【目次へ】 危うき大転換 天声人語
続折々の記へ
続折々の記 2022 ⑬
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】11/21~ 【 02 】12/01~ 【 03 】12/04~
【 04 】12/18~ 【 05 】12/21~ 【 06 】12/23~
【 07 】12/26~ 【 08 】12/26~ 【 09 】12/31~
――――――――――――――――――――――――――――――
【 04】12/18
岸田内閣支持、急落31% 防衛増税「反対」66%
支持続落、政権運営に党内不満も
敵基地攻撃能力「賛成」56% 年代別、18~29歳が最高
2022/12/18 天声人語
危うき大転換
アフガニスタンで3年前に殺された医師の中村哲さんは、武器を手にした人間の弱さと狂気を知り尽くした人だった。現地で人道支援をしながら幾度も戦闘に巻き込まれたからだろう。「『撃つな』という方が勇気が要って、ぶっ放すことは本当に簡単だと思いました」と作家の半藤一利さんとの対談で語っていた
▼そんな中村さんのこと、泉下でさぞ心配しているに違いない。日本の防衛政策が大転換することになった。安全保障関連3文書が閣議決定され、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有が宣言された
▼専守防衛を揺るがす、何とも危うい動きである。疑念は尽きない。どんな基準で相手国を攻撃するのか。先制攻撃にならないよう歯止めはきくのか。そもそも実際に抑止力となるのか
▼こちらが強めれば、相手も強めるかもしれない。際限なき軍拡競争への懸念もある。防衛費は5年間で1・5倍以上の43兆円にするというが、そんな急増が本当に必要なのか
▼社会保障の予算の伸びは厳しく抑え込まれている。力を超えた国防はあり得ない。防衛費増額を求めてきた人も疑問を呈しており、元自衛艦隊司令官の香田洋二さんは本紙の取材に「身の丈を超えたものになっています」
▼もっと時間をかけて広範な議論をすべきだったのではないか。国民に覚悟を求める重大事なのにあまりにも拙速で乱暴な政治である。「平和には戦争以上の努力と忍耐が必要なんです」。そんな中村さんの言葉もこれでは空しく響いてしまう。
2022/12/20 朝日新聞社世論調査
岸田内閣支持、急落31% 防衛増税「反対」66%
【岸田内閣の支持率の推移】
朝日新聞社は17、18の両日、全国世論調査(電話)を実施した。岸田文雄内閣の支持率は31%(前回11月調査は37%)で、昨年10月の内閣発足以降最低となった。不支持率は57%(同51%)で、菅義偉内閣、第2次~第4次安倍晋三内閣までさかのぼっても最高となった。防衛費の拡大については、「賛成」46%、「反対」48%と割れた。およそ1兆円増税に「反対」は66%で、このうち70%が岸田内閣を「支持しない」と答えた。▼3面=説明不足響く、4面=質問と回答
防衛力を強化するために、政府は、2023年度から5年間の防衛費を1・5倍の43兆円とする方針を決めた。防衛費を増やすために、およそ1兆円を増税することは、「反対」66%で、「賛成」29%を大きく上回った。同様に、国債を発行することについては「反対」67%、「賛成」27%だった。
防衛費増額に反対(48%)と回答した人の72%、国債発行に反対(67%)の62%が、内閣を「支持しない」と答えている。防衛力強化の財源問題への政権の姿勢が、支持離れをもたらしたと見られる。
相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を自衛隊がもつことについては、「賛成」が56%で、「反対」38%を上回った。
旧統一教会への高額献金による被害者など救済法の成立で、岸田首相の対応について聞くと、「評価する」58%、「評価しない」34%。しかし、被害者の救済について、「期待できる」は35%にとどまり、「期待できない」が57%だった。
岸田首相にいつまで首相を続けてほしいか聞いたところ、「できるだけ長く」が14%、「24年9月の自民党総裁任期まで」が33%、「来年5月の広島サミットまで」が17%。「続けてほしくない」は32%だった。
▼3面=防衛増税、「説明不足」響く答
支持続落、政権運営に党内不満も
【「敵基地攻撃能力」を自衛隊がもつことに…/防衛費を5年間で43兆円に増やす政府方針に…/防衛費を増やすために、およそ1兆円増税することに…】
岸田文雄内閣の支持率低下が止まらない。10月から3カ月連続で過去最低を更新し、不支持率も右肩上がりだ。「一つひとつ結果を出す」と決めた防衛費の増税方針も世論の離反を加速させ、与党内からは「説明不足」と首相の資質を問う声も広がる。▼1面参照
