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【 07】10/19
トラス英首相辞任 減税策撤回など迷走 就任44日
トラス首相、批判収まらず 辞任表明
◆下平評
2022/10/18
巨大な金融危機になりそう
2022年10月17日 田中 宇
農作業やビーバーでの草刈りをし疲れたので、今日はパソコンは休みにしようと思っていた。 時間があったのでPCへ電源を入れ、世界ニュースの解説を見たら表題の驚くべきニュースが入っていた。 早速PCへ取り入れます。
巨大な金融危機になりそう
2022年10月17日 田中 宇
世界最大級の銀行であるクレディスイスが危険な状態になっている。欧州と米国を中心に、投資銀行など幅広い銀行・証券業務を手がける同行は、昨年春から連続して事業が失敗し、巨額損失に苦しんでいたが、今年の金利上昇で事態がさらに悪化し、大幅な経営改革が必要になった。事態の悪化が報じられた10月3日には、同行の株価が一時10%以上値下がりして史上最安値を更新した。その後、経営改革は成功するとの金融界の見通し(プロパガンダ発信)もあり、株価はやや持ち直したが、実のところ、クレディスイスをめぐる事態は悪化を続けているようだ。 (Credit Suisse: What Exactly Is Going On At The Global Investment Giant?)括弧のURLは☚末尾に掲載する
というのは、同行の経営難が報じられて株価が暴落した2日後の10月5日に、米連銀が中央銀行間の通貨スワップこの熟語も☚末尾に掲載する取引を使ってスイス中銀に31億ドルのドル資金を供給し、1週間後の10月12日にはその2倍の63億ドルが米連銀からスイス中銀に追加供給されているからだ。63億ドルという金額は、1回の通貨スワップとして史上最大だった。中央銀行間の通貨スワップ取引は、どちらかの国の金融界が危険な状態になっているときに発動される。スイス中銀が、1週間しか間隔をおかずに2度の巨額ドル資金の供給を米連銀から受け、しかも2度目の金額が1回目の倍額になっている。これは、スイスの銀行界が急速な信用不安に陥っていることを意味する。こんなすごい信用不安の理由はクレディスイスの経営悪化以外にない。クレディスイスは、他の国際金融機関から資金を引き揚げられて巨額のドル資金を必要としており、事態は急速に悪化している。 (Cue Dollar Squeeze Panic: Fed Sends A Record $6.3 Billion To Switzerland Via Swap Line)
マスコミは米スイス中銀間の異様な通貨スワップの急増について報じているが、クレディスイスの事態と結びつけて報じてはいない。「異様だが危険を示すものでない」といった感じの金融界(お仲間)のコメントをしゃらっと載せているだけだ。だが金融ブログの領域、たとえば10月13日のシーキングアルファの記事は「クレディスイスが破綻(a credit event)を起こしそうだから連銀がスワップでスイスに資金供給している。何らかの金融破綻が起きる。それはリーマン倒産に匹敵する規模かもしれない。資金供給の繰り返しは、事態が悪化しつつあることを示している」という趣旨を書いている。(この記事では、英国と日本も別の危険を抱えていると指摘している。英国は財政と国債の危機、日本は円安) (Things Are Breaking In Global Financial Markets)☚コピーで残す (Swiss National Bank makes another large draw on Fed swap line)
