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折々の記 2014 ⑦
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】08/14~     【 02 】08/16~     【 03 】08/19~
【 04 】08/21~     【 05 】08/26~     【 06 】08/27~
【 07 】08/30~     【 08 】09/01~     【 09 】09/05~

【 03 】08/19

  08 19 採血1回、がん13種類判定へ 国立がんセンターなど、18年度めざし開発  
  08 20 (ザ・テクノロジー:16)クモの糸、微生物が紡ぐ  
     (ザ・テクノロジー:16)クモの糸、微生物が紡ぐ
     (ザ・テクノロジー:17)合成生物、ガソリン生み出す
     (ザ・テクノロジー:18)生態系破壊・テロの懸念も

     《特集:ザ・テクノロジー ⇒ 》
       第3シリーズ:バイオ
              14  乳房切除、生きるため(08/19)
              15  DNA検査、命の選別に道(08/19)
              16  クモの糸、微生物が紡ぐ(08/20)
              17  合成生物、ガソリン生み出す(08/20)
              18  生態系破壊・テロの懸念も(08/20)
       第2シリーズ:人工知能(AI)
              10  人工知能、米追う中国(06/07)
              11  人の知性超える日、現実味(06/07)
              12  料理の戦略、勘よりデータ(06/08)
              13  客の好みを細かく分析(06/08)
       第1シリーズ:ロボット技術の最先端
               1  ロボットバブルとグーグル(04/29)
               2  「日本の快挙」がグーグルに(04/30)
               3  ヒト型ロボットの源流は日本に(04/30)
               4  孫社長「次はロボット」(05/01)
               5  人型ロボ商品化、展望欠く日本(05/01)
               6  雇用減・軍事利用、懸念も(05/01)
               7  「ロボットが労働力不足補う」(05/01)
               8  ロボット商用化の壁越えるには(05/01)
               9  ソニー、ロボット撤退の舞台裏(05/09)
      年間企画「ザ・テクノロジー」
      WEBRONZA・WEB新書
      (ザ・テクノロジー:15)DNA検査、命の選別に道(2014/08/19)
      (ザ・テクノロジー:14)乳房切除、生きるため(2014/08/19)
      (ザ・テクノロジー:8)ロボット商用化の壁越えるには(2014/05/01)
  08 20 (社説)介護の担い手 役割に見合う報酬を  
  08 20 (声)長崎市長への批判、与党は説明を  

 08 19 (火) 採血1回、がん13種類判定へ 国立がんセンターなど、18年度めざし開発   

2014年8月19日05時00分
採血1回、がん13種類判定へ 国立がんセンターなど、18年度めざし開発
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11306040.html

写真・図版

【解説図】 対象となる13種類のがん/実用化めざす検査技術

 1回の採血でがん13種類や認知症を見つける検査技術の開発に着手する、と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と国立がん研究センターなどが18日発表した。患者約7万人分の血液を解析して、それぞれの病気の「目印」となる物質を特定する。2018年度までに開発し、その後、健康診断への活用をめざすという。

 NEDOなどによると、事業費は約79億円。調べるのは、血液などに含まれる「マイクロRNA」という物質で、ヒトには2500種類以上ある。近年、病気によって血液中に分泌される種類や量が変化することがわかってきた。

 13種類のがんは日本人に多い胃がんや大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がんなど。国立がん研究センターと国立長寿医療研究センターに保管されている各患者の血液を調べ、それぞれに特有のマイクロRNAを見つける。

 これまでも血液から、がん患者に増えるたんぱく質などを調べる腫瘍(しゅよう)マーカー検査が実施されているが、多くはがんがある程度進行しないと検出できなかった。マイクロRNAは、がん細胞がより小さい状態でも分泌されるため、早い段階で見つけられる可能性があるとしている。研究が進んでいる乳がんや膵臓(すいぞう)がん、大腸がんなどでは、特有のマイクロRNAの候補がわかりつつあるという。

 国立がん研究センター研究所の落谷孝広・分子細胞治療研究分野長は「採血だけでさまざまながんを調べられれば、体への負担は少なくて済む。早く実用化につなげたい」と話す。(土肥修一)

 08 19 (火) (ザ・テクノロジー:16)クモの糸、微生物が紡ぐ   

2014年8月20日 岡崎明子、嘉幡久敬
(ザ・テクノロジー)第3部・バイオ編:下(ザ・テクノロジー:16)クモの糸、微生物が紡ぐ
    http://digital.asahi.com/articles/ASG8M130YG8LUHBI03T.html?iref=comtop_6_06

