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続折々の記2017②
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】03/01~     【 02 】03/01~     【 03 】03/03~
    【震災六周年】     【韓郷の調査 】     【 06 】03/12~
    【 07 】03/13~     【 08 】03/14~     【 09 】03/15~


折々の記 2017②
【 01 】~【 09 】内容一覧
【01】 03/01 今日のニュースから
     (1) AI学会倫理指針「AI自身も遵守を」
     (2) ゆがんだ思いの果てに 天声人語
     (3) 読書スランプの時代 天声人語
     (4) 世論意識「共謀罪と違う」(時時刻刻)
     (5) トランプ氏「中国と協力重視」
     (6) (全人代2017)習体制、成果アピールの裏で
     (7) (社説)森友学園 公教育を逸脱している
     (8) 昭恵氏は名誉校長辞任の説明を
     (9) (インタビュー)連合、だれのために連合会長
【02】 03/02 今日のニュースから
     (1) 「面談記録、鴻池氏の事務所のもの」
     (2) 大阪の国有地売却問題
    03/02 あわれの少女 作詞:大和田建樹
     (1) 「近代日本の音楽」の原点は『童謡』にあり!
【03】 03/03 応仁の乱 何故いま応仁の乱なのか?
     (1) Google による検索 ①~⑩
       ・ 応仁の乱について
       ・ 第32回 応仁の乱と衰退する室町幕府
【04】 03/05 東日本大震災6周年が近い 「花は咲く」
【05】 03/05 韓郷神社の関連調査 渡来人の産土様
【06】 03/12 03 10のニュース 醜い森友学園の顛末
     (1) 教育勅語肯定 稲田大臣の資質を問う (社説)
     (2) 籠池氏、自説の独演会 
     (3) 校舎建築費、虚偽申告か
     (4) 現地調査「妨害」で中止に
     (5) 首相夫人の昭恵氏、20の肩書
     (6) 首相夫人の昭恵氏20の肩書へのコメント
     (7) 倍首相に“第二の森友学園”疑惑!
【07】 03/13 03 11のニュース 韓国大統領の罷免
     (1) 朴大統領、失職 民主化後初の罷免
     (2) 「国民裏切り」朴氏を指弾
     (3) 韓国社会、深い亀裂
     (4) 耕論 史上初、罷免の底流
       ・ 破滅的な分断、憲法裁が回避
       ・ 充満した閉塞感、劇的結果に
     (5) 慰安婦合意「再交渉を」
    03/13 03 11のニュース 東日本大震災、きょう6年
     (1) (社説)大震災から6年
【08】 03/14 稲田朋美防衛大臣 伏魔殿の世界なのか
     (1) 稲田朋美防衛大臣に関する記事一覧 349,000 件
       ・ 【号外】一連の答弁を訂正
     (2) ⑩ 防衛相は未だに暴言を吐き続ける
     (3) ⑧ 「稲田朋美」のまとめ 67件
【09】 03/15 (続) 稲田朋美防衛大臣に関する記事
     (1) 森友、国会招致「必要」70%
     (2) 小池新党に「期待」、東京では63%
     (3) 稲田防衛相と森友学園、疎遠?旧知?
     (4) 罵倒するだけの「保守」に違和感
    03/15 大震災から6年 「共有」を復興の突破口に (社説)
    03/15 南スーダン緊迫克明 銃撃戦、30発以上発砲音
    03/15 「考える子」が育つ親の行動パターン



【 01 】03/01

  03/01 今日のニュースから   
        (1) AI学会倫理指針「AI自身も遵守を」   
        (2) ゆがんだ思いの果てに   天声人語
        (3) 読書スランプの時代   天声人語
        (4) 世論意識「共謀罪と違う」   (時時刻刻)「テロ対策」看板のはず
        (5) トランプ氏「中国と協力重視」   政権発足後初、高官と面会
        (6) (全人代2017)習体制、成果アピールの裏で   
        (7) (社説)森友学園 公教育を逸脱している  
        (8) 昭恵氏は名誉校長辞任の説明を   
        (9) (インタビュー)連合、だれのために   連合会長・神津里季生

 03 01 (水) 今日のニュースから     



(1)AI学会倫理指針「AI自身も遵守を」
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12819152.html

 人工知能(AI)自身にも倫理性を――。大学や企業の研究者で作る人工知能学会が28日、人工知能の研究開発の倫理指針をまとめた。研究者が備えるべき倫理性を、人工知能自身にも求めたのが特徴だ。技術が進歩し、「人工知能が人工知能を作り出す」時代の到来を見越した。

 指針は学会の倫理委員会が2年かけてまとめ、理事会が承認した。最終の第9条で「人工知能が社会の構成員またはそれに準じるものとなるためには、(中略)学会員と同等に倫理指針を遵守(じゅんしゅ)できなければならない」とした。学会員向けには1~8条で開発と利用の際の安全確保、利用者への情報提供や注意喚起、差別の禁止、プライバシーの尊重、悪用防止、社会との対話などを挙げた。

