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折々の記 2015 ④
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】05/01~ 【 02 】05/12~ 【 03 】05/14~
【 04 】05/16~ 【 05 】05/18~ 【 06 】05/25~
【 07 】05/26~ 【 08 】06/07~ 【 09 】06/08~
【 07 】05/26
05 25 異常気象が出現 インドで厳しい暑さ 500人以上死亡
06 05 安保法制、3学者全員「違憲」 憲法審査会で見解
06 06 世界金融は誰がどこで動かしているのか 株価市場の魔の手は誰がどこで動かしているのか
05 25 (月) インドで厳しい暑さ 500人以上死亡 異常気象が出現
異常気象が出現
自分たちが滅亡の一途をたどっているというのに、国際間の対応は他国の非を取り上げて自国の利益企業者の声を政治上に反映してCO2削減にきわめて消極的になっている。
その結果が、弱い人たちの生活に降りかかってきている。 45度Cの湯に浸かることを想像してみれば、屋外での長時間には耐えることができない。
異常気象の本性が牙をむき出しにしだした。
5月26日 4時38分 NHK
インドで厳しい暑さ 500人以上死亡
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150526/k10010091831000.html
インドではここ数日、全土で45度を超える厳しい暑さが続き、熱中症などでこれまでに500人以上が死亡しました。
インドはここ数日、激しい熱波に見舞われ、25日には最高気温が首都ニューデリーで45度5分まで上がったほか、東部では47度に達しました。さらに、南部のアンドラプラデシュ州とテランガナ州を中心に、熱中症や脱水症状による死者が相次ぎ、インド政府によりますと、路上生活者や体の弱ったお年寄り、それに建設労働者などこれまでに500人以上が死亡したということです。
各地の病院には、熱中症の患者が次々と運び込まれていますが、停電が頻繁に起きるためエアコンや扇風機が使えないことも多く、市民の間では不満が高まっています。
このためインド政府は、日中はできるだけ外出しないよう呼びかけているほか、暑さの厳しい地域に臨時の給水所を設けたり栄養価の高い乳製品を配ったりするなど、対応に追われています。
インドの気象当局によりますと、今回の熱波は少なくとも今週いっぱい続くということで、死者の数は今後さらに増えることが懸念されています。
06 05 (金) 安保法制、3学者全員「違憲」 憲法審査会で見解
戦争法反対の国民意識の潮流が動きはじまるきっかけとなる。
全世界が一次大戦、二次大戦の歴史を経て、同じ過ちを繰り返している。
多くの人々は、平和を唱えながらも
経済利益追求という共通本能に覆われて
団体利益を左右できる政治家や企業の
自己利益に基づくプロパガンダにダマサレ
第三次大戦へ向かっている
安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから
ここを開いていくつかのページを読むといろいろと参考になります
あの広島の戦争の悲惨を象徴する
あの ことば を忘れて
政治家や企業家の過ちに
日本はダマサレ始めた
「不戦条約」の解釈において条約の不備が云々され、その趣旨を中核にして改善することもせず、日本は満州事変をおこしている。 「ユネスコ憲章」の趣旨を国内政治の中核にしようとした施策の跡は見当たりません。 「平和憲法」の三本柱の趣旨が十分浸透しているのか、検証もしていない。 平和とは何でしょうか? 人と人との平和とは何でしょうか? 地域と地域の平和とは何でしょうか? 国とくにとの平和とは何でしょうか?
地球の気象異常への取り組みを国家間の利益不利益の議論に熱中して、世界の平和観からの取り組みに欠けるのは何故でしょうか? 仮想敵国をつくり上げて軍備拡張や軍事力増強を考えるのは何故でしょうか?
積極的平和主義という看板を掲げて、友好活動はそっちのけにして友好国との戦争協力法を作ろうとしているのは何故でしょうか?
中国や韓国から、一国の宰相の歴史認識がおかしいといわれるのは何故でしょうか?
戦争は何をもたらすのか、私たちは深く考えなくてはなりません。
原爆をゆるすまじ 浅田石二作詞・木下航二作曲
https://www.youtube.com/watch?v=xroNz1UNT4M
1 ふるさとの街焼かれ
身よりの骨埋めし焼土(やけつち)に
今は白い花咲く
ああ許すまじ原爆を
三度(みたび)許すまじ原爆を
われらの街に
2 ふるさとの海荒れて
黒き雨喜びの日はなく
今は舟に人もなし
ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を
われらの海に
3 ふるさとの空重く
黒き雲今日も大地おおい
今は空に陽もささず
ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を
われらの空に
4 はらからの絶え間なき
労働に築きあぐ富と幸
今はすべてついえ去らん
ああ許すまじ原爆を
三度許すまじ原爆を
世界の上に
原爆も中近東の戦争も戦争の結果残るのは、人が死ぬことと破壊しかないのです。 勝者も敗者も悲惨な姿しか残ることはないのです。
何故戦争が始まるのでしょうか?
戦争の仕掛人がいるからです。 戦争の仕掛人だけが、莫大な利益を得ているからです。 すべてはそこから始まっています。
① 安保法制、3学者全員「違憲」
② 戦争参加するなら「戦争法」
③ (社説)安保法制 違憲との疑義に答えよ社説
④ (連載・社説余滴)親米改憲と反米護憲
⑤ (70年目の首相 系譜:10)祖父批判への反発が原点
2015年6月5日05時00分 憲法審査会で見解(朝日新聞)
① 安保法制、3学者全員「違憲」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11791926.html
衆院憲法審査会で4日、自民党など各党の推薦で参考人招致された憲法学者3人が、集団的自衛権を行使可能にする新たな安全保障関連法案について、いずれも「憲法違反」との見解を示した。国会の場で法案の根幹に疑問が突きつけられたことで、政府・与党からは、今国会中の成立をめざす法案審議に影響を及ぼしかねないと、懸念する声が上がっている。▼4面=発言の詳細、18面=社説
参考人質疑に出席したのは、自民推薦の長谷部恭男・早大教授、民主党推薦の小林節・慶大名誉教授、維新の党推薦の笹田栄司・早大教授の3人。
憲法改正に慎重な立場の長谷部氏は、集団的自衛権の行使を認める安保関連法案について「憲法違反だ」とし、「個別的自衛権のみ許されるという(9条の)論理で、なぜ集団的自衛権が許されるのか」と批判。9条改正が持論の小林氏も「憲法9条2項で、海外で軍事活動する法的資格を与えられていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くのは9条違反だ」との見解を示した。笹田氏も、従来の政府による9条解釈が「ガラス細工と言えなくもない、ぎりぎりで保ってきた」との認識を示し、法案について「(これまでの定義を)踏み越えてしまっており違憲だ」と指摘した。
また、重要影響事態法案などで、米軍などを後方支援する自衛隊が「現に戦闘行為が行われている場所」以外なら活動できるとした点についても、小林氏らは「(武力行使との)一体化そのものだ」などと発言。3人とも違憲や違憲のおそれがあるとの認識を示した。
自民推薦も含む参考人から法案の違憲性を指摘されたことに、与党は今後の法案審議で「野党に追及の材料を与えてしまった」(自民国対幹部)と危機感を募らせる。菅義偉官房長官は4日の会見で「違憲という指摘は全くあたらない」と反論し、法案審議には影響がないと強調した。(渡辺哲哉)
この記事に関するニュース
戦争参加するなら「戦争法」 集団的自衛権「範囲不明確」 憲法審査会で学者指摘(6/5) 後掲
(社説)安保法制 違憲との疑義に答えよ(6/5) 後掲
自民、ビラ100万枚 中国の脅威を強調 安保法制(6/4)
(安全保障法制)安保審議、日程でも攻防 野党反発、特別委開かれず(6/4)
安保法制審議、野党欠席へ 特別委開催に反発(6/3)
(声)安保法制は性急、国民置き去り(5/29)
後方支援の範囲も論点 自衛隊の活動地域 安保法制(5/28)
2015年6月5日05時00分 憲法審査会で見解(朝日新聞)
② 戦争参加するなら「戦争法」
集団的自衛権「範囲不明確」 憲法審査会で学者指摘
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11791860.html
「集団的自衛権の行使は違憲」。4日の衆院憲法審査会に招かれた憲法学者3人は、安全保障関連法案に「レッドカード」を突きつけた。政府・与党内には、今後の衆院特別委員会の審議に冷や水を浴びせかねないとの見方が広がり、「委員会の存立危機事態だ」との声も出た。▼1面参照
この日の憲法審査会は本来、立憲主義や憲法制定過程を巡る議論について、各党推薦の専門家から意見を聴く参考人質疑だった。しかし、議論は衆院特別委で審議中の安保法案をめぐる議論に集中していった。
小林節・慶大名誉教授は、今の安保関連法案の本質について「国際法上の戦争に参加することになる以上は戦争法だ」と断じ、平和安全法制と名付けた安倍晋三首相や政府の姿勢を「平和だ、安全だ、レッテル貼りだ、失礼だと言う方が失礼だ」と痛烈に批判した。
憲法や安全保障についての考え方が異なる3人の参考人だが、そろって問題視したのは閣議決定で認めた集団的自衛権の行使。集団的自衛権は「違憲」との見方を示し、憲法改正手続きを無視した形で推し進める安倍政権の手法を批判した。
長谷部恭男・早大教授は、従来の政府解釈が個別的自衛権のみを認めてきた点を踏まえて「(閣議決定は)どこまで武力行使が許されるのかも不明確で、立憲主義にもとる」と批判した。
笹田栄司・早大教授は、内閣の判断で憲法解釈を変えることについて、戦前のドイツでナチスの台頭を許した「ワイマール(体制)のことを思う」と言及。専門の違憲審査の問題を踏まえて、憲法解釈については「少しクールに考える場所が必要」などと指摘した。
教授らは、新たな安保関連法案が、「戦闘現場」以外なら米軍などへの後方支援を拡充する点についても問題点を指摘した。
長谷部氏が「(憲法9条に抵触する他国との)武力行使の一体化が生ずるおそれは極めて高くなる」と発言。小林氏は、戦争への協力を銀行強盗を手伝うことにたとえて、こう皮肉った。
「一体化そのもの。長谷部先生が銀行強盗して、僕が車で送迎すれば、一緒に強盗したことになる」
■「安保法制審議に影響」 自民幹部
報道各社の世論調査では、安保法案に反対・慎重な意見が目立つ。憲法学者らの批判に、政府・与党は神経をとがらせる。
安保法案の与党協議をリードした公明党の北側一雄氏はこの日の審査会で「憲法9条でどこまで自衛の措置が許されるのか。突き詰めた議論をしてきた」などと反論。菅義偉官房長官も4日午後の記者会見で「『違憲じゃない』という憲法学者もいっぱいいる」などと火消しを図った。
だが小林氏は審査会後、「日本の憲法学者は何百人もいるが、(違憲ではないと言うのは)2、3人。(違憲とみるのが)学説上の常識であり、歴史的常識だ」と言い切った。
法案審議の序盤で出た「レッドカード」に、自民党内からは不安の声が次々と上がる。安保法案の特別委に加わる自民党中堅議員は「特別委にとっては重要影響事態どころか、存立危機事態だ」と心配する。
自民党幹部らは、安保法制の審議への影響について「タイミングが悪すぎる」「自分たちが呼んだ参考人がああいう発言をしたことの影響は非常に大きい」などと懸念。そもそも「なぜこんな時期に憲法審査会を開いたのか」(党幹部)と、矛先を与党の審査会メンバーに向ける声も出始めた。自民の船田元・審査会筆頭幹事は「(今回の質疑テーマは)立憲主義であり、多少問題が及ぶかなと思っていたが、後半の議論がほとんど安保法制になり、予想を超えたと思っている」と認めた。(笹川翔平、高橋健次郎)
2015年6月5日05時00分 社説(朝日新聞)
③ 安保法制 違憲との疑義に答えよ
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11791802.html
国会で審議中の安全保障関連法案について、国会に招かれた憲法学者3人がそろって「憲法違反だ」と断じた。
きのうの衆院憲法審査会。内閣が提出した法案の正当性に、専門家が根本的な疑義を突きつけた異例の質疑だった。
衆院の特別委員会では、自衛隊の新たなリスクなどが論点となっている。その前に、そもそも一連の法案が憲法に照らして認められるのか、原点の議論を尽くす必要性が改めて明確になった。
憲法審査会には、与野党の協議によって選ばれた長谷部恭男、笹田栄司の両早大教授と小林節慶大名誉教授が参考人として招かれた。もともとは違うテーマでの質疑が予定されていたが、民主党議員から「安保関連法案は憲法違反ではないか」との質問が出て、それぞれが違憲との見解を示した。
長谷部氏が問題にしたのは、「集団的自衛権の行使は認められない」という従来の政府の憲法解釈を変更し、行使を認めた昨年7月の閣議決定だ。
長谷部氏は「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない。法的な安定性を大きく揺るがす」と批判。笹田氏もまた「自民党政権と内閣法制局がつくってきた定義を踏み越えてしまっている」との見解を示した。
こうしたやりとりを受け、解釈変更の与党協議にあたった公明党の北側一雄氏は「9条に明確に書かれていない中、どこまで自衛の措置が許されるのか、突き詰めた議論をした」と理解を求めた。それでも、長谷部氏は「他国への攻撃に対し武力を行使するのは自衛というより他衛。そこまで憲法が認めているのかという議論を支えるのは難しい」と一蹴した。
