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折々の記 2015 ⑥
【心に浮かぶよしなしごと】

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  07 19 温故知新の哲学をいかせ(その三)   (安倍政権)7.15の面舵
       安保関連法案 まだまだ阻止できます   明日の自由を守る若手弁護士の会
       採決強行と引き換えに失ったもの   特別編集委員・星浩
       安保法案の強行採決は、「憲法クーデター」だ   WEBRONZA(ウェブロ ンザ)
       「違憲」指摘でも安保採決強行 民主主義とは   (考論 長谷部×杉田)
       答弁あいまい、議論平行線   政府の裁量、確保狙う

 07 19 (日) 温故知新の哲学をいかせ(その三)     (安倍政権)7.15の面舵

             明日の自由を守る若手弁護士の会

私たちには、生まれながらに自由や権利があります。 私たちには、言いたいことを言って、伝えたいことを伝える自由(表現の自由)があります。 私たちは、これまで身近に感じられなかった憲法について、多くの方々と一緒に情報共有ができたらと思って、このブログを立ち上げました。 たま~にでいいので、ぜひとも立ち寄ってください。

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2015年7月15日水曜日
安保関連法案 まだまだ阻止できます
     明日の自由を守る若手弁護士の会
     http://www.asuno-jiyuu.com/2015/07/blog-post_15.html

 安保関連法案、さきほど衆院特別委員会で強行採決されてしまいました(明日、本会議で採決とのこと)。

 政府がなに一つ誠実に質疑に答えず、日本語として理解できないような答弁で逃げ切ったあげく「時間がたった」と、怒号の中で多数決。 まるで、映画のような、ドラマのような、暴力的な政治です。

 もしかして、衆院特別委員会通過と聞いて、 「あぁもう成立してしまった」…かのように落胆されている方はいらっしゃいませんか?

 もちろん、あすわかも落胆しています、が、まだ国会は続くのです。私達の声が法案成立を阻止できるチャンスは、ま~だまだ 残されてます!

 そもそも法案というものが成立する道のりは2つあります。

 1つは、同一の会期内に衆議院と参議院の両方を過半数の賛成で通過する道のり。

 もう1つは、参議院が衆議院から法律案を受け取って60日以内に議決しないときに、衆議院の3分の2以上の賛成で再議決する道のり(最近よくきく60日ルール)。

 ですから、衆議院特別委員会で強行採決されて本会議で採決されても、参議院で可決されなければ法案成立しません。 参議院で可決しないまま60日経ったとしても、衆議院で再議決しない限り成立はありえない。

 この国会(臨時国会)の会期は、9月27日までです。 会期中に議決できなかった案件は廃案となるのが原則です。

 また、今回たとえば衆議院で可決して、参議院に送られたものの会期末となり、「継続審議」になった場合、 次の国会では、参議院は審議の続きから始まりますが、 衆議院はもう一度最初から審議やり直しになります。

 なのでこの場合には、臨時国会でなされた衆院採決は意味が無くなるわけです。

 廃案または継続審議となっても、次回以降の国会でまた法案提出、審議して成立を目指すことはできます。

 しかし、法案の内容がもっともっと国民に広く知られ、もっともっと反対される時間ができると、ますます支持率は下がりますし(ますますアベノミクスのボロも出るし)可決しづらくなるので、政府としては世論がこれ以上反対で盛り上がる前に早く可決してしまおうと考えるわけです。

 まだ諦めなくてもいいのです、というか諦めてはいけないのです! まだ私達はこの法案の成立を阻止できます。

 対抗手段は、とにかく問題点を広く知らせ、反対意見をあらゆる方法でアピールし続けて、会期内に参院で通させないことです。  先日書いたように、議員さんにFAXやメール、手紙で直接声を届けましょう。 デモや集会をしっかり報道した新聞やテレビには応援のメッセージを送りましょう。 強行採決を中継しなかったNHKには、きちんと「それでも公共放送のつもりですか」と批判の声を届けましょう。

