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折々の記 2015 ⑧
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  10 02 きのうきょうのニュース   米ロ対立に留意・他



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  2015年10月1日
   ロシア、シリアで空爆 対IS、アサド政権を支援
   アサド政権の延命狙う IS拡大脅威 ロシア空爆
   中国、訪米成果に力点 習主席帰国で一斉報道
   中国、爆発17件7人死亡 2人不明、51人重軽傷 チワン族自治区
   武器輸出、窓口にも 防衛装備庁、きょう発足
  2015年10月2日
   ロシア、IS以外も空爆 シリアで続行、米は懸念
   ロシア、アサド政権と一体 シリア空爆、反体制派狙いか
   社説 シリア空爆 内戦収拾に的を絞れ
   社説 防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を
   憲法9条と戦争放棄 そもそも「平和」とは何か オピニオン 佐伯啓思
   ニュースメディアの未来 オピニオン(インタビュー) New York Times社長兼CEO


2015年10月1日
ロシア、シリアで空爆 対IS、アサド政権を支援
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11992328.html

 ロシア軍は30日、シリア領内で過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆を始めた。ロシア国防省が明らかにした。米国主導の有志連合への参加をロシアに求めていた米国も、今のところは静観する構えとみられる。ロシアがシリアへの軍事介入に踏み切ったことで、ISには大きな打撃となる可能性がある。▼11面=ロシアの狙いは

 米CNNなどによると、ロシアが空爆したのはシリア中部のホムスとハマ。ISの保有する兵器や通信設備などを狙ったとみられる。シリア国営放送は30日、ロシア軍とシリア軍がIS関連施設に対し、共同で空爆を実施したと発表した。

 一方、AFP通信によると、英国のNGOシリア人権監視団は、ホムスへの空爆で少なくとも27人の民間人が死亡したと伝えた。

 ロシアは事前にイラク・バグダッドの米国大使館に通告したが、詳細な目標などは伝えなかった模様だ。

 ロシア政府によると、今回の軍事介入は、シリアのアサド大統領の要請を受けて決まった。ロシアのプーチン大統領は30日、ロシア軍の外国での活動を認めるよう上院に求め、上院が全会一致で承認した。

 プーチン氏は同日の政府会議で「テロ集団への空爆に限定し、シリア軍の作戦と同時に行う」と述べ、地上部隊の派遣は否定した。

 ISに対しては、米国主導の有志連合が昨年、シリアとイラクで空爆を始めた。ただ、米国はアサド政権の退陣を求めており、シリア領内での空爆でアサド政権の承認は得ていない。数千回に及ぶ空爆にもかかわらず、ISの規模は縮小せず、掃討作戦が長期化している。

 これに対し、ロシアは地上作戦を担うシリア軍と連携して作戦を進める考えだ。ISにより大きな打撃を与えられるとの期待も出ており、いまのところ、米国も静観する構えだ。

 だが、欧米にはロシアがアサド政権の延命を狙ってシリアの反体制派を攻撃するとの疑念もある。(モスクワ=中川仁樹)


2015年10月1日 ▼11面=ロシアの狙いは
アサド政権の延命狙う IS拡大脅威 ロシア空爆
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11992278.html

写真・図版  モスクワ郊外で30日、ロシア政府関係者と会議を開くプーチン大統領=AFP時事

 プーチン大統領が30日、シリア領内の過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆に踏み切った。ISがロシアにとって無視できない脅威となっていることは事実だが、中東でロシアが影響力を発揮するための足場となってきた、シリアのアサド政権の延命を狙っていることは明らかだ。▼1面参照

 空爆は、プーチン大統領がニューヨークで開かれている国連総会から帰国した翌日というタイミングで始まった。プーチン氏はわずか半日のニューヨーク滞在中、オバマ米大統領のほか、イラン、イラク、トルコ、サウジアラビアの首脳と相次いで会談した。いずれもシリア問題やIS問題に深くかかわっている国々で、ロシアの対シリア政策をプーチン氏から直接説明したとみられる。

 ロシア軍は8月末からシリアに戦闘機を配備するなど、急速に軍事支援を進めていた。国連での首脳外交を終えた時点で空爆に踏み切ることを、このころから想定していたとみられる。

 ウクライナ東部での親ロ派武装勢力とウクライナ政府軍の衝突は、これと軌を一にして沈静化している。モスクワ・カーネギー研究所のトレーニン所長は「おそらく偶然ではない」と指摘する。ロシアがシリアに専念せざるを得ない状況になったという見方だ。

 ロシアはシリアの地中海沿岸タルトスに海軍の補給基地を持っている。地中海に海軍を展開するための貴重な拠点だ。武器取引やエネルギー分野でもロシアと深い協力関係にあったアサド政権が崩壊し、欧米からの支援を受けた反政府勢力主体とする政権が誕生することは、プーチン氏にとっては容認できない事態だ。

