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続折々の記 2022 ⑦
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【 07】08/04
     「米国は台湾見捨てない」   ペロシ氏、蔡総統と会談
         (時時刻刻)訪台、米中一気に緊張 ペロシ氏、民主活動家とも会合
         半導体不足・インフレ拍車も ペロシ氏訪台、米中緊迫の影響は
         対米、強気の中国 大規模軍事演習、自信の表れ 軍強化、過去に「屈辱」
         (社説)ペロシ氏訪台 軍事的な緊迫、回避を
     下平評

 2022/08/04
「米国は台湾見捨てない」
   ペロシ氏、蔡総統と会談

 台湾を訪問している米連邦議会のペロシ下院議長は3日、台北市の総統府で、蔡英文(ツァイインウェン)総統や頼清徳(ライチントー)副総統ら政権幹部と会談した。ペロシ氏は「米国は決して台湾を見捨てない」と語り、今後も台湾との安全保障や経済における結びつきを深めていく姿勢を強調した。訪台に猛反発する中国は続々と対抗措置を繰り出しており、米中対立の焦点となった台湾を巡る緊張は深刻化している。▼2面=一気に緊張、7面=日本経済の影響は、11面=強気の中国、14面=社説

 ペロシ氏は会談で、「今日の世界は、民主主義と専制主義の間で、選択を迫られている」とし、「米国が台湾と世界の民主主義を守っていく決心は揺らがない」とも話した。台湾への武器供与などを定めた米国内法に言及しつつ、「米国と台湾の連携は極めて重要だ」と語った。

 一方、蔡氏はウクライナ情勢に緊張が高まる中台関係を重ね、「台湾が侵略されれば、インド太平洋地域の安全が揺るがされる」と指摘。「台湾は軍事的な脅威に決してひるまず、自分たちの民主主義を守る」と訴えた。また、「台湾は米国の信頼できるパートナーだ」と強調し、半導体などのサプライチェーン(部品供給網)の強化に関し、協力していく考えを伝えた。

 ペロシ氏は蔡氏との会談に先立ち、国会に相当する立法院を表敬訪問。午後には、中国の弾圧を受けた民主活動家らとも交流した。

 米国や日欧などの主要国は台湾を独立国だと認めておらず、正式な外交関係が無い。ただ、近年は各国の議員が相次いで訪台し、議員交流の形で台湾との関係を深めてきた。ペロシ氏も政府を代表する立場ではないが、米下院議長としては25年ぶりの訪台だった。(台北=石田耕一郎)

 ■中国、対抗措置続々 軍事演習・経済制裁・台湾人拘留も

 ペロシ氏の台湾到着直後から軍事演習を始めるなど、強い対抗措置に出た中国の動きは、3日も激しさを増している。

 中国軍東部戦区は3日も前日に続き台湾周辺の空海域で合同演習を実施したとし、SNS公式アカウントで演習に参加した戦闘機やミサイル駆逐艦の画像を公開した。

 台湾メディアによると3日、アジア最大級の1万トン級の排水量を誇る055型大型ミサイル駆逐艦2隻が台湾東部の港から37カイリ(約70キロメートル)の地点まで接近した。

 4~7日には台湾を取り囲むような範囲で軍事演習が設定されており、一部は台湾が主張する領海と重なっている。環球時報によると、この領海での演習は初という。

 台湾に対する事実上の経済制裁も始まっている。中国税関総署は、3日までに台湾産のかんきつ類果物や魚などの一時輸入停止を決定。菓子類などを製造する加工食品会社100社以上の製品も輸入が停止されている。華春瑩外務次官補は3日の定例会見で「米側と台湾独立勢力は、犯した過ちの代価を払わねばならない」と語った。

 浙江省温州市の国家安全局は3日、台湾独立を目指す組織を設立し、中国本土で活動していたという台湾人男性(32)を、国家分裂を扇動した疑いで刑事拘留したと明らかにした。

 国務院台湾事務弁公室も3日、台湾独立の動きを支援しているとして「台湾民主基金会」など複数の団体に対し、中国企業との協力活動や中国本土への渡航を禁じる措置を決定した。

 米側は、中国が今後さらに台湾周辺で軍事的圧力を強める可能性があるとみて警戒を強めている。

 中国軍による軍事演習について、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は2日の会見で、「事前に予想していたことだ」と述べ、状況を注視するとした。

