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【 01 】01/27
01 27 26日のニュース トランプ大荒れ
(1) NY株、初の2万ドル突破 経済政策に期待感
(2) トヨタ、対トランプ苦慮 米工場に680億円の投資表明
(3) 政策反転、パイプラインも トランプ氏、計画容認の大統領令署名 環境より雇用優先
(4) 首相、防衛力強化に言及 「日米同盟で役割拡大」 参院本会議
(5) (社説)日米貿易 「多国間」の理を説け
(6) (社説)財政再建 決意ばかりの無責任
(7) 同盟・アジア重視、確認へ 米国防長官、来月日韓歴訪
(8) 改憲議論へ、各党違いくっきり 衆参代表質問終了
(9) 対米戦略、練り直し 通商交渉、新組織設置検討
(10) ドル高の是正を要請 フォードCEO、トランプ氏に
(11) トヨタ、対トランプ苦慮 米工場に680億円の投資表明
(12) (トランプの時代)移民拒む「トランプの壁」 公約実現、効果は不透明
(13) (論壇時評)社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二
(14) (あすを探る 政治)野党共闘、問われる本気度 中北浩爾
(15) (担当記者が選ぶ注目の論点)ポピュリズムと排除の論理
(16) (新横綱・稀勢がゆく)「磨いた力信じてやる」 横綱昇進で誓い 大相撲
01 26 (木) 26日のニュース トランプ大荒れ
(1) NY株、初の2万ドル突破 経済政策に期待感 1面
25日午前のニューヨーク株式市場は上昇して取引が始まり、大企業で構成するダウ工業株平均が一時、史上初めて2万ドルの大台を突破した。トランプ米大統領が掲げる経済政策への期待感で株価が上がる「トランプ相場」が続いている。午前10時45分(日本時間26日午前0時45分)時点は、前日の終値に比べて150・42ドル(0・76%)高い2万0063・13ドル。▼8面=トヨタ苦慮、11面=環境政策反転
ダウ平均は、取引が始まった直後に2万ドルを突破。トランプ氏はすぐさま「すばらしい! ダウが2万ドル到達だ」とツイッターに投稿し、新政権の成果を強調した。
トランプ氏が掲げるインフラ投資や規制緩和、大型減税などの経済政策が実際に動き出すと、米国の経済成長が加速するという期待感が広がり、投資家が積極的に株を買っている。新興国に向けて投じられていた投資資金も米国に流入し、米株式市場の活況につながっている。
トランプ氏は大統領選の勝利後に経済政策の詳細を語らず、最近は失望売りも出て、2万ドルを目前にして足踏みしていた。しかし、24日にオバマ前政権が環境保護などの理由から建設を却下していた大規模なパイプライン計画を認める大統領令に署名。公約通りに景気刺激に本腰を入れるとの観測から、再び投資マネーを呼び込んだ。
ただ、経済政策には不透明な要素も多い。市場では「期待先行の株高」(日系証券会社)との指摘がある。当面は、トランプ政権の動きに一喜一憂する値動きとなりそうだ。
ダウ平均は2014年12月に1万8000ドル台に到達し、16年11月下旬に1万9000ドルを超えた。トランプ氏の大統領選の勝利が11月9日に判明してからの上げ幅は1700ドルに達した。(ニューヨーク=畑中徹)
(2) トヨタ、対トランプ苦慮 米工場に680億円の投資表明 8面
日本の自動車メーカーが、「米国第一主義」を掲げる米トランプ政権への対応に苦慮している。トヨタ自動車は25日、米国の主力工場の能力増強を発表。競合他社も警戒感を強めている。▼1面参照
「計画はもともと決まっていたもの。政権がどこであろうが、持続可能な経営をするために必要だと判断した」。トヨタ幹部は25日朝、米国での新たな投資について、淡々と語った。
その数時間前、日本の自動車貿易への批判を強めるトランプ大統領に呼応するように、トヨタはインディアナ州にある工場への投資計画を発表した。年産40万台の工場に6億ドル(約680億円)を投資。中型スポーツ用多目的車(SUV)の生産能力を2019年秋までに4万台分引き上げる。5千人いる従業員も400人増やす。年始に表明した米国への100億ドル(約1・1兆円)の投資計画の一部という。