 また、ISにはロシアから約2400人が参加しているとされており、ISの勢力拡張がロシアにとって深刻な脅威となっていることも背景にはある。

 プーチン氏は30日、アサド氏に対して「自国と自国民のために、譲歩に向けた柔軟性を発揮することを期待している」と述べた。政権の崩壊を避けて、事態を軟着陸させたい意向をにじませた。 (モスクワ=駒木明義)

 ■安保理で米国を牽制

 国連安全保障理事会で30日午前(日本時間同日夜)、シリアやイラクで勢力を拡大するISなど、国際テロの脅威についての自由討論が始まった。直前にシリアでの軍事介入に踏み切ったロシアは、シリアのアサド政権も含めた関係国との協力の必要性を強調した。昨年来、アサド政権の同意なく空爆を続ける米主導の軍事作戦への牽制(けんせい)とみられる。

 安保理の9月の議長国はロシアで、ラブロフ外相が議長席に座った。ラブロフ氏は演説で、シリア軍だけでなく、イラク軍やクルド人勢力、シリアの一部反体制派の力を結束する必要が対テロとの取り組みには必要だと述べた。また、プーチン大統領がシリア国内での武力行使の同意を議会から得たことも説明した。ロシアはシリアで始めた空爆について、米国や、米国の有志連合への参加国にも報告済みで、作戦の効果を最大化するため、各国との情報交換を密にする姿勢を示した。

 ラブロフ氏は、ロシアが対テロで各国が結集する趣旨の安保理決議案を提出すると宣言した。米主導の対IS作戦が行き詰まる中、ロシアが主導権を握る意欲を示した形だ。

 欧州に流入する難民危機については「根本原因を除去しなければ、解決できない」として、残虐行為を繰り返すIS打倒の必要性を重ねて強調した。

 一方、米国のオバマ大統領は29日、国連本部でIS対策のハイレベル会合を開き、シリアでISを打倒するには「新しい指導者とシリアの人々を結束できる政権が必要だ」と述べ、アサド政権の「退陣」を求める姿勢を改めて示した。

 オバマ大統領によると、米国主導の有志連合への参加国は約60カ国に増加しているという。(ニューヨーク=金成隆一)

 ■シリア領内での対IS空爆

 <14年9月>
 米とサウジアラビアなど中東5カ国の有志連合が空爆開始
 シリアのアサド大統領が空爆開始を受け「テロと戦う国際社会の努力を支持する」と発言

 <15年6月>
 有志連合の9カ月間の空爆でIS戦闘員1万人以上を殺害したと米が表明

 <8月>
 トルコが空爆に参加

 <9月>
 豪、仏が空爆に参加
 ロシアも空爆を開始

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2015年10月1日
中国、訪米成果に力点 習主席帰国で一斉報道
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11992274.html?ref=pcviewpage

 米中首脳会談や国連総会への出席のため訪米していた習近平(シーチンピン)国家主席が帰国したのを受け、中国メディアは30日、一斉に訪米の成果を強調した。米中関係の行方は定まらないままだが、対話を保つ両国の関係の深みはうかがわせた。

 中国紙は「中米関係を軌道修正」(環球時報)、「成果に富む旅」(中国青年報)と意義を強調した。

 しかし、実際には習氏とオバマ米大統領が行った過去の会談と比べ目に見える成果が少なく、双方のやりとりもぎこちなさが目立った。専門家の間では「高まっていた緊張を落ち着かせ、矛盾を解きほぐすための環境を作ったことが成果」(賈慶国・北京大学国際関係学院長)との冷静な受け止めが多い。

 訪米の成果は、文書化された合意項目だけでは計れない。ホワイトハウスで米中首脳会談が行われた25日、会談のあった建物から、習氏の外遊に必ず同行する王滬寧・党中央政策研究室主任が記者会見場に姿を現した。するとボーカス駐中国大使がすかさず近づき立ち話を始め、そこにケリー国務長官も加わった。王氏は通訳を介さずに両氏の話をじっと聞き、時折言葉を返した。

 国際関係の学者から党指導部の政治局員まで上り詰めた王氏は、習指導部の外交政策のカギを握る人物とされる。3人の振る舞いから、互いに個人的な面識を築いていることは一目瞭然だった。一方、安倍晋三首相と習氏の過去2度の会談では本来同席するはずの王氏は姿を見せていない。訪中したほかの要人が会ったという話もない。

 中国が唱える「新型大国関係」は、対立を拡大せずに対話と協力を増やすという考えだ。習氏に同行した中国外務省当局者は「米国は認めなくても、新型大国関係は実態として進展している」と自信を示した。(ニューヨーク=林望)


2015年10月1日
中国、爆発17件7人死亡 2人不明、51人重軽傷 チワン族自治区
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11992272.html?ref=pcviewpage

 中国国営新華社通信などによると、中国南部の広西チワン族自治区柳州市で30日午後、17件の連続爆発事件が発生し、7人が死亡、2人が行方不明、51人が重軽傷を負った。地元公安当局は33歳の地元の男が犯行に関わった疑いがあるとみて、行方を追っている。

