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続折々の記 2020④
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 03 】04/07~
非常事態宣言発令
     自粛から統制へ


 04 07 (火) 非常事態宣言発令      自粛から統制へ

あさ 4:40 頃、新聞を取り出して見ると、非常事態宣言発令がいよいよ発令されたことが分かった。


肺炎の情報

国内で確認された感染者 4011人  死者 97人  退院者 575人
  4/6 00:00時点 クルーズ船などを除く。厚労省などによる

都道府県別

 区 分  人 数  区 分  人 数  区分  人 数  区 分  人 数 
 東京都  1040人  大阪府   409人  千葉県 238人  愛知県 227人 
 神奈川県  226人 兵庫県 195人 北海道 194人 埼玉県 174人
 京都府 111人 福岡県 109人 茨城県 64人 福井県 51人
 岐阜県 50人 石川県 43人 新潟県 32人 高知県 31人
 大分県 31人 群馬県 26人 奈良県 25人 和歌山県  25人
 宮城県 23人 熊本県 20人 滋賀県 18人 福島県 16人
 広島県 16人 栃木県 14人 山梨県 13人 三重県 13人
 長野県 12人 愛媛県 12人 青森県 11人 秋田県 11人
 岡山県 11人 山形県 10人 富山県 10人 静岡県 10人
 長崎県 9人 沖縄県 9人 山口県 8人 佐賀県 8人
 宮崎県 6人 徳島県 3人 鹿児島県  3人 香川県 2人
 岩手県 0人 鳥取県 0人 島根県 0人 - -



きょう緊急事態宣言 5月6日まで想定

     東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡を主対象
     2020年4月7日 5時00分
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14432405.html?ref=pcviewer

写真・図版 写真・図版 【緊急事態宣言や緊急経済対策について取材に応じる安倍晋三首相】

 安倍晋三首相は6日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言を7日にも東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に出す意向を明らかにした。期間は1カ月後の5月6日までを想定している。7日に有識者らによる諮問委員会を開き、意見を聞いた上で、正式に決定する。

 ■首相「都市封鎖しない」

 首相は6日午後、諮問委員会の尾身茂会長らと首相官邸で意見交換。同日夕の自民党役員会で宣言を出すことを伝えた。その後、首相官邸で記者団に「感染につながる人と人との接触を減らすため、そして医療提供体制をしっかりと整えていくためだ」などと説明し、国民の理解と協力を求めた。宣言後に記者会見を開き、説明する方向だ。

 首相はまた、「都市封鎖を行うことはない、する必要もない」とも述べた。外出自粛などに罰則を設ける海外の「ロックダウン」(都市封鎖)と、緊急事態宣言を同一視し、誤解する人もいるためで、公共交通機関の運行や食料品店の営業などの経済社会活動は可能な限り維持するとした。

 特措法に基づく緊急事態宣言は初めて。新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に新型コロナを追加する改正法が3月に成立、施行されていた。

 感染拡大防止に必要な措置を実際に講じるのは、対象区域の都道府県知事だ。住民への不要不急の外出の自粛要請や、学校や劇場、百貨店、体育館といった施設の使用停止、イベントの開催制限の要請・指示など私権の制限を伴う措置がとれる。食品や医薬品、衛生用品、燃料など厚生労働相が定める生活必需品の売り場は営業できる。

 要請や指示に違反しても罰則はないが、法律に基づく自粛要請となり、心理的な影響は強くなるとみられる。

 首相はまた、6日夜の政府対策本部で、PCR検査態勢を1日2万件へ倍増する方針を表明。感染者を受け入れる病床数をいまの約2万8千床から約5万床まで増やすことや、重症者の治療に必要な人工呼吸器を1万5千台確保し、さらに増産する考えも示した。(菊地直己)

 ■経済対策108兆円規模

 安倍晋三首相は6日夕、首相官邸で記者団に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、過去最大となる事業規模108兆円の緊急経済対策を実施すると表明した。減収世帯への30万円の現金給付や、売り上げが半減した中小・小規模事業者への最大200万円の給付金などを盛り込む。7日にも正式決定する。

