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続折々の記 2018⑪
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感謝について人
すべてに軌道修正を
日産ゴーン会長失脚
【 06 】02/08~
02 08 (金) 感謝について すべてに軌道修正を
昨日、小諸の親戚88歳のお爺さんの葬儀が落ち着いた雰囲気のうち盛大に行われました。 家族肉親にとっては悲嘆の極みです。 葬儀はこの世とお爺さんのお別れですから、縁者や知人にとって寂しさはひとしおのことでした。
生者必滅とはいうものの、悲しみの極みです。 米寿を迎えたものにとっては、相応の覚悟はできているといいながら、やはり永遠(トワ)の別れは切ないものです。 初めておいき会いした時の印象は基本的にその人がもっているいろいろの光を受け取れるものです。 落ち着いたものの考え方が印象的でした。 別家した人として、家を建て家族を養う責務を負い、それが立派に果たされた人として見るとき、その業績は素晴らしいと感心せざるを得ません。
平家物語冒頭の節は、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」 で始まります。 “無常の響き” の言葉が意味するものは、
いろはにほへどちりぬるを 諸行無常
わがよたれぞつねならむ 是生滅法
うゐのおくやまけふこえて 生滅滅已
あさきゆめみじゑひもせず 寂滅為楽
と言われる諸行無常偈(ショギョウムジョウゲ)だと理解していてよい。 この無常は生滅(ショウメツ)の法だというのである。 私たちが生まれたり死んだりする、蝶々(チョウチョ)も生まれたり死んだりする、道端の草も生えてきたり枯れたりする、銀杏(ギンナン)の木も生えてきたり枯れたりする、あの硬(カタ)くて変わらないと思われる石でさえもマグマから石に更に細かい砂にまでなる、ものみなすべてが変わらないものがない。 このことを諸行無常という。 諸行(ショギョウ)とは仏語で万物を意味する言葉ですから、「ものみなすべて変わる」と言ってよいのです。
そしてこの考え方が仏教の核心の一つです。 日本の宗教の核心なのです。 そしてまた、これは日本的な哲学の根底と言ってもよいのです。
家族にとってはすべての思い出は感謝の一言が源になっていることに相違ありません。 私も馬齢を重ねて米寿を過ぎました。 人はそれぞれ独自の生涯を負っています。 人の考えは各人各様であっていいという思いは、年を取ってからはっきり位置づきました。 人の生涯は各人各様であっていいし、それは誰でも認めるべきことと思うようになりました。
18~19世紀までの生活は、近代化が進むことによって大企業による商品の大量生産という経済動向に転じてきました。 機械化、大企業化の波は世界経済の方向を大転換することになり、金融市場の変化をどんどん進めてきました。
その影響は所得格差の増大を生みピケティ「21世紀の資本」、金融預金でタックスヘイブン(租税回避地=パラダイス文書:パナマ文書を見るに到れば、内閣府も国会でもその悪弊を追求し是正する気配は全く見られません。 一般に働いている人から見れば、由々しき問題であることに違いがないのに………?