一方、小林氏は自衛隊による他国軍への弾薬提供などについて、「後方支援というのは日本の特殊概念だ。要するに戦場に後ろから参戦する、前からはしないというだけの話だ」と指摘。その上で「露骨な戦争参加法案だ」と言い切った。
憲法や安全保障についての3人の考え方は、必ずしも近くない。その3人が、憲法改正手続きを無視した安倍内閣のやり方はおかしいという点で一致したことの意味は重い。
憲法学界からのこうした批判には「9条だけで国民は守れない」といった反論が必ずある。
だが、時代の変化に即した安全保障の手立ては必要だとしても、それが憲法を曲げていい理由には決してならない。法治国家として当然のことである。
2015年6月5日05時00分 連載:社説余滴(朝日新聞)
④ 親米改憲と反米護憲
村上太輝夫
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11791803.html
3週間前の本欄で、安倍首相の米議会演説にあった「幕末の日本が米国の民主政治と出会った」というくだりに疑問を呈した。当時の日本にとって米国はそんな存在ではなかったという趣旨だ。が、徳川政権の代表団が渡米し、米国政治を見聞した史実があるではないかと、先輩記者から指摘を受けた。確かにこの点、言及しなかったのは公正さを欠いた。
だが、日本が「近代化を始めてこのかた」、リンカーンの言葉を「民主政治の基礎」としてきたという演説内容は誇張にすぎるし、そこまで言うのなら、米国との濃密な接触の産物である日本国憲法を持ち出さないのはなおさらおかしい。
もちろん、それは安倍首相自身が改憲を志向するからなのだろうと見当はつく。
その上で、もう少し考えてみた。実は別の重い指摘を友人から受けた。「親米改憲」を批判するだけで済むのか、「反米護憲」もあるではないかと。
このねじれが生じたのは、米国が憲法を「押しつけた」から、というだけでは説明しきれない。米国が日本において安全保障上の要請を優先させるようになったからこそ、事態がややこしくなった。朝鮮戦争と前後して「軍国主義者」の追放が解除され、逆にレッドパージが進行した。
日本はましなほうだったかもしれない。米国は、価値観で相いれないはずの韓国、台湾の独裁政権を「反共」の名のもとに長く支持した。
対外的な緊張は国内での抑圧と手を携える。中国の軍事的台頭が現実となりつつあるいま、日本で親米改憲が勢いづくことに必然性のようなものを感じる。
自民党が3年前に発表した憲法改正草案は、第9条の2に「国防軍」を明確に規定する一方、人権に関する条文では「公益及び公の秩序に反しないように」と制限を設けている。
この部分が中国の現行憲法と似ているとは、かねて指摘されているところだ。中国は言論の自由や学問の自由を憲法に定めておきながら、政権批判を容赦なく処罰する、という周知の現実がある。
このまま改憲が実現するとは考えたくない。ただ政権・自民党によるメディアや大学への圧力を見る限り、取り越し苦労とも言えない。中国の脅威を口実に、日本国内を中国のように圧迫しては元も子もないと思うのだが。(むらかみたきお 国際社説担当)
2015年6月5日05時00分 (70年目の首相 系譜:10)(朝日新聞)
⑤ 祖父批判への反発が原点
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11791857.html?ref=pcviewpage
安倍晋三(60)は1954年9月、安倍晋太郎、洋子(86)夫婦の次男として東京で生まれる。父・晋太郎は国会議員として地元山口と東京を行き来する日々に追われ、都内に住む安倍は、父親が不在がちの幼少期を過ごした。
「僕はいつも山口に帰ってうちにいないから、頼むよ。勉強だけではなく、たまには遊び相手にもなってやってくれ」
東大1年生だった平沢勝栄(69)=現衆院議員=は、初めて会った晋太郎からこう言われた。大学の掲示板に貼られていた家庭教師のアルバイト募集のチラシを見て応募し、安倍邸を訪れたときのことだ。
この時、平沢は晋太郎が政治家であることを知らなかった。しかし、家庭教師の仕事のあと、ときおり洋子と食事をしながら話を聞くうち、政治家一族であることを知る。
安倍は当時、小学4年生。晋太郎と洋子の許可を得た平沢は、東大駒場キャンパスの学園祭を始め、平沢の故郷である岐阜に泊まりがけの釣り旅行などに安倍を連れて行った。
安倍にとって、不在がちの父晋太郎の代わりに、祖父の岸信介の方が身近な存在だったようだ。安倍と親しい元金融担当相の山本有二(63)は安倍から幼少期のこんなエピソードを聞いたことがある。
「祖父がよく自宅にきて、私に色々話をしてくれました。東京裁判のこと、インドのパル判事のこと。ひざの上でね」
安倍は小学校から大学まで成蹊で学ぶ。同級生の印象では、安倍は「安倍晋太郎の息子」より、「岸信介元首相の孫」だった。
高校時代の同級生、金子浩之(60)は「安倍晋ちゃんからは、『おじいちゃんから聞いた話』をよく聞いた。だけど、晋太郎さんの話は聞いた記憶がない」と振り返る。岸の自宅に安倍はたびたび遊びに行った。
同級生にとって、安倍はどちらかと言えばおとなしい生徒だったという。しかし、そんな安倍が自分から積極的に発言する時があった。
「先生、そうじゃありません!」
安倍が高校1年生のときだ。倫理社会の授業で担当教諭が、岸の安保改定を批判すると、すかさず反論し、必要性を主張した。
同級生の大島英美(60)は「安保が話題になるたび、まるで人が変わる感じ。こんな安倍君がいるんだ、と思った」と語る。
安倍は金子に「50年経ったら、安保改定は必ず評価されるはずなんだ」と漏らした。
安倍は自著「美しい国へ」で、こう記す。
「『お前のじいさんは、A級戦犯の容疑者じゃないか』といわれることもあったので、その反発から、『保守』という言葉に、逆に親近感をおぼえたのかもしれない」
大島が安倍に「おじいちゃんってどんな人?」と聞くと、安倍がこう答えたのを覚えている。
「おじいちゃんをみんな『悪い人』『怖い人』というけど、本当はいい人なんだ」=敬称略
◇
次回は、岸氏とは異なる戦争体験をした晋太郎氏の思いに迫ります。(石井潤一郎)
70年目の首相を理解しておくこと
(Google検索:安倍首相先祖)安倍晋三首相の家系図が凄すぎ!天皇と親戚、麻生太郎と親戚
(70年目の首相 系譜:11)特攻志願の父「誤った戦争」 2015年6月6日(関根慎一)
(70年目の首相 系譜:10)祖父批判への反発が原点 2015年6月5日(石井潤一郎)
(70年目の首相 系譜:9)岸より安倍、父はこだわった 2015年6月4日
(70年目の首相 系譜:8)非戦唱えた、もう一人の祖父 2015年6月3日
(70年目の首相 系譜:7)米との距離感、祖父と異質 2015年5月30日
(70年目の首相 系譜:6)安保闘争、くじかれた改憲 2015年5月29日
(70年目の首相 系譜:5)改憲戦略、まずは安保改定 2015年5月27日
(70年目の首相 系譜:4)自民結党、改憲が「党是」に 2015年5月26日
(70年目の首相)「満州国」岸元首相の原点 産業開発進め、国家統制を主導 2015年5月20日
(70年目の首相 系譜:3)占領政策に憤り、改憲論者へ 2015年5月23日
(70年目の首相 系譜:2)若者が支持、追放解け国政へ 2015年5月22日
(70年目の首相 系譜:1)獄中、岸氏「東京裁判は偏見」 2015年5月21日
06 07 (日) 世界金融は誰がどこで動かしているのか 田中宇の世界情勢分析
生活の安定は、人々の自由と平等が保障される経済政策にある。
ことに根幹になってくるのは金融政策にあるといってもいい。
日本やアメリカ、中国やロシア、EUやイギリス、これらの国の経済政策・金融政策は誰がどこで動かしているのか?
これが問題である。
バブル崩壊は、どのように仕組まれ誰がどこで動かしているのか?
ドルの崩壊は、どのように仕組まれ誰がどこで動かしているのか?
庶民はみな、この魔の手から逃れることはできないのか?
田中宇の情報網の分析からは解答の糸口は見えてこないものか?
情報操作というプロパガンダの魔の手を壊滅する手立てはないのか?
田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
①わざとイスラム国に負ける米軍
【2015年6月4日】 軍産イスラエルは、ISISと戦うふりをして支援したりわざと負けたりすることで、ISISがアサドを倒してシリアを恒久内戦に陥れ、イスラエルの仇敵であるレバノンのヒズボラを弱体化し、イラクで東進するISISがイランに戦いを挑む構図を作りたい。ISISがアサドを倒して中東をイスラエル好みにさらに混乱させるのか、中露がイランを支援強化してアサドを守るのか、世界の覇権構造の転換と相まって、中東は分岐点にいる。
②◆南シナ海の米中対決の行方 後掲
【2015年6月1日】 ASEAN諸国は、米国にけしかけられても中国敵視を強めたがらない。中国はAIIBやシルクロード構想で、ASEAN諸国のインフラ整備への投資を増額している。アジアの貿易決済で最も良く使われている通貨は、いまや人民元だ(シェア31%、円は23%)。この3年間でアジアの人民元の国際利用は3倍になり、日本円を抜いてアジアの国際決済で最も使われている通貨になっている。中国のアジアでの経済覇権の拡大が、今後さらに強まることはほぼ確実だ。南シナ海紛争で、ASEANが団結して中国と対決することは、今後ますますなくなるだろう。ASEANをけしかけて中国と対決させたい米国の策略は、すでに破綻している。
③◆米露対決の場になるマケドニア 後掲
【2015年5月26日】 米国勢が扇動するマケドニアの政権転覆策は、米国と露中との地政学的な陣取り合戦を超えた、バルカン諸国を民族間の殺し合いや政治混乱に陥れる危険をはらんでいる。諸民族が殺し合った98年のコソボ紛争の再燃があり得る。マケドニアの混乱に乗じて、アルバニアの首相が「いずれコソボを併合する」と大アルバニア主義を示唆する発言を放ち、セルビアが猛反発し、EUはうろたえている。
④◆超金融緩和の長期化 後掲
【2015年5月23日】 QEなどでゼロ金利状態が続くと、預金と融資の金利差で儲けてきた銀行業全体が薄利となり、経営が行き詰まる。今の超緩和策を縮小すると「タントラム」で金融危機が起きて銀行が「突然死」的に潰れるが、超緩和策を持続すると、銀行を経営難によって業界ごと「緩慢な死」に追いやることになる。
⑤米サウジ戦争としての原油安の長期化
【2015年5月19日】 米国のシェール革命が進展し、米国と同盟諸国がサウジの石油を必要としなくなると、サウジにおける王室の権威の低下を引き起こし、米右派が歓喜するサウド家の転覆につながりかねない。サウド家は、全力でそれを阻止する必要がある。シェールの石油ガス田の多くは、数年で枯渇する。シェール産業は、常に油井を掘り続けねばならず、巨額の投資を必要とする。低金利の金融環境と、原油価格の高止まりの両方の永続を必須とし、かなり基盤が脆弱だ。サウド家はこの点に着目し、サウジがOPECを率いて増産し原油相場の超安値を続ければシェール産業は赤字になり、投資がこなくなって潰れ、サウド家の脅威になるシェール革命も終わると考えたのだろう。
⑥◆負けるためにやる露中イランとの新冷戦 後掲
【2015年5月17日】 事態は、米国が同盟国を率いて露中イランを封じ込める新冷戦体制の成功に向かっていない。数年前なら、まだ露中イランが弱かったので、新冷戦体制が組みやすかったが、米国は露中イランの優勢が増した今のタイミングをわざわざ選んで、新冷戦体制を構築している。米国はあまりに馬鹿だ。意図的に馬鹿をやっている。新冷戦体制は、失敗することを予定して開始された、隠れ多極主義の戦略だろう。
⑦◆国内の反乱を煽る米政府
【2015年5月13日】 金融危機の再燃と、その後の社会混乱や暴動、内戦化が予測され、米連邦当局や米中枢の人々自身が社会混乱と暴動を扇動している観がある中で、もともと連邦当局に対する不満が大きく、社会が混乱するなら銃をとって自衛しようと考えてきた共和党の草の根右派の人々が多いテキサス州に対し、国防総省が今夏、軍事訓練と称し、テキサスを敵陣に見立てて特殊部隊を送り込む。これがテキサスの右派の人々に対する扇動策でないなら、何であろうか。
2015年6月1日 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
②◆南シナ海の米中対決の行方
http://tanakanews.com/150601china.php
昨年来、中国が、領有権を主張する南シナ海(南沙群島)の数カ所の珊瑚礁で、浅瀬の海面を埋め立て、軍用の滑走路や管制塔、埠頭、宿舎、灯台などの施設を急いで作っている。これらの珊瑚礁は、フィリピンやベトナムなども領有権を主張している。中国とASEANは2002年、南シナ海の珊瑚礁や岩礁の現状を勝手に変更することを禁じた行動規範の協約を締結している。中国の行為は協約違反であり、フィリピンやベトナムが中国を非難し、それに便乗して米国が中国との敵対を強め、日本が軍事拡大(対米従属強化)の材料としてこの紛争を使っている。 (US Won't Buy China's Pitch on South China Sea Land Reclamation)
南沙群島、西沙群島など、南シナ海の島や岩礁類は、日本が植民地を拡大した1930年代に占領し、当時日本の一部だった台湾の傘下の行政区になった。戦後、台湾が中国(中華民国)に返還されたため、中華民国と中華人民共和国が南沙群島などに対する領有権を主張した。同時にフィリピンやベトナムなども、一部の島や岩礁への領有権を主張し、領土紛争となった。中国は、ベトナム戦争後ベトナムから一部の島々を奪い、冷戦後に米軍がフィリピンから撤退した後にフィリピンから一部の島々を奪うといった、米国の撤退に便乗する島の強奪を続けたが、その動きは緩慢だった。 (Territorial disputes in the South China Sea - Wikipedia) (南シナ海で中国敵視を煽る米国)
