高が進みやすい状況だ。  このため、10日の日米首脳会談では、外国為替の問題が議題として取り上げられる可能性が高い。市場では「緩和策が結果的に円安に効くのは事実。トランプ氏に建前は通じそうにない」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏)と警戒感が強まっている。(鬼原民幸、藤田知也)


(4) (デジタル版から)小池知事、自民と火花

 2020年東京五輪の会場費用負担や築地市場移転の問題と向き合っている小池百合子・東京都知事。都政の行方を占う今夏の東京都議選を前に、東京大改革を掲げ、早くも自民党側と火花を散らしています。これまでの動きを特集ページでまとめています。    http://t.asahi.com/k2hq 小池百合子    生年月日 1952年7月15日    経  歴 (元)衆院議員・自民党総務会長・防衛相・環境相・参院議員・キャスター    主な公約 都道の電柱ゼロ化、技術開発を支援          「待機児童ゼロ」を目標に保育所の規制を見直す          満員電車をゼロへ。時差出勤、2階建て通勤電車の導入促進          都独自の給付型奨学金を拡充し、英語教育を徹底  石原氏の責任再検討「私が考えた」 豊洲訴訟で小池知事(2017/2/1)  小池知事、将来の自民総裁目指す? 「いやいや…」(2017/1/31)  小池知事がスカーフにしたあの風呂敷、完売で追加生産へ(2017/1/31)  代理戦争ではない? 都知事と自民、千代田区長選で火花(2017/1/30)  河村市長、小池都知事との演説断られる 千代田区長選(2017/1/29)  千代田区長選、現新3氏が立候補 都議選への影響注目(2017/1/29) 代理戦争ではない? 都知事と自民、千代田区長選で火花(2017/01/30)     東京都の千代田区長選が29日に告示され、無所属3人が立候補した。有権者は5万人に満たないが、     現職を支援する小池百合子知事と、新顔を推薦する自民党の閣僚が支持を訴え、都心の注目選挙となっている。      「『東京大改革』を進めるために、一つ一つの戦……[続きを読む] 年収760万円未満は私立高無償化 東京都が奨学金拡充(2017/01/16)     東京都は16日、世帯年収760万円未満の都内の私立高校生に対する都独自の給付型奨学金を拡充し、     授業料を実質無償化する方針を決めた。2017……[続きを読む]  ■豊洲市場の行方     タイムライン 築地市場の豊洲移転問題 ⇒ http://www.asahi.com/special/timeline/tsukiji-to-toyosu/?sort=asc  ■東京五輪     「五輪迎える東京、政治の安定重要」 丸川担当相(01/24)     東京五輪ゴルフ会場、女性の制限に「違和感」 小池知事(01/13)     小池知事、五輪公式商品をPR 組織委の増収支援に本腰(01/11) 五輪負担、今さら? 競技会場抱える自治体から不満の声(2016/12/22)     2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費をめぐって開かれた21日の4者協議について、     競技会場を抱える自治体からは不満や疑念の声が上がった。大会総経費は示されたが、説明がないまま     財政負担を強いられかねないためだ。自治体の首長は26日にも……[続きを読む] ◆小池語録(最新順:掲載35本)  略 ■小池都政始動 焦点は  略 ■小池氏の横顔  略 ■日本新党で政界入り、やがて自民へ  略


