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折々の記 2016 ②
【心に浮かぶよしなしごと】

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【 09 】03/10

  03 10 高浜原発差し止め判決   裁判官 遵守するのは法律と自己良心のみ
        高浜原発差し止め 3、4号機 きょう停止 安全の証明が不十分 大津地裁、仮処分
        (時時刻刻)高浜再稼働、再び「ノー」 福島の事故究明「道半ば」 大津地裁決定
        <考論>高浜原発差し止め 吉岡斉氏・升田純氏
        (社説)原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活
        原発回帰、課題残したまま
        高浜原発差し止め仮処分決定の要旨
        再稼働の流れに警鐘
        隣県の原発止めた 滋賀の住民ら「画期的だ」 高浜差し止め

 09 10 (木) 高浜原発差し止め判決     裁判官 遵守するのは法律と自己良心のみ

「裁判官の判決は憲法に準拠し人としての良心に従う」これが法の番人としての中核であり、裁判官は慣習や世相を斟酌しての判断をしてはならない。

学生時代の一つ覚えは心の奥にしみこんでいる。

明日は東北地震の五周年にあたる日である。

その日家にいた私は、「キュウ、キュウ」という音を聞いて、どこにネズミがいるのかと思ってあたりを見回した。  そして、軒の垂木に掛けてあった防火用のバケツが動いていてその音がしていたことが分かった。

それが東北大地震そのものの思い出である。

すぐ家内に話してから、地震情報を知ろうとしてテレビのスイッチを入れた。 東北地方震源地の地震だった。 津波についての放送では、はじめ高さ2~3mと言っていた。 それがしばらくすると、防波堤を越えて流れ込んできた。

「ゥワッ! スゴイ!」言葉では表現のしようもない。 まさに魔の手が襲いかかってきた。 それから後はずぅーとテレビの前を離れることはできなかった。

凄い光景だった。 動画の映像を見るほかはない。

夜になってからは津波によって福島原子力発電所の原子炉メルトダウンという事故惨事が発生したのである。 細かい内部の知識がなく、ロシヤのウクライナ原発事故の惨状が頭をよぎる。 放射能が気流の流れに沿って北西方面へ拡散してしまったのである。

後になって放射能汚染のため汚染地域の人たちは避難しなければならなくなってしまった。

翌日のNHKのニュースは津波と東電崩壊を見続けた。

一度に二つの大事故に襲われた。 想定外といえば想定外と言えます。
だが、再びこのような原発が起きることは想定外とは言えない。
蛇足ながら言葉を重ねて言えば、集団的自衛権で武器を持つことになれば、国民を再び戦火の下に置くことになる。 戦争になることは必至であり、再びこのような戦争が起きることは想定外とは言えない。 憲法は、ときの権力を持つものが如何なる理由があるにせよ、国民を戦争状態にすることを防いでいる。 戦争状態は絶対に想定外ではないのです。


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
高浜原発差し止め 3、4号機
   きょう停止 安全の証明が不十分 大津地裁、仮処分

      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12250010.html

 1~2月に再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)をめぐり、大津地裁の山本善彦裁判長は9日、福井に隣接する滋賀県の住民29人の訴えを認め、稼働中の原発に対しては初めて2基の運転を差し止める仮処分決定を出した。福島原発事故の原因が解明されていない中で、地震・津波への対策や避難計画に疑問が残ると指摘。安全性に関する関電の証明は不十分と判断した。 ▼2面=司法、再び「ノー」 3面=考論 16面=社説 27面=課題残す原発回帰 37面=仮処分決定の要旨 38面=再稼働に警鐘 39面=隣県の原発止めた

 関電は10日から営業運転中の3号機の停止作業に入る。一方で、決定の取り消しを求める保全異議や効力を一時的に止める執行停止を地裁に申し立てる方針。それらが認められない限り、差し止めの法的効力は続く。

 決定は、安全性の立証責任は資料を持つ電力会社側にもあるとし、十分に説明できない場合はその判断に不合理な点があると推認されるという立場をとった。

 そして東京電力福島第一原発事故の重大性を踏まえ、原因究明は「今なお道半ば」と言及。その状況で新規制基準を定めた国の原子力規制委員会の姿勢に「非常に不安を覚える」とし、新規制基準や審査について「公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」と述べた。

 そのうえで、高浜原発の過酷事故対策について検討。電力会社が耐震設計の基本とする揺れの大きさ(基準地震動)について、関電が前提とした活断層の長さは正確といえず、十分な余裕があるとは認められないと判断。1586年の天正地震で高浜原発のある若狭地方が大津波に襲われたとする古文書も挙げ、関電の地震・津波対策に疑問を示した。さらに、新規制基準でも使用済み核燃料プールの冷却設備の耐震性は原子炉などに比べて低いレベルとされ、関電もプールの破損で冷却水が漏れた場合の備えを十分に説明できていないと述べた。

 また、高浜原発の近隣自治体が定めた事故時の避難計画に触れ、「国主導の具体的な計画の策定が早急に必要」と指摘。「この避難計画も視野に入れた幅広い規制基準が望まれ、それを策定すべき信義則上の義務が国には発生している」と述べ、新規制基準のもとで再稼働を進めている政府に異例の注文をつけた。(島崎周)

     ◇

 大津地裁の仮処分決定を受け、関西電力は高浜3号機の停止作業を10日午前10時ごろから始める。3号機の原子炉に核分裂反応を抑える制御棒を差し込み、約10時間後に完全に止まる予定だ。

