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12 27 安倍総理の靖国神社参拝の波紋 哲学を持たない政治家集団
12 24 (火) 安倍総理の靖国神社参拝の波紋 拙速な独りよがり
朝日新聞デジタル 2013年12月27日05時01分
参拝、制止退け強行 党幹部「もう誰も止められない」
http://digital.asahi.com/articles/ASF0TKY201312270008.html?iref=comkiji_redirect
写真・図版 靖国神社の参拝を終えた安倍晋三首相。本殿には自身の名前で花が奉納されていた
26日午前11時44分、東京・九段北、仙波理撮影
安倍晋三首相が26日、東京・九段北の靖国神社に参拝した。消費増税や特定秘密保護法、沖縄の普天間問題などの諸課題にめどがつき、「参拝ショック」が出にくい時期を選んだとみられるが、A級戦犯合祀(ごうし)への批判などから中国や韓国は反発し、米国も「失望している」との声明を出した。自らの「信条」を優先したことで政権の変質を印象づけ、今後、政権を支えてきた「日米同盟重視」や「経済最優先」の路線が揺らぎかねない。「恒久平和への誓い」と題した首相談話もこれまでの言動との食い違いがうかがえる内容だ。
トピックス:靖国参拝
「史実を直視して」台湾も靖国参拝を批判 2013年12月27日00時16分
【台北=鵜飼啓】台湾の外交部(外務省)は26日、安倍首相の靖国神社参拝について、「日本政府や政治家は史実を直視し、歴史の教訓を学ぶべきだ。近隣国の国民感情を傷つけるような振る舞いをすべきではない」と批判する談話を出した。また、対立を高める行動を慎み、地域の平和と安定に努力するよう関係国に呼びかけた。
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「不戦の誓い」「中韓傷つけるつもりない」首相談話全文(12/26)
中韓、首相靖国参拝を非難 「重大な政治的障害に」(12/26)
「自分の決断として参拝します」。26日午前、公明党の山口那津男代表のもとに安倍晋三首相から電話があった。山口氏が「賛同できない」と反対したが、首相は「賛同いただけないとは思います」とにべもなかった。自民党の石破茂幹事長にさえ当日通告。党幹部は「もう誰も止められなくなっている」とぼやいた。
「寝耳に水」だったのは、与党幹部だけではない。米国にも参拝直前まで伝えなかった。
「中国を刺激しない方がいい」。11月、訪米した首相の盟友・衛藤晟一首相補佐官は、米政府高官から参拝しないよう求められていた。訪米の表向きの目的は、北朝鮮情勢についての意見交換だったが、実は菅義偉官房長官から首相が靖国参拝した場合の反応を探るよう指示されていた。
国内外の制止を振り切った突然の参拝だったが、伏線はあった。10月、秋季例大祭への参拝を見送った直後、首相は周囲に「参拝するのをやめたわけじゃない」と漏らしていた。
首相には、年末で政権運営が一区切りつくという思いがあった。消費増税の道筋をつけ、臨時国会を乗り切り、来年度予算案の編成も終える。首相は今月22日、周囲に参拝の意向を伝えた。そこから菅氏ら限られた側近と検討を本格化させた。
参拝日は、この日しかなかった。首相は25日、沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事と会談し、最後の懸案だった普天間問題が節目を越えた。米国は政権の努力を買っており、「参拝ショック」も和らぐと読んだ。26日は政権発足から1年の節目で、対外的に説明もついた。
政権を取り巻く環境も首相の背中を押した。日経平均株価は1万6000円台に乗り、下がったとはいえ内閣支持率もまだ50%近くある。反発が予想される中国、韓国とは首脳会談の見通しが立たず、かえって参拝しやすいと踏んだ。首相を支える党内の保守系議員からは「年内に参拝を」との声も届いていた。
政権に力のあるうちに思いを果たしたい。首相は「今参拝しなければ、政権終盤まで行けなくなる」(側近)と決断。側近の中には最後まで反対論があったが押し切った。参拝にあわせて配る談話には首相自身が手を入れ、海外発信用に英文も用意した。
参拝後に会った自民党議員が「いいタイミングでしたね」と水を向けると、首相は「1周年だからね」。その表情は、さっぱりしたものだったという。
この記事に関するニュース
記録のため後載
① 安倍首相の談話全文 靖国参拝後に発表(12/27)
② 中韓、猛反発 安倍首相、靖国参拝(12/27)
③ 安倍政権ちぐはぐ 「経済最優先」路線から変質 首相、靖国参拝(12/27)
④ 歓迎と批判、与党交錯 野党、政権との距離反映 安倍首相の靖国参拝(12/27)
⑤ (声)安倍首相、なぜいま靖国参拝(12/27)
⑥ 米政権「失望している」 首相靖国参拝で異例の批判声明(12/26)
⑦ 「不戦の誓い、伝えるため」 靖国参拝後の首相発言要旨(12/26)
⑧ 中韓、首相靖国参拝を非難 「重大な政治的障害に」(12/26)
【別記事】「信条」優先し強行 政権運営めど、
党幹部「もう誰も止めらない」 安倍首相、靖国参拝 2013年12月27日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/ASF0TKY201312270004.html?iref=comkiji_redirect&ref=com_top6_1st
写真・図版 靖国神社の参拝を終えた安倍晋三首相。本殿には自身の名前で花が奉納されていた
=26日午前、東京・九段北、仙波理撮影
安倍晋三首相が26日、東京・九段北の靖国神社に参拝した。消費増税や特定秘密保護法、沖縄の普天間問題などの諸課題にめどがつき、「参拝ショック」が出にくい時期を選んだとみられるが、A級戦犯合祀(ごうし)への批判などから中国や韓国は反発し、米国も「失望している」との声明を出した。自らの「信条」を優先したことで政権の変質を印象づけ、今後、政権を支えてきた「日米同盟重視」や「経済最優先」の路線が揺らぎかねない。「恒久平和への誓い」と題した首相談話もこれまでの言動との食い違いがうかがえる内容だ。
