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折々の記 2013 ⑦
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 02 】12/04

  12 04 尖閣諸島の問題  尖閣は再び世界が注目する小島となるのか?
  12 05 論語読みの論語知らず  讀論語、有讀了後、直有不知手之舞之、足之蹈之者。
  12 06 時は流れて、多数の横暴というべきわが国会である  2014.12.5~6 天声人語
  12 06 2013.12.5 の新聞記事  日本の歴史の曲がり角にならねばいいが ……

 12 04 (水) 尖閣諸島の問題   尖閣は再び世界が注目する小島となるのか?

安倍総理の保守逆行、戦前の日本国家のような独りよがりの姿勢は、ますますおかしくなってきています。

中国敵視のような、積極平和と言いながら中国に対して友好の手を差し伸べるような手は全く使わず日中の関係をぎくしゃくした状態にしてしまいました。

自分の都合のみ考え、アメリカの言いなりになって同盟関係の強化のみ計って近隣諸国との友好を無視するようになりました。 これでは誰でも嫌気がさします。 自民党諸氏は総理の上手い言い回しにのせられて、自分の信念も主張することなく「寄らば大樹」という旧来の陋習にドップリつかっていて、気品のある国家を目指そうとはしていないように見受けられます。

老生にはそのように思われて仕方ありません。

東洋の倫理観は身につけて育ってきてはいないのでしょうか。 儒教に徹せよとは言いませんし、仏教に徹せよとも言いません。 日本が歩んできた歴史の中から、今の政治に資する有用な思想をくみ取らなくてはなりません。 倫理観を身に着けていなければならないのです。

テレビの画像に現われるようなピエロ風の人気とりは唾棄していなければなりません。 孤高の気質こそ、孤高の倫理観こそ総理のバックボーンとしていなければならないのです。

尖閣問題一つにしても、多くの国民は日本と中国をギクシャクした関係にしたくないと思っているに違いありません。

庶民の心がわからないのです。 総理という一国のリーダーは大多数の国民の心に沿った方向に国を導いていかなければなりません。



livedoorニュース  2013年11月26日 10:00
  尖閣は再び世界が注目する小島となるのか?
   http://blogos.com/article/74492/

中国の尖閣を含む東シナ海への防空識別圏設定は大きな波紋となっています。日本側は安倍首相を始め、各方面から厳しいコメントが出され、中国側の即座の撤回を求めています。一方、中国側は当然の行為としてその撤回を行う気配は今のところ見られません。この小島を巡る争いは再び、世界の注目となるのでしょうか?

1937年7月7日、日中戦争のきっかけとなる盧溝橋事件がおきました。北京郊外の盧溝橋では日本軍、中国軍が双方にらみを利かせ、緊迫した空気がありました。その中、一人の日本兵が行方不明になったことから一気に事が動き、それに反応した中国側の発砲(誤発砲との見方が強い)で双方がぶつかる事件と発展、歴史的には日中戦争の引き金とされる事件であります。この事件は現時点でも必ずしもどちらがどうだったという決定的な確証がなく歯切れの悪い終結だったことがキーではなかったかと思っています。私が気にしているのは日中の間にはこのような双方の言い分が食い違うことを発端とした争いがしばしば起きているということです。

尖閣にしても日本側の論理と中国側の論理はまったく相違しています。ただ日本の報道ではアメリカはさも日本側についているという報道も見受けられますが、アメリカは尖閣の「施政権」について述べたのみであり、「所有権」については明言を避けているのです。日本側の主張どおり、歴史的に日本が所有しているという点は確かに説得力があるのですが、海外から第3者としてどちらの肩を持つ、というクリアなボイスはアメリカを含めない点は留意が必要かもしれません。

非当事者国からすれば南シナ海に浮かぶ小島を巡り世界第2と第3の経済大国が争っているという理解しがたい状況にあるのです。しかも前回、尖閣の問題が生じたとき、世界は両国が戦争でもするのではないかと震撼させたのであります。当然ながらその裏にはたかがこれぐらいのことも当事者間で解決できないのか、という目線や批判もあったという点は含みおくべきです。

もちろん、戦争の歴史を見れば第一次世界大戦に於いてサラエボ事件という非常にスペシフィックな事件があのような大戦に繋がったわけですからその批判は正しくないのかも知れません。が、問題はそれ以降、戦争への反省があったにもかかわらず、国際間のいざこざを扱う機関は限られ、国際紛争解決がスムーズではなかったということでしょう。その点、近年のロシアは国境が不確定だったところについて北方領土以外すべて解決した点において交渉力を見せつけていると思います。

さて、この防空識別圏は双方が譲らなければ将来予期せぬ事故が起きる可能性は否定できません。その際、事故の原因についてお互いがお互いの主張をすればそれこそ盧溝橋事件のように泥沼の関係を築く公算があります。習近平国家主席は日中間の経済関係と南シナ海の統治については「別物」とし、経済関係は徐々に関係を強めていくとしながらも領土問題については断固とした姿勢をとるとしています。

問題は経済問題と領土問題を含む国家間の関係を切り離せるのか、という点ではないでしょうか?習国家主席の論理は都合が良すぎるように見えます。

一番気をつけなくてはいけないのは日本と中国には折り合えない部分があるということです。折り合えないのだからそこを根本的に解決することは不可能であって、むしろ、そこに入り込むことを未然に防ぐことが国際紛争解決の方法だともいえます。鄧小平氏が日中間の潜在問題の先送りをした意味はそこにあります。とすれば、島のあり方も「さわらずに距離を置く」というスタンスも意味があるものと思います。安倍首相は白黒をはっきりさせたいのかもしれませんが、すべてがクリアカットにできるものではないことは歴史が証明していると思います。

本件は実に憂慮すべき事態かと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

 12 05 (木) 論語読みの論語知らず   言葉だけの知識

「論語読みの論語知らず」の意味を易しく解説してください
  ベストアンサーに選ばれた回答

naganaga403さんが『論語を読んで頭では理解しても、実行が全くともなわない人を指します』と回答しています。 それでも良いのですが、『論語を読んで、記憶していて、その説明さえしてくれるのに、肝心な内容が理解できていない人』という方が、当たっているような気がします。
    <http://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%96%E8%AA%9E%E8%AA%AD%E3%81%BF%E3%81%AE%E8%AB%96%E8%AA%9E%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9A>
   URLの内容

