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折々の記 2015 ⑥
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 09 】08/18

  08 18 コオロギ   悦の現前
  08 18 烏合の衆   自己保存の無意識的本能
  00 00 イラク南部ルメイサの教訓   温故知新の基本を守れ
  08 20 山本太郎議員、痛快な追求   阿修羅♪

 08 18 (火) コオロギ     悦の現前

この地方では八月の七夕になると、チチチチチチチチ・・・・・・・・・・・ (小さい鳴き声の連続音) というコオロギのはしりが鳴きはじめる (おそらく‘クロツヤコオロギ’と思う) 。 そして一週間後にはいろいろな種類のコオロギの鳴き声が聞こえるようになる。

異常気象といわれる猛暑の夏だったが、お盆の朝夕の冷気はまちがいなくやってきている。 コオロギが間違えるようなことはない。

自然現象に目を凝らしたり耳をそばだてたり・・・そして自然から受けとれる様々な意味合いを、人間は言葉やその他の手立てでいろいろと表現してきた。

それは、歌人であり詩人であり、音楽家であり画家であり、華道や茶道にいそしむ人であり、自然科学者であったりします。

それは例えば‘空にさえずる鳥の声 峰よりおつる瀧の音’…… 「天然の美」の歌詞に現われたりします。

    空にさえずる 鳥の声
    峯(ミネ)より落つる 滝の音
    大波小波 とうとうと
    響き絶やせぬ 海の音
    聞けや人々 面白き
    この天然の 音楽を
    調べ自在に 弾きたもう
    神の御手(オンテ)の 尊しや

    春は桜の あや衣(ゴロモ)
    秋はもみじの 唐錦(カラニシキ)
    夏は涼しき 月の絹
    冬は真白き 雪の布
    見よや人々 美しき
    この天然の 織物(オリモノ)を
    手際(テギワ)見事に 織りたもう
    神のたくみの 尊しや

また、金子みすずの

      大漁

    朝焼け小焼けだ
    大漁だ

    大羽鰮(いわし)の
    大漁だ

    浜は祭りのようだけど

    海の底では何万の
    鰮(いわし)のとむらい
    するだろう

に現われたりします。 この「大漁」の詩は、人の歓びとその対象となっているオオバイワシの悲劇に想いを向けた金子みすずの達観の心情が現われていると思います。

詩人、歌人、音楽家、等など才能があれば、自然の受けとめをほかの人へ少しでも伝えることができる。 悦の現前と言うべきか。

   

        粒々つぶつぶの小さき命咲ききりて
               棕櫚しゅろ萎花なえばなしきこぼれ落つ
      下平ソノ

        降りて来し春の小蜘蛛こぐもいとしかり
               肌柔はだやわらかにとおりゐて
      下平ソノ



下平ソノは私の母です。 老生の敬愛してやまなかった養母です。 長野日赤従軍看護婦長としてインパール作戦に参加し、尽きせない苦労に耐えとおし敗戦によって帰国しました。 その後短歌を始め、命の尊さに通じた自然の姿を見据えた歌が多くあったのです。

八月のお盆が近づくと、厠の小窓を開けて耳をすませる癖になった。 現代は便利になって、PCで‘虫の声’を検索し 「虫の音WORLD」を選んで調べるとコオロギでは43種類の映像とその鳴き声を見たり聴いたりできるのです。

大自然の営みにはホトホト頭が下がります。 イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが、1633年に開かれた2回目の異端審問(宗教裁判)の際につぶやいた「それでも地球は廻る」という言葉があると言われています。

   それでも地球は廻る

   どんなに気象が異常になっても

   時に応じてコオロギは鳴き始める

   どんなに人が愚(オロ)かになっても

   もろもろの異常が世の中に起ころうとも

   それでも地球は廻る

   それは間違いない


 08 18 (火) 烏合の衆     自己保存の無意識的本能

烏合の衆という言葉は、運動会棒倒し種目が始まるときに出てきた言葉だった。 カラスが集まった集団という字面だから堅い意思をもった集団ではないと一般的に思っていた。

年齢を重ねるうちに釧路での馬の放牧では馬はお互いに連れ立った集団であることに気づかされたし、カラスでなくとも、スズメにしても群れをなすことを絶えず見てきた。

退職してからアフリカの動物の放映では多くの動物は集団を作って集団防衛をして生きていく方法を採っていることを見てきた。

それは無意識のうちでの本能的対処法であった。 そしてそれは親子集団の生存対処法が基本になっていた。 さらにそれは宗教で言う「愛」とか「涅槃」とか「恕」とか「祈り」が生まれてきた基盤であった。

人間はこうした習性はないのだろうと思っていたが、実はおおありだった。

人間社会にはいろいろの角度からまとまる集団がある。 家族と家族、部落と部落、学年と学年、等々、時に応じた集団社会によって活動していたのです。

甲子園で行なわれている夏の都道府県別の選抜野球がある。 選抜地域としての利害はまったくないのに、気持の上では所属する地域の応援をする。 勝っても負けてもどうということはないのに、皆一生懸命になって気持が高ぶる。 選抜野球がすんで半年もたてば、選抜野球の勝敗にこだわる人はほとんどいない。