(5) 同盟「応分の負担」焦点 米国防長官あす来日

 米国のマティス国防長官が3日、トランプ政権の閣僚として初めて来日し、安倍晋三首相や稲田朋美防衛相らと会談する。トランプ大統領が同盟国に「応分の負担」を求める中、日米同盟でも「負担の分かち合い(バードン・シェアリング)」がこれからの大きな焦点になりそうだ。  ■「外圧(Gaiatsu)」安倍政権に追い風?  トランプ氏は大統領選中、「米国が防衛する国々に相応の負担を求める」と発言し、在日米軍の駐留経費の全額負担を求める考えも示した。  発言の背景には、アフガン、イラク戦争以降、米国社会に広がる「戦争疲れ」がある。度重なる派兵で軍事費を費やして疲弊する中、米軍が同盟国防衛のため世界展開を続ける必要があるのか、という不満だ。  日米同盟をめぐっても、米国の安全保障政策への「タダ乗り」「安乗り」といった批判が、専門家の間で強まった。米マサチューセッツ工科大のリチャード・サミュエルズ教授は「ワシントンの多くの人々が持つ不満は、日本が米国兵士に守られ、安全保障の『本当の代償』を支払っていないにもかかわらず、巨大な富を蓄積していることから生じている」と指摘する。  さらにトランプ政権になり、オバマ前政権と異なり軍事費を増やす方針に転換。日本に対する負担増の要求が強まることも予想される。サミュエルズ氏は「マティス氏は日本に『本当の代償』をもっと求めるだろう。防衛費の増額かもしれないし、日米の防衛力のさらなる統合かもしれない。米側が期待するのは日本が自身の防衛力を高め、同盟をさらに高めていくことだ」と語る。  トランプ政権の動きについて、米国の専門家らは「Gaiatsu(外圧)」という表現を使う。  日本はどう対応しようとしているのか。稲田防衛相は「他国から言われて防衛費を上げる性質のものではない」と不快感を示す。ただ、防衛力強化は安倍政権の思惑と一致する部分があるのも事実だ。  首相はトランプ政権下での日米同盟のあり方について、「我が国としても防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていく」と話す。「積極的平和主義」を掲げ、第2次政権発足から防衛費を増額して自衛隊の装備を強化し続けている安倍政権にとって、トランプ氏の方針は追い風になる可能性がある。  安倍政権は2015年、安全保障関連法を成立させた。日本国際問題研究所の小谷哲男・主任研究員は「米側は日本に作戦面での貢献を求めてくる可能性があるが、日米同盟の中で大きな貢献をするための法的基盤はすでに整っている」と指摘する。  防衛政策に詳しい国会議員の間でも、日本の負担増に期待する声がある。自民党の防衛相経験者は「自主防衛を強化する好機だ」と明かす。同党は近く自衛隊の装備体系を定めた中期防衛力整備計画(中期防)の策定に向けた議論を開始するが、日本も敵のミサイル基地をたたく敵基地攻撃能力などを持ち、攻撃力を高めたいという思惑がある。  ただ防衛費を大きく増やせば、日本の財政悪化は避けられない。小谷氏は「経済成長と防衛費の伸びを長期的な観点からどうするべきか、というのは大きな課題だ」と指摘する。軍拡競争が加速し、逆にアジア太平洋地域の不安定化を招く恐れも否定できない。(園田耕司、相原亮)


(6) 共同経済活動へ、3月に公式協議 日ロ次官級で合意

 日本とロシアの両政府が1日、外務次官級協議をモスクワで開いた。昨年12月の日ロ首脳会談以降、北方領土での共同経済活動の実現と元島民による自由往来に向けた初の本格的な協議だ。国会では同日、安倍晋三首相が平和条約を自らの手で締結するとの決意を改めて表明。野党側は「交渉が後退している」と首相に詰め寄った。  次官級協議は、日本側から秋葉剛男外務審議官、ロシア側からモルグロフ外務次官が出席して、約4時間行われた。秋葉氏によると、3月に東京で両国の関係省庁の代表も参加して、共同経済活動と元島民の自由訪問の簡素化に向けた第1回の公式協議を開くことで合意。今年前半にも想定されている首相の訪ロの準備についても意見を交わした。  共同経済活動は1990年代後半にも両国で検討したが、両国の「法的立場」を尊重したルールづくりが難航し、頓挫した経緯がある。日本側は主権を害されないよう、四島に特区を適用する「特別な制度」づくりを目指して省庁横断型の協議体を立ち上げ、具体化を進める方針だ。  元島民の墓参では、日本側が船に限られていた渡航手段に航空機を加えるよう、ロシア側に検討を促す。船は天候に左右され、冬季の渡航が制限されるうえ、高齢化が進む元島民に体力的な負担を強いるからだ。国後島と択捉島にある飛行場が使える見込みで、今夏からの導入にめどをつけ、次回の首脳会談の目玉にしたい考えだ。  一方、1日の衆院予算委員会では、民進党の辻元清美氏が、昨年12月の首脳会談直前にロシア軍が国後島と択捉島に地対艦ミサイルを配備したことを取り上げた。首脳会談で両首脳による共同声明が見送られたうえ、会談後にロシア側が発表した「報道機関向け声明」からは歴代の交渉責任者がこだわってきた四島の名前がなくなったことも指摘。「(安全保障上の懸念が残るまま)日本が持つ最大の経済支援のカードを切ってしまった。交渉の後退だ」と述べた。  これに対して、首相は「北方四島での軍備強化に遺憾である旨をロシア側に明確に申し入れているが、だからといって、平和条約締結に向けた交渉を止めるわけにいかない」と反論。「私は(後任に交渉の)バトンを渡そうとは考えていない。私の手でプーチン大統領と平和条約を締結していきたい」「我々は決して後退していない」と述べた。(小林豪、南彰、モスクワ=駒木明義)


