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続折々の記 2023 ①
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【 01】01/01
  中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める  田中宇
  アレクシエービッチが見たウクライナ侵攻(全3回)  

 2023/01/01
中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める
田中宇

世界の石油利権の大半は非米側にある。先進諸国も、OPEC+から石油を輸入しようと思ったら、ドルでなく人民元を用意せねばならなくなる。世界の石油は、中国側に買い占められていく。米欧が、この流れを阻止するためにサウジと中国を経済制裁すると、米欧が買える石油がなくなってしまう。ウクライナ戦争の対露制裁でロシアからの石油ガス輸入を止めたので、欧米とくに欧州が買える石油ガスが足りなくなっているが、それと同じことがもっと大きな規模でこれから起きる。

中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める

   2022年12月30日   田中 宇
   https://tanakanews.com/221230china.htm

この記事は「中露が誘う中東の非米化(クリック)」(【2022年12月21日】)の続きです。

前回の記事(クリック)で、中国の習近平が12月初めにサウジアラビアを訪問して、アラブ諸国の全体との関係を強化した話を書いた。その後わかったのだが、習近平とサウジのMbS皇太子は、世界経済を根底からひっくり返すような内容の取り決めを結んでいた。それは、サウジがこれまで輸出原油のすべてを米ドル建てで売っていたのをやめて、輸出原油の多くを人民元建てで、中国とその傘下の諸国に売る新体制に移行する話だった。 (Inflation, Recession, & Declining US Hegemony)

習近平のサウジ訪問に合わせてアラブなど30カ国の首脳陣がサウジに結集し、習近平と会っている。サウジだけでなく、UAEやクウェートなどペルシャ湾岸のアラブ産油国の全体が、ドル建てで米国側(米欧など)に売る石油を減らし、人民元建てで中国やその他の非米諸国に売る石油を増やすことを決めたと考えられる。ドルの基軸性は多方面で低下しているので、この転換は不可逆的なものだが、転換に要する期間は数年とか10年がかりとかになりそうだ。

サウジアラビアは1974年以来、ドル建てだけで原油を輸出してきた。米国は戦後の財政放蕩の結果、終戦時にブレトンウッズで決めた金本位制を守れなくなり、1971年の金ドル交換停止(ニクソンショック)で金本位制を放棄してドルの安値と信用失墜が加速した。1974年の米サウジ協定は、失墜したドルの威信を取り戻すためのもので、サウジが原油をドル建てのみで売ることによって、ドルは石油の貴重さと結びついた通貨(ペトロダラー)の地位を確保し、見返りに米国はサウジを軍事的に守る安全保障を確立した。このペトロダラー体制と、その後1980年代以降の債券金融システムの急拡大により、ドルは強い覇権・基軸通貨の地位を取り戻した。 (The New Cold War Has Begun)

だが米国は、2001年の911テロ事件以降、事実上サウジにテロ支援国家の濡れ衣を着せるなど、サウジを困らせることを連続してやり続けた。米国は、2003年にイラクを侵攻・占領して失敗し、イラクをスンニ派支配の国からシーア派(イラン)支配の国に転換してしまったり、2011年からはシリア内戦を起こして失敗し、この地域でのサウジの影響力を低下させた。同じ2011年には、米国がエジプトなどで「アラブの春」を誘発し、エジプトをサウジ傘下のムバラク政権からサウジの敵であるムスリム同胞団の政権に転換してしまった。2015年にはイエメン戦争を起こしてサウジを泥沼のイエメン占領に陥れた。 (やがてイスラム主義の国になるエジプト)

(911テロ事件はサウジ人らの仕業でなく、米諜報界の自作自演の可能性が高い。侵攻される前のイラクのサダム・フセイン政権は、米国から制裁されていなかったら同じスンニ派としてサウジともっと仲良くできた。イエメン戦争は、イエメンに駐留していた米軍が突然撤退することで引き起こし、サウジはイエメンで泥沼の内戦介入に追い込まれた) (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ)