山口県からは明治以降総理大臣が50年おきに出ているという(伊藤博文・山県有朋・桂太郎・寺内正毅・田中義一・岸信介・佐藤栄作・安倍晋三・菅直人の9人)。 それを山口県出身の安倍総理が郷里へ帰ったときの集会で気勢を上げて今後の活躍を期待していた。 他県の人から見ると、総理としての発言としては気持はわかるがセクトが過ぎて嫌味である。……いつまでも長州が続いている……

こうした烏合の衆の組織には、並立競争から見ると気持をかきたてる面があるが、競争の性格上、排他的気質を醸成しやすい面もある。

グローバルな意味では戦争時代を卒業しなければならないのに、一部の人々の中には集団優位保存の気質を煽って排他的競争へと進みたがる人がいる。

この大きなグローバル的課題、この大きな歴史的課題をどう取扱うか?

それが現代人の取組まなければならない大きな課題です。


 08 20 (木) 「2005年12月4日、イラク南部ルメイサ」 の教訓     温故知新の基本を守れ

いま与党は何でも安全保障関連法案(安保法案)を国会会期中に可決しようとしている。 いわゆる戦争法案とも呼ばれ、憲法違反の法案と危惧されている。


2015年8月20日03時54分  温故知新の基本を守れ

銃声、群衆が陸自包囲 撃てば戦闘…サマワ駐留隊員恐怖
     「2005年12月4日、イラク南部ルメイサ」の教訓を生かすべきです
     http://digital.asahi.com/articles/ASH8C4VLCH8CUTFK00F.html?iref=comtop_6_02

 自衛隊初の「戦地派遣」となったイラクで、隊員たちは危険と隣り合わせの活動を強いられた。政府は当時、「一人の犠牲者も出さなかった」と安全性を強調したが、実際は隊員が銃を撃つ判断を迫られるなどの事態が起きていた。陸上自衛隊が2008年に作った内部文書「イラク復興支援活動行動史」や関係者の証言で明らかになった。新たな安全保障関連法案では活動範囲がより拡大し、危険はさらに高まる。

 突然、銃撃音と怒声が響いた。自衛隊が駐留したイラク南部サマワから約30キロ離れた街ルメイサ。活動開始から2年近くになる2005年12月4日、復興支援群長の立花尊顕(たかあき)1佐ら幹部たちはムサンナ県知事らと、修復した養護施設の祝賀式典に参列していた。

 発端は、会場のそばで起きた反米指導者サドル師派と、自衛隊を警護していた豪州軍の銃撃戦だった。サドル師派は頻繁に多国籍軍を襲撃し、自衛隊も「占領軍」と敵視した。会場内の陸自幹部たちは「ただ事ではすまない」と青ざめた。

 銃撃戦に続き「ノー・ジャパン」などと抗議しながら押し寄せた群衆の渦は、あっという間に100人前後に膨らんだ。幹部らは建物に閉じ込められ、外で警備にあたっていた十数人の隊員は群衆に包囲された。車両に石を投げつける男、ボンネットに飛び乗って騒ぐ男、銃床で車の窓をたたき割ろうとする男までいた。

 「どうすべきかわからず、みんな右往左往していた」と当時の隊員は話す。

 群衆の中には銃器をもつ男たちもいた。もし銃口が自分たちに向けられたら――。政府が認めた武器使用基準では、まず警告し、従わなければ射撃も可能だ。

 「ここで1発撃てば自衛隊は全滅する」。どの隊員も、1発の警告が全面的な銃撃戦につながる恐怖を覚えた。「撃つより撃たれよう」と覚悟した隊員もいた。結局、地元のイラク人に逃げ道を作ってもらい窮地を脱することができた。

 事件は首相官邸にも報告された。当時、官房副長官補だった柳沢協二氏は「もしあそこで撃っていたら銃撃戦になっていた。一番やばい事件だった」と話す。別の官邸幹部も「自衛隊員が引き金に指をあてるところまで行った事件だったと聞いた」。ルメイサ事件は「行動史」にも繰り返し登場する。当時、陸上幕僚長だった森勉氏は「それだけ危険だったからだ」と認める。

 こんな記述がある。

 「適確に現場の状況を把握しながら冷静に行動した(銃を所持している者は部隊に銃口を向けることはなかったため、弾薬装塡(そうてん)は実施せず)。背景として、類似した状況を反復して訓練した実績があった」

 しかし、発端の銃撃戦には触れず、実情とも開きがある。現場にいた隊員は「生の迫力は違う。自分が殺されるかも知れないという緊張感だった」と言う。

 陸自は2年半の活動中、ほかにも13回に及ぶロケット弾などの宿営地攻撃、仕掛け爆弾による車両被害などの危険に遭遇した。

 当時の小泉政権はイラク復興支援特措法で、派遣期間を通じて戦闘が起こる可能性がない「非戦闘地域」という概念を作った。政府は「非戦闘地域の中で、安全な場所に自衛隊を派遣する」と説明していた。だが、一見安全と見える派遣先は、瞬時に惨事の現場となる怖さを秘めていた。