論語読みの論語知らず(ろんごよみのろんごしらず)1.論語を読んだが内容を理解していない人。転じて、知ったような顔をしているが、物事の本質を理解していない、ということのたとえ。 畢竟この輩の学者といえども、その口に講じ、眼に見るところの事をばあえて非となすにはあらざれども、事物の是を是とするの心と、その是を是としてこれを事実に行なうの心とは、まったく別のものにて、この二つの心なるものあるいは並び行なわるることあり、あるいは並び行なわれざることあり。「医師の不養生」といい、「論語読みの論語知らず」という諺もこれらの謂ならん。ゆえにいわく、人の見識、品行は玄理を談じて高尚なるべきにあらず、また聞見を博くするのみにて、高尚なるべきにあらざるなり。(福沢諭吉 『学問のすすめ』)

語源  論語(朱熹集註)『論語序説』に登場する程子の言葉から
     <http://www.1-em.net/sampo/sisyogokyo/sisyo/rongo/index.htm>
   URLの内容

程子曰、讀論語、有讀了全然無事者。有讀了後、其中得一兩句喜者。有讀了後、知好之者。有讀了後、直有不知手之舞之、足之蹈之者。

【読み】
程子曰く、論語を讀み、讀み了って全然無事なる者有り。讀み了って後、其の中一兩句を得て喜ぶ者有り。讀み了って後、之を好むことを知る者有り。讀み了って後、直ちに手の之を舞い、足の之を蹈むことを知らざること有る者有り。
関連語
派生した言い方: マルクス読みのマルクス知らず マルクスの著作を読んではいるが、その思想の本質を理解していない人のことをいう。

参照
(江戸いろはがるた)論より証拠

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
偉そうなことを言っているけれども、実際の場面では役立たない人。
たくさん勉強していて、テストの点数も悪くないのに、応用問題や現実の解決策はわからない人。
専門書や難しい本を読んで文章や言葉を記憶しているだけで、意味が理解できていない人。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お坊さんをまねて、お経を覚えても、そのままでは呪文のようになってお経の意味はまったくわかりません。これも「お経読みのお経知らず」です。
論語は、日本では、素読という方法で読んでいました。 先生の発音を聞いて、とにかく同じように発音するのです。
多くの人にとって論語は、そのままでは意味がわからないか、自分流の誤解をします。 専門的に勉強する人は先生から講義で説明してもらえるのですが、その説明も簡単で分かり易い言葉ではなかったのです。場合によっては、100回読めば 自然に意味がわかるから、何度も読みなさいと言われてしまう場合もありました。 何年も論語を読んでいて、今からその意味を聞くこともできないので、結果、自分流に解釈することが多かったのです。
だから、論語を読んでいる多くの人は、意味がよくわかっていないか、いい加減な理解でした。 それで、きっと、【論語をよく読んでいる偉そうなAさんに聞いて「ああそうなのか」と思っていたら、論語を読んでいるB老人にきいたら別の説明をしてくれて、論語を読んでいる人への信頼感ががっくり落ちた】というようなことがあったのでしょう。 【いつも偉そうで、「病気はなんでも私に任せろ!」と言っていた医者が病気でダウンして、医者もダメなんだなと経験した】なども、同じようなことわざになっていったのだと思います。

(道徳や倫理だけのことではないし、理論と実践のこととは限りません)
『知らず』=『わかってない』ということです。

学校の勉強や試験対策で、正しい回答、公式を覚えているだけで、内容を理解しないと、そのときの試験では、穴埋めでも、計算でも、100点を取れても、数ヶ月後、数年後には、記憶は残っていても「論語読みの論語知らず」のようになる危険があります。



 12 06 (金) 時は流れて、多数の横暴というべきわが国会である  2014.12.5~6 天声人語

2014.12.5 天声人語(数の力に傲る政治)

 あすは「音の日」、米国のエジソンが蓄音機を発明したのにちなむそうだ。そのエジソンが初めて取った特許は「電気投票記録機」なるものだった。議員が机上のスイッチを押すと即座に賛否と氏名が分かる。自信満々で州や国の議会に売り込んだ▼実演は上々だったが、買い手はつかなかった。簡単に採決できる機械は少数党の意見を封じてしまう、といった理由だった。議会の責任者は言ったそうだ。「時間がかかるのは無駄なようだが、それが政治の妙味なのだ」▼時は流れて、妙味どころか多数の横暴というべきわが国会である。巨大与党は何がなんでも特定秘密保護法案を採決するようだ。通ってしまえば手遅れだと、かくも多くの人が叫ぶ代物を、である。漫画家ちばてつやさんの言葉を借りる。「なぜ、これほど国民を軽視するのか」▼安倍首相にしろ、自民党の石破幹事長にしろ、数に驕(おご)って見下ろし目線になっていないか。連立を組む公明党も情けない。「ブレーキ役」を任じたはずが一緒に走っている印象だ▼エジソンが蓄音機に自身でよく吹き込んだのは「メリーさんの羊」だったそうだ。おなじみの歌詞、「♪どこでもついていく かわいいわね」のくだりが公明党にだぶってくる。自民党の「お供」では、失望する人は多かろうと思う▼順風に驕らぬ人徳を得意淡然などという。権力者であればこそ「得意傲然(ごうぜん)」では困る。もっと時間をかけて――の声になぜ耳をふさぐのだろう。言論の府の名が泣いている。

【下平・註】傲岸無礼(ゴウガンブレイ)という言葉がある 〔傲=おごる〕
 ⇒[名・形動]いばり返って、人を見下し、へりくだる気持ちがないこと。また、そのさま。傲岸不遜に同じ。

2014.12.6 天声人語(強行採決への不信感)

