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続折々の記 ⑤
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 04 】06/15【07】へ続く
       00 日本の富裕層が「先進国で最も税金を払ってない」   
       01 【元国税局員が語る】「長者番付が廃止された」本当の理由   
       02 土地にかかる固定資産税が「大地主に有利」なワケ   

2021年6月15日 
00 日本の富裕層が「先進国で最も税金を払ってない」

(本記事は、大村大次郎氏の著書『知ってはいけない 金持ち 悪の法則』悟空出版、2018年12月7日刊の中から一部を抜粋・編集しています) 
    00 日本の富裕層が「先進国で最も税金を払ってない」
    01 【元国税局員が語る】「長者番付が廃止された」本当の理由
    02 土地にかかる固定資産税が「大地主に有利」なワケ
    03 富裕層が「税金逃れ」に使う「汚いやり方」とは
    04 日本の富裕層が「先進国で最も税金を払ってない」これだけの理由
    05 元国税局員が教える「株や不動産以外で金持ちになる」方法

富裕層にだけ大減税が繰り返されている

金持ちがやっていることは、国税を丸め込んで税金を負けさせるだけではない。税金制度そのものを、自分たちに有利なものに直させているのだ。わかりやすく言えば、金持ちの税金だけが安くなるように、政治家に働きかけているのである。

ほとんどの日本国民が知らない間に、高額所得者の税金はこの30年間で大幅に下げられてきた。信じがたい話かもしれないが、ピーク時に比べて40%も減税されてきたのである。

バブル崩壊後の日本は景気が低迷し、それに少子高齢化も進んだため、我々は消費税の増税や社会保険料の負担増に苦しんできた。「だったら当然、富裕層の税金も上がっているんだろう」と思っている人が多いだろう。

しかし、そうではないのだ。実は富裕層の税金は、ずっと下がりっぱなしなのである。その減税の内容を説明しよう。

  所得が1億円の場合の税率
   1980年 所得税75% 住民税13% 合計88%
   2015年 所得税45% 住民税10% 合計55%

このように所得が1億円の人の場合、1980年では所得税率は75%だった。しかし86年には70%に、87年には60%、89年には50%、そして現在は45%にまで下げられたのである。そればかりではない。住民税の税率も、ピーク時には18%だったが、いまでは10%となっている。

このため、最高額で26.7兆円もあった所得税の税収は、2009年には12.6兆円にまで激減している。国は、税源不足を喧伝して消費税の増税などを計画しているが、そのいっぽうで、富裕層の税金は半減させているのだ。

なぜなら、富裕層による政治への働きかけが大きくモノを言っているからだ。金持ちは圧力団体を使って、政治献金をちらつかせることで、税制を自分たちに有利なように導いてきたのである。

日本の金持ちは欧米の半分も払っていない

こう反論をする人もなかにはいるだろう。

「日本の金持ちの税金は元が高いのだから、減税されてもいいはずだ──」

たしかに日本の富裕層が払っている税金の「名目上の税率」は、他の欧米諸国に比べて高い。 しかし、そこにはさまざまな抜け穴があって、実質的な負担税率は驚くほど低くなっている。 むしろ、日本の富裕層は「先進国で最も税金を払っていない」と言えるのだ。

先進国では個人所得税の大半を高額所得者が負担している。

国民全体の所得税負担率が低いということは、すなわち「高額所得者の負担率が低い」ということに等しい。
つまり、日本の富裕層は、先進国の富裕層に比べて断トツで税負担率が低いということなのである。 日本の富裕層は、名目の税率は高くなってはいるけれど、実際に負担している額は非常に低い。それはなぜか。日本の税制では、富裕層に関してさまざまな抜け穴があるからだ。  開業医が税金の上で非常に優遇されていることはすでに述べたが、開業医以外の富裕層にも、ちゃっかり抜け穴が用意されているのである。

投資家の納税額はサラリーマンの平均以下

富裕層が潜り抜ける税金の抜け穴で、最も目につくのが「配当金」である。

株をたくさん保有している金持ちは、多額の配当金を得ている。しかし、この配当金に課せられる税金も実は非常に安いのである。
普通、国民の税金は所得に比例して税率が上がるようになっている。これは「累進課税」と呼ばれるシステムだ。

たとえば、サラリーマンや個人事業などの収入があった場合、所得の合計額が195万円以下ならば所得税と住民税合わせて税率は15%で済むが、1800万円以上あった場合は50%となる。 収入が多い人ほど、税負担が大きくなる仕組みである。

