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【 02】09/13
アメリカの巧妙な虚構
米中対立 アメリカの巧妙な虚構
① 堤 未果 by Wikipedia
② 『株式会社アメリカの日本解体計画』
③ 新聞記事
YAHOO ニュース 2022/02/25
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220225-00283788
バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛
アメリカの巧妙な虚構
遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、
筑波大学名誉教授、理学博士
2月24日午後1時、CCTVの画面に大きく映し出されたウクライナ大統領が悲痛な声で叫んでいた。バイデンは昨年12月7日のプーチンとの会談後「戦争になっても米軍は派遣しない」と言っていたと解説委員が強調した。
ハッとした!
これだ――!
これだった。私はこの事実を十分に認識していなかったために、プーチンの軍事侵攻の分析を誤ったのだ。猛烈な悔恨に襲われた。加えて2月24日の夜になると、NATOも部隊派遣をしないと決定した。これではウクライナがあまりに哀れではないか。
言うまでもなく、プーチンの軍事侵攻は絶対に許されるものではない。
それを大前提とした上で、ウクライナで何が起きていたのか、原点に立ち戻って確認しなければならない。私にはその責任がある。
◆ウクライナのゼレンスキー大統領の悲痛な叫び
2月24日午後1時、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVのお昼の国際ニュースを観ていた時だった。
画面いっぱいに大写しになったウクライナのゼレンスキー大統領が「ウクライナは如何なる安全保障聯盟(軍事同盟)にも入ってないのです。だからウクライナ人の命の代償を以て自分たちを守るしかないのです・・・」と叫んでいた。
ほとんど泣きそうな表情だった。
続けてキャスターが「アメリカはあれだけゼレンスキー大統領を焚きつけて国際世論を煽りながら、その責任は取らないのです」と説明しながら、サキ報道官の姿を大きく映し出した。
2月24日、CCTV4のお昼のニュースより
字幕には、
ホワイトハウス:アメリカは如何なる状況になろうとも決してウクライナに派兵しない
と書いてある。サキ報道官の英語も流れていた。
頭を殴られたような衝撃に打ちのめされた。
ああ、これだ!
分析のジグゾーパズルの中に、このひと欠片(かけら)が抜け落ちていたのだ。
だとすればプーチンがこのチャンスを逃すはずがないだろう。バイデンはプーチンに「さあ、どうぞ!自由に軍事侵攻してください」というサインを与えていたのと同じで、プーチンがウクライナに軍事侵攻しないはずがない。
そう言えば、たしかに日本のメディアでも<ウクライナ国境付近でロシア軍が兵力を増強して緊張が高まっている問題で、米国のバイデン大統領は8日、米軍をウクライナ国内に派遣してロシアの軍事侵攻を阻むことについて、「検討していない」と否定的な考えを示した>と報道していた。
しかしそこには<「それは他のNATO加盟国の行動次第だ」と述べ、状況によっては米軍が介入する余地を残した>とも書いてあった。だからまさか本気で派兵しないなどという選択をするはずがないと思ってしまったのだ。
◆アフガン米軍撤退後のバイデンの行動
昨年8月31日にバイデンはアフガニスタンからの米軍の撤退を終え、そのあまりに非人道的な撤退の仕方に全世界から囂々(ごうごう)たる批難を浴びた。アメリカに協力していたNATO諸国はバイデンのやり方に失望し、心はアメリカから離れていった。
「アメリカ・ファースト」のトランプから大統領のポストを奪うことに成功したバイデンは、「アメリカは戻ってきた」と国際社会に宣言していたが、その信頼は失墜し、支持率もいきなり暴落した。
そこで思いついたのは、バイデンが長年にわたって培ってきたで地盤あるウクライナだったのだろう。バイデンはいきなり軸足をウクライナに移し、9月20日にはNATOを中心とした15ヵ国6000人の多国籍軍によるウクライナとの軍事演習を展開した。このウクライナとの演習は1996年から始まっているが、開始以来、最大規模の演習だったと報道されている。
10月23日になると、バイデンはウクライナに180基の対戦車ミサイルシステム(シャベリン)を配備した。
このミサイルはオバマ政権のときに副大統領だったバイデンが、ロシアのクリミア併合を受けてウクライナに提供しようと提案したものだ。しかしオバマはそれを一言の下に却下した。「そのようなことをしたらプーチンを刺激して、プーチンがさらに攻撃的になる」というのが却下した理由だった。
このミサイルをウクライナに提供したらプーチンが攻撃的になる――!
オバマのこの言葉は、きっとバイデンに良いヒントを与えてくれたにちがいない。
案の定、バイデンがウクライナに対戦車ミサイルを配備したのを知ると、プーチンは直ちに「NATOはデッドラインを超えるな!」と反応し、10月末から11月初旬にかけて、ウクライナとの国境周辺に10万人ほどのロシア軍を集めてウクライナを囲む陣地配置に動いた(ウクライナのゼレンスキー大統領の発表)。
アメリカ同様、通常の軍事訓練だというのがプーチンの言い分だった。
こうした上で、バイデンは何としてもプーチンとの首脳会談を開きたいと申し出て、2021年12月7日の会談直後に「ウクライナで戦いが起きても、米軍派遣は行わない」と世界に向けて発表したのである。
◆ウクライナ憲法に「NATO加盟」を努力目標に入れさせたのはバイデン
バイデンは副大統領の期間(2009年1月20日~2017年1月20日)に、6回もウクライナを訪問している。
訪問するたびに息子のハンター・バイデンを伴い、ハンター・バイデンは2014年4月にウクライナ最大手の天然ガス会社ブリスマ・ホールディングスの取締役に就任した。この詳細は多くのウェブサイトに書いてあるが、最も参考になるのは拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授がまとめた<「次男は月収500万円」バイデン父子がウクライナから破格報酬を引き出せたワケ安倍政権の対ロシア外交を妨害も>だ。これは実によくまとめてあるので、是非とも一読をお勧めしたい。
しかし、これらの情報のどこにも書いてないのが、バイデンが副大統領として活躍している間に、意のままに動かせたポロシェンコ大統領(2014年6月7日~2019年5月20日)を操って、ウクライナ憲法に「NATO加盟」を努力義務とすることを入れさせたことだ。
私はむしろ、この事実に注目したい。その経緯の概略を示すと以下のようになる。
●2017年6月8日、「NATO加盟を優先事項にする」という法律を制定させた。
●2018年9月20日、「NATOとEU加盟をウクライナ首相の努力目標とする」旨の憲法改正法案を憲法裁判所に提出した。
●2018年11月22日に憲法裁判所から改正法案に関する許可が出て。
●2019年2月7日に、ウクライナ憲法116条に「NATOとEUに加盟する努力目標を実施する義務がウクライナ首相にある」という趣旨の条文が追加された。
(後半の3項目に関してはこちらを参照。)
プーチンのウクライナに関する警戒は、こうして強まっていったのである。
◆ハンター・バイデンのスキャンダルを訴追する検事総長を解任させた
なぜ、この憲法改正にバイデンが関係しているかを証拠づける、恐るべきスキャンダルがウクライナで進行していた。
バイデン副大統領の息子ハンター・バイデンが取締役を務めるブリスマ・ホールディングスは脱税など多くの不正疑惑を抱いたウクライナの検察当局の捜査対象となっていた。
しかし2015年、バイデンはポロシェンコに対して、同社を捜査していたショーキン検事総長の解任を要求。バイデンはポロシェンコに「解任しないなら、ウクライナへの10億ドルの融資を撤回するぞ!」と迫って脅迫し、検事総長解任に成功した。その結果融資は実行された。
このことは検事総長が、解任されたあとにメディアに告発したと名越教授は書いている。
ウクライナの検事総長を解任する犯罪的行為を操れる力まで持っていたバイデンは、ウクライナに憲法改正を迫ることなど、余裕でできたものと判断される。
今般、ウクライナを焚きつけて騒動を起こさせた理由の一つに「息子ハンター・バイデンのスキャンダルを揉み消す狙いがあった」という情報を複数の筋から得ている。トランプ元大統領は、ゼレンスキーに「バイデンが、息子のスキャンダルを揉み消すために不正を働いた証拠をつかんでほしいと」と依頼したことがあった。アメリカで中間選挙や大統領選挙になった時に、必ずトランプがバイデンの息子のスキャンダルを再び突っつき始めるので、それを掻き消すためにウクライナで成功を収めておかなければならないという逼迫した事情がバイデンにはあったというのが、その情報発信者たちの根拠である。その時が来ればトランプがきっと暴き出すにちがいないと待っているようだ。
この情報は早くから入手していたが、証拠がないだろうという批判を受ける可能性があり、日本がバイデンの表面の顔に完全に支配されてしまっている状況では、とても日本人読者に受け入れてもらえないだろうと懸念し、こんにちまで書かずに控えてきた。
しかしウクライナをここまで利用して翻弄させ、結果捨ててしまったバイデンの「非人道的な」なやり方に憤りを禁じ得ず、ここに内幕を書いた次第だ。
◆NATOもウクライナに応援部隊を派遣しない
筆者に、思い切って正直に書こうと決意させた動機の一つには、2月24日夜21:22に共同通信社が「部隊派遣しないとNATO事務総長」というニュースを配信したこともある。
それによれば「NATOのストルテンベルグ事務総長は24日の記者会見で、東欧での部隊増強の方針を示す一方、ウクライナには部隊を派遣しないと述べた」とのこと。
バイデンは2021年12月8日の記者会見で「他のNATO加盟国の行動次第だ」と言っていた。
NATO事務総長の発表は、バイデンに「NATOが派遣しないと決めたのだから、仕方がない」という弁明を与え、米軍がウクライナへ派兵しないというのは、これで決定的となっただろう。
あまりに残酷ではないか――!
