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続折々の記 2020④
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】04/03~     【 02 】04/05~     【 03 】04/07~
【 04 】世情~     【 05 】祖先を訪ねて(1)     【 06 】祖先を訪ねて(2)
【 07 】祖先を訪ねて(4)     【 08 】世情~     【 09 】世情~
――――――――――――――――――――――――――――――
【 04 】04/10~
ウイルス激震を絶好のチャンスに
     こけたら何かを拾え

パンデミック克服後、全く違う世界に
     イアン・ブレマー氏

怒涛のように日本歴史の改変が進む
     失われた十部族の足跡

激震コロナウイルス 世界の断面
     ウイルスも命を授かっている

「急ぐ必要ない」72% 国会での憲法改正議論
     朝日新聞社世論調査


 04 10 (火) ウイルス激震を絶好のチャンスに      こけたら何かを拾え

一昨日の午後4:00 頃、坪庭の石垣から続きの畑の石垣まで草を取ろうとした。あやまって井水に落ち右手親指第一関節と指先の一本の骨を折ってしまった

家内の運転で健和会病院へ行き、医師不在のため切石の木下クリニックへの案内状により、治療を受けた。

刃物の切り傷は細胞の損傷が単純だが、今回は力がかかって引き裂いた状態だったので、夜中の3:00過ぎまでは痛みで眠ることはできなかった。

また、子供たちに心配かけてしまった。 子供たちといっても、もう60を迎えた自分の人生の仕事を終える齢である。 恥くそといえば恥くそである。

さて今年は生まれて初めての歴史に残る転換期と思う。 禍を転じて福となせという。

一昨日は、たしかお釈迦様が生まれた日だと聞いていた。 毎朝小さなお地蔵様に手を合わせて、おはようございます私もお釈迦様のように生命いのちを大事にしていきます、と挨拶しています。

生きるということがどれほど大事なことかようやくわかりかけてきたばかりです。 それなのに、とんでもなてことに出会いました。

そしてこの日は新型肺炎ウイルスの発症都市武漢市が二ヶ月余かかって罹患者ゼロに達成し祝賀にした日でした。

そして日本では新型肺炎ウイルスの非常事態宣言発令の日でした。 トランプ米大統領が13日国家非常事態を宣言を宣言して5日目でした。 わたしが日本はアメリカに追従して5日以内に非常事態宣言を発令するぞと言っていた5日目でした。

イタリア、フランス、スペインの情報がわかっているにもかかわらず、中国に近い日本が
ノホホンとしていていいはずはなかったのです。 自粛がだめだとしたら、国中を統制して実施するのが筋なのに……。 いい大人が点取り虫のような、国民にこびたような言葉でまだ自粛の方針を打ち出しているのです。

私の怪我も齢甲斐もない、日本の政治家の程度であった。

アメリカファーストといったトランプ氏も、一国だけの政治ではやっていけない現実を、考えの根底において、核廃棄に始まる武力放棄、世界互恵でないと相互援助の平和がこないことを、深く認識すべきだ考えてほしい。

とにはかくにも、新型肺炎ウイルスに端を発した世界の激震の結果から、新しい世界秩序を生み出す世論の渦をあちらこちらから挙げてほしい。 絶好のチャンスととらえてほしい。 禍福は寝て待て、そんな呑気なことは言ってはおれません。

 04 27 (月) パンデミック克服後、全く違う世界に   イアン・ブレマー氏
パンデミック(pandemic)は、日本語的には“感染爆発”などと訳され、感染症や伝染病が全国的・世界的に大流行し、非常に多くの感染者や患者を発生することをいいます。語源はギリシャ語のパンデミアで、パンは「全て」、デミアは「人々」を意味します。
     国際政治学者、イアン・ブレマー氏
     2020年4月27日
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14456830.html

 新型コロナウイルスの感染拡大は、米国の国力低下と中国の台頭、さらには世界各地で分断が広がる中で起きている。パンデミックを経て、国際社会はどのように変化をするのか。リーダー不在の世界を「Gゼロ」と形容し、そのリスクを指摘してきた米国の国際政治学者、イアン・ブレマー氏に電話で聞いた。(ワシントン=沢村亙)

 ■一気に第4次産業革命/米中対立で真空状態

 ――「Gゼロ」の世界がパンデミックに見舞われました。

 「第2次大戦以来のグローバル危機です。(医療物資の)供給網、人やモノの移動の管理、ワクチン開発、経済刺激策などあらゆる面で国際連携がフル回転すべきです。なのに、だれもリーダーシップをとらない。G7もG20も機能しない。実に恐ろしいです」

 ――パンデミックを克服すれば、世界は元の繁栄に戻れるのでしょうか。

 「ワクチンの完成に1年半かかるとされます。それを世界中に届ける必要があります。接種のための啓発活動も必要です。経済が復興し、人々が安心して旅行できるようになるまで3年はかかるでしょう」

 「ですが、それでも今までとは全く違う世界になります。経済活動は世界に広がるグローバル展開から、消費者に近いローカルなものに移行するでしょう。人の作業がなくても済むオートメーション(自動化)も進み、世界の経済人が将来のものとして予想していた第4次産業革命が一気に到来します」

 ――政治的な影響も大きそうです。

 「大勢の人が仕事を失いますが、しわ寄せは特に労働者層や中間層に重くのしかかり、経済格差につながります。ポピュリズムやナショナリズムの伸長がさらに加速し、エスタブリッシュメント(既得権益層)への反発が盛り上がるでしょう」

 ――米国のトランプ政権が、パンデミックを機に中国の批判を強めています。

 「米国では中国の初期対応をめぐる調査が始まり、『雇用を中国から取り戻せ』という圧力も強まるでしょう。トランプ大統領は、11月の大統領選を見据えて、『アメリカ・ファースト』をさらに強く打ち出すはずです。しかし、米中が互いに敵意を募らせ、相互依存を減らすのは、国際秩序の安定にとってきわめて危険です」

 「米中の関係悪化によって地政学的に真空状態が生まれる事態は、中国にとっても好ましくありません。ただ、優位な面もあります。世界の注目は政治体制や人権の問題より、『シャットダウンから脱却できない欧米』と『経済活動を再開する中国』の対比に移っているためです」

 ――強権国家の方が、パンデミックに対処できるということでしょうか。

 「確かに、監視国家の方が効果的な危機対応ができるでしょう。だが、日本や主要な欧州諸国などの先進国はそれほど中国になびきません。むしろ気がかりなのは、ブラジルなどの新興国です。医療制度が貧弱で、国際通貨基金(IMF)などから十分な財政支援を得られていません。1年以内に、新興国発の金融危機が起きる懸念があります」

     *

 Ian Bremmer 1969年生まれ。シンクタンク・フーバー研究所などを経て、世界の政治リスクを分析する調査会社「ユーラシア・グループ」を98年に設立。現在も社長を務める。(写真は2018年7月、ワシントン、ランハム裕子撮影)

【下平記】

青字部分にどう対処したらいいか、それを承知の上で平和を模索しなければならない。 どうしたらいいのだろうか?

 04 29 (水) 怒涛のように日本歴史の改変が進む      失われた十部族の足跡

昨日は次男の還暦であった。 静かに健康と幸運を祈った。

それに、 「古代日本にたどり着いたユダヤ人  失われた十部族の足跡  イスラエルの地から日本まで」 の本が来た。

     著者はヘブライ人のシャハン博士で私より5才若い人だ。
     翻訳者はヘブライ大学文学学科、聖書学科卒で1966年生まれ
     監修者は杣浩二で神戸平和研究所理事長

【 杣浩二による神戸平和研究所設立の願い文】

 歴史を繙くと、人類は常に国家において、民族において、また宗教において、争いが絶えた事がないと言っても過言ではない悲しい性を抱えて歩んできており、現在のこの瞬間も地球上の何処かで様々な形の紛争が生じています。

 その争いの原因は突き詰めると個人における不寛容であることは間違いのない事なのですが、その元には、私たち人間そのものが持っている、自らを或いは自分の所属している集団や歴史が他者のそれよりも優れている事を確認したいという、そのために他者との差異に注目する罪深い性向があると言えます。

                その結果、民族抹殺や虐殺の歴史が繰り返されたとも言えます。

 私達有志は、他者との差異でなく、共通点を見出すことにより、互いに手を携えて他者との間に延いては世界を平和に導く働きに繋いで行きたいと考えております。 つきましては、多くの人種、宗教が古くから根付き、開かれた国際都市であり、あの未曾有の被害をもたらした阪神淡路大震災の試練を受け、平和と安全を心から希求する街、そしてノーベル平和賞の候補にも上った賀川豊彦縁の地、兵庫県神戸市こそその拠点として最も相応しいとの結論に到りました。

 ここに神戸平和研究所を設立し、それを開放的な拠点として、異なる宗教、思想、文化や歴史等の異なる者が集い、共同して歴史的共通点を探り、可能な限り客観的な情報を発信し、過去の対立軸から、協調軸への転換に資する世界平和を希求する働きの為に活動する事を目的にしたいと考えております。

