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折々の記 2010 @

【心に浮かぶよしなしごと】

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【 07 】01/23

  01 23 驚くべき田中宇の国際ニュース解説

 01 23 (土)  驚くべき田中宇の国際ニュース解説



前のサイト 【 06 】01/22 で取りあげた「田中宇の国際ニュース解説」を詳しくみます。

     http://tanakanews.com/index.html
     <田中宇の国際ニュース解説・メインページ>

       作者の自己紹介
          名前・・田中 宇 (たなか・さかい)
          宇宙の「宇」と書いて「さかい」と読む。「宇」には、空間、広がり、家といった意味のほかに、
          境界、ひさし、家の隅、世界のはずれなどの意味もあり、それで「さかい」と読めるとか。
          メールはこちらからお願いします。

  自己紹介、 情報源、 音声訳  があり、 記事としては1996年〜以降週間発表となっています。
  自己紹介、 情報源、 音声訳 は一回は目を通しておくとよい。
  1996年〜以降週間発表のデータは、必要なものはコピーして製本しておきたい。
  情報源としては必須なものです。

先ずは最近のものを一つ取りあげてみます。



田中宇の国際ニュース解説
世界はどう動いているか
フリーの国際情勢解説者、田中 宇(たなか・さかい)が、
独自の視点で世界を斬る時事問題の分析記事。
新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します。

………………………………………【2010年1月5日】〜【2010年1月21日】………………………………………
一週間に一回のニュース配信

短信集(2010年1月21日)
  ●温暖化誇張コンビに離別の危機!?
  ●深まるインフルエンザ誇張疑惑
  ●ベネズエラ経済難で多極化が逆流?

グーグルと中国
 【2010年1月20日】 グーグルは、ユーザーが残していく情報を中国当局に見せたがらないので、ユーザー情報を当局に提供しているであろう「百度」などに比べて中国政府から好かれない。中国政府が国策ファイアーウォールの微妙な運営によってグーグルの表示を制限し、中国人がグーグルではなく百度を使うように仕向けた可能性が指摘されている。米国では、これをグーグルに対する中国の非関税障壁とみなし、WTOに提訴すべきだという主張が出ている。中国政府に対してグーグルが反抗的な態度をとったのは、米政府と謀ってこの問題をWTOに持ち込むきっかけを作るためだった可能性もある。

中華文明と欧米文明は衝突するか
 【2010年1月17日】 中国は「中華文明」として台頭しているのではなく、孫文以来の中国人が「欧米文明」のシステムを修得する努力を続けた結果、台頭した。中国は中華文明を捨てて欧米文明化を成し遂げたからこそ、急成長している。「偉大な中華文明」という言い方は、中国人(漢民族)のナショナリズム鼓舞のため流布されているにすぎず、中華文明はアヘン戦争とともに死んで久しい。だから欧米と中国の「文明の衝突」は起こり得ない。世界の文明は不可逆的に単一化、普遍化している。

ガザ戦争の危機再び
 【2010年1月14日】 イスラエルは米国の政治を牛耳ってきただけに、イスラエルが今後どうなるかは、基軸通貨としてのドルの地位(米国の経済覇権)が今後どうなるかという問題と並び、世界の覇権構造にとって大きな話である。イスラエルの力が縮小ないし消滅すれば、サウジアラビアなどペルシャ湾諸国が安全保障を米国に頼る必要が減り、イランとサウジ、イラクが談合して石油利権の非米化に拍車がかかり、石油価格は超高値安定になりそうだ。

インフルエンザ騒動の誇張疑惑
 【2010年1月12日】 12月31日、欧州議会の保健衛生委員会は、昨年夏から豚インフルエンザが流行した際、欧米の製薬会社が、ワクチンや関連医薬品の売り上げを伸ばすため、国連のWHO(世界保健機構)や国際医学界などに影響力を行使し、インフルエンザに対する危機感を世界的に扇動した疑いがあるとして、調査を開始することを全会一致で決議した・・・

アジア経済をまとめる中国
 【2010年1月10日】 元旦に発足したASEANと中国のFTA(CAFTA)は、東南アジアにとって歴史的、地政学的な大転換である。CAFTAは人民元を決済通貨として使う計画を開始し、今後何年かかけて東南アジアの基軸通貨はドルから人民元に切り替わる。基軸通貨がドルである限り、米英は97年のアジア通貨危機が象徴するように、東南アジアを通貨や財政の面から支配できる。人民元が基軸通貨になることは、東南アジアが米国の覇権下から中国の覇権下に移転することを意味している。

中国のバブルが崩壊する?
 【2010年1月5日】 中国のバブル崩壊は、日本が90年代のバブル崩壊で経験した「失われた10年」のような長く大きな不調にはなりにくい。中国は80年代以来の高度成長の中で、何度もバブル崩壊を経験している。中国では経済全体の状況把握が難しいので、供給過剰に陥りやすい。しかし、中国は広大で多様性が強いので、沿岸部経済でも、加工組立・再輸出産業から発展してきた広東と、揚子江流域の莫大な人口を背景に発展してきた上海が別々に動いている要素も強く、中国全体が崩壊することには、なかなかならない。日本のバブル崩壊後の失われた10年は、米国を抜きたくなかった対米従属戦略の日本の大蔵官僚らが意図的にやったことではないかと疑われるが、この点も中国は、日本と異なり、米国を抜くことへの抵抗がない。

……………………………………………………  ∽  ……………………………………………………

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例えばつぎのタイトルを開いてみると、次のように展開されます。


   日中防衛協調と沖縄米軍基地【2009年12月8日】
   官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転【2009年12月10日】
   ◆強まる日中韓の協調【2009年12月15日】