 共同代表の黒澤は、ついこないだ、さる集会で「これは安倍首相の執念と、私たち国民の執念のたたかいです」とお話しました。  諦めないことです。 衆議院を通過してしまったとしても参議院で通過させないよう粘りきることです。毎日、声をあげ続けましょう。

(この記事は、2013年11月、特定秘密保護法案が衆議院の特別委員会で強行採決された際に書いた記事を思い返しながら書きました。)


 
2015年7月19日 (日曜に想う)
採決強行と引き換えに失ったもの
     特別編集委員・星浩
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11867870.html

 集団的自衛権の行使容認に伴う安全保障関連法案をめぐって、藤井裕久・元財務相の経験談を聞いた。

 1972年、藤井氏は大蔵省(現・財務省)から田中角栄政権の首相官邸に出向し、二階堂進官房長官の秘書官として働いていた。国会審議の中で、田中首相が集団的自衛権についての政府見解をまとめるよう内閣法制局長官に指示。文案は、藤井氏らにも回覧された。「自衛の措置は禁じられていない」とする一方で「他国に加えられた武力攻撃を阻止する集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」と明確に書かれていた。藤井氏は「常識的な見解だ」と思ったそうだ。

 「安倍晋三首相は、あの72年見解をねじまげ、集団的自衛権が行使できるという閣議決定をして、その関連法案を成立させようというのだから、むちゃな話だ」と藤井氏は憤慨する。

 その「むちゃな」安保関連法案の採決が衆院の特別委員会で強行され、本会議も押し切られた。安倍首相は「数」にものを言わせて参院でも可決し、この国会で成立させるつもりだ。それでいいのだろうか。この採決で日本政治が失うものを考えてみた。

     *

 まず、安倍政権への影響である。安保法案には多くの憲法学者から疑義が出された。とりわけ、国会の参考人質疑で自民党推薦の長谷部恭男・早稲田大教授が「違憲」と断じたことで、国会審議の潮目が変わった。その後も国民の理解は進まず、多くの世論調査で「説明が不十分だ」が8割ほどを占めた。この国会での成立を望む声も減っている。そうした中での採決強行だから、政権への批判が高まり、支持率は下がり続けるだろう。政権の体力が落ちていくのは避けられない。

 深刻なのは経済政策への影響だ。TPP(環太平洋経済連携協定)の合意に向けて、族議員や業界団体との折衝が大詰めを迎える。合意後には国内対策も必要になる。勢いを失いつつある政権が乗り切れるだろうか。社会保障の改革も待ったなしだが、歳出カットへの抵抗をはねのけられるだろうか。政権発足時に掲げた大方針は「経済最優先」だったのに、高い支持率という「資産」は、経済再生ではなく、安保法案の処理につぎ込まれた。

     *

 安全保障という国の行方を定める問題で、与野党が接点を探ることができなかったのも悔やまれる。消費増税を含む税と社会保障の一体改革で自民、公明、民主の3党が歩み寄ったのは3年前だ。税でできた話し合いの枠組みが、安保ではできないのか。安倍首相だけでなく、自民党で党務を取り仕切る谷垣禎一幹事長の責任は重い。

 この安保法案に関連して、安倍首相は「国際情勢の変化」を繰り返した。具体的には中国の台頭を念頭に置いているようだ。中国に対して、日米同盟を強化して向き合う。そのことに同意する国民は少なくないだろう。だが、一方で米国は「世界の警察官を続けることはできない」と言い始め、日米両国とも、財政は火の車だ。日本経済の対中依存度は増していく。日米同盟を強化しつつ、中国とのパイプづくりも進める。さらに中国が法の支配、人権といった国際社会の枠組みに加わっていけるよう日本が後押しする。そんな知恵のある対中戦略を与野党で論争する機会も奪われてしまった。

