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続折々の記 ⑩
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】10/15~     【 02 】10/18~     【 03 】10/24~
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【 07 】11/14~     【 08 】11/16~     【 09 】11/26~

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【 02 】10/18
    危機の時代に 2021衆院選:3 10/19
        気候危機、行動を求める若者 党・議員の取り組み、高2落胆
        私たちの未来」脱炭素へ声 若者ら、政党招き討論会や政策提言
        パウエル元米国務長官死去 ブッシュ政権、初のアフリカ系
        パウエル元米国務長官死去 臆病者の遺言
    日本経済の現在値 10/20
        30年増えぬ賃金、日本22位 上昇率は4.4% 米47%、英44%
        (1/5) 置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金
    下平評 10/20
        日本人が稼いだお金はどこへ行った
        金持ち優遇の実態

 2021/10/19 (危機の時代に 2021衆院選:3)
気候危機、行動を求める若者 党・議員の取り組み、高2落胆

写真・図版 【写真・図版】浜松市の8月の平均気温の推移

 「気候非常事態宣言都市にして下さい!」「私たちの未来を私たちで作ろう」

 制服姿の生徒たちが、画面に向けてメッセージを掲げる。9日、浜松開誠館中・高(静岡県)の生徒が企画したオンラインイベント。気候危機について、若い世代の声を政治に届けようと呼びかけた。

 浜松市では昨年8月、国内最高気温に並ぶ41・1度を記録。夏場、屋外の部活動も年々厳しくなっている。

 日本は菅政権の下、昨年10月に、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を宣言。国連に30年度に13年度比46%削減するという目標を提出した。

 ただ、選挙を前に、政治家の気候危機への考え方が見えてこない。「まだ大きな問題だと思っていないのか」。主な政党にアンケートを出し、9政党のうち8政党から回答が来た。実行委員長の山田裕翔さん(高2)は「若者が真剣に考えていると思ってくれたのか、これから選挙権を持つからイメージを気にしたのかな」。

 尋ねたのは、(1)46%の削減目標の評価(2)効果的な排出削減対策(3)気候危機に対する各党や議員の活動、の三つだ。46%減の目標について、与党の自民・公明は「野心的」だと評価。日本維新は過度な規制による産業流出を招かないよう、技術革新と雇用創出を訴えた。一方、立憲民主と共産は、目標は不十分という立場だ。それぞれ55%以上削減、50~60%削減を目指すべきだと提言した。

 生徒には物足りなかったようだ。佐々木涼翔さん(高2)は、党や議員の取り組みにがっかりした。紙やペットボトルを減らすなど、学校でもやっていることばかりだったからだ。「大人にしかできない、国会議員にしかできない規模で取り組んで欲しい」。上嶋波矢都さんは「未来を作るのは技術だ。次の技術への支援をお願いします」と訴えた。(香取啓介)
 (3面に続く)

▼3面
私たちの未来」脱炭素へ声 若者ら、政党招き討論会や政策提言

写真・図版 【写真・図版】気候危機に対する各党のスタンスは?/気候変動対策は経済に良い?悪い?

(1面から続く)
 深刻化する気候危機について、政治に声を上げる若者たちが各地で増えている。2018年、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)が始めた学校ストライキをきっかけに火がついた。「Fridays For Future」(未来のための金曜日)運動となり、気候マーチと呼ばれるデモ行進などが世界に広まった。

 日本でも行われるようになった街頭での訴えは、選挙で議員を選ぶ議会制民主主義ではすくいきれない声を届ける「政治参加」の手段の一つになりうる。

 今回は、運動が盛り上がってから初めての衆院選。政党や候補者に直接訴える取り組みが始まった。FFFジャパンは17日、各政党の政策責任者を招いた公開討論会を開いた。参加した角谷樹環さん(15)は「政治を変えることができれば、私たちの未来を変えることができる。私たちは気候変動によって死にたくない」と訴えた。