日中防衛協調と沖縄米軍基地
【2009年12月8日】
田中 宇

 宣伝になって恐縮だが、12月10日に私の新刊本『日本が「対米従属」を脱する日』―多極化する新世界秩序の中で― (風雲舎刊)が出る。その本の帯に「時代が変わる時というのは、ファンファーレは鳴らない。道頓堀に飛び込む者もいない・・・」と書いてある。これは、私が本書の一部として風雲舎の山平松生社長にインタビューを受け、私が話したことの一部で、歴史の転換点となる出来事が起きるときには、大々的な報道もなく、人々が騒ぐこともなく、人々が歴史の転換に気づくのは、その後かなり経ってからだと、今年9月、世界の経済的中心がG8からG20に代わり、米英覇権体制の崩壊を意味する宣言がなされた時に感じた、という話である。(『日本が「対米従属」を脱する日』)

 こんな話から書き出したのは、先日、大々的な報道もなく、大騒ぎもないままに、日本にとって対米従属から脱する歴史的転換点となる出来事が静かに起きたからだ。その出来事とは、11月27日に訪日した中国の梁光烈国防大臣と、日本の北沢俊美防衛大臣が会談し、海上自衛隊と中国海軍による史上初の合同軍事演習(共同訓練)を行うことで合意した件である。この日中防衛相会談では、高官どうしの相互訪問を活発化することや、次官級の日中防衛当局間協議を毎年開催することなど、日中間の防衛協調を全体的に強化すると決定した。(梁光烈 中国国防部長との会談 日中防衛相会談(概要))

 日中の初の合同軍事演習は捜索・救難活動に関するものだ。防衛そのものの分野での演習ではないので、大した話ではないと見なされたのか、この件についての日本のマスコミ報道は大きくない。ネット上でも、この件で日本政府を批判する論調は少ない。だが「捜索・救難活動」や「テロ対策」としての合同演習は、中国などが、ライバル諸国との敵対を緩和して協調関係に変質させるときに最初に行う常套的な軍事交流策の一つである。

 中国とロシアは、歴史的な敵対関係を緩和して「上海協力機構」の協調関係に転換した際、中露2国と中央アジア諸国も入れて、救難活動やテロ対策をテーマにした合同軍事演習を何度かやっている。中国とインド、インドとロシア、ロシアとイランなどの間でも、関係改善策として「救難」「海賊退治」をテーマに合同演習をやっている。イスラエルは、悪化したトルコとの関係を元に戻すために、捜索・救難をテーマとした軍事演習をやったばかりだ。(Russia anchors ties with India)(Turkey, Israel ease tension with drill)

 有力国どうしが敵対関係を解いて和解していくときには、軍艦の相互訪問から始まって、救難活動やテロ対策などの無難なテーマで合同軍事演習をやり、将軍や国防相の相互訪問、緊急連絡回線(ホットライン)の開設を進めるのが通常だ。米国は、まだ中国と合同軍事演習をしていないが、すでに相互訪問を展開している。

 日本と中国は、自民党政権の末期から軍艦の相互訪問をやったり、中国の災害救援に日本の自衛隊艦を派遣したりと、目立たない形で防衛協調を進めてきた。今回の協調強化は、それをさらに進めるものだ。鳩山政権への批判中傷に余念がない対米従属至上主義の人々による猛反発があっても不思議ではないのだが、「救難に関する共同訓練」は大したことではないと考えられたのか、騒ぎになっていない。

 しかし現実には、日本が中国と、軍どうしの合同演習や防衛交流を強めるほど、日本にとって中国は脅威ではなくなる。すでに北沢防衛相は、中国防衛相の訪日を機に中国の雑誌「中国新聞週刊」のインタビューに応じ「日本は中国との関係を非常に大切にしている。わたしは、中国を日本の脅威と考えたことはない」と言っている。(北沢防衛相「中国は脅威でない…日中は友好関係」)

(もともと中国脅威論が日本で台頭したのは、90年代末以降、外務省など日本の官僚機構が、権力の源泉である対米従属を維持するために、マスコミを通じて反中国的な世論を喚起したためだ。日本人の反中国感情は、官僚とマスコミに踊らされた結果といえる。マスコミは、日中国交正常化後の1970−80年代には、今とは逆に「日中友好」を喧伝し、当時の日本人は、今と比べると非常に親中国的だった。多くの人々は、マスコミを通してしか世界観を構築できないので、自ら気づかないうちに価値観を操作される。今後は、再び親中的な方向に揺れ戻すかもしれない)

 韓国では中央日報の社説が「日中が合同軍事訓練をするというのに、韓国はまだ日本とも中国とも、軍事交流は初歩的な水準にとどまっている。韓国にとって重要なのは、北東アジア軍事協力構図から疎外されない対策だ。日本や中国との軍事交流・協力を強化し、韓日中3カ国間の協力案を模索しなければならない」と書いている。(【社説】注目される日中の合同軍事訓練合意)

▼日本にも米国にも不必要になった沖縄米軍基地

 日本にとって中国が脅威でなくなると、必要性が大幅に低下するものがある。沖縄の米軍基地である。2005年の日米防衛協議で、沖縄の米軍基地は、従来からの朝鮮半島有事への備えだけでなく、台湾海峡有事(つまり中国の脅威)に備えるためにも必要だと宣言された。だが今や、台湾も親中的な国民党政権であり、米国も中国との協調を重視している。オバマ大統領は先日の訪中で「米国は、中国を世界有数の大国として尊重する。中国に、大国としての役割を期待する」と表明した。沖縄の米軍基地は、日本ばかりでなく米国にとっても、すでに不必要である。

