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折々の記 2015 ⑦
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  08 30 金融世界大戦 (その一)   2015/08/25 田中 宇
  09 01 金融世界大戦 (その二 単語解説)   2015/09/01 田中 宇

 08 30 (日) 金融世界大戦 (その一)     2015/08/25 田中 宇

田中宇のデータをみていると、巨大企業も政治の国益も、株価の動向を注視している。 そして企業の狙う方向は政治家との癒着によって実現していくことがわかる。

そのカラクリを、誰が教えてくれるのか?

迷路は自分で解いていかなくてはならない。





2015/08/25 田中 宇
金融世界大戦 (その一)
     米国の株価操作と世界の覇権構造の多極化
     株価人的操作の理解の為に
     http://tanakanews.com/150825stock.php

 8月21日の金曜日、米国の株式相場が急落し、週明け24日には中国を筆頭に日本を含むアジア諸国の株が急落、米国の株価も3%以上急落した。株急落の原因は、中国を初めとする新興市場諸国の景気の悪化と、その影響で米連銀が9月に予定していた利上げを見送りそうなことだと報じられている。 (Wall Street Has Its Worst Day In 4 years, Losing About 529 Points)

 新興市場諸国は景気が悪化している。BRICSのうち、中国は経済が減速している。ロシアは、今年の経済成長が1-3月期にマイナス2・2%、4-6月期がマイナス4・6%(6年ぶりの悪さ)で、2期連続のマイナス成長で不況入りした。ロシアの不況入りはリーマン危機後の09年以来だ。ブラジルの経済成長は13年が2・7%成長、昨年が0・1%成長だったが、今年マイナス2%と予測され、こちらも不況入りが濃厚だ。同国はインフレも12年ぶりの悪さで10%近い。国営石油会社の汚職問題もあり、ルセフ大統領の支持率も8%に低下した(対照的に、ロシアプーチンの支持率は非常に高いままだ)。 (Fears of financial crisis rise as Russia's economy shrinks) (Brazil inflation rate hits 12-year high) (Just As Brazil Hits Rock Bottom, Things Are About To Get Even Worse) (Brazil's Credit Rating At Risk Of Cut To Junk Grade By S&P)

 ロシアやブラジルの経済悪化は、石油や鉄鉱石、穀物などのコモディティ(必需品)の世界需要が減退し、価格低下が続いていることが主因だ。コモディティは全体(Bloomberg commodity index)として13年ぶりの低価格で、需要の減退を受け、国際船舶貨物の総量が減少している。船舶は、コンテナ船の運送需要も中心となるアジア欧州間が2割減で、原材料だけでなくすべての世界貿易が減少傾向だ。 (World shipping slump deepens as China retreats) (Commodities Slump Bolsters Treasuries as Emerging Markets Roiled)

 世界の貿易総額は今年、ほぼ毎月減り続けている。世界の貿易はリーマン危機前、毎年平均で7%ずつ増えていた。リーマン後の減少を経て、10年に回復したが回復は弱く、12、13年と3%ずつしか伸びず、今やマイナスの傾向に落ちた。原因の一つは、90-00年代に進んだ製造業の世界分業化が一段落したことだ。90年代以降、ある国(日本や韓国など)で作られた部品が他の国(中国など)で組み立てられ、第三国(米欧など)に再輸出されるようになり、世界貿易が急増した。だが最近は、中国など組み立て国の国内産業が部品を製造できる度合いが上がったり、中国の賃金上昇を受けて日米などで組み立てるものも増えた。中国の再輸出の比率は90年代の60-70%から、今では35%に低下した。 (The warning signs of trade stagnation)

 これを理由に「貿易量の減少は世界不況のしるしでない」という説があるが、国内調達の増加は貿易量の増加率低下の理由になるものの、貿易量の減少の理由にならない。貿易量の減少は世界不況の前兆であり、今後も長く続くと7月末にFT(Financial Times(新聞名=英))が指摘している。

 新興市場諸国の景気悪化は、資金調達バブル(【bubble】= 泡。泡のように消えやすく不確実なもの)の崩壊が一因だ。もともと新興諸国の資金の多くは米国で調達されていた。米国はドルの為替を安めに誘導し、米金融界が債券発行などで集めた資金が新興市場に投資されて経済成長を生み、それが世界経済に3%以上の安定的な成長をもたらし、米金融界を儲けさす仕組みだった(ドル安のため、円高傾向や、人民元がゆるやかに対ドル上がり続ける仕組みが重要だった)。世界経済の成長維持は、覇権国としての米国の任務だった。

 この傾向は08年のリーマン危機後、米国がゼロ金利政策やQE(量的緩和策)を採るようになって拍車がかかった。米国はカネ余り現象がひどくなり、リーマン後の6年あまりで、代表的な15の新興諸国に対し、2・2兆ドルの資金が流入した。貿易量から見ると、リーマン後の世界経済の伸びは鈍かったが、新興市場に流入した資金は、インフラ整備や住宅投資(不動産バブル膨張)、コモディティ産業などに投資された。 (Emerging market capital outflows eclipse financial crisis levels)

 しかし米国は、ゼロ金利策を長くやるとドルや米国債に対する信頼性が低下するため、昨年からQEをやめ(日欧に肩代わりさせ)米連銀はドル高戦略に転換し、利上げをめざすようになった。米国(ドル)の信用力が隆々としていた間は、ドル安で世界経済の成長を誘導することが好ましかったが、リーマン後に金融救済のためのゼロ金利やQEをやりすぎた米国は、信用力が低下し、ドルの基軸性を保持するためドル高や利上げが必須となった。最近、米連銀(FRB)の一部であるセントルイス連銀の副総裁が「QEはデフレ解消が目的なのに、QEがデフレを解消できることを示した論文はない(つまり無根拠)。QEはデフレを解消しない」とする論文を発表した。連銀自身が、QEは金融界を延命させる機能しかないことを半ば認めてしまった。 (Fed Official Admits Zero Interest Rate Undermined Economy: "QE Has Been Ineffective") (Did China's Devaluation Crush Yellen's Rate Hike Strategy)

 米国が戦略をドル安からドル高、金融緩和から金融引き締めの傾向に転換したことで、新興市場の諸通貨の対ドル為替が下落し、新興市場から米国への資金流出が始まった。昨年半ばから今年3月までの9カ月間に、新興市場15カ国から合計で6000億ドルが流出した。リーマン後の総流入量(2・2兆)の3割近くが流出したことになる。 (Outflows from emerging market funds accelerate) (Emerging Market Currencies To Crash 30-50%, Jen Says)

 この資金流出は、新興市場がコモディティの過剰在庫を抱え続けることを困難にし、コモディティの価格崩壊につながった。株式投資資金も減り、中国などの新興諸国の株価の急落に発展した。新興市場から米国に環流した資金は、米国債やその他の債券に投資され、ゼロ金利策やQEで不健全になった米国の金融システムを延命させる効果をもたらしている。 (Emerging markets: The great unravelling)

 新興市場に投資した資金を回収することで覇権(ドル)の延命をはかった米国だが、資金の回収は新興市場の経済悪化から世界不況へと発展しそうで、それが米国などの多国籍企業の業績悪化、すでにかなり悪い(粉飾されている)米経済のさらなる悪化をもたらしかねない。最近、食品やハイテクの分野で、多国籍業が相次いで社員の5-10%を解雇する事態が起きている。中国の株価暴落が、米国の株価急落を引き起こすからくりがここにある。(Mass Layoffs Worldwide As Corporate Mergers Near New Record_)

 中国の株暴落は、新興市場諸国の経済悪化の象徴のように報じられたが、実のところ経済が悪化しているのは新興市場だけでない。先進諸国も経済が悪化している。日本は4-6月期の経済成長がマイナス1・6%で、景気回復の策と銘打ってQEを続けているのに全く効果がなく、米国を真似て経済指標を粉飾しているのに不況に再突入しそうだ。日銀のQEは失敗だと指摘する英文記事を、7月ごろからよく目にしている。しかし日銀は今後、日米の株価が下落を続けるようだと、秋にQEを再拡大するかもしれない。QEは出口がない。日本はQEをやりすぎて財政破綻する道をたどっている。 (BoJ edges towards new inflation measure) (Japan's economy contracts in second quarter) (Japan's Abenomics is branded a failure as GDP points to an economic slump)(Japan: The Great QE Experiment Fails)