 外務事務次官を務めた外交官OBから、こんな意見を聞いた。

 「安保法案への国民の不信が根深いのは、詰まるところ、安倍首相の歴史認識に関わるのではないか。侵略や植民地支配を明確に認めて反省し、戦争の歴史に区切りをつけていないから、海外での武力行使を認めることが『いつか来た道につながるのでは』という不安に結びついている。歴史と安全保障は切り離せない」

 過去の歴史に誠実に向き合い、安全保障の将来像を描く。いまの政治に求められる深くて静かな議論も、採決強行で吹き飛んでしまった。

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2015年07月16日 WEBRONZA(ウェブロンザ)
安保法案の強行採決は、「憲法クーデター」だ
     テーマ安保法案の強行採決、安倍政権の傲慢症候群
     小林正弥
     http://webronza.asahi.com/politics/articles/2015071500005.html?iref=com_rnavi

憲政史の歴史的瞬間

 7月15日正午過ぎ、安保法案が衆院平和安全法制特別委員会で強行採決された。NHKは、公共放送であるはずなのに、公共的にきわめて重要な委員会の質疑を生中継しなかった(採決は正午のニュースを延長して中継)ので、私はインターネット中継で採決の瞬間を見た。

 民主党をはじめ野党の議員は「強行採決反対!」「アベ政治を許さない」などのプラカードを手に掲げながら立って怒号や悲鳴をあげながら反対を叫んでいたから、見た目には賛成の起立者の数はわからない。この委員会で反対の質問をたびたび行ってきた辻元清美議員などは議場から出るときに、悔し涙を浮かべていた。

 これは、日本の憲政史に残る歴史的瞬間である。

審議時間を最低限で終わらせる強行採決の不当性

 与党は、従来、このような重要法案を100時間くらいの審議で決めているのに対し、この法案は14日までに113時間以上も審議されたから、国民の理解は深まり、決めるべき時であると主張しているが、これは明らかに正しくない。そもそも、審議時間が決定的に足りない。

 この法案は11の法律からなる。国民は国会審議を通じてその全体像を知ることができただろうか? 

 私は最近、この法案について講演を求められて改めて調べたが、法案の全体像についてのわかりやすい解説がインターネット上などにほとんどないことに気づいて驚いた。

 通常の重要法案であれば、メディアのホームページなどにわかりやすい図入りの解説などが掲載されている。ところが、そのような信頼できる説明がほとんどなく、かろうじて全体像を示しているのは内閣官房のホームページくらいだった。一般の人々がこれを見て全体像を理解するのは極めて難しいだろう。

 一般的な解説の多くでは、せいぜい集団的自衛権行使を可能にする事態対処法制についての簡単な説明があるくらいで、重要影響事態安全確保法や国際平和支援法や国際平和協力法についての説明やそれらの関係についての解説は極めて少ない。

 ところが、これらはいずれも従来の法律の大改正や新法であり、それぞれが重要法案なのである。

 重要影響事態安全確保法は従来の周辺事態法を改正したものであり、国際平和支援法はアフガニスタン戦争やイラク戦争などの際の特措法を恒久法にしたものである。

 周辺事態法やそれらの特措法がそれぞれ時の政権にとって大問題であり、国会が大紛糾したことは、記憶のある人も少なくないだろう。だから、これらをすべて丁寧に審議するためには、とうてい113時間では足りず、その数倍ないし10倍くらいの時間が必要なのである。

法案成立の策略と奸知

 そもそも、これだけ多くの重要法案を一括して審議しようというのは、国会審議を最低限で済ませて一気に決めようという政権の企みに他ならないだろう。この法案の出し方自体が、民主主義的な熟議を回避したいという策略と奸知を表わしているのである。

 これらの法案が「平和安全法制」という名称で、あたかも平和のための法案であるかのごとく装っているのも、これと同じである。

 福島瑞穂社民党議員が国会で「戦争法案」と述べたことについて自民党は当初は異例の表現修正を求め(4月17日)、安倍首相は「『戦争法案』などという無責任なレッテル貼りは全くの誤り」と反論した(5月14日)。

 しかし、憲法学者の小林節氏が「紋切り型の答えが『レッテル貼り』という逆ギレだけだ」と述べた(6月22日)ことを契機にして、今では安倍首相の反論は説得力を失い、メディアも「平和安全法制」という名称をそのまま用いるのではなく、安保法制というような表現を用いている。これは中立的な表現と言えよう。

何でもできる「戦争法案」?