 一方、気候変動のような、世界規模で長期にわたる課題に民意を反映させる方法として注目されるのが「市民会議」だ。一般市民を巻き込んで討論を重ねて政策を作る。選挙だけでは対処が難しい問題に対し、民主主義を補う仕組みとして欧州で広がり、フランスでは今夏の気候変動対策法の制定につながった。

 国内でも「日本版気候若者会議」が発足した。中学生から39歳まで108人を集めて、5月から10週をかけ議論。「再エネ100%」「カーボンフットプリントの表示化」「気候市民会議の設立」など70の項目からなる「政策提言書」を作り、自民、立憲民主の各政党、経済産業省と環境省、経団連に手渡した。

 事務局の会社員、西田吉蔵さん(37)は「若者だけでも考えればこれだけの解決策が出るのに、政治や企業がそこに到達できないのがもどかしい。あなたたちはもっとできるでしょ、というのを受け取って欲しい」と話す。

 司法に訴える若者もいる。大阪府のエリナさん(25)は、ドイツ留学中に気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に若者代表として参加。石炭火力に頼る日本に対して、東南アジアの市民団体が抗議活動をしていたことに驚いた。環境先進国だと思っていた日本が、かなり遅れていると批判されていた。「自分に向けられているようで、ショックだった」

 帰国後に、大学の近くで石炭火力発電所の増設計画があることを知り、建設を許した国の環境影響評価の不備を訴えた行政訴訟の原告団に参加。地元住民とともに建設中止を訴える。一審は敗訴したが控訴審が続く。「市民が勝てば気候変動政策が進むと信じている」
■加速する産業界、痛みも
 若者たちの脱炭素への意識の高まりは、出遅れが目立つ日本の産業界の取り組みを加速させる原動力にもなっている。経済産業省の7月末時点のまとめでは、NECや富士通、三菱重工業など124社が50年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を打ち出した。金融業界では三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友FG、みずほFGの3メガバンクグループが50年までに投融資先を含めて、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることをめざすとしている。対応が遅れた企業は、将来的に融資を受けられず、事業が成り立たなくなるとの危機感がある。

 一方、脱炭素で痛みを伴う業界もある。ホンダは40年までに全ての新車をCO2を出すエンジンを使わない電気自動車(EV)などにすると発表した。

 下請けとして、エンジン部品を製造する栃木県内の会社長(37)は「EVになったら、作れる部品がなくなる。このまま仕事が減り続けるのか、不安だ」。

 エンジン部品向けに金型の企画設計を担ってきた大阪技研は今春に自己破産した。社長だった大出竜三氏(69)は、「有望な新しい事業をみつけろ、と言われても、中小零細に自前でできる金も開発ノウハウもなかった」と振り返る。

 自動車関連産業の就業人口は540万人で、就業人口全体の6700万人のうち8%を占める。日本自動車工業会の豊田章男会長は9月の記者会見で「(脱炭素が)雇用問題であるということは忘れてはいけない」と釘を刺した。
■「政党も軽視できぬ」
 欧州の環境運動に詳しい京都大の宇佐美誠教授(法政策論)は、若者たちの運動について「いずれこういう時が来ると思っていた」と話す。温暖化による被害は途上国や貧しい人ほど大きく、現役世代より、若い世代ほど影響を受ける。新型コロナウイルスのパンデミックで、国を越えて危機に向き合おうとする傾向は強まったといえる。

 ただ、日本は他国に比べて気候変動に対する理解度は高いが、対策はコストと見なされ、市民運動の広がりもいま一つだ。米イエール大学が2~3月に世界31カ国・地域を対象にした世論調査では、「気候変動の知識」や「将来世代への影響」などを尋ねた質問で、日本は上位10カ国だったのに対し、政策の優先順位で「とても高い」と答えた人は下から9番目と低迷。対策が「経済成長も雇用も減らす」と考える人は39%と他国と比べて多い。