 会社の経営判断や医師の治療行為を補助する人工知能が登場し、いずれ自ら考えて行動し、人工知能を作る人工知能が登場すると予測される。時期は十数年後とも半世紀以上先ともいわれ、予測はまちまちだが、欧米では、技術の後追いになって社会が混乱しないよう、例えば法人格のような法律上の責任主体としての「人格」を人工知能に与えるなどの提案が出ており、倫理委も参考にした。

 松尾豊委員長(東京大特任准教授)は「社会の構成員としての人工知能の姿は、鉄腕アトムやドラえもんになじんだ日本人にはイメージしやすいと思う。9条をきっかけに、人工知能のあるべき姿の議論が社会の中でも深まることを期待したい」と話す。(嘉幡久敬)



2017年3月1日
(2)ゆがんだ思いの果てに(天声人語)

 「ストーカーをやめると自分のアイデンティティーが無くなる」との言葉に寒気を覚えた。一方的に恋愛感情を募らせたあげく、相手の気持ちを無視してつきまとう。ジャーナリスト田淵俊彦さんの著書『ストーカー加害者』にはそんな人たちへのインタビューがある

▼女性に電話し続け、ストーカー規制法違反で有罪となった男性は「彼女を大切に思う気持ちは今も変わっていません……出来ることならもう一度だけプロポーズを」と語る。男性への嫌がらせを続けた女性は、相手への支配欲ゆえに「どん底に落としたい……叩(たた)きのめしたいんですよ」と述べる

▼判決前、「真っ当な人間になりたい」と語ったのは被告の本心なのか。東京都小金井市で昨年5月、音楽活動をしていた冨田真由さんが刺されて重傷を負った事件の判決がきのうあった。岩崎友宏被告に懲役14年6カ月が言い渡された

▼冨田さんは被告によるつきまといを警察に相談していたが、事件は防げなかった。「殺されるかもしれない」と伝えたのに危険性がないと判断された――。彼女の手記にある言葉を警察は改めてかみしめてほしい

▼今回の事件で被告はツイッターなどで執拗(しつよう)に書き込みをしていた。その後の法改正でSNSでのつきまといにも禁止命令が出せるようになった

▼思い込みがある日、暴力に変わる。誰もが加害、あるいは被害の当事者になりうることを心にとめたい。警察だけに背負わせるのでなく、行政や医療など多くの知恵が必要になる。



2017年2月28日
(3)(天声人語)読書スランプの時代

 読書スランプとは初めて聞く言葉である。『本の雑誌』3月号の特集で、批評家や編集者などプロの読み手たちにも、どうにも本が読めなくなるときがあることを知った。文字を追うだけになり、頭に入らずに前のページに戻ってしまうという

▼「同じ分野の本ばかり読んで疲れてしまう」「すごい本に出会って打ちのめされる」など、不調の理由はさまざまである。スランプ時には野球のデータ集や列車の時刻表で気分転換するといった対策も述べられている

▼とはいえスランプに陥るほどの読書家はいまの世の中、少数かもしれない。1日の読書時間が「ゼロ分」の大学生がほぼ5割にのぼることが、全国大学生活協同組合連合会の最近の調査で分かった。平均の読書時間は24・4分で、スマホの平均利用時間161・5分に大きく水をあけられている

▼大学生に限らず、幅広い世代で本を読まない人は増えている。娯楽にふれ、情報を得るのはいまや電子画面が圧倒的に優位なのか

本を読むのはつらいし、内容も忘れてしまう。それでも人は読む。読み取るのは、「無数の人々が体験しその痕跡を言語によってなぞってきた過去」なのだと詩人の管啓次郎(すがけいじろう)さんが書いている。それが未来を切り開く手立てになるのだと。知識は汲(く)んでも汲み尽くせない。『本は読めないものだから心配するな』の書名に勇気づけられる

▼小さな画面に疲れたら、どうもスマホスランプだと暗示をかけてみてはいかがだろう。本の世界が待っている。



(4)世論意識「共謀罪と違う」
   (時時刻刻)「テロ対策」看板のはず

「共謀罪」新法案が28日、与党側に示された。政府は対象犯罪を当初の半分以下に削り、条文にない「テロ」を冠した呼称で新たな装いを強調する。ただ、「恣意(しい)的な運用につながりかねない」との懸念はなお残り、「本質は変わっていない」との指摘が早くも出ている。与党審査はすんなり通る見通しだが、野党は追及を強める構えだ。▼1面参照

 「組織的犯罪集団に限定し、NPO法人、労働組合、一般の会社は対象にならないと明確になった。罪数も縮減された。準備行為がなければ犯罪は成立しないと、要件は非常に厳格化された」

 公明党で法案取りまとめの責任者を務める漆原良夫・中央幹事会長は28日の党の初会合の冒頭、政府案を評価する言葉を並べた。出席した議員が会合後、「(漆原氏が)冒頭に早々と賛成討論していた」と苦笑いするほど、会合は静かだった。

 政府は今回、世論を強く意識した。法案には「テロ」という表現が出てこないのに、「テロ等準備罪」という呼称を使ったのは、首相官邸の発案だった。閣僚の記者会見や国会答弁ではこの呼称を使用。犯罪の合意についての条文上の表現も、負のイメージのある「共謀」から「計画」に変えた。今国会では安倍晋三首相や金田勝年法相がテロ対策を前面に押し出し、「共謀罪とは違う」と繰り返した。首相官邸幹部は「『テロ対策だ』と言われたらみんな反対できない」と語った。