■「非戦闘地域」すら危険

 当時の小泉政権は、イラク復興支援特措法で、派遣期間を通じて戦闘が起こる可能性がない「非戦闘地域」という概念を作った。政府は「非戦闘地域の中で安全な場所に派遣する」と説明していた。しかし、陸自は自らの安全確保のため、強力な武器を携行し高度な射撃術を身につけて、最悪の事態に備えていた。

 陸自の内部文書「イラク復興支援活動行動史」には、「至近距離射撃と制圧射撃を重点的に練成して、射撃に対する自信を付与した」という記述がある。

 自衛隊の射撃に詳しい元幹部によると、至近距離射撃は間近であった不意の襲撃への対処を、制圧射撃は敵対勢力を制止するための組織的な対処を意味するという。いずれもテロリストや暴徒の襲撃を想定した撃ち方だ。北海道で制圧射撃を訓練した警備担当は「襲撃を受けて窮地に陥った時、小銃や機関銃を使って相手の攻撃を制止させ、現場から離脱するのが目的だった」と話す。

 自衛隊がとりわけ力を入れたのが至近距離射撃の訓練だ。多国籍軍への襲撃事例を分析し、間近からのテロ襲撃が最も危険と判断したからだ。

 ところが派遣が決まった2003年当時、陸自には至近距離射撃と定義された撃ち方はまだなかった。射撃といえば約300メートル先の目標を狙うのが一般的で、10メートルを切るような射撃は射場規則で禁じられていた。指導できる要員も乏しく、特殊部隊の創設準備のため米軍で射撃術を学んだ一部の隊員たちが教官役として駆り出された。精密な照準装置、小銃を素早く操作するための改造など様々な工夫が取り入れられた。

 テロリストが相手だと、一瞬の判断の遅れが命取りになる。口頭でまず警告。従わなければ足元に威嚇射撃。次は相手にダメージを与える危害射撃と手順を踏む。一連の動作に要するのはわずか4~5秒だ。

 だが、大半の隊員が人をかたどった標的を撃つことをためらった。射撃の指導幹部は「迷ったら撃て」と強く促した。「行動史」にも「武器使用に関する部隊長の意識」の項に、「最終的には『危ないと思ったら撃て』との指導をした指揮官が多かった」と記されている。

 派遣部隊が備えたのは射撃だけではない。朝日新聞が入手した隊員向けのマニュアル(全84ページ)には「不測事態対処」として、銃撃や自爆テロ、デモ・暴動など10のケース別に「行動原則」を定めていた。

 例えば宿営地への自爆テロ攻撃は、最低15メートル以上の距離で「テロか否かを判断」し攻撃と判明した時点で武器使用を認めていた。

 当時の武器使用基準の枠内では、自分や周囲にいる人が襲われた際の「自己保存」のためにしか武器を使えなかった。

 それでも従来のPKOなどの海外派遣の際にはなかったもので、マニュアル作成に関わった幹部は「憲法9条が許すぎりぎりの限界内だった」としたうえで、こう語った。「政権が『非戦闘地域は安全』と言っても、最悪に備えるのが我々の本務だ」(谷田邦一)

■「訓練だけでリスク減らせない」

 行動史では当時の指揮官がイラク派遣を「本当の軍事作戦」と総括している。行動史や取材からは「非戦闘地域」が実態とかけ離れた虚構だったことがうかがえる。

 サマワは、イラクを視察した外務、防衛両省庁の担当者が5カ所ほど挙げた候補地の一つだった。サマワはその中で最も地味だったという。「こんな田舎に行って国際社会に国際貢献をアピールできるのか」。小泉純一郎首相(当時)の秘書官だった小野次郎氏(現参院議員)が疑問を挟むと、小泉氏は「地味でいい。国際貢献ってのは何年間か行って、こちらが無事で相手を傷つけずに帰ってくれば、立派な国際貢献になるんだ」と言ったという。派遣先はサマワに決まった。

 自衛隊はサマワで、イラク特措法に基づいて、壊れた学校を補修し、住民に水を配った。小野氏は「民間の運送会社や建設会社がやる仕事を、ちょっと危険な場所だから自衛隊に頼む程度だった」と振りかえる。そんなサマワでも宿営地にロケット弾が撃ち込まれることが何度もあった。「ルメイサ事件」では銃撃戦に巻き込まれかけた。

 今回の安保法案では、自衛隊が後方支援や平和維持活動ができる地域がイラクに比べて格段に広がることになる。非戦闘地域という考え方をなくし、法律上「現に戦闘行為が行われている現場」以外ならば活動できるからだ。ただ、活動範囲を非戦闘地域に限ったイラクでさえ、一見安全な場所が突然、惨事の現場に変わりかけた。

 さらに他国軍への弾薬の提供が可能になり、海外での武器の使用基準も拡大する。例えば、現在自衛隊がPKOで派遣されている南スーダンでは、幹線道路の整備や大学の敷地造成など土木工事を担っている。安保法案が成立すれば、他国の部隊や民間の非政府組織(NGO)が危険にさらされたとき、武器を持って助けに行く「駆けつけ警護」や、武器を持ってのパトロールや検問も可能になる。「自己保存」のためだけに武器を使ったイラクの場合と比べ、武器を使うおそれは高まる。

