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続折々の記 ②
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 07 】03/13

  03/13 03 11のニュース 韓国大統領の罷免   民衆の反応は異様
        (1) 朴大統領、失職 民主化後初の罷免   民衆の動きは異様
        (2) 「国民裏切り」朴氏を指弾   「チェ被告の私益追求助けた」 韓国憲法裁宣告
        (3) 韓国社会、深い亀裂   朴氏罷免で市民ら衝突、2人死亡「チェ被告の私益追求助けた」
                           韓国憲法裁宣告

        (4) 耕論 史上初、罷免の底流   
             ・ 破滅的な分断、憲法裁が回避
             ・ 充満した閉塞感、劇的結果に
        (5) 慰安婦合意「再交渉を」 強まる韓国世論、日本警戒   
  03/13 03 11のニュース 東日本大震災、きょう6年   
        (1) (社説)大震災から6年 「分断の系譜」を超えて   

 03 13 (月) 03 11のニュース 韓国大統領の罷免     民衆の反応は異様

明治維新以後韓国は日本のために異常な生活を強いられてきた。 西欧風の帝国主義の真似事はとんでもない苦痛を他国に強いたものでした。 この事態を引き起こした日本の責任はどれほど深いものか計り知れない。

中国の日本に対する抗日意識は、満州事変以降第二次世界大戦が終わるまでの日本が行ってきた中国の蹂躙が心のなかに深く刻み込まれているからだ。 韓国は中国よりもっともっと深く心の傷跡が刻み込まれているのは当然のことです。

韓国はそれなのに日本の友好国として付き合ってきてくれた。 だが、不正に対する集団の結束は日本にはない集中する姿を折々見せてくれました。

日本の今日的課題の、豊洲市場への移転疑惑問題、更に森友学園の金銭にかかわる裏取引と政治権力の疑惑、これらの課題については不正批正の心の発露とその具現化を集団としての結束したものにしていく姿勢をまねていく必要がある。 日本では日本としての民衆の心の結束を見出すことが求められている。

そんなふうに老生は思っている。



▼1面
(1) 朴大統領、失職 民主化後初の罷免
      民衆の動きは異様

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領(65)が10日、憲法裁判所から罷免(ひめん)を宣告され、失職した。憲法裁は朴氏について機密文書流出などの違法行為を認定。「国民の信任を裏切り、憲法を守る観点から容認できない重大な法違反行為と見なければならない」とした。60日以内に大統領選が行われる。投票日は5月9日が有力視されている。▼3面=憲法裁指弾、11面=深い亀裂、15面=耕論

 韓国で大統領が国会の弾劾(だんがい)訴追で罷免されるのは初めて。1987年の民主化以降、大統領が任期途中で退任するのも初めて。

 憲法裁周辺では10日、弾劾の賛成派と反対派がそれぞれ集会を開いた。罷免決定後、反対派の一部が過激化。2人が死亡した。

 大統領の権限は次の大統領が決まるまで、黄教安(ファンギョアン)首相(59)が代行する。黄氏は談話を発表し、「私たち皆が憲法裁判所の決定を尊重しなければならない」と述べ、罷免反対派に受け入れを求めた。

 憲法裁は裁判官8人の全員一致で罷免を決定。朴氏が秘書官を通じて機密文書を支援者のチェ・スンシル被告(60)に流出させるなどした行為を違法と断定した。憲法裁は「チェ被告の利益のために大統領の地位と権限を乱用した」とした。

 次期大統領選をめぐっては、現時点では、進歩(革新)系で最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表(64)が支持率でトップに立っている。

 (ソウル=東岡徹)


▼3面
(2) 「国民裏切り」朴氏を指弾
   「チェ被告の私益追求助けた」 韓国憲法裁宣告


 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の失職が10日、確定した。一連の疑惑で国民から厳しい批判にさらされた末、憲法裁判所が罷免(ひめん)を言い渡した。今後の焦点は60日以内に誕生する新たな大統領。北朝鮮との南北関係に加え、中国や日本への態度を変える可能性があり、東アジアの外交にも影響しそうだ。▼1面参照

 「大統領朴槿恵を罷免する」。10日午前11時21分、憲法裁判所の所長権限代行、李貞美(イジョンミ)裁判官(54)はこう宣告した。憲法裁には上訴の制度はない。この瞬間、朴氏の失職が決まった。

 国会が朴氏を弾劾(だんがい)訴追したのは昨年12月。憲法裁は17回の弁論を開き、チェ・スンシル被告ら25人を証人尋問した。憲法裁の判断でカギを握ったのは、2004年の盧武鉉(ノムヒョン)大統領の弾劾訴追棄却決定、憲法裁による事実認定、そして世論の三つだった。

 韓国で大統領が弾劾訴追されたのは盧氏の1件のみだ。盧氏について当時の憲法裁は違法行為は認めたものの、罷免するほど重大ではないとして退けた。ただ、罷免が正当化される判断基準を示していた。