 28日の記者会見で「テロ」の文字がない理由をたずねられた菅義偉官房長官は「内容は現在、与党と調整中であり、現時点でなんら決まっていない」と話し、直接の回答を避けた。一方で、「3年後に迫った東京五輪・パラリンピックの開催に向けて、テロを含む組織犯罪を未然に防止するために万全の態勢を整える必要がある」と改めて法整備の意義を訴えた。

 国際組織犯罪防止条約は、4年以上の懲役・禁錮の刑を定める「重大な犯罪」について、犯罪の合意(共謀)などを処罰できる法律を制定するよう締結国に求めており、政府が当初検討した原案では、対象犯罪は676だった。

 対象犯罪を「内容に応じて選別することは条約上できない」との答弁書を2005年に閣議決定し、数を減らせないというのが基本姿勢だった政府に対し、公明党は今年1月、対象犯罪の大幅な絞り込みを要請。国政選挙並みに力を入れる東京都議選の告示を6月に控えており、連立与党として政府に歯止めをかけたとアピールする狙いだった。

 これに政府が呼応。「組織的犯罪集団の関与が現実的に想定される罪」に限定することが許されていると条約の解釈を変更して、罪を「一つ一つ積み上げていった」(法務省幹部)という。その結果、対象犯罪は277に。政府側の5分類で「テロの実行」に含まれるのは、110だった。

 世論を意識するあまり、従来の説明との整合性が問われる状況になり、過去、法案にかかわった与党議員からは不満の声が漏れる。28日の自民党法務部会では、共謀罪法案が提出された05~06年に法務副大臣だった河野太郎衆院議員が声を荒らげた。「(当時は)条約を厳守するなら(対象犯罪は)一つも減らせないと対外的に説明してきた。虫のいい話だ。外れた罪について、一つずつ理由を説明してほしい」(久木良太、藤原慎一)

 ■「組織的犯罪集団」 一般人、適用の可能性

 政府は過去の共謀罪法案と比べ、数だけでなく、要件も絞り込んだと強調する。

 その一つが「組織的犯罪集団」という概念を採用したことだ。「結合の目的が、対象犯罪を実行することにある団体」と定義づけ、罪に問われる対象を従来の「団体」から変えた。過去の法案が「市民団体や労働組合も対象になる」といった批判を浴びて廃案になったことを踏まえた。金田法相は28日の記者会見で「一般の方が組織的犯罪集団に関与することは考えられない」と改めて述べた。

 ただ、定義のわかりにくさやあいまいさが疑問や論争を生んでいる。金田氏自身が今国会で、正当な活動をしていた団体もその性質が「一変」すれば組織的犯罪集団と認定される可能性に言及。「一般の方々が対象となることはあり得ない」と説明してきた安倍首相も、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教を例に「当初は宗教法人として認められた団体だったが、犯罪集団に一変した」と述べた。

 この日の自民党法務部会では、「大学生による集団強姦(ごうかん)事件には適用されるのか」といった質問が出た。国会審議では、捜査機関の裁量によって宗教団体やNPO法人、サークル、同窓会などにも対象が広がると懸念する声が野党側から出ており、今後の審議のポイントになりそうだ。

 ■「準備行為」 「その他」拡大解釈の余地

 政府が言うもう一つの絞り込みが「準備行為」だ。

 「話し合っただけで処罰されるのではないか」という過去の法案審議での反対論を意識し、今回、処罰には準備行為が必要と位置付け、資金の用意や現場の下見をその内容として列記した。ただ、これらに加えて「その他」という文言もあり、拡大解釈される余地は残っている。

 また、準備行為は「計画をした者のいずれか」により行われればよいとされたため、1人が計画を実行に移すための準備行為をすれば、計画した残りの多数が犯罪への合意だけで処罰されることになり、野党からは「共謀罪法案と中身は同じだ」との批判が噴き出す。

 民進党は「次の内閣」で決めた「見解」のなかで慎重論を展開した。「(法案は)一般市民を含みうる広汎(こうはん)なもので、『準備行為』や捜査手法も甚だ不明確だ」「国民の言動を過度に萎縮させ、基本的人権を侵害する可能性が極めて高い」(金子元希、安倍龍太郎)

 ■<考論>乱用や萎縮効果生むだけ 落合洋司氏(弁護士・元東京地検公安部検事)

 現行法の下でテロ対策の立法が不十分とは思わない。爆発物取締罰則や銃刀法などには細かい規定もある。国民の不安をあおって強引に「共謀罪」をつくろうとする姿勢は疑問だ。

 情報の収集・集約体制が整わないままつくっても、絵に描いた餅ですらない。地下鉄サリン事件の時に共謀罪があったとしても情報がないため、防げなかっただろう。

 公安検事時代、共謀罪が必要と思ったことはまったくない。拡大解釈や乱用、過剰な取り締まりや萎縮効果を生むだけだ。

 「準備行為」や「組織的犯罪集団」の要件を加えても、今までの共謀罪と大差はない。オウム真理教はヨガ教室から始まりテロ集団となったが、どこで認定するかは捜査機関の解釈。そういう「灰色」の部分で、市民団体や労働組合が犯罪集団と認定されうる。

