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続折々の記 ⑩
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】10/15~ 【 02 】10/18~ 【 03 】10/24~
【 04 】11/01~ 【 05 】11/04~ 【 06 】11/09~
【 07 】11/14~ 【 08 】11/16~ 【 09 】11/26~
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【 03 】10/24
キャリアアップは一部だけ 13人に1人、25~34歳の転職
秋篠宮の長女真子さまの結婚記事
「心を守るために必要な選択」
公務担う皇族、先細り 有識者「確保、喫緊の課題」
「皇室女性への圧力、浮き彫り」 眞子さん結婚、海外報道
皇室の「公と私」 眞子さん結婚で考える
眞子さん・小室圭さん、会見要旨
前を見つめ、読み上げた決意 10分、質疑応答はなく
2021/10/25
日本経済の現在値
日本経済の現在値(2/5) 10/21
全5回日本経済の現在値
衆院選は、各政党が様々な数字を挙げ、経済政策をアピールします。賃金や子どもの教育費、親の介護費用……そうしたこの国の経済にまつわる様々な疑問に答えるため、「現在値」を5回にわたって掘り下げます。
第1回
韓国に抜かれた日本の平均賃金 上がらぬ理由は生産性かそれとも…
この30年間、日本は賃金が変わっていないと聞いた。しかも、海外と比べると、さらにぎょっとする。いつの間にか、先進国でも平均以下となり、差が大きかったお隣の韓国にも追い越された。どの国も上がっているのに・・・[続きを読む]
2021年10月20日 10時00分有料会員限定記事
第2回
日本の転職はキャリアアップにならない? 給料減、驚きのデータまで
最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアア・・・[続きを読む]
2021年10月21日 10時00分有料会員限定記事
第3回
介護職、有効求人倍率48倍の深刻さ このままではサービス困難に
誰しも受ける可能性がある介護保険サービス。記者(26)の80代の祖母2人は認知症で要介護5、祖父1人も身体障害で要介護3とそれぞれ判定され、特別養護老人ホームなどに入所する。家族にとっては重い介護の負・・・[続きを読む]
2021年10月22日 10時00分有料会員限定記事
第4回
いくらためたら安心できるの? 「老後2千万円問題」の意外な正体
コロナ禍で家計が苦しくなった世帯は多いはず。そんな中でも、働く世帯の平均の貯蓄額は増えている。年金は十分もらえるのか、会社をクビにならないか、まとわりつく将来への不安が財布のひもをきつく締めているよう・・・[続きを読む]
2021年10月23日 10時00分有料会員限定記事
第5回
塾代を減らせと言われても…「聖域」の教育費、そびえる学歴社会
「公立か私立か」「塾はどうしよう」――。教育とそれにかかる費用は、子育て世代の悩みのたねだ。私立中学校が多い都市部では、中学受験をする家庭も多く、教育費の負担が昔よりも増えたとも聞く。2児の父である記・・・[続きを読む]
2021年10月26日 10時00分分有料会員限定記事
キャリアアップは一部だけ 13人に1人、25~34歳の転職
最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアアップをしていくのが当たり前だとも聞くけれど、日本もそんな社会になってきたのだろうか。
■人手不足、意識も変化
まず、総務省の労働力調査を見てみると、たしかにコロナ禍前の2019年の転職者数は過去最多の351万人だった。働く人全体に占める割合を示す転職率も、ちょうど記者(29)と同年代の25~34歳は7・8%と過去最高水準で、13人に1人が転職していた。
ただ、過去にさかのぼってみると、むしろ、どの年代も転職率は00年代半ばごろがピーク。とくに若年層の15~24歳では、05~06年に14%超と、足元を超える転職率だ。いったい、何が起きていたのか。
当時の労働経済白書などをもとに理由を探ると、企業の倒産が相次いだ00年前後の就職氷河期に、希望する待遇や職種の企業に入れなかった人たちが、景気の回復にあわせて転職するケースが多かったようだ。
じつは統計上、転職者数には、景気によって雇い止めなどにあいやすい非正規の働き手も含まれている。19年の転職者も半数以上の192万人が非正規で、同様な傾向は少なくとも00年代初めから続いていた。
00年代半ばに増えてきた転職は、08年のリーマン・ショック後の不況で再び減り、ここ数年でリーマン前の水準に戻ってきた。ただ、その理由を探っていくと、以前とは違う要因も見えてきた。
エン・ジャパン社で人材紹介サービスを統括する藤村諭史さんは、人手不足と若者の意識の変化を挙げる。「人手不足で12年から売り手市場が広がり、18年までは特に若手採用が活況だった。最近の若い世代は自分のキャリアを自分でつくっていく、という風潮がある」と指摘。企業側も即戦力の人材を求める傾向が強まっていて、「35歳以上の世代の転職も今後増えていくのではないか」という。
海外では、自分で将来のキャリアを考え、転職を繰り返すのが当たり前とよく聞くけれど、どれぐらい違うのだろうか。
同じ企業に10年以上働く人の割合を、労働政策研究・研修機構の資料で比べてみた。日本は45・8%で、20%台の米国や韓国との差は大きい。一方、解雇規制が比較的厳しいとされるフランス(45・6%)やドイツ(40・3%)は、日本とそれほど変わらなかった。
■給料より休み・職場環境、重視
では、日本で転職した人、なかでも正社員で転職した人たちは給料が上がっているのだろうか。
業界大手のマイナビの調査をみて驚いた。正社員で転職した人の平均年収をみると、転職前は461・2万円だったのが、転職後は453・0万円に減っていたのだ。リクルートワークス研究所の調査でも、転職後に年収が5%以上あがったと答えた人は日本では39・7%のみ。海外では米国やフランスが75%以上で、日本の低さが際立つ。
では、いったい何のために転職しているのか。
マイナビの調査によると、転職先の条件としてこだわった点には、給料アップよりも希望する勤務地や休日・休暇制度が整っていることを挙げる回答のほうが多かった(複数回答)。厚生労働省の19年の雇用動向調査をみても、転職の理由は収入よりも「労働時間・休日等の労働条件」や「職場の人間関係」の方が多い。
マイナビの関根貴広研究員は「最近はワーク・ライフ・バランス(WLB)への注目を感じる。テレワークや育休へのニーズも強くなり、自分らしく働ける仕事を求める意識が高まっている」と話す。