 ユーモアの奥底に真実がひそむことがある。終戦から間もないころ、吉田茂首相は国内の食糧不足量を多く見積もりすぎてマッカーサー元帥に文句を言われたそうだ。すかさず「日本の統計が正確だったら、戦争に負けていませんよ」と切り返して言い逃れたというから、この人らしい▼「正確なら負ける戦争など仕掛けなかった」といった意味合いだったろう。記憶の底でホコリをかぶっていた逸話が、きのうの本紙オピニオン面を読むうちに浮かび上がってきた▼東大教授の岡崎哲二さんによれば、金属・機械・化学各工業の統計が日米開戦の2年前から「秘」扱いになった。つまり国力の基本的な情報を一般国民には秘したまま、開戦は決断されたのだという▼工業統計だけでなく、様々に目隠しをされたまま国策が決まった時代。どこへ連れて行かれるのか分からない人々の不安は想像できる。結局、相手の物量に対抗するためにおびただしい人命を注ぎ込んで、戦争は終わった▼国民は自分たちのレベルに見合った政府しか持ちえないという。英国の歴史家カーライルは「この国民にして、この政府」と警句を残したそうだ。ごり押しと混乱の永田町を眺めつつ思う。私たちはこのレベルか。もう少しましな政治が持てそうなものだが▼秘密法案の強行成立を、与党は譲らない。「決められない政治」に懲りて自民党に衆参で多数を与えた。その結果がこれでは、一票を悔やむ人は多いだろう。不信感の統計は膨大に違いない。

英国の歴史家カーライルは「この国民にして、この政府」と警句を残したそうだ

  <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%AB>

 12 06 (金) 2013.12.5 の新聞記事  日本の歴史の曲がり角にならねばいいが ……

(1面)

 参院委、きょう採決強行 野党、反発強める 秘密保護法案〈写真〉
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040635.html?ref=pcviewer

 (異議あり 特定秘密保護法案)異論言えない「萎縮社会」進む 蓮池透さん〈写真〉
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040591.html?ref=pcviewer

 これは民主主義への軽蔑だ 秘密保護法案 論説主幹・大野博人
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040652.html?iref=comkiji_redirect

 防空圏、中国主張変えず 米副大統領、習主席と会談
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040590.html?iref=comkiji_redirect

 (天声人語)数の力に傲る政治
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040633.html?iref=comkiji_redirect

(2面)

 名ばかり第三者機関 首相、新しいチェック組織言及 秘密保護法案
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040697.html?iref=comkiji_redirect

 (秘密保護法案 条文解説ここが問題)なぜ逮捕?裁判でも秘密
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040681.html?iref=comkiji_redirect

(3面)

 防空圏、米中探り合い 日米「温度差」、突く中国
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040647.html?iref=comkiji_redirect

 公明、補完勢力化進む 持論より自民に配慮 秘密保護法案
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040615.html?iref=comkiji_redirect

(4面)

 (秘密保護法案)参院公聴会、懸念解消できず 出席、与党・共産のみ
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040790.html?iref=comkiji_redirect

 (秘密保護法案)6日まで、無理ある/どこかで終局判断する 党首討論4日
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040809.html?iref=comkiji_redirect

 国家安保会議が初会合 非公開、防空圏対応など議題
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040804.html?iref=comkiji_redirect

 「イケイケで強権的では機密守れない」 亀井静香氏、秘密保護法案の審議めぐり
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040797.html?iref=comkiji_redirect

(16面)

 (社説)秘密保護法案 採決強行は許されない
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040653.html?iref=comkiji_redirect

 (社説)中国防空圏 不測の事態を避けよ
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040623.html?iref=comkiji_redirect

 (声)石破氏発言で露呈した危うさ
  http://digital.asahi.com/articles/OSK201312040141.html?iref=comkiji_redirect

 (声)公明党は立党精神に戻って
  http://digital.asahi.com/articles/OSK201312040145.html?iref=comkiji_redirect

 (声)情報公開法はすでに骨抜き
  http://digital.asahi.com/articles/OSK201312040144.html?iref=comkiji_redirect

(38面)

 (秘密保護法案)「アリバイ作り」「茶番」 公聴会に300人が抗議
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040821.html?iref=comkiji_redirect

 (秘密保護法案)「いったいどんな国にしたいのですか」 山田洋次監督
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040828.html?iref=comkiji_redirect

 (秘密保護法案)写真家も反対 声明を発表
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040827.html?iref=comkiji_redirect



(1面)2番目の記事

(異議あり 特定秘密保護法案)異論言えない「萎縮社会」進む 蓮池透さん〈写真〉
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040591.html?ref=pcviewer

 ■拉致被害者家族・蓮池透さん

 拉致被害者の家族には政府機関から丁寧な状況説明がある、と思う人がいるかもしれませんが、実際は違います。捜査上や外交上の秘密を理由に、詳しい説明は家族でも受けられませんでした。

 知りたいことがたくさんあります。2002年9月の小泉純一郎首相の電撃訪朝はどう実現したのか。被害者8人の「死亡」を北朝鮮の言うがままに受け入れてまで、なぜ日朝平壌宣言への署名を急いだのか。家族として知る権利があるし、隣国との歴史の一幕を正確に記録する意味でも説明が必要だと思います。

 特定秘密保護法は、こうした情報を永遠に封印してしまうかもしれない。強い危惧を覚えます。一番心配するのは報道の萎縮です。政府から情報が得られない中で、新聞やテレビの報道は、家族にとって時に希望をつなぐ唯一無二の情報だったからです。

 日本社会そのものにも重大な影響をもたらすと思います。拉致問題の発覚は、結果的に「北朝鮮たたき」の世論形成にもつながりました。今はマスコミですら、北朝鮮との交渉や対話を主張しにくい状況になっている。異論を言いにくい「萎縮社会」の芽はすでにあるのです。

 拉致問題に取り組むには、人権問題に加え、国際情勢や日本と朝鮮半島の歴史を幅広く理解し、意見を出し合うことが重要だと考えるようになりました。法案は逆に、社会を一つの意見に誘導する危険をはらんでいると思います。

(1面)3番目の記事

これは民主主義への軽蔑だ 秘密保護法案 論説主幹・大野博人
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040652.html?iref=comkiji_redirect