写真・図版

【映像解説】 クモの糸の生産現場。まるでビール工場のようだ

 山形県鶴岡市の田園地帯にガラス張りの美しい建物が立つ。なかの「実験室」への出入りは厳しく制限されている。室内にあるのは、筒状のガラス容器だ。

 《特集:ザ・テクノロジー ⇒ 》

 「企業秘密のため写真でしかお見せできませんが、これがクモの糸になるんです」と担当者は言う。

 ガラス容器のなかでは、ドロドロの黄色の液体が発酵している。まるで小さなビール工場のようだ。

 31歳の代表執行役、関山和秀が率いる慶応大発のバイオベンチャー企業「スパイバー」が目指すのは、人工的にクモの糸を合成し、量産化することだ。

 創業のきっかけは10年前の飲み会だった。慶応大4年だった関山は研究室の仲間らと「最も強い昆虫は何か」という話になった。「強力な毒を持つスズメバチだ」「それを捕食するクモの方がすごい」。議論はいつしか「捕食に使われるクモの糸はすごいらしい」という方向に。飲み会が終わった午前4時に大学に行き、クモの糸の論文を探した。それが3年後の2007年、起業につながった。

 クモの糸は鋼鉄を超える強度とナイロンを上回る伸縮性を併せ持ち、「世界で最もタフな繊維」と呼ばれる。車体や防弾チョッキ、人工血管など様々な分野に応用できそうで、次世代の素材の注目株だ。

 しかし、実用化には壁があった。クモは縄張り意識が強く共食いする。一度に多く飼育できず、糸の大量生産ができないのだ。

 「クモの糸」は、特殊なたんぱく質でできている。同社は、微生物を利用して、そのたんぱく質を再現できないか知恵を絞った。

 微生物は、細胞のなかの遺伝子がさまざまなたんぱく質をつくっている。スパイバーは微生物のなかに、別の遺伝子を組み込むことで、クモの糸と同じたんぱく質を、効率よく大量につくる基礎技術の開発にこぎつけた。スパイバーの強みは「自ら遺伝子を設計し、生産効率の高い遺伝子を作製できる点にある」と取締役の東憲児は語る。自前でさまざまな遺伝子を作って微生物に組み込む実験を繰り返し、大量生産が可能な組み合わせに行き着いた。

 昨年11月、トヨタ自動車系の部品製造会社「小島プレス工業」と共同で、量産化の足がかりとなる試作研究施設を造った。来年から年間10トンの生産態勢に入る予定だ。

 スパイバーが取り組む手法は「合成生物学」と呼ばれる。米欧では次世代の成長分野とみて、ベンチャー企業から世界的大手までが入り乱れ、激しく争っている。(敬称略)(岡崎明子、嘉幡久敬)

 (2面に続く)


 (1面から続く)
(ザ・テクノロジー)合成生物を競う
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11307624.html

写真・図版

【画像解説】 微生物に外から別のDNAを組み込み新たな生物がつくられている

 人工合成した微生物が、ガソリンのもとをはき出す――。こんな微生物を「創造」したのは、仏ベンチャー企業「グローバル・バイオエネルギー」社だ。大腸菌の細胞の中に糖を分解する複数の酵素のDNAを改良して組み込んだ。大腸菌は、酵素の機能を取り込み、新たな合成生物に変化。糖を分解し、ガソリンの原料となる「イソブテン」や「イソオクタン」といった物質をはき出すようになった。

 同社は1月、ドイツの自動車大手アウディとの提携を発表。ドイツ政府も補助金を出す。来年は年間100トン規模のガソリンの量産に挑戦する。「100台の乗用車が年2万キロ走れるほどの量になる」と、社長のマルク・デルクール。課題は、生産コストが高いことだ。同社の合成大腸菌は、純度の高い糖しか、分解できないためだ。しかし、デルクールは「このまま石油価格が上がり続ければ、大きな転換点が遠からず来る」。

 三井化学はやはり大腸菌を使って、糖から、衣類やプラスチックの原料を量産する技術開発に取り組んでいる。主導するのは、バイオ技術戦略チームリーダーの和田光史(51)だ。大学で薬学を学び、旧三井東圧化学(現三井化学)でバイオ医薬品の開発に没頭した。だが、99年に製薬事業が海外に売却され、和田は「社内失業」状態になり、一時は目標を見失った。