 安倍首相は「過去にない強大な規模となるGDP(国内総生産)の2割にあたる事業規模108兆円の経済対策を実施することとした」と強調。事業規模は、リーマン・ショック時の2009年に政府が実施した対策(56・8兆円)の倍近くになる。

 具体的には、家庭や中小・小規模事業者に対して総額で6兆円を超える現金を給付するほか、無利子融資を民間金融機関でも受けられるようにし、26兆円規模で事業者の納税や社会保険料の支払い猶予をすることも明らかにした。

 これに先立ち与党はこの日、政府の対策案を了承。対策は感染拡大が収束するまでの段階と、収束後の経済回復をめざす段階に分けて実施。治療薬として期待される「アビガン」の備蓄確保▽児童手当の増額▽観光や飲食の利用者への割引クーポンなども盛り込まれる。

 ■首相発言の骨子

<緊急経済対策>

 ・ 事業規模108兆円。国内総生産(GDP)の約2割
 ・ 現金給付は6兆円超
 ・ 納税、社会保険料の支払い猶予は26兆円規模

<緊急事態宣言>

 ・ 7日にも出す
 ・ 対象は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡
 ・ 期間は1カ月程度
 ・ 都市封鎖は行わない
 ・ 爆発的感染を防ぐため、外出自粛に全面的に協力を
 ・ 宣言後に記者会見を開き、丁寧に説明する


東京都が休止要請案 きょう緊急事態宣言

     ショッピングモール・居酒屋・理髪店・塾… 
     2020年4月7日 5時00分

 緊急事態宣言の対象区域になる東京都の対応案が判明した。娯楽施設などに休止を要請する一方、病院やスーパーなどは「生活インフラ」として要請の対象とはしなかった。小池百合子知事も6日夜、緊急の記者会見を開き、特別措置法に基づく外出の自粛を都民に要請した。

 都の「緊急事態措置案」では、特別措置法に基づいて施設の使用制限などの基準を示した。具体的には「基本的に休止を要請する施設」「施設の種別によっては休業を要請する施設」「社会生活を維持する上で必要な施設」の三つに分類し、それぞれの対象施設を細かく示した。

 休止を要請する施設は、小規模店舗を除いた、ショッピングモールなどの商業施設、ボウリング場やカラオケ店などの娯楽施設、居酒屋など。小中学校・高校は「原則として施設の使用停止」とした。休業などに協力した事業者には「感染拡大防止協力金」の仕組みを検討しているという。

 病院や薬局、スーパーやコンビニ、銀行や飲食店については、感染防止対策への協力を要請した上で営業を続けることを明記。その際は、行列をつくらずに人と人との間隔を約2メートル確保するよう求める。また、買い占め行為については「厳に慎んでいただきたい」とも呼びかけた。

 小池知事は会見で、都内の感染状況について「高水準で推移しており、逼迫(ひっぱく)した状況」とした上で、外出自粛や休止の要請に対する理解を求めた。詳細は明らかにしなかったが、対象施設については「現在、国と調整中」と述べた。

 また、都は6日、軽症者や無症状患者約100人について、7日午前から順次、ホテル「東横INN東京駅新大橋前」(中央区)に移送させる方針を明らかにした。防衛省も6日、小池知事から災害派遣要請があったことを明らかにした。自衛官約10人を7日から都内のホテルに派遣し、感染者の生活支援にあたる。(軽部理人)

 ■緊急事態宣言に向けた都の対応案

 <基本的に休止を要請する施設>
大学や専修学校など教育施設、学習塾、体育館、ゴルフ練習場、スポーツクラブ、劇場、映画館、ライブハウス、展示場、博物館、図書館、百貨店、ショッピングモール、理髪店、質屋、キャバレー、ナイトクラブ、バー、個室ビデオ店、ネットカフェ、カラオケボックス、パチンコ店、ゲームセンターなど
 <施設の種別によっては休業を要請する施設>
学校(大学などを除く)、保育所、介護老人保健施設など
 <社会生活を維持する上で必要として休業を求めない施設>