 今後、中国が実弾を用いた追加の大規模な軍事演習や、経済的な威圧などの挑発行為に出る可能性があるとの見方も示し、「米国は危機を望んでいない。軍事力による威嚇をするつもりはない」と述べて中国側に事態を悪化させないよう求めた。(北京=冨名腰隆、ワシントン=清宮涼)

▼2面=一気に緊張(時時刻刻)
訪台、米中一気に緊張 ペロシ氏、民主活動家とも会合

 ペロシ米下院議長の台湾訪問に激怒する中国は、軍事演習に加え、「経済制裁」も繰り出して台湾への圧力を強める。バイデン米政権は静観の構えだが、台湾周辺での緊張の高まりは日本にも影響を及ぼし始めている。▼1面参照

 「私は中国の人権問題、特にキリスト教徒ら宗教をめぐる圧力について非常に関心がある」

 ペロシ氏は3日午後、台湾が戒厳令下にあった時代の資料などを展示した「人権博物館」で、台湾在住の中国人や香港人の民主活動家ら約5人と会い、こう語った。約1時間の会合で、ペロシ氏や同行の米議員ら約10人は参加した活動家らに中国や香港の人権状況について説明を求め、熱心に耳を傾けていたという。

 ペロシ氏は長年、中国の人権問題を批判してきた。中国の学生が民主化を求めて軍隊に弾圧された天安門事件(1989年)の2年後には北京を訪れて犠牲者をたたえる横断幕を掲げた。下院議長に就任後も、チベット問題やウイグル族、香港に対する強圧政策をめぐり、何度も中国を非難してきた。

 会合に呼ばれた天安門事件の元学生リーダーでウイグル族のウアルカイシ氏(54)は過去にも米国でペロシ氏と面会してきた。「ペロシ氏は中国の人権問題への取り組みで多くの約束をしてくれた」と喜んだ。

 会合には、香港で共産党を批判する書籍を販売して拘束されたことがある銅鑼湾書店の元店長、林栄基氏(66)も招待された。ペロシ氏らに対し、香港で2019年以降に起きたデモで多くの若者が逮捕された問題を提起した林氏は「若者の人権問題について関心を抱いていた」と振り返った。

 人権問題は中国が国際的な批判を受けることの多い「アキレス腱(けん)」だ。面会は中国を刺激することにもつながりかねない。訪台そのものが中国からの強い圧力を受ける中、ペロシ氏は中国からのさらなる反発を想定しつつ、訪問の意義を示そうとした格好だ。(台北=石田耕一郎)

 ■中国「独立支持は無駄」 バイデン政権、静観の構え

 ペロシ氏の台湾訪問を「レッド(最終)ラインを踏み越える行為」と判断した習近平(シーチンピン)国家主席ら共産党指導部は、当面は強硬な姿勢を続けるとみられる。

 カンボジアを訪問中の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は、3日の談話で「米国がどれほど台湾独立を支持しても、最後はむだに終わる」と痛烈に批判した。

 中国が強い姿勢に打って出たのは、近年続いてきた米中対立と無関係ではない。習氏ら党指導部はペロシ氏訪台を、「民主主義対専制主義」の構図で中国への対抗政策を強めてきたバイデン政権の一体の動きととらえている。王氏は「中国の発展を妨げようという幻想は抱くな。中国はすでに自らの国情に見合う正しい発展の道を見つけた」とも訴えた。

 ただし、米国が世界一の大国で、中国の悲願である中台統一への最大の障害であることに変わりはない。このため、軍事的な圧力や経済的な締め付けは、より弱い立場の台湾へ向けられている。

 秋の党大会で習氏の3期目続投が決まれば、その任期は27年まで延びる。中国外交筋は「米国がどう動こうとも中台統一の方針は変わらず、ペロシ氏の訪台で揺れ動くことはない。我々には、米国との対立が長期化する覚悟も備えも十分にある」と自信を示す。

 バイデン政権は状況を静観する構えだ。

 「下院議長の完全に合法的な訪問を、中国が緊張を高めたり、危機や紛争を引き起こしたりする口実にする理由はない」

 米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は2日の会見で軍事的圧力を強める中国側を牽制(けんせい)。中国側の動向を注視するとし、米側が軍事的な緊張を高める考えはないことも強調した。