 以前から何度も書いているように、米国の景気も粉飾されている。たとえば、米国では自動車がよく売れているというが、売れている車の多くは企業のリース用で、金融機関が発行した債券で自動車を買ってリースに回す分が増えたものだ。実体経済の実需でなく、低金利を利用した資金調達の派生物として自動車が売れている。こうした粉飾の分を除くと、おそらく米国も日本も以前からゼロかマイナスの成長だ。世界経済は、報じられているように米国が良くて新興市場が悪いのでなく、米国は以前から悪く、最近それが新興市場に波及し、世界不況に発展している。 (American Malls In Meltdown - The Economic Recovery Is Complete & Utter Fraud) (The Mystery Behind Strong Auto "Sales": Soaring Car Leases) 【註1】(◆金暴落はドル崩壊の前兆)

 株と債券を比べると、ジャンク債の利回り高騰(下落)よりも、株価の下落の方がずっと大きく騒がれる。しかし、世の中の資金調達の大半が債券で行われているため、経済全体や金融システムに対する影響として見ると、債券の方が株よりはるかに重要だ。債券の分野では、ジャンク債の利回りが7月から高騰し、危険な状態になっている一般的に、ジャンク債の利回りが高騰すると、その後株価が急落する場合が多い。ジャンク債の利回りが低いと、経営難の企業でも低利で資金調達でき、金利が高ければ運転資金がなくて潰れていたはずの企業が資金を得て延命する。資金調達が簡単だと、商品が売れず在庫が積み上がっても大した問題にならず、企業は業績の悪化を隠せる。これらは株高につながる。半面、ジャンク債の利回りが上がると、販売不振が企業業績の不振や倒産に直結し、株価を押し下げる。 (Wall Street is getting ready to clean up from the coming junk bond fiasco)

 ジャンク債と株価は相関関係が強い。株とジャンク債の関係でみると、今回の米国株の急落は、きっかけが中国株の暴落だったというだけで、本質的な理由は、ジャンク債の利回りが上がり、企業収益を実態より良く見せることができなくなったことにある。米国でジャンク債の市場を見ていた人々は、8月半ばから、そろそろ株が急落しそうだと予測していた。 (The junk bond market 'is having a coronary': David Rosenberg)

 ジャンク債が下落した要因の一つは、昨年来の原油価格の下落だ。米国のジャンク債の2割ほどが石油などエネルギー関係で、主たるものは「シェール石油」の採掘費用の調達だ。以前から書いているように、シェールの油井の寿命は喧伝されているよりずっと短い(長くて数年)。シェール業界は絶え間なく新たな油井を掘り続けねばならない「金食い虫」で、ジャンク債の金利安が必須だ。米国のタカ派は「シェール革命でサウジアラビアと縁を切れる」と豪語していたが、サウジは昨年来、これに反撃するため世界経済が減速しているのに増産して原油安を引き起こし、シェール産業を潰しにかかった。シェール産業は金融界にテコ入れされて延命しているが、すでにシェール業界のジャンク債の利回りが上昇し、それが今回の株の急落の一因となった。 (Debt Traders Flee Junkyard's Dogs as Yield Gap Widens on Oil)

 原油安は来年にかけてまだ続きそうで、サウジとシェール産業の我慢くらべの状態になっている。シェール産業のリスクは増大の方向で、ジャンク債の金利は来年にかけて上昇する傾向だ。ジャンク債と株の連動を考えると、米国株の下落傾向も、ずっと続くことになる。 (No End in Sight for Oil Glut) (Global oil supply grows at `breakneck speed', says IEA)

 米当局が何も対策をしなければ、バブル崩壊的な株価の下落が続く。株安を止めるには、米連銀が利上げをあきらめ、逆にQEを再開するしかない。そもそも米国や日本の現在の株高傾向は、景気が回復したからでなく、連銀や日銀がQEをやって巨額資金を作り、その一部で株が買われたからだ。株価を押し上げるには、QEしかない。だがQE(などゼロ金利策)は不健全で、長く続けると中央銀行や通貨の信用が失墜する。米連銀は、ドルを守るためにQEを日欧に押し付けて利上げ傾向に転じた。今回、連銀が株価テコ入れのために利上げをあきらめ、QEを再開(QE4)することにしてしまうと、長期的にドルや米国債に対する信頼が失墜してしまう。 (Peter Schiff: The dollar Will Win the Race to the Bottom)

 株安の傾向が今後も続いたら、米連銀に「利上げをやめてQE4をやれ」と求める圧力が強まるだろう。世界が不況色を強め、コモディティ価格も下落し、米国もデフレの傾向が強まっている。デフレなのだから、インフレ対策である利上げは必要なく、デフレ対策であるQEが必要だという主張が、米議会や金融マスコミで目立つようになる(米連銀自身がQEはデフレ対策にならないと認めているのだが・・・)。ドルを守るには利上げが必要だが、株の急落によってそれは難しくなり、逆に、近視眼的な株価対策としてのQE4の開始の可能性が強まっている。QEは、いったん始めると出口がない。QE4はドルの自滅につながりかねない。 (This Wasn't Supposed To Happen: Crashing Inflation Expectations Suggest Imminent Launch Of QE4)

 米連銀は、QE4を始める代わりに、日銀にQEを拡大させることも可能だ。QEを拡大していくと日銀や日本政府に対する信頼が失われ、日本国債の利回り高騰など財政破綻があり得る。日本政府が、自国を破綻させても米国(ドル)を守るべきだと考えれば、米連銀が予定通り利上げする半面、日銀がQEを拡大し、米国の株や債券をテコ入れし、ドル高や金地金安の傾向を再生しつつ、日本が「人柱」になっていくシナリオとなる。 (◆出口なきQEで金融破綻に向かう日米) (米国と心中したい日本のQE拡大)

 中国は、株が暴落しているものの、国際政治における影響力は減退せず、むしろ増大している。株安や経済減速が、政治不安につながり、共産党の一党独裁が崩壊する事態になるなら、中国の影響力の減退となるが、今のところ株安や経済難は政治不安につながっていない。南シナ海などの紛争で米国や日本が中国敵視の動きをするほど、中国ではナショナリズムがあおられ、共産党政権への敵対が広がらない傾向になる。日本でマスコミなどがあおる中国敵視は、実のところ中国を強化している。 【註2】(多極化への捨て駒にされる日本)

 新興市場に何年もかけて巨額資金を流入させ、何らかの危機を起こしてそれを一気に流出させることでその国を潰す。このやり方は、米金融界がギリシャ危機や98年のアジア通貨危機でやった「金融兵器」の策略だ今回の中国の株暴落は、中国などBRICS諸国が、ドルや米国覇権に依存しない自前の多極型の経済システムを構築しかけているのを潰すための、米金融界による金融兵器の発動だったのかもしれない。しかしその結果、米連銀は利上げが困難になり、利上げを強行すると米国の金融崩壊を誘発しかねない事態となった。中国を潰すはずの株暴落が、米国を潰す結果になりかねない。

 長期的にみると、今起きている新興市場からの資金流出は、中国などBRICS諸国が米国の資金に頼らなくなる新秩序を作ることにつながる。米国の資金に頼らなければ、米国から金融兵器を発動されて潰されることもなくなり、米国覇権から自立できる。この米国からの資金的な自立がなければ、BRICSがIMF世銀に対抗する開発銀行やAIIBを作っても、米国への依存が続いてしまう。新興市場からの資金流出は、世界の覇権構造の多極化にとって必須のプロセスだといえる。