 宇佐美さんは、「若者は有権者として多数ではないが、各政党とも社会の変化を感じ、あなどれないと思っているのではないか。主張を直ちに実現するのは難しいが、選挙での論戦を通じて変わっていく可能性がある」と話す。(香取啓介、神山純一、長崎潤一郎)

パウエル元米国務長官死去 ブッシュ政権、初のアフリカ系

写真・図版 【写真・図版】コリン・パウエル氏

 米ブッシュ(子)政権で、アフリカ系(黒人)として初めて国務長官を務めたコリン・パウエル氏が18日、新型コロナウイルス感染の合併症により死去した。同日、家族が声明で明らかにした。84歳だった。▼国際面=イラク戦争後悔

 家族は声明で「彼はワクチンを接種済みだった。治療に当たった医療スタッフに感謝したい。卓越した愛情深い夫、父、祖父であり、偉大な米国人を私たちは失った」と記した。

 1937年、ニューヨーク市生まれ。両親はジャマイカからの移民だった。大学で陸軍の予備役将校訓練隊に入り、卒業時に任官。ベトナム戦争には2度従軍し、負傷して勲章も受けた。

 帰国後「エリートクラブ」と言われるホワイトハウス・フェローに登用され、大将に昇進。ブッシュ(父)政権で軍人の最高ポストである統合参謀本部議長まで上り詰め、湾岸戦争を指揮した。

 2001年、ブッシュ(子)政権で国務長官に就任。国際協調と外交の重要性を説き続けた。イラク戦争の開戦にも慎重だったが、最終的には支持。03年に国連安全保障理事会での演説で、イラクが大量破壊兵器を保有する証拠を挙げ、米国はイラク戦争へと突入した。だが大量破壊兵器は見つからず、パウエル氏は退任後に「人生の汚点」と振り返っていた。

 ブッシュ(子)氏は18日、声明を出し、「コリン・パウエルの死を深く悲しんでいる。多くの大統領がパウエル将軍の助言と経験を頼りにしていた。彼は国内外で高く評価されていた」と述べた。(ワシントン=高野遼)

 2021年10月20日 (天声人語)
パウエル元米国務長官死去 臆病者の遺言

 「心配性」「臆病者」。米大統領の面前でパウエル国務長官が他の閣僚にののしられる。何年か前に見た米映画「バイス」にそんな場面があった
▼訃報(ふほう)に接して評伝や回顧録を読み直した。軽々にイラクへ攻め入るべきでないと訴えるパウエル氏は、開戦を急ぐ副大統領や国防長官に軽んじられ、政権内で孤立していたらしい
▼何とか思いとどまらせようとパウエル氏がブッシュ大統領に説いたのは「焼き物小屋ルール」。陶芸品を割ったら、わが手で後始末をしなくてはならない。米軍を送りこんだら、戦後処理と復興までやり遂げる国際的な責任を負う、と迫った
▼「大量破壊兵器を持っているのはスラムダンク(絶対確実)だ」。バスケットボール用語を持ち出して太鼓判を押した米中央情報局(CIA)の長官らに、慎重派は押し切られていく。あくまで国際社会の理解を得ようとパウエル氏は国連での演説に臨む。「イラクはヤシの木立に生物兵器を搭載できるミサイルを隠しています」
▼結局のところ、大量破壊兵器は存在しなかった。肝心のCIA情報に根拠が乏しく、米国は多くの国々を大義なき戦争に巻き込んでしまった。「あの演説は私の人生の汚点」。後年そんな悔いを口にしている
▼若いころ、ベトナムの戦地を2度踏み、泥沼化の現実と向き合った。軍はやみくもに動かすものではないという信念を崩さず、核兵器は「極めてむごい」と使用に反対した。米政界屈指の「心配性」「臆病者」からの遺言である。