 ■<解説>新規制基準の妥当性に疑義

 今回の決定は、福島原発事故の教訓を十分得ないまま再稼働が進む現状に、待ったをかけるものだ。昨年4月の福井地裁に続き、司法が再び高浜3、4号機の運転差し止めを命じた意味は極めて重い。

 とくに、原発の安全確保の土台となる新規制基準や審査について、「想定外」の災害は再び起こることを前提にした十分な余裕を持った基準策定を求め、現状の妥当性を疑問視した。「新規制基準は緩やかに過ぎ、合理性を欠く」とした福井地裁の決定ほど直接的には論じていないが、基準地震動の定め方など、指摘した点には共通性もある。

 徹底的な原因究明を踏まえて安全対策を講じることが再稼働の最低条件だ。だが福島事故では全容がなお明らかでない。原発規制に詳しい米ゼネラル・エレクトリック(GE)元技術者の佐藤暁(さとし)さんは「新規制基準は欧米の規制手法を取り入れたが、教訓は十分反映されていない」と指摘する。

 原子力規制委員会は新規制基準について、最新の知見で見直すとしているが、それに見合う人材は不足しており、育成を急ぐべきだ。また新基準に基づく安全対策を講じることで過酷事故が起こる可能性がどう下がったのか、電力会社と規制委がリスクを評価、確認して国民に説明していく努力が必要だ。

 (編集委員・服部尚)

 ■決定理由の骨子

  ・原発の安全性の立証責任は関電側にもあり、十分説明できない場合は判断に不合理    な点があると推認される

  ・福島原発事故の徹底した原因究明がなく、新規制基準はただちに安全性の根拠とは    ならない

  ・過酷事故時の安全対策が十分とは証明されていない

  ・国主導での具体的な避難計画の策定が必要。関電も避難計画を含む安全確保策に意    を払うべきだ

   ◆キーワード

 <高浜原発3、4号機> 福島第一原発とは異なる加圧水型炉(PWR)で、ともに87万キロワット。1985年に運転を開始した。2011年3月の東日本大震災発生後、3号機は12年2月、4号機は11年7月から定期検査のため運転を停止。15年4月、福井地裁の運転差し止め仮処分決定で2基は動かせなくなった。同年12月には関電が申し立てた保全異議が認められ、決定が取り消された。2基は今年1、2月にそれぞれ再稼働。4号機は2月末、変圧器の保護機器のトラブルのため緊急停止し、冷温停止の状態に戻している。


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
(時時刻刻)高浜再稼働、再び「ノー」
   福島の事故究明「道半ば」 大津地裁決定

     http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249947.html

写真・図版 写真・図版 【左の図版】 原発運転差し止め仮処分をめぐる司法判断の流れ

【右の図版】 原発運転差し止め仮処分をめぐる司法判断の流れ

図版を読み取りできないときは「表示」「拡大」「300」で見ること

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転を差し止めた大津地裁の決定は、東京電力福島第一原発事故の後も、突き進む「国策」に疑問を突きつけた。原発を動かして本当に安全なのか。住民側の不安を大津地裁がくみ取った形だ。4月の電力小売り全面自由化を控え、関電には衝撃が走り、原子力規制委員会でも困惑の声が上がる。一方、政府は、再稼働の方針は変わらないとの考えを改めて示した。▼1面参照

 「そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える」。大津地裁の山本善彦裁判長は9日の決定で、福島の事故の原因究明は「道半ば」だと指摘したうえで、関西電力だけでなく、原子力規制委員会の姿勢にまで言及した。

 新規制基準の妥当性については、2015年4月に福井地裁が高浜3、4号機の運転を差し止めた仮処分決定のときほど直接踏み込んでいるとは言えない。このときは新規制基準を「緩やかすぎる」と直接的に批判。事実上、原発の存在を許さない結論を導いた。

 今回の決定で山本裁判長は「想定を超える災害が繰り返された過ちに真摯(しんし)に向き合うならば、見落としにより過酷事故が生じたとしても致命的な状態に陥らないようにする思想に立って新規制基準を策定するべきだ」と述べた。関電の主張や説明の程度では「新規制基準や原発設置許可が、公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるをえない」と批判した。

 今回の特徴は、関電に対し、強く立証責任を求めているところにある。

 こうした考え方は、従来の原発訴訟が踏襲してきた1992年の四国電力伊方原発(愛媛県)の設置許可の取り消しを求めた訴訟の最高裁判決で触れられている。原発の設置許可に不合理な点がないことを行政側が立証しなければならないとする判例だが、今回に当てはめると、関電が安全性の根拠や資料を明らかにするべきだというものだ。

 過去の司法判断がより重視してきた点は、最高裁判決の枠組みでも、原発設置を認めた審査に「見過ごせないほどの誤り」があるかどうかだった。

 今回の決定は、原子力規制委員会により再稼働が認められただけでは、福島の事故を踏まえて設計や規制がどう強化されたか説明されたとはいえないとした。

 基準地震動(想定される最大の揺れ)についても、15年4月の福井地裁決定がその信用性を否定したのに対し、今回の仮処分決定では「700ガルをもって十分な基準地震動としてよいか、十分な主張がされたということはできない」という論法で否定した。

 過酷事故や津波の対策などほかの主な争点のほとんどで、関電側の立証が尽くされていないと批判した。

 (飯島健太、青田貴光)