昨年から続くクレディスイスの危機がここにきて悪化してとどめを刺しそうな事態の背景には、米連銀が(間違った)インフレ抑止策としてQTと利上げを続け、クレディスイスのような今夏から格付け低下・リスク上昇・悪いうわさ頻出の傾向にある金融機関の資金調達が困難・高金利・高コストになっていることがある。昨年までのように、QEとゼロ金利策で安い資金が大量にあった時代なら、クレディスイスも建て直ししやすかったが、今のように金利上昇と資金収縮が続いていると、経営再建や延命がどんどん困難になり、債務不履行などの破綻が近づく。クレディスイスは10月27日に経営再建策(リストラ案)を発表する予定だが、それまでもつのかどうか懸念がある。 (Everything's Fixed... Except What's Broken)☚コピーで残す
今はまだ金融界がクレディスイスを敬遠し資金を引き揚げているだけだが、今後さらに事態が悪化すると、クレディスイスが潰れることに賭けて儲けようとするハイエナ勢力が金融界に現れる。彼らは2007年からのサブプライムローン債券の危機の時にも出現し、リーマンブラザーズが餌食にされて潰され、さらにCDSを広く手がける米保険大手のAIGも潰そうと動き、米当局が介入してAIGを守った経緯がある。あのときAIGが潰れていたら、金融危機で高騰していた何兆ドルというCDS(債券破綻保険)が不履行になり、金融システムがもっと崩壊していた。ハイエナ勢力は、金融機関だけでなく、金融システムやドル覇権まで潰して儲けようとする隠れ多極主義的な勢力だ。 (米金融界が米国をつぶす)☚コピーで残す
すでに彼らはクレディスイスの周りをうろついているはずだ。今後もしクレディスイスが破綻したら、それは他の大手金融機関の連鎖破綻につながりうる。株価の下落と金利上昇で、米欧日の多くの金融機関で株と債券の含み損が増えている。昨年までの優良銀行が、今や優良でなく高リスクになっている。世界には「G-SIBs」と呼ばれる「金融の世界システムにとって重要な銀行」(大きすぎて潰せない銀行)が29行あり、クレディスイスはその一つだが、ドイツ銀行など、他のG-SIBsもかなり前から脆弱化が進行している。日本と英国の政府当局は、自国の銀行界が中長期的に持続困難なじり貧状態だと考えてきた。 (Banking crisis - the Great Unwind)
リーマン危機でいったん破綻し、その後中銀群のQEとゼロ金利策で見かけだけ延命してきた米国中心の金融の世界システム(米金融覇権)が、今年からのQTと利上げ、露中など非米側によるドルと米国型金融からの離脱(金資源本位制への分離独立)により、崩壊・大収縮・終了していく感じが強まっている。クレディスイスの破綻は、他のG-SIBsや中小の金融機関の破綻へと連鎖し、リーマン危機が途中までやったがQEで止められていたドルと米金融覇権の崩壊の残りの部分が進行する可能性かある。G-SIBsには日本の3大銀行や、中国の国営銀行群も含まれる。クレディスイスが破綻したら、欧米だけでなく日本や中国の金融機関も危なくなる。大きすぎて潰せない銀行が潰れると、それは金融の世界システム(米覇権)の崩壊になる。 (Top Bank Strategist; It Is No Longer Science-Fiction To Say We Need A Systemic Reset) (Rising Rates Will Crash The Over-Leveraged Economy)☚コピーで残す
システム危機になるなら、その前に米連銀など中銀群がQTと利上げの緊縮策をやめてQEとゼロ金利の緩和策を再開し、金融システムを延命・蘇生させるから大丈夫だ、と期待している人がまだ多い。金融界では、QE再開を目当てに株価の反騰が喧伝されている。だが最近の状況を見ると、緊縮から緩和への転換は簡単に起こらず、少なくとも金融危機がよっぽどひどくならない限り転換はないと考えられる。米国では先週のCPI発表で、年率8%以上のインフレが依然として続いていることがわかり、連銀内では「まだまだ利上げが必要だ」という機運になっている。実のところ、連銀が利上げしてもインフレがおさまらない理由は、利上げが足りないからでなく、インフレの原因が流通網の詰まりなど供給側にあるので利上げなど需要側の対策をやっても無効だからなのだが、連銀内や米政界は、道理が通らない間抜け(隠れ多極主義的)な集団思考に陥っている。 (FOMC Minutes Show Hawkish Fed Warn "Cost Of Doing Too Little Outweigh Cost Of Doing Too Much") (Markets Puke As CPI Sends Rate-Hike Odds Soaring)