 いかに審議が不十分であるか、わかりやすい例をあげておこう。

 安倍首相は、特別委員会の審議の最終段階で、民主党の岡田代表が、朝鮮半島有事の際に集団的自衛権を行使する要件に関して、米艦が攻撃される前でも集団的自衛権が行使できるかと質問したところ、「邦人輸送の船、あるいはミサイル警戒に当たっている船、どちらでもいいが、米艦が攻撃される明白な危険がある段階で、存立危機事態の認定が可能」と答弁した(7月10日)。

 これでは、相手国からの攻撃がない段階で日本から集団的自衛権の武力行使ができることになってしまう。つまり、アメリカも日本も攻撃されない段階で、日本から先制攻撃ができることになるわけである。

 もしこの答弁通りなら、「専守防衛」どころか、日本から先に戦争を開始できることになりかねない。そうなってしまえば、歯止めがなくなってしまい、ほとんどのことができることになりかねないのである。

 このように、この法制に関してはまだ十分に議論されていない点があまりにも多い。そして安倍首相は午前の締めくくりの総括質疑で「残念ながらまだ国民の理解が進んでいる状況ではない」と認めたにもかかわらず、その直後に与党は採決を強行したのである。

衆議院における「多数の専制」による憲法クーデター

 衆議院における多数の力でこのような違憲の立法を行うということは、まさしく「多数の専制」に他ならない。

 政治理論では、民主主義の問題点の一つとして、「多数の専制」という危険性が挙げられてきた。だからこそ、少数派の尊重や熟議が必要とされているのである。

 通常の多数決でもこのような問題がありうるが、大多数の憲法学者が違憲とする法案を十分に審議せずに強行採決を行うのは、まさに憲法を破壊する専制政治に他ならないからである。

 2014年の閣議決定の時に述べたように、集団自衛権行使容認の閣議決定は「憲法クーデター」であるという見方がある(「『安倍政権の憲法クーデター』説」2014年07月22日)。

 憲法学者でも、たとえば石川健二氏(東京大学)は、安倍政権の政権運営を「非立憲」(立憲主義の精神への違反)として、2014年7月1日の閣議決定を「法学的にはクーデターだった」と述べている(『世界』2015年8月号)。国民に信を問うことなく、閣議決定によって法的連続性を切断してしまい、「法の破砕」を行ったからである。だから、ここには「立憲主義」と「専制主義」との対立が現れている、というのである。

 この国会審議や強行採決のやり方は、熟議することなく、国会審議によって反対が増加してもなお強引に立法に突き進むという点で、まさにこのような見方を裏付けるものである。つまり、この強行採決によって、安倍内閣はまさに「憲法クーデター」という歴史的暴挙を国会で決行したとみなさざるを得なくなりつつあるのである。

民の心は、正義に反する「覇道政治」をいかに見るか?

 安倍首相は、国際法曹協会のスピーチで、故郷の先人・吉田松陰の教えとして「天の視るは我が民の視るにしたがい、天の聴くは、我が民の聴くにしたがう。」という言葉を引いた(2014年10月19日)。

 これは、実は松陰が講義を行った『孟子』で『書経』から引用されている言葉であり、「天は、民の目にしたがってすべてを見、民の耳にしたがってすべてを聴く。すなわち、民の心が天の心。民の声が天の声となる」というような意味である。

 孟子こそが義を重視し、王道と覇道とを峻別して、覇者の暴虐な政治に対して「民」の心に基づいた正義の革命を正当化した思想家であった。

 この強行採決は、今日のいかなる正義論からみても、正義に反している(「いかなる正義にも反する安保法案の強行採決(上)(下)」2015年7月13~14日)。だから孟子や松陰のような観点から見れば、安倍内閣の強行採決は、正義に反していると同時に、「民の心」すなわち「天の心」に反しているという点でも、まさに「覇道」そのものの専制政治ということになろう。

 与党は7月16日に衆議院本会議で強行採決をする方針を決めた。野党は、街頭で「民」にその不当性を訴えている。政権側は、支持率は下がるだろうが国民は時間がたてば忘れるだろうと期待しているという。このような政治を「民」はどのように見て、どのように行動するのだろうか?