ウクライナをここまで焚きつけて血を流させ、自分は一滴の血も流さずにアメリカの液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出を爆発的に加速させることには成功した。
おまけにアフガン撤退によって離れていったNATOの「結束」を取り戻すことにもバイデンは今のところ成功している。
この事実を直視しないで、日本はこのまま「バイデンの外交工作に染まったまま」突進していいのだろうか。
このような「核を持たない国を焚きつけて利用し、使い捨てる」というアメリカのやり方から、日本は何も学ばなくていいのだろうか。
物心ついたときにソ連兵の家屋侵入に怯えマンドリンの矛先に震えた経験を持つ筆者は、プーチンのやり方を見て、アメリカの日本への原爆投下に慌てて第二次世界大戦に参戦し素早く長春になだれ込んできたソ連兵を思い起こした。
ソ連はいつも、こういう卑劣な急襲を行う。そして日本の北方四島を掠め取っていった。その伝統はロシアになっても変わっていない。
一方では「核を持つ国アメリカ」のやり方は、日本の尖閣諸島防衛に関しても、ウクライナを利用し捨てたのと同じことをするのではないかと反射的に警戒心を抱いた。なぜならバイデンはウクライナに米軍を派遣しない理由を「核を持っているから」と弁明したが、それなら「中国も核を持っている」ではないか。
「米露」が核を持っている国同士であるなら、「米中」も核を持っている国同士だ。だから万一中国が尖閣諸島を武力攻撃しても、「米軍は参戦しない」という論理になる。
自国を守る軍事力を持たないことの悲劇、核を捨てたウクライナの屈辱と悲痛な悲鳴は、日本でも起こり得るシミュレーションとして覚悟しておかなければならないだろう。
そのことを日本の皆さんに理解して頂きたいという切なる思いから、自戒の念とともに綴った次第だ。真意をご理解くださることを切に祈りたい。
追記:ニクソンは大統領再選のために米中国交樹立を謳い(1971.04.16)キッシンジャーに忍者外交をさせて(1971.07.09)、中華人民共和国(中国)を国連に加盟させ中華民国(台湾)を国連から追い出した(1971.10.25)。それがこんにちの「言論弾圧を許す」中国の巨大化を生んだ。大統領再選のためならアメリカは何でもする。そのアメリカに追随する日本は、天安門事件で対中経済封鎖を解除させることに奔走し、モンスター中国を生んだ。その中国がいま日本に軍事的脅威を与えている。この大きな構図を見逃さないでほしい。結果は後になってわかる。
遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
FONT COLOR=RED>2022/03/19
米中対立 アメリカの巧妙な虚構
今日の内容は、実は 2022/03/19の内容 で、運よくコピーしていたものが偶然見つかったものです。 見つかってよかったと思う。
米中対立 アメリカの巧妙な虚構
① 堤 未果 by Wikipedia
② 『株式会社アメリカの日本解体計画』
③ 新聞記事
※ おびえる演劇の街
※ 中露間の輸出増加
※ 社説
※ (interview)なし崩しの「専守防衛」阪田雅裕さん
※ (interview)冷戦に舞い戻る世界 田中明彦さん
※ (interview)ウクライナ侵攻と日本 寺島実郎さん
①堤 未果(要・クリック) by Wikipedia
日本人が古くから育んできた、頭の中にある私たちの知恵、「お互いさま」という精神性こそ、ウォール街が一番怖がっているものです。
どこまでも自分自身と深く向き合う、崇高な文化や伝統、いのちに優劣はなく、人間もまた万物の一部であるとするアニミズムの思想 ……… そういうものが、彼らの計画を脅かすのはなぜでしょう?
それは絶対にお金で買えないからです。
日本にはお金で買えない知恵がある、
日本人はお金で買えない精神性をもっている。
日本が持つこうした宝の数々は、
どれだけお金を積んでも、決して買えません。
だから、日本が狙われるのです。
著書のカバーの表紙裏に、この記事が載っているのです。
堤 未果(つつみ みか)は、日本のジャーナリスト、著作家。
父は放送ジャーナリストのばばこういち、母は詩人の堤江実[1]。アニメーションアーティストの堤大介は弟、参議院議員の川田龍平は夫。
来歴
ジャーナリストばばこういちの長女として東京都で生まれる。学校法人和光学園を卒業後、アメリカ合衆国に留学、ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士課程修了。国際連合(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナルニューヨーク支局員を経て、アメリカ野村證券に勤務中、2001年のアメリカ同時多発テロ事件を隣のビルの20階にあるオフィスで遭遇。[2]。事件を目撃したことで、自らの目でアメリカという国を見ようと志しジャーナリストとなる[3]。
2006年『報道が教えてくれない アメリカ弱者革命』を上梓、日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞を受賞[4]、以後、米国 - 東京間を行き来して執筆、講演活動を行う。2008年、薬害HIV訴訟の元原告で参議院議員の川田龍平と結婚[5][6]、『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)シリーズが80万部を超えるベストセラーになった。米国が作った「経済的徴兵制」という仕組みと、戦争の民営化についての分析が多くのメディアで絶賛された[7]。同書は第56回日本エッセイスト・クラブ賞と、中央公論新社が主催し出版各社の新書編集長と主要書店の店員が選ぶ「新書大賞2009」の二つを受賞し[8]、
「社会の真実の見つけ方(岩波ジュニア新書)」とともに、「岩波書店100周年〜私が選ぶ一冊」読者選出で2冊ともベスト10にランク入りする。
「貧困大国アメリカシリーズ」は韓国・台湾・中国・香港などでも、翻訳出版、コミック版が刊行されている。
J-WAVEラジオ「Jam the World」、ラジオミックス京都「堤未果の社会の真実の見つけ方スペシャル」などでパーソナリティを務める。
講談社の雑誌『クーリエ・ジャポン』2010年3月号のメイン特集「オバマ大統領就任から1年 『貧困大国』の真実」で責任編集を務め、自著の2作『貧困大国アメリカI』『貧困大国アメリカII』に引き続き、オバマ後の米国外交、経済、教育、医療、刑務所ビジネスなどを詳細に分析している[9][10]。 2013年には、世界を飲みこむ米国発の政治と企業の癒着主義「コーポラティズム」をテーマに書いた「㈱貧困大国アメリカ」(岩波新書)を発表。
その後「政府は必ず嘘をつく」「政府はもう嘘をつけない」(角川新書)シリーズで、国際情勢の表と裏、金融、メディアの世界事情などを分析。
日本と世界の核事情を描いた「核大国ニッポン」(小学館)米国の言論統制についての「アメリカから自由が消える」(扶桑社)、規制緩和により日本の資産が外国に売却されるさまを詳細に暴いた「日本が売られる」、デジタル化の光と闇を描いた「デジタルファシズム」など著書多数。
2016年の米国大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプの当選を予測。現在は、米国の政治、経済、医療、教育、報道、核問題、自治体行政、食糧、エネルギー、農政、デジタルテクノロジーなど、徹底した現場取材と公文書に基づいた調査報道を続ける他、講演・テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など国内外で幅広く活動している。
人物
矢部宏治は、彼女のことを「日本で一番尊敬するジャーナリスト。日本のナオミ・クライン。言わば、たった一人で『日本社会の崩壊を食い止めるシンクタンク』をやっているような人だ。」と発言している[11]。
著書
単著
1994年9月 『空飛ぶチキン 私のポジティブ留学宣言』(創現社出版)、ISBN 4882450569
改題改訂『はじめての留学 不安はすべて乗り越えられる!』(PHP研究所) 2009年9月
2004年6月 『グラウンド・ゼロがくれた希望』(ポプラ社) ISBN 4591081419/(扶桑社文庫)2009年6月、ISBN 978-4594059842
2006年4月 『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 なぜあの国にまだ希望があるのか』(海鳴社)、ISBN 4875252307
日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞受賞
2008年1月 『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)、ISBN 978-4004311126
日本エッセイストクラブ賞、2009年新書大賞受賞
『コミック 貧困大国アメリカ』(松枝尚嗣 [画] PHP研究所 2010年1月)
2009年3月 『アメリカは変われるか? 立ち上がる市民たち!』(大月書店)、ISBN 978-4272408023
2010年1月 『ルポ貧困大国アメリカ II』(岩波新書)、ISBN 978-4004312253
2010年4月 『アメリカから〈自由〉が消える』(扶桑社新書)、ISBN 978-4594061647
2010年12月 『もうひとつの核なき世界』(小学館)、ISBN 978-4093881104/(小学館文庫)2014年8月、ISBN 978-4094060737
2011年2月 『社会の真実の見つけかた』(岩波ジュニア新書)、ISBN 978-4005006731
2012年3月 『政府は必ず嘘をつく』(角川SSC新書)、ISBN 978-4047315709
2013年6月 『(株)貧困大国アメリカ』(岩波新書)、ISBN 978-4004314301
2014年11月 『沈みゆく大国 アメリカ』(集英社新書)、ISBN 978-4087207637
