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続折々の記 ⑤
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【 03 】06/06
       台湾海峡 にらみ合う大国:1   

2021年6月6日 (台湾海峡 にらみ合う大国:1)
台湾囲う、中国軍機の航跡 日米介入阻む「二正面」訓練

写真・図版 写真・図版 【写真・図版】中国の戦闘爆撃機「殲16」=台湾国防部提供

 沖縄県の航空自衛隊宮古島分屯基地の対空レーダーが3月29日午前、日本の防空識別圏(ADIZ)に進入する「機影」を捉えた。中国・上海方面から南東に飛行してきた航空機だ。

 「スクランブル(緊急発進)!」。空自那覇基地の格納庫に警告音が鳴り響くと、F15戦闘機が2機編隊で次々離陸した。

 「機影」は、中国の情報収集機と哨戒機の2機だった。沖縄本島―宮古島間を飛行。さらに情報収集機は太平洋に出た後、台湾の東側に回り込んだ。中国機2機を追尾するのに計10機以上の空自F15が対応したという。統合幕僚監部はこの日、中国機の航跡を記した地図を公表した。

 だが、その地図は、この日の中国機の動きの一側面しか描いていなかった。

 日本側への進入と前後して、台湾の西方でも中国人民解放軍の戦闘爆撃機「殲16」4機など空軍機が続々と台湾のADIZに進入。哨戒機や戦闘機など、その数は計10機にのぼった。哨戒機はADIZを何度もまたぎながら台湾南東まで往復した。

 統合幕僚監部と台湾空軍が発表した地図を重ねると、この日の中国機が台湾を「3方向」から囲い込む航跡が浮かび上がる。

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 「訓練は、中国軍が通常演習をより複雑で現実的にすることで戦闘準備の能力を高めるもの。米国や日本の介入の可能性を考慮に入れている」。中国共産党の機関紙・人民日報系の環球時報は、翌日の記事で、台湾への牽制(けんせい)と、日米の介入阻止を狙った「二正面」の訓練だったとの軍事専門家の解説を掲載した。

 中国軍の訓練は米台の接近を牽制する狙いがあるとの見方が強い。米台は3月25日に海上警備や情報共有を強化する覚書に調印。同28日には台湾が外交関係を維持するパラオの大統領訪台の際、駐パラオ米大使も訪台した。また、日米も同16日の2プラス2で「台湾海峡の平和と安定」で連携することを確認していた。

 一方、中国軍の圧倒的な勢いに台湾側は対応が困難になってきている。

 「兵力の運用に影響が出てきており、(中国機)監視の大部分を地上のミサイル部隊に担わせている」

 3月29日、台湾国防部の張哲平副部長(副大臣)は立法院(国会)で、中国機のADIZ進入への対応を問われ、こう答弁した。中国機を上回る数の戦闘機を緊急発進させて対応してきた方針を転換し、大半を地上からの監視で代替することを明かしたのだ。

    *
 台湾国防部が昨年9月から公表に踏み切った進入機数は、昨年末までの約3カ月半で延べ約150機、今年は4月末までに延べ約280機と急増。緊急発進に伴う経費は昨年、国防費の約9%(約1200億円)に膨れ上がり、部隊の疲弊も無視できなくなった。

 中国の狙いは何か。統合幕僚監部防衛計画部長を務めた尾上定正元空将は「尖閣同様、最初は『例外』を試し、それを常態化させ、次の段階に進む条件を整える。同時に消耗戦を仕掛けて負荷をかけるのが中国の常套(じょうとう)手段。中国は(有事でも平時でもない)『グレーゾーン』作戦の段階に入った」と指摘する。(編集委員=佐藤武嗣、土居貴輝、台北=石田耕一郎)

 ▼2面=4つのシナリオ
 ◇台湾海峡をめぐり米中が対立を深めています。将来的な衝突は不可避なのか。関係国の現状と思惑、そして日本の役割を探ります。 次回は8日に掲載します。