(7) 共産機関誌に3野党幹部 共闘への思い紹介 創刊以来初

 共産党の機関誌「前衛」3月号に、安住淳・民進党代表代行、小沢一郎・自由党代表、吉田忠智・社民党党首が野党共闘への思いを語ったインタビューが掲載される。他党幹部が登場するのは1946年の創刊以来、初めてだという。  3氏は、1月の共産党大会にも初出席。安住氏は、「(自衛隊や日米安保など共産との政策の違いを)一定の枠にきちんと収めていくことはできる」「民進も共産も違いのある社会を認め合うところは共通だ。穏健保守・リベラルの旗を掲げれば、多くの人が必ず共鳴してくれる」と強調した。(関根慎一)


(8) 憲法解釈変更、残る多くの謎 集団的自衛権審議の「想定問答」、内閣法制局が開示

 集団的自衛権の行使を認めた2014年7月の閣議決定について、内閣法制局が作った国会答弁用の「想定問答」の一部が1月18日に朝日新聞に開示された。憲法解釈の変更をめぐる過程の一端がうかがえるが、公開文書はまだ多くなく、法制局の公文書を巡る認識の誤りも露呈した。戦後日本の安全保障政策の大転換だけに、改めて歴史的検証に堪えられる公文書管理のあり方が求められる。  ■【P】が示す、水面下の自公攻防  「想定問答」から垣間見えるのは、集団的自衛権の行使容認について、武力行使の要件を緩やかにしたい自民党と、厳しくしたい公明党との水面下の協議に、法制局が非公式に関わっていた可能性が高いことだ。  法制局は憲法や法律の解釈をしたり、過去の国会答弁と矛盾がないかどうかをチェックしたりする組織で「法の番人」とも呼ばれる。法制局が与党協議に関わっていたということは、その中身を記録していた可能性が高く、その文書が公開されれば、与党協議で何が話されたのかを追うことができる。  そのことを示すのが、日本が攻撃されていないにもかかわらず、相手を攻撃する武力の行使について想定問答に書かれた「国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合もある【P】」との記述だ。「P」は保留を意味する「ペンディング」の頭文字だ。  14年6月24日の与党協議で示されたが、27日の与党協議では「場合もある」から「場合がある」に変わった。自民は集団的自衛権だけでなく、国連決議に基づいて有志連合の国々が侵略国などを制裁する「集団安全保障」でも武力行使できることを強調するよう、「場合もある」との表現にしようとしたが、公明側が「待った」をかけた。  法制局が「場合もある【P】」という表現を使った想定問答を作っていたことは、法制局が「場合もある」について自公がもめていたことを知り、その法的な意味合いの違いを検討していた可能性がある。  さらに、この文言の変遷もうかがえる。6月17日の与党協議で示された閣議決定の原案については、与党幹部が口頭で「国際法上は集団的自衛権が根拠となる」と説明したが、想定問答には「根拠となる(ことがある)」とあり、公文書で裏付けられた。  一方、集団的自衛権の行使を認める要件の「通称」も慎重に検討していたことも推測できる。想定問答の「『新三要件』【名称P】」という表現からだ。旧来の3要件は「自衛権発動の3要件」。日本が直接攻撃された場合にのみ反撃できる「個別的自衛権」しか認められていなかった。  自民は与党協議で「武力の行使の3要件」として提示。集団的自衛権に加え集団安保での武力行使も可能なことを明確にしたかったが、公明が反発。最終的な通称は「自衛の措置としての『武力の行使』の新3要件」になった。公明側の主張で、あくまでも「自衛のため」を前面に押し出した表現になった。  ■「新3要件」の経緯、開示されず  今回の解釈変更の過程は、14年5月からの与党協議については与党幹部の口頭説明や取材である程度はわかっている。だが、政府部内でどう検討が行われたかは、依然、わからないことが多い。  取材によると、小松一郎法制局長官(当時)は13年9月、1972年の政府見解を使った集団的自衛権行使のための「新3要件」の原案を首相に示した。「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」といった表現に、首相は行使の要件が「狭すぎる」と却下したという。  