 安保法案の国会審議では、野党は自衛隊の活動範囲が広がることで「隊員のリスクが増える」と指摘した。これに対し、安倍首相は「装備も整え、訓練を積んでいくことで、自らの努力でリスクは減らせる」と強調している。ただ、過去にPKOを経験した陸自幹部の一人は言う。「どんなに訓練を重ねてもそれだけでリスクを減らせるほど海外派遣は単純ではない。隊員のリスクが拡大することを前提に、政治には真剣に向き合って欲しい」

(今野忍)

 当時の小泉政権は、イラク復興支援特措法で、派遣期間を通じて戦闘が起こる可能性がない「非戦闘地域」という概念を作った。政府は「非戦闘地域の中で安全な場所に派遣する」と説明していた。しかし、陸自は自らの安全確保のため、強力な武器を携行し高度な射撃術を身につけて、最悪の事態に備えていた。

 陸自の内部文書「イラク復興支援活動行動史」には、「至近距離射撃と制圧射撃を重点的に練成して、射撃に対する自信を付与した」という記述がある。

 自衛隊の射撃に詳しい元幹部によると、至近距離射撃は間近であった不意の襲撃への対処を、制圧射撃は敵対勢力を制止するための組織的な対処を意味するという。いずれもテロリストや暴徒の襲撃を想定した撃ち方だ。北海道で制圧射撃を訓練した警備担当は「襲撃を受けて窮地に陥った時、小銃や機関銃を使って相手の攻撃を制止させ、現場から離脱するのが目的だった」と話す。

 自衛隊がとりわけ力を入れたのが至近距離射撃の訓練だ。多国籍軍への襲撃事例を分析し、間近からのテロ襲撃が最も危険と判断したからだ。

 ところが派遣が決まった2003年当時、陸自には至近距離射撃と定義された撃ち方はまだなかった。射撃といえば約300メートル先の目標を狙うのが一般的で、10メートルを切るような射撃は射場規則で禁じられていた。指導できる要員も乏しく、特殊部隊の創設準備のため米軍で射撃術を学んだ一部の隊員たちが教官役として駆り出された。精密な照準装置、小銃を素早く操作するための改造など様々な工夫が取り入れられた。

 テロリストが相手だと、一瞬の判断の遅れが命取りになる。口頭でまず警告。従わなければ足元に威嚇射撃。次は相手にダメージを与える危害射撃と手順を踏む。一連の動作に要するのはわずか4~5秒だ。

 だが大半の隊員が人をかたどった標的を撃つことをためらった。射撃の指導幹部は「迷ったら撃て」と強く促した。「行動史」にも「武器使用に関する部隊長の意識」の項に、「最終的には『危ないと思ったら撃て』との指導をした指揮官が多かった」と記されている。

 派遣部隊が備えたのは射撃だけではない。朝日新聞が入手した隊員向けのマニュアル(全84ページ)には「不測事態対処」として、銃撃や自爆テロ、デモ・暴動など10のケース別に「行動原則」を定めていた。

 例えば宿営地への自爆テロ攻撃は、最低15メートル以上の距離で「テロか否かを判断」し攻撃と判明した時点で武器使用を認めていた。

 当時の武器使用基準の枠内では、自分や周囲にいる人が襲われた際の「自己保存」のためにしか武器を使えなかった。

 それでも従来のPKOなどの海外派遣の際にはなかったもので、マニュアル作成に関わった幹部は「憲法9条が許すぎりぎりの限界内だった」としたうえで、こう語った。「政権が『非戦闘地域は安全』と言っても、最悪に備えるのが我々の本務だ」

 (谷田邦一)

 ■安保法案、武器使用の可能性増す

 行動史では当時の指揮官がイラク派遣を「本当の軍事作戦」と総括している。行動史や取材からは「非戦闘地域」が実態とかけ離れた虚構だったことがうかがえる。

 サマワは、イラクを視察した外務、防衛両省庁の担当者が5カ所ほど挙げた候補地の一つだった。サマワはその中で最も地味だったという。「こんな田舎に行って国際社会に国際貢献をアピールできるのか」。小泉純一郎首相(当時)の秘書官だった小野次郎氏(現参院議員)が疑問を挟むと、小泉氏は「地味でいい。国際貢献ってのは何年間か行って、こちらが無事で相手を傷つけずに帰ってくれば、立派な国際貢献になるんだ」と言ったという。

 自衛隊はサマワで、イラク特措法に基づいて、壊れた学校を補修し、住民に水を配った。小野氏は「民間の運送会社や建設会社がやる仕事を、ちょっと危険な場所だから自衛隊に頼む程度だった」と振りかえる。そんなサマワでも宿営地にロケット弾が撃ち込まれることが何度もあった。「ルメイサ事件」では銃撃戦に巻き込まれかけた。

 今回の安保法案では、自衛隊が後方支援や平和維持活動ができる地域がイラクに比べ格段に広がる。非戦闘地域という考え方をなくし、法律上「現に戦闘行為が行われている現場」以外ならば活動できるからだ。ただ、活動範囲を非戦闘地域に限ったイラクでさえ、一見安全な場所が突然、惨事の現場に変わりかけた。

