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続折々の記 2022 ⑪
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【 02】10/12
プーチン氏「橋爆発はテロ」 連日ミサイル、120人超死傷
市民・インフラ標的 大統領府まで1キロ、公園遊具そば着弾
ロシア新総司令官「完全な冷酷さ」
2022/10/12
ウクライナ全土、報復攻撃
プーチン氏「橋爆発はテロ」 連日ミサイル、120人超死傷
朝日新聞1面の記事「ウクライナ全土、報復攻撃」 戦争はもともとバイデンが仕掛けたものだった!!
ウクライナの首都キーウ(キエフ)など、30カ所以上で10日にあったロシア軍のミサイルなどによる攻撃で、120人以上が死傷した。ロシアのプーチン大統領は「テロへの反撃」だとし、11日も各地で攻撃を続けた。主要7カ国(G7)は11日、緊急の首脳会議を開いて対応を協議した。▼2面=市民標的、11面=新総司令官を任命
ウクライナ大統領府副長官によると、10日の攻撃で死者は23人、けが人は100人に及んだ。非常事態庁によると、キーウのほか12州で電力設備などが被害を受け、30件以上の火災が発生。各地で停電が起き、水道も止まった。ハルシチェンコ・エネルギー相は2月の侵攻以来、「エネルギーインフラに対する最大規模の攻撃だ」と説明した。
ウクライナ軍参謀本部の11日朝の発表によると、ロシア軍の10日の攻撃では61発以上のミサイルが発射されたほか、空爆が32回、多連装ロケット砲を使った攻撃も92回に及んだという。
キーウでは10日午前8時過ぎにミサイルが着弾。中心部の建物や文化施設、公園、観光客らに人気の「クリチコ橋」などが被害を受け、少なくとも6人が死亡、50人がけがをした。
ゼレンスキー大統領は10日、「国中で文化、教育施設などが被害を受けている」と非難した。
バイデン米大統領が「違法な戦争のひどい残虐性を再び示した」と述べたほか、国連人権高等弁務官事務所のシャムダサニ報道官も11日、通勤・通学の時間帯での攻撃が「特に衝撃的だ」と述べた。今回の攻撃は「国際人道法に違反している可能性がある」とも指摘した。
プーチン氏は10日の国家安全保障会議で、「エネルギーや軍司令部、通信の施設に対し、大規模な攻撃を実施した」と主張。ロシアとクリミア半島を結ぶ橋で8日にあった爆発を「テロ」とみなし、その報復だとした。ロシアが一方的に併合したウクライナの支配地域も含めて「領土」への攻撃が続けば、激しい報復攻撃をするとした。
11日朝にも中南部ザポリージャへの新たなミサイル攻撃で1人が死亡するなど、攻撃は続いている。(野島淳=ベルリン、佐藤達弥)
■G7、「戦争犯罪」追及 核使用なら「厳しい結果」 首脳声明
主要7カ国(G7)は日本時間11日夜、緊急のオンライン首脳会議を開き、会議後に共同声明を発表した。10日にあったウクライナ全土へのロシア軍のミサイル攻撃に対し「最も強い言葉で非難する」とし、「罪のない市民に対する無差別攻撃は戦争犯罪を構成するものだ」と指摘したうえで、プーチン大統領らの責任を追及するとした。
さらに、プーチン氏が核兵器使用の可能性をちらつかせていることについて、「意図的に事態を深刻化させ、世界の平和と安全を危険にさらしていることは遺憾だ」としたうえで、「ロシアによる生物化学兵器や核兵器のいかなる使用も、厳しい結果をもたらすことを再確認する」とした。
会議後、岸田文雄首相は記者団に対し、「ウクライナの民主的で繁栄した未来を確保するために引き続きG7で結束していくことを確認した」と述べた。
首相によると、会議で首相は「ロシアによる核兵器の威嚇、ましてや使用もあってはならず、ウクライナを新たな被爆地にしてはならない」とも強調した。(小手川太朗)
