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折々の記 2013 ⑦
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 08 】12/30

  12 30 遺伝子、卵子で一括診断 筋ジスなど数千種類の病気 命の選択、懸念も  生命科学の歩みは続く
  12 30 2020へ翔べ 東京五輪  チャスラフスカさん ・ キャロライン・ケネディさん
  12 30 (気候異変)天変地異は地球規模 今年を振り返って  
  12 30 耕論)靖国参拝、信念の向こう側 東郷和彦さん、小田嶋隆さん  
  12 30 (社説)教科書検定 政治の力に屈するのか  

 12 30 (月) 遺伝子、卵子で一括診断 筋ジスなど数千種類の病気 命の選択、懸念も  

朝日新聞デジタル 2013年12月30日05時00分
遺伝子、卵子で一括診断 筋ジスなど数千種類の病気 命の選択、懸念も
    http://digital.asahi.com/articles/DA2S10905594.html

    写真・図版新しい卵子診断法

 受精前の卵子を壊さずに、筋ジストロフィーなど数千種類の病気を起こす染色体や遺伝子の異常を一度に見つける方法を、米ハーバード大と北京大の研究チームが開発した。9割以上の精度で異常を見つけることができた。チームはこの手法で「より健康な卵子」を選んで体外受精で出産する臨床研究を始めるという。専門家は生命の選択につながると懸念している。

 新手法は、妊娠後に行う出生前診断と違い、診断結果で中絶せずに済む。受精卵の一部を取り出して調べる着床前診断とも違い、受精卵を傷つけずに済む。しかし、新手法は体外受精が不可欠だ。また、親が好む容姿や才能をもたらしそうな遺伝子の卵子を選んで赤ちゃんを作る「デザイナーベビー」を現実化する技術だとの懸念の声もある。

 検査には卵子のもとになる「卵母細胞」を使う。成熟して卵子になる途中で細胞の外に排出される染色体のDNAをすべて分析し、卵子に残る染色体や遺伝子の異常を予測。染色体や遺伝子異常で起きる数千種類の病気を一度に調べる。

 実際に25~35歳の女性8人から70個の卵母細胞の提供を受け、染色体や遺伝子の異常を予測。体外受精させた受精卵で確認したら、9割以上の精度で遺伝子や染色体の異常が一致した。

 従来の着床前診断は、異常のごく一部しか調べることができない。チームは試薬や温度管理を工夫し、これまでできなかった微量のDNAを正確に大量に増やす方法を発見した。

 今回の方法では精子や受精後に発生する異常はわからない。しかし、卵子は精子より染色体の異常が2倍近く起こりやすいため、受精卵の異常の多くが予測できる可能性がある。

 チームはこの手法を使い、北京大第三病院で遺伝病の女性ら約30人を対象に「より異常が少ない卵子」を選んで受精、着床させて体外受精の成功率を上げたり、遺伝病を防いだりできないか臨床研究をする。(大岩ゆり)

■ 慎重な検討必要

 日本産科婦人科学会の新出生前診断検討委員長の久具宏司・東邦大教授の話 国内では重い病気などに限り着床前診断や出生前診断が認められている。新手法は、軽い病気の有無や身体の特徴も網羅的に予測できる。その情報を基に卵子を選べば、デザイナーベビーに大きく近づき、命の選択につながる。実用化には慎重な検討が必要だ。

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 12 30 (月) 2020へ翔べ 東京五輪  

(2020へ翔べ 東京五輪:上)
おもてなし、日本の知恵に期待 ベラ・チャスラフスカさん


■ 64年大会の体操金メダル ベラ・チャスラフスカさん(71歳)

 チェコスロバキア代表として出場した49年前の東京五輪で、ファンからもらったプレゼントはトラック1台分にもなりました。扇子や浴衣はきれいな包装紙に包まれていて、欧州の社会主義国では見たことがありませんでした。包装紙を長い間とっておきました。

