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折々の記 2015 ②
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 07 】03/28

  03 28 「我が軍」発言 憲法軽視が目にあまる   社説
       破滅避けるために  核といのちを考える
       教えて!格差問題  7~1
       正社員と非正社員、同じ仕事でも  教えて!格差問題
  03 29 「我が軍」「言論の自由」…透けるものは   考論 長谷部×杉田
  03 29 安倍政権の激走   社説
  03 30 安保法制、米提言に沿う 知日派作成、首相答弁にも反映   やっぱり金魚の糞だった

 03 28 (土) 「我が軍」発言 憲法軽視が目にあまる    社説

2015/03/27 
「我が軍」発言 憲法軽視が目にあまる
  社説
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11672139.html

 安倍首相が参院予算委員会で自衛隊を「我が軍」と呼んだことが波紋を広げている。

 自衛隊と他国軍との共同訓練について問われ、「『我が軍』の透明性を上げていくことにおいては、大きな成果を上げている」と答えた。

 これが批判されると、菅官房長官は記者会見で「自衛隊は我が国の防衛を主たる任務としている。このような組織を軍隊と呼ぶのであれば、自衛隊も軍隊の一つということだ」と述べ、首相発言を追認した。

 だが歴代政府は「自衛隊は、通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」としてきており、憲法上、自衛隊は軍隊ではない。

 単なる呼び方の問題ではない。自衛隊の位置づけは憲法の根幹にかかわる。

 首相が国会で「我が軍」と言い、官房長官が修正もせずに首相をかばうのは、憲法の尊重・擁護義務を負う者としてふさわしい所作ではなかろう。憲法によって権力を縛る立憲主義の原理をないがしろにするものと言わざるをえない。

 たしかに国際的には自衛隊は軍隊の扱いを受けている。だがそれは自衛隊員が国際法上の保護を受けるためだ。他国軍との共同訓練に関する答弁だったとはいえ、国会では自衛隊と呼ぶのが当然ではないか。

 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をはじめ、一連の安保法制の議論を通じて、安倍政権には憲法軽視の姿勢が際立っている。

 日本の安保政策は、憲法との整合性を慎重に考えながら組み立てられてきた。9条で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としつつ、自衛隊が合憲とされるのは「自衛のための必要最小限度の実力は認められる」と解釈したからだ。

 1967年に佐藤栄作首相が「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁した基本原則は、簡単に覆せるものではない。

 内閣府の最新の調査では自衛隊に「良い印象」と答えた人が92・2%と過去最高になった。東日本大震災で黙々と作業に励む隊員たちの姿は、国民の目に焼き付いている。あえて軍と呼ばず、抑制的な姿勢に徹してきた自衛隊への評価の到達点ではないか。

 持てる力をむやみに振り回さず、海外の紛争と一定の距離をとってきたからこそ、得てきた信頼がある。その確かな歩みの延長線上に、国民や国際社会の幅広い理解を得られる活動のあり方を描くべきだ。



2015/03/27 インタビュー 
破滅避けるために
  核といのちを考える
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11672120.html

 米国とロシア(旧ソ連)は冷戦時代から、戦略核兵器を即座に発射できる態勢を常時とり続けてきた。機器故障や一瞬の判断ミスが、世界を破滅に導く。そのリスクをいかに除くのか。米軍制服組ナンバー2の統合参謀本部副議長を務め、今は核兵器廃絶をめざす国際NGOでこの課題に取り組むジェームズ・カートライトさん(65)に聞いた。

 ――米軍のトップ級まで務めながら、退役後、NGOのグローバル・ゼロに加わったのはなぜですか。

 「核兵器は、とてつもない破壊力を持っています。市民社会や重要なインフラ、そして環境に対して、戦場を超えたダメージが広がってしまいます。信頼できる科学的予測によると、一定量の核兵器が使用されると、この惑星の生命に長期にわたって壊滅的な打撃を与えます。『人類存亡の脅威』とも言うべきものです。かといって、いったん発明された核兵器を発明されなかったことにはできません。私たちができることは、同じ考えを持つ国々で、使用や保有を禁止する合意をつくっていくことです。グローバル・ゼロは核ゼロという目標をゴールに設定しており、それを支持しています」

 ――オバマ大統領は2009年、「核兵器なき世界」をめざすと宣言したプラハ演説で「冷戦は消えたが何千もの核兵器は消えなかった。歴史の奇妙な展開ではあるが、地球規模の核戦争の脅威は去ったものの、核攻撃のリスクはむしろ高まった」と語りました。同じ意見ですか。

 「オバマ大統領の語ったことに私も同感です。国家同士の地球規模の核戦争は想定外のことになりました。その一方で、核兵器を(テロ集団など)非国家の組織体に提供するような国が出てくれば、その結果として、核兵器が使われることは想像しえないことではなくなり、核攻撃のリスクも高まるといえます」

 ――プラハ演説の新しさはどこにあると考えますか。

 「核兵器に頼らない、その代わりとなる戦略や軍事的手段へと進みましょうと、オバマ大統領はリーダーシップを示しました。今はもはや冷戦時代ではありません。国家安全保障の課題や、安全保障を実現するための機会は進化の過程を経てきたし、これからも進化するでしょう。こうした課題に対処するために核兵器を使う必要性は減っています。オバマ大統領は、核兵器への依存を減らす取り組みをリードしていく決意を表明したのです」

 「そして、核保有に野心を燃やす一部の国に自制を呼びかける道筋ができました。(11年に発効した新戦略兵器削減条約〈新START〉のように)米ロが核への依存をさらに減らし、核兵器の更新を控える流れも生みました」

     ■     ■

 ――オバマ大統領は今、この問題にどう関わろうとしていますか。

 「さらに進めたいと思っているでしょう。ただ、個人的見解ですが、オバマ大統領は進めようとしても、ロシアのプーチン大統領は違います。(ロシアが一方的に併合した)クリミア危機については二つの異なる見方があります。核兵器が万能薬だと考える人々は『ほら、世界から核兵器をなくしていたら事態はもっと悪化していたはずだ』と言い、逆の見方をする人々は『クリミアに核兵器を残していたら事態はもっと悪化していただろう』と言います。私は、核兵器が事態を安定化させるより不安定化させていることに気づいている人の方が多いと思います」

 ――クリミア危機でプーチン大統領は、核兵器の警戒態勢を一段と高める検討をしたといいます。

 「実際の能力以上の脅しによって何が生じるか。それが心配です。核兵器への警戒態勢をいったん上げれば、それを解くのは困難ですから」

 ――プーチン大統領の発言は小型の戦術核を念頭に置いたものかも知れませんが、そもそも米国とロシアは、大型の戦略核を即時発射できる高度警戒態勢をずっと続けてきました。

 「大陸間弾道ミサイル(ICBM)は数十分で相手国に届きます。決定する時間はあるといっても、長くはありません。(報復の判断までの)思考時間が短すぎるので、警戒を怠れないのです。米ロは『使うか、失うか』という考え方による戦略をつくりました。お互いにミサイル発射場や潜水艦など核兵器の配備場所を把握していたので、いったん核戦争が始まれば、(相手の核ミサイルが着弾する前にこちらの核兵器を発射〈使用〉しておかないと)一瞬のうちにそれらを失うことになる、と想定していました」