▼2面=(時時刻刻)
市民・インフラ標的 大統領府まで1キロ、公園遊具そば着弾
ロシア軍は10日、ウクライナ全土に一斉にミサイルを浴びせ、市民に大きな犠牲を出した。首都キーウでは4カ月ぶりとなる攻撃で、市民に恐怖の記憶を呼び起こした。ロシアのプーチン大統領は「自国領」への攻撃を強く抑止した形だが、その方針には自身の苦境もにじみ出ている。
「子どもたちがいなくて、本当によかった」
10日朝に攻撃があったキーウ中心部のタラス・シェフチェンコ公園。アントニーナ・イェルシェンコさん(58)は、手で涙をぬぐった。
黄色い落ち葉が敷かれた公園には、子どもが遊ぶ滑り台や赤いシーソーがあった。着弾したのはその真横。深さ3メートルほどの穴が開き、ミサイルとみられる焦げた残骸が落ちていた。
ふだんは家族連れやカップルでにぎわい、付近にはキーウ大学や劇場が並ぶ。大統領府までは1キロ余り。標的となったのは、そんな場所だった。
アントニーナさんが爆発音を聞いたのは10日午前8時20分ごろ。約50メートル先で黒煙が立ち上った。侵攻で攻撃を目の当たりにしたのは初めてだった。
キーウ市のクリチコ市長によると、市内では70以上の住宅や学校、医療機関などが被害を受けた。地元メディアはキーウ市内で6人が死亡し、約50人が負傷したと伝えた。キーウ市内への攻撃は、6月下旬以来初めてとみられる。
「キーウは安全だと思っていたのに……」。ロシア軍の攻撃にさらされる中南部ザポリージャ州から2日前に避難してきたばかりのドミトロ・ゾフトローシコさん(35)はつぶやいた。
取材中、再び空襲警報が鳴った。「まただよ」。ドミトロさんはうんざりした様子で、シェルターへと駆けていった。
公園から1キロほど離れた別の着弾地点に向かうと、高層オフィスビルのガラスが爆風で吹き飛び、内部が丸見えになっていた。路上には点々と続く血痕や、血を拭き取るのに使ったとみられるガーゼが残ったままだった。
「わずか1秒の間にすべてが起こった」。近くの事務所で働くアンドリーさん(32)は、爆風で2~3メートル吹き飛ばされた。唇や額に生々しい傷が残っていた。「毎日、何の理由もなくウクライナの人たちが死んでいる」。アンドリーさんはそう憤った。(キーウ=多鹿ちなみ、高野裕介)
■プーチン氏、突き上げられ
「(ウクライナの)テロ攻撃が続けば、ロシアは激しい報復措置をとる。これに疑いの余地はない」
ウクライナへの攻撃から数時間後、プーチン大統領は国家安全保障会議で、今後も厳しく対応すると警告した。
今回の攻撃を特徴づけるのは、民間のインフラだけでなく、市民が集う場所まで標的となった点だ。全国各地に数十発を浴びせ、11日にもミサイル攻撃を継続。ウクライナ市民に恐怖心を植え付けようとしている。
こうした手段に訴えたのは、プーチン氏が国内向けに強い姿勢を示す必要があったためだ。8日に爆発があった「クリミア橋」は、2014年に一方的に併合したクリミア半島をロシアと結ぶ象徴的なインフラだ。
侵攻では撤退や苦戦を余儀なくされているほか、国内強硬派からは「すぐに反撃するべきだ」といった突き上げを受けていた。
ロシア支配下の「クリミア共和国」で強硬派のアクショノフ首長は今回の攻撃を歓迎し、「初日から敵のインフラを毎日破壊していれば、5月には全てが終わっていただろう」とSNSに投稿した。
ただ、プーチン氏は10日、動員拡大につながる「戦時体制宣言」には踏み込まず、核兵器の使用についても触れなかった。
9月の部分的動員令ですでに社会に動揺が広がっており、動員を広げるだけの政治的体力がなかった可能性がある。
また、「ロシア存亡の危機」とは呼べない状況下での核兵器の使用は、世界での孤立をさらに深めることになる。プーチン氏が10日、「テロが続けば」報復措置を取る、と留保をつけたのも、自ら戦線は拡大しないとも取れる発言だ。プーチン氏がとりうる選択肢が狭まっている可能性を映し出している。
