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折々の記 2015 ⑨
【心に浮かぶよしなしごと】

【 01 】11/23~     【 02 】12/08~     【 03 】12/15~
【 04 】01/03~     【 05 】01/09~     【 06 】01/13~
【 07 】01/13~     【 08 】01/25~     【 09 】02/04~

【 05 】01/09

  01 09 逝きしM君を悼む   痛惜の念
  01 10 赤ちゃんの秘密(その二)   驚くべき生命力:本能
  01 13 田中宇の国際ニュース解説⑧(その一)   世界はどう動いているか

 01 09 (土) 逝きしM君を悼む     

安曇から電話があり、11月M君が亡くなったという。 哀悼の気持ちが胸を打つ。

胸の内を軽々しくは口にしない彼は、その人柄を幼少から受けていたと思う。 得難い人を亡くした。 関東へ出たときに一度は訪問したいと伝えていたのに、それが果たせなかった。

生滅はまさに流れにうかぶ 泡沫うたかたで時をえらばない。 世の人の消滅を鴨長明はそう表現した。 真実の名言である。 だが、善悪に関係なく悲しみと冥福の情におそわれる。

ご内儀の深い悲しみを思うと、痛惜の念につつまれる。 M君、仏果に包まれよ。
   女をば のり御蔵くら と 云うぞかし  釈迦も達磨も ひょいひょいと生む   一休


 01 10 (日) 赤ちゃんの秘密(その二)       

赤ちゃんの秘密 Google検索
      https://www.google.co.jp/?gws_rd=ssl#q=%E8%B5%A4%E3%81%A1%E3%82%83%E3%82%93%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%AF%86

検索結果
      約 3,110,000 件 (0.49 秒)

① 赤ちゃんのヒミツ ~驚くべき生命力~ |地球ドラマチック ...
      tvmatome.net/archives/1079
2014/10/18 - NHK・Eテレの「地球ドラマチック」で赤ちゃんのヒミツ~驚くべき生命力~が放送されました。近年、赤ちゃんの研究が進み小さな体の中で起きていることが徐々に解明されつつあります。赤ちゃんは生まれてから2歳までの間に他のどの時期より ...

② 育児の秘密 - Baby-Pro
      www.baby-pro.co.jp/morimoto/report/27/report-27.htm
赤ちゃんはぜんぶわかっている に移動 - 【 育児の秘密1 】 赤ちゃんはぜんぶわかっている. ことばを話すことも出来ない赤ちゃんですら、 親に対する想いは大人並みにあります。 いやむしろ大人以上かもしれません。 夫婦げんかをしていると、 隣の部屋で ...

   ①と②は 01 03 の「赤ちゃんの秘密(その一)」を開いて参考にすること
   ③以下各項は、そのURLを開いて参照すること

③ NHKドキュメンタリー - 地球ドラマチック・選「赤ちゃんのヒミツ ...
      www.nhk.or.jp/docudocu/program/183/2340369/index.html
生まれたばかりの赤ちゃんは目がほとんど見えず、焦点が合うのは20センチほど先。母乳を飲むときの母親の顔との距離だ。聴覚は比較的発達しているが、エコーがかかったように聞こえる。赤ちゃんの泣き声は要求に応じて声色が調整されているという。眠りは ...

赤ちゃんのヒミツ~驚くべき生命力~ [DVD]にはDVD購入が紹介されています。

④ 赤ちゃんの秘密のルール100【頭から足先まで、そして心】 | Love ...
      ビギナーズママ.com/baby-rule/
2015/05/09 - だけど、相手が赤ちゃんだと『ちょっと待って、本当にこれでいいのかな?』と不安になることも多いのではないでしょうか。 日常的に起こるちょっとした事に対して、どう対応したらいいか100のルールとしてまとめました。(赤ちゃんだけではな.

それぞれのルールをプッシュすると、簡単な解説が出ている。

⑤ 右利き?左利き?生まれる前に決まっていた、赤ちゃんと利き手 ...
      matome.naver.jp/odai/2138504276323475301
右利き?左利き?生まれる前に決まっていた、赤ちゃんと利き手の秘密. 人間界には圧倒的に右利きが多く、左利きは人類全体のわずか10%。では一体、何が人の利き手を決めているのか? 更新日: 2014年01月11日. ueko_uekoさん ...

開いてみると、面白い解説が載っている。

⑥ 赤ちゃんだけにわかる秘密の会話風景 - Yahoo!映像トピックス
      http://videotopics.yahoo.co.jp/videolist/official/others/p5f857cbfa23724b4cd55b8b249b416c2
ピンクと青の服を着た2人の赤ちゃんが、なにやらなごやかに会話中? 大人にはわからない、赤ちゃんの世間話ってものがあるんでしょうね。

これも面白い画像が載っている。

⑦ 赤ちゃんの “秘密の武器” !? ベビーシェマ|東洋学園大学 人間 ...
      www.tyg.jp/hs_ch/0001.html
ひとりでは生きられない赤ちゃんが、生まれながらに 備えた “秘密の武器” である「ベビーシェマ」とは? これらの写真を見て、「可愛い」と思う理由。 それは、全ての赤ちゃんに備わった“秘密の武器”のせいなのです。 赤ちゃんの持つ見た目や動きの特徴=「 ...

赤ちゃんがかわいい理由

⑧ 赤ちゃんの笑顔の秘密-赤ちゃんの部屋
      www.babys-room.net
赤ちゃんの笑顔の秘密を紹介します♪赤ちゃんは楽しかったり嬉しくて笑っているわけじゃない!?

サイトは次のような分類に分かれている

    Home  妊活・不妊  妊娠・出産・育児に役立つコラム
    妊娠・出産・育児総合コミュニティ  マタニティ  産後のケア
    赤ちゃんの世話  離乳食レシピ  赤ちゃんの病気
    赤ちゃんグッズ  ウワサの商品徹底レビュー  付録

マタニティ・スタディをすべて読むサイト
  http://www.babys-room.net/column/maternitystudy.html
  五項目に分かれ詳しい解説がのっている

⑨ 赤ちゃんの秘密がパパとママにわかる本 - Amazon.co.jp
      www.amazon.co.jp › ... › 妊娠・出産・子育て › 子育て
Amazon公式サイトで赤ちゃんの秘密がパパとママにわかる本 (イラスト版 思いやりと個性をはぐくむシリーズ)を購入すると、Amazon配送商品なら、配送料無料でお届け。Amazonポイント還元本も多数。Amazon.co.jpをお探しなら豊富な品ぞろえ ...

第一期(胎児期・0歳児期・一歳児期・二歳児期)の教育を基本とする。 見られてもいい、聞かれてもいい生活(三恩=不思議な自然の恩恵;親の恩恵;人様の恩恵)……を核心とし、とくに0歳児(生命の誕生から満一歳)期に子育ての基本スタイルを築くことに最大関心を寄せることが肝要です。

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 01 13 (水) 田中宇の国際ニュース解説⑧(その一)     世界はどう動いているか

舎利子みよ、世界を牛耳る守銭奴の動きを !!