2面=政権ちぐはぐ、
3面=首相談話の疑問、
4面=与党に歓迎と批判、
9面=中国の反応注視、
11面=外交に影、17面=社説、38・39面=安倍イズム固執)
「自分の決断として参拝します」。26日午前、公明党の山口那津男代表のもとに安倍晋三首相から電話があった。山口氏が「賛同できない」と反対したが、首相は「賛同いただけないとは思います」とにべもなかった。自民党の石破茂幹事長にさえ当日通告。党幹部は「もう誰も止められなくなっている」とぼやいた。
「寝耳に水」だったのは、与党幹部だけではない。米国にも参拝直前まで伝えなかった。
「中国を刺激しない方がいい」。11月、訪米した首相の盟友・衛藤晟一首相補佐官は、米政府高官から参拝しないよう求められていた。訪米の表向きの目的は、北朝鮮情勢についての意見交換だったが、実は菅義偉官房長官から首相が靖国参拝した場合の反応を探るよう指示されていた。
国内外の制止を振り切った突然の参拝だったが、伏線はあった。10月、秋季例大祭への参拝を見送った直後、首相は周囲に「参拝するのをやめたわけじゃない」と漏らしていた。
首相には、年末で政権運営が一区切りつくという思いがあった。消費増税の道筋をつけ、臨時国会を乗り切り、来年度予算案の編成も終える。首相は今月22日、周囲に参拝の意向を伝えた。そこから菅氏ら限られた側近と検討を本格化させた。
参拝日は、この日しかなかった。首相は25日、沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事と会談し、最後の懸案だった普天間問題が節目を越えた。米国は政権の努力を買っており、「参拝ショック」も和らぐと読んだ。26日は政権発足から1年の節目で、対外的に説明もついた。
政権を取り巻く環境も首相の背中を押した。日経平均株価は1万6000円台に乗り、下がったとはいえ内閣支持率もまだ50%近くある。反発が予想される中国、韓国とは首脳会談の見通しが立たず、かえって参拝しやすいと踏んだ。首相を支える党内の保守系議員からは「年内に参拝を」との声も届いていた。
政権に力のあるうちに思いを果たしたい。首相は「今参拝しなければ、政権終盤まで行けなくなる」(側近)と決断。側近の中には最後まで反対論があったが押し切った。参拝にあわせて配る談話には首相自身が手を入れ、海外発信用に英文も用意した。
参拝後に会った自民党議員が「いいタイミングでしたね」と水を向けると、首相は「1周年だからね」。その表情は、さっぱりしたものだったという。
■米が「失望」、異例の批判
米オバマ政権は26日、安倍首相が靖国神社に参拝したことについて、在日米国大使館を通じて「日本は大切な同盟国であり友好国だが、日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」との声明を発表した。
米政府はこれまで、小泉首相を含めた日本の首相の靖国神社参拝に公式に反対したことはなく、今回声明を出して批判したのは極めて異例の対応だ。
声明は「日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させることを希望する」として、日中韓が歴史認識を巡る問題の解決に取り組むよう改めて求めた。その上で「首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する」とし、安倍首相が過去への反省にどう言及するか、今後の対応を注視する考えを示した。
オバマ政権はこれまで、日韓関係の改善や尖閣諸島を巡る日中の緊張緩和を求める立場から、歴史認識を巡る問題に慎重に対応するよう求めてきた。にもかかわらず安倍首相が靖国に参拝したことから、声明で「失望」を表明する強い姿勢に出た。 (ワシントン=大島隆)
① 安倍首相の談話全文 靖国参拝後に発表 12月27日05時00分
■恒久平和への誓い
本日、靖国神社に参拝し、国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈りしました。また、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀(ごうし)されない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝いたしました。
御英霊に対して手を合わせながら、現在、日本が平和であることのありがたさを噛(か)みしめました。
今の日本の平和と繁栄は、今を生きる人だけで成り立っているわけではありません。愛する妻や子どもたちの幸せを祈り、育ててくれた父や母を思いながら、戦場に倒れたたくさんの方々。その尊い犠牲の上に、私たちの平和と繁栄があります。
今日は、そのことに改めて思いを致し、心からの敬意と感謝の念を持って、参拝いたしました。
日本は、二度と戦争を起こしてはならない。私は、過去への痛切な反省の上に立って、そう考えています。戦争犠牲者の方々の御霊を前に、今後とも不戦の誓いを堅持していく決意を、新たにしてまいりました。
同時に、二度と戦争の惨禍に苦しむことが無い時代をつくらなければならない。アジアの友人、世界の友人と共に、世界全体の平和の実現を考える国でありたいと、誓ってまいりました。
日本は、戦後68年間にわたり、自由で民主的な国をつくり、ひたすらに平和の道を邁進(まいしん)してきました。今後もこの姿勢を貫くことに一点の曇りもありません。世界の平和と安定、そして繁栄のために、国際協調の下、今後その責任を果たしてまいります。
靖国神社への参拝については、残念ながら、政治問題、外交問題化している現実があります。
