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  03 09 東アジアの緊張緩和促す   メルケル独首相、7年ぶり来日
  03 10 日独首脳会談   大きな足跡を残した

 03 09 (月) 東アジアの緊張緩和促す    メルケル独首相、7年ぶり来日

2015年3月9日14時01分 玉川透 石橋亮介
東アジアの緊張緩和促す
   メルケル独首相、7年ぶり来日

   http://digital.asahi.com/articles/ASH3871P4H38UHBI018.html?iref=comtop_photo    

 ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)が9日、7年ぶりに来日し、東京・築地の浜離宮朝日ホールでの来日講演会(朝日新聞社、財団法人ベルリン日独センター共催)で講演した。東アジアで日中韓など近隣諸国の緊張が続いている問題を巡り、「大切なのは平和的な解決策を見いだそうとする試みだ」と述べ、関係国に緊張緩和に向けた取り組みを促した。…

     ドイツ特集2015  クリックして一度は聴きたいものです

        メルケルさんありがとう。  日中関係がギクシャクする渦中、さらに戦争放棄の原則を
        謳っている日本国憲法が危機にさらされているときに、日本国民の目を覚ましてくれ
        る言葉をお聴きできて、心からお礼申し上げます。


 メルケル首相の来日は2008年の北海道・洞爺湖サミット以来。10日まで滞在する。

 メルケル首相は講演後の質疑応答で、東アジアにおける隣国同士の関係改善や和解をどう進めるべきかを問われた際に、独仏の関係改善の歴史に言及。他の地域にアドバイスする立場にないとしながらも、ドイツが欧州で和解を進められたのは「ドイツが過去ときちんと向き合ったからだ。隣国(フランス)の寛容さもあった」と述べた。東アジアでも「あらゆる努力を惜しまず、平和的な努力をする必要がある」と語った。

 一方で、戦後70年の節目を踏まえ、敗戦国である日独両国が「世界秩序の中でグローバルな責任を持っている」と指摘し、世界の安全保障問題などに連携して取り組む姿勢を強調した。

 混迷するウクライナ情勢については、「ウクライナは他の国々と同様、完全な主権に基づき自らの道を決定する権利がある」と述べ、親ロシア派武装勢力を支援するとされるロシアを厳しく批判。対ロシア制裁で足並みをそろえる日本に謝意を示した。

 メルケル首相は11年の東京電力福島第一原発事故を受け、原発の「稼働延長」を決めていたエネルギー政策を転換し、22年までの原発廃止を決めた。

 メルケル首相は講演で、福島第一原発事故について「(事故の映像が)今も私の目に焼き付いている」と述べ、「日本国民が団結して復興に取り組む姿に感銘を受けている」と語った。

 さらに、「私は長年、平和的な核利用を支援してきた立場だった」とした上で、脱原発を決意した理由について「素晴らしい技術水準を持つ日本で事故が起き、本当に予期できないリスクがあることが分かった」と語った。

 メルケル首相は広島、長崎への原爆投下から70年であるとも指摘し、「このようなことが二度と起こらないように全力を尽くす」と宣言。日独が共に軍縮や核不拡散に力を尽くすと述べた。

 テロ対策については、イスラム過激派組織「イスラム国」による邦人殺害事件などを挙げ、「こうした野蛮な出来事は、自由、寛容、そして世界に対する開かれた姿勢に対する信念を妨げるものではない」と指摘。卑劣なテロに対し、日独が手をたずさえて立ち向かうべきだと強調した。

 首相は講演に先立って、東京都江東区の日本科学未来館を訪れ、二足歩行ロボット「ASIMO(アシモ)」など日本の最先端技術を視察した。首相は講演で、科学技術分野での両国の連携を深める意気込みを語った。

 メルケル首相は9日朝に羽田空港に到着。同日午後には天皇陛下との会見、安倍晋三首相との会談に臨む。10日には都内のホテルで、民主党の岡田克也代表、女性リーダーとそれぞれ意見交換。三菱ふそうトラック・バス川崎製作所を視察後、同日午後に羽田空港から帰国の途につく。(玉川透)

 ◆女子学生励ます

 拍手で迎えられた水色のジャケット姿のメルケル氏が講演会場の壇上に上がると、会場は静まりかえり、世界を代表するリーダーの声に聴き入った。

 メルケル氏が最初に切り出したのは、1873年にベルリンを訪問した岩倉具視使節団の話題。「日本の世界へ開かれた姿勢、知識欲は今も守られている」と日本の姿勢をたたえ、日独の長い交流を紹介した。

 ウクライナ問題や過激派組織「イスラム国」(IS)、ギリシャの債務危機など多岐にわたり、日独の協力を強調。東日本大震災にも触れ、「私たちの気持ちは、近しい人々を亡くした皆様の気持ちとともにある」と聴衆に訴えた。

 質疑応答では身ぶりを交えよどみなく自説を語った。歴史や領土問題を抱える東アジアの現状についての質問には、過去と向き合ったドイツの姿勢を指摘。ウクライナ問題で停戦合意にむけた取り組みに触れ、「平和的な解決策」の重要性を繰り返し強調した。

 女性であり、物理学者でもあるメルケル氏の苦労を尋ねた女子大学生の質問には、にっこりとほほえみ、「私はたくさんの人に支えられてきた。最初は大変だったが、一回踏み出すとそれが当たり前の事になる」と励ました。(石橋亮介)

 ◆9日夕、日独首脳会談

 菅義偉官房長官は9日午前の記者会見で、同日夕にあるドイツのメルケル首相と安倍晋三首相との会談について、「日独両国が基本的価値を共有するパートナーとして、未来に向かって積極的に地域や世界の平和と繁栄に貢献していく、そのメッセージを発信する機会にしたい」と語った。

 菅氏は「メルケル氏はEU(欧州連合)、国際社会における最も重要なリーダーの一人」と指摘。首脳会談のテーマとして、6月にドイツであるサミット(主要国首脳会議)やテロ対策、ウクライナの地域情勢、日独間の連携強化を挙げた。

 ◆メルケル独首相の講演要旨

 明後日、東日本大震災からちょうど4年になる。津波、さらには原子力発電所の事故にもつながった。災害による恐ろしい破壊の映像、人々の苦しみは私の目に今でもはっきりと焼き付いている。私たちの気持ちは、近しい人々を亡くした皆様の気持ちとともにある。今でも故郷に帰ることのできない人々とともにある。日本国民が毅然(きぜん)として一致団結して、復興に取り組んでいる姿には感銘を受けている。

 破壊と復興、この言葉は今年、さらなる意味を持っている。それは第2次世界大戦の終結から70年という節目の年を私たちが迎えているからだ。ドイツにおいても日本においても、目を見張るような発展を遂げてきた。自由で規範に支えられる世界秩序の中におけるグローバルな責任を担うパートナー国だ。しかし、この世界秩序は当たり前のものではない。むしろ危機にさらされている。ロシアによるクリミア半島併合は国際法に抵触するものだ。ウクライナ東部のロシアの姿勢も、ウクライナの領土統合を守るという義務をないがしろにする態度だ。日本が(ロシアに)経済制裁を共に科していることに感謝している。我々はともに外交的な解決策をも模索している。日本とドイツは、国際法の力を守るという共通の関心がある。(会場での同時通訳を元にした日本語訳)