 当局は、速達小包に爆発装置が仕掛けられた可能性があるとみており、地元メディアによると、ほかにも不審な小包が約60個見つかったという。具体的な根拠は報じられていないが、当局は「テロの可能性は排除された」としている。

 同通信によると、爆発は同日午後3時15分ごろから同4時45分ごろにかけて、商業施設や住宅などで起き、建物が半壊するなどした。目撃者の話やインターネットに投稿された現場写真によると、周辺の複数の車両が破損しており、警察や住民らが負傷者を救助するなど現場は騒然とした。

 柳州市では昨年6月にもゴミ箱に爆発物を仕掛けた連続爆発事件が発生し、容疑者が逮捕された。

 柳州市は広西チワン族自治区の中西部に位置し、観光名所として知られる桂林市から南方約130キロにある地方都市。中国では10月1日から国慶節の大型連休が始まり、爆発事件の影響を懸念する声が出ている。(北京=倉重奈苗、広州=延与光貞)


2015年10月1日
武器輸出、窓口にも 防衛装備庁、きょう発足
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11992257.html

写真・図版 防衛装備庁の概要

 防衛省の外局となる防衛装備庁が1日、約1800人で発足する。自衛隊が持つ武器の開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役までを一元的に担い、約2兆円の予算を握る巨大官庁だ。安倍政権は安全保障関連法の成立で、自衛隊の海外での活動を大きく広げるとともに、武器の分野でも海外との結びつきを強めることをめざす。同庁はその中心となる。

 安倍政権は昨年4月、武器の輸出を原則禁じてきた武器輸出三原則を撤廃。新たに「防衛装備移転三原則」を作った。一定の基準を満たせば、武器の輸出や国際的な共同開発・生産を解禁するものだ。防衛装備庁は、その実務を担う。

 日本は、すでにオーストラリアの次期潜水艦導入計画に名乗りを上げ、英国とも空対空ミサイルの共同研究で合意している。防衛装備庁は、国内の防衛産業を海外に売り込んだり、海外の軍需産業と結びつけたりする役割を担う。

 経済界は防衛装備庁の設置をビジネスの好機と見て注目している。同庁は、自衛隊の武器の研究開発のほか、これまで陸海空自衛隊が個別に行ってきた装備品の購入を一手に担うことになるからだ。同庁の直接契約額は約1兆5千億円。陸海空の自衛隊が地方で調達している分も含めると約2兆円に達する。

 経団連は9月15日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を正式決定。同庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。

 同庁は権限が強力な分、業者との癒着や腐敗防止が課題となる。防衛装備庁では「監察監査・評価官」を長とし、20人規模で監察や監査を行う。ただ、こうした業務は防衛省職員によって行われる。徹底したチェック体制をとれるのかが問われている。(二階堂勇)


2015年10月2日
ロシア、IS以外も空爆 シリアで続行、米は懸念
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994392.html

写真・図版  シリア・イドリブ南部で1日、反体制派の基地でロシア軍によるとされる空爆を受け、燃える軍用車を消火する市民ら=ロイター

 ロシアが1日、シリア領内で過激派組織「イスラム国」(IS)以外の過激派の拠点を空爆した。AFP通信が伝えた。9月30日に空爆を始めた際には、標的をISに限定すると説明していた。▼3面=アサド政権と一体、8面=IS元戦闘員は、12面=社説

 シリアのアサド政権延命のため、米国が支援する反体制派を攻撃している可能性もあり、米国とロシアの対立が深まる恐れがある。

 AFP通信によると、シリアの治安当局者は1日、ロシアが、シリア北西部イドリブ県にある国際テロ組織アルカイダ系組織の拠点を攻撃したと話した。

 ロシアのラブロフ外相も同日、米ニューヨークでの会見で「ロシアはISやその他のテロリストを攻撃している」と述べ、空爆の対象を拡大する意向を示した。ISへの空爆を大義名分に、他の反体制派の拠点を攻撃している疑いがある。

 30日にシリア中部ラスタンなどで行った空爆でも、米欧などが支援するシリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」のハーリド・ホジャ議長が「ロシア軍はISもアルカイダもいない場所を襲撃した」と、ツイッターに投稿した。米国のカーター国防長官も「恐らくISの軍は存在しなかった」と話すなど、ロシア側の説明には疑念が出ていた。

 また、ロシアのノーボスチ通信によると、ロシア外務省高官は1日、イラク政府から要請があれば、イラク領内のISへの空爆も検討すると述べた。ただ、ラブロフ氏は1日の会見で現時点ではイラクでの空爆は計画していないとした。

 ロシアは、8月末からシリアに自軍の戦闘機を配備するなどアサド政権を支える立場だ。シリアの地中海沿岸に海軍の補給基地を持ち、武器取引やエネルギー分野でも関係が深い。米国の求めるアサド大統領の退陣が実現し、欧米が支援する反体制派主導の政権が誕生することは避けたい。

 一方、シリアとイラクの領内では、米国主導の有志連合が昨年からISに空爆を続けている。米国のケリー国務長官とラブロフ氏は30日、ニューヨークで会談。米軍とロシア軍の偶発的な衝突を避けるため、対話することで一致した。(モスクワ=中川仁樹)