この原案作成には、小松氏のほか横畠裕介・内閣法制次長(当時)が関わったことが取材でわかっているが、情報公開請求でも開示されておらず、保存されているかも不明だ。  また、朝日新聞は14年3月当時、政府内で検討されていた新3要件が断片的にわかる資料を入手した。首相が却下した原案とは別の物だ。自衛権発動の旧3要件のうち、第1要件「我が国への急迫不正の侵害がある」について、「我が国と密接な関係にある国」を加え、「我が国の安全保障に直接関係がある場合」としている。「根底から覆される」という表現がある最終的な閣議決定に比べると、集団的自衛権を発動するハードルが低い。ただ、この資料もまだ開示されておらず、どの程度、真剣に検討されていたかわからない。  また、閣議決定の「肝」となる表現は、与党協議ではなく、自民の高村正彦副総裁、公明の北側一雄副代表に横畠氏、政府高官2人の「5人組」の水面下の会合で決まったことが取材でわかっている。横畠氏が議論の過程でメモを取っていた可能性は高く、重要な文書と言えるが、保存されているかもわからない。  過去には政府が克明な記録を残した例もある。  防衛省は、集団的自衛権の行使を認めなかった1981年5月の政府答弁書を作成する過程の議事録を朝日新聞に開示している。法制局や外務省、防衛庁(当時)の7人で6時間議論したもので、手書きで横書きされたA4判19枚だ。法制局幹部が「議論の余地を残すような表現は避けた方が良いのではないか」などと細かに注文を付けている様子がわかる。  ■「法の番人」として認識再考を  「想定問答」の開示を拒んできた内閣法制局の姿勢は、政策決定の歴史的検証に堪える文書を残すべきだとする法律の精神からも、「法の番人」として他省庁に与える影響という意味からも不適切だった。  朝日新聞は法制局のパソコンにある想定問答の題名の記録を入手。16年2月にその存在を報じ、情報公開請求した。想定問答の文言の段階的な変化を追うことで、法制局内でどんな議論を経て、憲法解釈の変更に至ったかを探ることができると考えたからだ。  法制局が当初開示しなかった背景には、公開すべき文書の扱いを極めて狭く解釈したことがある。  横畠裕介内閣法制局長官は国会答弁で「(長官の)了承を得る過程で修正された場合に、その修正前のものまでいちいち取っていない」などと答弁。法制局が開示について諮問した総務省の情報公開・個人情報保護審査会にも「長官の了承を得た最終版が行政文書として保管されており、作成過程の原案は速やかに廃棄すべきもの」という意見を出していた。法制局トップが決裁しない限り、公開の必要がないとの主張だ。  総務省の審査会の答申は、法制局のこうした主張を「決裁・供覧等の手続きを要件として行政文書の範囲を画するものであって、適切ではないというべきだ」として明確に退けた。また「国会答弁資料案は不採用となった瞬間に、行政文書としての性格も失うものだ」とした法制局の主張も、「到底採用することはできない」などとした。  内閣法制局第一部の湯下敦史参事官は取材に対し、「不採用となるまでは、保存期間を1年未満として法制局で定めている行政文書にあたる。必要がなくなったときに適宜廃棄できるものだ」と述べた。しかし、法制局が「1年未満の行政文書」の考え方を明確に示したのは、昨年11月に審査会に出した補充の意見書が初めて。しかも、横畠長官は昨年2月の国会で「組織的に用いるものではなく、行政文書に当たらない」とも答弁していた。  もう一つ、法制局の対応で問題だったとみられるのは、修正を重ねた想定問答をその都度、保管していなかったことだ。  湯下参事官は検討過程の国会答弁資料の保存について「普通は上書きで修正する。あまり段階ごとに取っておくことはしない」と述べた。  しかし、公文書管理法のガイドラインでは、仮に職員の手書きのメモのようなものでも「法律立案の基礎となった国政上の重要な事項に係る意思決定が記録されている場合」には「適切に保存すべき」としている。憲法解釈の変更という国の基本政策に関わる事項なら、なおさら決定過程を後追いし、検証できるよう文書を各段階ごとに保存しておくことは必要だった。  公文書管理法は施行から4月で6年を迎える。だが、民主党政権でも東日本大震災の対策を協議するために立ち上げた複数の会議で議事録を作成していなかったなど、行政に情報の保存や公開への意識が徹底しているとは言いがたい。  