 ■規制委「基準に瑕疵ない」

 大津地裁の仮処分決定は、原子力規制委員会にとっても予想外だった。会議中の審査担当者には決定を知らせるメモが差し入れられ、会議室に「ええっ」という声が広がった。

 高浜の運転差し止め仮処分決定は、昨年4月の福井地裁に続いて2回目。新規制基準を「緩やかにすぎ、合理性に欠ける」と断じた前回と異なり、新基準の合理性を一定程度認めながらも「断層の調査が徹底的に行われたわけでなく、安全余裕をとったといえない」などと疑問を投げかけた。

 ただ、規制委側からすれば、安全の余裕は審査の中で最も重視している部分という自負がある。ある審査担当者は「どこがダメなのかが決定文の中で具体的に書かれておらず、どう直せばいいのか正直よく分からない」と困惑する。

 決定は新基準策定の経緯についても、福島第一原発事故の原因究明が徹底されず「危険性を見落としている可能性がある」などと指摘、規制委の姿勢に不信感を示した。

 規制委の田中俊一委員長は9日の会見で「今の段階で申し上げることはない。新基準は常に新しい知見を取り入れ、安全を追求していくことになっている」と原則論を繰り返した。「新基準に瑕疵(かし)があるとは思っていない」

 政府は当面、静観の構えだ。菅義偉官房長官は9日の記者会見で「世界最高水準の新規制基準に適合すると判断されたもので、再稼働を進める方針に変わりはない」と説明した。

 福井地裁が昨年4月に示した高浜原発の再稼働を差し止める仮処分は、8カ月後には関電の異議申し立てが認められ、決定が覆った。エネルギー政策を担う経済産業省のある幹部は「福井地裁のケースと同じ。この先ひっくり返る可能性が高い」と話す。

 とはいえ、同様な決定が各地の原発で相次げば、再稼働を後押しする政府への反発が強まる可能性はある。ある政権幹部は「影響がないと言えばうそになる」と心配する。夏に参院選を控え、世論の反対が根強い原発再稼働が大きな争点になるのは、政権にとっては避けたいところだ。

 ■関電、自由化控え衝撃 料金値下げ計画に影響

 「極めて遺憾。到底承服できない」。関西電力が9日夕、大阪市の本店で開いた記者会見で、木島和夫・原子燃料サイクル部長は語気を強めた。

 営業運転中の原発を止める初の司法判断が、関電に与えた衝撃は大きい。4月の電力自由化に向け、電気料金を値下げする目算が狂った。原発を柱とする経営戦略にストップがかかり、関電幹部は「司法が経営にとってのリスクとなっている」と受けとめる。

 関電は福井県の若狭湾沿いに11基の原発を持ち、廃炉にする美浜1、2号機をのぞく9基の再稼働をめざしてきた。東日本大震災前、関電は発電量の5割近くを原発に頼っており、震災後にすべての原発が止まると、自社だけで電気をまかなえなくなった。さらに、代わりに動かす火力発電の燃料費がかさみ、2012年3月期から4年連続の赤字に陥った。

 しかし、省エネ意識の高まりなどで電気使用量が減り、いまは原発なしでも電力供給に余裕がある。赤字を埋めようと13年と15年の2度にわたり電気料金を値上げしたことで、16年3月期には黒字転換を果たす見通しだ。

 一方、2度の値上げで電気料金は全国的にも割高になった。すでに自由化されている企業などの分野で、関電から他の電力会社に切り替える動きが広がった。

 そうした「関電離れ」を食い止めようと急いだのが原発再稼働だった。

 関電は1月29日、高浜3号機の再稼働にこぎつけ、2月26日には営業運転を始めた。4号機は2月20日に放射性物質を含む水漏れがあったものの、予定通り26日に再稼働に踏み切った。この日、八木誠社長は「5月1日から料金を値下げする」と表明した。

 家庭も自由に電力会社を選べるようになる4月には間に合わないものの、値下げの時期を示すことで、利用者が新規参入組に流れるのを防ぐねらいだった。

 だが、仮処分決定でそのもくろみは崩れた。「5月の値下げは極めて難しくなった」。9日の会見で、関電の谷原武・企画部長は認めざるを得なかった。

 (伊藤弘毅、諏訪和仁)

 ◆キーワード

 <新規制基準と基準地震動> 新規制基準は東京電力福島第一原発事故をふまえ、原子力規制委員会がつくった安全対策基準。炉心溶融のような重大事故の対策を義務づけ、適合しないと稼働できない。基準地震動は各原発で起こりうる最大級の揺れで、耐震設計の元になる。原発付近の活断層の状況や過去の地震の記録などに基づき、自然現象の不確かさも織り込んで決められる。

 (3面に続く)


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
<考論>高浜原発差し止め
   吉岡斉氏・升田純氏

      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249917.html

 (2面から続く)

 ■原発に厳しい安全性求める

 九州大の吉岡斉教授(科学技術史)の話 運転差し止めを求めた住民側に好意的な内容ではあるが、テロ対策などではその主張をうのみにしていない。裁判官として原発の安全性に対して厳しい考えを持っており、冷静で公平な姿勢が強く出ている決定だ。

 決定は、関電の説明では安全性の立証が不十分だという結論を下しつつ、原子力規制委員会の新規制基準も事実上、不十分だと指摘した。また、住民の避難計画も視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき信義則上の義務が国家にある、などと強く主張している。避難計画の実効性を確保するためには国も関与すべきで、歓迎したい。