トヨタの米国生産台数は近年、高水準で推移しているが、トランプ氏はお構いなしに批判を強める。米国はトヨタ車の3割を売る地域であり、トヨタは摩擦回避に懸命だ。インディアナ州はペンス副大統領のおひざ元。今回の計画は新政権へのメッセージでもある。
SBI証券の遠藤功治氏は「企業が、当初から決まっていたこと以上の投資計画を打ち出すのは難しい。できることでアピールするしかないが、どこまでトランプ氏に通じるのかが見通せない」と話す。(山本知弘)
■効果不明、他社も困惑
日本メーカーの間では、これまで米企業に限っていたトランプ氏への「アピール合戦」にトヨタ自動車も加わったとの見方が広がった。ただ、こうした「米雇用への貢献」を披露しても、トランプ氏の日本車に対する警戒感を和らげる役に立つのかは見通せない。
米新車市場は好調で、日本勢にとって「新たな投資はしっかりやっていく」(ホンダの八郷隆弘社長)局面だ。ただ、北米自由貿易協定(NAFTA)の行方次第では、メキシコからの安価な車や部品の供給が滞る結果、高値になる米国産車はつくっても売れない状況になりかねない。雇用を生むはずの米国工場の新設には踏み込みづらくなる。
ある自動車大手幹部は「1社だけが『かわいいやつ』と認めてもらえばトランプ氏の政策が変わるものではない。(米国での)計画見直しは、NAFTAや税制の見直しでコストがどう変わるか見通せるようになった時だ」と話した。(青山直篤)
(3) 政策反転、パイプラインも トランプ氏、計画容認の大統領令署名 環境より雇用優先 11面
トランプ米大統領が、環境分野でもオバマ政権の政策をひっくり返し始めた。24日、オバマ前政権が却下した2カ所の原油パイプラインの建設計画を進める大統領令に署名。環境の保護や先住民の権利よりも、雇用やエネルギー業界の保護を優先し、政権交代を印象づける狙いを鮮明にした。▼1面参照
大統領令に署名したのは、カナダ産原油をテキサス州に運ぶ「キーストーンXL」と、ノースダコタ州からイリノイ州を結ぶ「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設計画。
トランプ氏は、キーストーンXL建設で新たに2万8千人の雇用が見込めると指摘。工事には国産資材を使うよう具体的に指示し、「多くの労働者が仕事に戻れる」などと強調した。今後も環境評価や承認手続きの短縮などで、国内インフラ整備に力を入れていく考えも明らかにした。
キーストーンXLは、カナダの企業が2008年に建設を申請した。カナダ・アルバータ州から米中部ネブラスカ州まで約1900キロを新たに結び、既存の施設に連結。テキサス州の精製施設に1日最大約80万バレルの原油を運ぶ予定だった。総事業費は80億ドル(約9千億円)に達し、工事などで4万人以上の雇用が見込めるとの推計もあった。
当時の野党・共和党が建設支持に回ったのに対し、与党・民主党の支持基盤である環境保護団体などは、工事や事故による環境汚染や温室効果ガスの排出増につながるとして批判。議会が可決した推進法案に、オバマ氏が拒否権を発動するなど、与野党対立の象徴的な存在になってきた。
建設の是非を判断する国務省は、環境への影響は限定的とする評価結果をまとめたが、オバマ氏は15年11月、計画を却下。直前の雇用統計で26万人以上の増加があったことなどに触れ、「経済成長と環境保護が両立できないというのは古い考えだ」などと述べた。
オバマ氏は、直後にパリで開かれる国連気候変動会議(COP21)への出席を控えており、「計画を承認すれば、(国際交渉での)主導的な地位を失いかねない」とも語っていた。
一方、ダコタ・アクセス・パイプラインは、建設予定地の一部に住む先住民グループが「水資源が汚染される」などとして昨夏から大規模な反対活動を続けてきた。約1880キロの9割以上は完成していたが、大統領選後の昨年12月、オバマ政権は、一部ルートの見直しを決めた。これに対しトランプ氏は、元の計画を再評価し、速やかに手続きを進めるよう指示した。
トランプ氏の大統領令を受け、ホワイトハウス周辺では24日午後、環境保護団体や先住民団体のメンバーらが抗議集会を開いた。リーダーの一人、エリン・ワイズさんは「(政策転換に)驚きはなかった。トランプ氏が自分や企業のためでなく、次世代の人々、国民の未来に投資するよう訴えていく」などと語った。(ワシントン=小林哲)
(4) 首相、防衛力強化に言及 「日米同盟で役割拡大」 参院本会議
