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続折々の記 2022 ⑩
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【 03】09/16
苦戦ロシア、強まる依存 経済頼みの綱、中国支持鮮明
勝ち馬に乗りたい中央アジア 上海協力機構が首脳会議
ウクライナ、中立化撤回 反転攻勢、背景に 安保枠組み素案
ロシア、劣勢で強まる強硬論 大規模な徴兵、求める声
旧統一教会、拠点に「宮殿」 韓国では今
旧統一教会、発祥の地での挫折 韓国 日本より少ない信者 キリスト教徒多く「異端扱い」
2022/09/16
中ロ首脳、結束を強調 ウクライナ侵攻後、初会談
ロシアのプーチン大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席は15日、ウズベキスタンのサマルカンドで会談した。インタファクス通信などが伝えた。両者の対面会談は、北京冬季五輪にあわせて開かれた今年2月以来で、ロシアによるウクライナ侵攻後は初めて。侵攻で西側からの制裁を受けるロシアは、米欧との間で緊張を高める中国との結束を強めたい考えだ。▼2面=強まる依存、11面=考論
両首脳は、中ロと中央アジア4カ国、インドなどが加盟する上海協力機構(SCO)首脳会議が15日からサマルカンドで始まることに合わせて会談した。
プーチン氏は会談で、「一極の世界を作ろうとする最近の試みは、圧倒的多数の国にとって受け入れがたい」と米欧を念頭に批判。「ウクライナ危機で中国の友人がバランスの取れた立場であることを高く評価している」と述べた。
一方、中国外務省によると、習氏は「互いの核心的利益に関わる問題で強く支え合いたい」とプーチン氏に呼びかけた。プーチン氏が台湾問題で「『一つの中国』原則を厳守する」と述べると、習氏は「称賛する」と応じた。さらに、台湾への関与を深める米国を念頭に「いかなる国家も台湾問題で裁判官となる権利はない」と非難した。
習氏の国外訪問は新型コロナウイルス流行が本格化した2020年1月以来となる。2年8カ月ぶりに再開した外遊でプーチン氏と会うことで、ロシア重視の姿勢が鮮明となった。
ロシアはウクライナ侵攻で、中国は台湾問題をめぐり、それぞれ米欧との緊張が高まっている。両首脳はこうした国際情勢や、経済協力などについて意見を交わしたとみられる。
中ロの接近をめぐって米欧は、中国が対ロ制裁の抜け穴につながる支援をすることや、軍事支援をすることを警戒している。
新型コロナ流行の影響で、SCO首脳会議が対面で開かれるのは3年ぶり。
SCO正式加盟の手続きを進めてきたイランの外相は、加盟に向けた覚書に署名したと明らかにした。加盟が実現すれば対米姿勢で一致する中ロへの接近が進みそうだ。(北京=高田正幸)
▼2面=(時時刻刻)
苦戦ロシア、強まる依存 経済頼みの綱、中国支持鮮明
【上海協力機構(SCO)首脳会議に集う各国の思惑】
中ロ首脳が15日、上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれるウズベキスタンで対面会談に臨んだ。米欧への対抗で利害が一致する両国が団結を強めた格好だが、微妙な温度差ものぞく。中ロはSCOを、米欧主導の国際秩序からの脱却を目指す枠組みとしたい考えだが、それぞれの思惑で首脳会議に集う各国は一枚岩とは言えない。▼1面参照
■プーチン氏「台湾巡る米の挑発非難」
「ロシアは台湾海峡をめぐる米国とその衛星国の挑発行為を非難する」
ロシアのプーチン大統領は15日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席との会談で、中国を支持する姿勢を鮮明にした。
両者の会談は今年2月、北京冬季五輪でプーチン氏が訪中して以来。当時は北大西洋条約機構(NATO)の拡大などに反対する共同声明を出した。
今回のプーチン氏の狙いは二つ。一つは、米欧が対ロ包囲網を強める中、中ロ主導のSCOをテコに、対抗軸を広げることだ。
もう一つが、ウクライナ侵攻をにらみ、軍事・経済大国である中国との関係を強化することだ。
中国は今月上旬、ロシアが極東で実施した大規模軍事演習に約2千人の兵士や戦闘ヘリなどを派遣。一方のロシア国防省は今月15日、両国海軍が太平洋で合同パトロールを実施したと発表した。