靖国参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいますが、私が安倍政権の発足した今日この日に参拝したのは、御英霊に、政権一年の歩みと、二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を、お伝えするためです。
中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません。靖国神社に参拝した歴代の首相がそうであった様に、人格を尊重し、自由と民主主義を守り、中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています。
国民の皆さんの御理解を賜りますよう、お願い申し上げます。
② 中韓、猛反発 安倍首相、靖国参拝 12月27日05時00分
! 日本との間に歴史問題を抱える中国と韓国は、安倍首相の靖国神社参拝に強く反発した。中国の程永華(チョンヨンホワ)駐日大使は26日、参拝2時間後に外務省を訪れ、「極めて大きな憤慨を覚える」などとする抗議を斎木昭隆事務次官に伝えた。
斎木氏は程氏に対し、中国に住む日本人の安全確保を要請した。程氏は抗議後、記者団に「A級戦犯がまつられている靖国神社への参拝は、戦争被害を受けた国民の感情を踏みにじる」と強調。日中関係に「さらに大きな困難、障害をもたらした」と指摘した。韓国の李丙ギ(イビョンギ)駐日大使も同日、斎木氏に抗議を申し入れた。岸田文雄外相は同日夕、記者団に「外交問題として大きくならないように努力したい」と語ったが、ある外務省幹部は日中韓の首脳間対話について、「今回の首相の参拝で開けなくなった」と話した。
③ 安倍政権ちぐはぐ 「経済最優先」路線から変質 首相、靖国参拝 12月27日05時00分
写真・図版靖国神社参拝を終え記者の質問に答える安倍晋三首相(中央)=26日午前、東京・九段北、代表撮影 写真・図版 「経済最優先」の現実路線から、自らの「信念」を優先する理念主義への転換なのか――。安倍晋三首相の靖国神社への参拝は、国内外に大きな波紋を広げた。首相の投じた一石は、これまで経済の好調さの陰に隠れてきた政権運営の矛盾をあぶり出し、政権基盤を揺さぶりかねない。
首相の靖国参拝は、政権運営のちぐはぐぶりを露呈した。
岸田文雄外相は26日夜、キャロライン・ケネディ米駐日大使に電話をかけた。首相の参拝目的などを説明する岸田氏に、ケネディ氏は「外相の説明内容を米本国に伝える」と引き取っただけだった。
「日米同盟が外交の基軸だ」。政権発足以来、首相はこう繰り返してきた。民主党政権で悪化した日米関係を立て直し、対中国、対韓国外交で優位に立つという戦略だ。一方で、首相は「日米は真の意味で対等な同盟国になる必要がある」というのが持論だ。米国の意向通りにはならないという思いがにじむ。米国の制止を振り切っての参拝は、そんな首相の「地金」をあらわにした。
首相の参拝は、政権が掲げる「日米同盟重視」を疑わせるメッセージを米側に送ってしまった。米国は首相に「失望した」という談話を発表。これに対し、政権幹部が「同盟国なのにどうかしている」と反発するなど、日米間に亀裂が生じ始めている。
歴史認識をめぐる安倍政権の「危うさ」も露呈した。政権発足時、米側には「安倍政権は右翼のナショナリスト政権と思われている」(アーミテージ元米国務副長官)という指摘もあった。それだけに、首相は村山談話や河野談話の見直しを封印してきた。今回の靖国参拝を引き金に、歴史認識をめぐって政権に向けられる視線が再び厳しさを増すのは必至だ。
「経済最優先」を掲げてきた首相の政権イメージにも、大きな影を落とすことになった。
就任から1年、首相はアベノミクスを前面に出しつつ、自らが取り組みたい政策をまぶす戦略をとってきた。国家安全保障会議(日本版NSC)を設立し、集団的自衛権の行使容認に向けた布石も打った。
だが、靖国参拝で政権の印象は一気に「理念主義」に傾いた。菅義偉官房長官は26日の記者会見で「経済優先」のカードを捨てるリスクを指摘されると、「しっかり説明すれば問題ない」と反論。麻生太郎副総理兼財務相は会見で「来年度も経済最優先は続けていかないといけない」と強調した。
だが、アベノミクスの足を引っ張りかねない状況に、公明党幹部は26日、こうぼやいた。「なぜわざわざ波風立てるのか。経済だけやっていれば、政権は安定するのに」
■好調アベノミクスに暗雲
「悪いことが起きないように願いつつ商売をやっていくしかない」。中国・湖南省に百貨店を出している「平和堂」(本社・滋賀県彦根市)の寿谷正潔(すたにまさゆき)・中国法人社長は26日、苦しげに語った。平和堂は昨秋、尖閣の国有化をきっかけに暴徒化した反日デモに襲われ、店を破壊された。ほかの日系の店も次々と標的になり、中国で暮らす約15万人の日本人を不安におとしいれた。
昨年末に誕生した安倍政権は、市場に出回るお金の量を大胆に増やす金融緩和と大がかりな景気対策を進めてきた。このアベノミクスの効果もあり、1年前に約1万円だった日経平均株価が1万6000円台に乗り、景気は上向いてきた。
その矢先の靖国神社参拝だった。中国や韓国で反日デモや日本製品の不買運動が広がれば、経済へのマイナスは避けられない。ようやくつかんだ景気回復の流れに水を差しかねないリスクを、自らつくりだした。
日中韓の経済の結びつきは切っても切れない。特に中国は日本の最大の貿易相手国だ。2012年度の中国への輸出は11兆円、中国からの輸入は15兆円に達し、対中貿易は全体の2割を占める。例えば、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」はほとんどを中国で組み立て、日本に輸出する。
経済界は、尖閣問題で悪化した日中関係の修復に動いていた。経団連の米倉弘昌会長は11月に北京を訪問し、要人から経済交流に前向きな発言を引き出した。9月には、中国大手企業のトップが来日して菅義偉官房長官と会談するなど、修復の兆しは見えていた。
だが、こつこつと積み上げてきた信頼の山は、再び崩されてしまった。経団連副会長の一人は、「日本への批判やビジネスへの影響は大きくなる。首相は別の決断ができなかったのか」と失望を隠さない。