 沖縄県民の大多数は、島内の米軍基地を減らしてほしいと思っている。私は11月8日の普天間基地問題の沖縄県民集会に参加したが、集会の壇上には沖縄県会議員のほとんど全員が来ていた。自民党と公明党は来なかったが、公明党は壇上ではなく参加者として、創価学会の旗を掲げる人々が来ていた。自民党は集会に来なかったが、その後、自民党沖縄県連が東京の党本部に対し、普天間問題で県内移設賛成のままでは今後の選挙に勝てないので、県内移設反対に転換することを容認してほしいと申し出ている。沖縄では、もはや「基地があった方が良い」と主張すると選挙に勝てないのである。(普天間移設、自民県連「県外」要求へ 「辺野古」から転換)

 沖縄には、米軍海兵隊の世界3大拠点の一つ「第3海兵遠征軍」が置かれている(第1と第2は米本土)。海兵隊は、名護市辺野古の海岸や、東村高江など沖縄本島北部で、急襲上陸やヘリ着陸の訓練を繰り返している。だが、沖縄の亜熱帯の地域での訓練が適用される南方は、日本の防衛にほとんど関係ない(思いつくのはフィリピンのミンダナオ島ぐらいだが、ミンダナオのイスラム組織との戦いは米軍の「やらせ」である)。日本にとって最大の脅威は北朝鮮だとされるが、米軍海兵隊が日本を守るため有事の際に北朝鮮に上陸急襲するつもりなら、海兵隊が訓練する場所は亜熱帯の沖縄ではなく、もっと寒い日本の本州や北海道でやらねばならない。北朝鮮に面した日本海側が望ましい。(沖縄からフィリピンのやらせテロ戦争に転じる米軍)

 そこで思うのだが、たとえば本州の日本海側で熱烈に親米・親オバマを貫いている福井県小浜市に、海兵隊の訓練基地を移転すると良いのではないか。若狭湾に面する小浜周辺の海岸は入り組んでおり、海兵隊の上陸訓練に適している。沖縄よりずっと海水温や気温が低いので、北朝鮮での実戦環境に近い。小浜なら、対岸が北朝鮮で近いので、有事になったら海兵隊は訓練を実戦に切り替え、すぐ北朝鮮を急襲できる。

 沖縄の人々は海兵隊に出ていってほしいが、対照的に小浜市の人々はオバマ大統領を熱烈に応援しており、オバマに小浜を訪問してもらいたい。小浜市がオバマ訪問を条件に海兵隊の訓練基地になると名乗り出れば、念願のオバマの小浜訪問が実現する。幸いにも、橋下徹・大阪府知事が「関西空港を海兵隊基地にしてもよい」と言ったので、関空と小浜が組むことで、沖縄の海兵隊基地をそっくり代替できる(関空から小浜までは100キロと比較的近い)。嘉手納の空軍機能も関空か神戸空港に移せば、なお機動的だ。経済地盤沈下の関西には、伊丹の大阪空港があれば十分だろう。(普天間移設 「話あれば関空に」橋下大阪府知事)

 以上の移転構想は、関西や小浜の人が強く望んだ場合のみという条件つきである。現実には、米国は、北朝鮮の問題を6カ国協議で、中国主導の外交で解決していく方針なので、海兵隊が北朝鮮を急襲上陸せねばならなくなる可能性は低い。万が一、日米が北朝鮮と戦争する事態になっても、最初は日米空軍による空爆が行われ、海兵隊の出動が必要になるまで数日かそれ以上の期間があるだろうから、海兵隊は日本からでなく、米本土からの出動で十分間に合う。沖縄だろうが関西だろうが、米軍が日本にいる限り、日本政府は「思いやり予算」など毎年数千億円を米国に払い続けねばならない。オバマが小浜に来ることの見返りに日本国が払う金としては高すぎる。

 米海兵隊が沖縄にいるほとんど唯一の理由は、日本政府が思いやり予算など巨額の金をくれるからだ。外務省など日本の官僚機構は、冷戦後も日本の対米従属を維持して自分たちの権力を守るため、金を払って米軍にとどまってもらった。日本が金を出さなければ、冷戦終結後、米国は財政支出削減のため、第3海兵遠征軍を米本土に戻し、米本土の第1、第2海兵隊遠征軍と合体していたはずだ。(日本の官僚支配と沖縄米軍)

「タダ飯」を食うために日本にいる第3海兵遠征軍が、有事の際に日本を守るつもりがあるかどうか疑わしい。そもそも、自国の防衛を外国軍に頼る日本人は姑息であり、米兵が命をかけて日本を防衛したいと思うはずがない。その点で、小浜や関西に移っても、米海兵隊は日本の役には立たない。本来、愛国者は「日本は日本人が守る。米軍ではなく自衛隊が守る。在日米軍には、これまでの駐留を感謝しつつ、米国にお帰りいただこう」と考えるのが自然だが、マスコミの対米従属プロパガンダが愛国者の頭の中をねじ曲げている。

▼見えてきた在日米軍追い出しの流れ

 とはいえ「在日米軍には、これまでの駐留を感謝しつつ、米国にお帰りいただこう」と考える日本人は、いないわけではない。先日は、日本の首相自身が、そのような発言を放った。鳩山首相は12月4日に「(沖縄の海兵隊を)グアムに全部移設することが、米国の抑止力ということを考えたときに妥当か検討する必要がある」と述べ、沖縄の海兵隊を全部グアムに移す案を検討していることを認めた。(普天間交渉「暗礁」 米大使一変、激怒)

 ここ数年の米軍再編の中で、第3海兵遠征軍は、司令部がグアムに移り、実働部隊は沖縄に残る計画になっている。日本政府(官僚機構)が思いやり予算の延長で「グアム移転費」を負担したいと言ったので、米軍は、海兵隊のグアム移転をなるべくゆっくりやり、日本からできるだけ多くの金を引き出そうとしている。日本が金を出したいと言うのだから、財政難の米国が、それならできるだけ多くもらおうと思うのは当然だ。