 さらに他国軍への弾薬の提供が可能になり、海外での武器の使用基準も拡大する。例えば、現在自衛隊がPKOで派遣されている南スーダンでは、幹線道路の整備や大学の敷地造成など土木工事を担っている。安保法案が成立すれば、他国の部隊や民間の非政府組織(NGO)が危険にさらされたとき、武器を持って助けに行く「駆けつけ警護」や、武器を持ってのパトロールや検問も可能になる。「自己保存」のためだけに武器を使ったイラクの場合と比べ、武器を使うおそれは高まる。

 安保法案の国会審議では、野党は自衛隊の活動範囲が広がることで「隊員のリスクが増える」と指摘した。これに対し、安倍首相は「装備も整え、訓練を積んでいくことで、自らの努力でリスクは減らせる」と強調している。ただ、過去にPKOを経験した陸自幹部の一人は言う。「どんなに訓練を重ねてもそれだけでリスクを減らせるほど海外派遣は単純ではない。隊員のリスクが拡大することを前提に、政治には真剣に向き合って欲しい」

 (今野忍)

     ◇

 〈自衛隊のイラク派遣〉 イラク復興支援特別措置法に基づき、2003年12月から09年2月にかけ、陸上自衛官延べ約5600人、航空自衛官延べ約3600人などを派遣した。陸自はイラク南部サマワに宿営地を設け、学校や道路の修復、医療支援などをした。空自はクウェートに拠点を設け、イラクの首都バグダッドなどへ多国籍軍兵士らを空輸する活動を担った。

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(読みとき 安保国会)Q10:自衛隊参加のPKOも変わる? Q11:国会の役割は?
     http://digital.asahi.com/articles/DA3S11906830.html?iref=reca

 参院で審議が続く安全保障関連法案の論点を読みとくシリーズの最終回は、活動内容が大きく変わる国連平和維持活動(PKO)と、国会のチェック機能について考える。

 ■Q10:自衛隊参加のPKOも変わる? 武器を使う場面も増える?

 Q 新たな法案ができると、自衛隊が加わる国連平和維持活動(PKO)も変わるって聞いたけど?

 A 自衛隊はこれまでもPKOに参加してきたけれど、活動メニューが増えるんだ。離れた場所にいる他国のPKO部隊や民間の非政府組織(NGO)が危険にさらされた時、武器を持って助けに行く「駆けつけ警護」もできるようになる。安倍晋三首相も衆院での審議で「武器を持って警護するだけで相当変わる」と効果を強調したよ。

 Q 自衛隊が武器を使う場面も増えるってこと?

 A そうだね。新たな法案では武器の使用基準も緩和される。これまでは「自己保存」=自分や周囲にいる人が襲われた時にしか武器を使えなかったが、「任務遂行」のためにも使えるようになるんだ。

 Q 「任務遂行」って?

 A 駆けつけ警護も新たに認められる任務だけれど、ほかにも現地住民を守るためにパトロールしたり、検問をしたりする任務を行う際にも武器が使えるようになる。

 Q NGOや現地の人の安全に役立つと言える?

 A 国会審議では与党からメリットを強調する意見も出たが、野党からは「派遣先の国情や治安が混乱していると、武器使用基準の緩和は自衛隊のリスクをより高める可能性もある」との指摘も出ているね。

 Q 政権は、国連のPKOじゃなくても、自衛隊を派遣できるようにしようとしていると聞いたよ。

 A PKOに似た活動のことだね。例えばイラク戦争の後、政府は期限付きの法律を作って、自衛隊をイラク・サマワでの人道復興支援活動に派遣した。PKOの枠組みじゃないけれど、活動内容は道路を補修したり、住民に水を配ったりするなど、PKOに似ていた。今回の法案では、国会の承認があればいつでもこうした活動に自衛隊を派遣できるようになる。

 Q 国連以外からの要請でも行けるようになると、歯止めがなくならない?

 A 政権は新たな法案のもとでも、派遣先の国の同意や停戦合意など「PKO参加の5原則」は引き続き守ると説明している。中谷元・防衛相は「国連以外」で派遣要請を想定する組織として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や欧州連合(EU)を挙げている。でもPKO見直しについては、これまでの国会質疑でもあまり議論されなかった。今後、十分な審議を期待したいね。

 (今野忍)

 ■Q11:国会の役割は? もし法案が成立したら仕事は終わりなの?

 Q 今回の安全保障関連法案の審議を見ても、国会の役割は大切だよね。でも法案が仮に成立したら、国会の仕事は終わりなの?

 A そんなことはないよ。国会は憲法で「国権の最高機関」と定められている。政府が自衛隊の海外派遣を決めても国会の承認がなければ派遣できないんだ。

 Q 国会の承認って、多数決で決めること?

 A そうだね。今の自衛隊法などに基づいて国を守るために自衛隊を出動させたり、周辺事態法で米軍の後方支援のために自衛隊を派遣したりする際は、国会で事前に承認を得る必要がある。内閣が自衛隊を勝手に動かさないよう「歯止め」をかけるためだ。ただ、緊急時にはいずれも事後承認が認められている。

 Q 新たな法案では国会の役割はどうなるの?

 A 原則として事前、例外として事後承認も認める仕組みは変わらない。ただ、他国軍を後方支援するためにできた「国際平和支援法案」は例外なき事前承認となった。法案では政府が国会に承認を求めてから、衆参でそれぞれ7日以内の承認を求めているよ。

 Q 具体的には何を国会でチェックするの?