「法の番人」としての法制局が「行政文書」の解釈を誤り、長期間開示しなかったことは、情報公開に関して霞が関の官庁に誤ったメッセージを送ることになりかねなかった。法制局は他省庁に率先して情報公開のあり方を見直す必要がある。    ■公文書管理、歴史への責任 公文書管理法の立法主導、福田康夫元首相  民主主義国家では、国民が様々な判断をするために正しい事実を知っていなければいけない。だが、記録を残すための法整備がされておらず、粗末だと思い、小泉内閣の官房長官時代に公文書管理に関するルールの整備に着手した。  公文書を残すのは日本の歴史を正確に残すためだ。信頼できる資料を、みんなが納得できる形で残していくことが必要だ。一つの法律を100年使うこともありうるが、立法の趣旨は何だったのか、さかのぼって検証できないと、将来、その時々で勝手な解釈がなされ、論争や混乱のもとになる。  各官庁は公正な立場で何を残すか、何を開示するか、判断していかないといけない。第三者では、本当にどれが大事なのかは判断できない。当事者が一番わかっている。  だからこそ公務員の良心が大事だ。日々、歴史の石垣を一つ一つ積み上げているんだと。この一個は小さいけれど、もしなければ、石垣は安定しないんだと。そんな思いを持ってもらわないといけない。それは、日本の歴史に責任を持つことでもある。  細かくメモまで残すべきかどうかは案件によって違う。だが、集団的自衛権をめぐる議論については、できるだけわかった方がいい。経緯がどこかでぷつんと切れて、いきなり「結論はこれだけです」ということでは国民の理解は深まらない。  〈+d〉デジタル版にインタビュー詳細   ■安保政策の重要な転換、検証必須 慶応大教授(国際政治)=安保法制懇メンバー 細谷雄一さん  公文書は必ずしも全てを保存し開示する必要があるわけではない。実際、英米では9割近い文書は廃棄している。しかし、今回の集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更は、戦後日本の安全保障政策の極めて重要な政策転換であり、賛成、反対の立場を超え、将来にわたって幅広く歴史的な検証が行われるべきものだ。政府はできる限りの文書を残しておくべきだし、政府が国民への説明責任を果たしたり、国民の間に議論の材料を提供したりすることにもつながる。  政府の文書はその国家が持つ最高で最良の財産だ。首相や大統領が亡くなっても、役人全員がクビになっても入れ替えれば問題ない。だが、日本政府の公文書が全てなくなったら、例えば、尖閣諸島が日本のものだと証明もできない。    ■決定の証拠、残すのが法の精神 独協大法科大学院教授(憲法・情報法) 右崎正博さん  情報公開・個人情報保護審査会の結論は当然だ。答申は情報公開法にある「行政文書」の定義を的確に判断した。想定問答は組織内でやりとりして作られており、行政文書に該当するというのが通説だ。  一連の内閣法制局の対応はできるだけ証拠を残さず、結論だけを明確にすればいいという昔ながらの官僚の手法だ。政府の決定が後で検証できるように証拠を残そうというのが法の精神だ。国会の役割は大きい。政府の意思決定を透明化するための公文書管理や情報公開の法律は政府が国会に提出してきたが、それでは、政府が抜け道のある法律を作る可能性がある。議会は政府への監視機能を自覚し、こうした法律を作るのは議会、実施するのは政府という役割分担をはっきりさせなければならない。    ■「想定問答」の開示などをめぐる経緯 <2015年> 内閣法制局が解釈変更の協議文書を残していないことを毎日新聞、朝日新聞が報道 <16年2月17日> 法制局が開示していない「想定問答」について朝日新聞が報道 <18日> 横畠長官が想定問答の存在を国会で認めたが、開示は拒否 <3月22日> 朝日新聞の情報公開請求に対し法制局が想定問答の「不開示」を決定 <4月11日> 朝日新聞が、法制局の不開示決定に対し、不服を申し立て <7月7日> 法制局が総務省審査会に公開すべき文書に当たるかどうか諮問 <17年1月17日> 審査会が「行政文書に該当することは否定できない」と判断。答申書を法制局に送付 <18日> 法制局が朝日新聞に想定問答開示  ◆この特集は蔵前勝久、河合達郎が担当しました。