 2021/10/20 (日本経済の現在値)
30年増えぬ賃金、日本22位 上昇率は4.4% 米47%、英44%

写真・図版 【写真・図版】主要国の名目GDPの推移/主要国の平均賃金の推移

 日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷が続いている。▼13面=賃金より雇用維持

 国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。

 賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35カ国中22位で3万8514ドル(1ドル=110円で424万円)。この30年で日本は4・4%増とほぼ横ばいだが、米国47・7%増、英国44・2%増などと差は大きい。賃金の額も、隣国の韓国に15年に抜かれた。

 12年末に発足した第2次安倍政権は大規模な金融緩和と財政出動、投資を促す成長戦略を「3本の矢」とするアベノミクスで、この状況を打破しようとした。当初1万円ほどだった日経平均株価は3万円前後まで回復し、企業業績も改善した。だが、海外に比べると、名目GDPも賃金も伸び悩みは明らかで、低成長からは抜け出せなかった。

 なぜなのか。企業の稼ぐ力を高める成長戦略の失敗を指摘する声は多い。日本生産性本部によると、00年には世界1位だった日本の製造業の生産性はその後伸び悩み、18年には16位に後退した。低成長に加え、企業の賃上げも進まず、GDPの半分以上を占める個人消費も盛り上がらなかった。

 衆院選では、与野党ともに中低所得層への分配を強化するという訴えが目立つが、同時に稼ぐ力を高めて低成長から抜け出す戦略も求められる。(木村聡史)

 ▼(日本経済の現在値:1/5)13面=賃金より雇用維持

全5回日本経済の現在値
衆院選は、各政党が様々な数字を挙げ、経済政策をアピールします。賃金や子どもの教育費、親の介護費用……そうしたこの国の経済にまつわる様々な疑問に答えるため、「現在値」を5回にわたって掘り下げます。

第1回
韓国に抜かれた日本の平均賃金 上がらぬ理由は生産性かそれとも…
この30年間、日本は賃金が変わっていないと聞いた。しかも、海外と比べると、さらにぎょっとする。いつの間にか、先進国でも平均以下となり、差が大きかったお隣の韓国にも追い越された。どの国も上がっているのに・・・[続きを読む]
2021年10月20日 10時00分有料会員限定記事

第2回
日本の転職はキャリアアップにならない? 給料減、驚きのデータまで
最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアア・・・[続きを読む]
2021年10月21日 10時00分有料会員限定記事

第3回
介護職、有効求人倍率48倍の深刻さ このままではサービス困難に
誰しも受ける可能性がある介護保険サービス。記者(26)の80代の祖母2人は認知症で要介護5、祖父1人も身体障害で要介護3とそれぞれ判定され、特別養護老人ホームなどに入所する。家族にとっては重い介護の負・・・[続きを読む]
2021年10月22日 10時00分有料会員限定記事

第4回
いくらためたら安心できるの? 「老後2千万円問題」の意外な正体
コロナ禍で家計が苦しくなった世帯は多いはず。そんな中でも、働く世帯の平均の貯蓄額は増えている。年金は十分もらえるのか、会社をクビにならないか、まとわりつく将来への不安が財布のひもをきつく締めているよう・・・[続きを読む]
2021年10月23日 10時00分有料会員限定記事

第5回
塾代を減らせと言われても…「聖域」の教育費、そびえる学歴社会
「公立か私立か」「塾はどうしよう」――。教育とそれにかかる費用は、子育て世代の悩みのたねだ。私立中学校が多い都市部では、中学受験をする家庭も多く、教育費の負担が昔よりも増えたとも聞く。2児の父である記・・・[続きを読む]
2021年10月26日 10時00分分有料会員限定記事
置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金

写真・図版 写真・図版 【写真・図版】OECD 調べと 日本労働生産性本部 の調べ

 この30年間、日本は賃金が変わっていないと聞いた。しかも、海外と比べると、さらにぎょっとする。いつの間にか、先進国でも平均以下となり、差が大きかったお隣の韓国にも追い越された。どの国も上がっているのに、置き去りの日本の状況は異常とも言える。なぜ日本は賃金が上がらない国になってしまったのだろうか。▼1面参照