 和田が活路を求めたのは「合成生物学」だった。

 和田は、2000年から大腸菌を使う研究を開始。植物からプラスチックをつくるのに必須の原料を、それまで1リットルの培養液から48時間で7・2グラムしか生み出せなかったのを、改変した大腸菌を駆使して113グラムまで生成できるように。さらなる量産ができるようになれば、コストが下がり、「自動車のプラスチック部材の半分を植物性のもので置き換えられる」と語る。

     *

 世界大手の技術はすでに実用化の域に達している。

 世界3位の製薬企業、仏サノフィは8月、合成生物学の技術をつかった抗マラリア薬の出荷を開始した。

 パンづくりにも使われる、イースト菌。米カリフォルニア大バークリー校教授のジェイ・キースリングが立ち上げたベンチャー「アミリス」は、そこへ別の遺伝子を組み込み、マラリア治療薬の原料アルテミシニンをつくらせることに成功した。中国原産の薬用植物に含まれる希少成分だけに画期的な技術だ。教授らと提携するサノフィが抗マラリア薬を製造する。同社は化学的な薬品生産から、バイオ素材由来の薬品生産へと軸足を移している。

 インフルエンザのワクチンを開発する動きもある。

 米ボストンにあるノバルティス(本社・スイス)の研究所。昨春、上海を中心に中国各地で人への感染が広まった鳥インフルエンザ(H7N9型)のワクチンはここで誕生した。

 中国の衛生当局が解読し、研究者向けにネットで公開したウイルスのDNAの塩基配列をダウンロード。研究チームはそのDNAの配列を人工合成し、2日後には中国の実物と同型のウイルスを作り出した。さらに4日後、ウイルスから毒性部分を取り除いたDNA配列を合成。それをふつうワクチンを大量生産するときに使う鶏卵ではなく、犬の細胞に組み込み、新ワクチンを完成させた。従来数カ月かかっていたプロセスを数日に短縮した。

 「我々の技術でパンデミック(世界的流行)を防げるようになるかもしれません」。研究を率いるフィリップ・ドーミッツァーは期待を込める。(冨岡史穂=パリ、小林哲=ボストン、榊原謙)

 ◆生態系破壊やテロの懸念も

 マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授のジョセフ・ジャコブソンらは、見た目はLSI(大規模集積回路)そっくりのシリコンチップ上に、塩基と呼ばれる分子をつなぎ、生命の設計図である遺伝子を人工合成する画期的な仕組みを作った。

 米ボストン近郊にある教授らが立ち上げたベンチャー「GEN9」を訪ねた。小型のビアサーバーほどの装置にチップを「パチン」とセットする。「操作はこれだけ。あとはご希望の遺伝子が自動で組み上がる」と、代表のケビン・マネリー。技術の詳細は門外不出。撮影も厳禁だ。

 標準的な長さの遺伝子なら一つ15秒ほどで作れる。化学反応による従来の手法と比べると速度は1万倍だ。教授らは、企業や研究所からさまざまな遺伝子の注文を受け、販売している。標準的な遺伝子だと価格は200ドル(約2万円)。企業らは購入した遺伝子を微生物に組み込み、合成生物を次々と作れる。「シリコン製の半導体が生活をがらっと変えたように、われわれもこのシリコンチップで生物学の世界を変えたい」とジャコブソンは意気込む。

     *

 だが、合成生物学には批判もある。一つは、「自然界に漏れ出れば、生態系を破壊する」という懸念だ。遺伝子を改変した生物を、外界に出さないようにするという国際的な取り決めはある。ただ、実験自体を規制する国際的な枠組みはない。生命倫理が専門の東京財団研究員のぬで島(ぬでしま)次郎は「生命のしくみを知るために、この世にはない生命をつくる科学的な必要性があるのか、事前に審査されるべきだろう」と指摘する。

 「生物テロ」につながるのではないかという声もある。米政府の委員会は11年、東大医科学研究所教授の河岡義裕らが英科学誌ネイチャーに投稿した「高病原性鳥インフルエンザH5N1」に関する論文などについて、内容の一部削除を掲載前に求めた。