【註1】
(◆金暴落はドル崩壊の前兆)
      http://tanakanews.com/150725gold.php

◆金暴落はドル崩壊の前兆
 【2015年7月25日】 米国の雇用統計の粉飾も、中産階級の崩壊も、シェール産業の債券破綻の危険も、米国の地方財政の危険性も、すべて以前から指摘されていた。しかし、これらのすべてが悪化の傾向だ。大きな崩壊は、まだ発生していないだけで、発生の可能性自体は増している。崩壊の懸念が増しているので、ドルや米国債から他のところに資金が逃避しないよう、まず究極の逃避先である金地金の相場を先物で潰す努力が、ドルの番人である米金融界によって続けられている。金相場の暴落が大きいほど、ドルに対する懸念が強まっていることを意味している。

以下 URLへ

【註2】
(多極化への捨て駒にされる日本)
      http://tanakanews.com/150510japan.htm

多極化への捨て駒にされる日本
 【2015年5月10日】 きたるべき米国の金融大崩壊で覇権体制が多極化する前に、日本をけしかけて中国敵視策を強め、ウクライナ危機を扇動してロシアを反米の方に押しやって中露を結束させ、米国に頼らない新しい世界秩序、つまり多極型の覇権体制を一足先に作る動きを中露に急がせる、それが米国中枢の隠れた意図と考えられる。ウクライナも日本も、米国の隠れ多極主義の捨て駒として使われている。安倍訪米で日米同盟が強化されたと喜んでいる場合ではない。

以下 URLへ

 09 01 (火) 金融世界大戦 (その二 単語解説)     2015/09/01 田中 宇

‘新興市場バブルの崩壊’をよく理解するには、経済用語の知識を理解しておかなくてはならない。 ここでは、そのため幾つかの用語解説を調べておく。


2015/09/01 田中 宇
金融世界大戦 (その二 単語解説)

① 金利が下がると債券価格が上がるのはなぜですか
      補足 金利上昇→金利反落予想→債券価格上昇もありますね
      http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1214572882

とりあえずまず簡単にイメージしてみましょう。

あなたが今1万円で金利1%の債券を購入しました。 これは毎年100円利息がつきますよね。

さて,あなたが債券を購入してからちょうど一年後今ここに新規に債券を買おうとしているAさんがいたとします。
例えば丁度その時あなたはその債券を換金するとします。  今世の中の金利情勢が全く変わらないとすれば、あなたはその債券を1万円でAさんに売ることができます。
なぜならAさんは銀行から買ってもあなたから買っても同じだからです。

ところが金利は変化しています。
例えばAさんが買おうと思った一年後に2%になっていたとします。 すると、あなたがその債券をAさんに買い取ってもらおうとすると1万円では売ることはできません。

なぜならばAさんは銀行などで買えば2%の債券を手に入れることができるわけで、あなたから買うと1%の債券を1万円で買ってもAさんにとってはメリットがありません。 その債券は1万円よりも安くしないと売却できないと言うことになります。

つまり,金利相場が上がってしまうと,既に発行されている債券は相対的に魅力が薄れ,安い価格でないと取引きされなくなるのです。

…ということです。

「補足」でおっしゃっているのは,思惑等将来への行動の要素が入ってのことですよね。 金利が上がると債券価格が下がると言うのは,そうではなくて,理論的に「既発の債券の価値が相対的に下がる」ということです。

更に補足ですが,↑上の方が

  「債券価格(S)、1年ごとの利息(A円)、利子率(r)とすると S=A+A+A+・・
  とならず割引現在価格を踏まえると S=A/(1+r)+A/(1+r)2乗+A/(1+r)3乗・・
  これを解くとS=A/r」

これはやや面倒ですが,要はこういう意味です。

今1万円で%の債券を買ったとすると1年後には10,100円になります。 元金部分が1倍(=そのまま)に加え,金利部分が1%(=0.01)で1.01倍になわけです。

そして2年後は10,200円,3年後には10,300円・・・となるわけですが,それは単利で見た場合であり,実際の投資家は理論的に考えれば,1年後に100円の利息がついたら,その100円で利息で更に債券を買い,そこにまた1円利息がつくわけですので,2年後には10,201円になるわけです。 いわゆる複利運用の考え方です。

こうして10,000円を1%で10年間運用すると11,000円ではなく,11,046円となります。 ということは,1のものが1.1046倍になるということです。

つまり,1年で1.01倍になり,翌年は更に1.01倍になる・・ということを繰り返すので 1.01×101×1.01×・・・・10回分。 つまり1.01の10乗であり,これを計算すると1.1046となるわけです。

今は現時点を1として10年後を考えましたが, 逆に10年後を1として今いくらあれば10年後に1になるかを考えると  □×1.1046=10,000となる□を求めればよく,□=10,000÷1.1046=10,000/1.1046=9,053となります。

↑の方が言っているのはこういうようなことです。

ではこんなことをして何の意味があるのでしょうか。この9,053ってなんなのでしょうか。

もう一度振り返って考えてみましょう。

  10,000円は1%で1年後2年後に10,100円,10,201円と価値を増していくんでした。
  「今10,000もらう」ことと,「来年10,100円貰うことを今約束する」こと,
  また,「2年後に10,201円貰うことを今約束する」ことは等価値だということです。
  等価値いうことは取引き可能だと言うことです。

債券というのは10年後は額面で換金できますので,○年後の10,000円というのは今いくらの価値があるか…という考え方で考えてみましょう。

将来の10,000円というのは今いくらの価値があるのでしょう。 先ほど同様に「1年後に10,000円になるためには今いくらあればいいか」,「2年後に10,000円になるためには今いくらあればいいか」,をそれぞれ考えると今の現金いくらと等価値であるかがわかります。

つまり

「10年後に10,000円で償還される債券の金利が1%」とすれば,今の価値は,「9053円」だということとなるのです。理論上はそれで売れると言うことです。

ここで突金利が上がり「10年後に10,000円で換金できる債券の金利が2%」になると,そちらは同様に計算してみると8,203円となります(9年後だとしても8,367円です)

その両方があったらあなたはどちらを買いますか?

  9,053円払ってくれれば金利と元金合わせて10年後10,000円上げますという債券と
  8,203円払ってくれれば金利と元金合わせて10年後10,000円上げますという債券と…

当然後者でしょう。

結局その値でないと債券は売れなくなります。 1%の債券もこの値で売らざるを得なくなるわけです。 このことを指して債券の価格が下がったと市場では言うわけです…

後半は少しややこしかったけど,わかってもらえたでしょうか


② 金利が上昇すると債券価格が下落する理由をわかりやすく教えてください
      http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1155457036

まず、金利は長期国債の価格で決まります。長期国債の価格がその国の銀行の貸出金利の価格を決めているからです。 ですので、金利があがるというのは「国債の金利があがった」ということです。

国債の金利があがるというのはどういうことか?
それは、高い金利でないと買う人がいないという状況です。
ちゃんとお金を返して利子も保証できる国なら、安い金利でも誰でも買ってずっと持っていてくれます。 ところが、不安定で先行きが怪しい国は、誰も買ってくれません。
現に、現在政情混乱のエジプトは国債金利が10%もありますが、今回政府が入札かけても外国人投資家は誰も買いませんでした。これが債券価格に影響するのです。

では、「もっと高い金利」にしようとするとどうなるか?
高い金利の新たな国債を発行すればいい?ですね。

発行したらどうなるか?
前の国債は、5年ものならもう残り1年、2年で償還のものもありますし、5年すぐでこれから利子をもらえる若い者もあります。  残り年数が少ない国債は、その分利子も使い果たしているとみなされて、「利回り」が高くなります。  いっぽうで、若い国債は新しい国債より「持っていてももらえる金額が少ない、新しい国債のほうが利子が多くて有利」と判断され、「売られます」。  ですので、売る人が多くなります。  市場では売るものが多いと、そのものの価格は下がります。  これが市場経済です。  だから、そもそも金利も、価格も固定されていると思われている国債ですら、値下げしないと誰も買いません。

こういうことから、「債券価格」の下落が生じるわけです。

その国の国債の市場価格が下落すると、地方自治体、公共団体、その国の会社の社債などすべてに影響が出てきます。  同じ理屈で、「もっと高い金利のものでないと誰も買わない」という現象になります。 こうしてトータルでも債券市場の価格は下がります。