首相は靖国参拝にずっと意欲を示してきた。首相に働きかけ、経済にとってのリスクを未然に防ぐこともできたはずだ。だが、法人減税など企業優遇の政策を打ち出す首相に意見できる「大物」は、今の経済界には見あたらない。
金融緩和などで「輸出を促す円安メリットを最大限に引き出すのがアベノミクスの戦略」(大和総研の小林卓典氏)。最大の貿易相手である中国への輸出が鈍れば、日本での生産や雇用も落ち込み、首相が繰り返し強調する「デフレ脱却」は遠のいていく。
■日米関係、影響避けられず
米国のオバマ政権は、安倍首相の靖国参拝を批判する異例の声明を出した。米国から見れば、歴史認識問題で慎重に対処して近隣国との緊張を緩和するよう要請してきたのに無視されたことから、強い姿勢に出た形だ。今後の日米関係にも影響は避けられない。
米国の歴代政権はこれまで、靖国参拝については「日本の首相や政治家が決めることだ」(ブッシュ政権時代の国務省報道官)として、政権内や議会の一部に批判の声があっても、公式には明確な立場を示してこなかった。また、歴史認識問題でも特に批判が強い旧日本軍の慰安婦問題と比べると、「戦没者を追悼する気持ちは理解できる」(シーファー元駐日大使)という声もあった。
ただ、オバマ政権は同じ同盟国である韓国と日本の関係悪化や尖閣諸島を巡る日中の対立激化を懸念。歴史認識を巡る問題全般について、慎重な対応を日本に求めていた。今年10月に訪日したケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、靖国神社ではなく千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪問。「靖国神社を訪問しないようにという暗黙のメッセージ」との見方が米国の日本専門家の間で広がっていた。
オバマ政権としては、繰り返し面目を潰されてもいる。今年4月には、バイデン副大統領と会談した直後に麻生副総理が靖国に参拝。今回もバイデン氏が12月初旬に日韓を訪問し、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領だけでなく安倍首相にも日韓関係の改善を促したばかりだった。
戦勝国として第2次世界大戦後の世界秩序づくりを主導した米国では、「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍氏への警戒も一部にある。米議会調査局が今年まとめた報告書は「安倍氏の発言は日本の侵略などの歴史を否定する修正主義者の見方を持っていることを示唆している」と指摘している。
最近は安倍氏が歴史問題で発言を控えていたこともあって、「日本は自制していると米政府も評価している」(日本政府関係者)とされていた。だが今回の参拝で、再び安倍政権への警戒や米メディアの批判が強まる恐れがある。米外交問題評議会のシーラ・スミス上級研究員は「今回の参拝は、日本の将来への展望に改善の兆しが出ていた矢先に、日本を傷つけることになる」と話した。
(ワシントン=大島隆)
④ 歓迎と批判、与党交錯 野党、政権との距離反映 安倍首相の靖国参拝 12月27日05時00分
「必ず参拝されると信じてきた。一国のリーダーとして当然の振る舞いをしてくれた。ほっとしています」。首相側近の萩生田光一・自民党総裁特別補佐は26日午後、東京都内で記者団にこう述べて笑顔を見せた。10月、「就任1年という時間軸で、首相は気持ちを示されると思う」と語って以降、折に触れて首相の参拝を求め続けてきた。
参拝に同行した日本遺族会顧問の水落敏栄・自民党参院議員も「よくご決断いただいた。ほんとうにありがたい」と手放しで喜ぶ。
だが、自民党内には、中韓や米国との関係への影響を懸念し、参拝を批判する声もあがる。
■公明は反対
日韓議連会長の額賀福志郎元財務相は26日朝、出張先の沖縄から首相に電話し、「北東アジア情勢が不安定な中で、日韓関係は大事だ。思いとどまってほしい」と求めた。参拝を受けて、「日韓首脳会談を開催できるよう努力していただけに残念だ」と硬い表情で語った。日中協会長の野田毅元自治相も「厳しい反応は承知の上で参拝したのだろうが……」と当惑の色を浮かべた。
自民党幹部によると、今月3日に首相と会談したバイデン米副大統領は「中国ともめないでほしい」と、暗に靖国参拝を控えるよう求めたという。同盟国の忠告までも振り切っての参拝に、自民党中堅は「急ぎすぎだ」。閣僚経験者も「官邸にブレーキ役がいない」と懸念する。
公明党も厳しく批判した。山口那津男代表は「国民や諸外国の理解を得ないままに(参拝を)強行すれば、摩擦や反発を引き起こす」と批判。首相に問題解決にあたる努力を求めた。
■維・みは理解
一方、野党の反応は、政権や安倍首相との距離を映すように二分化した。
民主党の海江田万里代表は「首相は個人的な思いや私人としての立場というのはない。自重すべきだった」と批判した。辻元清美衆院議員も「個人的な情念の発露で日本を壊すのはやめてほしい」と訴えた。
共産党の志位和夫委員長も「特定秘密保護法、武器輸出三原則に反する弾薬提供、そして集団的自衛権の行使容認。戦争する国づくりへ、歯止めのない暴走が始まった」と批判した。みんなの党と袂(たもと)を分かった結いの党も批判的だ。
これに対し、石原慎太郎共同代表が8月の終戦記念日に靖国参拝するなど、保守の理念で首相と重なる維新は、橋下徹共同代表が首相を擁護。同じく首相に近い、みんなの渡辺喜美代表も「個人の信仰の問題。とやかく言うことはない」と問題視しない構えだ。
⑤ (声)安倍首相、なぜいま靖国参拝 12月27日05時00分
会社役員 高橋紀雄(東京都 62)
安倍晋三首相は26日、靖国神社に参拝した。第1次政権時代に、靖国参拝ができなかったことが「痛恨の極み」であると述べ、これを晴らすために今回の参拝になったようである。今、ここで靖国参拝に関するA級戦犯合祀(ごうし)など、難しい理屈を考えるつもりはない。また、理屈の上では、靖国参拝を諸外国からとやかく言われるものではないことは、その通りである。