 ■内戦5年目、入り乱れる

 5年目に突入し、国内外で数百万人が避難したシリア内戦は、様々な勢力が入り乱れて複雑化している。

 欧米やトルコが「穏健な反体制派」とみなして支援してきた「自由シリア軍」は統率力と求心力に欠け、諸勢力はバラバラに戦っている状態が続いた。その間に台頭したのが戦闘力の高いアルカイダ系「ヌスラ戦線」。今春以降、自由シリア軍、ヌスラ戦線を含む集団が反アサド連合を組み、シリア北西部のイドリブ県のほぼ全域を掌握した。

 昨年6月にカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家を宣言したISは、今年5月には中部の要衝パルミラをアサド政権軍から奪った。領域拡大を図るISはヌスラ戦線など他のイスラム過激派ともたびたび戦闘している。

 米軍主導の有志連合はISを標的に昨年9月から空爆を始めたが、ISの勢いは衰えていない。米国はアサド大統領の退陣を求める立場だが、アサド政権軍が仮に崩壊した場合、ISが支配領域を拡大する懸念もある。(カイロ=翁長忠雄)


2015年10月2日
ロシア、アサド政権と一体 シリア空爆、反体制派狙いか
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994330.html

写真・図版 ロシア国防省が9月30日、ウェブサイト上で動画を公開した空爆の様子=AFP時事(ロシア国防省提供)

 ロシアが9月30日に開始したシリアでの空爆は、過激派組織「イスラム国」(IS)を対象としたものではなく、アサド政権と戦う反政府勢力に対する攻撃だった可能性が高い。米軍はシリア領内でISを攻撃しつつアサド政権の打倒を目指しており、ロシア軍と偶発的に衝突することへの懸念も浮上している。▼1面参照

 ロシアのペスコフ大統領報道官は1日、「シリア軍と協力して目標を決めている」と述べ、シリア政府の要請に基づいて攻撃地点を決めていることを認めた。ロシア軍はISの拠点ではなく、アサド政権と戦う反政府勢力に相次いで攻撃を加えているのが実態だ。

 シリア政府関係者は朝日新聞の取材に「今回の空爆は(アサド政権にとって)重要な地域を維持するものだ」と答えた。また、アサド政権を支援するイランのアフハム外務省報道官は1日、ロシアの空爆について、「現実的かつ効果的な第一歩だ。シリア政府の公式な要請に基づき、国際法にも則している」と歓迎する声明を出した。

 そもそも、ロシアが30日に空爆したシリア中部のホムス県西部には、ISの支配はほとんど及んでいなかった。この地域は、首都ダマスカスと、アサド大統領と同じイスラム教アラウィ派が多い地中海沿岸のラタキアやタルトスをつなぐ戦略上の要衝。タルトスにはロシア海軍の補給基地があり、ラタキアの空港には、ロシア空軍が空爆に先立って戦闘機や攻撃機を30機以上配備していた。

 1日にはロシア軍が、シリア北西部で、ISと競合関係にあるアルカイダ系の反政権過激派組織「ヌスラ戦線」が勢力を保っている地域での攻撃に踏み切った。

 ロシア軍がアサド政権軍と一体となって、ISかどうかを問わず政権の支配地域の背後を攻撃。政権支配の強化と失地の奪還に取り組んでいる構図が浮かぶ。

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が複数の米当局者の話として報じたところによると、ロシアが30日に空爆した地点の一部は、米中央情報局(CIA)が支援する反体制派の支配地域だったという。アサド政権の退陣を求める米国への牽制(けんせい)との見方がある。

 プーチン大統領はISと戦うアサド政権を支援する必要があると繰り返してきた。ロシア軍がアサド政権を助けることがISの弱体化のために必要だ、という理屈で正当化を図る可能性もある。(モスクワ=駒木明義、イスタンブール=春日芳晃)

 ■米と偶発的衝突の懸念も

 米国は、ロシアの空爆への懸念を強めている。

 30日にロシアがシリアへの空爆を始めた直後、米ニューヨークの国連本部でテロ対策を話し合う国連安全保障理事会の会合が始まった。ケリー米国務長官は「対ISの戦いとアサド政権支持を混同してはいけない」と述べ、アサド政権を支援するための反体制派空爆をしないよう、ロシアに釘を刺した。

 米国務省のカービー報道官は30日、ロシアが空爆を米側に事前通告してきた際に、米軍機のシリア領空の飛行を避けるよう求めてきたことを明らかにした上で、「米国主導の有志連合は、過激派組織掃討戦を支援するため、イラクやシリアでの飛行を継続する」と強調した。

 米ロ双方の見解が対立したまま、両国軍の爆撃機がそれぞれシリア領内で空爆を継続すれば、衝突などの偶発事故に発展する恐れが高まる。

 緊迫した状況を受け、国連安保理での会合後、ケリー氏とロシアのラブロフ外相が会談。ロシア軍による空爆の正当性については平行線に終わったが、米軍とロシア軍の偶発的な衝突を避けるためにも、対話の継続を確認した。(ニューヨーク=峯村健司、金成隆一)