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2015年3月10日00時18分 朝日新聞デジタル>記事 メルケル独首相の講演全文:1
   戦後70年とドイツ

   http://digital.asahi.com/articles/ASH397WCTH39UHBI032.html    

 
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  ドイツの首相

  ドイツの首相と大統領
  ドイツの首相 英語
  ドイツの首相がヒトラーのお墓に墓参りをした場合
  ドイツの首相がヒトラーの墓参り
  ドイツの首相 任期
  ドイツの首相 女性
  ドイツの首相 謝罪

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「ドイツの首相」の画像検索結果  アンゲラ・メルケル
    アンゲラ・ドロテア・メルケルは、ドイツの政治家。2000年よりキリスト
    教民主同盟 党首。第8代ドイツ連邦共和国首相。ドイツでは女性としては
    初の大政党党首・首相である。 ウィキペディア
    生年月日: 1954年7月17日 (60歳)
    生まれ: ドイツ ハンブルク
    現職: ドイツの首相 (2005年から)
    政党: ドイツキリスト教民主同盟
    受賞歴: インディラ・ガンディー賞、 大統領自由勲章、 カール大帝賞

ドイツの首相 - Wikipedia
   ja.wikipedia.org/wiki/ドイツの首相
ドイツの首相の呼称にはどれにも -kanzler という語が含まれている(共産主義政権の旧東ドイツを除く)。 .... 現連邦首相 アンゲラ・メルケル. 一方、西ドイツでは国号に「連邦」の一語が追加されたのにともない、首相の呼称も北ドイツ連邦時代の「連邦 ...
‎名称 - ‎呼称と歴史 - ‎歴代ドイツ首相 - ‎注釈

連邦首相 (ドイツ) - Wikipedia
   ja.wikipedia.org/wiki/連邦首相_(ドイツ)
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アンゲラ・メルケル - Wikipedia
   ja.wikipedia.org/wiki/アンゲラ・メルケル
帝政ドイツ時代の1896年にポズナン(ドイツ語ポーゼン)で生まれたポーランド人である祖父ルドヴィク・カズミェルチャクが第一次世界大戦 ... ドイツ再統一直前に西ドイツCDU党大会に出席し、党首で西ドイツ首相のヘルムート・コールに初めて出会う。10月3日の統一 ..... アンゲラ・メルケル公式サイト (ドイツ語); ドイツ連邦首相府 (ドイツ語)(英語) ...
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   www.tatsachen-ueber-deutschland.de/.../the-federal-chancellor-and-the-g...
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メルケル独首相が来日講演、「ドイツは過去と向き合った ...
   headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150309-00000054-reut-kr
15 時間前 - [東京 9日 ロイター] - 来日したドイツのメルケル首相は9日、東京都内で講演し.

   メルケル独首相が来日講演、「ドイツは過去と向き合った」
   http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0M50AI20150309

     [東京 9日 ロイター] - 来日したドイツのメルケル首相は9日、東京都内で
     講演し、ドイツが戦後、国際社会に受け入れられたのは、過去ときちんと向
     き合ったため、と述べた。

     メルケル首相の来日は2008年以来。

     メルケル首相は講演で、ヴァイツゼッカー独大統領(当時)の1985年のス
     ピーチ「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」を引用。
     ドイツは戦後、かつての敵国とどのようにして和解することができたのか、と
     の質問に対して「近隣諸国の温情なしには、不可能だった。ただ、ドイツ側
     も過去ときちんと向き合った」と述べた。


     ヴァイツゼッカーの名言

       1985年5月8日の連邦議会における演説の中の一節 “過去に目を閉ざす者
       は、現在に対してもやはり盲目となる”


       “自由民主主義体制において必要な時期に立ち上がるなら、後で独裁者に
       脅える必要はない、つまり自由民主主義擁護には法と裁判所だけでは不足
       で市民的勇気も必要”


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 03 10 (火) 日独首脳会談   大きな足跡を残した

改めて今日の朝日朝刊新聞に掲載されたメルケル首相来日関係記事を記録として取上げておく。

2015年3月10日05時00分 朝日新聞デジタル>記事
ウクライナ安定へ連携 独首相
歴史認識に会見で言及 日独首脳会談

   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641577.html?ref=pcviewer

 安倍晋三首相は9日、首相官邸で来日中のドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)と会談した。両首脳は混迷するウクライナ情勢への対応で連携することを確認したほか、両国経済の関係強化を目指すことでも一致した。メルケル首相は歴史認識についても触れ、会談後の記者会見では「過去の総括は和解のための前提になっている」と語った。

     *

    下記赤字番号の項目は後載する
    ① ▼2面=日独の距離感
    ② ▼6面=技術協力に意欲
    ③ ▼10面=独首相講演全文
    ④ ▼11面=核不拡散連帯訴え
    ⑤ ▼14面=社説
    ⑥ ▼38面=天皇陛下と会見


 会談は約2時間10分行われた。

 日本側の説明によると、この中で東アジア情勢が取り上げられ、安倍首相が北朝鮮による拉致・核問題などを説明した。メルケル首相は、東アジア情勢について「アドバイスする立場にない」と前置きしたうえで、ドイツが戦前のナチスの行為を透明性を持って検証した経緯を紹介した。

 会談後の記者会見で、メルケル首相は「(ナチスドイツの)過去の総括は和解の前提になっている。和解の仕事があったからこそ、EU(欧州連合)をつくることができた」と述べ、地域の安定には和解の努力が不可欠であるとの認識を示した。

 ウクライナ情勢について両首脳は、親ロシア派と停戦合意したウクライナの平和と安定のため、積極的な役割を果たしていくことで合意。「力による一方的な現状変更は許されない」との立場を確認する一方、平和的解決に向け、ロシアとの対話を継続する方針でも一致した。

 過激派組織「イスラム国」(IS)への対応でも、両首脳はテロに屈しない立場を確認。6月にドイツである主要国首脳会議(サミット)については、メルケル首相が「テロとの戦いは最重要課題である」と述べ、首相に協力を要請した。安倍首相は「来年は日本が議長国。今年の成果を引き継ぐためにも、よく連携したい」と応じた。会談後の記者会見で、昨年サミットへの参加停止となったロシアの復帰について、安倍首相は「ロシアを含めたG8(主要8カ国)で意味ある議論が行われる環境にはない」と述べ、時期尚早との見方を示した。

 安倍首相は会談で、集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制の整備についても説明した。「国際社会の平和と安定に一層の貢献ができるようになる」と伝えた。メルケル首相は「日独協力に新たな可能性が広がることになる。両国の外務省間で、緊密に情報交換したい」と語った。 (鯨岡仁)

     ◇

 首脳会談に先立ち、ドイツのメルケル首相は9日昼、東京・築地の浜離宮朝日ホールでの来日講演会(朝日新聞社、財団法人ベルリン日独センター共催)で講演した。東アジア諸国の緊張が続く問題を巡り、「あらゆる試みをして平和的な解決策を模索しなければならない」と述べ、関係国に緊張緩和に向けた取り組みを促した。