(9) (トランプの時代)中国・北朝鮮への警戒強く マティス国防長官、初外遊に日韓

 米国のジェームズ・マティス国防長官が2~4日、トランプ政権の閣僚として初めての外遊として韓国と日本を訪問する。トランプ大統領から安全保障政策を任されるマティス氏は、北朝鮮や中国をにらみ、日韓両政府と東アジアに横たわる課題について意見交換する見通しだ。日本にとっては、10日の日米首脳会談に向け、日米関係を占う試金石にもなりそうだ。  マティス氏は2日に韓国を訪問し、韓民求(ハンミング)国防相らと会談する。3日に日本に移動、安倍晋三首相を表敬訪問する。4日に稲田朋美防衛相との防衛相会談と共同記者会見を行う予定だ。  トランプ氏は大統領選中から「米国は引き続き日本を防衛したいと思うが、常に打ち切る準備もしなければならない」と述べ、在日米軍駐留経費の負担増を求めるなど同盟軽視とも取れる発言を繰り返してきた。  トランプ政権は、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討などテロ対策を優先させ、「中東重視」の布陣を敷く。歴代の国防長官も紛争地や欧州を初の外遊先に選ぶのが通例で、過去20年間に日本や韓国を最初に訪れた例はない。  にもかかわらず、マティス氏が「東アジア」を選んだ理由に、中国や北朝鮮への強い警戒感があるとみられる。北朝鮮は5度の核実験に加え、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を示唆。南シナ海では、中国海軍の艦船が米海軍の海洋調査船の無人潜水機を奪うなど緊張が高まっている。  米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のザック・クーパー特別研究員は、マティス氏の訪問について「中国や北朝鮮の不測の事態に備え、日本と韓国との同盟を強化したいとの思いが強いからではないか。大局的、地理的視点から、中国が最大の懸念材料になる」と語る。  また日本側は、中国が尖閣諸島を攻撃した場合、日本を防衛する日米安全保障条約5条の適用について確認を求める方針だ。在沖米海兵隊普天間飛行場の移設問題についても、辺野古移設が「唯一の解決策」との考えを伝える模様だ。  米国防総省のデービス報道部長は1月30日、「今回の訪問の目的は、日本や韓国で新たな政策を打ち出すことではない」と記者団に説明。さらに「長官は話を聞くのが中心となる。直面する問題を理解し、将来的に、それらの問題への対応策を備えるための訪問となる」と語った。  外交筋によると、東アジア歴訪を選んだのはマティス氏自身だという。トランプ氏は1月28日の安倍晋三首相との電話会談で、マティス氏について「非常に信頼しており、いろいろ話をしてほしい」と強調した。トランプ政権では当面、安全保障分野はマティス氏が中心となる見方が強い。10日に予定される日米首脳会談を控え、どこまで環境整備が進むのか注目される。(ソウル=峯村健司、ワシントン=佐藤武嗣)