 ただ、不測の事態には備えている模様だ。ロイター通信によると、ロナルド・レーガン空母打撃群が南シナ海から台湾東方のフィリピン海に移動した。

 米ペンシルベニア大の研究機関「ペリー・ワールド・ハウス」のトーマス・シャタック氏は、中国軍が4日から台湾近くの海空域で行うとしている軍事演習について「近年の中国軍の動きとは異なり、危機につながりかねない。米国は空母打撃群を台湾海峡に派遣することも排除はしないだろう」と指摘する。(北京=冨名腰隆、ワシントン=清宮涼)

 ■日本、中国側に「懸念」表明 軍事演習の範囲にEEZ

 ペロシ氏の台湾訪問について、松野博一官房長官は3日の会見で「台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決されることを期待するというのが、我が国の一貫した立場だ」と強調。中国が発表した台湾周辺での軍事演習について「我が国として懸念を有しており、改めて両岸問題の平和的な解決を強く促したい」と訴えた。また、演習地域に日本の排他的経済水域(EEZ)が含まれていることから、外交ルートを通じて中国側に「懸念」を表明したことも明らかにした。

 一方、日本側はペロシ氏の訪台について、「日本政府としてコメントする立場にはない」(松野氏)と述べるにとどめている。

 3日からカンボジアで開かれている東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議では日中外相会談が予定されている。9月に控えた日中国交正常化50周年の記念行事に向けた関係改善の糸口も探りたいだけに、ペロシ氏訪台の影響を受けるのは避けたい、というのが日本側の本音だ。外務省幹部は言う。「中国が一方的にエスカレートさせないよう国際社会が一致して対処することが重要だ。とにかく状況を注視している」

 ペロシ氏は台湾訪問後、日本を訪れる予定。日本政府関係者によると、細田博之衆院議長と会談するほか、岸田文雄首相との面会も予定している。

 一方、米軍基地が集中する沖縄では、普段よりも多くの米軍機が基地に飛来している。防衛省沖縄防衛局によると、2日午後4時時点で「外来機」のKC135空中給油機22機が米軍嘉手納基地(嘉手納町など)に駐機していたという。

 また、台湾に近い与那国島(沖縄県)の漁業協同組合によると、今回の中国軍の演習について3日午後、海上保安庁から連絡があったという。嵩西(たけにし)茂則組合長は「漁業者に注意を呼びかけたい。もし偶発的に衝突などが起きれば、これまでにない事態になり、不安は一気に高まる」と話す。

▼7面=日本経済の影響は
半導体不足・インフレ拍車も ペロシ氏訪台、米中緊迫の影響は

 ペロシ米下院議長の台湾訪問が世界経済に暗い影を落としている。経済規模で世界トップの米国と、第2位の中国の対立が深まれば、世界の貿易や生産に大きな影響が出ることが懸念される。中国はいかなる報復措置をとるのか。日本経済はどの程度影響を受けるのか。識者に聞いた。▼1面参照

 米中関係の悪化で、経済面への懸念も高まっている。特に指摘されるのは、あらゆる電子部品に使われる半導体供給への影響だ。台湾メーカーが高い世界シェアを誇り、世界は台湾に依存している。

 台湾の調査会社トレンドフォースによると、半導体生産での台湾メーカーの世界シェアは60%を超える。シェアトップの台湾積体電路製造(TSMC)などは技術面でも世界をリードしており、高機能な製品に限ればシェアはさらに高い。

 コロナ禍を機に世界的な半導体不足が続いている。自動車や電化製品の生産が滞って品薄となり、物価高(インフレ)の一因となっている。中国はペロシ氏訪台を受け、コンテナ輸送の要所でもある台湾海峡の周辺で軍事訓練などの対抗措置の動きを活発化。今後、生産や輸送に影響が出れば、半導体不足に拍車がかかるおそれがある。

 米外国為替証拠金取引大手、オアンダのエドワード・モヤ氏は「最も大きなリスクは半導体分野」とした上で、「台湾からの供給に影響が出れば、世界のインフレ長期化につながり、より深い景気後退を招くおそれがある」と指摘。一方で中国も台湾の半導体に依存しているとし、「中国がダメージを受けるような報復はやりにくいだろう」と話す。

