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書斎

『骨と髪』

A Bone and a Hank of Hair : Leo Bruce : 1961

原書房,レオ・ブルース


よくできているなあ。読み終えて素直にそう思える作品だ。何しろ、よくまとまっている。英国ミステリならではの不気味な妙味がある。それに何より、重くない。可笑しいし、テンポもいいし、登場人物に魅力がある。それでいて、軽くもない、というところがレオ・ブルースなのだろうか。

お話は、素人探偵キャロラス・ディーンをチョーク夫人が訪ねてくるところから始まる。夫人はキャロラスの名声を聞きつけ、行方不明の従妹を捜してくれと依頼しにきたのだ。夫人が言うには、従妹のアンは夫に殺されたに違いないという。

殺人事件しか引き受けないという理由で断ろうとしたキャロラスだったが、夫人の勢いに押されて仕事を引き受けることに。渋々、夫婦が暮らしていた町へ向かうが、そこで待ち構えていたのは恐ろしい噂ともぬけの殻の家。しかも、住人たちが語るアンの外見は夫人の従妹とは似ても似つかないものだった。

さらに別の町へ移るも、そこでも恐るべき噂が蔓延し、またもや違う外見の”アン”が・・・ 果たして、本物の彼女はどうなったのか? そして、他の二人の女性は何者なのか?

といった具合に、徐々に話が盛り上がっていく。こうしてキャロラスが犯人もしくはアンの足取りを追いながら、あの町この町と渡り歩いていく、というのが本作の主要なストーリーなのだが、一方、脇道へ逸れると、多くの魅力的な脇役がいて、これまた楽しめる。

一つ残念なのは、オチがすぐ分かってしまうところだが、もともと難しい謎解きに重点を置いた話ではないので、それも愛嬌か。

それにしても、イギリスの南部というのはずいぶん荒涼としたところなんだな、とこれを読んで思った。こういう風土を背景にしているからこそ、ブルースも不気味さと乾いた笑いを描けるのだろう。ユーモラスな登場人物たちにしても、決してウケ狙いで創造されたわけではない。面白おかしく描かれてはいるが、それぞれが二本の足でしっかりとイギリスの地に立っている。この話に登場する何十人もの脇役は、まさしく英国の風景を描いたバックグラウンドなのだと言ってもいい。

などと、ちょっとした小旅行気分にも浸れる、ごつごつした生命力溢れる一作だった。


最終更新日: 2007.9.22