折々の記へ
折々の記 2015 ⑨
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】11/23~     【 02 】12/06~     【 03 】12/15~
【 04 】01/03~     【 05 】01/09~     【 06 】01/13~
【 07 】01/13~     【 08 】01/25~     【 09 】02/04~

【 01 】11/23

  11 23 勤労感謝の日   他によって生かされていることへの感謝
  11 25 田中宇の国際ニュース解説⑤   世界はどう動いているか 10/22~11/18
  12 05 田中宇の国際ニュース解説⑥   世界はどう動いているか 11/22~12/03

 11 23 (月) 勤労感謝の日       他によって生かされていることへの感謝

自分で生きてきたとおもっていたが、人の愛行動自然の恵みによって生かされてきた。

「と」は該当するものとして述べたい要素すべてを例挙するときに使います。  「や」は挙げられているものの他に該当するものが存在する、つまり一部の例だけを挙げる時に使います。  「と」「や」は名詞以外の語や文を結びつけることはできません。

1.昨夜はパスタとピザを食べた。
   (食べたものが「パスタ」「ビザ」だけであって、他には同類のものを食べなかったことを表します。
2.昨夜はパスタピザを食べた。
   (「パスタ」と「ピザ」が食べた物のうち主要なものであるが、他にも何か食べたものがあることを暗示しています。)
人の意欲はどこから生まれ出たのだろうか。 それに人のすべての組織(手足や五臓六腑;更に細胞の組織)や活動能力はどこから生まれ出たのだろうか。

? ……… ? ……… ? ……… これは人だけではない。

人の気持ちを癒してくれる美しい花や、鳥やほかの動物にしてもかわりはない。

ただそれぞれの動物は生きようとして、それぞれの生命維持や繁殖のために他の生命を捕らえてその生命を奪ってしまう。

むごいと言えば酷い話だ。 酷なことである。 他の生命を奪わなくては、自分の生命を維持できない。 この酷なことを宿命として負っているのです。

この矛盾した中で自分が健康で生きて働いていられることを感謝するというのです。 てまえ勝手なことですけれど。

一茶の句には、他の生命を大事にした人となりが端的に表現されたものが多い。

   われと来て 遊べや親の ないすずめ

   やれ打つな はえが手をする 足をする


勤労感謝の日といわれても漠然としたものになります。 自分の健康があって初めて勤労が支えられていることを考えれば、どうしても一茶の心境にたどりつかざるを得ない。 こうしてみれば、北信濃の一茶は心の優れた人だった。


 11 25 (水) 田中宇の国際ニュース解説⑤       世界はどう動いているか 10/22~11/18

私は田中宇の国際ニュース解説<http://tanakanews.com/>を折々転載している。 この前に転載したのを見るために【折々の記総目次】⑤<2015/06/12~>から赤字で表記することにした。

安倍政権の米国寄り急傾斜につづいて、ISによって世界中の風雲が乱れとんでいる。

今回紹介するのは次の通り。
①◆パリのテロと追い込まれるISIS、イスラエル
     http://tanakanews.com/151118isis.php
【2015年11月18日】 EUは、西岸やゴラン高原などの占領地の不正な入植地で製造され、欧州が輸入した製品に対し、不正入植地で作られたと明示するラベルを貼りつけるよう義務づけるEU全体の新たな規則を作ることを、昨年から検討してきた。フランスは、この動きの主導役に入っている。ラベル義務化の準備は今春から本格化し、11月初めにいよいよ導入されるめどが立ち、イスラエルによる批判をEU側が拒否した直後、パリのテロが発生した。
②◇ひどくなる経済粉飾
     http://tanakanews.com/151115economy.htm
【2015年11月15日】 マスコミや金融アナリストら「専門家」たちは、金融界と当局が結託して粉飾的な雰囲気を醸成する経済プロパガンダの談合システムの中にいる。経済分析は、政府、マスコミ、金融機関、大学など、権威ある組織に属する人が発したものだけが「正しいこと」とされ、それ以外の人が発したものは「素人の間違い」とみなされて、一般の人々に信用されない。権威ある組織はすべて、経済プロパガンダの談合システムの中にいる。経済学は粉飾学である、ともいえる。
③※ラジオデイズ・田中宇「ニュースの裏側」・・・日本で報道されないその後のシリア情勢
     http://www.radiodays.jp/item/show/201523

④◆米国の政権転覆策の終わり
     http://tanakanews.com/151111mideast.php
【2015年11月11日】 米国がシリアのアサド政権を転覆する構想は、完全に崩れた。対照的に、国際社会でのロシアの威信は大幅に上がった。今後、国際社会の意志決定において、ロシアや、その事実上の同盟国である中国が反対した案件は、たとえ米国が強く推進しても実現しない。米国は、冷戦後ずっと保持してきた「米国に楯突く国々はすべて、軍事を背景とした力で政権転覆する」という方針(ウォルフォウィッツ・ドクトリン、単独覇権主義)を継続できなくなった。
⑤◆TPPは米覇権の縮小策
     http://tanakanews.com/151109tpp.php
【2015年11月9日】 米国は、単独覇権体制に基づくWTOを推進する気がなく、代わりにそれより小さな、BRICS+米欧(もしくはBRICS+米国+欧州)という多極型体制を前提に、BRICSをのぞく米国の地域覇権地域を対象としたTPPとTTIPを積極推進している。米国自身が、自国の覇権縮小と世界の多極化を前提
⑥◇日本が南シナ海で中国を挑発する日
     http://tanakanews.com/151105china.htm
【2015年11月5日】 米国は、日本を、ぐいぐいと南シナ海紛争の中に引っぱり込んでいる。米軍と自衛隊の艦隊は、10月19日までインドとの3カ国の合同軍事演習に参加したかえり、日米軍が一緒に南シナ海を通った時に、10月28日から2週間ほどの期間で、初めての南シナ海での日米合同軍事演習を行っている。こうした流れから考えると、日本が南シナ海で中国を挑発する日は、意外と近いとも思える。
⑦◆ロシアに野望をくじかれたトルコ
     http://tanakanews.com/151030turkey.php
【2015年10月30日】 プーチンは、トルコ軍のシリア侵攻を阻止するため、アサドに頼まれてシリアに軍事進出した。シリア政府軍を強化するなら、ロシアは新兵器や衛星写真など情報の供給、軍事顧問団の派遣をするだけで十分で、露軍の戦闘機がわざわざシリアに駐留して空爆を行う必要はない。露軍がシリアで空爆をしているのは、トルコにシリア侵攻を思いとどまらせるのが主目的と考えられる。
⑧◆米財政赤字上限問題の再燃
     http://tanakanews.com/151024debt.php
【2015年10月24日】 金融市場は、米国の財政赤字上限の引き上げがぎりぎりで実施され、2年ごとに繰り返されてきた騒動は、今回も大惨事になる前に寸止めされると予測している。しかし、騒動の行方を握る共和党の内部を見ると、これまでのように主流派が茶会派を抑えきれるかどうか、かなり心もとない状態だ。
⑨◇勝ちが見えてきたロシアのシリア進出
     http://tanakanews.com/151022syria.htm
【2015年10月22日】 シリアのアサド大統領がモスクワを訪問してプーチンと会った。アサドが自国を離れるのは2011年の内戦開始以来初めてだ。アサドは露軍の空爆についてプーチンに感謝の意を表明した。すでに露シリアの側がテロリストに勝って内戦を終結させる見通しがついていないと、アサドがモスクワに来てプーチンに謝意を述べることはない。すでにシリア露イランは、この戦いに勝っている。

【2015年11月18日】
① パリのテロと追い込まれるISIS、イスラエル

 13日の金曜日の夜、パリでイスラム過激派ISIS(イスラム国)が同時多発テロを挙行した。129人が死亡し、マスコミは「911以来(米欧での)最悪のテロ事件」と喧伝している。だが、米欧の大騒ぎに対し、シリアのアサド大統領は「フランスで起きたようなこと(ひどいテロ)が、シリアでは5年前から何回も起きている」と述べている。 (Assad on the Paris terror attack: It's happening to Syria for 5 years)

 2011年の内戦開始後、ISISやアルカイダなどイスラム過激派に攻撃されているシリアの各都市では、攻撃の一環として、過激派による爆破テロが頻発している。過激派は、都市に総攻撃をかける前に、その都市で大規模な同時多発の自爆テロを起こすことが多い。アサドの発言は誇張でない。イラクやレバノンでも、爆破テロがよく起こる。中東の都市で多数の死者を出すテロが起きても、米欧日のマスコミはたいして報じない。

 パリテロ前日の11月12日には、レバノンのベイルートでISISによる同時多発の自爆テロがあり、43人が死亡した。レバノンでは、アサド政権に頼まれてシリアに進出してISISと戦うイラン傘下のシーア派民兵団ヒズボラが強い政治力を持っている。ベイルートのテロは、ヒズボラに対するISISの攻撃と考えられる。10月31日には、エジプトのシナイ半島を飛び立ったロシアの旅客機が空中で爆発する事件があり、エジプトの空港要員が機内に積み込んだ荷物の中に爆弾を入れたのでないかと見られているが、これもロシアを敵視するISISが犯行声明を出している。 (ISIS Claims It Downed Russian Plane; 224 Dead)

 フランス軍は報復のため、ISISの「首都」になっているシリア北部のラッカ周辺にある、ISISの司令部や弾薬庫、訓練施設などを12機の戦闘機で空爆した。仏軍は米軍と連携し、ISISへの空爆を強めるという。しかし、この話もよく考えると頓珍漢だ。仏軍が今回空爆したISISの司令部や弾薬庫、訓練施設などは、場所がわかりしだいすぐに空爆すべき地点だ。フランスは昨年9月から1年以上、米軍と一緒にISISの拠点を空爆し続けている。仏軍は、ISISの司令部や弾薬庫、訓練施設などの所在を、この数日間に発見したのか?。そうではないだろう。仏軍や米軍は、以前からそれらの所在を知っていたが、空爆していなかったと考えるのが自然だ。米国や英仏は、以前からISISなどテロ組織がアサド政権を倒すことを期待し、ISISなどを退治するふりをして温存(支援)してきた。 (露呈するISISのインチキさ) (France launches air strikes against Isis in Iraq)

 パリテロ前日の11月12日には、米軍が、シリア上空に飛ばした無人戦闘機でISISの英語広報役の「聖戦士ジョン」(モハメド・エムワジ、英国人)を殺害したと発表した。ジョンは、外国人の人質を座らせ、殺害するぞと脅すISISの動画にいつも出てくる人物で、米欧日で有名だ。米軍は有名人を空爆で殺し、米国がISISと戦って成果を上げている印象を世界的に示したかったのだろう。だが、ジョンは単なる広報役であり、彼が死んでも代役はたくさんいる。ジョン殺害は逆に、米国が本気でISISを潰すつもりがないことを示している。 (Why Jihadi John's 'assassination' Is Nowhere Near as Important as You Think) (テロ戦争を再燃させる)

 米軍がジョンの所在を把握できたのは、米英がスパイを(おそらく志願兵として)ISISの内部に入り込ませていたからだと報じられている。米英は、どこにISISの重要施設があるか、どんな意志決定をしているか、スパイを通じて以前から知っていたことになる。それなのに米英はISISを潰さなかった。 (Killing Mohammed Emwazi a significant blow to Isis, says US)

 とはいえ、9月末からロシア軍がシリアに進出し、テロリストを空爆して退治し始めた後、米欧もロシアに引っ張られ、以前のようにISISをこっそり支援し続けられなくなった。米オバマ政権は、ロシア主導のISIS退治、アサド容認をなし崩し的に容認している。露軍進出以来、米欧がアサド敵視・ISIS容認から、ISIS敵視・アサド容認へと傾いたのを見て、ISISは「今まで温存してきてくれたのに捨てるのか。許さないぞ」という意味でテロを起こした感じだ。アサドは「仏政府の間違った政策(ISISをこっそり温存・支援し続けたこと)が、パリのテロの原因だ(仏自身に責任がある)」と述べている。 (Syria's Assad: Paris attacks result of French policy)

 米欧諸国の中で、米英はISISに武器や食料を投下してこっそり支援してきた。フランスは、米英に追随してシリア上空に戦闘機を飛ばしてきたものの、ISISを支援する米英の動きにはおそらく参加していない。ISISは、これまで支援してくれた米英でテロを起こさず、中途半端な態度のフランスでテロを起こした(独伊など他の欧州諸国は、ISIS空爆に参加していない)。 (Why Paris? The answer can be found in Syria and Iraq)