 福井地裁で昨春、運転差し止めの仮処分決定が出たが、同じように原発に厳しい安全性を求める裁判官がほかにもいた意味は大きい。九州電力川内原発(鹿児島県)の抗告審など、ほかの原発での判断でも、新しい流れが生まれる可能性がある。

 ■決定理由の記述、乏しく乱暴

 元東京高裁判事の升田純・中央大法科大学院教授(民事法)の話 動いている原発を止めるという決定を出した割には決定理由についての記述があまりにも乏しく、乱暴な印象だ。説得力に欠け、最初から結論ありきだったのではないかと映ってしまう。裁判所には真摯(しんし)に考えて判断することが求められるが、これでは手抜きの決定と言われても仕方ない。肩すかしの感が拭えない。仮処分の目的である保全の必要性については記述があまりに少ない。

 裁判所は関西電力に対して主張や疎明が尽くされていないと指摘しているが、逆に提出された証拠資料をどう認定したかといった具体的な記述はあまり見られず、抽象的な言葉が目立つ。

 仮処分はその性質上、即時に調べられる証拠に限定されてしまう。新規制基準の妥当性などを判断するのであれば、専門的な証拠を出して証人尋問も必要なはずだ。運転を差し止めるかどうかは仮処分ではなく本裁判で争われるべきだ。


朝日新聞デジタル>記事 連載:社説 2016年3月10日05時00分
(社説)原発事故から5年 許されぬ安全神話の復活
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249852.html

 できるだけ早く原子力発電に頼らない社会を実現すべきだ。

 東日本大震災と福島第一原発の事故が起きてから、明日で5年になる。私たちは社説で改めて、「原発ゼロ社会」の実現を訴えていく。

 大津地裁はきのう、関西電力高浜3、4号機(福井県)の運転を差し止める仮処分決定を出した。稼働中の原発を司法が止めるのは初めてのことだ。

 安倍政権は、福島の原発事故の教訓をできる限り生かしたとは到底言えない。原発政策を震災前に押し戻し、再稼働へ突き進もうとしている。

 今回の地裁の判断は、なし崩しの再稼働に対する国民の不安に沿ったものでもある。安倍政権は、原発事故がもたらした社会の変化に真摯(しんし)に向き合い、エネルギー政策の大きな転換へと動くべきである。

 ■新基準にも疑問

 高浜をめぐっては昨年4月にも福井地裁が再稼働を禁じる仮処分決定を出した。

 約8カ月後に別の裁判長が取り消したとはいえ、原子力規制委員会が「新規制基準に適合している」と判断した原発の安全性が2度にわたり否定された。

 昨年4月の際、原発推進の立場からは「特異な裁判長による特異な判断」との批判もあったが、もはやそんなとらえ方をするわけにはいかない。

 今回の決定は、事故を振り返り、環境破壊は国を超える可能性さえあるとし、「単に発電の効率性をもって、甚大な災禍とひきかえにすべきだとは言い難い」と述べた。

 そのうえで事故原因の究明について関電や規制委の姿勢は不十分と批判。規制委の許可がただちに社会の安心の基礎となるとは考えられないと断じた。

 新たな規制基準を満たしたとしても、それだけで原発の安全性が確保されるわけではない。その司法判断の意味は重い。

 安倍政権は「規制委の判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりない」(菅官房長官)としている。だが、事故後の安全規制の仕組み全般について、司法が根源的な疑問を呈した意味をよく考えるべきだ。

 ■問われる避難計画

 朝日新聞は2011年7月に社説で「原発ゼロ社会」を提言した。当面どうしても必要な原発の稼働は認めるものの、危険度の高い原発や古い原発から閉めて20~30年後をめどにすべて廃炉にするという考えだ。

 実際にはこの5年のうち約2年1カ月は国内の原発がすべて止まっていた。当初心配された深刻な電力不足や経済の大混乱は起きず、「どうしても必要な原発」はさほど多くないことがわかった。再稼働の条件は厳しく設定すべきである。

 原発の即時全面停止や依存度低減といった脱原発を求める世論が高まり、先月の朝日新聞の世論調査でも過半数が再稼働に反対している。

 安倍政権は当初は「原発依存度の低減」を掲げたが、徐々に新たな「安全神話」を思わせる言動が目立っている。

 安倍首相は13年、東京五輪招致で原発の汚染水状況を「アンダーコントロール(管理下にある)」と世界にアピールした。規制委の新基準についても国会で「世界一厳しい」と持ち上げた。だが、今回の地裁決定は、その基準も再稼働の十分条件ではないとの判断を示した。

 さらに避難計画の不備はかねて懸念の的だった。新基準に避難計画は入っておらず、規制委の審査対象になっていない。

 高浜の場合、福井、京都、滋賀の3府県にまたがる約18万人が避難を余儀なくされるが、再稼働前に計画の実効性を確かめる訓練も実施されなかった。

 地裁は「避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準をつくる義務が国家にあるのではないか」と投げかけた。政府がただちに答えるべき問いだ。

 ■国民の重大な関心事

 あれだけの事故でありながら原発を推進してきた人たちの責任は明らかになっていない。

 大津地裁が言う通り、原発事故を経験した国民は事故の影響の範囲について、「圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたことを知悉(ちしつ)している」。