 しかし、日本が米軍引き留めのために金を出す従来の体制は、今夏までの自民党政権時代に官僚主導で決めたことだ。今の民主党政権は、米国の覇権が低下し、日本の財政難がひどくなる中で、官僚のために巨額の金を出して米軍を引き留めるのはやめた方が良いと考えている。だから鳩山政権は、就任前から「官僚本位の政策はやめる」と言い、官僚機構の中で財務省に権限を集中させ、小沢一郎らが財務省を握ることで権力を掌握しようとしている。鳩山政権が社民党も入れた連立政権を組んだのは、社民党の「反基地」の姿勢を使い、連立内に社民党がいるので基地問題で米国の言いなりになれないと言い訳する理由をあらかじめ作るためだろう。

 12月4日に鳩山は「沖縄の海兵隊をグアムに全部移設することが、米国の抑止力を考えたときに妥当か検討する」と言ったが、これは「第3海兵遠征軍がグアムと沖縄に分かれているのは非効率で、米国の抑止力を削いでいる。沖縄からグアムへの海兵隊の移転は、自民党時代の日米合意に沿ってゆっくりやるのではなく、過去の日米合意にこだわらず、早くやった方が米国の抑止力維持にとって良いのではないか」ということだ。グアム移転を早くやれば、日本が米国に出す金も少なくてすむ。官僚の権力維持のために米軍のグアム移転をゆっくりやって巨額の税金を無駄遣いするのはやめてもいいのではないか、という意味だ。

 米軍は18カ月でイラクから米国に10万人以上の米軍を撤退する計画を立てたぐらいだから、沖縄からグアムに2万人の海兵隊全部を移すのは半年か1年で十分やれる。(抑止力の面では、海兵隊遠征軍は出先のグアムではなく米本土に置けば十分だ。米政府は金欠なので、グアムに海兵隊遠征軍を置く費用を節約し、第3海兵隊遠征軍を解散して米本土の第1と第2に併合するのではないか)

 グアム移転を一気にやると、日本から米国にあげるお金が減る。だから、米国のルース駐日大使は、鳩山発言後の日本側との協議の場で、異例の激怒をした。しかし、以前の記事に書いた10月のゲーツ国防長官の訪日時の「激怒」以来、私は、米高官の対日激怒は、長期的に見て日本人が米国の傲慢さに腹を立てる方向に寄与するので、米国からの自立を目指す鳩山政権に対する、隠れ多極主義の米中枢からの「応援」ではないかと感じている。

 米政府は「普天間の辺野古移転が実現しないなら、海兵隊はグアムに移転せず、永久に沖縄に駐留するぞ」と言い、日本のマスコミはこの論調を増幅して鳩山を批判している。だが、そもそも米軍の沖縄駐留は金が目当てだから、日本が思いやり予算などの巨額資金を出すのをやめたら、米軍の方が沖縄から出ていきたくなる。何度も言うが、沖縄の海兵隊駐留は、すでに日米双方にとって戦略的価値がない。あるのは米国にとっての金銭的価値だけで、それも米国側は、日本の権力内部でのねじれた状況(官僚支配)の結果であり、いずれ終わると知っていたはずだ。日本のマスコミは「鳩山政権は米国を怒らせる悪い政権だ」という書き方を続けているが、この傾向が続くと、日本人は「マスコミこそ、傲慢な米国の威を借る悪い狐だ」とマスコミ批判を強める。

 以前の記事に書いたが、普天間基地問題では、時間が経つほど、沖縄県民は県外国外移設を求めるようになる。10月には「沖縄県民の意志を尊重する。最後は私が決める」と言い、今回は「グアムも検討対象」と言った鳩山は、沖縄の民意を使って米軍に出ていってもらおうとしているように見える。沖縄県民は従来「海兵隊は、県外か国外に移転してくれ」と言っていたが、今回の鳩山発言を機に、今後は「グアムに移転してくれ」と言うようになるだろう。もし本当に海兵隊をグアムに撤退させられたら、沖縄県民の自信はさらに高まり、嘉手納基地もグアムに移ってくれと言い出すだろう。(沖縄から覚醒する日本)

 鳩山発言に対し、米国側は「普天間問題が解決するまで日本と同盟関係についての協議はしない」と言ってきたが、日米協議の再開が遅れるほど、沖縄は米軍基地追い出しの決意を強め、日本本土の世論も「在日米軍がいなくても困らない」という方向になり、マスコミの論調に対する違和感が強まるのではないか。

▼ガス抜き踊りをやらされる岡田外相

 鳩山政権でもう一つ興味深いのは、岡田外相の動きである。岡田は、普天間移設問題について、何とかして米国と沖縄県民の双方が納得する解決法を編み出そうと、本気で駆け回っている観がある。鳩山や小沢は、最後は在日米軍を全撤退させたいと考えているようだが、岡田はその方針を共有していない。これは何を意味するのか。私の推察は「小沢や鳩山は、外務省のガス抜きのために、岡田を外務省を代弁する役回りに置き、あえて解決不能な状況下で、必死に駆け回らせているのではないか」というものだ。鳩山は岡田に「外務省幹部とよく相談して、普天間移設の解決策を編み出せ」と命じ、その一方で沖縄県民や社民党を基地反対の方に煽り、最終的に「外務省は岡田のもとで、できるだけのことをしたが、在日米軍撤退を止められなかった」という話にするつもりではないか。(岡田外相来県 県外一色苦悩濃く)

 鳩山政権は、外務省と敵対すると、以前の記事に書いた田中角栄のように、外務省の手練手管に潰される。対米従属の外交スキャンダルが不倫絡みの情報漏洩事件にすり替えられた「西山事件」(沖縄密約事件)に象徴されるように、外務省は話をすり替えつつマスコミを操作し、自分たちに都合の良い結論に持っていくプロパガンダに長けている。だから小沢や鳩山は、いちずな岡田を外相に送り込み、外務省のために本気で必死に働かせ、外務省が鳩山政権を敵視できない状況を作った上で、在日米軍引き留めという外務省の長期戦略を潰しにかかっている。(日本の官僚支配と沖縄米軍)