2015年7月19日
「違憲」指摘でも安保採決強行 民主主義とは
     (考論 長谷部×杉田)
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11867826.html

 安倍政権は高まる世論の批判を押し切り、安全保障関連法案を衆院通過させた。安倍晋三首相自らが「国民の理解は進んでいない」と認める中での採決の強行だった。長谷部恭男・早稲田大教授と、杉田敦・法政大教授の連続対談は今回、「違憲」との指摘を受けた法案の審議から、民主主義や社会にもたらした影響とその行方を展望する。

 ◆結論を押しつけ「説明」と言う 杉田 / 理解進んだからこそ反対強い 長谷部

 杉田敦・法政大教授 自民、公明の与党が採決を強行し、安全保障関連法案が衆院を通過しました。

 長谷部恭男・早稲田大教授 立憲民主主義の危機が新たな段階に入ったと思います。内閣が、憲法違反の法案を議会に提出したことがすでに危機でしたが、衆院がそれを通してしまった。しかも、安倍首相が米議会で「夏までに成就させる」と約束してしまったので、何としても成立させねばならないという、「個人的事情」への配慮が背景にある。主権者たる国民を何だと思っているのでしょう。

 杉田 「国民に丁寧にわかりやすく説明していきたい」。委員会採決後の、首相の発言には驚きました。説明とは、決める前に、合意形成のためになされるものでしょう。

 長谷部 反論を聞いたり、説得したりする気はまったくないと。

 杉田 自らの結論をただ押しつけることを、安倍さんは「説明」と言っている。福島第一原発事故まで当然視されていた「リスクコミュニケーション」のやり方と似ています。原発が安全だという結論はもう出ている、反対しているのは知識が足りない感情的な人たちだ、専門家が丁寧に説明して安全であることを理解させねばならないと。

 コミュニケーションと言いながら双方向性はなく、「上」からの一方的な「ご説明」です。事故が起きて振り返ってみれば、反対にも合理的な根拠があったことがはっきりしました。

 長谷部 首相は委員会採決の直前に、「国民の理解が進んでいる状況ではない」と答弁しましたが、私は、国民の理解はむしろ進んでいると思います。法案は違憲の疑いが濃く、日本の安全保障に役立ちそうもない。そうした理解が進んだからこそ、反対の声が強いのだと思います。

 杉田 これまでの審議を振り返ると、政府側の答弁はまったく誠実さを欠いていました。どのような場合に集団的自衛権を行使できるのかと聞かれても、安倍さんは「総合的に判断する」と繰り返すばかり。時の政権に白紙委任しろと言っているに等しく、不安が広がるのは当然です。

 長谷部 安全保障で「総合的判断」とぼやかすのは危険です。明確な線を引いておかないと、相手もどこまで行けば攻撃されるのかわからない。偶発的な衝突の可能性がかえって高まります。

 ◆憲法論はずせばブレーキない 杉田 / 「右向け右」自律性なき多数決 長谷部

 杉田 一方で、野党も稚拙だったと言わざるを得ない。衆院憲法審査会で長谷部さんら憲法学者3人の参考人が全員、法案は「違憲」だと指摘し、合憲か違憲かという論点が前面に出た。ところが、野党はその後も、技術的な論点や、政府側の答弁の細かい齟齬(そご)の指摘に時間を費やした。それでは勝負になりません。