 此の度設立の運びに至りました平和研究所は、多くの先達の尊い働きに倣いながら、中東と日本を拠点とするアジア圏との繋がりについて、海と陸のシルクロードを辿る事を含め、関わりのある民族、宗教、文化について共に歴史を紐解き、同時に現在に残された痕跡を探り、互いの共通点を確認し合う事により、理解を深め、目的として、その事による平和と寛容の関係作りに貢献する事を特徴とするものです。

 その実効ある働きの為には、先ず互いの存在を全面的に認める事を大前提とし、互いの相違点を超え、互いを学び合い、共に共通の課題を研究する場として関心をお持ち頂いた方々を会員として登録いただきます。

 是非、草の根運動としての「神戸平和研究所」にご参加いただき、研究活動からスタートし、共に学ぶ中から、世界平和への貢献の在り方につきましても共に知恵を出し合おうではありませんか。

【下平記】

政治システムの変化はどうあればいいのか。 米国追従システムから離れるには、今回の世界動乱後の日本の在り方を固める絶好のチャンスととらえなければならない。

そのためにはどうしたらいいのか。

もう一つの問題は、ドル建ての金融システムを変えなくてはならない問題がある。 不換紙幣の発行は金融システムとしては問題が多すぎる。

新しいシステムはどうあったらよいのか。

人々の生活の安定と世界の平和にとって、所得格差をなくして政治と金融の大変革をなしとげることが世界中を通して必要となる。

世界中の民衆が生きることの意味を考え直すことが要請されているのだと思います。

若い人たちに考えてもらいたい。

 05 03 (日) 激震コロナウイルス 世界の断面  ウイルスも命を授かっている

国内の感染者 +307人(14879人)  死者 +31人(517人)  退院者 +230人(4862人)
5/2 22:00 時点  退院者数はクルーズ船の乗客らを含めた数。厚労省などによる

激震コロナウイルス! 世界の断面 !!  世界中の人たちがおびえている。 私もおびえています。 もし罹患すると、年齢身体状況を勘案してみれば生涯を閉じなければならない。
―― すべなきものか、世の中の道 ――



   5月3日 朝日新聞 1面記事

「飢え死にする」 コロナで解雇、150キロ歩いて帰郷

     奈良部健 ヨハネスブルク=石原孝
     2020年5月3日 5時00分
     https://digital.asahi.com/articles/ASN527HJ9N4XUHBI01K.html?iref=comtop_8_01

写真・図版 【インドで全土封鎖が敷かれた3月26日、首都ニューデリーから故郷へ徒歩で向かう出稼ぎ労働者たち=ロイター】

 新型コロナウイルスの大流行により、世界中で4億人以上が貧困状態に陥り、貧困問題は10年前に逆戻りする恐れがある――。国連大学の研究所が先月、そんな予測を出した。報告書を書いた研究者は事態の深刻さを「まるで貧困の津波だ」と語った。途上国で今、何が起きているのか。

 「逃げないと飢え死にすると思った」。インドの首都ニューデリーから故郷ウッタルプラデシュ州の村まで約150キロを2日かけて歩いて帰った運転手のラジュパルさん(42)は電話取材にそう語った。

 「ロックダウンによる経済損失は避けられない。しかし、今はコロナから国民の命を守ることが大事だ」とモディ首相が宣言し、全土封鎖が始まったのは3月25日。翌日、ラジュパルさんは雇い主から解雇され、すでに働いた分の給与の支払いさえ拒まれた。

 村には妻と5歳から14歳の子ども5人を残し、首都で同業仲間たちと一部屋を間借りして、15年間働いてきた。月収1万4千ルピー(約2万円)のうち、半分を家族の元に送金。「家族の食料や衣服、電気代を支払うので精いっぱいだったが、封鎖で全てを失った。ただ村に帰れば食べるものはあると思った」

 一部を除く商店と企業は閉まり、鉄道やバスも止まっていた。ラジュパルさんは27日朝6時に歩き始めた。小麦でつくったチャパティ4枚と下着、現金150ルピー(約200円)以外に持って行くべきものはなかった。同じ頃、故郷へと歩いた労働者らは、数百万人に上ったとされる。

 ラジュパルさんは昼は気温30度以上の炎天下を歩き、夜は路上で寝た。「これからどうやって生活していくのかを考えると、歩き疲れていたが眠れなかった」

 ニューデリーから南東へとのびる国道24号。首都を逃れた人々がアリの列のように先まで見え、背後にも続いていた。皆、無言だった。子連れの家族もいて、聞こえるのは歩き疲れた子どもの泣き声だけ。

 父母が乳幼児を抱っこして強い日差しから守るように、足や体をさすっていた。道ばたに腰を下ろしてめったに通らない車を待ち、車が来ると「歩けない子どもがいるから乗せてほしい」と叫んでいる母親もいた。

 地元メディアによると、12歳の少女は故郷の村まで150キロを歩いている途中で死亡した。

 大移動によって、感染が都市から農村に広がる恐れも指摘された。各州政府は食料や家を失った人のためにシェルターを用意したが、過密な場所での滞在を強いられることも。都市からのウイルスの持ち込みを恐れた地方当局が、路上に避難者を集めて消毒液を放水した様子も報じられた。

 ラジュパルさんが村に帰ると妻は無事を喜ぶと同時に、顔を曇らせた。「今後の生活をどうするか、不安になったんだと思う」。数日後、息子が地元の市場から泣いて帰ってきた。村の人たちから「なぜお前の父親は戻ってきたのか。病気をまき散らしにきたのか」と怒鳴られたという。家が村人から襲撃されないか不安が続く。

 ラジュパルさんは状況が改善すればまたニューデリーに戻って働くつもりだという。「村にいても仕事はない。恐ろしい思いをしたが、戻らないと生きていけない。ただ、いつになったら戻れるのかはわからない。戻れても仕事が見つかるのか」と話す。(奈良部健)

避難所に1千人 政府支援も届かず

 商店や露店がひしめくインド・デリーの旧市街。ラジュディープさん(40)は市場の荷物運び(クーリー)で生計を立てる。800ルピー(約1100円)ほどの1日の稼ぎから、東部ビハール州の村に住む両親や妻、5人の子どもたちに仕送りしてきた。

 一家で唯一の稼ぎ手だったが、全土封鎖で市場は閉鎖され、稼ぎは途絶え、「3日後には食料と手持ちの金は尽きた」と朝日新聞助手に語った。

 同郷の仲間26人と、野菜用の小型トラック3台を借りて故郷を目指すことにした。「警察に知り合いがいるから大丈夫だ」と請け負った運送業者は1人5千ルピー(約7千円)という高額を要求。借金をした友人もいた。すし詰めで荷台に揺られ、500キロほど走った町で警察から引き返せと命令された。

 車がデリーに戻ると、目的地に着けなかったのに運転手は運賃の返金を拒んだ。警察署に駆け込むと「規則に違反して移動したのが悪い」と怒声を浴びせられるだけ。NGOなどが運営する体育館内の一時避難所に連れてこられた。現在もそこにいる。

 約1千人がそこで雑魚寝し、1日2回出されるチャパティと豆カレーを食べる以外、他にすることがない。横になるか、故郷の家族に電話をするだけだ。

 政府は、貧困層への支援を中心とする1兆7千億ルピー(約2兆4千億円)の経済対策を発表。8億人を対象に米や麦を配給、8300万世帯にガス調理用ボンベを提供すると説明した。

 ラジュディープさんは「自分には何も届かない。家族も金がなくて困っている。いつまでもここにいるわけにはいかない。だが、いつになったら出られるのか」と話す。

 避難所にたどり着いた人はまだ幸運なのかもしれない。地元メディアによると、デリー近郊では、塗装業の男性が稼ぎを失い、妻や4人の子どもたちを養えるか悩んで自殺した。直前に自分の携帯電話を売って手にした2500ルピー(約3500円)で砂糖や小麦、米のほか、子どもたちが酷暑でも眠れるよう、扇風機を買って妻に渡したという。

 近年、インドは「世界の成長エンジン」ともてはやされてきた。その陰で、国際労働機関(ILO)によると、露天商や運転手、建設現場の労働者など、政府による管理や保護が及ばない非公式部門(インフォーマルセクター)の立場の弱い労働者が約9割を占める。

 彼らを直撃した全土封鎖が始まった3月25日から、感染者数は56倍の約3万7千人に増えた。元の暮らしに戻れる見通しは全く立たない。(奈良部健)

南アの中間層さえ「生きていけない」

 南アフリカ・ヨハネスブルクのビジネス街。高層ビルやショッピングモール、ホテルなどが立ち並ぶ一角から車で10分。トタン屋根の質素な家屋が密集する地区にたどりつく。マスクをする人はほとんどおらず、あてもなくたたずんでいるように見える住民もいる。この地区に住むエルデス・マロネクさん(37)は、ビジネス街を歩き、プラスチックや空き缶などを拾い集める仕事をしてきた。朝から夕方まで働き、稼ぎは数百円程度。妻と幼い子ども2人を養うだけで必死だった。

