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続折々の記 2020⑤
【心に浮かぶよしなしごと】
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【 05 】08/01~
とんでもないことが起きている
時の動き
昭和天皇と憲法9条 : 国民と安倍総理
08 01 (土) 時の動き とんでもないことが起きている
今朝新聞を見ると、第一面左側にとんでもないことが出ていた。 それは次のとおりである。
第一面
敵基地攻撃能力、保有提言へ 自民「相手領域内でも阻止」 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14570805.html
2020年8月1日 5時00分
自民党の国防部会と安全保障調査会は31日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を受け、政府に対して「敵基地攻撃能力」の保有を求める提言案を了承した。来週中にも党内手続きを経て決定し、安倍晋三首相に提出する。▼3面=専守防衛転換の可能性、4面=提言案要旨
政府は国家安全保障会議(NSC)で、新たなミサイル防衛体制などについて議論している。年末にも改定する方針の国家安全保障戦略などで敵基地攻撃能力の保有に踏み切れば、日本の安全保障政策の転換点となる。首相官邸は前向きだが与党・公明党は慎重で、首相の残り任期が来年9月までとなり、内閣支持率が低迷するなか、導入を決められるかは不透明だ。
自民党の提言案は従来の弾道ミサイル防衛にとどまらず、中国や北朝鮮の新たなミサイル技術に対応する必要性を指摘。「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」と敵基地攻撃能力の保有を求めた。
敵基地攻撃能力の検討では、攻撃を防ぐのに他に手段がない場合に限り、ミサイル基地をたたくことは法理的には自衛の範囲内との政府見解を踏まえると言及。防衛力の整備は「攻撃的兵器を保有しないなど、自衛のために必要最小限度のものに限る」との従来方針も維持し、早急に結論を出すよう政府に要請した。
自民党はこれまでも敵基地攻撃能力の保有を繰り返し提言している。政府は日本が専守防衛の「盾」に徹し、打撃力の「矛」は米軍に委ねるとの役割分担のもと、保有を否定してきた。
首相は6月の記者会見で「抑止力のあり方について新しい議論をしたい」とし、敵基地攻撃能力についても議論する方針を突如表明した。政府は9月までNSCで議論を行い、世論の動向も見極めつつ、年末までに新たな安保戦略を決める方針だ。(北見英城、佐藤達弥)
第三面
専守防衛、転換の可能性
自民提言案、あいまいな「相手領域」 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14570734.html
【敵基地攻撃をめぐるこれまでの主な議論】
自民党は31日、新たなミサイル防衛に関する政府への提言案を了承した。タイトルは「国民を守るための抑止力向上に関する提言」だが、敵基地攻撃能力の保有について政府に検討を要請。「専守防衛」という日本の安全保障政策の大きな転換につながりかねない内容だ。(寺本大蔵、伊藤嘉孝、編集委員・佐藤武嗣)▼1面参照
「憲法の範囲内で、国際法を遵守(じゅんしゅ)しつつ、専守防衛の考え方の下」。提言案では敵基地攻撃能力の保有についてこう断った。検討チームでの岩屋毅・前防衛相の主張を踏まえ、敵基地攻撃に関する1956年の鳩山一郎内閣の国会答弁も強調。これまでの政府の立場を維持するような姿勢を示しながら、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を検討するよう政府に求めた。
提言案では「敵基地攻撃能力」という表現を避けた。提言案をまとめた自民党の検討チーム座長を務めた小野寺五典元防衛相は「攻撃、反撃、敵基地という言葉が入ると、先制攻撃のような間違った印象を与える危険性がある」と言う。
ただ、「相手領域内」というあいまいな表現は「敵基地攻撃」よりも、攻撃対象が広がりかねない危うさもはらむ。能力保有に積極的な議員は「これまで基地だけに限っていたが、基地外にも攻撃できるようになった。むしろ前進だ」と話す。
提言では「日米の基本的な役割分担は維持」するとも強調した。その一方で、北朝鮮のミサイル脅威に、日本は「防御しきれない恐れがある」と指摘。日本も敵基地攻撃能力を持つことで、米国が担ってきた「矛」の一部を担おうとの主張がにじむ。