 特定秘密保護法案をこのまま成立させるとすれば、立法府自身が民主主義への深い軽蔑を告白することになるだろう。

 国家運営に情報を隠さなければならない局面はある。厳格な管理を求められるときもある。だが、それは民主的に管理されなければならない。特定秘密保護法案には、その基本が欠落している。

 どんな種類の情報が秘密になっているのか、それが妥当かどうか、知る術(すべ)がない。長い年数を待てば、明らかになるかどうかもわからない。国民を代表してチェックする者もいない。

 だから、多くの国民が知る権利の侵害を心配している。問題は「秘密」以上に「秘密についての秘密」だ。これが放置されるかぎり、秘密は増え続け、社会に不安と不信が広がる。「国家に秘密は必要」と繰り返しても、その懸念に応えることにはならない。

 にもかかわらず、政府・与党は成立に向けて突き進んでいる。

 先月、福島市であった法案の公聴会で、意見を述べた7人全員が反対を表明した。それをあざ笑うように衆院は翌日に強行採決。4日はさいたま市で公聴会を開いた。そして時をおかずに参院で採決する方針という。また、自民党の石破茂幹事長は、反対を訴える街頭運動をテロにたとえた。

 政界の外の市民の声には、聴いているふりをするか、迷惑騒音扱いするか。主権者は投票日の1票にすぎないと考える冷笑的な態度が透けて見えるようだ。

 そもそも、その1票すら格差を長年にわたり放置。司法から衆参両院とも実質的には「違憲の府」と厳しい指摘を受けた。それにもかかわらず、根本的改革にはなかなか取り組もうとしない。

 人々が自由なのは選挙のときだけで、投票したあとは政治の奴隷になってしまう――。18世紀の思想家ルソーは英国の議会政治をそう批判した。代表制民主主義がはらむそんな危うさを、今の日本で現実のものにしてしまうのか。

 民主主義を軽蔑していないという政治家は、この法案の成立を阻むべきだ。

(1面)4番目の記事

防空圏、中国主張変えず 米副大統領、習主席と会談
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040590.html?iref=comkiji_redirect

 バイデン米副大統領は4日、中国・北京を訪れ、習近平(シーチンピン)国家主席らと会談した。中国メディアによると両氏は中国が設定した防空識別圏について協議し、習氏は中国の「原則的立場」を強調した。これに対し、バイデン氏は米側の懸念を示したものとみられる。▼3面=探り合い、16面=社説

 バイデン氏は4日、習氏、李源潮(リーユワンチャオ)国家副主席とそれぞれ会談した。米中の首脳級会談は、6月に米カリフォルニア州であったオバマ米大統領との会談以来。

 中国国営中央テレビによると、習氏は防空圏について「原則的な立場を重ねて強調した」という。中国はこれまで、国防省の報道官声明などで「国際慣例に沿った正当な行為」とし、「国家主権と領土、領空の安全を維持する」と説明。習氏もほぼ同じ内容を繰り返したものとみられる。

 また、習氏は会談の合間に記者団に「実務的な協力を進める『新しい大国関係』構築に米国と取り組む用意がある」と発言。バイデン氏は「新しい大国同士の関係は信頼に基づき、お互いの意図に対する前向きな考えがなくてはならない」と述べた。習氏は、尖閣諸島を巡る問題などを念頭に「地域の対立が起こり続けている」とも語った。両者の少人数会談は当初予定を超えて約2時間に及んだ。

 バイデン氏は先に訪問した日本で、中国の防空圏について「現状を一方的に変えようとする試み」と発言。今回の会談でもこうした懸念を伝えたとみられる。(大島隆、北京=倉重奈苗)

(1面)5番目の記事

(天声人語)数の力に傲る政治
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040633.html?iref=comkiji_redirect
 既出

(2面)

名ばかり第三者機関 首相、新しいチェック組織言及 秘密保護法案
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040697.html?iref=comkiji_redirect

 特定秘密保護法案をめぐり、安倍晋三首相が4日の国会審議で唐突に秘密をチェックする機関の概要を明らかにした。だが「身内」の官僚たちで固めた組織では、チェック機能を何ら担保しない。足並みをそろえてきた日本維新の会では反対論が強まり、みんなの党も慎重審議を訴えた。▼1面参照

■身内で構成、独立性疑問

 「重層的なチェックの機能が果たされるということを、はっきりと申し上げておきたい」

 4日午後、今国会初めての党首討論で首相は、民主党の海江田万里代表との討論時間の大半をチェック機関の説明に費やした。

 首相が示したのは「情報保全諮問会議」「保全監視委員会」「独立公文書管理監」(いずれも仮称)。首相は、午前の参院国家安全保障特別委員会で、この三つの組織の設置を表明した。党首討論では、これらを組み合わせ、特定秘密の恣意(しい)的な指定を避けられる、と訴えた。

 特に首相が「第三者機関と言ってもいい」と胸を張ったのは、保全監視委だ。数多くの特定秘密を指定する外務省や防衛省、警察庁などの事務次官級で構成。定期的に開催し、お互いの省庁が指定した特定秘密の内容の妥当性を監査。有識者らでつくる諮問会議への首相報告を作成する。

 参院審議の最終盤に首相が「カード」を切った形だ。だが、実態は「第三者機関」からほど遠い。

 保全監視委は政府の内閣官房のもとに置かれ、メンバーは「身内」である官僚ばかり。特定秘密の中身をチェックできるとはいえ、外部の目にさらされることはなく政府と一体の組織だ。

 首相は党首討論で「限定列挙された事項にかかわるものしか、特定秘密にできない」と強調。ただ、本当に特定秘密を限定する方向でチェック機能が働くかどうかは、確認のしようがない。

 内閣府にポストを設ける独立公文書管理監も特定秘密の解除を指導できるような強い権限はない。唯一政府の外に置かれる諮問会議は、指定件数などの報告を受ける程度。特定秘密の中身まではチェックする権限もなく、報告を追認するだけの形式的な組織に終わる可能性が高い。

 そもそも第三者機関は、野党を賛成に引き込むため、与党が維新の要求をのんで法案付則に設置を検討すると明記。維新、みんなと共同提案した4党修正案が衆院通過した先月26日、首相は法案作成を担当する内閣情報調査室(内調)の幹部に対し、「国会(審議)もここまで来ている」と述べ、具体的な検討を指示した。