ただ、様々なデータをみる限り、転職のあり方が昔に比べて大きく変わったとは言いがたい。海外のようにキャリアアップで高い賃金を得られるような転職は一部に限られ、むしろ、非正規労働者が仕事を転々としたり、正社員も職場の環境が悪いために転職を望んだりしているようにもみえる。転職しやすい環境を整え、成長分野に人材がスムーズに移動できれば経済も活性化する。そんな政府や経済界が強調してきた転職像とは、ギャップがあるのではないか。
第一生命経済研究所によると、直近の19年度と20年度では、異なる産業へ転職した人の数に大きな変化は見られなかった。星野卓也・主任エコノミストは「コロナ禍で仕事が減った飲食業の人が突然IT業界に移るようなことはあまりなかった」と話す。
政府は、一度仕事を辞めて大学などに通う「リカレント教育」や、新しい事業や職種に必要なスキルを習得する「リスキリング」も後押ししてきた。しかし、東京大学の本田由紀教授(教育学)は、こうした取り組みは90年代から繰り返されているが、あまり効果が出ていないと指摘。「日本の雇用のあり方はスキルや専門性を軽視してきた。学んだ内容を評価して賃金に反映させるように政財界や労働市場が変わっていかなければ意味がない」と話す。
働き盛りの世代が減っていくことが確実な日本で、希望の職種への転職をしやすくし、働き手のキャリアアップや経済の活性化につなげることは必要かもしれない。ただ、転職者の人材評価や賃金制度の見直し、転職に失敗した場合のセーフティーネットの拡充など、様々な政策対応を一体的に進めなければ効果は出ない。企業の意識改革や仕組みづくりに加え、こうした動きを後押しする政策が求められている。(橋本拓樹)
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2021/10/27 朝日新聞トップ記事の表題
「心を守るために必要な選択」
秋篠宮長女真子さまの結婚記事を朝日は一面トップで扱った。 記者会見での印象を「いのちを守るための選択」と表現しています。
「心を守る」真摯な決定的な言葉です。 どんなことにしてもこの基本を外れてはならないのです。
今度の選挙で、「戦争拒否」の気持ちを候補者は誰一人として表現していません。
真子さまの気持ちに私は意表を突かれた思いでした。 人の一番に大切な心掛け、それは「いのちを守る」ことでした。 これを基軸として生き抜くことが、人にとって一番大切な合理的な真理に即する心がけだったことを真子さまに指摘された思いでした。
私はほんとのことそのままに「いのちを何より一番大事にしなければならない」そのことを心の中核としているので、「心を守る」という言葉は違うのですが本質的には同義の言葉と受けとめたのです。
この記事はすべて残しておきます。
2021年10月27日
「心を守るために必要な選択」 眞子さん・小室圭さん結婚
【写真・図版】記者会見する小室圭さんと眞子さん=26日午後2時11分、東京都内のホテル、代表撮影
秋篠宮家の長女眞子さま(30)と小室圭さん(30)が26日、結婚した。眞子さまは皇籍を離脱し、民間人の「小室眞子さん」となった。同日午後には東京都内のホテルで記者会見に臨み、眞子さんは「2人で力を合わせて共に歩いていきたい」と話した。▼3面=公務担い手減少、5面=海外メディアは、12面=社説、25面=会見要旨、27面=読み上げた決意
眞子さんの結婚で、女性皇族は12人になった。うち5人は未婚者で、今後の婚姻によりさらに女性皇族が減ることも想定され、公務の担い手不足が課題となる。眞子さんは「みなさまにお伝えしたいことがある」ために会見を開いたと説明。結婚について「様々な考え方があることは承知しております」と述べたうえで、「自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択でした」と理解を求めた。
続いて小室さんが発言し、最初に「私は眞子さんを愛しております」と言及。「結婚に関してご迷惑をおかけしてしまった方々には、大変申し訳なく思っております」と話した。
小室さんの母佳代さんと元婚約者との「金銭トラブル」について、眞子さんは元婚約者への対応は「私がお願いした方向で進めていただきました」と述べ、自らの考え方が反映されてきたことを明かした。小室さんも今年4月に公表した説明文書に触れ「解決金を受け取っていただきたい気持ちは変わっていません」とした。佳代さんが精神的な不調を抱えており、自らが解決に向けて対応するという。
会見に向けては、宮内記者会や日本雑誌協会などが事前に5問の質問を提出していたが、2人はその場ではこたえず、質問の回答文書が会見後に配られた。
この点について、眞子さんは回答文書の中で、日本雑誌協会の質問が原因だったと指摘。「誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねない質問」だとして、「恐怖心が再燃し心の傷が更に広がりそう」であるため口頭で答えるのは不可能だと説明した。
小室さんと眞子さんは同日夕、都内のマンションに入った。パスポート申請などの準備を終えた後、渡米して新生活を始める。(杉浦達朗、増山祐史)
■<視点>続いた異例、問われた「皇族の人権」
婚約内定後の「金銭トラブル」報道と結婚の延期。結婚式や結婚関連の皇室行事の取りやめ――。秋篠宮ご夫妻も「皇室としては類例を見ない」と評すなど異例続きとなった今回の結婚は、皇室をめぐる様々な課題を浮かび上がらせた。
改めて問われたのは「皇族の人権」だ。憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定め、本来、本人たちの合意さえあれば結婚は可能なはずだ。ただ憲法1条に「天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づく」とあることも踏まえ、秋篠宮さまは「国民が祝福できる結婚」となることを求め、眞子さんと小室圭さんは結婚を延期することを選んだ。
象徴天皇制のあり方も国民の総意によって決まるものであることを前提にすれば、「金銭トラブル」をめぐる報道や、結婚相手としてふさわしいかといった議論にも一定の公共性がありうるだろう。今回の記者会見の機会に、指摘された問題に対する説明を尽くすべきだったという主張もあるだろう。
ただ、忘れてはならないのは、皇室の制度もまた生身の人間によって担われているということだ。上皇ご夫妻は「開かれた皇室」をめざし、天皇、皇后両陛下も継承した。一方で、民間から皇室に入った上皇后美智子さまは失声症に、皇后雅子さまは適応障害に苦しんだ。