英国では、英国債の長期金利が危険水域の4%超まで急上昇し、英中銀が国債買い支えのQEを再開して事態を延命させたのに、それは先週末までで、今週からはQEをやめてQTと利上げの緊縮策を再開する。トラス英首相は、緊縮策を再開する代わりに、国債危機の原因となった減税策を撤回し、減税策を試みた責任を財務相になすりつけ、就任から1か月しか経っていない財務相を罷免した。トラスは、もっと上の勢力(米国側)から、QE再開は絶対ダメだ、すぐやめてQTと利上げを再開しろと厳命され、仕方なくQE再開を引っ込め、それだけでは国債金利が再び高騰して危機がぶり返すので、自分の減税策も引っ込めて財務相を罷免した。 (英国から始まった金融危機) (UK Chaos: Truss Sacks Kwarteng, Set To Unveil Major U-Turn On Tax Cuts)
トラスは、自らの政治生命を守るため、QE再開を定着したかったはずだ。だがそれは禁じられ、トラスは代わりに自らの政治生命を縮める減税策の撤回をやらざるを得なかった。英国の経緯を見ると、米英の最上層部が、傘下の政府当局によるQTと利上げの放棄を阻止していることがわかる。QTと利上げは今後も続く。少なくともクレディスイスや他の銀行の危機がもっと悪化して顕在化してマスコミでリーマン危機の再来だと騒がれるまでは、事態を悪化させるQTと利上げが続けられる。 (来年までにドル崩壊) (破綻が進む英米金融) 以上
(Credit Suisse: What Exactly Is Going On At The Global Investment Giant?)
クレディ・スイス:グローバル投資大手で何が起こっているのか?
彼らはまだ底を打ったことがありますか?
主なポイント
・クレディ・スイスは、2021年初頭から複数の大きなスキャンダルを経験しています。
・これらのスキャンダルは、銀行とその投資家に数十億ドルの損失をもたらし、株価を急落させました。
・同社が破綻の危機に瀕しているのではないかと懸念する人もいるが、クレディ・スイスは安定した財務状況にあると主張している。
スイス最大の銀行の1つであるクレディ・スイスは、過去数カ月間、スキャンダルに巻き込まれてきました。銀行の規模の大きさから、その破綻は、2008年に私たちの目の前で分子に溶け込み、大不況を引き起こしたアメリカの銀行、リーマン・ブラザーズの破綻のように、世界的な影響につながる可能性があります。
しかし、クレディ・スイスはどのようにして注目を集めたのか、実際に何が起こっているのか、そしてなぜそれがすべて重要なのでしょうか?詳細を見てみましょう。
クレディ・スイスは、1856年にアルフレッド・エッシャーがスイスにシュヴァイツァーリッシェ・クレディタンシュタルト(SKA)を設立したときに始まりました。SKAは1870年にニューヨークに最初の外務省を開設し、1905年にチューリッヒ郊外に最初の銀行支店を開設しました。同行はスイスの引受とシンジケーションのリーディングプレーヤーとなった。
何十年にもわたって、銀行は合併と買収を通じて拡大しました。2006年までに、プライベートバンキング、投資銀行業務、資産運用の分野でグローバルに事業を展開していました。
クレディ・スイスで起きていること
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過去1年間で、クレディ・スイスの株価は急落し、時価総額は50%以上低下しました。これは、2021年に始まった一連のスキャンダルのために起こりました。
スキャンダルの後のスキャンダル...
