07 28(火) 今までの教育問題のまとめ【その五】 |
04 10(月) 海陽学園…教育ルネサンスA |
国内では批判もある「エリート教育」は、本当にタブーなのか。 底冷えのする韓国ソウルから車で2時間半。江原道にある私立高校「民族史観高校」は東京ドーム27個分のキャンパスを持ち、校舎まで続く道の傍らには15基の台座が並ぶ。卒業生からノーベル賞受賞者が出た場合に銅像を建てるためだ。 韓国を代表するエリート養成校として知られ、ホテルのような12階建ての寮のほか、国際人として困らないためにゴルフ練習場もある。授業は国語と歴史以外、すべて英語だ。 「各界のリーダーとして世界を舞台に勝負してほしいから」と、李敦煕校長(68)。1996年の開校以来、内外の一流大学に人材を送り出し、卒業生は官僚や研究者などとして活躍中だ。 韓国政府は2000年、エリート教育に国を挙げて取り組む「英才教育振興法」を制定。03年には同法に基づき、民族史観高校をモデルにした国立高校「韓国科学英才学校」を釜山(プサン)に開校した。生徒は大学教授の指導も受け、物理や数学など専門分野の研究を進める。毎年1本の論文提出が義務付けられるが、成績優秀者は提携する国内の大学に無条件で進学できる。 以下略……… |
(1)「リーダー」国挙げ育成 2006.04.01(読売新聞) 国内では批判もある「エリート教育」は、本当にタブーなのか。 底冷えのする韓国ソウルから車で2時間半。江原道にある私立高校「民族史観高校」は東京ドーム27個分のキャンパスを持ち、校舎まで続く道の傍らには15基の台座が並ぶ。卒業生からノーベル賞受賞者が出た場合に銅像を建てるためだ。 韓国を代表するエリート養成校として知られ、ホテルのような12階建ての寮のほか、国際人として困らないためにゴルフ練習場もある。授業は国語と歴史以外、すべて英語だ。 「各界のリーダーとして世界を舞台に勝負してほしいから」と、李敦煕校長(68)。1996年の開校以来、内外の一流大学に人材を送り出し、卒業生は官僚や研究者などとして活躍中だ。 韓国政府は2000年、エリート教育に国を挙げて取り組む「英才教育振興法」を制定。03年には同法に基づき、民族史観高校をモデルにした国立高校「韓国科学英才学校」を釜山(プサン)に開校した。生徒は大学教授の指導も受け、物理や数学など専門分野の研究を進める。毎年1本の論文提出が義務付けられるが、成績優秀者は提携する国内の大学に無条件で進学できる。 ◎ だが、なぜエリート養成なのか。政府機関・科学技術部科学技術人育成課の金在植課長(52)は「資源が少ないわが国では、英才1人が約3000億円の価値がある。そのためには、人を育てる政策が必要だった」と、説明する。 韓国だけではない。韓国教育開発院英才教育センターの徐恵愛所長(46)が注目するのは、ブッシュ米大統領による今年1月の一般教書演説だ。中国やインドの台頭に、理数系教師の7万人採用など、科学教育のすそ野の強化策を打ち出した。その中国は1995年、「科教興国」のスローガンを掲げ、先進国に国費留学生を大量に送り込み、長期的視野で育成に取り組む。小学校からエリート教育を行う「重点学校」もある。 シンガポールは小学校段階の2回のテストで、その後の進学先が決まってしまう。批判はあるが、「徹底したエリート教育が人口約400万の小国が繁栄できた理由」と、白百合女子大の田嶋ティナ宏子助教授(44)は説明する。 ◎ 翻って日本では、第2次世界大戦後、エリート教育はながらくタブー視されてきたが、ここにきて変化の兆しも見えてきた。 慶応大は予備校と協力して、少数精鋭の現役高校生を対象とした先端科学の連続講座を開く。国際会議で発表する力をつけるため、科学英語も学ぶ予定だ。今月8日には、トヨタ自動車などが運営する海陽中等教育学校が、愛知県蒲郡市に開校する。モデルは有能な人材を輩出する英国・イートン校で、知識詰め込み型の受験エリートを超えたリーダー育成を目指す。 官僚の不祥事や政策立案能力の低下が言われる中、東京大は時代が求める官僚を養成する大学院を設置した。