稼ぐ力、製造業でさえ転落

 まず、日本の現状を確認してみた。経済協力開発機構(OECD)の2020年の調査(物価水準を考慮した「購買力平価」ベース)によると、1ドル=110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35カ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。1990年と比べると、日本が18万円しか増えていない間に、米国は247万円も増えていた。この間、韓国は1・9倍に急上昇。日本は15年に抜かれ、いまは38万円差だ。

 賃金はほとんど上がらなかったこの間、社会保険料や税金がひかれた後の手取りはどうだろう。

 大和総研の調査でみてみた。2人以上の勤労者世帯では、手取りは97年をピークに減少が続いていたが、12年以降は女性の社会進出の影響もあり、緩やかに伸びている。給料から引かれるものとしては、社会保険料の負担が増している。17年までの30年間で月額2万6千円の負担増だ。主任研究員の是枝俊悟さんは「少子高齢化の中、医療や介護分野の社会保険料負担はさらに増す可能性があり、可処分所得の下押し要因になりかねない」と話す。

 ここまで上がらないのはなぜなのか。よく言われるのが、稼ぐ力が弱くなっているという指摘だ。1人がどれぐらい稼げるかを示す労働生産性という指標を調べてみた。

 日本生産性本部によると、19年の1人あたりの労働生産性は37カ国中26位。70年以降では最も低い順位で、主要7カ国(G7)では93年以降、最下位が続く。自動車産業など、日本経済の稼ぎ頭だった製造業でさえ、直近の18年は16位。95年、00年は1位だったのに、他の国に次々に抜かれていった。

 中小企業庁による21年版中小企業白書には衝撃的なグラフが載っていた。従業員1人あたりの労働生産性が03年度以降、ほぼ横ばいで上昇がみられないのだ。企業の数で99%以上、従業員で7割を占める中小企業が伸びないのは、日本の成長力にとっては痛い。

 どうすればいいのか。中小企業の経営に詳しい経済産業研究所の岩本晃一リサーチアソシエイトに話を聞くと、「生産性を上げるカギはデジタル化」という答えが返ってきた。「日本ではデジタル化が必要ないと考える中小の経営者が多いうえ、取り組もうにも、デジタル人材も足りていない」という。
バブルの記憶、賃金より雇用維持
 しかし、海外勢には劣るものの、稼ぐ力も少しずつは伸びていたのに、こんなに賃金が上がらないのはなぜなのか。調べてみると、事態はもっと複雑だった。

 一つは、非正規労働者が増えていることだ。

 企業は人件費が安く、雇い止めをしやすい非正規の労働者を増やしてきた。90年ごろは雇用者の2割ほどだったが、いまでは4割近くにのぼる。賃金が安い非正規の割合が増えたことで、平均賃金が押し下げられたというわけだ。

 90年代のバブル崩壊が残した記憶も関係していると指摘するのは、慶応大商学部の山本勲教授だ。バブル崩壊後、企業は大量解雇や大幅な賃下げで批判を浴び、従業員の働く意欲や生産性も低下した。この記憶が残り、日本の企業は業績が好調なときでも賃金を低く抑え、代わりに危機時にも解雇や賃下げはなるべく小幅に抑えるという傾向が強いというのだ。山本教授は「今回のコロナによって、将来何が起こるかわからないという不安はさらに高まった」と指摘する。

 解雇や賃下げへの恐怖は働く側も同じだ。日本総研の山田久副理事長は「バブル崩壊以降、労働組合は雇用維持を優先し、賃上げを要求しなくなった」と、交渉力の低下を訴える。戦後に5割を超えていた労組の組織率は2割を切る。欧州のような産業別の労組と異なり、日本は企業ごとに組合がある「企業内組合」が一般的。「経営陣と対等に交渉しにくいという側面もある」という。