 1960年ローマ、68年メキシコの両五輪にも出場しましたが、環境面でも東京は群を抜いていました。すべてが計画通りで、移動や練習、本番でストレスを感じず競技に集中できました。五輪を成功させたことで第2次世界大戦で敗戦した日本が再び国際社会の一員になれたと思いました。

 私も、この大会で金メダルをとったことで自分を信じられる確信を得ました。68年、国の民主化運動を支持する「2千語宣言」に署名し、迫害を受けました。でも、正しいと思った意見は変えられませんでした。もし、署名を撤回していたら、89年に民主化を実現したビロード革命で信用を失っていました。民主化後は大統領顧問になり、チェコ・オリンピック委員会の会長も務めました。プラハは2016年五輪招致では東京とも争いました。

 東京電力福島第一原発問題が解決しない中で東京での五輪開催が決まったのは、それでも、日本が一番安心できるからです。目新しさよりも確実さが求められたのです。国際オリンピック委員会(IOC)の委員も務めた立場で、私も東京を推すキャンペーンを展開しました。

 五輪は単なるスポーツの祭典ではなくなりました。五輪をしのぐ世界規模のイベントはありません。開閉会式は技術や知恵の見せどころだし、施設や交通手段、おもてなしも開催国の力量が試されます。東京がどこまで人間の限界を見せてくれるか楽しみです。

     ◇     

 (チャスラフスカさん) 2020年東京五輪・パラリンピックの開催決定は今年の最大級のニュースの一つ。半世紀以上をへて再び東京で開かれる五輪と日本への期待を、世界の視点から語ってもらった。


(2020へ翔べ 東京五輪:下)
障害者支援、日本の力示す好機 キャロライン・ケネディさん


■ 駐日米大使 キャロライン・ケネディさん(56歳)

 2020年に東京でオリンピックが開催されることに、わくわくしています。私が本当に愛している日本のあらゆるものに、世界の人々が接することができる機会となるのですから。

 それは、思いやりがあって、おもてなしの心をもった人々であり、信じられないほどに効率的な公共交通システムであり、清潔で安全な市街地です。そして、もちろん、日本の食事もその一つです。

 ケネディ家は、(心身に)障害を持つ人々の生活の改善に、何十年も取り組んできました。その一員として、私は、日本が(2020年の)パラリンピックに向けていかに準備を進めるのかに、特に注目しています。

 オリンピックとパラリンピック、そして、それらをホスト国として主催する準備を進めることは、日本が、障害を持つ人々の権利をいかに支えているかを、世界に示すよい機会になります。

 日本は、技術革新の分野で国際社会のリーダーと言える存在です。日本が誇る最新鋭の技術や優れたデザインを利用すれば、障害を持つ人々も日本のすべての良さを十分に楽しむことができるはずです。日本は、そうした新たな可能性を、オリンピックとパラリンピックの機会に世界に示すことができるのではないか、と考えています。

     ◇

 (キャロライン・ケネディさん) ケネディ家は、ケネディ大使の叔母の故ユニス・ケネディ・シュライバーさんが知的発達障害者によるスポーツの祭典「スペシャルオリンピックス」の開催に尽力するなど、障害を持つ人々のスポーツ活動を支援してきたことで知られる。

 12 30 (月) (気候異変)天変地異は地球規模 今年を振り返って  

2013年12月30日05時00分
(気候異変)天変地異は地球規模 今年を振り返って
    http://digital.asahi.com/articles/DA2S10905614.html?iref=comkiji_redirect

    写真・図版2013年、世界の主な異常気象
    写真・図版 写真・図版 写真・図版

 身動きがとれなくなる大雪が北日本で降ったかと思うと、夏には全土で猛暑。秋、過去最大級の台風がフィリピンを襲い多くの命が失われた。2013年、数々の異常気象が日本を含む世界を襲った。専門家は、地球温暖化対策を急ぐ必要があると警告している。