 ISISはパリで、今年1月にも「週刊シェルリ」やユダヤ食品店を攻撃するテロをやった。フランスは、シリアの旧宗主国で、アラブ諸国からきた貧しい移民が多く住んでおり、1月のテロ以降も、ISISは地下組織網を仏国内に維持していたのだろう。(米英の諜報機関が欧州でのISISの組織網拡大を支援してきた可能性がある)

 パリのテロは、米欧に裏切られたISISによる報復と見なせる。だが、テロはISISを利さず、むしろISISの敵であるアサドやロシアの立場を強めることになる。テロを機に、EUや米国は「ロシアの主導権を認め、アサドに辞任を迫らず、イラン敵視をやめて、シリア露イランの軍勢に協力し、ISISなどシリアのテロリストを早く退治した方がよい」と考える傾向を強めている。 (Who Benefits Most From Paris Attacks? Assad) (Obama, Putin agree to 'Syrian-led, Syrian-owned political transition,' US official says)

 ロシアは、18カ月でシリアの内戦を終わらせる案を関係諸国に提示し、米国など多くの国がそれを大筋で認めている。露案は、今年中にシリア反政府派を「テロリスト」と「それ以外の勢力」に仕分けし、テロリストは軍事的に攻撃して潰し、それ以外の勢力は来年初めからアサド政権との交渉して来春までに連立的な暫定政権を樹立する。その後1年以内にテロリストを退治するとともに総選挙をやり、その後のシリアの正式な政権を決定する筋書きだ。シリア問題は解決の方向に、ISISは撲滅される方向に動いている。 (Syrian Transition Plan Reached by U.S., Russia in Vienna)

 欧州は最近、シリアなどから多数の難民が流入し、難民危機で揺れている。この危機自体、ISISとクルド人をシリアで戦わせ、仇敵のクルド人を潰したいトルコ当局(諜報機関)が、ロシアに引っ張られてISIS退治に本腰を入れそうなEU諸国に圧力をかけるため、トルコ国内にいる難民を意図的に欧州に流入させた疑いがある。難民危機を受けて欧州では、キリスト教徒の各国民が、イスラム教徒の難民や移民を敵視する風潮が広がっている。ISISは、欧州でのキリスト教徒とイスラム教徒の対立を扇動することで、ISISに入るイスラム教徒の若者を増やそうとしている。キリスト教徒にとって不吉な13日の金曜日をテロの挙行日に選んだのはその一つだ。 (ロシアに野望をくじかれたトルコ)

 パリテロの実行犯の一人の遺体の所持品から、シリアの偽造旅券が見つかっている。犯人像を隠したいテロの実行犯が、わざわざ旅券を持って自爆テロに行くはずがない。ISISは、テロ実行犯に旅券を持たせることで、難民危機とISISのテロを結びつけようとしたのだろう。911テロ事件後、崩れた摩天楼の瓦礫の中から犯人のものとされる旅券が見つかったと米当局が発表した時のドタバタ劇を思い起こさせる。 (The False Flag Link: Syrian Passport "Found" Next To Suicide Bomber Was "Definitely A Forgery") (Magic Passports Redux: Syrian Passport Allegedly Discovered on Suicide Bomber)

 難民危機とISISのテロを結びつけるのは、ISIS(やその背後にいる米国)にとって逆効果だ。欧州各国の政府や世論は「シリアの内戦が延々と続くから、シリアから難民が大勢流入し、ISISがテロを起こす。テロや難民危機を解決するには、早く内戦を終わらせてシリアを再び安定させ、ISISを退治することが必要だ。効果があがらない米国主導のISIS対策ではダメだ。短期間で成果を上げているロシア主導の策に乗った方がいい」という考え方に傾いている。対シリア政策を米国が主導する限りISISは温存されるが、ロシアの主導が強くなるとISISは潰される。 (Could The Syrian Conflict Irrevocably Change Global Geopolitics?)

 パリとベイルートでのテロ、ロシア旅客機爆破という、ISISが最近起こしたと考えられるテロのうち、ベイルートのテロと露機爆破は、ヒズボラとロシアというISISの仇敵への反撃と考えられ、理解しやすい。だが、パリのテロは、単純な構図でとらえきれない。ISISでなく、その背後にいる勢力までを視野に入れると、さらに深い構図が見えてくる。ISISの背後にいる勢力は「米国」だが、それはオバマ政権のことでない。「軍産複合体」のことであり、そこにはイスラエルや英国の諜報機関が含まれる。ISISと戦っているイラク政府軍は10月下旬、捕虜にした敵勢力の中に、ISISの軍事顧問として働いていたイスラエルの将校(Yusi Oulen Shahak)が混じっていたと発表している。 (Israeli Colonel Leading ISIS Terrorists Captured in Iraq)

 欧州は昨年から、パレスチナ人を弾圧して和平を進めず、占領地での入植活動を拡大しているイスラエルを経済制裁しようとしている。フランスは、イスラエルの入植地拡大を阻止するため、西岸や東エルサレムに国連監視団を派遣する案を国連安保理に提出しようとしている。仏提案は10月下旬に表明された。フランスがイスラエル制裁の急先鋒としての動きを強めている矢先に、パリのテロが起きた。 (PM rejects `absurd' call for international observers on Temple Mount) (PLO: France to submit Security Council resolution on international protection force at al-Aqsa mosque)

 EUは、西岸やゴラン高原などの占領地の不正な入植地で製造され、欧州が輸入した製品に対し、不正入植地で作られた製品であると明示するラベルを貼りつけるよう義務づけるEU全体の新たな規則を作ることを、昨年から検討してきた。フランスは、この動きの主導役に入っている。ラベル義務化の準備は今春から本格化し、11月初めにいよいよ導入されるめどが立った。イスラエル政府が、ラベリングに関してEUを非難して両者間の外交対話を断絶すると発表し、イスラエルによる批判をEU側が拒否した直後、パリのテロが発生した。 (Israel suspends diplomatic dialogue with EU over settlement product labeling) (EU looking into labeling of Israeli settlement products)

 ISISは今年1月にもパリでテロを起こし、この時はユダヤ食品店など、イスラエルを想起させる標的も攻撃された。当時、すでに欧州各国では、パレスチナで人権侵害(人道上の重大な犯罪)を続けるイスラエルに対する民間主導のボイコット運動が広がっていた。1月のISISのテロは、イスラエルを「(パレスチナ人を殺す)加害者」から「(ISISに殺される)被害者」へと一時的に転換させた。イスラエルは以前から、自国がパレスチナ人の「イスラムテロ」の被害者であるという姿勢をとっている。1月のテロは、人々の憎しみがイスラエルでなく(イスラエルが占領地で殺している)イスラム教徒に向くよう仕掛けられた観がある。 (イスラエルとの闘いの熾烈化)

 欧州ではその後、イスラエルへの制裁や非難を強めようとする勢力と、制裁や非難を回避しようとするイスラエルからの政治圧力がもみ合った。その中で、不正義を許さない欧州の不屈の動きが少しずつまさり、いよいよ不正入植地製品に対するラベル義務化が実現しようとする矢先に、今回の2度目のISISのテロが起きた。今回のテロでは、ユダヤ人が標的になっていない。だが、テロが意味するところは、1月の1回目のテロですでに明らかだ。(フランスや英国にはユダヤ系の政治家や財界人が多く、イスラエルは彼らに「祖国を守らないのか」と圧力をかけている。フランスをテロの標的に選ぶ理由の一つは、ユダヤ系有力者たちへのゆさぶりだろう) (Adelson, Saban: `Anti-Semitic tsunami' on the way)

 パリのテロの後、米議会上院でイスラエルを強く支持する議員であるチャック・シューマー(ユダヤ系、民主党)は「パリのテロによって米欧は(イスラム教徒から)テロを受け続けるイスラエルと同じ立場になった。米欧は最近イスラエルに冷たいが、今後はイスラエルと一緒に(イスラム)テロと戦うしかない」と述べている。「米国はイスラムテロと戦う国としてイスラエルと一心同体になった」といった言い方は、01年の911事件直後にも米国を席巻している。 (Schumer: ‘Condoning’ terror against Israel led to Paris attacks) (West's war against terrorism is Israel's war, Chuck Schumer says) (Chuck Schumer - Wikipedia)

 911は米国で起きたが、その後、米国では大きなテロが起きていない。米国のオバマ政権は最近、イスラエルの言うことを聞かず、イスラエルの仇敵であるイランを核協約で許し、イランがロシアと組んでイスラエル近傍のシリアやレバノンへの影響力を拡大することに道を開いた。イスラエルの諜報機関がISISを動かしてテロをさせられるなら、フランスでなく米国が標的になっても不思議でない。しかし、オバマはその一方で、イスラエルに巨額の軍事支援金を出している。先日イスラエルからネタニヤフ首相が訪米し、米国からもらう軍事援助を従来の年間30億ドルから50億ドルに増やす話をして帰った。米国はイスラエルに「みかじめ料」を払い、自国でテロが行われるのを避けている。 (Obama, Netanyahu Agree to Replace $30 Billion Arms Deal With `Substantially More')

 フランスとシリアは地続きで、ISISはテロをやりやすいが、米国は海のかなただ(米国は911前、アルカイダのテロリストを国内で訓練しており、以前は米国内にテロリストがうじゃうじゃいたが、911後は変わったらしい)。米国は遠いが、ドイツはフランスと同様、シリアから地続きだ。独仏間は検問もなく移動できる。なぜISISはドイツでなくフランスでテロを繰り返すのか(独ハノーバー市の警察が、サッカー場や音楽堂、駅に爆弾を仕掛けるテロ計画を阻止して捜査中とされているが)。 (Hannover Police Warn "Find Safety, Don't Stay In Groups" After Explosives Allegedly Discovered, Football Game Evacuated)

 ドイツでテロが起きにくい理由の一つと考えられることは「イスラエルにとって、ドイツがホロコーストによる永遠の加害者でなければならないから」というものだ。ドイツ(欧州、EU)が極悪な加害者で、イスラエル(ユダヤ人)が絶対的な被害者になるホロコーストの「事実性」に疑問をはさんではならないというのが、戦後一貫してイスラエル系の勢力が世界に強いてきたことだ。 (ホロコーストをめぐる戦い) 2005/12/20

 アウシュビッツで大量虐殺が行われたという話は「正史」であり、ナチスドイツの重大犯罪だが、具体的にどこでいつ何人殺されたか、犯罪捜査に不可欠な確定的な物的証拠がまったくない(証言や、本物かどうか今一つわからない写真などしかない)。ドイツの86歳の知的な女性ウルスラ・ハーバーベック(Ursula Haverbeck)は、そのように言っている。彼女は昨年、物的証拠があるのなら教えてほしいとドイツの政府や裁判所、ユダヤ人団体など関係各方面に問い合わせ、ウェブサイトまで立ち上げたが、どこからも何の返事もなかった。その結果をふまえて彼女は、証拠がない以上、ホロコーストはなかったと考えざるを得ないと述べている。この発言ゆえに、彼女は何度も起訴され、有罪判決を受けている。 (イスラエルとの闘いの熾烈化)

 日本やドイツの「戦争犯罪」は、もし根拠が薄かったとしても、日独がそれを丸飲みしないかぎり、国際的に許されることがない。この構図を利用して、イスラエルは、ドイツだけでなく、かつてナチスに甘い態度をとった全欧州を相手に、イスラエルが絶対善で欧州が絶対悪だという理屈を展開し、イスラエルの不正入植地を批判しようとする欧州に対抗している。この構図に加えて、欧州で「イスラムテロ」が起きるたびに、欧州を「反イスラエル親パレスチナ」から「親イスラエル反イスラム」に再転換しようとするプロパガンダと脅しの嵐が起きる。 (ドイツの軍事再台頭)

 複雑な歴史とプロパガンダの政治戦争をイスラエルとの間で続けている欧州(EU)は、戦い方も複雑だ。欧州でハーバーベックのように、ホロコーストが物的証拠を欠いていることに疑問を持つ人が増えても不思議でないが、欧州諸国の政府は、そのような動きを決して認めない。そうでなく逆に、ホロコーストの「史実性」を全部丸飲みして認め、ハーバーベックのような「否定論者」を何度も裁判にかけて有罪を言い渡し、ホロコーストに関してイスラエルにとって120%の「良い子」として振る舞った上で、ホロコーストとパレスチナ問題を切り離し、パレスチナ問題でイスラエルへの制裁を強めている。