 「高度警戒態勢にある限り、報復攻撃の前に相手の発射情報や早期警報を検証するために必要な『意思決定の時間』が、ごく限られたもの、あるいはほとんどない状態になります。さらに、核兵器が老朽化し、安全管理に緩みが出てくれば、事故や核兵器の盗難、意図しない核戦争の恐れを高めてしまいます」

     ■     ■

 ――グローバル・ゼロの活動で、警戒態勢の解除を提唱しているのはそのためですね。

 「高度警戒態勢をやめれば、(報復するかどうか)決断するまでの時間は増えます。敵の意図を見極めるまでの時間を確保できれば、核兵器使用以外の代替手段で対処することも可能になります」

 「私は、高度警戒態勢の代替手段は、信頼できる防御兵器など(核兵器ではない)通常兵器だと思っています。それによって、相手に先制攻撃をしても無駄だとわからせることができると考えています。『使うか、失うか』の考え方から抜け出せれば、警戒解除はできるでしょう」

 ――「核の傘」の下にいる日本には警戒解除をどう説得しますか。

 「まず、現在の外交的手段や軍事的手段で達成できないものとは何なのかを、きちんと整理することです。核使用にエスカレートするような脅威とは何かを特定することも必要です。そのうえで、核戦争は失敗でしか終われないということをもっと理解させるように、ミサイル防衛を含めた防衛力に投資することです。同じ考えを持つ国同士で防衛協力を深めることも必要でしょう」

 ――代替兵器開発の軍拡競争を避けるためには、東アジア地域での軍備管理態勢が必要ではないですか。

 「軍備管理の役割は広がっています。二国間や多国間の規範や態勢、条約といった措置のほか、訓練や査察といった各国が合意した信頼醸成措置もあります。これらによって、戦争が起きるリスクは減らせます。核兵器からその代替手段への移行期をどうしのぐか。外交や査察による信頼醸成ができれば、誇大妄想はなくなっていくでしょう」

 ――こうした軍備管理や信頼醸成は、世界が核ゼロに向かうための初期段階の措置ということですか。

 「その通りです。一度発明されてしまった核兵器を発明されなかったことにはできない以上、ゼロにするという決定のみで核兵器がゼロになることはおそらくないでしょう。そうであっても、果てしない旅であるとしても、どんな決定や価値判断であれ、(ゼロの)ゴールに近づいていくものかどうかで評価していかなければなりません」 (聞き手 論説委員・吉田文彦、田井中雅人)

     *

 James Cartwright 1949年生まれ。核兵器を担当する米戦略軍の司令官を務めた後、07~11年に統合参謀本部副議長。元海兵隊大将。

 <取材を終えて>

 高度警戒態勢とは、米ロ双方が拳銃の引き金に指をかけ、相手のこめかみに突きつけているようなものだ。しかも、引き金が引かれてしまえば、たとえそれがうっかりミスによるものであっても、元には戻せない。人類の文明は壊滅的な打撃を受け、地球環境も激変するだろう。

 核抑止の必要性を否定しない専門家でも、高度警戒態勢は不要と強調する意見は根強い。信頼できる報復力さえ確保していれば、相手の先制核攻撃を思いとどまらせる抑止力は機能するとの考えからだ。その意味では、高度警戒態勢は危険極まりないだけでなく、無用の長物とも言うべきだ。警戒態勢の転換は、思いきった核軍縮、核に頼らない安全保障体制への道を開く手立てでもある。

 国連総会でも、発射準備態勢の見直しを促す決議が圧倒的な多数で採択されてきた。グローバル・ゼロは、高度警戒態勢の解除について国際合意を求める報告書を4月末に発表したあと、具体的な外交交渉を有志国で始めるよう促す方針だ。

 核弾頭をミサイルから離して保管しておく。たとえば、それを国際ルールにすれば、高度警戒態勢をなくせる。「核の傘」の下にいるからと腰をひくのではなく、日本がそうした交渉を先導することこそ、「積極的平和主義」の実践ではないか。 (吉田文彦)

 ◆キーワード

 <グローバル・ゼロ> 米国から始まった国際的な核兵器廃絶運動。カーター元米大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領らが賛同人に名を連ね、2008年12月にパリで設立総会を開催。世界各地の政府や軍の元幹部らが加わる。09年には、30年までに4段階で核ゼロをめざす行動計画を提唱した。核兵器の常時発射態勢のリスクに関して専門家委員会を設け、カートライト氏が委員長を務める。高度警戒態勢解除の国際合意を求める報告書を4月末にまとめる予定。



2015/03/28  検索結果 
教えて!格差問題
  7~1
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11674365.html

(教えて!格差問題:7)正社員と非正社員、同じ仕事でも…(2015/03/28) 後掲
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11674365.html
(平井恵美) ◇ 「格差問題」はこれで終わります。4月から「教えて 年金」を始めます。 ◆ご意見を朝日新聞デジタルのフォーラムページ(http://t.asahi.com/forum)で募集します。メールは(asahi_forum@asahi.com)へどうぞ。 (教えて!格差問題:7)正社員と非正社員、同じ仕事でも…

(教えて!格差問題:6)男女平等度合い、世界と比べると ...
   www.asahi.com/articles/DA3S11672256.html
2 日前 - 日本は、男女格差の大きい国だ。ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム」が出す男女平等の度合いを示すランキングで、世界142カ国のうち104位(2014年)。先進国では韓国(117位)と並んで目立っ...

(教えて!格差問題:5)税の再分配機能、日本はなぜ弱いの ...
   www.asahi.com/articles/DA3S11670028.html
3 日前 - 所得税は、昭和60年代ぐらいから大幅な累進緩和をしてきた。再配分の機能が低下した、という指摘がなされている」。麻生太郎財務相は10日の国会答弁で、そう語った。 持てる者から取り、持たざる者に分配す...

(教えて!格差問題:4)社会保障の損得、世代間でどれくらい ...
   www.asahi.com/articles/DA3S11668139.html
4 日前 - 経済学に「財政的幼児虐待」という言葉がある。世代間格差を研究する米国の研究者が使って広まった言葉で、若い世代やこれから生まれてくる子どもほど、とてつもない借金を背負わされる、という意味だ。 かつては...

(教えて!格差問題:3)地方と都市、賃金や雇用に違いは ...
   www.asahi.com/articles/DA3S11661637.html
2015/03/21 - 決して広くはない日本だが、新たな仕事の探しやすさや賃金の水準は、地域によって大きくかわる。 厚生労働省によると、2014年の残業代やボーナスを除く平均賃金は、全国平均で月29万9600円となり、前年...

(教えて!格差問題:2)主要国と比べて日本は?:朝日新聞 ...
   www.asahi.com/articles/DA3S11659568.html
2015/03/20 - 格差の問題は、海外でも話題になっている。34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)は昨年12月、主要国で格差が広がっていることを指摘した。 OECDによると、人口の上位10%の富裕層の所得が、下...

(教えて!格差問題:1)論点はどこ?:朝日新聞デジタル
   www.asahi.com/articles/DA3S11657498.html
2015/03/19 - 格差には、正社員と非正規の処遇の違いや、大都市と過疎化が進む地方といった問題もあります。「格差は ... 世帯人数で調整して1人あたりの所得を計算し、順番に並べた時にその真ん中の人の額の50%を基準にする。基準を下回る人の ...