 今でも「相当の嫌疑」があれば裁判所の令状を得て捜査できる。何をもって組織的犯罪集団や準備行為を認定するかがあいまいだ。肝心のテロ犯罪は検挙できないまま、適用対象だけ広がることにならないか。

 テロ対策の美名の背後に隠された、市民生活の自由に対する脅威や危険性を認識しなければならない。

     *

 おちあい・ようじ 検事時代に、国松孝次・警察庁長官狙撃事件やオウム事件などを担当。退官後に弁護士。

 ■<考論>テロ起きてからでは遅い 椎橋隆幸氏(中央大法科大学院教授〈刑事訴訟法〉)

 人や物の移動が自由になり、日本だけテロと無関係とは言えない。国際組織犯罪防止条約が「共謀罪か参加罪を新設せよ」と要請しており、共謀罪は必要だ。

 確かに、日本の刑法は「結果を中心に考える」体系だが予備や陰謀の規定もあり、導入しても不整合とは言えない。テロが起きてからでは遅い。実行前の段階で処罰できると評価していい。時代が変わった。

 対象罪名のうち、国際的な人身売買や薬物犯罪などは、テロとは一見関係なく見えるが、テロ組織と密接な関係にある。これらは現行制度では事前に処罰できず、被害者になるのは女性や若者、子どもたちだ。

 「組織的犯罪集団」「準備行為」という要件を加えて対象犯罪を絞れば、乱用は防げる。準備行為がなければ証拠は集められないし、証拠がないまま起訴はできない。裁判所による令状審査もあり、恣意(しい)的な法執行はできない。

 政府は「テロ等準備罪は共謀罪とは別物」と主張するが、テロ等準備罪は共謀罪の延長線上にあるもので、あまり「違い」を強調し過ぎる必要はない。「要件を厳格にして対象犯罪も絞ったため、テロ等準備罪と呼んでもおかしくない」と説明すればよい。(聞き手はいずれも後藤遼太)

     *

 しいばし・たかゆき 2002~03年、共謀罪を審議した政府の法制審議会部会の委員を務めた。



(5)トランプ氏「中国と協力重視」
   政権発足後初、高官と面会

 中国外交を総括する楊潔チ(ヤンチエチー)国務委員(副首相級)が2月27日、米ホワイトハウスでトランプ大統領と面会した。トランプ氏が政権発足後に中国高官と会うのは初めて。マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)らとも会談し、米中関係の改善を進めることで一致した。

 中国外務省によると、楊氏は、習近平(シーチンピン)国家主席の親書をトランプ氏に手渡し、「互いの核心の利益を尊重し、両国関係を発展させていきたい」と述べた。トランプ氏は「中国との協力関係を重視しており、国際・地域問題で協調と協力を進めていく必要がある」と応じた。両氏は「指導層の交流強化」でも一致した。  トランプ氏が昨年12月に台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統と電話会談後、両国関係は険悪化したが、2月9日(中国時間同10日)の習氏との電話会談でトランプ氏が「一つの中国」政策を尊重すると表明して以降、中国は対米外交を活発化させている。

 共産党機関紙・人民日報は28日付朝刊で楊氏の論文を掲載。楊氏は「台湾は中国の一部」とする中国の立場に米国が異論を唱えないことを前提に、ちょうど45年前の2月に関係正常化を打ち出した「上海コミュニケ」を評価し、「原則を堅持してこそ中米関係は発展できる。さもないと面倒なことが不断に起きる」とした。

 一方、米側に高揚感はなく、むしろ安全保障面での協力を引き出すことを重視しているようだ。

 「安全保障での共通の関心事について議論を始めるきっかけとなった」。ホワイトハウスのスパイサー報道官は27日の記者会見で意義を強調した。「関心事」は北朝鮮問題とみられる。

 北朝鮮の核問題は、トランプ氏が就任後、情報機関による報告を積極的に受け、「外交の最優先事項」(米政府当局者)となった。トランプ氏は新型ミサイル発射についても「強い憤りを感じる」と非難するなど、強硬姿勢が鮮明だ。

 米メディアにも「中国は北朝鮮の脅威を簡単に解決できる」と、中国に影響力を行使するよう圧力をかける方針を示した。楊氏と会ったのも、北朝鮮問題で中国が役割を果たすよう説得するためだったようだ。

 米中関係筋によると、楊氏は米側にトランプ氏との正式会談を強く求めた。だが、米側は非公式な接触という位置づけで、会見後の報道発表文も出さなかった。同筋は「中国側の今後の対応を見極める必要があったのだろう」とみる。

 (ワシントン=峯村健司、北京=西村大輔)



(6)(全人代2017)習体制、成果アピールの裏で
   5日開幕

 中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が5日、北京で開幕する。今年は共産党の最高指導部が入れ替わる5年に1度の党大会が秋に控えており、習近平(シーチンピン)指導部は政権の成果をアピールしようと必死だ。だが、経済の先行きは不透明感が強く、途方もない格差や社会の矛盾に苦しむ国民の不満は根深い。