 にもかかわらず、政府と電力会社は事故を忘れたかのように再稼働へ足並みをそろえる。

 東京電力が炉心溶融の判定基準を今ごろ「発見」したり、九州電力が川内(せんだい)原発の再稼働前に約束していた免震重要棟の建設を撤回したりと、事業者の反省、安全優先の徹底は怪しい。

 専門家をうまく使い、事故前のように仲間内で決めようとしているのか。疑念が膨らむ。

 原子力政策は難解だが、原発は、人びとの暮らし方、生き方の選択と直結した問題であることを事故は思い起こさせた。

 政権と少数の「原発ムラ」関係者たちが、いくら安全神話を復活させようとしても、事故前に戻ることはできない。原発はすでに大多数の国民の、身近で重大な関心事なのである。


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
原発回帰、課題残したまま
      (東日本大震災5年:5)
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249833.html

 〈5〉全国の原発

 5年前の東京電力福島第一原発事故で、原発をとりまく状況は大きく変わった。「脱原発」を望む声が高まり、規制の見直しで廃炉を迫られる原発も出た。再稼働した原発の運転を差し止める仮処分も出たが、国は原発を「重要な電源」と位置づけ、再稼働を進める方針を貫く。課題を積み残したまま、原発回帰の流れは続いている。

 ■再稼働すでに4基、審査中は22基 問われる安全、司法の場でも

 福島の事故では、地震や津波などの自然災害や、核燃料が溶けるような重大事故の対策が不十分だったことが事態を深刻にした。住民の避難でも不備が明らかになった。原発の利用を推進する経済産業省に規制当局があるなど、国の組織のあり方も問われた。

 こうした反省を踏まえ2012年、独立性を高めた原子力規制委員会が発足した。13年にできた新規制基準は、火山や竜巻なども含め、自然災害への対応が強化された。

 事故は起きないという「安全神話」に陥っていたとの反省から、事故は起きるものとして対策を求めたのも特徴だ。電力会社の自主的取り組みだった重大事故対策を義務化。事故が起きても大量の放射性物質を出さないよう安全策を多重化し、航空機衝突などのテロ対策も盛り込んだ。

 全国の原発は福島の事故後、定期検査入りで順次停止し、新基準による規制委の審査に通らなければ再稼働できなくなった。これまでに審査を申請したのは16原発26基。昨年8月に九州電力川内1号機が再稼働し、川内2号機、関西電力高浜3、4号機が続いた。四国電力伊方3号機も主な審査が終わっている。

 ただ、事故のリスクがゼロになるわけではない。新基準は既にある原発への適用を念頭に作られ、放射性物質が漏れる可能性を減らしているに過ぎない。テロ対策拠点の設置は、認可後5年以内などと猶予されている。

 放射性物質が放出されるような事故が起きたとき、住民の命を守る最後の手段が避難だ。原発周辺の防災対策も大きく変わった。

 自治体には、原発から半径30キロ圏の住民の避難計画づくりが義務づけられた。5キロ圏内は甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤を事前に配り、原発で緊急事態が起きた時点で即避難。5~30キロ圏内は屋内退避を原則とし、実測した放射線量に応じて避難する。放射線量を予測するシステムの限界や、避難が体の負担となる人がいることも考慮された。

 ただ、避難計画は自治体がつくることになっており、規制委の審査の対象外だ。国も計画づくりを支援するが、入院患者らの受け入れ先や、バスなどの移動手段の確保、災害時の避難経路など実効性には課題が残されている。

 9日には大津地裁が高浜3、4号機の運転を差し止める仮処分を出した。地震・津波対策など新規制基準に基づく安全策や避難計画の是非は司法の場でも問われている。

 ■コストも増え「選別の時代」

 原発は1970~80年代を中心に各地で建設が進み、事故前は54基あった。電力を安定供給できる準国産エネルギーとされ、国は2030年までに14基の新増設を目指していた。事故後は、安全面の不安やコスト増から、残す原発と廃炉にする原発の「選別の時代」に入っている。

 原発の運転期間は法改正で原則40年とされ、規制委が認めれば1回に限り最長20年延長できることになった。古く出力が小さい原発は、新基準を満たすのにかかる費用に採算が見合わない。昨年4月には運転開始から40年前後の4原発5基の廃炉が決まった。

 事故前から3基の廃炉作業が進み、福島第一原発も全6基の廃炉が決まった。重要施設直下に活断層があるおそれが指摘され、廃炉を迫られる可能性がある原発もある。

 ただ、どこまで原発が減るのかははっきりしない。

 事故後、民主党政権は30年代までに「原発ゼロ」とする方針を打ち出した。発電量に占める原発の比率について0%、15%、20~25%の選択肢を示し、議論を通じて国民の意識を探る「討論型世論調査」などを経て結論を出した。

 その後、政権交代した自民党政権は「原発依存はできるだけ低減する」としつつ、規制委の審査を通った原発は再稼働する方針を掲げた。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、30年度時点で20~22%とする目標も決めた。

 原発新設のハードルは高く、目標達成には10基ほどが40年を超えて運転する必要がある。今年2月には、40年を超えた関電高浜1、2号機の新基準適合が規制委に認められた。当初「例外中の例外」とされた老朽原発の運転延長の道が開かれたことになる。

 一方で、事故前から原発が抱える課題は残ったままだ。使用済み核燃料を再処理して再び燃料に使う「核燃料サイクル政策」も維持されたが、要となる青森県六ケ所村の再処理工場が操業する見通しは立っていない。燃料から出る高レベル放射性廃棄物の行き場も決まらない状況が続く。