さらにまた、別の角度からこんな指摘も上がってきているのです。 スペインの哲学者オルテガは、『大衆の反逆』で大衆批判をしています。
(其の一)
「大衆の反逆」の要旨はこうである。
1.19世紀の豊かさが、大衆を生み出した。その人々は、生まれた時にはすでに豊かさに囲まれていたため、彼らにとって豊かさは空気のようにあって当然のものであった。
2.大衆は少しの知性も持たず、内面的には野蛮人と変わらない人々であった。
3.その大衆が、従来少数の貴族的人間により占められていた領域に侵犯を始めた。それは、物質的な侵犯に留まらず、政治的な領域にも及んだ。
4.世界は無能な大衆に支配された衆愚の状態に陥り、自滅しつつある。これはローマ滅亡などの再来である。
この要旨は、1930年当時だけではなく、高度成長期以降の日本にもあてはまるだろう。復興を終えた日本に生まれた世代は、豊かさを空気のように享受し、知性に対する敬意を失った。稚拙な政治観を振り回し、稚拙な信念の押し付けに腐心しているのだ。
(其の二)
大衆の反逆 読書メーターより
ここを開いてみると、いろいろのとらえ方読み取り方に触れることができます。
いろいろの主張や考えに接していて、私はこんな風に考えるようになりました。
政治家、ジャーナリスト、学者、労働者、資本家、小説家、俳優、運動選手、学生、百姓、公務員、どういう人のグループにしても、自分が属するメンバーでの世界観を作っているし、人生観も作っている。 10人10色どころの話ではなく、1000人おれば1000通りの人生観があり世界観があり、所属社会の階層的な自分の位置づけをも持っていると私は思っています。
すべての人はすべてその人なりの処世観や倫理観や権利意識や義務感、道徳観を持っています。 標準的な生き方などはないのです。 自分独自の権利義務の考え方があるし、対人態度や社会観も独自である。
生き方も生涯の足跡もその人独自のものであります。 近代化によって大家族制というものも崩れてきており、一昔前のような故郷に寄せる感覚すらなくなっている人が多くなっています。 言わば「隣は何をする人ぞ」という孤立生活が多くなり、郷土社会なる感覚も田舎暮らしでない人にとっては体感できないようになっています。
近代化は、地域社会の連携意識を薄くし、孤立化は今後も進んでしまいます。 地域共存意識も希薄になりつつある。 これは勤労スタイルが変わってきた結果であり、だれの責任ともいえないことなのです。
子供の孤立化が進み、孤立化は共存協力意識を欠くことになってきています。 児童生徒の不安定な情緒から発しているいじめを始めとする校内問題は、家庭内の親子の孤立化が主たる根底になっていると思っています。 これは社会制度の変化に伴う必然的結果なのです。 子育て環境は戦前と比べてみても愛情のやり取りという根本が欠けてきたからです。 孤立化の問題はいろいろの結果をきたしています。 この課題については別の機会に取り上げるつもりです。
ひとりの人の生涯というものは、どんなスタイルでもいいと思います。 親に育てられ、自分の課題を持ち、生涯をかけて生き抜いた姿は、後に続く人にとっては感謝に満ちてくるものです。
本来自分たち生きものは、太陽の恵みを受けとって、命をつなぎ、それぞれの命を後世に伝えるという、本能的なプログラムによって生涯を終えるようになっています。 人間も、どんな動物も、どんな植物にしても、生きものの本義的命のプログラムを変えることはできないのです。 太陽の恵みを受けながら死を免(マヌガ)れるということは、できないのです。
草でも木でも命の終わりの時期がくれば、実を結び、葉は枯れ落ち、その姿もなくなってしまうのです。
私はいまでは、草も木も犬でも小さな虫でもすべて人間と同じように自分の生涯プログラムをどう組み立てどう終末を迎えるか、それぞれがみんな考えていると理解するようになりました。 それは明らかに実証できることなのです。
すべての生きものは、驚くほど長い時間をかけてその環境にし順応するよう最善の努力をしつづけ、遺伝因子の進化をすすめながら、その時点においての安定を常に求めてきたのです。
命が授かった人類のはみな、そのほかの生き物とは大きく違っていることがあります。 それは大脳という部分がなぜか発達して、思索の活躍世界が幅広くそしてその深みを増してきているのです。 間違えば命を作るまでの科学研究にまで、今日の科学研究はでは進んできています。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