 ペロシ氏の訪台に強く反発する中国は3日、台湾への天然砂輸出の停止を発表。台湾からのかんきつ類やタチウオ、冷凍アジの輸入も同日、停止を決めた。日本貿易振興機構アジア経済研究所の川上桃子・上席主任調査研究員は「天然砂の輸出禁止の影響は限定的。シンボリック(象徴的)な行為で、今後も続くであろう輸出禁止の第1弾」とみる。川上氏によれば、中国の経済制裁はこれまで「輸入禁止型」の方が多かったという。ターゲットは、政権与党・民進党の地盤である台湾中南部の農産物。今回の輸出禁止は、これまでほとんど使われてこなかった手段だ。

 台湾は半導体など電子産業が強いが、生産するにはレアアースが欠かせない。その多くを中国からの輸入に頼る。川上氏は「今後はレアアースの輸出禁止もありうる、と示唆しているのではないか」と話す。(真海喬生=ニューヨーク、千葉卓朗)

 ■日本製品に中国圧力、懸念 東大先端科学技術研究センター特任講師・井形彬氏

 中国は米国との軍事衝突は望んでいない。それでも批判が口だけだと思われないように、経済安全保障分野の報復や偽情報による混乱、サイバー攻撃などの手法を多用してくる可能性がある。

 中国は台湾への天然砂の輸出禁止を決めたが、今後禁輸を拡大することも考えられる。中台間の特定の供給網が止まれば、今まで台湾で作っていた部品などが日本に入らなくなることもあり得る。

 日本への影響で懸念されるのは、台湾と関係を深めていたリトアニアに中国がとった措置だ。中国は欧州連合(EU)の企業に対し、リトアニア企業が供給網に入っている場合は輸入を止めるという圧力をかけた。今後の状況次第では、台湾生産の部品を使っていたり、台湾企業が供給網に入っている日本企業の製品について、中国に輸入される際の検査で引っかかる恐れがあるといった圧力をかけてくるかもしれない。

 米中経済はいまやゆるやかながらも部分的なデカップリング(分離)が進んでいかざるを得ない情勢だ。米国を中心とした民主主義国の間では先端技術の研究協力が進み、供給網における人権の保護や強制労働の排除という価値観がより重視されるようになった。

 ペロシ氏は今回、民主主義や自由という価値観を守るため台湾を訪問した。日本はペロシ訪台を傍観するのでなく、これを契機に、より積極的な価値観外交を展開するべきだろう。(聞き手・福田直之)

 ■レアメタルで報復、影響大 大和総研シニアエコノミスト・神田慶司氏

 米中の対立が激しくなれば世界経済に与える影響は大きい。ロシアのウクライナ侵攻によるものとは次元が違う大きさとなる可能性がある。

 台湾は特に最先端の半導体の世界シェアが高い。中国が制裁を科して供給が停滞すれば、世界中で自動車やスマートフォン、パソコンの生産が滞り、インフレが加速する懸念もある。

 日本への影響も懸念される。日本から中国への輸出は全体の約2割を占める。日本が米国寄りの立場をとれば、報復として中国がレアメタルやレアアースの輸出を止める可能性もある。日本の製造業は部品調達で中国への依存度が高い。中国が貿易量や関税で制限をかければ、自動車や家電製品など幅広い生産に大きな影響が出るだろう。

 注意すべきは偶発的に軍事衝突が起こってしまうことだ。中国がロシアのように孤立して世界との貿易がすべて止まった場合、世界の成長率は2桁のマイナスが避けられない。日本も実質国内総生産(GDP)が年間55兆~67兆円押し下げられる。コロナの影響が大きかった2020年4~6月期の落ち込みが1年続いた場合の43兆円を上回る。

 ただ、こうした最悪の状況にはならないとみている。中国は今、コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)明けで景気がかなり悪く、経済成長率5・5%前後の目標達成も難しい。中国は台湾や米国に厳しい経済制裁を科したいはずだが、可能性は極めて低いだろう。(聞き手・徳島慎也)

▼11面=強気の中国
対米、強気の中国 大規模軍事演習、自信の表れ 軍強化、過去に「屈辱」

 ペロシ米下院議長の台湾訪問が世界経済に暗い影を落としている。経済規模で世界トップの米国と、第2位の中国の対立が深まれば、世界の貿易や生産に大きな影響が出ることが懸念される。中国はいかなる報復措置をとるのか。日本経済はどの程度影響を受けるのか。識者に聞いた。▼1面参照

 米中関係の悪化で、経済面への懸念も高まっている。特に指摘されるのは、あらゆる電子部品に使われる半導体供給への影響だ。台湾メーカーが高い世界シェアを誇り、世界は台湾に依存している。