後掲
教えて!格差問題:7
正社員と非正社員、同じ仕事でも… 

写真・図版

【解説】

  非正社員の割合が大きく伸びている


    1999年までは総務省の労働力調査特別調査(2月実施)。
    2004年以降は労働力調査の13月平均。役員は除く。

  非正社員の賃金は上がりづらい

    厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から。
    2014年6月分の基本給など所定内給与額。短時間労働者は除く。

 東京都内の郵便局に勤める男性(29)は、時給制の期間雇用社員だ。1日8時間のフルタイムで働き、担当地区に郵便物を配達して回る。仕事内容は正社員と全く同じだ。3年前に入社。「スキル評価」は昨秋、最高ランクに。時給は入社時より600円高い1600円に上がったが、正社員の待遇には及ばない。

 日本郵政グループで、フルタイムで働く正社員の平均年収が約600万円に対し、期間雇用社員は同じだけ働いても約230万円。正社員にはある住宅手当や夏期・冬期休暇などはなく、有給休暇も少ない。

 男性は言う。「正社員と仕事も責任の重さも同じなのに。時給は今後上がる見込みはないし、将来の生活が不安で仕方ない」

 パートやアルバイトといった非正社員は、増加傾向にある。総務省が27日発表した2月の労働力調査では、正社員は3277万人で、非正社員は1974万人。20年間で正社員は500万人以上減り、非正社員は倍増した。役員を除く雇用者に占める割合は約2割から4割近くに上がった。

 非正社員は、90年代初めにバブル経済が崩壊し、企業が人件費削減で労働力を低賃金の非正社員に頼るようになって増えた。規制緩和の流れで、99年に専門業務だけだった派遣の対象業務が原則自由化されると、派遣労働者はピークの08年に202万人に達した。

 日本では新卒の一括採用が主流だが、企業の採用規模はその時々の経済状況に左右される。就職氷河期に社会に出た学生の中には、仕方なく非正社員の仕事を選ぶ学生も多かった。

 非正社員は、正社員に比べて賃金水準が低く、雇用も不安定だ。それは自治体で働く非正職員にも言える。厚生労働省の2014年の調査では、非正社員の賃金は正社員の約6割。年齢とともに賃金が増える正社員とは違い、非正社員はほぼ横ばいだ。

 08年のリーマン・ショック後に「派遣切り」が問題になったように、非正社員は「雇用の調整弁」にされやすい。勤務期間が短く、教育訓練の機会が乏しいことも多く、キャリアアップもしづらい。

 春闘による賃上げで、正社員と非正社員の格差は開く一方だ。政府は、今国会に労働者派遣法改正案を提出したが、労働組合や野党の一部は「不安定な派遣労働者が増える」「ワーキングプア層が増えかねない」などと反発している。 (平井恵美)

 03 29 (日) 「我が軍」「言論の自由」…透けるものは    (考論 長谷部×杉田)

2015/03/29 (考論 長谷部×杉田) 
「我が軍」「言論の自由」…透けるものは
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11676488.html

 自衛隊を「我が軍」と表現した安倍晋三首相。 これに限らず、戦後日本の政治が守ってきた「一線」を越えるような発言が目立つ。 長谷部恭男・早稲田大教授と、杉田敦・法政大教授の連続対談は今回、一連の言葉から見える政治的な志向や思惑、そうした政権の姿勢がもたらす問題点について語り合ってもらった。

 ◆発言で攻撃「自由すぎる首相」  長谷部
  野党もメディアも反応に鈍さ   杉田

 杉田敦・法政大教授 耳を疑うような首相の発言が相次いでいます。

 長谷部恭男・早稲田大教授 自衛隊を「我が軍」と。 菅官房長官も「自衛隊も軍隊の一つ」と追認しました。 自衛隊は戦力には当たらないというのが、戦後日本の一貫した「建前」です。 戦前・戦中の軍による国政専断の可能性を断ち切り、人々が自由に生きる空間を切り開いたことこそが、憲法9条の意義です。

 杉田 近年、「建前」は空虚な「見かけ」として否定的にとらえられることが多く、軽んじられています。 しかし「建前」には、原則とか基本方針という意味もあり、重要です。物事は原則通りにはいかないが、だからといって原則が不要とはならない。 原則を立てておかないと大きく道を踏み外してしまいます。

 長谷部 「日教組!」という答弁席からのヤジもなかなかです。 首相の品格も国会の品位も関係ないと。 「自由すぎる首相」です。

 杉田 行政を監視する役割をもつ国会で、首相と質問者の関係は口頭試問を受ける受験生と面接官のようなもの。 受験生が面接官にヤジを飛ばすことは、ヤジの内容が事実か、事実誤認かという以前に、試験自体を否定する行為であり許されません。 首相のヤジは、国会への侮辱と言ってもいい。 なぜ不信任決議の話すら出ないのか。 「自由すぎる首相」のもと、野党もメディアも「首相たるもの」「内閣と国会の関係とは」という根本を見失っているのではないでしょうか。

 長谷部 国会議員の国会での発言については、憲法で免責特権が認められています。 全国民の代表として幅広く自由に議論を展開する必要があるからです。 しかし、国務大臣は免責されないというのが憲法学界の通説です。 国務大臣は政策遂行について説明責任を果たすために国会で答弁するのであって、一議員と同じ立場で自由に発言することは到底認められません。

 杉田 安倍さんは昨年、衆院解散を表明した当日に民放ニュース番組に出演し、街頭インタビューについて、偏っているという趣旨の発言をしました。 これを国会でただされると「言論の自由だ」と。 しかし、一般市民の意見に首相が反論することが人権なのか。 それこそ市民の言論の自由を萎縮させかねません。

 長谷部 反論はしてもいいと思います。 ただしそれは、言論の自由の問題ではない。 あくまでも説明責任を果たす観点から行われるべきで、ましてや番組の編集権への攻撃という形でなされるべきではありません。 放送法第1条には「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」とある。 何が不偏不党かは、あくまでも各放送局が自律的に判断するという趣旨です。

 ◆戦後日本の「建前」を損と認識  杉田
  議論省いたトップダウン目標   長谷部

 杉田 政府与党は、情報の発信力において圧倒的に有利な立場にある。 ゆえにメディアも含めて、ある程度、政府与党に対抗的であることが全体としての公平性につながる。 政府側と、それに対する論評に機械的に同じ時間を割り振ることが「不偏不党」だというのは、実は偏った議論です。

 長谷部 編集の自律は、そうであるように見えるという「見かけ」もとても重要です。 外部の人間が編集に実際に介入するのは論外ですが、首相が番組の編集に文句をつけたり、与党が「公平中立」を放送局に要求したりすること自体が、編集の自律の「見かけ」を壊す。 そのリスクの大きさを、安倍さんは理解していないようです。

 杉田 一方、新聞には、不偏不党という要求は法的にはされていませんね。

 長谷部 すべてのマスメディアに法律でもって倫理を要求すると、権力が濫用(らんよう)するリスクがある。 だからあえて人為的に放送と新聞を切り分け、放送には政治的公平性や論点の多角的解明を要請する。 一方、新聞には旗幟(きし)を鮮明にして、自由闊達(かったつ)な言論活動を遂行してもらう。 そうして全体として多様性を確保することを狙っていると思います。

 杉田 それぞれが「正しい」と思うことを発信し、議論したりせめぎ合ったりする中で公正性や公平性は形成されます。 でも、安倍さんをはじめトップダウン型の国家を志向する人たちはおそらく、なぜそんな面倒なことをするのかと思っている。 効率が悪いと。