生きるということをこんなようにとらえてきますと、「ではどうしたらいいのか」という課題を考えざるを得ないのです。
私たちは誰でも人がどのように進化してきたのか、という課題には関心があります。 Hatena Biog という「歴史の世界」によれば、現在いちばん古い人類の化石はアフリカ中部のチャドで発見されたサヘラントロプス (Sahelanthropus)の頭骨の化石だ。サヘラントロプスは700万年前に生息していたとされるから、人類が分岐したのは700万年前かそれ以前となる。
この記事で言うところの「人類」は我々ホモ・サピエンスではなくサルと分かれたばかりの我々の祖先のことを指す。
厳密に言うと(ここで言う)「人類」の誕生とは、ヒト族(Hominini)からヒト亜族(Hominina)への進化のことだ。
人類の化石から見て人の祖先というのは700万年も前のことだといいます。 700万年という時の長さは想像だにできません。
けれども、生物の進化というものは、一つの個体がもっているもの凄い数の細胞の相互連携によってその個体は環境に適応していきます。 それが進化の意味するものだともいえるのです。
遺伝の法則といわれたり、突然変異と言われたりすると、生物の進化には何か決まりがあったりするような感覚になる。 だが進化というのは、生物が生き延びていく個体すべての細胞の連携によって変わっていくのが原理であると心得て構わない。
鳥によって運ばれた植物の種子は、その個体の分裂を繰り返すうちに個体の細胞連携よっての少しずつにしても細胞分裂の仕組みの中に意志が反映され変化を続けているからに他ならないのです。
酷寒の土地へ運ばれた植物はその環境に合わせて四季の変化に順応して命をつなげてきたに違いないのです。
人間にしても怪我をした時、切り傷そのままではなくできるだけ元通りに復元するように仕組まれています。 外科の手術はその典型であります。 自分では何をどうされたのか全く分からないのに、細胞は他の細胞と連絡しながら元どうりの働きに服しているのです。
DNAにしても、細胞分裂に際しては同じような情報を伝承しているのですが、進化それ自体は細胞それ時代が環境の変化に適応するように仕組まれており、わずかづつにしてもそのための変化をしていることを知っていなければならないのです。
私たちの進化とは、受精その時からすでに始まっているといわざるを得ません。 私たちの大脳旧皮質の変化もにしても新皮質の変化にしても、生涯を通して絶えず進化していると考えなければならないのです。BR>
この大脳の進化は親が手を加えない限り、みやましい進化のレールには乗せられません。 狼によって育てられたというアマラとカマラの話もありますが、そんな極端のことを考えなくてもそれぞれの人が自分の過去の現状を考えてみればことの実態は理解できると思います。
02 24 (日) 日産ゴーン会長失脚 横車の主張
この記事についてはルノーの体質が前面に押し出された感がある。 業績を上げたということはいいのだろうが、企業家の報酬が馬鹿でかい。 今日の世界企業の体質はゴーン会長なみなのではないか。
近代化の挙句は貨幣経済の格差に表れている。 勤労 - 生産 - 分配 このスタイルが資本そのものの運用に重点が置かれ、労働の報酬という倫理的な要素は無視されるようになっている。
これが世界経済の現状である。
倫理の規範が失われる限り安定平和の実現はできない。 報酬格差の在り方が求められている。
ゴーン会長の主張は企業報酬のゆがみを如実に表わしたものだった。
文春新書から「日産vs.ゴーン」820円+税 が出版され手に入れた。
その表帯には
独裁 ゴマスリ 権力闘争 強欲と収奪の果てに巨大企業はどこへ行くのか?」とあり、
裏帯には
強権、私物化、クーデター
●「名誉は金で買うもの」「社長食堂のランチは豚のエサか」……元幹部たちが打ち明けるゴーンの素顔
●不倶戴天のライバル西川廣人vs.志賀俊之。ゴーン・チルドレンたちの嫉妬、暗闘、結託のすべて
●行き過ぎたコスト削減で疲弊する生産現場。そして「三遊間のゴロ」を誰も拾わなくなった
●社長在任中に自分の銅像を建立した川又克二、「天皇」と呼ばれた石原俊、そして「労組のドン」塩路一郎……独裁者が現れては内紛が起きた日産の歴史
●ルノーに流れた日産の配当は8000億円を超えた。フランス政府はいつまで日産から搾取し続けるのか?