 論文は、一つの遺伝子が4カ所変異すると、哺乳類でもH5N1が空気感染することを示していた。委員会は生物テロへの悪用をおそれたのだ。だが英科学誌は、半年後に全文を掲載した。「ワクチン開発の遅れにつながる」といった意見を踏まえ、掲載しない不利益の方が大きいと判断した。リスクをとるか、科学の発展をとるか――の議論はいまも続いている。(敬称略)(嘉幡久敬=ボストン、岡崎明子)


2014年8月20日
(ザ・テクノロジー:17)合成生物、ガソリン生み出す
    http://digital.asahi.com/articles/ASG8M5WYCG8MUHBI021.html

 人工合成した微生物が、ガソリンのもとをはき出す――。こんな微生物を「創造」したのは、仏ベンチャー企業「グローバル・バイオエネルギー」社だ。

《特集:ザ・テクノロジー ⇒ 》

 大腸菌の細胞のなかに、糖を分解する複数の酵素のDNAを改良して組み込んだ。大腸菌は、酵素の機能を取り込み、新たな合成生物に変化。糖を分解し、ガソリンの原料となる「イソブテン」や「イソオクタン」といった物質をはき出すようになった。そこから、ガソリンをつくることに成功した。

 同社は1月、ドイツの自動車大手アウディとの提携を発表。ドイツ政府も補助金を出して後押しする。試作工場を建設中で、来年は年間100トン規模のガソリンの量産に挑戦する。

 「100台の乗用車が年2万キロ走れるほどの量になる」と、社長のマルク・デルクール。

 課題は、生産コストが高いことだ。同社の合成大腸菌は、純度の高い糖しか、分解できないためだ。しかし、デルクールは「このまま石油価格が上がり続ければ、大きな転換点が遠からず来る」と期待をかける。

 三井化学はやはり大腸菌を使って、糖から、衣類やプラスチックの原料を量産する技術開発に取り組んでいる。

 主導するのは、バイオ技術戦略チームリーダーの和田光史(51)だ。大学で薬学を学び、旧三井東圧化学(現三井化学)でバイオ医薬品の開発に没頭した。だが、99年に製薬事業が海外に売却され、和田は「社内失業」状態になり、一時は目標を見失った。

 和田が活路を求めたのは「合成生物学」だった。

 和田は、2000年から大腸菌を使う研究を開始。植物からプラスチックをつくるのに必須の原料を、それまで1リットルの培養液から48時間で7・2グラムしか生み出せなかったのを、改変した大腸菌を駆使して113グラムまで生成できるように。さらなる量産ができるようになれば、コストが下がり、「自動車のプラスチック部材の半分を植物性のもので置き換えられる」と語る。

 世界大手の技術はすでに実用化の域に達している。

 世界3位の製薬企業、仏サノフィは8月、合成生物学の技術をつかった抗マラリア薬の出荷を開始した。

 パンづくりにも使われるイースト菌。米カリフォルニア大バークリー校教授のジェイ・キースリングが立ち上げたベンチャー「アミリス」は、そこへ別の遺伝子を組み込み、マラリア治療薬の原料アルテミシニンをつくらせることに成功した。中国原産の薬用植物に含まれる希少成分で、生産量が限られていただけに画期的な技術だ。

 教授らと提携するサノフィが、抗マラリア薬を製造する。同社は化学的な薬品生産から、バイオ素材由来の薬品生産へと軸足を移している。バイオベンチャーの買収も進めながら、研究開発段階のプロジェクトの80%は、バイオ製薬となっているという。

 インフルエンザのワクチンを開発する動きもある。

 米ボストンにあるノバルティス(本社・スイス)の研究所。昨春、上海を中心に中国各地で人への感染が広まった鳥インフルエンザ(H7N9型)のワクチンはここで誕生した。

 中国の衛生当局が解読し、研究者向けにネットで公開したウイルスのDNAの塩基配列をダウンロード。研究チームはそのDNAの配列を人工合成し、2日後には、中国の実物と同型のウイルスを作り出した。さらに4日後、ウイルスから毒性部分を取り除いたDNA配列を合成。それをふつうワクチンを大量生産するときに使う鶏卵ではなく、犬の細胞に組み込み、新ワクチンを完成させた。従来数カ月かかっていたプロセスを数日に短縮した。

 「我々の技術でパンデミック(世界的流行)を防げるようになるかもしれません」。ウイルス研究を率いるフィリップ・ドーミッツァーはこう期待を込める。(冨岡史穂=パリ、小林哲=ボストン、榊原謙)


2014年8月20日
(ザ・テクノロジー:18)生態系破壊・テロの懸念も
    http://digital.asahi.com/articles/ASG8M6HM5G8MUHBI02Q.html

 マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授のジョセフ・ジャコブソンらは、見た目はLSI(大規模集積回路)そっくりのシリコンチップ上に、塩基と呼ばれる分子をつなぎ、生命の設計図である遺伝子を人工合成する画期的な仕組みを作った。

《特集:ザ・テクノロジー ⇒ 》

 米ボストン近郊にある教授らが立ち上げたベンチャー「GEN9」を訪ねた。小型のビアサーバーほどの装置にチップを「パチン」とセットする。「操作はこれだけ。あとはご希望の遺伝子が自動で組み上がる」と、代表のケビン・マネリー。技術の詳細は門外不出。撮影も厳禁だ。

 標準的な長さの遺伝子なら一つ15秒ほどで作れる。化学反応による従来の手法と比べると速度は1万倍だ。教授らは、企業や研究所からさまざまな遺伝子の注文を受け、販売している。標準的な遺伝子だと価格は200ドル(約2万円)。企業らは購入した遺伝子を微生物に組み込み、合成生物を次々と作れる。

 世界3大遺伝子バンクの一つ、米国の「GENBANK」に登録された情報をもとに、地球上のあらゆる生命体の遺伝子を作り上げるのが目標だ。

 「シリコン製の半導体が生活をがらっと変えたように、われわれもこのシリコンチップで生物学の世界を変えたい」とジャコブソンは意気込む。

 だが、合成生物学には批判もある。一つは、「自然界に漏れ出れば、生態系を破壊する」という懸念だ。遺伝子を改変した生物を、外界に出さないようにするという国際的な取り決めはある。ただ、実験自体を規制する国際的な枠組みはない。生命倫理が専門の東京財団研究員の橳島(ぬでしま)次郎は「研究にあたっては、生命のしくみを知るために、この世にはない生命をつくる科学的な必要性があるのか、事前に審査されるべきだろう。科学者の側は有用性だけを根拠にせず、人工生命研究に対する『科学する欲望』を正直に論理立てて社会に説明する必要がある」と指摘する。

 「生物テロ」につながるのではないかという声もある。米政府の委員会は11年、東大医科学研究所教授の河岡義裕らが英科学誌ネイチャーに投稿した「高病原性鳥インフルエンザH5N1」に関する論文などについて、内容の一部削除を掲載前に求めた。

 論文は、一つの遺伝子が4カ所変異すると、哺乳類でもH5N1が空気感染することを示していた。委員会は生物テロへの悪用をおそれたのだ。だが英科学誌は、半年後に全文を掲載した。「ワクチン開発の遅れにつながる」といった意見を踏まえ、掲載しない不利益の方が大きいと判断した。リスクをとるか、科学の発展をとるか――の議論はいまも続いている。(敬称略)(嘉幡久敬=ボストン、岡崎明子)


《特集:ザ・テクノロジー ⇒ 》
    http://www.asahi.com/tech_science/the_technology.html

ザ・テクノロジー

第3シリーズ:バイオ

 第3シリーズではバイオテクノロジーを巡る世界の動きを報告する。

  • 写真

    乳房切除、生きるため(08/19)

     自分の遺伝子を調べ、将来がんになりそうだと分かったら、健康なうちに乳房を切除する――。 米女優のアンジェリーナ・ジョリーの決断で注目を集めた予防切除。米国では、そんな決断をする女性が……[続きを読む]

  • 写真

    DNA検査、命の選別に道(08/19)

     遺伝子検査とはどんなもので、検査を通じてどこまで分かるのか――。 遺伝子検査は、人の細胞の核のなかにあるDNAを読み取り、その配列を調べ、変異がないかを確かめている。DNAは、人それ……[続きを読む]

  • 写真

    クモの糸、微生物が紡ぐ(08/20)

     山形県鶴岡市の田園地帯にガラス張りの美しい建物が立つ。なかの「実験室」への出入りは厳しく制限されている。室内にあるのは、筒状のガラス容器だ。 「企業秘密のため写真でしかお見せできませ……[続きを読む]

  • 合成生物、ガソリン生み出す(08/20)

     人工合成した微生物が、ガソリンのもとをはき出す――。こんな微生物を「創造」したのは、仏ベンチャー企業「グローバル・バイオエネルギー」社だ。 大腸菌の細胞のなかに、糖を分解する複数の酵……[続きを読む]