下がり続ける内閣支持率について、政府・与党では「防衛費を増やすことには納得でも、増税でまかなうとなれば納得しない人が増えるのも当然。下げ止まりを願うしかない」(首相周辺)と、16日に決まった将来の防衛増税が影響したという見方が大半だ。前回11月調査から6ポイント下落したが、「それだけで済んだならまだいい。増税はそれくらい覚悟がいること」(官邸幹部)と、国民の負担増を決めた直後にしては踏みとどまったとの声もある。
ただ、与党からは防衛増税でも露呈した首相の政権運営のつたなさが響いているとの指摘が相次いだ。8日に1兆円強の増税方針を表明。与党の検討期間は1週間だけで、自民党幹部から「プロセスに問題がある」と批判が出た。
自民重鎮は「増税は何度も何度も説明し、丁寧にやっていくべきもの。この調子では来年の通常国会も大変だ。予算委員会で野党にめちゃくちゃにやられるだろう」。参院自民ベテラン議員も「首相の説明の仕方が悪い。防衛増税で所得税は上げないと言い切った後で、復興特別所得税から持って行くのだから支持率も下がるはずだ」とあきれ顔で指摘する。
臨時国会で3閣僚の辞任ドミノがあったほか、いま「政治とカネ」で自民の薗浦健太郎衆院議員に政治資金パーティー収入の過少記載問題も浮上。来年に向けても政権をとりまく環境は厳しいままだ。
野党も「首相の言葉に国民への説得力がなくなっている証左だ」(立憲民主党の参院幹部)と指摘する。
松野博一官房長官は19日の記者会見で「世論に表れた国民の声を真摯(しんし)に受け止め、政府の対応に生かしていくのが重要だ。増税は丁寧に説明していきたい」と理解を求めていく姿勢を示した。(上地一姫)
■原発・社会保障、さらに難題
発足以来、最低の支持率を記録した岸田政権には、難題が待ち受けている。
まずは原発政策の見直しだ。廃炉が決まった原発の建て替え(リプレース)の具体化や最長60年と定めている運転期間延長制度について、週内にもGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で正式決定する。東京電力福島第一原発事故以降の大きな政策転換には世論の反発も予想される。首相周辺は「またこれで支持率が下がる」と言う。
年明けの通常国会では社会保障問題が待ち受ける。首相は「将来的な子ども予算倍増」を掲げながら、肝心の財源議論は来夏に先送りした。政府の「全世代型社会保障構築会議」の報告書が示した児童手当の拡充策などの実現には兆円単位の安定財源が必要とされ、防衛費に続く増税の議論も避けては通れない。
来春には統一地方選や衆院の山口4区や和歌山1区の補選も控える。首相周辺は「大きな(国政)選挙はない。やるべきことをやらないといけない」と話す。ただ、支持率が低いまま、難しい政策を実現できるのか。今回の調査から、首相への期待は高くはないものの見限るような世論も著しいわけではないことがわかる。
「いつまで首相を続けてほしいか」を尋ねると、「2024年9月の自民党総裁任期まで」が33%、「できるだけ長く」も14%だった。一方、「続けてほしくない」は32%だ。自民支持層に絞ると、「総裁任期まで」が45%、「できるだけ長く」が23%に増える。内閣不支持層では半分強は「続けてほしくない」と答えているが、25%は「総裁任期まで」だ。
実際、自民党内に「岸田おろし」の動きはない。野党の支持も低迷している。参院ベテランは今後も30%台で政権を維持できると予想し、こう語る。「この政権は『開き直り政権』だ」(楢崎貴司、磯田和昭)
▼4面=質問と回答 朝日新聞社世論調査
敵基地攻撃能力「賛成」56% 年代別、18~29歳が最高
【「敵基地攻撃能力」を自衛隊がもつことに…/防衛費を5年間で43兆円に増やす政府方針に…/防衛費を増やすために、およそ1兆円増税することに…】
17、18日に実施した朝日新聞の全国世論調査では、相手の領域内を直接攻撃する敵基地攻撃能力(反撃能力)保有の賛否について聞いた。防衛費の増額では賛否が割れる一方で、敵基地攻撃能力の保有は「賛成」56%で、「反対」38%より多かった。▼1面参照
男女別で見ると、敵基地攻撃能力の保有に、男性は「賛成」が66%で、「反対」29%を大幅に上回った。女性は「賛成」47%で、「反対」47%と拮抗(きっこう)した。年代別に見ると、「賛成」は18~29歳の65%が最も高く、70歳以上の51%が最低となった。「反対」は、70歳以上の41%が最も高く、18~29歳の32%が最低だった。