 A 例えば、国際平和支援法案では、首相は自衛隊を派遣する理由や活動範囲などを定めた基本計画を示し、国会に承認を求める。ただ、自衛隊の活動に関する情報が特定秘密法で開示されない「特定秘密」に当たるとして、政府が詳細な説明を拒む可能性も指摘されているね。

 Q 本当に派遣すべきなのか、必要な情報がなければ判断できないのでは?

 A そうだね。中谷元・防衛相は国会で「情報の入手ソース、具体的数値そのものは明示しない形で情報を整理し、特定秘密にかからないよう根拠を示す」と答えている。国会がチェック機能を果たすためには、政府がどこまで説明責任を果たすべきなのか。これからの参院審議でも議論を尽くす必要があるね。

 Q とは言っても、与党が多数を占める国会だと、政府の決定を追認するだけになる心配はない?

 A 英国では2013年、政権が米国とともに武力でシリアを攻撃することを認めるよう議会に動議可決を求めた。しかし、世論の反発を受けて議会は動議を否決し、政権は軍事介入を断念した。日本でも、国会議員が国民の代表として冷静に判断できるかが問われているね。

 (安倍龍太郎)

 =おわり



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 08 18 (火) 山本太郎議員、痛快な追求     阿修羅♪

えらい記事が出ていました。 本当なら、とんでもない事だし「アメリカ従属の同盟国」として打算と従属が基本になっていると言わざるをえない。


阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK190 > 903.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 8 月 19 日 17:00:05


山本太郎議員、痛快な追求
     戦争法案はアメリカのリクエスト通り
     コバンザメを続ける気ですか!
     誰の国なんだ、この国は!

     http://www.asyura2.com/15/senkyo190/msg/903.html

参議院特別委、「米国からの指示書」と言われるくらい安保法制と内容が重なる 「第3次アーミテージ・レポート」について、山本太郎議員が追求。「戦争法案はアメリカのリクエスト通り。こういうの完コピっていうんですよ。誰の国なんだ、この国は!」
2015年8月19日 12:20

アーミテージ・レポートを「民間のシンクタンクの提言だから……」と無関係を装う岸田&中谷。山本太郎議員、アーミテージとナイが官邸を訪問した写真を出して、「民間人と随分、懇意ですよね。よくやったと、褒めに来てくれたんでは? 」
2015年8月19日 12:30

山本太郎議員「いつまで、(アメリカの)コバンザメを続ける気ですか? 出されたリクエスト、すべてやるんですか? アメリカの、アメリカによる、アメリカのための戦争法案は、廃案しかありえない!」で、午前の質問は終了。午後の質問(4時半くらい)にも期待!
2015年8月19日 12:36



『田中龍作ジャーナル』  最新記事

山本太郎議員、永田町最大のタブーを追及 シラを切る政府
     http://tanakaryusaku.jp/

 多くの人が知っているが誰も怖くて言えなかったことを、あの男が口にしてしまった。それも国会という公の場で。

 この国の政策はアメリカの対日要求に沿って決められているのではないか ― 山本太郎議員がきょうの安保特委でこう追及したのである。

 「永田町ではみんな知ってるけれど、わざわざ言わないことを質問していきたいと思います」。タブーに挑む山本議員らしい切り出しだった。

 山本議員は「第3次アーミテージ・ナイレポート~日本への提言9項目(2012年8月)」を特大のフリップで掲示した。

第三次アーミテージ・ナイレポート (2012年8月)
                                       ~ 日本への提言9項目 ~
 原発の再稼働
 海賊対処・ペルシャ湾の船舶交通の保護、
 ジーレーンの保護、イラン核開発への対処
 TPP交渉参加~日本のTPP参加は米国の戦略目標
 日韓「歴史問題」直視・日米韓軍事的関与
 インド・オーストラリア・フィリピン・台湾等の連携
 日本の領域を超えた情報・監視・偵察活動
 平時・緊張・危機・戦時の米軍と自衛隊の全面協力
 日本単独でホルムズ海峡に掃海艇を派遣
 米軍との共同による南シナ海における監視活動
 日米間の、あるいは日本が保有する国家機密の保全
 国連平和維持活動(PKO)の法的権限の範囲拡大
その他
10
 集団的自衛権の禁止は同盟にとって障害だ
11
 共同訓練、兵器の共同開発、ジョイント・サイバー・セキュリティセンター
12
 日本の防衛産業に技術の輸出を行なうよう働きかける

 日本の政策がすべて米国のリクエスト通りになっていることを山本議員は指摘したのである。

 安倍晋三首相が 何とかの一つ覚え のように「ホルムズ海峡」を連呼していた時期があった。アーミテージリポートに忠実だったのである。

 図星を突かれた政府側の答弁は見苦しい、いや聞き苦しかった。

 岸田文雄外相は「(アーミテージリポートは)あくまでも民間の報告書ですので政府の側から逐一コメントすることは控える」としながらも「ご指摘の報告書(アーミテージリポート)を念頭に作成したものではない」とシラを切った。

 中谷元防衛相はさすがにウソをつくのがヘタだ―「結果として重なっている部分もあるが、あくまでも我が国の主体的な取り組みとして検討、研究をして作った」。中谷大臣は少なくとも同一であることを認めたのである。