 事故後、企業や消費者の意識も変化し、節電や省エネ、再生可能エネルギーの普及も進んだ。電力会社の原発への投資を支えてきた地域独占や料金回収など従来の体制も、自由化などの電力改革で曲がり角を迎えている。

 ■欧州、全廃掲げる国も 中国・インドなど新興国は増設

 福島の事故で、日本をはじめ世界の人々が原発事故の被害の大きさを目の当たりにした。朝日新聞の全国世論調査では、原子力発電を「近い将来ゼロにする」と答えた人が6割前後を占める状況が続いている。

 こうした民意を受け、原発と周辺自治体の関係も変化をみせている。放射性物質の影響が広範囲に及んだことから、原発が立地する自治体だけでなく周辺の自治体や隣県が、原発の再稼働に必要な「地元同意」への関与を求める動きが相次いだ。福島県は、原発に依存しない社会づくりを掲げ、福島第二原発の廃炉も東電に求めている。

 海外では、原発の全廃に踏み切る国が現れた。ドイツは福島の事故後、すぐに老朽原発などを停止。残る原発も22年までに廃炉にすることを決めた。ベルギーとスイスも全廃を掲げる。一方、中国やインドなど新興国では、増える電力需要に応えるため、原発を増やす動きがある。(東山正宜、北林晃治)


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
高浜原発差し止め仮処分決定の要旨
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249972.html

 (1面参照)

 関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止めた大津地裁(山本善彦裁判長)の仮処分決定の要旨は次の通り。

 ■立証責任の所在

 原発付近の住民が原発の運転差し止めを求める仮処分においては、その人格権が侵害される恐れが高いことを立証する最終的な責任は住民らが負う。しかし、原子炉施設の安全性に関する資料の多くは電力会社が保持し、関係法規に従って原発を運転している。それに照らせば、高浜原発3、4号機が安全だと判断する根拠や資料などは関西電力が明らかにすべきだ。

 ■過酷事故対策

 福島第一原発事故によってもたらされた災禍は甚大であり、原発の持つ危険性が具体化した。いかに原発が効率的であり、コスト面で経済上優位であるとしても、それによる損害が具現化した時には必ずしも優位であるとはいえない。

 関電は福島第一原発の安全対策が不十分だったと主張するが、福島の事故の原因究明は建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ば。同様の事故を起こさないという見地から対策を講じるには徹底した原因究明が不可欠だ。この点についての関電の主張と立証は不十分で、こうした姿勢が原子力規制委員会の姿勢であるなら、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える。新規制基準と各原発への設置変更許可が直ちに公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない。

 関電は外部電源の喪失時に備えてディーゼル発電機や蓄電池を置くなど、相当の対応策を準備している。しかし、これらが新規制基準以降になって設置されたのかどうかは不明。新たに義務化された補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことについて、相当の根拠と資料に基づいて説明されたとは言いがたい。

 ■耐震性能、津波に対する安全性能

 関電が海底を含む原発周辺を全て徹底的に調査したわけではない。断層が連動して動く可能性は否定できず、「安全余裕」をとったとはいえない。

 関電は「過去に若狭湾で大規模な津波が発生したとは考えられない」と主張する。1586年の天正地震に関する古文書に、若狭に大津波が押し寄せて多くの人が死亡したとする記載がある。海岸から500メートルほど内陸で津波堆積(たいせき)物を確認したとする報告もある。関電の調査結果によって「大規模津波が発生したとは考えられない」とまで言っていいか、疑問がないとはいえない。

 ■避難計画

 関電の義務として直接問われるべきものではないものの、原発で事故が起きれば圧倒的な範囲に影響が広がり、その避難に大きな混乱が生じたことが福島の事故で認識された。国主導での具体的な避難計画が策定されることが必要で、避難計画を視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき信義則上の義務が国にある。

 こうした状況を踏まえ、関電には「事故発生時の責任は誰が負うのか」について明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、避難計画を含んだ対策にも意を払う必要がある。その点に不合理な点がないかを立証する必要があるが、関電は尽くしていない。


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
再稼働の流れに警鐘
      「琵琶湖守る」声届いた 高浜原発差し止め
      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12250023.html

 関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを求めたのは、原発から30~70キロ離れた29人の滋賀県民だった。

 福島第一原発事故を目の当たりにし、過酷事故がひとたび起きれば被害は30キロ圏にとどまることはなく、深刻な被害が長期間にわたって県内にも及ぶのではないか――。申立人の共通認識でもあった。

 福井・若狭湾には高浜原発をはじめ、13基の原発が立地している。そんな「原発銀座」から、大津市にある滋賀県庁付近まで70キロほどしか離れていない。

 滋賀県民には県の面積の6分の1を占める琵琶湖を守るという意識が強い。琵琶湖は京都、大阪といった近畿地方1450万人の水源。滋賀県知事時代に滋賀県を「被害地元」と位置づけ、「卒原発」を掲げた嘉田由紀子前知事は取材に「琵琶湖を抱え、命や暮らし、環境を守りたいという県民の思いが届いた」と評価した。

 高浜原発30キロ圏には福井、京都と並んで滋賀県も一部入っているが、滋賀県は対象地域に居住者がおらず、関西電力との安全協定も2府県に後れをとった。三日月大造知事の求めでようやく締結にこぎつけたのは、3号機再稼働の直前だった。