米戦争研究所(ISW)は10日、ロシアはすでに高精度ミサイルの多くを使用したとして、「プーチンは恐らく、この攻撃が長くは続けられないと知っている」と指摘した。
■欧米から防空システム
ウクライナのゼレンスキー大統領は10日夜のビデオ演説で、ロシアのミサイル攻撃について、「戦場で負けているロシアの弱さの表れだ。ミサイルの恐喝には屈しない」と、あらためて徹底抗戦の決意を示した。
さらに、ロシアはパニックを狙ってエネルギー関連施設や市民を標的にしているとして、「我々は前にしか進まない。それを戦場でも証明する」と語った。
欧米各国の首脳はこの日、ゼレンスキー氏とそれぞれ電話で協議し、ウクライナへの全面的な支持と軍事支援の強化を伝えた。
バイデン米大統領は、ロシアの攻撃は「ウクライナの人々を必要な限り支援する我々の確約をさらに強めるだけだ」と強調。高度な防空システムを含め支援を提供し続けると約束した。英国のトラス首相は、ロシアの攻撃を「ウクライナの成功にプーチン(大統領)が絶望を深めている表れ」と指摘。ドイツ国防省は、ウクライナに約束していた4基の防空システムIRIS―T(アイリスティー)のうち1基を近く納入すると発表した。(ワシントン=下司佳代子、ロンドン=金成隆一)
▼11面=新総司令官を任命
ロシア新総司令官「完全な冷酷さ」
ロシアのショイグ国防相は8日、ウクライナ侵攻の総司令官にセルゲイ・スロビキン大将を任命した。シリアでの戦闘経験が豊富で、「完全な冷酷さ」で知られているとされ、強硬派の支持が強い存在だ。人事にはプーチン大統領の意向が強く働いたとみられ、戦況の立て直しを狙うとみられる。10日のウクライナ各地への攻撃を指揮した可能性もある。
スロビキン氏は2017年から航空宇宙軍の司令官を務めており、ウクライナ侵攻では、南部の部隊を指揮していた。欧米側は今年4月、南部軍管区司令官のドボルニコフ大将が作戦を統括する総司令官に就任したとみていたが、戦局が好転せず、解任説が浮上していた。
ロシア軍は9月にウクライナ東部の拠点都市イジュームから撤退。チェチェン共和国のカドイロフ首長ら国内の強硬派からの軍批判が強まっていた。カドイロフ氏は今回の任命について、「本物の将軍であり戦士だ」とSNSに投稿。「状況を改善すると確信している」と期待した。
米シンクタンク「ジェームズタウン基金」によると、スロビキン氏はロシア軍で「完全な冷酷さ」で知られているという。
1966年生まれで、80年代に旧ソ連のアフガニスタン戦争に派遣された。90年代からの2度のチェチェン紛争にも参加。何度も負傷した経験があるという。
ゴルバチョフ・ソ連大統領(当時)が別荘に軟禁され、その後のソ連崩壊につながった91年8月の共産党保守派によるクーデターでは、スロビキン氏が指揮した兵士によって3人のデモ参加者が殺害された。スロビキン氏はその後、6カ月間を獄中で過ごした。
チェチェン紛争を戦っていた2005年には、部隊の兵士1人が殺されるごとに、3人のチェチェン人を殺すと言ったと伝えられている。また、シリアでは、甚大な被害を与えたアレッポへの空爆を監督したと批判されている。
ウクライナへの侵攻で劣勢が続くなか、プーチン政権は戦歴の豊富なスロビキン氏を任命することで、部隊の連携を強めることを狙うほか、国内強硬派などに強気の姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。
ロシア軍は司令官の更迭が相次いでいるとロシアメディアに伝えられており、軍内部の人事を刷新することで、批判がプーチン政権に及ぶのを避けようとした可能性もある。
■よみがえる開戦時の記憶
ロシア軍がミサイルを撃ち込んだウクライナの首都キーウ(キエフ)。平穏さを取り戻しつつあった街に開戦時の記憶がよみがえり、地下鉄駅には避難する市民が押し寄せた。