米国はイランに核兵器開発の濡れ衣を着せて敵視し続けたので、対米従属のサウジもイランを敵視せざるを得ず、米国の中東覇権が低下するほどイランが台頭し、サウジは不利になって馬鹿をみている。これらの米国による中東政策の失敗の連続は、サウジに対する「意図的な嫌がらせ」とも感じられる。サウジ王政は、911直後には米国に着せられた濡れ衣を黙認していたが、2015年に若いMbS皇太子が独裁的な実権を握った後、米国から離反する傾向を強めた。中東の覇権は、自滅的に失敗し続けた米国から、イランやシリアなどに味方して優勢になった中露に移っていき、サウジも米国から離れた分、中露との戦略関係を強化した。 (サウジアラビアの自滅)

米国の中東覇権が低下しても、ペトロダラー体制は現在まで維持されてきた。サウジは、すでに中国に対して原油を人民元建てで売っているふしがあるが、公式な話になっていないのでペトロダラー体制は崩れていない。だが、今年初めにウクライナ戦争が起こり、欧米がロシアから石油ガスなど資源類を買わない対露制裁を開始し、中国など非米諸国がロシア側について、世界の資源類の利権の大半が中露・非米側に行き、G7諸国など米国側が持っているのは金融バブルだけという状況になるとともに、MbSのサウジは勝ち組になるため、非米側に入る傾向を一気に強めた。 (産油国の非米化)

そして今回の習近平のサウジ訪問で、サウジは石油輸出の中心的な通貨をドルから人民元に切り替えていくことを決めた。50年に及ぶペトロダラーの歴史が終わり、ペトロユアン体制に転換していく流れが始まった。 (Suddenly Everyone Is Hunting for Alternatives to the US Dollar)

サウジの石油輸出量は日産700万バレル台で、中国の石油輸入量は日産1000万バレル超だから、中国だけでサウジの石油を全部買い占めることができる。そうでなく、中国はサウジの輸出石油の全量を人民建てで買い上げ、その輸入枠の一部を一帯一路やその他の非米諸国の転売することもできる。サウジ以外の産油諸国(多くが非米側)やロシアなどOPEC+が丸ごとこのペトロユアン体制に参加し、非米側の全体が人民元建てで石油を輸出入するようになりうる。

世界の石油利権の大半は非米側にある。先進諸国も、OPEC+から石油を輸入しようと思ったら、ドルでなく人民元を用意せねばならなくなる。世界の石油は、中国側に買い占められていく。米欧が、この流れを阻止するためにサウジと中国を経済制裁すると、米欧が買える石油がなくなってしまう。ウクライナ戦争の対露制裁でロシアからの石油ガス輸入を止めたので、欧米とくに欧州が買える石油ガスが足りなくなっているが、それと同じことがもっと大きな規模でこれから起きる。 (Escobar: Xi Of Arabia & The PetroYuan Drive)

米国側のマスコミは、習近平がサウジ訪問時にペトロユアン体制を作りたいと表明したことを報道しつつも、それが実現するはずがない、ペトロダラー・米覇権体制が揺らぐはずがない、習近平が猛言しているだけだと「解説」している。だが私から見ると、米覇権に対する超楽観論で猛言しているのはマスコミの方だ。ウクライナ開戦後に対露制裁としてロシアからの石油ガス輸入を止めた 欧州はとても困窮している。欧州の困窮を見るだけで、ロシアだけでなくサウジ(や他のOPEC諸国)の石油までもが米国側に来なくなったらどんなに困るか、簡単に想像がつく。 (米英覇権を潰す闘いに入ったロシア)