早稲田大は、リーダー養成のため、ジャーナリストの田原総一朗氏を塾頭にした「大隈塾」をスタートさせた。改革派の知事などが進めるのは、高校生を対象とした「日本の次世代リーダー養成塾」だ。 その根底には次のような問題意識がある。「極端な平等主義教育の中で、日本には国際的に活躍できるリーダーが育っていない」(塾長代理の榊原英資・早稲田大教授)。日本もようやく重い腰を上げつつある。(白石洋一) (2)“日本版イートン校”始動 2006.04.04(読売新聞) 「大学みたいだなあ。海がひらけていて最高だ」 生徒が毎日集う食堂から三河湾が一望できる。キャンパスは東京ドームの3倍近い。篠崎高雅さん(46)は、そんな環境が気に入った。愛知県蒲郡市に8日開校する全寮制の私立男子校・海陽中等教育学校で、生徒と寝食を共にする「ハウスマスター」。家族を東京に残し、ひと足早く寮に住み始めている。 東京大学出身。銀行マンとして国際金融の最前線に立ち、米マサチューセッツ工科大学に派遣された経験も持つ。ただ、いつも心の中にどこか満足感を得られない自分がいて、人の喜ぶ姿を目の当たりにできる教育に興味を持った。 企業経営者や官僚の犯罪も引き合いに出し、「今の世の中、有能な人が悪いことをする。能力をいかに使うかを、自分の体験を交えて伝えたい」。予習復習など、学習面のサポートも期待されるが、早ければ来年、教員免許を取得、社会科教諭として教壇にも立つ。 ◎ 1期生123人の面倒を見るハウスマスターはもう1人。やはり元銀行員で、理科の教員免許を持つ30代男性だ。2人とも、私立開成中学高校長を10年務め、東京大名誉教授でもある物理学者、伊豆山健夫校長(74)が、人脈を生かしてスカウトした。さらに、トヨタ自動車、JR東海、中部電力など、学校設立の中核になった企業の若手社員6人も「フロアマスター」として住み込み、篠崎さんらを支える。 寮を中心にした集団生活で、自由や規律ある生活習慣、独立心と協調性を育てる。モデルは英国のパブリックスクール、イートン校。多くの首相を輩出し、王子たちも学ぶ名門だ。9月からは1年間、イートン校の現役教師を招き、寮運営や授業で助言も受ける。 教師は、大阪の公立進学校や首都圏の私立校からも招いた。国語、数学、英語の基礎力を徹底的に磨く一方、高校までの学習内容は4年間で終える意気込みでいる。「国際社会では、自分の国のことを知らず、軸足のない人間は尊敬されない」として、古典や日本史も重視する。学業に集中させるため、漫画本やゲーム機は寮に持ち込ませない。 ◎ 生徒の出身地は、半数以上が学校のある東海地方だが、首都圏や関西も多い。 東京から、長男を入学させる自営業の父親(52)は「企業が本当に日本の教育や人材育成に危機感を持ったからこそ、出来た学校だと思う。周囲からの誘惑もなく勉強に集中できる環境だし、人付き合いも学べる」と期待する。 「日本のため、世界のため、人のため、社会のためになる人材を育てる学校にしたい」と学校法人の理事長である豊田章一郎・トヨタ自動車名誉会長。年間約300万円という学費にもかかわらず、受験者525人、競争率は4倍を超えた。その数字が、期待の大きさを物語っている。(白石洋一) 全寮制学校 公立では宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校(1994年開校)がある。私立は那須高原海城学園中学高校(栃木、96年開校)など26校が全国私立寮制学校協議会を組織する。加盟校は必ずしも全寮制ではなく、加盟校以外で寮を持つ学校も存在する。学校のカラーも進学重視から不登校対応まで様々。2001年閉校の東京都立秋川高校も、65年の開校時にパブリックスクールをモデルにした。 (3)全寮制 精神修養にも力 2006.04.05(読売新聞) 大韓の英才たちよ 一つになって進もう 我々は祖国愛を一時も忘れない 新入生が校歌の練習をしていた。「呼吸が大事だぞ。背筋をきちんと伸ばして」。男性教諭が韓国の打楽器「チャング」をたたきながら声を張り上げた。 