●トヨタの約二倍もの研究開発費を投じるグーグル、アマゾン。相次ぐITの巨人たちのクルマ参入で、日本の自動車産業は生き残れるのか?
と鮮明に書き出されている。
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(ゴーンショック 揺らぐ日仏連合:上)2/21
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13902486.html?ref=pcviewer
日産、前会長「追放」へ脚本
セーヌ川にほど近いパリのサンドミニク通り。水色の大きな門扉の向こうに砂利敷きの庭が静かに広がり、その奥に米大手法律事務所、レイサム&ワトキンスのパリ事務所がある。仏自動車大手ルノーの本社まで直線距離で約7キロ。この3階建ての瀟洒(しょうしゃ)な洋館がいま、ルノーに対する日産自動車の「前線基地」になっている。
レイサムは、国際的なM&A(企業合併・買収)に強みがあり、2600人以上の弁護士を抱える世界有数の国際法律事務所だ。欧米やアジア、中東など世界14カ国に拠点を構える。
日産の幹部は昨春、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された前会長カルロス・ゴーン(64)の「追放」に向けた指南役としてレイサムに協力を求めた。初夏には戦略づくりが本格化。幹部らはこのころ、ゴーンが見せ始めた変化に警戒心を強めていた。
ルノーの筆頭株主の仏政府はかねて、ルノーを通じて日産の経営に介入しようと前のめりだった。複数の元日産幹部によると、2001年ごろに日産に経営統合を提案したのを皮切りに、影響力拡大を狙った要求を繰り返した。仏政府に対する盾となり、日産の自主性を保ってきたのは他ならぬゴーンだった。
ところが、昨年4月の日産の取締役会で「異変」が起きる。仏政府やルノーの攻勢を食い止める「防波堤」だったはずのゴーンが、三菱自動車を交えた3社連合の今後について「今のままでいいのか。アライアンス(提携)を深める議論をするべきではないか」と発言したのだ。
「ルノーと日産の経営統合を念頭に置いていたのは明らかだ。日産が日本の会社でなくなるかもしれない」。発言を知った幹部らは強い危機感を覚えた。ゴーンが仏政府の要求をのんで「寝返った」と疑念を深め、レイサムの弁護士集団と組んでゴーン「追放」に向けた脚本を練り始めた。
東京地検特捜部が電撃的にゴーンを逮捕したのは昨年11月19日。幹部らが動き出したのは、その半年以上前だった。折しも日本に「司法取引」が導入された時期と重なる。
日産が検討したシナリオは数十通りにも及んだ。
「ゴーンが刑事訴追を受けたら」「ゴーンが破産宣告を受けたら」……。そんな筋書きも含まれていた。=敬称略
▼34面=公判前整理実施へ
(ゴーンショック 揺らぐ日仏連合:上)
(1面から続く)
ゴーン流変質、日産疑念 工場や開発「ルノー優位だ」
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13902467.html
日産自動車と米大手法律事務所レイサム&ワトキンスは、世界を驚かせた逮捕劇の半年以上前から、前会長カルロス・ゴーンの行状に関する社内調査に着手していた。
日産がレイサムに白羽の矢を立てたのは、ルノーの本社にオフィスが近く、フランス語に堪能な弁護士がいて、ルノーや仏政府の出方に機敏に対応できるためだった。「彼らは海外の契約や法律に詳しい。それにルノーに使われていなかったから」と幹部は明かす。
ゴーンに悟られないよう調査は極秘裏に進められた。非連結子会社を通じてパリやレバノンで高級住宅を購入したり、ブラジルのヨットクラブの会員権を日産の経費で取得したり……。日産を「私物化」するような数々の不正の疑いが見つかった。