 首相は26日の衆院国家安全保障特別委員会で、維新の山田宏氏に「私は設置すべきだというふうに考えている」と答弁。秘密漏出を懸念し新たなチェック機関を作ることを渋る内調を「俺があそこまで言ったんだから作るぞ」と押し切った。

 だが、その結果は到底「第三者」の名に値しないものだった。海江田氏は党首討論で「官僚による、官僚のための、官僚の情報隠しの法案だという確信を持った」と切り捨てた。

■唐突な提案 維・み、反発

 首相が満を持して切った「第三者機関」のカードだったが、保全監視委は維新が求める第三者機関と相いれないものだった。

 維新の片山虎之助・国会議員団政調会長は4日、「役人のやりたい放題だ。こりゃダメだ」と批判。同党の参院幹部は4日昼に集まり、首相答弁のままでは法案に反対せざるを得ないとの認識で一致した。

 維新は4日夕、与党と修正協議を行い、譲歩を迫った。その場で与党側は「首相が示した保全監視委は、維新が求める付則に基づき設置する機関とは異なるものだ」と説明。さらに、法案の施行までに、維新の要望に応じた形で、内閣府に第三者機関を政令で設置する案を新たに示してきた。5日に再協議する予定だ。

 ただ、与党側が示した譲歩案は、保全監視委と別に第三者機関を設置するもの。では、保全監視委は何のための組織なのか――。首相が国会で胸を張って説明したチェック体制は不十分だ、と自己矛盾を認めることになり、かえって批判が強まるのは必至だ。

 衆院採決で賛成したみんなの党も、採決直前に持ち出した首相の提案に怒りを隠せない。参院特別委で同党の小野次郎氏は、ぶぜんとした表情で「初めて聞いた会議の名前だ」。

 党首討論では、首相にすり寄ってきた渡辺喜美代表が「自由と民主主義に立脚する国会が強権的ではいけない」と会期延長を首相に迫った。首相が明言を避けると、渡辺氏は「国会運営の手続きに反対せざるを得ない」。会期内の採決には反対する意向を示した。同党の参院議員は「強行採決なら棄権もあり得る」と語った。

 政権・与党は維新とみんなを巻き込み、与党だけの強行採決を避ける戦略だったが、会期末が近づき成立を最優先するため、枠組みは崩れかけている。

 野党7党は4日夕、東京・有楽町で街頭演説を行った。海江田代表は「首相は、第三者的な機関と言う。これでは、芝エビじゃないものを芝エビと言った偽装表示と同じだ」。維新の小沢鋭仁国対委員長も「第三者機関が不十分の状態なら重大な決意で臨む」と叫んだ。

■おごり、自民にはびこる 担当記者はこう見た

 質問です。「情報保全諮問会議」「保全監視委員会」「独立公文書管理監」の違いを述べなさい――。

 これに答えられる自民党議員は果たして何人いるだろうか。ましてや、国民となると……。

 答えようがないのももっともだ。これらの新しい組織は、4日になって安倍晋三首相がいきなり持ち出した。党首討論で首相は「これで国民を守るんだ」と胸を張った。

 だが、中身は恣意(しい)的な秘密の指定を防ぐにはほど遠い「身内」の組織だ。

 修正合意したみんなの党の渡辺喜美代表でさえ、この日の党首討論で「この法案が衆参ねじれ解消後の試金石だ。自民党政権がおごりによって民主主義を愚弄(ぐろう)すれば、輝ける日本はつくれない」と注文を付けた。

 残念ながら、おごりはすでに自民党政権にはびこっている。最近では、石破茂幹事長は市民のデモをテロに例える発言をブログに記した。通底するのは、国民が知らぬ間にやってしまえという姿勢だ。そんな政権に国民を守ることなんてできない。(土佐茂生)

(秘密保護法案 条文解説ここが問題)なぜ逮捕?裁判でも秘密
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 行政機関の長が特定秘密を提供できる対象

 10条1項1号ロ 刑事事件の捜査又(また)は公訴の維持で、裁判所に提示する場合のほか、当該捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者以外の者に当該特定秘密を提供することがないと認められるもの

 〈想定されるケース〉 

 原発に関心を持つ会社員Aさん(55)は、原発がテロ攻撃に遭った際の被害想定を政府が隠しているとのうわさを聞いた。市民団体の集会で「秘密を明らかにしよう」と呼びかけ、国の機関の前でも拡声機で「秘密を明かせ」と訴えた。

 その後、Aさんは突然、特定秘密保護法違反(扇動)の容疑で逮捕、起訴された。逮捕状や起訴状には「原発に関するテロ防止分野の特定秘密を取得する目的で扇動行為をした」とあるだけだ。

 「市民を処罰してまで秘匿する価値があるのか」。公判でAさんの弁護人は主張したが、検察側は秘密の内容を示さない。その代わり、秘密の重要性や指定された経緯を説き、政府関係者が次々と証人に立った。

 Aさんは十分に反論できないまま有罪判決を言い渡された。被害想定は実在したのか。あるいは、違う秘密が問題にされたのか。それすら、わからない。

 〈解説〉 

 特定秘密に絡む事件の捜査や裁判では、捜査機関に秘密の内容が提供されるのに、弁護人や被告はかやの外。裁判官には内容の「提示」までは認められるが、簡単な概要を示すだけになる恐れが指摘されている。

 秘密を隠したまま、検察側はどう有罪を立証するのか。政府は、秘密に指定した経緯や理由、年月日などを説明し、実質的に秘匿すべき内容だと推認させるという。「外形立証(がいけいりっしょう)」という手法で、過去にも、国家公務員法違反や自衛隊法違反の事件で使われてきた。

 一方、特定秘密保護法案は、特定秘密を、(1)暴こうと話し合う「共謀」(2)教えてほしいと持ちかける「教唆」(3)明らかにしようと呼びかける「扇動」も5年以下の懲役と規定している。

 つまり、市民が秘密を知ろうとしただけで、処罰される可能性があるということだ。

 内容がわからなければ、弁護人も、抽象的な反論しかできない。法律家の間では、捜査当局の言うままに裁判が進む恐れが指摘されている。

(3面)