世界はウクライナ戦争開始後、米国傀儡のG7など先進諸国と、米国の言うことを聞かない傾向を強める非米諸国との分裂が一気に強まった。世界のトップ20の産油国のうち、米国側は米加ノルウェー英の4か国しかない。4か国の合計で産油量はトップ20全体の28%、埋蔵量では15%を占めるに過ぎない。残りは非米側だ。米国は、産油量で世界の20%近くを占めてダントツの世界一だが、国内消費が多いので他の先進諸国に輸出できる分は大したことない。米国側の主な原油輸出国として加米英蘭豪があるが、この5か国の合計で、世界の原油輸出総量のうち18%を輸出しているに過ぎない。産油量、埋蔵量、輸出量とも、非米側が世界の70-85%を占めている。米国側と非米側の分裂が明確化・長期化するほど、米国以外の米国側諸国はエネルギー不足が深刻化する。これがウクライナ戦争の最大の意味である。 (資源の非米側が金融の米国側に勝つ)

中国がサウジ(などOPEC)を誘って人民元建てで石油を輸入するペトロユアン体制を具現化し始めたら、日韓ASEANなどアジアの(なんちゃって)米国側諸国は、非公式にペトロユアン体制に入り、中国から許しを受けてサウジから元建てで石油を輸出し続けるだろう。「なんちゃって諸国」はすでに米国側の対露制裁を隠然と無視してロシアから石油ガスを輸入し続けている。中国やサウジは「元建て」にこだわっているのでなく「失策と圧政だらけの米国の世界支配をやめさせるためにドル建てをやめること」にこだわっている。だから中国が了承すれば、日本は円建てでサウジやOPECから石油を輸入できるようになるし、韓国はウォン建てで、インドはルピー建てで輸入できる。サウジは外貨準備を多様化したいので歓迎だ。この体制下で、中国とインドの対立も解消されていく。なんちゃっての隠然非米化・非ドル化がどんどん広がる。 (The Era Of Cheap Oil Has Come To An End)

これからの日本は中国やサウジやロシアに媚を売らないとエネルギーを売ってもらえなくなる。だが、マスコミはそのような状況を全く報じず、むしろ逆に、中露やサウジを独裁だ残虐だと酷評してボロクソに報じている。酷評して今だけ気持ちいいかもしれないが、これからとても困るのだということを無視している。大馬鹿である。マスコミ権威筋が無視するので、非米化は隠然と進む。

2023/01/01
憎悪と孤独の世界で
アレクシエービッチが見たウクライナ侵攻(全3回)
第1回 人から獣がはい出したウクライナの戦争
ノーベル賞作家の絶望と使命
聞き手・ベルリン=根本晃

https://digital.asahi.com/articles/ASQDT23CBQD9UHBI00Q.html?iref=pc_extlink

【動画】インタビューに答えるアレクシエービッチさん=関田航撮影

アレクシエービッチが見たウクライナ侵攻㊤

 2015年のノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさん(74)が昨年11月下旬、事実上の亡命先となっているベルリンの自宅で朝日新聞の単独インタビューに応じた。

 アレクシエービッチさんは、第2次世界大戦最大の激戦とされる独ソ戦に従軍したソ連の女性兵500人以上に取材した代表作「戦争は女の顔をしていない」などで知られる。他にもソ連のアフガン侵攻で亡くなった兵士の母親やチェルノブイリ原発事故の遺族など、常に社会や時代の犠牲となった「小さき人々」の声につぶさに耳を傾けてきた。

 「私はウクライナ人の母とベラルーシ人の父のもと、ロシア文化に育てられた」と話すアレクシエービッチさんは、世界を揺るがすロシアのウクライナ侵攻についていま、何を思うのか。1時間半にわたるインタビューの内容を、3回に分けて紹介する。

「戦争は美しい」と語った男性 戦争は人の心を支配する

 ――ウクライナ侵攻が起きて、まず感じたことは。

 私の母はウクライナ人、父はベラルーシ人です。開戦を知った時、ただただ涙がこぼれました。私は本当にロシアが大好きで、その文化の中で育ちました。ロシアに友人も大勢いるのです。戦争が始まるなんて到底信じられませんでした。

 ――ロシア人と交流を続けているのですか。

 はい、知識人たちは皆連絡を取り合っています。一般の人たちも、可能な人たちとは。より難しいですが。

 ――「戦争は女の顔をしていない」で独ソ戦を、「亜鉛の少年たち」でアフガン侵攻を描きました。あなたにとって、ウクライナ侵攻は3度目の戦争です。共通点は何だと思いますか。