 台湾の調査会社トレンドフォースによると、半導体生産での台湾メーカーの世界シェアは60%を超える。シェアトップの台湾積体電路製造(TSMC)などは技術面でも世界をリードしており、高機能な製品に限ればシェアはさらに高い。

 コロナ禍を機に世界的な半導体不足が続いている。自動車や電化製品の生産が滞って品薄となり、物価高(インフレ)の一因となっている。中国はペロシ氏訪台を受け、コンテナ輸送の要所でもある台湾海峡の周辺で軍事訓練などの対抗措置の動きを活発化。今後、生産や輸送に影響が出れば、半導体不足に拍車がかかるおそれがある。

 米外国為替証拠金取引大手、オアンダのエドワード・モヤ氏は「最も大きなリスクは半導体分野」とした上で、「台湾からの供給に影響が出れば、世界のインフレ長期化につながり、より深い景気後退を招くおそれがある」と指摘。一方で中国も台湾の半導体に依存しているとし、「中国がダメージを受けるような報復はやりにくいだろう」と話す。

 ペロシ氏の訪台に強く反発する中国は3日、台湾への天然砂輸出の停止を発表。台湾からのかんきつ類やタチウオ、冷凍アジの輸入も同日、停止を決めた。日本貿易振興機構アジア経済研究所の川上桃子・上席主任調査研究員は「天然砂の輸出禁止の影響は限定的。シンボリック(象徴的)な行為で、今後も続くであろう輸出禁止の第1弾」とみる。川上氏によれば、中国の経済制裁はこれまで「輸入禁止型」の方が多かったという。ターゲットは、政権与党・民進党の地盤である台湾中南部の農産物。今回の輸出禁止は、これまでほとんど使われてこなかった手段だ。

 台湾は半導体など電子産業が強いが、生産するにはレアアースが欠かせない。その多くを中国からの輸入に頼る。川上氏は「今後はレアアースの輸出禁止もありうる、と示唆しているのではないか」と話す。(真海喬生=ニューヨーク、千葉卓朗)  ■日本製品に中国圧力、懸念 東大先端科学技術研究センター特任講師・井形彬氏

 中国は米国との軍事衝突は望んでいない。それでも批判が口だけだと思われないように、経済安全保障分野の報復や偽情報による混乱、サイバー攻撃などの手法を多用してくる可能性がある。

 中国は台湾への天然砂の輸出禁止を決めたが、今後禁輸を拡大することも考えられる。中台間の特定の供給網が止まれば、今まで台湾で作っていた部品などが日本に入らなくなることもあり得る。

 日本への影響で懸念されるのは、台湾と関係を深めていたリトアニアに中国がとった措置だ。中国は欧州連合(EU)の企業に対し、リトアニア企業が供給網に入っている場合は輸入を止めるという圧力をかけた。今後の状況次第では、台湾生産の部品を使っていたり、台湾企業が供給網に入っている日本企業の製品について、中国に輸入される際の検査で引っかかる恐れがあるといった圧力をかけてくるかもしれない。

 米中経済はいまやゆるやかながらも部分的なデカップリング(分離)が進んでいかざるを得ない情勢だ。米国を中心とした民主主義国の間では先端技術の研究協力が進み、供給網における人権の保護や強制労働の排除という価値観がより重視されるようになった。

 ペロシ氏は今回、民主主義や自由という価値観を守るため台湾を訪問した。日本はペロシ訪台を傍観するのでなく、これを契機に、より積極的な価値観外交を展開するべきだろう。(聞き手・福田直之)

 ■レアメタルで報復、影響大 大和総研シニアエコノミスト・神田慶司氏

 米中の対立が激しくなれば世界経済に与える影響は大きい。ロシアのウクライナ侵攻によるものとは次元が違う大きさとなる可能性がある。

 台湾は特に最先端の半導体の世界シェアが高い。中国が制裁を科して供給が停滞すれば、世界中で自動車やスマートフォン、パソコンの生産が滞り、インフレが加速する懸念もある。

 日本への影響も懸念される。日本から中国への輸出は全体の約2割を占める。日本が米国寄りの立場をとれば、報復として中国がレアメタルやレアアースの輸出を止める可能性もある。日本の製造業は部品調達で中国への依存度が高い。中国が貿易量や関税で制限をかければ、自動車や家電製品など幅広い生産に大きな影響が出るだろう。