公明、補完勢力化進む 持論より自民に配慮 秘密保護法案
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040615.html?iref=comkiji_redirect

 特定秘密保護法案をめぐり、連立政権の一角である公明党の存在感が薄い。1999年に自民党と連立を組んでもう14年になるが、参院選で「自民一強」体制ができると相対的に発言力が低下した。自民党に配慮するあまり自らの主張を抑えざるを得ず、補完勢力化が進んでいる。

 「間違っても野党の修正案の肩をもつことはしないように」。野党との修正協議が始まった11月中旬、公明党幹部は修正協議の担当者にこう指示した。民主党の対案になびかず、修正案を受け入れるかどうかの判断は「自民党に従え」という意味だ。

 民主党は情報公開法改正案や公文書管理法改正案を対案として提出。公明党を協議に引き込もうとした。しかし、自民党は修正に応じる考えはなく、公明党は持論を「封印」して自民党と足並みをそろえる道を選んだ。

 公明党は国会への法案提出前、与党間の修正協議で4項目の修正を要求。最もこだわった「知る権利」への配慮規定は法案に盛り込まれたが、具体的な仕組みはあいまいなまま。党の基本政策である情報公開制度の充実はゼロ回答だったが、「これ以上、自民党を刺激したくない」(党幹部)と法案を了承した。

 4日、山口那津男代表は参院議員総会で「丁寧な質疑を政府に促す」と述べた。だが、公明党幹部は「こちらの主張をすべて通そうとしたら、自民党から見切られて連立政権にいられなくなる」と打ち明ける。

■存在意義問われる公明 担当記者はこう見た

 自民党との連立政権で、公明党が果たす役割とは何か。山口那津男代表の説明はこうだ。「自民党とともに国会で『数の安定』を保ち、福祉や子育て、環境など国民生活に密接なテーマで積み重ねてきた経験を発揮し、『質の安定』を果たす」

 政策や思想が違う二つの政党が組み合わさることで、よりよい政策を実現する――。だが、特定秘密保護法案で、公明党はその役割を担えているだろうか。

 党創立者の池田大作・創価学会名誉会長の言葉「大衆とともに」を立党精神とし、「人権」を看板とする公明党は、政府原案になかった「知る権利」を明記させた。だが、国民に根強い法案への懸念をぬぐい去るためには、自民党に突きつけた4項目を「丸のみ」しない限り国会への法案提出を了承しない、と主張する手立てもあったはずだ。せめて今国会での法案成立は見送り、継続審議として出直すべきではないか。

 衆院に続いて参院でも採決の強行が行われようとしており、「数の安定」は「数の横暴」に化けた。「質の安定」にこだわる公明党の存在意義が今こそ問われている。(岡村夏樹)

■公明党が修正要求した4項目と政府の対応

 修正要求項目       政府の対応

(1)「知る権利」の明記  ○ 法案に反映

(2)公文書管理法の改正  △ 首相が前向き答弁

(3)情報公開制度の充実  × 対応なし

(4)秘密指定の基準をチェックする第三者機関の設置 △ 野党との修正協議で法案の付則に反映

(4面)

(秘密保護法案)参院公聴会、懸念解消できず 出席、与党・共産のみ
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040790.html?iref=comkiji_redirect

 参院国家安全保障特別委員会は4日、さいたま市で特定秘密保護法案をめぐる地方公聴会を開いた。5日の委員会採決を目指す与党が単独で開催を決めたことへの反発から、共産党以外の野党は欠席し、意見陳述者も自民、公明、共産各党が推薦した3人のみ。当初は所要約2時間半の想定だったが1時間強で終わり、懸念を解消する議論にはならなかった。▼1面参照

 公聴会では、前陸上自衛隊化学学校長の川上幸則氏(自民推薦)が「特定秘密を保護する枠組みがなければ米英も情報をくれない」と法案に賛成を表明。民間企業でサイバー攻撃への対処に取り組む伊東寛氏(公明推薦)は「今までこういう法律がなかったことが驚きだ」と早期成立の必要性を訴える一方で、秘密指定や解除のあり方については「三権分立で(行政機関以外に)国会、裁判所がそれぞれチェックをかけるべきだ」と課題を挙げた。

 これに対し、埼玉弁護士会元副会長の山崎徹氏(共産推薦)は廃案を求めた。「(何が特定秘密にあたるかを列挙した)別表の範囲が広く、大臣の一存で指定できる」と指摘。「まず安全保障、秘密ありきで、知る権利には『配慮』にとどめている。発想が憲法の立場と逆転している」と訴えた。

 法案の修正協議や国会審議で焦点となった第三者機関をめぐる議論は深まらなかった。安倍晋三首相が特定秘密の指定について統一基準の妥当性をチェックする「保全監視委員会」などを設けると特別委で表明したのは、わずか数時間前。公聴会で取り上げた委員会理事や陳述者はいなかった。

■自分の声さえ届けば、か 担当記者はこう見た

 4日にさいたま市で開かれた参院特別委の地方公聴会は、お世辞にも議論が深まったとは言えなかった。与党推薦の意見陳述者は賛成を、野党推薦の陳述者は懸念を表明したが、様々な場所で指摘された論点の繰り返しで、それぞれの役割を演じて終わったように感じた。

 淡々と進む公聴会で、唯一、印象に残ったのが弁護士の山崎徹氏の一言だ。「これほど多種多様な人が反対している法案はない」。確かに、映画人や国際機関のトップは次々に反対を表明している。

 それなのに、安倍晋三首相の振るまいはどうだろう。同じ日の参院特別委では「検討」にとどめてきた第三者機関についていきなり構想をぶち上げた。野党のヤジにしびれを切らし「大きなヤジで答弁をかき消して国民の知る権利を侵していますよ」と言い放った。「自分の声さえ届けばいい」と言うのだろうか。

 それがどれほど役立つ組織か、国会で議論もないまま採決を強行するのか。こんなに重要な内容に国会を関わらせない手法は、政府への全権委任と同じだ。

 数日前、知り合いの官僚と食事をした。いかに危険な法案か熱弁をふるう私に、彼はポカンとした表情を浮かべた。「日々の仕事に追われて、そんなことを考える暇はないですよ」