皇族として生まれ育った眞子さんが「複雑性PTSD」と診断される状況に至ったことも、一挙手一投足が衆人環視のもとにある皇室の環境が、ときに強いストレスになることを示している。記者会見で「誹謗(ひぼう)中傷」という強い言葉が出てきた意味も考えたい。眞子さんとしては、ただ好きな人と結婚したいという気持ちだったのに、臆測を含む批判で否定され続け、傷ついたということになる。
一人ひとりの人権や尊厳がないがしろにされるようでは、皇室をめぐる諸制度の「持続可能性」にも影響しかねない。皇族が減り、皇位の安定的継承の困難さが課題として浮上し、政府の有識者会議からは女性皇族が結婚後に身分を保持する案も示されている。皇室を構成する人たちが無理なくその地位を担える状況にあるのか。改めて議論した方がいいのではないか。(編集委員・北野隆一、杉浦達朗)
<おことわり> 秋篠宮家の長女眞子さまは婚姻届を提出し、皇室を離れました。今後は「眞子さん」と表記します。
▼3面=公務担い手減少
公務担う皇族、先細り 有識者「確保、喫緊の課題」
【写真・図版】女性皇族は12人に
秋篠宮家の眞子さま(30)は26日、小室圭さん(30)と結婚し、皇室を離れた。「小室眞子さん」として民間人となり、公務には携わらない見通しだ。皇室の先細りは、皇位継承を危うくさせるほか、公務の担い手減少で負担増にもつながり課題となっており、対策の前進が求められている。▼1面参照
現在皇室を構成するのは眞子さんを除くと17人。そのうち60歳以上は8人、未婚女性が5人いる。現行の制度では皇室に子どもが生まれた時、女性であれば成人して公務の担い手となっても結婚すれば皇族でなくなるため、将来的な先細りが見込まれる。
皇族の減少をめぐる議論は2000年代から始まった。民主党政権の野田内閣は、女性皇族が結婚後に宮家を創設して皇室に残る「女性宮家」構想を打ち出したが、政権交代もあって議論は立ち消えに。
天皇退位の特例法を制定した際の付帯決議に基づき、天皇の代替わり後の今年3月に有識者会議が始動。「皇族数の確保が喫緊の課題」とし、7月の中間報告では、女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰する2案を「今後の検討の中心」とした。
有識者会議の最終報告は、総選挙後の見通しだ。ただ、首相交代直後の状況で、皇室典範改正のための与野党合意を得るまでの道のりは険しい。皇族数の確保の議論がすぐに本格化する気配は感じられない。
有識者会議の「今後の検討の中心」の2案について、宮内庁は「現状では旧宮家の意向調査はしていない」と明かしている。女性皇族が結婚後も皇室に残る案が有力視されているが、政府関係者は「子どもは皇族とならないため対症療法に過ぎず、女性皇族ご本人が皇室に残りたいかどうかの意思も尊重しなければならない」と明かす。(杉浦達朗)
▼5面=海外メディアは
「皇室女性への圧力、浮き彫り」 眞子さん結婚、海外報道
秋篠宮家の長女眞子さん(30)と小室圭さん(30)の結婚を海外メディアも相次いで報じた。▼1面参照
仏紙ルモンドは、2人の結婚が「日本社会の極めて保守的な人々によって意地悪くみられてしまった」と伝えた。同紙は小室さんの母親の金銭トラブルが週刊紙を中心に詳細に報じられたことについて、あたかも「圭さんが金銭トラブルを解決したいがために眞子さんを誘惑した」人物のように紹介されてしまった、と説明した。
米紙ワシントン・ポストは、小室さんの帰国時の髪形がSNS上で物まねの標的にされたり、批判の対象になったりしたことなどに触れ、人々の好奇心や批判が「ほとんど『ネットいじめ』の域まで過熱した」と表現した。
英BBCは2人が今後、米国に移るとみられることについて、英王室のハリー王子とメーガン妃を引き合いに「日本のハリーとメーガン」と表現。「一部の人々やメディアの2人の関係性に対する反応は、日本の皇室の女性が直面する圧力を浮き彫りにするものだった」と分析した。
(疋田多揚=パリ、荒ちひろ、半田尚子)
▼12面=社説
皇室の「公と私」 眞子さん結婚で考える
記者会見に臨む小室圭さんと眞子さん=2021年10月26日午後2時、東京都内のホテル、代表撮影 秋篠宮家の眞子さまが小室圭さんと結婚し、皇室を離れた。2人で協力して幸せな家庭を築くことを願う。
ここまでの道のりは異例ずくめだった。17年の婚約内定後、圭さんの母親の金銭トラブルが報じられ、結納にあたる納采の儀は延期に。その後も予定された儀式や公的行事は行われず、皇籍離脱に伴う一時金も眞子さんが受け取りを辞退した。
気持ちに反して支給すれば、さらに強い逆風が2人に吹いただろう。とはいえ一時金は皇室経済法で定められたものだ。これが先例となって、今後、受け取るか否かが議論になったり、皇族の意思で制度が左右される事態が広がったりするのは好ましくない。政府と国会は問題点を整理し、将来に禍根を残さないようにすべきだ。
きのう圭さんとともに会見した眞子さんは、「誤った情報が事実のように取り上げられ、広がっていくことに恐怖心を覚えた」と語った。たしかにこの結婚をめぐる一部の報道やネット上の騒ぎは異様だった。
天皇を国民統合の象徴と定める憲法の下で、天皇や皇族は多くの制約を課されている。職業選択や居住の自由はなく、中傷や批判に反論することもままならない。特定の一家が国の重要な制度を担うという仕組みの中に身を置き、眞子さんも悩み、傷ついた。
皇族は公人であり、その言動に国民が関心を抱き、厳しいことも含めて意見を言うのは当然だ。一方で皇族もひとりの人間として意思や感情を持ち、培ってきた価値観がある。国民が思い描く理想の姿とどこかで差異が生じることがあってもおかしくないし、そもそもその「理想の姿」も人によって様々だ。
「公」の存在である天皇や皇族に何を求め、いかなる我慢を強いるのか。かたや個人としての権利をどう考え、「私」の領域での自由をどこまで認めるのか。立ち止まって議論を深める必要がある。主権者は国民であり、皇室のありようを決めるのもまた、国民であることを忘れないようにしたい。
眞子さんの結婚で天皇陛下を支える皇族は16人に減った。政府の有識者会議は7月、「今後の整理の方向性」と題して、女性皇族が結婚後も身分を保持できるようにすることなどを盛り込んだ案を示した。皇位継承や皇室活動の維持が困難になるとの指摘は以前からあり、05年と12年に政府内で対応が検討された。だが議論は中断し、事態はいっそう深刻になっている。
政府はこの間の不作為を反省し、眞子さんの結婚が提起した問題も念頭に置きつつ、解決に取り組まねばならない。
▼25面=会見要旨
眞子さん・小室圭さん、会見要旨
秋篠宮家の長女眞子さんと小室圭さんが26日、東京都内で会見を開いた。主な内容は次の通り。
眞子さん この30年間、たくさんの方々に助けられ、見守られ、支えられてきました。数々の出会いがどれほど大切であったか、到底言い表せません。