 だが、3月下旬から外出禁止措置が取られたことで、外には銃を持った警察や軍の兵士が巡回し、仕事はできなくなった。支援団体が不定期に支給してくれるトウモロコシの粉やパンなどの食料を家族で少しずつ食べて、どうにか生きながらえている。「政府が感染防止のために、ロックダウン(都市封鎖)をするのは理解できる。でも、このままではコロナに感染する前に、貧困のせいで死んでしまう」

 アフリカで唯一の主要20カ国・地域(G20)のメンバー国である南アフリカだが、近年は経済の低迷が続き、国内の失業率は30%近くに上る。感染の拡大で新たに数十万~700万の雇用が失われるとの試算もある。封鎖期間は1カ月以上に及び、経済的に貧しい人々が多く暮らす地区では食料品や酒店の略奪がたびたび報じられた。

 経済の変調は、貧困層だけでなく、中間層以上の生活も狂わせている。

 ケニアの首都ナイロビの高級ホテルで営業担当部長だったピエラ・ムカミさん(40)は、会社員の平均的な月収の倍となる10万ケニアシリング(約10万円)以上を受け取っていた。夫とは別れ、15歳と13歳の子ども2人を育て、高齢の両親に仕送りをする余裕もあった。

 だが、国内で3月12日に初の感染者が確認されると、政府は3月15日、感染国からの入国を停止すると発表。外国人ビジネスマンであふれていた客室は静まりかえった。数日後、上司から「ホテルの営業を取りやめる」と解雇を言い渡された。「仕事は失っても、家賃や学費の支払いは止まらない。3カ月もこんな状態が続けば、生きていけなくなる」と涙ぐむ。

 政府は夜間外出禁止令や地方とナイロビの往来の禁止、公共スペースでのマスク着用の義務化などの防止策を取り、違反すれば2万シリングの罰金か6カ月間の禁固刑、またはその両方が科されるようになった。

 貧困層が多く住むスラム街では、食料品配給に群衆が殺到し、負傷者が出るケースも出ている。外出制限を守らない人々に警察が発砲し、自宅ベランダにいた13歳の少年に流れ弾が当たり、死亡する事件も起きた。

アフリカ、感染ピークはこれから

 アフリカは約13億の人口を抱え、2050年には倍増して世界人口の4分の1を占める見通しだ。近年、10%近い経済成長を遂げる国もあり、「最後の巨大市場」として注目を集めてきた。だが、世界銀行は4月9日、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国の今年の成長率をマイナス2・1%~マイナス5・1%と予測。アフリカ連合は「2千万近い雇用が失われる危機にある」とする。

 4月30日時点で、アフリカの感染判明者は約3万7千人、死者は約1600人だが、国連は今後、30万人以上が死亡する恐れがあると警告。感染者が数百万に上るとの予測もある。感染のピークはこれからだ。

 各国は約50カ国が国境の封鎖や国際線の運航を停止。当初は多くの国が都市封鎖に踏み切り、感染の拡大防止を図ったが、命を優先する政策には限界もある。最貧国マラウイでは、政府が都市封鎖を発表すると「飢えで死ぬより、感染したほうがましだ」と抗議デモが起き、裁判所は4月17日、貧困層への対策が不十分などとして一時差し止めを決定し、政府も貧困層への給付金の支払いを決めた。

 西アフリカのガーナでも、アクフォアド大統領が19日、首都アクラなどで実施していた外出制限策を緩和すると表明。「外出制限は、貧困層や立場の弱い人たちを中心に多くの困難を与えることになった」と理由を語った。途上国で感染防止策を徹底する難しさを浮き彫りにした。

 アフリカ最大の人口を抱えるナイジェリアの最大都市ラゴスでは、食料品を積んだトラックを群衆が襲撃するなど、一部で住民の不満が高まっている。自営業の男性は「マラリアのような病気では、毎年何十万人が死んでいるのに、外出制限なんてしない。なぜコロナだけ大騒ぎするのか」と憤った。

貧困「10年前の水準に後退か」

 世界の貧困層の数は過去30年間、減少傾向にあった。世界銀行によると、国際的に定められた貧困ライン「1日1・9ドル未満」で暮らす極度の貧困層は、1990年には約19億人で、全人口の36%に上っていたが、2015年には約7億3600万人となり、10%まで減っていた。

 国連大学の研究所の報告書は、感染症の影響で収入や消費が20%減ると想定した場合、貧困ラインを下回る人が約4億2千万人増え、約10年前の水準まで戻ってしまうと予測する。縮小が5~10%にとどまったとしても、約8500万人~約1億8200万人まで増える。貧困層の割合が増えるのは1990年以来、初めてだという。

 国連はSDGs(持続可能な開発目標)を定め、2030年までに貧困の撲滅を目指してきたが、報告書は、アジアやアフリカを中心に貧困問題が10~30年前に逆戻りする地域が出てくる恐れがあると指摘する。

 著者の一人、ロンドン大学キングスカレッジのアンディ・サムナー教授(国際開発学)は朝日新聞の取材に「分析をした我々も驚くほど、経済的な影響は深刻なものだ。消費や収入が大幅に落ち込み、その大きさは貧困の津波のように見えた」と語った。

 感染拡大の中心は今、欧米だが、多くの途上国でも広がっている。サムナー氏は「(先進国が)自分たちのことをまず考えるのは理解できる」としたうえで、「この危機は地球規模のもので、ウイルスも簡単に広がる。免疫に対する確たる情報もワクチンもまだない中で、助け合うことが自分たちの感染を防止することにもなるし、危機を収束するうえで重要になってくる」と指摘する。(ヨハネスブルク=石原孝)

   5月3日 朝日新聞 ▼1面記事

「急ぐ必要ない」72% 国会での憲法改正議論

     朝日新聞社世論調査
     2020年5月3日 5時00分
     https://digital.asahi.com/articles/DA3S14464658.html

 3日の憲法記念日を前に、朝日新聞社は憲法を中心に全国世論調査(郵送)を実施した。国会での憲法改正の議論を急ぐ必要があるかを尋ねたところ、「急ぐ必要はない」72%が、「急ぐ必要がある」22%を上回った。安倍晋三首相は改憲議論の加速を訴えてきたが、有権者の意識は高まっていない。▼2・6・7面=詳報、5面=憲法を考える、10面=社説、27面=識者は

 自民支持層の64%が「急ぐ必要はない」と答え、「急ぐ必要がある」は32%だった。無党派層では「急ぐ必要はない」75%、「急ぐ必要がある」18%だった。

 憲法を変える機運がどの程度高まっているかを4択で尋ねると、「大いに」2%と「ある程度」19%を合わせた「高まっている」が21%(昨年調査は22%)に対し、「あまり」58%と「全く」18%を合わせた「高まっていない」は76%(同72%)だった。

 自民党が改憲案に盛り込んだ「緊急事態条項」も尋ねた。大災害時に内閣が法律に代わる緊急政令を出し、国民の権利を一時的に制限するなどの「緊急事態条項」の創設について3択で聞くと、「いまの憲法を変えずに対応すればよい」57%(同55%)、「憲法を改正して対応するべきだ」31%(同28%)、「そもそも必要ない」8%(同10%)だった。自民支持層では「憲法を変えずに対応」51%、「憲法を改正して対応」42%、「そもそも必要ない」4%だった。

 憲法を変える必要があるかどうかを尋ねると、「変える必要がある」43%(同38%)、「変える必要はない」46%(同47%)とほぼ並んだ。9条を変えるほうがよいかどうかについて、「変えないほうがよい」は65%(同64%)を占め、「変えるほうがよい」は27%(同28%)。

 調査は3月上旬から4月中旬にかけて行った。

▼2面=詳報
「反対」58%、昨年より増 安倍政権のもとで憲法改正
     朝日新聞社世論調査

写真・図版 【国会での与野党の勢力は…】  朝日新聞社の全国世論調査(郵送)で、安倍政権のもとで憲法改正を実現することの賛否を聞くと、「反対」58%(昨年調査は52%)に対し、「賛成」は32%(同36%)で、昨年より賛否の差は広がった。▼1面参照

 2016年調査から安倍政権下での改憲の賛否を尋ねている。17年以降、調査対象が変わったため単純な比較はできないが、「反対」は16年58%→17年50%→18年58%→19年52%→20年58%、「賛成」は25%→38%→30%→36%→32%と推移してきた。

 支持政党別で見ると、自民支持層は「賛成」54%、「反対」37%。自民支持層の反対は16年以降で最も高かった。無党派層は「賛成」20%、「反対」67%だった。

 9条について、安倍首相が提案している自衛隊の存在を明記する改正案について尋ねると、「賛成」41%(同42%)、「反対」50%(同48%)。自民支持層は「賛成」62%、「反対」31%。無党派層は「賛成」32%、「反対」56%だった。