 ■格差の固定化 北京の貧困街、暖房ない生活

 旧正月(春節)を前にした1月下旬、習国家主席は河北省張家口市郊外の貧しい農村を訪ねた。「新年を前に一番気がかりなのは、生活が困難な人たちのことです」。そう語っていた習氏は農民の暮らしぶりに触れ、気遣ってみせた。

 国営テレビは、カーキ色の質素なコートを着てれんが造りの農家を一軒ずつ回り、旧正月用の揚げ餅作りまで一緒に手伝う姿を繰り返し報じた。習氏は「党と政府はみなさんが前よりもっとよい生活が送れるようにする」と語りかけた。

     *

 <農村へ1.6兆円> こうした姿は、春節前の習氏の恒例行事となっている。習指導部が農村部の貧困対策に力を入れるのは、経済発展が進んだ都市部との格差が広がれば、社会が不安定化し、政権を揺るがしかねないからだ。

 2016年には国や省レベルで投入した農村への貧困対策予算は初めて計1千億元(約1兆6千億円)を超えた。省レベルでは前年比5割増しにもなり、インフラ整備や集団移転費用、小口融資などに充てられている。政府は、年収2300元(約3万7千円)以下の貧困人口が15年の5575万人から4335万人に1240万人減ったと誇る。20年の貧困人口ゼロを目指し、今年も1千万人以上減らすことが目標だ。

 ただ、農村部で貧困対策は進むものの、貧富の格差はなかなか解消しない。中国誌「財経」は昨年9月、「中国では金持ちがますます豊かになり、貧富の格差が世代間で固定化している」と指摘した。富裕層は不動産収入や汚職などの「隠れた収入」があり、統計データよりも実際の格差は大きいとの見方だ。

 その象徴のような場所が北京市中心部にもある。金融機関などが入るモダンな高層ビルが林立するビジネス地区のすぐ裏手に広がる化石営地区。れんがを積み上げた粗末な平屋が並び、路地には下水のにおいが漂う。北京の住宅では一般的な温水暖房も通っていない。その貧しさから化石営「村」とも呼ばれ、多くの出稼ぎ労働者や貧困層が住む。

     *

 <「春節帰れず」> 河南省から出稼ぎに来て20年近くになる劉慶珍さん(47)は近くのビルの清掃員。月収は、北京市の最低賃金1890元をわずかに上回る2千元(約3万2千円)ほどだ。景気の減速で運転手の夫の収入も減った。月1千元の家賃を払い、なんとか一家3人で暮らす。暖房もなく、家の中でもコートは欠かせない。

 「以前は家族で年に3万~5万元は貯金できたのに、今年は全くダメ。春節も実家に帰れなかった」と嘆いた。医療費が高いため、北京では一度も病院に行っていない。携帯電話も10年以上前のものだ。「それでも、故郷よりはまし。北京で家が買えるなんて思ってないけど、少しでも金をためて帰りたい」

     *

 <連日「すごい」>

  春節のさなか、国営の中国中央テレビは国内外で働く人たちの仕事ぶりを紹介する特集を連日放送した。

 ネットの発達で田舎から都会に農産物が売れるようになった。国産粉ミルクが海外で賞をとった。パナマ運河最大の利用者は中国の海運会社だ――。登場する人たちは最後に必ず同じ言葉を叫んだ。

 「すごいぞ、私の国」

 だが、化石営地区で働く30代の男性は「いい気持ちにはなるけど、実態とは違うね。表面的にはとてもよくなったように見えるけど、実際には多くの人がまだ食事も満足にできていないよ」と言った。

 貧富の差が縮まらないことに対し、「政府にコネのある人は豊かになる。いいものはみんな彼らが持って行くからね。我々庶民は何をするのも大変だよ」と不満を漏らした。

 全人代では、民法の整備を進め、習指導部は「法に基づく統治」が進んでいることもアピールするとみられる。だが、貧富の格差、改善しない大気汚染、医療や教育の不平等などに政府がどう取り組むかも問われることになる。

 中国政治や社会を批判的に見ている歴史学者の章立凡さんは「党大会に向けて今の指導部を肯定するような雰囲気作りがメディアを通して進められている。愛国主義が利用されるのは、国民の不満を抑えるためだ」と指摘した。

 (北京=延与光貞)

 ■緩和の副作用 バブル警戒、対米リスクも

 「経済のグローバル化は、歴史の必然の結果だ」。習氏は1月、スイスに世界の政財界の要人が集う「ダボス会議」に初めて参加。英国の欧州連合(EU)離脱決定や米トランプ政権の誕生で世界的に保護主義が高まることへの反対を唱えた。

 市場の閉鎖性を批判され続けてきた中国のトップが「自由貿易のリーダー」のように振る舞う皮肉な現象は、世界情勢の変化をにらんで繰り出した、中国側の周到な演出でもあった。

 習氏は今後も、5月に北京にアジアや欧州の元首らを招く「一帯一路(二つのシルクロード経済圏構想)」の首脳会議、9月にはかつて勤務した福建省のアモイに主要新興国のトップが集うBRICSサミットを主催する。国際的な指導力をアピールしつつ、秋の党大会を迎えるための布石を着々と打っている。