しかし、株主への配当金だけは、その累進課税から除外されているのだ。 つまり、配当の場合は、どれだけ金額が高くても一定の税率で済むのだ。数十万円の収入しかない人も、数十億円の稼ぎがある人も同じ税率で済むのだ。

しかも、その税率は著しく低い。
実は、株の配当や売買による収入について、所得税はわずか15.315%(復興特別税含む)しかかからない。何億、何十億の配当をもらっていても、たったそれだけである。

これは、平均的な年収のサラリーマンに対する税率と変わらない。 上場企業の株を3%以上保有する大口株主の場合は、20.42%となるが、上場企業の株を個人で3%以上持っているというケースはあまりない。そうならないように、一族で株の保有を分散するからである。

また、たとえ3%以上持っていたとしても、わずか20%程度の所得税で済むのだ。 しかも、住民税は5%しかかからない。
上場企業の株を3%以上保有する大口株主の場合は、普通の人と同じように10%となるが、それ以外の株主、投資家は5%で済むのだ。

住民税は、通常は一律10%かかる。サラリーマン1年生でも10%の住民税を払っているのだ。
にもかかわらず、投資家だけが半額の5%とは……税制面でも、金持ちは優遇制度の恩恵を受けまくっているのだ。

世界の非常識がまかり通る日本

日本がここへきて格差社会になったのは、この投資家優遇が大きな要因だと言える。

考えてみてほしい。毎日、額に汗して働いているサラリーマンの平均税率が15%程度であるいっぽう、株を持っているだけで何千万円、何億円も収入がある人の税率も、同じく15%なのだ。
しかも、住民税に至っては、サラリーマンが一律10%なのに対し、配当所得者は半額の5%なのである。

これで格差社会ができないはずはない。

こんなに投資家を優遇している国は、先進国では日本だけである。

イギリス、アメリカ、フランス、ドイツなどを見ても、配当所得は金額によって税率が上がる仕組みになっており、日本の数倍の高さである。

アメリカは、現在のところ時限的な優遇措置をとっているので、最高税率が14%となっているが、本来は50%の税率が課せられている。またアメリカでは、住民税が資産に応じて課されるため、必然的に大口投資家のような資産家は多額の税金を払わなければならない。

住民税が5%で済むということはないのだ。
まさに、日本は世界の非常識がまかり通る「金持ちに優しい国」なのである。

▼大村大次郎(Ohmura Ohjirou)
大阪府出身。国税局で10年間、主に法人税担当調査官として勤務し、退職後、経営コンサルタント、フリーライターとなる。執筆、ラジオ出演、テレビ番組の監修など幅広く活躍中。『税金を払わずに生きてゆく逃税術』(悟空出版)、『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中公新書クラレ)など著書多数。また、経済史の研究家でもあり、別のペンネームで30冊を超える著作を発表している。

01 【元国税局員が語る】「長者番付が廃止された」本当の理由

億万長者が激増している日本

昨今、日本で金持ちが激増しているのをご存知だろうか?

世界的な金融グループであるクレディ・スイスが発表した『2016年グローバル・ウェルス・レポート』によると、100万ドル以上の資産をもっている人々、つまりミリオネアと呼ばれる日本人は282万6000人だった。

前の年よりも74万人近く増加しているという。増加率は世界一だったのである。

現在はおそらく300万人は超えていることだろう。また日本銀行の統計によると、17年9月末の時点において、個人金融資産は1800兆円を超えたという。

これは、生まれたばかりの赤ん坊から100歳を超える老人まで、すべての日本人が一人あたり平均約1400万円の金融資産を持っている計算になる。

家族4人だったら、家族で6000万円近い金融資産を持っていることになる。あまり知られていないが、日本の個人金融資産というのは、バブル期以降、実は激増しているのだ。

バブル期の1990年の段階では、個人金融資産は1017兆円だった。ところが、この20数年の間に、80%も増加しているのだ。

しかも、この間、日本経済は「失われた20年」とさえ呼ばれる苦しい時代のはずだった。いったい、どこの誰がそれほど金融資産を激増させているのだろうか?