私と圭さんの結婚について様々な考え方があることは承知しております。事実に基づかない情報に惑わされず、私と圭さんを応援してくださった方々に感謝しております。私にとって圭さんはかけがえのない存在です。私たちにとって結婚は、自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択でした。
圭さん 私は眞子さんを愛しております。一度きりの人生を、愛する人と共に過ごしたいと思っています。これまで幸せな時もそうでない時も、様々な気持ちを2人で分かち合い、励まし合ってきました。色々なことがありましたが、眞子さんと一緒に人生を歩みたいという思いを持ち続けられたのは、眞子さんと、私たちを支えてくださった方々のおかげです。
眞子さん 私が公に発言する機会は限られてきました。そのために生まれてしまった誤解もあったと思います。婚約に関する報道が出て以降、圭さんが独断で動いたことはありません。
圭さんのお母様の元婚約者の方への対応は、私がお願いした方向で進めていただきました。圭さんの留学については、圭さんが将来計画していた留学を前倒しして、海外に拠点を作って欲しいと私がお願いしました。留学に際して私は一切の援助をできませんでしたが、圭さんが厳しい状況のなか努力してくれたことをありがたく思っています。圭さんのすることが、独断で行われていると批判され、私の気持ちを考えていないといった一方的な臆測が流れる度に、誤った情報がなぜか間違いのない事実であるかのように取り上げられ、いわれのない物語となって広がっていくことに恐怖心を覚えるとともに、つらく、悲しい思いをいたしました。
圭さん 私の母と元婚約者の方との金銭トラブルといわれている事柄について、詳しい経緯は本年4月に公表したとおりです。本年4月に解決金をお渡しすることによる解決をご提案したところ、母と会うことが重要であるというお返事をいただきました。母は精神的な不調を抱えており、元婚約者の方と会うことにはドクターストップがかかっています。解決に向けて私ができる限り対応したいと思います。
この数年間、誤った情報があたかも事実であるように扱われ、誹謗(ひぼう)中傷が続いたことにより、眞子さんが心身に不調をきたしたことを、とても悲しく思います。私は眞子さんとあたたかい家庭を築いていきたいと思います。これからも眞子さんをお支えしていきたいと思います。幸せな時もそうでない時も、寄り添い合えるかけがえのない存在であり続けたいと考えております。
眞子さん 私たちは2人で新しい生活を始めることになります。これから生きていくなかで、また違った形での困難があると思います。しかし、2人で力を合わせて共に歩いていきたいと思います。今、心を守りながら生きることに困難を感じ、傷ついている方がたくさんいらっしゃると思います。周囲の人のあたたかい助けや支えによって、より多くの人が心を大切に守りながら生きていける社会となることを、心から願っております。
■質問と回答 要旨
文書での質問と回答の要旨は次の通り。
――結婚に際し一連の儀式はせず、一時金も受け取らない異例の形に。今の心境は。(宮内記者会)
眞子さん 結婚できたことに安堵(あんど)しています。(両親やきょうだい、天皇皇后両陛下、上皇ご夫妻から)結婚にあたっていただいたお言葉と私の受け止めについては、心の中に大事に留(とど)めておきたいと思います。
圭さん 長い間離れて過ごしてきましたが、眞子さんが同じ気持ちを持ち続けてくださったことに感謝しています。
――皇族の立場はどういうものだったか。今後、皇室とどう関わっていくか。(同)
眞子さん 皇族の立場は、たくさんの人から助けられ、見守られ、あたたかい気持ちをいただくことで成り立っていました。今後についてお伝えできるのは、一人の人として、皇室の方々のお幸せをお祈りしたいと思っているということです。
――小室家をめぐる「金銭トラブル」について、秋篠宮さまが「相応の対応」を求めたこと、結婚に否定的な報道やインターネット上の書き込みについて。(同)
眞子さん 私たちは精いっぱい対応してまいりましたが、どの程度応えることが出来たかについては、対応をご覧になった方が判断されることかと思います。誤った情報が事実かのように取り上げられ、いわれのない物語のように広がっていくことには、強い恐怖心を覚えました。
圭さん 精いっぱい対応してきましたが、どの程度応えられたかは、私が判断できることではないと思います。
――「金銭トラブル」が未解決なことや、小室さんが「婚約者」という立場を利用したとの疑念の声について。(日本雑誌協会)
眞子さん 誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねない質問は、残念に思います。会場で口頭でお答えすることを想像すると、恐怖心が再燃し心の傷が更に広がりそうで、口頭で答えることは不可能だと思いました。私との結婚を諦めれば、圭さんは根拠のない批判に数年間にわたってさらされ続けることはなかったはずです。
圭さん 元婚約者の方が(窓口に)指定した週刊誌の記者の方からは(解決に向けて)前向きな返事をいただいています。(母による)遺族年金の不正受給という事実はありません。私が皇室を利用したという事実はありません。「婚約者としての特別な待遇」もありません。(大学の)入学選考で、私が「プリンセス・マコのフィアンセ」であると伝えたことはありません。
▼27面=読み上げた決意
前を見つめ、読み上げた決意 10分、質疑応答はなく 眞子さん・小室さん会見
【写真・図版】記者会見する小室圭さんと眞子さん=26日午後2時9分、東京都内のホテル、代表撮影
婚約内定会見から4年。秋篠宮家の長女眞子さん(30)と小室圭さん(30)が26日結婚し、会見に臨んだ。結婚の理由を、「生きていくために必要な選択」と表現した2人。会見で発した言葉の端々に、「異例」の過程を経てこの日を迎えた思いがにじむ。▼1面参照
午後2時、東京都内のホテル。2人が公の場でそろって記者会見するのは4年ぶりだった。声をそろえて「よろしくお願いします」とあいさつしたところから会見は始まった。左手の薬指にはともに指輪も。まず眞子さんが用意した文書を読み上げた。
「私にとって圭さんはかけがえのない存在です」。眞子さんがこう言及すると、続いて読み上げた圭さんも「一度きりの人生を愛する人と共に過ごしたいと思っています」と語った。
2人は圭さんの母親と元婚約者との「金銭トラブル」にも触れた。眞子さんは母親の元婚約者への対応などは自ら依頼したと説明。圭さんが独断で行動したとの批判に対し反論した。「私が公に発言する機会が限られ、そのために生まれてしまった誤解もあった。誤った情報が、いわれのない物語となって広がっていくことに恐怖心を覚えました」と話した。
異例の記者会見だった。
通常の会見は出席者が冒頭に話した後、質疑応答に移る。皇室の会見では、事前に提出した質問に口頭で答えた後、関連した質問を受け付けることが多い。