 長谷部 危機の想定は無限に可能なので、安全保障をめぐる議論の土俵は構造的に、拡大推進したい側に有利になっています。その傾いた土俵の上では、安倍さん流の「危機に備えるのが政治家の責任」という論法が妙に説得力を持つ。

 杉田 その通りです。今回は安全保障法制なのだから、憲法論に拘泥するのは本質的でないといった批判が、推進側の周辺から出ていますが、それは違う。違憲立法はできないという立憲主義の要請に加えて、日本の戦後においては、合憲か違憲かの線引きという形で、安全保障をめぐる議論が実質的に行われてきた。

 「備えあれば憂いなし」という政治家の論法に対して、内閣法制局などの法律専門家がどうしてブレーキをかけられたのか。それは憲法解釈を争点にしたからです。憲法論をはずしてしまえば、もうブレーキはどこにもない。拡大路線を止めることがいかに難しいかは、戦争の歴史と原発の歴史が示している。そして、それが危ないと国民も思っていることは、「違憲」指摘後の世論の反応にあらわれています。技術論で戦えるなどと過信しているのは野党の政治家だけです。

 長谷部 細かい議論で押しとどめることはむずかしい。どこからが違憲かという議論を通じて「ここまでしかできない」という線をまず引き、その内側で何ができるのかを考えるのが、有効かつ合理的です。

 杉田 そもそも野党は、「違憲だ」と言うだけで十分責任を果たしています。裁判になぞらえれば、検察官である政府・与党の「これが犯人だ」という主張には根拠がないと指摘するのが、弁護士である野党の役割で、立証する責任はあくまで政府・与党の側にある。そのような役割分担で、よりまっとうな結論が得られるようになる。

 「批判するなら対案を出せ」という政府・与党の論法は、検察官が弁護士に「批判するなら真犯人を見つけてこい」と言うようなもので筋が違う。野党の本分は対案を出すことではありません。

 長谷部 結局、いまの政府・与党は、多数決で勝つということでしか自らの正しさを主張できない。確かに「多数決は正しい答えを出す」という定理はあります。ただし、この定理が成り立つには、各人が自らの判断に基づき、自律的に投票することが前提です。

 しかし、自民党も公明党も、執行部が右と言えば右を向き、議員個人が自律的に投票しているわけではない。与党議員が何人投票しようと、実質的な投票総数は「1」。定理が成り立つ前提を欠いており、多数決の結果だから正しいとは言えません。

 ◆危機感、動き出す主権者 長谷部 / 立憲主義浸透、勝負続く 杉田

 杉田 違憲という極めて重大な疑義が法案に突き付けられ、世論の批判も強まっている時に、自民党の内部から、このままではまずいという声がほとんど聞こえてこないのは異常です。首相の「応援団」からは、マスコミを「懲らしめる」という発言まで出ている。

 長谷部 米議会での首相演説に象徴されるように、外国向けには日本は民主主義や人権、法の支配など普遍的な価値を共有していると盛んにアピールしていますが、本音は違うということでしょう。民主主義の根幹である表現の自由を威圧する。法の支配を守らず、政権の思う通りの法案を通そうとする。日本はどんどん中国に似てきています。

 杉田 内閣が提出する法案が憲法違反でないかを事前にチェックしてきた内閣法制局が、首相主導の人事で骨抜きにされ、政権が暴走しやすい状況が生まれている。その上、与党の劣化が進んで立法府は政権の追認機関と化し、司法も十分にチェック機能を果たさない。現在の統治機構には、政権の暴走を止める装置がありません。

 長谷部 だからこそ国民が、このままでは国のかたち、社会のあり方が壊れてしまうとの危機感を募らせ、何とかしなければと動き出しています。敗戦を経て、戦後70年の間に築いてきた立憲民主主義という国のあり方を、これからも維持できるかどうか。それぞれ自分が使える回路を使って、国会に声を届ける。選挙で勝てば何をやってもいいということではない。主権者は白紙委任しているわけではないから、おかしいと思った時は行動に訴える責務があります。