 ■与野党の差「小さく」77%

 今回の調査では、自民党の「1強」と言われる国会の与野党の勢力についても2択で聞いた。「与党と野党の差が小さいほうがよい」は77%で、「与党が野党を大きく上回っているほうがよい」17%を上回った。

 自民支持層でも「小さいほうがよい」が66%を占めた。無党派層では81%が「小さいほうがよい」と答えた。

 国会の役割についても聞いた。国会が法律や政策について議論を尽くす役割を「果たしていない」は77%、「果たしている」は17%。国会が政府をチェックする役割を「果たしていない」が76%、「果たしている」が18%だった。

 国会の議論にどの程度関心があるかを4択で聞くと、「大いに」10%と「ある程度」44%を合わせた「関心がある」は54%、「あまり」35%と「全く」9%を合わせた「関心はない」44%だった。年代別では、50代以上の世代は「関心がある」が過半数だったが、40代以下の世代は「関心はない」が過半数を占めた。

▼6面=詳報
安倍政権×憲法、「問題あり」
     朝日新聞社世論調査

写真・図版  公文書廃棄、解釈改憲、国会運営――。安倍政権下で起きた憲法の理念に関わる出来事に、世論調査で有権者の大半が「問題あり」と答えた。安倍晋三首相が提唱する改憲への機運は高まらない中、ポスト安倍の行方にも視線が注がれている。

 ■公文書管理、9割が厳しい目 国会召集82%・解散71%、問題視 第2次政権下の六つの出来事

 第2次安倍政権で起きた憲法にかかわる六つの出来事について、どの程度問題があると思うかを4択で聞いた。

 「政府をチェックするために必要な公文書が残っていない」(知る権利)については、「大いに問題がある」と答えた人は74%に及び、「ある程度問題がある」の20%を合わせると、94%の人が「問題がある」と答えた。「あまり」3%と「全く」1%を合わせた「問題はない」は4%だった。内閣支持層と自民支持層を見ても、「問題がある」がともに91%を占めた。

 ほかの五つについても「問題がある」が「問題はない」を大きく上回った。

 「国会議員が要求した国会の召集に対して、内閣がすみやかに国会を召集しない」(国会召集のあり方)は「問題がある」と答えた人が82%を占めた。「首相が好きなタイミングで衆議院を解散して衆議院選挙を行う」(解散権)は71%、「集団的自衛権を使えるようにするために、内閣がこれまでの憲法の解釈を変える」(解釈改憲)は70%が「問題がある」と答えた。内閣支持層、自民支持層で「問題がある」と回答したのは、国会召集については4分の3、解散権については6割以上、解釈改憲についても5割超だった。

 「選挙の街頭演説をしている首相にヤジを飛ばした人を警察が排除する」(表現の自由)については、全体の63%が「問題がある」と答えた。ただし、内閣支持層、自民支持層では、「問題がある」は5割程度で、「問題はない」とほぼ並んだ。年代によって差があり、「問題がある」は40代以下では5割台だったのに対し、50代65%、60代71%、70歳以上は66%だった。

 「社会保障費が増えすぎないようにする一環として、生活保護の給付額を減らす」(生存権)については、全体で61%が「問題がある」と答えた。内閣支持層、自民支持層ともに5割超が問題視した。年代別に見ると、「問題がある」は30代以下は4割台だったが、60代73%、70歳以上は70%といずれも高めだった。

 ■9条「変えない方がよい」65% 14年以降、常に6割超す

 今回の調査で、憲法第9条を「変えないほうがよい」は65%を占め、「変えるほうがよい」は27%だった。

 条文を示して答えてもらう現在の形の質問を始めた2013年調査では「変えないほうがよい」は52%、「変えるほうがよい」39%だった。14年以降は「変えないほうがよい」が一貫して6割以上を占め、「変えるほうがよい」は3割前後で推移している。

 内閣支持層でも「変えないほうがよい」が53%と過半数で、「変えるほうがよい」は41%。13年は「変える」「変えない」がともに46%と割れていたが、その後「変える」が多数派となったのは18年(「変える」52%、「変えない」43%)だけで、ほかの年はいずれも「変えない」が半数以上だった。

 一方、内閣不支持層では「変えない」が77%と「変える」16%を大きく上回っており、この傾向は14年以降変わっていない。

 支持政党別に見ると、自民支持層では「変えない」が53%で、「変える」40%を上回った。自民支持層の「変える」は、18年の50%が最高で、ほかの年はいずれも4割台だった。

 無党派層では「変えない」が72%で、「変える」は20%にとどまった。13年以降、「変えない」が6~8割を占め続けている。

 いまの憲法を「変える必要がある」と回答した「改憲賛成層」のうち、9条を「変える」は52%で、「変えない」が41%。13年以降、改憲賛成層で9条を「変える」と答えた人は6割前後で推移してきたが、今回はやや減少した。

 ■改憲、「必要」43%「不要」46% いまの憲法「よい」63%

 いまの憲法を変える必要があるかどうかを尋ねると、「必要がある」43%、「必要はない」46%でほぼ並んだ。

 第2次安倍政権が発足した翌年の2013年調査では「必要がある」が54%で「必要はない」37%を上回っていたが、14年以降は逆転し、「必要はない」が上回ってきた。安全保障関連法が成立後の16年は「必要がある」37%、「必要はない」55%と差が広がっていた。今回は、前回19年の「必要がある」38%、「必要はない」47%から差が縮まり、14年以降では最も接近した。

 支持政党別で見ると、自民支持層は「必要がある」55%、「必要はない」37%。立憲民主支持層は「必要がある」22%、「必要はない」70%。無党派層は「必要がある」39%、「必要はない」46%だった。

 男女別でみると、男性は「必要がある」48%、「必要はない」45%と拮抗(きっこう)したが、女性は「必要がある」39%、「必要はない」47%だった。年代別では、40代以下で「必要がある」が上回ったが、70歳以上は「必要がある」36%、「必要はない」56%だった。

 「必要がある」と答えた人でも、安倍首相のもとでの改憲には35%が「反対」と答え、改憲論議についても53%が「急ぐ必要はない」としており、温度差がうかがえる。

 日本の憲法が全体としてよい憲法かと聞くと、63%が「よい憲法」と答え、「そうは思わない」は27%。第2次安倍政権以降、一貫して過半数が「よい憲法」と答えており、現行憲法への評価が高いことも背景にありそうだ。

 【憲法9条の条文】

 第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 ◇この特集は、磯部佳孝、江口達也、植木映子、君島浩、川本俊三、風間裕之、四登敬、グラフィックは野口哲平が担当しました。

 (7面に続く)

▼7面=詳報
「公正・誠実」、次の首相に期待
     朝日新聞社世論調査

写真・図版 次の首相にもっとも必要なものは… 写真・図版 写真・図版  (6面から続く)

 ■ポスト安倍、支持層の望みは

 次の首相にもっとも必要なものは「公正さ・誠実さ」か、「リーダーシップ」か――。次の首相に誰がふさわしいかを6人の名前を挙げて尋ね、それぞれの支持層別で分析すると、有権者が求める「首相の資質」は分かれた。

 次の首相に求める資質を5択で聞くと、全体では、「公正さ・誠実さ」が40%で最多。「リーダーシップ」22%、「政策・理念」20%、「調整能力」11%、「発信力」4%と続いた。

 次の首相の支持層別では、支持率が6人中トップだった石破茂氏の支持層は「公正さ・誠実さ」45%がもっとも多く、「リーダーシップ」23%、「政策・理念」20%と続いた。

 一方、安倍首相が「後継者」と目するとされる岸田文雄氏の支持層は「リーダーシップ」33%がもっとも多かった。「政策・理念」26%が続き、「公正さ・誠実さ」は24%の3番手だった。

 ほかの政治家の支持層をみると、「公正さ・誠実さ」がトップだったのは、39%の小泉進次郎氏と、53%の枝野幸男氏。一方、「リーダーシップ」がトップだったのは、34%の河野太郎氏と、26%の菅義偉氏だった。

 安倍首相の次の首相に誰がふさわしいか(7択)は、石破氏24%、小泉氏13%、河野氏7%、岸田氏・菅氏・枝野氏6%の順だった。「この(選択肢の)中にはいない」は29%で最多だった。

 ■安倍首相4選「反対」66%

 自民党が党則を変え、安倍首相が党総裁を4期目も続けることへの賛否を聞いた。全体では、「反対」が66%で、「賛成」の26%を上回った。

 内閣支持層は「賛成」56%、「反対」36%だったが、不支持層の「賛成」は3%しかなく、「反対」が94%に上る。自民支持層は「賛成」48%、「反対」46%で拮抗(きっこう)した。無党派層は「反対」73%で、「賛成」の16%を上回った。

 次の首相に誰がふさわしいと思うかによっても、安倍首相4選への賛否は温度差があった。

 安倍首相と距離を置く石破茂氏を支持する層は、「賛成」17%、「反対」81%と圧倒的に反対が多かった。一方で、岸田文雄氏の支持層は「賛成」35%、「反対」62%。菅義偉氏の支持層は「賛成」43%、「反対」51%だった。