 かつて、ソ連人が自国をドイツから守りました。今のウクライナ人は、かつてのソ連人のように振る舞い、ロシアはヒトラーのようです。ウクライナの破壊された街並みも、第2次世界大戦をほうふつとさせます。村が焼かれ、人々が撃たれました。街を闊歩(かっぽ)していたロシア兵が撤退すると、いくつもの墓が残ります。墓を掘り起こした時、人々が拷問されたのだとわかるのです。

 私はかつて取材した人で、「戦争は美しい」と言った男性をよく覚えています。彼は「夜の野原で砲弾が飛んでいる姿はとても美しい。殺された人間だけじゃない。美しい瞬間があるんだ」と言うのです。のどを刺すときの(刺された人の)うめき声について、ほとんど詩的と言ってもよい表現で語りました。戦争には人間にとって様々な試練があります。人間の心を支配してしまうようなものがあるのです。

テレビの力を私たちは甘く見ていた

 ――ロシア軍が占拠し、後に撤退したウクライナのブチャなどでは、残虐な行為が繰り返されました。

 なぜ、こうもすぐに人間の文化的な部分が失われてしまうのでしょうか。ドストエフスキーやトルストイは、人間がなぜ獣に変貌(へんぼう)するのか理解しようとしてきました。

 私はロシア人を獣にしたのはテレビだと思います。プーチンはこの数年、戦争の準備をしてきた。テレビはウクライナを敵として描き、人々を、ウクライナを憎む獣にするために働きかけてきました。

 ――ロシアではプーチン氏が大統領に就任した2000年以降、政府によるメディア掌握が進んできました。ウクライナ侵攻でも政府の主張に沿ったプロパガンダが展開されています。

 私はこれまでロシア中を旅しました。今ロシア人はウクライナに強い憎しみを抱いていますが、かつてはそうではありませんでした。

 一方で、彼らは何が起こっているのか理解していません。多くの人々がテレビの言うことを信じているのです。

 あるウクライナ兵が、(侵攻後に)捕虜にしたロシア兵に「母親に電話して実情を伝えれば解放してやる」と言いました。電話で「ママ、ここにはナチはいない」と話したロシア兵に、母親は「何を言ってるの。誰に吹き込まれたの」と叫んだ。母親が口にしたのはテレビが流す内容でした。

 こんなロシア人女性もいました。「ええ私の姉妹はハリコフ(ハルキウ)に住んでいます」。ハリコフは何度も爆撃された街です。「それでも、私は自分の大統領を信じています」。残念ながら、テレビは大きな力です。私たちは甘く見ていました……。

 プーチンが国民の動員を宣言した時、多くの人々が国を逃れた一方で、自発的に戦いに行った人々もいました。そして、彼らはろくに訓練も受けずに戦場に投げ出されました。

人の中に人の部分があるようにする それが作家の仕事

 ――あなたはプロパガンダと人々の生活の関係を「テレビと冷蔵庫の対立」とたとえて、「ロシア社会も冷蔵庫が空になり、食料と給料が減れば変化する」と語っていました。まだその時ではないでしょうか。

 冷蔵庫はまだテレビに勝てていないのです。冷蔵庫がテレビに勝たなくてはいけません。もしかしたらその時、ロシア人は気づくかもしれません。

 ――昨年2月以降、ウクライナ人に変化を感じますか。

 私が今住んでいるベルリンにもたくさんのウクライナ人がいます。彼らはロシアにとてつもない憎しみを抱いています。今、ロシアと停戦協議を始めようと言っても理解されません。どの家庭でも誰かが亡くなっているからです。私が話を聞いたウクライナ人は皆、自分たちの土地を1センチに至るまで取り戻さなければならないと考えています。