田中宇の国際ニュース解説
世界はどう動いているか

 フリーの国際情勢解説者、田中 宇(たなか・さかい)が、独自の視点で世界を斬る時事問題の分析記事。新聞やテレビを見ても分からないニュースの背景を説明します。無料配信記事と、もっといろいろ詳しく知りたい方のための会員制の配信記事「田中宇プラス」(購読料は6カ月で3000円)があります。以下の記事リストのうち◆がついたものは会員のみ閲覧できます。



◆ドルの魔力が解けてきた  その二(6)
 【2016年1月13日】 中国を筆頭とする実体経済の悪化、米シェール産業の行き詰まり、中央銀行群の金融テコ入れ策の弾切れなど、いくつもの危険な動きが激化している。米国など先進諸国の株や債券がいつ不可逆的に暴落しても不思議でない。英国の銀行は最近、顧客に対し「手持ちの株や社債を早く売却した方が良い。パニック売りの状態になってからでは遅い」と忠告している。モルガンスタンレーやバンカメも、似たような警告を発している。

北朝鮮に核保有を許す米中  その二(5)
 【2016年1月11日】 オバマと同じ民主党の、クリントン政権の国防長官だったウィリアム・ペリーが驚きの提案をした。「北はすでに核兵器を持っており、廃棄させるのは不可能。現実的な新たな目標は、北に核を廃棄させるのでなく、北が開発した核を封じ込めることだ。(1)北にこれ以上の核兵器を作らせない(2)これ以上高性能な核兵器を作らせない(3)核技術を他国に輸出させないという『3つのノー』を新たな目標にすべきだ。この目標は中国とも協調できる内容で、米中で6カ国協議を再開できる」

「金融世界大戦」の中国語訳が台湾で出版されました(晨星出版社。訳:蕭辰倢)

◆イランとサウジの接近を妨害したシーア派処刑  その二(4)
 【2016年1月6日】 サウジ王政の上層部は、軍産複合体とつながった親米派と、イランやロシアとの協調関係を作っていきたい非米派が、ずっと暗闘している。イランやトルコと組んでイラクのスンニ派地域を安定させる計画に乗り、バグダッドの大使館を再開したのは非米派の策だろう。そして、ニムル師を処刑してイランとの関係を悪化させ、イラク安定化計画を妨害したのは親米派の策だと考えられる。

日韓和解なぜ今?  その二(3)
 【2016年1月4日】 慰安婦問題がなぜ今解決したのかという問いは、オバマ政権がなぜ今日韓に和解しろと圧力をかけたのかという問いだ。オバマは、任期最後の年である今年、北朝鮮の核開発問題を解決したいので、まず米国の力で最も簡単に解決できる日韓の和解を実現したのでないか。今回、米国からの圧力による慰安婦問題の解決、日韓安保協定の再交渉が始まったことは、2011-12年の「米国が出ていく流れ」の再開になるかもしれない。

◆国家と戦争、軍産イスラエル  その二(2)
 【2015年12月28日】 イスラエルが、いくら米国を牛耳って動かしても、ロシアとイランがISISを退治して中東への支配力を強めることを、止めることができない。イスラエルは、覇権国である米国を支配しても、自国の安全を守れなくなっている。米国中枢は、しばらく前から、オバマと軍産イスラエルの暗闘になっているが、オバマは今年、露イランを動かし、軍産とイスラエルを無力化することに成功した。

シリアをロシアに任せる米国  その二(1)
 【2015年12月21日】 ケリーが訪露してプーチンにロシア主導のシリア問題解決を進めるよう促し、プーチンはそれを実行するが、米政府全体としてはロシア敵視を変えず、ロシアが勝手にシリア内戦に介入しているという解釈をマスコミに書かせる傾向が、以前から続いてきた。今回もそのパターンだ。オバマがこの策を続けるほど、中東は米国でなくロシアが主導する体制に転換していく。

ラジオデイズ・田中宇「ニュースの裏側」・・・ロシア機撃墜に踏み切ったトルコの背景

◆ドル延命のため世界経済を潰す米国  その一(3)
 【2015年12月19日】覇権国は本来、世界最大の経済力を持ち、その余力を世界のために使って、世界が経済成長できる態勢を維持することが役割だ。その役割を果たすために、覇権国の通貨や国債は、世界的に最高位の信用を約束されてきた。だが今回、米国は、ドルと米国債の強さを守るため、世界が不況に向かい、新興諸国や途上諸国が経済減速で苦しんでいる今の時期に、苦しみを増すことにつながる利上げやドル高誘導策をやっている。米国は、ドルを延命させるために世界経済を潰してしまう策をやっている。

◆米国の利上げで債券崩壊が始まる?  その一(2)
 【2015年12月15日】うまくいけば米連銀は今回、債券破綻の連鎖を起こさず利上げできる。しかし、QEなど過剰な緩和策によるバブル膨張は、もう限界に近い。今回うまく乗り切れても、安定は長続きしない。いずれバブル崩壊、信用収縮の時代になる。リーマン危機の時は、米欧日の金融当局に余裕があったが、その後の7年間の対策で余裕を使い切り、次の危機を乗り切れる「弾」が尽きている。今後いったんバブルが崩壊すると、世界的にひどい状態が数年以上続くと予測されている。

イラクでも見えてきた「ISIS後」  その一(1)
 【2015年12月13日】 トルコ軍が北イラクのバシカに越境進軍(増派)したことに関して「トルコの新たなISIS支援策だ」という批判的な分析が多い。だが私は、トルコがISISとの関係に見切りをつけ、代わりにスンニ派の「ハシドワタニ」やクルド自治政府によるISIS掃討作戦を支援し、イラクを3分割しつつ安定化することに貢献し、自国の石油権益


イラクでも見えてきた「ISIS後」  その一(1)
 【2015年12月13日】 トルコ軍が北イラクのバシカに越境進軍(増派)したことに関して「トルコの新たなISIS支援策だ」という批判的な分析が多い。だが私は、トルコがISISとの関係に見切りをつけ、代わりにスンニ派の「ハシドワタニ」やクルド自治政府によるISIS掃討作戦を支援し、イラクを3分割しつつ安定化することに貢献し、自国の石油権益

イラクでも見えてきた「ISIS後」  http://tanakanews.com/151213kurd.htm

2015年12月13日   田中 宇

 12月3日、トルコ軍が北イラクに「侵攻」した。トルコ軍は、150人の歩兵と25台の戦車からなる部隊で、国境を越えてイラク国内を120キロ進軍し、北イラクの大都市モスルから北東に20ロ離れた町バシカ(Bashiqa)の郊外にある既存の基地に入った。モスルとバシカは、昨年からISIS(イスラム国)が占領しており、トルコ軍が入ったバシカの基地は、ISISが占領するバシカの市街地のすぐ外にあり、クルド自治政府が統治する地域だ。 (Turkey Refuses to Withdraw Its Troops From Northern Iraq Despite Ultimatum)

 トルコ政府によると、バシカの基地には今年3月からトルコ軍兵士が駐屯し、ISIS(イスラム国)と戦うアラブ人やクルド人の軍勢(民兵)を訓練してきた。今回は、訓練要員を増派したのだという。トルコの野党系メディアによると、バシカの基地にはすでに600人ほどのトルコ軍が駐留している。トルコ政府は「イラク政府も今回の越境進軍を了承している」と発表したが、イラク政府は「何も知らされていない」と反論し、トルコ軍にすぐに出ていくよう命じた。トルコ政府は、イラク政府の命令を無視して軍を駐留している。 (Iraq's foreign minister warns Turkey anew) (Turkey Refuses To Withdraw Troops From Iraq, Threatens To Slap Sanctions On Russia)

 トルコ軍が駐屯した地域には、ISISがモスル近郊の油田で産出した石油を、タンクローリー車の隊列を編成してイラク・トルコ国境に送り出してきたルートがある。以前の記事に書いたように、ISISが国境まで持ってきた石油は、イラクのクルド人が持ってきた石油と混ぜ、トルコの商人(トルコやイスラエルの諜報機関の代理人)が買い取り、トルコの地中海岸のジェイハン港まで運んでタンカーに積み、イスラエルのタンクを経由する「石油ロンダリング」を経て国際石油市場で売られている。 (露呈したトルコのテロ支援)