さて、前回首相の時はなぜ参拝できなかったのか。それは中国、韓国との関係を考えた結果であると思う。しからば、今は当時より両国との関係は改善されたのか。そのようなことはない。前回より明らかに悪化している。
安倍政権は国家安全保障戦略で中国の軍事的台頭への懸念を強調。外交・防衛力の強化をはかるという。そして、今回の靖国参拝。安倍政権は中国、韓国に何を伝えたいのか。外交に、ど素人の私には、安倍首相のやることが恐ろしい。
⑥ 米政権「失望している」 首相靖国参拝で異例の批判声明 12月26日18時03分
【ワシントン=大島隆】米オバマ政権は26日、安倍晋三首相が靖国神社に参拝したことについて、在日米国大使館を通じて「日本は大切な同盟国であり友好国だが、日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」との声明を発表した。
トピックス:安倍首相が靖国神社参拝
米政府はこれまで、小泉首相を含めた日本の首相の靖国神社参拝に公式に反対したことはなく、今回声明を出して批判したのは極めて異例の対応だ。
声明は「日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させることを希望する」として、日中韓が歴史認識を巡る問題の解決に取り組むよう改めて求めた。その上で「首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する」とし、安倍首相が過去への反省にどう言及するか、今後の対応を注視する考えを示した。
オバマ政権はこれまで、日韓関係の改善や尖閣諸島を巡る日中の緊張緩和を求める立場から、歴史認識を巡る問題に慎重に対応するよう求めてきた。にもかかわらず安倍首相が靖国に参拝したことから、声明で「失望」を表明する強い姿勢に出た。
⑦ 「不戦の誓い、伝えるため」 靖国参拝後の首相発言要旨 12月26日13時17分
安倍晋三首相が靖国神社を参拝した後、記者団に語った発言の要旨は次の通り。
【参拝理由】
参拝自体が政治問題、外交問題化しているが、その中で政権発足1年の安倍政権の歩みを報告し、二度と戦争の惨禍で人々が苦しむことがない時代をつくるとの誓いの決意をお伝えするために、この日を選んだ。
【中国、韓国との関係】
参拝は、いわゆる戦犯を崇拝する行為であると誤解に基づく批判がある。中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない。母を残し、愛する妻や子を残し、戦場で散った英霊のご冥福をお祈りし、リーダーとして手を合わせる。世界共通のリーダーの姿勢ではないか。
日本は戦後、自由と民主主義を守り、平和国家としてひたすら歩んできた。この基本姿勢は一貫している。(中韓首脳に)この気持ちを直接説明したい。戦後参拝したすべての首相は中国、韓国と友好関係を更に築きたいと願ってきた。謙虚に、礼儀正しく誠意を持って説明し、対話を求めたい。
【今後の参拝】
(回答を)差し控えたい。第1次政権の任期中に参拝できなかったことは痛恨の極みだと言ってきた。(昨年の)自民党総裁選、衆院選でもそう述べ、首相になった。私の参拝の意味を理解していただく努力を重ねていきたい。
【戦争指導者の責任】
我々は過去の反省の上に立ち、民主主義、自由な日本を作り、その中で世界平和に貢献している。その歩みには変わりはない。
⑧ 中韓、首相靖国参拝を非難 「重大な政治的障害に」 12月26日12時12分
【ソウル=中野晃、北京=倉重奈苗】安倍晋三首相の靖国神社参拝について、韓国政府は日本側から事前に連絡を受け、参拝前の26日午前に外交ルートで強く抗議した。韓国政府は安倍首相や閣僚らが靖国に参拝しないよう繰り返し求めてきており、日韓関係がさらに冷え込むのは必至だ。
トピックス:安倍首相が靖国神社参拝
韓国外交省の担当部局は急きょ、会議を開いて対応を協議している。同省は靖国神社の春と秋の例大祭や8月15日などに日本の閣僚や国会議員が参拝するたびに懸念を表明。4月に麻生太郎副総理が参拝した際には、尹炳世(ユンビョンセ)外相が直後に予定していた訪日を中止し、日韓関係が冷え込む大きな要因となった経緯がある。
韓国政府関係者は「参拝など絶対にあってはならない。日韓関係をどうしたいのか、とにかく理解できない」と述べた。
中国の国営新華社通信は26日、靖国参拝を速報。さらに、中国外務省が木寺昌人駐中国大使と日本外務省に抗議すると報じた。
中国外務省は「強く抗議し、厳しく非難する」との報道官談話を発表したほか、同省の羅照輝アジア局長は同省のブログで、「中国人は絶対に受け入れられない。(参拝は)新たに重大な政治的障害を生む。日本は引き起こした結果に責任を負わなければならない」と強く非難した。欧米のメディアも参拝を相次いで速報。ロイター通信は「中国や韓国が反発することになりそうだ」と伝えた。
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安倍首相、靖国神社を参拝 現職では小泉氏以来7年ぶり(12/26)
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朝日新聞デジタル (1面)
イ 戦後の礎、壊しかねない 安倍首相、靖国参拝 編集委員・前田直人 12月27日05時00分
政権1年の歩みを報告して、「不戦の誓い」を立てるためだったという。安倍晋三首相が靖国神社に参拝した理由である。満を持しての公約実行だったのだろうが、理解に苦しむ説明としか言いようがない。
安倍首相は持論の靖国参拝を、第1次安倍内閣ではあえて封じて中韓外交を立て直した。しかし、首相は今回、その成功体験を導き出した現実主義を捨て去るかのように、理念主義の顔をむき出しにした。