 なぜこの話を延々と書いたかというと、パリでテロが起きる直前、ハーバーベックらホロコースト否定論者に対し、相次いで有罪判決が出されていたからだ。ドイツのハンブルグの裁判所は、パリでテロが起きる半日前の11月13日昼前、ハーバーベックにホロコースト否定(反乱扇動)の罪で10カ月の禁固刑を言い渡した。 (Ursula Haverbeck handed 10-month jail sentence for denying the Holocaust)

 その3日前の11月10日には、EUの人権裁判所が、フランスのコメディアンであるデュードネ・エムバラエムバラに対し、フランスの裁判所が下した一審の有罪判決を支持する判決を行っている。デュードネは、03年に自分の寸劇の中でパレスチナ人を弾圧するイスラエルの不法な入植者をナチスにたとえて批判したところ、イスラエル右派から猛反撃を受けて大喧嘩になり、その延長でホロコーストの史実性に疑問を呈する寸劇を続けている。彼は今年1月のパリのテロ後、イスラム教徒を不当に風刺する雑誌社やユダヤ商店でテロを行った犯人を擁護する方向の発言を行い、差別発言(反乱扇動)の罪で仏裁判所で有罪になった。今回のEUの裁判所は上告審として、このフランスでの判決を支持した。 (European court upholds Dieudonne's incitement conviction) (Top European court rules against French comic Dieudonne's in free speech case) (テロ戦争を再燃させる)

 ハーバーベックとデュードネという、2人のホロコースト懐疑論者に対し、欧州の当局が相次いで有罪判決を出した直後、パリでISISがテロを起こし、それを機に欧州の言論を「反イスラエル親パレスチナ」から「親イスラエル反イスラム」に転じさせようとする動きが起きている。これを私なりに解釈すると、2つの判決は、欧州(EU)の当局が、ホロコースト問題とパレスチナ問題を峻別する態度を明確化するために下したものであり、峻別した後、パレスチナ問題でイスラエルを経済制裁(入植地製品へのラベル義務化)する流れの始まりだった。この流れを阻止するため、イスラエル系の勢力がISISを動かしてパリで再びテロをさせた可能性がある。フランス政府は、イスラエルからの非難を受け流しつつ、パレスチナ問題でのイスラエル制裁を強めようとするEUの主導役だった。 (イスラエル支配を脱したい欧州)

 欧州が今後もずっとホロコーストを、人々による疑問の表明を禁止する言論制限事項として残すかどうかは疑問だ。11月13日の判決でハーバーベックが有罪とされた行為は、今春、ドイツの公共放送である第1テレビ(ダス・エルステ)のインタビューに対しハーバーベックがホロコーストの史実性を否定する発言を行い、これがテレビで放映されたため「犯罪行為」とされた。ドイツの上層部は、一方でハーバーベックの発言をテレビで広く流し、独国民が「そうだよね。おかしいよね」と思うように仕向けつつ、他方でハーバーベックを有罪にしている。もしかするとEUは、いずれイスラエル系の勢力が人道上の罪や不正を暴かれて弱体化したら、ホロコーストの史実性に対して人々が健全な疑念を抱くことを容認していくつもりかもしれない(かなり先のことだろうが)。 (Holocaust Challenged for the First Time Ever on German TV)

 米国の親イスラエル団体の一つである「アイン・ランド協会」は最近、中東の人々を難民として欧州に流入させるドイツなどでの市民運動を主導し、アラブ諸国から欧州への難民の流入を手伝う市民活動家を養成している。同協会はもともと、米国のユダヤ系思想家だった故アイン・ランドの思想を広めるための組織だが、ランド自身や、今の同協会の上層部は、強くイスラエルを支持してきた。同協会は、イスラムテロはイスラム教自体の中に原因があると主張するイスラム敵視の団体だ。 (US Ayn Rand Institute Promoting Muslim Migration to Germany) ("Fluchthelfer.in" made by US-Think Tank)

 米国の著名な投資家でユダヤ系のジョージ・ソロスが運営する団体も、中東から欧州に難民を流入させる手助けをしており、EUに対し、もっと多くの難民を受け入れろと求めている。いずれの動きも、親イスラエル勢力が、欧州を、キリスト教徒とイスラム教徒の対立が激化し、テロが頻発する地域に仕立てようとする運動に見える。ソロスは最近、矛先をロシア敵視から欧州敵視に広げている。 (Soros Admits Involvement In Migrant Crisis: `National Borders Are The Obstacle') (Hungarian Prime Minister accuses billionaire investor George Soros of trying to undermine Europe by supporting refugees travelling from the Middle East) (George Soros' Next Color Revolution: Europe)

 これらの動きは、イスラエルによる活動というより、この40年、イスラエルを過激な方向に押しやってきた「米国のイスラエル右派」による画策だ。イスラエルにとっては、多極化の中で欧州と協調的にやっていく国家存続の道を失わせるものであり、長期的に見て自滅的だ。何度も書いてきたように、米国のイスラエル右派の中には「ネオコン」など「親イスラエルのふりをした反イスラエル」がたくさん混じっている。ISISに欧州でテロをやらせること自体、長期的にはイスラエルの利益にならない。 (ユダヤロビーの敗北) (イスラエルとロスチャイルドの百年戦争)



田中宇の国際ニュース解説② 以下

  ②~⑨ このサイトは上記のURLを開いてみること  老生は print out して利用する。



 12 05 (土) 田中宇の国際ニュース解説⑥       世界はどう動いているか 11/22~12/03

柿剥きの準備と作業により、しばらく休んでいた。

「下流老人」 一億総老後崩壊の衝撃
            他人事と思える日本人は、もうどこにもいない。
            自分と家族を守るために、知っておくべきこと。
       ●年収400万でも、将来生活保護レベルの暮らしに!?
       ●異口同音に「まさか自分が」
       ●収入が少ない、貯金がない、頼れる人がいない、の「三ない」が危ない!
       ●もらえる年金が減る
       ●増えない賃金、広がる格差
       ●非正規は下流に直結する
       ●住まいを失う高齢者
       ●親の年金に頼るしかない子ども
       ●家族の誰かがうつ病になったら
       ●熟年離婚の思わぬ盲点
       ●認知症でも誰にも頼れない
       ●以前のような退職金が出ない
       ●のしかかる実家の空き家問題
       ●大きな病気や事故で一気に貧困
       ●迫りくる老老介護、介護離婚
       ●働きたくても働けない!
       ●「もはや一億総中流ではない」
                    藤田孝典著 朝日新書 定価821円

「さらば アホノミクス」 危機の真相
            もはや経済政策にあらず!  今、訣別の時!
            「時代錯誤の誇大妄想」、アベノミクスの「アホ」たるゆえん―――――
            ブレない経済学者、浜矩子教授が、日本の危機・世界の危機を一刀両断!!
                    浜矩子著 毎日新聞出版 1100円

この二冊は3日の新聞に紹介されたものです。

日本の政治の流れは、メルケルの進言は聞かず再軍備反対の世論も聞かず、ピケティの所得格差拡大の基本を無視して、戦争時代の卒業努力どころか戦前の力関係に頼る拝金本位の戦争時代へ舵を切ってしまった。

そんな国民の意識を上記二人は筆の力で国民に訴えたと思う。

なお、世界情勢はISバリー騒動やヨーロッパへの流民に始まり、トルコのロシア軍機の撃墜、日本では潜水艦の共同制作が進行し。COP21では国益優先の議論に終始している。

すべての動きは人が持ち合わせる拝金の欲望が根源になっている。 人類の進化というものは物質文明と精神文明のバランスによらなければならない。 それなのに、現代社会は享楽に酔いしれて精神文明の意欲を放棄し、子育ての知見すら放棄し、自己中心の我欲にしがみついている。

末法の世と言わざるを得まい。 ハックスレーの言うように知によってすべてを征服したが、享楽には打ち克つことができない。




田中宇の国際ニュース解説⑥

① ◆露呈したトルコのテロ支援  下掲 No,3
     http://tanakanews.com/151203turkey.php
 【2015年12月3日】 シリアに進出した露軍は、偵察衛星で刻々と写真を撮って解析することで、タンクローリー隊がイラクやシリアのISの油田からトルコ国境まで走ってクルドからの石油と混合され、トルコに輸出されていることを突き止めた。ISISの石油が、エルドアン大統領の息子が経営する海運会社のタンカーで海外に輸出されていたことや、イスラエルがISISの石油の産地偽装に加担してきたことも暴露されている。

② ◆日豪は太平洋の第3極になるか  下掲 No,2
     http://tanakanews.com/151129submarine.php
 【2015年11月29日】 日本や豪州、東南アジアの国々が、今のように対米従属しつつバラバラに存在したままだと、いずれ米国が後退して中国が台頭したとき、バラバラに対中従属させられる。それを防げそうなのが、潜水艦の共同開発を機に形成される「日豪同盟」だ。日豪が、両国の間にあるフィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどと連携して同盟関係(東南アジアを含める意味で「日豪亜同盟」と呼んでおく)を強め、2本の「列島線」の間に独自の領域を作ってしまえば、米国が衰退して中国が台頭しても、自立を維持でき、対中従属する必要がない。世界が多極化する中で、日豪亜同盟は、西隣の中国と、東隣の米国の間の、太平洋の「第3の極」になりうる。

③ トルコの露軍機撃墜の背景
     http://tanakanews.com/151125turkey.htm
 【2015年11月25日】 シリアでは今回の撃墜が起きた地中海岸の北西部のほか、もう少し東のトルコ国境近くの大都市アレッポでも、シリア政府軍がISISやヌスラ戦線と戦っている。さらに東では、クルド軍がISISと対峙している。これらのすべてで、露シリア軍が優勢だ。戦況がこのまま進むと、ISISやヌスラはトルコ国境沿いから排除され、トルコから支援を受けられなくなって弱体化し、退治されてしまう。トルコは、何としても国境の向こう側の傀儡地域(テロリストの巣窟)を守りたい。だからトルコは17秒間の領空侵犯を口実に露軍機を撃墜し、ロシアに警告した。

④ ◆日本と世界で悪化する不況とバブル  下掲 No,1
     http://tanakanews.com/151122economy.php
 【2015年11月22日】 日銀はQEを目一杯やり、金利もゼロにしているので、これ以上不況対策を拡大できない。日本経済が不況になったのに、日銀が新たな不況対策をできない状況であることが人々の知るところになると、世の中の景況感がさらに悪化し、日銀が買い支えても株価を保てなくなる。日銀が不況対策を拡大できないことを隠すため、日銀やマスコミは「不況は形式上のものでしかなく、実質的には景気が引き続きゆるやかに回復している。新たな景気対策は必要ない」と言ってごまかしている。


2015年11月22日
日本と世界で悪化する不況とバブル
     http://tanakanews.com/151122economy.php

 日本政府が11月16日に発表した7-9月期のGDP(国内総生産)は、年率換算で前年比マイナス0・8%の成長だった。前期(4-6月)のマイナス0・7%と合わせ、2期連続のマイナス成長となり、日本の「不況入り」が確認された。7-9月期の成長率の事前予測はマイナス0・3%で、予測よりかなり悪い状況となった。 (Japan Falls Into Recession for Second Time Under 'Abenomics') (Japan falls back into recession)

 国内の景気が悪化しているのに、日本銀行は「景気はゆるやかに回復している」と発表している。日銀は、経済が不況に入ったものの、QE(量的緩和)の拡大など新たな景気対策を打たないことを決めた。東京の株価も、日本の不況入りの発表を聞いてその日だけ少し下がったが、その後は10月以来の上昇基調に戻った。かつては好不況に対し敏感だった株式市場が、今やとても鈍感だ。日銀も株式市場も、自国の不況入りを「無視」している。 (Why Japan's Recession Does Matter)

 マスコミでは「GDPが2期連続マイナスでも、今回の日本の場合は不況と呼べない。企業の在庫が一時的に減っただけで、長期的に景気が回復していることは間違いない。これは形式的な意味での不況にすぎない」「日本はここ数年、何度も不況に陥ったが、そのたびに回復している。だから今回の不況も大したものではない」「アベノミクス(日銀QE)の効果を疑う者たちは、不況入りがアベノミクスの効果のなさを示していると言うだろうが、そのような見方は間違いだ」「日本は、人口が減っているので景気が悪化しやすい。人口減の要素をのぞけば、日本は景気回復の基調だ」といった感じの「権威ある専門家の解説」が目白押しだ。 (BoJ holds course despite return to recession in Japan) (Recession Is No Reason for Japan to Panic)