私立民族史観高校では全員が伝統楽器を学び、テコンドーや韓国流剣道も習得する。3年間で80時間のボランティア活動も必修だ。 「リーダーや研究者である前に、人間として精神力や心を磨くことが重要。エリートは伝統や文化を重んじることも大切だ」と語る李敦煕校長(68)は、自主性を育てる取り組みにも力を入れる。遅刻や外出違反をした生徒は、生徒自身による「法廷」で裁かれる。罰則は書写。昨年から、テスト試験監督は置かないことにした。 入試の出願は、英語の能力試験TOEFLの得点や中学での上位5%以内の成績が条件。図書館には海外の書籍約6300冊を持ち、米国の大学教授の講義を収めたDVDも用意する。 ◇ 国が全面支援する国立韓国科学英才学校には、蔵書が1万冊を超える科学専門図書館やプラネタリウム設備がある。校内に個々人の学習机があり、原則、午前8時〜午後9時30分は帰寮できない。一方で、息抜きのため、ビリヤード場やカラオケルームも備える。 やはりテコンドーを通して礼儀や忠誠心を学ぶ。ボランティア活動は3年間で120時間だ。教諭の7割が博士課程修了者。ロシアで英才教育に携わった物理学者も教師に招いている。 入試には4泊5日のキャンプがある。生活態度も観察されながらリポートを書く。今年の入試倍率は17・35倍に達した。初めての卒業生を送り出した鄭天守校長(60)は「ノーベル賞がとれる人間が出てほしい」と期待する。 ◇ 両校の生徒には、国家や社会に役立つ人間でありたいという気持ちが強い。 「韓国は日本との間で外交問題を抱え、朝鮮半島の統一問題も未解決。そういう問題に携わりたい」と外交官志望の崔恩永さん(17)(民族史観高校3年)。中学2年から韓国科学英才学校に飛び入学したばかりの宋瑞祐君(15)から「国立学校だから国家に役立つ人間になるのは当然。論文ねつ造問題で、失墜した世界的な科学の地位を挽回(ばんかい)したい」といった発言が出る。 韓国の英才教育振興法第1条には「才能が優れた人物を早期に発掘し、生まれ持つ潜在力を啓発できるよう、能力と素質に合う教育を実施し、個人の自己実現と国や社会の発展に寄与することを目的とする」とある。その狙いは生徒に染みついている。(白石洋一、写真も) 韓国の全寮制エリート校 民族史観高校は1996年開校で1学年約150人。年約150万円の授業料は韓国の高校で最高額。乳製品メーカーが英イートン校をモデルに設立、世界に出ても韓国民としての誇りを持ち続けてほしいと命名した。2003年開校の韓国科学英才学校は1学年約140人。授業料は年約15万円だが、全生徒が奨学金を受け、寮費も国負担で、実質的には無料。両校とも男女共学。 韓国科学英才学校3年、ある生徒の1日 6:30 起床 7:30 登校、朝食 (朝食後) 予習復習 9:00 授業 13:00 昼食 14:00 授業 18:00 夕食 19:00 読書 21:30 夜食 22:00 宿題 23:30 帰寮 24:00 英語本読書 25:00 論文作成 26:30 就寝 民族史観高校の1日(学校案内から) 6:00 起床 6:30 心身鍛練 7:00 朝食 8:00 登校 8:30 授業 12:20 昼食 13:40 授業 15:40 個別学習 17:30 夕食 19:00 自習 21:00 夜食 22:00 自習 23:50 就寝 (4)神童が「飛べない」日本 2006.04.06(読売新聞) 3月2日、8歳の少年が韓国・仁荷大学の入学式に臨んだ。京畿道に住む宋幽根(ソンユグン)君。韓国有数の名門私大に韓国史上最年少の大学生が誕生した瞬間だった。 本来なら現在小学3年生の幽根君は、2004年11月に小学校へ飛び入学すると、05年8月に大学入学資格検定に合格、その2か月後には同大学入学が決まった。大学には月〜水曜日に通い、物理学や数学、コンピューター、英語を学ぶ。 「物理学者になって、ノーベル賞を取りたい。同じアジアの湯川秀樹先生や朝永振一郎先生も受賞してるから、僕も取れる」と、その夢は広がるが、母親の体に寄りかかるなど、甘えん坊の一面も見せた。 ◎ 幽根君だけではない。 韓国では00年から6年間で、小学校25人、中学校34人、高校3464人が早期卒業し、その数は増加傾向にある。政府が1996年施行の小・中等教育法で、早期進学・卒業を認めたからだ。各校が放課後や夏休みに開設する「英才学級」や、各自治体が大学教授を招いて開く「英才教育院」も同時に設置された。 2004年には、小中高生全体の0・3%(約2万5000人)の英才教育対象者を、2010年に1%(約8万人)とすることも決定。今年度からは、小学生以下の英才を支援する「科学神童プログラム」も始まった。数学や科学を中心とした教育計画で、教材費なども国が負担する。幽根君のように能力ある子供にそれに見合った教育を受けさせる狙いがある。 ◎ 日本では、中央教育審議会が、小中高への飛び級制度導入の是非を検討したことがあるが、1997年の答申は「実施しないことが適当」だった。受験競争の激化や子供の心理状況への影響を懸念したという。 こうした中、私立の進学校、江戸川学園取手中学・高校(茨城県取手市)は02年度から、独自の「教科飛び級制度」を実施している。成績優秀な教科に限り、1学年上の授業を受けられる。昨年度は中学生5人、高校生9人が飛び級した。 「生徒が能力に応じて学ぶのは当然」と、大坪司郎校長。ただ、小中学生が大学で学ぶような飛び入学には、中教審同様の疑問を呈した。「人間の成長には教養や理性などが必要で、中高はそうした基礎的な力を養う時期」という理由からだ。 だが、韓国の科学神童プログラムでも、人間性や社会性も学べるよう最大限の配慮を行う。幽根君も大学近くの小学校で体育や美術、音楽の授業を受ける。 飛び級・飛び入学制度を一握りの大学・大学院でしか採用しない日本。それはひとつの見識かもしれないが、飛び抜けた才能を足踏みさせることで、私たちは、その貴重な時間や夢までも奪ってはいないか。(白石洋一、松本英一郎) 飛び級・飛び入学 採用するのは韓国だけではない。米国の大学入学年齢は通常18歳以上だが、1999年度には18歳未満の大学在籍者が約3%を数えた。これを支える英才児向けプログラムもある。英国やフランスも同様の飛び級・飛び入学を認めている。中国では、2004年、14歳の少年が北京大学大学院修士課程に入学し、話題を呼んだ。この制度に関しては、日本は例外的な存在だ。 (5)小学生から海外で“自立” 2006.04.07(読売新聞) 「北アルプスの山々を見ると帰ってきたことを実感します」と語る中川雄太君(長野県白馬村で) 海外の寮制学校に進む子供が少なくない。 春まだ浅い長野県白馬村。中川雄太(ゆうだい)君(17)は「大変だけど充実した日々が送れているのは、子供の夢をつぶしちゃいけないと支えてくれた、周りの大人たちのお陰です」と顔をほころばせた。3か月ぶりに休暇で帰った古里の白い峰々が眼前に広がる。 「海外で科学を学び、人や地球に役立つ仕事につきたい」と、12歳で小学校の卒業を待たずに留学したのはニュージーランド。「中学の最初から英語圏で学びたい」という本人の強い希望からで、単身だった。 高校はカナダの太平洋岸、ブリティッシュコロンビア州の私立校ショーニガン・レイク・スクールに進んだ。ボーディングスクールと呼ばれる寮制の進学校の一つ。ハーバードなど一流大進学者を輩出する名門で、今、日本の高2に当たる11年生だ。成績優秀者を対象とした学内のディナーに招かれたこともある。 父、恵市さん(52)は山小屋の支配人。小学校入学前から山登りに親しみ、大自然の美しさや残酷さを肌身で感じて育った。そんな影響で、小学4年から3年間、アシナガバチの観察を続けて科学賞を受賞、「雄太昆虫記」の名で出版され、賞ももらっている。留学後も両親との約束で日本語の勉強を怠らず、体験記を日本の新聞に連載、「12歳、世界にチャレンジ」という一冊の本にまとめた。 「学校は意欲さえあればあらゆる機会を与えてくれる。人間形成やリーダーシップを学ぶうえでも大きな体験になっていると思う」 ◇ 雄太君のような進路は、珍しくなくなりつつある。 