 憲法裁は10日の決定理由の中で、朴氏について「国民の信任を裏切り、憲法を守る観点から容認できない重大な違法行為と見なければならない」とした。この表現は盧氏の決定文に出てくる罷免が正当化される判断基準と同じ内容だ。

 その「違法行為」の認定について、国会側が弾劾を求める根拠として使ったのはチェ被告らの起訴状やメディアの報道だったが、チェ被告らの公判は続いている。刑事裁判では事実関係は確定していない。

 憲法裁は文化体育観光省の高官の解任や韓国紙「世界日報」への圧力については証拠がないとして退けたものの、朴氏が文書流出などでチェ氏の私益追求を助けたなどと認定。おおむね国会側の主張した事実関係を受け入れている。

 憲法裁の事実認定について、憲法裁判所の憲法研究官も務めたことがある金河烈(キムハヨル)・高麗大法学専門大学院教授は、「一般の裁判所と憲法裁判所は別の機関だ。事実関係は憲法裁が独自に判断する」と話す。このため、憲法裁と刑事裁判の事実認定や法解釈が異なることはあり得るという。

 世論も、罷免決定を後押しした。韓国の調査機関「リアルメーター」が8日に実施した世論調査では、弾劾に賛成が76・9%に上っていた。裁判官の罷免への賛否は公開されるため、民意に反する決定を出せば「非民主的」と見なされると指摘する専門家もいる。

 憲法裁は「疑惑が提起される度に否認し、むしろ疑惑の提起を非難した」と朴氏の態度を問題視し、「憲法を守る意思がみえない」とも批判した。こうした表現からは朴氏への厳しい国民感情に配慮した様子がうかがえる。罷免決定は裁判官8人の全員一致だった。

 (ソウル=東岡徹)

 ■次期大統領選、最大野党・文氏が独走

 5月9日投票が有力視される次期大統領選では、進歩(革新)系の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表(64)が支持率で独走している。調査機関「韓国ギャラップ」が7~9日に実施した世論調査によると、文氏の支持率は32%。2位以下を大きく引き離している。

 文氏は故盧武鉉(ノムヒョン)大統領時代、大統領秘書室長を務めた。12年の前回大統領選にも立候補したが、朴槿恵氏に敗れた。その後は国会議員として野党代表を務めた。高い知名度に加え、朴槿恵氏に対する批判の受け皿にもなっている。

 韓国の各党は今後、大統領選に向けて予備選を実施し、候補者を選ぶ作業を本格化させる。焦点は、文氏に対抗できる候補を擁立できるかだ。

 与党「自由韓国党」(旧セヌリ党)から擁立の声が出ているのは、無所属で大統領権限代行を務める黄教安(ファンギョアン)首相(59)だ。ただ、罷免された朴槿恵氏の後任を選ぶ選挙で、朴政権のナンバー2が立候補するのは難しいという見方は少なくない。韓国ギャラップの支持率でも9%と文氏には遠く及ばない。

 野党第2党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)・元常任共同代表(55)や与党から離党した議員で結成した「正しい政党」の劉承ミン(ユスンミン)議員(59)も立候補を目指しているが、支持率は安氏は9%、劉氏は1%にとどまっている。

 文氏に対抗するには候補者の一本化が欠かせない。5月9日投票の場合、候補者の届け出は4月15~16日。残された時間は1カ月あまりしかない。

 (ソウル=東岡徹)

   ■罷免決定の骨子

・朴氏はチェ被告の利益のために大統領の地位と権限を乱用した
・朴氏はチェ被告の国政介入を徹底的に隠した
・朴氏は検察の調査に応じなかった
・朴氏の違憲・違法行為は国民の信任を裏切り、重大だ

 ■朴槿恵大統領の主張と憲法裁判所の判断

 ◇公務上の秘密漏洩(ろうえい)
 <朴大統領の主張> チェ・スンシル被告に政策や人事、外交などの文書を渡し、被告が国政に介入したというのは事実ではない。
 <憲法裁の判断> 朴氏は秘書官を通じて人事や米国務長官の面会などに関する機密文書をチェ被告に渡した。被告はその文書を見て、内容を修正した。
 ◇財団
 <朴大統領の主張> 経済団体主導で文化とスポーツに関連した財団が作られるという話を首席秘書官から聞き、政府が積極的に支援するよう指示した。企業が財団に寄付したことが、賄賂と誤解された点は本当に残念だ。
 <憲法裁の判断> 朴氏は首席秘書官に指示し、大企業から拠出を受けて、財団を設立させた。財団の運営に関する意思決定は朴氏とチェ被告が行い、被告は財団に自身の会社と契約を結ばせ、利益を得た。
 ◇中小企業支援
 <朴大統領の主張> 販路を調べるよう担当首席秘書官に指示したが、チェ被告の知人が経営する会社で、被告が金品を受け取った事実は知らなかった。
 <憲法裁の判断> 朴氏はチェ被告からの要請を受け、自動車部品会社が現代自動車グループと取引できるよう首席秘書官を通じて依頼した。
 ◇世界日報
 <朴大統領の主張> 世界日報社長の解任を要求するよう指示したり、これを知っていながら黙認したりした事実はない。
 <憲法裁の判断> 世界日報に誰が圧力を加えたのか明らかではなく、朴氏が関与したと認めるほどの証拠はない。
 ◇セウォル号
 <朴大統領の主張> 事故当日、大統領府執務室で、報告を受け、生存者救助に最善を尽くすよう数回にわたって指示した。
 <憲法裁の判断> 事故当日に朴氏が職責を誠実に遂行したのかは抽象的で、判断対象にならない。