政府はこれまで、敵基地攻撃能力の保有に関し、「法理的には可能」としつつも、日米安保条約のもとで日本は専守防衛に徹し、「敵基地攻撃を目的とした装備は考えていない」(2005年当時の大野功統防衛庁長官)との立場を貫いてきた。敵基地攻撃能力の保有に踏み切れば、日米同盟の役割分担や「専守防衛」の解釈をめぐり議論になるのは必至だ。
敵基地攻撃には技術的にも課題は多い。北朝鮮のミサイルは発射台付きの車両に載せて運用されるため、事前に発射の兆候をつかむのは難しい。敵基地攻撃は何を目標にどんな兵器を用いるのか、提言では具体的に説明せず政府にその検討を委ねた。
自衛隊幹部からは実現性を疑問視する声が聞かれた。北朝鮮や中国の動向把握を長く担ってきた幹部自衛官は「相手領域内」で軍事力を使うことについて「自衛隊にとって新領域になる」と話す。
攻撃には敵に関する情報を調べ上げて「情報優越」に立つ必要がある。「必要な情報を得るだけの能力や装備が、いまの自衛隊にあるとは思えない」と危惧する。別の幹部自衛官は「自衛隊は敵基地を攻める訓練をしていない。膨大な検討が必要になる」と懸念する。
■中国ミサイルも念頭
提言では、迎撃対象に弾道ミサイルだけではなく、中国やロシアが開発・配備する高速で変則的な軌道をとる極超音速滑空ミサイルや、巡航ミサイル、無人機の群集攻撃にも対処する必要があると強調。現在の「弾道ミサイル防衛(BMD)」を拡大し、戦闘機や早期警戒機など陸、海、空、宇宙、サイバーのあらゆる手段を統合する米軍の「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想と連携すべきだとした。
日本を狙える巡航ミサイルや極超音速ミサイルの保有国は、中国やロシアだ。日本がIAMD構築に本腰を入れれば、その対象は「中国」を念頭に置くことを意味する。政府が中国の潜在的脅威をどのように認識しているのか、説明が問われることになる。
■米と戦闘で連携、憲法違反の恐れ
阪田雅裕元内閣法制局長官の話 日本が専守防衛を掲げながら抑止力を機能させることができるのは、他国からの攻撃に「矛」は米軍が担うとの日米安保があるからだ。敵基地攻撃能力の保有について鳩山答弁を根拠にしているが、これは法理論上は可能だということで、日米安保がある限り、こうした能力は持つ必要がないという考えだった。
自民党の提言は日米の「盾と矛」の関係を見直そうとしている。この枠組みを見直すというのは、日米安保が機能しない恐れがあると見ているからなのか。日本も打撃力を保有するなら、在日米軍の駐留のあり方、地位協定、駐留経費負担も同時に見直さないと論理的に整合しない。
提言では米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)との連携を主張している。日米がネットワークで結ばれ、戦闘行為で連携すれば、「米国による武力行使と一体化」して憲法に違反する可能性もあり、論点の一つになるだろう。
第四面
自民「抑止力向上」提言案(要旨) https://digital.asahi.com/articles/DA3S14570749.html
▼1面参照
【現状認識と課題】日米同盟の下では、「わが国は防御、米国は打撃」が基本的な役割分担とされてきた。しかし飛来するミサイルの迎撃だけを行っていては、防御しきれない恐れがある。日米の基本的な役割分担は維持しつつも、日米の対応オプションが重層的なものとなるよう、わが国がより主体的な取り組みを行うことにより、抑止力を向上させる必要がある。
【提言】イージス・アショア代替機能を確保すべく早急に具体案を示すべき。極超音速兵器や無人機のスウォーム(大群)飛行等に対応するため、地上レーダーや対空ミサイルの能力向上等が必要。米国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)との連携を確保し、極超音速兵器等の探知・追尾のため、低軌道衛星コンステレーション(監視衛星群)や滞空型無人機の活用等も検討すること。
憲法の範囲内で、国際法を遵守(じゅんしゅ)しつつ、専守防衛の考え方の下、相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要。従来の政府の立場を踏まえ、相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる攻撃的兵器を保有しないなど、自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来方針を維持し、政府として早急に結論を出すこと。