中国が一転して南シナ海に対する実効支配の動きを強めたのは、2011年に米オバマ政権が、フィリピンやベトナムを支持して南シナ海の紛争に介入することを「アジア重視策」という名の中国包囲網策として始めてからだ。08年のリーマン危機後、米国の強さの大黒柱だった債券金融システムの凍結状態が続き、米国の覇権衰退がしだいに顕著になる中で、13年からの習近平政権は、天安門事件(1989年)後にトウ小平が定めた「米国の挑発に乗らず、国際的に慎重に行動する」という基本戦略(24字箴言)から静かに離脱し、南シナ海問題で米国から挑発されると、沈黙せず、強い態度で反応するようになった。 (中国軍を怒らせる米国の戦略) (多極化の進展と中国)
中国は13年12月、初めて建造した空母「遼寧」を南シナ海に差し向け、軍事演習を行った。これを知った米軍が、挑発行為として、遼寧の近くに巡洋艦(USS Cowpens)を差し向け、演習の邪魔なので立ち退けと迫った中国軍に対し、ここは公海上なので航行の自由があると米軍が拒否し、軍艦どうしの洋上の小競り合いが起きている。この事件は、好戦的な米国と、売られた喧嘩を買うようになった中国とが対決する南シナ海紛争の新たな構図を象徴するものとなった。 (How the US Lost the South China Sea Standoff)
14年4月、オバマ大統領が日本などアジア諸国を歴訪し、マレーシアやフィリピンに対し、米国が南シナ海で中国の強硬策に毅然とした態度で臨むことを約束すると、その後中国はベトナム沖の南シナ海の紛争海域に海底油田掘削設備を設置し、米国がベトナムのために中国を非難しても無視して、米国が口頭での非難以上の対中制裁をやれないこと、米国の中国包囲網が張り子の虎であることを世界に暴露する策略を打った。 (U.S. Gambit Risks Conflict With China)
フィリピンは、財政難で軍事力が弱く、現場における紛争で中国軍に負け、南シナ海の6つの珊瑚礁を中国に奪われている。米国はフィリピンを支持しているが、大した軍事支援をしていない。米国はむしろフィリピンが軍事以外の方法で南シナ海紛争を戦うことを望み、フィリピンは13年1月、南シナ海での中国の領有権の主張は無効であるとして、国連海洋法条約に基づく国連の仲裁裁判所で中国を提訴した。 (Philippines v. China - Wikipedia)
フィリピンの言い分は、南沙群島で中国が軍を置いて実効支配している数カ所の珊瑚礁が、一般住民が生活する島でないので海洋法に基づく領有権を主張できず、南シナ海は中国大陸から続く大陸棚であるという中国の主張も無効で、南沙群島は地理的に近いフィリピンのものだと言っている。中国は、この法廷への参加を拒否している。その一方で中国は、フィリピンの提訴後、この裁判で俎上にのぼった数カ所の珊瑚礁の海水面を埋め立て、人が住める島に改造する動きを開始した。珊瑚礁は領土として認められないが、埋め立てて島にして国民を住まわせれば領土として認められるはず、というのが中国の狙いだ。 (China's island-building spree is about more than just military might)
中国は14年2月ごろから、南沙群島の数カ所の珊瑚礁での埋め立て工事を本格化した。フィリピン提訴の国際法廷は2016年に裁定を出す見通しで、中国はそれまでに珊瑚礁を埋め立て、滑走路や埠頭、居住区などを作り、島としての体裁を整えようと急いでいる。海洋法条約は、埋め立てで作られた島を領土にすることを認めていないが、前例のない国際裁判なので、どんな裁定が出るかまだわからない。今年7月に初めての審問(hearing)が行われる予定だ。海洋法条約の規定で、中国が欠席したままなら、どんな裁定が出ても中国は拘束されず、フィリピンだけが裁定に拘束される。 (China advances with Johnson South Reef construction) (South China Sea: Turning Reefs Into Artificial Islands? - Analysis) (Int. Law could Kill China's Claims in the South China Sea)
中国は埋め立てを隠密に開始したので、14年初めの開始から数カ月、国際的な注目を集めなかった。14年秋にBBCがフィリピン側から現場近くに船を入れて報道し、中国の埋め立て行為が国際問題化した。南シナ海では、中国より先にベトナムが珊瑚礁を埋め立てて島を作っているが、中国の場合、7つの珊瑚礁(Fiery Cross Reef, Hughes Reef, Mischief Reef, Subi Reef, Cuarteron Reef, Gaven Reef, Johnson South Reef)で同時に埋め立てを行っており、規模がベトナムよりはるかに広大だ。 (China's Island Factory) (Images show Vietnam's South China Sea land reclamation) (Why Is China Building Islands in the South China Sea?)
中国が埋め立てた島には、軍隊や兵器も置かれている。3つの島では滑走路も作られ、南シナ海での中国の不沈空母として機能するようになっている。米軍は近年、太平洋に海軍力を結集しており、中国軍は劣勢だ。だが、埋め立てた島が中国の新たな軍事力になり、従来は米軍が大してリスクを感じずに南シナ海に入ってこれたのが、今後しだいに米軍が軽々に立ち入れる海域でなくなる。中国は南シナ海で、米国に対する抑止力を強化している。そのきっかけが、米国自身の中国包囲網策だった点が重要だ。 (South China Sea reclamation a 'test of will' for Beijing: commentary) (中国の台頭を誘発する包囲網) (China has artillery vehicles on artificial island in South China Sea, US said)
フィリピンは、自国領にしている南沙群島のパグアサ島(Thitu)に、雇用や教育を保障しつつ百人あまりの住民を住まわせ、国際法上の「島」としての地位を確保している。同様に中国は、埋め立てた島に住民を住まわせ「島」の体裁を整えていくかもしれない。中国は、埋め立てた島を正式な「国土」として主張し、その上空に防空識別圏を設定することを目論んでいるとも推測されている。 (Thitu Island - Wikipedia) (China raises prospect of South China Sea air defence zone)
中国は13年11月、日本近傍の尖閣諸島を含む東シナ海を防空識別圏に設定した。米国は反発し、当初挑発行為として米軍機を中国の識別圏内に飛ばした。だがその後、対中国路線を失いたくない米航空業界に圧力をかけられると、オバマ政権は腰くだけとなり、一転して中国の識別圏を容認し、その後は米軍機が中国の識別圏に入る挑発行為も行われていない。 (頼れなくなる米国との同盟) (米国にはしごを外されそうな日本)
中国が南シナ海を防空識別圏に設定すると、米軍機が勝手に南シナ海の空域に入れなくなる。米軍はすでに、中国が南シナ海に識別圏を設定したら挑発行為を行うべく、偵察機などの配備を開始している。しかし東シナ海での識別圏設定時の米国の腰くだけ的な対応から類推すると、米国がどこまで本気で中国と軍事対決するのか疑問が湧く。 (Calls to Punish China Grow) (Pentagon Sends Drone Patrol to Challenge China)
中国が、東シナ海と南シナ海に防空識別圏を設定して米国がそれを黙認し、台湾海峡や黄海にも米軍艦が入ってこない状況が続くと、それは事実上、中国が、九州沖縄沖から台湾の東側を通って南シナ海に至る「第1列島線」の西側を、自国の排他的な影響圏をとして確保し、米国がそれを認めるという、東アジアの新たな地政学的な状況が生まれることになる。以前、米中関係が協調的だった2010年ごろ、米中間で第1と第2の列島線について話し合われ「米国は第2列島線まで影響圏を退却し、中国は第1列島線まで影響圏を拡大する」という構想が描かれたことがあるが、それから5年経って、今度は協調体制の中でなく、敵対体制の中で、2つの列島線による米中の住み分けが隠然と実現しつつある。 (中国包囲網の虚実) (第1、第2列島線の地図)
今春以降、中国による珊瑚礁埋め立てが完成に近づくとともに、米国が再び挑発を強めている。5月20日、米海軍が、偵察機(対潜哨戒機P8-A)にCNNのテレビ撮影隊を乗せて、南シナ海の中国が海面を埋め立てて滑走路などを造成しているフィアリークロス珊瑚礁(Fiery Cross Reef、永暑礁)の近くを飛行した。CNNは中国を非難する内容の報道を行い、中国政府は米国を非難した。 (Exclusive: China warns U.S. surveillance plane) (US military flight over South China Sea escalates tensions)
5月25日には、中国共産党の機関紙である人民日報が出す英語版の「環球時報」に、米国が南シナ海での中国の建設事業(埋め立て)に反対することをやめない場合、米中の戦争が不可避になると警告する記事が掲載された。「中国は米国との戦争を望まないが、米国がやるというなら受けて立つ」といった強気の記事だ。 (Experts warn of military conflicts in S.China Sea) (US-China war 'inevitable' unless Washington drops demands over South China Sea) (Asia Scholar Lays Out "Three Ways China And The US Could Go To War")
5月26日には、中国政府が国防白書を発表した。地上より海上の防衛を重視し、日本の軍事拡張などに呼応するかたちで、中国軍の態勢を、領土が攻撃された場合のみを想定する専守防衛から、南シナ海の状況に介入してくる潜在敵(つまり米国)を公海上で防衛することまで拡大する策が盛り込まれていた。 (White Papers : China's Military Strategy) (China to extend military reach, build lighthouses in disputed waters) (White Paper Outlines China's Ambitions)
5月30日には、シンガポールで行われている年次の国際安保会議「シャングリラ会合」で米国のカーター国防長官が演説し、中国による南シナ海の珊瑚礁埋め立てについて「軍事対立を扇動している」「地域の安定を崩す」と非難し、米軍は中国との敵対の激化をいとわないと表明した。カーターは、米政府が4億ドルあまりの資金を出し、東南アジア諸国の海洋防衛力の強化に協力する計画(Southeast Asia Maritime Security Initiative)を発表した。国際会議の場で、米国が中国の埋め立て行為を非難したのはこれが初めてで、米中対立に拍車がかかっている。 (Defense Chiefs Clash Over South China Sea) (Carter Announces $425M In Pacific Partnership Funding) (US defence secretary challenges China at Singapore security forum)
米軍は、中国が埋め立てをやめないなら南シナ海での偵察や警戒行動をさらに強化し、中国側との衝突も辞さないとする態度をとっている。中国は、埋め立てをやめるつもりはない、米国が軍事衝突も辞さないというなら受けて立つと言っている。いよいよ米中が南シナ海で戦闘し、第三次世界大戦になる、といった感じの分析が、世界的に出回り始めている。 (U.S. vows to continue patrols after China warns spy plane) (Pentagon chief warns China over South China Sea islands) (George Soros Warns "No Exaggeration" That China-US On "Threshold Of World War 3")
しかし、米政府の主張をよく見ると、米国自身が中国との対立激化を受けて立つのでなく、南シナ海の紛争で中国と対立する位置にある東南アジアの関係諸国をけしかけて、米国の同盟相手であるASEANを中国敵視で団結させることで、米国側と中国との対立の構造にしようとしている。そしてASEANは、中国を敵視しろと米国にけしかけられて困惑している。ASEAN諸国にとって中国は最大の貿易相手で、今後ますます中国への経済依存が強まりそうだからだ。 (U.S. hopes Chinese island-building will spur Asian response)
米軍は以前から、ASEAN諸国に対し、南シナ海の洋上警備を各国の軍隊や警備隊が別々にやるのでなく、いくつかの諸国で合同組織を編成し、ASEAN合同で南シナ海を防衛するよう求めている。ASEANの中のマレーシア、シンガポール、インドネシアは以前から、マラッカ海峡周辺でよく出没する海賊を退治するための合同軍を結成し、運用している。その組織の警備対象を、マラッカ海峡周辺から南シナ海に拡大すれば、ASEANが合同で南シナ海を警備する態勢ができる。それを早く進めろと、米国はASEANをけしかけている。 (U.S. Navy Urges Southeast Asian Patrols of South China Sea) (ASEAN Joint Patrols in the South China Sea?)