2015年5月 『沈みゆく大国 アメリカ 2〈逃げ切れ! 日本の医療〉』(集英社新書)、ISBN 978-4087207859
2016年4月「政府は必ず嘘をつく 増補版」(角川新書)
2016年7月「政府はもう嘘をつけない」(角川新書)
2017年6月「アメリカから自由が消える増補版」(扶桑社新書)
2017年8月「核大国ニッポン」(小学館新書)
2018年10月「メディアと私たち」別冊NHK100分de名著(NHK出版)
2018年10月「日本が売られる」(幻冬舎新書)
2020年6月『株式会社アメリカの日本解体計画』(経営科学出版)購入済み
2021年8月『デジタル・ファシズム: 日本の資産と主権が消える』NHK出版新書
2022年6月「暴走するマネー資本主義」(監訳)(経営科学出版)
2022年7月「巨大帝国アメリカの崩壊」(監訳)(経営科学出版)
共著
2009年『正社員が没落する 「貧困スパイラル」を止めろ!』(湯浅誠との共著)(角川書店)
2009年『格差社会という不幸(神保・宮台マル激トークオンデマンドⅦ)』(神保哲生、宮台真司、山田昌弘、鎌田慧、本田由紀、小林由美との共著)(春秋社)
2012年「人は何故過ちを繰り返すのか?」佐治晴夫との共著(清流出版)
2014年「岩波書店百周年記念:知の現在と未来」(岩波新書)広井良典、柄谷行人、管啓次郎、高橋源一郎、長谷川一、金子勝、國分功一郎、丸川哲史と共著
2015年「日本の大問題~10年後を考える─「本と新聞の大学」講義録』(集英社新書)一色清,姜尚中,佐藤優、宮台真司、上昌弘、大澤真幸、上野千鶴子と共著
2016年4月「18才の民主主義」(岩波新書)
2019年7月「支配の構造 国家とメディアー「世論」はいかに操られるか」(SB新書)中島岳志,大澤真幸,高橋源一郎と共著
2021年6月「自由の危機」(集英社新書)
テレビ・ラジオ番組出演(一部)
「 ニュースの深層」、「デモクラシーナウ!」解説者(朝日ニュースター) 水曜ノンフィクションスペシャル(TBSテレビ) 視点・論点「貧困大国の未来」(NHK教育)[12] 視点・論点「貧困と戦争」(NHK教育) 福祉ネットワーク「子供の貧困」(NHK教育) きょうの世界(NHK BS1) ON THE WAY ジャーナル(JFN) 佐藤しのぶ 出逢いのハーモニー(テレビ神奈川) Power Morning(J-WAVE) BS20周年ベストセレクション「マンホールチルドレン」(NHK BS) 学問のススメ(JFN) 菅原明子のエッジトーク(ラジオ日本) 池上彰の「編集長お時間です」 視点・論点「核なき世界の主人公とは」(NHK教育テレビジョン) 「Power Morning」(J-WAVE) 「課外授業 ようこそ先輩」(NHK総合 「Power Morning」(J-Wave)「TBS:神保哲生のニュース探究ラジオDIG」J-WAVE[Talking about our future] 「BS11 報道原人」、2011年10月~ 2015年3月 J-WAVE 「Jam the WORLD」水曜日 パーソナリティ 「2012年アメリカ大統領選挙の行方」(NHK BS1) 「NEWSアンサー」(テレビ東京) 「ロンブー淳のNEWS CLUB](文化放送) 「姜尚中の悩みの海を漕ぎ渡れ」(JFN) 愛知テレビ「トコトン1スタ!」 NHK 教育テレビ「ハートネット~米国格差社会~」 テレビ朝日「報ステSUNDAY」TBS ニュースバード「株式会社する世界」 J-WAVE PrimeFactor 「オバマ訪日を迎えて」 NHK クローズアップ現代「独立する富裕層~分断されるアメリカ社会~」 文化放送 吉田照美 飛べ!サルバドール BSフジプライムニュー 「報道ライブ21 INsideOUT」 朝日放送「正義のミカタ」 テレビ朝日「報道ステーション」 テレビ朝日「朝まで生テレビ!」テレビ朝日「橋下羽鳥の新番組」読売テレビ「そこまで言って委員会NP」 フジテレビ「ホンマでっか!?TV」「バイキング」 NHK「100分deメディア論」NHK「学問のススメ」NHK 【マイ朝ラジオ】レギュラー、東京MXテレビ【モーニングクロス】「堤未果の月刊アンダーワールド」他、多数。
②『株式会社アメリカの日本解体計画』(要・クリック)
堤未果著 from 経営科学出版
国連本部・米国野村証券で働いた著者がアメリカで見たもの
「不当な暴力をなくしたい」という思いから、国連やNGOで勤務。
その後、その思いをよりスムーズに実現するために、お金のルールを方法論として身につけようと、米国野村証券に務めるようになりました。しかし、一生懸命働けば働くほど、見えてくるのは、マネーゲームに興じる浅ましい人々の姿と、株式会社に乗っ取られたアメリカの姿だったと言います。そしてそれは、1980年代以降アメリカ型の資本主義に経済構造を変えられた日本にも大きな影響を与えているのです、、、
日本で巨額のお金が動くところには、アメリカの民間金融企業の影がある
事実・・・日本人の巨額の貯金に狙いをつけたアメリカの民間金融企業出身のある人物から、経済財政・郵政民営化担当大臣を務めていた竹中平蔵氏に手紙で細やかな指示が送られており、それに付き従う形で小泉政権は郵政民営化を達成した(日本の郵政事業は解体され、ゆうちょ銀行は安全な日本国債での運用を減らし、米系企業の債権や株式の比率をどんどん上げて、アメリカに貢献しています)
事実・・・運用比率が1%上がると1兆円を超える資金が市場に流入すると言われるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式保有率の上限を撤廃した安倍政権は、運用委託先も大きく変更して、アメリカの民間金融企業を中心に据えた(政権支持率を株価に支えられている安倍政権と、運用受注で年間数億円の手数料が流れ込む外資系金融機関および海外投資家は、この政策に大喜びです)
事実・・・アメリカの民間金融企業日本法人の元副社長が、15年6月、ゆうちょ銀行の副社長に就任し、今度はソフトバンクの副社長を務めている(ちなみに孫正義氏の二人の娘のうち、一人がアメリカの民間金融企業に勤務しているそうです)
事実・・・輸入農産物に使われているモンサント社の危険な除草剤「グリホサート」は、ヨーロッパも、ロシアも、中国も買ってくれず、世界中で使用禁止が相次いでいるというのに、ただひとり日本だけは残留基準を現行の5倍から150倍に大幅緩和している(モンサントの親会社・バイエルには、当然のようにアメリカの民間金融企業が融資を行っています)
事実・・・2018年12月に水道法が改正されたことにより、自治体所有の水道の運営権を企業が買いやすくなるようになった。その水道の運営権売却の規制緩和を決める会議のメンバーの一人は、なぜか利害関係者であるフランス最大手の水企業ヴェオリア・ウォーター社の社員だった(なお、2012年の段階で、アメリカの民間金融企業はヴェオリアを買収済みです)
政府、企業、金融機関の「お金」と「人事」を見れば世界が見える
これらは、私たち日本人の生活が、アメリカの企業たちに握られているという事例のほんの一部にすぎません。
こういう「事実」をマスコミが報じることはありませんが、安心してください。政府、企業、金融機関の「お金」と「人事」を丹念に追えば、きっと真実が見えてくるはずです…
詳細は以下の通りです…
株式会社アメリカの日本解体計画〜 「お金」と「人事」で世界が見える
※本書は2020年1月に実施された講演内容に最新かつ詳細な情報を加筆修正しています。
はじめに ウォール街から見た世界
※1.情報を掲載するにあたり、細心の注意を払っていますが、掲載されたすべての情報の内容の正確性,完全性及び安全性等を保証するものではありません。
この街には、ものすごい量の札束が毎年毎年降り注いでいる ウォール街が世界を動かしている
第1章 アメリカのみならず世界を動かす“神々”
桁違いの年収を稼ぐ花形の職業「ロビイスト」
マスコミは人にフォーカスする
大恐慌前にアメリカを覆っていた狂気が再び息を吹き返した
政界と経済界を高速で行き来する「目に見えない回転ドア」
アメリカのみならず世界をも動かすウォール街の“神”
金融危機を引き起こしたウォール街を誰も取り締まれない
オバマは回転ドア人事を防ぐことができたのか
チェンジの裏舞台では、回転ドアが高速回転していた
メガバンクは税金で救済され、金融業界の責任は追及されなかった
お金の流れと人事を見れば、真の権力構造が見えてくる
アルファベット3文字の怪しい金融商品
多額の報酬に笑いが止まらない人、すべてを失った人
第2章 日本の四大VIP客
ウォール街が大事にする日本のVIP客とは
郵便貯金と簡保のマネーを開放するための民営化だった
私たちの年金の運用は、半分が株で運用されている
スタートアップ企業に投資するソフトバンクの巨大ファンド
WeWorkはテクノロジー企業か、不動産賃貸企業か
「真っ赤っかの大赤字」に陥ったソフトバンク
ソフトバンクの希望をつなぐ後継者の正体
巨額のお金が動くところには、ゴールドマン・サックスの影がある
日銀がソフトバンクの株を大量に買っている?
「今だけ金だけ自分だけ」が繰り返される
ソフトバンク問題に、アメリカの中枢が関わっている可能性
第3章 株式会社アメリカ
株式会社アメリカの国旗デザイン
ワシントンD.C.に降り注ぐ大量の札束が見えてきましたか
ウォール街は、共和党、民主党の両方にチップを置く
絶対にクリントンが勝つはずだった……
ヒラリーの本音が暴露された
トランプ政権になって、ウォール街は政治の中枢から離れたのか
第4章 「日本の宝」が売られていく
株式会社アメリカが狙う「宝の山」
日本の水道が、ハゲタカに狙われている
ウォール街が推す「これから有望になる投資商品」とは
邪魔な法律を取っ払うためには、圧力、交渉のみならず強硬手段も使う
アメリカがいつまでたってもイラクから出ていかない理由
17年前のマスコミの嘘が、トランプ大統領を誕生させた
戦争が、何よりも儲かるビジネスである理由
イラク戦争を始めたのは、石油資源だけが目的ではなかった
イラク戦争を始めた三つ目の理由は水だった
芸能人のスキャンダルの裏側で大変なことが起こっている!?