この日の会見も、当初はその予定だった。宮内庁関係者も「お話しになりたいことがたくさんあるはず」とし、2人との「生きたやりとり」が交わされるはずだった。
だが25日に一転。秋篠宮家を支える皇嗣職大夫は宮内記者会に、会見で2人が話すのは冒頭のみで、質問への回答は文書で行うと説明した。会見で眞子さんが説明したように、この中で「誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねない質問」があり、衝撃を受けて口頭で答えることは不可能と眞子さんが判断したというのが理由だった。
この日、交互に文書を読み上げる間、まっすぐ前を見据え続けた2人。最後に眞子さんが「2人で力を合わせて共に歩いていきたいと思います」などと読み上げ、会見を締めくくった。
読み上げが終わると、2人の回答が文書で代表記者に手渡された。それを見届け、2人は退場。会見は10分ほどで終わった。(杉浦達朗)
■退路を断ち、示した覚悟
御所の森の木に登っては、周囲をはらはらさせた。制止しなければ、ずんずん高く登っていったという。周囲に聞くと、眞子さんは小さい頃はかなり活発だったようだ。
慎重だった佳子さまに比べ、大胆な一面も持ち合わせていた。長じるにつれ、両親が公務で海外に出かける時は、母の紀子さま手作りの絵本を妹や小さな弟に読み聞かせる姉となり、「しっかりものの眞子ちゃん」と頼られた。
初めて海外を単独訪問した公務では、訪問先のリーダーたちから「エクセレント」と手ばなしで褒められたという。物腰も、話す内容も、とても20代には見えない落ち着きと気品があった。国を代表しての親善のつとめを立派に果たしたといえるだろう。
今回は、そんな「しっかりもの」にとって、人生最大の試練だった。金銭問題で婚約が先送りとなった時、長い交際なのに自身も事実を知らされていなかったことに、眞子さんは深く苦しんだと聞いた。
秋篠宮ご夫妻も戸惑いと疑念を覚え、若い二人にもう一度よく考える時間と機会を与えたという。
それが、認める方向へと変わったのは、ひとえに眞子さんの決意の固さゆえと私は思っている。本人たちが結婚を望む以上、親として、皇族として、憲法の規定を尊重するしかなかろう。ただ、婚約などの伝統的な儀式を取りやめ、天皇家の一員である「宮家」としては婚家とは正式に交友を結ばない形を選んだのである。
紀子さまと秋篠宮さまは、大恋愛を実らせて結婚した。結婚前からお二人を取材してきたが、今より皇室への見方が保守的な中、兄宮を差し置き、学生時代の恋愛を実らせた結婚には、祝福と同時に批判や障害もあった。だが、お二人は、強い信頼と意思の力で乗り越え、世論も味方に付けていった。
当時、式が迫ったころ、紀子さまの意思と判断を尊重してきた父の川嶋辰彦さんは、娘に「何かあればいつでも(離婚して)戻ってきていいんだよ」と呼びかけている。「僕ら(両親)はいつだって、君のシェルターになるんだからね」と。
今回眞子さんに、そのシェルターすら無い。皇族に戻る、という選択肢は、ないからだ。
退路を断ち、億円単位の一時金も辞退した。一切をなげうって、眞子さんはアメリカの知らない土地で、全く新しい人生を生きようとしている。
ならば私は、その潔さと覚悟とに、心からの拍手を送りたい。これだけのパワーがあれば、きっと道は開けると信じている。
願わくば、これからは一人の女性として、自分の可能性に存分に挑戦していただきたい。同世代の多くの女性と同じように、自身の力を社会で試し、未熟と気づけば学び直して研鑽(けんさん)を重ね、経済的にも精神的にも自立した人生を生きてほしいと願っている。
おめでとう、眞子さん。
(元朝日新聞記者〈皇室担当〉 斎藤智子)
■「皇室として類例を見ない結婚」 秋篠宮ご夫妻
2人の結婚にあたり、秋篠宮ご夫妻と妹の佳子さまはコメントを出した。ご夫妻は「さまざまな困難なことがあったにもかかわらず、2人の考えが揺らぐことは一度もありませんでした」と明かし、「2人で自分たちなりの形で、幸せな家庭を築いていってくれることを願っております」とした。「皇室としては類例を見ない結婚となりました」とも触れた上で、それでも見守ったり応援してくれたりした人たちへの感謝の言葉を述べている。
佳子さまは「誤った情報が事実であるかのように取り上げられたこと、多くの誹謗(ひぼう)中傷があったことを、私もとても悲しく感じていました」とした上で、「2人が結婚できたことをうれしく思っております」と祝福した。
■「弱さ」も見せる皇室、ネット進展できしみ
メディアでの皇室の描かれ方などを研究する茂木謙之介・東北大准教授(日本近代文化史)の話 会見は弱者へのまなざしを大切にした平成の皇室の姿勢を継承すると同時に、「誹謗(ひぼう)中傷」と強い言葉を使い、自分たちも弱い立場にあることも強調する内容だった。
平成の皇室は国民に開かれた姿をめざし、自分たちの「弱さ」も明らかにして人々の共感を得てきた。明仁上皇が退位の意向をにじませた「おことば」を公表した際も、年齢を重ね身体が衰えたことに加え、発言に制約がある不自由さが伝わった部分もある。
皇室は時代状況に合わせて姿を変えてきた。平成の皇室は、男系男子による皇位継承制度などの旧来の要素と、人権や弱者への配慮という現代的な要素をともに包摂しようと努めてきた。だがネット社会の進展などの変化により、きしみが出てきているということではないか。
■早く語る機会あれば、印象は違ったのでは
危機管理に詳しい広報コンサルタントの石川慶子さんの話 ネガティブな情報が流布している場合、その話を打ち消すことが重要。今回は紙での説明に任せる部分はあったものの、会見で顔を出して語りかけるという伝わりやすい形で、圭さんのお母さんを巡る「金銭トラブル」について説明した場面がきちんとあった。話し方も落ち着いており、危機管理上最も大切な感情に訴えるという点で伝わるものはあったと思う。
結婚会見で「恐怖」という皇室の方々が通常語らないことを率直に話したことも含め、好意的に見た人も多かったのではないか。一方でこの間、こうした対応が取れなかった背景や理由の説明はなかった。4月公表の説明文書で伝えきったと考えたのかもしれないが、多くの人は文書を読まない。会見や動画で語る機会があれば、この間の印象は違ったのではないか。
■2人の結婚をめぐる動き
<2017年9月> 眞子さんと小室さんの婚約内定
<12月> 小室さんの母親と元婚約者の「金銭トラブル」を週刊誌が報道。その後、同様の報道が続く
<18年2月> 宮内庁が結婚延期を発表
<8月> 小室さんが留学のため米国へ
<11月> 秋篠宮さまが「多くの人が納得し喜んでくれる状況にならなければ、納采の儀を行うことはできない」と発言
<19年1月> 小室さんが経緯説明の文書公開
<20年11月> 眞子さんが「結婚に向けて進みたい」と文書でお気持ち表明