・グリーンシルキャピタル: 英国の金融サービス会社は、サプライチェーンと売掛金の資金調達に焦点を当てました。それはローンを発案し、それらを証券化し、投資家に売却しました。クレディ・スイスは、同社の製品に100億ドルを投資しました。2021年3月、グリーンシル・キャピタルは破綻し、クレディ・スイスの顧客は投資額で30億ドルもの損失を被りました。
・アルケゴス首都: この民間企業は、主にアメリカのトレーダーであり投資家であるビル・ファンの資産を管理していました。クレディ・スイスはアルケゴス・キャピタルに融資を含む仲介サービスを提供しました。Archegos Capitalは、わずか数日で200億ドルもの損失を経験したと伝えられている。グリーンシルの損失から1ヶ月後、クレディ・スイスはアーチェゴス・キャピタルとの関わりにより47億ドルを失い、少なくとも7人のクレディ・スイスの幹部が解任されました。
・薬物関連のマネーロンダリング: 2022年2月、クレディ・スイスはブルガリアのコカイン密売ギャングによるマネーロンダリングに関与したとして起訴された。これは、スイスで発生した大手銀行の最初の刑事裁判でした。6月、銀行は有罪判決を受け、170万ユーロの罰金を科され、スイス政府に1500万ユーロを支払うよう命じられた。クレディ・スイスは控訴する計画を発表した。
Drug-related money laundering: In February 2022, Credit Suisse was charged with being involved in money laundering by a Bulgarian cocaine trafficking gang. It was the first criminal trial of a major bank to occur in Switzerland. In June, the bank was found guilty, fined 1.7 million euros, and ordered to pay 15 million euros to the Swiss government. Credit Suisse announced plans to appeal.
・情報漏えい:同月、クレディ・スイスの1,000億スイスフラン以上の口座を保有している30,000の顧客口座の詳細が、ドイツの大手新聞であるSüddeutsche Zeitungにリークされました。リークには、人身売買、麻薬密売、拷問に関与した人々が保持していたアカウントが含まれていました。ある口座はまた、バチカン市国と関連しており、ロンドンの3億5000万ユーロ相当の財産に不正に投資したと伝えられている。
Information leaks: In the same month, the details of 30,000 customer accounts holding more than 100 billion Swiss francs in accounts at Credit Suisse were leaked to Süddeutsche Zeitung, a major German newspaper. Included in the leak were accounts held by people involved in human trafficking, drug trafficking and torture. One account was also allegedly associated with the Vatican and fraudulently invested in 350 million euros worth of property in London.
・ウクライナ侵攻: ロシアのウクライナ侵攻後、スイスはロシアに制裁を科した。これに対して、クレディ・スイスはヘッジファンドや他の投資家に、ロシアのオリガルヒと融資のようなものを結びつける文書を破棄するよう要請した。これにより、銀行の制裁要件の遵守に関する調査が行われました。
これらのスキャンダルは、これらのスキャンダルが始まって以来、銀行のイメージを傷つけ、投資家の信頼を低下させ、株式価値を低下させ、銀行に大きな影響を与えました。
今何が起こっているのですか?
これらのスキャンダルに対処した後、クレディ・スイスの株価は、2022年10月11日の市場オープン時点で、パンデミック時代の最高値である12.30ドルから4.42ドルに下落しました。その結果、時価総額は50%以上減少しました。
この企業価値の大幅な低下は、一連の不祥事と相まって、クレディ・スイスの安定性に対する懸念につながっています。最近、ソーシャルメディアの噂では、銀行は破綻の瀬戸際にあると予測し始めているが、クレディ・スイスはそれを否定し、「強力な資本基盤と流動性ポジション」を持っていると主張している。
クレディ・スイスの債務に対するクレジット・デフォルト・スワップの金利は今年急上昇し、1%未満から6%近くに上昇した。より高い金利は、市場が破産の可能性が高いと感じていることを示しています。
クレディ・スイスは何をするつもりですか?