 ◆<視点>踏み込んだメルケル氏

 メルケル首相が今回の訪日で歴史認識にここまで言及するとは、事前には予想されていなかった。首相があえて踏み込んだのは、日中韓の緊張が、地理的には遠く離れたドイツにも看過できない現実的なリスクになっていることの表れだ。

 ドイツ政府関係者は訪日前、日本と近隣諸国の関係が取り上げられることを確信できずにいた。慎重なメルケル氏があえて発言し、物議を醸すようなことはしないだろうという空気が流れていた。

 だが、メルケル氏は9日昼の浜離宮朝日ホールでの来日講演会で、「東シナ海、南シナ海における海路・貿易路の安全が海洋領有権を巡る争いによって脅かされている」と指摘した。質疑応答では、さらに具体的に「アジア」に触れ、「平和的な解決策を模索すべきだ」との考えを明確に語った。

 南ドイツ新聞で極東特派員だったゲプハルト・ヒールシャーさん(79)は「自国の経験を伝え、今も続く尖閣諸島や竹島の問題などの解決に向け各国が努力をしてほしいという意味を暗に込めた」と分析する。

 背景には、東アジアにおける地政学上のリスクの影響が、ドイツにも及びかねないという警戒感がある。ドイツの対アジア貿易で中国は1位、日本は2位。東アジアが不安定化すれば、ドイツ経済も影響を免れない。日本には、歴史に向き合うよう促す一方、中韓へは「寛容さ」を求め、双方の歩み寄りを要請せざるを得ないと判断したとみられる。 (玉川透)

 ◆日独首脳会談のポイント

   ・ ウクライナの平和と安定のため積極的役割を果たす
   ・ 東アジアの厳しい安全保障環境の認識を共有。
     メルケル首相がナチスの歴史を検証した経験に言及
   ・ 6月の主要国首脳会議(サミット)はテロとの戦いが主要議題に
   ・ 日独両国にインド、ブラジルを加え、国連の安全保障理事会改革を推進
   ・ 日・EUの経済連携協定(EPA)の年内大筋合意を目指す

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① ▼2面=日独の距離感
(時時刻刻)歴史・原発、日独の距離感 安倍・メルケル会談
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641525.html

 安倍晋三首相とドイツのアンゲラ・メルケル首相が9日、ウクライナ危機への対処やテロ対策、経済連携などで一致した。ただ、メルケル首相が首脳会談の中で歴史認識に触れたものの、両首脳間でやりとりはなかった。「脱原発」を巡っては両国の方向性の違いが浮き彫りになった。▼1面参照

 ◆《日》首脳会談、認識触れず 《独》「過去と向き合う」強調

 「過去の総括というのはやはり和解の前提になっている」

 メルケル首相は9日夜の共同記者会見で、第2次大戦後にドイツが周辺国と和解するため、戦時中の過去と向き合う努力をしてきたことを強調した。メルケル首相は会見で、安倍首相との首脳会談の中でこうしたドイツの取り組みに言及したことも明かした。

 首脳会談に先立つ9日昼の来日講演会では、メルケル首相はさらに踏み込んでいた。

 東アジアで歴史や領有権を巡り、隣国同士の緊張関係が続いていることを問われたメルケル首相は、「ドイツの首相としてこの地域にアドバイスをする立場にはない」と前置きしつつ、雄弁だった。

 「大切なことは、平和的な解決策を見いだそうとする試みだ」

 さらにメルケル首相は「国境を巡るこの地域、アジア地域における問題を解決するためにも、あらゆる努力を惜しまず、平和的な努力をしなければならない」と、「アジア」に直接言及しながら、関係国に緊張緩和に向けて努力するよう促した。

 メルケル首相に同行した独テレビの記者は「メルケル首相は助言しないと言いつつ、実際は日本にアドバイスしていた」と報じた。ロイター通信は、メルケル首相は日本に過去と向き合うよう思い起こさせた、と伝えた。

 何事にも慎重なメルケル首相が、遠く離れた東アジアの外交問題に踏み込むのは珍しい。

 戦後ドイツの歩みは平坦(へいたん)ではなかった。戦後、ナチスの犯罪が明らかになると、残虐さに沈黙する国民も多かった。1970年代にようやく、市民レベルでナチスの戦争犯罪に関心が高まり、戦争を知らない若い世代も教育の中でナチスの過去を学んだ。

 ドイツはこれまで自らの取り組みを政治利用されるのを嫌ってきた。中国では特に、過去に向き合うドイツを「手本」とし、「日本も見習うべきだ」との論調がある。中国の習近平(シーチンピン)・国家主席が2014年3月に訪独するに当たり、中国側は事前に、ホロコースト記念碑への訪問を打診。日中の争いに巻き込まれたくない独側がこれを断ったとされる。

 だが、今回あえて東アジアの緊張緩和の必要性に踏み込んだのは、歴史認識などを巡る日中韓の対立への懸念の表れと言えそうだ。メルケル首相は9日の講演で、独仏の和解の過程では「(敗戦国の)ドイツが過去ときちんと向き合った」と強調する一方で、戦勝国側のフランスにも「寛容さがあった」と指摘。日本だけでなく、中国や韓国に対しても歩み寄りを呼びかける狙いがありそうだ。

 ただ、首脳会談では、メルケル首相から「ドイツの経験」についての紹介があっただけで、「歴史認識などで両首脳間で何かやりとりがあったわけではない」(世耕弘成官房副長官)という。

 外務省幹部は「敗戦国というくくりでクローズアップされるのはよくない。ドイツと日本は戦後の歩みが全然違う」と語る。安倍首相の「戦後70年談話」が注目されていることを受け、臆測を呼ぶ議論を避けたい考えがあるとみられる。

 ◆《日》再稼働の推進を明言 《独》脱原発、福島きっかけ

 首脳会談では、経済政策や安全保障などの面で、一致した点も多かった。日・EUのEPA(経済連携協定)については、安倍首相が「2015年中の大筋合意を実現させたい」と述べると、メルケル首相は「支持する」と語った。

 ただ、原子力発電所をめぐるエネルギー政策では、日独両国の立場の違いが目立った。

 安倍首相は9日の首脳会談後の共同記者会見で、ドイツ人記者から「ドイツは福島の事故を受け、脱原発を決めた。なぜ日本はまた再稼働を考えているのか」と聞かれ、こう明言した。

 「日本はエネルギーの3分の1を原発が担っている。それが止まった中で、我々は石油などの化石燃料に頼っている。低廉で安定的なエネルギーを供給していくという責任を果たさなければならない。基準をクリアしたと原子力規制委員会が判断したものは再稼働していきたい」

 安倍政権にとって原発再稼働は既定路線だ。関西電力高浜原発3、4号機と九州電力川内(せんだい)原発1、2号機が再稼働に向けた手続きに入っており、年内にも再稼働する可能性がある。