  • 生態系破壊・テロの懸念も(08/20)

     マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授のジョセフ・ジャコブソンらは、見た目はLSI(大規模集積回路)そっくりのシリコンチップ上に、塩基と呼ばれる分子をつなぎ、生命の設計図……[続きを読む]

第2シリーズ:人工知能(AI)

 第2シリーズではコンピューターが自ら考える人工知能(AI)を巡り、いま世界的な頭脳争奪戦が繰り広げられている模様を報告する。

  • 写真

    人工知能、米追う中国(06/07)

     コンピューターが自ら考える人工知能(AI)を巡り、いま世界的な頭脳争奪戦が繰り広げられている。 人工知能のなかで、特に奪い合いになっているのは「ディープラーニング(DL)」と呼ばれる……[続きを読む]

  • 写真

    人の知性超える日、現実味(06/07)

     ディープラーニング(DL)の機能は実はすでに、われわれの手のひらの中にある。スマートフォンに組み込まれた、音声で操作するアプリだ。 初の成功例とされるのはアップル社のiPhone(ア……[続きを読む]

  • 写真

    料理の戦略、勘よりデータ(06/08)

     ファミリーレストランのすかいらーくがビッグデータをフル活用している。 展開するガストの過去の購買履歴を分析すると、「若者はハンバーグ、シニア層は和食」とは言い切れず、シニア層もハンバ……[続きを読む]

  • 写真

    客の好みを細かく分析(06/08)

     回転ずしのスシローは、ビッグデータを使い、来店客が食べたいタイミングで、食べそうなすしを出そうとしている。 すし皿1枚1枚の裏につけたICタグから集めた顧客の消費データが武器だ。 例……[続きを読む]

第1シリーズ:ロボット技術の最先端

 テクノロジーの急速な進化がいま、私たちの世界を劇的に変えようとしている。人々のライフスタイルや社会はどう変わるのか――。第1シリーズではロボット技術の最先端を報告する。

  • 写真

    ロボットバブルとグーグル(04/29)

     米西海岸シリコンバレーはいま、ロボット技術への熱気に包まれている。 4月9日、カリフォルニア州パロアルト市で開かれた小さなロボット展示会。そこへ、投資家ら次世代技術の目利きたち150……[続きを読む]

  • 写真

    「日本の快挙」がグーグルに(04/30)

     今月24日、訪日中の米大統領のバラク・オバマが、分刻みの忙しさをやりくりして向かったのは、お台場の日本科学未来館だった。 ホンダのアシモとサッカーに興じたあと、オバマは開発途上の青い……[続きを読む]

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    ヒト型ロボットの源流は日本に(04/30)

     人間のように二本の足で動くヒト型ロボット開発の源流は日本にある。 早稲田大教授の加藤一郎らのグループは1973年、WABOT―1と呼ばれる世界初の本格的なヒト型ロボットを開発。簡単な……[続きを読む]

  • 写真

    孫社長「次はロボット」(05/01)

     米グーグルがロボット技術の覇権を握ろうとするなか、日本企業にもロボットに次の時代を託そうとする動きがある。 話しかけると、こちらを向いて「コンニチハ」とあいさつした。全長57センチの……[続きを読む]

  • 写真

    人型ロボ商品化、展望欠く日本(05/01)

     2000年前後、世界のロボットを牽引(けんいん)したのは日本の大企業だった。 ソニーが1999年、世界初の家庭用ロボットとしてイヌ型の「アイボ」を発売、翌年には二足歩行のヒト型ロボッ……[続きを読む]

  • 写真

    雇用減・軍事利用、懸念も(05/01)

     テクノロジーの進化は新たな課題を生み出す。 2本の腕がある米リシンク・ロボティクス社の「バクスター」。缶詰を開けたり箱詰めしたりする作業を人間のようにこなす。1体250万円程度で、米……[続きを読む]

  • 写真

    「ロボットが労働力不足補う」(05/01)

    ■米リシンク・ロボティクス社創業者のロドニー・ブルックス氏に聞く ロボット掃除機ルンバを生んだロボット工学の第一人者が、新たな切り札として世に出したのは、本体価格2万5千ドル(約250……[続きを読む]

  • 写真

    ロボット商用化の壁越えるには(05/01)

    ■サイバーダイン山海嘉之社長に聞く この3月、日本で初めて東証に株式公開したロボット企業があらわれた。筑波大発ベンチャーのサイバーダインだ。同社製のロボットスーツ「HAL」は手足に装着……[続きを読む]