内閣支持層では、保有に「賛成」67%、「反対」29%だったが、内閣不支持層(57%)でも「賛成」52%、「反対」44%と、賛成の方が多かった。支持政党別に見ると、自民支持層では「賛成」66%、「反対」30%。立憲支持層では「賛成」47%で、「反対」46%とほぼ並んだ。無党派層では「賛成」53%、「反対」39%だった。
今回の調査では、2023年度から5年間の防衛費を43兆円に増やす方針について、「賛成」46%、「反対」48%と賛否が割れた。しかし、防衛費の増額に「反対」と答えた人でも、敵基地攻撃能力の保有に36%が「賛成」と答えていた。
■値上げ緩和策、「評価」70%
食料品や光熱費、ガソリン代などの値上がりによる生活への影響について聞いたところ、「負担を感じる」が76%(前回11月調査では73%)、「それほどでもない」が24%だった。岸田文雄首相が表明した、来年1月から9月までの電気代などの料金を、合計4万5千円分軽減する値上げ緩和策については、「評価する」70%、「評価しない」26%だった。
調査では、この冬節電するかどうかについても聞いたところ、「大いに」と「ある程度」を合わせた82%が「節電しようと思う」と答えた。(大崎浩義)
■ポスト岸田「この中いない」最多
岸田首相の次の首相にだれがふさわしいかも尋ねた。トップは河野太郎・デジタル担当相が24%。しかし、最も多い回答は「この中にはいない」の37%で、岸田首相の政権運営にじわじわと不満や反発が高まる中、「ポスト岸田」はすぐにイメージできないという世論の現状がうかがえる。
■本社世論調査 質問と回答
(数字は%。小数点以下は四捨五入。質問文と回答は一部省略。丸カッコ内の数字は、11月12、13日の調査結果)
◆岸田内閣を支持しますか。
支持する31(37)▽支持しない57(51)
◆支持・不支持の理由=省略
◆今、どの政党を支持していますか。
自民32(33)▽立憲7(5)▽維新4(5)▽公明2(4)▽共産4(4)▽国民1(2)▽れいわ1(1)▽社民1(0)▽NHK党0(0)▽参政1(1)▽その他の政党0(0)▽支持する政党はない43(39)▽答えない・分からない4(6)
◆岸田首相に、いつまで首相を続けてほしいと思いますか。(択一)
できるだけ長く14▽2024年9月の自民党総裁任期まで33▽来年5月の広島サミットまで17▽続けてほしくない32
◆岸田首相の次の首相には、だれがふさわしいと思いますか。(択一。敬称略)
石破茂15▽河野太郎24▽菅義偉6▽高市早苗9▽林芳正2▽茂木敏充2▽この中にはいない37
◆政府は、来年度から5年間の防衛費を、今の計画の約1.5倍の43兆円に増やす方針です。防衛費をこのように増やす方針に賛成ですか。
賛成46▽反対48
◆岸田首相は、防衛費を増やすために、約1兆円を増税する方針を表明しています。この方針に賛成ですか。
賛成29▽反対66
◆防衛費を増やすために、国の借金である国債を発行することに賛成ですか。
賛成27▽反対67
◆外国が日本を攻撃しようとした場合に、その国のミサイル基地などに打撃を与える能力を自衛隊がもつことに賛成ですか。
賛成56▽反対38
◆旧統一教会による問題などを受けて、高額献金の被害者などを救済するための法律が成立しました。この法律を巡る岸田首相の対応を評価しますか。
評価する58▽評価しない34
◆この法律により、被害者の救済が期待できると思いますか。
期待できる35▽期待できない57
◆食料品や光熱費、ガソリン代などの値段が上がったことで、生活への負担を感じますか。それほどでもありませんか。
負担を感じる76(73)▽それほどでもない24(27)
◆電気料金などの値上がりを受けて、岸田首相は、標準的な家庭の来年1月から9月までの料金を、合計で4万5千円分引き下げる支援策を表明しました。この支援策を評価しますか。
評価する70▽評価しない26
◆政府は電力不足を避けるため、7年ぶりに冬の節電を要請しました。この冬にどの程度節電しようと思いますか。(択一)
大いに節電しようと思う11▽ある程度節電しようと思う71▽あまり節電しようと思わない13▽全く節電しようと思わない4
◆新型コロナウイルスを巡るこれまでの政府の対応を評価しますか。
評価する55(51)▽評価しない41(45)
<調査方法> コンピューターで無作為に電話番号を作成し、固定電話と携帯電話に調査員が電話をかけるRDD方式で、17、18の両日に全国の有権者を対象に調査した。固定は有権者がいると判明した1006世帯から507人(回答率50%)、携帯は有権者につながった2049件のうち850人(同41%)、計1357人の有効回答を得た。
下平
・本の注文