安倍晋三首相は25日の参院本会議での代表質問で、米国のトランプ新大統領の就任を受けた日米同盟のあり方について、「我が国としても防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていく」と述べ、軍事力の再構築を進める方針を打ち出した新政権との同盟強化に意欲を示した。▼3面=米国防長官訪日へ、4面=焦点採録
日本維新の会の片山虎之助共同代表に答えた。発言は、新政権との同盟関係を築くために、米軍駐留経費の負担のあり方にとどまらず、集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法に基づき、防衛力強化や自衛隊の役割拡大でも協議する可能性を示したものだ。
トランプ氏が大統領選で在日米軍の撤退や駐留経費の増額要求を示唆したことを踏まえ、「トランプ氏がこれまで以上の防衛上の負担を求めた時に真剣な検討を行うべきではないか」と問うた片山氏に、首相は「日米同盟は外交安全保障政策の基軸であり、トランプ新政権との間でも信頼関係の上に揺るぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものにしていきたい」と強調した。
新政権が日本に対して、どのような防衛上の負担を求めてくるかについては「予断することは差し控える」と断ったうえで、軍備強化を図る中国や北朝鮮を念頭に、「地域の平和と繁栄の礎として日米同盟の重要性は増している。もとより安保政策において根幹となるのは、自らが行う努力だ」と述べた。(南彰)
(5) (社説)日米貿易 「多国間」の理を説け
前の世紀の歴史の一こまだったはずの日米自動車摩擦が再燃するのだろうか。
トランプ米大統領が、日本との自動車貿易が不公平だと批判し、貿易赤字を解消するために二国間の協議に乗り出すことを示唆した。
日米など12カ国が合意した環太平洋経済連携協定(TPP)から永久に離脱するとの大統領令を発し、二国間主義を鮮明にする中での牽制(けんせい)である。
自動車分野で日米摩擦が激しかった1980~90年代から状況は一変した。米国内で日本メーカーの生産が広がり、多くの雇用を生んでいる。乗用車の輸入関税は、米国の2・5%に対して日本はゼロだ。トランプ氏の時代錯誤の認識に耳を疑う。
二国間主義の弊害は、日米間にとどまらない。世界最大の経済大国である米国が、手っ取り早く国内の雇用を増やそうと保護主義的な姿勢を強め、力任せに相手国に譲歩を迫れば公正な貿易のルールはゆがむ。交易が滞り、報復合戦を通じて経済活動の収縮を招きかねない。
そうした事態になれば、輸出の低迷という形で悪影響は米国の産業にはねかえる。
多国間で協調しながら自由化を進める理と利を米国に説くのは、経済規模で世界3位の日本の役割だ。近く予想される日米首脳会談に向けて、官民それぞれのルートで働きかけを強めてほしい。
その一方で、多国間交渉の灯を絶やさないための取り組みも求められる。世界貿易機関(WTO)の機能不全が続く中で、まず直面する課題がTPPにどう向き合うかだろう。
安倍首相は「TPPの意義を腰を据えて(トランプ氏に)理解を求めていきたい」と繰り返している。同盟国である米国を含まない協定は避けたいとの考えがうかがえるが、米国が加わっての発効が全く見えなくなったのは厳然たる事実である。
TPPの参加国は自由化に積極的だけに、しっかり連携していくことが必要だ。一部の国が主張し始めた米国抜きでの協定についても、連携を保つ一環で話し合ってはどうか。協議を促すのは、経済力が突出する日本をおいてほかにない。
大筋合意に向けて大詰めの協議が続く欧州連合(EU)との経済連携協定や、中印に東南アジア諸国を含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を前に進める意義も小さくない。
米国に対して直接、間接に多国間交渉の大切さを訴える。日本が率先して取り組んでほしい。
(6) (社説)財政再建 決意ばかりの無責任
積み上がる国と地方の借金に歯止めをかけ、将来世代へのつけ回しを抑えていく。そのために政府が掲げる財政再建目標の達成が、さらに遠のいた。
もともと高い目標であり、達成を危ぶむ声は政府内外でますます強まっている。しかし、安倍首相は国会答弁などで「必ず実現する」と繰り返す。
首相は経済成長による税収増を強調するが、それだけでは達成はおよそ見通せない。にもかかわらず、歳出の抑制・削減や、消費税を中心とする増税には及び腰である。