米東部にあるボーディングスクールの入学審査部長、ジョン・アイダムさん(61)は、日本を年数回訪れ、この春も、大阪、名古屋、東京で開かれた留学説明会でマイクを握った。 北米などの約300校が加盟するボーディングスクール協会の理事として「私たちが育てているのは、富裕な特権的エリートではなく、社会に広く貢献できるセレクティブ(才能ある人)です」と胸を張る。 アイダムさんを招く東京の海外教育コンサルタンツ(EDICM)は、小中高校生の留学を年200人ほどあっせんする。その1割は小中学生で、説明会の参加者も小中学生の親子が半分を占める。高校生の留学は1980年代後半から増え始めたが、最近はボーディングスクール進学を目指して、幼いうちから留学する例も目立つというのだ。 比較的学費が安いオーストラリアやニュージーランドの公立中学校のほか、年間500万円以上の学費がかかるスイスの私立小学校に低学年で留学させる家庭もあるという。 EDICMの浅井宏純社長(51)は「真のエリートは、社会の各分野のリーダーであり、公共に奉仕できる人。エリート教育は大学からでは遅い。小中学生のうちから留学し自立心や自己管理能力を身につけた子供たちの中から、たくましい近未来の日本のリーダーが生まれる」と信じている。(松本由佳) ボーディングスクール 「ボード」は「賄う」の意味。北米では中高一貫の6年制か、4年制が一般的。寮生活は相部屋が原則で厳格な規則があり、互助の精神がたたき込まれる。ボランティア活動が義務づけられ、スポーツも奨励される。授業は1クラス15人程度。宿題も多い。学費は年300万円を超える。出身者には歴代の米大統領のほか、ビル・ゲイツ氏などの実業家も目立つ。 (6)韓流モーレツ、危うさも 2006.04.08(読売新聞) 「盧武鉉大統領自身も『国家の競争力を高めるために英才教育が必要だ』と考えている」。韓国の英才教育全般の研究を進める「韓国教育開発院英才教育センター」の徐恵愛所長(46)は、韓国の英才教育は国を挙げた一大プロジェクトだと強調する。 韓国政府は、2003年開校の韓国科学英才学校のほか、10年までに「情報」と「芸術」の英才学校を作る方針だ。これらの高校への進学をめざす生徒を、全国の各学校が開設している英才学級などが支援する。 センターは01年、こうした施策を担保するため、各自治体が推薦した優秀な教諭の研修制度も確立した。その数は5年間で約4000人。教諭は60時間の基礎研修を終えると、より高度な120時間の研修に臨み、自ら開発した英才指導法についての論文も書く。 ◎ 英才教育は、何より保護者の期待が高い。日本の文部科学省にあたる教育人的資源部科学実業教育政策課の金鐘冠課長(56)は「韓国では教育が身分上昇の唯一の手段。親は自分の子供が英才だと認めてもらうことが一番の誇り」と直截(ちょくせつ)に語る。 ただ、政府の狙いと国民の思いには微妙なずれもある。たとえば、日本と同じ「理数離れ」の問題だ。 日本の大学入試センター試験にあたる「大学修学能力試験」では、1995年に自然科学系の志願者は全体の41・8%。それが2004年には31・5%に。徐所長は「97年の通貨危機で真っ先にリストラされたのが企業の研究者だったせいもある。最近は優秀な学生が医者や弁護士に進む傾向もある」と話す。 ◎ 一方、「政府は英才教育の対象者を拡大する方針だが、英才教育は本来、数ではなく質を上げるべき。なのに数字だけが独り歩きしている」との意見もある。 日本の鳴門教育大で客員研究員を務めた釜山(プサン)大学校師範大学の金富允教授(51)の指摘だ。金教授は、その上で「日本が韓国のように英才教育を急速に進めることは勧めない。最近は学歴は高いが人格の面で問題がある若者も多い。むしろ、人間教育を大事にする視点が大切では」と警鐘を鳴らした。 周囲の過度な期待がかえって、本人を追い込むという声もある。一例が、ソウル大の黄禹錫(ファンウソク)前教授(懲戒免職)による論文ねつ造事件だ。しかし、日本でも、東大や阪大などで論文偽造に関する疑惑が浮上、米国でも同様の問題が起きている。