しかも政治・外交上の影響は承知のうえだ。参拝後に出した談話の中で「政治問題化、外交問題化している現実がある」と認めた。国内では先の大戦を知らない世代が増え、中韓への反発も強い。首相が戦没者に「哀悼の誠」をささげてなぜ悪いのかという理屈が、素朴な感情として受け入れられやすくなったという読みもあるのだろう。
しかし、日本が置かれた環境をみれば、首相の靖国参拝は国益を損ねる行動だと断じざるを得ない。
首相は参拝後、「戦犯を崇拝する行為であると、誤解に基づく批判がある」と語ったが、戦争を指導して東京裁判で責任を問われたA級戦犯が1978年に合祀(ごうし)された現実は重い。それ以降、昭和天皇は靖国神社に参拝しなかった。
首相は東京裁判を「連合国側の勝者の判断による断罪」と公言し、「歴史認識は歴史家に任せるべき問題だ」としてきた。日米同盟強化をうたう首相が、本質的には「反米主義的」であるとの受け止めが広がるゆえんである。
尖閣問題で日中間の緊張は増し、中国の出方は読みにくい。その対応に不可欠な米韓との連携の足並みは、乱れかねない。重大なのは、敗戦国・日本が国際社会で築いた戦後の信頼の礎を、首相が壊そうとしているのではないかという疑念があることだ。
中韓の反発に加えて米国の「失望」も買い、国内からは憲法の政教分離原則に反するとの問題も指摘される。内外にどう理解を求め、外交を立て直すつもりなのか。首相は、その戦略を語るべきだ。理念のみで突き進んで外交的な孤立に追い込まれるような道は、選ぶべきではない。
ロ (天声人語)「裸の王様」の参拝 12月27日05時00分
明治の初めに生まれ、本紙俳壇の選者をつとめた松瀬青々(せいせい)に一句ある。〈眉(まゆ)つゝみ狐(きつね)も出るや千葉笑(ちばわらい)〉。はて千葉笑とは何だろう。歳時記を開くと載っていて、手元の辞書にもある。庶民の知恵というべき江戸時代の奇習である▼その昔、大みそかの夜になると、現在の千葉市にある千葉寺(せんようじ)に土地の者が集まった。顔を包んで隠し、声を変え、役人や奉行、庄屋らの仕事ぶりや行状の善悪を言い立てて、大いに笑い合ったという▼江戸中期の文献によれば、役人たちは笑われまいと励み素行を慎んだというから、おのずと権力監視の用も担っていたようだ。下々からお上への痛烈な笑いのつぶて。「裸の王様」が多そうな封建時代、権力者にそれと教える笑いだったかも知れない▼時は流れて民主主義の時代にも、「裸の王様」は健在らしい。安倍首相がきのう靖国神社に参拝した。自民党内にはもはや意見する人物はいないのだろうか。政権誕生から1年の記念日でもあった▼人の行為にも目方というものがある。この場合、首相ともなれば超ヘビー級だ。庶民のように「ちょいとお参りしてきたよ」ではすまない。他の閣僚とも違う。王様には、その巨体を教えてくれるお友達もいなかったようである▼アメリカも「失望した」と批判している。秘密法にせよ、日ごろは「国益」を好んで国民に説く人だが、自分の思いのためなら国益を損なっても構わないというのか。独善と傲慢(ごうまん)には、さしもの千葉笑の呵々大笑(かかたいしょう)も届きそうにない。
ハ 靖国参拝、首相談話の疑問 歴史認識・内政・外交 12月27日05時00分
安倍晋三首相は26日、靖国参拝後に「恒久平和への誓い」と題した談話を発表した。中国や韓国の反発を見越し、あらかじめ用意した談話だ。だが、過去の経緯や首相のこれまでの言動と比べると、矛盾が多い。この日の首相発言とともに疑問点を指摘する。
《歴史認識》参拝したのは政権1年の歩みをお伝えするためです
■政教分離の問題を素通り
靖国神社には先の戦争を指導し、東京裁判で責任を問われた東条英機元首相らA級戦犯14人が合祀(ごうし)されている。靖国参拝は過去の侵略と植民地支配を日本の政治指導者がどう捉えるか、という歴史認識の問題に直結する。こうした意味をもつ靖国神社に政権1年を伝える必要があったのか。
首相は昨年の就任後、歴史認識をめぐってたびたび国内外から不信を招いてきた。閣僚らの靖国参拝に中国や韓国が反発すると「どんな脅かしにも屈しない」と反発した。植民地支配と侵略へのおわびと反省を示した村山談話を「そのまま継承しているわけではない」と発言。批判を受けると一転、「歴代内閣の立場を引き継ぐ」と修正した。
首相の靖国参拝は、憲法の政教分離原則に照らしても、問題点を指摘されてきた。先の大戦まで国家神道は戦争動員の精神的支柱となった。その中心的施設だったのが靖国だ。談話はその点も素通りしている。
安倍首相はこの日、記者団に対し、「戦場で散った英霊のご冥福をお祈りし、リーダーとして手を合わせる。世界共通のリーダーの姿勢だ」とも強調した。
しかし、米国のケリー国務長官が10月、戦没者の慰霊のために献花したのは、靖国ではなく千鳥ケ淵戦没者墓苑だった。米国務省当局者は朝日新聞の取材に「宗教や政治的な含意のない場所だからだ」と答えている。オバマ政権が「失望している」との声明を出した背景にはそうした事情があるとみられる。(池尻和生)
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《内政》平和の道を邁進(まいしん)してきました。この姿勢を貫きます
■過去の平和主義とは隔絶
首相の言う「平和」と、これまでの平和国家の歩みに断絶はないか。
首相がことあるごとに繰り返す「国際協調主義に基づく積極的平和主義」は、今までは「消極的」だったとの不満の裏返しにほかならない。武器輸出三原則を見直し、集団的自衛権の行使容認をめざし、憲法改正までも視野に入れる。にもかかわらず、継続性を唱える談話には違和感がある。
首相は談話で、「今後とも不戦の誓いを堅持していく決意を新たにした」とも語った。
ただ、今年の終戦の日に行われた全国戦没者追悼式の式辞に「不戦の誓い」の表現はない。歴代首相は式辞でアジア諸国への加害責任に言及してきたが、首相が「誰のため、何のため開く式なのか、抜本的に考え直してほしい」と官邸スタッフに指示。「深い反省」「哀悼の意」とともに「不戦の誓い」は消えた。