 在庫の減少は、企業が、今後不況が長引きそうだと考えている兆候だ。「日本経済は何度も不況に陥っている。だから今回の不況も大したものではない」という言い方は、QEなどアベノミクスが景気を回復していないことを認めてしまっている。「景気が悪いのは人口減少が原因」という「解説」も「悪いのは政府でなく子供を産まない国民だ」という問題のすり替えだ。日本政府は最近「大企業が従業員の給料を増やさないので景気が回復しない(政府は悪くない)」と言って大企業に賃上げを要求しているが、これも政府が効果のある策をやれないことを認めた上の開き直りだ。(大企業が実質的な賃金を下げて儲けを増やしたのは事実だが) (Japan enters recession again as Abenomics falters) (The real reason Japan's economy keeps stumbling into recession) (加速する日本の経済難)

 私から見ると、日銀の反応やマスコミの喧伝は、2つのことを隠すために行われている。それは「日銀や日本政府は、すでにQEを目一杯拡大しており、これ以上景気対策を追加できない」ということと「株価はQEによる巨額資金の注入によって実体経済と関係なくつり上げられており、不況になっても株が下がらない」ということだ。日銀はQEによって、新規発行される国債の全量を買い上げている。日本は社債市場が小さいので、日銀はこれ以上QEを拡大できない(欧州中央銀行も同様だ)。 (金融蘇生の失敗) (不透明が増す金融システム)

 日銀は金利もゼロにしているので、これ以上、不況対策を拡大できない。日本経済が不況になったのに、日銀が新たな不況対策をできない状況であることが人々の知るところになると、世の中の景況感がさらに悪化し、日銀が買い支えても株価を保てなくなる。日銀が不況対策を拡大できないことを隠すため、日銀やマスコミは「不況は形式上のものでしかなく、実質的には景気が引き続きゆるやかに回復している。新たな景気対策は必要ない」と言ってごまかしている。 (Bank of Japan holds fire on stimulus despite recession) (超金融緩和の長期化)

 すでに何度か書いているように、中央銀行の政策であるQEの本質は、リーマン危機後(主に米国の)金融システムの健全性が蘇生しない中で、金融バブルの再崩壊を防ぐため、通貨を大量増刷して国債を(米国の場合は社債も)買い支え、債券相場をテコ入れするとだ(日銀QEの最大の本質は、自国の経済を犠牲にして米国の金融の延命に貢献する対米従属策だ)。債券相場が堅調なら、金融機関や企業がが低利で資金調達して株価もテコ入れできる。QEは「デフレ(不況)対策」を建前としているが、大量増刷された資金は金融界にとどまって実体経済に回らず(回ると悪性のインフレになる)景気の回復に貢献しない。 (QEするほどデフレと不況になる) (日銀QE破綻への道) (出口なきQEで金融破綻に向かう日米)

 QEは実体経済(景気)を改善しないが、株価が上がるので、マスコミなど経済の権威が政府と結託し「株価が上がっているので景気は回復基調にある」とごまかせる。政府は、GDPを現実より高めに発表している疑いがある。(計算モデルを恣意的に操作してインフレ率を実際より低く算出することで、経済成長率の計算時に差し引くインフレ率を実際より少なくして、GDPを実際より高く発表できる)、 (Central Banks Will Not Be Able to Halt This Economic Collapse) (Powdering The GDP Pig?? -There Was No Escape Velocity Inside) (Food Costs Soar Most in 3 Years)

 株価上昇の原因が実体経済の景気回復でなく、日銀のQEであることは、株の不健全なバブル膨張を意味している。日銀自身、QEの一環として株を買い支えている。QEによって、日銀の勘定(バランスシート)は日本のGDPの75%にも達している。米連銀は、勘定の膨張が不健全なので昨秋にQEをやめたが、米連銀の勘定は米国のGDPの25%だ。日銀は、米連銀より3倍の不健全に陥っている。 (BoJ pay rise to put limit on equity gains)

 日本は政府の財政赤字もGDPの3倍で、主要国の中で最悪だ。今後日本のバブルが崩壊しても、日銀も政府も余力がなく、有効な対策をとれない。こうした構図や、日銀が無力であることが人々の知るところとなると、バブルの崩壊を前倒ししかねない。だからマスコミはこの手の話を何も報じない。QEは、バブルを膨張させる悪策であるのに、景気を回復させる良い策だというウソが喧伝されている。その意味でQEは「裸の王様」の「新しい素晴らしい服」と同じだ。「QEは悪だ(王様は裸だ)」という指摘は「経済の素人が発するデタラメ」と見なされる。今年の春までは、日本の権威ある専門家の中からも、QEを危険視する指摘が発せられていたが、当局筋から恫喝されたのか、その後沈黙させられている。 (Japan's Problems Will Not Be Solved By More QE, RBS Warns) (加速する日本の経済難)

 日本の不況入りの大きな原因は、世界が不況になったことだ。日本の実質的な最大級の貿易相手国である中国は明確に不景気だし、米国も日本と同様、統計上だけ「おだやかな景気回復」だが、企業や国民の実感としては「不況」だ。貿易される商品の輸送量の急減を見ると、世界経済は今後、来春にかけて不況色が顕在化していくと予測される。 ("Our Data Is Not Good" - US Companies Warn That A Recession Is Coming) (China registers record-high trade surplus as imports fall) (Global Trade Dramatically Collapsing: "Next Major Downturn Has Officially Arrived")

「日本経済はここ数年、何度も不況になり、そのたびに回復したから今回も短期間で回復する」と「専門家」が分析しているが、これまでの不況時、中国など世界経済はずっと好調だった。これまで、世界は好調なのに、日本だけ何度もミニ不況になっていた。今回は今夏以降、世界が一転して不況になっている。しかも、かなりの不況だ。この状況で、日本が今回もミニ不況で終わってすぐ景気回復すると本気で考えている人は、どう考えても「専門家」でなく、それこそ「デタラメな素人」だ。「専門家」は「専門家」として認められ続けるため、ウソを承知で「王様の新しい服は素晴らしいです(日本の不況はすぐ終わります)」と言っている。 (ひどくなる経済粉飾) (揺らぐ経済指標の信頼性)

 日本を自滅させる日銀QEという人身御供によって、米国の経済が立派に蘇生するなら、それも日本の対米従属の「有終の美」としていさぎよいかもしれない(日本人の生活は破壊されるが)。だが、米経済が今後、完全に蘇生することは不可能だ。リーマン危機後、米連銀が自らやり、日欧の中央銀行にもやらせたQEは、米国の金融システムを当局の資金で延命させてきただけで、蘇生させていない。最近、米国ではヘッジファンドが次々と廃業している。金融市場を動かす原動力が中央銀行だけになり、リーマン以前のような市場のダイナミズムが失われ、ヘッジファンドが儲かる状況でなくなっている。リーマン危機を起こした金融市場は「強欲資本主義」と非難されたが、今や市場は「強欲」のダイナミズムすら失い、何とか延命しているだけの死に体だ。 (If The Economy Is Fine, Why Are So Many Hedge Funds, Energy Companies And Large Retailers Imploding?) (Hedge funds keep on imploding) (BlackRock Winding Down Global Macro Hedge Fund After Losses)

 米政府は、財政赤字を約18兆ドルと発表しているが、実質的な赤字総額はその3倍以上の65兆ドルであると、米政府の会計検査院(GAO)のウォーカー元長官(David Walker)が、11月8日にラジオ局(WNYM)のインタビューの中で暴露した。公的な年金や健康保険、社会保障などにおいて、将来支払わねばならなくなることが確実なのに原資の手当が不足しているものを加算していくと65兆になるという。ウォーカーによると、公務員と軍人の年金基金と定年後の官制健康保険制度の原資不足が18・5兆ドルであるほか、官制健康保険のメディケアやメディケイドも原資不足になっている。 ("US Debt Is 3 Times More Than You Think" Warns Former Chief US Accountant)

 この手の話は、以前から指摘されていた。ボストン大学の財政学の教授であるローレンス・コトリコフは、すでに06年の段階で、米政府の実質的な財政赤字額を66兆ドルと試算する論文を発表している。コトリコフによると、原資不足はブッシュとオバマの政権下で急増し、今や200兆ドル以上になっている。米国の赤字が減って財政均衡に向かう可能性は年々低下し、逆にいずれ財政破綻する可能性が強まっている。日本が自国を財政破綻させて米国を救おうと考えても、それは不可能だ。 (アメリカは破産する?) (Former U.S. Comptroller: National Debt is $65 Trillion, Not $18 Trillion) (国際通貨になる人民元)

 米国では、オバマ政権が国民皆保険制をめざして新たな官制健康保険制度「オバマケア」を開始し、米政府はこれを成功だと言っている。だが実際は、保険料が上がる傾向で、多くの米国民にとって使いにくい健康保険になりつつある。最大手の健康保険会社(UnitedHealth)は、利益を出せないのでオバマケアの扱いをやめることを検討している。米国の医者は儲けすぎだ。オバマケアが失敗すると、米国は再び健康保険を持てない人が多い国に戻る。これは、リーマン危機後の米国の中産階級の崩壊に拍車をかける。 (The Beginning Of The End For The Affordable Care Act? Largest US Health Insurer May Exit ObamaCare) (Even the liberal New York Times now admits Obamacare prices are skyrocketing)

 米国ではヘッジファンドのほか、エネルギーや小売店の分野でも企業の倒産や廃業が続出している。エネルギー産業の不振は、サウジアラビアが昨秋から原油相場を引き下げてライバルである米国のシェール石油企業を潰そうとする戦略が原因になっている。サウジは原油安戦略をやめるつもりがなく、来春にかけて米国のエネルギー産業で倒産や廃業が拡大し、エネルギー分野のジャンク債が破綻していく懸念がある。 (Global oil inventory stands at record level)

 米連銀は、米国の経済が回復基調にあると発表しているが、米経済の7割を占める小売りは不振で、小売店の閉鎖が増えている。 (What Rising Wages: Fed Itself Just Admitted "Household Income Expectations Are Falling Sharply")

 日本も米国も「景気は回復している」という当局の発表と裏腹に、実体経済が悪化している。QEなど当局による資金的なテコ入れで株価が粉飾的に上がっているが、今後、実体経済の悪化との乖離がひどくなる方向で、いつまでこの粉飾状態が続くか疑問だ。米共和党の大統領候補たちによる公開討論会でも、米当局による粉飾的な経済政策が批判の対象になった。 (Goldman Finds Buybacks No Longer Work To Boost Stock Prices: Two Reasons Why) (Republicans Say Fed Is Manipulating and Threatening Global Economy)

 米国だけでなく、中国も経済が悪化している。内需が大幅に落ち込んでいる。中国は以前「経済成長が7%を割ったら社会不安がひどくなり、国が持たない」と言われていた。今年から来年にかけて、中国の成長率は7%を割ることが確実だ。 ("If Chinese Consumption Is Rising, Why Are Its Malls Empty?" - Here Is The Answer)

 だが中国は、国内経済が悪化しながらも、国際的な地位の向上を続けている。先日は、中国人民元がIMFが定める世界の主要通貨の一つに加えられることが確定した。今春の中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立と合わせ、経済分野における中国の影響力(覇権)の拡大が不可逆的に進んでいる。今後、米国や日本の金融バブルの崩壊が起きると、米国の衰退と中国などの台頭(多極化)がさらに顕在化する。 (IMF may decide China's yuan inclusion in SDR this month) (日本から中国に交代するアジアの盟主)

 米国や日本の金融バブルの崩壊懸念が高まる中、先日は金地金の相場が急落した。金地金は、現物の金塊や金貨の需要が世界的に拡大しているのに、金融界が先物市場を使って金相場を引き下げている。株や債券など「紙」の金融商品がバブル崩壊しそうなので、放置すると「紙」の窮極の対抗馬である金地金の需要が増えて金相場が上がり、紙のバブル崩壊を前倒ししかねない。そのため、今のタイミングで金相場の再度の引き下げが行われたと考えられる。先物市場の現物をともなわない取引の総残高は、現物取引の総残高の293倍と、過去最高の高さになっている。 (There Are Now 293 Ounces Of Paper Gold For Every Ounce Of Physical As Comex Registered Gold Hits New Low) (Gold Demand Rises 8% In Third Quarter) (Americans are buying tons of gold) (通貨戦争としての金の暴落) (操作される金相場)