■ 夏の猛暑豪雨、冬の大雪 日本、西太平洋の高温影響

 日本列島はこの1年、季節を問わず極端な天候に見舞われた。

 年初は北日本の一部で記録的豪雪となった。気象庁によると、青森市・酸ケ湯(すかゆ)で積雪の深さが566センチになるなど12地点で最深積雪記録の1位を更新した。

 夏は、気象庁の検討会が「異常気象だった」という見解を示したほど。高知県四万十市で国内の最高気温の記録を更新する41・0度を観測したのをはじめ、143の観測点で、その地点での過去最高を記録した。秋田、岩手両県や山口、島根両県には「過去に経験したことがない」と表現される大雨が計3回降った。

 9月には埼玉県と千葉県で強い竜巻が発生。10月に入ると台風26号が伊豆大島に大雨を降らせ、大規模な地滑りによって36人が死亡、3人が行方不明となった。

 そして迎えたこの冬。気温は平年並みか低く、日本海側の降雪量は平年並みか多いと予測されている。この年末も北日本や日本海側で大雪となり、帰省に影響している。

 日本に寒い冬をもたらす要因は、夏の猛暑や多雨の要因と共通している。ここ数年、太平洋西部の海面水温が高いことが影響していると考えられているのだ。

 気象庁によると、海面水温が高いと活発な上昇気流が生まれる。夏はインドネシア・フィリピン周辺の海面水温が高かった影響で太平洋高気圧とチベット高気圧が重なり、日本付近が高温になるとともに、大量の水蒸気を含んだ大気が東北にまで流れ込んだ。

 冬もインドネシア周辺で積乱雲が生まれやすい状況が続く。これが偏西風を蛇行させて日本付近では南へ下げ、北方から寒気を呼び込むメカニズムになっているという。(神田明美)

■ 巨大台風・「100年ぶり」雪…

 マラソン選手の高地トレーニングで知られる米中西部・コロラド州のボルダー市周辺は9月、記録的な豪雨に見舞われた。

 数日間で1年分に近い雨が降り、川が決壊。広い範囲が水につかった。州政府によると8人が死亡、1万8千人以上が避難した。建物や道路の被害は20億ドル、日本円にして2千億円超に達するという推計もあり、いまも復旧作業が続く。雨の激しさは「100年に一度」という。

 その1年前の天候は正反対だった。コロラド州を含む穀倉地帯を厳しい干ばつが襲った。トウモロコシや大豆などの生産量が激減して穀物相場が高騰し、その影響は日本にも及んだ。

 荒ぶる気候が人々を脅かす。オバマ大統領は6月の演説で、米東部を昨秋直撃して5兆円超の被害を出した巨大ハリケーン「サンディ」に触れ、「ニューヨークの海水面が1世紀前より1フィート(約30センチ)上昇していることが確実に被害に拍車をかけた」と述べて温暖化対策の重要性を訴えた。

 中国でも異常気象が相次いだ。上海では8月に最高気温が40・8度に達し、記録が残る約140年間で最も高くなった。

 記録的な大雨による被害は6月にインド北西部、5~6月に欧州でも起きた。11月、「スーパー台風」と呼ばれた台風30号がフィリピンを襲い、6千人を超える犠牲者を出した。

 今月13日にはエジプトの首都カイロ郊外に雪が降った。住宅地が白く覆われるほど降ったのは「100年ぶり」という見方もあるという。(ワシントン=小林哲)

■ 止まらぬ温暖化、影響広がる恐れ

 もともと自然界には、年によって気温が高かったり低かったり、雨が多かったり少なかったりする「ゆらぎ」がある。世界中で異常気象が相次ぐ背景に地球温暖化の存在が指摘されるが、個別の現象との直接の因果関係は分からない。温室効果ガスによる温暖化は、数十年規模の傾向として観測・予測されている。

 しかし「温暖化によって気温がかさ上げされれば、今年の猛暑のように経験のない現象をより頻繁に経験するようになる」と東京大大気海洋研究所の木本昌秀教授(気象学)は話す。

 9月に公表された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書は、このまま温室効果ガスの排出が増えると世界の平均気温は今世紀末に産業革命前と比べて最大4・8度上昇すると予測する。国際社会は上昇を2度以内に抑えることを目標にしているが、それがいかに難しいことかを示した。