 全人代はこうした党大会に向けた準備の中で、国内へ向けた最大の「政治ショー」でもある。経済成長を実現しつつ、自由化や法治の徹底といった改革が進んでいることを強調するとみられる。

     *

 <安定を最重視> このために政権が最も重視するのが、経済の安定だ。中国経済の足元は、減速が続いた近年では珍しく、楽観論も漂う。国内総生産(GDP)成長率は昨年10~12月期に6・8%と、前四半期から0・1ポイント上がり、8四半期ぶりに成長が加速した。

 下がり続けてきた鉄鋼や石炭の値段が再び上がり、こうした産業が息を吹き返した。鉄鋼生産の中心地・河北省では「15年ごろに休止した製鉄所が、昨年秋には次々と操業を再開した」(唐山市の工業地区の住人)という。

 党大会前に失業者の急増などで社会の不満が高まることを避けたい政権には好都合だが、「17年は良い年になる、という声ばかりが聞こえる」(大手鉄鋼幹部)という状況はリスクとも隣り合わせだ。

 経済の減速が深まった14~15年に、企業がお金を借りやすくするように6度続けた利下げで、金利は過去最低水準まで下がっている。こうした緩和策で、逆にお金が出回りすぎたと指摘される。好況の原動力となった不動産市場や、そこへ向けて資金を流し込んだ銀行業界では、バブルが強く警戒されている。中国人民銀行(中央銀行)からは各銀行に年末以降、「不動産向けの貸し出しを増やさないように」という水面下の指導が飛んでいる。

     *

 <通商交渉多難> 国外の状況はさらに不透明だ。米トランプ政権は中国との貿易赤字を減らすことを主要課題に掲げ、通商交渉で譲歩を迫る構えだ。中国の輸出には大きな打撃となる可能性がある。EUも、中国の過剰生産で鉄鋼などが値崩れしたことから、関税を上げるなどの対抗措置を強めている。

 内外で急な変化も懸念されるなか、習体制は経済運営で求心力を高めるのに躍起だ。全人代直前には経済閣僚の人事を刷新、最も権限の強い国家発展改革委員会や、米欧などとの交渉を担う商務省には、地方勤務時代から習氏に近かった人物をトップに据えた。

 全人代初日に李克強(リーコーチアン)首相が発表する「政府活動報告」では、年間の経済成長率目標の公表が注目を集める。昨年は「6・5~7・0%」としたが、安全運転が優先される今年は、景気の過熱でバブルが膨らむことを防ぐために「目標を引き下げるのでは」(金融大手幹部)との観測もある。

 (北京=斎藤徳彦)



(7)(社説)森友学園 公教育を逸脱している

 子どもの教育法として望ましい姿とはとても思えない。

 学校法人森友学園(大阪市)が運営する幼稚園が、運動会の選手宣誓で園児にこんな発言をさせていた。

 「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改め、歴史でうそを教えないようお願いいたします」「安倍首相がんばれ」「安保法制国会通過、よかったです」

 運動会とはおよそ関係のない話で、異様さに耳を疑う。

 教育基本法は、特定の政党を支持するなどの政治教育や政治的活動を禁じている。安倍首相自身、自らへの「応援」について国会で「適切でないと思う」と述べた。当然だ。

 深く理解できる年代でもない子に、他国名をあげて批判させたり、法の成立をただ「よかった」と言わせたりすることが、教育に値するだろうか。

 他者を排し、一つの考えを植えつけるような姿勢は、公的制度にのっとった公教育としてふさわしくない。「自他の敬愛と協力」の重視を求める教育基本法の趣旨にも反する。

 この幼稚園は、園児に教育勅語を素読させてもいる。学園が4月に開校予定の小学校でも同様に素読させるとしている。

 教育勅語は、天皇を頂点とする秩序を説き、戦前の教育の基本理念を示したものだ。「基本的人権を損ない、国際信義に対して疑問を残す」などとして、48年に衆参両院で排除・失効の確認が決議されている。この経緯からも、素読は時代錯誤だ。

 首相の妻の安倍昭恵氏は、幼稚園での講演で「この幼稚園でやっていることが本当にすばらしい」と語ったという。教育内容をどこまで知っていたのか。小学校の名誉校長を辞したが、経緯はなお不明なことが多い。

 首相は当初、学園や理事長について「妻から先生の教育に対する熱意は素晴らしいと聞いている」と肯定的に語っていたが、その後、「学校で行われている教育の詳細はまったく承知していない」などと距離を置き始めた。いかにも不自然だ。

 小学校用地の国有地の払い下げ問題も解明にはほど遠い。

 値引きの根拠となったごみの撤去費用は、なぜ専門業者を通さずに算出されたのか。ごみは一部しか撤去されていないのになぜ国は確認しなかったのか。昨日の参院予算委員会でも異例さの説明はついていない。売買契約に関する交渉記録が廃棄されたのも都合の良すぎる話だ。

 さらなる事実究明のために、国会は理事長や財務省幹部を参考人招致する必要がある。



(8)昭恵氏は名誉校長辞任の説明を
   
      
無職 伊佐孝夫(福岡県 71)