4つのシナリオ

写真・図版 写真・図版 写真・図版 写真・図版 写真・図版 【写真・図版】4月23日、海南省三亜で開かれた軍艦就役式典で軍旗を授与する習近平国家主席=新華社

 米中対立のなか、中国が台湾への軍事的圧力を強めている。武力衝突は切迫してはいないが、台湾有事となれば、日本も無関係ではいられない。防衛省幹部は「最悪のシナリオに備える必要がある」と語るが、同時に日本は、平和的解決への道筋を探る役割も担っている。▼1面参照

 「最も危険だと懸念しているのは(中国の)台湾への武力行使だ」。3月の米上院軍事委員会の公聴会で、アキリーノ米太平洋艦隊司令官(現インド太平洋軍司令官)はこう強調し、中国が台湾への軍事的な圧力を強めていることに強い警戒感を示した。

 一方の中国も、習近平(シーチンピン)国家主席が「中華民族が偉大な復興に向かう過程に台湾同胞は欠かせない」と説き、台湾併合が危うくなれば、「中国人民は必ずや正面から痛烈な打撃を与える」と台湾への武力行使も辞さない構えを強調してきた。

 米中は台湾をめぐる武力衝突に突き進むのか。「台湾危機」は、主に4通りのシナリオが語られている。

 ■[1]台湾へ本格侵攻 ミサイル能力急速強化

 中国は今年4月、中国初の強襲揚陸艦の就役式を、習主席も参加して実施。着上陸作戦の中核を担うとみられ、台湾侵攻への布石との見方も少なくない。

 中国は1995~96年の台湾海峡危機の際、米軍に海峡への空母2隻の派遣を許した教訓から、米軍の接近を阻止しようと、近年、ミサイル能力を急速に強化。台湾海峡を射程に収める短距離ミサイルのほか、在日米軍など米軍や自衛隊の介入を防ぐため、「空母キラー」と呼ばれる精密誘導のDF21など中距離弾道ミサイルを保有する。

 ただ、台湾侵攻で米軍の本格介入を招けば、中国本土も攻撃にさらされる。米シンクタンク「ランド研究所」のスコット・ハロルド上級研究員は「中国共産党は台湾問題を国内向けに政治利用するが、実際の紛争は望んでいない」と見る。

 ■[2]台湾離島へ侵攻 「少ない成果、高い代償」

 中国が台湾侵攻に加え、米軍や自衛隊の「三正面」を相手にするのは困難だ。米軍の介入を招かない選択肢として可能性が指摘されるのが、台湾に経済的圧力をかけるための海上封鎖や、台湾が実効支配する東沙諸島や金門島など離島への侵攻だ。日米の専門家でよく対応が議論されるシナリオでもある。

 米シンクタンク「外交問題評議会」の今年2月の報告書では(1)南沙諸島に位置する太平島(2)東沙諸島などへの侵攻シナリオを列挙。ただ、大規模な軍事衝突を避けて離島を占領しても、国際社会から強く非難され、台湾併合の目標達成には程遠く、「少ない成果しか得られず高い代償を払うことになる」と指摘している。中国軍事筋も「離島攻撃は優先順位が低い」と語る。

 ■[3]ハイブリッド戦 サイバー攻撃や情報戦

 専門家の間で可能性が指摘されているのが、サイバー戦と情報戦を組み合わせた「ハイブリッド戦」だ。

 ロシアは2014年のクリミア併合などのウクライナ危機の際、サイバー攻撃で重要インフラを攻撃して戦闘能力を奪ったうえ、偽情報も流した。親ロ派勢力を使って最小限の軍事力で作戦を遂行した。兼原信克・元国家安全保障局次長は「中国がロシアの手法をまね、サイバー攻撃で重要施設をまひさせ、海底ケーブル切断で通信網も遮断。台湾の親中派を誘導しながら、同時に特殊部隊を投入し、米軍の介入前に短時間で決着をつける可能性もある」と見る。

 武力行使しなくても、中国が台湾防空識別圏進入を常態化させて台湾軍を疲弊させ、フェイクニュースなどの情報戦で世論を揺さぶり、台湾内で親中派の決起を誘って暫定政府を樹立させることも考えられる。