 懸念が解消されないまま法案が成立すれば、多忙な官僚が秘密指定に関わる作業を日常業務として淡々とこなしていくかもしれない――。背筋が凍る思いがした。安倍さん、思わぬ形で歴史に名を残しますよ。(岡本智)

(16面)

(社説)秘密保護法案 採決強行は許されない
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040653.html?iref=comkiji_redirect

    「良識の府」はどこにいってしまったのか。このまま採決を強行するなら、この看板は返上してもらうしかない。

 自民、公明両党は、きょうの参院特別委員会で特定秘密保護法案を採決する構えだ。

 与党は採決の前提として、きのう安倍首相が出席した委員会審議を委員長の職権で決め、さいたま市での地方公聴会も強引に開いた。

 参院での審議時間は、まだ衆院の半分ほどだ。あまりに乱暴な運びというしかない。これでは「衆院のカーボンコピー」にすらなっていない。

 安倍首相はきのうになって、秘密指定の統一基準をつくるにあたって有識者の諮問会議に意見を聴き、指定や解除の状況をチェックする監視委員会を設けると表明した。あわせて、特定秘密が記録された公文書の廃棄の可否を判断する政府の役職も新設すると明らかにした。

 首相はこの監視委員会を通じてチェック機能を果たすと強調した。だが、監視委員会は内閣官房に置き、その中核は事務次官級の官僚だという。

 これには政府案の共同修正に加わった日本維新の会の議員も「決算書を自分で監査するのと一緒だ」と批判した。

 官僚が閣僚の名のもとに指定した秘密を官僚がチェックする――。そんな組織ができたところで、まるで用をなさない。

 それでもあえて首相がつくるというのなら、その旨を法案に書き込み、改めて国会審議に委ねるのが筋だ。会期内成立ありきで、そうした手続きを踏まないのは、極めて不誠実な態度というしかない。

 法案審議とは別に行われた党首討論では、民主党の海江田代表とみんなの党の渡辺代表がともに、きょうの委員会採決に反対を表明した。

 渡辺氏は与党との修正にいち早く応じた。その渡辺氏ですら「こんないい加減な国会運営が行われたら反対せざるを得ない」と会期延長を求めた。

 年末にかけての予算編成作業などに影響しないよう、会期延長は避けたいというのが安倍政権の考えだ。

 ならば、今国会での成立はあきらめるしかない。

 秘密指定の検証措置などをめぐって衆院で拙速に修正した不備を、首相らの答弁でなんとか取り繕っているのがいまの審議の実態ではないか。

 ここは廃案にし、国会の内外から指摘された問題点を十分に踏まえたうえで一から出直す。

 これこそ、安倍政権が選ぶべき道だ。

(社説)中国防空圏 不測の事態を避けよ
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040623.html?iref=comkiji_redirect

 日本、中国、韓国が囲む東シナ海の情勢が複雑さを増している。いまここで重要なのは、地域の長期安定を築くための冷静な思考と行動だろう。

 3国を歴訪中のバイデン米副大統領が安倍首相と会談した。中国の習近平(シーチンピン)国家主席、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領とも会う。

 安保問題の焦点は、中国が突如設定した防空識別圏である。韓国も触発されたように自国の識別圏を広げようとしている。

 まるで識別圏でナショナリズムを競うかのような連鎖は不毛というほかない。バイデン氏はそんな悪循環をとめる役回りを自認しているようだ。

 日米会談では、中国の識別圏に対する強い懸念で一致した。その一方で、中国側の措置の撤回を求める発言はしなかった。

 米側は民間航空会社による中国への飛行計画の提出も認めている。日米の対応には、微妙なずれが垣間見える。

 だとしても、安定役をめざす米国と歩調をあわせて落ち着いた対応をとることは日本にとって有益だ。いまの事態は、中国への強硬一辺倒の姿勢で解決できる話ではないからだ。

 尖閣諸島などの領有権問題の主張とは別に、実務的に危機を避ける方策を練る必要がある。

 バイデン氏が強調したように日中間の危機管理の仕組みをつくることは考慮に値する。冷戦時代、米ソ間で構築したような衝突回避のメカニズムが東シナ海にも求められている。

 とくに航空機は一瞬の誤算が大きなトラブルにつながる。今回の中国の措置は容認しがたいが、危険性を前に手をこまぬいているわけにはいかない。

 バイデン氏としては、現時点では中国の挑発に乗らず、むしろこれを機に日中韓の信頼醸成を進めたい考えのようだ。

 そもそも識別圏は、不審な航空機の領空接近を警戒するため領空の外に各国が設ける防空の「目安」であり、識別圏をつくること自体は問題ではない。

 だが中国の場合、公海の飛行の自由を妨げるような、国際法違反につながる内容を含む。識別圏内を通るだけでも手続きの対象とし、「防御的措置」も辞さないという一方的なものだ。

 中国にはそうした措置を見直すよう強く求め続けるべきだが、同時に不測の事態を避ける方策も考えねばなるまい。

 そもそもこの識別圏問題が起きる以前から偶発的な衝突の恐れは高まっていた。緊張のさなかに新たな安全保障のルールづくりに着手するのは簡単ではないが、日米中韓の各政府は、そこに照準を合わせるべきだ。

(声)石破氏発言で露呈した危うさ
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 書籍編集者 北井大輔(神奈川県 43)

 特定秘密保護法案に反対する市民のデモについて、「絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とブログで評した石破茂自民党幹事長が、この箇所を撤回するという。しかしことは、撤回で済ませられるものではない。

 この法案に対する懸念の一つは、特定秘密の範囲がどんどん広がるのではないか、ということである。この懸念に対して政府は、特定秘密の範囲は「防衛と外交、スパイ活動、テロの防止に限定される」と説明してきた。しかし政府の言うように秘密の範囲が限定される前提としては、「テロ」の定義がはっきりしている必要がある。