 トルコのエルドアン大統領の息子(ビラル・エルドアン)がこの取引で利益を得ており、それがエルドアンやトルコの与党AKPの政治資金、トルコ諜報機関の活動資金になっていると、トルコの野党が指摘している。この石油取引では、ISIS、トルコ政府与党、イスラエルが儲けている。トルコ軍がモスルの郊外に進軍した真の理由は、ISISが石油を送り出すルートをトルコ軍が防衛し、エルドアンやAKP(やイスラエル)が石油で儲ける態勢を保持するためでないかと疑われている。 (Did Turkey just invade Iraq to protect Erdogan's ISIS oil smuggling routes?) (Turkey's First Son enjoys dinner with leaders of ISIS)

 ISISの占領地はイラクとシリアにまたがっている。トルコ当局は対シリア国境を経由して、イラクだけでなく、シリアでもISISを支援してきた。だが、10月からシリアに軍事進出したロシア軍が、トルコからISISへの補給路を空爆で潰している。このため、トルコは対シリア国境からのISIS支援をあきらめ、対イラク国境からのISIS支援の補給路を強化する意味で、今回の北イラクへの軍事進出(増派)を実行した、とも考えられる。 (Turkey defends ground troops in Iraq as war escalates) (Erdogan to Resist US Pressure on Closing Turkish Border to Daesh_) (Russian military reveals new details of ISIS-Turkey oil smuggling)

 (NATOの一員であるトルコが、シリアやイラクで、テロ組織であるISISを支援するのは、シリアやイラクの政府の了承を得ていない国際法違反の行為で、テロリストを助けている点でも違法だ。対照的に、ロシアのシリアへの軍事進出は、シリア政府の要請に応たえた合法的なもので、残虐なテロ組織てあるISISを退治する点でも世界的に賞賛されるべき行為といえる。だがマスコミは、いろいろな濡れ衣をロシアに着せ、むしろロシアを批判する論調を出し続けている) (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出) (Russian jets destroy Isis oil convoy after Putin accuses Turkey of buying oil from jihadist group)

 イラク政府は、トルコ軍に撤退を求めたが無視され、NATOを通じてトルコと同盟関係にある米国にも、トルコに出ていくよう言ってくれと要請したが、ほとんど無視されている。イラク政府は、ISISを潰すふりして実は支援している米軍に出ていってもらい、代わりにISISを本気で潰してくれるロシア空軍にイラクに駐留してもらうことを検討していると表明している。もし今後、ロシアがイラク政府の要請を受諾し、露軍機がシリアだけでなくイラクも空爆する展開になると、露軍機が北イラクのトルコ軍基地を空爆したり、トルコ軍が北イラクで露軍機を撃墜したりする事態になり、トルコつまりNATOとロシアとの「第3次世界大戦」に発展する懸念がある。 (`Great partners': Pentagon rejects Russian evidence of Turkey aiding ISIS) (Baghdad says would welcome Russia strikes in Iraq) (敵としてイスラム国を作って戦争する米国) (露呈するISISのインチキさ)

 世の中には洋の東西を問わず「第3次世界大戦」の勃発を予測したがる人がけっこういて、この手の分析は、そういった人々に好まれる。だが事態を詳細にみていくと、この分析と矛盾する事実がいくつも出てくる。

 一つは、ロシアがイラク政府の要請に応え、シリアで行っている空爆をイラクに拡大する可能性が低いことだ。それは、単にシリアの内戦がまだ終わっていないのでイラクの空爆を後回しにしているということではない。シリアは、ロシアが軍事進出してISISやヌスラ戦線を退治することで、アサド政権が継続するかたちで内戦が終わって安定が復活し、ロシアが成功裏に軍を撤退して凱旋できる政治的なシナリオが事前に見えていた。だがイラクは、ISISを退治した後のスンニ派アラブ地域を安定化できる政治的シナリオが見えていない。軍事行動は、戦闘終結後の安定への政治的なシナリオが存在していないと成功しない。そのことを、米国のタカ派(軍産、ネオコン)はわざと無視し、日本の「軍事おたく」は理解しないが、政治の水面下で動く諜報界出身のプーチンは理解している。 (負けるためにやる露中イランとの新冷戦) (シリア内戦を仲裁する露イラン)

 イラクの政府と議会と軍は、シーア派が握っている。彼らは、イラク国家の統合維持を主張し続けるが、少数派であるスンニ派やクルド人(それぞれ人口の1-2割。シーア派は6割)に財政資源をわたさず冷遇し続け、スンニやクルドが中央政府を敵視してイラクの国家統合が崩れる結果を招いている。イラクのシーア派は、国家統合維持によって全イラクの利権を掌握したいが、見返りに利権の一部を地元のスンニやクルドに分配して仲良くやっていく気がない。(クルド人も宗教はスンニ派イスラム教徒なので「イラクのスンニ派」というとクルド人も入ってしまうが、ここでは「スンニ派アラブ人」を「スンニ派」と呼ぶ)

 イラクは16世紀来、オスマントルコからフセイン政権まで、少数派のスンニ派が多数派のシーア派を支配する政治体制だった。米国は03年にフセインを倒す一方、スンニ派に「フセインの残党」「アルカイダ」のレッテルを貼って弾圧し続けた。米国はイラクを「民主化」し、多数派のシーア派が政権を握り、イランの隠然支配下に入った。イランは、イラクのシーア派を傘下に入れることしか関心がなく、イラクの国家統合が崩れて3分割してもかまわないと思っている。昨年6月、ISISが台頭してモスルやキルクークといった北イラクのスンニ派の大都市を相次いで攻略した時、イランの傘下にあるイラク政府軍は、戦闘せず守備を放棄し、敗走(部隊を解散)した。こんな感じだから、イランは、イラクの統合を維持する合理的なシナリオを描かず、配下のイラクのシーア派政治家が、クルドやアラブから利権を剥奪するのを黙認している。 (イラク混乱はイランの覇権策?)

 スンニとクルドのうち、クルド人は以前から自治組織や軍隊(ペシュメガ)を持ち、しかも指導層がイランと親しい。クルドは、シーア派主導のイラク政府と互角に戦う政治力がある。問題は、真に冷や飯を食わされているスンニ派だ。ISISは、シーア派によるスンニ冷遇策の上に、イラクを占領していた米国(軍産)の「強敵を意図的に作る好戦策」が重なって生まれてきた。軍事的にISISを潰しても、政治的にイラクのスンニ派が安定して生活できるシナリオを描いて具現化しないと、第2第3のISISやアルカイダが出てくる。ロシアはイランの事実上の同盟国であり、イランにやる気がないのにロシアが出ていくことはない。 (隠然と現れた新ペルシャ帝国)

 しかしISISは、シリアとイラク(スンニ派地域)にまたがっている版図のうち、シリアから追い出されようとしている。ISISを潰すなら、シリアを放棄してイラクに退却していくこれからの時期が好機だ。これを逃すと、ISISはイラクだけで再起を図り、イラクのスンニ派に安定化のシナリオがないことに便乗し、延々と存続し、地元民を残虐に支配し続け、欧州などでテロを続ける。ISISは地元の子供たちに捕虜の処刑や拷問を手がけさせ、殺戮と過激な教えを刷り込み、すべての子供を兵士(テロリスト)として育てている。あと10年も放置されれば、イラクのスンニ派の全員が立派なテロリストとして成長する。その後で安定化策のシナリオを立てても遅すぎる。シナリオを立て、ISISを潰し、イラクのスンニ派地域を安定させる策を始めるとしたら、今しかない。 (The ISIS papers: leaked documents show how Isis is building its state)