 日本の今夏の平均気温は平年と比べて1・1度ほど高かったにすぎない。木本教授は「上昇が2度に抑えられても、大きな変化をもたらすという想像力を働かせてほしい。事態は切迫している」と指摘する。

 今月来日したIPCC作業部会のトーマス・ストッカー共同議長は講演で、上昇を2度以内に抑えるために許された温室効果ガスの排出量は790ギガトン(炭素換算)と説明した。すでに515ギガトンを排出しており、現在のペースが続けばあと30年ほどで許容量を超えるという。(須藤大輔)

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2013年10月03日
温暖化 データは語る IPCC第5次評価報告書
    http://digital.asahi.com/articles/TKY201310020386.html?ref=reca

    写真・図版 化石燃料が氷河を解かす様子を表した模型。環境NGOが会場の外に
          設置して、出席者らにアピールした=いずれも9月27日、ストック
          ホルム、須藤大輔撮影
    写真・図版 地元の若者たちが温暖化対策を求めて「叫ぶ」イベント=いずれも
          27日、ストックホルム、須藤大輔撮影
    写真・図版 会見で報告書を公表するIPCCのパチャウリ議長(中央)ら=いず
          れも27日、ストックホルム、須藤大輔撮影
    写真・図版 世界の平均気温の変化
    写真・図版 気候変動のシナリオ別影響予測

 国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による第5次評価報告書の公表が、6年ぶりに始まった。9月27日に公表された第1弾の「科学的根拠」では、加速する気温や海面水位の上昇などの影響が避けられそうにない地球の将来像が示された。2015年に合意を目指す国際的な対策の枠組みをどうすべきか、判断を迫っている。

■ CO2量と気温上昇 比例関係新たに示す

 報告書をまとめた作業部会はストックホルムで開かれ、100カ国以上の政府代表らが参加した。会場のスクリーンに映し出された最終草案の表現を一文ずつ討議し、科学的な事実は変更できないものの、表現をめぐって駆け引きを繰り広げた。

 「1880年以降、世界の平均気温が0・85度上昇した」との記述は、当初は「1901年以降」となっていた。会議は非公開。各国の出席者によると、新興国が産業革命(18世紀半ば)前からの上昇幅を明記するように要求。先進国の歴史的な排出責任を強調したい意図があったとみられ、「ここは国連交渉の場ではない」と発言した先進国もあったという。結果、要求は退けられたが、起点を約20年前倒しするなどの妥協が図られた。

 将来の予測では、国際的な削減対策が取られず温暖化が進むシナリオから、産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2度以内に抑えるシナリオまで四つを用いて計算した。これまでの気温上昇に加え、今世紀末までに0・3~4・8度上昇する可能性が高いとした。

 新たに打ち出したのが、人類の排出した二酸化炭素(CO2)の累積量と世界の平均地上気温の上昇は、ほぼ比例関係にあるという見解だ。気温の目標によって、今後許される排出量が決まってくることを意味する。

 地球環境の激変を避ける、産業革命からの気温上昇が「2度以内のシナリオ」を66%の確率で実現するには、累積排出量を3兆6700億トン以内に抑える必要があるという。報告書は2011年までにすでに約2兆トンが排出されたとしている。最近は年に約320億トン排出している。

 報告書をまとめた作業部会のデービッド・ラット副議長は「残念なことに、すでに半分以上は出してしまっている」と9月30日に都内で開かれた朝日地球環境フォーラムで報告。このままでは、4度上昇する可能性が高いことを指摘した。

 次期枠組み交渉では、排出可能な量を各国でどう配分するのかも、議論の焦点になる可能性がある。

■ 海洋深くで熱を吸収 気温急上昇の恐れも

 今世紀に入って気温上昇が鈍っている現象をどう解釈するか。温暖化に否定的な人たちが論拠の一つにしてきただけに、どう説明するかにも注目が集まった。



 報告書は、過去30年の10年ごとの平均気温は、1850年以降の最高を更新し続けていると強調。2016~35年の世界の平均地上気温は、現在より「0・3~0・7度上昇する可能性が高い」と指摘した。その上で、温暖化の停滞は一時的な現象で、再び上昇基調に戻る可能性を示唆しているとした。