しかしASEANの側は、対米従属性が強いフィリピンを除き、合同軍を作って南シナ海を防衛する態勢をとることに消極的だ。その理由は、中国がそれに猛反対してきたからだ。中国は、南シナ海の紛争解決の枠組みを「中国対ASEAN」でなく「中国対各国(2国間交渉)」でやりたい。ASEANが団結して中国と交渉することになると、各国がばらばらに中国と2国間交渉する場合よりも、東南アジア側の交渉力が強くなり、中国に不利になる。そのため、中国はASEAN内部の政治的な確執を最大限利用して、南シナ海問題でASEANが団結しないよう画策してきた。
ASEANの中でもタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーは南シナ海で領有権を主張しておらず、この紛争に関係ない。中国は、これらの国々への経済支援を手厚くすることで、これらの国々が南シナ海問題を議論するASEANの会議で中国に配慮した言動を取るよう仕向けている。4月下旬、ASEANはサミットで南シナ海問題を議論し、フィリピンなどが中国の珊瑚礁埋め立てを非難する決議を提案したが、可決できなかった。議長国のマレーシアが、中国をやんわりと批判する文書をまとめ、それを声明文として発表して終わった。 (Paradigm Shift Needed In ASEAN's Approach To South China Sea Dispute - Analysis) (Chinese island-building in South China Sea 'may undermine peace', says Asean)
このようにASEAN諸国は、米国にけしかけられても中国敵視を強めたがらない。中国はAIIB(アジアインフラ開発銀行)やシルクロード構想(一帯一路)で、ASEAN諸国のインフラ整備への投資を増額している。アジアの貿易決済で最も良く使われている通貨は、いまや人民元だ(シェア31%、円は23%)。この3年間でアジアの人民元の国際利用は3倍になり、日本円を抜いてアジアの国際決済で最も使われている通貨になっている。こうした中国のアジアでの経済覇権の拡大が、今後さらに強まることはほぼ確実だ。南シナ海紛争で、ASEANが団結して中国と対決することは、今後ますますなくなるだろう。ASEANをけしかけて中国と対決させたい米国の策略は、すでに破綻している。 (Renminbi tops currency usage table for China's trade with Asia)
シンガポールのストレートタイムスは最近「中国自身が埋め立てをやめる気にならない限り、もう中国による珊瑚礁の埋め立てを止めることはできない」と、あきらめた感じの記事を載せている。中国人(華人)の独裁都市国であるシンガポールは、地政学的な位置を利用して米国の同盟国であり続け、毎年中国包囲網が語られる前出のシャングリラ会合などを主催する一方で、中国との良好な関係を保つ、絶妙なバランスの国家戦略をとり、成功している。そのシンガポールの新聞が、南シナ海での中国の影響力拡大に反対しても無駄だという論調を載せている。南シナ海で中国との敵視をあおる米国の戦略は、失敗に終わるだろう。おそらく米国の上層部は、失敗に終わるとわかったうえで中国敵視策を続けている。 (Too late for any US strategy to stop China reclamation in South China Sea: Analyst) (米国覇権の衰退を早める中露敵視) (中国の台頭を誘発する包囲網)
世界的に見て、倫理的にも、米国が中国を非難できる状況でなくなっている。第二次大戦後、米国は「正義」を掲げて覇権を行使してきたが、大量破壊兵器のウソに基づくイラク侵攻、濡れ衣のイラン核問題、政権転覆を煽った末に起こしたウクライナ危機など、近年の米国は、口だけ正義を振りかざして実のところ国際法違反を繰り返す「悪」に成り下がっている。中国が、ASEANとの協約を破って珊瑚礁を埋め立てるのは、それぐらいの「悪」をやって米国から非難されても、世界は「しかし米国も悪だよね」と考えて中国批判を弱めると考えているからだろう。 http://thediplomat.com/2013/12/how-the-us-lost-the-south-china-sea-standoff/(South China Sea disputes of Atlantic World's making: Lawyer)
南シナ海をめぐる最近の米国の中国敵視策でけしかけられている国はASEANだけでない。わが日本も、米国からの提案を受け、南シナ海紛争に首を突っ込むようになっている。日本は、フィリピンを軍事的に加勢する戦略を進めている。フィリピンと日本で合同軍事演習をやったり、フィリピンの空港や港湾に日本の自衛隊が寄航できるようにする協約の整備が行われている。その一環で、6月中にアキノ大統領が訪日する。日本はまた、7月にオーストラリアで行われる中国包囲網の一環としての米豪軍事演習に、初めて40人の自衛隊員を参加させる。自衛隊は、豪州軍とでなく、米海兵隊とだけ一緒に演習する予定で、日本の国家目標があくまでも対米従属にあることを示している。 (Japan, Philippines Hold Joint Naval Drills in South China Sea) (Japan, Philippines to deepen defense ties when leaders meet next week) (Japan to participate in Australia-US Talisman Sabre military drill for first time) (Japan joins US-Australian military exercise in July for first time)
日米は、合同で南シナ海の防空警備活動を行うことも検討している。日本が南シナ海の紛争に軍事的に首を突っ込む話は、4月末の安倍首相の訪米の前後から急に実現した。日本が南シナ海で中国との紛争に首を突っ込むことが、安倍が訪米して米政界から賛美されることの、一つの見返り・対価だったことが感じられる。 (Japan considering joint US air patrols in South China Sea :Cources) (多極化への捨て駒にされる日本)
これで、米国主導の南シナ海での中国との敵対策が、米国側に有利なかたちで進んでいるなら、日本が平和憲法を振り捨てて南シナ海の軍事紛争に首を突っ込むことに意味があるかもしれない。しかし、すでに述べたように、ASEANは米国の中国敵視策を迷惑と思う方向に進んでいる。米ハーバード大の学者(Graham Allison)は「米中大戦を避けるため、米国が南シナ海などアジア地域での覇権を中国に譲渡するしかない」とまで言い出している。米国が覇権国であり続けることが、世界を不安定化している。 (The US and China can avoid a collision course - if the US gives up its empire)
いずれ、米国が中国に大幅譲歩する可能性が高くなっている。その際、日本は間違いなく置いてきぼりにされ、国家戦略の失敗に直面する。日本では最近、シンガポールを戦略的なお手本にする風潮のようだが、すでに述べたように、シンガポールは米国と同盟しながら親中国を貫くバランス戦略を成功させている。バランスを欠いた対米従属一辺倒しか国策がなく、世界の多極化も見ず、米国が負けるつもりでやっている中国敵視策に嬉々として巻き込まれている日本は、まったく大間抜けだ。日本外務省や安倍政権は、せめて「中国人の独裁国」シンガポールを見習ってほしい。
2015年5月26日 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
③◆米露対決の場になるマケドニア
http://tanakanews.com/150526macedonia.php
東欧バルカン半島の小国マケドニアが、新たな米露対決の場になっている。米国の国務省や投資家ジョージ・ソロスなどが、マケドニアの親露政権を倒そうとする野党の反政府運動を支援し、首都スコピエなどで、反政府派と親政府派の群衆が対立している。マケドニア国民の3割は、隣国であるアルバニアやコソボと同じアルバニア系で、彼らはマケドニアの混乱に乗じて分離独立し、アルバニアに統合して「大アルバニア」を建国しようとしている。 (The Destabilization of Macedonia? Greater Albania and the Process of "Kosovization")
コソボのアルバニア系の軍事勢力KLAがマケドニアに越境侵攻し、マケドニアの治安部隊と交戦になっている。マケドニアの野党がKLAの軍事支援を受け、5月18日に、クーデターを計画していたが、事前にマケドニア当局の知るところとなり、阻止された。KLAは、98年のコソボ紛争の際、米英軍に訓練されて強くなった。今回のマケドニア危機は、04年からのウクライナ危機の構図(米露対決)と、98年のコソボ危機の構図(米軍産が欧州周縁部を不安定化する)の両方を受け継ぎ、米露対決の新たな展開になっている。 (Failure Of The US Coup D'Etat In Macedonia - Thierry Meyssan)
マケドニアの混乱のきっかけは今年2月、野党のSDSM(民主社会同盟)の党首ゾラン・ザエフ(Zoran Zaev)が、グルエフスキ首相や政府高官らの電話の会話の録音を次々と発表したことだ。電話の会話は、グルエフスキ政権がマスコミや野党に圧力をかけるものや、選挙不正の相談とおぼしきもので、いくつものスキャンダルの種になりうる内容だった。その後、野党主導の反政府運動が強まり、5月中旬にはスコピエなどで5万-10万人規模の反政府デモが行われた。対抗して政府支持者による30万人規模のデモも行われ、騒然とした事態になっている(マケドニアの人口は200万人)。 (Fears for Macedonia's fragile democracy amid 'coup' and wiretap claims 27 February 2015)
グルエフスキ首相は、公開された同首相の電話会話とされる録音が、確かに自分の声であると認めたが、録音が切り貼りで編集され、会話の内容が歪曲されていると抗弁している。問題は、野党がどこからこの録音を入手したかだ。野党のザエフは、2万の電話番号から発信された合計67万件の会話の録音ファイルを持っていると公言している。 (Macedonia: massive protest amid astonishing wire-tap scandal)
このような広範な電話盗聴ができるのは、マケドニア当局よりも、米国のNSAなどの諜報機関か、米国から頼まれたドイツの諜報機関ぐらいしかない。ドイツは、ウクライナで米国の好戦策につき合って懲りたので、今の時期に欧州でこの手の混乱を起こしたくないはずだから、首相ら政府高官の電話を盗聴し、その録音を野党に渡したのは米当局の可能性が最も大きい。 (The Color Revolution in Macedonia Is Underway)
野党のSDSMや党首のザエフは、ジョージ・ソロスの「オープンソサエティ協会(OSI)」から資金をもらっている。ロシアを敵視するソロスのOSIは、冷戦終結前後から、旧ソ連・東欧諸国の民主化運動を支援し、旧ソ連東欧諸国の民主的に選出された親露的な政権を、その国の民主化運動の市民団体が反政府運動を起こして転覆する「カラー革命」を、ウクライナ、グルジア、ベラルーシ、セルビアなどで支援してきた。 (コーカサス安定化作戦) (ウクライナ民主主義の戦いのウソ)
OSIは、1991年にマケドニアが旧ユーゴスラビアから独立した直後から、マケドニアで活動し、野党の政治家などを支援してきた。マケドニアのテレビ局であるテルマ(Telma)や24ベスチ(24 Vesti)も、マケドニアの民主化に貢献しているとして、OSIから資金援助を受けている。これらのテレビ局は今回、反政府運動を積極的に支援する立場で報道を続けている。OSIが「民主化運動」を支援してきたことはマケドニアで広く知られ、OSIの息のかかった人々は「ソロサイト(Sorosites)」と呼ばれている。 (George Soros, NATO, US Color Revolution Machine Behind Unrest in Macedonia) (The Color Revolution in Macedonia Is Underway)
野党のSDSMは冷戦時代に共産党だった政党で、冷戦後、資本主義の信奉者へと転換し、一度は政権を持ったが、06年以来、3回連続で総選挙に敗退し、議席が大幅に縮小してきた。与党のVMRO-DPMNE(統一民主党・内部革命組織)が親露的な外交政策を掲げているため、ソロスの基金は落ち目のSDSMに2011年ごろから政府攻撃や政権転覆の策動を強硬にやらせ、今回の大きな反政府運動に結びつけた。弱体化した組織を傀儡化し、意図的に混乱をひどくするやり方は、国際諜報の策謀としてよくある手だ。 (The Next Ukraine - The regime-changers are busy in the Balkans) (Social Democratic Alliance of Macedonia, SDSM)
ソロスのOSIは、2000年にセルビアで米国に楯突くミロシェビッチ大統領を倒す反政府運動を成功させたのを皮切りに、政権転覆の扇動者として有名になった。セルビアもマケドニアも、国民の多数派は民族的に「南スラブ人」だ。OSIは今回、セルビアで政権転覆を成功させた反政府団体「オトポール」の後継組織である「カンバス」に、マケドニアの野党SDSMに政権転覆のやり方を伝授するよう依頼し、SDSMを強化した。 (How CIA and Soros Openly Finance Destabilization of Macedonia) (ソーシャルメディア革命の裏側)