また、金利が上昇するということは「インフレ」を意味します。 インフレの場合、有利なのは「物」であり、株式が有利になります。商品先物も有利になります。 いっぽうで株と対極にある国債などの「債券」はもっと値上がり利益が見込める株や商品先物に買い換える人が増えて値下がりしてしまいます。 このことが、「金利が上昇すると債券価格が下落する」理由でございます。

これだけならマグロ経済学の学者が教科書で説明することでございますが、実際はもっとひどいものがございます。

というのは、ヘッジファンド・投資銀行などがわざと、格付け会社などと結託して「この国の国債の格付けを下げてしまえ」と工作します。その結果、今回の日本の国債も格下げされました。  格下げされますと、その国は「信用がない」とされますので、国債を買う人が逃げ出します。 ですので、国はしょうがなく、さきほどの論理で「国債の金利を上げるから、買ってね」とします。 そのため、今後日本の国債は金利が上昇するしかありません。
3年後、日本は財政破綻を起こすので、菅政権が必死に与謝野を投入して「増税」で乗り切ろうとしていますが、国民は誰も増税を支持しませんので、彼らの政策は失敗し、日本はならくのそこに「エジプト」「南アフリカ」状態になります。

つまり金利が10%以上の「財政破綻国家軍団」の仲間入りを果たします。 その時点で、住宅ローンが「6%、8%、10%」とどんどん値上がりし、払えない人が大量に生まれます。  大量の自己破産がまた増え、企業倒産も増え、ギリシャのように、エジプトのように失業者が国民の大多数を占めて、暴動・略奪が発生します。

お金持ちは、海外に逃げてしまい、貧乏人が残るイスラエルのような国にもなってしまいます。

ですので、金利が高いからといってその国の債券を買うというのは最後は「紙くず」を持つことになるので釣られて買うのはどうかと思います。 ババ抜きのゲームと一緒で誰に最後のババを引かせるかという直観力が強い人がやらないと大変なことになります。


③ 金融政策の内容
      http://www.findai.com/yogo/0048.htm
≪金融政策とは何か≫

金融政策とは、日本銀行が利子率を変えることによって、世の中(市中)に出回るお金の量(通貨供給量)を調節して、物価の安定をはかり、経済の動きを調整する政策のことをいいます。

◆通貨供給量の調節

市場に供給されている通貨供給量(マネーサプライ)と経済活動の間には、密接な関係があります。必要以上のお金が市場に供給されると「カネ余り」の状態となり、通貨価値が下がって物価が高騰するインフレ現象を起こします。逆に、市場に供給されるお金が不足すると、物価が下落するデフレ現象を起こします。

どちらの現象も経済活動を崩壊させてしまうため、日本銀行は、通貨供給量の動向を監視して、市中に出回る通貨量が常に適量となるように調整しています。

◆金融緩和と金融引き締め

モノの売買や生産が沈滞する不況のときには、経済活動を刺激するために金利を下げて、世の中に出回るお金の量(通貨供給量)を増やし、経済活動を刺激します。これを金融緩和といいます。

逆に、物価が高騰して景気が過熱ぎみのときには、金利を上げて市中のお金の量(通貨供給量)を減らし、経済活動を抑制します。これを金融引き締めといいます。

≪金融政策の目標≫

金融政策には、主に、

  (1)物価の安定
  (2)雇用水準の維持
  (3)経済成長の維持
  (4)国際収支の均衡
  (5)為替レートの安定

という5つの目標があります。

◆最優先目標は物価の安定

金融政策の5つの目標は、よい景気を保つことを目的にしている点では一致しているのですが、短期的には矛盾する場合があります。そうした場合に最優先される目標は、物価の安定です。

日本銀行は、過去の経験から、物価の安定を最優先課題に据えています。なぜなら、長期的には、物価の安定が適切な雇用水準の維持や適正な経済成長をもたらすと考えられるからです。

◆物価に関する統計

物価に関する統計には、総務省が作成する消費者物価指数や、日本銀行が作成する卸売物価指数、企業向けサービス価格指数などがあります。

≪金融政策の手段≫

金融政策には、

  (1)金利政策(公定歩合政策)
  (2)公開市場操作
  (3)支払準備率操作(預金準備率操作)

という3つの代表的な手段があります。

   金利政策(公定歩合政策)とは、日本銀行が公定歩合を上げ下げすることで、市中金利に
   影響を与える方法です。

   公開市場操作とは、日本銀行が金融市場で民間金融機関に国債や手形を売買することで、
   市場に資金を供給(または吸収)し、マネーサプライ(通貨供給量)の調節を行うことを
   いいます。

   支払準備率操作とは、日本銀行が支払準備率を上げ下げすることで、民間銀行が貸出しに
   回せるお金の量を調節することをいいます。

≪金融政策の効果≫

日本銀行は、金利政策によって市場に出回るお金の量を調節し、極端なインフレやデフレが起こらないようにしてきました。

ところが、1980年代の中頃から金融の規制緩和が進み、公定歩合と市場金利が連動しなくなりはじめました。民間銀行の資金調達方法の多様化が進んだため、日本銀行が公定歩合を上げても、民間銀行は市場から安い金利で資金を調達できるようになりました。

金融政策は、以前のように効果をあらわさなくなっています。これは、金融の国際化が進展した結果です。お金の流れを、国際的な規模で調整しなければならない時代に入っているのです。金融政策を各国と協調して行うことが重要な課題になっています。

  ※【 参考ファイル 】 金融政策(2)金融政策の3つの手段 (ここへジャンプすれば開きます)


④ QE(量的緩和策)とはなにか

§1 量的金融緩和政策 (ウィキペディア)
     https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8F%E7%9A%84%E9%87%91%E8%9E%8D%E7%B7%A9%E5%92%8C%E6%94%BF%E7%AD%96

量的金融緩和政策(りょうてききんゆうかんわせいさく、Quantitative easing、QE)とは、金利の引き下げではなく中央銀行の当座預金残高量を拡大させることによって金融緩和を行う金融政策で、量的緩和政策、量的緩和策とも呼ばれる。

平時であれば金利を下げていけば、経済刺激効果が出て景気は回復するが、深刻なデフレーションに陥ってしまうと、政策金利をゼロにまで持っていっても十分な景気刺激効果を発揮することができない[1]。そこでゼロ金利の状態で、市場にさらに資金を供給するという政策である[1]。

日本銀行が2001年3月19日から2006年3月9日まで実施していた。本稿では主に日本について記述するが、この他、アメリカのFRBによるQE1(2008年11月-2010年6月、1兆7250億ドル)、QE2(2010年11月-2011年6月、6000億ドル)、QE3(2012年9月-、月額400億ドル)がある。

§2 量的緩和 (<ナビゲート ビジネス基本用語集の解説 <コトバンク)
     https://kotobank.jp/word/%E9%87%8F%E7%9A%84%E7%B7%A9%E5%92%8C-178938
     コトバンクには 5件の用語解説(量的緩和の意味・用語解説を検索)が載っている

日本銀行(中央銀行)が不況時に景気底上げのために行う金融緩和政策の1つ。2001年3月19日に導入され、2006年3月9日に解除された。量的緩和政策または量的金融緩和政策ともよばれる。

政策金利を上げ下げするのではなく、政府が民間金融機関(市中銀行)のもっている日本銀行当座預金の残高を調節することによって、市場への通貨供給量を増やす政策のこと。

具体的なプロセスは次のようになる。

まず日本銀行が民間金融機関から国債や手形を買い取る。すると、その分だけ日本銀行当座預金の残高が増える。民間金融機関は、この預金残高に比例した金額を企業に融資したり、当座預金そのものを資金として運用することができる。その結果、市場に出回る通貨の量が増加する。


⑤ QEの限界

国の借金をドンドン増やしていっていい筈がない。

日銀黒田総裁についてデータを調べていたら、‘黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている’(東洋経済オンライン)という記事が出ていた。

彼は天才かつ秀才かもしれないが、田中宇の「国際ニュース解説」の本筋から外れていることを100も承知の上で【写真】で見るようなしばし上を向きながらの記者会見だったに相違ない。

とすれば、二足の草鞋をはいた仮面かぶりである。



小幡 績 :慶應義塾大学准教授
黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている
      なぜ無意味な金融緩和をするのか?
      http://toyokeizai.net/articles/-/52286

  【写真】追加緩和を決定した黒田・日銀総裁。しばし上を向きながら、今回の大きな決断を
      振り返っていたのだろうか(新華社・アフロ)

昨日(10月31日)の日銀・黒田東彦総裁の記者会見を見た。じっくり見た。やはり、この人は素晴らしく頭がいい。論理も明快で論旨は一貫している。昨年4月4日の異次元緩和から、何もぶれていない。やはり財務省の大先輩、財務省の歴史に残る大秀才という話は大げさではない。

◆ 天才かつ秀才だが、経済はわかっていない?