<21年4月> 小室さんが「金銭トラブル」を説明する文書公表
<9月> 小室さんが米国から帰国
<10月1日> 宮内庁、眞子さんが複雑性PTSDと診断されていたと明かす
(日本経済の現在値)
上昇率は4.4% 米47%、英44%
30年増えぬ賃金、日本22位
【主要国の名目GDPの推移/主要国の平均賃金の推移】
日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷が続いている。▼13面=賃金より雇用維持
国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。
賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35カ国中22位で3万8514ドル(1ドル=110円で424万円)。この30年で日本は4・4%増とほぼ横ばいだが、米国47・7%増、英国44・2%増などと差は大きい。賃金の額も、隣国の韓国に15年に抜かれた。
12年末に発足した第2次安倍政権は大規模な金融緩和と財政出動、投資を促す成長戦略を「3本の矢」とするアベノミクスで、この状況を打破しようとした。当初1万円ほどだった日経平均株価は3万円前後まで回復し、企業業績も改善した。だが、海外に比べると、名目GDPも賃金も伸び悩みは明らかで、低成長からは抜け出せなかった。
なぜなのか。企業の稼ぐ力を高める成長戦略の失敗を指摘する声は多い。日本生産性本部によると、00年には世界1位だった日本の製造業の生産性はその後伸び悩み、18年には16位に後退した。低成長に加え、企業の賃上げも進まず、GDPの半分以上を占める個人消費も盛り上がらなかった。
衆院選では、与野党ともに中低所得層への分配を強化するという訴えが目立つが、同時に稼ぐ力を高めて低成長から抜け出す戦略も求められる。(木村聡史)
▼13面 (日本経済の現在値:1)
置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金
最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアアップをしていくのが当たり前だとも聞くけれど、日本もそんな社会になってきたのだろうか。
■人手不足、意識も変化
まず、総務省の労働力調査を見てみると、たしかにコロナ禍前の2019年の転職者数は過去最多の351万人だった。働く人全体に占める割合を示す転職率も、ちょうど記者(29)と同年代の25~34歳は7・8%と過去最高水準で、13人に1人が転職していた。
ただ、過去にさかのぼってみると、むしろ、どの年代も転職率は00年代半ばごろがピーク。とくに若年層の15~24歳では、05~06年に14%超と、足元を超える転職率だ。いったい、何が起きていたのか。
当時の労働経済白書などをもとに理由を探ると、企業の倒産が相次いだ00年前後の就職氷河期に、希望する待遇や職種の企業に入れなかった人たちが、景気の回復にあわせて転職するケースが多かったようだ。
じつは統計上、転職者数には、景気によって雇い止めなどにあいやすい非正規の働き手も含まれている。19年の転職者も半数以上の192万人が非正規で、同様な傾向は少なくとも00年代初めから続いていた。
00年代半ばに増えてきた転職は、08年のリーマン・ショック後の不況で再び減り、ここ数年でリーマン前の水準に戻ってきた。ただ、その理由を探っていくと、以前とは違う要因も見えてきた。
エン・ジャパン社で人材紹介サービスを統括する藤村諭史さんは、人手不足と若者の意識の変化を挙げる。「人手不足で12年から売り手市場が広がり、18年までは特に若手採用が活況だった。最近の若い世代は自分のキャリアを自分でつくっていく、という風潮がある」と指摘。企業側も即戦力の人材を求める傾向が強まっていて、「35歳以上の世代の転職も今後増えていくのではないか」という。
海外では、自分で将来のキャリアを考え、転職を繰り返すのが当たり前とよく聞くけれど、どれぐらい違うのだろうか。
同じ企業に10年以上働く人の割合を、労働政策研究・研修機構の資料で比べてみた。日本は45・8%で、20%台の米国や韓国との差は大きい。一方、解雇規制が比較的厳しいとされるフランス(45・6%)やドイツ(40・3%)は、日本とそれほど変わらなかった。
■給料より休み・職場環境、重視
では、日本で転職した人、なかでも正社員で転職した人たちは給料が上がっているのだろうか。
業界大手のマイナビの調査をみて驚いた。正社員で転職した人の平均年収をみると、転職前は461・2万円だったのが、転職後は453・0万円に減っていたのだ。リクルートワークス研究所の調査でも、転職後に年収が5%以上あがったと答えた人は日本では39・7%のみ。海外では米国やフランスが75%以上で、日本の低さが際立つ。
では、いったい何のために転職しているのか。
マイナビの調査によると、転職先の条件としてこだわった点には、給料アップよりも希望する勤務地や休日・休暇制度が整っていることを挙げる回答のほうが多かった(複数回答)。厚生労働省の19年の雇用動向調査をみても、転職の理由は収入よりも「労働時間・休日等の労働条件」や「職場の人間関係」の方が多い。
マイナビの関根貴広研究員は「最近はワーク・ライフ・バランス(WLB)への注目を感じる。テレワークや育休へのニーズも強くなり、自分らしく働ける仕事を求める意識が高まっている」と話す。
ただ、様々なデータをみる限り、転職のあり方が昔に比べて大きく変わったとは言いがたい。海外のようにキャリアアップで高い賃金を得られるような転職は一部に限られ、むしろ、非正規労働者が仕事を転々としたり、正社員も職場の環境が悪いために転職を望んだりしているようにもみえる。転職しやすい環境を整え、成長分野に人材がスムーズに移動できれば経済も活性化する。そんな政府や経済界が強調してきた転職像とは、ギャップがあるのではないか。
第一生命経済研究所によると、直近の19年度と20年度では、異なる産業へ転職した人の数に大きな変化は見られなかった。星野卓也・主任エコノミストは「コロナ禍で仕事が減った飲食業の人が突然IT業界に移るようなことはあまりなかった」と話す。
政府は、一度仕事を辞めて大学などに通う「リカレント教育」や、新しい事業や職種に必要なスキルを習得する「リスキリング」も後押ししてきた。しかし、東京大学の本田由紀教授(教育学)は、こうした取り組みは90年代から繰り返されているが、あまり効果が出ていないと指摘。「日本の雇用のあり方はスキルや専門性を軽視してきた。学んだ内容を評価して賃金に反映させるように政財界や労働市場が変わっていかなければ意味がない」と話す。