 杉田 法案が衆院を通過しましたが、勝ち負けはまだ決まっていません。たとえば60年安保も、誰が勝ったのか負けたのか、いまだに評価は定まらない。岸信介元首相の安保改定は通ったけれども、反対運動が戦後民主主義を定着させた面があります。法案審議をめぐる議論の中で、今回、立憲主義の意義や、民主主義の価値に対する理解が社会の中でかなり深まった。

 憲法は権力を縛るためにあり、憲法に違反する法律をつくることは、政治体制の転換にも等しい問題なのだという認識が世論に浸透しています。これは非常に大きな成果で、今後の政治のあり方を根本のところで変えていくでしょう。主権者が主権者としてあり続ける限り、勝負は続きます。 =敬称略 (構成・高橋純子)



2015年7月19日 (審議検証 安保法制:4)
答弁あいまい、議論平行線
     政府の裁量、確保狙う
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11867903.html

かみ合わなかった質疑応答の論点

論点
質問
政府の答弁
憲法
集団的自衛権行使容認は憲法違反ではないのか? 必要最小限に限定される。これまでの憲法解釈と整合する。
(横畠裕介内閣法制局長官/6月10日衆院特別委)
多くの憲法学者が「違憲」だと指摘しているのでは? 憲法学者の意見は伝統的に自衛隊を違憲だとするものも多い
(横畠裕介内閣法制局長官/6月5日衆院特別委)
専守防衛の定義は変わったのか? 受動的な防衛戦略の姿勢をいう専守防衛の定義には何ら変更がない
(中谷元・防衛相/5月27日衆院特別委)
集団的自衛権
具体的にどういう時に集団的自衛権を使うのか? 新3要件に当てはまった時。あらかじめは言えない
(安倍晋三首相/6月17日党首討論)
個別的自衛権でも対応できるのではないか? 常に(日本への武力攻撃と)認定できるわけではない
(中谷防衛相/6月29日衆院特別委)
後方支援
重要影響事態にあてはまるのはどういう時か? 我が国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害などの
影響の重要性から客観的、合理的に判断する
(安倍首相/5月28日衆院特別委)
アメリカの戦争に巻き込まれないのか? 我々が主体的に判断する。違法な戦争に協力するこ
とはない
(安倍首相/6月1日衆院特別委)
より戦闘現場に近づけば戦闘に巻き込まれるのでは
ないか?
戦闘行為がないと見込まれる場所を指定する。戦闘
行なわれたら休止、中断する
(中谷防衛相/5月27衆院特別委)
弾薬提供や給油は武力行使との一体化とならないの
か?
現に戦闘行為が行なわれている現場で実施しないか
ら、一体化しない
(中谷防衛相/6月26衆院特別委)
全般
多くの理解が進んでいないのではないか? 60年安保改定の時もPKO法案も国民の理解は進まなか
った。しかしその後、理解や支持がある
(安倍首相/7月15日衆院特別委)

 安倍政権は16日の衆院本会議で、安全保障関連法案を可決、通過させた。論戦の舞台が参院に移るのを前に、国会審議を検証する最終回は、首相らが詳細な説明を避けたり、はぐらかしたりする場面がなぜ多かったのか、議論が深まらなかった原因を考える。

 「残念ながら国民が十分に(法案を)理解している状況ではない」

 今月15日。衆院特別委員会の最後の質疑で安倍晋三首相はこう認めつつ、その直後に採決に踏み切る正当性を強調した。「しかし国会議員は国民から責任を負託されている。国会議員は法案を理解したうえで議論をし、100時間を超える議論を行ってきた」

 だが、特別委で116時間半を重ねた審議では、首相ら政府側が同じ答弁を繰り返したり、抽象的な表現でぼやかしたりする場面が目立った。正面から説明しない姿勢は、法案審議の初日から始まっていた。

 5月26日の衆院本会議。集団的自衛権の前提となる「存立危機事態」とは何か。自民の稲田朋美政調会長が「典型例とはどんな事態か」と問うと、首相はこう答えた。「典型例をあらかじめ示すことはできないが、国民生活に死活的な影響を生じるか否かを総合的に評価して判断する」