しかし、今回の日銀の金融政策決定会合においては、彼の結論も打ち出した政策も間違っている。何のための追加緩和なのか。量的質的緩和の拡大は何のためなのか。何のためにもならない金融緩和策を打ち出したのは、なぜなのか。

彼は経済の基本がわかっていないのではないか。そういう疑問がわいてきた。天才であり、秀才であるが、経済については理解していない。そう思わざるを得ない。

今回の追加緩和は大きなサプライズだった。日経平均株価は755円もの上昇となり、GPIFネタで200円程度上げていたこともあったが、そこからさらに500円上げた。これはまさにサプライズだった。そして、これは、追加緩和を自分の都合で要求していた短期筋の海外投機家にとっても同じだった。まさか、今だって?そういう声が聞こえそうな、金曜の午後1時過ぎの暴騰だった。

黒田総裁は記者会見でいつも通り、質問に丁寧に答えた。いつもに比べれば、自信満々ということではなかったが、いつも通り、ぶれなく筋を通し、また正直な黒田総裁らしい、自分の信念を率直に語る記者会見だった。



しかし、記者の側は、いつもと違った。知的レベルで圧倒されている記者たちは、おそるおそる質問し、黒田氏が高笑いするたびにびくつき、自信満々に全くそんなことはない、と答えられると、それで萎縮してしまい、質問が途絶えてしまうような場面も散見されていた。これまでは。

昨日は違った。記者たちも馬鹿ではない。経済学がわかっていなくとも、黒田氏に議論で論破されようとも、何かがおかしい、と質問を浴びせ続けた。一昨日まで、日本経済は順風満帆と言っていたのに、この豹変ぶりは何事か。何が変わったのか。こういう認識に変わったのはいつだったのか。

市場を見てもサプライズだったことは明らかだが、市場との対話に失敗したと言えるのではないか。次々浴びせられる質問は、黒田氏よりも非常にまっとうで、素直で素朴な疑問で、それゆえに力があった。

◆ デフレマインドとは何か

黒田総裁は、記者たちの質問にどう答えたか。本質的には、デフレマインドの脱却。これが最優先であり、これの確実な達成にやや懸念が出てきたので、なんとしてもそれは押し戻す。そのためには、先手必勝。やるときは一気にやり、逐次投入しない。昨年4月の緩和は成功だし、そこで流れは完全に変わったが、ここで戻されてはいけないので、とどめを刺すために、デフレ脱却を確実にする。こういうことだった。

「ところで、デフレマインドってなんですか?」

私が記者会見で質問ができたならば、こう聞きたかった。デフレマインドとは何だろう。日本経済悲観論からの脱却。悲観論に基づく、縮小均衡に陥った株価と日本経済を、この落とし穴から引きずり出す。悲観マインド、縮小均衡、悲観均衡からの脱却。それならわかる。そして、100%賛成だ。

昨年4月の異次元緩和はこれに成功した。私は手段には反対だったが、結果的な悲観論からの脱却の成功は素晴らしかったと思う。そして、アベノミクスも、異次元緩和も、そこで役割を終えたのだ。

もはや脱却するものはなにもない。

悲観論から脱却した現在、必要なことは、日本の構造問題の解決だ。経済成長が必要ならば、それは短期的な景気対策ではなく、長期持続的な成長を供給サイドから作り出す政策だ。もはやマインドの問題ではない。そして、インフレ率が1%か2%かは関係ない。

これは黒田氏自身も言っていたことだ。異次元緩和により、日本経済の問題が需要サイドの問題から供給サイドの問題にあることが明らかになった。つまり、短期の需要不足の問題に覆い隠されていたが、量的質的緩和により、それが払拭されたために、日本経済の真の問題は潜在成長力の低下であり、構造改革などによりこれを高めなければならないと言っていた。財政政策ももちろん、構造改革が必要で、消費税引き上げは必要だと言っていた。



そして今回、日本経済は景気が悪化したわけではない。順調だ。依然、潜在成長率を実際のGDP増加率は上回っている。物価は1%まで上昇率は低下したが、依然として流れが崩れたわけではない。日本経済は何の問題もない。こういうとらえ方だった。

では、なぜ追加緩和が必要なのか。それは、景気刺激策ではない。需要喚起でもない。それは、ひとえにデフレマインドの脱却が完全に達成されずに、もとに戻ってしまうリスクがわずかながら出てきたからということだ。そして、彼の言うデフレマインドとは、期待インフレ率の低下に他ならない。それに尽きるのだ。

◆ 期待インフレ率2%だけを最優先させていいのか

つまり、期待インフレ率2%が揺らがないようにするために、米国などと違って、インフレ率2%が期待のアンカーとなっていない日本においては、期待インフレ率が足元のインフレ率に影響される。

したがって、足元のインフレ率が1%へ低下したことは、期待インフレ率の低下、すなわち、デフレマインドから完全に脱却していないので(期待値のアンカーがインフレ率2%にないことの別の言い方、ということだろう)、その再来のリスクがある。だから、インフレにするために、追加緩和をしたということだ。

そして、インフレ率の低下は、原油価格およびその他資源価格などの下落によるものだという認識を示した。そして、コスト安は長期的にはインフレをもたらすが(景気が良くなることにより)、足元ではデフレとなるので、これと断固戦わないといけない。そして、為替を意識したものではなく、国内経済のことだけを考えて緩和をした、と主張した。

しかし、この緩和によって起こることは、急激な円安と、ETFなどの購入による株価暴騰だ。それらは、円安、コスト高で苦しむ中小企業、消費者をむしろ苦しくする。そして、それは認識していると黒田総裁は述べた。それにもかかわらず、思い切った、そしてこの先は何も要らないぐらいの大規模なモノを行った。そういうことになる。

これらをまとめれば、黒田総裁は、何が何でも足元のインフレ率を上げないといけない。それは、期待インフレ率を2%にして、2015年以降のインフレ率2%達成を確実にするためだ。そう考えているらしい。何よりも、期待インフレ率2%が重要なのだ。これには円安によるコストプッシュインフレによるモノだろうが、需要増による短期景気過熱によるインフレだろうが、何でもかまわない、それは関係ない、という認識のようだ。期待インフレ率2%が最優先なのだ。

これは間違っていないか。実体経済は二の次で、期待インフレ率を維持することが最優先というのは、どんな経済学からも、実務の立場からも出てこないはずだ。つまり、彼は実体経済をわかっていないか、重要度が低いと思っているのだ。昨日の記者会見からの結論だ。

私の誤解であることを願いたい。

【感想】小幡 績:慶應義塾大学准教授は先生だから、当たり障りのないやんわりした批評である。 端的に面皮をはがす表現でありたい。



QEの限界とドル崩壊予測

QEとは Quantitative easing の略号であり、quantitative は「量の,量的な」という形容詞、easing は ease「楽にする,ゆるめる」という動詞からくる動名詞。 だから「分量を緩める」意味であり、熟語として「量的緩和」である。 金融用語として量的金融緩和政策、量的緩和政策、量的緩和策などという。