日本のロビイスト「有識者会議」の正体
日本の水を狙っているのは、アメリカだけではない
命の水を扱う企業が、核のごみビジネスをも手掛ける怖さ
水源だけじゃない、中国が爆買いする日本の土地
世界中で大問題になっている除草剤が日本で普通に売られている
外国企業が参入することは、日本の発展のためになるのか
マスコミを信じるランキングで日本は世界一位
社会の表と裏をしっかり見たいなら、お金の流れを見る
大手マスコミだけじゃない、SNSも大衆操作ツールである
SNSは思考より感情を捉え、冷静さを失いやすい
シリコンバレーの企業は、次第に政治的な存在になりつつある
第5章 ウォール街と対極の価値観を持つ
デジタル断食のススメ
NHKが何を報道したかではなく、何を報道していないかを見る
ニュースがある事件一色になったら、その裏で何かが起きている
自分の直感を信じる
ウォール街が一番怖がっているもの
助け合いの精神「お互いさま」が、日本人のDNAに刻まれている
「日本売り」を食い止めることは手遅れか
今私たちが心に刻むべき「国家百年の計」とは
「お互いさま」の精神を世界中に広げ、貴重な資産を次世代に残そう
著者紹介
国際ジャーナリスト NYで9.11を目の当たりにし、ジャーナリストになることを決意
堤 未果 TSUTSUMI MIKA
2歳で渡米して以来、アメリカは憧れの存在だった。
自由の国で、貧乏でもマイノリティでも誰にでもチャンスがある。実際に住んでみると女性差別やアジア人差別もあったが、それでもチャンスだけは無限にある。そう信じていた。 ニューヨークの大学院では国際関係を専攻し、「不当な暴力をなくしたい」という思いから、国連やNGOで勤務。
米国野村証券に務めたのも、その思いをよりスムーズに実現するために、お金のルールを方法論として身につけたかったからだという。
転機は、9・11アメリカ同時多発テロ。
2001年9月11日。テロリストにハイジャックされたと言われる旅客機が世界貿易ビルに衝突。当時、米国野村証券に務めていて、そのオフィスが世界貿易センターの隣、世界金融センタービルの20階にあった。
テロを目の当たりにした心理的なショックはあったが、ただそれだけでなく、テロ直後にマンハッタンには2000台、アメリカ全体では3000万台の監視カメラが設置されるようになった。会話も盗聴され、インターネットも当局がチェックするように。
対テロ戦争が国の最優先事項になり、テロ対策という名のもとに警察の権限が拡大し、国の体制を批判するような記者やジャーナリストは次々に逮捕されていった。知り合いの大学教授も突然解雇されたという。
自由の国だったアメリカが一夜にして“全体主義”国家のようになってしまった。自身が大好きだったアメリカはどこに行ってしまったのか。私が信じていたものは何だったのか。突然起きた変貌に、パニックとなった。
それから日本へ帰国後、物を書くことを決めた。目の前で私の大好きなアメリカが壊されていることが許せなかった。
そしていろいろなことを調べていると気づいたという。これはアメリカだけの問題ではない、私のかけがえのない故郷である日本も同じように壊されていると。
資本主義が進化した、アメリカ発の「強欲資本主義」が、いま自国アメリカだけでなく世界中を飲み込もうとしている。そして日本もそのターゲットのひとつになっている…
そのことへの怒りとそれらの脅威から地域共同体を守ろうとする現地の人々の想いが、自身が取材を続ける原動力になっている。
主な著書
『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)シリーズが77万部を超えるベストセラーになった。米国が作った「経済的徴兵制」という仕組みと、戦争の民営化についての分析が多くのメディアで絶賛された。
その後「政府は必ず嘘をつく」「政府はもう嘘をつけない」(角川新書)シリーズで、国際情勢の表と裏、金融、メディアの世界事情などを分析。日本と世界の核事情を描いた「核大国ニッポン」(小学館)米国の言論統制についての「アメリカから自由が消える」(扶桑社)など著書多数。 2016年の米国大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプの当選を予測。
また、2018年に出版した『日本が売られる』は、20万部を超えるベストセラーに。 現在は、米国の政治、経済、医療、教育、報道、核問題、農政など、徹底した現場取材と公文書に基づいた執筆を続ける他、講演・テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など幅広く活動している。
③新聞記事デジタル(要・クリック)
2022/03/19
▼1面 米、対ロ支援なら「代償」 習氏は「危機見たくない」
▼2面 米、制裁の抜け穴警戒 「習氏の立場、見極める」
▼7面① 空爆、おびえる演劇の街 劇場避難者、脱出の動き
▼7面② 安保理で激しく対立 欧米、ウクライナから去れ
▼11面 制裁のロシア、人気は中国製 中ロ間、輸出額が増加
▼14面 (社説)ロシアの戦争 言論弾圧の果ての国難
▼15面 (インタビュー)① なし崩しの「専守防衛」元内閣法制局長官・阪田雅裕
▼3月15日 (インタビュー)② 冷戦に舞い戻る世界 国際政治学者・田中明彦
▼3月2日 (インタビュー)③ ウクライナ侵攻と日本 日本総合研究所会長・多摩大学学長寺島実郎
▼1面
米、対ロ支援なら「代償」 習氏は「危機見たくない」首脳協議
バイデン米大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が18日、ロシアのウクライナ侵攻以来初めてテレビ電話で協議した。米政権は中国がロシアに対して軍事・経済支援に踏み切る可能性があるとみて警戒を強めており、バイデン氏は習氏に強く警告したとみられる。
協議は2時間弱で終了した。ブリンケン米国務長官は17日の記者会見で、中国がロシアへの軍事支援を検討していると指摘。首脳協議でバイデン氏は習氏に対し、中国がロシアを支援すれば「代償を支払わせることをちゅうちょしない」と伝えるとしていた。中国国営新華社通信によると、習氏は協議で「ウクライナ危機は私たちが見たくないものだ。我々は世界平和へ努力しなければならない」と呼びかけたという。
バイデン氏はロシア批判のトーンを強めている。17日の演説では、プーチン氏を「人殺しの独裁者だ」と非難した。
米政権は、中国はロシアを説得できる立場なのに、逆にロシアを支援する動きを見せているとして不満を募らせる。欧米が踏み切ったロシアへの大規模な経済制裁も、中国が「抜け穴」になって効果が弱まることを警戒する。
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と中国外交部門トップの楊潔チー(ヤンチエチー)政治局員は14日にローマで7時間にわたって会談。サリバン氏が中ロ間の密接な連携に深い懸念を伝える一方、楊氏も米国への対抗意識を鮮明にしていた。
中国は、習氏が8日の仏独とのオンライン首脳会談で「欧州大陸で戦火が再燃したことを痛惜している。当事国の必要に応じて、国際社会とともに積極的な役割を果たしたい」と緊張緩和へ意欲を示す一方、制裁による圧力には一貫して反対している。(ワシントン=園田耕司、北京=冨名腰隆)
▼2面 (ウクライナ侵攻)
米、制裁の抜け穴警戒 「習氏の立場、見極める」
ロシアのウクライナ侵攻という世界的な危機をめぐっても、米中両国は対立を深めている。バイデン米大統領は18日のテレビ電話協議で、ロシアを支援しないように警告したとみられる一方、中国の習近平(シーチンピン)国家主席は「衝突や対抗は誰の利益にもならない」などと訴えた。
「バイデン大統領にとって、今回の協議は習主席の立場を見極める機会となる」。サキ米大統領報道官は17日の記者会見でこう話し、「中国がロシアのやっていることを非難してこなかった事実が、多くを語っている」と続けた。
同日の記者会見でブリンケン米国務長官は「米国は、中国がロシアに対し、ウクライナで使用される軍事装備品の直接支援を検討していると懸念している」と明言した。中国当局の度重なる否定に真っ向から挑戦した格好だ。
米政権は欧州諸国や日本と連携してロシアを孤立させ、大規模な経済制裁で圧力をかける。こうした取り組みを進めるなかで、ロシアと緊密な連携を続ける中国に不信を抱いている。バイデン氏は習氏との協議で、ロシアに科した経済制裁や輸出規制の効果をそぐような行動に出ないよう強く牽制(けんせい)したとみられる。
2014年のクリミア半島併合後、米欧の経済制裁を受けてきたロシアは中国との経済関係を強め、制裁への耐性を高めようとしてきた。ただ、中国にとっても、貿易額などの規模では米欧との関係の方がロシアとの関係よりもはるかに大きい。中国にとって、米政権から対ロ制裁の「抜け穴」とみなされることはリスクが大きい。
輸出規制でも、中国製の半導体などには米国の知的財産が導入されている場合も多い。それをロシアに輸出すれば、輸出元の中国の半導体メーカーが制裁対象になりうる。
米政権は、中国の対ロ支援の姿勢には揺らぎがあるとみている。米国防総省の情報機関、米国防情報局(DIA)のスコット・ベリア局長が米議会に提出した文書では、「中国は欧州諸国との経済的な関係を維持するため、ロシアに対する全面的支援には後ろ向きである可能性が高い」と分析。バイデン氏はこうした米情報機関の情報をもとに習氏に強い態度で臨めば、中国のロシア寄りの姿勢を変えることができると考えている可能性もある。
ただ、中国にとってみれば、今回の欧米諸国による対ロ制裁は、仮に台湾侵攻に踏み切った場合に中国に対して発動されうる措置とも重なる。ロシアとの経済関係の深化は、中国にとっても将来のリスク軽減につながる。米政権が、対ロ制裁に対する中国の出方を注視するのはこうした意味合いもあるとみられる。(ワシントン=園田耕司、青山直篤)
■中国、ロシアと深めた協力 「指図され仲裁、絶対ない」
対する中国。国営新華社通信によると、習氏はテレビ電話協議で「国家関係は武力衝突へ行ってはならない。衝突や対抗は誰の利益にもならない」とし、バイデン氏に世界平和への協力を呼びかけたという。
ただし、米国に対する警戒は強い。外務省の趙立堅副報道局長は18日の会見で「中国は一貫して平和解決への努力を支持してきた。公明正大で、非難の余地はない」と強調。そのうえで「米側の一部の人が絶えず虚偽情報を流し、中国に泥を塗っている」と強く反発した。
ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の姿勢は、当初こそ「軍事施設への攻撃だ」(華春瑩外務次官補)などとかばう発言もあったが、現在は「できるだけ早い停戦の実現を望む」(王毅〈ワンイー〉国務委員兼外相)と武力行使を支持していない。一方、制裁という手段で圧力をかけることには一貫して反対している。
それは、中国自身の国益と外交戦略に重大な影響を及ぼすからだ。
そもそも中国がロシアとの関係を深めてきた背景には、トランプ政権時代から続く米中対立がある。半導体や大豆の輸入に制裁をかけられた中国は、対米依存を避けるべく、自国生産の増強とともに他地域との関係強化を図ってきた。
対ロ関係で中国が重視してきた協力は主に二つある。一つは経済であり、特にロシアが強い食料や資源の輸入拡大を進めてきた。
2月4日の中ロ首脳会談で、両国はロシアからの天然ガス輸入を年間100億立方メートル増やすことで合意。小麦輸入の検疫条件も緩和し、侵攻後に全面解禁した。こうした状況と国際社会のロシア包囲網が重なり、中ロ間の1~2月の輸出入額は、前年比で約4割増えている。
もう一つの協力は安全保障だ。米国を中心に対中攻勢が強まる中、中国はロシアを「背中合わせのパートナー」と見なし、合同軍事演習などを展開。中国が北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に強く反対するのは、将来、台湾周辺で起こりうる事態を想定していることは間違いない。
とはいえ、今回の侵攻に中国が加担する可能性は低い。
習指導部はロシアとの強固な関係がもたらす利益と、国際社会における「大国の立場」を両立させる道を模索している。こうした検討が「必要な時に国際社会とともに必要な仲裁をしたい」(王氏)との発言につながっているが、米国と協調してプーチン氏を抑え込むことには後ろ向きだ。
中国外交筋は「米国は、明らかにウクライナ情勢を対中攻勢に利用している。我々を頼るなら、まずは中国の政治体制を認め、台湾への内政干渉をやめるのが先だ。今後、仲裁に乗り出すことがあったとしても、米国の指図で動くことは絶対にない」と言い切る。(北京=冨名腰隆、西山明宏)
▼7面 ① (ウクライナ侵攻)
空爆、おびえる演劇の街 劇場避難者、脱出の動き リビウ
安全だと思っていた避難所まで、ロシア軍は攻撃するのか――。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリで、避難所として使われていた劇場が空爆された。国外に脱出する経由地となっている西部リビウの劇場で避難生活を送る人たちにも、衝撃は広がっている。
リビウ中心部にある劇場「レスクルバス」。もともと、1910年ごろに設計され、映画館、芸術劇場や大衆劇場などとして変遷を重ねてきた。普段は約100ある客席の多くが埋まる人気の劇場で、侵攻直前の2月23日までは現代劇を公演していた。3月も約20公演が予定されていた。
侵攻の翌日、支配人のオレッグ・テセオナさん(59)は、大勢の人が避難して来ると直感し、役者仲間と相談して、劇場を避難所として開放することを決めた。役者としてスタートしたのも、この劇場だった。「劇場のみんなで、今できることを考えた」と話す。
ボランティアとともに、劇場の小道具や椅子などを使って簡易ベッドを作った。2月27日からは、家族連れ二十数人をメインホールと2階バルコニーで受け入れている。舞台の上には、寄付されたおもちゃなどがあり、子どもたちが遊べるスペースになっている。
■思い出の場所
避難者の一人、主婦のユリアさん(46)は17日夕、ロシア軍に包囲されたマリウポリから2日間かけ、夫、娘と3人で、リビウにたどりついた。
マリウポリで生まれ育ったユリアさんにとって、空爆を受けた劇場は思い出の詰まった場所だ。小学校の授業では何度も訪れた。「冬休みには大きなクリスマスツリーが建物の外に現れる。10代の若い子たちの待ち合わせ場所だった」
インターネットも通じ、情報が集まる、市民の避難先として誰もが思いつく場所だったという。「知り合いが多すぎて、きっと誰かが地下で生き埋めになっている。ニュースを聞くのがつらい」と涙目で答えた。
住み慣れた故郷を逃れた矢先の18日早朝、今度はリビウ郊外の空港付近が爆撃されたため、ユリアさん一家は、ポーランドに脱出することを決めた。娘の友人が暮らすポーランドかドイツをめざす。
■身を寄せたが
北東部ハリコフ出身の元会社員の男性ゲナさん(62)も一時、妻と愛犬のビクトリアと一緒に、レスクルバスに身を寄せた。だが13日朝、リビウ州内の軍事訓練施設が爆撃されたため、急きょ、ポーランドに向けて旅立った。「居心地が良かっただけに残念です」と話していた。
リビウには、リビウ州や民間が営業する劇場が20カ所近くある。ロシアの侵攻後、公演は相次いで中止になり、現在、こうした劇場のほとんどが避難所として活用されているという。
支援は、国外の劇場関係者からも寄せられており、レスクルバスには、ドイツやポーランドの劇団から水や薬、毛布や衣類が毎日のように届く。地下シェルターやシャワー、台所もあり、避難してきた人たちが当面の生活を送れるようになっている。(リビウ=遠藤啓生)
安全だと思っていた避難所まで、ロシア軍は攻撃するのか――。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリで、避難所として使われていた劇場が空爆された。国外に脱出する経由地となっている西部リビウの劇場で避難生活を送る人たちにも、衝撃は広がっている。
リビウ中心部にある劇場「レスクルバス」。もともと、1910年ごろに設計され、映画館、芸術劇場や大衆劇場などとして変遷を重ねてきた。普段は約100ある客席の多くが埋まる人気の劇場で、侵攻直前の2月23日までは現代劇を公演していた。3月も約20公演が予定されていた。
侵攻の翌日、支配人のオレッグ・テセオナさん(59)は、大勢の人が避難して来ると直感し、役者仲間と相談して、劇場を避難所として開放することを決めた。役者としてスタートしたのも、この劇場だった。「劇場のみんなで、今できることを考えた」と話す。
ボランティアとともに、劇場の小道具や椅子などを使って簡易ベッドを作った。2月27日からは、家族連れ二十数人をメインホールと2階バルコニーで受け入れている。舞台の上には、寄付されたおもちゃなどがあり、子どもたちが遊べるスペースになっている。
■思い出の場所
避難者の一人、主婦のユリアさん(46)は17日夕、ロシア軍に包囲されたマリウポリから2日間かけ、夫、娘と3人で、リビウにたどりついた。
マリウポリで生まれ育ったユリアさんにとって、空爆を受けた劇場は思い出の詰まった場所だ。小学校の授業では何度も訪れた。「冬休みには大きなクリスマスツリーが建物の外に現れる。10代の若い子たちの待ち合わせ場所だった」
インターネットも通じ、情報が集まる、市民の避難先として誰もが思いつく場所だったという。「知り合いが多すぎて、きっと誰かが地下で生き埋めになっている。ニュースを聞くのがつらい」と涙目で答えた。
住み慣れた故郷を逃れた矢先の18日早朝、今度はリビウ郊外の空港付近が爆撃されたため、ユリアさん一家は、ポーランドに脱出することを決めた。娘の友人が暮らすポーランドかドイツをめざす。
■身を寄せたが
北東部ハリコフ出身の元会社員の男性ゲナさん(62)も一時、妻と愛犬のビクトリアと一緒に、レスクルバスに身を寄せた。だが13日朝、リビウ州内の軍事訓練施設が爆撃されたため、急きょ、ポーランドに向けて旅立った。「居心地が良かっただけに残念です」と話していた。
リビウには、リビウ州や民間が営業する劇場が20カ所近くある。ロシアの侵攻後、公演は相次いで中止になり、現在、こうした劇場のほとんどが避難所として活用されているという。
支援は、国外の劇場関係者からも寄せられており、レスクルバスには、ドイツやポーランドの劇団から水や薬、毛布や衣類が毎日のように届く。地下シェルターやシャワー、台所もあり、避難してきた人たちが当面の生活を送れるようになっている。(リビウ=遠藤啓生)
▼7面 ② ロシア「偽情報キャンペーン」
安保理で激しく対立 欧米、ウクライナから去れ
ウクライナの人道危機が深刻化するなか、国連安全保障理事会が17日、緊急会合を開いた。開催を要請した欧米の6理事国は、ウクライナへの侵攻を続けるロシアを非難。ロシアはウクライナや欧米が「偽情報キャンペーン」を仕掛けていると主張した。(ニューヨーク=藤原学思)
国連人権高等弁務官事務所によると、ロシアがウクライナに侵攻してから18日までに、子ども59人を含む816人が死亡した。ただ、南東部マリウポリなど被害の多い地域の犠牲者は含まれておらず、「実際の数字はずっと多いとみられる」という。
会合に出席した世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「戦争はウクライナの人たちの健康に壊滅的な影響を及ぼし、その影響は今後、数年から数十年続く」と指摘。ウクライナ国内の医療機関に43件の攻撃があり、医療従事者を含めて46人の死傷者が確認されたとして、「私たちにいますぐに必要な救命薬は平和だ」と強調した。
ロシアはウクライナの人道状況について、独自の決議案を安保理に提出していたが、自らの責任について触れていなかったため、会合ではこの点に批判が続出した。
アルバニアのホジャ国連大使は「偽善のギネス記録に値する。銃を撃ち、医者を装うことはできない」と非難し、ロシア軍の撤退こそが人道危機を最小限にする唯一の道だと訴えた。
「難民たちはカバンに人生を詰め込み、自宅やすべてのものを置き去った」と語ったのは、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使。「プーチン大統領」と呼びかけ、「殺害をやめろ。軍を撤退させろ。ウクライナからきっぱりと去れ」と改めて求めた。
一方、ロシアのネベンジャ国連大使は、産科病院や劇場が攻撃を受けたマリウポリについて「欧米とウクライナのフェイク工場がフル稼働していることの象徴だ」と反論し、「ウクライナの過激派が全住民を墓場に送ろうとしている」と述べた。
また、安保理に提出した独自の決議案について、欧米が他国に支持しないよう「経済的脅迫」などの圧力をかけていると主張。18日午前に予定されていた採決を先送りすると語った。
■ウクライナにおける被害や影響
死者 816人(子ども59人)