 米国は今春、青森県の三沢基地から40機のF16戦闘機をすべて米国に引き揚げ、代わりに嘉手納基地のF15戦闘機群(50機)の半分を三沢に移転する話を日本側に持ちかけたが、米軍に出て行ってほしくない日本政府は、この案に反対した。この案を復活させ、嘉手納の空いた場所に普天間のヘリ部隊を入れれば、普天間を空けられる。だから岡田は「嘉手納移転」にこだわったが、これについては米国が小沢鳩山に「助け船」を出した。以前は米国から言い出した話を、今回は米国が拒否した。ゲーツ米国防長官は「嘉手納に空軍戦闘機と海兵隊ヘリを一緒に常駐するのはダメだ」と強く言い、外務省案を潰した。実際には、空軍戦闘機と海兵隊ヘリが一つの基地を共有してコストを削減する手法は、ここ数年の米軍再編で推奨されてきた柔軟運営策だが、ゲーツは「ダメ」の一点張りだった。([F15削減難色]これが政府の「本心」か)(米、三沢基地F16撤収を打診 ことし4月、日本難色で保留)

 岡田は、普天間移設問題では外務省のために解決策を探して奔走したが、その一方で「西山事件」(沖縄密約。沖縄返還時の秘密の「思いやり予算」)や「核兵器の日本持ち込み黙認」といった、昔の外務省がやっていた対米従属の秘策について真相究明を進めると宣言している。沖縄密約については、当時の外務次官らが昔の自分の否定証言を覆し、密約の存在を認めている。これらの暴露は、外務省が権力維持のため在日米軍に象徴される対米従属を何とか維持しようと策を弄し続けてきたことを露呈するもので、日本を対米従属から引き剥がす民主党政権の隠れた戦略に沿ったものだろう。(<沖縄返還費肩代わり>「外務省から密約説明」証言)




官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転
【2009年12月10日】
田中 宇

この記事は「日中防衛協調と沖縄米軍基地」の続きです

 前回の記事を書いた後、読者からの連絡を受け、沖縄県宜野湾市の伊波洋一市長が11月末から、在日米軍に関する常識を覆す非常に重要な指摘をしていることを知った。

 沖縄の海兵隊は米国のグアム島に移転する計画を進めている。日本のマスコミや国会では「沖縄からグアムに移転するのは、海兵隊の司令部が中心であり、ヘリコプター部隊や地上戦闘部隊などの実戦部隊は沖縄に残る」という説明がなされてきた。しかし伊波市長ら宜野湾市役所の人々が調べたところ、司令部だけでなく、実戦部隊の大半や補給部隊など兵站部門まで、沖縄海兵隊のほとんどすべてを2014年までにグアム島に移転する計画を米軍がすでに実施していることがわかった。普天間基地を抱える宜野湾市役所は、以前から米軍に関する情報をよく収集し、分析力がある。

 ヘリ部隊や地上戦闘部隊(歩兵部隊)のほとんどがグアムに移転するなら、普天間基地の代替施設を、名護市辺野古など沖縄(日本国内)に作る必要はない。辺野古移転をめぐる、この数年の大騒ぎは、最初からまったく不必要だったことになる。米軍が沖縄海兵隊をグアムに全移転する計画を開始したのは2006年である。日本政府は米軍のグアム移転に巨額の金を出しており、外務省など政府の事務方は米軍のグアム移転計画の詳細を知っていたはずだが、知らないふりをして「グアムに移る海兵隊は司令部などで、沖縄に残るヘリ部隊のために辺野古の新基地が必要だ」と言い続けてきた。(宜野湾市「普天間基地のグァム移転の可能性について」)

 伊波市長は11月26日に上京し、この件について与党の国会議員に対して説明した。同市長は12月9日には外務省を訪れ、普天間基地に駐留する海兵隊はすべてグアムに移転することになっているはずだと主張したが、外務省側は「我々の理解ではそうなっていない」と反論し、話は平行線に終わった。(伊波市長が与党議員に説明した時に配布した資料)(伊波宜野湾市長 政府にグアム移転を要請)

▼司令部は移転する8千人中3千人だけ

「米国は、沖縄海兵隊の大半をグアムに移そうとしている」と伊波市長が主張する根拠の一つは、米当局が11月20日に発表した、沖縄海兵隊グアム移転(グアム島とテニアン島への移転)に関する環境影響評価の報告書草案の中に、沖縄海兵隊のほとんどの部門がグアムに移転すると書いてあることだ。環境影響評価は、軍のどの部門が移転するかをふまえないと、移転が環境にどんな影響を与えるか評価できないので、米軍が出したがらない移転の詳細を報告書に載せている。(Guam and CNMI Military Relocation Draft EIS/OEIS)

 8100ページ、9巻から成る環境影響評価の報告書草案の2巻や3巻に、沖縄からの海兵隊移転の詳細が書かれている。そこには、海兵隊のヘリ部隊だけでなく、地上戦闘部隊や迫撃砲部隊、補給部隊までグアムに行くことが書いてある。第3海兵遠征軍(MEF)の司令部要素(3046人)だけでなく、第3海兵師団部隊の地上戦闘要素(GCE、1100人)、第1海兵航空団と付随部隊の航空戦闘要素(ACE、1856人)、第3海兵兵站グループ(MLG)の兵站戦闘要素(LCE、2550人)が、沖縄からグアムに移転する。4組織合計の移転人数は8552人であり「沖縄からグアムに8000人が移転する」という公式発表と大体同じ人数である。「グアムに移転する8000人は司令部中心」という外務省などの説明は明らかに間違いで、司令部は3046人で、残りは実戦部隊と兵站部隊である。(VOLUME 2: MARINE CORPS - GUAM)(宜野湾市「普天間基地のグァム移転の可能性について」)