どうやって実現するのか、決意ばかりで具体的な説明はない。あまりに無責任だ。
財政再建の目標は、基礎的財政収支(PB)を20年度に黒字化することだ。PBが黒字になれば、過去の借金の元利払い費を除く政策経費を、その年度の税収などでまかなえたことになり、借金の膨張に一定の歯止めがかかる。
内閣府の試算では、16年度は国と地方の合計で20兆円の赤字だ。安倍政権が頼みとする「経済再生ケース」でも、一定の前提を置いてはじくと20年度に8兆円余の赤字が残る。赤字額は半年前の試算から3兆円近く増えた。足元の税収が落ち込んだためだ。
そもそも経済再生ケースは、19年度以降に成長率が実質で2%以上、名目では3%以上と、バブル崩壊前の水準に高まることが前提になっている。現状からかけ離れ、それだけ税収も多めに見積もられる構図である。
目標と実態の隔たりに対し、政権の危機感は乏しい。17年度の当初予算案でも、歳出への切り込みは甘く、16年度に落ち込んだ税収の急回復を見込んだ。その通り税収が上向けば、PBはわずかに改善することになるが、財政再建への一歩とはとても言えない。
忘れてならないのは、日本銀行のマイナス金利政策で国債の金利が低く抑えられ、借金にともなう国や地方の負担が増えにくくなっていることだ。通常の市場なら、国債の発行が増えれば価格が下落(利回りは上昇)する「悪い金利上昇」を招く恐れがあるが、そうした財政への警告機能は金融政策によって封じ込められている。
だからこそ、政府が財政再建へのしっかりした目標と計画を決め、着実に実行していく姿勢が重要になる。ところが政権は、目標の堅持を叫びながら、経済成長と税収増を当て込むばかりで、計画が見えない。
政府への信認が損なわれかねない事態である。
(7) 同盟・アジア重視、確認へ 米国防長官、来月日韓歴訪
米国のトランプ新政権で国防長官に就任したジェームズ・マティス元中央軍司令官(66)が2月初旬に日本と韓国を訪問する。トランプ大統領が在日米軍撤退など「同盟軽視」ともとれる発言をする中、日韓内に広がる懸念を払拭(ふっしょく)し、アジアを重視する姿勢をアピールする狙いがある。▼1面参照
マティス氏は20日に米連邦議会上院で就任が承認されたばかり。今回の日本訪問が就任後初の外遊となる。日程は2月3日を軸に調整しており、稲田朋美防衛相と会談するほか、安倍晋三首相を表敬訪問するとみられる。
トランプ氏は大統領選中から「米国は引き続き日本を防衛したいと思うが、常に打ち切る準備もしなければならない」と述べ、在日米軍駐留経費のさらなる負担増など、同盟軽視ともとれる発言をしてきた。就任後も、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱や不法移民排除など「内政」に注力し、アジア外交の優先順位は高くないように見える。
そんな中、アフガニスタンやイラクでの紛争で指揮を執ったマティス氏が最初の訪問先に日韓両国を選んだのは、アジアの同盟国にくすぶる懸念を払拭するとともに、中国や北朝鮮を牽制(けんせい)する狙いがあるようだ。
マティス氏は議会公聴会で、オバマ前政権が進めてきたアジア重視の方針を引き継ぐ考えを明らかにした。また、中国が海洋活動を活発化させる南シナ海問題に関して、「米中の競争に対処しなければならない」と訴えた。今回の訪問でも、北朝鮮の核やミサイル開発の問題に加え、中国が進出する南シナ海や沖縄県の尖閣諸島の問題などについて、意見交換するとみられる。(ワシントン=佐藤武嗣)
■米軍駐留費も焦点
マティス氏の訪日が固まったことについて、日本政府内では「アジア太平洋地域の同盟国を重視するというメッセージの表れだろう」(防衛省幹部)と歓迎する声が相次いだ。
前回、オバマ氏が09年1月に新大統領に就任した際、初の日米防衛相会談が米国で実現したのは5月の大型連休中だった。このため、防衛省は今回の日米防衛相会談についても5月の大型連休を想定していた。
防衛省幹部は「米側から先に日本に来るのは異例なこと」と語る。別の幹部は「会談では日米同盟の強化や、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用対象になるという確認ができればいい」と期待を込める。