負傷者 1333人(同74人)
国外への難民 310万人(同150万人)
国内避難民 200万人
攻撃を受けた医療機関 43施設
※国連機関による
▼11面
制裁のロシア、人気は中国製 中ロ間、輸出額が増加
ウクライナ侵攻で制裁を受けるロシアは中国と経済関係を深めており、国際社会から、制裁の「抜け穴」を作りかねないと中国への警戒が強まっている。実際、中ロ間の輸出入額は増え、米企業などの撤退で中国製品が代わりに売れている。中国のネット上ではロシアをかばう声も目立っており、中国政府の対応に注目が集まっている。
「中国のスマートフォンが2倍の売れ行き」。中国メディアは17日、ロシアの通信業者MTSで中国ブランドのスマホが13日までの2週間で直前の2週間より2倍売れたと報じた。特にファーウェイの端末は4倍、VivoやOppoは3倍の売れ行きだ。ロシアではウクライナ侵攻を理由に米アップルや韓国サムスンがスマホの販売を停止したことで、比較的価格も安い中国製の人気が高まっているという。
さらにロシアの市場調査会社によると、日米欧の主要メーカーがロシア事業を停止するなか、2月に中国ブランドの自動車販売台数が前年同期比で7割増えた。長城汽車、奇瑞汽車などが人気だという。
中国・ロシア間の貿易は増えている。中国税関総署によると、1~2月のロシアへの輸出額は前年同期比41・5%、輸入額は35・8%伸びた。輸出入の詳細は明らかではないが、ロシアからは穀物や資源を輸入し、中国からは機械などが輸出されたとみられる。
■「西側の犬」事業停止で批判続出
一方で、経済制裁によるリスク回避からロシア事業を停止する中国企業もある。ブルームバーグによると、中国の国有銀行である中国銀行と中国工商銀行は対ロシア貿易に絡む米ドルでの融資を制限。両行ともロシアへの金融制裁などによって業務に悪影響が出ることを避ける狙いとみられる。
ただ、ロシア事業の停止が取りざたされてインターネット上で厳しい批判を浴びるケースも目立つ。中国政府の方針との違いから、ロシア批判に関わる投稿は削除され、親ロシアの一方的な声だけがネット空間を支配しているためだ。
ロシアメディアは配車大手の滴滴出行の広報担当者の話として、今月4日からロシアでの事業を停止したと報じた。中国国内でこの報道が伝わると、ネット上ではロシアを支持しない対応に批判が続出。滴滴は「ロシア事業を閉鎖することはしない」と中国版ツイッター「微博」で声明を出したが、「西側の犬だ」「信用ならない」など批判的な書き込みが相次いだ。
パソコン大手のレノボはロシア事業の撤退や停止を発表していないが、ベラルーシのメディアが半導体大手インテルなどとともにロシアへの商品出荷を停止したと報道。実際にはロシアでまだ製品が買えるとの指摘もあるが、中国のネット上では「ロシアへ制裁するのか」など批判する声があがった。 (北京=西山明宏)
▼14面 (社説)
ロシアの戦争 言論弾圧の果ての国難
戦争を起こす国の指導者は、他国の人命を奪うだけでなく、自国の人々をも冷酷に虐げる。今のロシアが、その現実を浮き彫りにしている。
ロシア軍のウクライナ攻撃が激化している。南東部の都市では、大勢の市民が避難していた劇場が爆撃された。救助活動の妨害も伝えられている。
停戦協議の傍らで非道な暴力を執拗(しつよう)に続けるプーチン大統領に、国際的に戦争犯罪としての非難が強まっている。
だが、プーチン氏の矛先は、ロシア内にも強く向けられ始めた。国民を「愛国者」と「裏切り者」に区別するとし、後者は「口に飛び込んだブヨのように吐き出す」と語った。
今月の報道規制の法改正に続き、一般の反戦世論も封殺する方針らしい。米欧の思想流入によるロシアの「破壊」を防ぐという主張には、監視社会をめざす思考がうかがえる。
政権に批判的な独立系のメディアは次々に閉鎖され、国外の報道サイトの閲覧も遮断されている。ロシア国民に届くのは、ほとんどが官製情報だ。
国営テレビでは生放送中に、職員が「プロパガンダを信じるな」と紙を掲げて抗議した。だが、その影響は不透明だ。政府系の調査機関によると、政権支持率は開戦後に上昇した。
プーチン氏の言論統制は長年周到に進められてきた。その起点は、90年代のチェチェン紛争にあったとみられる。
当時のエリツィン政権は、分離独立を求めるチェチェン共和国に侵攻した。多くのロシア兵が戦死する実態がテレビで報じられ、反戦運動が高まった。
政権を継いだプーチン氏はまず、このテレビ局を影響下に置いた。人気の政治風刺番組は打ち切られた。今、この局は政府の宣伝機関になっている。
自由や人権などの価値観を共有する国際機関「欧州評議会」は今週、加盟国からロシアを外した。ロシアはソ連崩壊後の96年から欧州の一員として加わっていたが、自ら背を向けた。
これによりロシア国民は、人権侵害の被害を欧州人権裁判所に訴える道を奪われる。加盟を機に停止してきた死刑執行が復活し、弾圧の強化につながる可能性もある。
経済制裁で物価は高騰し、景気は後退している。多くの国民は戦争の実相を知らされないままだが、もし気がついても声を上げるのは難しい。今後長年、近隣国からの憎悪や、戦争責任を背負わされるだろう。
ロシアを破壊しようとしているのは、プーチン氏自身である。ウクライナ国民を傷つけ、世界の未来を危うくする蛮行をただちにやめるべきだ。
▼15面 (インタビュー)①
なし崩しの「専守防衛」
元内閣法制局長官・阪田雅裕さん
岸田文雄首相が「敵基地攻撃能力」の保有を検討すると戦後の首相で初めて国会で明言し、ウクライナ情勢の緊迫で防衛力強化の議論がさらに熱を帯びる日本。しかし2015年に安全保障法制ができて以来、武力の行使を制約する憲法上の「たが」は外れたままになっている。阪田雅裕さんはそんな危機感を募らせる。
――ロシアのウクライナ侵攻について、岸田首相は「わが国の安全保障の観点からも決して看過できない」と述べています。戦後の日本は憲法9条を踏まえ、「普通の国」よりも武力行使を制約してきましたが、その是非をめぐる議論も起きています。
「憲法との関係で論じるのなら、整理が必要です。ウクライナ情勢は深刻ですが、いま日本自体が危機にあるわけではない。日本周辺で想定されてきた危機とは朝鮮半島や台湾での有事であり、議論すべきは、それが実際に起きたら日本はどこまで武力行使をできるのかということです」
「米国はウクライナを守るためにロシアに武力行使まではしていませんが、韓国が北朝鮮に、台湾が中国に攻められれば動く可能性が高い。その時に日本は助太刀ができます。かつて日本は自分を守るだけでしたが、安保法制ができて『密接な関係にある他国』まで守れるようになった。そのために憲法解釈を変えたのに、武力行使の限界はあいまいなままです」
――軍拡を進める中国や北朝鮮に備えたのが安保法制ですが、政府は、他国を守れるのは「わが国の存立が脅かされる明白な危険がある場合」に限っています。
「それはどういう状況なら他国を守れるかを示しただけで、武力行使を始めた時、どこまでやれるのかを定めてはいません。かつては日本への攻撃を排除するための『必要最小限度』が武力行使の限界でした。安保法制後も政府は必要最小限度と言っていますが、外国同士の戦争に加わるのだから意味が全く違ってくるはずです」
――政府は、戦後の基本政策である「憲法の精神に則(のっと)った専守防衛」を堅持するとしています。
「それもよくわかりません。かつての憲法解釈では、武力行使は日本の領域と周辺の公海、公空に限られていました。しかし、日本に明白な危険が及ぶ場合だけとはいえ、他国の領域でも武力行使をできるようになったのだから、そうした地理的な限界はなくなったと考えるほかありません」
――専守防衛の意味が憲法解釈を変える前と同じではありえないのに、不変と政府が言い続けるのはおかしいということですね。
「そうです。自衛隊は9条が持つことを禁じる『戦力』ではあってはならないので、かつての憲法解釈では普通の国の軍隊のようには動けませんでした。降りかかる火の粉を払うのに必要な最小限度の武力行使で、外敵を自国領域から排除するためにのみ戦う。それが専守防衛ということでした」
「今や日本は海外に出向いて戦えるようになりました。軽々に海外派兵をしないことは他国も同じですから、日本は憲法に基づく専守防衛なのだと言い続けるなら、普通の国とどこが違うのか、9条による『たが』をこれまで以上に『見える化』すべきです」
――「戦力」に当たるとして持てない兵器は何かということで言えば、政府は、敵の国土の壊滅だけを目的とする「攻撃的兵器」は必要最小限度を超えるとして、その例に大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機、攻撃型空母を挙げています。
「それも安保法制前と同じですから『専守防衛は不変』の延長線上なのでしょう。しかし、日本の領域外で他国やその軍隊を守るなら、洋上で戦闘機を発進させられる攻撃型空母なども、必要最小限度に含まれかねません」
――一方で、政府は戦後持ってこなかった「敵基地攻撃能力」を持つかどうか検討しています。
「自国防衛のための必要最小限度を超える実力を持つと『戦力』になってしまうという問題は、他国を守れるようになってどうなるのか。敵基地攻撃能力を論じる前に詰めておくべきなのに、国会論議の乏しさを懸念します」
――安保法制にせよ敵基地攻撃能力の保有検討にせよ、政府自ら普通の国へ近づき、9条を形骸化させているように見えます。
「政府は国会で『憲法の下、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない』と繰り返し、そのために『攻撃的兵器』は持たないとも述べてきました。かつての『専守防衛』ではなくなった今、憲法の平和主義から導かれる『たが』は、この『他国に脅威を与えない』しか残っていないのでは。他国間の戦争にも、この理念をふまえた実力の範囲内でしか加わらないということでしょう」
――「他国に脅威を与えない」となると、敵基地攻撃能力を持つことは難しくなりそうです。
「そうですね。政府の敵基地攻撃の議論はミサイル発射拠点をどうたたくかというものですが、車両で移動したり堅固な施設に隠れたり、と技術が向上したミサイルによる攻撃を抑え込むには高性能の兵器が必要でしょうから、他国に脅威を与えない範囲内で対処することは難しいかもしれません。そもそも脅威かどうかは、相手の受け止めが大きいですから」