 次の首相にふさわしい人物が「この(選択肢の)中にはいない」と答えた層では、「賛成」25%、「反対」66%だった。

 ■「衆院選で首相交代を」46%

 これからの首相交代のあり方も尋ねた。

 「自民党の中から首相が選ばれ続けるほうがよい」は44%、「衆院選による政権交代で首相が代わるほうがよい」は46%。自民党内で首相が代わる「疑似政権交代」と、与野党の政権交代が拮抗(きっこう)した。

 年代別でみると、40代と50代でいずれも「疑似政権交代」48%が、「衆院選による」40%を上回った。一方で、30代は「疑似政権交代」37%、「衆院選による」47%。70歳以上は「疑似政権交代」41%、「衆院選による」53%だった。

 支持政党別で見ると、自民支持層は「疑似政権交代」が76%、「衆院選による」19%。これに対し、無党派層は「疑似政権交代」が28%、「衆院選による」57%と逆転した。立憲民主支持層は「疑似政権交代」8%、「衆院選による」87%だった。

 ■改憲への世論喚起、成功せず 境家史郎・東大准教授

 安倍首相は積極的に憲法改正を議論し、世論を喚起しようとしているが、成功していない。改憲すべきだという世論も、それに反対する世論も盛り上がっていないことが、今回の調査からうかがえる。

 改憲については、安倍政権だから反対するという人が必ずしも多いわけではない。私たちの研究では、9条改正賛否の質問文に「安倍晋三」という言葉があってもなくても、結果への影響は大きくない。むしろ、「近々」など改正時期が記されていると、反対が多くなり、早急な改憲の動きに慎重なことがうかがえる。

 今回の朝日新聞の調査でも、国会での改憲議論を「急ぐ必要はない」72%と圧倒的だったことも、このことを裏付けている。

 改憲機運が盛り上がらないもう一つの理由は、立憲民主党が首相の改憲論に反対していることが挙げられる。歴史を見渡しても、野党第1党が明確に反対する改憲論を、世論の大勢が支持するケースは皆無だ。

 安倍首相が改憲議論を進めたいのであれば、まずは野党第1党との合意を得る努力をするべきだ。合意案がよいものであれば、世論は後からついてくる。

 さらに、憲法への有権者の関心が低い現状がある。安倍政権下で起きた憲法に関わる出来事について、「問題がある」と答える人が大半を占める一方で、安倍内閣の支持率は40%前後で推移し、長期政権を支えている。これは、有権者に憲法の理念や立憲主義が十分浸透していないことを意味しているのではないか。

 ■質問と回答

 (数字は%。小数点以下は四捨五入。質問文と回答は一部省略。◆は全員への質問。◇は枝分かれ質問で該当する回答者の中での比率。〈 〉内の数字は全体に対する比率。特に断りがない限り、回答は選択肢から一つ選ぶ方式。東京大学・谷口将紀研究室との共同調査部分を含む)

◆安倍内閣を支持しますか。支持しませんか。

支持する42▽支持しない48

◆いま、どの政党を支持していますか。

自民37▽立憲9▽国民1▽公明4▽共産3▽維新3▽社民1▽希望0▽NHKから国民を守る党(N国)1▽れいわ1▽その他の政党0▽支持する政党はない38▽答えない・わからない2

◆仮にいま、衆議院選挙で投票するとしたら、比例区では、どの政党に投票したいと思いますか。

自民44▽立憲17▽国民3▽公明6▽共産6▽維新8▽社民2▽希望0▽N国2▽れいわ3▽その他の政党2▽答えない・わからない7

◆日本の政治をどの程度信頼していますか。

大いに信頼している2▽ある程度信頼している42▽あまり信頼していない43▽まったく信頼していない12

◆いまの暮らし向きをどう感じていますか。

余裕がある3▽どちらかといえば余裕がある34▽どちらかといえば苦しい48▽苦しい13

◆政治や社会の出来事についての情報を得るとき、参考にするメディアは何ですか。(複数回答)

新聞55▽テレビ87▽ラジオ16▽雑誌8▽インターネットのニュースサイト55▽ツイッターやフェイスブックなどのSNS14

◆自民党総裁の任期は、自民党の決まりで、連続3期までになっています。この決まりを変えて、安倍首相が4期目も続けることに賛成ですか。反対ですか。

賛成26▽反対66

◆次の首相には、だれがふさわしいと思いますか。

石破茂24▽岸田文雄6▽河野太郎7▽菅義偉6▽小泉進次郎13▽枝野幸男6▽この中にはいない29

◆次の首相にもっとも必要なものは何だと思いますか。

政策・理念20▽調整能力11▽リーダーシップ22▽公正さ・誠実さ40▽発信力4

◆次の首相は安倍政権の路線を引き継ぐほうがよいと思いますか。引き継がないほうがよいと思いますか。

引き継ぐほうがよい34▽引き継がないほうがよい57

◆自民党の中から首相が選ばれ続けるほうがよいと思いますか。それとも、衆議院選挙による政権交代で首相が代わるほうがよいと思いますか。

自民党の中から首相が選ばれ続けるほうがよい44▽衆議院選挙による政権交代で首相が代わるほうがよい46

◆国会の議論にどの程度関心がありますか。

大いに関心がある10▽ある程度関心がある44▽あまり関心はない35▽まったく関心はない9

◆国会が法律や政策について議論を尽くす役割を果たしていると思いますか。果たしていないと思いますか。

果たしている17▽果たしていない77

◆国会が政府をチェックする役割を果たしていると思いますか。果たしていないと思いますか。

果たしている18▽果たしていない76

◆国会での与野党の勢力について、うかがいます。与党が野党を大きく上回っているほうがよいと思いますか。それとも、与党と野党の差が小さいほうがよいと思いますか。

与党が野党を大きく上回っているほうがよい17▽与党と野党の差が小さいほうがよい77

◆以下は、憲法第9条の条文です。(憲法9条条文は省略)憲法第9条を変えるほうがよいと思いますか。変えないほうがよいと思いますか。

変えるほうがよい27▽変えないほうがよい65

◆いまの自衛隊は、憲法に違反していると思いますか。違反していないと思いますか。

違反している22▽違反していない69

◆安倍首相は、憲法9条の1項と2項をそのままにして、新たに自衛隊の存在を明記する憲法改正案を提案しています。こうした9条の改正に賛成ですか。反対ですか。

賛成41▽反対50

◇(「賛成」と答えた人に)それはどうしてですか。

自衛隊を憲法に明記することで、自衛隊が海外で活動しやすくなるから46〈19〉▽自衛隊は憲法に違反しているという疑いがなくなるから28〈12〉▽自衛隊員が今より誇りを持てるようになるから23〈9〉

◇(「反対」と答えた人に)それはどうしてですか。

自衛隊を憲法に明記することで、自衛隊の海外活動が拡大するおそれがあるから61〈30〉▽政府はこれまでも自衛隊は合憲としており、変える必要がないから28〈14〉▽戦力の不保持をうたった2項を削除するべきだから7〈4〉

◆いまの日本の憲法は、全体として、よい憲法だと思いますか。そうは思いませんか。

よい憲法63▽そうは思わない27

◆いまの憲法を変える必要があると思いますか。変える必要はないと思いますか。

変える必要がある43▽変える必要はない46

◆安倍首相は憲法改正を目指すことを明言しています。安倍政権のもとで憲法改正を実現することに、賛成ですか。反対ですか。

賛成32▽反対58

◆国民の間で、憲法を変える機運が、どの程度高まっていると思いますか。

大いに高まっている2▽ある程度高まっている19▽あまり高まっていない58▽まったく高まっていない18

◆国会での憲法改正の議論を、急ぐ必要があると思いますか。急ぐ必要はないと思いますか。

急ぐ必要がある22▽急ぐ必要はない72

◆自民党は、憲法改正の条文案をまとめています。これらの改憲項目について、どのように考えますか。

・大規模な災害などの際に、内閣が法律に代わる緊急政令を出して、国民の権利を一時的に制限したり、国会議員の任期を延長したりする「緊急事態条項」の創設

憲法を改正して対応するべきだ31▽いまの憲法を変えずに対応すればよい57▽そもそも必要ない8

・経済的な理由にかかわらず、誰もが教育を受けられるよう、国が教育の充実に向けた環境整備に努めること

憲法を改正して対応するべきだ36▽いまの憲法を変えずに対応すればよい57▽そもそも必要ない3

・有権者の「一票の格差」にかかわらず、参院選では、3年の改選ごとに、人口の少ない県からも、必ず1人は参院議員が選出されるようにすること

憲法を改正して対応するべきだ32▽いまの憲法を変えずに対応すればよい50▽そもそも必要ない13

◆憲法にかかわる以下の出来事について、どの程度問題があると思いますか。

・首相が好きなタイミングで衆議院を解散して衆議院選挙を行う

大いに問題がある26▽ある程度問題がある45▽あまり問題はない21▽まったく問題はない4

・国会議員が要求した国会の召集に対して、内閣がすみやかに国会を召集しない

大いに問題がある31▽ある程度問題がある51▽あまり問題はない12▽まったく問題はない2

・政府をチェックするために必要な公文書が残っていない

大いに問題がある74▽ある程度問題がある20▽あまり問題はない3▽まったく問題はない1

・選挙の街頭演説をしている首相にヤジを飛ばした人を警察が排除する

大いに問題がある25▽ある程度問題がある38▽あまり問題はない25▽まったく問題はない9

・集団的自衛権を使えるようにするために、内閣がこれまでの憲法の解釈を変える

大いに問題がある30▽ある程度問題がある40▽あまり問題はない21▽まったく問題はない5

・社会保障費が増えすぎないようにする一環として、生活保護の給付額を減らす

大いに問題がある18▽ある程度問題がある43▽あまり問題はない22▽まったく問題はない12

◆さまざまな種類の大量の情報を意味するビッグデータについて、お聞きします。ビッグデータを活用すると、経済の動きや気候変動のほか、個人の好みや行動などを推測できるようになります。ビッグデータの活用に、どの程度関心がありますか。