 長谷部 メディアを含めた社会全体がトップダウン型の効率的な企業体になるべきだと。

 杉田 加えて、安倍さんの言動のベースには、メディアや野党に不当に攻撃されているという「被害者意識」があるようですね。 「首相たるものメディアや野党の批判も甘んじて受けねば」などという「建前」に準じていても損だと。 しかもそこが、一部の有権者の感覚とも共振している。 戦後日本の「建前」に沿って過去の歴史を反省していたら、近隣諸国につけこまれ、日本は損をしている。 本音を表に出すべきだと。

 長谷部 だから戦後日本の「建前」を凝縮したかのような村山談話や河野談話はいやだ、本音ベースの70年談話を、という思考の道筋になるのでしょう。

 ◆タガ外せば歯止め失う   長谷部
  「未来志向」は現実逃避  杉田

 杉田 先日ドイツのメルケル首相が来日しました。 戦後ドイツも様々な問題を抱えていますが、過去への反省と謝罪という「建前」を大切にし続けることで、国際的に発言力を強めてきた経緯がある。 「建前」がソフトパワーにつながることを安倍さんたちは理解しているのでしょうか。

 長谷部 そもそも談話が扱っているのは、学問的な歴史の問題ではなく、人々の情念が絡まる記憶の問題です。 記念碑や記念館、映画に結実するもので、証拠の有無や正確性をいくら詰めても、決着はつかない。 厳密な歴史のレベルで、仮に日本側が中国や韓国の主張に反証できたとしても、問題はむしろこじれる。 相手を論破して済む話ではないから、お互いがなんとか折り合いのつく範囲内に収めようと政治的な判断をした。 それが河野談話です。

 杉田 談話の方向性や近隣との外交について「未来志向」という言い方がよくされますが、意図はどうあれ、それが過去の軽視という「見かけ」をもってしまえば、負の効果は計り知れない。 安倍さんたちは、未来を向いて過去を振り払えば、政治的な自由度が高まると思っているのかもしれません。 しかし政治の存在意義は様々な制約を踏まえつつ、何とか解を見いだしていくところにあります。 政治的な閉塞(へいそく)感が強まる中で、自らに課せられているタガを外そうという動きが出てくる。 しかし、それで万事うまくいくというのは、一種の現実逃避では。

 長谷部 合理的な自己拘束という概念が吹っ飛んでしまっている印象です。 縛られることによってより力を発揮できることがある。 俳句は5・7・5と型が決まっているからこそ発想力が鍛えられる。 しかし安倍さんたちは選挙に勝った自分たちは何にも縛られない、「建前」も法律も憲法解釈もすべて操作できると考えているようです。

 杉田 俳句は好きな字数でよめばいいのだと。

 長谷部 あらゆるタガをはずせば、短期的には楽になるかもしれません。 しかし、次に政権が交代したとき、自分たちが時の政府を踏みとどまらせる歯止めもなくなる。 外国の要求を、憲法の拘束があるからと断ることもできない。 最後の最後、ここぞという時のよりどころが失われてしまう。 その怖さを、安倍さんたちは自覚すべきです。 =敬称略(構成・高橋純子)

 03 29 (日) 安倍政権の激走    社説

2015/03/29 (社説) 
安倍政権の激走
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11676450.html

 走る、曲がる、止まる。

 これは自動車の基本性能だが、政治におきかえてみても、この三つのバランスは重要だ。

 「この国会に求められていることは、単なる批判の応酬ではありません。行動です」

 先の施政方針演説で、野党席の方を指しながらこう力を込めた安倍首相。 確かに、政権の激走ぶりには目を見張るものがあり、ついエンジンの馬力やハンドルの傾きにばかり気をとられてしまうが、最も注視すべきは、ブレーキだろう。

 ◆ここでないどこかへ

 権力を縛る憲法。 歴史の教訓。 権力を持つものの自省と自制。 メディアや野党による権力の批判的検証――。 敗戦から70年の間、これらは日本政治のブレーキとして機能してきた。

 しかし安倍政権やそれを支える自民党の一部は、ブレーキがあるからこの国の走りが悪くなっていると思い込んでいるようだ。 「行動を起こせば批判にさらされる。 過去も『日本が戦争に巻き込まれる』といった、ただ不安をあおろうとする無責任な言説が繰り返されてきた。 批判が荒唐無稽であったことは、この70年の歴史が証明している」。 防衛大学校の卒業式で、首相はこう訓示した。 国会では自衛隊を「我が軍」と呼んだ。

 「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」とは、ブレーキなんか邪魔だ、エンジン全開でぶっ飛ばすぜという冒険主義のことなのだろうか。

 「いま」がすべて。 どこに向かっているのか、なぜそんなに急ぐのか、危ないではないかと問うても、いまこの走りを見てくれ、こんなにアクセルを踏み込める政権はかつてなかっただろうと答えが返ってくる。 とにかく前へ、ここではないどこかへと、いま必死に走っている最中なんだ、邪魔をするのかと、あらゆる批判をはねのける。

 奇妙な論法が横行している。

 ◆権力者のクラクション

 「八紘一宇(はっこういちう)」。 もともとは世界を一つの家とする、という意味だが、太平洋戦争中は日本の侵略を正当化する標語として使われた。 自民党の三原じゅん子女性局長は先日の国会で、そのような歴史的文脈を捨象し「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」と紹介した。

 「わたし」を中心にものごとを都合よく把握し、他者の存在をまったく考慮に入れない。 狭隘(きょうあい)かつ粗雑な世界観が、あちこちから漏れ出している。

 首相は昨年、民放ニュース番組に出演し、テレビ局が「街の声」を「選んでいる」「おかしい」などと発言した。 先日の国会で、報道への介入と言われても仕方ないと批判されると「言論の自由だ」と突っぱねた。

 権力が抑圧してはならない個人の権利である「言論の自由」を権力者が振りかざすという倒錯。首相はさらに「私に議論を挑むと論破されるのを恐れたのかもしれない」「それくらいで萎縮してしまう人たちなのか。 極めて情けない」とも述べた。

 ひょっとして首相は、最高権力者であるという自覚を根っこのところで欠いているのではないか。 巨大な車にクラクションを鳴らされたら、周囲が一瞬ひるんでしまうのは仕方ないだろう。 だからこそ権力は国民をひるませないよう、抑制的に行使されねばならない。 首相たるもの「いま」「わたし」の衝動に流されるべきではない。

 情けないのは抑制や自制という権力の作法を身につけず、けたたましいクラクションを鳴らして走り回る首相の方である。

 ◆不安社会とブレーキ

 そうは言っても、安倍政権が激走を続けられるのは、社会の空気が、なんとなくそれを支えているからだろう。

 長引く不況。 中国の台頭。 格差社会の深刻化。 さらに東日本大震災、過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件などを経て、焦燥感や危機意識、何が不安なのかわからない不安がじわじわと根を張ってきた。

 国ぐるみ一丸となって立ち向かわなければやられてしまう。 国家が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、政府の足を引っ張ってはいけない――。 そんな気分が広がり、熟議よりもトップダウン、個人の権利や自由よりも国家や集団の都合が優先される社会を、知らずしらず招き寄せてはいないだろうか。

 無理が通れば道理が引っ込む。 「反日」「売国奴」。 一丸になじまぬものを排撃する一方で、首相に対する批判はメディアのヘイトスピーチだという極めて稚拙な言説が飛び出す。