クレディ・スイスは、最近の不祥事や損失にもかかわらず、堅調な財務状況にあると主張していますが、さらなる強化と外部投資家へのその強さを示すための措置を講じています。
例えば、同社は30億ドルの負債証券を買い戻すことを申し出た。また、チューリッヒにあるSavoy Hotelを売却し、追加の資本調達を支援しました。その結果、同社の株価は約4%上昇した。
なぜそれが重要なのか
世界の金融システムは密接に関連しており、クレディ・スイスは世界最大の投資銀行の1つです。世界最大級の投資銀行が破綻すれば、リーマン・ブラザーズの破綻が2008年の景気後退の始まりを早めたように、金融システムに衝撃波を送る可能性があります。
同社の株価のボラティリティは、市場センチメントのバロメーターと見なすこともできます。インフレ率が高く、多くの人々が今後の景気後退を懸念する中、クレディ・スイスの株価の不確実性は、経済全般に対する市場の不安のレベルを示す可能性があります。
要するに
クレディ・スイスは1年以上にわたりスキャンダルと闘っており、その結果、株価は急落しています。これらの損失が銀行を財政的に不安定にし、破綻の瀬戸際に追いやったと懸念する人もいますが、クレディ・スイスは財政的に強く、回復する計画があると主張しています。
どちらの側が正しいかは時間だけがわかりますが、多くの見物人は、クレディ・スイスが次の金融危機の先駆けになるかどうか、あるいは私たちが過去の過ちから学び、主要なグローバル銀行の問題を乗り越えることができるかどうかを見守り続けるでしょう。
市場が非常に不安定で、機関投資家が混乱し始めると、個人投資家はQ.aiのポートフォリオ保護のような投資商品を検討する必要があります。
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通貨スワップ とは何か
通貨を対象とするデリバティブ(金融派生商品)取引のひとつで、異なる通貨間の金利と元本を交換する(スワップする)取引を、「通貨スワップ」といいます。例えば、ドルでの支払いのためドル建て社債を発行して、通貨スワップで円に換えれば利払いや元本償還が円になるため、将来の支払いが円貨で確定します。通常は、取引の開始時と終了時に元本の交換が行われますが、元本の交換をせずに金利部分だけを交換する通貨スワップもあり、「クーポン・スワップ」と呼ばれています。なお、通貨スワップも、金利スワップ同様、取引所を通さずに当事者間で直接取引を行う店頭取引(相対取引)により行いますので、交換する期間や条件などは当事者間であらかじめ取り決めることになります。
2022/10/21
トラス英首相辞任
減税策撤回など迷走 就任44日
英国のトラス首相が20日、辞任すると表明した。看板政策に大型減税を打ち出したものの、英通貨と国債が急落するなど市場が混乱。減税策の大半を撤回した上、クワルテング前財務相を更迭するなど迷走し、求心力を失っていた。▼11面=批判収まらず
9月6日の就任から44日での辞意表明となり、史上最短の任期となる。英メディアによると、これまで最も在任期間が短かったのは肺炎で死去したジョージ・カニング首相(1827年)の119日だった。
トラス氏は、ジョンソン前首相が7月に辞意表明したことを受け、保守党の党首選に立候補。ロシアによるウクライナ侵攻で加速したインフレに英国が苦しむ中、「減税」を掲げて勝ち抜いた。
だが、9月23日に公表した総額450億ポンド(約7・5兆円)規模の減税を柱とした経済政策が、財源の裏付けに乏しかったため金融市場が混乱。金持ち優遇との批判も浴び、国際通貨基金(IMF)から「格差を広げる可能性が高い」と異例の再考を促されていた。
トラス氏は今月、減税策を相次いで撤回。17日には、ハント新財務相が「税制措置をほぼすべて撤回する」と表明。党首選を勝ち抜いた看板政策が市場に否定された結果となった。
トラス氏は17日のBBCインタビューで「間違いについて謝る」と述べながらも、「次の総選挙へ向けて保守党を率いる」といったんは続投に意欲を示した。