 トルコ軍が今回、北イラクの町バシカの基地に駐留軍を増派したことは、よく見ていくと、ISISに対する支援策ではなく、逆に、まさに上に書いた「ISISを潰し、北イラクのスンニ派地域を安定させる策」なのかもしれないと思える点がいくつもある。その一つは、トルコ軍のバシカへの増派が「スンニ派のイラク人民兵団を軍事訓練し、ISISと戦って勝ち、モスルを奪還できるようにすること」を目的としている点だ。トルコ軍はバシカ基地で「ハシドワタニ」(Hashid Watani、国家総動員部隊)という名前の民兵団を、今年3月から訓練している。この民兵団は、クルド自治政府に支援され、クルド地域とISISの支配地の間にあるバシカの基地を拠点とし、モスルなどISISの統治下から逃げてきたスンニ派の若者や元警察官などの参加を得て拡大している。 (Turkish soldiers training Iraqi troops near Mosul: sources)

 ハシドワタニを率いているのは、モスル市があるイラクのニナワ県の元知事だったアシール・ヌジャイフィ(Atheel al-Nujaifi)だ。ヌジャイフィは、オスマン帝国時代からモスルを統治していた名門一族で、知事として統治するニナワ県を昨年6月にISISに奪われて逃走を余儀なくされ、クルド人自治区にかくまわれ、亡命先のクルドの首都アルビルで、ニナワ県を中心とする北イラクをISISから奪還してスンニ派アラブ人の自治区にする構想を提唱した。シーア派主導のイラク政府軍が戦わず敗走し、故郷のニナワ県をISISに奪われた以上、もうシーア派は信用できず、ニナワ県を奪還したらイラク政府と別の自治区を創設した方が良い、というのがスンニ自立構想の趣旨だった。 (Mosul governor calls for fragmentation of Iraq) (Atheel al-Nujaifi - Wikipedia)

 ヌジャイフィが自治区の構想を発した背後には、クルド自治政府がいた。クルド人は、自分たちと同様に、シーア派主導のイラク中央政府から冷遇されているスンニ派がISISを追い出して自治政府を構築することを支援し、クルド人とスンニ派が力を合わせてシーア派の中央政府に対抗し、イラクを従来の中央集権制から、名実ともに完全な連邦制へと移行させたいと考えている。それまで、スンニ派を代表できる勢力は、アルカイダかフセイン政権の残党しかおらず、いずれもクルド人が組みたい相手でなかった。

 クルド自治政府は、イラク北部のアルビル、スライマニヤ、ダフークの3県を領域としているが、その西側のニナワ県の一部(シンジャル、バシカなど)や、もう少し南のキルクーク市にもクルド人が住んでいる。キルクークは昨年6月、ISISが攻略をしかけ、シーア派主導のイラク軍が遁走した直後、電撃的にクルド軍が市街地を占領し、それ以来クルド自治政府が統治している。キルクークには油田、バシカには未開発の石油鉱脈があり、自治政府は、クルド人が住んでいることを理由に、それらの地域も自分たちの版図に吸収したいと考えている。それらの地域を含めたクルド地域とスンニ地域の境界線(「トリガー線」 Trigger Line と呼ばれている)の向こうまでISISを追い出すのが、クルド自治政府の戦略だ。クルド軍は11月、トリガー線のクルド側にある町シンジャルを、ISISから奪還している。 (Iraq's dangerous trigger line - Too late to keep the peace?) (Exxon Moving into Seriously Disputed Territory: The Case of Bashiqa)

 従来の行政区分では、それらの地域がスンニ派の地域に入っている。従来の力関係では、クルドの拡張戦略は、スンニ派からもシーア派からも反対され、公式なものにならない。だが、状況は昨年のISISの登場で一変した。統治していたニナワ県をISISに奪われ、無力な状態でクルド地区に亡命してきたヌジャイフィは、クルド自治政府の拡張戦略にとって好都合な存在だった。ヌジャイフィがモスルやニナワ県をISISから奪還するには、クルドの軍隊(ペシュメガ)の力を借りざるを得ない。ペシュメガは、ISISに負けない力を持っている。

 クルド自治政府は、ヌジャイフィに対し、もしシンジャル、バシカ、キルクークといった地域を、クルド地域に編入することを了承するなら、残りのニナワ県など北イラクをISISから奪還し、スンニ派の自治区にする軍事政治運動に協力すると持ちかけたのだろう。その結果として、ヌジャイフィのスンニ自治区構想が提唱され、ニナワ県を奪還するためのスンニ民兵団として、クルド軍(ペシュメガ)の傘下に、ハシドワタニが結成された。 (Former consul Yilmaz: Does Turkey know its next move in Mosul?)

 トルコにとってクルド人は、分離独立をめざす警戒すべき勢力であるが、トルコ政府は以前から、イラクのクルド人自治政府と良い関係を保っている。トルコのクルド人組織(PKK)と、イラクのクルド自治政府(KRG)との間は、完全な同盟関係でない。自治政府は、PKKが対トルコ国境に近い自治区内の山岳地帯に隠れ家を造り、そこを拠点にトルコを攻撃することを容認してきたが、同時にトルコ軍が自治区内に越境侵攻し、PKKの拠点を攻撃することも容認してきた。2013年には、自治政府がPKKとトルコ政府の交渉を仲裁し、PKKがトルコ国内の拠点を完全に引き払ってイラク側の自治区内に撤退し、二度とトルコに越境攻撃をしかけない代わりに、トルコ軍はイラク側に侵攻せず、トルコ国内のクルド人の自治拡大を実施する停戦合意が締結され、今年までそれが有効だった(トルコのエルドアン政権が今夏、選挙に勝つための宣伝策として、停戦を破ってPKKへの空爆を再開した)。 (Kurdistan Workers' Party - From Wikipedia) (クルド独立機運の高まり)

21 イラクのクルド自治政府(KRG)は、イラク政府との協約を破り、自治区内やキルクークの石油を、イラク政府にわたさず、トルコ経由で独自に輸出して資金を得ている。これは法的に「違法な密輸」で、トルコとKRGの関係が良くないと継続しない。この密輸は、トルコとKRGの両方にとって儲かり、トルコ側ではエルドアン政権の政治資金になっているので、両者の関係は悪くならない。クルド自治区で最も活発に活動して儲けている外国勢はトルコ企業で、自治区はトルコとの経済関係がなければやっていない。自治区との関係はトルコ経済にとっても重要だ。KRGで独裁的な権力を握るマスード・バルザニ議長と、トルコで独裁的な権力を握るエルドアン大統領はここ数年、親密な関係を保っている。 (What is the difference between the PKK, PYD, YPG, KRG, KDP, and the Peshmerga?)

22 バルザニは、昨年6月、亡命してきたヌジャイフィ知事を擁立し、ISISからモスルやニナワ県を奪還してスンニ派の自治区を作るとともに、クルド自治区の領土拡張を実現する策を開始した後、この計画をエルドアンに売り込んだと考えられる。トルコ軍が、クルドのペシュメガと、スンニのハシドワタニを軍事訓練し、クルド・スンニ連合軍がISISを打ち負かしモスルやニナワ県を奪還すれば、奪還した領域はトルコの影響下に入る。 (Turkish troops go into Iraq to train forces fighting Isis)

23 エルドアンは、バルザニと親しかったが、同時に、最近の記事に書いたように、ISISもこっそり支援していた。トルコ政府は、ISISが強い状態である限り、バルザニのモスル奪還策に消極的だったが、欧米がISISへの敵視を強め、ISISが潰されることを見越したのか、今年3月から、バシカの基地にトルコ軍を派遣し、ペシュメガとハシドワタニに対する軍事訓練を開始した。これまでにペシュメガとハシドワタニの双方で千人ずつ、合計2千人がバシカでトルコ軍の訓練を受けている。 (Why is Turkey stirring the Iraqi cauldron?) (露呈したトルコのテロ支援)