 ■[4]偶発的な衝突 動き活発化、高まる懸念

 防衛省幹部は「もっとも可能性が高いのが、双方が武力衝突を意図しないのに、偶発的な事故や衝突が起き、それが本格的な紛争に発展するケースだ。その確率が高まっている」と指摘する。例えば、南シナ海で13年、中国空母「遼寧」の情報収集をしていた米海軍巡洋艦が、中国側から海域から出るよう警告を受けたうえ、中国海軍の艦艇が急接近して進路を塞ぎ、衝突寸前に。結局、米巡洋艦が回避行動を取ったことで衝突は免れた。

 また、01年には、南シナ海上空でも米海軍電子偵察機と中国軍の戦闘機が空中衝突する事件も起きた。

 最近は台湾周辺の海域や空域で中国軍が訓練を活発化。対抗して米軍も頻繁に米艦艇に台湾海峡を通過させるなどしている。互いに相手の出方を探ろうと挑発をエスカレートさせれば、偶発的衝突の危険性も増す。それが、相手の意図の読み違いや報復の連鎖などで、大規模な戦闘に発展する可能性も否定できない。

 ■台湾有事、日米安保に直結 集団的自衛権行使なら米艦防護など

4月16日の日米首脳会談の共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」と、52年ぶりに「台湾」が明記された。外務省幹部は「台湾海峡有事の際は、日米が積極的に連携することを確認したものだ」と語る。

 現在、台湾有事で日米がどう連携するかを定めた「共同作戦計画」は策定されておらず、今後計画策定に着手する可能性がある。

 河野克俊・前統合幕僚長は5月12日の会見で「台湾有事になれば、日本の南西諸島も一つの戦域になるのは軍事的には常識で、日本の安全保障に直結する」と指摘した。

 中国が武力による台湾本島への侵攻を試みれば、米海軍横須賀基地や米空軍嘉手納基地から空母や戦闘機が出撃して、侵攻阻止にあたるとみられる。中国は高性能な弾道・巡航ミサイルで日本全土を射程に収めており、在日米軍への攻撃に踏み切る可能性も否定できない。

 防衛省幹部は「本格的な武力衝突に発展する蓋然(がいぜん)性が高くなくても、防衛は最悪のシナリオに備える必要がある」と語る。「日本への武力攻撃が発生した事態」(武力攻撃事態)と政府が認定すれば、首相が「防衛出動」を命じて中国に反撃することになる。

 一方、15年に安全保障法制ができたことで、日本が直接攻撃は受けなくても、台湾海峡での米中軍事衝突が発生し、この状況が「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる」(存立危機事態)と判断すれば、集団的自衛権を行使して自衛隊が武力行使できる。

 これは安倍政権が集団的自衛権行使の憲法解釈変更に踏み切ってできた枠組みだが、米艦の防護などが想定される。ただ、この場合、防衛省幹部は「存立危機事態で自衛隊が中国に武力行使すれば、中国の反撃は必須。すぐに武力攻撃事態に移行する可能性が高い」と話す。

 中国が台湾本島侵攻などで米軍との衝突を避けようと、台湾の離島への侵攻や「ハイブリッド戦」を仕掛けた場合、米軍がどう対応するかが焦点となる。

 「米軍が動かない限り、自衛隊が介入することはない」(防衛省幹部)が、米軍が軍事介入し、重要影響事態と判断すれば、給油や弾薬提供など米軍を後方支援することも可能になる。

 日米はこうした状況を念頭に置いた訓練を既に実施。2月13日に海上自衛隊の補給艦が沖縄近海で、米海軍の貨物弾薬補給艦に洋上を航行しながら給油した。自衛隊幹部は「訓練の内容は実任務と全く同じだ」と話す。

 外務省幹部が「日米同盟強化はより一層重要になる」と語る一方、政府内には「中国は日本にとって最大の貿易相手国。日中関係の安定化は、日本の安全保障にも望ましい」(財務省幹部)との声もある。

 日米共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」を確認する一方、菅義偉首相が主導し、「両岸問題の平和的解決を促す」との文言も盛り込んだ。