▼11面
(3) 韓国社会、深い亀裂
   朴氏罷免で市民ら衝突、2人死亡「チェ被告の私益追求助けた」
   韓国憲法裁宣告


 韓国の朴槿恵政権が10日、約4年で幕を閉じることになった。経済の構造改革を進め、社会の分断や格差などの問題に挑んだが、ほとんど成果を上げられなかった。韓国内には、日本が経験した「失われた20年」の再現を懸念する声も上がり始めた。皮肉にも、自身が招いた一連の弾劾(だんがい)問題が、社会の亀裂を拡大させてしまった。▼1面参照

 朴氏の弾劾に関する市民集会で10日、反対派と警官隊の衝突のなか、60代と70代の男性2人が死亡する異常な事態に発展した。昨年10月以降、ソウル中心部では、賛成派が19回、反対派が18回、大規模集会をそれぞれ開いたが、集会での衝突を巡って死者が出たのは初めてだ。

 朴氏の罷免(ひめん)が決まった瞬間、裁判所近くに集まった反対派は「裁判所を粉々にしろ」などと叫び、警察車両を壊したり、警官隊につかみかかったりした。負傷者は74人に上った。警察当局は警察官や取材記者らに暴行を働いた集会参加者7人を検挙した。

 一方、ソウル市北部のアパートでは朴氏の罷免を宣告する憲法裁判所の生中継放送が流れた直後、「わー」という興奮した声と拍手の音があちこちから聞こえた。SNSでは「慶祝」などの文字があふれた。

 朴氏の弾劾を巡る各種世論調査では、賛成は約7割、反対は約2割だった。ただ、両派ともに「自らの主張が認められなければ、社会的に大きな混乱が起きる」と訴え、対立は先鋭化。60日以内に開かれる大統領選でも、さらなる過熱化が予想される。

 韓国インターネット選挙報道審議委員会は10日、大統領選挙に関し、「従北(北朝鮮追従)」「暴力革命を通じた政権奪取」などの言葉で特定候補を中傷するネット報道4件について、警告する制裁処置を科したと発表した。

 朴政権を支えてきた与党・自由韓国党は憲法裁判所の宣告直後、「決定を謙虚に受け入れる」と表明。同党の金鍾ソク(キムジョンソク)議員は「今日は社会の対立を解消する契機になる」と訴えた。他の政党も10日に発表した談話で、国民の統合に向けて努力する考えを一斉に表明した。黄教安(ファンギョアン)首相(大統領権限代行)も10日、国民向けの談話でも、市民に平静と和解を呼びかけた。

 ただ、一連の問題が社会にもたらした分断の亀裂は深い。10日夕、ソウル市の50代男性会社員は「これ以上の消耗戦は必要がない」と強調。40代の主婦は「社会的な対立の解消は、次の政権が解決しなければならない問題だ」と話した。

 ■経済低迷、政権不信に拍車

 2013年2月に誕生した朴政権は、ITなど先端技術と産業を融合して新しい市場を開き、経済成長に結びつける「創造経済」を掲げ、社会の格差解消と経済成長を目指した。

 政府や自治体、企業が資金を出し合い、全国17カ所に創造経済革新センターを作ったが、めぼしい起業を生み出せず、閉鎖に追い込まれる可能性が高い。

 政府は1月、新しい創業活性化政策を発表。起業を促すため、大学の教育プログラムの改革や政府による金融支援などを盛り込んだ。緊急の補完政策とみられるが、成果に結びつくかは見通せていない。

 韓国は00年代、財閥系大企業と輸出をエンジンに経済成長率は平均で4%台を維持していた。しかし、成長は鈍化し、昨年まで2年連続で3%を下回った。朴政権で3%を上回ったのは14年の3・3%だけだ。

 1970年代から経済を支えた造船業は昨年、初めて人員整理を開始。海運業で韓国最大手の韓進海運は2月、破産宣告を受けた。

 低迷する経済は、市民の将来への不安に影を落とす。韓国統計庁が昨年12月に発表した資料によると、「努力による社会や経済的地位の向上」について肯定的に答えた人は約22%にとどまり、94年時の約46%から半減した。15~29歳の若年失業率は昨年、過去最高の9・8%を記録。韓国は今後、急速に少子高齢化が進み、生産年齢人口が今年から減り始める見通しだ。