 直接触れていないものの、停滞の原因として考えられるのが、深海による調整機能だ。報告書は「海洋の上部(0~700メートル)で水温が上昇していることはほぼ確実。1992~2005年には、3千メートルより深い深層で水温が上昇している可能性が高い」とした。

 03~10年の深さ700メートルまでの水温上昇は、それ以前の10年と比べゆるやかになっているのに対し、700~2千メートルの上昇は勢いよく続いている。

 報告書は、海洋の温暖化について、1971~2010年に「気候システムに蓄えられたエネルギーの90%以上を海が占める」としている。熱が、地表ではなく海洋深くに吸収されている可能性があるというのだ。だが、水温の上昇が深層から海面近くに変わることによって、再び地上気温が急激に

 2007年に公表した前回の報告書(18~59センチ)を上回ったのは、過去20年に南極とグリーンランドの氷床の質量が減少を続けていることが明らかになり、氷床が動いて海に落ち、解ける影響を考慮できるようになったからだ。

 グリーンランドの氷床がほぼすべて失われると、千年以上かけて世界の海面水位は最大7メートル上昇するとされる。産業革命前と比べて世界平均1~4度の気温上昇で起きる可能性があるという。

 高緯度地域では世界平均より大きな気温上昇が見込まれている。熱波や大雨、干ばつ、台風などの極端な気象現象の出方や影響も、地域によって大きく違う。

 第5次報告書は、来年3月に横浜でまとまる報告書(影響と適応策)、4月のドイツでの報告書(温室効果ガスの排出削減)、10月のデンマークでの統合報告書の議論へと受け継がれ、次期枠組み交渉に生かされる。

■ 北極圏の危機 転換点は遠くない

 石油の掘削基地から噴き上がる炎で解けていく氷のオブジェ――今回のIPCC総会は、北欧ストックホルムでの開催ということもあってか、会場外のNGOたちは北極圏の危機を強調するパフォーマンスを繰り広げた。

 コップの中の氷がいくら解けてもあふれることはないが、外から大量に投げ込まれれば話は別だ。グリーンランドなどの巨大な氷床が崩壊して海に流れ込んでいることが、海面水位の上昇予測が引き上げられた要因になった。

 さらに不気味な話も盛り込まれた。こうした氷床がすべて海に解け出すと水位の大幅な上昇を引き起こす。私たちが生きている間には起こりそうもないが、将来、社会に悲劇的な混乱を引き起こすのは想像に難くない。海岸近くに人口は密集している。

 産業革命前から気温がすでに1度ほど上昇していることを考えれば、後戻りできない転換点は実はすぐ迫っているのかもしれない。そんなことを考えさせられる報告書だった。(須藤大輔)



 12 30 (月) (耕論)靖国参拝、信念の向こう側 東郷和彦さん、小田嶋隆さん  

朝日新聞 政治オピニオン 2013年12月29日05時00分
(耕論)靖国参拝、信念の向こう側 東郷和彦さん、小田嶋隆さん
    http://digital.asahi.com/articles/DA2S10904178.html?iref=comkiji_redirect&ref=com_fbox_d1

 安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。米国は失望し、中国、韓国の反発に加えて欧州、ロシアも批判する。安倍首相の信念が生んだ出来事をどう読み解くのか。外交の専門家と日本社会を見つめる識者の2人に聞いた。

■ 「国産の歴史認識」のなさ露呈 元外交官・京都産業大学教授、東郷和彦さん

 先の戦争で亡くなった人たちを慰霊する場として、私は条件さえ整えば、靖国神社が最適だと考えます。しかし今の状況での首相の参拝には賛成できません。

 一番の問題は、日本の戦争責任について日本人自身がいまだに総括していないことです。中国や韓国が反発するから、米国が何か言ってくるから、何とかしないと、という問題ではないのです