 昨今「メディアの萎縮」と呼ばれる事態も、強権的な安倍政権にたじろいでいるという単純なものではなく、道理が引っ込み、液状化した社会に足を取られているというのが、情けなくはあるが、率直な実感だ。

 ブレーキのない車のクラクションが鳴り響く社会。 メディアが耳をふさいでやり過ごしてはならない。 そしていま、この社会に生きる一人ひとりにも、できることはあるはずだ。



安倍政権はなぜ戦争をしたがるのか?
「日本戦後史論」 内田樹,白井聡(著)

  2015/03/29 の新聞にこの本が「戦後70年の必読書」として大反響・続々重版・3万部突破
  として広告に出てきた。
  好奇心を惹くものだけに調べてみた。

内容紹介

この国はなぜ今、戦争ができる国になりたがっているのか?
右傾化する日本と世界、親米保守という矛盾、領土問題の本質、反知性主義ともいえる現状……。この国が来た道、行く道を、『日本辺境論』『街場の戦争論』などの内田樹氏と『永続敗戦論』で大注目の論客、白井聡氏が縦横無尽に語りつくす。「敗戦の否認」という呪縛や日本人に眠る「自己破壊衝動」など、現代日本に根深く潜む戦後史の問題の本質をえぐりだす。戦後70年の必読書!

<目次>

第一章:なぜ今、戦後史を見直すべきなのか

◇戦後史を見直す動きは時代の要請
◇日本の歪んだ右傾化
◇対米従属が生きる道と信じる人たち
◇日本の近代化が失敗した理由
◇右傾化と金儲けの親和性
◇日本のイデオロギーの特殊性
◇東京オリンピック開催と領土問題という二面性
◇アジアでの敗戦認識が薄い日本人
◇歴史を掘り起こし、新しい言葉を見つけ出すとき

第二章:純化していく永続敗戦レジーム

◇ほんとうの民主主義がない日本
◇なじみやすかった対米従属と対米自立
◇冷戦終了後も対米従属が続くのはなぜか
◇日本全体に蔓延する未熟な「ことなかれ主義」
◇小手先の修理ではどうにもならないほど劣化
◇戦後レジームの脱却=日本を壊す
◇対米従属を強化する美しい国
◇日本人の無自覚な愛と憎しみのねじれ

第三章:否認の呪縛

◇「敗戦の否認」の呪縛
◇「何かの否認」により成り立つ国家
◇エリートたちに眠る内的破壊衝動
◇今、政治学は何ができるのか
◇アメリカの属国だということを、日本人はどれだけ受け止めているか
◇知への反発とオタク文化
◇アジアで孤立化しているように見えるのはなぜか
◇日本にはまだ「負けしろ」が十分ある

第四章:日本人の中にある自滅衝動

◇事実認識を正確にできないようになってしまったのはなぜか
◇極論を楽しんでしまう日本人の気質
◇戦後誰も成し得なかったことをする安倍晋三という人物
◇幼稚な反米主義で帰着する可能性
◇日本で次なる反米ムードは蜂起するか
◇アメリカの五一番目の州のリアリティ
◇欲望の伝わり方
◇歴史的事実の隠蔽の構造
◇「占領時代」を忘却している日本

最も参考になったカスタマーレビュー

① 確かに頭の良い人だが、もう限界だろう  投稿者 宗像太郎 投稿日 2015/3/1

1.私は内田樹氏の本はほとんど目を通している。物事を見る新しい視点をいくつも教えてもらったと思い、感謝している。

2.しかし、しだいに作りが雑になってきた。何人ものレビュアーが指摘してるとおり、彼が書いていることの多くは、直観的な洞察である。綿密な事実の調査はもちろん、たまたま自分の洞察の材料になった事例への言及さえ極めてすくない。特に日本の政治や経済に関する言説で、この傾向はしだいに強まっている。

3.新刊の本書も、深層心理的な憶測も含めて、推測に推測を重ね、仮説に仮説を重ねて、脳内で織り上げられた物語である。たしかに興味を引く物語だし、ひょっとしたら正しい洞察なのかもしれないと思う。たとえば、昭和期軍部の壊滅的な惨状は、維新の賊軍組の無意識の復讐だという説を立てている。これは今まで誰からも聞いたことがない説だが、なるほどそうかもしれないと思った。しかし、内田氏は自分の洞察のブリリアントさに自分で陶酔している。その洞察をさらに「本当にそうなのか」と問う姿勢がない。全体としては、もう知的エンターテインメントの領域である。

4.彼があげている数少ない歴史事例の中に、戦後日本の対米従属は、華夷秩序の中で中国に朝貢していたのと同じマインドだという説がある。私の理解するところでは、日本は中国との朝貢的関係(皆無ではないが)は早く断ち切っている。韓国のように事大思想にどっぷり浸かってはいない。これがたぶん通説である。内田氏はあえて通説に反対しているのだろうか。あまり考えずに、思いついたことを適当に書き加えたという感じがする。

5.内田氏の著作が劣化した原因を列挙してみる。
(1)書きすぎである。ブックファーストの店長の警告に応えて、出版を控えると言明したことがあったはずだが、あれはどうなったのか?必ず売れる著者だから、編集者の要請が絶えないのだろう。世間の義理に振り回されて、劣化した本を出し続けるようなことで、日本の現状を嘆く資格があるのか。
(2)意見の合う人とだけ対談する。同じ組み合わせで何度も対談する。もちろん、これは内田氏だけのことではない。しかし、彼の対談本はお友だち対談の雰囲気がとりわけ強い。お友だちで内閣を構成すると言われた安部首相と似ているのではないか。ある対象を熱烈に批判し続けていると、自分がその対象と同じ欠陥を示すようになると言うが、その実例を見る思いである。白井氏は将来のある物書きだが、年上の悪いおじさんにスポイルされないでほしい。
(3)批判を聞く気はないと公言している。物書きをしているとげっそりするような批判が投げつけられるということは事実だろう。しかし、批判を完全にシャットアウトするのは、思想的物書きとして緩慢な自殺ではないか。

6.無名時代の仕込み、そして洞察力が並外れて優れていたおかげで、実証がほとんどなくても、今まで人気批評家としてやってこれたのだと思う。しかし、仕込みのストックを使い果たして、限界に来ていると思う。ただし、私は内田氏を悪くは思っていない。これまでの学恩に感謝し、これからも時々は新著を覗くつもりである。一冊に一カ所くらいは、興味深い洞察があるだろう。

② 過激極まりない密教の経典   投稿者 品川999 投稿日 2015/3/28

これは凄い。社会の1%の上層部は知っているが公言しなかった重要機密を書いてしまっている。
こんな本が成立することということは、本を書いても99%の人の目には届かなくて済む時代になっているということだろう。100万部売れても1%だからね。こうした本を手に取る時点でスーパーエリートだから、その人たちには本当のことが分かっていていいということだ。
これまでの日本社会では、漢籍、時代が下ってはオランダ語、近年では英語の本がその役目を果たしていたのだと思っていたが、考えてみれば本当の意味で文字が読める人はそれほど多くないはずで、ネット社会になって本を読む人が減ってそういう時代に戻ってきたのかもしれない。