ただ、19日には重要閣僚のブラバーマン内相が辞任。調査会社ユーガブの世論調査では政権支持率が7%に落ち込んだ。不支持率は77%で、保守党員の過半数(55%)が辞任を求め、与党内からも「トラス降ろし」が起きるなど、辞任は不可避とみられていた。
英保守党は来週中に党首選を実施する。勝者が次期首相となる。スナク元財務相やモーダント下院院内総務らが有力候補と目されている。いずれも前回7月の党首選で最終盤まで残っていた。ジョンソン氏の名前も挙がっている。(ロンドン=金成隆一)
▼11面=批判収まらず
トラス首相、批判収まらず 辞任表明
保守党内、基盤弱く 来週中にも党首選
英国のトラス首相が20日、就任後わずか1カ月半で辞任を表明した。意気揚々と掲げた英国の「成長戦略」が、足もとの経済事情を無視した政策だと市場の不評を買った。保守党内での基盤はもともと弱く、身内から噴出した批判も収められなかった。▼1面参照
「低税率で高い経済成長を目指すビジョンを示した。それが欧州連合(EU)離脱で得た自由の生かし方だと思ったから。しかし、現状を考えると、私にはその任をまっとうできそうにない」。トラス首相は20日、官邸前でこう述べ、辞任する意向を告げた。党首選を行い、来週中にも後任が決まるという。
トラス氏の足をすくったのは、首相になるための党首選を勝ち抜くためにぶち上げた政策だ。
党首選の決選投票は、議員の支持で優勢だったスナク元財務相と争った。法人増税などを進めたいスナク氏に対し、トラス氏が訴えたのは「減税」。高騰する電気・ガス代を抑える考えも示し、一般党員の支持を集めた。
首相就任後、国のお金をつぎ込んだ電気・ガス代対策を発表。総額450億ポンド(約7・5兆円)規模の減税策も打ち出した。しかし、コロナ禍で借金を重ねた国が、実入りを減らしながらバラマキに走る姿勢を金融市場が不安視。通貨ポンドと国債価格が急落し、市場の混乱を呼んだ。国際通貨基金(IMF)も「大規模で的が絞れていない」と政策に苦言を呈した。
焦ったトラス氏は次々に減税策を撤回。14日には盟友の財務相を更迭し、ハント元外相に交代した。17日にはBBCに「責任を認め、間違いを謝りたい」と述べ、幕引きを図った。
ハント氏の起用で市場は落ち着きを取り戻したが、今度はハント氏ばかりが議会で説明する姿が目立った。トラス氏は「名ばかり首相」と呼ばれ、求心力は見る影もなくなっていた。
トラス氏は党内の基盤が弱く、保守党首選の下院議員による投票でも他の候補から水をあけられてきた。減税策にひきつけられた党員による投票によって当選したが、閣僚ポストを自身の支持者ばかりに割り当てた。経済政策の失敗で支持率に陰りが見えると、一気に辞任の圧力が党内で強まるのは必然だった。
「首相が去る時がきた」「全く支えきれない」「政府は完全に崩壊している」。20日午前中だけでも、10人以上の保守党議員が公然とトラス氏の辞任を求めた。
トラス氏を支持してきた下院議員の「離反」も続いていた。19日には、ブラバーマン内相が電子メールのやり取りにルール違反があったとして辞任した。だが、ブラバーマン氏がトラス氏に宛てた書簡には強い言葉が並んだ。「政府の方向性に懸念を持っている」とし、「間違いをしなかったふりをし、誰も見なかったように続け、魔法のように物事が解決すると願うのは、まともな政治ではない」と強調。そして、「私は間違った。私は責任を取る。私は辞める」と書いた。経済政策に失敗しながらも権力にしがみつくトラス氏に当てつけたような表現だった。
この1週間、辞任は時間の問題という見方が濃厚で、既に次のポストをめぐる政局が始まっていた。保守党のベテラン議員は19日夜、疲れた表情でBBCに出演し、「保守党議員のあらゆるレベルの惨めな状況を反映している」「能力のない人たちが国益ではなく、個人の利益に従って動いている。もうたくさんだ」と現状を嘆いた。(ロンドン=和気真也、杉山正)
◆下平評
世相の動きは、田中宇の解説のようになってきた。 このウクライナに始まる覇権の行方は、見当もつかないにしても私たちは人間性に基づいた日本の進む道を皆で求めたい。
『巨大な金融危機になりそう : 関連記事を含めて』のはしがきにも、今朝の記事を載せておきたい。