宇宙、サイバー、電磁波領域も含め、必要不可欠なISR(情報収集、警戒監視、偵察)の能力や政府としての情報機能の強化も検討すること。今後の取り組みについて国民の理解を得られるよう、丁寧な説明の努力を全力で行うこと。戦略的コミュニケーションを外交と一体となって推進すること。拡大抑止の信頼性の更なる強化を含む日米同盟の一層の強化等に取り組むこと。
そもそも、日本国憲法の認識それ自体が平和を願う精神からは程遠いものである。 自分の認識の立場から、平和招来なり、戦争放棄なり、世界の一般の人々の願いから見ると、今回の動きはとんでもない動きなのである。
しかも、国会議論でなく、内閣そのものが国の方向を決めること自体がとんでもない間違いである。
黙って見逃すわけにはいかない。 日本国民の周知を図らなくてはならない問題である。
08 05 (水) 時の動き 昭和天皇と憲法9条 : 国民と安倍総理
今日は右親指で水藤医師の診断を受けた日である。 新聞を見ると、1日の記事をさらに進めた記事が出ていた。
そこには政治に関与しないはずの昭和天皇が 核不拡散条約(NPT、核防条約)を批准しなかったことにかかわっての発言があったことを報じていた。
1面
敵基地攻撃力、首相が意欲
「新しい方向性、速やかに実行」
2020年8月5日 5時00分
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14575735.html
安倍晋三首相は4日、敵のミサイル基地などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有を検討するよう政府に求める自民党の提言について、「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と語った。首相官邸で記者団の取材に答えた。実際に日本が敵基地攻撃能力を保有すれば、「専守防衛」政策からの大きな転換になる。▼2面=首相の狙いは
自民党は4日午前、政調審議会を開き、ミサイル防衛に関する検討チームがまとめた提言を了承した。提言では陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を踏まえ、代替機能の確保を求めるとともに、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要だ」とし、検討を求めた。
提言は4日午後、検討チーム座長の小野寺五典元防衛相らが首相に手渡した。これを受けて同日午後、首相は政府でも国家安全保障会議(NSC)を開催した。首相は年末に向けて外交と安全保障の基本方針「国家安全保障戦略」などの改定を進める方針で、敵基地攻撃能力の保有についてどう盛り込まれるかが焦点になる。
ただ、敵基地攻撃能力の保有について公明党は否定的で、内閣支持率も下落傾向にある。どこまで実現できるかは不透明だ。
1面
昭和天皇「なぜ通らない」、衆院議長やる気出た
核不拡散条約の国会承認
三木首相の認識、秘書がメモに
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14575733.html?iref=mor_articlelink02
【写真 ・ 前尾繁三郎衆院議長(手前)と昭和天皇=1975年】
日本が核兵器を持たない法的義務を国際社会に負うことになる核不拡散条約(NPT、核防条約)の国会承認について、昭和天皇が発した言葉が衆院議長に「やる気」を起こさせていた――。そうした三木武夫首相(当時)の発言を、同首相の秘書だった岩野美代治(みよじ)氏(85)がメモに残していた。国政に関する権能を有しないと憲法が定める天皇の問いかけが、NPTの国会承認に影響を与えたことを裏付けるものだ。
岩野氏がメモしていた三木氏の発言は、前尾繁三郎(まえおしげさぶろう)衆院議長(当時)についてのもの。前尾議長がNPT承認に積極的に動いたのは昭和天皇の「ご意志」があったからだとの話は、前尾議長の秘書を務めた平野貞夫氏が2004年の著書「昭和天皇の『極秘指令』」(講談社)で明かしている。岩野氏のメモが明らかになったことで、衆院議長の秘書だけでなく、首相の秘書によっても昭和天皇がNPT承認に果たした役割が裏付けられた格好だ。
日本政府は1970年にNPTに署名したが、自民党内に反対論があったことなどもあり、76年6月まで批准しなかった。国際的には日本は核兵器保有の権利を放棄しない状況だった。
岩野氏のメモによれば、国会承認を得た76年5月24日、東京都渋谷区南平台町の三木氏宅で、岩野氏が「核防、おめでとうございます」と言ったところ、三木氏は「これは早く通らんといかんのだよ。前尾も天皇に何故核防が通らないんだと聞かれて驚いて やる気が出たんだよ」と答えた、という。