あなたは、このことに違和感を覚えないだろうか?
自分は、そんなにお金は持っていないと。
もちろん、そうである。

実は、この個人金融資産の大半は、一部の富裕層に集中しているのである。つまりは、富裕層が増加し、その富裕層へのお金の集中が起きているということである。

本当の金持ちはマニュアルなんて読まない

これだけ富裕層が増えているのだから、「自分もそのグループに入りたい」と思う人が次々に現れるのは当然である。

だから、金持ちになるために、必死に努力している人も増えている。巷には、「金持ちになるためのマニュアル本」があふれている。

  「株をやりなさい」
  「仮想通貨をやりなさい」
  「不動産投資をしなさい」

などと、簡単に金持ちになれることを売り物にする本が数多く出版されている。なかには、「心がけをよくすれば金持ちになれる」というような、スピリチュアル系の本も少なくない。

ところで、筆者は元国税調査官である。
国税調査官というのは、わかりやすく言えば、税務署員である。

納税者が決められた通りに申告して納税しているかをチェックするのが仕事だ。必然的に、金持ちと呼ばれる人たちとたくさん接触してきた。そして、各業界や経済社会の動きもつぶさに観察してきた。

その経験を通じて、明確に出せる結論がひとつある。それは、巷に流れている「金持ちになれる方法」は、99%役に立たないということだ。

現在、資産を激増させている人々というのは、「金持ちになるためのマニュアル本」などはまったく読んでいない。彼らは、別の理由で金持ちになっているのだ。

そして、それは普通の人では、けっして真似ができる内容ではないのである。

「自分も一獲千金」と思ったら大間違い

「最近、金持ちになった人」というと、「億り人」をイメージする人も多いはずだ。いわゆる仮想通貨などで大儲けした人々の俗称である。

この言葉が流行したのは2017年だった。同年は、仮想通貨の価値が高騰し、「仮想通貨元年」とも呼ばれた。

そして、「うまく運用して億単位の大金をつかんだ人たちがたくさんいる」という噂がまことしやかに流れ、マスコミにもたびたび取り上げられた。

では、実際に仮想通貨で大儲けした人はどれくらいいたのだろうか?
18年5月、国税庁の発表により、17年に仮想通貨で1億円以上儲かった人(いわゆる「億り人」)のおおよその人数が、判明した。
同年5月25日に配信された時事通信のニュース記事を読んでいただきたい。
「1億円超収入、300人規模=仮想通貨売買活発で」──国税庁

2017年分の確定申告で雑所得の収入が1億円超あったとした納税者のうち、仮想通貨の売買で収入を得ていた人が少なくとも331人に上ることが25日、国税庁のまとめでわかった。

昨年は相場高騰で、いわゆる「億り人」の急増が話題となった。国税庁は「331人の収入の大半は、仮想通貨売買によるものではないか」と分析している。

17年分の確定申告をした人は、前年比1.3%増の2198万人。このうち、納税の必要がある641万人の所得金額は同3.4%増の41兆4300億円、申告納税額は同4.6%増の3兆2000億円だった。雇用の改善や株価が順調に推移したことなどが影響したとみられる。

仮想通貨売買による所得は雑所得として計上される。公的年金以外の雑所得の収入額が1億円以上だった納税者は、前年の238人から549人へと急増。このうち、仮想通貨取引で収入を得ていた人が6割超を占めた。
(2018年5月25日時事通信配信)

この記事を読んで、「1億円以上手に入れた人が300人以上もいるのか!うまくやったな。私も仮想通貨をやってみたい!」と、一瞬でも考えた人は少なくないはずだ。

しかし、少し冷静になってもらいたい。
仮想通貨をやっている人(購入している人)の母数を知れば、そんな希望は一気にしぼんでしまうだろう。
国内での仮想通貨の取引者は、364万人。億を稼いだ人は、そのうちのわずか300人あまり。つまり、1万人に一人もいない。

あれだけ、濡れ手に粟にようにザクザクお金を手に入れていた「億り人」も、実際はほんの一握りしかいなかったということだ。

なぜ「長者番付」は廃止されたのか

それにしても、なぜ「金持ちの正体」は世間からはなかなか見えにくいのか? 昔はもっと一般に知られていたはずである。

「どこそこの誰だれは、どのくらいの資産を持っている」
というような情報は、いまより数多く流れていた。

しかしいまは、そういう情報はほとんど流布されない。だから、全然金持ちに見えない人が、実はすごい豪邸に住んでいたり、タワーマンションをキャッシュで買っていたり、というようなことがままあるのだ。

では、なぜ最近になって「金持ちの情報」をあまり見聞きしなくなったのか?