 ウクライナの若者からは「これからはロシア語を読まない。ドストエフスキーもチェーホフもショスタコービチもチャイコフスキーも大嫌いだ」というような悲しい話も聞きます。ウクライナ人がロシア人をいつ許すことができるか、私にはわかりません。とても長い時間がかかります。

 ――作家として、ロシア文化を排斥する動きをどう受け止めていますか。

 ウクライナ人がロシア文化を排斥することに賛同はしませんが、その背景はよく理解できます。彼らは絶望の淵に立たされています。街が破壊され、人々が拷問を受け、殺されているからです。

 ただ、作家は人々を育むために働いています。ドストエフスキーが示したように、私たちは「人の中にできるだけ人の部分があるようにするため」に働くのです。

 ウクライナ侵攻では人間から獣がはい出しています。私も「本当に、言葉には意味があるのだろうか。なぜ人間が獣に変わってしまうのか」と絶望する瞬間があります。それでも私たち作家の使命は変わりません。文学は人間を育み、人々の心を強くしなければなりません。残虐な運命に身を置かれた時、人間をのみ込む孤独に打ち勝てるように。

 現代は恐ろしい時代ですが、歴史上のどの時代にも作家は存在しました。全てが破壊された時ですら、年代記は残ったのです。(聞き手・ベルリン=根本晃)

コメントプラス
高津祐典 (朝日新聞文化部次長=囲碁将棋、文化) 2023年1月1日19時49分 投稿

【視点】
2016年にアレクシエービッチさんが来日した際、インタビューする機会がありました。「プーチン政権下のロシアをどう見ていますか」と問いかけると、こんな答えが返ってきました。

  〝ロシアは重篤な状態で、世界にとって危険です。プーチンは問題を「力」で解決し ようとし、核の使用の可能性も口にしました。

国民はペレストロイカの時にさげすまれ、冷戦に敗れたと感じました。「今はロシアの時代だが、敵に囲まれている」と思い込んでいる。ロシアは過去に日常的だった状態に戻りました。「意識の軍国化」です。ロシアほど、人々が軽々と戦争について語る国はありません。テレビには連日、新しい軍用機や軍艦が映ります。驚くべきは国民が再び強い軍になったと喜んでいることです〟

2016年の言葉を今になって振り返ると、「意識の軍国化」が浸透していき、はじけるまでの時間のことを考えてしまいました。

劉慈欣さんのSF小説「三体Ⅲ 死神永生」(早川書房)の上巻に、「青銅時代」という宇宙戦艦内が宇宙をさすらうことになり、艦内が全体主義に走るエピソードが出てきます。

全体主義に染まるまで「どのくらいの時間がかかったと思いますか」という問いに、以下のような記述が続きます。

五分間です。
ほんとうに、たったの五分間でした。全体会議は五分間だけ開かれました。この全体主義社会の基本的な価値観は、〈青銅時代〉にいた大多数の者が認めたものです。ですから人類が宇宙をさすらうことになれば、全体主義に到達するには五分しかかかりませんよ

人間が価値観を転換させるのには、さして時間は必要ないのでしょう。戦況にどうしても目が向いてしまいますが、どのようにしてロシアはウクライナ侵攻にいたったのか、もっと知る必要があると思います。

コメントプラス
三牧聖子 (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
     2023年1月1日11時56分 投稿

【視点】
以前アレクシエービッチ氏は、軍事侵攻以降のロシア社会を「テレビと冷蔵庫の対立」と表現し、食糧がなくなり冷蔵庫が空になれば、テレビの戦争プロパガンダに惑わされているロシア市民も、プーチンの「特別軍事作戦」の実態がいかに不当なものかに気付いていくのではないかと語っていた。

しかし今回のインタビューでは、そうした期待は影を潜めている。

ロシアで最近行われた世論調査からうかがえるのは、テレビのプロパガンダでは覆い隠せない戦争の実態に薄々気付き、厭戦感をつのらせながらも、だからといって民の力で戦争を終わらせる道すじも見えず、結局、現政権についていくしかない、そうしたロシア市民の諦観だ。プーチン政権が11月に実施した非公表の世論調査で、侵攻継続を求める割合は25%にとどまり、7月の57%と比べて半分以下に落ち込んでいたことが、独立系メディア、メドゥーザの調査で判明した。その一方で、独立系世論調査機関レバダセンターが今月行った調査では、70%以上の人々がロシア軍の活動を「確実に」または「ほぼ」支持しており、64%が「国は正しい方向に進んでいる」と考えていると回答した。