 朴政権の政策は、解消を目指した市民の不安を食い止めることが出来ず、社会的な混乱や政治への不信を増大させた面もある。

 また、朴氏は自らの疑惑を巡って検察が求めた対面調査に協力する考えを、繰り返し表明したが、結局応じなかった。朴氏は1月、韓国人記者とのインタビューで疑惑について「仕組まれた」とも語り、世間の失望を買った。

 社会不安や政治不信が広がる中、韓国紙の朝鮮日報は日本の「失われた20年」と韓国の現状を比較する企画を始めた。ある専門家は「短期間で経済成長したため、社会資本の蓄積がない。日本よりはるかに深刻な事態に至るかもしれない」と語る。(ソウル=牧野愛博)

 ■事情聴取、時期が焦点

 朴氏の罷免が決まったことで、一連の事件の焦点は、当局が朴氏の事情聴取にいつ踏み切り、逮捕まで発展するかどうかに移る。

 ソウル中央地検と議員立法で任命された特別検察官はチェ・スンシル被告のほか、朴政権の閣僚や高官、サムスン電子副会長の李在鎔(イジェヨン)被告ら計39人を起訴した(在宅起訴を含む)。朴氏は機密文書の流出や収賄など14件で「共謀した」と認定されている。

 韓国の憲法では、大統領は原則、在職中は刑事上の訴追を受けない。朴氏が罷免されたため、検察は朴氏の立件を目指している。

 ただ、捜査の行方は大統領選にも影響を与えかねない。市民の間には、朴氏の早期逮捕を求める声が根強くある。検察は事情聴取時期について、慎重に決めるとみられる。

 朴氏は10日、大統領府にとどまったままで、姿を現さなかった。(ソウル=東岡徹)

 ■<解説>日韓関係、見つめ直す機会

 韓国国民の怒りはおさまらなかった。世論調査では市民の7割以上が罷免を望んだ。背景には低迷する経済と未来への不安がある。低成長時代に入ったうえ、社会格差がそう簡単に解消されないとの失望は深い。

 その影響は日韓関係に及んでいる。釜山の日本総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたことに、韓国政府内には「どこでもいいから、怒りを爆発させる場所を探した結果だ」との見方さえある。

 次期大統領選の有力候補者の多くは、慰安婦問題での日韓合意の再交渉を希望する。日韓関係はさらに悪化するとの見方が大勢だ。

 戦後、韓国にとって日本は、歴史をめぐって対立する一方、互いに配慮する特別なパートナーだった。だが、金鍾泌(キムジョンピル)元首相ら、懸け橋となった政財界の要人はほぼ表舞台から去り、韓国外交省では「ジャパンスクール」と呼ばれる日本語履修外交官らの地位低下が著しい。昔と違い、こじれた日韓関係を元に戻す力はなかなか働かない。ジャパンスクールの一人は「ビジネスライクと言われても、お互いの損得を冷静に見極めるところから始めるしかない」と言う。

 韓国が迎えた民主化以来最大の政治危機。日韓関係を冷静に見つめ直す機会にできるのかが日韓双方に問われている。(ソウル支局長・牧野愛博)

 ■<考論>日韓関係の混乱を懸念 柳興洙(ユフンス)・前駐日韓国大使

 朴槿恵大統領の弾劾をめぐって、市民の間で大きな葛藤が起きた。朴氏は韓国初の女性大統領であり、今の事態は非常に残念だ。日韓関係への影響を含む社会的混乱が起きることを懸念している。

 2015年12月の慰安婦合意は、韓日の完全な国家合意だ。関係の正常化をもたらしたこの合意は肯定的に評価されるべきだ。

 慰安婦問題を象徴する少女像は、歴史の痛みを忘れず、子孫に教訓を残すためにも必要だと思う。ただ、それを大使館や総領事館の前に設置する必要があるだろうか。むしろ、韓日関係を更に悪化させようとする行いではないのか。

 両国は問題が起きても克服し、関係を発展させなければならない。韓国は「反日=愛国」という古い殻を破らなければならない。

 日本は今、釜山総領事館前の少女像が撤去されない限り、駐韓大使の一時帰国措置を解かない考えのようだが、韓国も国民感情があるし、大統領も力を失った今、解決は簡単ではない。

 北朝鮮の脅威が目と鼻の先に来ているなか、韓米日安保協力が極めて重要な時期だ。日本は大局観をもって、駐韓大使をただちにソウルに戻すべきだ。(聞き手・牧野愛博)

 ■<考論>社会統合、指導者の課題 小針進・静岡県立大教授(韓国社会論)

 弾劾の賛否をめぐる韓国社会の対立と葛藤は、日本で考えられている以上に激しかった。世論調査では朴槿恵氏の罷免を求める意見が多かったが、これに反対する保守強硬派のデモの勢いも急速に増していた。どちらの結論を出すにしても、憲法裁判所の重圧感は相当なものであっただろう。8人の裁判官全員が罷免を可としたのは予想外だった。