私たちが理解するとすれば、日銀が紙幣を増発することです。 国の借金が増えることです。

基本的には借金に等しい紙幣の増発をしていい筈がありません。

更にピケティが言うとおり、結果として所得格差がひどくなります。 信用紙幣の増発は悪弊の限度を超えようとしているのです。 何らかの金融システムの改善がなければならない。

田中宇のニュース解説は金融システムがどんな結果を引き起こしていくかを明らかにしてくれるのです。




ドルが崩壊するあがき

QEの限界で再出するドル崩壊予測
      2015年3月11日   田中 宇
      http://tanakanews.com/150311dollar.htm

 2006-08年に起きた、米国中心の国際債券金融システムのバブル崩壊(リーマン危機)以来、世界の金融システムは長い延命期が続いている。米政府は当初、バブルを生みやすい金融システムの改革(透明度の向上)を掲げ、米議会はドット・フランク条項を10年に立法したが、同法は、運営の詳細を決定する際、金融界によって骨抜きにされた。金融システムは、当局からの資金注入(QE)で何とか延命している状態で、本気で改革したら再崩壊や世界経済のさらなる悪化をもたらす。改革できる状況でない。 (Global Bankers' Coup: Bail-In and the Shadowy Financial Stability Board) (Republican assault on Dodd-Frank act intensifies)

 債券を中心とする国際金融システムは、改革どころか、延命策を維持するのも難しくなっている。延命策の主体はQE(量的緩和策)で、中央銀行が通貨を大増刷して債券を買い支え、債券需要の減退を形だけ防いで金利上昇を食い止める策だ買い手がいない債券を中央銀行が通貨発行して買うQEは、市場原理から見て不健全だ短期間なら「中央銀行が買い支えているのだから安心だ」と考える投資家がつられて債券を買うが、中央銀行がQEをやめたら債券の暴落が必至なので、投資家はしだいに債券を買わなくなり、QEの効果が落ちる。需要のない債券を抱え込む中央銀行に対する信用も落ちる。QEは長く続けられない【註1】QEやめたらバブル大崩壊 【註2】(QEするほどデフレと不況になる

 米国の中央銀行である米連銀(FRB)は08年からQEを断続的に行ったが、不良債券をこれ以上抱えられなくなり、昨年10月にいったんやめた同時期に米国から頼まれてQEを急拡大したのが日本銀行で、日銀のQEは、日本の株や債券を押し上げるだけでなく、為替市場を通じてドルに転換された資金が米国の債券や株の相場をつり上げた。しかし今年1月末から、日銀がQEをやっても日米の債券(国債)の価格が下がる(金利が上がる)現象がみられ、日銀のQEは早くも効果が薄れてきたのでないかと懸念されている。昨年から、日銀のQEは米連銀のQEより効果が薄いと指摘されていた。 【註3】(日銀QE破綻への道)

 すべての債券の原点と考えられている10年もの米国債の金利が3%を上回る状態が続くと危険だとされている。国債金利の高騰が続くと政府は財政破綻する。社債の金利上昇は、発行企業の信用喪失を示す。10年もの米国債の金利は、昨年初めに3%超まで上がったが、その後米日のQE続行で1・6%台まで下がった。しかし2月から反騰して2・2%台まで上がっている。マスコミは米国債の金利上昇を、米国の景気回復を示すものと「解説」しているが、景気が米国より悪い日本や英国でも、米国と同様の国債金利の動きになっている。金利上昇の原因は、景気よりもQEの効力低下だろう。 【註4】(10年もの米国債利回り)

 そもそも米国の景気回復は粉飾的だ。失業率が6%台から5・5%に下がってきたことが景気回復の根拠として示されているが、失業率の低下は統計上「失業者」の枠から外れる長期失業者が増えた結果でしかない。実際の米国の雇用市場は、原油安で採掘をやめる石油ガス田が増えたエネルギー業界で大量解雇が進み、小売店の閉店も相次いで、むしろ雇用減の傾向にある。米国で週30時間以上働ける仕事があるのは全成人の44%しかいない。 (Hallelujah! - Unemployment Plunges Due to 354,000 Americans Leaving the Workforce) (Only 44% Of U.S. Adults Are Employed For 30-Or-More Hours Per Week) 【註5】(米雇用統計の粉飾) 【註6】(揺らぐ経済指標の信頼性)

 米国では、納税している企業の総数が毎年6万社ずつ減り、40年ぶりの少なさの160万社になった。企業総数は1986年から100万社減った。毎年の企業数の減少(赤字転落・廃業)数は、リーマン危機を境に、4万社から6万社に加速した。米経済は回復しておらず、長期の凋落傾向にある。リーマン危機前は、金融界の儲けが他の経済分野に波及していたが、危機後はそれもなくなった。金融界すら、リテール(庶民対応)を縮小してQEに依存して儲ける傾向なので、人員削減を続けている。 (Number of Corporations in U.S. Hit Lowest Level Seen in 40 Years) (Is Washington Fabricating the Economic Data?) (Whatever Became of Economists (and the American Economy)?) (Gallup CEO Says He Might "Suddenly Disappear" After Calling Unemployment Stats A Lie)

 金融界は米国の今年の経済成長率を3%と予測してきたが、最近、米連銀内から、現在の成長率は年率1・2%しかないとする分析が発表された。 (GDP Shocker: Atlanta Fed Calculates Q1 Growth Of Only 1.2%)

 2月からの金利上昇を危険な兆候ととらえ、金融危機の再燃や、ドルの基軸性の喪失、米国覇権の崩壊、中国の台頭(人民元の国際化)など多極化を予測する指摘が最近増えた。予測は、有名な権威筋ほど示唆的な曖昧な言い方で、在野・無名の人ほど過激で露骨な言い方をするのが通常だ。有名筋どころでは、英国の投資家ロスチャイルド卿が、通貨の不安定、世界的な低成長に加えて、地政学的な危険さ(米露関係など)が第二次大戦以来の高さになっており、QEで株価が天井に達して資産価値の維持が難しくなっていると指摘している。 (Geopolitics most dangerous since WWII, Lord Rothschild warns investors) (Lord Rothschild Warns Investors: "Geopolitical Situation Most Dangerous Since WWII") (As Long As This Debt Based Fiat Currency System Continues With QE, Etc Interest Rates Will NEVER Rise Again Until Everything Blows Up And Collapses)

 ドルの発行者である米連銀は、日欧の中央銀行を巻き込んでQEを続け、ドルと米国債の価値を維持しようとしている。「ドル高は米経済の強さを表している。ドルや米経済が崩壊するはずがない」という、よくある見方は、ドル高がQEという持続困難な策によって不健全に維持されていることを忘れている。QEをやらなければ、すでにドルや米国債は世界経済を巻き込んで崩壊していた可能性が高い。QEは、長くて数年程度の延命策でしかなく、QEが効かなくなった後の金融崩壊はQE前よりひどいものになる。リーマン危機直後の初めてのG20サミットで語られた「ブレトンウッズ体制の終わり」が、また議題になるだろう。 (The Threat To The dollar As The World's Primary Reserve Currency) ("Monetary System, World Order We've Had Since 1940s Is Collapsing" Warns Richard Maybury) (Markets Are Now Beyond The Control Of The Fed) 【註7】(「ブレトンウッズ2」の新世界秩序)

 権威筋なのに、過激で露骨な言い方を最近繰り返しているのは、米国のグリーンスパン元連銀議長だ。彼は昨年末、ドルを「幽霊通貨」と呼んでQEを批判し、金地金相場の上昇を予測した。最近では、米国の景気が粉飾されていることを示唆して「株価は明らかに高すぎる」と述べ、金利が上がり出すとバブル崩壊の可能性が高くなると言って、債券金融バブルの大きな崩壊と超インフレが近いと予測している。すでに述べたように、米英日の国債金利は1カ月前から上昇傾向にある。グリーンスパンの言うとおりなら、いつバブル崩壊が起きても不思議でない。 【註17】(陰謀論者になったグリーンスパン) (Alan Greenspan Warns of Explosive Inflation: "Tinderbox Looking For a Spark") (Greenspan's Insulting Admission Of Fed Culpability)

 今週からEUの中央銀行(ECB)がQEを開始(拡大)した。とたんにドルと米欧の株価が高くなり、金相場が急落するという、QEの典型的な反応が出た。日銀のQEの効果が下がるのにあわせてECBがQEに参戦したことにより、QEは全体的に再び効果のある政策として蘇生した感じだ。QEが効いている以上、ドルや債券システムの崩壊は先延ばしされている。グリーンスパンやロスチャイルド卿(両者は昔から親しい)の予測は「外れ」だと考えることもできる。 【註8】(ユーロもQEで自滅への道?)