 経済統計や株価の粉飾と合わせ、金相場の歪曲も、前代未聞のひどさになっている。こうした矛盾がいつまで続けられるかが今後の注目点だ。矛盾が続けられなくなると、巨大なバブル崩壊が起きる。


2015年11月29日
日豪は太平洋の第3極になるか
     http://tanakanews.com/151129submarine.php

 日本は、2014年に兵器の輸出を約70年ぶりに解禁して以来の、最大の兵器受注を獲得しようと動いている。それはオーストラリア海軍が発注先を選定中の12隻の潜水艦の建造で、現在の世界各国の兵器調達計画の中で最大額の500億豪ドルの規模だ。 (Japan Guns for World's Biggest Defense Deal: Aussie Subs)

 豪州海軍は現在、6隻の潜水艦を持っている。それらは1990年代にスウェーデン企業(Kockums)から技術供与を受け、新規創業した豪州南部のアデレードの国営造船所(Australian Submarine Corporation)が建造し、豪州独自の「コリンズ級」と呼ばれている(コリンズは第2次大戦の豪海軍の将軍の名前)。だが、設計段階から稚拙な運営や不正行為、無理な設計変更などが重なり、海軍内の人材不足もあって、6隻のうち一部しか十分な運用ができない状態が続いてきた。 (Collins-class submarine From Wikipedia)

 6隻は2020年代に耐用年数を終えて退役する予定のため、豪政府は、12隻の新世代の潜水艦を建造することを09年に決めた(6隻を12隻に増やすのは、中国などアジア各国の潜水艦の増強に対抗するため)。90年代のコリンズ級建造時と同様、アデレードの国営造船所で設計・建造することにして、技術供与によって、新艦の建造と同時に国営造船所の技能を大幅に向上させてくれる外国企業への発注を、豪政府は望んでいる。 (Collins-class submarine replacement project From Wikipedia)

 豪州の潜水艦新造計画に対し、日本とドイツとフランスの政府と企業の連合体が、受注を希望して競争している。日本勢は、日本政府(防衛省、経産省)と三菱重工と川崎重工の連合体で、三菱と川崎が建造してきた海上自衛隊の最新鋭の「そうりゅう」級の潜水艦を、豪州向けに手を加えて受注しようとしている。ドイツはこれまで外国軍向けに160隻の潜水艦を受注した経験を持つ重工業・製鉄会社のティッセンクルップ、フランスは国営造船会社のDCNS(造船役務局)が名乗りをあげている。 (In the deep end: Japan pitches its submarines to Australia)

 日本のそうりゅうは独仏が提案する潜水艦より性能が良いと、豪州などのメディアで報じられている。日本勢にとっての障害は、発注者の豪州政府が、新艦を、豪州の国営造船所で、建造技術を豪側に教えながら建造する「共同開発」を条件にしている点だった。独仏は、企業秘密を含む製造技術を教えつつ豪州で建造することに早くから同意していた。だが日本は、兵器輸出を再開してから1年半しかたっておらず、戦後、外国で大きな兵器を建造したことがなく、海外企業に兵器製造の技術を教えたこともない。 ('No pressure' on subs deal says Bishop)

 船舶の建造技術で世界有数の高い技能を持つ日本の三菱や川崎は、潜水艦の建造についても高度な技術を持っている。日本勢は従来、唯一絶対の同盟相手である米国の防衛産業にだけは、兵器の製造技術に関する機密を見せてきたが、同盟国でもない豪州に対して機密を教えることに大きな抵抗があった。このため、豪政府が自国への技術移転(名ばかりの共同開発)にこだわる限り、日本勢が発注先に選ばれることはなく、独仏のどちらかに発注されると予測されていた。

 だが日本政府は、今年に入って姿勢を大きく変えた。今年5月、日本政府の国家安全保障会議(閣議)は、豪州の新型潜水艦の共同開発の受注をめざすことを決め、豪州政府が共同開発の相手国を決める選考過程で必要になる機密の技術情報の移転を認める方針を決定した。これは、米国にしか軍事技術の機密情報を見せてこなかった日本が、米国以外の国に初めて機密を見せることを決めた瞬間だった。 (豪州との潜水艦の共同開発・生産の実現可能性の調査のための技術情報の移転について) (Japan Approves Disclosing Secret Sub Info to Australia)

 日本政府は豪州に対する機密開示へと態度を転換したが、その後も民間の三菱と川崎は、豪州と共同開発のかたちをとることをいやがった。建造技術の中には民間で培われたものも多いと考えられ、戦後の長い努力の中で築いた職人的な秘密の技術を外国に教えたくないと思うのは当然だ。対照的に、日本政府の方は、豪州から潜水艦を受注することに非常に積極的になり、政府が企業の反対を押し切るかたちで、今夏に受注活動を強化した。日本政府は、官民合同の訪問団を豪州に派遣し、豪州の防衛関連企業を歴訪して親密度を高めようとした。10月1日には、豪潜水艦の受注を意識して、兵器類の開発から輸出までを担当する防衛装備庁が急いで新設された。 (Japan's entry into the international arms export market has been a steep learning curve for the country) (Australia starts building sample submarine hull to prove it deserves the bulk of the $50bn project)

 豪政府は、潜水艦の受注を希望する各国に、来年発注先を決定するので11月末までに受注に関する最終提案をしてくれと伝えてきた。この期限を前にした11月22日には、日豪の2+2会議(外相防衛相会議)が豪州で開かれ、日本側は「日豪が潜水艦を共同開発することで、中国の野放図な台頭を抑止できる」「共同開発は日豪だけの話でなく、日豪米3カ国の同盟体制の強化になる」と、独仏でなくアジアの日本が受注する必要性を政治面から力説して売り込んだ。 (Japan Links Australian Submarine Bid To Regional Security) (Australia-Japan 2 plus 2: China in the periscope?) (Japan Pushes Aussies on South China Sea Patrol Submarines)

 日本側は11月30日に、豪政府に潜水艦の建造計画を正式に提出する。それに先立って11月26日には、日本が受注した場合に軍事技術の機密情報を豪州に移転することを、政府の国家安全保障会議が正式決定した。日本が豪州にあげる軍事技術には、潜水艦のステルス技術や溶接技術、長時間の潜行に不可欠なリチウムイオン充電地の技術など、日本が世界最先端であると考えられている技術が含まれている。 (Japan to Offer Australia Its Top-Secret Submarine Technology) (Japan Close to Submitting Bid For Australian Submarine Program)

 日本政府が豪州から潜水艦を受注しようと奔走する理由は、日本政府の防衛予算が今後もあまり伸びない中で、戦後70年、輸出禁止で抑制されてきた自国の軍事産業を早く成長させたいからだという見方が一般的だ。だが軍事産業の運営は、米国の例を見ても、企業と政府の談合で成立しており、企業が消極的なのに政府が先走る日本の構図は奇妙だ。

 それ以上に奇妙なのは、これまで対米従属を唯一絶対の国家戦略としてきた日本政府が、豪州との事実上の軍事同盟の強化につながる、潜水艦の重要技術の共有に踏み切ったことだ。潜水艦は、軍事技術の中でも最も機密が多い分野といわれる。豪州の新型潜水艦は、2050年代まで使われる予定だ。日本が受注した場合、日豪は少なくとも今後25年間、同じ型式の潜水艦を使い続け、潜水艦の技術を共有し続ける。こうした大規模な軍事技術の共有には、相互の政治的な信頼関係の醸成と維持が不可欠だ。

 豪州との信頼関係を築かないまま、日本が豪州に重要な潜水艦技術をあげてしまうと、豪州がその技術をどのように使うか日本が関知しきれなくなる。豪州の政界には、ラッド元首相など、親中国の左派勢力もいる。もし今後、豪州がどんどん親中国の方に進むと、日本からもらった潜水艦の技術を中国にコピーさせることがありうる。そうならないようにするには、日本が豪州と安保条約に近いものを締結するのが早道だ。

 豪州のシンクタンクの軍事分析者(Mark Thomson)は、日豪の潜水艦の共同開発について、軍事ビジネスの範疇をはるかに超えた、日豪の戦略上の転換だと書いている。著者はこの点を詳述していないので私なりに解釈すると、日本は、従来の対米従属一辺倒を離脱し、米国だけでなく豪州とも同盟関係を持つことを覚悟しなければならないし、豪州は第2次大戦の敵だった日本と同盟関係に入ることを覚悟せねばならない、ということだ。この著者は、日本政府が、この件が持つ戦略的な重大さを十分に把握しているのか疑問だ、とも書いている。 (Australia and Japan: The Unknown Unknowns)

 日本でなく独仏が潜水艦を受注した場合、豪は独仏と新たな同盟関係を組むわけでない。だから、日本が受注しても日豪が安保条約を結ばねばならないと考えるのは間違いだということもできる。しかし豪政界では、左派が「日豪の共同開発は、安倍の日本の好戦的な中国敵視策に、豪州が巻き込まれていくことを意味する。やめた方がいい」と主張している。豪州では、潜水艦を日本と共同開発することが、軍事ビジネスを大きく超えた、国家戦略の問題として論争されている。独か仏に発注することは、豪州が、日本と同盟関係に入るのを拒否することを意味する。 (Japan Renews South China Sea Alert, Pushes Aussies on Submarines)

 日本政府の目的が自国の軍事産業の育成だけであり、豪州との同盟を望まないなら、豪州と機密情報を共有するのをことわり、潜水艦受注をあきらめ、まずは機密開示が必要ない完成品の兵器の輸出に専念するのが良い。日本政府がそのようにせず、いきなり豪州との機密共有に踏み切るのは、おそらく米国がそうしろといっているからだ。米国は日本に「日米安保体制を維持したければ、豪州に潜水艦の作り方を教え、米国の同盟国である豪州の潜水艦技術を強化してやってくれ」といわれているのだろう。対米従属しか眼中になかった日本が、こんな大きな戦略転換を、独自に決めるはずがない。2+2で訪豪した日本の外相や防衛相は「日豪が米国との同盟関係を強めるために、日豪が潜水艦を共同開発するのがよい」と言い続けた。 (従属のための自立)

 米国は豪州にも、日本に発注しろと圧力をかけているはずだ。豪州は、日本に発注する可能性が高い。豪州は今年9月に、与党である自由党(保守政党)の党首選挙で、それまで首相(党首)だった右派のアボットが負け、穏健派のターンブルが新首相になった。前首相のアボットは、日本の安倍と親密で、両者の関係があるので日本への発注は間違いないといわれていた。アボットが辞めたことで、日本への発注の可能性が格段に下がったという見方もある。だがおそらく、発注先の選定はもっと戦略的な思考に基づいている。誰が豪の首相であろうが、日本に発注する可能性が高い。 (Japan waits to see whether new Australian leader will rock the boat on defense) (Australian leader swap further dents Japanese submarine bid)

 日豪が潜水艦技術を共有し、事実上の同盟関係を強めることは、中国だけでなく、米国にとっても、自国の覇権(国際影響力)を制限することにつながる。米国が単独覇権の永続化を望み、日本や豪州の方も対米従属を望む限り、日本と豪州は別々に米国と同盟関係を組む「ハブ&スポーク」型の覇権構造を維持したがる。これが日米豪の3国同盟になると、かなり様子が変わる。

 今後、国際社会で中国の政治力(覇権)が拡大し、米国の覇権が縮小することが予測されるが、それをふまえると、いずれ日本と豪州が同時期に親中国の政権になることがありうる。たとえば、日本の鳩山政権と、豪州のラッド政権が同時に存在し、同盟関係が日米と米豪の別々でなく、日米豪の3国同盟になっているような場合を仮定する。そうすると、中国を重視する日豪の政権が米国の中国敵視策を共同で抑止して骨抜きにしてしまう展開があり得る。覇権を維持したい国は、この手の事態をおそれ、覇権国と従属国の関係をできるだけ1対1のハブ&スポーク型にしたがる。中国も、南シナ海の紛争において「中国対ASEAN」でなく「中国対各国」の1対1の個別関係で交渉したがる。ASEANとして団結すると、相手が強くなってしまうからだ。

(欧州には集団安保のNATOがあるが、これは実のところ、米国の覇権組織でなく、英国が米国の戦略を黒幕的に操ってソ連敵視策を維持し、欧州大陸を間接支配するための機構だ)