 安倍晋三首相の妻昭恵氏が、学校法人「森友学園」が新設する予定の小学校の名誉校長を辞任した。辞任理由は「通う子どもたちや、その両親に迷惑をかけ続けるので」とのことだ。おかしいではないか。

 昭恵氏本人の弁を借りれば、名誉校長を引き受けたのは「(森友学園の)教育方針は大変、主人(安倍首相)も素晴らしいと思っている」からではないのか。国有地の格安売却問題を巡り国会で追及が続いているが、それと昭恵氏が名誉校長を引き受けた理由とは関係ないはずだ。学園の教育方針は変わっていないのに、「素晴らしい」という評価を変えたと言うのか。なぜ子どもたちに迷惑をかけ続けるのかもわからない。

 昭恵氏が名誉校長を引き受け、「内閣総理大臣夫人」の肩書で学校のホームページに掲載されたことは事実だ。しかも国有地売却問題発覚まで、ホームページからの削除も求めていない。昭恵氏は名誉校長を引き受けた経緯や辞任の理由をきちんと説明すべきだ。

 首相夫人と言えば、この国のファーストレディーである。これで幕引きではあまりに無責任だし、国民に対して不誠実極まりない。



(9)(インタビュー)連合、だれのために
   連合会長・神津里季生

 労働組合は働く人を守るためにあるはずなのに、暮らしの底上げの実感は薄く、働き過ぎて命を削る人は後を絶たない。686万人の労働者を束ねる国内最大の労組の中央組織、連合(日本労働組合総連合会)は何をしてきたのか。時の政権に後れをとっていないか。7代目トップに就いて1年あまり、神津里季生会長に聞いた。

 ――連合はいま、労働運動のお株を安倍政権に奪われていませんか。残業を規制して長時間労働の是正をめざす「働き方改革」にしても、「官製春闘」にしても、そう見えます。

 「本質的に奪われることはありません。僕たちが言い続けてきたことにようやく光があたって、最低賃金引き上げにつながり、働き方改革の議論が政府で始まった。ですが、どう見ても人々には安倍さん主導と映る。その点でやりにくいのは事実です。実現は簡単ではないですが、私たちは働く立場から、残業時間の上限規制だけでなく、終業時間と始業時間の間に一定の休息時間を設けるインターバル規制の導入も求めています」

 ――望む政策が実現するのは、けっこうなことですね。

 「その局面ではよいことですが、なんでも政府に頼る『お任せ民主主義』は危険です。戦時下でも、総力戦の遂行のために一面では労働者に手厚い政策が打たれました。本当は、一人ひとりが声を張って取りに行く姿勢がなければ将来につながらない。それと『官製春闘』という言葉はマスメディアがはやらせたのであり、落とし穴にはまりかねない、よくない表現です。経営者も組合員も、自分たちとは関係ないと思ってしまわないか」

 ――いちばん声を張り、行動すべきは連合でしょう? 物足りなさを感じる人は多いと思います。

 「労働組合の運動は、どうしてもひとごとだと思われてしまう。私だけが大風呂敷を広げてもだめですが、時宜にかなった風呂敷を広げることは必要です。タイミングの一つが春闘ですね」

 ――始まった今春闘では、どんな「風呂敷」を広げていますか。

 「『底上げ春闘』を昨年に続けて掲げています。加盟する労組はそれぞれ、すべての働く者のために格差の是正を実現すること、中小や下請け企業に厚みを回すことを経営側に要求する。昨年は、子会社の賃上げが親会社を上回ったケースも目に見えて増えました。1年やそこらでは全然追いつかないから、続けなくちゃいけない。あんまりつんのめってはいけないですが、風呂敷の広げ方は常に考えなくてはいけない。あえて極論を言うと、数字はなくてもいい。大事なのは、要求の考え方です」

    ■     ■

 ――振り返れば、連合は四つに分かれていた労働組合が一つにまとまって誕生した組織です。

 「1970年代の石油危機までは賃金は上がり、実質的にほぼ完全雇用でした。ナショナルセンター(労組の全国中央組織)がばらばらでも、労組に存在感があった。けれども、その『いけいけどんどん』の時代にはほころびが見えなかった問題の比重が、石油危機以降、決定的に高まった。これが、連合結成の引き金になったと思うんですね」

 ――連合は、具体的に何をしていく存在ですか。

 「一つは個別の労組では解決できない大きな問題、税制や医療、労働法制、社会保障などに刺さり込んでいくことです。連合は『力と政策』を、結成以来のキーワードとしてきました。もう一つは、うんとミクロの視点で、一人ひとりの働く者に向き合うこと。だれでも電話できる労働相談ダイヤルなどがそうです。組合員から連合本部にいただく月100円ほどの会費は、むしろ組合員以外のために使う。すべての働く者のために力を発揮することが大切です」

 ――政策の実現に「刺さり込んでいる」自信はありますか。

 「かつての自民党政権のときも、正面から政策要請をし、水面下も含めて影響力を発揮してきました。民主党政権下での社会保障と税の一体改革も、連合の『働くことを軸とする安心社会』の考え方を、かなりの部分で共有した。昨年末、安倍首相との会談でも連合の考えははっきり伝えました」