 ところが今回の石破氏の発言とその撤回は、政権与党の責任者が、「テロとは何か」ということについて、確固とした定義を持っていないことを露呈した。確固とした定義を持たないからこそ、民主主義にとって極めて重要な平和的デモをテロと同視するような発言をし、撤回に追い込まれるということになるのである。次期首相とも目される人がこのような状態では、特定秘密の範囲を抑制することなど、無理であろう。

 秘密の範囲が広がることを防ぎえないこの法案は、廃案とするしかないのである。

(声)公明党は立党精神に戻って
  http://digital.asahi.com/articles/OSK201312040145.html?iref=comkiji_redirect

 アルバイト 中島利雄(神奈川県 65)

 公明党の立党精神は「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」。その言葉通りに、野党時代は国有地の不正払い下げを追及したり、公害問題に取り組んだりと、活動実績は評価できた。

 いま国会で審議中の「特定秘密保護法案」には多くの疑問点があり、不安も広がっている。そもそも秘密が何なのかが秘密で、その妥当性もチェックできないまま、国家権力が永久的に秘密にできる。これらの懸念に対して納得できる説明は一切なされていない。

 衆院では審議も短い上に、1回の地方公聴会で1人の賛成意見もなかったにもかかわらず、翌日強行採決した。一連の経緯は、初めに結論ありきで、国民の声に耳を傾けるどころか無視していると言ってもいい。

 公明党は、法案について大衆とともに語っただろうか? 確かに公明党の要望により、法案に「報道の自由」や「知る権利」を配慮するという文言が入ったが、いかにも官僚的表現で、何もしないのと同意語ではないか。国民の立場に立ち、いったん法案は廃案にするのが、公明党の立党精神に合ったものだと確信する。

(声)情報公開法はすでに骨抜き
  http://digital.asahi.com/articles/OSK201312040144.html?iref=comkiji_redirect

 社会保険労務士 榊原悟志(愛知県 52)

 特定秘密保護法案の問題が議論されていますが、その危惧は社会保険庁解体後の日本年金機構と協会けんぽの情報公開法運用の場ですでに現実です。現場の都合による骨抜きです。

 年金機構は情報公開法の対象ですが、最近は、公開請求後原則の30日で開示などの判断が出ることはほぼなく、延長上限のない特例規則を多用しています。私が請求したマニュアル文書は、2016年まで判断を延長されました。

 他方、協会けんぽは情報公開法の対象外にされてしまい、非公表の内規で公開請求は受け付けるものの、「仕事に支障が出るおそれがある」との拡大解釈で、発行文書の題名一覧すら一切開示されませんでした。

 縛りのない特例や「おそれ」というあいまいな言葉、外部の目による検証の欠如は、保険料を集めて行う身近な社会保険行政の文書すら、たった数年で遠いものにしています。

(38面)

(秘密保護法案)「アリバイ作り」「茶番」 公聴会に300人が抗議
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040821.html?iref=comkiji_redirect

 「アリバイづくりはやめて」「茶番だ」。4日、参院の特別委員会がさいたま市で開いた公聴会の会場周辺では、安倍政権が成立を急ぐ特定秘密保護法案に反対する人たちの抗議の声が響いた。公聴会は1時間余りで終わり、意見陳述をした人や傍聴者からも疑問の声があがった。▼1面参照

 公聴会の会場となった結婚式場の周りには、法案に反対する人たち約300人が集まった。「強行採決許さない」「民主主義を破壊するな」などのプラカードを掲げて、公聴会の中止を求める声をあげた。

 国会議員が到着した午後3時半ごろ、規制をかいくぐって敷地内に入りこみ、プラカードを持ったまま寝転んだり座り込んだりして抗議する人も。会場前に立ち並んだ警察官との間に一瞬、緊張が走った。

 公聴会では、意見陳述に立った山崎徹弁護士が「私が公述人となるのが決まったのは、昨日の夜の10時だった」と切り出した。「何の前触れもなく公聴会をして国民の声を聞いたと言えるのか、疑問だ」

 会場には共産党を除く野党議員の姿はなかった。与党が一方的に公聴会開催を決めたことに反発し、欠席したからだ。8議員しか参加せず、1時間10分ほどで終わった。

 傍聴した埼玉県入間市の無職、平山武久さん(71)は「こんなに急に公聴会をやっても国民の声を聞いたことにはならない。これだけで数の力で進めるのなら、権力のおごりと言うしかない」と話した。

 会場近くを通りかかった、さいたま市大宮区の岡田健司さん(63)は「法案は第三者機関などチェック機能について十分に議論されていない。この公聴会はガス抜き以外の何でもない気がします」。

 議会制度に詳しい駒沢大学の大山礼子教授は「地方公聴会を開いても何の修正もない。ほかの法案と同じように、今回もただ法案を通すためだけの儀式となっている」と話した。

(秘密保護法案)「いったいどんな国にしたいのですか」 山田洋次監督
  http://digital.asahi.com/articles/TKY201312040828.html?iref=comkiji_redirect

 「特定秘密保護法案に反対する映画人の会」呼びかけ人で映画監督の山田洋次さんが朝日新聞のインタビューに応じ、「自分の意見を自由に言えない国は元気がなくなる」と懸念を語った。

 「この国をいったいどんな国にしたいのですか、と安倍さんに本気でうかがいたい。重苦しい、暗い国、政府の言うことをよく聞いて文句をいわずに一生懸命働くおとなしい国民。まさかそんな国をイメージしているのではないでしょうね」

 幼少期は治安維持法の下、報道の自由のない時代だった。戦争に負けていたが、新聞やラジオは勝利したという報道ばかり。「沖縄まで占領されていながら、まだ日本は勝てると信じていた。戦争に負けている、ということは国家機密だった。ぼくの父親は技術者でアメリカに勝てるわけがないと思っていたが、敗戦まで家庭内では、一切そういう発言はしなかった。治安維持法は、庶民の家庭の中も支配していたのだろう」

 山田監督は「いまは明るくて、楽しい喜劇映画がなかなか作られない」と指摘する。「もしかして、この国が、今の日本人が暗いから、ではないだろうか。年間自殺者3万人の自殺大国。日本人が、とくに若者たちが希望にあふれて明るい表情になるために、何をすればいいのか、ということにこそ、血道を上げてほしいと今の政府に言いたいのだが」(守真弓)