欧米では、ウクライナ侵攻で兵器の補充に苦しむロシアを中国が支援するとの懸念が消えない。そうした可能性をちらつかせるだけでも、欧米に対する牽制(けんせい)材料となる。
経済面でも中国の存在感は増す一方だ。経済制裁を受けたロシアでは、1千超の外国企業がロシア事業の停止や撤退を決定。中でもハイテク製品の入手は困難だ。だが、ロシア大統領府によると、1~7月の中ロの貿易は前年同期比で約25%伸びた。中国は米欧向け原油輸出が減少した分の受け皿になったほか、スマホや自動車などハイテク商品の輸入や投資誘致も中国頼みが強まる。
ウクライナ侵攻は長期戦が見込まれ、燃料高騰に苦しみながらウクライナに武器提供を続ける欧米の「支援疲れ」と、経済制裁に耐えるロシアとの「我慢比べ」の様相だ。ロシア経済を支える中国は間接的に侵攻を支援している構図で、プーチン氏は習氏との会談で結束を再確認したい考えだ。
■習氏「ともに混乱した世界の安定を」 中国、軍事支援には慎重
「ロシアとともに先導的な役割を果たして、混乱した世界を安定させていきたい」「双方は多国間の協力を強化し、広範な途上国、新興国の共通利益を保護すべきだ」。習氏は15日の会談でプーチン氏にこう呼びかけた。米欧ではなく、中ロが主導して途上国などをまとめ上げていくことに意欲を示したものだ。
2年8カ月ぶりとなる外遊で習氏がプーチン氏と会談することで、中ロの結束を強く示した形となる。
中国の姿勢の背景には、米国に対する根深い不信がある。8月上旬には中国側の再三の警告にもかかわらずペロシ下院議長が台湾を訪問した。米国の対中強硬姿勢は変わらないという失望が深まった。
中国国内では、ペロシ氏訪台をめぐる習指導部の米国などへの強い態度が支持されている。共産党大会を1カ月後に控える中、習氏にとってもプーチン氏との会談で「国際秩序を破壊している米欧」(北京の外交研究者)に対抗して団結を示す意味は大きい。
中国は米欧の対ロ制裁に反対し、ロシアと経済協力を続ける。中国税関総署によると、1~8月のロシアからの輸入額は729億ドル(約10兆5千億円)で、前年比50・7%増えた。
ただ、中国側の発表に、ウクライナ問題についての習氏の発言はなかった。中国が軍事支援など、ロシア支援でさらに踏み込む可能性は低い。米欧の制裁が自国に及ぶリスクも考慮している模様だ。
政府系シンクタンク中国社会科学院の肖斌研究員は「中国はウクライナ問題の姿勢は変えない」と話す。
今回の習氏の外遊からもロシア一辺倒ではない姿勢がすける。歴史的にロシアとの関係が強いが、ウクライナ問題で距離を置くカザフスタンも訪問。ロシアの懸念を尻目に、周辺国への影響力拡大を図っている。(北京=高田正幸)
■中央アジア4カ国、板挟み
中央アジアのSCO加盟4カ国は欧米との対立を避けたいのが本音だ。ただ、地域大国であるロシアと中国の意向も無視できず、苦しい立場に置かれている。
「SCOの魅力は非同盟や、第三国や国際組織と対決しないこと、内政不干渉などだ」。議長国ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領は11日、ロシア紙への寄稿文で、こう強調した。
4カ国はウクライナ侵攻をめぐる3月の国連総会のロシア非難決議に反対せず、棄権に回るか態度の表明を避けた。8月には米国との軍事演習も実施。経済や安全保障が中ロ一辺倒になることへの懸念も募る。
全方位外交を掲げ、日米豪との協力枠組み「クアッド」に参加するインドは、自国の主要兵器の約半分を購入するロシアとの関係も重視する。欧州諸国が買い控えるロシア産原油の購入も増やし、7月の購入額は3月に比べて13倍超に。モディ首相はプーチン大統領と16日に会談し、両国間の貿易の促進などについて協議する予定だ。
ただ、同じ加盟国ながら国境対立を抱える中国への警戒心は強い。安全保障の専門家は「インド国軍の中国に対する不信感は大きい。関係が正常化するのには時間がかかる」と言う。
一方、オブザーバー参加のイラン。米国のトランプ前政権が再開した制裁を科されており、加盟国との関係強化を優先事項のひとつと位置づける。反米路線のライシ大統領は8月29日の記者会見で、「SCO加盟は極めて重要だ。近隣の友好国の方を向くことで、各国間の関係で均衡を築く」と強調した。(ニューデリー=石原孝、テヘラン=飯島健太)