2015年10月2日 12面=社説
シリア空爆 内戦収拾に的を絞れ
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994298.html

 内戦が続くシリアの情勢が、緊迫している。新たにロシア軍が空爆に踏み切ったためだ。

 テロ組織の掃討を理由にしているが、同じ目標を掲げる米欧主導の有志連合とは調整のない単独の軍事行動である。

 ロシアが自国の思惑だけで軍事活動を広げれば、事態はいっそう悪化する。有志連合とロシア軍が衝突するおそれもあり、不測の混乱に陥りかねない。

 米欧とロシアは早急に調整を図り、最低限の行動目標を共有すべきだ。その重点は何より、シリア内戦と膨大な人道危機の一刻も早い終結にこそある。

 中東の紛争に乗じて、大国が覇権争いをするような愚行は絶対に犯してはならない。

 ロシアは空爆の目的について、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討だとしているが、懐疑的な見方が多い。

 自国が支援するアサド政権への肩入れを強めつつ、ウクライナ問題で失った国際社会での発言権を回復したい。そんな狙いもうかがえるからだ。

 ロシアの説明では、空爆はアサド大統領の要請で、同国中部で行ったという。だが、一部情報によると、そこにISはおらず、別の反アサド派勢力が爆撃された可能性があるという。

 シリアに軍港を持つロシアは、アサド政権と強いつながりがある。一方、米欧はこの政権について「多くの国民を虐殺しており、正当性はない」として退陣を求めている。

 もともとシリア内戦では、イスラム教シーア派のイランがアサド政権の後ろ盾になり、一方の反政権勢力をサウジアラビアなどスンニ派諸国が支援するという対立の構図がある。

 そこにロシアと米欧による利権抗争の要素まで持ち込めば、さらに複雑な代理戦争の様相を帯びる。結果的にISを利する可能性さえある。

 4年を超えるシリア内戦による荒廃と中東の不安定化、そしてISによるテロの拡散は、米欧だけでなく、ロシアにとっても大きな脅威のはずだ。

 プーチン大統領は有志連合と歩調を合わせ、アサド政権への影響力も行使して和平づくりに貢献してこそ初めて、国際的な評価を勝ち得る。危うい単独行動に走ってはならない。

 一方、米欧と中東諸国も、軍事介入だけで真の解決は図れない現実を改めて考えるべきだ。

 シリアの国家再建に向けて、どんな道筋が描けるか。米ロ両国と国連を含む、あらゆる関係者を包含した外交努力が求められている。そこに日本も積極的にかかわり、後押ししたい。


2015年10月2日 (社説)
防衛装備庁 なし崩し許さぬ監視を
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994297.html

 利益優先で武器輸出の拡大につながらないか。腐敗の温床にならないか。二重三重のチェックが重要になる。

 防衛省の外局となる防衛装備庁がきのう発足した。

 これまで陸海空の自衛隊などがバラバラに扱っていた武器の研究開発から購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担うことになる。

 とりわけ気がかりなのが、武器輸出の行方だ。安倍政権は昨春、「武器輸出三原則」を撤廃し、「防衛装備移転三原則」を決定した。一定の基準を満たせば、武器輸出や国際的な共同開発・生産を解禁するもので、装備庁はその中心となる。

 安保法制の成立で自衛隊の活動範囲を地球規模に拡大したことと合わせ、戦後日本の平和主義を転換させる安倍政権の安保政策の一環といえる。

 問題は武器購入や輸出という特殊な分野で、いかに監視を機能させるかだ。技術の専門性が高いうえに機密の壁もあり、外部からの監視が届きにくい。

 輸出した武器がどう扱われるか、海外での監視は難しい。新原則では「平和貢献や日本の安全保障に資する場合などに限定し、厳格に審査する」としているが、実効性は保てるのか。

 米国製兵器の購入をめぐる費用対効果も問われる。今年の概算要求でも、新型輸送機オスプレイや滞空型無人機グローバルホークなど高額兵器の購入が目白押しだ。米国への配慮から採算を度外視することはないか。  かねて自衛隊と防衛産業は、天下りを通じた「防衛ムラ」と呼ばれる癒着構造が指摘され、コスト高にもつながってきた。そこに手をつけないまま、2兆円の予算を握る巨大官庁が誕生した。高額の武器取引が腐敗の温床とならないように、透明性をどう確保していくか。

 装備庁には「監察監査・評価官」を長とする20人規模の組織ができたが、いずれも防衛省の職員である。身内のチェックでは足りないのは明らかだ。

 武器の購入や輸出は装備庁だけでなく、政府全体の判断となる。ビジネスの好機とみた経団連は先月、「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」との提言をまとめ、政府に働きかけている。