 一方、メルケル首相は安倍首相とは正反対の立場をとっている。

 「日本も共にこの道を進むべきだと信じている」

 メルケル首相は、訪日直前に発表したビデオ声明でこう語り、再生可能エネルギーの推進や「脱原発」で、日本とドイツが足並みをそろえるべきだとの考えを示した。

 物理学者の顔も持つメルケル首相は、首脳会談に先立つ9日の講演でも、4年前の福島第一原発事故を引き合いに出して、「素晴らしいテクノロジーの水準を持つ日本でも、やはり事故が起きる。現実とは思えないリスクがあるのだと分かった」と指摘。原発の稼働延長を決めていたエネルギー政策を大転換し、2022年までの原発全廃を決めた理由が、福島の原発事故であったことを明言した。

 さらに、メルケル首相は講演の中で「私は長年、平和的な核利用を支援してきた立場だ」と強調した上で「ドイツの平和的な核エネルギーの時代は終わる。私たちは別のエネルギー制度を構築するという決定だ」と表明。脱原発は「あくまで政治的な決断だった」と発言した。最後に判断するのは政治家であると、暗に示したとみられる。

 両首脳には、こうした大きな立場の隔たりがある。それだけに、首脳会談で真正面から議論すれば、ぶつかるのは確実だ。日本側の説明では、原発政策について首脳会談で議論はなかったという。

 講演では自らの「脱原発政策」を雄弁に語ったメルケル首相だが、首脳会談後の記者会見では、原発政策には触れず、「エネルギー効率、エネルギーの安定供給についても協力を緊密化している」とだけ述べた。 (玉川透、杉崎慎弥)

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② ▼6面=技術協力に意欲
メルケル首相、技術分野の協力に意欲 日独、移民・財政政策に差
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641511.html

 来日したドイツのアンゲラ・メルケル首相は9日の講演で「高度な技術の分野での両国の協力はゆるがない」と語り、日独に共通した技術立国としての性格を強調した。ただ、外国人の受け入れ政策や財政政策などでは違いも目立つ。両国経済の似たもの同士ぶりと他人同士ぶりがのぞいた。▼1面参照

 「外国からの熟練労働力にも重きを置いている。欧州以外からも関心は高く、移住の条件を改善していく」。メルケル氏は講演でそう語った。

 ドイツ経済は、停滞が続くユーロ圏で「一人勝ち」の様相だ。これからも経済が発展するには移民労働力が欠かせないとの考えが明確だ。経済協力開発機構(OECD)によると、12年にドイツに移住した外国人は約40万人で米国に次ぎ世界2位だ。

 安倍政権は成長戦略の一環で外国人労働力の活用を位置づけ、最長3年としていた技能実習生の受け入れ期間を5年に延ばすことなどを決めた。だが、「移民は受け入れない」との立場は変えていない。

 財政も大きく状況が異なる。日本は財政赤字が続き、GDPに対する政府債務が200%を超える。これに対し、ドイツは14年、目標より1年前倒しで財政黒字を達成。財政規律を優先し、15年予算も借金ゼロで歳入をまかなう予定だ。

 主要20カ国・地域(G20)はドイツを念頭に、たびたび「機動的に財政戦略を」と促すが、財政規律にこだわるドイツの態度はかたくななままだ。背景には、第1次世界大戦後のひどいインフレの記憶から「国民は財政の健全性に敏感」(ベレンベルク銀行シュミーディング氏)なことがある。

 一方で、経済に占めるものづくりの割合が高い点は似る。ドイツはいま、「第4の産業革命」と称し、工場の製造ラインを流れる部品やロボットなどあらゆるものをインターネットでつなぐ取り組みをしている。高度なセンサーや画像認識が必要で、日本企業の技術に関心を寄せている。ドイツ経済界の首脳と懇談した経団連の榊原定征会長は9日、「ロボットや情報化による産業の高度化は日独が世界中で最も進んでいる。協力関係を構築していくことを確認した」と話した。(伊沢友之、ロンドン=星野真三雄)

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  独メルケル首相、3月9・10日来日 安倍首相と会談(2/27)
  独・メルケル首相が講演会 3月9日、浜離宮朝日ホール(2/20)
  メルケル独首相、3月上旬来日へ 安倍首相と会談調整(2/14)


③ ▼10面=独首相講演全文
メルケル独首相、講演全文
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641455.html

 まずは何よりも本日はこうしてお招きいただき、ご紹介いただいたことに感謝申し上げます。大変温かいお言葉をいただきました。私にとって、朝日新聞に招かれたということは大きな光栄です。朝日新聞は世界でもっとも発行部数の多い新聞の一つであるのみならず、大変伝統のある新聞社でもあります。その歴史は独日の交流の初期の頃にまでさかのぼるほどです。

 ◆日独関係の歴史

 142年前のきょう、1873年3月9日、岩倉使節団がベルリンに到着しました。岩倉具視が特命全権大使として率いる使節団がヨーロッパ諸国を訪れ、政治、経済、社会など様々な分野で知見を深める旅行をしたのです。岩倉使節団は、私が考えるに、日本の世界に向けて開かれた姿勢、そして日本の知識欲を代表するものだと思います。そしてこの伝統は、この国において今でも変わらず守られています。

 そして日本人とドイツ人の間には、この間に多様なつながりが生まれています。経済や学術であれ、芸術や文化であれ、私たちはアジアのどの国ともこれほど熱心な交流はしておりません。60の姉妹都市提携があり、わが国に110を超える独日協会が存在していることも、そのよい例です。また、独日スポーツ青少年交流や、JETプログラム(外国語青年招致事業)で日本を訪れる若いドイツの学生も特別な懸け橋をなしているといえましょう。

 こうした長い活発な交流のリストの中で、一つ取り上げて紹介したいのが、ベルリン日独センターです。ベルリン日独センターは30年前に、当時の中曽根康弘首相とヘルムート・コール首相によって設立されました。今日にいたるまで、様々な会議、文化イベント、交流プログラムなどが開催されてきました。本日の講演会も朝日新聞とベルリン日独センターの共催で行われています。日独センターにおいて、日独間の対話のために尽力されている皆様に、ここで心からの感謝を申し上げます。

 ◆大震災と復興

 明後日、2011年3月11日に発生した東日本大震災からちょうど4年になります。この地震は、巨大な津波、さらには原子力発電所事故、すなわち福島での大きな原発事故を引き起こしました。この地震と津波と原発事故の三重の災害による恐ろしい破壊と、人々が悲嘆にくれる姿の映像は、私の目にはっきりと焼き付いています。私たちの心は、愛する人々をこの震災で亡くした皆様の気持ちとともにあります。生き延びはしたものの今も故郷に帰ることのできない人々とともにあります。そして日本国民の皆さんが復興に立ち向かう際に示している共同体意識には大きな感銘を禁じ得ません。

 ◆戦後70年とドイツ

 破壊と復興。この言葉は今年2015年には別の意味も持っています。それは70年前の第2次世界大戦の終結への思いにつながります。数週間前に亡くなったワイツゼッカー元独大統領の言葉を借りれば、ヨーロッパでの戦いが終わった日である1945年5月8日は、解放の日なのです。それは、ナチスの蛮行からの解放であり、ドイツが引き起こした第2次世界大戦の恐怖からの解放であり、そしてホロコースト(ユダヤ人大虐殺)という文明破壊からの解放でした。