24 バシカは、従来の行政区分だとスンニ派地域のニナワ県に入るが、住民の多くはクルド人で、クルド自治政府が編入したいと考えている地域だ。バシカから南西に行き、チグリス川をわたった対岸にある人口200万人のモスルは、イラクで最大のスンニ派の都市なので、クルド人が統治するわけにいかず、スンニの領域にとどまる必要がある。モスルをISISから奪還する主体は、クルド軍でなく、スンニ派の軍勢でなければならない。クルド自治政府は、自分たちの傘下でヌジャイフィ知事にハシドワタニを結成させ、それを押し立ててクルド軍がモスルの奪還戦を展開し、トルコ軍がそれを支援するかたちにする必要があった。 (Bashiqa - From Wikipedia) (Turkish military to have a base in Iraq's Mosul)

25 トルコ政府は昨年12月、外相がイラクを訪問した際、ISISを打ち負かしたいスンニ派勢力に、トルコ軍が軍事訓練を施すことについて、イラク政府から了承を受けたと主張している。クルド自治政府も、それが事実だと言っている。イラク政府は否定している。だがイラク政府は、今年3月にトルコ軍が最初にバシカに進駐した際、何も反対しなかった。軍事訓練に関する曖昧な合意が、昨年末にトルコとイラクの政府間で結ばれていたと考えられる。 (President Barzani: Erbil will remain neutral in Iraq-Turkey row over troops)

26 イラク政府にとって、スンニ派がISISと戦うために軍事訓練を受けるのはかまわないが、スンニ派とクルド人が組み、トルコの本格支援を受けてモスルをISISから奪還し、イラク政府の命令に従わないスンニ派の自治政府が樹立され、スンニとクルドが力を合わせてシーアに楯突くようになってイラクの3分割が進み、北イラクがイラクからトルコの影響下に移動してしまうことは我慢できない。昨年末の段階で、イラク政府はそこまで読めなかったのだろう。今年3月、ヌジャイフィが率いるスンニ派軍勢ハシドワタニが、クルド軍と一緒にバシカ基地でトルコ軍の訓練を受け始めた後、事態の本質をようやく悟ったイラクのシーア派は、自分たちが多数派を握るイラク議会で、ヌジャイフィの知事職の剥奪を決議した。 (Iraq: Nineveh governor sacked following ISIS advances)

27 トルコは従来、ISISがモスル周辺の油田から産出した石油を、トルコ国境までタンクローリーでISISに持ってこさせ、そこでクルド自治区から届いた石油と混ぜて外部にわからないようにして、トルコの港まで運んでタンカーで輸出している。もし今後、ハシドワタニがモスル周辺をISISから奪還しても、ハシドワタニは親トルコだから、産出された石油はISISの時代と同様、トルコに運ばれるだろう。ISISが潰れても、トルコの儲けは減らない。 (露呈したトルコのテロ支援)

28 スンニ派軍(ハシドワタニ)がモスルを奪還し、ISISやアルカイダといったテロ組織を追い出してまともな政府ができると、イラクのスンニ派地域は安定しうる。シーア派主導のイラク政府は、スンニ派地域にまともな政府ができてまっとうな権利を主張することを嫌がっている。だが、イラク政府の背後にいるイランは、イラクが安定することの方を重視し、くちではイラク政府の味方をするだろうが、実際の動きとして、ハシドワタニのモスル奪還を支持するだろう。

29 ロシアも、すでに述べたようにイラクが安定化のシナリオを持つことを希求しており、モスル奪還を支援しそうだ。その前提として、ロシアとトルコが、11月24日に露軍機撃墜以来の対立を解くことが必要だ。イランは先日「トルコとロシアの仲が悪いままなのは良くない。イランが両国間を仲裁しますよ」とトルコに提案した。ロシアもイランも、モスル奪還計画について何もコメントしていないが、水面下ですでにいろいろな動きが起きているかもしれない。外部者であるクルド人がモスルを攻略するなら、国際支持が得られにくいが、クルド人がモスル市民であるスンニ派のハシドワタニを擁立してモスルを奪還するので、国際支持が得られやすい。 (Iraqi Sunnis accelerate push to make their voices heard) (Like Kurds, Sunnis in Iraq Want Direct US Arms Shipments to Fight ISIS) (Iran ready to help resolve Turkey-Russia tensions: First VP)

30 トルコ軍のバシカへの越境増派に関して、米欧では「ISISへの支援策だ」という批判的な分析が多い。だが私は、増派について、トルコがISISとの関係に見切りをつけ、代わりにイラクを安定させるハシドワタニやクルド自治政府によるISIS掃討作戦を支援することにしたのだと分析している。クルドのバルザニ議長は、12月9日にトルコを訪問し、エルドアンを支持していると表明した。 (Iraqi Kurd leader meets Erdogan as PM defends deployment)

31 その前日の12月8日には、ドイツのシュタインマイヤー外相がクルド自治区の首都アルビルを訪問し、クルド軍に武器支援を行うと発表した。中東からの難民の流入に苦しむEUの盟主であるドイツも、イラクの安定を強く望む勢力の一つだ。独外相はアルビルに行く前にバグダッドに行き、イラク政府を説得している。米国の議会も、イラク政府を経由せず、直接クルド自治政府に武器を支援できるようにする新法を検討しており、12月2日に下院外交委員会が法案を了承し、本会議に送った。これらの動きは、クルド軍がスンニ派軍(ハシドワタニ)を押し立ててモスル奪還に動き出す日が近いことを感じさせる。 (Germany to provide more military support to Kurds in fight against IS) (House panel votes to directly arm Kurdish forces against ISIS)

32 11月12日に行われた、クルド軍がISISからシンジャルの町を奪還した作戦は、きたるべきモスル奪還の前哨戦であるとみられている。シンジャル奪還戦では、米軍機が数日前からシンジャルに立てこもるISISを激しく空爆し、クルドの地上軍がシンジャルに侵攻したときには、すでにISISの軍勢が逃げた後で、地上軍どうしの戦闘なしに無血開城された。ISISは、石油を買ってくれていたトルコの言うことを聞くだろうから、トルコがクルドに恩を売るために、ISISに対しシンジャルを放棄しろと勧めたのかもしれない。また、クルド軍やハシドワタニがいずれモスルを攻略するときには、シンジャルの時と同様、先に米軍が空爆を実施する可能性もある。 (November 2015 Sinjar offensive From Wikipedia) (クルドとイスラム国のやらせ戦争)

33 ISISは間もなくシリアから追い出され、イラクだけが版図になるだろう。イラクでもいずれモスルが奪回され、ISISの占領地域は縮小する方向だ。モスルが奪還されると、残るはさらに南のスンニ派地域であるアンバル州(ラマディ、ファルージャ)だけになる。トルコがISISを見捨てる傾向が続くと、ISISが報復としてトルコで自爆テロを頻発するかもしれない。トルコは、これまでISISを支援していた関係で、国内にISISの要員が無数にいる。イラクが安定化するシナリオが見えてきたが、その具現化には、まだ多くの紆余曲折がありそうだ。


◆米国の利上げで債券崩壊が始まる?  その一(2)
 【2015年12月15日】うまくいけば米連銀は今回、債券破綻の連鎖を起こさず利上げできる。しかし、QEなど過剰な緩和策によるバブル膨張は、もう限界に近い。今回うまく乗り切れても、安定は長続きしない。いずれバブル崩壊、信用収縮の時代になる。リーマン危機の時は、米欧日の金融当局に余裕があったが、その後の7年間の対策で余裕を使い切り、次の危機を乗り切れる「弾」が尽きている。今後いったんバブルが崩壊すると、世界的にひどい状態が数年以上続くと予測されている。