 しかし、戦後の歴代内閣が曲がりなりにもとってきた抑制的な安保政策は、多くの国民の理解にもとづくものだ。

 経済の論理を優先させ、日本の安保政策の節度をなし崩しに失う結果になってはならない。

 何よりも国会による監視が、これまで以上に重要になる。


2015年10月2日 オピニオン(異論のススメ)
憲法9条と戦争放棄 そもそも「平和」とは何か 佐伯啓思
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994286.html

 先ごろ参議院において成立した安全保障関連法に対しては、国会の内外で賛否両論が激しく対立した。いささか興味深いのは、どちらの陣営も「平和」の名目で賛成し、また反対したということだ。「平和」というものの理解において、国論が二分されているわけである。

 とりわけ国会を取り巻くデモの参加者たちは、「憲法守れ」「戦争法案反対」「平和を守れ」を合言葉にした。安倍首相の進める安保法制は、「平和」への挑戦だというのである。

 しかし、そもそも「平和」とは何なのだろうか。憲法9条を守るという「平和主義者」たちは、戦争とは殺人であり、したがって、平和とは戦争のない(人が殺されない)状態だ、という。そして戦争放棄の憲法9条は、日本が他国の戦争に巻きこまれない(人殺しをしない)仕組みである、という。つまり、私も殺人を犯さないから、私も殺されないようにする条文だという。

 もう少し理念的にいえば、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の3原則は相互に深い関連があって、人々が自己の生命や財産に対してもつ基本的権利を守るには平和主義が不可欠であり、それを実現するには国民主権が伴う、という。確かにこの背後には、「平和とは戦争(人殺し)のない状態」という理解がある。

 だがもしそうであるなら、たちまち疑問がでてくる。人殺しは悪だとしても、だからといって人殺しがなくなることはないだろう。とすれば、戦争もまた同じではないか。だがまたこうもいえる。いわゆる人殺しと戦争は同じではない。いやそもそも人殺しと戦争を同一視する方がおかしいのではないか。とすれば、戦争をそれなりに回避する仕組みを作ることは可能ではないか。こういう疑問である。

     *

 「平和(ピース)」とは、そのラテン語の語源からもわかるように、もともと「支配による平和(パックス)」という意味を含んでおり、強国の支配によって作り出された秩序という含意をもっている。つまり、「平和」とは、ある強国によって平定され、そこに秩序が生み出されるという歴史的事実と無関係ではない。だから、「ローマによる平和(パックス・ロマーナ)」や「アメリカによる平和(パックス・アメリカーナ)」などという。冷戦後には「パックス・コンソルティス(国際協調による平和)」という概念も唱えられた。

 かくて、欧米における「平和」とは、多くの場合、ある「覇権」を前提とし、そのもとでの秩序形成や、あるいは、覇権争いの結果としての勢力均衡を意味することになる。だから、冷戦は、冷たい戦争であったと同時に「長い平和」でもあった。それは、米ソ両国でかろうじて軍事バランスをとったからである。

 ここには、殺人と同様に、決して戦争はなくならないという「人間観」がある。その背後には、日本などと比べればはるかにひんぱんに、民族的自尊や集団的利害や宗教的信念などの理由で対立と殺戮(さつりく)を繰り広げてきた西洋の歴史がある。戦争は生命を賭けてでも獲得しなければならない何ものかのためにもなされてきた。だから「平和」もまた「力」を前提とする。それは、「力による平定」に対する同意が生み出す秩序であり、または、「力」のバランスの維持なのであった。

 とすれば、戦後日本の「平和主義」が、その意味での「世界標準」から相当にズレていることをわれわれはまずは知らなければならない。もちろん、「世界標準」が正しいという理由もなければ、それに合わせなければならない、という理由もない。だが、このズレを国是にするとなると、相当な覚悟が必要である。仮に他国からの侵攻があったときに、われわれは基本的には無抵抗主義をとらねばならない。私はこの理想を個人的には称賛し、感情的には深く共鳴するものの、それを国是にするわけにはいかない。

     *

 フランスの社会人類学者のエマニュエル・トッドが、日本の平和主義についてこんなことを書いている。「私が日ごろから非常に不思議だと感じているのは、日本の侵略を受けた国々だけではなく、日本人自身が自分たちの国を危険な国であると、必要以上に強く認識している点です」(「文芸春秋」10月号)

 長い歴史のなかで日本が危険なことをしたのはほんの短い期間であり、しかもそれはヨーロッパの帝国主義のさなかの出来事であった。日本はただその世界情勢に追随しただけだった、と彼はいっている。

 このトッドの見解に私も同感である。日本の憲法平和主義は、自らの武力も戦力も放棄することで、ことさら自らの手足を縛った。しかし、他国は武力を放棄していないのである。こうなると、われら日本人だけが、危険極まりない侵略的傾向をもった国民だということになってしまう。トッドのような疑問がでるのは当然であろう。

 「平和への祈り」や「平和への希求」は当然のことで、それが憲法の精神を形作ることには何の問題もない。しかし、憲法9条の平和主義はそうではない。われわれ自身への過度な不信感と、終戦直後のあまりに現実離れした厭戦(えんせん)感情の産物であるように思える。私には、われわれ日本人は歴史的にみても、法外なほど好戦的で残虐な性癖をもっているとは思われない。われわれはいまだに敗戦後の自己不信に縛りつけられているのではないだろうか。