自動車メーカー同士の国際提携には成功例が少ないと言われる。その中で日産、ルノー、三菱自動車の3社連合は、世界販売台数でトヨタ自動車グループを上回り、独フォルクスワーゲンに次ぐ第2位の「自動車帝国」へと急拡大を遂げた。
倒産寸前まで追い込まれた日産を約20年前に救済したルノーは、日産に43%を出資して議決権を持つ。日産のルノーへの出資は15%にとどまり、議決権もないが、近年の業績は日産がルノーを上回る。日産の古参の幹部にとって「不平等条約の改正」は悲願だ。
日産側にくすぶる不満とルノー側からの圧力。ゴーンは双方を巧みにいなし、両社の微妙なバランスを保ってきた。2015年には、仏政府が日産の経営に不当に介入すれば、日産が独自の判断でルノー株を買い増せるとの合意を取り付けた。
3社連合を束ねる扇の要の役割を果たしてきたゴーンは、統治の秘訣(ひけつ)をよくこう表現してきた。
「対等な関係、ウィンウィンであることが重要だ」
しかし、近年はゴーンが連呼する「対等」にはほど遠い事業運営が目につくようになり、日産の幹部らは不満を鬱積(うっせき)させていた。
■仏政府と蜜月、経営統合の影
2400人余が働くパリ西部近郊のルノーのフラン工場では、16年に日産車マイクラ(日本名マーチ)の生産が始まった。もともとは日産のインドの工場で生産して欧州に輸出する計画だったが、フラン工場での生産に変更された。17年に同工場で生産された18万7千台のうち、マイクラは半分を占めた。
01年からフラン工場に勤める労働組合の代表、ヤシン・アルジジ(35)は「日産車の製造は我々の雇用を大きく左右する」と話す。「生産性が低い」とみなされ、09年には閉鎖の危機もあった工場は、18年に350人を新たに雇用したという。
40年前からフラン工場で働くベルトラン・ドミニク(59)は「ルノーが風邪を引けば、フランスがくしゃみをすると言われている。この工場には地域経済の行く末がかかっている」。
稼働率が落ちれば、下請けの部品メーカーから、部品の運搬や工場の照明のメンテナンスを手がける業者に至るまで、すそ野への悪影響は避けられない。
日産幹部は「フラン工場への生産計画の変更は、低迷していたフラン工場の稼働率を上げるのが目的。ゴーンがとったルノー優位の戦略だ」といぶかしむ。
昨年11月8日。役員報酬の過少記載の疑いで逮捕された11日前には、仏北部のルノーのモブージュ工場で大統領のエマニュエル・マクロンを出迎えるゴーンの姿があった。
ゴーンは600億円を投じてルノーの「カングー」の次期モデルと日産の新型商用車を生産するほか、別の工場で三菱自の商用車の生産も始め、計200人の新規雇用を生み出すと宣言。マクロンと固い握手を交わし、仏政府との蜜月ぶりをアピールした。日産幹部の目には、仏政府やルノーからの「防波堤」だったゴーンが、自らの地位を守るために仏政府の「走狗(そうく)」と化したように映った。
ゴーンは昨年2月、ルノーの会長兼CEOの再任を認められた。マクロンは、ゴーンの退任後に日産への影響力が弱まり、フランスの経済や雇用に悪影響が出ることを懸念して、再任を認める条件として「日産とルノーの関係を不可逆なものにする」との約束をゴーンと交わしたとされる。
「私がいなくなったときに何が起こるのかと、人々は疑問に思っている」
ゴーンは再任決定後の記者会見でそう語り、3社連合を持続可能なものにする必要性を訴えた。
その直後の昨年3月。日産自動車の生え抜きの幹部は、翌月からの日産の人事資料を見て絶句した。開発分野の統括責任者の「レポートライン(指揮系統)」が、前年に日産の社長兼CEOを退き、会長に就いたゴーンに連なっていたからだ。
ゴーンから統括責任者への指揮系統が実線で結ばれる一方、社長兼CEOの西川(さいかわ)広人と統括責任者の間は申し訳程度の点線で結ばれていた。開発分野は自動車メーカーの競争力を左右する中枢部門だ。その意思決定の最終権限を、西川ではなく、ルノーの経営トップに留任したゴーンが握る指揮系統になっていた。