首相は単に発言の場を選んだだけ、というかも知れない。だが、これまでの経緯からすると、この日の「誓い」は唐突だった。
参拝後、首相は記者団にこう語った。自分は昨年の自民党総裁選でも衆院選でも、第1次政権で参拝できなかったことを「痛恨の極み」と述べ、そのうえで党総裁・首相に選出された――。まるで自らの参拝は国民の信任を得ていると言わんばかりだ。だが、首相は「政治・外交問題に発展していく」として、参拝するかどうか明言してこなかった。論理のすり替えはここにもある。(野上祐)
*
《外交》中国、韓国の人々を傷つけるつもりはありません
■戦犯合祀の理解得られぬ
首相は参拝した後、記者団に「靖国神社の参拝は、いわゆる戦犯を崇拝する行為と、誤解に基づく批判がある」とも述べた。しかし、「誤解」と言って切り捨てるのは、無理があるのではないか。
仮に首相本人に「戦犯を崇拝する」というつもりがなかったとしても、A級戦犯もまつられている靖国を参拝したという事実は変わらない。特に中国にとってみれば、日中国交正常化の際、日本の戦争指導者と一般の日本国民は別という理屈で自国民に説明した経緯がある。
そもそも侵略された中国や、植民地支配を受けた韓国の人々には、靖国神社への嫌悪感が根強い。靖国神社の境内にある施設「遊就館」では、戦前の歴史を正当化したとも受け止められる展示をしている。「傷つけるつもりはない」と言っても理解されるだろうか。
首相は就任してからの1年間で、中韓の首脳と一度も会談していない。だからこそ、「対話のドアは常にオープン」と述べていたのではなかったか。
靖国神社を参拝すれば、首脳会談はいっそう遠のく。両国間のビジネスや観光などにも悪影響を与えかねない。こんなことは首相自身も予測していたはずだ。
それにもかかわらず参拝を強行した。首相は談話で「中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています」と記したが、相手国を怒らせておいて、友好を唱えるのは無理がある。(東岡徹)
ニ 軍人ら250万人まつる/首相参拝「違憲」 靖国神社とは 12月27日05時00分
写真・図版靖国神社をめぐる歴史
靖国神社は1869(明治2)年、明治政府が戊辰戦争での官軍の戦死者を弔うため、東京招魂社の名前で創建された。その後、靖国神社と改称。日清、日露、日中戦争などの戦没者がまつられていった。
国のために命を捧げた軍人らは「英霊」とたたえられた。現在は250万近い人がまつられる一方、原爆や空襲で死んだ民間人や、官軍と戦った旧幕府側や明治政府に反抗した西郷隆盛らは対象外だ。
日本が独立を回復した1952年以降、吉田茂首相ら歴代首相はほぼ毎年のように参拝を続けていた。が、75年に三木武夫首相が初めて8月15日の終戦記念日に参拝。公人か私人かなどをめぐり、憲法20条の「政教分離原則」との関係でクローズアップされる。
中国や韓国が批判の声を上げたのは、85年に中曽根康弘首相が公式参拝したのがきっかけだ。78年には東条英機元首相らA級戦犯14人が合祀(ごうし)されており、「侵略戦争を正当化している」として反発した。
中曽根氏の公式参拝は、「政教分離原則に反する」として国内でも議論を巻き起こした。憲法に反するとした訴訟が相次ぎ、92年の大阪高裁などで「違憲の疑いがある」との判断が出ている。2004年の福岡地裁や05年の大阪高裁の判決(いずれも確定)は、小泉純一郎元首相の参拝を職務行為と認定したうえで違憲と判断している。
戦後、参拝を続けていた昭和天皇は、A級戦犯が合祀されて以降は参拝していない。1988年に昭和天皇が「或る時に、A級が合祀され (中略)だから私(は)あれ以来参拝していない それが私の心だ」と語ったとする、当時の富田朝彦宮内庁長官が記したメモが見つかっている。現在の天皇も89年の即位後、一度も参拝をしていない。
靖国神社は戦後、宗教法人となり、政教分離の規定から国が関われなくなった。政府は59年、宗教色のない千鳥ケ淵戦没者墓苑を設立。太平洋戦争で海外で死んだ軍人らのうち、引き取り手のない約36万人の遺骨を納めている。
ホ 歓迎と批判、与党交錯 野党、政権との距離反映 安倍首相の靖国参拝 年12月27日05時00分
写真・図版参拝を終えた安倍晋三首相
写真・図版 安倍晋三首相の靖国参拝に対し、与党内は歓迎と批判の声が交錯した。連立を組む公明党や、議員外交に取り組む自民党議員の制止を振り切った参拝だったが、野党の日本維新の会からは理解を示す声もあがった。▼1面参照
「必ず参拝されると信じてきた。一国のリーダーとして当然の振る舞いをしてくれた。ほっとしています」。首相側近の萩生田光一・自民党総裁特別補佐は26日午後、東京都内で記者団にこう述べて笑顔を見せた。10月、「就任1年という時間軸で、首相は気持ちを示されると思う」と語って以降、折に触れて首相の参拝を求め続けてきた。
参拝に同行した日本遺族会顧問の水落敏栄・自民党参院議員も「よくご決断いただいた。ほんとうにありがたい」と手放しで喜ぶ。
だが、自民党内には、中韓や米国との関係への影響を懸念し、参拝を批判する声もあがる。
■公明は反対
日韓議連会長の額賀福志郎元財務相は26日朝、出張先の沖縄から首相に電話し、「北東アジア情勢が不安定な中で、日韓関係は大事だ。思いとどまってほしい」と求めた。参拝を受けて、「日韓首脳会談を開催できるよう努力していただけに残念だ」と硬い表情で語った。日中協会長の野田毅元自治相も「厳しい反応は承知の上で参拝したのだろうが……」と当惑の色を浮かべた。
自民党幹部によると、今月3日に首相と会談したバイデン米副大統領は「中国ともめないでほしい」と、暗に靖国参拝を控えるよう求めたという。同盟国の忠告までも振り切っての参拝に、自民党中堅は「急ぎすぎだ」。閣僚経験者も「官邸にブレーキ役がいない」と懸念する。
公明党も厳しく批判した。山口那津男代表は「国民や諸外国の理解を得ないままに(参拝を)強行すれば、摩擦や反発を引き起こす」と批判。首相に問題解決にあたる努力を求めた。
■維・みは理解