「いつもはシェルターには行かない。でも、今日は何が起こるかわからないから」。10日朝のロシア軍の攻撃直後に避難したカテリーナさん(19)は、疲れた様子でつぶやいた。
キーウの地下鉄駅は地中深くに造られており、2月24日にロシア軍が侵攻を始めた当初は、大勢の市民が避難先として利用した。その後も、ウクライナ東部や南部では激しい戦闘が続くが、市民生活が戻ってきたキーウではここ数カ月、空襲警報が鳴っても避難しないと話す市民も多かった。
だが、この日はカテリーナさんが逃げ込んだ地下鉄駅に数百人が集まり、プラットホームは人で埋まった。
「前に進んで!」「写真は撮らないで!」。職員の怒号が響く。避難した市民はスマートフォンを片手に、情報を集めていた。
キーウ市内に住むバレンティナさん(60)も、普段は警報が鳴ってもシェルターには行かないという。だが、この日の攻撃は、「これまでとはまったく違う感覚だ」とおびえていた。
午後3時15分ごろ、キーウ市内に再び警報が出され、市民はまたも避難を強いられた。朝に爆発のあった現場から約500メートルの場所に暮らすIT関連企業勤務のローマン・スビナルチュクさん(26)は、最寄りの地下鉄駅に駆け込んだ。この日、2回目の避難。ひんやり冷たい床にマットを敷いて約2時間、恋人のポリーナさん(25)と過ごした。「ロシアが侵攻してきた日を思い出した」。2人は疲れ切っていた。
ローマンさんは最近、9階建てのアパートの一室から、広めの部屋に引っ越そうと考えていた。だが、この日の攻撃を受けて考え直すという。
「これからキーウが、どうなるかわからないから」(キーウ=多鹿ちなみ、高野裕介)
■<考論>
クリミアはロシアの「レッドライン」 防衛研究所・政策研究部長、兵頭慎治氏
ロシア側の論理でいえば、ウクライナ全土への砲撃は、クリミア橋の爆破に対して取り得る通常兵器による最大限の報復措置といえる。インフラ設備の破壊で民心を動揺させ、首都キーウの中枢で大統領府などの本丸をあえて外して攻撃し、「いつでも狙える」と脅す狙いがあったのだろう。
クリミア橋の爆破はプーチン大統領に衝撃を与えた。南部への重要な補給路という軍事的意義と、クリミア併合の象徴としてプーチン氏が威信をかけて架けた橋という政治的意義があるからだ。ロシア側の報復攻撃は一区切りになるだろうが、今回、戦争のエスカレーション(過激化)の可能性が確認された。
プーチン氏は砲撃後の発言で、核兵器の使用については明言しなかった。核使用の可能性は高くないといえるが、使用され得る二つのケースが常にある。一つは「ロシアの領土の一体性が損なわれる」状況と、戦争に負けそうな場合だ。
核使用の可能性が高いのは後者だ。戦争の激化を防ごうと相手の戦意喪失を狙い、人的被害の出ない無人地帯に小型核を落とすというシナリオだ。核実験と称して国境付近で爆発させることなどが想定される。「敗戦」の基準は難しいが、今回の報復措置を踏まえると、ウクライナによる「クリミア奪還」は「レッドライン」なのだろう。
米欧諸国は今後、紛争の激化による核戦争のリスクを回避するため、これまでと同程度の軍事支援をするにとどまるのではないか。(聞き手・高島曜介)
■プーチン大統領発言骨子
◆クリミア橋で起きた爆発は、ロシアの重要な民間インフラの破壊を目的としたテロ行為だ。首謀者と実行犯がウクライナの特殊部隊なのは明らかだ
◆ウクライナ政府はテロリストの手法を用いて、公人やジャーナリスト、科学者をウクライナとロシアの両国で殺害してきた。(ウクライナ東部)ドンバスの街やザポリージャ原発への攻撃もテロ行為だ
◆ロシアのクルスク原発にも3度のテロ行為を加え、発電所の高圧線の爆破を繰り返した
◆我々の領土へのテロ行為が続けば、ロシアの報復は激しくなる。これについて疑いの余地はない