「日産の車の開発なのに、日産の社長が最終権限を持っていないなんて……」
この幹部は、ゴーンが日産とルノーを経営統合させる準備を着々と進めていると感じ取った。
ゴーンは日産の経営会議にもネット中継で画面越しに参加することが増え、横浜市の本社に姿を見せるのは「月に数日程度」(幹部)になっていた。羽田空港で身柄を確保されるまで、ゴーンは内部調査にも検察の捜査にも全く気づいていなかった。13日付でゴーンの弁護人となった弘中惇一郎は、20日の記者会見でこう指摘した。「最初に動き出したのは日産のはず。日産が戦略を考え出して検察に持ち込んだ」=敬称略
◇「ゴーン支配」が終焉(しゅうえん)し、日産三菱・ルノーの3社連合が揺らいでいる。グループの主導権を巡る日産とルノーの攻防に3回で迫る。
▼34面=公判前整理実施へ
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13902432.html
公判前整理手続き、実施決定 ゴーン前会長弁護団「無罪を確信」
東京地裁は20日、会社法違反(特別背任)と金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴された日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)と、金商法違反の罪で起訴された前代表取締役グレッグ・ケリー被告(62)、法人としての日産の公判について、事前に争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きを開くことを決めた。期日は未定。▼1面参照
ゴーン前会長の新たな弁護人になった弘中惇一郎弁護士は同日、東京都内で会見し、「無罪であると確信している」などと述べ、検察との対決姿勢を鮮明にした。
弘中氏は前会長が起訴された事件について「本来は日産内部で処理する問題を検察が取り上げ、(前会長に)不可逆的なダメージを与えることを危惧している」「なぜ事件になったか奇異な気持ちを持っている」などと疑義を示した。
また前会長の身柄の拘束が3カ月を超える長期にわたり、海外メディアなどから批判が出ている点にも言及。弁護人が取り調べに立ち会えないことなども挙げ、「日本の司法のあり方を国際的な水準に直す機会と思う」とした。
(ゴーンショック 揺らぐ日仏連合:中)2/22
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13904031.html?ref=pcviewer
ルノーの介入、防ぐ合意書 日産の「切り札」、前会長が主導
日産自動車と仏ルノーの間には一握りの幹部のみが知る門外不出の掟(おきて)がある。
全文30ページ弱の英文の書類で、「RAMA(ラマ)」と呼ばれる両社の合意文書だ。
RAMAはRestated Alliance Master Agreement(改定アライアンス基本契約)の略。日産の首脳人事や取締役の数などを規定する重要な協定で、いわば統治のルールを定めた「条約」だ。にもかかわらず、ごく限られた者しか目にすることができない。
■「見たことない」
ルノーが文書の概要を公にしているだけで、日産の公表資料からは文書の存在も確認できない。日産の元副社長でさえ、「見たことがない。重要な文書だけど、取締役会にも明らかにされていない」と話す。
ルノーの公表資料によると、両社が資本提携した翌年の2000年に前身となる契約が結ばれ、02年3月に更新されて現在のRAMAの原型ができた。RAMAは両社の合意で見直すことができる。05年、12年、15年の三たび改正された。
日産関係者によると、RAMAには(1)ルノーは日産のCOO(最高執行責任者)以上のポストに人材を指名できる(2)日産が株主総会に諮る人事案にルノーは反対できない(3)日産の取締役のうち日産出身者の数がルノー出身者を上回る――など双方にとって有利な取り決めがある。