ソロスのOSIに属する言論人たちは最近、マケドニアの政権転覆を支援する文章を、客観性を装いつつ、さかんに執筆している。「民主化」「人権」を強調しつつ、倒そうとする相手の政権をうまいこと酷評・非難し、読者を軽信させようとする。このプロパガンダの手法は、民主化運動で反米非米の政権を転覆しようとするOSIやその他の米英系のNGOや政治運動家によって、冷戦後10年以上、繰り返されてきた。当初は、読者の多くがプロパガンダを軽信していた。だが、イラクやウクライナなど、多くのケースで、米国が扇動した政権転覆が混乱しか生んでいないのを見て、今では世界的に多くの人が、この手のプロパガンダを軽信しないようになっている(ほとんどの人は無視するようになっただけで、米国勢の実は非人道的な「人道策」のインチキに憤る人はまだ少ない)。 (Saving Macedonia)
昨年ウクライナで親露的なヤヌコビッチ政権が転覆されたのは、ソロスのOSIのほか、ビクトリア・ヌーランド国務次官補ら米国務省が反政府運動を支援したからだったが、ヌーランドは昨秋マケドニアを訪問してザエフら野党人士と会談し、マケドニア政府が米国に対する警戒を強めた。その後、マケドニア政府がザエフを反乱罪容疑で起訴すると、ヌーランドはマケドニアを非難した。親露政権の転覆をソロスや米国務省が扇動するカラー革命の構図が、マケドニアで開花しようとしている。 (George Soros, NATO, US Color Revolution Machine Behind Unrest in Macedonia) (危うい米国のウクライナ地政学火遊び)
米国勢が今の時期にマケドニアの親露政権を倒そうとしている理由は、ウクライナ危機により、ウクライナ経由で欧州に天然ガスを輸出するパイプラインを絶たれたロシア(露国営企業のガスプロム)が、トルコ、ギリシャ、マケドニア、セルビアといった親露政権がある国々を経由してガスを欧州に送れるパイプライン(トルコストリーム)を新設しようとしているからだ。米国勢が扇動し、ウクライナの親露政権を転覆して反露政権に替えれば、ロシアの新パイプライン構想を阻める。 (Why Does Putin Care Who Runs a Tiny Balkan Nation? Gas Pipelines) (A tiny European country is making Russia extremely nervous)
ロシアだけでなく中国も、地政学的にマケドニアを重視している。ギリシャのアテネの外港であるピレウス港を買収した中国勢は、ピレウスからマケドニア、セルビアを経由してハンガリーで西欧の鉄道網に結節する高速鉄道の建設を計画している。中国の習近平政権は、この建設を国家的なシルクロードのインフラ整備(一帯一路)事業の一環として重視している。米国勢は、マケドニアの政権を転覆することで、欧州に影響力を拡大しようとする露中の建設計画を阻止しようとしている。 (The Color Revolution in Macedonia Is Underway) (Orban hails Belgrade-Budapest EU-China cooperation on rail link)
マケドニアは05年以来、EUとNATOに加盟することを、EUや米国と交渉している。グルエフスキ政権はロシア寄りなので、EUやNATOの東進を嫌うロシアに配慮する面があるが、マケドニアの政権が反露側に転覆すると、EUやNATOに急いで加盟する話が出て、その点もロシアにとって脅威だ。米議会では、早くマケドニアの政権を転覆してEUやNATOへの加盟交渉を再開しようという呼びかけが渦巻いている。ウクライナと同様の状況だ。 (Crisis in Macedonia Requires Meaningful and Swift Measures)
米国勢によるマケドニアの政権転覆策は、露中との地政学的な陣取り合戦を超えた、バルカン諸国を民族間の殺し合いや政治混乱に陥れる危険をはらんでいる。諸民族が殺し合った98年のコソボ紛争の再燃があり得る。マケドニアの混乱に乗じて、アルバニアの首相が「いずれコソボを併合する」と、大アルバニア主義を示唆する発言を放ち、セルビアが猛反発し、EUはうろたえている。 (EU says Albania comment on Kosovo unification 'not acceptable')
マケドニアで政権転覆をめざす人々は、グルエフスキ政権を倒した後、多民族国家であるマケドニアの各民族がそれぞれ代表を出して話し合う連立政権を作ることで、政治を再び安定させると言っている。だが、マケドニア国民の3割を占めるアルバニア系を代表する組織(非合法化されていたはずの民族解放軍NLAなど)は、グルエフスキ政権を倒した後、アルバニア系住民が多い北西部の地域だけマケドニアから分離独立して、東隣のアルバニア、北隣のコソボと一緒になる策略を持ち、その策略をやるために政権転覆に協力している。
国家解体に反対するマケドニアのスラブ系は、アルバニア系と交戦し、内戦になる。政権転覆は、マケドニアを分裂させ、内戦に陥らせる。西隣のブルガリアは、アルバニア系が分離独立した後のスラブ系中心のマケドニアを、自国に併合しようとしている。ブルガリア語とマケドニア語は言語的に近いので、ブルガリアには以前からマケドニアを自国の一部になるべき地域だと主張する人々がいる。マケドニアが政権転覆した場合、混乱はマケドニアだけにとどまらない。コソボとセルビアの内戦が再発する可能性が強い。 (Bulgaria rejects Russian claim that it wants to dismember Macedonia)
マケドニアのアルバニア系の分離独立傾向は、北隣のアルバニア系の新興国(08年に独立宣言)であるコソボ共和国の勢力によって煽られている。4月21日、40人のコソボの武装勢力が国境を越えてマケドニア北西部の村(Gosnince)に侵攻し、マケドニアの国境警備隊と銃撃戦になり、双方に死者が出た。コソボの勢力は、99年のコソボ紛争終結後に非合法化されたKLA(コソボ解放軍、セルビア語でOVK、アルバニア語でUCK)の制服を着ていた。 ("Terrorists with UCK insignia" seize police outpost) (The Next Ukraine - The regime-changers are busy in the Balkans)
マケドニアのアルバニア系住民による分離独立運動は、コソボ紛争が終結に向かった99年から激しくなった。コソボ紛争の解決とともにKLAが解散・非合法化され、まだ紛争をやりたい勢力は、コソボだけでなくマケドニア北西部もアルバニアに併合する「大アルバニア主義」を掲げ、隣国マケドニアに入り込んでアルバニア系の武装勢力NLAを作り、マケドニアを内戦に陥らせようとした。反乱はEUなどの介入で回避され、01年にマケドニア政府がアルバニア系住民に自治拡大を認めるオフリド合意(Ohrid)が締結され、NLAは解散・非合法化された。しかし今回、KLAとNLAが14年ぶりによみがえり、マケドニア野党SDSMと組んで、マケドニアを再び内戦に陥らせようとしている。 (国家存亡の危機に立つマケドニア)
マケドニア当局によると、彼らは5月18日にクーデターを計画していた。野党SDSMが首都スコピエなどで大規模な反政府デモを行い、同時にKLAやNLAがマケドニア系住民の多い北西部などで武装蜂起する計画だった。当局は、昨年9月ごろからこの計画を察知していたという。当局は5月8日、北西部の町クマノボにあるNLA・KLAの拠点(隠れ家)を襲撃し、銃撃戦の末、武装勢力を逮捕・殺害し、隠れ家を潰した。5月18日、野党SDSMは予定どおり反政府デモを行ったが、武装蜂起は行われず、政権転覆の画策は長期化することになった。 (Failure Of The US Coup D'Etat In Macedonia) (Macedonia: The Ghost of a New Balkan War)
KLAやNLAは、なぜ非合法化されてから14年も経った今ごろになって再び動き出したのか。おそらく、その答えは「米国に扇動されたから」である。マケドニアの野党SDSMや反政府系のメディアが、ソロスのOSIなど米国勢から援助され、米国のロシア敵視策の一環として親露的なマケドニアの政権を転覆しようとしていることはすでに書いた。同様の構図が、KLAやNLAにも当てはまる。KLAは、旧ユーゴスラビアの解体が始まった1998年、米国と英国の諜報機関がアルバニア政府に用意させたアルバニア北部の訓練所で軍事訓練をほどこされた。セルビア(コソボ)のアルバニア系住民を武装させ「大アルバニア主義」を扇動してセルビア政府と戦わせ、ボスニア人など旧ユーゴの他の勢力の分離独立運動も容認し、旧ユーゴを解体・混乱に導くのが、コソボ紛争当時の米国の戦略で、KLAはその道具の一つだった。 (Is Albania Sponsoring `Freedom Fighters' Next Door? October 31, 2003) (バルカン半島を破滅に導くアメリカの誤算)
すでに述べたように、コソボ紛争が終わると内戦がマケドニアに飛び火したが、マケドニア内戦を煽っていたのは、米国の軍産複合体の一部である傭兵会社MPRI(Military Professional Resources)だった。MPRIは、マケドニア政府軍の顧問をすると同時にKLAやNLAを支援し、政府軍の動向をKLA側に漏洩し、政府軍と反政府軍の両方を加勢してマケドニアを内戦化しようとした。 (The Color Revolution in Macedonia Is Underway) (US Finances Ethnic Warfare in the Balkans)
軍産複合体は、今もKLAの味方だ。5月8日、マケドニア当局が北西部の町クマノボでKLAの隠れ家を襲撃すると、すぐにNATOのストルテンベルグ事務局長がマケドニア政府を非難し、アルバニア系住民の正当な権利主張を弾圧すべきでないと主張する声明を発表した。クマノボの隠れ家にいた勢力のほとんどはマケドニア人でなくKLAのメンバーだったコソボ人で、ストルテンベルグが言うような正当な権利主張でなく、マケドニア政府が取り締まって当然の外国勢力による軍事行動だった。 (Failure Of The US Coup D'Etat In Macedonia) (Obama disrespects NATO chief, raising questions about his commitment to the alliance)
ストルテンベルグは元ノルウェー首相だが、EUの軍事統合に反対し、欧州の対米従属の永続化を望む軍産複合体系の人物だ。彼は今年3月、訪米してオバマ大統領に面会を求めたが、オバマは要請を無視し、事実上面会を拒否した。米議会の軍産複合体系の政治家たちが、面会拒否のオバマを非難した。以前の記事に書いたように、オバマは昨秋来、イランやロシア、ISIS(イスラム国)、イスラエルに対する策をめぐり、軍産複合体と対立を激化させている。 (イランとオバマとプーチンの勝利) (ますます好戦的になる米政界)
マケドニアの野党とアルバニア系を扇動し、政権転覆の混乱を引き起こそうとしている黒幕は、米国の軍産複合体である可能性が強い。軍産が今の時期にマケドニアを混乱させる理由として、ロシアの天然ガスパイプライン計画を阻止するロシア敵視策が考えられることも書いた。しかしその一方で、オバマ政権のケリー国務長官は先日2年ぶりに訪露し、プーチン大統領と4時間も話し合い、米露協調を印象づけた。米国はケリー訪露時に、ウクライナ問題でロシア主導のミンスク停戦合意を初めて支持したうえ、イランやシリアなど中東の問題でロシアが主導権を発揮することを要請した。米国はロシアとの敵対を、やめたいのか、それとも拡大したいのか。 (負けるためにやる露中イランとの新冷戦) (US Launches New Assault Against Russia)
私は、これらの米国の態度の全体が、国際社会でのロシアの台頭を誘発する、オバマ政権の多極化戦略であると推測している。オバマは一方で、ウクライナ、中東などの国際政治でロシアが台頭することを容認・支持しつつ、他方でマケドニアを混乱させている。マケドニアの政権転覆を防げるのは、ロシアだけだ。ドイツなどEU諸国は、コソボ紛争など90年代の米国主導の旧ユーゴ解体・不安定化策以来、バルカンの紛争について腰が引けており、米国の好戦策を看過し、混乱に直面しても右往左往するだけだ。 (プーチンを敵視して強化してやる米国)
ロシアは、コソボ紛争当時はエリツィン政権で、冷戦直後の混乱が続き、弱体化しており、親露的なセルビアが米国にひどい目に遭わされても、ほとんど何もできなかった。しかし、今のロシアは違う。米国が起こしたウクライナ危機を、米英抜きのミンスク停戦合意によって独仏と協調しつつ何とかおさえ、中東ではイランやシリアに対する影響力を拡大している。経済面でも、中国との同盟を強め、QEで金融覇権が弱体化している米国に、中露結束で対抗できる力をつけつつある。ウクライナ危機勃発以来の1年あまりで、プーチンのロシアは国際社会で大きく台頭した。 (中露結束は長期化する)
ロシアが急台頭する中で、オバマが軍産複合体をけしかけて新たにプーチンの前にどすんと置いたのが、マケドニア問題だ。もしプーチンがマケドニアのグルエフスキ政権を政治的に支援して政権転覆を防ぎ、事態を安定化できたら、その後のバルカン・東欧地域は、親露性がぐんと強まる。今年に入ってギリシャが政権交代で親露的になったし、ハンガリーやチェコ、セルビア、トルコは以前から親露的だ。マケドニア問題をプーチンが制すると、ブルガリアやアルバニアも反露的な姿勢を捨てざるを得ない。私は、近いうちにマケドニア問題にプーチンがもっと首を突っ込んで来るのでないかと予測している。マケドニアを取ることでバルカン東欧を傘下に入れたらどうですかとプーチンに手招きしているのはオバマだ。 (プーチンを強め、米国を弱めるウクライナ騒動)