それには、「長者番付の廃止」が大きく影響している。

戦後の日本では、半世紀以上の間、「長者番付」という制度があった。それは、一定以上の高額収入がある者の氏名を税務署が公表するという制度である。

なぜ、このような制度ができたかというと、高額所得者を発表することで「世間の人々に高額所得者を監視させる」という意味があったからだ。

高額所得者はそれだけ社会的責任も大きいので、世間から見張られる必要があるということだ。
長者番付の発表は、毎年4月に行われ、春の風物詩ともなっていた。
毎年4月には、各業界ごとの高額所得者ランキングが発表され、新聞にも掲載されていた。納税額が1000万円以上の人は皆、公示されていたので、有名な文化人、芸能人や実業家のみならず、地方のちょっとした資産家の情報も、国民の誰もが知ることができた。

しかし、2005年に「長者番付の発表」は突然廃止されたのである。

その理由は、表向きは「個人情報保護のため」ということになっている。
長者番付では、高額所得者の住所が特定できるため、「個人情報保護の観点からよろしくない」ということである。
しかし「住所が特定されること」が問題ならば、国税庁が住所を伏せて発表すればいいだけである。

本当の理由は、「世間の金持ちへの関心をそらすため」だったのである。 つまりは、金持ちを守るためだったのだ。

2000年代に入ってから億万長者は激増している。 その一方で、同年代以降、サラリーマンの平均年収は下げられっぱなしだった。 そのことに世間が気づけば、「なぜ我々の生活は苦しいのに、億万長者が増えているのだ!」という話になる。

当局としては、それを恐れたのである。
つまり、億万長者の激増を隠すために、長者番付は廃止されたのだ。

02 土地にかかる固定資産税が「大地主に有利」なワケ

なぜ農家に金持ちが多いのか?

「地主のほとんどが元農家」と言われても、ピンとこない人も多いはずだ。

農家の持っている土地(農地)は「農村にある」というイメージが根強くあり、都会の目抜き通りや駅前の一等地を農家が持っている、などということが信じられない人もけっこういるようだ。

実を言うと、これには戦後日本経済の急激な発展が関係しているのだ。

なぜなら、終戦直後の日本は国全体が「農村」だったからである。

当時の日本は、就労人口の約半数が農業従事者だった。
「都市」は国土のほんの一部だったのだ。東京でも、都市化されていた部分はわずかであり、大半は農地だった。渋谷あたりにも田園がたくさん残っていたのである。

しかし、戦後になると日本は工業国として急速に発展した。農村だった場所は開発され、瞬く間に都市化されていった。そして、その土地のほとんどを所有していたのが農家である。

もちろん、土地の値段は急激に上昇した。戦後の農地解放で、ただのような価格で土地を手にした農家もたくさんいた。

彼らはまさにボロ儲けをしたことになる。

そのような、おいしい立場にいた農家のなかには、農地を手放した(売却した)家もあったが、売らずに土地を賃貸する人たちも大勢いた。そういう「土地持ち」たちが、現在「地主」となって不動産経営にいそしんでいるのだ。

地主だけが得をする金儲けスキーム

いくら広い農地を所有している農家でも、本来はそれをそのまま不動産経営に使用することはできない。農地は、農地法などで厳しい制約が課せられているからだ。
農地は、相続税や固定資産税が格安になる代わりに、農業以外での使用が厳禁されている。農地は、農業という国民の生活を支える産業の基盤なのだから、いろいろと制約を受けるのは当然と言える。
したがって、本来ならば、元農家が大地主になって不動産経営を行うということはありえない話なのだ。

しかし、実は農地の税金には抜け穴が多々あり、相続税を払わずに継承しながら、それを宅地にする方法がいくつもあるのだ。

農家の場合、農地を自分の親族に相続させる場合は、「相続税猶予」という特典がある。

つまり、後継者が農地を相続し、引き続き農業をする場合は、相続税がいったん免除されるのだ。そして、納税を猶予された後継者が20年以上農業を続けた場合、猶予された相続税は完全免除となる。

この制度を逆に取れば、

「農地を相続して、とりあえず20年間農業を続ければ、相続税はゼロになる」
「そのあとは、農地をどうしようが自由」

ということである。

そのため、農地を相続した後、20年間は形ばかりの農業をする者が非常に多い。とりあえず、樹木などを植えて、農業をしているという形態をつくっておくのだ。
農地は、相続税だけではなく、固定資産税も優遇されている。100平方メートルでも固定資産税が数千円で済むのだ。

都心部では、宅地の数十分の一、数百分の一となる。 だから農業収入を得られなくても、保持し続けられたのだ。

そして20年経ったのちに宅地化し、不動産経営に乗り出すというわけだ。

農地の相続税制度には、さらなる抜け穴がある。

原則として、「相続税を免除してもらうためには農業を20年間続けなくてはならない」のだが、「後継者の家を新築する」などの理由をつければ、農地を宅地にすることもできるのだ。そして、いったん宅地にすれば、もう「農地」という縛りはなくなる。