 そもそも、春闘による団体交渉と関係ない労働者は、ちゃんと賃上げ交渉ができているのだろうか。

 リクルートワークス研究所の調査では、入社後に個人で賃上げを求めたことがある人は日本では3割だが、米国では7割だった。「日本には忍耐を美徳とする企業風土がある。個人が賃上げを主張すると『空気を読まない強欲なやつ』とみられがち」と話すのは、連合総研の中村天江主幹研究員。だが、労組が弱体化し、個人の賃金交渉が根付かない現状では、労働者は賃金の決定に関与できず、受け身の姿勢から抜け出せない。「働き方が多様になるなか、個人のボイス(声)を届ける環境づくりが重要だ」と訴える。

 19日に公示された衆院選では、賃金や所得をどう引き上げていくかが大きな争点の一つになっている。だが、この30年間で硬直化してしまった日本の賃金を上向かせるのは容易ではない。「賃金は上がるもの」という土壌づくりとともに、生産性の向上や労使関係のあり方の抜本的な見直しなど、様々な手を組み合わせなければ、世界との差はいつまでも縮まらない。(木村聡史)

 ◇衆院選が19日公示され、各政党は様々な数字を挙げ、経済政策をアピールするけれど、実際はどうなのだろう。賃金は上がるのか。これからのキャリアも子どもの教育費も親の介護も自分の老後も心配だ。そんな疑問に答えるため、日本経済のいまを映す「現在値」を5回にわたって掘り下げる。


下平評 日本人が稼いだお金はどこへいった
日本の労働者が一生懸命働いて稼いだお金は、何処へいってしまったのか?


 日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷が続いている。▼13面=賃金より雇用維持

 国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。

きょうのニュース「日本経済の現在値」と「日本経済の現在値:1/5」を見て驚いた。 前に日本の億万円長者の番付記事を見たことがある。 アメリカの長者番付の割合をはるかに超えていたと記憶する。 ヨーロッパにはこうした番付に載っている記事はなかった。

試みに 日本の億万長者 という検索語を調べてみると、あるある!! 

 https://zuuonline.com/archives/130239

 2016/12/01
「資産1億円クラスの富裕層が多い国ランキング」日本が返り咲き
2016年クレディスイス調査 ZUU online編集部 著者ZUU online編集部

日本が世界で2番目に資産額100万ドル(約1億1327万円)以上の富裕層が多い国であることが、クレディスイスの「グローバル・ウェルス・レポート2016」から判明した。

この層は富のプラミッドの頂点に位置し、世界成人人口のわずか0.7%と最も希少な層であるにも関わらず、世界資産の46%を所有している。2016年の世界富裕層は3293万1000人。2015年から2016年にかけては59万6000人増えた。

今回返り咲きとなった日本は、長年米国に次ぐ富裕層世界2位の座を維持してきたものの、2014年からは英国に追い越されていた。しかし再び勢力を取り戻し、過去1年間で73万8000人もの富裕層を創出。米国(28万3000人)やドイツ(4万4000人)を大きく引き離し、世界最高の伸びを見せた。

以前は13%前後の超富裕層率を維持していただけに、9%という数字はまだまだ「本調子」にはほど遠いのかも知れない。富裕層の割合は低いが、ニュージーランド(富裕層数16万6000人/3万3000人増加)、ベルギー(30万7000人/1万6000人増加)なども、着実に増加傾向にある。

一方今後が懸念されるのは英国だ。かろうじて3位を維持しているが、減少率では世界一である。過去1年間で40万6000人の富裕層が消え、日本に2位の座を返還している。

次いでスイス(5万8000人減)や中国(4万3000人減)などで衰えが見られるが、これらの三カ国では資産額500万ドルから1000万ドル(約5億6605万円から11億3210万円)の超富裕層の割合が非常に高い。超富裕層ランキングではトップ5にはいっており、逆に日本は7位という結果である。裏を返せば、所得格差がますます拡大しているということになる。