 日本が米国の言いなりになっていることが、天下にさらされたのだ。

【写真】
「いつまで没落間近の大国のコバンザメを続ける気ですか?」。山本議員の質問は容赦がなかった。=19日、参院安保特委 写真:山本太郎事務所

 山本議員はトドメを刺すことも忘れていなかった。質問の最後を次のように締めくくった―

 「これだけ宗主国様に尽くし続けているのにもかかわらず、その一方でアメリカは同盟国であるはずの日本政府の各部署、大企業などを盗聴し・・・いつまで(米国にとって)都合のいい存在で居続けるんですかってお聞きしたいんですよ。いつ植民地をやめるんですか?」

 「中国の脅威というなら自衛隊を世界の裏側まで行けるような状態を作り出すことは、この国の護りが薄くなるっていう事ですよ」。

 山本議員の追及に溜飲を下げる国民は少なくない。「目からウロコ」の人もいるだろう。

 しかし「対等なパートナーシップ」を掲げた鳩山政権は、米国と官僚と記者クラブメディアに潰された。庶民に寄り添う政治家は、権力にとって不都合なのである。

 ~終わり~

  ◇    
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田原総一朗の政財界「ここだけの話」

安保関連法案は「第3次アーミテージ・ナイレポート」の要望通り?
     2015.06.11
     http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/100463/061100016/?P=1

 今国会の焦点となっている安全保障関連法案について、安倍内閣は審議を早く進めようと必死になっている。

 ところが6月4日、衆院憲法審査会に識者として呼ばれた憲法学者3人が全員、「集団的自衛権は違憲だ」としてノーを突きつけたため、政府は違憲論を封じるため躍起になっている。

◆ 安保関連法案は「これまでの定義を踏み越え、憲法違反」

 自民党、公明党、次世代の党が推薦した早稲田大学法学学術院教授の長谷部恭男氏は、「集団的自衛権の行使が許されることは、従来の政府見解の基本的論理の枠内では説明がつかず、法的安定性を大きく揺るがすもので憲法違反だ」と述べた。

 民主党が推薦した慶応義塾大学名誉教授で改憲論者として知られる小林節氏は、「仲間の国を助けるため海外に戦争に行くことは、憲法9条に明確に違反している」と述べた。また、小林氏は戦争を強盗にたとえて、「長谷部先生が銀行強盗して、僕が車で送迎すれば、一緒に強盗したことになる。露骨な戦争参加法案だ」と批判した。

 さらに維新の党が推薦した早稲田大学政治経済学術院教授の笹田栄司氏は、「内閣法制局は自民党政権と共に安全保障法制を作成し、ガラス細工と言えなくもないが、ギリギリのところで保ってきていた。しかし、今回の関連法案はこれまでの定義を踏み越えており、憲法違反だ」と述べた。

◆ 日本は一流国か二流国かを問うた「アーミテージ・ナイレポート」

 小林氏によれば「日本の憲法学者は何百人もいるが、(安保関連法案が違憲ではないと言う人は)2、3人しかいない」という。それほど「学説上の常識、歴史的常識」であるにもかかわらず、安倍政権はなぜ、安保関連法案は「憲法に適合するものだ」という見解をまとめ、法案の早期成立を急ぐのか。

 その根拠とも考えられるのが「第3次アーミテージ・ナイレポート」(The U.S.-Japan Alliance――anchoring stability in asia)だ。

 これは、米国のリチャード・アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイ元国務次官補(ハーバード大学特別功労教授)を中心とした超党派の外交・安全保障研究グループが2012年8月15日に公表した報告書である。

 海上自衛隊幹部学校・戦略研究グループがウェブサイトで「第3次アーミテージ・ナイレポート」の概要について紹介している。

 レポートでは、「同盟の漂流」というキーワードを使いながら、「世界で最も重要な同盟関係である『日米同盟』が瀕死の状態にある」とする。

 そして、「日本が今後世界の中で『一流国』であり続けたいのか、あるいは『二流国』に甘んじることを許容するつもりなのか」と問いかけ、「一流国」であり続けようとするのなら、「国際社会で一定の役割を果たすべきである」という見解を示している、というのだ。

◆  自衛隊の「時代遅れの抑制」とは何か

 レポートでは、自衛隊について「日本で最も信頼に足る組織である」と評価する一方で、自衛隊の「時代遅れの抑制」を解消することが大事だと説く。

 「時代遅れの抑制」の解消とは何か。私の解釈では、それは「専守防衛と一国平和主義を見直せ」ということだろう。

 日本は防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃は行わず、攻撃を受けてからはじめて軍事力を行使するという「専守防衛」を基本の考えとしている。また、日本は他国への軍事介入を否定し、いわば一国平和主義でやってきた。

 この専守防衛と一国平和主義が「時代遅れの抑制」であり、それを解消すべきだというのだろう。日本は、世界のことに関心を持ち、きちんと発言し、必要な行動をすべきだとレポートは指摘している。