ルノーは前会長カルロス・ゴーンの解任後に空席となっている日産の会長ポストの掌握を狙うが、RAMAの規定には、ルノー側が指名できるのは日産の「COO以上のポスト」とあるだけ。日産関係者は「COO以上とは何かという定義がない。日産が会長ポストを握り、ルノーは副会長ということもありうる」と牽制(けんせい)する。
ルノーは日産株の43%を握る大株主だ。重要案件への拒否権を得られる「3分の1超」の株式を保有し、本来なら日産の経営を左右できるはずなのに、RAMAがそれを封じている。
日産にとって、15年の改正で「ルノーが日産の経営に不当な干渉をしたら、日産は独自の判断でルノー株を買い増せる」という趣旨の項目が盛り込まれた効果は大きかった。日産がルノーへの出資比率を今の15%から25%以上に高めると、日本の会社法の規定により、日産に43%を出資するルノーの議決権は効力を失う。
「日産の大株主のルノーが、なぜ自ら日産の経営への参加を縛るのか」「権利の放棄だ」……。16年のルノーの株主総会では、この改正に株主から疑問の声が出たが、ルノーの経営陣は「日産の経営に干渉しないという、提携が成立して以来の慣習を正式に記載しただけだ」とかわした。
日産の経営陣は「伝家の宝刀」を手に入れた。この刀があるおかげで、ルノーは日産の経営陣の意に沿わない株主提案権を行使するといった強硬策をとれなくなった。ルノーに15%を出資する筆頭株主で、ルノーを通じて日産の経営に干渉しようとしてきた仏政府も、やすやすとは介入できない。社長兼CEO(最高経営責任者)の西川(さいかわ)広人=15年当時は副会長=は改正後の記者会見で、「非常に良い結論が出た」と満足げだった。
この改正を主導したのは、仏政府の介入を嫌っていたゴーンだった。05年から両社のCEOを兼ねるゴーンが、側近の前日産代表取締役グレッグ・ケリー=金融商品取引法違反の罪で起訴=、ルノー副社長のムナ・セペリを使って日産に有利な改正を導き、介入に前のめりだった仏大統領(当時は経済相)のエマニュエル・マクロンに待ったをかけた。
フランスでは14年に、2年以上の長期株主に通常の2倍の議決権を与えるフロランジュ法が成立し、ルノーに対する仏政府の議決権が拡大。日産への影響力拡大への懸念が高まったことが改正の呼び水になった。
■両社の攻防続く
しかし、日産の独立性を守る盾となってきたゴーンは、ルノーの会長兼CEOの再任を認められた昨年ごろから「変節」を疑われるようになっていく。再任と引き換えに、両社の経営統合を望む仏政府側に寝返ったと日産幹部に疑われたゴーンは、日仏自動車連合の最高権力者の座を失い、刑事被告人となった。
ゴーンの失脚をきっかけに火を噴いた日産とルノーの主導権争いは、日産の後任会長選びや資本関係の見直しを巡って攻防が続く。両社はRAMAを駆け引きの材料としてせめぎ合うが、日産を追われたゴーンが改定した「置き土産」が、皮肉にも日産の切り札になっている。=敬称略
(ゴーンショック 揺らぐ日仏連合:下)2月23日
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13905942.html?iref=pc_ss_date
3社連合、船頭なき再出発 「ゴーン後」巡り綱引き続く
【解説】どうなる日産の新体制、ヤマ場はこれから
今月12日。横浜市の日産自動車本社で開かれた決算発表の記者会見に、社長兼CEO(最高経営責任者)の西川(さいかわ)広人(65)が急きょ出席した。前会長カルロス・ゴーン(64)の不正について「大きな責任を感じている」と述べる一方、続けて「大事な日産という大きな船を将来に向けて進めていく責任もある」と強調した。口調は滑らかだった。
排ガス・燃費データの改ざんや、車の安全性能にかかわる検査不正の会見には昨年一度も姿を見せなかったのに、ゴーンの逮捕後に会見に出るのはこれが4度目。「何かみなぎるものを感じる」。西川の変わりように日産幹部は驚く。