米国の利上げで債券崩壊が始まる?   http://tanakanews.com/151215bond.php

2015年12月15日   田中 宇

 米国で、9年ぶりに利上げを決めると予測されている米連銀(FRB)の12月16日の定例理事会(FOMC)を前に、債券市場で下落と混乱が拡大している。元凶は原油安だ。12月8日、サウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)が、原油の増産を続けることを決定し、原油相場の下落に拍車がかかった。原油が安くなるほど、米国で、社債(高リスク債、ジャンク債)を発行して作る資金で新たな油井を掘って自転車操業してきたシェール石油の業界が苦境になり、債券の利払いや償還が困難になる。石油などエネルギー産業は、米国の高リスク債市場の主力業種なので、シェール業界の苦境は、投資家が相場の先行き懸念して高リスク債市場の全体から資金を引き揚げることに拍車をかけている。 (OPEC Takes Down Oil Majors as Lower-for-Even-Longer Kicks In) (Oil tumbles towards crisis-era lows)

 OPECの増産維持決定を受けて債券市場の懸念が拡大し、12月11日には、ジャンク債の相場が4年ぶりの大幅下落となった。エネルギー関連以外の債券も広範に売られた。週明けの14日にかけて、高リスク債の投資信託などの基金で途中解約が急増した。この影響で、サードアベニュー(Third Avenue Management)とストーンライオン(Stone Lion Capital Partners)という米国の運用会社2社が、高リスク債の投資基金(ファンド)の破綻に追い込まれた。2社は、それぞれが投資家から集めて運用してきた2つの高リスク債の基金について、解約と運用損の急増で継続が難しくなったとして、巨額の損失を抱えた状態で基金を清算すると発表した。 (Rout Continues In Junk Bond Market After 2 Funds Are Liquidated) (Junk Bond Prices Tumble To 2009 Levels)

 損失が拡大した高リスク債の投資基金はほかにもたくさんあり、2基金の破綻が、他の基金に連鎖拡大することが懸念されている。リーマン危機後のQE(量的緩和)など当局による資金過剰供給策(バブル膨張策)によって、高リスク債券の相場は、09年から6年間上がり続けてきた。この上昇が、実体経済は悪いのに金融市場が好調なのであたかも景気が回復しているかのような、今の事態を生み出している。だが、今回の急落を機に、6年間のバブル膨張的な社債市場の上昇過程が終わり、下落の時代に入るのでないかとの予測が、あちこちから出ている。 (High-yield funds: more carnage coming) (Third Avenue fund closure sends shivers through credit markets) ("The Default Cycle Is Now Unavoidable": How The 'Junk' Cancer Spread To The Entire High Yield Space)

 今回破綻した2つの債券基金はいずれも、大手でない会社が運用する、ジャンク債というキワモノの金融商品で、金融システムへの大きな悪影響はないとされている。しかし思い起こせば、08年のリーマン倒産につながる債券金融危機の始まりは07年夏、キワモノのジャンク債の金融商品(サブプライム住宅ローン債券の投資基金)が破綻したことだった。今回、破綻したのがキワモノの金融商品だから大したことないと考えるのは間違いで、むしろ、リーマンを超える金融危機が再来するとしたら、それはまさに、今回のようなジャンク債の商品が、シェール石油ガス産業の絡みで破綻することから拡大していくことが最大の可能性の一つだと、以前から指摘されていた。 (国際金融の信用収縮) (世界金融危機のおそれ) (シェールガスのバブル崩壊)

 米連銀理事会の開催を前に、石油や金地金などコモディティ相場の急落、中国人民元など新興市場諸国の為替相場の下落、欧州中央銀行によるQE拡大の雰囲気作りの加速(実際は拡大できない)などが起きている。これらの「地ならし」的な動きからは、たとえ無茶でも、米連銀が万難を排して利上げするつもりでいることがうかがえる。「中央銀行界の中央銀行」といわれるBIS(国際決済銀行)は「ゼロ金利が長引くと金融の混乱がひどくなる。(債券市場の下落などの)困難を乗り越え、無理しても利上げしろ」と、米連銀に圧力をかける報告書を出している。 (利上げを準備する米連銀) (Central banks warned to be firm on rate rises)

 だがBISは同時に、米国が利上げすると悪影響が出るかもしれないとも警告しており、連銀理事会前の現状を「嵐の前の不気味な静けさ」と形容している。米連銀が利上げしなければ、米金融への援護射撃である日欧のQEがいずれ限界に達して国際金融危機が再発した時、世界最強のはずの連銀が防御策(金利の余裕)を何も持たない「丸腰」の状態で、危機を乗り越えられなくなる。一方、米連銀が利上げに踏み切ると、それがジャンク債市場の崩壊の引き金になり、金融システムを救うための利上げが、逆にシステムを壊す結果になりかねない。 (BIS Warns of `Uneasy Calm' in Markets Before Possible Debt Storm) (BIS argues for tighter monetary policy in spite of `uneasy calm') (Bond investor anxiety rises ahead of Fed rates decision)

 米連銀内では、利上げが金融危機の引き金を引き、何カ月もしないうちに危機対策のため利下げしてゼロ金利に戻さざるを得なくなることを懸念する声がある。連銀は、利上げしても危険、しなくても危険という、板挟みの状態に置かれている。カギは、連銀自身の手にあるのでなく、利上げに対して金融市場がどのように反応するかだという指摘もある。金融市場が、利上げに対し、連銀の予想以上に大げさに反応すると、利上げが債券危機の引き金を引くことになる。2つの高リスク債基金の破綻は、すでに「引き金に指がかかった状態」を意味する。今後、債券商品の破綻が連鎖していくかどうかがカギだ。 (Hilsenrath Just Reset Market Expectations: "Fed Is Worried Rates Will End Up Right Back At Zero") (The Fed's In A Bind: The Cluelessness Of The Macroeconomic Establishment) (Fed and markets steer for calmer waters)

 前から何度も書いているが、米当局は経済統計を粉飾し、米国の実体経済が悪いままなのに「好転中」と偽って、実体経済のためでなく金融システムのために、利上げを挙行しようとしている。米経済の大黒柱である個人消費は減少している。所得が減って貧困層に転落する人が増え、個人消費の大きな主体だった中産階級の人口が減り続け、今や中産階級の人口(1億2080万人)より、貧困層と金持ち層という両極を合計した人口(1億2130万人)の方が多くなってしまった。米国は「中産階級の国」でなくなっている。「アメリカン・ドリーム」は「持ち家を買うこと」から「仕事を持つこと(解雇されないこと)」へと縮小後退している。解雇され貧困層に転落した人の怒りが、米大統領選挙で共和党のトランプ候補の人気を支えている。 (ひどくなる経済粉飾) (揺らぐ経済指標の信頼性) (米雇用統計の粉飾) (Peter Schiff Warns: "The Whole Economy Has Imploded... Collapse Is Coming") (The American Middle Class Is Losing Ground: No longer the majority and falling behind financially) (America's Middle Class Meltdown: core shrinks to half of US homes)

 うまくいけば米連銀は今回、債券破綻の連鎖を起こさず利上げできる。しかし、QEなど過剰な緩和策によるバブル膨張は、もう限界に近い。今回うまく乗り切れても、安定は長続きしない。いずれバブル崩壊、信用収縮の時代になる。リーマン危機の時は、米欧日の金融当局に余裕があったが、その後の7年間の対策で余裕を使い切り、次の危機を乗り切れる「弾」が尽きている。今後いったんバブルが崩壊すると、世界的にひどい状態が数年以上続くと予測されている。 (December 16, 2015 - When The End Of The Bubble Begins) (The Fuse on the Global Debt Bomb Has Been Lit)