 退官後の2006年、小泉純一郎首相が靖国に参拝する少し前に、私は首相の参拝を「一時停止」し、A級戦犯合祀(ごうし)を始めとした問題を解決した上で再開すべきだと提言しました。しかし、その後7年、議論らしい議論もないまま、安倍晋三首相は参拝しました
。極めて残念です。

    *

 <戦争責任直視を> そもそも、日本人全体の戦争責任をどう考えるのか。

 日本による満州国の建設、盧溝橋事件に始まる日中戦争、中国南部への進出など、徐々に広がっていく過程を国民は見ていました。知らなかったとは言えません。

 しかも日本人の中に、赤紙一枚で召集された兵と、それを指揮した人を同列に扱うのかという根深い対立がある。靖国問題とは、まず私たち日本人の問題なのです。

 自前の歴史認識を作る代わりに、日本は中国製の歴史認識を受け入れたと言われても仕方のない行動をとりました。1972年の日中国交正常化の時に当時の周恩来・中国首相が出した「日本軍国主義は日中人民の共通の敵」という「周恩来テーゼ」です。悪いのは日本の一部の軍人や軍国主義者たちで、大多数の日本国民は被害者だったというものです

 当時の田中角栄首相は反論しなかったし、歴代首相もとりたてて反論はしませんでした。国際社会では反論しなければ受け入れたとみなされます。A級戦犯は国際的に日本軍国主義の象徴とされてしまった以上、反論するにはよほどの覚悟が必要です。

    *

 <不信深める挑発> 06年の小泉参拝当時に比べて国際情勢は大きく変わり、事態はさらに深刻です。

 昨年9月の国有化以降、尖閣諸島の周辺で日本と中国の間で戦争が始まるかもしれないという危険な状態が続いています。

 首相の責務は、尖閣が日本の領土だという筋を通しつつ、中国との戦争を回避することにあります。方法は抑止と対話の二つ。抑止は重要ですが、装備を増強するだけでは危険度が逆に増してしまう。対話は不可欠です。

 対話を成功させるためには、不信感が生じるようなことは一切差し控えるべきでした。中国は靖国を、首脳会談が困難になるくらい重大な問題ととらえている。それを承知して参拝したことで、中国からの日本の首相への不信感は増幅します。限りなく危険です。

 米国は靖国問題で中国を挑発するな、という意味のメッセージを送り続けていました。にもかかわらず、参拝してしまった

 万が一、中国との間で戦争状態になった時に、米国は本当に助けに来るのか。米国世論はどう出るか。中国を挑発するような愚かな国のために血を流す必要があるのか、ともなりかねません。

 同盟国に対して「失望した」と言うことの恐ろしさを知ってほしい。外交の世界で同盟国にこんなにはっきり言うのは異例です

 韓国にとって靖国は主要問題ではないと私は考えています。しかし、韓国が反発するのは明らかです。理由なく悪化している日韓関係の立て直しこそ首相の重大な職責にもかかわらず、また一つ不信の要因を作ってしまった。

 北方領土をめぐり、プーチン大統領との間で、かつてない打開の機会があると見られたロシアからも批判の声があがり、日本との関係を進めようという力を大きく減らしてしまいました

 安倍首相は、靖国参拝というたった一つの行動によって、米中韓ロの歴史認識に関する包囲網を作らせてしまった。安倍さんの周りには優れたアドバイザーがたくさんいるのに、どうしてこういう行動になってしまったのか。日本人として極めて悲しい

 日本人自身としての歴史認識と、外交の優先順位の原点に戻って考え直す必要があると思います。

 (聞き手・編集委員 刀祢館正明)

    *

 とうごうかずひこ 45年生まれ。外務省条約局長、欧州局長などを歴任。元外相でA級戦犯の東郷茂徳は祖父。著書に「歴史認識を問い直す」「歴史と外交」など。

■ 「いいね!」過信が「失望」招く コラムニスト、小田嶋隆さん

 安倍首相の靖国参拝は、単なる一か八か、ではなく、世論はついてくる、という彼なりの計算や勝算があったと思います。その根拠を与えているのがフェイスブック(FB)ではないでしょうか。