病院、診療所、薬局、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホテル、バス、タクシー、電車、物流サービス、工場、公衆浴場、飲食店(夜間・休日など営業時間の短縮、居酒屋は休業の要請)、金融機関や官公署(いずれもテレワークの一層の推進を要請)など

(時時刻刻)

感染急増、一転緊急事態宣言へ

     経済懸念、当初は慎重論 新型コロナ
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14432388.html?ref=pcviewer


写真・図版 写真・図版 【各国や都市の感染者の増加の様子】

 安倍晋三首相が緊急事態宣言に踏み切ることになった。経済的な打撃や、「ロックダウン」(都市封鎖)と同一視されていることによる国民生活の混乱への懸念があったものの、東京都の感染者の急増や病床数のひっぱくなどを受け、宣言は避けられないと判断した。

 6日夕、首相官邸で記者団の前に現れた安倍首相が求めたのは、国民の冷静な対応だった。

 「日本では緊急事態宣言を出しても、海外のような都市の封鎖を行うことはしないし、そのようなことをする必要もない」

 緊急事態宣言は海外で行われている「ロックダウン」(都市封鎖)とは異なるものであると強調する言葉には、宣言を出すことによる社会的な混乱を避けたいとの思いが色濃くにじんだ。

 緊急事態宣言について、政府はこれまで「ぎりぎり持ちこたえている。緊急事態宣言が必要な状況ではない」(菅義偉官房長官)として、慎重な姿勢を維持してきた。

 その大きな理由の一つに、宣言が経済に与える打撃への懸念にあった。

 政権内でも議論はギリギリまで続いた。政権ナンバー2の麻生太郎副総理兼財務相は3日、緊急事態宣言を早く出すべきだと主張する閣僚の一人に「経済がとんでもないことになる。ガタガタになる」と反論したという。菅氏も経済への影響を考え、慎重姿勢を貫いていた。安倍政権を中枢で支えてきた2人の意見は、首相にとっても影響力を持った。

 小池百合子・東京都知事が3月23日の会見でロックダウンを強調したことは、さらに首相らを困惑させた。そもそも緊急事態宣言が出ても「外出自粛」は要請にすぎず、強制力は伴わない。しかし、小池氏は会見で「『ロックダウン』など強力な措置をとらざるをえない状況が出てくる可能性がある」と発言。「緊急事態宣言」と「ロックダウン」を同一視する見方が広がり、スーパーなどで買い占めが起きた。

 こうした事態に、官邸からは「迷惑だ」(首相周辺)との声が上がり、政府関係者は「『ロックダウン』のイメージを払拭(ふっしょく)しなければ、パニックが起きる。経済へのダメージも計り知れない」と懸念を口にした。政権批判に直結しかねない経済や国民生活の混乱は、避けなければならなかった。

 しかし、感染は広がり、緊急事態宣言を出すべきだという世論も高まっていった。

 4月1日には、首相と懇意の横倉義武日本医師会(日医)会長が「医療危機的状況宣言」と題する文書を発表。宣言では、大都市圏を念頭に「一部地域では病床が不足しつつある」とし、これ以上の患者増加は医療現場の対応力を超えると指摘した。4日には東京都の1日あたりの感染者数が初めて100人を超えた。

 政権幹部によると、首相はこうした動きを受け、緊急事態宣言を出さざるを得ないと4日に最終判断したという。

 (岡村夏樹、二階堂友紀)

 ■「医療崩壊、近づいている」 人との接触、8割減なら歯止め

 「かなり厳しい。医師も看護師もかなり疲れている」。東京都医師会の尾崎治夫会長は6日の会見で、都内の複数の「名のある病院」から、こうした声がこの1週間で出始めたと訴えた。日本看護協会の福井トシ子会長も3日、「医療崩壊に近づいているのが現状だ。感染者が急増した病院では、医療器具や医療従事者が不足し、重症者の治療が追いつかない」と危機感をあらわにした。