◆キーワード
<上海協力機構> ソ連崩壊後の国境管理などを目的に中国とロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが集まった「上海ファイブ」を前身に、ウズベキスタンが加わって2001年に発足した。地域の安全保障や経済協力を話し合う枠組みとなっている。その後、インドとパキスタンが正式加盟し、8カ国に。イランも加盟手続きを始めている。
▼11面=考論
勝ち馬に乗りたい中央アジア
上海協力機構が首脳会議
■湯浅剛・上智大教授(ロシア・中央アジア政治)
上海協力機構は旧ソ連末期にソ連と中国が国境画定や安全保障の議論を始めたのが発端です。現在の形になったのは2001年で、国境地帯の安全保障やテロ・過激主義といった問題に対し、協力関係を築いてきました。
今回の首脳会議ではロシアとしては当然、ウクライナ侵攻について加盟国から支持を取り付けたいところです。一方で中央アジア諸国としては、タリバン政権が復活し、混迷を深めるアフガニスタンからテロリストや武器、麻薬が流入するのを阻止し、国内の混乱を防ごうというのが共通の優先課題です。ウクライナ侵攻よりも切迫した問題と言えます。
各国とも侵攻に加担することは避けたいと思っています。カザフスタンはウクライナへの軍の派遣を断ったという報道もありました。ロシアに移住した中央アジア系の若者が戦争に巻き込まれることも警戒しているでしょう。
各国は安全保障面でも経済面でもロシアからの自立性を高める動きを強めていますが、一方で、明確にロシア離れを進めようとまではしていません。ロシアとある程度協調しながら、欧米や中国ともバランスを保ち、自分たちの立ち位置を確保しようとしています。
中央アジア諸国にとって一番大事なのは、限られた資源の中で自国の主権を維持することです。旧ソ連としてのつながりがそれほど重視されているわけでもなく、仮にウクライナ侵攻によってロシアが今後衰退するとすれば、より頼れる国々に接近をしていく。勝ち馬に乗るというのが基本姿勢になると思います。(聞き手・根本晃)
2022/09/16
ウクライナ、中立化撤回 反転攻勢、背景に 安保枠組み素案
ウクライナ大統領府は13日、自国の安全保障のため各国に締結を求める国際条約の枠組みについて素案を明らかにした。3月にロシアと停戦交渉した際にいったんは受け入れた将来の軍事的中立化の提案を撤回。当時断念した北大西洋条約機構(NATO)への加盟も視野に入れるなど、反転攻勢に出ている戦況を背景に、強気の方針に改めた。▼国際面=ロシア国内に強硬論
素案は大統領府に設けられた作業部会がまとめ、同日、ゼレンスキー大統領に提言として提出された。
提言は、米英独仏や北欧、カナダなどが集団的な国際条約や二国間条約を結び、ウクライナの安全を確約する内容。同国が再び攻撃されれば、参加国が集団で軍事力行使を含む措置をとるとする。
提言は「安全の保証は中立化などと引き換えに与えられるものではない」とし、NATO加盟希望は「ウクライナが主権的に行う決定だ」と明記。各国による安全の保証は加盟までの過渡的なものとした。
大統領府は今後、この提言をもとに国際条約の枠組みを固め、各国と協議に入るとみられる。
ウクライナは3月末のロシアとの停戦協議で、ロシアが2月の侵攻開始後に占領した支配地を放棄すれば、引き換えにNATO加盟を断念し、軍事的中立国となる用意があるとの立場をとった。当時はロシアの参加も想定し、各国が国際条約を結んでウクライナの安全を保証するよう求めたが、今回ロシアを「保証国」から排除した。
ロシアは停戦協議で中立化の提案を評価し、首都キーウ(キエフ)からは撤退。しかし、その後の停戦交渉はロシア軍による残虐行為の発覚や東部などでの攻撃激化で頓挫した。
ウクライナは8月から南部や北東部ハルキウ州などで奪還作戦を進めている。2014年に併合されたクリミア半島も含む全面撤退をロシアに求めるなど、強気の姿勢に転じている。
ウクライナが国際条約の参加国に求める安全の保証は事実上集団的自衛権の適用を求めるものだ。欧州にはロシアを刺激することやウクライナへの防衛義務を負うのに慎重な国が今も少なくない。提言が参加国にあげたフランスやドイツなどの反応は未知数だ。