③ アメリカに従うことが目的化している  投稿者 MIYO 投稿日 2015/3/12

本書によれば、戦後日本はアメリカに統治されながらもしたたかに自分の利益を追求していた
しかし、そのような姿勢がいつしか忘れ去られ、いつの間にかアメリカに従うことが目的となってしまっているのが今の日本
冷戦時代はアメリカの国益と日本の国益は一致していたが(ソ連という共通の敵がいたため)冷戦崩壊後はアメリカの国益と日本の国益は必ずしも一致するものではなくなってしまった
中国との領土問題などでもアメリカは微妙な姿勢をとりつづけているが、これはその典型(中国を敵にまわすメリットがアメリカにないため)
アメリカにあまりにもひどく負けたために、次は勝つという姿勢(できるかどうかは別にして)をとらないため、戦争の敗因の自己分析ができずひたすら盲従するだけになってしまったのだという指摘は重要だと思いました 日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのかという本とあわせて読むと日本とアメリカの歪んだ関係がより理解できると思います

④ 確かに  投稿者 ボス 投稿日 2015/3/12

タバコ事件で日比谷を退学させられたが大検で東大に入りあの時期に真面目?に卒業した内田さんであり根っからは信頼できないがあの時期を知らない若い人たちは全共闘も民青もべ平連もその他も区別できないのよりましだ。内田さんらの対談はきわめて常識的。例えば原発は低コストだと信じている若者いるらしいが笑止。福島原発の廃炉作業に携わっている労働者を崇高だと言うなよ。危険を十分おしえられないまま働いている人たち7000人のなかには震災で失業し家を奪われ生き延びた家族を養うためにやむを得ず被曝してでも働いている。いまだに低コストだと信じているなんて無神経。廃炉に何十年もかかる上…あとは自分で勉強してください。内田はいい加減なところのある男だが首肯する論点は多いです。安倍首相やそのオトモダチとの隠蔽と欺瞞が我が国を破滅させる予感はある。若者がじいさんばあさんになるその先々まで考えて今取り組む課題山盛りです。この対談を批判的でもいいから読み込みスタートにしてください。(口が裂けてもいいたくないが誠に失礼ながら安倍首相にはお子さんがいないから暴走していられるかも)

⑤ おもしろい おはなし, 2015/3/21   投稿者 INAVI (日本国、東京)

内田樹と白井聡、左派論壇の中で元気に論陣を張りまくっているベテランと若手の代表格だろう。

二人のペダンティックな物言いとアクロバティックな論法は、素晴らしい名人芸で、それを以ってアカデミックとか知的だとか感じる人もいるということも先達レビューで分かった。反知性主義という言葉を左派は喧伝するが、左派の中にもネトウヨ程度のオツムの出来の方がいること、そして、そうした層の上でコップの中の大騒ぎをする学者さまがいるということ、そうした劣化を気にしていないことが左派への支持のなさだということをまざまざと実感させてくれる点で、本書は価値がある。

一つ一つを突っ込むのも面倒なくらいに、本書は事実誤認が目立つ。たとえば、内田は、主流派でない軍人のルサンチマンの例に真崎甚三郎(佐賀)と挙げつつ、数頁後で薩長土肥による権力の独占を批判する。佐賀って、肥前のことですよ。
それと、二人とも、私はそう思う→実際そうでしょう→だからこれもそうなのです→みんなそうなんですよ という陰謀論そのまんまの論法が目立つ。
私は、左派だからダメだとは思わないが、左派の中では相応に評価する二人のあまりのダメっプリが残念でならない。

左派は、民主党政権の崩壊と、第二次安倍政権下での衆院選・参院選での大敗を以って、自分達の何がダメで何が国民全般から支持されないのかを真摯に反省し改革すべきところにある。これをしないで、社会党がどう成り果てたのかに向き合う必要もある。
しかし、左派はそれをしない。内田、白井をしても、安倍晋三の悪口に終始して、では、如何なる政権、政治家が必要で有用なのかは何も言わない。対案のない反対という社会党以来の伝統芸に国民全般がNOを言っていることを無視あるいは気付かずに、身内だけの論法と悪口でおだを挙げている姿は、私のように現政権への不満を持ち、カウンター勢力(二大政党ではない)に期待をする層に、現政権以上の絶望感を持たせる。

ちなみに、本書では、東北諸藩の賊軍にされたルサンチマンを説くが、長州の安倍では成り立たないことには説明がない。また、軍人だった中曽根(これが主計大尉で戦場に行かない一種の兵役忌避あることを著者たちは言わないが)や軍港横須賀を地盤とする小泉が、アメリカ嫌いだと説くが、安倍には説明がない。単純な話だが、安倍の祖父・岸伸介は戦中の内閣の一員として逮捕され巣鴨に拘留されていて、そのじっちゃんの名誉回復こそが、安倍の反米的言動の根幹にある。中曽根と小泉はエポックメイクに靖国参拝をしたが、一方で当時の大統領と強い関係を見せ、米国から批判されることはなかった。安倍の反米は、破滅願望などというありもしない理由でなく、著者達の大好きな幼稚で利己的な安倍像そのままの理由であることを、直視できない点でも、著者達は残念に尽きる。

⑥  è¬, 2015/3/18   投稿者 ドルフィンドルフィン

問題は単純である。
安部首相は、右翼であり、軍事力を背景にした経済力を持った強い日本にしたいだけだ。
維新から続いている日本人の価値観を取り戻したいだけだ。
無意識なんか関係ない。何でもありの空論になってしまう。
そして、同じような空気を大衆も持ち始めている。
経済が不安定になり、格差が大きくなり、仮想敵国が現れると必ず今のような指導者が支持され、大きな声の景気のいいおっちょこちょいがもてはやされる。
左翼は相変わらずバカ丸出しで何も変わらないし、このまま行くとこまで行くしかないだろう。
この本や、作家の要約はこれで十分だ。
二人とも大好きな評論家だが、吉本さんが死んでからまともな批評家は皆無だ。

⑦ 日米関係史を問い直す好著!, 2015/3/13   投稿者 mountainside

 内田樹氏と白井聡氏の対談はベストカップリングと言えるでしょう。議論がどれも面白く、取り上げられた論点は従来はなかなか取り上げられなかったものが多く、大胆な発言に興味がそそられます。1853年のペーリーの浦賀来港から不平等な日米関係史が始まります。1911年不平等条約の改正により日米関係は初めて対等な関係になりましたが、極東を巡る利害対立が表面化し、第二次世界大戦の敗戦以後も安保条約により不平等な関係を強いられている。実に奇妙な関係であり、今後の日米関係のあり方を見直す場合には、日米関係史を回顧する必要がある。安保条約は冷戦構造化でこそ意味を有するものでしたが、冷戦終結以後はアジア・太平洋、さらにはイスラーム勢力や世界平和を脅かすテロに対する脅威に対して日米同盟として意味不明瞭な関係に転じていきました。今こそ、この関係を見直す時だと思います。