 政府の専門家会議が1日にまとめた分析では、日本はまだ欧米のような爆発的な感染拡大に至っていない。だが、それ以前に医療体制の限界を超え、現場が機能不全に陥ると指摘していた。日本医師会などは緊急事態宣言を早く出すよう求めていた。

 宣言の狙いは、より強い対策によって、人と人との接触を大きく減らすことで、感染拡大に歯止めをかけることだ。厚生労働省クラスター対策班に参加する北海道大の西浦博教授の試算では、近い距離での会話やちょっとした人との体の接触の回数を8割減らせば、新たな感染者を一気に減らせる。だが、それが2割減にとどまれば、効果はほとんど得られない。

 政府や自治体は、各地で生じた感染者の集団(クラスター)を見つけ、そこからの感染を防ぐことに力を入れてきた。クラスターを抑えれば、新型コロナウイルスの感染者は平均で1人未満にしか感染させず、自然消滅に追い込むことができるためだ。ある医療関係者は「いつ、どこで感染したかたどれる限りは、答えのわかっているテストをするようなもの」と話す。このため、クラスターが生じやすい3密と呼ばれる環境「密閉、密集、密接」を避けるよう呼びかけてきた。

 だが、感染者が増えればクラスター対策も限界に近づく。

 その状況に入ったのが3月下旬だ。欧米などで感染した多くの人が帰国・入国。大学の春休みや「自粛疲れ」、政府が一斉休校の要請をやめる動きも相まって社会活動が活発になり、各地でクラスターが続発した。厚労省によると、5人以上のクラスターは31日時点で、14都道府県26件。どこで感染したかわからないケースも急増し、東京都では4月3~5日に感染が確認された349人の6割超に上る。さらに、東京など都市部から帰省し、地方にも感染が広がる事態が起きている。

 宣言の対象地域では、より強力に人との接触を避ける対策が始まる。だが、効果が不十分で感染者を大幅に減らせなければ、病院の対応能力を超えて必要な治療が受けられない状況が現実味を帯びる。

 一方、成功しても、現状ではウイルスを完全に排除できないとみられる。再びクラスター対策で対応可能なレベルの感染状況に落ち着かせ、長期的に対策を続けることになる。感染が急増すれば、改めて宣言が必要な事態になり得る。(嘉幡久敬、三上元、後藤一也)




アビガンに期待する人が押さえておきたい裏側
奇形児発生の副作用、投与なら早めに慎重に

     坂口 直 : 医薬経済社編集部 記者
     2020/04/08 16:10
     https://toyokeizai.net/articles/-/342917?page=4

新型コロナ感染症の治療薬候補として世界各国の注目を集める「アビガン」(写真:富士フイルム)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で蔓延するなか、富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」が注目を浴びている。安倍晋三首相が記者会見で名指ししてアピールした薬剤で、新型コロナウイルスへの治療薬として期待が高まっている。だが開発の経緯を子細にたどると、実際の治療で使われるためには、越えなければならない高いハードルがある。

菅官房長官は4月3日の記者会見で、アビガンを希望する各国に無償提供する方針を明らかにした。現時点で約30カ国から提供要請があるという。

アビガンが注目されたきっかけは、実際に新型コロナに感染した患者に使用した中国の試験で、効果がみられたからだ。新型コロナウイルスの発生源とされる武漢市の武漢大学中南病院では、患者を「アビガン(中国では後発品のファビピラビル)」を投与したグループ(116人)と、ウイルスの侵入を阻害する薬剤である「アルビドールを投与したグループ(120人)の2つに分け、効果を比較した。その結果、回復率はアビガン投与群が「71.4%」、アルビドール投与群は「55.9%」と差がみられた。

さらに、深圳第三人民病院では、アビガンを投与したグループ(35人)と、新型コロナにも効き目があるとみられている抗HIV薬の「カレトラ」を投与したグループ(45人)に分けて比較したところ、新型コロナウイルスが消失した期間は、アビガン投与群が「4日」、カレトラ群「11日」だった。胸部画像による改善率では、アビガン群「91.4%」、カレトラ群「62.2%」と、アビガンが効果を示した。