  • 写真

    ソニー、ロボット撤退の舞台裏(05/09)

     ソニーは1999年、世界初の家庭用ロボットとしてイヌ型の「アイボ」を発売し、大きな注目を集めた。しかし、2006年3月にロボット事業から撤退。一世を風靡(ふうび)していたのに、なぜ事……[続きを読む]

年間企画「ザ・テクノロジー」

 08 20 (水) (社説)介護の担い手 役割に見合う報酬を   

2014年8月20日
(社説)介護の担い手 役割に見合う報酬を
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11307470.html

 高齢者が増えれば、介護の担い手がさらに必要になる。団塊世代が75歳以上になる2025年に、介護職員を今より最大で約100万人増やす必要がある、と国は推計する。

 ところが、現場は人手不足が常態化している。介護職員は現在約150万人。6月の有効求人倍率(パートタイムを含む常用)は2倍を超えた。全産業平均(0・9)を大きく上回る。

 介護労働安定センターなどの調査によれば、人手不足の最大の理由は、賃金が低いこと。国の統計で、ホームヘルパーや施設の介護職の平均賃金は常勤でも月22万円弱。全産業平均より10万円以上低い。

 来年度の介護報酬改定に向けて、秋から議論が本格化する。事業者に業務の効率化などの自助努力を求めつつも、職員の待遇改善・報酬アップにつなげてほしい。

 厚生労働省の検討会は、人口が減っていくなかで、他の職種と「人の取り合い」になることをにらんで、どうしたら介護職が選ばれる仕事になるのか、議論をしている。

 これまでに、仕事の楽しさや奥深さを積極的に発信することや、介護職員の中でも国家資格である介護福祉士を中核として明確に位置づける、といった提案が出ている。

 確かに、こうした事柄は、もっと重視されていい。

 介護職員なら、高齢者と接しながら「今の薬は飲みにくそうだ」「床ずれができそうだ」といった日々の様子や変化に気づくことができるし、そうした高齢者の様子を医師や看護師に伝えて連携することができる。

 さらに、コミュニケーションが難しくなりがちな認知症の人への対応には、専門性が求められる。認知症の人が大声を出したり、落ち着かなかったりする場合、体調や以前の生活習慣から原因を割り出して、穏やかに過ごせるようにする、といった技術・ノウハウだ。

 身の回りの世話に一部手助けが必要な要支援者向けのサービスについて、来年度からはボランティアの人も担えるようになる。間口が広がるなら、地域に貢献したいと思っている人たちを巻き込む工夫が必要だろう。

 同時に、これまで「介護」でくくられてきたサービスひとつひとつに、どの程度の専門性を求めていくのか、仕分ける作業が必要だ。専門性に見合った報酬の体系を整えることができれば、介護職の中でステップアップする道も開けるはずだ。介護職は、生活を支える専門職だ。その充実が急がれる。

 08 20 (水) (声)長崎市長への批判、与党は説明を   

2014年8月20日
(声)長崎市長への批判、与党は説明を
    http://digital.asahi.com/articles/DA3S11307472.html

 無職 河内清(神奈川県 87)

 長崎の平和宣言が集団的自衛権に触れたことを、自民党の土屋正忠衆院議員がブログで批判したという。「長崎市長は……集団的自衛権云々(うんぬん)という具体的政治課題に言及すれば権威が下がる」「政治的選択について語りたいなら長崎市長を辞職して国政に出ることだ」。何を言っているのか初めは分からなかった。だが、集団的自衛権は国政に携わる者の専決事項、それ以外の者は安易に論ずべきではないとの主張のように思える。

 広島、長崎は第2次世界大戦で悲惨な体験をした。二度と戦火を交えてはならぬという不戦の願いは当然だ。平和に対する懸念があれば、長崎市民を代表する市長が意見を述べるのは当たり前ではないか。

 広島の被爆者たちも、集団的自衛権をめぐる安倍政権の対応に懸念を示している。政権与党が疑念を晴らすには、誠意をもって説明に努めることだ。国会議員のみが国政について意見を表明できるとの思い込みがあるのなら、思い上がりの最たるもので、大きな誤りと思う。

 民主国家の基本は国民の意見を尊重することだ。市民の代表である市長の意見もしかり。土屋議員の批判を政権与党がどう捉えるのか、国民に明らかにすべきである。