 台湾有事では、日本も「戦場」になりかねない。首相はバイデン大統領に、「平和的解決のため、日本も役割を果たす」と語ったと言う。日本が経済・外交面でどう「平和的解決」に道筋をつけるかも問われる。
(編集委員=佐藤武嗣、土居貴輝、ワシントン=園田耕司、北京=冨名腰隆)

 ■<視点>望まぬ戦いに陥る「罠」

 米中が共に戦争を望んでいないにもかかわらず、衝突する「罠(わな)」に陥りかねない――。米ハーバード大ケネディ行政大学院初代学長で、国防次官補も務めたグレアム・アリソン氏は、著書で、こう警鐘を鳴らす

 古代ギリシャ時代、覇権国スパルタと新興国アテネが互いに戦争を好ましくないと思いながらペロポネソス戦争に突入。同氏はこの戦争を記述した歴史家の名前から、覇権国と新興国が軍事衝突に陥るのを「トゥキディデスの罠」と呼ぶ。

 分析では、過去500年間で覇権国と新興国の勢力争いは16件あり、うち12件が日米開戦も含めて、この「罠」に落ち、戦争に発展したという。

 国力をつけ、他国から敬意が払われてしかるべきだと自信を深める「新興国シンドローム」と、覇権の衰退を感じ、恐怖や不安にかられる「覇権国シンドローム」が交錯して、互いに望まない「罠」に落ちる。いまの米中関係が、その構図にあてはまるというのだ。
 シンドロームとは ➡ 原義は「同時進行」。 症候群 。症状が同時進行で起きている状態。

 米中では、偶発的な衝突、尖閣をめぐる日中衝突、台湾総統選など、戦争に拡大する「火種」は少なくない。

 「罠」は回避できるか。アリソン氏は、米ソなど回避した過去4例は、当事国が「痛みを伴う大がかりな調整に応じた」結果だと分析する。日米同盟は重要だが、国益が常に一致するわけではない。挑発には毅然(きぜん)と対応すべきだが、日中関係の安定は日本の安保にも寄与する。対立の最前線にある日本も、罠を抜け出す道を独自に探るべきだ(編集委員・佐藤武嗣)



2021年6月8日 (台湾海峡 にらみ合う大国:2)
屈辱――軍拡へ目覚めた中国
   90年代、米空母になすすべなく

 「最近の日本は下心を持って『中国の軍事的脅威』をあおり立てている。台湾問題で日本がすべきことは、軍国主義の歴史に向き合い深く反省することだ。身のほどをわきまえよ」

 5月27日の中国国防省オンライン会見。日本防衛省が今夏にもまとめる防衛白書の素案に「台湾情勢の安定は日本の安全保障や国際社会の安定に重要」と明記されたことを、譚克非報道官は強い口調で非難した。

 日本や米国から見れば台湾海峡の緊張を高めているのは中国だが、中国には台湾への関与を強める日米の動きは内政干渉に映る。こうした米国などの影響力をいかに排除するかは、中国の長年の課題であった。

 台湾は第2次世界大戦の日本降伏を受けて、当時の中華民国に属した。1949年、国民党との内戦に勝利した共産党により中華人民共和国が成立。国家指導者となった毛沢東氏は、台湾に逃げ込んだ蒋介石氏率いる国民党政府に対して断続的に武力攻撃を仕掛けた。58年には台湾が実効支配していた金門島の攻略を試みたが、米国が台湾支援に動いたため成功には至らなかった。

 79年、米国は中国との国交正常化を果たす一方、台湾と断交。だが、中国による台湾占領を警戒し、「台湾関係法」を制定して武器供与などの形で台湾支援を続けた。米国が外交では中国を、安全保障では台湾をパートナーに選んだことで、台湾海峡の緊張は維持されることになった。

 中国が中台統一に向けて本格的に軍事力の増強に突き進むようになったきっかけは、95~96年の第3次台湾海峡危機だ。当時のクリントン米政権が李登輝総統に訪米ビザを発給したことに激怒した江沢民指導部は、台湾北側に向けてミサイル発射実験を実施。翌年の台湾初の直接投票による総統選挙の時期にも、大規模な軍事演習を行い、台湾の民主化に圧力をかけた。