2つの試験は3月に論文として公表されたが、後者は今月に入って取り下げられたことがわかっている。その理由は不明だ。

効果が確認されればコロナ治療薬になりうる

いまだ有望な治療薬もワクチンも見つかっていないなかで、もし効果が確認されれば、貴重な薬剤となる。日本でも臨床試験が始まったが、中国でもさらなる臨床試験が行われている。

安倍首相は2月29日の記者会見で、「アビガンを含む3つの薬について、新型コロナウイルスに有効性があるかどうかを見極めるため、観察研究としての患者への投与をすでにスタートしている」と述べ、3月28日の記者会見では国産であることをアピールするかのように「アビガンは海外の多くの国から関心が寄せられ、臨床研究を拡大するとともに、増産をスタートする」と語った。

ここで、アビガンの開発にさかのぼってみよう。

アビガンはもともと富士フイルムホールディングスに買収された旧富山化学が1990年代後半から開発してきた薬剤だ。抗菌薬、炎症性疾患、神経系疾患の領域を対象に、新薬のタネを探していたところ、たまたまインフルエンザに活性のある(インフルエンザウイルスに作用する)化合物を見つけた。それが開発コード「T-705」、のちのアビガンだ。

T-705は当初から大きな期待を背負っていた。代表的な抗インフルエンザ薬「タミフル」が細胞内で増殖したウイルスを外へ出なくさせる作用機序(作用メカニズム)を持つのに対して、アビガンは「RNAポリメラーゼ」という酵素を阻害することでウイルスの増殖そのものを防ぐ、今までにない作用機序であるためだ。原理上は、遺伝子変異が起きず、耐性ウイルスを生じないといわれている。2000年にカナダで開催された国際会議では、アビガンがインフルエンザのほか、既存の抗インフルエンザ薬の耐性ウイルスにも有効性があったことを示した。

T-705が発表されてしばらくの間、この新薬候補は将来の売り上げが1000億円を超す大型製品になると目されていた。ところが開発がストップしてしまう。

開発資金の不足とタミフルの先行

理由の1つには開発資金の不足があった。当時、富山化学が販売していた脳梗塞後遺症治療薬「サープル」の有効性が否定され、全品が回収に追い込まれていた。2つ目の理由として、ライバル薬として1999年にアメリカで承認されたタミフルがすでに世界中で使われ始めていた。T-705はヒトを対象とした試験がまだであり、薬剤として世に出るには数年先になってしまう。その間にタミフルが市場シェアを押さえてしまえば、挽回するのは容易ではなかった。さらには、動物実験段階で「催奇形性」の副作用のリスクがあった。

催奇形性とは、妊婦のお腹の中にいる胎児に障害が出る、薬剤にとっては致命的な副作用だ。抗がん剤などの中には催奇形性のある薬剤があり、妊娠の可能性のある世代には厳重な管理が求められている。それでなくとも「催奇形性」というだけで敬遠されがちだ。複合的な理由が重なり、開発は中止された。

だが、しばらくして転機が訪れた。2004年ごろから、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染して死亡する事例が世界的に多発したのだ。世界保健機関(WHO)も、事態を受けて「ヒトへの感染が広がり続けると、新型のインフルエンザウイルスが出現し、世界的な感染爆発に発展する可能性が高まる」との警告を始めた。日本でも病原性の高い鳥インフルエンザウイルスが新型インフルエンザウイルスに変異した場合、致死率は高くなるのではないかとの一部の専門家の指摘をもとに厚労省がはじき出した被害想定では、死亡者数を「17万~64万人」と推計した。