英才教育が不祥事の根源との見方は、皮相に過ぎるのではないか。 急速な工業化成功の勢いに乗り、やけどしそうな愛国心にも結びついた韓国の英才教育には、危うさも感じる。その一方で、教育改革を果敢に進める躍動感は日本では感じづらいものだ。要はバランスということだろう。(白石洋一) ■英才教育に賛成「52.4%」 韓国の数学教育専門塾が小学校5年生―中学2年生1612人を対象に行った英才教育に関するアンケート結果(昨年1月発表)によると、賛成は52.4%、反対は29.8%。賛成の理由では「自分のレベルに合うから良い」がトップで、58.1%。反対の理由は、「競争が激しくなるのでつらい」が35.9%で最も高く、「差別、不公平」が21.2%、「格差が広がる」が11.4%で続いた。 (7)高度な学習 ネットで対応 2006年4月11日 米国の英才教育プログラムが、日本の子供の学習意欲を支える。 東京都内のインターナショナルスクールに通う丸山由莉さん(16)、莉穂さん(14)姉妹は週末、自宅でノートパソコンに向かうのが習慣だ。 約1時間、集中して取り組むのは、在宅学習用の英才教育プログラム「EPGY」。年齢や学年を問わず、能力に応じて学べるのが特徴で、画面上でのレッスンはすべて英語で進む。米国大統領からノーベル賞受賞者、企業経営者、アーティスト、大リーガーまで、卒業生が各界で活躍する米国屈指の名門スタンフォード大学が開発した。 日本の高校1年生にあたる由莉さんは同大の単位として認定される「ライティング」を受講中。効果的な要約法や洗練された英語の書き方を身につけるのが狙いだ。中学2年生にあたる莉穂さんは高校レベルの数学に挑戦している。 姉妹は公立小学校在学中に両親と話し合ってインターナショナルスクールに転校し、EPGYの受講も始めた。「学生時代は英語に自信があったが、実際にビジネスで使うと、限界も感じた」という父親の正明さん(43)は、「娘たちには英語を生かして、世界で自分の能力や個性を発揮してほしい」と応援する。 同大への進学をめざす由莉さんは「日本では正解を暗記する勉強が多いが、EPGYを始めて自分が物事をどう考えて、人生で実践していくかを深く考えるようになった」と話した。 ◎ 九州地方に住む小学4年生の男児(9)も昨年11月からEPGYの受講を始め、4月からは高校レベルの数学に挑んでいる。 男児は昨年の夏から在籍する公立小学校ではなく、地元自治体が運営する不登校児向けの適応指導教室に通う。小学校には行きたいが、その学習能力の高さから、学校側に「息子さんを教えるための準備はできていない」と回答された。 幼稚園の年長だった6歳で、英検準2級(高校中級程度)に合格、数学も中学3年の問題を解く力があった。両親は「様々なタイプの子供の中で集団生活を身につけさせたい」と、公立小学校を選んだ。だが、その授業で発表する際、男児はことわざや四字熟語を使い、教師から「それはまだ習っていないから使ってはいけない」と止められた。 小学校では進度の遅い子供のために補習があった。その光景を横目に「うらやましいなあ」と、これまでほぼ独学で来た男児はこぼした。国内では、学力が伸び悩む子供への支援はあっても、高い子供への関心は薄い。だから、民間の英才教育プログラムに頼るしかなかった。 「同じ悩みを抱えた家庭はほかにもあるのでは」という母親(42)がこう続けた。「例えば大学の中に子供のクラスを設けて、レベルの高い授業を受けながら、同世代の仲間と遠足や運動を楽しむことはできないのでしょうか」。できる子供は放っておいて良い、という問題ではない。 (白石洋一) EPGY(Education Program for Gifted Youth)(有能な若者のための教育プログラム)の略。数学、物理学、ライティングがあり、幼稚園から大学生まで60以上のコースがある。費用は1教科で月1万8900円から。世界28か国で展開され、国内では東進ハイスクールなどを展開するナガセが運営、約300人が受講する。うち8割が公立学校に通学中で、海外での生活経験はない。 |