資産1億円クラスの富裕層が多い12カ国と全体の割合

  12位 台湾 1%(富裕層人口35万6000人)
  11位 スペイン 1%(38万6000人)
  10位 韓国 2%(非公開)
  10位 スイス 2%(71万6000人)
  9位 オーストラリア 3%(106万人)
  8位 カナダ 3%(111万7000人)
  7位 イタリア 3%(非公開)
  6位 中国 5%(159万人)
  5位 フランス 5%(161万7000人)
  4位 ドイツ 5%(163万7000人)
  3位 英国 7%(222万5000人)
  2位 日本 9%(282万6000人)
  1位 米国 41%(1355万4000人)
(ZUU online 編集部)

皆が働いて稼いだお金は、簡単に言えばお金持ちの懐へ入ってしまった。

 
更に https://zuuonline.com/archives/130239 を調べてみると日本の長者番付2018年版ランキング発表!として次のデータがあります。

  10位:毒島 秀行|SANKYO(パチンコ)
  9位:似鳥 昭雄|ニトリ
  8位:高原 慶一朗|ユニ・チャーム
  7位:三木谷 浩史|楽天
  6位:永守 重信|日本電産
  5位:森 章|森トラスト
  4位:滝崎 武光|キーエンス
  3位:佐治 信忠|サントリーホールディングス
  2位:柳井 正|ファーストリテイリング
  1位:孫 正義|ソフトバンク


更に日本の累進課税は、世界と比べても少なくしていたのです。

日本の累進課税の実態(要クリック)の検索語の中には所得1億円超だと税負担率はこんなに低い、金持ち優遇の実態(要クリック)があり、それを開くと次のデータがあるのです。

所得1億円超だと税負担率はこんなに低い、金持ち優遇の実態
   『週刊ダイヤモンド』特別レポート 編集委員・原英次郎
   2016.11.28 5:00

 政府税制調査会の議論が、大詰めを迎えている。報道では配偶者控除の引き上げやビール税の一本化などが注目されているが、実は隠れた重要なテーマがある。それは日本の所得税が金持ち優遇になり過ぎているのではないかという点だ。

 日本の所得税は二つの大きな課題を抱えている。一つは、共働きやパートタイムなど働き方が多様化している今、働き方に影響を与えない税制にいかにリフォームしていくか。もう一つは、格差拡大を是正するために、いかに所得の再配分機能を回復していくか、である。金持ち優遇は後者に関連する。

所得金額約1億円超から税負担が軽くなる

 日本の所得税率は現在、5%~45%まで7段階の累進税となっている。最高税率は45%で、4000万円以上の課税所得に適用される。よく誤解されがちだが、例えば、課税所得が5000万円の場合、丸々5000万円に45%が適用されるのではなく、4000万円を超える1000万円に対して45%の税率が適用される。いわゆる超過累進税率方式を採用している。

所得1億円超だと税負担率はこんなに低い、金持ち優遇の実態
   所得1億円超だと税負担率はこんなに低い、金持ち優遇の実態
 グラフを見ていただきたい。これは分母に所得、分子に所得税を採って、所得税負担率を計算したものだ。対象者は確定申告を行った申告納税者だけで、企業が税金徴収を代行(源泉徴収)しているほとんどの会社員が含まれていないという限定つきながら、大きな傾向を示していると言える。

 グラフの実線が負担率。ひと目で分かるように2013年、2014年とも所得税負担率は1億円近辺をピークに、それ以上稼ぐと徐々に低下していき、100億円以上では13年で11.1%、14年で17%しか負担していない。それはなぜか。

世界の国の所得税との比較

日本の所得税の税率が分かったところで海外と比較してみましょう。
果たして日本の税金は高いのでしょうか。それとも低いのでしょうか。
最高税率での比較
日本の所得課税の最高税率は所得税の45%と住民税の10%を合計した55%になります。
この最高税率について世界の国と比較したのが下の表です。
(内閣府資料より)