 米国側が、沖縄の海兵隊の大半がグアムに移る計画内容を発表したのは、これが初めてではない。2006年9月に米軍が発表した「グアム統合軍事開発計画」に、海兵隊航空部隊とともにグアムに移転してくる最大67機の回転翼機(ヘリコプター)などのための格納庫、駐機場、離着陸地(ヘリパッド)を建設すると書いてある。普天間に駐留する海兵隊の回転翼機は56機だから、それを超える数がグアムに移転する。普天間の分は全部含まれている可能性が高い(残りは米本土からの前方展開かもしれない)。(Guam Integrated Military Development Plan)

 この「グアム統合軍事開発計画」は、グアムを世界でも有数の総合的な軍事拠点として開発する戦略だ。米国は「ユーラシア包囲網」を作っていた冷戦時代には、日本や韓国、フィリピンなどの諸国での米軍駐留を望んだが、冷戦後、各国に駐留する必要はなくなり、日本、韓国、台湾、フィリピン、インドネシアなどから2000海里以下のほぼ等距離にあるグアム島を新たな拠点にして、日韓などから撤退しようと考えてきた。(グアムの戦略地図)

 その具体策として、海兵隊の全構成要素を沖縄から移すだけでなく、海軍と空軍の大拠点としてグアムを開発し、米軍の全部門が連携できる体制を作る計画を打ち出している。沖縄の海兵隊は、小さな出先機能が残存する程度で、残りはすべてグアムに移る方向と考えるのが自然だ。(「グアム統合軍事開発計画」より抜粋)

▼一週間で消された詳細なグアム計画

 米軍の「グアム統合軍事開発計画」は、06年7月に策定され、9月に発表された。策定の2カ月前の06年5月には、米軍再編(グアム移転)を実施するための「日米ロードマップ」が日米間で合意され、この時初めて、日本政府が沖縄海兵隊グアム移転の費用の大半(総額103億ドルのうち61億ドル)を払うことが決まった。米軍は、日本が建設費を負担してくれるので、グアムに世界有数の総合的な軍事拠点を新設することにしたと考えられる。(再編実施のための日米のロードマップ)

 とはいえ、米軍の「グアム統合軍事開発計画」は、国防総省のウェブサイトで公開されて1週間後に、サイトから削除されてしまった。「日米ロードマップ」にも、沖縄からグアムへの海兵隊移転は「部隊の一体性を維持するような形で」行うと書いてあり、司令部だけではなく実戦部隊も移転することがうかがえるが、同時に「沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援及び基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成される」とも書いてある。「海兵空地任務部隊」とは、海兵隊の主要機能全体をさす言葉で、曖昧である。(Marine Air-Ground Task Force From Wikipedia)

 日米は、沖縄海兵隊のうち何がグアムに移転し、何が沖縄に残るかを意図的に曖昧にしておくことで、海兵隊が今後もずっと沖縄に駐留し続け、日本政府は「思いやり予算」などの支出を米軍に出し、財政難の米軍はその金をグアム基地の運用費に流用し、日本政府は1日でも長く続けたかった対米従属の構図を残せるという談合をした疑いがある。「グアム統合軍事開発計画」は、具体的に書きすぎており、沖縄海兵隊が全部グアムに移ることがバレてしまう心配が出てきたので、1週間で削除したのだろう。(日本の官僚支配と沖縄米軍)

 その後、宜野湾市関係者が、グアム統合軍事開発計画を根拠に、米国沖縄総領事に「普天間基地の海兵隊ヘリ部隊がグアムに移転する計画ではないか」と尋ねたところ、総領事は「あれは紙切れにすぎない」「正式な決定ではない」と返答し、沖縄海兵隊でグアムに移るのは司令部機能だけだと主張した。だが、その3年後の今年11月20日の環境影響評価の報告書草案でも、グアム統合軍事開発計画の内容は踏襲されており、米軍は沖縄海兵隊の大半をグアムに移す計画を粛々と進めている。伊波市長は先日、グアム統合軍事開発計画について「この3年間、この計画に沿ってすべてが進行している」と指摘した。(宜野湾市「普天間基地のグァム移転の可能性について」)

 宜野湾市は、周辺市町村も誘って、2007年8月にグアム島の米軍基地を視察し、米軍やグアム政府からの聞き取りや資料集めを行った。その結果、以下のことがわかった。(1)グアムのアンダーセン空軍基地の副司令官に、沖縄の海兵隊航空部隊の施設建設予定地を案内され「65機から70機の海兵隊航空機が来る」と説明を受けた。普天間の常駐機は71機。ほぼ全数がグアムに移る。(2)グアムのアプラ海軍基地に、今は佐世保に配備されている、強襲揚陸艦エセックス、ドック型揚陸艦ジュノー、ドック型揚陸艦ジャーマンタウン、ドック型揚陸艦フォートマックヘンリーのために、停泊施設が新設される。海兵隊の軍艦は、佐世保からグアムに配置換えになる。有事に備え、揚陸艦の近くに駐留せねばならない海兵隊の戦闘部隊や兵站部隊からなる第31海兵遠征部隊も、グアムに移る可能性が高い。(グァム米軍基地視察報告(2007年8月13日))

 08年9月には、米国防総省の海軍長官から米議会下院軍事委員会に、グアム軍事計画の報告書「グアムにおける米軍計画の現状」が提出された。その中に、沖縄からグアムに移転する海兵隊の部隊名が示されており、沖縄のほとんどの実戦部隊と、ヘリ部隊など普天間基地の大多数の部隊がグアムに行くことが明らかになった。(宜野湾市「普天間基地のグァム移転の可能性について」)