 朴氏の罷免決定は、社会の分裂が激化する新たな始まりになるという憂慮がある。次期大統領選では、左派系の野党候補が有力だ。これに対し、罷免決定によって右派や保守層の団結が強まる可能性は十分にある。

 新大統領は社会の統合に苦心するのが目に見えているが、日本としては、自国民を説得できる指導者の登場を望むしかない。それだけ外交問題を含めた対処能力が高い政府が誕生することを意味する。朴政権にはこれが欠けていた。

 慰安婦をめぐる政府間の日韓合意がなされても、「少女像」のようなものが建立されてしまうのは、国内での韓国政府の対処能力が低いからだ。韓国が対外政策で右往左往すると、日本をはじめ周辺国の外交にも悪影響を及ぼすだろう。(聞き手・金順姫)

 ◆キーワード

 <朴槿恵(パククネ)氏> 1952年、韓国・大邱(テグ)生まれ。父は朴正熙(パクチョンヒ)元大統領。70年代に母、父が相次いで殺害される。国会議員となり、2004年にハンナラ党代表に。13年2月、韓国初の女性大統領に就任。

 <韓国の憲法裁判所> 9人の裁判官のうち、3人は大統領が直接指名し、任命する。残る6人のうち、3人は国会、3人は大法院長(日本の最高裁長官に相当)が選び、大統領が任命する。任期は6年。法律の違憲決定や弾劾決定、政党の解散決定には裁判官6人以上の賛成が必要になる。上訴の制度はなく、憲法裁の判断が最終決定になる。任期満了に伴って朴漢徹(パクハンチョル)所長が退任し、8人態勢になっていた。


▼15面
(4) 耕論 史上初、罷免の底流
    破滅的な分断、憲法裁が回避
 小此木政夫さん(慶応大学名誉教授)
      充満した閉塞感、劇的結果に 平田オリザさん(劇作家)


 韓国の国会から弾劾(だんがい)訴追されていた朴槿恵(パククネ)大統領が、憲法裁判所から罷免(ひめん)を宣告された。数カ月にわたる市民のデモや政治の混乱を経て、1948年に大韓民国ができて以降初めて、大統領が罷免された。歴史的な事態は何を意味するのか。今後の日韓関係はどうなるのか。

   【特集】朴大統領を罷免 ⇒ ニュース > トピックス > 揺れる韓国政界に関するトピックス → 朴大統領を罷免

 ■破滅的な分断、憲法裁が回避 小此木政夫さん(慶応大学名誉教授)

 日本の政治を基準にすれば、知人の国政介入などは朴槿恵氏の弾劾には値しないのではないか、と多くの日本人は思うかもしれません。しかし、刑事上の責任が問われたわけではなく、これだけ大きな混乱を招いたことが問題になったのであり、その政治的な決着を憲法裁判所がつけたのです。政治は国によって違う。それぞれの国の政治的伝統や文化を知らなければ誤解が起きます。

 韓国政治は政府や議会、政党政治で構成される「制度圏」と、知識人や学生の運動がもたらす「運動圏」の二つが動かしています。「制度圏」では誰がリーダーになってもそこに権限が集中し、権力が人格化される。一方、「運動圏」は在野の人々で構成され、多分に原理主義的な市民運動で、利益でなく社会正義を追求します。

 今回の弾劾の過程で、国民の支持は「運動圏」に一気に傾きました。国民は大統領が密室で何をしているのかがずっとわからなかった。メディア報道で、チェ・スンシルという民間の女性が、大統領を操っているというイメージができ、国民の大きな怒りを買いました。さらに朴政権と財閥の「癒着」というイメージも広がった。「財閥との癒着」は韓国人にはなじみが深く、皆それで納得した。

    *

 歴史的に見ると、60年代以降に軍事独裁政権のもとで形作られた「制度圏」と「運動圏」の分断と対立が今回、かつてないほど極端に噴出した。収拾が不可能になるのを憲法裁が救済した、という構図です。そもそも一般の裁判所とは別に憲法裁が設置されているのは、クーデターなどの暴力的事態を回避するための調整機能を果たしてもらうためです。今回も放置すれば政府や議会が機能不全となり、左右のデモが街頭で衝突する破滅的な状況も考えられた。だから憲法裁は「罷免」という決断でそうした事態を防いだのです。

 日本人が驚いたのは、毎週、反朴デモに集まった韓国人の姿でしょう。背景には韓国で根強い抗議や抵抗の文化がある。王朝時代は国王へも儒教の観点から訴える文化があった。植民地時代には民衆蜂起があり、60年代以後の学生運動も権力への抗議でした。それらは簡単にはなくならない。伝統を土台に政治文化が形成されます。

 その伝統のためか、韓国は参加民主主義の要素がとても強い。選挙と選挙の間も権力監視し、問題があれば行動に移す。日本は代議制民主主義の要素が強く、選挙がない時期に政治に積極参加する人は少ない。手法の違いであり、良い悪いの話ではありません。