 安倍さんのFBを見ていると、称賛の声しかありません。FBは誰のものでも基本的にファンしか集まってきません。産経新聞によれば、参拝後、「いいね!」ボタンが4万回押されたそうですね。もし、FBに「ふざけるな!」ボタンがあれば、がんばって押しに来た人も大勢いたでしょうが。

 ちょうど白雪姫に出てくる魔法の鏡のように、「世界で一番愛されている首相はだれ?」と聞くと、「安倍さんに決まってますよ」という返事が返ってくる。それを毎日見ているうちに、どうしても影響される。

    *

 <直接届く民の声> 私の長年の雑誌での経験で「読者はがきに気をつけろ」というのがあります。投稿者は思い入れが強くて平均的な読者とは違う、影響されるな、と。でも、ものを作っている人間は心細いところがあって、2、3の極端な意見でも励まされたりがっかりしたり。

 まして、首相のような立場の人にはこれまで、民衆の直接の声が聞こえてこなかった。FBで直接声が届くことで、本人は非常に勇気づけられる。その影響は少なくないと思っています。

 今月下旬、通信社が今年は参拝しないだろうと配信したら、ネットには「がっかりした」という声があふれ、FBにも「行ってほしい」という声が少なからずありました。民の声に見えるものが何万とあると、どうしても引きずられてしまう。FBは政治家の背中を押すメディアなんです。

 ネットが政治化する傾向は、日本社会でより顕著かもしれません。日常的に政治の話をすることがタブー視されているので、ネットの中に潜り込みがちになる。しかも匿名なので、右であれ左であれ、極端な意見に傾いていく。中国、韓国に対して毅然(きぜん)とした態度をとると圧倒的に評判がいい。

 今回の靖国参拝でも政権の支持率はそれほど下がらないのではないか、と思っています。

    *

 <決断力に好反応> リーダーが何であれ、決断することを歓迎する風潮がこの10年、露骨になっています。参拝の是非より、首相が信念をもってやったことを支持する。事のよしあしはどうあれ、きっぱりした決断力、実行力に国民が反応するということが如実にあります。

 多くの人はおそらく、首相の靖国参拝自体、何それ、という感じかもしれません。それより、中国や韓国にいろいろ言われるのは不愉快だという気分の方が大きい。事情も聴かずに「そこ、もめないで」と学校の先生みたいなことを言っている米国も面白くない。だから、諸外国の顔色をうかがったりせず、毅然として参拝したことに、たくましさを感じる国民も一定数いるでしょう。

 考えてみれば、リーダーに決めてもらいたいというのは、自分では考えずに丸投げすることになります。民主主義国家として健康とはいえない。民主的に決めようと思ったら、複雑だし、迷いもあってぶれるし、時間もかかる。決断は煮え切らないものなんです。

 そんな中で、自民党内でも決して圧倒的な支持があったわけではなかった安倍首相は、小選挙区制を背景に、分不相応といっていい絶対権力を握ってしまった。しかも、かつての自民党は、実に幅の広い政党だったのに、今や一枚岩です。党内の風通しは悪く、異論の存在が許されず、元気の良かった若手の声も消えました。

 短期的には悲観しています。アジアだけでなく世界中にいる日本人が住みにくくなるでしょう。米国からは、「disappointed」、つまりがっかりしたという、男女の間なら別れ話になるような強い言葉が出た。いずれお灸(きゅう)をすえられるかもしれない。

 今回の出来事は、安倍さんが自信をつけて、戦後民主主義の全否定へと露骨にかじを切った、分水嶺(ぶんすいれい)だった、と後に振り返ることになるかもしれません。私は、自民党内のリベラル派が、党を割って出て第二自民党を作るのを期待したい。要は「自民党を、取り戻す。」です。

 (聞き手・辻篤子)