西川は「コストカッター」の異名を取るゴーンの下で、購買担当として頭角を現した。社内で「ゴーンチルドレン」と目されてきた男がいま、「ゴーン後」の日産の命運を握る。
だが、仏ルノー、三菱自動車とともに進む航海のかじ取りは容易ではない。3社の会長を1人で兼ね、扇の要の役割を果たしてきたゴーンが失脚し、3社連合は剛腕でならした「船頭」を失った。重要な経営判断をトップダウンで即決してきたゴーンに代わるカリスマは見当たらない。
■合議制に懸念も
西川やルノーの新会長に就いたジャンドミニク・スナール(65)らは1月末にオランダ・アムステルダムで開いた会合で、3社連合の運営を各社の首脳の合議で進めることを確認した。
ある日産幹部は「合議制でうまくいっている前例はない」と心配顔だ。一例として、2000年に第一勧業、富士、日本興業の3行が統合して生まれたメガバンクみずほフィナンシャルグループ(FG)を挙げた。みずほFGと傘下2行のトップを旧3行出身者が分け合う「融和路線」を敷いたが、意思決定の遅れが目立ち、結局みずほFG社長に権限を集中させる体制に改めた。
ルノーは、スナールを3社連合の提携見直しを巡る協議の窓口にする構えだ。会長就任後に初めて来日し、西川らと会談したスナールは16日、「アライアンス(提携)の将来は輝かしい」と記者団に述べた。対話路線への変化を印象づけたが、別の日産幹部も「合議で意見が割れたら、迅速な経営判断ができないのでは」と懸念を口にする。
自動車業界では、電動化や自動運転などの次世代技術の開発を巡り、異業種も巻き込んだ競争が激しさを増す。3社連合の内部対立が続くと、経営判断のスピードが落ちて肝心の競争力に陰りが出かねない。
■日産会長が焦点
「ゴーン後」の統治体制をめぐる目下の最大の焦点は、ゴーン解任で空席となった日産の会長人事だ。ルノーや筆頭株主の仏政府はスナールを日産の会長に据え、日産への影響力を維持するシナリオを描く。
かたや、ルノーに会長ポストを渡したくない日産は「ルノーと日産の会長が同じ人になれば、権力集中の弊害が露呈したゴーン体制と同じことになる」と予防線を張る。ゴーンの不正を許したガバナンス(企業統治)の改善策を話し合うとして、外部の有識者による特別委員会も設けた。3月末までに特別委が提言をまとめる。ガバナンスの立て直しを優先する「大義名分」を前面に打ち出して後任会長選びを先送りし、ルノーの揺さぶりをかわしながら日産優位の新体制をつくる狙いが透けて見える。外部の目による経営陣の監視を強めようと社外取締役の増員も取り沙汰されている。
日産はゴーン「退場」を好機とみて、ルノーとのいびつな資本関係の見直しも視野に入れる。だが、3社連合の主導権を維持したいルノーの反発は必至で、仏政府も高い壁として立ちはだかる。日産に対するルノーの影響力が弱まれば、自国の経済や雇用への悪影響が避けられないためだ。
仏政府の信頼が厚いスナールは4月の臨時株主総会で日産の取締役に選ばれ、会長人事を含めた新体制を決める取締役会の議論に加わる。日産の新体制が決まる6月の定時株主総会が両社の攻防の天王山となる。
日産幹部には「不平等な資本関係を解消するため、持ち株比率は同じにすべきだ」との強硬論もあるが、両社とも提携解消という「離縁」は望んでいない。
対ルノー戦略を練る西川が陣取る日産本社21階のCEO室には夜な夜な明かりがともる。西川が休日返上で出社することも多いという。世界が注目する両社の主導権争いの落としどころはどこか。ゴーンを排除し、ゴーンが企てた経営統合を阻止した時点で西川らの目的は半ば達成したと言える。その先は「ルノーが日産株の数%を日産に売って出資比率を若干下げるぐらいしかできないのでは」(日産関係者)。そんな微温的な折衷案もささやかれる。=敬称略
(このシリーズは木村聡史、疋田多揚、友田雄大、高橋克典、大鹿靖明が担当しました)