 金融システムの崩壊は、銀行の経営難をもたらす。すでに今年、米欧の大手銀行11行は、従業員の1割にあたる10万人を削減した。ゼロ金利が長期化するほど、銀行の利ざやが減って苦しくなる。銀行が潰れても、政府には救済する財政余力がないので、政府による救済(ベイルアウト)でなく、株主や預金者に損をかぶせる「ベイルイン」をやることを、米欧はすでに決めている。各国政府がベイルインを法制化すると、人々は預金を奪われると思ってますます銀行を信用しなくなり、銀行業界の衰退が早まる悪循環が始まっている。若者は、銀行(など金融界全般)に就職しない方がいい。 (Banking's 'Uber moment' is already happening - 100,000 bankers lost their jobs in 2015) (Bail-Ins "Undermine Confidence" In Banks - Lead to Suicide of Pensioner)

 長期的な視点で見ると、世界経済は1985年の米英の金融自由化以来、30年間の長いバブル膨張期の終わりにさしかかっている。リーマン危機で始まったバブル崩壊、信用収縮の時代は、その後の7年間の「QEなどによる延命期」を経て、今後近いうちに、延命策の効かない本格的なバブル崩壊と信用収縮の時期に入る。「信用」をカネに換える「債券金融システム」は「産業革命」(工業システム)や「国民国家」(集団幻想を使った社会の効率化)に匹敵する人類の大きな発明物になり得たが、結局のところ、詐欺の道具にしかならなかった。 (The End Of The Bubble Finance Era)

 米国の今回のジャンク債危機を引き起こした主因は原油安だが、この原油安はサウジアラビアが米国のシェール産業を潰すために昨年から意図的に続けている国際政治的な策略だ。サウジは、利上げ機運の中で米国の金融システムが脆弱になっている点を突き、ここぞとばかりに原油を増産し、ジャンク債の危機を扇動している。サウジ政府も原油安で財政難がひどくなっており、我慢比べが続いている。 (米サウジ戦争としての原油安の長期化) (米シェール革命を潰すOPECサウジ) (Saudi CDS Soars To 6 Year Highs)

 サウジは表向き、米国と親しく、イランを敵視しているが、実のところイランやロシアの味方だ。ロシアもイランも、原油安から米国を金融危機を陥らせることに大賛成で、原油の増産に協力している。サウジは、王室の上層部で親米派と反米派(非米派)が暗闘しているらしく、自国の真の姿勢を見せないまま動いている。サウジ国王が今年中にロシアを訪問する予定だったが、来年にずれ込むことになった。これも、内部の暗闘に決着がつかないからかもしれない。米国が本格的な債券危機になり、シェール産業が潰れて産油量が激減し、米国の覇権が低下したら、サウジの暗闘にも決着がつくだろう。 (米国依存脱却で揺れるサウジアラビア) (Op-Ed: The Russian Bear has joined the cardgame in the Middle East) (Saudi Russo Rapprochement Back on Track)


◆ドル延命のため世界経済を潰す米国  その一(3)
 【2015年12月19日】覇権国は本来、世界最大の経済力を持ち、その余力を世界のために使って、世界が経済成長できる態勢を維持することが役割だ。その役割を果たすために、覇権国の通貨や国債は、世界的に最高位の信用を約束されてきた。だが今回、米国は、ドルと米国債の強さを守るため、世界が不況に向かい、新興諸国や途上諸国が経済減速で苦しんでいる今の時期に、苦しみを増すことにつながる利上げやドル高誘導策をやっている。米国は、ドルを延命させるために世界経済を潰してしまう策をやっている。

ドル延命のため世界経済を潰す米国   http://tanakanews.com/151219economy.php

2015年12月19日   田中 宇

 12月16日、米国の連邦準備制度(連銀、FRB)が、9年ぶりに短期金利を利上げし、ゼロ金利を脱した。連銀は、来年末までの1年かけて短期金利を1%以上まで上げていく構想だ。次回は来年3月に0・25%利上げすると、市場で予測されている。利上げは米経済の好転を理由に行われたが、実のところ、米経済は好転していない。中国や中南米など新興市場を中心に、世界経済が急速に悪化しており、その影響で、米経済も悪くなっている。 (Federal Reserve Rate Hike At `Precisely The Wrong Time' - Faber) (Fed to raise rates again in March, follow up with fewer hikes)

 世界的な建機メーカーであるキャタピラの販売は、世界経済の現実的な先行指標だが、11月分は、中南米がマイナス37%、中国(アジア)がマイナス17%、米国がマイナス5%、世界合計でマイナス11%だった。キャタピラの販売は史上最長の36カ月も連続で減っており、世界経済がかなり前から実質的な不況に入っていることを示している。その他、国際船賃のバルチックドライ指標など、多くの指標が世界経済の急速な悪化を示している。世界も米国も日本も、これから不況に突入すること(すでにある不況の顕在化)がほぼ確実だ。米当局は、実体経済の悪化を無視して、GDPや雇用統計を粉飾し、経済が好転しているかのように見せている。 (米国の利上げと世界不況) (For Caterpillar, The Depression Just Turned Three: CAT Hasn't Had A Sales Increase In 36 Consecutive Months)

 米連銀は、不況が来ることを知ったうえで、不況が顕在化したら対策として利下げができるよう、金利をゼロから2%台まで上げておきたい。そのために、実態はすでに不況色が強いのに、経済指標を粉飾し、マスコミに歪曲的な解説を書かせ、米国がやるべき緩和策を日欧に肩代わりさせつつ、景気が好転しそうだから金利を上げると言い続けてきた。このインチキなやり方に対し、連銀内でも批判があり、なかなか利上げできなかったが、ついに今回踏み切った。 (利上げを準備する米連銀) (米金融財政の延命と行き詰まり)

 世界不況に対して米国が何もできないと、基軸通貨であるドルの地位(米国の経済覇権)が危うくなる。覇権国は本来、世界最大の経済力を持ち、その余力を世界のために使って、他の国々つまり世界が経済成長できる態勢を維持することが役割だ。その役割を果たすために、覇権国の通貨や国債は、世界的に最高位の信用を約束されてきた。だが今回、米国は、ドルと米国債の強さを守るため、世界が不況に向かい、新興諸国や途上諸国が経済減速で苦しんでいる今の時期に、苦しみを増すことにつながる利上げやドル高誘導策をやっている。同盟国である日本や欧州の中央銀行は、米国から圧力を受け、無理な緩和策(QE)をやらされている。欧州は何とか生き延びるだろうが、日本はすでに抜け出せないQE地獄に入っており、いずれ財政破綻する。 (日本と世界で悪化する不況とバブル) (行き詰る米日欧の金融政策)

 米連銀が利上げした2日後の12月18日、日本銀行が、米連銀と逆方向の、金融緩和策の追加を発表した。日銀はすでに金利をゼロまで下げたうえ、円を大量増刷して日本国債を買い支えるQE(金あまりを扇動する金融救済策)を、これ以上国債を買えない買い占めの状態まで進めている。買い支えの額をもう増やせないので、今回は、日銀が持っている国債の満期がきたら次はもっと長期の国債を買う、保有国債の長期化という緩和策の追加をやった。保有国債の長期化は、国債買い支えに関して日銀がやれる最後の追加策だ。日銀は、円安ドル高や株高を加速しようとして、今回の策をやったが、最後のカードを切ったことは、日銀がほかに打つ手がないことを投資家に印象づけてしまい、むしろ失望感が広がり、株安と、円高ドル安の反応が起きた。 (Dollar falls against yen after Japan stops short of extra QE) (BoJ stimulus boost widens global policy divergence)

 日銀の緩和策には、株のETFの買い支えの増額も入っていたが、増額分が既存の買い支え額(3兆円)の1割(3千億円)でしかなく、市場の事前予測より大幅に少なかったため、この点も、日銀の緩和策はもう限界にきていることを印象づける結果となった。 (BOJ's $2.5 Billion ETF Boost Seen Having Little Impact on Stocks) (Japanese Jawboning Fail - Nikkei Crashes 1000 Points From Overnight Highs)