提言をまとめた作業部会はイエルマーク大統領府長官とラスムセン前NATO事務総長が共同議長を務める。提言は日本、韓国にも攻撃国などへの経済制裁など非軍事的な手段での貢献を求める考えを示している。(喜田尚)
▼国際面=ロシア国内に強硬論
ロシア、劣勢で強まる強硬論 大規模な徴兵、求める声
ロシア軍のウクライナ北東部ハルキウ州での劣勢が決定的になったことで、逆にロシア国内の強硬論が勢いを増している。苦戦が続くのに強硬論が強まる背景には、「ロシアはまだ本気を出していない」という思い込みがある。ただ、強硬論が国内の世論に広がれば、プーチン政権が停戦交渉などに軌道修正するのが難しくなる恐れもある。▼3面参照
「我々が退却することはない。すべて欧米の挑発だ。だまされるな」。ロシア・チェチェン共和国の首長で、プーチン氏の盟友とも呼ばれるカドイロフ氏は14日、SNSにこんな投稿をし、ロシア軍の撤退が戦術や戦略によるものだと強調した。
一方で、「私なら全土に戒厳令を敷き、どんな兵器でも使う。現在、北大西洋条約機構(NATO)全体と戦っているのだから」と、核兵器の使用も示唆した。
11日にもカドイロフ氏は、ロシア軍のハルキウ州イジュームなどからの撤退について「(ロシア軍)兵士の命を守るためだ」としつつ、「なんの意味も無い」と断言。ロシア軍側の作戦に間違いがあったとした上で、「今日や明日、戦略に変更がなければ国防省の幹部と会い、現場で起きていることを説明しなければならない」と投稿した。
カドイロフ氏は激戦だったウクライナ南東部マリウポリなどにチェチェンの部隊を送り込んでいる。強権的な姿勢で知られるが、身内のロシア国防省を公然と批判するのは異例だ。
国会議員からも強硬論が出ている。与党「統一ロシア」のシェレメト下院議員は12日、「完全な動員や、経済も含めた戦時体制への移行なしには、結果を得られない」と訴えた。
シェレメト氏は、ロシアが2014年に一方的に併合したクリミア半島が地元だ。プーチン政権はウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼び、「戦争ではない」として動員に否定的だが、「(戦争に)状況を変更し、力を結集するべきだ」と主張した。
強硬論が強まる背景には、ロシアが大規模な徴兵などの動員に踏み切っていない事情がある。国内では、ロシア軍が市民や民間インフラを攻撃しておらず、兵士や軍事施設だけを攻撃していると信じられていることもある。
プーチン氏も7月、「我々に戦場で勝ちたいという声を聞くが、まだ本格的に何も始めていないと知るべきだ」と警告していた。
ロシアの「体制内野党」である公正ロシアのミロノフ党首は、ウクライナ軍が中南部のザポリージャ原発や東部のドネツク州、ルハンスク州などを破壊しようとするなら、「ロシアは軍事施設だけを攻撃するというルールを捨てた方がいい」と話した。
■政権、いまのところ否定
これに対し、政権はいまのところ平静を装う。動員を検討しているか問われたペスコフ大統領報道官は13日、「現時点で、そんな話はない」と否定した。プーチン政権は、国民生活に影響の大きい大規模な動員に踏み込めば、侵攻の是非が問われ、反政権の機運が高まることを警戒している。
ただ、ウクライナでは苦戦が続いている。強硬論がロシア社会に浸透すれば停戦交渉で譲歩しにくくなり、戦争の長期化につながる可能性もある。
2022/09/16
旧統一教会、拠点に「宮殿」 韓国では今
ソウル中心部の北東約60キロの山腹に白いドームが特徴的な「白亜の館」がある。巨大な柱や広いバルコニーが配された宮殿を思わせるこの建物は「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の「天正宮(チョンジョングン)博物館」。教団にとって重要な行事が開かれる場所だ。
教団の本部がある韓国・京畿道加平の一帯には、教団が所有する広大な土地に関連の施設が点在する。車を走らせると、教団のマークが掲げられた病院、全寮制の学校、高齢者施設などが次々に目に入る。「HEAVEN G BURGER」とのアルファベットの看板があるショッピングモールのような大きさの飲食施設も、教団に関連する。
これだけの施設がありながら、平日の午後の車道はたまに車が行き交う程度。合同結婚式が行われる「清心平和ワールドセンター」にも人影はない。民家などもなく、まるで一般社会と切り離されているかのようだ。