一方、警戒する声もある。防衛相経験者は「トランプ氏の意向を受け、マティス氏は在日米軍の駐留経費の増額を始め、防衛費の増額を求めてくるのでは」と話す。日本の防衛費は16年度当初予算ベースで5兆円で、GDP(国内総生産)に占める割合は0・97%。この数値について、防衛省幹部は「米国には不十分と映るだろう」と語る。
トランプ政権の要求を見越し、自民党内では国防族議員たちが防衛費の増額に向けて動き始めた。25日の党内会合では、5年間の防衛力整備のあり方を示した中期防衛力整備計画(中期防)の新たな策定に向けた提言を作ることを決めた。 (相原亮)
ジェームズ・マティス国防長官
「米国とアジア太平洋地域の同盟国の安全保障上の利益を守る米国の決意は疑いがない」
1950年 ワシントン州に生まれる
69年 海兵隊入隊 (19才)
90年 湾岸戦争「砂漠の盾作戦」で大隊長 (40才)
2001年 アフガニスタン戦争「不朽の自由作戦」で遠征旅団司令官 (51才)
03年 イラク侵攻で、第1海兵師団司令官 (53才)
07年 米統合戦力軍司令官、NATO変革連合軍司令官 (57才)
10年 中央軍司令官 (60才)
13年 退役 (63才)
17年 国防長官 (67才)
(8) 改憲議論へ、各党違いくっきり 衆参代表質問終了
安倍晋三首相が「憲法改正の具体的な議論を深めよう」と呼びかけた施政方針演説に対する衆参両院の代表質問が25日、終わった。「前のめり」「消極」「反対」――。3日間の与野党幹部による質問から、憲法改正に対する各党の姿勢の違いが浮かび上がった。
■維新=前のめり、公明=触れず、自民=後押し、民進=消極的、共産=反対
憲法改正に最も前のめりな姿勢を見せたのは、日本維新の会だ。
「今国会からは具体的な(改憲)項目の絞り込みが必要だ」。片山虎之助共同代表は25日の参院代表質問で、9条改正や緊急事態条項の新設ではなく、「国民すべてが身近で切実に悩んでいる課題の解決を憲法改正で行うべきだ」と主張した。
維新が求めているのは、教育の無償化と統治機構改革、憲法裁判所の設置の3項目。「優先的に取り組むべき項目があれば指摘してほしい」と首相に迫った。馬場伸幸幹事長も24日の衆院代表質問で、具体的な改正項目を掲げて選挙で賛否を問う「憲法改正解散」を持ちかけた。
対照的だったのは、同じ「改憲勢力」とくくられる与党・公明党だ。
25日に登場した山口那津男代表は18問、質問したが、憲法には一言も触れなかった。前日に質問に立った井上義久幹事長も言及せず、逆に「政治が国民の思いを正確に取り込むことができなくなれば、政治は行き詰まる」と指摘した。
山口氏は代表質問の後、憲法に触れなかった理由を記者団に問われ、「国民の理解を伴わなければ到底前に進めない」と答えた。
自民党は首相を後押しする姿勢を強く打ち出した。
二階俊博幹事長は23日の衆院代表質問で、「どの部分を変えるのか具体的な項目の論議を行い、広く国民に知ってもらうのが私たちの責務だ」と主張。前日のNHK番組では、今国会中に憲法改正の発議を目指す可能性にも言及した。党憲法改正推進本部の幹部は「総理の思いを受け、議論を先に進めたいという思いの表れだ」と語る。
一方、民進党の憲法への言及は消極的だった。参院で24日に質問に立った蓮舫代表は憲法に触れなかった。野田佳彦幹事長は23日の衆院代表質問の最後で「これまで国会で具体的な議論を避けてきたのは総理だ」と指摘したが、具体論に入らなかった。民進は「憲法議論には積極的に参加する」(蓮舫氏)との立場だが、党としての改正へのスタンスが定まらないこともあり、個々の政策課題の論戦を優先した格好だ。
憲法改正反対の立場を鮮明にしたのが共産党だ。志位和夫委員長は24日の衆院代表質問で「現行憲法のどこが問題なのか。変えるべきは憲法をないがしろにした政治ではないか」と安倍政権を批判。小池晃書記局長は25日、「多くの国民は改憲を求めていない」と首相に迫った。(三輪さち子)
■各党の憲法改正への言及
<自民党・二階俊博幹事長>
現行憲法制定から70年が経過し、時代に合わせて憲法を改正していくことが求められる。具体的な項目の議論を行い、広く国民に知ってもらうことが私たちの責務だ
<民進党・野田佳彦幹事長>
施政方針演説では「具体的な議論を深めよう」と呼びかけたが、これまで国会で具体的な議論を避けてきたのは総理だ。総理の真意がどこにあるのか不明だ
<公明党>
言及なし
<日本維新の会・片山虎之助共同代表>