 この日、三日月知事は「国全体として原子力政策について根本的な議論や解決策が見られない現状において、再稼働は容認できない」とのコメントを出した。国や関電に対しては、「国民に不安感が残る現状を重く受け止め、地域に残る懸念に誠意と責任をもって対応することを求める」と注文を付けた。

 ■福島避難者「反原発、盛り上げる」

 東京電力福島第一原発事故でふるさとを離れることを余儀なくされた、福島県内の避難者らからは決定を歓迎する声があがった。

 福島県南相馬市の自宅から相馬市に避難している、阿部忠政さん(59)は決定を喜ぶ。避難先を転々としたが、避難指示が解除されれば戻るつもり。「福島第二原発も動かしてほしくない」

 福島市の男性(70)は「今回は下級審の判断。被災地からもっと反原発の声を盛り上げたい」と語った。全町民の避難が続く大熊町の渡辺利綱町長は「福島の現状や、原発事故にどう備えるべきかを、改めて考える契機になってほしい」。

 全町民が避難する富岡町に自宅がある、日本原子力発電元理事の北村俊郎さん(71)は「再稼働の大きな流れに一石を投じるもの。決定は電力会社に説明責任を求め、避難計画を国が審査しないことも事実上批判した。国も電力業界も、真摯(しんし)に向き合うべきだ」と語った。

 ■高浜原発をめぐる主な経過

<2011年>

   3月11日 東日本大震災で東京電力福島第一原発事故が発生    7月21日 4号機が定期検査のため運転停止    8月 2日 滋賀県民らが4号機など運転禁止を求めて大津地裁に仮処分を申請
   (後に3号機も追加)

<2012年>

   2月20日 3号機が定期検査のため運転停止

<2014年>

   11月27日 大津地裁が3、4号機などの再稼働差し止めを求めた仮処分を却下
   12月 5日 福井県の住民らが3、4号機など2原発4基の運転禁止を求めて
            福井地裁に仮処分を申請

<2015年>

   1月30日 滋賀県民が3、4号機の運転禁止を求める仮処分を大津地裁に申請
   2月12日 3、4号機が新規制基準に適合と判断される
   4月14日 福井地裁が運転禁止を命じる仮処分を決定(その後、関電は異議申し立て)
  12月24日 福井地裁が関電の異議を認め、運転禁止を命じた仮処分決定を取り消す

<2016年>

   2月20日 4号機の原子炉補助建屋内で、放射性物質を含む水漏れのトラブル
     26日 4号機が再稼働
     29日 4号機で発電と送電を始める作業中、変圧器の保護機器のトラブルで
           原子炉が緊急停止
   3月 9日 大津地裁で3、4号機の運転を即時差し止める仮処分


朝日新聞デジタル>記事 2016年3月10日05時00分
隣県の原発止めた 滋賀の住民ら「画期的だ」
   高浜差し止め

      http://digital.asahi.com/articles/DA3S12249990.html

 再稼働したばかりの関西電力高浜原発の原子炉から、再び「火」が消える。滋賀県の住民らが大津地裁で高浜原発3、4号機の運転差し止めを勝ち取った。運転中の原発を直ちに止める史上初の司法判断。東京電力福島第一原発事故から5年を目前に、会見で国に原発ゼロ政策にかじを切るべきだと訴えた。▼1面参照

 午後3時38分、大津地裁正門前で歓声が上がった。「やった」「止めたぞ」。雨の中、抱き合い、涙を流す数十人の住民らの前で弁護団のメンバーが掲げた紙には、「いのちとびわ湖を守る運転差し止め決定!」と書かれていた。

 「長年の苦労が実を結んだ。たくさんの人の願いが現実になりました」。高浜原発から30キロ圏外で暮らす住民らと喜びを分かち合ったあと、元裁判官で弁護団長の井戸謙一弁護士(61)は取材にこう語った。

 井戸弁護士は金沢地裁の裁判長だった2006年3月、北陸電力志賀(しか)原発2号機(石川県志賀町)について「想定を超えた地震動で事故が起こり、住民が被曝(ひばく)する具体的可能性がある」として、運転差し止めを命じる判決を言い渡した。

 だが、二審判決で覆り、10年に確定。退官直前の11年3月には福島で原発事故が発生した。「経験が生かせるはず」「原発を止められなければ、また同じことが起こる」。退官後は原発に反対する各地の住民らに寄り添い、脱原発の活動にも力を入れた。ところが、昨年4月に九州電力川内(せんだい)原発1、2号機の運転差し止めを求めた仮処分の申し立てを鹿児島地裁が却下。高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めた福井地裁の仮処分決定(昨年4月)も昨年12月に同地裁の別の裁判長が取り消した。

 原発再稼働を司法が認める流れができつつある中、再びストップをかけた今回の決定。井戸弁護士は記者会見で「画期的。全国の裁判所に与える影響は大きい」と評価したうえで、「原発立地県ではない滋賀県で原発を止めた。福島の事故の経験があったからこその決定だ」と語った。

 住民代表として会見に同席した辻義則さん(69)=滋賀県長浜市=は「政府はエネルギー政策を見直し、原発ゼロ政策にかじを切るべきだ」とする声明を読み上げ、「裁判所は勇気を持って県民の願いに応えてくれた」と喜んだ。