    *

 2015年末に日韓両政府は慰安婦問題で合意しました。私はその合意を高く評価していますが、両国政府の「制度圏」による合意だったため、「運動圏」の反応を心配しました。韓国の「運動圏」では合意が正義にかなうかどうかが重要で、合意が正しくなければ守ってはいけないのです。

 大統領選後に、韓国の新大統領には国内の「運動圏」を説得してもらわなければなりません。在外公館前に像を建てるのは国際的な礼儀に反すると。釜山の日本総領事館前の少女像も早急に移転すべきで、それなしには日韓関係は始まらない。しかし隣国の政変時に大使が不在なのは困る。一時帰国させている大使を、大統領選までに韓国に帰任させるべきです。新政権との関係が最初につまずくと長期間こじれるかもしれません。

 韓国では保守派と進歩派が二大政党的な政権交代を繰り返してきました。今回の弾劾でできた両者の亀裂は大きすぎ、大統領をやめさせられた保守派の怨念はすごい。さらに「制度圏」と「運動圏」、東西の地域対立、北朝鮮との南北関係、所得の格差による上下の分断……。韓国社会のあちこちで見られる分断は深刻な水準に達しています。克服の道のりはかなり険しいと言わざるを得ません。

 (聞き手・金順姫)

    ◇

 おこのぎまさお 45年生まれ。韓国と北朝鮮の政治外交、国際政治を研究。現代韓国朝鮮学会会長、九州大特任教授などを歴任。日韓歴史共同研究にも参加した。

 ■充満した閉塞感、劇的結果に 平田オリザさん(劇作家)

 朴槿恵大統領の罷免をもたらしたのは、昨秋以来、街頭に出て、これまでとは質の違った形の粘り強い運動として怒りをあらわにし、糾弾してきた市民の力です。不正を働いた指導者を自らの手でやめさせた、という点で、正直、うらやましくも思います。民主化から30年、多くの困難はありますが、ここから成熟した民主主義へ向かえばいいと思います。

 私も昨年、たまたま身近にデモをみる機会がありましたが、強いバイタリティーを感じました。しかも暴力的、破壊的なものではなく、家族連れで参加できる新しいタイプの平和的なものでした。

 日本でも、安保法制反対などのデモがありましたが、韓国は参加者の多様性という点で、日本の比ではないと感じました。とくに若者は、はるかに意識が高い。軍事独裁体制を倒し民主主義を勝ち取ったという、民族の成功体験に裏打ちされている。変革に対する市民の意気込みに触れ、まだまだ若く活力のある国だと感じました。

    *

 私は1984年、大学の交換留学生としてソウルに1年滞在し、以後、演劇を通じて交流を深めてきました。民主化以前、劇作家たちは検閲をくぐりぬけて、軍事政権批判の作品を書くことに熱意を傾けていました。87年に民主化が実現し、90年代には「すばらしい社会になる」と期待した一方、彼らは、何を書いたらいいか、悩んでもいました。

 そんななか、97年には、経済が破綻(はたん)し、国際通貨基金(IMF)から厳しい条件のもとで、支援を受けることになります。その後は、勝ち負けがはっきりした激しい競争社会になり、経済格差も広がり、理想的な社会は来ませんでした。今はそういった韓国社会の新しい苦悩を描く作品も多くみられます。

 さらに朴政権下で起きていたのは、政権と相いれない考えを持つ文化人への締め付けでした。驚いたのは、私が共同制作した日韓交流をテーマにした演劇の上演が、審査では上位にあったにもかかわらず、関係者が政権に批判的な勢力としてリストに載せられ、政府から助成金が出なかったことです。まさか、私にまで影響が及ぶとは、思ってもいませんでした。

 韓国の知人たちからは「息苦しく、生きづらい社会だ」という声をよく聞きます。そうした社会に満ちた閉塞(へいそく)感や抑圧に対する怒りが、大統領の疑惑を契機に一気に噴き出し、罷免という劇的な結果をもたらしたようにも思います。

 日本は地震など天災が多く、韓国は戦災が多い国と言われます。天災はみなで耐え忍ぶしかなく、土地に執着し、地縁型の社会になります。一方、戦災は敵が攻めてきたら散り散りになって逃げる。避難先で頼れるのは家族や親戚で、強固な人のネットワークを維持する血縁型社会になります。それが、韓国でいつものように起きる大統領の親戚や関係者のスキャンダルの底流にあるのでしょう。

    *

 この国では、大統領は国父として存在しました。選挙戦は激しくとも、大統領が決まれば、国の象徴として尊敬する。一般の家庭で親は子どもたちにそう教えていました。ただ、時代の変化とともに、そうした考えも薄れてきた。今回の罷免は、大統領を尊敬の対象から単なる政治家に引きずり落としてしまう、決定的な出来事になったような気がします。