一方、野党の反応は、政権や安倍首相との距離を映すように二分化した。
民主党の海江田万里代表は「首相は個人的な思いや私人としての立場というのはない。自重すべきだった」と批判した。辻元清美衆院議員も「個人的な情念の発露で日本を壊すのはやめてほしい」と訴えた。
共産党の志位和夫委員長も「特定秘密保護法、武器輸出三原則に反する弾薬提供、そして集団的自衛権の行使容認。戦争する国づくりへ、歯止めのない暴走が始まった」と批判した。みんなの党と袂(たもと)を分かった結いの党も批判的だ。
これに対し、石原慎太郎共同代表が8月の終戦記念日に靖国参拝するなど、保守の理念で首相と重なる維新は、橋下徹共同代表が首相を擁護。同じく首相に近い、みんなの渡辺喜美代表も「個人の信仰の問題。とやかく言うことはない」と問題視しない構えだ。
ヘ 安倍政権右傾化、英メディア指摘 首相、靖国参拝 12月27日05時00分
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は26日、「日本の首相による靖国参拝は(小泉純一郎氏の参拝から)7年間、非公式に凍結されてきたが、それが破られた」と指摘。反対論の根強い特定秘密保護法が成立したことにも触れ、これまで「アベノミクス」による経済浮揚に軸足を置いてきた安倍首相が「右翼の大義」の実現に焦点を移しつつあるとの見方を示した。
英紙ガーディアン(電子版)は、尖閣諸島や竹島をめぐり中韓との関係が悪化していることに触れ、「安倍氏の靖国参拝は日本と近隣国の関係をさらに損なうだろう」と報道。英BBC(電子版)は、安倍氏が「靖国第2次大戦神社を参拝した」との見出しを掲げた。(ロンドン)
ト (社説)首相と靖国神社 独りよがりの不毛な参拝 12月27日05時00分
内向きな、あまりに内向きな振る舞いの無責任さに、驚くほかはない。
安倍首相がきのう、靖国神社に参拝した。首相として参拝したのは初めてだ。
安倍氏はかねて、2006年からの第1次内閣時代に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語ってきた。一方で、政治、外交問題になるのを避けるため、参拝は控えてきた。
そうした配慮を押しのけて参拝に踏み切ったのは、「英霊」とは何の関係もない、自身の首相就任1年の日だった。
首相がどんな理由を挙げようとも、この参拝を正当化することはできない。
中国や韓国が反発するという理由からだけではない。首相の行為は、日本人の戦争への向き合い方から、安全保障、経済まで広い範囲に深刻な影響を与えるからだ。
■戦後日本への背信
首相は参拝後、「母を残し、愛する妻や子を残し、戦場で散った英霊のご冥福をお祈りし、手を合わせる。それ以外のものでは全くない」と語った。
あの戦争に巻き込まれ、理不尽な死を余儀なくされた人たちを悼む気持ちに異論はない。
だが、靖国神社に現職の首相や閣僚が参拝すれば、純粋な追悼を超える別の意味が加わる。
政治と宗教を切り離す。それが、憲法が定める原則である。その背景には、軍国主義と国家神道が結びついた、苦い経験がある。
戦前の靖国神社は、亡くなった軍人らを「神」としてまつる国家神道の中心だった。戦後になっても、戦争を指導し、若者を戦場に追いやったA級戦犯をひそかに合祀(ごうし)した。
境内にある「遊就館」の展示内容とあわせて考えれば、その存在は一宗教法人というにとどまらない。あの歴史を正当化する政治性を帯びた神社であることは明らかだ。
そこに首相が参拝すれば、その歴史観を肯定していると受け止められても仕方ない。
それでも参拝するというのなら、戦死者を悼みつつ、永遠の不戦を誓った戦後の日本人の歩みに背を向ける意思表示にほかならない。
■外交にいらぬ火種
首相の参拝に、侵略の被害を受けた中国や韓国は激しく反発している。参拝は、東アジアの安全保障や経済を考えても、外交的な下策である。
安倍首相はこの春、「侵略の定義は定まっていない」との自らの発言が内外から批判され、歴史認識をめぐる言動をそれなりに自制してきた。
一方、中国は尖閣諸島周辺での挑発的な行動をやめる気配はなく、11月には東シナ海の空域に防空識別圏を一方的に設定した。米国や周辺諸国に、無用な緊張をもたらす行為だとの懸念を生んでいる。
また、韓国では朴槿恵(パククネ)大統領が、外遊のたびにオバマ米大統領らに日本の非を鳴らす発言を繰り返してきた。安倍首相らの歴史認識への反発が発端だったとはいえ、最近は韓国内からも大統領のかたくなさに批判が上がっていた。
きのうの首相の靖国参拝が、こうした東アジアを取り巻く外交上の空気を一変させるのは間違いない。
この地域の不安定要因は、結局は歴史問題を克服できない日本なのだという見方が、一気に広がりかねない。米政府が出した「失望している」との異例の声明が、それを物語る。
外交官や民間人が関係改善や和解にどんなに力を尽くそうとも、指導者のひとつの言葉や行いが、すべての努力を無にしてしまう。
問題を解決すべき政治家が、新たな火種をつくる。
「痛恨の極み」。こんな個人的な思いや、中国や韓国に毅然(きぜん)とした態度を示せという自民党内の圧力から発しているのなら、留飲をさげるだけの行為ではないか。それにしてはあまりに影響は大きく、あまりに不毛である。
首相はきのう、本殿横にある「鎮霊社」にも参った。
鎮霊社は、本殿にまつられないあらゆる戦没者の霊をまつったという小さな社(やしろ)だ。首相は、ここですべての戦争で命を落とした方の冥福を祈り、不戦の誓いをしたと語った。
■新たな追悼施設を
安倍首相に問いたい。
それならば、軍人だけでなく、空襲や原爆や地上戦に巻き込まれて亡くなった民間人を含むすべての死者をひとしく悼むための施設を、新たにつくってはどうか。
どんな宗教を持つ人も、外国からの賓客も、わだかまりなく参拝できる追悼施設だ。
A級戦犯がまつられた靖国神社に対する政治家のこだわりが、すべての問題をこじらせていることは明白だ。
戦後70年を控えているというのに、いつまで同じことを繰り返すのか。