 ところが米軍が台湾海峡へ派遣した二つの空母艦隊を前に、対艦ミサイルなどの精密打撃能力が不十分な中国はなすすべがなかった。この屈辱を機に、中国は海軍の増強や短距離ミサイルなどの開発に力を入れるようになった。現在の国防費は台湾海峡危機当時の20倍以上に膨らんでいる。

 米中の国防費にはまだ3倍以上の開きがあるが、世界へ展開する米軍に対し、中国軍は自国周辺の安全保障に集中している。「台湾周辺に限ればすでに実力は逆転した」(中国外交筋)との強気な分析もある。

 米国を台湾から遠ざけるために増強を図ってきた軍事力が近年、もう一つの勢力に向けられ始めている。共産党指導部が「独立分子」と呼ぶ民進党政権だ。

 現在の中国の政治的な台湾アプローチは、トウ小平氏が79年元日の「台湾同胞に告げる書」で打ち出した内容を基軸とする。武力統一を目指してきた毛氏の方針を転換し、平和的な統一を呼びかけるものだった。

 ■独立志向、遠のく「平和的統一」

 この路線を踏襲した江、胡錦濤両氏に続き、習近平(シーチンピン)国家主席も19年1月に包括的な対台湾政策を発表。「平和統一を目指す」との原則を示しつつ、台湾に一国二制度の導入を求めた。一方で見逃せないのは、台湾で高まる独立の動きに対して「武力行使の可能性は放棄しない」とすごんでみせたことだ。

 李氏が進めた民主化によって台湾の人々の意識に変化が芽生えたことは確かだ。それまでの国民党政府は台湾に逃れてもなお、共産党と目指す形は違えど中台統一を目指してきた。だが、現在の台湾では「自分は中国人ではなく、台湾人」と考える人が若者を中心に急増している。蔡英文(ツァイインウェン)総統率いる民進党政権は独立こそ明言しないが、中台が「一つの中国」原則を確認したとされる「92年コンセンサス」を受け入れていない。

 台湾と向かい合う福建省で政治キャリアを重ねた習氏にとって、中台統一は「党のトップに就いた時からの政治的使命」(党関係者)と目されてきた。だが、政権発足から9年目を迎えても統一は兆しすら見えず、軍事的威嚇を繰り返すことでむしろ悲願は遠ざかっている感さえある。

 日米など外国勢力の台湾関与を断ち切り、台湾市民の意識を再び統一へ向かわせることが中国の描く平和シナリオだが、そのハードルは高まるばかりだ。国務院台湾事務弁公室の元副主任・王在希氏は「政党政治が進み、国民党でさえ台湾をまとめて我々と統一を議論することは難しくなった。平和統一の可能性が限りなく小さくなっている」と分析する。(北京=冨名腰隆)

 ■日米中の台湾をめぐる動き

 <1949年10月> 中華人民共和国が成立。中国共産党に敗れた国民党政権(中華民国)は台湾に逃れる

 <58年8月> 中国が台湾の金門島に砲撃。米国は艦船を派遣し、中国による海上封鎖を妨害

 <71年10月> 中国が国連に加盟。台湾は脱退

 <72年2月> ニクソン米大統領が訪中

 <同年9月> 田中角栄首相が訪中し、日中国交正常化

 <79年1月> 米中が国交樹立。米台は断交。トウ小平氏が台湾政策を武力解放から平和統一に転換する「台湾同胞に告げる書」を発表

 <同年4月> 米国が台湾への武器売却を定めた「台湾関係法」制定

 <95年6月> 台湾の李登輝総統が米国を非公式訪問。反発した中国は翌年にかけて台湾に向けてミサイル演習し、米軍が空母を派遣

 <2017年12月> 米国が「国家安全保障戦略」を発表。中国を「競争国」と位置づけ

 <19年1月> 習氏が台湾に平和的統一迫る演説

 <21年2月> バイデン米大統領が習氏と就任後初の電話会談。中国の台湾などへの行動に「根本的な懸念」表明

 <同年4月> 米国、米台当局者の接触規制を緩和する新指針を発表

 <〃> 日米首脳会談で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した共同声明を発表