(10) 日本とイスラエル、連携加速 サイバー防衛、年内に覚書

 国際的なサイバー攻撃対策の大規模見本市「サイバーテック」がイスラエルの商業都市テルアビブで1日まで開かれた。日本企業も8社出展。2020年の東京五輪・パラリンピックを控えてサイバーセキュリティーの需要が高まるなか、高度な先端技術を持つイスラエルとの連携を加速させる姿勢をアピールした。  見本市には昨年に続き、日本企業がブースを出展。大日本印刷やNECアメリカなどの企業や経済産業省の担当者、日本に拠点を設けてビジネスを始めたイスラエル企業などが協力の可能性を説明した。  日本政府は今年前半にもサイバーセキュリティーの協力を盛り込んだ覚書を交わし、人材育成に協力してもらうことなどを検討している。(渡辺丘)      ◇  岸田文雄外相とイスラエルのカハロン財務相は1日、両国間の投資協定に署名した。投資に関わる規制を緩和し、イスラエルのサイバー関連企業などへ日本からの投資をしやすくする。日本政府は開会中の通常国会に協定の承認案を提出する方針。


(11) (社説)「円安」批判 国際合意無視するのか

 通商問題で貿易相手国を批判してきたトランプ米大統領が、為替政策を俎上(そじょう)に載せた。中国とともに日本を名指しし、「通貨安誘導を利用して我々を出し抜いている」と述べたという。  為替介入が念頭にあるとすれば、明らかに事実誤認だ。  日本は2011年を最後に介入をしていない。中国は最近は自国通貨を買い支えており、トランプ氏の認識と逆向きだ。  マネーサプライ(通貨供給量)に言及しており、日本銀行の量的緩和政策をやり玉に挙げる可能性もある。日本政府は早速、「日本の金融政策はデフレ脱却という国内政策が目的で、為替を念頭に置いたものでは全くない」と反論した。  目的は政府の指摘の通りだ。ただ、そうした政策が円安を伴い、日本経済が恩恵を受けているのも事実である。とりわけ日銀が続けているような大量の資金供給を伴う異例の政策が、他国との摩擦を起こす可能性は、過去にも指摘されていた。日本政府は丁寧に説明を続けていく必要がある。  起点になるのは、これまでの国際的な合意だ。  日米を含む主要国の間では、国内政策と国際協調の兼ね合いが繰り返し議論されてきた。昨年のG7では、各国が成長の回復に努め、中央銀行は低インフレの克服に取り組むことが確認されている。同時に、為替水準を目標にしないことや、通貨の競争的な切り下げを回避することもうたわれた。  こうした枠組みが各国の利益につながると理解され、その中で、日本だけでなく欧州や米国でも異例の金融政策が実行されてきた。08年のリーマン・ショック後は米国の金融緩和が先行し、日本が急速な円高に見舞われる局面もあった。  日銀の政策には問題もあるとはいえ、米国からの一方的な批判は筋違いだろう。トランプ氏は、過去の国際的な合意を踏まえるべきだ。  もちろん、現在の枠組みが最善とは限らない。互いの利益をさらに増すような提案なら歓迎される。だが、そうした姿勢はうかがえない。  昨年末から市場で進んだドル高は、トランプ氏が打ち出した減税やインフラ投資策を受けた動きだ。にもかかわらず、トランプ政権は二国間の貿易交渉に為替条項を盛り込む姿勢を示し、ユーロ安を理由にドイツにも矛先を向け始めたようだ。  こうした振る舞いが続けば、国際的な経済関係が漂流しかねない。米国にも利益にならないことを自覚すべきだ。