 注意すべきは偶発的に軍事衝突が起こってしまうことだ。中国がロシアのように孤立して世界との貿易がすべて止まった場合、世界の成長率は2桁のマイナスが避けられない。日本も実質国内総生産(GDP)が年間55兆~67兆円押し下げられる。コロナの影響が大きかった2020年4~6月期の落ち込みが1年続いた場合の43兆円を上回る。

 ただ、こうした最悪の状況にはならないとみている。中国は今、コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)明けで景気がかなり悪く、経済成長率5・5%前後の目標達成も難しい。中国は台湾や米国に厳しい経済制裁を科したいはずだが、可能性は極めて低いだろう。(聞き手・徳島慎也)

▼14面=社説
ペロシ氏訪台 軍事的な緊迫、回避を

 米国と中国の2大国が軍事力を動員して向き合う危うい事態である。双方とも望まぬ衝突を避けるために、冷静な意思疎通による沈静化を図るべきだ。

 ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、蔡英文(ツァイインウェン)総統と会談した。大統領職の継承順位2位の要職である下院議長の台湾入りに、中国は強く反発している。

 台湾を囲む海域で実弾も使う軍事演習をすると発表した。実行者は不明だが、台湾総統府へのサイバー攻撃も起きた。

 三権分立の米国で、議会の長が必ずしも政府の意向を反映しないことを中国は理解しなければならない。文民の平和的な交流訪問に対し、武力を振りかざす示威行動は許されない。

 そもそも中国が、自らの言うことを聞かない蔡政権に圧力を強めてきたことが、最近の情勢悪化の主因である。穏当な秩序を守るべき大国の責任を、中国は忘れてはならない。

 一方、ペロシ氏の行動についても疑問を禁じ得ない側面がある。なぜ、この時期を選んだのか。政府と一線を画す立場なりに、地域の安定に資する外交戦略を描いていたのだろうか。

 中国はいま、共産党指導部と党長老らが非公式に集まる北戴河会議が始まる頃である。秋には習近平(シーチンピン)氏のトップ続投がかかる党大会が予定されている。

 米国側も11月に中間選挙を控え、ペロシ氏の与党が議席の過半数を維持できるか注目されている。米中ともに内政に寄せる関心が高まり、対外強硬論が勢いづきやすい微妙な時期だ。

 そんな折にペロシ氏があえて耳目を集める訪問を行い、中国との対決色を打ち出す一方で、台湾海峡問題の平和的解決への方策を公に語ることがなかったのは残念である。

 この訪台に合わせて、米軍は空母を含む艦船を展開して警戒を強めている。米中双方が多くの戦力を動員して対峙(たいじ)すれば、偶発的な衝突のリスクは一気に高まるだろう。

 ロシアの侵略戦争が示すように、大国による強硬行動は計り知れないゆがみをもたらす。とりわけ台湾問題をめぐる米中のふるまいは、世界の安全と経済を左右する重大問題であり、細心かつ慎重な注意を要する。

 自らの力を過信して制御を失ったロシアの教訓を、米中は学ぶべきだ。不毛な力の誇示や挑発を自制し、安定した対話の環境を持続する静かな外交に立ち戻る必要がある。

 ペロシ氏は今回の歴訪で日本も訪れる。今週にカンボジアであるASEAN関連外相会議では、日中外相会談も予定されている。緊張緩和に向け、日本も米中の「橋渡し役」の役割を十分に発揮すべきときだ。

下平評

現状の世界の政治勢力の対立は、〔米:ロ〕から〔米:中〕へ移行してきている。 相手を悪く言う〔米〕の姿勢はそのまま続いている。

日本の初めての憲法は聖徳太子の意向によるもので、〔十七条憲法・第一条〕を強く打ち出しております。

すなわち、〔以和為貴、無忤為宗〕〕
(和を以て貴しとなし、忤ふこと無きを宗とせよ)  とある

一曰。以㆑和爲㆑貴。无㆑忤爲㆑宗。人皆有㆑黨。亦少㆓達者㆒。是以或不㆑順㆓君父㆒。乍違㆓于隣里㆒。然上和下睦。諧㆓於論㆒㆑事。則事理自通。何事不㆑成。

相手を悪く言うのは、平和な和やかな生活を迎える道ではないのです。
この道は日本人に共通する心なのです。