岩野氏によれば、三木氏は会話のメモを禁じていた。このため、帰宅後、会話を思い起こしながらメモしたという。岩野氏はこれらのメモを三木氏の母校の明治大学に寄贈。同大学の竹内桂(けい)助教が分析を進め、今秋にも「三木武夫秘書備忘録」の題で吉田書店から出版する予定だ。
竹内助教は「岩野氏の前で三木は包み隠さずに話しており、そのときどきの三木の本音をうかがうことができる。おそらく米国との関係からNPTの早期承認を望む天皇の意向が立法府のトップと行政府のトップの間で共有されていた。岩野氏の文書によって、そのことを三木の側から知ることができる」と話している。(編集委員・奥山俊宏)
2面
敵基地攻撃、首相の狙いは
公明幹部「ガス抜きだろう」
https://digital.asahi.com/articles/ASN847FV5N83ULZU006.html?iref=com_favorite_02
【写真 ・ 外交安保・防衛の政策文書の流れ】
安倍晋三首相は4日、「敵基地攻撃能力」の保有検討を求める自民党の提言について「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と述べた。専守防衛を掲げる日本の安全保障政策の大転換につながる議論。新型コロナウイルスの対応で批判され、内閣支持率も下がる中、首相の狙いはどこにあるのか。(二階堂友紀、寺本大蔵、相原亮、編集委員・佐藤武嗣)
「敵基地攻撃」言葉避けた提言 安保政策に大きな転換点 ➡
「抑止力を高めていくにはどうするべきかだよね」。首相官邸で4日、自民党の小野寺五典・元防衛相らが提言の内容を説明していると、安倍首相は独り言のようにこう語った。
提言は、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を踏まえ、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」について検討を求めた。「敵基地攻撃能力」という表現は避けているが、事実上、その保有を求めるものだ。
首相は提言を受けると、その日のうちに国家安全保障会議(NSC)を開いた。検討チームのメンバーの一人は「首相の意気込みを感じる」と語った。
首相は陸上イージス配備断念後の6月18日の記者会見で、記者の「敵基地攻撃」に関する質問に答え、「政府においても新たな議論をしていきたい」と、初めて敵基地攻撃能力の保有検討に含みを持たせた。
安倍政権は敵基地攻撃の保有に関する議論をどのように進めるつもりなのか。
「首相は以前から、『打撃力で抑止力強化を図る必要がある』と考えていた」。政権幹部はこう首相の狙いを語る。自民党幹部は「憲法改正も北方領土返還も、拉致問題も成果がない。敵基地攻撃を政権のレガシー(政治的遺産)にしようとしている」と見る。
「首相は敵基地攻撃に本気で取り組むつもりだ。どんどん発信してほしい」。首相側近はある自民党国防族議員にこう耳打ちし、推進への助力を求めた。
「現実離れ」「こんな議論している場合か」
今回の自民党提言では「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」の保有検討を促す一方、2017年の提言にはない「憲法の範囲内」「専守防衛の下」との条件をつけた。その理由を同党国防族の一人は「首相が前のめりになるのを防ぐためだ」と明かす。
敵基地攻撃について政府は「法理的には可能」としつつ、日米安保条約のもとで日本は専守防衛に徹し、「敵基地攻撃を目的とした装備は考えていない」との立場だった。首相自身も「日本が敵基地を攻撃することは想定していない」と国会で答弁してきた。このため、敵基地攻撃能力の保有は専守防衛や日米同盟の役割分担の見直しにつながりかねない。さらに北朝鮮などがミサイル技術を高度化し、技術的に実現は困難との指摘もある。政権の体力もからみ、道筋をつけるのは容易ではない。
自衛隊幹部は敵基地攻撃について「北朝鮮のミサイルですら発射場所も分からないのが実態。(敵基地攻撃は)現実離れしていて、我々は議論していない」と冷ややかだ。
与党の公明党もこうした能力保有に反対の立場をとる。同党幹部は「我が党は自民の提言を相手にしていない。自民もガス抜きのために議論しているのだろう」と語る。さらに「内閣の国家安全保障局側から、政府は自民党提言を採用しないとの感触を得ている」という。
政府高官も、新型コロナウイルスの感染者が再び増加し、政権の感染症対応への批判も高まる中、「こんな議論をしている場合かという声もある」と自嘲気味に語る。
陸上イージス断念後「降ってわいた話」