働き盛りの世代が減っていくことが確実な日本で、希望の職種への転職をしやすくし、働き手のキャリアアップや経済の活性化につなげることは必要かもしれない。ただ、転職者の人材評価や賃金制度の見直し、転職に失敗した場合のセーフティーネットの拡充など、様々な政策対応を一体的に進めなければ効果は出ない。企業の意識改革や仕組みづくりに加え、こうした動きを後押しする政策が求められている。(橋本拓樹)
2021/10/21 日本経済の現在値(2/5)
日本の転職はキャリアアップにならない? 給料減、驚きのデータまで
最近、テレビやインターネットで転職業界のCMや広告をよく見るようになった。まわりでも若い人の転職が増えた気がするが、実際はどうなのだろう。海外では賃金などの条件がいい会社へと転職を繰り返し、キャリアアップをしていくのが当たり前だとも聞くけれど、日本もそんな社会になってきたのだろうか。
まず、総務省の労働力調査を見てみると、たしかにコロナ禍前の2019年の転職者数は過去最多の351万人だった。働く人全体に占める割合を示す転職率も、ちょうど記者(29)と同年代の25~34歳は7・8%と過去最高水準で、13人に1人が転職していた。
ただ、過去にさかのぼってみると、むしろ、どの年代も転職率は00年代半ばごろがピーク。とくに若年層の15~24歳では、05~06年に14%超と、足元を超える転職率だ。いったい、何が起きていたのか。
当時の労働経済白書などをもとに理由を探ると、企業の倒産が相次いだ00年前後の就職氷河期に、希望する待遇や職種の企業に入れなかった人たちが、景気の回復にあわせて転職するケースが多かったようだ。
記事後半では転職を取り巻く環境を国際比較します。ちょっと日本の転職だけ他国とは事情が異なっているようで……
じつは統計上、転職者数には、景気によって雇い止めなどにあいやすい非正規の働き手も含まれている。19年の転職者も半数以上の192万人が非正規で、同様な傾向は少なくとも00年代初めから続いていた。
00年代半ばに増えてきた転職は、08年のリーマン・ショック後の不況で再び減り、ここ数年でリーマン前の水準に戻ってきた。ただ、その理由を探っていくと、以前とは違う要因も見えてきた。
エン・ジャパン社で人材紹介サービスを統括する藤村諭史さんは、人手不足と若者の意識の変化を挙げる。「人手不足で12年から売り手市場が広がり、18年までは特に若手採用が活況だった。最近の若い世代は自分のキャリアを自分でつくっていく、という風潮がある」と指摘。企業側も新卒者を一から育てるだけでなく、即戦力の人材を求める傾向が強まっていて、「35歳以上の世代の転職も今後増えていくのではないか」という。
海外では、自分で将来のキャリアを考え、転職を繰り返すのが当たり前とよく聞くけれど、どれぐらい違うのだろうか。
同じ企業に10年以上働く人の割合を、労働政策研究・研修機構の資料で比べてみた。日本は45・8%で、20%台の米国や韓国との差は大きい。一方、解雇規制が比較的厳しいとされるフランス(45・6%)やドイツ(40・3%)は、日本とそれほど変わらなかった。
では、日本で転職した人、なかでも正社員であえて転職した人たちはキャリアアップで給料が上がっているのだろうか。
業界大手のマイナビの調査をみて驚いた。正社員で転職した人の平均年収をみると、転職前は461・2万円だったのが、転職後は453・0万円に減っていたのだ。リクルートワークス研究所の調査でも、転職後に年収が5%以上あがったと答えた人は日本では39・7%のみ。海外では米国やフランスが75%以上で、日本の低さが際立つ。
では、いったい何のために転職しているのか。
マイナビの調査によると、転職先の条件としてこだわった点には、給料アップよりも希望する勤務地や休日・休暇制度が整っていることを挙げる回答のほうが多かった(複数回答)。厚生労働省の19年の雇用動向調査をみても、転職の理由は収入よりも「労働時間・休日等の労働条件」や「職場の人間関係」の方が多い。マイナビの関根貴広研究員は「最近はワーク・ライフ・バランス(WLB)への注目を感じる。テレワークや育休へのニーズも強くなり、自分らしく働ける仕事を求める意識が高まっている」と話す。
ただ、様々なデータをみる限り、転職のあり方が昔に比べて大きく変わったとは言いがたい。海外のようにキャリアアップで高い賃金を得られるような転職は一部に限られ、むしろ、非正規労働者が仕事を転々としたり、正社員も職場の環境が悪いために転職を望んだりしているようにもみえる。転職しやすい環境を整え、成長分野に人材がスムーズに移動できれば経済も活性化する。そんな政府や経済界が強調してきた転職像とは、ギャップがあるのではないか。
そんな疑問を持って、成長産業への前向きな転職が増えているかどうかも調べてみた。第一生命経済研究所によると、直近の19年度と20年度では、異なる産業へ転職した人の数に大きな変化は見られなかった。星野卓也・主任エコノミストは「コロナ禍で仕事が減った飲食業の人が突然IT業界に移るようなことはあまりなかった。コロナ禍でさえ労働移動は変わらなかったので、平時はなおさら起きないのではないか」と話す。
政府は、一度仕事を辞めて大学などに通う「リカレント教育」や、新しい事業や職種に必要なスキルを習得する「リスキリング」も後押ししてきた。
しかし、東京大学の本田由紀教授(教育学)は、こうした取り組みは90年代から繰り返されているが、あまり効果が出ていないと指摘。「日本の雇用のあり方はスキルや専門性を軽視してきた。学んだ内容を評価して賃金に反映させるように政財界や労働市場が変わっていかなければ意味がない」と話す。
働き盛りの世代が減っていくことが確実な日本で、希望の職種への転職をしやすくし、働き手のキャリアアップや経済の活性化につなげることは必要かもしれない。ただ、転職者の人材評価や賃金制度の見直し、転職に失敗した場合のセーフティーネットの拡充など、様々な政策対応を一体的に進めなければ効果は出ない。企業の意識改革や仕組みづくりに加え、こうした動きを後押しする政策が求められている。(橋本拓樹)
2021/10/19 (危機の時代に 2021衆院選:3)
行動を求める若者 党・議員の取り組み 高2落胆
【浜松市の8月の平均気温の推移】
「気候非常事態宣言都市にして下さい!」「私たちの未来を私たちで作ろう」
制服姿の生徒たちが、画面に向けてメッセージを掲げる。9日、浜松開誠館中・高(静岡県)の生徒が企画したオンラインイベント。気候危機について、若い世代の声を政治に届けようと呼びかけた。
浜松市では昨年8月、国内最高気温に並ぶ41・1度を記録。夏場、屋外の部活動も年々厳しくなっている。
日本は菅政権の下、昨年10月に、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を宣言。国連に30年度に13年度比46%削減するという目標を提出した。