大いに関心がある17▽ある程度関心がある41▽あまり関心はない33▽まったく関心はない7

◆ビッグデータの活用が進むことに期待しますか。期待しませんか。

期待する39▽期待しない52

◆ビッグデータを活用した社会でプライバシーが侵害される不安を感じますか。不安を感じませんか。

不安を感じる73▽不安を感じない23

◆ビッグデータを活用した以下の国内外の事例について、どの程度抵抗がありますか。

・インターネットの閲覧履歴に関連した広告が表示される

大いに抵抗がある26▽ある程度抵抗がある48▽あまり抵抗はない19▽まったく抵抗はない3

・インターネットショッピングの利用状況をもとに妊娠していると推測され、関連商品のクーポンが送られてくる

大いに抵抗がある42▽ある程度抵抗がある34▽あまり抵抗はない15▽まったく抵抗はない3

・テロ対策を理由に、防犯カメラの映像や通話内容を収集される

大いに抵抗がある32▽ある程度抵抗がある39▽あまり抵抗はない20▽まったく抵抗はない6

・人間に代わって、AI(人工知能)に勤務実績などをもとに人事評価をされる

大いに抵抗がある37▽ある程度抵抗がある42▽あまり抵抗はない14▽まったく抵抗はない3

・自分の収入や価値観、性格などをもとにAIに結婚相手を見つけてもらう

大いに抵抗がある44▽ある程度抵抗がある31▽あまり抵抗はない16▽まったく抵抗はない3

・インターネットの閲覧履歴などをもとにローンの利用限度額や金利を決められる

大いに抵抗がある45▽ある程度抵抗がある34▽あまり抵抗はない13▽まったく抵抗はない3

◆次の政治課題の中で、政治にもっとも優先的に取り組んでほしいものはどれですか。

外交・安全保障11▽景気・雇用23▽財政再建9▽年金・医療・介護40▽教育・子育て支援12▽原子力発電・エネルギー3▽憲法(改憲または護憲)1

◆その政党を支持するか、しないかは別にして、政治にもっとも優先的に取り組んでほしい課題について、いちばん上手に対処できると思う政党はどれですか。

自民42▽立憲10▽国民2▽公明5▽共産4▽維新5▽社民1▽希望0▽N国1▽れいわ1▽その他の政党1▽そのような政党はない25▽答えない・わからない3

◆次に挙げる意見について、賛成ですか、それとも反対ですか。それぞれの項目について一つずつ、賛成であれば1、反対であれば5として、あてはまる番号にマルをつけてください。

・日本の防衛力はもっと強化すべきだ

賛成27▽どちらかと言えば賛成26▽どちらとも言えない32▽どちらかと言えば反対7▽反対7

・他国からの攻撃が予想される場合には先制攻撃もためらうべきではない

賛成12▽どちらかと言えば賛成16▽どちらとも言えない35▽どちらかと言えば反対18▽反対18

・北朝鮮に対しては対話よりも圧力を優先すべきだ

賛成21▽どちらかと言えば賛成20▽どちらとも言えない32▽どちらかと言えば反対13▽反対12

・社会福祉などのサービスが悪くなっても、お金のかからない小さな政府の方が良い

賛成7▽どちらかと言えば賛成9▽どちらとも言えない38▽どちらかと言えば反対26▽反対18

・公共事業による雇用確保は必要だ

賛成24▽どちらかと言えば賛成36▽どちらとも言えない29▽どちらかと言えば反対7▽反対3

・当面は財政再建のために歳出を抑えるのではなく、景気対策のために財政出動を行うべきだ

賛成20▽どちらかと言えば賛成29▽どちらとも言えない36▽どちらかと言えば反対9▽反対4

・将来に消費税率が10%よりも高くなるのはやむをえない

賛成9▽どちらかと言えば賛成19▽どちらとも言えない22▽どちらかと言えば反対20▽反対29

・治安を守るためにプライバシーや個人の権利が制約されるのは当然だ

賛成13▽どちらかと言えば賛成22▽どちらとも言えない29▽どちらかと言えば反対18▽反対16

・男性同士、女性同士の結婚を法律で認めるべきだ

賛成24▽どちらかと言えば賛成22▽どちらとも言えない31▽どちらかと言えば反対8▽反対14

・夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の名字を称することを、法律で認めるべきだ

賛成31▽どちらかと言えば賛成25▽どちらとも言えない25▽どちらかと言えば反対8▽反対9

◆次に挙げる争点について、お考えはA・Bのどちらに近いでしょうか。それぞれの項目について一つずつ、Aに近ければ1、Bに近ければ5として、あてはまる番号にマルを付けてください。

・【A】危機のときのアメリカによる協力を確実にするため、日米安保体制をもっと強化すべきだ 【B】日本と関係ない戦争に巻き込まれないように、日米安保体制の強化には慎重であるべきだ

Aに近い10▽どちらかと言えばAに近い21▽どちらとも言えない23▽どちらかと言えばBに近い24▽Bに近い21

・【A】社会的格差が多少あっても、今は経済競争力の向上を優先すべきだ 【B】経済競争力を多少犠牲にしても、今は社会的格差の是正を優先すべきだ

Aに近い8▽どちらかと言えばAに近い20▽どちらとも言えない34▽どちらかと言えばBに近い22▽Bに近い14

・【A】いますぐ原子力発電を廃止すべきだ 【B】将来も原子力発電は電力源の一つとして保つべきだ

Aに近い21▽どちらかと言えばAに近い18▽どちらとも言えない28▽どちらかと言えばBに近い18▽Bに近い13

◆多くの人が「長期的に見ると、自分は△△党寄りだ」とお考えのようです。短期的に他の政党へ投票することはもちろんあり得るとして、長い目で見ると、「何党寄り」と言えるでしょうか。

自民45▽立憲13▽国民2▽公明5▽共産4▽維新5▽社民1▽希望0▽N国0▽れいわ1▽その他の政党0▽どの政党でもない20▽答えない・わからない4

◆今、次の政党や政治家に対して好感をお持ちでしょうか。それとも反感をお持ちでしょうか。0を「強い反感」、50を「中立」、100を「強い好感」として、(1)~(4)のそれぞれに0から100の間の整数で点数を付けてください。

(1)自民党  0~9点11▽10~19点2▽20~29点3▽30~39点5▽40~49点4▽50~59点40▽60~69点10▽70~79点8▽80~89点6▽90~99点1▽100点6▽答えない・わからない4

(2)安倍晋三  0~9点21▽10~19点3▽20~29点4▽30~39点8▽40~49点6▽50~59点29▽60~69点7▽70~79点7▽80~89点5▽90~99点2▽100点5▽答えない・わからない3

(3)立憲民主党  0~9点16▽10~19点4▽20~29点5▽30~39点8▽40~49点7▽50~59点41▽60~69点4▽70~79点3▽80~89点2▽90~99点0▽100点2▽答えない・わからない8

(4)枝野幸男  0~9点17▽10~19点5▽20~29点5▽30~39点8▽40~49点7▽50~59点37▽60~69点4▽70~79点4▽80~89点2▽90~99点0▽100点3▽答えない・わからない8

◆昨夏の参議院選挙の比例代表で、どの政党に投票しましたか。

自民37▽立憲16▽国民3▽公明6▽共産6▽維新6▽社民1▽れいわ2▽N国1▽その他の政党1▽投票しなかった18▽答えない・わからない3

 <調査方法> 全国の有権者から3千人を選び、郵送法で実施した。対象者の選び方は、層化無作為2段抽出法。全国の縮図になるように337の投票区を選び、各投票区の選挙人名簿から平均9人を選んだ。3月4日に調査票を発送し、4月13日までに届いた返送総数は2130。無記入の多いものや対象者以外の人が回答したと明記されたものを除いた有効回答は2053で、回収率は68%。