 脱原発弁護団全国連絡会の共同代表・河合弘之弁護士(第二東京弁護士会)は訪問先の福島県内で大津地裁決定を知った。「原発事故が風化していくことへの強烈な警告。再稼働の流れを大きく変える」

 ■「もてあそばれている」 福井・高浜、不満と戸惑い

 「(原発が)何度も止まったり動いたりする状況を繰り返すのは遺憾」。福井県の西川一誠知事は9日、会見を開き不満を表明した。その上で「政府や関係機関が原発の必要性、重要性、安全対応について十分に説明し、司法も含めて国全体が原子力問題にしっかり取り組んで国民の理解を深めることが必要」と述べた。

 高浜原発がある同県高浜町の野瀬豊町長も報道陣の取材に応じ、「地裁ごとに判断がばらつき、立地自治体としては翻弄(ほんろう)されるというか、もてあそばれているような状況にある。国の方針に協力する自治体や地域住民は何をよりどころにやっていけばいいのか」と険しい表情で答えた。今後の対応については「町行政の道筋をどうたてていくか、今日の段階で申し上げられない」と戸惑いを見せた。

 高浜町商工会の田中康隆会長(59)は「再稼働で町経済への期待感が高まり、設備投資などでようやく将来設計しようかという矢先で、失望感は大きい。また先が見通せなくなった」と声を落とした。

 ただ、大津地裁が指摘した避難計画の不完全さに対する不安は、地元でも根強くある。

 高浜原発は湾に面した内浦半島の根もとにある。半島の奥には約150人が住む高浜町音海地区がある。昨年12月に政府が了承した広域避難計画では、過酷事故時には半径5キロ圏の住民が優先的に原則マイカーで避難を始めるが、幹線国道や舞鶴若狭道へ抜ける道は県道1本しかない。沿岸部は津波が来れば通れず、山間部は土砂崩れの恐れもある。

 「原発は動かしてほしいし、止めてほしい。半分半分だ」。音海地区の70代の無職男性はつぶやいた。「町全体が原発で潤っているのは間違いない」と原発で働く住民を気遣う一方、「福島の事故以降は常に不安感はある。放射能が漏れている時に原発の真ん前の道を通れるはずがない。仮に通れても大渋滞で逃げ切れないと思う」と話した。

 ■大津・いじめ訴訟で和解案 山本善彦裁判長

 今回の決定は、山本善彦裁判長(61)、小川紀代子裁判官、平瀬弘子裁判官の3人で出した。

 山本裁判長は1988年任官。鹿児島地裁、大阪高裁などを経て2014年4月、大津地裁に着任した。

 山口地裁勤務時の13年3月には、マツダ防府工場(山口県防府市)の派遣労働者らの雇用形態の是非をめぐり「(マツダの制度は)労働者派遣法に違反する」として、元派遣社員15人中13人を正社員と認め、未払い賃金などの支払いを命じる判決を言い渡した。

 大津地裁ではいじめを受けて11年に自殺した中学2年の男子生徒の遺族が大津市などに損害賠償を求めた民事訴訟を担当。「市は男子生徒の自死を予見できたのに適切に対応しなかった」「市はいじめ防止のための取り組みを継続する」など、市の過失責任や今後の取り組みを盛り込んだ和解案を提示した。両者は15年3月、和解した。(写真は11年司法大観から)

    16面=社説 27面=課題残す原発回帰 37面=仮処分決定の要旨 38面=再稼働に警鐘 39面=隣県の原発止めた

「裁判官の判決は憲法に準拠し人としての良心に従う」これが法の番人としての中核であり、裁判官は慣習や世相を斟酌しての判断をしてはならない。

学生時代の一つ覚えは心の奥にしみこんでいる。

明日は東北地震の五周年にあたる日である。

その日家にいた私は、「キュウ、キュウ」という音を聞いて、どこにネズミがいるのかと思ってあたりを見回した。  そして、軒の垂木に掛けてあった防火用のバケツが動いていてその音がしていたことが分かった。

それが東北大地震そのものの思い出である。

すぐ家内に話してから、地震情報を知ろうとしてテレビのスイッチを入れた。 東北地方震源地の地震だった。 津波についての放送では、はじめ高さ2~3mと言っていた。 それがしばらくすると、防波堤を越えて流れ込んできた。

「ゥワッ! スゴイ!」言葉では表現のしようもない。 まさに魔の手が襲いかかってきた。 それから後はずぅーとテレビの前を離れることはできなかった。

凄い光景だった。 動画の映像を見るほかはない。

夜になってからは津波によって福島原子力発電所の原子炉メルトダウンという事故惨事が発生したのである。 細かい内部の知識がなく、ロシヤのウクライナ原発事故の惨状が頭をよぎる。 放射能が気流の流れに沿って北西方面へ拡散してしまったのである。

後になって放射能汚染のため汚染地域の人たちは避難しなければならなくなってしまった。

翌日のNHKのニュースは津波と東電崩壊を見続けた。

一度に二つの大事故に襲われた。 想定外といえば想定外と言えます。

だが、再びこのような原発が起きることは想定外とは言えない。

蛇足ながら言葉を重ねて言えば、集団的自衛権で武器を持つことになれば、国民を再び戦火の下に置くことになる。 戦争になることは必至であり、再びこのような戦争が起きることは想定外とは言えない。 憲法は、ときの権力を持つものが如何なる理由があるにせよ、国民を戦争状態にすることを防いでいる。 戦争状態は絶対に想定外ではないのです。