▼外務省が捏造した1万人の幽霊隊員

 外務省発表や大手マスコミ報道によると、沖縄には1万8000人の海兵隊員がおり、グアムに移るのはそのうち8000人だけで、グアム移転後も沖縄に1万人残る話になっている。私もその線で記事を書いてきた。しかし、在日米軍の司令部によると、1万8000人というのは「定数」であり、実際にいる数(実数)は1万2500人である。しかも、沖縄タイムスの06年5月17日の記事「グアム移転 人数の『怪』」によると、沖縄にいる海兵隊の家族の人数は8000人で、発表どおり9000人の家族がグアムに移るとなると、残る人数が「マイナス」になってしまう。(「在沖縄海兵隊のグアム移転に係る協定」の署名に抗議する)

 沖縄海兵隊の「実数」は、軍人1万2500人、家族8000人の計2万0500人だ。これに対してグアムが受け入れる人数は軍人8000人、家族9000人の計1万7000人である。家族数の「マイナス」に目をつぶり、総数として引き算すると、沖縄に残るのは3500人のみだ。米軍再編の一環としての「省力化」を考えれば、米本土に戻される要員も多いだろうから、沖縄残存人数はもっと減る。今回の宜野湾市の資料は「沖縄に残るとされる海兵隊員定数は、今のところ空(から)定数であり、実働部隊ではない」としている。空定数とは、実際はいないのに、いることになっている人数(幽霊隊員)のことだろう。(宜野湾市「普天間基地のグァム移転の可能性について」)

 外務省などは、1万人の幽霊部員を捏造し、1万人の海兵隊員がずっと沖縄に駐留し続けるのだと、日本の国民や政治家に信じ込ませることに、まんまと成功してきた。沖縄の海兵隊駐留は、日本が対米従属している象徴であり、外務省は「米国に逆らうと大変なことになりますよ」と政治家や産業界を脅し、その一方で、この「1万人継続駐留」を活用して思いやり予算などを政府に継続支出させて米軍を買収し「米国」が何を考えているかという「解釈権」を持ち続けることで、日本の権力構造を掌握してきた。(日本の官僚支配と沖縄米軍)

 この捏造された構図の中では、普天間基地は今後もずっと返還されない。辺野古では、すでにキャンプ・シュワブの海兵隊基地内に、海兵隊員用のきれいな宿舎や娯楽施設が何棟も建設されている。海兵隊員は2014年までにグアムに移るのだから、これらは短期間しか使われない。外務省らの詐欺行為によって、巨額の税金が無駄遣いされてしまった。これは、自分らの権力を増強するため公金を無駄使いする犯罪行為である。伊波市長は今年4月、参考人として国会に出たときに「幽霊定数が重視されるのなら(海兵隊グアム移転費として日本が出す)60・9億ドルは無駄金になりかねません」と言っている。(○伊波参考人 2009年4月8日)

(最終的に、海兵隊が沖縄から出ていった後、キャンプ・シュワブは自衛隊の基地となり、辺野古の宿舎は自衛隊が使うことになるのかもしれない)

▼歓迎されない橋下関空容認発言

 沖縄海兵隊は、1万人の幽霊定員を残し、日本から巨額の金をもらいつつ、着々と沖縄からグアムに移転している。しかし表向きは、1万人残存を前提に、辺野古に新しい基地を作る話が続いており、沖縄の人々は反対の声を強めている。

 反対の声を聞いて、大阪の橋下徹知事が11月30日に「海兵隊が関西空港に移ってくることを容認する」という趣旨の発言をしたが、実は橋下知事はその2週間前にも記者団に同様のことを言っており、その発言は国会でも問題になったが、マスコミはこれらの出来事をまったく無視した。11月30日の会見はフリーのジャーナリストが会見の一部始終をユーチューブで公開し、それが人々の話題になったので、仕方なくマスコミも橋下の発言を報道したのだという。(大手マスコミ黙殺した橋下発言 「普天間関西へ」浮上の舞台裏)

 マスコミを、外務省など官僚機構が操作するプロパガンダ機能としてとらえると、マスコミが橋下発言を無視する理由が見えてくる。米軍は沖縄海兵隊のほとんどをグアムに移転するのだから、普天間基地の代替施設は日本に必要ない。「普天間の移転先を探さねば」という話は、具体化してはならない。橋下がよけいな気を回し、本当に海兵隊を関西空港に移す話が具体化してしまうと、詐欺構造が暴露しかねない。だから、橋下の発言は歓迎されず、無視されたのだろう。

 海兵隊の移転先として硫黄島の名前が挙がったり、嘉手納基地と統合する構想が出たりしているが、同様の理由から、いずれも話として出るだけで、それ以上のものにはなりそうもない。

(橋下知事は大阪府民に向かって「みんなで沖縄のことを考えよう」と呼びかけており、これは以前に書いた「沖縄から覚醒する日本」と「民主党の隠れ多極主義」で指摘した、沖縄基地問題と地方分権をつないだ日本覚醒の流れに見える)(沖縄から覚醒する日本)(民主党の隠れ多極主義)

▼日本の将来を決する天王山に

「海兵隊はグアムに全移転しようとしている」という、宜野湾市長の指摘も、マスコミでは報じられなかった。だが、11月末に伊波市長がその件を与党議員に説明した後、12月に入って鳩山首相が「そろそろ普天間問題に日本としての決着をつけねばならない」「グアムへの全移転も検討対象だ」と発言し、事態が一気に流動化した。鳩山がグアム全移転を言い出したことが、伊波市長の指摘と関係あるのかどうかわからないが、議論の落としどころは「グアム全移転」で、それに対する反対意見を一つずつガス抜きしていくような展開が始まっている。(普天間移設「新しい場所を」首相が指示)