→次ページ鳥インフルに効果ありも催奇形性の副作用リスクが問題視

そこで再びT-705に注目が集まる。タミフルとは作用機序が異なるため、パンデミック(世界的大流行)時に、タミフルでは効かない患者に投与する薬剤としての価値が見いだされたようだ。2004年にアメリカの国立アレルギー感染症研究所は、富山化学から提供されたT-705が高病原性の鳥インフルエンザに効果があることを突き止めた。これが契機となって、催奇形性の副作用はあるものの、富山化学は「経営上の判断」(富山化学関係者)によって、2007年にヒトを対象とした臨床試験を開始し、2011年には国に薬剤としての認可を求める申請にまで漕ぎつけた。

しかし、やはりここで壁にぶち当たった。薬剤の有効性や安全性について審査する日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、T-705の催奇形性の副作用リスクを問題視したのだ。動物実験で胎児の催奇形性が認められたことから、ヒトへの影響が強く懸念されるため、慎重に審査されることになった。 審査に3年を要しても承認に突き進んだ

当時の富山化学が催奇形性のリスクがわかっていながら承認申請に突き進んだ理由は謎だが、結局、アビガンが承認されたのは2014年だった。通常だと1年程度で済む審査期間が3年もかかっている。さらに、当初は通常の季節性インフルエンザに使用できる薬剤をめざしていたが、結局は新型インフルエンザにのみ使用が認められた。通常のインフルエンザに使われないよう徹底した管理を求められ、その後、パンデミックに備えて、200万人を目標に備蓄されることになった。

資金難や催奇形性の紆余曲折を経て、いわば「首の皮一枚」でつながったアビガンが、今、新型コロナの「切り札」として注目を集めている。なぜ抗インフルエンザウイルス薬が新型コロナウイルスに効果をもたらす可能性があるのかは未解明だが、共通点はインフルエンザも新型コロナも同じ「RNAウイルス」であることだ。2013年末に西アフリカで起きた「エボラ出血熱」のアウトブレイク(突発的発生)でも、アビガンが使われ、死亡率を「3分の2」に引き下げる効果があったとされている。このエボラウイルスも同じRNAウイルスだ。

→次ページ開発者「発症6日までに投与開始が必要」

アビガンを共同研究してきた富山大学の白木公康名誉教授(千里金蘭大学副学長)は、開発者という立場上、「自ら発信することにはためらいがある」と話しながらも、中国の論文報告などをもとに、「発症6日までにアビガンを開始すれば、ウイルスの早期消失、咳嗽(せき)の軽減、肺炎の進行や重症化が阻止され、死亡率は激減するはずだ。ウイルス量がピークを過ぎるころから治療を始めても大きな効果は期待できない」と述べる。

白木名誉教授は、「外来の時点で、胸部CTで肺炎を確認して、アビガンを使用して(肺炎の進行を)止めるべきではないか」との考えを示す。

さらに、「アビガンの早期使用は死亡率を下げる効果だけでなく、若い患者が、間質性肺炎による肺の線維化(スポンジのようになり機能しなくなること)や瘢痕化(炎症によって傷跡が残ること)などの後遺症を残さないことにも意味がある」とする。また、「高齢者が急激な悪化を防ぐためにもアビガンは有用」とみている。

催奇形性の影響受ける世代には慎重な投与必要

これだけ聞くとアビガンの早期承認が待たれるが、実際の医療現場で使うとなるには大きな課題がある。白木氏は、早期の段階(無症状や症状の軽い段階)から使えば効果が期待できるとするが、とくに催奇形性の影響を受けやすい世代には、事前に説明して承諾を得なければならない。それは、致死的な症状に陥るかわからない段階で、催奇形性のある薬剤の投与を勧めることを意味する。男性に投与した場合、精液へ移行することがわかっている。

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それに備蓄薬としては承認されたが、実際に使われた実績がなく、広く使われた場合にどんな副作用が生じるかは不明だ。承認を得る段階での試験では患者数が限られており、広範囲に使われたときに持病や特異な体質をもつ人にどんな副作用が起きるかは想像がつかない。

アビガンが新型コロナウイルスの救世主になる可能性はあるかもしれない。その一方で、副作用を踏まえたうえでインフォームドコンセントをどうするか、どんな患者にどのように使用するかなど、クリアしなければならない課題は大きい。

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