 米国が単独覇権を永久に維持したいなら、潜水艦を使って日豪を新たな同盟関係に誘導することをしないはずだ。米国が日豪を同盟させたいのは、西太平洋地域の安全維持や、中国の台頭に対する抑止などの行動を、米国の代わりに日豪の同盟体にやってもらいたいからだろう。米国は近年、単独覇権体制が解体していくことを容認する傾向が強く、ユーラシア中央部が中露の影響下に入ったり、ロシアやイランが中東で影響力を拡大することを容認している。この傾向を延長すると、日豪が同盟することの意味が見えてくる。日豪同盟は、反米的な色彩を持つのでなく、米国の覇権の下請けとして発足し、いずれ米国の国際影響力が低下するほど、東アジアの自立した国際体制の一つになる。

 地図を見ると、日本と豪州の間に、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどの国々がある。日本と豪州の間の海域には、有名な2本の線が通っている。それは「第1列島線」と「第2列島線」である。西側を通る第1列島線は、沖縄の西、台湾の東、フィリピンの西を通り、南沙諸島を包み込むかたちでベトナム沖まで続き、中国が主張する領海や経済水域の東端を意味している。第2列島線は、日本列島の東からグアム島の西、フィリピンの東を通っており、米国の領海や経済水域が散らばる海域の西端を意味している。米国は、ブッシュ政権時代の米中対話で、2つの列島線を米中の影響圏の境界とすることで話をしている。 (消えゆく中国包囲網) (第1、第2列島線の地図)

 中国は第1列島線より西、米国は第2列島線より東が影響圏だとすると、2つの列島線の間は誰の影響圏なのか。これまで、日本やフィリピンは対米従属だったので、2つの線の間も米国の影響圏だった。だが今後しだいに米国の覇権力が低下していくと、米国は第2列島線まで後退し、その後、放っておくと中国が第2列島線まで東進し、自分の影響海域だと言い出すだろう。しかし、2つの線の間に、日豪をはじめとして、いくつもの主権国家が存在する。これらの国々が今のように対米従属しつつバラバラに存在したままだと、いずれ米国が後退して中国が台頭したときに、バラバラに対中従属させられることになる。 (米中は沖縄米軍グアム移転で話がついている?)

 そこで出てくるのが「日豪同盟」だ。2つの列島線の北の端は日本、南の端は豪州だ。その間にフィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどがある。日豪が、間の国々とも連携しつつゆるやかな同盟関係(東南アジアを含める意味で「日豪亜同盟」と呼んでおく)を強めていき、2つの列島線の間に独自の領域を作ってしまえば、米国が衰退して中国が台頭しても、自立を維持でき、対中従属する必要がない。世界が多極化していく中で、日豪亜同盟は、西隣の中国と、東隣の米国の間の、太平洋地域の「第3の極」になりうる。

 最近の安倍政権の動きを見ると、日豪の潜水艦の共同開発のほかにも、日豪亜同盟を意識している感じを各所で受ける。日本が南シナ海の紛争に介入し始めたことが、そのひとつだ。第1列島線が通る南シナ海は、中国の影響圏と、日豪亜同盟の領域が接する地域だ。日本が対米従属を永続化したいなら、自国の領海からはるかに遠い南シナ海に自衛隊が常時いる状態にすることは、米国から強く要請されたことであってもマイナスだ。いずれ米国が「南シナ海で中国を監視したり威嚇するのは日本に任せた」と言い出しかねず、この部分で日本が米国から自立した軍事行動をとることを米国から求められることにつながるからだ。だから日本側は従来「装備の拡大が追いつかないので南シナ海に自衛隊を常時出すことは無理です」といいわけし、米国の要請を断ってきた。 (日本が南シナ海で中国を挑発する日)

 だが安倍首相は11月19日、マニラでのAPECサミットで米オバマ大統領と会った際、南シナ海に海上自衛隊を派遣して米軍を支援することを検討していると表明した。この表明の後、菅官房長官は日本のマスコミに対し、具体的な計画はないと発表し、急いで火消しに回った。だが、安倍は、今年5月の訪米時に日本のTPP加盟や自衛隊の海外派兵拡大を国会で決める前に米国に約束してしまうなど、国会など国内の了解をとりつける前に米国に対して重要政策の実行を約束する常習犯だ。自衛隊が南シナ海に長期駐留する態勢が作られていきそうだ。 (Japan considers sending navy to aid US in South China Sea) (多極化への捨て駒にされる日本) (China is on `High Alert' for Japan's `Intervention' in South China Sea)

 安倍の南シナ海進出表明の翌日、米政府は、日本に最新鋭の無人偵察機グローバルホーク(3機、12億ドル)を売ることを初めて正式に許可した。米国は日本に対し、南シナ海での中国軍の動きを偵察する役割を任せたいと求め続けてきたが、日本の防衛省は以前から、自衛隊の偵察能力は装備や人材の面で限界があり、日本近海の偵察だけで手一杯で、南シナ海まで手がけられないと尻込みしてきた(真の理由は、すでに書いたとおり、日本が外国での軍事行動を増やすと対米従属から逸脱させられていくので)。偵察機を売ることで、米国は日本に「これで偵察能力がかなり高まる。もう能力の限界をいいわけにできないよね」と言えるようになる。 (U.S. approves sale of Global Hawk drones to Japan)

 南シナ海での「中国の脅威」を口実にした、日本からフィリピンへの武器の技術支援や売却も、日豪亜同盟の構想推進の一環と考えると合点がいく。日本は、マニラ周辺の鉄道建設への融資など、フィリピンのインフラ整備への支援も強化している。これも中国に対抗する策だろう。今年、インドネシアの新幹線の建設受注合戦では、日本勢が中国に破れている。日中間で、影響圏づくりのせめぎ合いが起きている。 (Japan is using South China Sea tensions to peddle military hardware in Asia) (Philippines, Japan vow closer defense ties) (Japan's $2-B loan to fund Philippines's largest railway system) (Abe disappointed over Indonesia train project)

 10月に日本が土壇場の交渉のまとめ役をやって締結したTPPも、アジア側の参加国の顔ぶれを見ると、日本、豪州、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ニュージーランドといった、日豪亜同盟の地域の中にある国々がそろっている。もうひとつTPPの調印国であるベトナムも、中国に従属したくない傾向があるので、日豪亜同盟に入るか、もしくは両義的な立場をとるかもしれない。インドネシアはTPPに入っていないが、日豪との関係性に以前から気を使っている。 (TPPは米覇権の縮小策)

 TPPは、米国企業が国家を越権できるISDS条項など、対米従属的な色彩が強いので、TPPを日豪亜同盟の原形とみるのは無理がある。だが日豪亜同盟は、今後しばらく米国覇権体制の下請け機構として機能し、いずれ金融バブルの再崩壊などによって米国の覇権が低下したら、それに合わせて静かに自立していく流れが予測されるので、対米従属と日豪亜同盟は矛盾するものでない。 (安倍訪米とTPP)

(米国の金融バブルが崩壊すると、その前にQEを目一杯やっている日本が財政崩壊する可能性が高い。米国の金融財政の崩壊は、米国の覇権喪失を招き、世界の覇権体制の不可逆的な多極化が起きる。一方、日本は今のところ地域覇権を何も持っていないので、一時的な国力低下を経験するだけだ。国力低下が長く続くと、日豪亜同盟どころでなくなるが) (出口なきQEで金融破綻に向かう日米) (日本経済を自滅にみちびく対米従属)

 安倍政権が進めた集団的自衛権の拡大も、日豪亜同盟と重ねてみると、新たな側面が見えてくる。日本の議論は「集団」を「日米」に限定して考えているが、この「集団」が「日豪亜」であるとしたら、それは地域覇権的な日豪亜の集団安保体制の準備となる。 (インド洋を隠然と制する中国)

 日本は今のところ日豪亜同盟を「中国敵視網」の道具として作っている。豪州は、それを気がかりなことと考えている。しかし、日豪亜と中国は、恒久的に対立すると決まったわけでない。中国包囲網は米国の発案であり、日本に「中国包囲網の一環として豪州やフィリピンとの軍事関係を強化し、準同盟関係にまで引き上げろ」と勧めているのも米国だ。だから日本は「中国敵視」の衣をまとって、フィリピンや豪州との軍事関係の強化、集団的自衛権の拡張、憲法改定などを強行している。

 しかし今後、いずれ米国の覇権が衰退し、米国に頼れなくなった日豪亜が自立した地域勢力になると、中国と対立し続けることが、コストの大きすぎる、不必要な行為になる。日豪亜のすべての国が、経済面において中国と密接な関係を持っている。中国が日豪亜を自国の覇権下に押し込めようとせず、日豪亜と共存することを認めるなら、両者の関係はどこかで均衡し、平和理に安定したものになる(その時には南シナ海や東シナ海の領海紛争が何らかのかたちで解決している)。 (中国包囲網の虚実 2)

 中国は、第1列島線の内側について譲る気がないが、その外側の、2つの列島線の間の地域については態度が曖昧だ。こうした行動規範から考えて、日豪亜が団結しても、それで中国が脅威感を公式に表明することはない。中国から見ると、米国の覇権が失われて孤立した日本が暴走するかもしれない予測不能な状況に陥るより、米国と同じアングロサクソン系の豪州が日本と同盟を組み、日本を監視し、安定的な行動に導いてくれる方がましだ。中国は、むしろ日豪亜同盟を、中国敵視をやめることを条件に、積極的に容認する可能性がある。その時に、豪州の左派勢力と中国のつながりが生きてくる。 (多極化に備えるオーストラリア)

 東南アジアには同盟体としてASEANがあるが、ASEANは中国に押し切られることが多く、中国と対等な「対話」ができていない(中国にとって東南アジアは歴史的に、従属させる周辺地域だった)。日本も、米国の後ろ盾を失った単独の状態だと、中国を敵視・嫌悪するか、鎖国的に無視するか、無能もしくは卑屈に言いなりになるかで、中国とバランスを保った関係を築くことが困難だ。日本とASEANと豪州がバラバラな現状のまま、米国の覇権が低下すると、豪州も中国との対等性を維持できない。これは中国の「一人勝ち」というよりも、地域の不安定化をもたらしかねない。 (中国の台頭を誘発する包囲網) (中国包囲網のほころび)

 対照的に、日豪亜が連携するなら、アングロサクソン系の豪州の英国譲りの国際戦略技能と、日本の技術力が組み合わさり、国際政治の戦略分析が無能な日本は豪州に学べるし、間に位置する東南アジアの国々は、中国と日豪をバランスさせて安定を得ることができる。東南アジアの中でも、インドシナやタイ、ミャンマーは、日豪亜でなく中国の傘下に入る傾向が強いだろうが、シンガポールやフィリピンは喜んで日豪亜の方に乗ってくるだろう。

 日豪亜が同盟体に近づくことにはリスクもある。最大のものは、米国の覇権が強い間に、軍産複合体が、日豪亜、特に日本を扇動して中国と戦争させようとする懸念だ。豪州の懸念はここにある。しかし、それが全面戦争になる可能性は低い。先例として、先日トルコが対シリア国境地域でロシアの戦闘機を撃墜したことがある。米国がトルコに撃墜を事前了承(扇動)した可能性が高いが、トルコとロシアは全面戦争にならず、逆にトルコがISISをこっそり支援してきたことが暴露され、露軍がシリア・トルコ国境を閉鎖してISIS支援が不可能になり、トルコが窮する結果になっている。08年に米国(軍産)がグルジアを扇動してロシアに戦争を仕掛けさせたときも、グルジアの惨敗と、ロシアの事実上の領土拡大で終わっている。トルコもグルジアも、米国の扇動に乗ってロシアと交戦したことを後悔し、米国に対する不信感を教訓として持つことになった。 (トルコの露軍機撃墜の背景) (米に乗せられたグルジアの惨敗)

 こうした先例を日本に当てはめると、日本が米国に扇動されて南シナ海か東シナ海で日中が交戦した場合、領海を拡大するのは中国の方だ。日本は敗退し、国際的に屈辱を味わうだろう。それはむしろ長期的に日本にとって、米国(軍産)の扇動を軽信して戦闘すると惨敗するという「良い教訓」になる。戦後の日本は、交戦しないことで、対米従属のおいしい部分だけを得てきた。米国の覇権が低下し、豪亜との軍事同盟を強め、交戦がありうる今後の日本は、対米従属の危険な部分を見極める必要がある。頭で理解できないなら、身体(実際の交戦)で教訓を得ることになる。 (集団的自衛権と米国の濡れ衣戦争)