「また、日本はこれまで自国の防衛にあたり敵基地攻撃を米国に頼ってきました。日米安保条約に基づく米国の日本防衛義務や米軍駐留は変わらないのに、政府はなぜいま持つことを検討するのか。他国に脅威を与えないという理念を『たが』にするとすれば、それでも日本が敵基地攻撃能力を持つ場合に、国内外から納得されるような説明が求められます」
――むしろ政府はそうした説明を避けて「専守防衛」の意味をぼかしつつ、防衛力を強化するお墨付きにしています。
「自衛隊の発足から60年にわたる政府の国会答弁を経て定着した憲法解釈が、安保法制で根っこから覆りましたからね。必要最小限度の実力や武力行使の地理的限界は些末(さまつ)な話になってしまった。それに安保法制では、自衛隊による海外での他国軍支援に関する一般法もできました。今世紀に入ってのアフガニスタンやイラクでの『テロとの戦い』では、自衛隊を海外に出すたびに特別法を作り、法案審議で過去の答弁との整合性が厳しく問われました。今後はそうした機会も減りそうです」
「9条や防衛政策をめぐる国会論議は低調になりました。『たが』をはめ直すには、やはり野党の質問が大切です。政府は国会で追及されなければ、憲法解釈に関する細かい論理を積み上げることはありません。他国を守ることに関しても、必要最小限度の武力行使とは具体的にどんな場合のどんな対応なのかとただしていかなければ、政府が歯止めの枠組みを作ることはないでしょう」
――立憲民主党や共産党は、安保法制はそもそも違憲だという立場なので、政府の土俵で議論しにくい事情もあります。
「忘れてはならないのは、安保法制前の憲法解釈に基づく自衛隊への制約は、かつて自衛隊の存在自体を違憲としていた野党が長年かけて国会で追及する中で築かれていったということです。いかに安保法制が9条を形骸化させたか、その際の憲法解釈の変更がどれほど立憲主義に反するものであったかということも、議論を通して浮き彫りになると思います」
――しかし、政府自身が議論を急いでいます。岸田首相はこの年末をめどに、国家安全保障戦略を9年ぶりに改定し、敵基地攻撃能力の保有を検討した結果も盛り込むと述べています。
「そうであればなおさら、野党が様々な角度から憲法との関係をただして言質を得ておくべきです。政府はその新戦略を、積み重ねた国会答弁との整合性を意識しつつ作らざるをえません」
――その仕事は、古巣の内閣法制局が担うのではないですか。
「役所の内部で様々な検討や議論を重ねていると思いますが、首相官邸から特に問われない限り、憲法解釈の整理が必要だといった意見具申をすることはないでしょう。『たが』の構築は防衛省や外務省の仕事でもなく、やはり内閣の責任であり、結局は首相自身がどう考えるかなのです」
――「9条を形骸化させた」と言われる安保法制を、岸田首相は「日米同盟をかつてなく強固にし、抑止力を向上させた」と評価しており、迷いが見えません。
「戦争が遠くなってしまいましたね。国会議員を含め、今の若い人たちにとっての太平洋戦争は、私にとっての日露戦争のようなものですから。しかし今回のロシアの所業は、『満蒙は生命線』であるとして国際世論に背を向け、無謀な戦争に突き進んだ日本の過去を思い起こさせます」
「9条には過去の戦争への反省が込められています。安保法制による日米同盟強化は、米国の戦争に加わる可能性が高まるということでもある。だからこそ、9条をどう生かせるのかを今後もしっかりと考える必要があります」 (聞き手 編集委員・藤田直央)
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さかたまさひろ 1943年生まれ。旧大蔵省から内閣法制局に移り、小泉内閣で2004~06年に長官。退官後は弁護士。著書に「憲法9条と安保法制」など。
▼2022年3月15日 (インタビュー)②
冷戦に舞い戻る世界
国際政治学者・田中明彦さん
ロシアのプーチン大統領が踏み切ったウクライナ侵攻によって、既存の国際秩序が突き崩されていくような不安が広がっている。グローバル化が進み、国家の役割が相対化されるかにみえた冷戦後の30年を経て、これから世界はどこへ向かうのか。秩序は再構築されるのか。国際政治学者の田中明彦さんに聞いた。
――ロシア軍のウクライナ侵攻は、2001年の米同時多発テロ以来の衝撃です。
「それだけのインパクトがあると思います。ただ、欧州の人にとっては、さらにさかのぼって、1939年のドイツ軍のポーランド侵攻を想起させるものです」
――確かに今回はテロではなく、国家による侵略です。
「同時多発テロを起こしたのはアルカイダという非国家主体で、21世紀型の脅威でした。これに対しロシアの侵略はあまりに古典的な、時計の針を80年以上も戻すような危機に見えます。主権国家の栄光を守ることが最大の善だと錯覚した指導者がいる。戦争が国家の普通の行為だった近代の世界に生きているかのようです」
――田中さんは冷戦後の1996年に出した著書「新しい中世」で世界を「新中世圏」「近代圏」「混沌圏」に分類しました。
「20世紀後半に民主主義国が増え、経済の相互依存が進み、多国籍企業やNGOなどの非国家主体が重要な役割を果たすようになりました。それを『新しい中世』と名付けて分析したんです。国家の役割は相対化され、非国家主体との相互作用で歴史上の『中世』にも似た多重複合的な世界システムに向かっていくと予想しました」
「そこで日本や米国など豊かな民主主義国は『新中世圏』に分類されます。国家として機能していない『混沌圏』や、権威主義的で国家が重要な役割を果たす『近代圏』が残っていても、長い目でみれば豊かになり民主化も進んで、多くの国が『新中世圏』に向かうと期待しました。でも、四半世紀が過ぎて振り返ると、当然のことですが、歴史は一直線では進まない、というのが率直な感想です」
――どういうことでしょうか。
「冷戦後、近代圏の国々もかなりの経済成長を遂げました。典型は中国とロシアです。民主化するかと思われましたが、政治体制はむしろ強権的になった。2010年前後から軍の活動を活発化させ、20世紀的な行動をとっています。相互依存は進むのに民主化は進まず、NGOなどへの統制も強まっている。世界が一つになって経済が成長し、民主主義国が増えていく冷戦後の世界には揺り戻しが起こったのかもしれません」
――強権的な国々がこのまま発展していくと?
「それも一直線ではないでしょう。もちろん急速に経済・社会の改革を進めるには、権威主義国家の有能な独裁者が役に立つことはあります。これが自由な民主制の国だとまず結論を出すのに時間がかかるし、結論を出しても、次の選挙でひっくり返されたりする」
「しかし、とりわけ長期独裁政権は問題が多い。独裁者も長くやっていれば、有能でなくなることもあるし、判断ミスもある。その時、交代させる仕組みがないのが問題です。多くの人から有能だと思われているほど、大きな間違いを犯す可能性がある」
――それがプーチン氏ですか。
「そうです。一般の組織でもよくあることですが、成功し続けると、自分が必要不可欠な人間であると信じ込んで、頭の中が組織と一体化してしまう。でも、人間のやることに余人をもって代えがたいことなどないですよね」
「最近のプーチン氏の発言を見ていると、彼自身がロシアになってしまっている。これまでチェチェン、ジョージア、クリミアなどで軍を動かし、結果を出してきた。ここで一大決心をすれば、今回もうまくいくと思ったんじゃないか。ギャンブルに勝ち続けてきた独裁者の最後の賭けですね」
「19~20世紀に同じようなことをやってきた指導者はいますが、21世紀になっても一人の独裁者の暴走に多くの人々が振り回されている。人間は変わらないものだ、と言いたくもなります」
――米国の衰退も影響しているのでしょうか。
「衰退というより失敗ですね。イラク戦争とアフガニスタン戦争は失敗だった。米国内の経済格差も放置してきたために、世論が分断され、自らの国力を十分発揮できない状態になっている」
「米国の失敗を観察した近代圏の国々は、そこにつけ込んで影響力を伸ばそうとします。国と国の関係を『力と力』で考える。指導者が国内のチェック・アンド・バランスで監視されていないので、止める手立てもありません」
――バイデン米大統領が「ウクライナには米軍を派遣しない」と表明したのも、抑止の失敗を招いたように見えます。
「なぜ明言したのか疑問です。実際は派遣しなくても、あいまいにしておけばプーチン氏は計算がしにくかったはずです。バイデン政権の支持率の低さがあるのかもしれないし、米国を戦争に導いたと言われるのを嫌ったのかもしれませんが」
――国際秩序が、がらがらと崩れていくような不安を感じます。
「バイデン氏の対ロ政策は『冷戦型』です。『熱戦』にしてはいけない、という考え方が非常に強くあり、ロシアと米国、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の直接対決を避けている。それは核による第3次世界大戦を回避するという意味があります。プーチン氏が自ら核兵器の存在を強調しているのは、米国の軍事介入を抑止するためです」
――それが秩序につながっていくのでしょうか。
「好ましい秩序ではないですが、かつての『冷戦型』の秩序になるという見方はあり得ます。冷戦の時代は互いに自分が正義だと言い合って、結局、いずれの正義も実現しない。正義は実現できないけれど、なんとか核戦争だけは防ぎましょうという秩序でした」
「それは、国連の安全保障理事会が無力になってしまう秩序とも言えます。安保理の常任理事国を相手に戦争はできない、というのが国連システムで、これを作った人たちの多くは、仕方のないことだと思っていたんです」
「核保有国である常任理事国の5大国が戦争を起こした時、国連の集団安全保障で鎮圧、懲罰しようとすると、第3次大戦に発展しかねない。納得できないけれど我慢しましょう、ということです」
――冷戦に舞い戻る、と。
「30年以上前に戻ってしまったのかもしれません。冷戦終結後、どこにでも行ける世界に慣れた頃になって、ソ連の版図を取り戻すことが大事だと考える独裁者に引きずり戻されてしまった」
――そこで中国はどういうスタンスをとると思いますか。
「今回の決着の仕方で変わると思います。そこを中国は見ています。プーチン氏の失敗に終われば冷戦型の秩序も比較的、穏やかなものになるかもしれません」
「経済制裁の中身も研究して対策を練るでしょう。その結果、中国の指導者がどんな教訓を得るかが重要です。制裁されると大変だから、融和的に対応しようと思えばいいのですが、逆に制裁の抜け穴を探したり、制裁に負けない対策をとったり、外国企業を排除しようとするかもしれません」