 私たちドイツ人は、こうした苦しみをヨーロッパへ、世界へと広げたのが私たちの国であったにもかかわらず、私たちに対して和解の手が差しのべられたことを決して忘れません。まだ若いドイツ連邦共和国に対して多くの信頼が寄せられたことは私たちの幸運でした。こうしてのみ、ドイツは国際社会への道のりを開くことができたのです。さらにその40年後、89年から90年にかけてのベルリンの壁崩壊、東西対立の終結ののち、ドイツ統一への道を平坦(へいたん)にしたのも、やはり信頼でした。

 そして第2次世界大戦終結から70年がたった今日、冷戦の終結から25年がたった今日、私たちはドイツにおいても日本においても、振り返れば目を見張るような発展を遂げてきました。繁栄する民主主義国家として、独日両国そして両国の社会には、権力分立、法の支配、人権、そして市場経済の原則が深く浸透しています。両国の経済的な強さは改革、競争力、そして技術革新の力に根ざすものです。通商国、貿易輸出国として、両国の自由で開かれた市民社会はグローバル経済に支えられています。したがってドイツと日本は、自由で開かれた他の国々や社会とともに、自由で規範に支えられる世界秩序に対して、グローバルな責任を担うパートナー国家なのです。

 ◆ウクライナとアジア情勢

 しかし、この世界秩序は当たり前のものではありません。むしろ危機にさらされていると言えましょう。国際法に反してクリミア半島を併合し、ウクライナ東部での分離主義者を支持することによって、ロシアは、94年の「ブダペスト覚書」で明確に認めた領土の一体性を守るという義務をないがしろにしました。ウクライナは、他の国々と同様、完全な主権に基づいて自らの道を決定する権利を持っているのです。私は日本政府が同じ立場を共有し、必然的な回答として経済制裁をともに科していることに感謝しています。しかし、私たちはともに外交的な解決策をも模索しています。だからこそ私はフランスのオランド大統領やヨーロッパと環大西洋のパートナーとともに、そしてもちろん日本とともに、数週間前にミンスクでまとまったウクライナ危機を乗り越えるための合意が実際に実行されることに力を注いでいるのです。ウクライナ東部での自由な地方選挙とどこにも妨げられることのない自国の国境管理は、ウクライナが領土の一体性を取り戻すのを助けるのみならず、ロシアとのパートナーシップに対しても新たなはずみを与えることになります。また、クリミア半島も、未解決のままにしておくことは許されません。

 日本とドイツは、国際法の力を守るということに関しては共通の関心があります。それはそのほかの地域の安定にも関連しています。たとえば東シナ海、南シナ海における海上通商路です。その安全は海洋領有権を巡る紛争によって脅かされていると、私たちはみています。これらの航路は、ヨーロッパとこの地域を結ぶものであります。したがってその安全は、私たちヨーロッパにもかかわってきます。しっかりとした解決策を見いだすためには、二国間の努力のほかに、東南アジア諸国連合(ASEAN)のような地域フォーラムを活用し、国際海洋法にも基づいて相違点を克服することが重要だと考えます。小国であろうが大国であろうが、多国間プロセスに加わり、可能な合意を基礎にした国際的に認められる解決が見いだされなければなりません。それが透明性と予測可能性につながります。透明性と予測可能性こそ誤解や先入観を回避し、危機が生まれることを防ぐ前提なのです。

 ◆テロとの戦い

 ただし、私たちは今、そうした対話の可能性が明らかに限界に達しているという状況にも直面しています。基本的な価値と人権が極めて残酷な形でないがしろにされているからです。とりわけ、シリア、イラク、リビアとナイジェリアの幅広い地域で荒れ狂う国際テロが私たちの前に立ちはだかっています。「イスラム国」(IS)、ボコ・ハラムは、自分たちが信奉する狂気じみた支配欲を満たそうとしないあらゆる人、あらゆるものを破壊しようとしています。ISによる日本人人質2人への残虐な殺害行為、フランスの週刊新聞シャルリー・エブドの風刺画家と記者への暗殺事件、それに続くパリのユダヤ系スーパーの客たちへの襲撃事件。こうした野蛮な出来事は、自由と開かれた世界のために断固としてみんなで手を取り合って立ち向かわねばならないという信念を、かつてないほど固くさせるものです。そして、この点において、ドイツと日本は手を携えて立ち向かっており、憎しみや人間性を無視する行為に対する闘いの中で、私たちはさらに強く結びついていくのです。

 私たちは、ドイツが議長国を務める今年のG7(主要7カ国首脳会議)でも、国際テロへの資金の流れ、人の流れを一つずつ断っていくことに力を注ぎます。これには、各国の財務大臣が取り組むことになります。そして、私たちは、現地でISのテロに立ち向かうすべての人々に対し、政治的、軍事的な支援を惜しみません。とくに、イラクの新政府とクルド地域政府がその対象となります。その他にも、私たちは日本とともに、ISのテロが生み出した難民の苦しみを軽減するための支援をしていきます。これは、私たちの人道的な責務であり、私たちの安全保障上の利害とも強く結びついています。

 この二つの要素は、ドイツと日本がアフガニスタンで展開してきた積極的な活動についてもいえることです。両国で一緒にこの国の治安部隊をつくり上げ、支援してきました。教育制度と保健制度を設け、新しい道路を造りました。その結果、01年以降、アフガニスタンの人々の生活はずいぶんと改善されています。日常的な治安は必ずしも十分ではないとはいえ、この国から国際テロの脅威を発生させないという最も重要な目標は達成されています。

 ◆核不拡散の努力

 日本とドイツは、核兵器による脅威を抑え込む点で協力することでも一致しています。15年は、広島と長崎に原爆が投下されて70年になります。その記憶からは、未来への責任が生まれます。このようなことは二度と起きてはなりません。日独両国は常に全力で軍縮と軍備管理に取り組んでいます。

 その一環として、イランの核武装をくい止めるという共通の目標を追求しています。平和利用に疑念が生じるような核の利用はいっさいあってはなりません。そのための協議は今、重要な段階にさしかかっています。

 私たちが目指しているのは、単に地域紛争の火種を消すことではありません。軍拡と核拡散を阻止するという、より高次の課題があるのです。その意味で、北朝鮮の名前もあげないわけにはいきません。

 ◆国連安保理の改革

 こうした根本的な問題が示しているのは、国際協力と国際的な組織が持つ信頼性と解決能力がいかに重要かということです。だから、日独両国は、ブラジル、インドとともに国連の強化と安全保障理事会の改革に尽力しています。

 その歩みは非常にゆっくりとしか前には進んでいませんが、世界の平和、安定の機会を逃さないためには、世界のすべての地域が、現実にふさわしいあり方で安保理の重要な決定に参画せねばならないと確信しています。