(12) (ザ・コラム)長寿の魔性 兜の緒をほどく時 駒野剛

 帝国海軍、今は海上自衛隊の教育の中心地、広島県江田島。海の武人の歴史を今に伝える建物が並ぶ中、ギリシャ神殿のような外観で立つのは教育参考館である。  1936(昭和11)年に、先人の遺業を思い、「自己修養と学術研鑽(けんさん)の資(もと)とする」(第1術科学校ホームページ)施設として設置。現在も隊員が「心の勉強をする場」(同)として、海軍関連の資料1万6千点を収蔵し、うち約千点を展示する。  中央階段を上ると正面に日露戦争時の連合艦隊司令長官、東郷平八郎元帥の顕彰室がある。05(明治38)年5月の日本海海戦で、敵バルチック艦隊を破った。  86歳の長寿を全うした元帥の遺髪を納めた部屋があり、扉に敵を撃破する場面や、連合艦隊を解散する際、元帥が述べた「勝って兜(かぶと)の緒を締めよ」の訓示が彫られたレリーフが貼られている。長崎平和祈念像で有名な彫刻家北村西望が作った。扉の中には入れないが、荘厳さを醸し出す。  圧倒的な勝利に輝いた元帥は、江田島に学び巣立った人たちにとって、昔も今も、比類なき偉大な先輩なのだろう。          ◇  どんな英雄も完全無欠ではない。とりわけ、老いて後、思考は柔軟さを欠いて頑固になり、過去の栄光で現在の課題を捉えがちになる。苦言を退け、甘言の輩(やから)を身近に置く。長寿が魔性を帯びる時だ。「聖将」と呼ばれた人も無縁でなかった。  30(昭和5)年5月17日付の東京朝日新聞の2面に、羽織はかま姿の元帥と浜口雄幸首相が並んだ写真が掲載されている。  海軍軍令部が反対するロンドン軍縮条約を受け入れるよう、元帥に働きかけを依頼するため首相が私邸を訪ねた、という記事に添えられた。元帥は「何事も申し上げない方がよい」とにべもなかった。  金食い虫の軍艦の建造競争を抑えるため、日米英などは22(大正11)年、ワシントン海軍軍縮条約を結び、主力兵器、戦艦の保有比率を英米10に対し日本6とした。  日本の経済力を考えれば妥当といえるが、英米と戦う可能性のある軍人には不満が残った。続くロンドンでは、巡洋艦や潜水艦など補助艦艇の比率が交渉されたが、軍令部は対英米7を求めた。  結果は6・975で、ほぼ要求通りだったが、重視した重巡洋艦と潜水艦が希望以下に抑えられて不満が爆発する。条約推進の立場の財部彪(たからべたけし)海軍大臣の更迭を求め、反対派の加藤寛治軍令部長が、昭和天皇に直接辞表を提出する騒ぎとなった。  混乱は与党民政党と野党政友会の政争に火をつけた。海軍が反対の政策を政府が行うのは、天皇が持つ軍の「統帥権を無視した」と、犬養毅政友会総裁や同党の鳩山一郎衆院議員が浜口内閣を非難した。  騒動は日本が軍国主義と世界大戦への道をひた走る大きな節目になったように思える。軍の意に染まぬことに政治が踏み込めば「統帥権干犯」と非難され、政府や国会が無力化していく序章となった。  「支那(中国)の排日激化、かような事態に反発した満州事変、五・一五事件など、いずれもロンドン条約の起こした波乱である」。海軍きっての「政治軍人」と言われ、日米開戦の下地作りに関わった石川信吾少将が、戦後、語っている。  騒動に聖将は少なからず関与した。加藤軍令部長の遺稿「倫敦(ロンドン)海軍条約秘録」には多くの元帥の言葉が残されている。  「日本の武力で畏敬(いけい)せらるべきものでなくなったら東洋の平和は忽(たちま)ち乱れる」「掛け値なしに7割の最小限度を提唱したのであるから一歩たりとも退くことはならぬ。英米が聴従せねば今度は会議に出ぬまでぢゃ」――。そう鼓舞されて加藤は戦い、要人にもこれらの言葉が伝えられた。          ◇  浜口は銃撃され、その傷がもとで命を失う。犬養も五・一五事件で海軍の青年士官に殺された。反乱者の公判が始まると、弁護に立った林逸郎氏に元帥の意向が伝えられた。「士官たちの志は十分わかっているから、彼らの志を国民に知らせると同時に足りないところは援助してやって欲しい」。テロリストの志とは何だろう。  元帥は一生、兜の緒をほどかなかった。去るべき時を誤れば害をなすことがある。その教訓は無論、私にも当てはまる。


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