 有効回答の男女比は男46%、女53%、無記入1%。年代別では18、19歳2%、20代9%、30代12%、40代18%、50代15%、60代17%、70代17%、80歳以上9%、無記入1%。

▼2面

首相、改憲へ意欲


 安倍晋三首相は憲法記念日の3日に、ジャーナリストの桜井よしこ氏が共同代表を務める団体などが主催するオンラインイベントに自民党総裁としてビデオメッセージを寄せる。

 メッセージでは、「憲法改正への挑戦は決してたやすい道ではありませんが、必ずや、皆さんと共になし遂げていく」と意欲を示す。また、新型コロナウイルスの感染拡大に触れ、憲法の緊急事態条項を念頭に「国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか、そのことを憲法にどのように位置づけるかについては、極めて重く、大切な課題であると、私自身、改めて認識した」と主張する。

▼5面=憲法を考える
コロナ禍、市民をどう制限


写真・図版 【新型コロナウイルスへの対応と法的根拠】

 ■憲法を考える 視点・論点・注目点

 新型コロナウイルスへの感染が広がる中、立憲主義の先進国である欧米では、強制的な命令によって市民の外出や企業活動などを制限している。どんな法的根拠で私権を制限しているのか、「自粛」を基本とする日本が参考にできる点はあるのだろうか。

 ■欧米では 外出禁止、権限は国でなく州に 米国/ナチスの記憶、軍派遣する法の発動見送り ドイツ

 米国ではトランプ大統領が3月13日、「連邦政府の全力を解き放つ」と述べ、国家非常事態宣言を出した。しかし、宣言に伴って変わるのは主に連邦予算の使い方で、市民生活への影響は少ない。

 むしろ大きいのは、州などが出している自宅待機命令だ。米国は元々、州政府の権限を重くみており、連邦の憲法でも「国に委任していない権限」は各州や国民にある、と明記している。新型コロナの感染を受けて50州中42州が何らかの外出制限をし、多くの場合は「必要不可欠」な業種を除いた企業活動を制限した。ただ、根拠法や罰則の有無は州によって異なる。

 全米で最も新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なニューヨーク州ではクオモ知事が▽レストランやバーでの店内飲食禁止(3月16日)▽全就業者の原則在宅勤務(同22日)▽公共交通機関などでのマスクの着用(4月17日)――などを順次、進めてきた。また、他人との距離を1・8メートル以上保つ「ソーシャルディスタンシング」の順守を求め、違反者には罰金も科している。米メディアによると、「守られていない」という通報は、3月30日からの3週間に、ニューヨーク市内だけで1万4千件寄せられた。

 欧州では、多くの国が感染症対策の法律などに基づいて外出制限をしている。ドイツでは、感染拡大を受けて、「緊急事態法制」が適用されるという観測もあった。冷戦下の1968年にできた法律で、武力攻撃や災害などで国内に差し迫った危機が生じた際、連邦政府が軍や警察を派遣できるようになるが、これまでに発令された例はない。

 政府が実際に適用したのは、感染症保護法だった。同法に基づき、各州の権限で商店や集会施設などが閉鎖され、公共の場で3人以上が集まることなどが禁止されている。緊急事態法制が見送られたのは、感染症保護法でも十分に対応可能だと判断したためだが、ナチスや旧東ドイツの独裁政権による私権制限の記憶が語り継がれ、拒否感が根強いことも背景にある。メルケル首相は3月18日の演説で今回の制限ですら「民主主義社会では軽々しく発動されてはならない」と述べ、市民に理解を求めた。

 政府の規制が表現や集会の自由をうたう基本法(憲法)に反する、と訴える人たちはいる。ベルリンで25日にあった集会に参加したハルディさん(47)は「政府の規制は厳しすぎ、基本法を危機にさらしている」と語った。だが、世論は政府の対応に好意的で、4月の世論調査では、93%が行動制限を支持した。

 より厳しい規制を行った国もある。イタリアではコンテ首相が3月上旬、不要不急の外出や集会を禁じる「政令」を出した。同国憲法は「移動の自由」と「集会をする権利」を保障しているが、「公衆衛生上の理由」がある場合は、国が制限できる。同国の世論調査でも、8割が外出禁止の措置を「評価できる」とし、コンテ氏の支持率も約6割まで高まった。

 一方で、政令は通常の法律と異なって議会の審議や採決を経ていない。ある法律誌は「基本的な権利を制限する以上、政令はあくまで『例外的』で、警察国家を生むような恣意(しい)的なものにならないようにする必要がある」と指摘した。

 フランスも、公衆衛生法を根拠に外出制限を行っている。同法は「感染流行の脅威があった場合、(政府は)リスクに釣り合った形であらゆる手段がとれる」と規定している。世論調査では7割以上が外出制限に賛成している。

 フランスでは、2015年にパリで同時多発テロが起きた際、令状なしの家宅捜索などを可能にした非常事態宣言が17年11月まで続いた。パリ政治学院のドミニク・レニエ教授は「15年のテロを経験し、国民の生命を守るためには、自由を制限してでも国家権力を強める必要があると考える人が増えている可能性がある」と語る。

 ■日本では 罰則なき特措法、人権に配慮 緊急事態、憲法と法律では別次元

 日本では外出自粛や商業施設などの休業要請は、改正新型インフルエンザ等対策特措法に基づく措置だ。これらの要請や指示に従わなくても罰則はない。

 外出自粛や休業は、移動の自由や営業の自由など、憲法が保障する個人の権利を制限するものだ。このため同法では、感染拡大防止策をとるうえでも、国民の権利の制限は「必要最小限のものでなければならない」とわざわざ明記し、乱用を戒めている。

 高見勝利・上智大名誉教授(憲法)は「感染症がもたらす害悪に比例して必要最小限度しか人権への規制をかけられないよう配慮されており、慎重につくられた法律だ」と話す。

 ただ、強制的に人の動きを止められないこともあり「人との接触の8割削減」は必ずしもできていない。衆院予算委での「罰則まで踏み込めないのか」との質問に対し、安倍晋三首相は「いまの法制で十分に収束が見込めないなら、新たな対応も考えなければならない」と答えている。

 一方、これとは別に自民党などの一部から出ているのが、法律ではなく、憲法に緊急事態条項を設けて対応できるようにすべきだとの声だ。

 だが、特措法に基づく「緊急事態宣言」と、憲法に新たに「緊急事態条項」を設けて対応することは、その性格が全く異なる。

 いまの感染症対策は、あくまで憲法の制約のもとにある法律に基づく措置だ。だが一部議員が想定するのは、首相が新たな憲法上の規定のもとに緊急事態宣言をすれば、内閣は法律と同じ効力を持つ政令を出すことができ、国民は従う義務を負うという内容だ。

 政府に権限を集中させ、憲法の下での権力分立と人権保障を一時的に停止する措置であり、「国家緊急権」とも呼ばれる。

 戦前の大日本帝国憲法では、天皇による「緊急勅令」などが認められていた。そのあしき先例として知られているのが、大衆運動や言論を弾圧する根拠となった治安維持法の1928年の改正だ。

 当時の田中義一内閣は最高刑を死刑に引き上げ、適用対象を広げる改正案を帝国議会に提出した。審議未了で廃案になったが、内閣は緊急勅令によって成立させた。当時でもこうした手法は特別な事情がある場合に限るというのが主な学説で、与党や政府内にも強い反対論があった。

 こうした苦い経験を踏まえ、乱用のおそれがある緊急事態条項は戦後の日本国憲法にはあえて盛り込まれなかった経緯がある。

 いまの新型コロナ対策では、特措法に専門家の意見を聴く仕組みが組み込まれている。だが、憲法上の緊急事態として政府に権限を集中させた場合、専門的知見に基づく歯止めも設けられない可能性がある。

 災害対策法制に詳しい永井幸寿弁護士は「災害対策の原則は『準備していないことはできない』。感染症対策も同じで、政府や自治体は平時から準備や情報交換を怠らないことが重要だ。憲法改正は、備えにはならない」と話している。

 ■政府への信頼感が不可欠 曽我部真裕・京大教授(憲法)

 緊急事態対応のために改憲する必要があるのは、典型的には憲法が定める原則を一時的に変更することを認める場合だ。国会が法律で定めるべき内容を内閣が政令で定められるようにしたり、基本的人権の一部を停止したりすることなどだ。いまのウイルス対策で想定されているのはこのような措置ではなく、改憲を主張するのは筋違いだ。

 特措法では市民の外出や集会・イベントの禁止は命令できず、罰則を科すこともできない。では、法改正すれば都市封鎖はできるのか。その場合、封鎖に伴う人権制約が憲法に反しないかどうかが問題となるが、直ちに違憲とはならないと考えるべきだろう。それは欧州の立憲主義諸国で罰則を伴う人権制限が認められていることからも分かる。問題はその方法で、次の点がポイントとなる。

 第1は人権制限の程度。感染拡大防止に有効かつ必要な範囲の制限にとどめられる必要がある。特別の制約がなされる期間も限定的でなければならない。

 第2は制限が限度を超えないための歯止め。専門家への諮問、国会の承認や監視、個々の措置に対する裁判的な救済、報道機関による監視を可能にする情報公開などが求められる。