後継者の家を建てるなどと称して宅地にした後は、そこに本来の目的からはずれたアパートを建てたりしても罰則に引っかかるわけではない。

日本の富裕層を構成する最大グループのひとつ、「地主」のほとんどは、こういうタイプだ。この手の地主が、日本全国の「主要な土地」をガッチリ掴んでいるのだ。

都心部の目抜き通りなどは、さすがに大企業などで占められているが、都心部周辺の駅前などには、地元の地主が経営している大型マンションが多々ある。

駐車場やビルに「田中第三駐車場」「山田第一ビル」などと同じ名称がついた複数の物件があるのを見かけたことがあるだろう。 それは大方の場合、地元の地主(元農家)が経営している不動産屋の所有である。

相続税を逃れる「偽装農家」のおいしい手口

本当に農業をしていて、農地を相続している人たちは、まだマシなほうである。 実際には、農業をしていないのに、農業をしているフリをして、相続税の猶予だけを受けている「偽装農家」も多々見受けられる。

本当は農業をしているわけではないのに、形ばかり果樹などを植えて、いちおう農業を続けているという体を取り、「ここは農地である」ということにするのだ。

そういう状態を20年続ければ、もう相続税は払わなくていい。そして、その後は「農業を継続する」という縛りもなくなる。

その農地を宅地にして、マンションやアパートを建てるなどということも、普通にできるのだ。このような「偽装農家」の手口は、高度成長期からバブル期にかけて、都心部のそこらじゅうに見られた。 そのため、現在も都心部の近郊には広大な農地があちらこちらに存在している。

たとえば、都心まで30~40分で行ける土地などは、都会のサラリーマンにとっては垂涎の場所と言えるはずだ。

そういう場所で、ほとんど収益の出ないような農作物を形ばかりつくっている偽装農家は山ほどある。 そんなことを20年も続けていれば、自分たちの都合のいいときに宅地にして、不動産収入で安泰に暮らせるのである。

もちろん、都心近郊の農家でも一所懸命農業に取り組んでいる方々だっている。 とはいえ、その農地の面積を見れば、やはり異常な広さだと言わざるをえない。

たとえば千葉と埼玉は、耕地面積から言えば、まるで「農業県」なのである。

千葉は県面積の24.6%、埼玉は20.1%が農地なのだ。 山形、秋田、岩手など農業地域とされている県の約2倍の割合である。 千葉、埼玉の農業面積率は、全国的に見ても高い。

千葉は茨城に次いで全国2位、埼玉は佐賀の次で全国4位なのだ。

千葉や埼玉でも、都心部から遠いところの農地もたくさんあるので、そういうところについては理解できるが、都心から30~40分程度で行ける場所にも、農地がかなり見られるのは異常である。 そして、こういう農地は、突然、宅地化されマンションなどになることが非常に多いのだ。

税金の抜け穴を巧妙に利用する

このような大地主が、富裕層であり続ける大きな要因のひとつが税金である。

「地主」がいかに税制面で得しているかを紹介しよう。

不動産に関する税金というと、その最大のものは固定資産税である。 固定資産税は、土地や建物を所有している人にかかる税金であり、いわば「富裕層にかかる税金」とも言えるものだ。

しかし、あまり知られていないが、土地に対する税金「固定資産税」は、実は大規模な不動産経営をしている大地主には常に有利になっているのだ。

固定資産税は、本来は土地や建物の評価額に対して、1.4%かかることになっている。 しかし、住宅用の狭い土地(200平方メートル以下)に関しては、「固定資産税はその6分の1でいい」という規定があるのだ。

それは、「住宅地の税金が高くなってしまうと、庶民の生活費を圧迫する」という理由が建前としてあるからだ。

しかし、この「6分の1」の規定は、自分が住むために家を持っている人だけではなく、大規模な不動産経営をしている人にも適用されるのだ。

たとえば、巨大マンションを棟ごと持っている人などにも適用されている。 そして、「6分の1の規定」は建物全体の広さではなく、一戸あたりの住宅面積が200平方メートル以下であればいい、ということになっている。

ということは、巨大マンションであっても、1部屋あたりの土地面積が200平方メートル以下ならば、全部の部屋に適用される。 この「6分の1の規定」は持ち家だけではなく、貸家、貸マンション、貸アパートにも適用されているのだ。

だから、時価総額100億円を超える巨大なマンションを持っている人も、狭い中古住宅を購入した人も、土地の固定資産税は同じ税率になっているのである。

なぜ貸マンションなどにも「6分の1の規定」が適用されているのか──それは、表向きは「貸家の固定資産税が高くなると、家賃に上乗せされてしまうから」ということになっている。

しかし、実際は大地主を優遇しているだけなのである。