 そしてまさに今、国会で審議されている安保関連法案はレポートのテーマに沿った内容になっているといってもいいのだ。

 レポートには突然、「ホルムズ海峡」と「南シナ海」の二つの言葉が出てくる。ともに日本へ石油エネルギー資源を輸送するルートであり、日本の安全と安定に深刻な影響を及ぼす地域だという指摘だろう。

◆ ホルムズ海峡への掃海艇を日本は単独で派遣せよと「レポート」

 今回の安保関連法案で安倍内閣は「周辺事態法」を「重要影響事態法」に変えようとしている。1999年、小渕内閣のときに成立した「周辺事態法」は、朝鮮半島など日本周辺地域で有事が起きた際に自衛隊も行動するというもので、地理的な制約がある。しかし、新しい「重要影響事態法」によって、自衛隊の活動範囲は地球規模に拡大されることになる。

 なぜ安倍内閣は「ホルムズ海峡での掃海作業」を言い出したのか。「第3次アーミテージ・ナイレポート」を読むと、はっきりと「イランがホルムズ海峡を封鎖する意図もしくは兆候を最初に言葉で示した際には、日本は単独で掃海艇を同海峡に派遣すべきである」と言及しているからだ。それを実現するには、「周辺事態法」を改正して地球の果てまで行けるようにせざるを得なかった、ということが改めてよくわかる。

 レポートは日本の「武器輸出三原則の緩和」についても指摘している。「米国は、『武器輸出三原則』の緩和を好機ととらえ、日本の防衛産業に対し、米国のみならずオーストラリアなど他の同盟国に対しても、技術の輸出を行うよう働きかけるべきである」というのだ。

 そして、レポートの原文を読むと、驚くことに集団的自衛権については、「集団的自衛の禁止は同盟の障害である」(Prohibition of collective self-defense is an impediment to the alliance)と言い切っている。

 安倍内閣は集団的自衛権を行使できる要件として、2014年7月に「武力行使の新3要件」を閣議決定した。日本の存続が危うくなった場合に武力行使できるというものだが、これは個別的自衛権の延長で解釈できるものであり、わざわざ集団的自衛権と断ることはないのではないか。

◆ 集団的自衛権の行使容認は米国側の要請と考えられる

「武力行使の新3要件」は次の通りだ。

   武力行使の新3要件

   ○我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある
   他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民
   の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
   ○これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段
   がないこと
   ○必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

 私は、安倍晋三首相や中谷元・防衛相の国会答弁を聞いても、なぜ集団的自衛権の行使をいま認める必要があるのかわからなかったが、その理由が米国からの要請に応えるためだったということならそれなりに理解できる。つまり、集団的自衛権の行使容認は、日本側の発想でなく、米国が日本に要請したものだったと考えられるからだ。

 さらにレポートは、国連平和維持活動(PKO)についても、「さらなる参加のため、日本は自国PKO要員が、文民の他、他国のPKO要員、さらに要すれば部隊を防護することができるよう、法的権限の範囲を拡大すべきである」と指摘する。

 これは今審議されている「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」につながる指摘と受け止めることができるだろう。

 私は「第3次アーミテージ・ナイレポート」を読んで、安保関連法案の主要な項目がレポートで指摘された内容であることを知り、改めて驚いた。

◆ 政府は自衛隊のリスクを国民にきちんと説明すべき

 安保関連法案は「その内容があいまいだ」「憲法に違反する」と野党が猛反対しているが、日本は今、周辺地域への対応を現実には問われている。

 異常なまでに軍事力を拡大している中国は、南シナ海において岩礁の埋め立て作業を7カ所で進めており、フィリピンをはじめとするアジアの国々との緊張が高まっている。米国や欧州連合(EU)も海洋権益を拡大する中国を批判する姿勢を強めている。

 戦争は何がきっかけで起きるかわからない。どの国も戦争をしたいとは思っていない。しかし、もし南シナ海で有事が起きたとき、日本はどうするのか。中国の強引な権益拡大にノーと言い、それなりの行動をとるのかどうか。それが今、問われている。米国は日本も行動しろと要請しているのだ。

 現在の日米関係を考えれば、日本は米国の要請を断ることはなかなかできないだろう。しかし、たとえ米軍の後方支援をするにしろ、自衛隊のリスクが高まることは避けられない。

 ところが、安倍首相は限定的な集団的自衛権の行使だから「米国の戦争に巻き込まれることは絶対にありえない」との主張を繰り返し、中谷防衛相も自衛隊のリスクを認めようとしない。

 政府は自衛隊の背負うリスクが高まることを国会できちんと説明し、国民の了解を得るべきではないか。それをあいまいにしているから、世論調査で安保関連法案について「わからない」と答える人が多数いるのだ。もし自衛隊にリスクを背負わせることになるのなら、政治家にも国民にも覚悟が必要なのだ。

★ 田原 総一朗(たはら・そういちろう)

 1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。
 著作に『原子力戦争』(ちくま文庫)、『ドキュメント東京電力』(文春文庫)、『塀の上を走れ―田原総一朗自伝』(講談社)、共著『憂鬱になったら、哲学の出番だ!』(幻冬社)、『元祖テレビディレクター、炎上の歴史(文藝別冊)』、『日本人と天皇 昭和天皇までの二千年を追う』など多数。
 近著に『愛国論』(田原総一朗・百田尚樹著、KKベストセラーズ)がある。