 第3に、罰則を伴う命令だけでは十分でない点も認識すべきだ。フランスでは厳しい規制がなされたが、違反者も後を絶たなかった。重要なのは市民の理解と協力であり、指導者のメッセージなどを通じた政府への信頼確保が不可欠だ。

 日本でこうしたことが可能かどうか現状では疑問符をつけざるを得ない。例えば国会の役割だ。諸外国の議会では、日本の国政調査権にあたる独自の調査を通じて政府の施策を評価し、公表している。こうした対応がとれない日本の国会のあり方には問題を感じる。

 ◇この特集は、ワシントン=園田耕司、ニューヨーク=藤原学思、ベルリン=野島淳、ローマ=河原田慎一、パリ=疋田多揚、編集委員・国分高史、土佐茂生が担当しました。

 ■予告

 次回は5月26日に掲載する予定です。

▼10面=社説
コロナ下の安倍政権 憲法に従い国民守る覚悟を


 新型コロナウイルスはすでに500を超える貴い命を奪った。全国におよぶ緊急事態宣言のもとでの外出自粛や商業施設の休業で、得られるはずの収入が失われ、生活基盤が根底から脅かされている人も数多い。

 国家の最大の使命は国民を守ることであり、そのよりどころとなるのが憲法だ。

 このコロナ禍の下、安倍政権はその使命を正しく果たしているのだろうか。

 ■まずは生存権の保障

 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。憲法は25条1項のこの条文により、国民の生存権を保障している。続く2項は、社会福祉や社会保障とともに「公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と国に義務づける。

 安倍政権が実施している感染拡大防止の対策は、この第2項の求めによるものだ。

 感染者の増加に伴い、医療現場では医師や看護師、専用病床に加え、マスクや防護服の不足まで深刻になっている。

 総務省が2017年に実施した厚労省の感染症対策への行政評価では、「感染症患者が良質かつ適切な医療を受けられる体制が確保されているのか危惧される」との見解が示されていた。その危惧は現実のものとなりつつある。公衆衛生の拠点となる保健所の削減も続き、歴代政権が未知の感染症に十分に備えてきたとは言いがたい。

 それでも欧米に比べ死亡者数が抑えられているのは、国民皆保険のもと必要な治療を受けられる医療アクセスの良さとともに、最前線の医療従事者らの献身と、不足を補う工夫に負うところが大きいだろう。

 一方、外出自粛や休業が長引くにつれ懸念されるのが、「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するのが困難になる国民が増えていくことだ。

 真っ先にしわ寄せを受けるのは、非正規労働者やアルバイト、中小・個人の事業主、一人親家庭など経済・社会的な弱者だ。7都府県に最初の緊急事態宣言が出されてからでも、すでにひと月近く。日々の生活費などをぎりぎりまで切り詰めている人たちには、対策の一刻の遅れは死活的となりかねない。

 ■「個人の尊重」と相反

 財産権を保障する29条を根拠に減収を補償するのは難しいと多くの法律家は見るが、25条の趣旨を踏まえれば国が政策として最大限のセーフティーネットを張るべきなのは当然だ。

 生存権が脅かされるほどではなくても、すべての国民が外出自粛や休業、休校によって、22条や26条が保障する移動や営業の自由、教育を受ける権利などが制限されている。

 罰則を伴う強制的な命令によって外出などを禁じている欧米諸国とは異なり、日本ではあくまでも「要請」という国民へのお願いが基本だ。

 多くの国民は感染拡大を防ぐためにはやむを得ないと考え、自発的な意思によってこれを受け入れてきた。首相が求める「人との接触8割減」が必ずしも達成されていないにしても、一定の効果は上げている。

 同調圧力を受けやすいといった日本人の性質がいい方向に作用している面はあるだろう。一方で、それとは裏腹の落とし穴もある。

 「子供が公園で遊んでいる」と警察に通報されたり、営業する店にいやがらせが続いたりする例が各地から伝えられる。

 それぞれの事情をかえりみず、いたずらに他者を監視し、傷つける行為は、いまの憲法がもたらした最大の価値とされる13条の「個人としての尊重」とも相いれない。

 ■備えは改憲でなく

 緊急事態宣言が延長されれば、国民はさらに長期間、生活不安や不自由を強いられる。それをしのいでいくためには、国家は国民を必ず守るのだという指導者の覚悟と、それに対する信頼感が欠かせない。

 緊急事態を宣言した先月7日の記者会見で、安倍首相が「最悪の事態になった場合、責任をとればいいというものではありません」と責任論をかわしたのは、その自覚がないことの表れというほかない。

 今回の事態を受け、自民党などの一部の議員からは、憲法に緊急事態条項を新設すべきだとの声が出ている。国家的な緊急事態になれば、内閣は法律と同じ効力をもつ政令を定めることができるといった内容だ。

 だが、このように憲法秩序を一時的に停止させる強力な権限を内閣に与えるまでもなく、25条2項をもとに新型インフルエンザ等対策特別措置法や感染症法などの法律がすでに整えられている。必要なのはそれらの法律に不備はないか、適切に運用できる体制は十分なのかを常に点検することだ。

 いま安倍政権がなすべきは、憲法を変えることではない。憲法に忠実に従い、国民の命と生活を確実に守ることである。

▼27面=識者は
コロナと私たち、きょう憲法記念日
     九州大・南野森教授
     武蔵野美術大・志田陽子教授

 きょう3日は憲法記念日。新型コロナウイルスの感染拡大で生活が大きく変わり、そして先が見えない。「こんな時にこそ、憲法について考えてほしい」。そう話す憲法学者に話を聞いた。

 ■国に「助けて」、遠慮する必要ない 九州大・南野森(みなみのしげる)教授

 例年ならこの時期、メディアは憲法の特集を組んでいるが、今年はコロナ一色。大学での研究や教育だけでなく、憲法を市民に伝える仕事までもがコロナに邪魔されている、という感じだ。でも、こんな時にこそ憲法に関心を持ち、憲法について考えてほしい。

 例えば九州大学も授業をオンラインに切り替えた。家計の急変やアルバイトの休止で経済的に苦しくなった学生には、授業料を減免したり、学生支援金を給付したりすることも決めた。

 根本には26条の「教育を受ける権利」がある。もともとは「子ども」の権利として考えられてきたが、学生たちは憲法で権利を保障されている、という言い方もできる。

 25条が掲げる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」にも注目してほしい。生活困窮者の「生存権」として捉えられがちで、大半の人は切実に意識することなく暮らしてきたのではないか。ところが今回、アルバイトを失った学生やフリーター、休業や自粛を要請された飲食業者や自営業者ら多くの人にとって人ごとでなくなった。

 そういう人たちに心配させず、生活を支えるのが、25条が掲げる「国の生存権保障義務」だ。私たちには「生きる権利」がある。国に「助けてくれ」「困っているんだ」と声をあげることを遠慮する必要はない。(聞き手・佐々木亮)

 ■おかしいと思えば、声上げていい 武蔵野美術大・志田陽子教授

 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、外出や営業の「自粛」ムードが強まっている。だが、何が良くて何がダメなのか基準がはっきりしないため、行き過ぎた萎縮や圧力が生まれている。一斉休校中に子どもを公園に連れて行っただけで警察に通報する人がいる。強制ではなく要請なのに、東京では警察が新宿・歌舞伎町などで巡回を始めた。警棒を手にした「お願い」は威嚇であり、強制と受け止める人が多いだろう。

 確かに、経済活動や集会の自由といった大切な人権も、「公共の福祉」のためにやむを得ず制約を受けることがあるというのが憲法の規定だ。ただ、感染拡大を防ぐために求められるのは、密集を避けて不要な外出を減らすことだ。必要な外出や生きていくための営業活動まで頭ごなしに攻撃するのは行き過ぎだ。

 むしろこういう時こそ、批判的思考が大切だ。おかしいと思えば声を上げ、必要な支援を求める。憲法が言論の自由を保障しているのは、一人ひとりが自分の頭で考え動くことで、民主主義が機能することを想定しているからだ。実際、異論によってコロナ対策は改善された。DV(家庭内暴力)を抱える家庭への現金支給の方法も、風俗店への休業補償もそうだった。

 こうした事態に対処するため、憲法を改正して「緊急事態条項」を導入すべきだという意見もあるが、今回の事態には現行憲法の「公共の福祉」の考え方で対処できるはずだ。集会をしたくても経済活動をしたくても、生命を守るという目的との比較で我慢できることはしていこうと。

 緊急事態条項ができれば、内閣は国会のチェックを受けずに法律と同じ効力を持つ政令を出せるようになる。緊急時だけの時限措置といっても、いったん成立してしまえば人権が無条件に制限されかねない。そして人は慣れる。政府の暴走を許した歴史を教訓に、現行憲法ができていることを忘れてはならない。(聞き手・阿部峻介)