 ◆G7の重点課題

 そして、G7もまた、世界の課題に挑戦しています。G7は、共通の価値観と確信に基づいて行動しています。日本は来年、G7の議長国をドイツから引き継ぎます。だから、両国は手に手を携えて、緊密に協力していきます。

 ドイツが、議長国としてとくに重点を置くのは地球温暖化防止問題です。この問題をあえてあげるのは、15年が温暖化防止への重要な年になるからです。12月にはパリで開かれる国連の会議で、野心的ともいえる防止策を20年から拘束力のある形で発効させられるかどうかが問われます。だから、G7では、低炭素社会の開発に向けて参加各国が主導的な役割を果たしていくように取り組んでいくことを考えています。なおかつ、それが豊かな暮らしを犠牲にするものではないことをはっきりと示すつもりです。豊かな暮らしは、これまでとは違う方法でもたらされねばなりませんが、放棄すべきものではありません。そのための技術革新を世界中で推し進め、とくに途上国を支援していきます。いずれにしても、私はドイツで6月に開かれるG7で、パリの温暖化防止会議で大きな成果があがるように強力な発信をしたいと思っています。

 この温暖化防止問題と緊密に関係しているのは、いかにしてできるだけ持続可能なエネルギーを確保するかという問題です。従って、私たちはG7としてのエネルギー安全保障をもっと発展させていきたいと思います。エネルギー市場の透明性と機能をできるだけ高めることが重要です。とくに、エネルギーの効率を高めることで、そのコストを下げることができます。

 G7の他のテーマには、保健に関わる問題もあります。例えば、エボラ出血熱の問題から私たちが学んだことをどうするかです。さらには、女性をめぐる問題も取り上げたいと思います。とくに途上国における女性の自立と職業教育に関わる問題です。

 ◆ドイツと日本、共通の挑戦

 多国間の枠組みでのドイツと日本の協力は重要な側面を持ちますが、二国間のパートナーシップももちろん、重要な側面になります。私ども両国は同じような挑戦に直面しています。それゆえ私たちは向かい合って互いに多くの事柄を学ぶことができるのです。顕著な例としては、私たちの社会の人口統計学的な変化に対し、どんな答えを見いだすのか、ということが挙げられます。

 私たちには似通った課題があります。若い世代に過剰な要求をせずに社会保障制度をいかに安定的に維持できるのか、人口流出が著しい地方の生活条件をどう改善するのか、高齢化社会の中で活力と創造的な力をどうやって保持するか。

 私はつい先ほど、独日研究に深く関わっている研究者の方々と、このようなことを話しました。私たちの豊かさを維持するために必要な専門家の基盤をどう守っていくか、も大切です。

 ドイツでは連邦政府の人口動態に関する戦略の枠組みの中で、私たちはこうした様々な課題に取り組んでいます。

 たとえば、女性の就労の改善や仕事と家庭の両立、ライフワークを長く持つことに加え、私たちは外国からの熟練労働力にも重きを置いています。欧州域内には移動の自由があり、私たちは、欧州諸国からドイツへの労働力を手に入れることができます。欧州以外の国からの労働力についても関心は高いので、私たちは移住の条件を改善していきます。日本では、「Let Women Shine」のスローガンのもと、政府が女性の就労を推進しています。一連の法案によると、企業や行政機関で女性のクオータ(割り当て)制の導入を検討しているということですが、先週、長い討議の末に、ドイツの連邦議会でも同様の法案が可決されました。

 統計を見ると、企業の幹部の地位にある女性は、まだまだ少ない状態です。明日(10日)は日本の女性リーダーたちと意見交換する機会があり、大変楽しみです。

 ◆人口減と経済・社会の課題

 人口動態の変化に直面している今、専門家の確保を促進することは、私たち両国の経済が将来的に成功するのに中心的な要素になります。それによって私たちの高い生活水準も維持できます。日本もドイツも長い間、経済的に成功しています。そういった背景からも、独日の協力は大変に意味が大きい。独日の企業はすでに、多くの協力をしていますが、同行の経済代表団は新たな協力が始まることを期待しています。

 私たちの現在の経済活動を今後も維持していくためには、非関税障壁など、貿易の障害になるようなものを取り除かなければなりません。日本と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)は、経済に価値ある貢献ができるので、可能な限り早く交渉を進め、調印する必要があります。そのことで、多くの雇用を創出することもできます。

 両国での高度な技術分野での協力は揺るがないでしょう。たとえばデジタル化の分野には多くの可能性があります。また、技術革新力と経済的な成功は、教育や科学、研究に密接に関わっています。今後、この分野での交流も深めていきたいと思います。これに関しては、今日の午前中に研究者とも意見交換することができました。

 また、日本の周りには韓国、中国、ベトナムなどのダイナミックに発展している国々があります。私たちは、この地域だけで研究、教育などの協力をするのではなくて、周りの地域にも交流を広げていく可能性があるのではないかと思います。現在、独日の交流は非常に良い状態にありますが、良いものもさらに良くすることもできます。

 特に再生可能エネルギーや海洋、地球科学、環境の研究などで今後もさらに可能性があるでしょう。ドイツは外国の学生に、留学先として人気がある国ですが、もっと日本の学生や研究者がドイツに来てくれたらうれしいし、そのような学生のために、英語で勉強できるような環境を拡充しようと思っています。そして日本の経済界の方々が、日本の学生や、仕事を始めたばかりの若い人々をドイツまたは外国にもっと送り出してくれるような、そういう態勢をつくってもらえるようにお願いしたいと思います。

 そのことによって、キャリアにプラスになるように、つまり、外国にいたからといってキャリアにマイナスにならない環境づくりが必要です。EUの中には、「エラスムス」というシステムがあって、学生に教育期間の一部を外国で過ごすよう促しています。外国で過ごした時間は無駄ではなくポジティブな時間です。

 日本の学生、研究者をドイツで心から歓迎したいと思います。1873年に岩倉使節団がドイツに来た時と同様、皆さんを歓迎したいと思います。両国は当時のように互いに、そして世界に対して、好奇心を持ち続けたいと思います。本日は皆さんにお話しできただけでなく、今から意見交換ができることを喜ばしく思います。お招きに心から感謝します。

 【質疑応答の主なやりとり】

 講演後の質疑応答の主なやりとりは次の通り。

 ◆隣国との関係

 ――歴史や領土などをめぐって今も多くの課題を抱える東アジアの現状をどうみますか。

 「ドイツは幸運に恵まれました。悲惨な第2次世界大戦の経験ののち、世界がドイツによって経験しなければならなかったナチスの時代、ホロコーストの時代があったにもかかわらず、私たちを国際社会に受け入れてくれたという幸運です。どうして可能だったのか? 一つには、ドイツが過去ときちんと向き合ったからでしょう。そして、全体として欧州が、数世紀に及ぶ戦争から多くのことを学んだからだと思います」

 「さらに、当時の大きなプロセスの一つとして、独仏の和解があります。和解は、今では友情に発展しています。しかし、隣国フランスの寛容な振る舞いがなかったら、可能ではなかったでしょう。ドイツにもありのままを見ようという用意があったのです」