ソロスの昔からロシア敵視も、実はロシアを再び世界に引っ張り出すための隠れ多極主義策かもしれない。そのように考えると、ソロスがロシア周辺の国々だけでなく、ファーグソンなど米国内の反政府運動の活動家たちに資金を出していることに説明がつく。 (国内の反乱を煽る米政府)
ポーランドでは、日曜日の大統領選挙で反EU的なアンジェイ・ドゥダが勝った。彼は「親露」でないが、反EU(反独)の策略をやるには、ギリシャのように、プーチンに接近してみせるのが手っ取り早い。プーチンは、ポーランドの大統領選挙の結果を歓迎すると表明している。 (Russia welcomes Poland opposition leader election win) (ギリシャから欧州新革命が始まる?) (EU統合加速の発火点になるギリシャ)
ドイツなどEUは、対米従属を続けていると、EUの影響圏になるはずの東欧バルカンや中東を、どんどんロシアに奪われてしまう。すでに独仏は、自滅的な好戦策をやめない米国につき合うことに疲れている。それでも独仏は対米従属から離脱せず、米国がウクライナやマケドニアを混乱させるのを看過している。いずれ、独仏は米国を見放さざるを得ないが、それがいつになるのかまだ見えてこない。 (茶番な好戦策で欧露を結束させる米国)
オバマの対露戦略でもう一つ興味深いのが、ビクトリア・ヌーランド国務次官補の役割だ。ヌーランドはロシア語が堪能だが、反露的で好戦的なネオコンに属し、ウクライナを政権転覆に誘導し、マケドニアの転覆も支援している軍産系の人物だ。プーチンなどロシア上層部がヌーランを毛嫌いしていることは間違いない。しかし彼女は、ケリー訪露の後、米政府を代表してロシアとの連絡役になるようオバマから命じられた。 (`Bigger role' for US in Minsk II accords: Are you sure, Ms. Nuland?) (US Blinks in Face-Off with Russia)
プーチンらは、オバマが反露的なヌーランを対露連絡役に任命したのを見て、オバマがケリー訪露で見せた対露協調姿勢は米国の弱体化を表すものの、米国が本気でロシアと協調する気などないと思っただろう。これも、プーチンが米国との協調を完全にあきらめ、中国など非米同盟の強化や、ロシアの影響圏の拡大、ドル崩壊の誘発などに力を入れることにつながり、プーチンに多極化の先導役をさせようとするオバマの策であると、私は勘ぐっている。 (多極化の申し子プーチン)
2015年5月23日 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
④◆超金融緩和の長期化
http://tanakanews.com/150523bank.php
QE(中央銀行による債券買い支え)など、米日欧の当局による過激な金融緩和策が、世界的な金融バブルの膨張を危険水域にまで拡大していることが、しだいに顕在化している。米国では社債(ジャンク債)が5月に1千億ドル売れ、リーマン以前のバブルがすっかり戻っている。株式も、相場を押し上げる自社株買いが史上最高の水準だ。米連銀のイエレン総裁自身が、株価が上がりすぎだと認めるほどの激しいバブルだ。 (Government bond woes trigger broad market turmoil) (US corporate debt sales move beyond $100bn for May) (Stock Buybacks Hit New Records)
株や債券から、不動産や絵画までが高騰し、多くの分野の資産がリスクの大きな状況になっている。住宅ローンを、返済困難な低所得層に貸すサブプライム型のローンも再び増えている。 (Government Using Subprime Mortgages To Pump Housing Recovery - Taxpayers Will Pay Again)
08年のリーマン危機の時、米国を中心とする先進諸国の当局は、財政的にも、金利水準的にも、中央銀行の勘定的にも、今よりずっと余裕があった。その余裕は、リーマン危機後の金融救済策によって、ほぼ使い尽くされている。英HSBC銀行の分析者(Stephen King)は、世界経済を、救命ボートが足りないまま危険な水域に入っているタイタニック号にたとえている。 (HSBC WARNS: The world economy faces a `titanic problem') (QEの限界で再出するドル崩壊予測)
いつ起きても不思議でない金融危機の一つの可能性は債券市場の「テーパー・タントラム(taper tantrum)」だ。もともとの意味は、当局がQEなど金融緩和策をやりすぎ、緩和策を縮小(テーパー)する時に、債券市場がわずかなことでパニック(かんしゃく。タントラム)になって急落(金利高騰)を引き起こすことだ。最近は、米日欧のすべてが緩和策をやっている異常な状態なので、緩和策の縮小時でなく、緩和策をまだまだ続けると当局が言っている状況下でも、タントラムが起きる。 (`Super taper tantrum' ahead, warns IMF) (Greenspan sees another taper tantrum once rates rise)
4月に入り、欧州中央銀行(ECB)がQEを開始したところ、ドイツの長期国債金利(10年もの)は、いったん下落したものの、2週間後から反転して上昇した。4月下旬以降、日本や米国の国債も、金利が反転上昇しており、これはテーパータントラムの発生でないかと懸念されている。 (Is this a repeat of the 2013 taper tantrum?) (US government bond market hit by sell-off)
従来は、先進諸国全体として緩和策を持続拡大する方向だったが、来年になると、日本やEUがQEをやめる方向に転じ、米連銀は昨年までのQEで買い貯めた債券を売却する予定だ。その前後に、巨大な「超テーパータントラム」「トリプル(米日欧)テーパータントラム」が起きるとの予測もある(実のところ今のような先行き不透明な状況下で「来年の予測」は無意味だが)。タントラムはいつ起きても不思議でない。来週なのか来年なのか、といった時期的な違いだ。 (Analysts are talking about a 'triple taper tantrum' that would spark market turmoil)
QEなどでゼロ金利状態が続くと、預金と融資の金利差で儲けてきた銀行業全体が薄利となり、経営が行き詰まる。今の超緩和策を縮小すると「タントラム」で金融危機が起きて銀行が「突然死」的に潰れるが、超緩和策を持続すると、銀行を経営難によって業界ごと「緩慢な死」に追いやることになる。
米国の銀行が破綻した場合に、失われた預金を穴埋めして預金者を守る預金保険公社FDICは、穴埋めに使える資金(保険金)の総額が、全米の保険対象の預金総額の1%しかない。それ以上の比率で銀行が破綻したら、預金を保護しきれない。米国では預金者保護策の強化と称し、預金保険の対象上限額が、リーマン危機前の10万ドルから25万ドルに引き上げられたが、預金保険の基金の総額自体が足りないのだから、1件あたりの上限額の引き上げは意味がない。米欧では、次に金融危機が起きて銀行が連鎖的に潰れたら、預金を守る「ベイルアウト」でなく、預金を預金者に返さないことで銀行を取りつぶす「ベイルイン」で対応するしかない。日本も同様の傾向だ。 (Even The FDIC Admits It's Not Ready For The Next Banking Crisis)
米国中心の世界の銀行システムは、すでにリーマン後の超緩和策によって緩和中毒、QE中毒になっており、緩和策から抜け出して健全性を取り戻すことはたぶん無理だ。米欧の当局は、超緩和策を維持しつつ、銀行を延命させる方法を考えている。その一つは、銀行が預金者から口座維持手数料を取り、手数料収入で銀行を運営することだ。米国のJPモルガンチェース、シティや、英HSBCなどが、手始めに他の金融機関が自行に預けている大口預金から、残高に応じて口座維持手数料を取り始めている。 (HSBC to charge for holding deposits) (Negative Interest Rates Become the Norm in Europe)
バブル膨張によって資金を株や債券で運用するリスクと不透明さが増し、投資家は資産を現金(普通預金)で持っておこうとする傾向だ。その流れで預金を増やした投資家から、銀行が口座維持手数料を取り始めている。これは「現金として置いておかずに株や債券を買え」という銀行から投資家への「尻たたき」でもあり、株高や債券高を押し上げる効果がある。 (The cash crisis begins as Chase to start charging 1% fee on bank deposits starting May 1)
マイナス金利が長く続きそうなEUでは、もっと広範で根本的な銀行経営の転換策が急いで検討されている。それは「現金の廃止」だ。従来は多くの場合、小売店は購入者から現金決済を求められたら応じねばならなかったが、EU各国は、小売店が現金決済を拒否し、デビットカードやクレジットカードでの決済しか応じなくてもかまわない法改定を検討・開始している。 (Denmark Central Bank to Stop Printing Money: Shops Can Refuse to Accept Notes and Coins)
人々は、銀行が提供する決済システムを利用せざるを得なくなり、銀行は従来の預金と融資の金利差でなく、決済システムの利用料を国民から取ることで経営していくかたちに転換する。フランスなどは、すでに現金決済の上限額を厳しく定めており、EUの最終目的地は現金の廃止だ。 (現金廃止と近現代の終わり) (German Economist: `Stand Up for the Abolition of Cash,' Stand Up for Central Banks)
これは「現金を使わない決済の方が便利で効率的だ」「マイナス金利をいやがって人々が現金を貯め込むのを抑止し、中央銀行のマイナス金利策の効果を維持できる」「現金決済に固執するのは脱税者やテロリストだ」といった理論で推奨されている。だが、実のところ現金廃止論は、マイナス金利策の長期化で経営が行き詰まっている銀行業界への救済策だ。 (France to restrict movement of cash, gold and crypto-currencies) (Here It Comes: Denmark Moving to a Totally Cashless Society)
現金は、決済や資産備蓄を匿名でやれる手段だ。カード類や電子決済は、誰がいつどこで何にいくら払ったか、政府がその気になればぜんぶ把握できる隠然独裁体制の始まりだ。現金の廃止は「プライバシーの廃止」「自由の廃止」でもある。現金は残すが、すべての紙幣に磁気テープを印字し、いつ誰の銀行口座から引き出された現金なのかわかるようにして、再びどこかの銀行口座に入金されたとき、現金であった時期の長さに応じて手数料を差し引くという、現金保有を不利にする案も出されている。日本ではまだ話題になっていないが、欧米とくに欧州では最近、現金廃止の是非が急にやかましく論じられるようになった。 (The Secret Fed Paper That Advocated a "Carry Tax" on All Physical Cash)
電子決済の中にも、暗号化技術によって匿名性を保持できる「ビットコイン」などの手法もある。ビットコインはこれまで、匿名性を保持できるがゆえに米欧当局から敵視され、ハッカー(を装った米イスラエル当局筋の者?)がビットコインのシステムを破壊する事象が相次いだ。しかし先日、スウェーデン政府がストックホルムの取引所で、ナスダックに世界初のビットコインの先物取引の相場を開設させた。これは現金廃止をめざす欧州諸国が、ビットコインをまっとうな決済手段として認知したことを意味しているように見える。 (Trading in Bitcoin Made Simpler Through New Exchange)
米国中心の世界の金融システムは全体としてリスクが高まっており、テーパータントラムなど危機の再発による突然死の可能性がある。突然死が起きない場合、金融機関はQEの永続化や現金廃止などによって延命していく。だが、リーマン危機前にあった、金融の儲けが金融業界以外の一般市民の生活を少しずつ押し上げるトリックル効果は、危機後に失われた。金融以外の実体経済は、米日欧の全体で不振だ。米日欧ともに、小売店の儲けが減り、雇用はフルタイムが減ってパート・派遣・低賃金が増加し、多くの人々が中産階級から貧困層に転落している。今、世界の就業者の4分の1しか、安定した仕事を持っていない。金融相場の上昇で儲けられる大金持ちと、トリックルが失われた一般市民との貧富格差の拡大に拍車がかかっている。その一因は、QEなど金融緩和策にある。 (Only one in four workers worldwide has a stable job) (Economic Disinformation Keeps Financial Markets Up) (Major U.S. Retailers Are Closing More Than 6,000 Stores)
米国では、一昨年に財政破綻したデトロイトに続き、シカゴ市と、同市が属するイリノイ州が財政破綻に瀕している。いずれも、公務員年金の運用失敗の穴埋め負担で、市財政が圧迫されている。シカゴ市は最近、債券格付けがジャンクに引き下げられ、破綻が時間の問題になってきた。米国政府は、国債金利の高騰を防ぐため、国債発行を減らしている。そのしわよせが社会保障や教育、インフラ整備の減少となり、貧困層の救済や、実体経済の再生を阻んでいる。債券金融を守るため、国民の生活が犠牲にされている。 (Chicago "Junking" Triggers $2.2 Billion Payment, Deepening Financial Crisis)