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 さえきけいし 1949年生まれ。京都大学名誉教授。保守の立場から様々な事象を論じる。著書に「反・幸福論」など


2015年10月2日 オピニオン(インタビュー)
ニュースメディアの未来
      ニューヨーク・タイムズ社長兼CEO、マーク・トンプソンさん
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S11994287.html

写真・図版 インタビューの最中、愛用のスマートフォンを示して説明する場面も=9月25日、朝日新聞東京本社、岩下毅撮影

 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)の社長兼最高経営責任者(CEO)で、英国放送協会(BBC)の会長も歴任したマーク・トンプソン氏は、メディア界の中でも最も果敢にデジタル化を進める代表格だ。来日を機に、急速に変化するメディア環境とジャーナリズムの未来について聞いた。

 ――過去から現在に至るニュースメディアの役割とは何でしょう。

 「時代が変わっても、本質的な役割は変わらないと思います。家族や友達とつながる社会がある一方、その外には広い世界がある。そこで何が起きていて、どう理解すればいいのか。それを伝えるのが常にニュースの役割です」

 ――人々の好奇心を満たすということですか?

 「もう一つ大切なのは、記録することです。古代ギリシャの歴史家トゥキディデスは『戦史』でアテネとスパルタの間のペロポネソス戦争を記録しました。彼はこう言っている。人間の本質は変わらない。将来、同じようなことが繰り返されるだろう。だから、何が起きたかを後世に伝えることが重要なのだと。メディアの素晴らしいところは、広く流布させ、多くの人に読んでもらうことができることです」

 ――インターネットの登場で、新聞など既存メディアは大きな影響を受けています。

 「ネットは『パンドラの箱』を開けたとも言われます。テロリズム、流言、混乱、新聞社のビジネスへの脅威などすべてのあしきものが、インターネットによってもたらされたと。だが、私は違うと思う」

 「知識、情報、オピニオンが広がっていくことで、検閲の撤廃にもつながる。人類にとって素晴らしいことだと信じています」

 「確かに今は、乱気流のような激変の時代です。しかし、知識の広がりにあらがうことはできないし、特にデジタルは情報の拡散力が驚くほど強い。今起きているのは、ちょうどかつての印刷技術の発明(によるメディア革命)のようなものなのです」

 ――ツイッターやフェイスブックによってメディアだけでなく、誰でもニュースの発信ができるようになっています。

 「ユーザーが投稿する(現場写真などの)コンテンツが、ニュースを補強することはとても素晴らしいと思っています。ただ、列車や航空機の事故といった大事件が起きたとき、我々が知りたいのは“なぜ”という点です。テロリストの仕業か、機器の故障なのか。その解明に必要なのは、長年の知識、専門性、取材先との人間関係です。それこそが、ジャーナリズムの心臓だと思います」

   ■     ■

 ――フェイスブックやアップルなどにニュースを提供していますが、巨大IT企業に「ひさしを貸して母屋を取られる」という危険はないのでしょうか。

 「門戸なら随分前に開けてしまった。ヤフーやグーグルといったIT企業との緊張関係は、もう20年近く続いています。今さら閉じようとしても、もう遅い。ただ、慎重にやっていかなければなりません」

 「デジタル化で、人々はよりニュースに接するようになっています。例えば『何百人の巡礼者が死亡した』というニュースの見出し。これ自体は簡潔な、日用品化した情報です。我々の挑戦は、それでもNYTや朝日新聞が出したニュースの方が、聞いたこともないブランドから出されたものよりも価値がある、信頼できると認めてもらうことなのです。デジタル時代でも、最も重要なのは質の高いジャーナリズムです。ユニークでほかとは違い、価値がある記事を提供することです」

 ――巨大IT企業の脅威を乗り越えられますか。

 「巨大IT企業はメディアにとって競合相手、脅威にもなりえるし、提携先、仲間にもなり得る。おそらく、両方の組み合わせになるでしょう。“フレネミー(友であり敵)”です」

 「伝統的な競争相手がいます。フィナンシャル・タイムズ(FT)やウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などです。特ダネでしのぎを削り、部数を争い、広告で競争しますが、我々は対応方法を知っている。より難しいのは、ずっと巨大なデジタルプラットフォームとの競争です。フェイスブックは中国の人口に匹敵する数のユーザーを抱えています」

 「こうしたプラットフォームと協力し、実験していくことは非常に重要な戦略です。注意深く、しかし柔軟に取り組むことで、早く学ぶことができるはずです。ダンスパーティーで、完璧な相手が現れるまで座って待っているというのは賢い戦略ではありません」

 ――人工知能が大半の記事を書く時代が、10年以内に来るでしょうか。

 「来ません。記事というのは思慮深く、構造的に人間が作り出すものです。分析的で、美しく、人々の心に響くように書かれなければならない。人間の頭脳が生み出すもので、様々な知性が要求されます。(NYTコラムニストの)ポール・クルーグマンのような文章を人工知能が書けるでしょうか? データから、単純な記事を作るにとどまるでしょう」