 韓国とのつきあいは30年余りになります。この間、両国の外交関係は、いいときも悪いときもありました。しかし今、かつてと全く比較にならないのは、文化や社会の様々な分野で、活発で重層的な人的交流が生まれていることです。特に演劇は「優等生」と言われるほど、交流や相互上演がさかんです。外交関係が悪いからこそ、文化交流や相互理解をさらに深め、人々の結びつきを強めていく必要があるでしょう。

 (聞き手・桜井泉)

    ◇

 ひらたおりざ 62年生まれ。95年「東京ノート」で岸田國士戯曲賞。こまばアゴラ劇場芸術総監督。大阪大学客員教授や東京芸術大学特任教授を務める。

「耕論」一覧

  (耕論)南スーダン突然の撤収 久間章生さん、伊勢崎賢治さん(2017/03/14)
  (耕論)史上初、罷免の底流 小此木政夫さん、平田オリザさん(2017/03/11)
  (耕論)多難な日韓関係 小倉和夫さん、徐永娥さん、古家正亨さん(2017/03/09)
  (耕論)「内なる差別」見つめて 亀山郁夫さん、立岩真也さん、田口亜希さん(2017/03/08)
  (耕論)留学生を受け入れる ジギャン・タパさん、佐藤由利子さん、堀江学さん(2017/03/07)
  (耕論)天下りという快楽 中野雅至さん、原英史さん、横田由美子さん(2017/03/03)
  (耕論)ツイッター大統領 藤原帰一さん、清原聖子さん、松尾貴史さん(2017/03/02)
  (耕論)見られるNHK 湯山玲子さん、北折一さん、佐藤卓己さん(2017/02/22)
  (耕論)「決める」2人が会って 大川豊さん、宇野常寛さん、深沢潮さん(2017/02/14)
  (耕論)日本出身横綱の誕生 小錦八十吉さん、紺野美沙子さん、星野智幸さん(2017/02/10)


2017年3月11日
(5) 慰安婦合意「再交渉を」 強まる韓国世論、日本警戒

 朴槿恵政権の退陣で、日本政府が最も警戒するのが、2015年末に慰安婦問題で確認した日韓合意の行方だ。釜山の日本総領事館前に慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたのを機に、日韓関係は「過去最悪の状況」(韓国政府関係者)と言われる。次期大統領選の有力候補者はすべて日韓合意の再交渉を唱える。

 候補の中で最も支持を集める文在寅(ムンジェイン)「共に民主党」前代表は1月、釜山の少女像を視察。日本の公式謝罪や賠償を求める考えを示した。保守系の「正しい政党」の劉承ミン(ユスンミン)議員も、再交渉を求める考えを示している。

 強硬な主張の背景には、韓国世論の後押しがある。韓国ギャラップが2月に発表した世論調査によれば、釜山の少女像への支持は78%、日韓合意の再交渉を求める意見は70%に上った。

 日韓合意の背景には、「慰安婦合意がなければ首脳会談を行わない」とした朴氏の対日外交戦略がある。朴氏の政治手法は意思疎通を欠いた「不通(プルトン)」と呼ばれ、自分の考えに反対する部下を次々遠ざけた。

 結局、経済界や野党、米国などから日韓関係悪化を懸念する声が噴出。焦った朴政権は関係改善を急がざるを得なくなった。その結果、韓国は日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決」などの文言を受け入れ、国内の猛烈な批判を浴びた。

 韓国内では経済的な苦境もあって、朴槿恵(パククネ)政権の業績を真っ向から否定し、清算を求める世論が強い。

 次期政権の政策は、朴政権の政策の否定から始まるとの見方が強い。日韓関係でも、朴政権の対日政策とは正反対の「対話の重視」を掲げる一方、「日韓合意の否定」という矛盾した主張を展開せざるを得ない状況になっている。

 ■菅長官「方針変わらない」

 「現政権、そして大統領選後の新政権との間でも、日韓合意の着実な実施と、対北朝鮮政策や安全保障分野における日韓の協力をさらに進めていく方針は全く変わらない」。菅義偉官房長官は10日、日本の外交に影響はないと強調した。

 慰安婦問題の日韓合意について、政府関係者は「もし再交渉を言ってきても相手にしない」とする。ただ、韓国の新政権発足後、「厳しい状況になる可能性は否定しない」(外務省幹部)との不安も広がっている。

 外務省は今後、大統領選の有力候補者に個別に日韓合意の重要性を説明していく方針だ。だが、本来重要な役割を果たす長嶺安政・駐韓大使は、釜山少女像問題の対抗措置として一時帰国したまま、2カ月がたった。在韓日本大使館は「大使主催の食事会も開けない」(関係者)状況で、人脈作りは難航している。

 (牧野愛博=ソウル、武田肇)

 03 13 (月) 03 11のニュース 東日本大震災、きょう6年     震災で1万5893人が死亡。いまも2553人が行方不明

 東日本大震災は11日で発生から6年を迎える。津波に襲われた沿岸部では、宅地造成や災害公営住宅の建設が進むが、いまも約3万4千人がプレハブの仮設住宅で避難生活を続ける。