 首相はその後も具体的な説明を求められると、「総合的に」「全般的に見て」「客観的に」判断するといった言い方を繰り返した。

 6月17日の党首討論では、民主の岡田克也代表が「どういう時に存立危機事態になるのか」とただした。だが、首相は「政策的な中身をさらすことにもなるから、そんなことをいちいち述べている海外のリーダーはほとんどいない」などと説明を拒んだ。

 岡田氏はこれに対し「今の答弁を聞いて、やはり(法案は)憲法違反と思った。何が憲法に合致し、何が違反するのか、法律できちんと決めなければいけない」「『客観的、合理的に判断』と言うのは判断の丸投げと一緒。白紙委任だ」などと激しく批判した。

 政府側が、法案の条文を読み上げて質問をやり過ごそうとする場面も目立った。野党は、後方支援での活動範囲を「非戦闘地域」から「戦闘が行われていない現場」に広げる危険性を再三ただしたが、中谷元・防衛相は、「戦闘現場となる場合はただちに活動を休止、中断する」との法案のくだりを繰り返した。

 なぜ、あいまいな答弁を繰り返すのか。今回の安保関連法案は集団的自衛権の行使も含め自衛隊の活動を飛躍的に拡大させる。米軍など他国軍による戦争に後方支援という形で関わる可能性も格段に増える。

 防衛省幹部は「将来、どんな事態が起きるのかは分からない。政府が裁量する幅はできるだけ広くしておきたい」と語る。そんな政権の姿勢が、詳しい説明を拒む首相らの答弁につながっている。具体的な説明を求める野党との議論は平行線のままだった。

 政府には、反対意見と向き合い、議論を深めようという態度も欠けていた。

 6月4日の憲法審査会で、参考人意見を述べた憲法学者3人から法案は「違憲」と指摘されると、菅義偉官房長官は会見で「『違憲じゃない』という著名な憲法学者もいっぱいいる」と反論。具体的な人数を問われると「数(の問題)ではない」とはぐらかした。

 首相の答弁にもこうした姿勢がにじんだ。5月28日の特別委では、民主議員に「早く質問しろ」とヤジを飛ばし、陳謝に追い込まれた。今月15日の特別委では、首相は法案への「国民の理解が進んでいない」と認めつつ、現時点での「無理解」は問題ではないとも取れる言葉が飛び出した。

 「60年安保(条約)改定時、PKO法案の時も国民の理解はなかなか進まなかった。しかしその後の実績を見て、多くの国民から理解や支持を得ている」

 ◆「邦人救出」語られず

 衆院では、ほとんど論じられなかった法案や論点も多い。特別委の浜田靖一委員長(自民)が採決後に「法案を10本束ねたのはいかがなものか」と漏らすほど、一括で質疑するには内容が多岐にわたっていたためだ。

 海外でテロリストや武装集団などに拘束された日本人を救出する「邦人救出」については、衆院特別委でほとんど議論されなかった。過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件などで紛争地のリスクに関心が高まったが、新たな安保法案でどこまで対処できるのかは語られなかった。

 法案では、国連平和維持活動(PKO)での自衛隊任務も拡大し、武器の使用基準も緩和される。これについても、踏み込んだ議論は少なかった。特別委の参考人質疑で、伊勢崎賢治・東京外大大学院教授は「停戦合意が破られても撤退できない」と、PKOの現場の危険性を指摘した。しかし、首相は野党の質問にも「停戦合意をはじめ参加5原則が前提」と原則論を述べるにとどまっている。

 安保法案と連動する形で、18年ぶりに改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)をめぐる議論も乏しかった。自衛隊は米軍にどこまで協力するのか。なぜ米軍以外にオーストラリア軍なども連携対象に追加するのか。安保政策と密接不可分な外交政策についても参院での論戦が期待される。(三輪さち子)=おわり