 しかし、日銀のQEの効果が薄れた1月末以降、国債金利が上昇して危機感が強まり、その後EUがQEを始めたら相場の危機感が低下するというこの間の動きは、金融システムの安定がQEに依存しており、QEがなければバブル崩壊が起きることを示している。米国の圧力を受けていやいやながら開始されたEUのQEは、日銀のQEより効果が薄いだろうから、今年中にまた金融システムが不安定になりそうだ。米日欧という世界の3大経済圏のすべてがQEをやってしまっており、これ以上新たなQEの広がりはない。次回のシステム不安定化は、前回より大きいものになる。バブル崩壊が近づいているというグリーンスパンの見方は正しい。 【註9】(金融危機を予測するざわめき)

 ドルと米国債を頂点とする既存の国際金融システムが崩壊した場合、その後も機能しうる国際決済システムの一つは「金地金」「金本位制」だ。ドルから金地金へのきたるべき転換を見越してか、欧州やBRICS(中露印伯南ア)の諸国の中央銀行は最近、金地金を買いあさっている。ドル基軸制が崩壊した後でも機能しうる、もう一つの通貨システムは、中国やロシアが拡充している、ドルに頼らず相互の通貨を使うBRICSの新たな決済システムだ。BRICSは、IMFや世界銀行というドル基軸制(ブレトンウッズ体制)のための国際機関に代わりうるライバル組織として、BRICS開発銀行などをすでに設立している。 【註10】(習近平の覇権戦略) 【註11】(覇権体制になるBRICS) 【註12】(金地金の反撃)

 ここ数年、米国が中露を敵視するほど、中露はBRICSを率いてドル依存を低下し、ドルが崩壊しても使い続けられる国際決済機構を構築してきた。従来、銀行間の資金決済に不可欠な世界的なシステムとして、欧州に本部があるSWIFT(どの口座にいくら送金するか銀行間で情報を送受信するシステム)があり、米国はSWIFTをロシアに使わせない制裁を科そうとしている。これに対抗してロシアは中国に接近し、中露の国内の銀行間決済システムをつなげて国際化する計画を進めている。中国は、人民元の国際化政策と連動し、早ければ今年9月から、元の銀行間決済システムの国際化を行う。これらの動きは、中露やBRICSがドル決済やSWIFTに依存する度合いを減らし、きたるべきドル崩壊への対策になっている。 (The De- dollarization Axis: China Completes SWIFT Alternative, May Launch As Soon As September) 【註13】(ロシアは孤立していない)

 従来のドル基軸制を守る組織であるIMFや世銀にとって、中露などBRICSが独自の体制を作ってドル離れを画策していることは敵視すべき脅威なはずだ。しかし実のところ、IMFはむしろBRICSのドル離れを「良いこと」と評価している。米国CNBCの報道によると、IMFのシノハラ副専務理事(日本の財務省出身の篠原尚之)は「ドルに依存しすぎると世界の経済システムが不安定になるので、アジアの新興諸国がドル以外による決済を増やすことは、むしろ奨励すべきだ」と述べ、中国やBRICSのドル離れを歓迎している。 (Is the dollar losing its clout among EMs?) (Currency Wars Continue As IMF Concedes End To dollar Hegemony)

 IMFは、ドル崩壊が垣間見えたリーマン危機の後、ドルの代わりにIMFの資金決済単位であるSDR(主要な通貨を加重平均した価値の単位)を使うことや、基軸通貨体制の多極化など、国際決済の非ドル化を模索していた。米連銀がQEによってドルの延命を模索した最近の数年間、IMFはSDRや通貨多極化の話をしなくなっているが、今後QEの限界が露呈するほど、再びSDRや通貨多極化、金本位制復活などの話が復活し、ドル崩壊後の世界体制の模索が再開されそうだ。 【註14】(ドル崩壊とBRIC) 【註15】(きたるべきドル崩壊とG20) 【註16】(しだいに多極化する世界)

【註1】
QEやめたらバブル大崩壊
      https://tanakanews.com/150301bank.php
QEやめたらバブル大崩壊
 【2015年3月1日】 QEの表向きの目的が「景気回復」であることと裏腹に、当局はQEを続けるため景気を回復させないようにしている。GDPや失業率などが改善されないと景気回復の演出がばれるので、統計上失業者でない半失業者や求職活動停止者を増やし、統計を歪曲・粉飾している。これら大きなマイナスを勘案しても、なおQEが必要だと米日当局は考えている。それだけQEをやめた場合の金融崩壊の程度が大きいと予測されるのだろう。QEをやめたらバブルの大崩壊が起きる。

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【註2】
QEするほどデフレと不況になる
      http://tanakanews.com/150204qe.php
QEするほどデフレと不況になる
【2015年2月4日】 世界の大半の国々がQEや金融緩和を加速し、各国通貨が引き下げられている。輸出国の通貨が引き下げられるほど、輸出商品の価格が実質的に下がり、世界的なデフレ傾向になる。QEはデフレを助長している。QEは銀行の貸し渋りをも助長し、中央銀行から民間銀行に流れる資金をいくら増やしても、銀行から中小企業や個人に資金が行き届かず、実体経済が改善されない。

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【註3】
(日銀QE破綻への道)
      http://tanakanews.com/150305bank.php
日銀QE破綻への道
【2015年3月5日】 無制限のQEを認められている日銀は、債券市場で価格決定不能のパニックが起こりかけたらすぐ円を大量発行して債券を買い支え、その日のうちに事態を安定化できる。しかし、投資家の間には「日銀がQEをやらなかったら金融崩壊が起きていた」という記憶が残り、不透明感と不信感が増す。次にパニックになった時には、日銀が前より大きな額を投入しないと事態が安定化しなくなる。QEは中毒症状を生み、最終的に日銀がいくら買い支えても金利が下がらなくなる。

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【註4】
(10年もの米国債利回り)
      http://www.bloomberg.co.jp/apps/cbuilder?T=jp09_&ticker1=USGG10YR%3AIND
米国株(午前):大幅安、中国減速の影響を警戒し売り浴びせ
 【2015/09/01】  (ブルームバーグ):1日午前の米国株式市場は大幅安で始まった。中国の景気減速が世界経済の重しになるとの不安が続き、世界的な株安の流れを引き継いだ。
ニューヨーク時間午前9時43分現在、S&P500種株価指数は前日比2%下げて1931.86。ダウ工業株30種平均は352.33ドル(2.1%)安い16175.70ドル。ナスダック総合指数は1.8%下げている。
ミラー・タバクの株式ストラテジスト、マット・メイリー氏は「下げのきっかけは中国だが、問題は米国のファンダメンタルズにも弱さが見えることだ」と話す。「中国の影響で第2四半期の企業決算の多くが打撃を受けており、状況は悪化する一方だ。中国に関しては株式市場だけでなく、データを含む全体的な状況が信頼を失いつつある」と続けた。

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【註5】
(米雇用統計の粉飾)
      http://tanakanews.com/130722payroll.php
米雇用統計の粉飾
【2013年7月22日】 米国の中小企業がフルタイムを減らしてパートに替えたくなる健康保険の規定をオバマ政権が打ち出した結果、パートが急増している。オバマ政権は、米国民と国際社会から、米経済を早く回復させろと圧力をかけられている。そして、米経済の回復を示す最も重要な数字が雇用統計だ。オバマ政権は、健康保険制度の改革という名目の裏で、雇用統計をうわべだけ実態より良く見せるフルタイムからパートへの転換を誘発し、雇用が回復しているのでオバマの経済政策は正しいという話にしている。