 東北3県では、高台や内陸の宅地造成が69%、公営住宅は83%が3月末までに完成する。東京電力福島第一原発事故による国の避難指示の対象者は約5万6千人。震災で1万5893人が死亡。いまも2553人が行方不明だ。震災関連死は3523人にのぼる。


2017年3月11日
(1) (社説)大震災から6年 「分断の系譜」を超えて

 どんなに言葉を並べても、書き尽くせない体験というものがある。東日本大震災と福島第一原発事故がそうだった。だからこそ、というべきだろう。あの惨状を当時三十一文字に託した地元の人たちがいた。

   ふるさとを 怒りとともに 避難する

       何もわりごど してもねえのに    津田 智

 戦後を代表する民俗学者で歌人でもある谷川健一さんは、亡くなる前年の12年、そうした約130首を選んで詩歌集「悲しみの海」を編んだ。

 震災から6年。

 いまも約8万人が避難する福島で広がるのは、県内と県外、避難者とその他の県民、避難者同士という重層的な「分断」である。

 朝日新聞と福島放送が2月末におこなった世論調査で、福島県民の3割は「県民であることで差別されている」と答えた。

   「放射線 うつるから近くに 寄らないで」

       避難地の子に 児らが言はるる    大槻 弘

 同じデマがまだ聞こえるという事実が、心を重くする。

 ■外と内の「壁」

 原発、放射線、除染、避難、賠償……。これらは福島を語るうえで避けて通れない。そして語る者の知識や考えを問うてくるテーマでもある。福島問題は「難しくて面倒くさい」と思われ、多くの人にとって絡みにくくなっている――。社会学者の開沼博さんが2年前に指摘した「壁」はいまもある。

 県内では、沿岸部の3万2千人への避難指示がこの春、一斉に解除される。一方、2万4千人はいまだ帰還のめどがたたない。自主避難者への住宅無償支援は打ち切られる。

 戻る。戻らない。戻りたくても戻れない。

 避難者間の立場や判断の差が再び表面化し、賠償額の違いへの不満などから「あの家は……」と陰口がささやかれる。早稲田大の辻内琢也教授の調査では、首都圏の福島避難者のストレスは今年、上昇に転じた。

 ■「もやい直し」の試み

 この国の戦後を振り返ると、同じような分断とそこから立ち直ろうとする系譜に気づく。

 熊本県水俣市。

 チッソの排水を原因とした水俣病では、被害者とその他の市民が激しく対立し、「ニセ患者」「奇病御殿」などと中傷の言葉が飛び交った。そう言う人たちも地元を出ると、水俣というだけで差別された。

 民俗学者として各地を歩いた谷川さんは、その水俣で生まれた。「『お国はどこですか』と聞かれて『水俣病の水俣です』と答えるときの引き裂かれるような苦痛は、育ったものでなければ分からないでしょう」

 ふるさとを「福島」と言えずに「東北」とにごす避難者のせつなさに、きっと寄り添い続けただろう。

 分断の克服をめざして、水俣市が約20年前に提唱したのが「もやい直し」だった。

 船と船を綱でつなぎあわせるように、人のきずなを結びなおす。ごみ分別や森づくりなど住民が集まる機会を行政が仕掛け、思いがひとつになる小さな体験を重ねていく。「大切なのは、意見の違いを認めたうえで対話することだ」と当時の市長だった吉井正澄さんは言う。

 成果は道半ば、である。水俣病の公式確認から61年。だが風評は消えない。今年1月には、県内の小学生が水俣市のチームとのスポーツの試合後、「水俣病がうつる」と発言していた。

 「市民が必死に努力しても、簡単には解決しない」と水俣病資料館語り部の会の緒方正実会長は言う。「いま起きていることと向き合い、課題をひとつずつ減らしていくしかない。それが水俣からのメッセージです」

 ■復興に必要なもの

 谷川さんは終生、沖縄の島々を愛した。ここもまた米軍基地をめぐる「分断」の地である。

 米軍専用施設の71%が国土面積の0・6%の県に置かれ、その中で「平和だ」「経済だ」と対立してきた。

 しかし各地の風土は多彩な魅力を持っている。それを知る谷川さんは、たとえ地元に良かれという「正義感」からでも、福島=原発、沖縄=米軍基地といったキーワードばかりで語られることを好まなかった。「(外部の支援者は)『水俣病の水俣』しか関心がない。水俣そのものの存在が忘れられるという事態が起こったのです」。重い言葉である。

 地元不在の一面的な議論ばかりでは、福島を「難しくて面倒くさい」と思っている多くの人々を引き寄せられない。その結果、全国で共有すべき問題が、特定の地域に押しつけられたままになる。メディアにも向けられた言葉として受け止めたい。

   世界的 フクシマなどは 望まざり

       元の穏やかなる 福島を恋う    北郷光子

 福島沿岸部の復興は、まさに始まったばかりだ。ともに長い道のりを歩き、寄り添い続ける。そういう心を持ちたい。