多くの市民が戦争の継続を望んでいない現状でも、政権の独断で不当な戦争を続けられる。市民はそうした現実への対応として、現政権が正しい決定を行っているのだと信じ続ける。

これが民主主義がない国の戦争の実態なのだろう。そうした国が起こした戦争をどう止めるか。その先に、より持続的な平和をいかに構想・構築できるか。続くアレクシエービッチ氏のインタビュー記事を手がかりに考えていきたい。また、この記事の写真と動画を撮影した関田航記者は昨晩、滞在先のキーウのホテルがミサイル攻撃を受け、負傷されたとのことだ。前線で危険をおかしながら記事と写真を届けて続けてくれていることに改めて感謝し、1日も早い回復と平和を祈りたい。

2023/01/02
憎悪と孤独の世界で
アレクシエービッチが見たウクライナ侵攻(全3回)
第2回「野蛮人の時代」が再び訪れた
それでも独裁者は時を止められない
聞き手・ベルリン=根本晃

https://digital.asahi.com/articles/ASQDT23CPQDSUPQJ00C.html?iref=comtop_Topnews2_01

アレクシエービッチが見たウクライナ侵攻㊥

 2015年のノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチさん(74)が昨年11月下旬、事実上の亡命先となっているベルリンで、朝日新聞の単独インタビューに応じた。困難を強いられるウクライナの人々は、何をよりどころに生きるのか。悲惨な経験をした人々はどのように救われるのか。何がプーチン大統領を生み出したのか――。

朝のコーヒーの1杯 そんな人間らしいことで人は救われる

 ――今、何がウクライナの人々のよりどころになっているのでしょう。

 私はベルリンで大勢のウクライナ難民と会っています。彼らは皆、まもなくウクライナが勝利すると信じています。なぜなら、国民全員が立ち上がったからです。全てのウクライナ人があらがい、故国を守っています。おそらく、これこそがいま、ウクライナ人が(絶望に)打ち勝ち、耐え抜くためのよりどころなのでしょう。

 ――ソ連のアフガン侵攻で亡くなった兵士の母親やチェルノブイリ原発事故の遺族など、これまでも悲惨な経験をした多くの人々にインタビューしてきました。人はどうすれば絶望から救われるのでしょうか。

 近しい人を亡くした人、絶望の淵に立っている人のよりどころとなるのは、まさに日常そのものだけなのです。例えば、孫の頭をなでること。朝のコーヒーの1杯でもよいでしょう。そんな、何か人間らしいことによって、人は救われるのです。

 ――この戦争はどのように終わると思いますか。

 私はウクライナが何らかの勝利を収める形で終わると考えています。世界が団結し、ロシアのファシズムに立ち向かうのです。ロシアのファシズムは危険で、ウクライナで止まるとは限りません。プーチンは(ソ連から脱退した)バルト3国やモルドバのことも惜しんでいます。ソ連の全ての断片を惜しんでいるのです。ウクライナが戦っているのは自らのためだけではなく、全世界のためです。

貧困が行き着く先がファシズム 良い教育を受けられない

 ――なぜロシアはプーチン氏を生み出してしまったのでしょうか。ペレストロイカとソ連崩壊を経て、人々は自由で民主的な社会を志向したはずでした。それなのに、ベラルーシでも「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ氏が30年近く大統領に君臨しています。

 常にその答えを探しています。私が話した大勢のロシア人は、ロシアはペレストロイカの後、自国が辱められ、貧しくなった、尊敬されていないと感じていました。(ソ連崩壊後の混乱期は)食べ物も仕事もなかったのです。この貧困が行き着く先はファシズムです。貧しければ、良い教育を受けることはできません。