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【註6】
(揺らぐ経済指標の信頼性)
      http://tanakanews.com/130321economy.php
揺らぐ経済指標の信頼性
【2013年3月21日】 多くの人々が「経済指標が意図的に操作されることはない」と思っている。「ソ連や中国は経済指標をごまかしたが、市場重視の米欧日でそのようなことはない」「政治はごまかしに満ちているが、経済は厳然たる数字であり、ごまかしがない」という信仰も根強い。だが、市場重視を掲げる米英の覇権体制が弱体化して揺らぎがひどくなる中で、米国などの政府系機関が出す経済指標の中に、状況の悪化を隠すためのごまかしが増える傾向が強まっている。

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【註7】
(「ブレトンウッズ2」の新世界秩序)
      http://tanakanews.com/081017brettonwoods.htm
「ブレトンウッズ2」の新世界秩序
【2008年10月17日】 救済策が効かないまま金融危機が深化しきそうな中で、米政府の財政赤字の急拡大は必至で、いずれ米国債は買い手が足りなくなって下落する。英政府が、ロシアやBRICを招く形で「第2ブレトンウッズ会議」を開くことを提唱したことは、英がドルと米国債の破綻を予期し、米覇権の終焉を覚悟したことを意味すると、私には思える。

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【註17】
(陰謀論者になったグリーンスパン)
      http://tanakanews.com/141101greenspan.php
陰謀論者になったグリーンスパン
【2014年11月1日】 金融「専門家」のほとんどは「QEは米国の景気を良くしている」「超インフレが起こるなどと言っている奴は素人だ」「金地金は下がる。良くない投資先だ」と言っている。QEが株高を粉飾的に引き起こしているとか、米国の実体経済は改善していないとか、いずれ超インフレが起きるとか、債券バブルが崩壊して金地金が高騰するとか言っている人は「頭のおかしな陰謀論者」のレッテルを貼られる。しかし今回、専門家のさらに上位に立つシステム創造者のグリーンスパン米連銀元議長自らが、陰謀論者と同じことを言い出した。これは非常に興味深い。

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【註8】
(ユーロもQEで自滅への道?)
      http://tanakanews.com/150127euro.php
ユーロもQEで自滅への道?
【2015年1月27日】 QEは経済を回復しない間違った政策だが、日欧のQEは円やユーロを引き下げてドルを延命させる効果がある。米連銀は、自分が6年間QEをやってもう続けられないので、日銀やECBにQEを引き継がせたい。ドラギはその策略にはまり、米国との関係を悪化させたくないドイツも押し切られ、ECBはQEを開始した。すでに述べたように、今のところECBのQEには多くの制限がついているが、QEはやめると株や債券の大幅下落を引き起こすのでやめられず、中毒に陥りやすい。ユーロは自滅への道をたどり始めたかもしれない。

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【註9】
(金融危機を予測するざわめき)
      http://tanakanews.com/141115gold.php
金融危機を予測するざわめき
【2014年11月15日】 短期的な相場の好調をよそに、最近、金融の関係者から発せられるざわめきは「金融危機が近い」「長らく下落方向に抑圧されてきた金相場がいよいよ上昇しそうだ」といった方向性を持つものが目立つ。G20では、金融危機が再発して米欧の大手銀行が破綻に瀕した場合、公金で救済する「ベイルアウト」でなく、銀行の株主や債権者、大口の預金者などの、銀行に対する債権を強制的に放棄させる「ベイルイン」のやり方で、対処する新体制を検討している。

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【註10】
(習近平の覇権戦略)
      http://tanakanews.com/140710china.htm
習近平の覇権戦略
【2014年7月10日】 BRICSを通じた中国の多極型覇権戦略は、国際政治上で負うべき責任を5カ国で分散する一方で、経済利益は5カ国で最大のものを得る構図になっている。BRICSの中で、米英との喧嘩はロシアのプーチンが積極的にやってくれる。インド、ブラジル、南アは米国との関係が良いので、中露が反米的でもBRICS自体は米国から敵視されない。米国覇権の後に来るであろう多極型覇権体制は、中国にとっておいしい体制だ。

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【註11】
(覇権体制になるBRICS)
      http://tanakanews.com/120414brics.htm
覇権体制になるBRICS
【2012年4月14日】BRICSサミットで表明されたデリー宣言は、国際政治の体制を、従来の米国主導からBRICS主導へと転換する流れを描いている。これは米国から覇権を奪う動きでない。米国の覇権が崩れそうな中、世界の混乱を避けるため、BRICSが米欧に代わって集団で覇権の運営する動きだ。

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【註12】
(金地金の反撃)
      http://tanakanews.com/141203gold.php
金地金の反撃
【2014年12月3日】 金地金と債券の戦いは従来、債券の方が圧倒的に強かった。だが11月に形勢が逆転し、分水嶺を超えた観がある。こうなると、投資関係者が次に知りたいことは、いつまで債券システムが持つかだ。これまで債券高・金安を演出してきた投機筋の中に、いち早く逆の金高・債券安を演出することに転じたら大儲けできるかもと考える者が出てきても不思議でない。彼らは、ロシアや中国との結託を試みているはずだ。債券の終わりを試す者が増えると、その試みが債券の終わりを早めることになる。

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【註13】
(ロシアは孤立していない)
      http://tanakanews.com/140903russia.php
ロシアは孤立していない
【2014年9月3日】ロシアは、米欧から制裁されるほど、BRICSを新世界秩序として強化する動きに拍車をかける。米欧では、ロシアが制裁されて孤立化を深めていると報じられているが、この見方は米欧の独りよがりだ。対露制裁はロシアの孤立でなく、ロシアがBRICSを動かして世界を多極化し、米国覇権の不安定化につながる。

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【註14】
(ドル崩壊とBRIC)
      http://tanakanews.com/090611BRIC.php
ドル崩壊とBRIC
【2009年6月11日】 ユーラシア大陸の真ん中、ロシア・西シベリアのエカテリンブルグで、ドルの将来を話し合うサミットが開かれる。参加者には、ドルの発行者である米国は含まれていない。ロシア、中国、ブラジル、インドというBRICの4カ国によるサミットである。ドル崩壊感の高まりと、BRICサミットによるSDRを使った基軸通貨の多極化計画の推進からは、今夏、米経済覇権の終焉劇の第2幕が起きそうな感じがする。

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【註15】
(きたるべきドル崩壊とG20)
      http://tanakanews.com/110216dollar.php
きたるべきドル崩壊とG20
【2011年2月16日】おそらくG20がドル単独制に代わる通貨体制を確立する前に、ドルや米国債の崩壊が起きる。早ければ今年か来年、米国債の急落が起こりうる。米当局がうまく延命策をつなげれば、もっと先まで持つ。しかし延命策を越えた根本的な問題解決は困難だ。ドルが崩壊したら世界経済が大混乱し、中東などで戦争が起きるかもしれないが、その混乱の中で、G20が新しい多極型の基軸通貨体制を具現化していくのではないか。

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【註16】
(しだいに多極化する世界)
      http://tanakanews.com/110216dollar.php
しだいに多極化する世界
【2013年11月1日】 軍事の分野でも、米国の力は、静かに自滅的に削がれている。軍事で最も重要な分野は、兵器開発よりも、諜報の技能である。今の諜報の中心は人的スパイ行為でなく、米国の「NSA」がやっている信号傍受、通信の盗み見などの信号諜報だ。元NSAのエドワード・スノーデンによる連続暴露で、NSAが世界中の人々の私的な通信を盗み見していることが国際問題になり、怒ったドイツやブラジルが国連などで通信の盗み見を禁止する国際体制作りに動き出している。中国とロシアも、NSAを抑止した後の世界の通信管理体制の構想を、国連に提出した。これらの動きは、米国の軍事力の根幹に位置するNSAの信号諜報の力を劇的に低下させかねない。

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