――これまで米中新冷戦になると言われてきましたが、状況は変わったのでしょうか。
「難しいところです。中ロ両国が一枚岩なら単純な東西冷戦の復活になりますが、今のところ中国はプーチン氏の行動を歓迎はしていない。おそらく現状は米中新冷戦と米ロ新冷戦の二つがあるのでしょう。時に中国がロシアを利用し、時にロシアが中国を利用するような、複雑な三角関係ゲームになるかもしれません」
「米国は、まずロシアを封じ込めようとするし、これに中国が同調しないなら、中国も封じ込めようとするでしょう。一方、ロシアの封じ込めがうまくいっても、中国の様々な問題は残ります。米中新冷戦の構図は変わっておらず、そこに米ロ新冷戦の要素が加わったと見ることもできます」
「米国としては中国をロシアの方に追いやらないようにするのが賢明だと思います。短期的には米中新冷戦を暫時休戦としたり、米中和解の動きが出てきたりしてもおかしくない状況といえます」
――複雑で緊張した時代になりますね。経済制裁は、社会への影響も大きそうです。
「侵略が起きた以上、制裁しなければ再発を防げません。相互依存が進んだ世界で、それを無視した軍事行動にどれだけコストがかかるのかを示すことが重要です。制裁をかける側も相当な不利益を被りますが、断固としてやらなければならない」
「冷戦後、どこでも行けて、どこと貿易してもいい。どこにでも投資ができる。そんな幸せな時代はなかなか戻ってこないと覚悟しなければなりません。当面は厳しい時代が続くと思います」 (聞き手・小村田義之)
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たなかあきひこ 1954年生まれ。東京大学教授、副学長、国際協力機構理事長を経て政策研究大学院大学学長。2019年から国連UNHCR協会理事長。
▼2022年3月2日 (インタビュー)③
ウクライナ侵攻と日本
(財)日本総合研究所会長・多摩大学学長、寺島実郎さん
むき出しの暴力がウクライナで衝突し、多くの血が流れている。実業界や大学など領域を超えて活動する寺島実郎さんは、2003年から経団連の日本ロシア経済委員会ウクライナ研究会委員長を務めて以来、当時の首相や政財界のキーパーソンと交流してきた。この危機をどう受け止めるべきかについて、語ってもらった。
――多くの日本人にとってウクライナはなじみの薄い国です。
「現地を訪れて実感したことですが、欧州とロシアの綱引きの中心で、ユーラシアの地政学で決定的な役割を果たしてきた要衝です。今回の危機は世界史上、また日本にとっても重要な転機になる可能性があり、それを立体的に理解するため視野に入れておきたい点があります」
「まずウクライナと日本の縁です。近代日本が向き合ってきた極東ロシアに住むロシア人のほぼ半数はウクライナ系です。それは3回にわたって集団移住させられたからです。19世紀にロマノフ王朝のアジアへの野望でウラジオストクの建設が始まり、6万人の農業移民が送り込まれたのが最初。2回目は1917年のロシア革命で革命に対抗したウクライナ人がシベリア送りに。3回目は第2次大戦で、ヒトラーと連携して独立を試みた勢力がスターリンによりシベリア送りに。中には日本にやって来た人も多く、横綱大鵬の父親もウクライナ人です」
――ロシアにとってはどんな存在ですか。
「国の原点と言っていいでしょう。ウクライナの首都キエフは、ロシア最初の統一国家、キエフ大公国(キエフ・ルーシ)発祥の地です。その統治者で、プーチン大統領と同じ名前のウラジーミル公が、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)皇帝の妹と結婚し、988年にキリスト教の洗礼を受けました。それがロシア正教の原点であり、ロシアとウクライナは一体だというプーチン氏のこだわりにつながるのです」
「プーチン氏はソ連崩壊からの失地回復を目指しているとされます。しかし社会主義には共感がなく、『正教大国』をロシア統合の理念に掲げています。日本人のキリスト教理解は、西ローマ帝国側のカトリックとプロテスタントに偏りがちです。東ローマ帝国からキエフ、モスクワへと続く正教系の流れを認識する必要があります」
「ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の拡大を阻止するための攻撃だと説明していますが、本音は別でしょう。米国はすでに方針を転換し、ウクライナは必ずしもNATOに加盟しなくても北欧のフィンランドのような立場でいいという考えです。プーチン氏は分かっていながら揺さぶり続けているのです」
――今回の侵攻は日本にどんな影響を与えるでしょうか。
「日本がプーチン氏を増長させた面もあることを指摘しておきます。2014年2月、ロシア・ソチ五輪の開会式には、欧米の主要国はロシアの人権問題への抗議で首脳の参加を拒みました。しかし、北方領土問題の解決に前のめりだった当時の安倍晋三首相は参加しました」
「そのすぐ後の3月に、ロシアがウクライナからのクリミア編入を宣言。各国がロシアを厳しく非難し、制裁を科しましたが、日本の対応は微温的でした。北方領土への思惑からクリミア問題を黙認したと世界の人々が受け取ったことでしょう」
「16年には山口県にプーチン氏を招きましたが、『2島先行返還』でさえ進展しませんでした。逆にロシアは20年に憲法を改正し、領土の割譲禁止を盛り込みました。今回のようにロシアがルールを無視し、むき出しの力を行使することを結果として後押しし、日本は何も得られなかったと言えるでしょう」
――国際法違反だとして今回は日本も欧米と連携してロシアを非難しています。
「まさにその中身が問われています。ロシアとの間で領土問題、未解決の国境線画定問題を抱えるのはウクライナも日本も同様です。求められるのは、国際社会に向けて、日本の主張の裏付けとなる正当性を訴えることです。その点では世界に訴えるチャンスと考えるべきです」
「例えば、旧ソ連は連合国の一員として参戦しました。ならば1941年8月の大西洋憲章で掲げられた連合国の基本方針に縛られるはずです。それは『戦争による領土拡大を認めない』という方針です。それこそが45年の国連憲章の基本なのです。それに基づいて北方領土四島の帰属を決めるべきだと訴えることです。日本の言うことは筋が通っていると世界から思われるような発信が問われているのです」
――核保有国による核を持たない国への侵攻です。
「そこも唯一の被爆国とされる日本が主張すべき大事な点です。チェルノブイリ原発事故の被害を受けたウクライナの人々は、ヒロシマ、ナガサキに続いて起きた悲劇を強く意識しています。ウクライナはソ連崩壊後、当初は世界3位の核保有国として保有継続の意思を持っていましたが、国際社会との交渉の末、核兵器を放棄したのです。北朝鮮を含め、核保有国の非核化の先行モデルとして注目しなければなりません」
「日本がなすべきは核兵器禁止条約に参加し、特に核保有国が核を持たない国を攻撃することを禁止にするルール形成を主導することです。そういう世界を実現するためにどう行動するのかが問われているのです」
――ロシアは盤石でしょうか。
「プーチン氏は中長期的には孤立の恐ろしさを味わうことになるでしょう。金融からエネルギーなどをめぐる制裁が進む場合、ロシアの側から逆に資源を『売ってやらない』という対抗戦略をとるかもしれません。しかし、相互依存を深める世界で孤立することの代償はとても高くつくでしょう。信頼を失ったロシアには誰も投資しません。軍事的に一時は成功しても、かつてのソ連にとってのアフガニスタンのようになり、泥沼にはまっていく可能性もあります」
――世界の市場もめまぐるしく動いています。
「株価などマネーゲームよりも実体経済を考えましょう。ロシアの輸出の8割以上はエネルギーを含めた一次産品です。ドイツなど欧州の国々がロシアのエネルギーに依存している、と報道されていますが、日本も同じです。東日本大震災後、多くの原発が止まっていて、化石燃料への依存度が高まっていることも影響しています。2021年、化石燃料全体では日本の輸入総額に占めるロシアのシェアは6・5%。天然ガスで8・7%、石炭では10・2%です」
「日本がサハリンなどから輸入している天然ガスなどが制裁対象となってストップすることが現実になりえます。ロシアは安定的な供給先として中国に接近し、世界のエネルギーをめぐる様相が大きく変わっていくことになります」
「中ロ関係も複雑で一筋縄ではいかないかもしれませんが、今回の危機が両国にブロックを形成させ、分断された世界秩序につながっていく可能性もあります」
――世界有数の穀倉地帯での危機でもあります。
「ウクライナもロシアも多くの食料を世界に供給してきました。カロリーベースの食料自給率は米国が130%なのに対し、日本は37%に過ぎません。食べ物は買えばいいという戦後の歩みを省察し、国民生活の安全と安定を図る『食と農』の基盤を再構築すべき時代と言えます」
「国際情勢はビリヤードの玉突きのように動きます。日本はアベノミクスで円安へ誘導し、株価を上げようとしてきました。しかし金融政策を正常化できないまま、悪い円安と呼ぶべき状況になっています。エネルギーや食料などの国際的な価格が上昇する場合、円安になっていれば、価格上昇の衝撃はさらに強烈に日本経済と国民生活にインパクトを与えることになります」
――さまざまなレベルで日本に影響が及ぶということですね。
「あらゆる意味においてウクライナの危機は対岸の火事ではありません。戦後の日本は工業生産力を最大化させる国づくりに集中し、一定の成功を収めました。ピークだった1994年には世界全体の国内総生産(GDP)のうち、17・9%を日本が占めていたのです。しかし昨年は5・7%に過ぎません。経済だけで尊敬されていた国が、その経済力が埋没する中で迎える危機である、という自覚があるでしょうか」
「思えば、ロシアも建前上は民主主義国家です。ソ連崩壊後の喪失感が危険なナショナリズムに立つプーチン専制を生み出しました。民主主義には専制とポピュリズムという危うい落とし穴がつきまといます。日本人として民主主義をどう鍛えるのか、どれだけ主体的な構想力を持って世界に向き合うのか。この国の知の再武装が問われているのです」 (聞き手・池田伸壹)
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てらしまじつろう 1947年生まれ。三井物産常務執行役員などを歴任。医療・防災産業創生協議会会長。著書に「人間と宗教 あるいは日本人の心の基軸」など。