ただ、選挙を前に、政治家の気候危機への考え方が見えてこない。「まだ大きな問題だと思っていないのか」。主な政党にアンケートを出し、9政党のうち8政党から回答が来た。実行委員長の山田裕翔さん(高2)は「若者が真剣に考えていると思ってくれたのか、これから選挙権を持つからイメージを気にしたのかな」。
尋ねたのは、(1)46%の削減目標の評価(2)効果的な排出削減対策(3)気候危機に対する各党や議員の活動、の三つだ。46%減の目標について、与党の自民・公明は「野心的」だと評価。日本維新は過度な規制による産業流出を招かないよう、技術革新と雇用創出を訴えた。一方、立憲民主と共産は、目標は不十分という立場だ。それぞれ55%以上削減、50~60%削減を目指すべきだと提言した。
生徒には物足りなかったようだ。佐々木涼翔さん(高2)は、党や議員の取り組みにがっかりした。紙やペットボトルを減らすなど、学校でもやっていることばかりだったからだ。「大人にしかできない、国会議員にしかできない規模で取り組んで欲しい」。上嶋波矢都さんは「未来を作るのは技術だ。次の技術への支援をお願いします」と訴えた。(香取啓介)(3面に続く)
▼3面
「私たちの未来」脱炭素へ声 若者ら、政党招き討論会や政策提言
【気候危機に対する各党のスタンスは?/気候変動対策は経済に良い?悪い?】
(1面から続く)
深刻化する気候危機について、政治に声を上げる若者たちが各地で増えている。2018年、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)が始めた学校ストライキをきっかけに火がついた。「Fridays For Future」(未来のための金曜日)運動となり、気候マーチと呼ばれるデモ行進などが世界に広まった。
日本でも行われるようになった街頭での訴えは、選挙で議員を選ぶ議会制民主主義ではすくいきれない声を届ける「政治参加」の手段の一つになりうる。
今回は、運動が盛り上がってから初めての衆院選。政党や候補者に直接訴える取り組みが始まった。FFFジャパンは17日、各政党の政策責任者を招いた公開討論会を開いた。参加した角谷樹環さん(15)は「政治を変えることができれば、私たちの未来を変えることができる。私たちは気候変動によって死にたくない」と訴えた。
一方、気候変動のような、世界規模で長期にわたる課題に民意を反映させる方法として注目されるのが「市民会議」だ。一般市民を巻き込んで討論を重ねて政策を作る。選挙だけでは対処が難しい問題に対し、民主主義を補う仕組みとして欧州で広がり、フランスでは今夏の気候変動対策法の制定につながった。
国内でも「日本版気候若者会議」が発足した。中学生から39歳まで108人を集めて、5月から10週をかけ議論。「再エネ100%」「カーボンフットプリントの表示化」「気候市民会議の設立」など70の項目からなる「政策提言書」を作り、自民、立憲民主の各政党、経済産業省と環境省、経団連に手渡した。
事務局の会社員、西田吉蔵さん(37)は「若者だけでも考えればこれだけの解決策が出るのに、政治や企業がそこに到達できないのがもどかしい。あなたたちはもっとできるでしょ、というのを受け取って欲しい」と話す。
司法に訴える若者もいる。大阪府のエリナさん(25)は、ドイツ留学中に気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に若者代表として参加。石炭火力に頼る日本に対して、東南アジアの市民団体が抗議活動をしていたことに驚いた。環境先進国だと思っていた日本が、かなり遅れていると批判されていた。「自分に向けられているようで、ショックだった」
帰国後に、大学の近くで石炭火力発電所の増設計画があることを知り、建設を許した国の環境影響評価の不備を訴えた行政訴訟の原告団に参加。地元住民とともに建設中止を訴える。一審は敗訴したが控訴審が続く。「市民が勝てば気候変動政策が進むと信じている」
■加速する産業界、痛みも
若者たちの脱炭素への意識の高まりは、出遅れが目立つ日本の産業界の取り組みを加速させる原動力にもなっている。経済産業省の7月末時点のまとめでは、NECや富士通、三菱重工業など124社が50年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を打ち出した。金融業界では三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友FG、みずほFGの3メガバンクグループが50年までに投融資先を含めて、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることをめざすとしている。対応が遅れた企業は、将来的に融資を受けられず、事業が成り立たなくなるとの危機感がある。
一方、脱炭素で痛みを伴う業界もある。ホンダは40年までに全ての新車をCO2を出すエンジンを使わない電気自動車(EV)などにすると発表した。
下請けとして、エンジン部品を製造する栃木県内の会社長(37)は「EVになったら、作れる部品がなくなる。このまま仕事が減り続けるのか、不安だ」。
エンジン部品向けに金型の企画設計を担ってきた大阪技研は今春に自己破産した。社長だった大出竜三氏(69)は、「有望な新しい事業をみつけろ、と言われても、中小零細に自前でできる金も開発ノウハウもなかった」と振り返る。
自動車関連産業の就業人口は540万人で、就業人口全体の6700万人のうち8%を占める。日本自動車工業会の豊田章男会長は9月の記者会見で「(脱炭素が)雇用問題であるということは忘れてはいけない」と釘を刺した。
■「政党も軽視できぬ」
欧州の環境運動に詳しい京都大の宇佐美誠教授(法政策論)は、若者たちの運動について「いずれこういう時が来ると思っていた」と話す。温暖化による被害は途上国や貧しい人ほど大きく、現役世代より、若い世代ほど影響を受ける。新型コロナウイルスのパンデミックで、国を越えて危機に向き合おうとする傾向は強まったといえる。
ただ、日本は他国に比べて気候変動に対する理解度は高いが、対策はコストと見なされ、市民運動の広がりもいま一つだ。米イエール大学が2~3月に世界31カ国・地域を対象にした世論調査では、「気候変動の知識」や「将来世代への影響」などを尋ねた質問で、日本は上位10カ国だったのに対し、政策の優先順位で「とても高い」と答えた人は下から9番目と低迷。対策が「経済成長も雇用も減らす」と考える人は39%と他国と比べて多い。
宇佐美さんは、「若者は有権者として多数ではないが、各政党とも社会の変化を感じ、あなどれないと思っているのではないか。主張を直ちに実現するのは難しいが、選挙での論戦を通じて変わっていく可能性がある」と話す。(香取啓介、神山純一、長崎潤一郎)