一方で、首相には別の狙いがあるのではないかとの見方もある。陸上イージスをめぐる政府対応への批判をかわし、購入元だったトランプ米政権の反発を和らげるため、「新たな課題に取り組む姿勢をみせ、時間稼ぎを試みている」(政府関係者)との見立てだ。
実際、国家安全保障戦略の7年ぶりの改定や敵基地攻撃能力保有に関し、陸上イージス断念前に政府内で議論された形跡はない。防衛省幹部は「降ってわいた話。首相も本気ではないだろう」と話す。
もう一つは対米配慮だ。11月の米大統領選まで時間稼ぎすれば、トランプ政権からの表立った反発は回避できるとの計算もにじむ。
陸上イージスは日米ミサイル防衛協力の象徴だったが、米側は断念への表立った批判は封印。むしろ米国内には、断念を機に、日本が米国の進める統合防空ミサイル防衛(IAMD)構想に参画・連携強化することや、敵基地攻撃能力保有への期待感がある。
在日米軍のシュナイダー司令官は7月29日の会見で、憲法との整合性などは日本の指導者と国民が議論すべき問題だとしつつも、「日本周辺の安全保障環境の変化を踏まえれば、(敵基地攻撃などの)論争や議論が続けられていることを歓迎したい」と語った。
ただ、時間稼ぎの戦略だとしても、トランプ大統領の再選や、米側にとって「肩すかし」の内容になれば、日米関係がきしみかねない。首相は敵基地攻撃にどの程度、踏み込むつもりなのか。政府関係者は「議論の方向性は、国民世論と公明党の動向次第だ」と言う。
戦略改定、中国も焦点に
首相は国家安全保障戦略について今年12月末の改定をめざしている。
国家安保戦略には外交や防衛政策の基本方針が定められている。これを踏まえ、防衛の基本的な考え方や自衛隊の役割などを示す「防衛計画の大綱(防衛大綱)」が、さらに防衛大綱に基づいて必要な主な防衛装備品などをまとめた「中期防衛力整備計画(中期防)」が策定される。防衛大綱と中期防は2018年に改定されたが、国家安全保障戦略は安倍政権が13年に初めて策定して以来、一度も見直されていない。
今回の国家安保戦略の改定では、敵基地攻撃能力の保有だけではなく、中国も焦点になる。
現行の国家安保戦略では、北朝鮮を「脅威」と表現する一方、中国には「懸念」と「期待」を両論併記。当時、中国融和の関与政策をとるオバマ米政権と歩調をあわせた格好だ。
18年の防衛大綱改定の際、政府内や日本の複数のシンクタンクからは「中国の急速な軍拡を踏まえ、国家安保戦略も同時に改定すべきだ」との声があったが見送られた。首相はこの年に訪中しており、「中国への配慮があった」(外務省幹部)との指摘もある。
今回の自民党提言では中国を名指しし、中国が開発・配備を進める極超音速滑空ミサイルや巡航ミサイルなどに対処する必要があると強調。政府には「安保戦略改定の念頭にあるのは中国だ」(政府関係者)との見方が広がっているが、どこまで踏み込むのかは見通せない。
軍事力強化に対処か、経済関係重視か
背景には、中国の軍事力強化に対処すべきだとする「対中牽制(けんせい)派」と、経済関係を最重視すべきだとする「融和派」による政府内の対立がある。
政府は4月、北村滋国家安全保障局長の主導のもと、同局に「経済班」をつくった。先端技術の流出防止や外資による日本企業の買収阻止などの政策を担うが、その多くは中国を意識したものだ。官邸内には年内に初めてとなる「経済安保戦略」を策定しようとする動きもあったが、これに「待った」がかかった。
複数の政府関係者によれば、経済産業省出身で首相最側近の今井尚哉首相補佐官を中心に「戦略はすべて『対中』とみなされる」との反対論が出たという。
国家安保戦略では①ミサイル防衛態勢の再構築②経済安全保障③ポストコロナが柱になるとされる。香港国家安全維持法強行で国際的批判を浴び、沖縄・尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国。米トランプ政権は対中圧力への同調を迫る。日本はどう対応すべきか。
日本国際問題研究所が7月に主催した座談会で、自民党の長島昭久衆院議員は「今度の国家安全保障戦略は中国が潜在的な脅威だとの認識が当然、ど真ん中に入ってくる。そうでなければ、意味のある見直しにはならない」と念を押した。
米国のIAMD構想に本格的に参画すれば、その対象は、日本を射程に収める巡航ミサイルや極超音速滑空ミサイルを持たない北朝鮮ではなく、「中国」を念頭に置くことを意味する。
新たな戦略は、ミサイル防衛態勢の再構築と対中戦略を組み合わせた「ラージ・パッケージ」の改定になるのか。それとも陸上イージス配備断念のつじつま合わせの「スモール・パッケージ」になるのか。
官邸関係者はこう語る。「米国第一主義で同盟軽視のトランプ政権が続くのかどうかで、安保戦略改定のトーンも変わる。まだ方向性は見えない」