 「なぜ私たちがクリミア半島の併合の問題だとか、ロシアによるウクライナ東部の親ロシア派への支援にこんなにも厳しい立場をとっているのか。領土の一体性を受け入れることが、過去、現在とも、基本秩序だからです。これが、いわば欧州の平和秩序の根幹をなす柱だからです。数百年の欧州の状況をみると、国境はいつも動いていました。今日の国境を認めず、15~18世紀の状況を振り返る限り、決して平和をもたらすことはできない。アジア地域に存在する国境問題についても、あらゆる試みを重ねて平和的な解決策を模索しなければならない。そのためには、各方面からのあらゆる努力を続けなければならないのです」

 ◆脱原発の決定

 ――日本では女性の政治家が少なく、女性の職業としての政治家は大変だという印象を持っています。今までの政治家人生で大変だったこと、とりわけ原発廃止を決定した際のことを聞かせて下さい。

 「例えば、脱原発の決定という場合には、男性か女性かという違いは関係ないと思います。私は長年、核の平和利用には賛成してきました。これに反対する男性はたくさんいました。そうした男性たちは今日では、私の決定が遅すぎたと言っています」

 「私の考えを変えたのは、やはり福島の原発事故でした。この事故が、日本という高度な技術水準を持つ国で起きたからです。そんな国でも、リスクがあり、事故は起きるのだということを如実に示しました。私たちが現実に起こりうるとは思えないと考えていたリスクがあることが分かりました。だからこそ、私は当時政権にいた多くの男性の同僚とともに脱原発の決定をくだしたのです。ドイツの最後の原発は2022年に停止し、私たちは別のエネルギー制度を築き上げるのだという決定です」

 「ですから、男性だから、女性だからという決定ではありません。あくまでも政治的な決断であり、私という一人の人間が、長らく核の平和利用をうたっていた人間が決定したことなのです」

 「私はたくさんの方に支えられてきました。一方で、最初は私への疑念もありました。最初の選挙が一番大変でしたが、一回踏み出して女性でもうまくいくと分かると、それがだんだんと当たり前のことになるのですね。やはり前例をつくることが大事。前例ができれば、それがいつか当然のことになります」

 ◆格差の問題

 ――社会格差の問題が、移民と結びつき、欧州での一連のテロ事件の背景になっています。経済や教育の格差が過激派につながる懸念が広がる中で、ドイツ政府はどういう対策をとる方針でしょうか。

 「1960年代初めになり、ドイツの奇跡の経済成長で労働者が不足するようになりました。このため、一時的な安い労働力を外国から招きました。イタリアやスペイン、もっと安価なトルコから労働力を受け入れることになりました」

 「一方で、移民社会の構造的問題としては、平均的な教育水準が低く、学校の成績もどうしても上がらないということがあります。私たちはその社会的統合に尽力しました。まずドイツ語を学んでもらい、統合に努めました。かなり多くのイスラム教徒のマイノリティーもいるし、いろいろな宗教の存在が新たな課題をもたらしています」

 「大きな課題は、北アフリカやシリア、イラク、アフガニスタンなどからの難民です。昨年は20万人の難民申請があり、今年はさらに多くなるかもしれません。これが私たちの直面している一番大きな課題と言えるでしょう。ただし、ドイツ人の間では、これまでになかったような移民受け入れに肯定的な姿勢も出てきています。ドイツの労働市場は非常にいい状態で、この何十年と比べて失業率が低いこととも関連しているでしょう」

 ◆言論の自由

 ――表現の自由にメルケル首相は関心を持っていると思います。言論の自由が政府にとってどのような脅威になり得るでしょうか。

 「私は言論の自由は政府にとっての脅威ではないと思います。民主主義の社会で生きていれば、言論の自由というのはそこに当然加わっているものであり、そこでは自分の意見を述べることができます。法律と憲法が与えている枠組みのなかで、自由に表現することができるということです」

 「34~35年間、私は言論の自由のない国(東ドイツ)で育ちました。その国で暮らす人々は常に不安におびえ、もしかすると逮捕されるのではないか、何か不利益を被るのではないか、家族全体に何か影響があるのではないかと心配しなければならなかったのです。そしてそれは国全体にとっても悪いことでした。人々が自由に意見を述べられないところから革新的なことは生まれないし、社会的な議論というものも生まれません。社会全体が先に進むことができなくなるのです。最終的には競争力がなくなり、人々の生活の安定を保障することができなくなります」

 「もし市民が何を考えているのかわからなかったら、それは政府にとって何もいいことはありません。私はさまざまな意見に耳を傾けなければならないと思います。それはとても大切なことです」

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④ ▼11面=核不拡散連帯訴え
メルケル氏、日独連帯訴え ウクライナ情勢・対テロ・核不拡散
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641483.html

 7年ぶりに来日したドイツのメルケル首相は9日、東京・築地の浜離宮朝日ホールで開かれた来日講演で、日独を「グローバルな責任を持つパートナー」と強調。戦後70年の節目を踏まえ、同じ敗戦国として、ウクライナ情勢やテロ対策、核不拡散など重要課題にスクラムを組んで貢献していく考えを示した。▼1面参照

 「ドイツも日本も第2次世界大戦後、目を見張るような発展を遂げてきた。両国は、世界秩序に対してグローバルな責任を担うパートナー国家だ」。メルケル氏は敗戦から経済大国に復活した共通点に触れ、国際社会での両国の責任の重さを繰り返し訴えた。

 メルケル氏はまた、現在の世界秩序が「当たり前のものではなく、危機にさらされている」と指摘。根拠としてウクライナ問題を挙げ、親ロシア派武装勢力を支援しているとされるロシアを「国際法に反している」「領土の一体性を受け入れることが、欧州の平和秩序の根幹をなす柱」と強く批判した。

 一方、対ロシア経済制裁で足並みをそろえる日本には謝意を表明。日独は「国際法の力を守るという共通の関心がある」と協調姿勢をアピールした。

 テロ対策では、過激派組織「イスラム国」による邦人殺害事件などに触れ、「ドイツと日本は手を携えて(テロに)立ち向かっている」と強調した。

 広島、長崎への原爆投下から70年になることにも言及し、「両国はこのようなことが二度と起こらないよう常に全力を尽くす」と宣言。核軍縮や核不拡散を推進するため、イランや北朝鮮の核問題を巡る多国間協議での協力を確認した。

 ◆言論の自由にこだわり

 旧東ドイツで育ったメルケル首相は、言論の自由についても強いこだわりを見せた。講演後の質疑応答で、「言論の自由は政府にとってどんな脅威となるか」と問われたメルケル氏は、「政府にとって脅威ではない」と断言。30代半ばまで暮らした旧東独について、「人々は常におびえ、逮捕されるのではないか、家族全体に何か影響があるのではないかと心配しなければならなかった」と、言論の自由が抑圧された当時の様子を振り返った。

 その上で「人々が自由に意見を述べられないところから革新的なことは生まれないし、社会的な議論も生まれない」と話し、言論の自由が社会の競争力や生活の安定にも大きく関わっていると強調。「市民が何を考えているのかわからなかったら、政府にとって何もいいことはない。私はさまざまな意見に耳を傾けなければならないと思う」と結んだ。(津阪直樹、石橋亮介)