 ――一方で、脱原発の方針や共産党との共闘をめぐって、応援してきた野党の民進党とは関係がぎくしゃくしています。

 「ぎくしゃくはしていません。本来、民進党は二大政党制で政権を担える存在になるべきで、どう信頼を取り戻せるかです。戦術として、ただでさえ強い自民党に立ち向かっていくのに、野党がバラバラでいいはずがない。でも、野党の候補者が共産党に一本化となった場合、連合が応援することは絶対にあり得ません。共産党とはめざす国家像が違う。連合は左右の全体主義を排し、広い道の真ん中を歩く。結成以来、ぶれずにやってきたことです」

    ■     ■

 ――1年あまり前に決定した運動方針で、「連合はどういう存在か」を自問していました。存在意義を探しあぐねているようです。

 「探しあぐねている、ということではありません。そもそもの問題意識には、2003年に外部の有識者に連合の活動を評価してもらった、連合評価委員会の最終報告があります。この中坊委員会で示された方向のなかで、着実に前に進んでいます」

 ――市民派弁護士と言われた元日弁連会長の故中坊公平氏が座長を務めた委員会ですね。報告から14年、何が前進しましたか。

 「地域の取り組みが重要だという提言を受け、2012年までに260の地域の組織を整備しました。駆け込み寺的に1人でも加入できる地域ユニオンもできた。現場任せだった労組の仲間を増やす根源的な取り組みも、能動的に動き始めています。減り続けていた組合員数も盛り返してきました」

 ――中坊委員会は「不平等・格差の拡大という不条理に対する怒りが感じられず、迫力が欠ける」と厳しく批判しました。最近では電通の女性社員の過労自殺に、働く人の「不条理への怒り」が高まりました。連合は、働く人の命を守るために何をしたのですか。

 「職場でなんと言っても大事なのは命、安全ですよね。電通の労組は連合傘下ではありませんが、残念きわまりない話です。独り悩むのではなく、相談ダイヤルに一報いただけたら、悲惨なことにならずに済むのではないか。その思いはすごくあります」

 ――もう一つ、中坊委員会が求めた「企業別組合主義からの脱却」は、進んだのでしょうか。

 「良い悪いは別にして、日本の労働運動は企業別の交渉を軸とした体系になっています。問題は、この枠組みでカバーされていない人が世の中にわんさといること。獲得した成果を、外に広げていくことが必要ではないでしょうか」

 ――「外に広げる」努力、しているようには見えません。

 「ブラック企業と批判された居酒屋チェーンのワタミの労組結成を支援したのは、昨年でした。従業員にひどい仕事のさせかたをしている企業とは、直接、全面的に闘っています。こうした取り組みは、外からも見えるようにしたい。私は幻想を抱かないし、幻滅もしません。現実を直視します」

    ■     ■

 ――労働運動の世界にのめりこんだきっかけは、何ですか。

 「新日鉄に入って6年目で本社労組の執行委員になりました。連合を通じてタイの日本大使館で3年間働き、帰国後に希望して新日鉄労連の専従に戻りました。その翌年の95年が、鉄鋼業界で初めてベアを要求したのにゼロ回答だった『ベアゼロ春闘』でした。書記次長として交渉文章をつくった身としては冗談じゃないと。これがバネになった。悲願だったホワイトカラーとブルーカラーの制度体系を一緒にするという大改革も経験し、こだわりを持つようになった。貴重な経験ばかりでした」

 ――連合のトップとして、これから何を貫く覚悟ですか。

 「トランプ政権の誕生など、世界中が『自分たちさえよければ』という流れになっています。それでは巡り巡って、自分たちにつけが回る。労働運動は、それではいけないと言ってきた。この原点はありとあらゆる機会をとらえて言い続けます」

 (聞き手・吉沢龍彦)

    *

 こうづりきお 1956年生まれ。79年に新日鉄(現新日鉄住金)入社、新日鉄労連会長、基幹労連中央執行委員長、連合事務局長などを経て、2015年から現職。

「インタビュー」一覧

(インタビュー)連合、だれのために 連合会長・神津里季生さん(2017/03/01)
(インタビュー)新競技場に欠けたもの 中央大学教授・石川幹子さん(2017/02/21)
(インタビュー)軍政に幕を引く ミャンマー前大統領・テインセインさん(2017/02/17)
(インタビュー)北朝鮮、強硬の足元で 環日本海経済研究所主任研究員・三村光弘さん(2017/02/16)
(インタビュー)乱気流のトランプ時代 歴史家、ジョージ・ナッシュさん(2017/02/08)
(インタビュー)日ロ首脳会談の舞台裏 国際協力銀行副総裁・前田匡史さん(2017/02/03)
(インタビュー)音のない世界に生きて ろうの子どもたちに手話で教えるろう者・早瀬憲太郎さん(2017/02/02)
(インタビュー)外国人に国をひらく 元警察庁長官・国松孝次さん(2017/02/01)
(インタビュー)トランプ政権への期待 映画監督、オリバー・ストーンさん(2017/01/24)
(インタビュー)退位のルール 元最高裁判事、東北大学名誉教授・藤田宙靖さん(2017/01/18)