米日欧は、今の超緩和策をやめると債券金利の高騰など金融危機が引き起こされるのでやめられない。危険な金融バブル膨張を承知で、超緩和策を続けるしかない。しかし、永遠に破裂せず膨張し続けるバブルなどない。後になるほどひどいバブル崩壊、金融危機に見舞われる。国債金利を引き下げる日銀のQEは、日本政府の国債利払いの額を減らしている。ロイター通信によると、日本政府は日銀のQEが今後ずっと続くことを前提に、少ない利払い額ですませる計画を立てている。ここで垣間見えるのは、安倍政権がQEをやめるつもりなどないことだ。しかし、QEは永続できない。いずれバブルが崩壊し、財政破綻する。 (Japan debt plan needs BOJ to keep rates low for years -sources) (QEやめたらバブル大崩壊)
米国中心の戦後の世界の金融システムは、1971年のニクソンの金ドル交換停止でいったん破綻したが、その後、債券金融システム主導で蘇生し、今に至っている。08年のリーマン倒産は、この70年代からの金融システムの破綻の始まりだった。今の超緩和策と、きたるべきバブル再崩壊はおそらく、現行の世界の金融システムの終焉になる。その後、人類は、中国などBRICS(G20)が準備している、金融が肥大化しすぎない実体経済主導の経済システムを使うことになると考えられる。 (David Stockman: "We Are Entering The Terminal Phase Of The Global Financial System") (CIA Economist: Bank Accounts will be frozen; spontaneous collapse coming, IMF to rescue)
2015年5月17日 田中宇の国際ニュース解説 世界はどう動いているか
⑥◆負けるためにやる露中イランとの新冷戦
http://tanakanews.com/150517coldwar.php
5月14日、米国メリーランド州の大統領の別荘キャンプデービッドで、オバマ大統領と、サウジアラビアを筆頭とするペルシャ湾岸アラブ産油諸国(GCC)の国王らとのサミットが開かれ、米国とGCCとの軍事安保関係の強化を決めた。サミット開催の理由は「イラン」だ。6月末にイランの核開発問題をめぐるP5+1(米露中英仏独)との協議が正式解決する可能性がある。それを受け、ペルシャ湾をはさんでイランの対岸にあるGCC諸国(サウジ、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン)は、中東におけるイランの台頭と、GCCの不利を予測し、イランとの関係改善を強く望むオバマの姿勢を懸念している。その懸念にオバマが応え、今回のサミットが開かれた。 (U.S. may raise Arab states to 'major' ally status) (US, Gulf states to deepen military ties: White House)
サミットでは、対空迎撃ミサイルの配備や、米国からGCCへの兵器売却手続きの簡素化など、軍事関係の強化を決めた。米政府は、GCC諸国を「NATO外重要同盟国(MNNA)」に指定することも検討している。GCCのうちクウェートとバーレーンは、イラク戦争後の2004年にMNNAになったが、サウジは「アルカイダ」と関係があることが米国側に嫌われ、GCC内でサウジとその傘下の3カ国はMNNAになっていない。MNNAに入り、米国との軍事関係を強めると、サウジは、日本、韓国、イスラエル、パキスタンなどと並ぶ米国の本格的な同盟国になる。 (US Likely to Designate Gulf States as `Major Allies') (US, Gulf States to Develop Regional Ballistic Missile Defense System)
米国上層部は最近、ロシア、中国、イランをひとくくりにして長期に敵視する「新冷戦」とも呼ぶべき新たな世界体制を模索している。その一環が、5月初めに日本から安倍首相を招待し、中国を敵として日米安保体制を強化する策だった。そして今回、米国がサウジなどGCCの首脳を米国に招待し、イランを敵とする新冷戦体制として、米GCC間の軍事同盟を強化した。米欧のロシア敵視策は、昨年初めにビクトリア・ヌーランド国務次官補ら米政府がウクライナの政権転覆を支援し、ウクライナを内戦にして以来、続いている。 (The Pentagon's "Long War" Pitches NATO Against China, Russia, & Iran) (US led NATO now firmly pitted against Russia-China-Iran)
米国がNATOや日本、サウジなどGCCを率いて、露中イランをまとめて敵視する新冷戦策は、今回のサミットでGCCが米国との軍事関係の強化を決めたことで、いっそう明確化した。来年の米大統領選挙に出馬する共和党候補マルコ・ルビオ上院議員は先日、権威あるシンクタンクCFRで行った外交方針演説で、敵は露中イランであり、防衛に必要な軍事費を無制限に出すと表明した。露中イランを敵視する新冷戦体制が、すでに米国の新たな世界戦略として確定している感じだ。 (GOP presidential candidate lashes out at Russia, China, Iran)
米国やNATO(欧州)、日本、GCCが、露中イランを敵視する構造は、ユーラシア大陸の海洋側の諸国が、内陸側の諸国を敵視する地政学の構図に合致している。米欧がソ連や中国を敵視した1940-80年代の冷戦も、地政学の構図を持っていた。地政学的な意味でも、今の展開は「新冷戦」と呼べる。冷戦が45年続いたように、新冷戦も何十年も続き、最終的に米国側が露中イランを打ち負かすなら、安倍政権が世論を押し切って必死に米国にすり寄ってよかった、という話になる。 (US Forcing Russia, China And Iran Into Eurasian Military Alliance) (日本をだしに中国の台頭を誘発する)
しかし、事態を詳細に見ていくと、この米国の新冷戦戦略は、最初から米国側の負けで終わりそうなことが透けて見える。米国は、わざわざ自分たちが勝てない状況を作った上で、新冷戦を構築し始めている。米国は、新冷戦体制を、勝つためでなく負けるために構築しているように見える。米国が負けそうな状況で過激に露中イランを敵視するほど、露中イランは結束して強くなり、インドや中南米、トルコなど「非米」的な勢力が露中イランの側に取り込まれ、EU、ASEAN、韓国など、もともと親米だった諸国が、米国の無茶な好戦策の敗北を予測し、露中イラン敵視への参加を控えるようになる(4月のAIIB創設騒動が象徴的だった)。米国の新冷戦策は、米国覇権の解体と多極化にしかつながらず、日本など、新冷戦に積極的に乗る諸国は馬鹿を見る。 (多極化への捨て駒にされる日本) (日本から中国に交代するアジアの盟主)
米サウジがイランと敵対する新冷戦の中東戦線では、米国の中枢が、イランと和解したいオバマ大統領と、イラン敵視を維持したい米議会の共和党などイスラエル傀儡の勢力が対立している。オバマ政権が、議会の反対を押し切ってイランとの和解を進めるので、GCCが懸念して米国との安保体制の強化を求めてきたのが今回のサミットの背景だ。米国は、制裁を解除してイランを強化しつつ、イランを敵視するという大矛盾をやっている。サウジのサルマン国王は、すでに米国を信用していないようで、今回のオバマとのサミットをドタキャンし、UAEとバーレーン、オマーンの君主もサルマンに追随して欠席を発表した。 (イランとオバマとプーチンの勝利) (イラン核問題の解決)
今回の米GCCサミットの「成果」の一つは、米国がGCCにPAC3など新型のミサイル迎撃システムを購入し、対イランの防衛力を高めたことだが、新システムの導入には数年かかり、その間にGCC6カ国が相互信頼や協調関係を強化する必要がある。協調関係が足りないと、GCCのある国の飛行機が別の国の空域を飛んでいるときに、敵機と誤認され迎撃されかねない。GCCは相互に反目してきた歴史がある。その要素の一つは、GCC内に、イランを許容する傾向が強いUAEやオマーンなどと、イランを敵視する傾向が強いサウジなどの2派が存在することだ。 (Missile shield for Gulf to take years, and heavy U.S. commitment)
イランへの経済制裁が解かれると、UAEなどGCC内のイラン許容派は、イラン敵視をやめ、経済関係を強化して儲けようとする。すでにUAEのドバイは、イランと欧州などとの投資や貿易の商談をどんどん仲介している。商談の仲介は、国際商都ドバイの生命線だ。今後、イランが経済成長を再開するほど、GCC内は親イランと反イランとの相克が激しくなり、相互信用の醸成と逆方向に事態が進む。イランが政治戦略としてGCC内の結束を崩そうとする動きも強まる。新型ミサイル防衛システムの稼働に必要なGCC内の相互信用は、うまく醸成されない可能性が高い。 (Dubai poised to act as bridgehead for Iranian investment)
イエメンでは、サウジ軍が、イランを慕うシーア派の武装勢力フーシ派と戦っている。米国は、イエメンのハディ政権に合計5億ドルの兵器類を支援したが、ハディ大統領は民意の支持が弱く、昨秋、首都サナアをフーシ派に乗っ取られた。ハディは今年2月に第2の都市アデンに移動し、フーシへの反攻を開始した。だがその直後、ハディの政府軍を軍事支援するはずだった米国の大使館や軍事顧問団が、事態の悪化を理由にイエメンから総撤退してしまった。米国の後ろ盾を失った政府軍は敗退し、フーシは戦闘せずに政府軍の基地を接収し、政府軍が米国からもらった戦闘機やミサイルを含む大量の兵器類を手に入れた。この件は以前の記事に書いた。 (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ)
サウジアラビアは、米国が誘発した突然のフーシ派の軍事台頭(抑止力の飛躍的な強化)に驚愕した。フーシの居住地域はサウジと国境を接している。サウジ軍は、シーア派で親イランのフーシを敵とみなし、フーシが軍事力をつけるたびに戦闘機などで越境攻撃してきた。これまでフーシは戦闘機やミサイルを持たず、サウジ軍が簡単に空爆できた。だが、フーシがハディの政府軍の戦闘機やミサイルを大量に入手すると、状況が大きく変わる。サウジは、フーシからサウジ本土を空爆される反撃を覚悟しないとフーシを攻撃できなくなる。放置すると、サウジはフーシを空爆できなくなり、外交交渉しか手がなくなる。そのためサウジは、フーシがイエメン政府軍の基地を占領して米国製の兵器類を得た直後、フーシが兵器を使いこなす態勢を整える前に、イエメン軍の基地の多くに対して大規模な空爆を加え、フーシが得た兵器類を破壊した。これがイエメン侵攻の本質だった。 (US armed the Houthis, not Iran)
サウジは、米政府に直前まで知らせず、イエメンに侵攻した。米国が軍事顧問団を突然に引き揚げ、フーシが大量の兵器を得るように仕向け、サウジに脅威を与えたのだから、サウジ王政は米国を信用できなくなった。しかし同時にサウジは、軍事的に米国に依存している。サウジ王政は、強い国軍を作ると、1950年代のエジプトやイラクのように、将軍が王政転覆のクーデターを起こしかねないと懸念し、政府軍を比較的弱いままにしておき、その分、防衛や安全保障を、石油利権と引き替えに米国に依存してきた。サウジは、軍事面の対米依存をやめられない。
だが半面、サウジは、今後も軍事の対米依存を続けると、今回のイエメン侵攻のような事態を、再び米国から誘発されかねない。昨年から勃興したイラクのISIS(イスラム国)は占領地域がサウジと接し、まだサウジを敵視していないが、いつサウジに戦いを挑むかわからない。ISISも、米軍が創設を誘導し、米軍がこっそり武器支援している組織だ。ここでも、米国がサウジに脅威を与えている。中東の国際政治においてサウジのライバルであるイランを強化しているのも、米オバマ政権だ。 (露呈するISISのインチキさ) (イスラム国はアルカイダのブランド再編)
サウジはイエメン侵攻開始後、アラブ諸国を集めてエジプトでサミットを開き、エジプトやヨルダン、スーダン、パキスタンなど、これまで巨額の資金援助をしてきた国々に兵力を出すよう要請し、米軍に頼る代わりに、にわか仕立ての傭兵団「アラブ連合軍」を結成して対応した。サウジ軍は、傭兵集団なので弱く、イエメンに地上軍侵攻してフーシと戦う泥沼の占領を長く続けることなどできない。サウジは、親イランのフーシと和解するしか道がない。 (Saudi military almost entirely staffed by mercenaries) (Egyptian Pilot Arrested for Refusing to Bomb Yemen)
サウジ主導のGCC諸国は、今回のオバマとのサミットに際し、GCCが外国から侵攻されたら米軍が防衛する義務を明文化した安保条約の締結を求めたと報じられている(これまで米国はGCCに対し、守ってやると口約束してきただけだった)。安保条約の要求を、イエメン戦争との関係で考えると、米国がイエメンのフーシをこっそり強化してサウジに攻撃を仕掛けられる事態を作った場合、米国自身がフーシと戦わねばならなくなる安保条約の締結をサウジが求め、米国がイエメン戦争のような脅威をサウジに与えられないようにする策と考えられる。 (US-Gulf summit: Obama's balancing act) (Obama Becoming Global Joke? King Of Bahrain Snubs US President, Meets Horse Instead)