 そもそも「グアム全移転」は、日本側が提案することではなく、すでに米国がやっていることなのだが、世の中はマスコミ報道を「事実」と考えて動いており、海兵隊1万人沖縄残留という捏造話が、国民の頭の中で「事実」になっている。マスコミがプロパガンダ機能だと国民に気づかせることが首相にもできないほど、この機能が持つ力が強い以上、鳩山はグアム全移転を「米国に提案する」という形式をとらざるを得ない。

 鳩山は「(普天間移設に関する)政府の考え方をまとめるのが最初で、必要、機会があれば(米大統領と会談したい)」と言っているが、まさに必要なのは、米国と再交渉することではなく、政府の考え方をまとめ、海兵隊員水増しの捏造をやめることである。外務省など官僚機構が了承すれば、日本は「海兵隊は2014年までにグアムに全移転してほしい」という方針で一致し、米軍がすでに進めている移転計画を、ようやく日本も共有することになる。(日米首脳会談、要請もできず…米側も消極的)

 海兵隊グアム全移転が政府方針になると、海兵隊1万人沖縄残留という捏造話に基づく対米従属の構造が崩れ、外務省など官僚機構は力を失っていく。だから外務省とその傘下の勢力は、全力で抵抗している。事態は、日本の将来を決する「天王山」的な戦いとなってきた。自民党は、民主党政権を批判すべく、今こそとばかり党内に大号令をかけた。自民党は、官僚依存・対米従属の旧方針を捨て、保守党としての新たな方向をめざすべきなのだが、依然として官僚の下僕役しか演じないのは愚かである。(自民が民主批判の大号令、問題指摘のメモ作成)

 政権内では、北沢防衛大臣がグアムを訪問した。海兵隊のグアム全移転が可能かどうかを視察しに行ったのだろうが、向こうの米軍などに恫喝されたらしく、グアムにいる間に「グアム全移転はダメだ。日米合意からはずれる」と表明した。これに対して社民党の議員が「ちょっと行って、ちょろっと見て『ダメ』って結論が出るのか」と非難するなど、連立与党内も乱闘になっている。(社民・重野氏「ちょろっと見て結論出るのか」 グアム移設で防衛相に不快感)

 日本政府が「グアム全移転」でまとまった場合、日本が米軍の移転費用を2014年以降も出し続けるかどうかが、日米の問題となる。米軍がグアム島を大軍事基地に仕立てる計画について、米軍は当初、総額107億ドルで完成できる(うち60・9億ドルを日本が出す)と言っていたが、これにはグアムで軍関係の人員や車両が増えることによる道路や上下水道、電力網などの補強工事にかかる61億ドルが含まれていない。米政府の会計検査院(GAO)は今年7月、この件で米軍を批判する報告書を発表した(基地移設により、島内人口は14%増となる見込み)。(GAO says cost of Guam move will exceed estimate)

 米軍は予算オーバーの常習犯で、事業が予算を大幅に超過するのは30年前からの常態だ。米軍は、超過分は日本に出させようと考えていただろうが、鳩山政権は対米従属からの自立を掲げており、財政難を理由に、金を出し渋るだろう。今回の北沢防衛相のグアム訪問時に、グアムの知事が沖縄からの海兵隊移転に初めて反対を表明したが、この反対表明の裏には、日本にグアムのインフラ整備費も出してほしいという要求があるのだろう。

 米政府も財政難なので、海兵隊グアム移転にかかる費用の増加分を日本が出さない場合、海兵隊がグアムに移らず、普天間に居座る可能性もある。だが、そうなると海兵隊の居座りに対する沖縄県民の反対も強くなり、鳩山政権は、金を出さないで海兵隊に撤退を要求するという、フィリピンなど世界各国の政府がやってきた「ふつうの国」の要求をするかもしれない。最終的に、米軍は日本らか追加の金をもらえずに出て行かざるを得ず、この場合はグアム移転の要員数が縮小され、米本土に戻る人数を増やすことで対応すると思われる。「政府や議会が一度決議するだけで米軍を出て行かせられる」という、日本人が「そんなことできるわけない」と思い込まされてきた世界の常識が、ようやく日本でも実行されることになる。

 沖縄では、来年の沖縄県知事選で、宜野湾市の伊波市長に出馬してもらおうとする動きがあると聞いた。もし伊波市長が沖縄県知事になったら、沖縄県は米軍駐留をなるべく早く終わらせようとする姿勢に転換し、東京の政府も無視できなくなる。それは、沖縄が米軍基地の島を脱却することにつながりうる。




◆強まる日中韓の協調
【2009年12月15日】
田中 宇
まだ開くことができません。 開けれるようになったら、入れ替えます。

 【2009年12月15日】 米国のボズワース特使の訪朝によって、来年の6カ国協議開催と、北核廃棄・米朝と南北の和解・日韓の対米従属の終わり・東アジア新安保体制への転換という流れが復活した。この流れを受けて日本では、東アジア共同体構想が出たり、小沢の大訪中団が繰り出したり、既存の宮内庁体制を破る形で天皇の習近平会見が行われる動きになっている。小沢や鳩山は、従来の日本で「マスコミや世論を敵に回すので提起しない方が良い」と考えられてきた「米軍基地は日本に必要なのか?」「日本は対米従属のままで良いのか?」「中国、朝鮮、ロシアを嫌うのは国益に合うのか?」「皇室と国民の関係はこれでいいのか?」などといった問題を、あえて蒸し返している。この動きは、世論に問いを吹き込むことで「戦後のタブー」を露呈させ、米国覇権が壊れて世界が多極化する今後、日本がどのような国になるのが良いかを、日本人が模索できるようにしているように見える。