 ◆女性進出「前例作りが大事」 家庭と仕事、両立できる保障を

 物理学者から、欧州を率いるリーダーになったメルケル首相。講演後の質疑応答では、女性の進出が遅れる科学や政治の世界での苦労を女子大学生に尋ねられ、「前例をつくることが大事」と社会進出をめざす女性にエールを送った。

 メルケル氏は、大学教員には男性が多く、自然科学や理工系の勉強をする女性が少ないのは「(日独間で)すごく大きな違いがあるとは思わない」と述べた後、女性が家庭と仕事を両立できる保障が必要だと訴えた。

 政治の世界については、「最初は私への疑念もあった。最初の選挙が一番大変だった」と当初の思いを吐露。多くの人に支えられてきたと明かし、「一回踏み出して女性でもうまくいくと分かると、それがだんだんと当たり前のことになる。前例ができれば、それがいつか当然のことになる」と励ました。

 ◆<考論>日独中のバランスに配慮 慶大経済学部教授・竹森俊平氏

 中国を頻繁に訪れているメルケル首相が、7年ぶりに来日した意味は大きい。背景には、経済大国の日独中3国の微妙なバランスを取る狙いがあるとみる。

 日本とドイツ(西独)は1990年代半ばまでは主要7カ国(G7)の中でも緊密に連携できる国だった。だがドイツの輸出型経済が、成長する中国への依存度を高めた結果、日本との関係が相対的に薄れた。

 メルケル氏が東アジアの緊張緩和に触れたのは、海洋進出を強める中国への牽制(けんせい)だろう。フォルクスワーゲンが外資系自動車メーカーで首位に立つなど中国での独企業の存在感は大きい。東アジアでの緊張の高まりはドイツの産業界に影響しかねない。経済関係の主軸は中国だが、日本を「パートナー国」と強調し価値観の共有を訴えた。

 ただ、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定や技術革新の協力などで意欲を見せたものの具体案に乏しかったのは残念だ。

 興味深かったのは、「言論の自由」がなければ革新はないとの発言だ。活気ある経済のためには、政府は企業が自由に活動できる環境づくりに徹するとの哲学も垣間見られ、ドイツ経済の活力の源が感じられた。(聞き手・寺西和男)

 ◆<考論>戦後の姿勢、日本への提言 聖学院大学長・姜尚中氏

 戦後70年を前に、日本はドイツと異なる道を進むのではないかという懸念が世界に広がる中での来日。東独出身で、二つの体制を生き抜いた首相が何を語るのか固唾(かたず)をのんで見守った。人一倍リアリスト的な感覚の持ち主でもある首相の講演は、かなり抑えたものになるとも予測していた。

 実際には、ワイツゼッカー元大統領の言葉を引用しながら、ドイツは敗戦を「解放」と見なしていると強調し、過去ときちんと向き合ったことが戦後、国際社会に受け入れられるテコになったと明言した。その信用を崩してはならないとも述べた。日本社会に対する重要なメッセージであり、将来出されるであろう「安倍談話」に対する間接的な提言だと受け止めた。

 「この地域にアドバイスする立場にない」としながらも、韓国と日本が良好な関係を結ぶことを願うと言及したことも印象的だった。過去克服の事例として独仏の和解を挙げ、「隣国の寛容さがあったから可能だった」と述べたのは、日本が過去を清算すると同時に、韓国もまた日本の戦後の努力を評価し、歩み寄らなければ独仏のような関係は作れないという暗示だろう。(聞き手・武田肇)

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⑤ ▼14面=社説
(社説)日本とドイツ 国際秩序強化へ協働を
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641424.html

 ドイツという国に親しみを覚える人は少なくない。歴史、芸術や文化、あらゆる意味で、この国は日本にゆかりが深い。

 メルケル首相が7年ぶりに来日した。朝日新聞本社での講演は、両国の結びつきの深さと、協力の大切さを再認識させた。

 権力分立、人権、市場経済の浸透……。共通点を講演で列挙した首相は、いまの繁栄と平和を両国が得た理由として「輸出国として、グローバル経済に支えられている」点を挙げた。

 確かに、日本とドイツ(旧西独)は、冷戦下の西側秩序の安定のなかで戦後の復興から世界有数の経済大国へ駆け上った。近年のグローバル化時代がもたらした世界市場の拡大の中でも大きな存在感を示している。

 同時にこの70年間に日独は平和国家としての信頼を獲得し、豊かな市民社会を築き上げた。

 だが、安定を支えてきた国際秩序が失われれば、繁栄も平和も即座に足場を失う。首相が共通の責務として、国際法を守る環境づくりの役割を挙げたことを重く受けとめたい。

 ドイツはウクライナ問題の収拾に力を注いでいる。それが国際秩序の行方を握ると考えるからだ。日本にとっては、中国の海洋進出とどう向き合い、日中韓を含む東アジアの安定化をどう図るかが、喫緊の問題だ。

 前世紀に無謀な戦争を起こし、敗戦国として再出発した両国が21世紀のいま、国際秩序を守る重い責任を担っている。その呼びかけは、これからの平和国家のあり方を考えさせる問いかけでもある。

 もちろん、国際政治は正義と理念だけで動くわけではない。メルケル氏が長く訪日をしないまま中国との往来を重ねた背景には、中国という巨大市場の魅力があったことも確かだろう。

 日独間で進路が逆にみえる問題もある。エネルギー問題で、ドイツは安全を最優先して原発全廃に踏み切った。経済では、ドイツは財政規律を重んじ、日本は景気浮揚に力点を置く。

 この違いは何に由来するのか。互いに学びつつ国際秩序の強化に手を携えていきたい。

 ロシアと中国という大国問題だけでなく、欧州にはイラン、アジアには北朝鮮の核問題が横たわっている。紛争防止や核不拡散といった地道な外交努力を要する分野にこそ、両国の平和貢献のかぎがあるはずだ。

 「息の長さが重要です。イランに対しても、何年も何回も試みた。諦めてはいけません」。世界と真剣に向き合うメルケル氏の強靱(きょうじん)な姿は、日本の若者に強い印象を残したことだろう。

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⑥ ▼38面=天皇陛下と会見
天皇陛下が独首相と会見
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11641502.html

 天皇陛下は9日、皇居・宮殿で、ドイツのメルケル首相と約20分間にわたり会見した。首相との会見は2007年以来2回目。▼1面参照

 宮内庁によると、首相は「今年は戦後70年であり、戦争がない時代を望んでいたが、現在ウクライナで深刻な事態が生じていて心配している」と混迷するウクライナ情勢に言及。天皇陛下は「早く解決することを希望する」と話したという。また、天皇陛下は「日本にとっても戦後70年の年だ」と述べ、「長崎、広島の原爆は影響が長く続いている」などと語った。

 気候変動の影響も話題に上った。首相はドイツでブナの木が育たなくなったと話すと、天皇陛下は「日本でも東京などでは新しいブナの木が育たなくなった」と話したという。

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