 「人工知能が楽しみなのは、マーケティングなどの分野です。例えば、スマートフォンに一人ひとりの関心に応じたニュースや情報を届けるのには、重要な役割を果たすことになるでしょう」

 ――ノースカロライナ大学のフィリップ・メイヤー名誉教授は、2044年10月で米国の日刊新聞の発行が終わると予想しています。

 「これは経済の問題です。少なくともNYTは、ニューヨークを中心とした地域では、仮に広告がなくなっても、なお利益を生む事業として長く発行が続くでしょう。ただ米国内でもニューヨーク以外の地域では、ほかの新聞社の施設を使って印刷するので、一概には言えません」

   ■     ■

 ――自身は日々、どうニュースに接していますか?

 「朝、マンハッタンのアパートで最初にする仕事は、ベッドの中で、スマホのNYTアプリを見ることです。その後、WSJやBBC、FTなどのニュースも10分ほどでチェックします。次の仕事は、ベッドから起きて、玄関から紙のNYTを取り、それを熱い紅茶のカップとともに妻に持って行くことです(笑)。妻もスマホやタブレットでニュースを読みますが、朝一番は紙。同じ家族でもさまざまなニュースとの接し方をしています」

 ――35年以上にわたるメディア界での経験で、最大の変化は何だったでしょうか?

 「スマホの登場です。パソコンの登場とは比べものにならないインパクトです。可能性ははかりしれません。変化はまだまだ始まったばかりで、さらに進化していくのは間違いない。未来はこの小さなスマホにあります。最高のジャーナリズムを、スマホを使ってどう体験してもらえるかが、非常に重要なのです」

 ――ジャーナリズムが未来に生き残るために、いま足りないものは何だと思いますか。

 「読者をこれまでと同じ存在だと思わないことです。読者は(ソーシャルメディアなどを使って)活動的になり、自分自身の声を、意見を持っている。そんな読者との緊密な関係を保ち、理解し、そのニーズを理解することです」

 「そして、もし可能なら、コンピューターのプログラムを学ぶこと。私自身もネット講座で(プログラムの一種)ジャバスクリプトの基礎を学んでいます」

 「NYTはジャーナリズムの使命を中心とした企業です。ただ、ある意味でテクノロジー企業になる必要がある。編集局の人間がテクノロジーを毛嫌いする時代は終わりです。テクノロジーは、ジャーナリストにとっても極めて重要なものになりつつあります」

 「(シリコンバレーの企業のように)今や大手メディア企業を一から立ち上げることも可能です。それはNYTでも、他の誰でも例外ではない。歴史に縛られる必要はないし、そのようなメディアが続々と登場しているのが、今の時代なのです」(聞き手・池田伸壹、平和博)

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 Mark Thompson 1957年、英国生まれ。オックスフォード大学卒業後、79年にBBCに入り、主に報道番組を担当。英国の他のテレビ局のCEOを経て、04年から12年までBBC会長。同年11月から現職。

 ■取材を終えて 「主戦場はスマホ」の戦略

 「ニューヨーク・タイムズはある種のテクノロジー企業になる必要がある」。トンプソン氏はそう言い切る。そして、目を向けるべき競争相手は大手新聞社などの既存メディアだけではなく、「グーグルやフェイスブックだ」とも。その言葉の背景には、この間のメディア環境の激変に対する深い危機感がある。

 一つは、従来の紙の新聞を中心としたビジネスモデルの地盤沈下だ。米新聞協会の調査では、日刊紙の発行部数は1984年の6300万部をピークに減り続け、昨年は4千万部。広告収入も紙面広告は2000年の487億ドル(約5兆8千億円)をピークに下落を続け、13年には173億ドルになった。デジタル広告を加えても207億ドルと、半減以下の状態だ。

 そして、ネット企業のメディア空間での急速な台頭がある。

 創業17年のグーグル1社で、広告収入は590億ドルと米新聞業界の約3倍。創業11年のフェイスブックの利用者数は世界で約15億人と、中国の人口をしのぐ。

 紙からデジタルへ。NYTの生き残りをかけて、昨年まとめた社内改革の青写真が「イノベーション・リポート」だ。その中で最重要課題として挙げたのが、「読者開発」と呼ぶ新たなデジタル読者の開拓だった。そのためには、メディア激変の震源地である巨大ネット企業とも手を組む。

 フェイスブックは今年5月、スマホ向けのニュース配信サービス「インスタント・アーティクルズ」を開始。アップルも同種のサービス「ニュース」を9月に始めた。NYTは、この両社に記事を提供している。

 メディアの主戦場は、ネット利用者の大半が使うスマホと見定めてのことだ。「未来は手の中にある」とトンプソン氏。

 変わらないジャーナリズムの使命と、変わり続けるメディア環境。そのはざまを生き抜くための挑戦は、日本のメディア界にとっても切迫した問題だ。 (平和博)