しかし米国は、GCCと安保条約の締結を拒否した。すると、サウジのサルマン国王は5月10日、オバマとのサミットに、自分でなく代理人を派遣すると発表した。開催4日前のドタキャンだ。欠席の理由は発表されていないが、サウジ国王が欠席を表明した後、UAEとバーレーン、オマーンの君主も欠席を表明した。サウジが安保関連で米国に求めていた最重要の何らかの提案を米国が断ったことは間違いない。米政府は「サウジは、NATO外重要同盟国(MNNA)に入れてもらうだけで、安保条約締結国とほとんど同じになる」と言っているが、サウジら国王の集団欠席は、MNNAなど要らない、MNNAでは不足だとサウジ側が考えていることを示している。 (Saudis Snub Obama Over Iran Deal) (Saudi Obama's hard truths for the Gulf states on Iran)
米国は、サウジやNATOを率いてロシアやイランを敵視する新冷戦体制を作っているのに、その一方で、オバマ政権は、シリアやイエメンの内戦を終わらせるためにロシアやイランの仲裁による和平交渉が必要だと言っている。米国のケリー国務長官が4月末、イランのザリフ外相と会談し、イエメン停戦の仲裁を正式に頼んだ。イランとロシアは、サウジがイエメンに侵攻した直後から、停戦案を出し続けている。 (Kerry to raise Yemen conflict directly with Iran FM) (US Asks Iran to Help With Yemen Peace Talks)
米国がイランやロシアにイエメン停戦の調停役を頼むのは、筋として間違っていない。だが米国は、サウジから見ると、一方でイランに核兵器開発の濡れ衣をかけて敵視し続けてきたくせに、他方で親イランのフーシ派がサウジに脅威を与える大量の武器を得るよう仕向け、サウジが国際法違反を犯してイエメンに侵攻せざるを得ないようにしたうえ、その侵攻の停戦仲裁を、フーシ派の擁護者でサウジのライバルであるイランに頼むという、サウジに脅威を与える頓珍漢なことをやり続けている。傭兵団しか持たないサウジは、イエメンで軍事的に勝利できず、米国の動きがいくら頓珍漢でもそれに乗り、イエメン紛争の解決をイランに頼むしかない。 (Iran Foreign Minister Urges Talks With West to Solve Crisis in Yemen) (Russia to throw weight behind Iran's Yemen initiative at UN)
オバマはイランへの制裁解除を望んでいる。イランとP5+1は6月末、核問題の解決と経済制裁の解除を協約し、国連がイラン制裁を解除する可能性が高い。しかし、米議会は超党派でイラン制裁の解除に反対している。米国だけイラン制裁が残り、EUなど他の諸国は国連の決定に基づいてイラン制裁を解除する展開になりそうだ。国際社会は、米国を無視してイランとの経済関係を再強化し、イランは経済的、国際政治的に台頭する。すでに欧州などの企業が、イランからの石油ガス輸入やイランへの航空機販売などの商談を開始している。 (Iran, European companies to discuss gas exports to Europe next month: Official) (Iran plane deal show sanctions collapsing)
インドは、米国の制止を無視して、イランのチャバハルに港湾を建設している。中国の習近平主席が4月にパキスタンを訪問して巨額の経済インフラ建設を約束し、中国がパキスタン経由でイランやアフガニスタンに貿易路を伸ばそうとする中で、インドは対抗して、パキスタン沖を海路で迂回し、チャバハル港からイラン国内を通ってアフガニスタン西部に至る道路を建設する計画だ。インドは、米国に止められても、中国に対抗するためイランに接近せざるを得ない。イランは漁夫の利を得ている。 (India to sign port deal with Iran, ignoring U.S. warning against haste) (Chinese president to launch economic corridor link in Pakistan)
米国以外の諸国が制裁を解いてイランとの経済関係を強化すると、イランが中東での影響力を拡大するために使える資金が急増する。シリアのアサド政権は資金力が低下し、内戦に使える資金が減って、米イスラエルがこっそり支援するISISやアルカイダに負けそうになっており、イランに資金援助を求めている。シリアの国防相が最近イランを訪問し、60億ドルの戦費が必要だと懇願したが、イランは10億ドルしか出せず、あとは精神論で頑張れと説教するだけだった。イラン傘下のレバノンのヒズボラがシリア政府軍へのテコ入れを本格化したが、このままだとアサド政権は苦しくなる。しかし今後、制裁が解除されてイランが資金を持つと、アサドに支援する軍資金も増え、シリア内戦でアサドが再び優勢になる。 (Gulf Arabs fear Iran with cash as much as Iran with the bomb) (The Middle East map may be redrawn before Iran's June 30 nuclear deadline)
イランは、経済制裁されていた従来も、シーア派の宗教団結などを活用し、あまり軍資金を使わずに、イラクやシリア、レバノン、イエメンなどで影響力を拡大してきた。たとえばイランは、アフガニスタンからイランに逃げてきたアフガン難民に「イランの居住権をやるからシリアに行け」と言ってアサドの政府軍の傘下で戦わせたりしている。 (Syria's Mercenaries: The Afghans Fighting Assad's War)
対照的に、サウジやカタールなどGCC諸国は、石油収入で巨額の軍資金があるのに、レバノンやシリアなどでイランとの影響力の争いにおいて、せいぜいイランと互角か、ともするとイランより劣勢だった。今後、イランが資金力をつけると、イラク、シリア、レバノン、イエメン、パレスチナなど、中東の多くの場所で、イランが今より優勢になり、サウジなどGCCは不利になる。そのようにGCC自身が懸念している。中東における「新冷戦」は、米サウジがイランを打ち負かすどころか、逆に、サウジが頓珍漢な米国に尽かしつつ、イランへの対抗をあきらめて協調せざるを得なくなる結末が、すでに見えている。 (いずれ和解するサウジとイラン)
新冷戦の一環である、米国のロシア敵視策も、矛盾が目立っている。米国のケリー国務長官が5月13日にロシアを訪問し、プーチン大統領らと8時間会談した。米高官のロシア訪問は、ウクライナ危機勃発以来2年ぶりだ。ケリーの訪露は、オバマ政権がロシアとの敵対を緩和する動きとして注目され、米議会やマスコミを席巻する好戦派(新冷戦派)は、ケリーの訪露を強く非難した。 (Kerry's pointless diplomacy in Russia) (Kerry holds 'frank' talks with Putin in bid to improve ties)
ケリーがプーチンと話し合った主な議題は、ウクライナとシリアだったと報じられている。ウクライナに関しては、露独仏がまとめた「ミンスク2合意」の停戦体制に対し、米国が初めて正式に支持を表明した点が注目されている。ウクライナの停戦・連邦化・再安定化が実現すると、ミンスク2の体制は、ロシアとEUの相互信頼体制に格上げされ、ロシアとEUが、米英の介入なしに直接協調し、東欧やバルカン、コーカサス、地中海沿岸(中東北アフリカ)などユーラシア西部の安定化を米英抜きで実現する多極型の世界体制の一部になる。米国が、ミンスク2を破壊したがるのでなく支持したことは、米国がEUをしたがえてロシアと長期対立する新冷戦体制と正反対の方向だ。 (Yet another huge diplomatic victory for Russia) (ウクライナ再停戦の経緯) (ユーラシアは独露中の主導になる?) (Return to pragmatism in Russia-West ties? Kerry-Putin talks hint that way)
またケリーはプーチンとの会談で、ロシアにシリア内戦の和解を仲裁してほしいとあらためて要請した。ロシアは、国連の支持を得た上で、昨年から何回かシリアのアサド政権と反政府派の代表をモスクワに集め、和平会議を開いている。アサド政権は、ロシア仲裁の停戦に積極賛成しているが、反露的な米国のタカ派(軍産複合体)に支援されているシリア反政府派は、交渉など無意味だと言って欠席気味だ。 (Kerry Arrives in Russia for Talks With Vladimir Putin on Cooperation) (Syria Rebels Reject UN Offer for Peace Talks)
7月以降、イランに対する経済制裁が解除されていくと、イランからシリアに流入する軍資金が増え、内戦でアサド政府軍が再び優勢になる。その前にアサドの軍を倒してしまおうと、ISISやアルカイダ(ヌスラ戦線)など、米軍産イスラエルに支援された反政府勢力が攻勢をかけている。ISISやヌスラはテロリストなので、露主導・国連主催の停戦交渉に呼ばれていない。停戦交渉に呼ばれている反政府勢力は、シリア国内の軍事部隊が少ない非力な亡命シリア人組織だ。 (ISISと米イスラエルのつながり) (Assad's Loss Could Be ISIS's Gain, US Officials Warn)
要するにシリアの停戦交渉は、ロシア主導で国際社会がアサド政権に正統性を再付与し、経済制裁を解かれたアサドやイランが、ISISやヌスラと存分に戦って潰せるようにすることを目的にしている。米軍産イスラエル(米単独覇権勢力)はISISやヌスラを支援し、オバマや露中イラン(多極化勢力)はISISやヌスラを潰そうとしている。ケリーがこの時期にロシアを訪問し、プーチンにシリア停戦交渉を頼んだのは、アサド政権が倒される前にシリア停戦を進めてくれという意図だろう。これは新冷戦体制、つまり米単独覇権の維持と逆方向だ。 (Obama's overture to Putin has paid off) (ISIS' Strategy Leak Reveals Syrian Takeover Plot, US "Created A Group Of Very Intelligent Enemies")
オバマ政権は最近、以前は言っていなかった「ISISと戦うため、アサド政権の存続を容認せざるを得ない」という理屈を表明するようになった。米イスラエル傀儡色が強いヨルダンはこれまで、反アサド策の一環としてヌスラを支援してきたが、先日、ヌスラを敵視する政策に転換した。事態はしだいに、アサド政権が存続してシリア内戦が終わる方向になっている。 (Jordan Shifts Policy, Fearing al-Qaeda's Growth in Syria) (State Dept: US Might Talk With Iran About Syria)
シリア内戦がアサド政権の存続で終わると、中東におけるイランなどシーア派、露中の影響力が増す。半面、アサド潰しに荷担してきた米国、サウジなどGCC、トルコ、イスラエルの影響力が低下する。サウジはますますイランと和解せざるを得なくなる。イランでなくイスラエルの核武装が問題にされる。イスラエルのネタニヤフ政権は、それを見越して、選挙が右派の勝利だったにも関わらず、パレスチナ和平に積極的な中道派と連立政権を組む道を模索していたが、失敗し、右派と連立を組んだ。 (Lapid: Herzog is waiting for call to join coalition)
延々と書いてしまったが、事態は、米国が同盟国を率いて露中イランを封じ込める新冷戦体制の成功に向かっていない。数年前なら、まだ露中イランが弱かったので、新冷戦体制が組みやすかったが、米国は露中イランの優勢が増した今のタイミングをわざわざ選んで、新冷戦体制を構築している。米国はあまりに馬鹿だ。意図的に馬鹿をやっている。新冷戦体制は、失敗することを予定して開始された、隠れ多極主義の戦略だろう。 (茶番な好戦策で欧露を結束させる米国)
中国に関しても、米国は中国敵視を延々と続けそうな半面、世界一の消費市場になっていく中国と本格戦争するわけにいかず、敵視しつつ協調し、これが外交軍事面での中国の台頭を誘発する結果になる。 (Financial summit opens to discuss the 'new normal')
米国の露中イラン敵視策は、露中イランが結束によって十分に強化され、米国の覇権の力が金融危機再燃などで低下し、国際社会(日本以外)が敵視策に固執する米国を見限って多極型の新世界秩序を支持するまで続くだろう。米国の露中イラン敵視策は、米国が世界(日本以外)に軽視されることで終わる。それがいつになるか、今は見えない。米政界は依然として軍産イスラエルの力が強いので、次期大統領になっても露中イラン敵視が続くだろう。 (The Choice Before Europe) (India, China successfully address some differences)
露中イランは、敵視されるほど結束して強くなり、インドや中南米、ASEANなどを自陣営に引っぱり込もうとする策を続け、これが覇権構造の多極化に拍車をかける。モディ首相の訪中など、中印の接近が注目される。サウジなどGCCも、いずれこの流れに抵抗するのをやめざるを得ない。日本は最後までこの流れを無視して対米従属に固執しそうだが、転換があとになるほど国際政治的に軽視され、経済的にも困窮する。