 戦後の日本人にとってアメリカの豊かさ、資本主義による物心両面の豊かさ、大衆文化の流入が戦後の貧しい日本人にとって憧憬の対象となり、国民生活のすべてがアメリカナイズされたことが、アメリカ支持の根本的理由ではないかと思います。豊かになりたい国民感情を政府自民党は戦略的に代弁し、利用してきたのだと思います。日米の政治的な関係を根底において支えていたのはアメリカナイズされた物質的下部構造だったのではないかと思われます。それが上部構造の転換に対してもアメリカの亜流民主主義、アメリカ的国民教育が決定的な影響をあたえた。日米関係を覆す、または根本的に改変することを日本人が望むことがあるとすれば、アメリカ流資本主義、民主主義を克服する日本独自なイデオロギーもしくは価値観しかないと思われます。残念ながら現在の日本ではこれは無理でしょう。戦争責任を問う思想は、敗戦国には必然的に求められますが、戦勝国には求められない。日本が戦争責任について何か独自の思想を表明したとしても、受け入れられる余地は無い。原爆を落として30万の命を犠牲にとどめを刺したアメリカの責任が国際的に追及されることはない。このように考えてみると、現在の日本にとってナショナリズムが定着する余地はなく、戦争責任を問い続けたとしても、あまり有益な議論とはならないような気がします。しかし、もし有益な議論があるとすれば、戦争を回避することがどうしてできなかったのか、あらゆる側面から検証してみることです。いかなる観点から見てもアメリカが日本に優越していたことは戦争指導者にも理解されていたにもかかわらず、敗色濃厚な戦争にあえて踏み切ったのはなぜか、物心両面から徹底的に検証してみることのみが、有益な示唆をあたえると思います。同じ事は第二次世界大戦を戦った欧米諸国についても当てはまります。昨年度開戦100周年を機に第一次世界大戦に関する書物が大量出版されましたが、戦争原因の分析を徹底して論じた書物は私見によればほとんど見られなかったように思われます。未来のための教訓はこの点にのみあるのです。このようなことを本書から感想として述べてみました。お勧めの書物です。

⑧ 安倍とネトウヨと原発推進派の謎が氷解, 2015/3/7   投稿者 shinota

色々と示唆に富む面白い本だった。
その中で最も印象に残ったのは安倍総理やネトウヨや原発推進派の行動の無意識的な動機についての分析だった。
どうやら彼らは「日本など滅茶苦茶になってしまえ。滅びてしまえ」と潜在意識的に思っているらしいのだ。
だから言動が日本が滅びる方向に向かうのだという分析である。
非常に納得ゆくものだった。
例えば日本を大事に思うなら地震国であり津波や噴火も多い日本から原発など今すぐ無くそう、放射能汚染など 二度とごめんだと考えるのが正常な思考だが、日本など滅びてしまえと無意識に思っている彼らは原発を無くそうと思うどころかどんどん再稼働させさらにもっと作ろうと考えるわけである。
東京に一極集中すれば直下型地震が起きたら危険だから首都機能を分散させようと考えるのが正常な思考だが 日本など滅びてしまえという思考の彼らは東京一極集中をますます進めようとするわけである。
非常に恐ろしい背筋が寒くなる話だが、日本人の中には総理大臣を筆頭に日本壊滅を無意識的に望んでいる層が明らかに存在しているのである。
そしてその最たるものが集団的自衛権と憲法改正である。

⑨ 日本を覆う様々な問題について深く考えさせる良書, 2015/3/3   投稿者 ヨガ太郎

対米従属、安全保障、格差拡大路線、アジアとの関係、テロとの戦いなど・・・、いま日本を覆うさまざまな問題を考えるとき、そのすべての根本にあるのは、敗戦の否認であると両氏は言います。これは日本のことだけではなく、フランスなど各国における共通問題でもあるとの指摘はとても興味深く読みました。白井氏のいう「永続敗戦論」がより広がってわかりやすくなりました。

世界的な流れはあるにせよ、最近の日本は好戦的であるように感じてしまいますが、それはなぜなのか、ほんとうにいいのか。戦後70年ということもありますし、特に若い人にとっては、一度じっくり考えるきっかけにするのもよいかと思います。

 03 30 (月) 安保法制、米提言に沿う 知日派作成、首相答弁にも反映    やっぱり金魚の糞だった

2015/03/30 第一面の記事 
安保法制、米提言に沿う 知日派作成、首相答弁にも反映
  やっぱり金魚の糞だった
   http://digital.asahi.com/articles/DA3S11677952.html

アーミテージ・ナイ・リポートと安全保障法制でできること

① 集団的自衛権

  USA  集団的自衛権の禁止は、同盟の障害だ。
     日米は、平時、緊張、危機、戦時を通じ、
     全面的に協力できるよう権限を与えるべきだ。

  日本 米国を攻撃してきた第三国に反撃する。

② 地理的範囲

  USA  日本の利害地域は遠く南へ、さらに中東まで拡大。
     (日米の協力は)より広範な地理的範囲を含めるべきだ。

  日本 日本周辺だけでなく、世界のどこでも米軍や他国軍に
     給油・輸送など後方支援ができる。

③ ペルシャ湾、南シナ海での活動

  USA  ホルムズ海峡での機雷除去。南シナ海の共同監視

  日本 ホルムズ海峡での機雷除去。中東から南シナ海を通る
     シーレーン(海上交通路)防衛の強化。

 安倍晋三首相が進める安全保障法制によって、日米同盟をさらに強めようとする動きが日米両政府から出ている。背景には安保法制が米国の知日派による提言書に沿っていることがある。中東・ホルムズ海峡での機雷除去など、首相が法整備の理由に挙げた事例は、提言書とも一致する。首相の国会答弁にも、その趣旨が反映されている。後掲▼2面=連載「安全保障法制 現場から考える」

 訪米した高村正彦自民党副総裁が今月26日、カーター米国防長官と会談した際、安保法制について「日本だけでなく、国際社会に重要な影響を与える事態にも対応できるようにする」と説明すると、カーター氏は「安保法制は歴史的取り組みだ」と評価した。シーア米国防次官補も同27日の講演で「日本にとどまらず、様々な地域で協力することになる」と強調した。

 こうした日本政府の取り組みは、米国の共和・民主両党の知日派が、党派を超えて作った対日政策の提言書に沿っている。

 提言書は「アーミテージ・ナイ・リポート」と呼ばれる。日米の政権に影響力のある共和党のアーミテージ元国務副長官、民主党のクリントン政権で国防次官補を務めたナイ・ハーバード大教授らが中心になっている。最初の2000年に続き、07年、12年と発表した。日本政府で安保政策に関わる担当者らが新たな防衛政策を練り上げる際、常に「教科書」としてきた。

 最新の12年の提言書は、「日本の責任範囲を拡大すべきだ」と集団的自衛権の行使を認めるよう強く勧めた。そのうえで、新たな防衛協力分野の具体例として、「ホルムズ海峡での機雷除去と、南シナ海の共同監視」を挙げた。

 提言書はさらに、安倍首相が法整備の主な理由に掲げる自衛隊の「切れ目のない対応」も求めた。

 「日本防衛」と「地域防衛」の区別はなくなったと強調。「ホルムズ海峡の封鎖や、南シナ海での軍事的緊急事態は、日本の安全と安定に深刻な影響を及ぼす」として、自衛隊の活動を世界に広げるべきだと指摘した。

 特に機雷除去については、イランが欧米からの制裁への対抗措置としてホルムズ海峡封鎖を示唆したことを挙げ、国際社会の要請があれば「日本は単独で掃海艇を地域に派遣すべきだ」と、日本が真っ先に駆け付けて機雷除去に取り組むよう促した。

 安倍首相は2月の国会答弁で「ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様に深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況にあたりうる」と強調した。(佐藤武嗣=ワシントン、今野忍)

後掲

▼2面=連載「安全保障法制 現場から考える」
培った掃海技術、米期待 自衛隊発足前から実績
   (現場から考える 安全保障法制:上)
   