 私の取材で、複数の人が、二度と戦争も矯正収容所も戻ってこない、みんな過去のことだと思っていたと言っていました。残念ながら今日でも、こういったことはまだ歴史ではないのです。

 (ベラルーシの反政権デモに参加した)ある若い女性は、「私は収容所とかそうしたものの全ては、既に古めかしい過去の歴史だと思っていました。でも、私が革命(デモ)に参加して逮捕された時、(ソ連時代の)本に書いてあることと同じような仕打ちを受けたのです。ポリ袋を頭からかぶせられて、首を絞められました。鉛筆で乳首を刺されました」と話していました。

 ――プーチン氏はロシア(ソ連)がヒトラーを倒したことは世界に多大なる貢献をしたはずなのに、それに見合う尊敬が西側から得られていないと不満を抱いています。

 私がモスクワを訪れたとき、何度か5月9日の(独ソ戦の)戦勝記念日に居合わせました。その光景には、何か恐ろしいものがありました。「必要ならば、もう一度勝つ」という考えが、人々に浸透していました。彼らは敵を見つける必要があり、そして、今その敵が見つかったのです。

 「我々が世界に勝つのだ」「我々は敬われていない」「偉大なロシア」。恐ろしいことです。過去に「偉大なドイツ」や「偉大なセルビア」が何をもたらしたかと振り返れば、流血だけです。彼らは時代に取り残され、私たちを過去に引き戻しています。

 ゴルバチョフは自分の考えが破壊され、彼自身が裏切り者と見なされているのを見て、どんなに悲しみながら死んでいったでしょう。あの時代、私たちは本当に大きな世界(国際社会)に入り込み、みんなと同じように生きようとしました。でも、過去が勝ったのです。残念ながら……。

【動画】インタビューに答えるアレクシエービッチさん=関田航撮影

ロシアは眠っている 病んでいると言ってもいい

 ――ウクライナ、ロシア、ベラルーシの3国は、これからどうなるでしょうか。

 民主的な道を歩み始めたウクライナは、今後もその道を行くでしょう。

 一方、ロシアは眠っている。病んでいると言ってもいいかもしれません。ロシアはウクライナにやってきて、「秩序」をもたらす人々を育てています。ウクライナでは何かが変化したと気づいていないのです。

 私たちベラルーシ人も、(ウクライナのように民主化運動を)試みましたが、失敗しました。ベラルーシの革命(20~21年の民主化運動)で、広場には若者を中心に数十万人もの人々が集まったものの、ルカシェンコを倒すのに十分な数ではなかった。この運動の指導者の一人である私は、平和的な手段でうまくいくと思っていました。でも、平和的な道に失敗しました。失敗しました……。

 ただ、大事なのは、どんな独裁者も、時を止められないということです。どんなファシズムも、時を止めることはできない。彼らは勝てないでしょう。ただ、それまでにとても長い時間がかかるかもしれません。ああ、結末を見届けるにはとても長生きしなくては……。

 ――今、新作を書いているそうですね。

 本はこれまでと同様に人々の証言を集めたものとなりますが、私の考察がより多く入っています。仮題は「野蛮人を待ちながら」です。

 野蛮人とはウクライナ(の前線)で撃ったり命令を実行したりする人々ではなく、戦争を始め、戦争を指揮している人々のことです。彼らは大学の卒業証書を携え、どこからやって来たのでしょうか。私は、何が野蛮人を生んだのかを理解しようとしています。哲学的な意味で、いったい何が起こったのか。

 彼らは人文的で、宗教的で、真に哲学的な人間ではありません。こうした「野蛮人の時代」の訪れを、私はほぼ確信しています。

 これは新たな中世です。再び戦車が走り、街が破壊され、人々が殺され、抑圧される。こんなことはもう起こりえないと思っていました。

 しっかりと考えなくてはなりません。私たちが今どんな時代にいるのかということを。(聞き手・ベルリン=根本晃)