 日銀自身、今回の緩和策追加の効果に事前に疑問を持っていたらしく、緩和策は日銀の黒田総裁の記者会見に先立って発表され、株や為替の相場に失望色が表れると、黒田は今回の策を緩和策でなくテクニカルな変更にすぎないと発表し、まだ余力があるように見せかける策(茶番劇)を展開した。 (Futures Slide As Quad-Witching Has A Violently Volatile Start After Massive BOJ FX Headfake; Oil Tumbles)

 米国が利上げした日、債券格付け機関のフィッチが、新興市場の一つであるブラジルをジャンク格に引き下げた。覇権国の米国は従来、ドル安の傾向を誘導し、新興市場諸国の通貨を上昇させることで、米国の投資金が新興市場に入り、新興市場が経済成長し、世界を好況にする策をずっと続けていた。今のドル高政策は、この従来策を逆流させ、新興市場から米国に投資が引き上げ、新興市場の経済が悪化し、世界不況を招いている。米国は、ドルを延命させるために世界経済を潰してしまう策をやっている。 (Brazil Gets Second Junk Rating as Fitch Cites Economic Slump) (新興市場バブルの崩壊)

 新興市場の中には、中国やロシアなど米国が敵視する国が多い。「中露が潰れ、米国覇権に取って代わろうとするBRICSが弱体化するなら、世界不況もむしろ好都合だ」と思う対米従属派の人もいるかもしれない。だが、冷戦終結後、世界経済の統合性が強まり、世界が不況なのに米国だけが好況という事態はあり得なくなった。無理矢理に利上げして余力を作っても、世界がひどい不況になると、米国にも必ず波及して不況が悪化し、今のような少しの余力では全く足りない事態になる。元財務長官のローレンス・サマーズによると、大きな不況対策は3%分以上の利下げをやらないと効果がない。米連銀はがんばっても1年後に金利を1%にできるだけで、全く力不足だ。連銀の利上げは失策だとサマーズは明確に批判している。 (Larry Summers Says the Fed Is Walking Into a Trap)

 利上げに固執する米連銀の策は、諸外国だけでなく米国の金融界の内部にも悪影響を与えている。景気悪化や原油安の影響で、米国のジャンク債や社債のリスクが高まっており、それに利上げが追い打ちをかけている。金融政策をうまく運用すると、ジャンク債の利回りが下がり(ジャンク債と米国債の利回り差が縮小し)倒産しそうな企業でも比較的容易に資金調達して倒産を回避でき、景気の悪化を防げる。だが米連銀は今回、景気悪化の中で無理矢理に利上げしたので、ジャンク債や社債全体の金利が上昇し、倒産回避の景気維持策が失われている。 (米国の利上げで債券崩壊が始まる?)

 利上げ前には、ジャンク債の投資基金が相次いで破綻した。利上げ後は、ジャンクより格の高い社債の市場に、資金の流出が拡大する事態が波及している。社債市場が危なくなると、資金は国債に移るので、米国債の短期的な延命に都合がいいが、長期的に見ると、企業金融の潤滑剤である社債の状況が悪化するので非常にまずい。 (Withdrawals hit US corporate bond funds) (金融蘇生の失敗)

 米連銀が利上げの傾向を保持することは、米国の景気が悪いのに経済指標を粉飾し、マスコミを動員して好景気だと歪曲するウソの構図が拡大することを意味する(日本も、安倍政権の人気取りのため同じ構図を真似している)。今後、実際の経済状態との乖離がひどくなり、ウソの構図は今後しだいに保持しにくくなる。多くの人々がウソに気づくようになり、マスコミと政府に対する信用が落ちる。政治面では、すでこうした現象が、イラクに大量破壊兵器がないのにあるとウソを言って開始した03年のイラク侵攻以来、ひどくなっている。政治はウソが多いが経済(や科学)は厳然たる数字なのでウソがない、という「権威ある専門家」が豪語する大ウソが、しだいに露呈していく。ウソが縮小し、再び事実だけの健全な状態に戻る可能性は、今回の利上げ傾向の開始で大きく減った。 (ひどくなる経済粉飾)

 日本経済は、すでに不況に入っていると考えられるが、日本政府は12月初め、マイナス0・8%成長のGDPの指標を、発表後にテクニカルな理由をつけて改ざんし、ゼロ成長に「修正」してしまった。このようなインチキは長期的に、経済の真の姿をわからなくしてしまい、政府自身が効果のある経済政策を立てられない事態に結びつく。ソ連や中国や北朝鮮などでは、政府が経済指標を粉飾してきたが、それらの国々では、人々が粉飾に気づいていた。今の米国や日本では、ほとんどの人が気づかない(そんなはずないと思い込んでいる)うちにひどい粉飾が行われており、こちらの方が事態は深刻だ。 (Japan's current recession to prove an illusion)

 株価や金地金相場に対する不正操作の構図も、まだまだ続く可能性が強まった。株価の上昇は、当局が、景気が良くなっていることを示すために必要だ。米連銀は、自分が利上げする代わりに、日欧にQEをやらせ、民間金融界のバブルも膨張させて金あまりを維持し、株高を続けようとしている。同様に、ドルや債券(といった、信用だけが命の紙切れ資産)の究極の対抗馬として存在する、金地金(信用と関係なく価値が存在できる資産)の価格も、ずっと引き下げておく必要がある。ドルや債券が潜在的に危なくなるほど、地金相場の上昇を防ぐことが大事になる。 (操作される金相場)

 正確で信用できる指標は、経済成長を維持するために必要だ。指標に対する信頼性が崩れると、有効な経済政策が立てられなくなる。政治的な理由で時には粉飾も必要かもしれないが、信頼性に影響がない範囲にする必要がある。今回のように経済粉飾を長期化させてしまうと、いずれバブル崩壊で経済が破綻した後の立ち直りが困難になる。 (揺らぐ経済指標の信頼性)

 政治面でも、粉飾(濡れ衣)が、イラクの大量破壊兵器のウソだけで終わっていたら、米国の覇権に影響なかったかもしれない。だが米国はその後イラン、ロシア、シリアなどに次々と濡れ衣をかけ、それが米国の外交戦略の主要な部分になった。そして今秋、ロシア軍がシリアに進出して成功した後、米国よりロシア(露中イランなど)の方が国際的に正しいという認識が、途上国や新興諸国の間で定着する流れになっている(歪曲報道しか見ていない日本人は、まだ気づいていないだろうが)。これと似たような流れが今後、経済面でも起きるかもしれない。 (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出) (人民元のドル離れ)

 その場合、既存の米国の経済覇権体制に替わりうるもの(多極型体制)が、すでに世界的に構築されている。リーマン危機後に作られたBRICS新開発銀行(IMF世銀体制の代替)や中国主導のAIIB(日米主導のADBの代替)、中露が作った銀行間為替送金システムCIPS(SWIFTの代替)、IMFが正式に決めた人民元の基軸通貨化(SDR入り)や、ドルに替わるBRICS諸国の通貨で貿易決済する体制などである。 (China Carefully Moving to Displace dollar) (中露を強化し続ける米国の反中露策)

 米国が、利上げやドル高誘導のため世界経済に犠牲を強いたり、指標や報道の歪曲がひどくなるほど、途上国や新興諸国の中で、経済面で米国に頼ることをやめて、多極型新体制だけでやっていこうとする動きが強まる。中国など新興諸国が米国債を売る傾向はすでに始まっており、今年10月には、月間の外国勢による米国債の売りが、史上最大の552億ドルになっている。米連銀の利上げ策は、米国の経済覇権を崩し、世界の経済覇権が多極化していくことに拍車をかけている。 (Foreign selling of U.S. Treasuries in October was most since 1978) (米国債を大量売却し始めた中国)

 ラジオデイズ・田中宇「ニュースの裏側」・・・ロシア機撃墜に踏み切ったトルコの背景