韓国メディアなどによると、韓国で教団が所有する土地は計1400万坪に及び、総資産は2兆ウォン(約2千億円)ともされる。
資産は、韓国国内で関連企業が展開するリゾート事業などの収益が大きいとされるが、日本からの献金も寄与しているとみられる。かつて教団創始者の故・文鮮明(ムンソンミョン)氏に次ぐ地位の「世界会長」で、今は教団に批判的な立場をとる元幹部の郭錠煥(クァクジョンファン)氏は、7月にソウルで開いた記者会見で「日本の献金が(教団の)世界的な活動の大きな支え」になったと証言。日本に根を張る教団組織を「献金を作り出す経済部隊」と呼び、「本来あるべき所から完全に外れた」とした。
一方で韓国では、信者による活発な布教活動や、政界中枢とのつながりといった話はあまり聞こえない。 (11面に続く)
▼11面
旧統一教会、発祥の地での挫折 韓国
日本より少ない信者 キリスト教徒多く「異端扱い」
日本で政界とのつながりが次々に明らかになっている「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)は、1954年に韓国で創設された。ただ、発祥の地では日本に比べて信者が少ない。その経過からは、布教や政治への接近で挫折してきた姿が浮かぶ。
教団は2012年に「日本統一教会は全国に206の教会を持ち、信徒数は約60万人」と広報している。ただ、韓国で新興宗教の研究で知られ、旧統一教会についての複数の著書がある釜山長神大の卓志一(タクチイル)教授は、日本にいる信者はいま、4万人ほどとみる。
一方の韓国では、「20万人」や「30万人」との報道もあるが、卓教授は11年に教団創始者の文鮮明氏の息子が記者会見で話した内容から、結婚して移り住んだ多くの日本人を含む2万人程度と推定する。
なぜ、韓国の信者数は日本に比べて少ないのか。
韓国ではキリスト教のプロテスタントの信者が人口の約2割を占める。カトリックも含めれば3割弱となり、15%ほどの仏教徒も上回る。韓国の政界関係者は「韓国社会ではキリスト教の影響力が強い」とし、キリスト教系の宗教界側からみて「新興の統一教会は異端扱いだ」と指摘する。そうした人たちは、文氏が教祖と仰がれ、既存のキリスト教とは全く異なる教義の教団を当初から批判した。
創始から10年後の64年には、日本で宗教法人としての活動を始めている。政界関係者は「韓国での布教が難しく、日本に活路を見いだしたのだろう」と話す。
■政界との距離、民主化で一変
一方で教団は、韓国でも政界とのつながりを持とうとする動きを見せてきた。
文氏は68年に反共産主義を掲げる政治組織「国際勝共連合」を結成した。卓教授は、信者数が思うように伸びず、布教活動だけでは限界があるため「政治、文化、言論、教育などすべての分野で影響を広げようとした」と指摘する。
当時は東西冷戦のただ中で、南北に分断された朝鮮半島はその最前線だ。韓国は、軍事独裁の朴正熙(パクチョンヒ)政権。政権にとっても、北朝鮮に対抗する「反共」の政治運動は好都合となる構図だ。当時の教団の関連企業には銃器メーカーがあり、韓国軍に機関砲などを納入していた。朴氏が77年に同社を視察した記録もあり、教団と朴政権の関係が良好だったことがうかがえる。
だが、韓国の政治情勢は87年の民主化で大きく変わる。言論の自由が保障され、公正な選挙が行われるようになると、教団と政治権力との関係も一変した。
当時、同年と92年の大統領選に出馬した金泳三(キムヨンサム)・元大統領を教団関係者が支援した「疑惑」が持ち上がった。卓教授によると、報道を通じて有権者の反感が広がり、政治家は教団と距離を置くようになったという。教団は日本で展開していた日刊紙「世界日報」を、89年に韓国でも創刊したが、これも文氏が民主化後に「世論対策の必要性を強く感じたため」とみる。
政界とのパイプが薄れるなかで、教団が自ら政界進出を試みたこともある。
2007年に「平和統一家庭党」をつくり、08年の総選挙で「正しい家庭を築いてこそ、正しい国を築ける」などのスローガンを掲げ、245の全選挙区に候補者を擁立。話題となったが、比例区の得票率でも1・1%(約18万票)で、当選者は出ていない。政党は解散し、その後は「特定の政党や政治家を支援したという話は聞こえてこない」(韓国の政界関係者)という。