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11677843.html


戦後日本の掃海の歴史

1945年  旧海軍の掃海部が米軍の指揮下に入り、日本周辺にまかれた機雷を掃海

1948年  海上保安庁創設。掃海課を新設

1950年  海保によって編成された日本特別掃海隊が朝鮮戦争に参加

1954年  防衛庁・海上自衛隊発足

1991年  湾岸戦争後、海自掃海部隊をペルシャ湾派遣

 日本の自衛隊にとって、機雷の除去は、長年かけて技術を高めた得意分野だ。米国はそれをほしがり、安倍晋三首相はその期待に応えて、中東・ホルムズ海峡での機雷除去に強い意欲を見せる。ただ、戦闘中は機雷を取り除くことも武力行使になるので、集団的自衛権が必要な場合がある。日本から遠く離れた場所で行使は可能なのか。与党内でも意見が分かれたままだ。▼1面参照

 宮崎県沖の日向灘。低空飛行するヘリコプターが海面に水しぶきをつくる。

 海上自衛隊が昨年11月に行った日米共同の機雷敷設・掃海訓練。海自からは掃海艇など23隻とヘリ3機、米海軍からはダイバー6人が参加し、報道機関にも公開された。

 記者が乗った掃海艇「つのしま」は全長54メートル。喫水が浅いため、波を受け大きく揺れた。船底は木製。磁気に反応する機雷に探知されないためだ。

 ソナーが数キロ先にある訓練用の機雷を探知した。

 「目標は機雷だ。機雷処分具によって処分しろ」

 艇長が命令を下すと、隊員10人がかりで、甲板後方のクレーンから長さ約3メートルの黄色い潜水艇のようなものを海に投げ入れた。これは「機雷処分具PAP―104」。フランス製だ。光ファイバーを通じて掃海艇から映像を確認し、遠隔操作ができる。

 隊員の操作でPAPが機雷に接近し、爆雷を放った。訓練用のため爆発は起こらないが、信号を送って「爆破」を確認した。

 機雷除去には様々な方法がある。この日の訓練ではダイバーが泳いで機雷を処理する訓練も公開した。

 掃海母艦「うらが」から飛び立ったヘリが機雷に近づく。ダイバーがロープで降下し、爆薬を背負ったまま泳いで機雷に向かった。時限式の爆薬を取り付けると、ヘリが垂らしているロープまで波立つ海を泳ぐ。ダイバーがヘリに戻ってから「点火成功」という声が無線で聞こえてきた。

 海自の現場担当者は「目の前で爆弾によって爆弾を爆発させるわけだから、常に死と隣り合わせ。危険な作業です」と説明した。実際、掃海作業で戦後79人が殉職している。

 ◆機雷除去7000個

 戦後日本の機雷除去の歴史は、自衛隊発足前までさかのぼる。太平洋戦争で日米双方が日本周辺にばらまいた約6万7千個の機雷を、戦後になって旧海軍の掃海部が米軍の指揮下で除去したのが始まりだ。すでにセンサーなどは反応しなくなっているが、日本周辺の機雷除去は現在も続いており、処分実績は約7千個にとどまる。

 朝鮮戦争が始まった1950年には占領軍の強い要請を受け、海上保安庁による「日本特別掃海隊」をひそかに編成し、朝鮮半島沖に派遣した。掃海艇1隻が機雷に触れて沈没、隊員1人が亡くなった。

 こうした「実戦」を積んだため、海自の技術は世界的にも高い水準にある。海自が保有する掃海艦艇は20隻を超える。安倍首相は「世界有数の規模と技術を持っている」と胸を張る。

 米軍が世界で自衛隊に掃海作業を期待するのは、自衛隊の技術に加え、「役割分担」の側面もある。米軍は地上戦や空爆などの戦闘正面を担当する。これまで多くの戦争で敷設されてきた機雷を後方で取り除く厄介な作業は、日本に肩代わりを求めるというわけだ。

 湾岸戦争後の91年に日本が行ったペルシャ湾での機雷除去が、まさにこれに当たる。自衛隊の初の海外派遣だった。

 ◆中東派遣、こだわる首相

 「ペルシャ湾における掃海活動から自衛隊の国際協力活動の歴史は始まった。緻密(ちみつ)さが要求される現場で高い士気と能力を見事に世界に示してくれた」

 安倍首相が今月22日の防衛大学校の卒業式で絶賛したのも、ペルシャ湾での機雷除去作業だった。

 これは91年、湾岸戦争の停戦が合意された後のことだった。停戦後の機雷除去なら、遺棄された「危険なごみ」の撤去と見なすことができる。当時の海部政権は、そんな論理で海自掃海艇の派遣を決めた。

 だが戦争中なら、海にまかれた機雷を取り除くのは、敷設と同じように武力行使と見なされ、相手国の攻撃対象になりえる。集団的自衛権の行使を認めなければ、自衛隊の派遣は不可能だ。そのため、湾岸戦争中の派遣は断念した。

 湾岸戦争で日本は多国籍軍に130億ドルもの大金を出し、停戦後には機雷除去もした。だが米国などの国際社会からは「少なすぎる、遅すぎる」と批判された。

 当時、安全保障に関わった日本政府関係者たちは強い衝撃を受けた。それがいまに至るまで政府内の「トラウマ」になっている。安倍政権で安保法制の中心になっている防衛官僚は「当時はあれもこれもできないことだらけで悔しかった」と振り返る。

 ◆湾岸トラウマ

 湾岸戦争のすぐ後に衆院に初当選した首相は、このトラウマを共有している。06年の著書「美しい国へ」では「お金の援助だけでは世界に評価されない」と主張した。首相は国会答弁などの公の場で、「ホルムズ海峡」の地名を何度もあげ、停戦前の機雷除去は必要とこだわった。

 日本から遠く離れた海外で、集団的自衛権を使った機雷除去は本当に可能なのか。公明党は「その可能性は極めて低い」(幹部)と首相に反論する。

 公明党には、集団的自衛権に基づく中東での機雷除去を認めれば、自衛隊派遣に地理的な歯止めがなくなり、世界中の紛争に際限なく派遣される、という危機感が強い。山口那津男代表は「単に『経済的な利益が損なわれる』ということだけではだめだ」と否定的な考えを崩さない。

 日本が輸入する石油資源の8割はペルシャ湾から来ている。仮にホルムズ海峡が機雷封鎖されれば、供給が止まる。ただ、国内には半年分の石油備蓄があり、中東以外から輸入する手段もある。

 自民、公明両党は20日の協議で、集団的自衛権の行使を認めることでは合意した。しかし、中東での機雷除去が可能かどうかは結論を出さなかった。首相と公明党が折り合えない最大の論点だ。 (今野忍)

    ◇

 安倍政権は与党の合意を受け、今国会に安保法制の関連法案を提出する予定だ。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改定作業にも入っている。その課題は何か。問題点はどこにあるのか。3回にわたり自衛隊や世界の安全保障の現場から考える。

 ◆キーワード

 <機雷> 機械水雷の略称。爆薬の入った容器を水面や水中に設置する。船が近づいたり、接触したりして、爆発すると、船体を損傷、沈没させる。1個数百万円で1千億円級の大型艦にダメージを与えられるので費用対効果が高いとされる。機雷には主に触発機雷と感応機雷がある。触発機雷は船が接触することによって爆発する。感応機雷は磁気や音響、水圧などに反応して爆発する。現代では、これらの機能を複合した機雷が主流だ。