 日本が豪州に潜水艦の共同開発を正式提案するのと同時期に、日本政府は、南氷洋での調査捕鯨の再開を発表した。捕鯨に反対する豪政府は11月28日、日本を強く非難する声明を出した。安倍政権が、日本政府のすべてを統括できているなら、何としても豪州から潜水艦の共同開発を受注したいこの時期に、わざわざ豪州を激怒させ、豪州内で日本への発注に反対している勢力を伸張させてしまう調査捕鯨再開の決定を出すはずがない。調査捕鯨再開の発表は、安倍をかついでいる日本の官僚機構の中に、豪州との潜水艦の共同開発と、その先にある日豪亜同盟の形成を阻止したい勢力がいることを示している。 (Australia slams Japan's decision to resume Antarctic whaling) (Japan gives green light to commence whaling in the Antarctic)

 官僚機構は、対米従属が続く限り、日本の権力を隠然と独裁的に握り続けられるが、日豪の準同盟化が進み、日本が対米従属以外の国際戦略を持つようになると、その部分が官僚でなく政治家の主導になり、官僚独裁が崩れかねない。日豪の準同盟化は、安倍が、これまでの官僚の傀儡としての振る舞いから少しずつ逸脱していることを意味しうる。もしかすると今後、安倍と官僚との暗闘が拡大し、スキャンダルの暴露や、民主党が官僚の傀儡勢力として安倍を引きずり降ろす政治劇などが始まるのかもしれない。1970年代に米国が日本を対米自立に誘導した時は、中国に接近した田中角栄がロッキード事件で米軍産と日本官僚に引きずりおろされている。 (民主化するタイ、しない日本)


2015年12月3日
露呈したトルコのテロ支援
     http://tanakanews.com/151203turkey.php

 11月24日にシリア北部のトルコ国境付近で、テロ組織を空爆するため飛行中のロシア軍の戦闘機が、トルコ軍の戦闘機に攻撃されて墜落してから一週間がすぎた。シリア北部のテロ組織(アルカイダ系のヌスラ戦線など)を支援してきたトルコは、ロシアに空爆するなと警告するために戦闘機を撃墜したのだが、トルコの意に反して、その後の状況は急速にトルコの不利、ロシアの有利になっている。 (トルコの露軍機撃墜の背景) (Military expert: Turkish air force stalked Russian jets `for several days') (Turkey would have acted differently if it had known jet was Russian: Erdogan)

 ロシア政府は、露軍機がトルコの領空を侵犯したのでなく、トルコ軍機がシリアの領空を侵犯して露軍機を撃墜したと主張している。この主張に基づいて露軍は、トルコ軍機が再び領空侵犯できないよう、最新鋭の地対空迎撃ミサイルであるS400を、トルコ国境から50キロのシリア北部ラタキアの露軍基地に配備した。S400は、米軍のパトリオットより高性能といわれ、この配備により、これまで何度もシリアを領空侵犯してシリア北部のテロ組織をシリア軍の攻撃から守ってきたトルコ軍機は、もう領空侵犯できなくなった。ラタキアのS400はレバノンを越えてイスラエルまで届くので、イスラエルがレバノンに再侵攻することもできなくなる。 (Russia S-400 Syria missile deployment sends robust signal) (Turkish Jets Avoid Violating Syrian Airspace after Arrival of Russian S-400 Missiles) (Erdogan's Mistake: Russia May Now Initiate Own 'No-Fly Zone' Over Syria)

 ロシアがS400を配備して以来、米軍機によるシリアへの空爆も行われていない。シリア上空は、露軍とその傘下のシリア軍だけが飛行する領域になった。トルコは従来、シリア北部にシリア軍機の飛行を禁じる飛行禁止区域を作ってテロ組織を守ることを画策し、米国に提案し続けたが、米国は了承しなかった。そうこうするうちに、露軍がシリアに進出してシリア北部のテロ組織を空爆し、今回のS400の配備を機に、シリア北部は逆に、トルコ軍機の飛行が禁じられた飛行禁止区域になった。露軍機の撃墜は、ロシアにとって、正当防衛としてS400をシリアに配備する格好の口実となった。シリア北部のテロ組織は、上空からのトルコの支援を失い、露軍とシリア軍に潰されていく運命になった。トルコは馬鹿なことをした。 (No US airstrikes in Syria since Russia deployed S-400 systems) (Russian S-400 missiles turn most of Syria into no-fly zone, halt US air strikes) (中東安定化のまとめ役になるイラン)

 ロシアは上空だけでなく、地上の道路を通ってトルコからシリアに、テロ組織を強化する武器や志願兵が入ってくるのを阻止する策もとり始めた。11月25日、トルコ国境からシリアに数キロ入った道路で、20台のトラック部隊が空爆され、破壊された。トルコ政府系の「人道支援」団体が、このトラックはシリアの一般市民に救援物資を運ぶためのトラック隊だったと発表したが、どこの組織のトラックであるか不明なままで、名乗り出る団体がいない(トルコの人道支援団体がウソをついた)状態だ。トルコの野党系の大手新聞ジュムフリエト(Cumhuriyet、共和国新聞)は、シリア政府の話として、トラックには機関銃などの武器が積まれており、トルコ当局がシリアのアルカイダ系テロリスト(ヌスラ戦線)に武器を供給する目的だったと報じている。 (Mystery over who bombed Turkish convoy allegedly carrying weapons to militants in Syria) (NATO's Terror Convoys Halted at Syrian Border)

 トラック隊を空爆したのは露軍機であろう。ジュムフリエト紙によると、トルコの諜報機関は以前から何度も武器満載のトラック隊をシリアのテロ組織に送っている。ロシアは10月にシリアでの空爆を開始したものの、当初はトルコとの外交関係を重視し、トルコの人権団体(を詐称する諜報機関)が「人道支援物資」だとウソを言って送り込んできた(武器満載の)トラック隊を空爆せず黙認していた。だが、11月24日にトルコが露軍機を撃墜し、両国の関係が悪化した後、ロシアは心おきなくトルコからのトラック隊を空爆できるようになった。露軍機の撃墜は、トルコのテロ支援を頓挫させている。トルコは、まったく、馬鹿なことをした。 (Syria, Russia Block Cross-Border Weapons Supply to ISIS in Lattakia) (Turkey Arrests Generals for Stopping Syria-Bound Trucks 'Filled With Arms')

 トルコの野党CHP(世俗派)の系統の新聞であるジュムフリエト紙は、近代トルコの国父ケマル・アタチュルクの側近が1924年に創刊し、2002年にCHPがエルドアン大統領のイスラム主義政党AKPに政権を取られて下野した後、AKPとエルドアンを批判する急先鋒となっている。トルコ総選挙直前の今年6月に同紙は、エルドアン傘下のトルコ諜報部(MIT)が、武器を満載したトラック隊をシリアのテロリストに送り続けていることを詳細に報道した。 (Turkey Arrests Journalists Who Exposed Erdogan's Weapons Smuggling To Extremist Syrian Rebels)

 選挙でCHPはAKPに負け続けてきたが、今回、露軍機の撃墜直後から、トルコがシリアのテロ組織を支援してきたことが内外で批判されるようになり、野党系のマスコミもエルドアンへの批判を強めた。政権からの反撃として、11月30日にジュムフリエトの編集局長(Can Dundar)らが「テロリスト支援」の容疑で逮捕された。テロを支援しているエルドアン政権が、それを批判する暴露報道をした新聞社幹部をテロ支援の容疑で逮捕する茶番劇が展開されている。 (Cumhuriyet From Wikipedia) (The Phony War on ISIS by Justin Raimondo_)

 ジュムフリエト紙が今年6月に報じた特ダネは、トルコ政府内でもエルドアンの側近や諜報機関だけがシリアのテロ組織への武器支援戦略に関与し、軍や警察には知らされていない状況が書かれていた。それによると、14年1月、地中海に近いトルコのシリア国境近くのアダナ県で、地元の憲兵隊(警察)が、武器を満載してシリアに向かうトラック隊を検挙したところ、県知事から捜査をやめろと圧力がかかった。2週間後、再び武器満載のトラック隊が憲兵に検挙され、検挙現場に県知事本人がやってきて捜査中止を命じ、憲兵隊幹部と押し問答となった。

 知事は政府中枢から命じられて動いており、トルコ政府は「トラックは諜報機関のもので、運搬の任務は国家機密だ」と発表し、すぐに「シリアのトルクメン人に人道支援物資を送るトラック隊で、積荷の中の武器類は人道物資の一部である狩猟用のライフル銃数丁のみ」と言い直した。だが、シリアのトルクメン人の組織は「トルコからの人道支援物資が届く予定など全く聞いてない。これまで支援を受けたこともない」と表明し、ウソがばれた。トラック隊は諜報機関のもので、シリアのISISやアルカイダに頻繁に武器を送っていることが、アダナの憲兵と検察の捜査で判明していたが、捜査結果は破棄され、捜査に関与した憲兵や検事らは、訴追されて懲役刑を受けたり、免職されたりする報復を受けた。 (2014 National Intelligence Organisation scandal in Turkey From Wikipedia)

 この事例から考えると、今回シリア北部で空爆を受けて破壊されたトルコからのトラック隊も、積み荷は人道支援物資でなく、ISISやアルカイダを支援する武器だったのだろう。トルコ政府がウソばかり言ってきたことが、世界に対して露呈し始めている。 (Erdoan says intercepted MIT trucks were going to Free Syrian Army)

 以前、トルコからシリアへのトラック隊のルートはいくつかあった。だが、今夏クルド人がユーフラテス川東岸をISISから奪回し、地中海岸のアレッポの北側はロシア軍の空爆に支援されたシリア政府軍が奪還しつつある(それを阻止しようとトルコが露軍機を撃墜した)。唯一まだ開いている国境は、それらの間に位置する、ユーフラテス川西岸の丘陵地帯だけだ。トルコからシリアへのテロ支援物資は、この地域の山道を通って送られている。トルコ軍は、ユーフラテス東岸のクルド人に対し、西岸に渡河進軍したら越境攻撃するぞと脅してきた。 (ロシアに野望をくじかれたトルコ)

 ところがここで、トルコの味方であるはずの米国の大統領府が11月29日、唯一越境可能なユーフラテス西岸の約100キロの国境を閉鎖しろとトルコに要求し始めた。トルコ政府は「シリアのトルクメン人への人道支援物資を通すため、この国境を開けておく必要がある」と、米国の要請を拒否している。国境の全面閉鎖はもともと先日パリがテロを受けたフランスのオランド大統領が提唱し、オバマ政権もそれに同調し「その国境が開いている限り、欧州など世界でテロが再発しかねない。トルコ政府の閉鎖拒否は世界に迷惑をかけている。閉鎖は絶対必要だ」と言っている。 (War with Isis: President Obama Demands That Turkey Close Stretch of Frontier with Syria)

 米国が「同盟国」であるトルコに、力づくで国境閉鎖を迫ることはないだろう。だが米国の圧力は、今やトルコを敵視するロシアが、開いている最後のトルコの国境地帯を閉める軍事作戦を始めることに、大義名分を与えてしまった(オバマが隠れ親露、隠れ多極主義であることが見てとれる)。早晩、トルコの対シリア国境は全部閉鎖され、シリアのISISやヌスラ戦線は、武器や兵士の補給を受けられなくなる。すでに、ISISからは、の兵士たちが相次いで逃亡している。トルコは、本当に馬鹿なことをした。 (Russia ready to consider steps to close Turkish-Syrian border - Lavrov) (Pentagon Claims ISIS Fighters Defecting in Iraq)

 国境の閉鎖は、クルド人に漁夫の利を与える。シリアのクルド人の居住地域は、東方のユーフラテス東岸(タルアブヤドなど)と、西方のアレッポ北方(アフリーンなど)の2地域に分かれており、いま問題になっている地域は、この2地域の間に存在する。国境が閉鎖されると、クルドの軍勢(YPG)が渡河してこの地域を占領し、東西のクルド人の居住地域がつながって大きな自治区になる。米国もロシアもYPGを友軍と考えているし、アサド政権はクルド人に自治を与えることを約束している。トルコは、露軍機を撃墜したばかりに、ISISを支援できなくなり、国境の南側を仇敵クルド人に占領される事態を招いている。 (クルドの独立、トルコの窮地)

 トルコがISISを支援してきたもう一つの要素に「石油」がある。ISISはイラクやシリアの油田を次々と武力で強奪し、産出した石油をトルコ経由でイスラエルや欧州、日本などに輸出してきた。イラク軍の諜報担当者や、トルコの野党政治家によると、イラクとシリアにあるISISの油田から、トルコに石油を送るルートは2つある。ひとつは、シリアやイラクでISISが占領している地域のうち、トルコと国境を接する地域に細いパイプラインを越境するかたちで敷き、油田から対トルコ国境近くまでタンクローリー車で運び、そこからパイプラインでトルコ側の貯蔵施設に送油し、そこから再びローリー車で、トルコ国内の消費地や、地中海岸のジェイハンのタンカー港湾まで運ぶやり方だ。シリアの油田の石油は軽質油で、ほとんど精製が必要なく、ISISやトルコの密輸業者が手がける簡単な精製で事足りる。 (Is Turkey buying oil smuggled by、 Islamic State?)