OECDとは「先進国クラブ」とも言われ、主要な先進国が加入している国際組織です。
表を見ると日本は先進国の中でも特に最高税率が高い国だということが分かると思います。
2015年に所得税最高税率が40%から45%に引き上げられたため、住民税と合計した税率は55%となり、オランダなどを抜いてOECD加盟国4番目の高さになりました。

一番最高税率が高いのはフィンランドで60%を超えています。逆に一番低いのはチェコで最高税率はわずか約15%と日本の所得税と住民税を合計した最低税率と一緒の水準です。

実効税率での国際比較

最高税率の絶対水準での比較を見ました。
でも単純に表面上の税率だけを見て日本の税率が高いと結論づけるのは時期尚早です。
なぜかというと各国の実際の税率は必ずしも表面税率とは一致しません。

なぜかというと、所得税の計算をする際には様々な控除制度や補助制度が利用でき、そうした周辺の諸制度を考慮に入れなければ個人の実際の負担が分からないためです。

例えば日本の場合、給与所得控除や配偶者控除、扶養控除などを利用することで同じ年収でも支払う税金をかなり減らすことができます。
こうした控除制度や補助制度を考慮に入れた上での年収に応じた実際の税率を「実効税率」と呼びます。
下の表では夫婦と子供2人の家庭が負担する所得税の実効税率を国際比較したものです。

比較対象はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツの欧米諸国です。
財務省資料

グラフを見ると年収1000万円までの所得税負担は日本が最低水準だとわかります。
年収1000万円の世帯の所得税実効税率はわずか約10%です。
同じ年収1000万円でもイギリスの実効税率が約25%だと考えるとかなり負担が軽いことのですね。

一方で年収が増加するにつれて税負担は比較対象と比べて重くなっていきます。
年収が2000万円手前の時点でアメリカとフランスを抜き、年収4500万のあたりで日本の実効税率はドイツを超えます。
ただ年収2000万以上の会社員は世の中にそうたくさんいるわけではないので、年収2000万円以下の大部分の人々にとって日本の所得税負担は他の先進国と比べ軽いと言えます。

意外と日本の所得税負担は少ないのですね。

社会保険料負担も考慮した場合
年収1000万円の世帯でも実効税率は10%程度だと言われても実感が沸かないかもしれません。
毎月の額面の給料と手取りの差はもっとあるはずです。
その理由は社会保険料です。皆さんの毎月の給料からは税金の他に国民年金保険料、厚生年金保険料や健康保険保険料が引かれていると思います。

少子高齢化世界一進んでいる日本ではこれらの社会保険負担がどんどん増加しているのです。

社会保険料はただ払って終わりではなく、病気になった場合や老後などいざという時に活用できるメリットがありますが、強制的に徴収され自由に使えるお金が減るという点では税金と同じです。

そこで社会保険料も考慮した国民の負担を示す指標として「国民負担率」が使われています。
国民負担率は税金と社会保険料を合計した金額で収入を割った金額で求められます。
この国民負担率を他の国と比べてみましょう。

↑ 国民負担率の内訳の国際比較(OECD加盟国、対GDP比)(2019年あるいは最新年)
↑ 国民負担率の内訳の国際比較(OECD加盟国、対GDP比)(2019年あるいは最新年)

↑ 国民負担率の内訳の国際比較(OECD加盟国、構成比率)(2019年あるいは最新年)
↑ 国民負担率の内訳の国際比較(OECD加盟国、構成比率)(2019年あるいは最新年)

(国税庁資料より)

上の図は国民負担率の国際比較です。
日本は租税の負担率が低い代わりに、圧倒的な高齢化によって社会保障負担率がとても高くなっています。
結果的には国民負担率は42.5%と所得の半分近くが社会保障と税金で消える計算になるのです。

ただし、この数字も高福祉・高負担を掲げるヨーロッパ先進国と比べればまだまだ低い割合だということも分かります。
総合すると日本の国民負担は欧米先進国と比較すると中程度だと言えるかもしれません。