    *

 おだじまたかし 56年生まれ。切れ味鋭いコラムに定評があり、ネット連載「ア・ピース・オブ・警句」が人気。著書に「もっと地雷を踏む勇気」「場末の文体論」など。

 12 30 (月) (社説)教科書検定 政治の力に屈するのか  

朝日新聞デジタル 2013年12月30日05時00分
(社説)教科書検定 政治の力に屈するのか

 教科書検定のありかたの見直し案がまとまり、国民への意見公募にかけられた。

 歴史記述への国の介入が強まりかねない大きな方針転換だ。それを、検定を担う学者らによる審議会の会合を2回開いただけで通し、来年度の中学向け検定から適用しようとしている。あまりに拙速だ。

 審議会での説明を聞く限り、文部科学省は政治の力に屈したと言わざるをえない。

 たとえば見直し案には、愛国心や郷土愛をはじめとする改正教育基本法の「教育目標」に照らして、「重大な欠陥」があれば不合格にできる――という事項が含まれている。

 これまでの検定で、重大な欠陥のあるものが見逃されてきたということか。審議会で委員が尋ねると、文科省側は「今まで重大な欠陥があるのに通してきたという認識は、私どもにもない」と答えた。

 無用な改定であることを自ら認めたようなものだ。

 それでも改定を図るのは、政権への配慮としか言いようがない。4月の衆院予算委員会で、安倍首相は「検定基準に改正教育基本法の精神が生かされていなかった」と述べている。

 見直し案には、近現代史で通説的見解のない数字などを書くときは、通説がないことを明示するルールも盛り込まれた。

 これについても、文科省は自ら「何をもって通説とするかは非常に難しい問題」と認めた。通説の有無や、史実の評価が定まっているかを誰が判断するのか、と委員からも懸念が出た。そもそも通説がゆらぐことは、古代史や中世史の方が多い。

 そうした無理を承知で、ことさら「近現代史の数字など」に的を絞った事情ははっきりしている。自民党などが、国会をはじめさまざまな場で、日中戦争で起きた南京事件の犠牲者数をめぐる記述などをやり玉に挙げてきたからだ。

 通説的な見解、愛国心。これらは、いわば目盛りのない物差しだ。目盛りがないから、使う者が好きなように判定できる。出版社は不合格を恐れて自主規制するようになる恐れがある。

 主観的な物差しを検定の場に持ち込めば、文科省や検定審の恣意(しい)が働くという以前に、ときの政権の意向に教科書の中身がふりまわされる危険が高まる。今回の改定過程じたいが、それを如実に物語る。

 教科書を書く側ばかりか、検定する側も政権の顔色をうかがわざるをえなくなる。文科省は自らの首を絞めるような改定を本当にやるつもりか。

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(声)「ゲン」閲覧制限 萎縮招くな (8/23)

無職 林洋和(広島県 71)

 故中沢啓治さんが被爆体験を題材にした漫画「はだしのゲン」が松江市内の市立小中学校図書館で、自由に閲覧できない「閉架」扱いになったことが声欄でも話題になっている。

 私が注目するのは、閉架扱いに至った経過だ。昨年、松江市民から「ありもしない日本軍の蛮行が描かれており、子どもたちに間違った歴史認識を植え付ける」として作品の撤去を求める陳情があり、市教委が協議の末に判断したのである。

 「ありもしない日本軍の蛮行」とされた箇所は、証言や史実に基づいて中沢さんが描いたものである。私たちは歴史の事実に対して謙虚に向き合うことが必要ではないか。中沢さんはそのことを自らの体験を通して教えてくれているものと思う。

 近現代史研究者の保阪正康さんは著書「あの戦争は何だったのか」で、1936年の二・二六事件を契機に、テロの恐怖が政治家を萎縮(いしゅく)させ、軍主導の国家体制に進んだと書いている

 5月には教科書検定の見直しを検討する自民党部会が教科書出版会社の社長らから編集方針などを聴取した。こうした動きや、「はだしのゲン」の閲覧を制限しようという今回の動きが、当事者の萎縮や自主規制につながらないことを切に願う

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