 もう一つは、03年の米軍イラク侵攻の前から存在する、北イラクのクルド地域にある油田からトルコに石油を送るルートに、ISISの石油を便乗させるやり方だ。北イラクのクルド自治政府は、キルクークなど自治区内にある油田の石油を、イラク政府の反対を押し切るかたちで、トルコ経由で世界に輸出している。イラク政府の決まりでは、国内の石油はクルド地域で産出したものも含め、いったんイラクの中央政府が引き取って海外に輸出し、販売代金をクルド自治政府に分配することになっている。だが、イラク政府を信用していないクルド自治政府は、このやり方を嫌い、直接トルコに石油を輸出している。 (The "ISIS Rockefellers": How Islamic State Oil Flows to Israel)

 油田から国境まではイラク側のタンクローリー車が運び、国境で簡単な精製を行い、貯蔵タンクに入れた後(この工程を経ることで、トルコは制度上、クルドから直接の輸入でないようにごまかせる)、トルコ側のローリー車に積み替えてトルコの地中海岸のジェイハン港まで運び、タンカーに積んで輸出する。モスルの油田などISISからの石油は、国境のイラク側でクルドからの石油と合流するので、トルコ側に入った時には原産地がわからなくなり、トルコの当局は知らなかったとしらを切れる。代金は、トルコの銀行からイラクの両替商を経由してISISに送られるほか、トルコからイラクに輸出される自動車の一部をISISにわたし、それをISISの代理人がバグダッドなどで販売する、自動車を使った資金洗浄もおこなわれている。

 クルドの石油輸出はイラク政府との協定違反だが、クルド自治政府はテロ組織でない。イラク以外の諸国にとってクルドの石油を買うことは、こっそりやった方が良いことであるものの、国際法違反でないので、ずっと存続してきた。テロ組織であるISISから石油を買うことは国際法違反だが、こっそりやるクルドからの石油輸入のルートに便乗し、クルドからの石油とISISからの石油を混ぜてしまうことで、これまで世界にばれていなかった。だが今回、ロシアが、戦闘機を撃墜された報復としてトルコとISISとのつながりを暴露する過程で、この便乗ルートの存在が報じられるようになった。 (石油輸送ルートの地図)

 エルドアン政権にとって、この暴露が危険なのは、エルドアンの息子のビラル・エルドアンが経営している海運会社「BMZグループ」が、ジェイハン港から海外に、ISISの石油を輸出する担当をしていると報じられている点だ。ビラルを揶揄して「ラッカ(ISISが首都としているシリアの町)のロックフェラー」と呼んでいる記事もある。クルドからの石油の中にISISの石油が混じっていることは、トルコ当局が少し調べればわかることだ。トルコの諜報機関がISISに武器を支援していたことから考えても、トルコ当局はおそらく、ISISの石油輸出を「黙認」してきただけでなく、積極的に「支援」している。 (BMZ Group - Wikipedia) (Les Rockefeller de Raqqa: le business du petrole de Daech mis a nu) (Meet The Man Who Funds ISIS: Bilal Erdogan, The Son Of Turkey's President)

 ISISの石油輸出に対しては、トルコだけでなく、米国とイスラエルも支援している。米国は1年以上、シリアやイラクの上空に戦闘機を飛ばし、ISISの拠点を空爆してきたことになっている。だが、米軍は一度もISISのタンクローリー部隊を空爆していない。ローリー隊は通常、30台以上の隊列を組み、白昼堂々とシリアやイラクの高速道路を走ってトルコ国境に向かっていた。戦闘機で空爆するのは簡単だが、米軍は「ローリーは一般市民が使う燃料を運ぶ民生用だから、空爆するとイラクやシリアの市民生活に支障が出る」という理由で空爆しなかった(米軍は、シリアの本物の民生用の浄水場や発電所は、どんどん空爆しているくせに)。イラク政府が「それはISISのローリーだから空爆してくれ」と頼んでも、米政府は無視した。米国は、民生用と勘違いする演技で、ISISを支援していた可能性が高い。 (Daesh trucks that sell oil are `civilian targets' to US) (US-led coalition turns blind eye on Daesh oil sales: Russia FM) (US-led coalition targets water pumping stations in Aleppo)

 10月にシリアに進出した露軍は、偵察衛星で刻々と写真を撮って解析することで、ローリー隊がモスルなどISISの油田からトルコ国境まで走ってクルドからの石油と混合されていることを突き止めた。「ISISの石油はクルドの石油と混ぜてトルコに輸出されている」という、イラク軍の諜報機関の指摘が正しいことが判明した。また露軍は、シリアとトルコの国境地帯を空爆することで、一つめの、パイプラインによる密輸ルートも破壊しており、ISISからトルコへの石油輸出は終焉に向かっている。 (Erdogan Says Will Resign If Oil Purchases From ISIS Proven After Putin Says Has "More Proof")

 これまでISISを支援するトルコの味方をしてきた米国も、今後は態度を変えるかもしれない。米軍の特殊部隊は今年5月、シリア東部のISISの石油輸出担当の幹部(Abu Sayyaf)の隠れ家を襲撃し、幹部を殺害するとともに、大量のUSBメモリなどの情報類を押収した。その情報の分析から米当局は、今年7月の時点ですでに「トルコ当局がISISの石油輸出を支援していることがほぼ確実だ」と結論付けている。今のところ、米政府はこの件でトルコ政府を非難していないが、米国はいつでもトルコのはしごを外せる状況にある。 (Turkey sends in jets as Syria's agony spills over every border)

 ISISがトルコに輸出した石油は、トルコのジェイハン港から、ビラル・エルドアンが経営する会社のタンカーで積み出されてきたが、それらのタンカーの多くが向かう先はイスラエルだった。トルコ国内にユダヤ系ブローカー(通称Uncle Farid)がおり、イスラエルの代理人として、ISISやクルドが送ってきた石油を監督している。石油は、イスラエル南部の備蓄施設にいったん備蓄された後、別のタンカーで欧州などに積み出される。イスラエルは、自国が使う石油の8割にあたる大量の石油を、クルドとISISから買っていた。イスラエルは、この石油の多くについて、国内で消費するのでなく、他の国に転売してきた。イスラエルは、もともとサダム・フセインを潰すための戦略としてイラクのクルド組織に接近し、クルドの石油の産地をわからなくして世界に売る「産地洗浄」の事業に協力してきた。同じルートを活用して、米国が作ったテロ組織であるISISの資金作りのための石油の産地洗浄にも協力している。イスラエルとトルコは、パレスチナ問題で関係が悪化しているが、ISIS支援をめぐっては両国とも立派な「テロ支援国」であり、盟友関係にある。 (ISIS Oil Trade Full Frontal: "Raqqa's Rockefellers", Bilal Erdogan, KRG Crude, And The Israel Connection) (ISISと米イスラエルのつながり)

 ISISがトルコに密輸出した石油を、日本も買っているという指摘が出ている。地政学に詳しい分析者のウィリアム・エングダールがトルコの野党から聞いた話によると、ビラル・エルドアンの海運会社がイラクから密輸入した石油をジェイハンからタンカーに載せて送る先として日本があると書いている(それ以上の詳述はしていない)。 (Erdogan's Dirty Dangerous ISIS Games)

 ロシアのプーチン大統領が、11月末に「トルコがISISの石油を買っていることを証明する明確な証拠が見つかった」と発表した。それを受けてエルドアン大統領は「トルコがISISの石油を買っているというのは大ウソだ。それが本当に証明されたら、私は辞任する」と述べ、強く否定した。しかし、トルコ政府やエルドアンの親族がISISを支援してきたことは、多方面から次々と暴露されている。エルドアンの二人の子供のうち、ISISの石油をタンカーで輸出した疑いをもたれている息子のビラルだけでなく、娘のスメイエ・エルドアン(Sumeyye Erdogan)も、ISISの負傷兵を治療するトルコ軍の秘密病院の運営にたずさわっていた疑いがもたれている。秘密病院は、トルコの対シリア国境に近いガジアンテプの郊外にある。そこで働いていた看護師によると、毎日シリアからISISの負傷兵がトルコ軍のトラックで運ばれてきており、スメイエの姿が頻繁に確認されたという。 (Turkish President's daughter heads a covert medical corps to help ISIS injured members, reveals a disgruntled nurse)

 この手の暴露が今後も続くと、エルドアンは、10月の選挙で勝ったばかりであるが、辞任に追い込まれるかもしれない。野党の政権になるのでなく、AKPが与党のまま、首相のダウトオールが大統領のエルドアンから権力を奪い、大統領を以前のようなお飾りの存在に引き戻すことで、与党中枢の権力の転換が行われる可能性が指摘されている。 (The Erdogan Era is All But Over)

 シリアのアサド大統領が「極悪」の濡れ衣を着せられたのは、2013年夏に、シリアで化学兵器サリンによる攻撃が市民に対して行われ、米国がそれをシリア政府軍の行為と決めつけたことが一因だ。しかし、このサリン攻撃も、シリア軍でなく、アルカイダ(ヌスラ戦線)による行為であり、サリンはトルコの諜報機関が作ってヌスラに渡したことが、当時から指摘され、今年の夏にはトルコの野党CHPが、証拠付きでそのことを改めて発表している。この件も、まだ国際的に大きな話題になっていないが、いずれ、トルコやエルドアンの「悪事」として、世界的に有名になっていく可能性がある。 (シリアに化学兵器の濡れ衣をかけて侵攻する?) (米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動) (シリア空爆策の崩壊) (Hersh Vindicated? Turkish Whistleblowers Corroborate Story on False Flag Sarin Attack in Syria) (2 Turkish Parliament Members: Turkey Provided Chemical Weapons for Syrian Terrorist Attack)

 トルコは、単独でシリアのテロ組織を支援してきたのでない。米国やNATOと結託して、この不正をやってきた。露軍機撃墜を機に、急速にトルコの悪事が暴露されていることは、トルコの国際的な地位を引き下げるだけでなく、米国とそれに従属する欧州諸国などによる、ISISとの戦争自体がインチキであることを暴露し、インチキを看過しつつプロパガンダを喧伝してきた米欧マスコミの信頼性をも低下させていきそうだ。 (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出) (わざとイスラム国に負ける米軍)

 ISIS支援は、トルコでなく米国(軍産)の発案だ。軍産は、米欧(国際社会)がイスラム世界を敵視する911以来のテロ戦争の構図を再強化するため、残虐な印象のISISを涵養・強化してきた(だから。軍産の傘下にある米欧日のマスコミは、ISISの残虐性をことさらに強調して報道する)。ISISは、イスラム世界の一員であるトルコにとって、もともと害悪性の高いものであるが、エルドアンは、中東でのトルコの影響力を拡大する「新オスマン帝国」の戦略の一環として、米国によるISISの強化に協力してきた。 (テロ戦争を再燃させる) (近現代の終わりとトルコの転換)

 今回のトルコの崩壊で教訓とすべきは、米国の善悪歪曲の国際悪事に協力すると、米国自身にはしごをはずされる結果になりかねない点だ。安倍政権の日本も、中国を敵視する米国の策略に乗って、南シナ海などで中国との対決を強めることで、国策である対米従属の維持と、日豪亜同盟の創設をもくろんでいるが、いずれ米国が中国の台頭を容認する態度を強めたとき、安倍がエルドアンのように米国にはしごをはずされる展開になることが懸念される。 (日豪は太平洋の第3極になるか)