憲法審査会では、今国会から各論に入るべきだ。具体的な項目の絞り込みが必要だ。国民すべてが身近で切実な課題の解決を憲法改正で行うべきだ
<共産党・志位和夫委員長>
憲法は9条という世界で最も進んだ恒久平和主義の条項を持つ。変えるべきは憲法ではなく、憲法をないがしろにした政治ではないか
(9) 対米戦略、練り直し 通商交渉、新組織設置検討
トランプ米政権が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱を表明したことを受け、日本政府が通商交渉の司令塔となる新たな組織の設置を検討していることが25日、明らかになった。複数の経済連携協定を束ねるほか、米国との二国間交渉にも備える。日米首脳会談でトランプ大統領の姿勢を見極め、通商戦略の練り直しを急ぐ。
新組織は、内閣官房にあるTPP対策本部を改組する方向。萩生田光一官房副長官は25日の記者会見で「日本側は(TPPの)国内手続きをすでに完了した。他の自由貿易に向けて様々な対応をしていかなければならない」と語った。
政府はなお、トランプ米政権に対してTPPの意義を粘り強く訴える方針だが、早期の翻意は難しいとみており、TPPに代わる成長戦略の新しい柱が必要となっている。
安倍晋三首相は25日の参院代表質問で「TPPに結実した新たなルールは今後の通商交渉のモデルとなる」と述べ、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の早期合意をめざす考えを示した。現在は貿易ルールを経済産業省が、農産物の関税は農林水産省が担当するが、新組織の主導で早期の妥結をめざす。
中国やインドなど16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)の交渉も加速させる。二国間交渉を掲げるトランプ氏を牽制(けんせい)する狙いも透ける。
一方、2月上旬以降の開催で調整中の日米首脳会談では、トランプ氏から二国間の自由貿易協定を持ちかけられる可能性がある。
萩生田氏は「ただちに(トランプ氏がやり玉に挙げた)自動車だけの二国間交渉ということにはならない」と語るが、「交渉自体を断ることは難しい」(首相官邸幹部)との声もある。日米貿易摩擦の再来を避けるため米国と良好な関係を保ちつつ、多国間貿易の重要性を伝える役割を新組織は求められそうだ。先行きが見通せぬ中、通商政策に携わる政府関係者はこう話す。「いずれにしても、日米首脳会談が終わってからだ」(南日慶子、古賀大己) トランプ米政権が環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱を表明したことを受け、日本政府が通商交渉の司令塔となる新たな組織の設置を検討していることが25日、明らかになった。複数の経済連携協定を束ねるほか、米国との二国間交渉にも備える。日米首脳会談でトランプ大統領の姿勢を見極め、通商戦略の練り直しを急ぐ。
新組織は、内閣官房にあるTPP対策本部を改組する方向。萩生田光一官房副長官は25日の記者会見で「日本側は(TPPの)国内手続きをすでに完了した。他の自由貿易に向けて様々な対応をしていかなければならない」と語った。
政府はなお、トランプ米政権に対してTPPの意義を粘り強く訴える方針だが、早期の翻意は難しいとみており、TPPに代わる成長戦略の新しい柱が必要となっている。
安倍晋三首相は25日の参院代表質問で「TPPに結実した新たなルールは今後の通商交渉のモデルとなる」と述べ、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の早期合意をめざす考えを示した。現在は貿易ルールを経済産業省が、農産物の関税は農林水産省が担当するが、新組織の主導で早期の妥結をめざす。
中国やインドなど16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)の交渉も加速させる。二国間交渉を掲げるトランプ氏を牽制(けんせい)する狙いも透ける。
一方、2月上旬以降の開催で調整中の日米首脳会談では、トランプ氏から二国間の自由貿易協定を持ちかけられる可能性がある。
萩生田氏は「ただちに(トランプ氏がやり玉に挙げた)自動車だけの二国間交渉ということにはならない」と語るが、「交渉自体を断ることは難しい」(首相官邸幹部)との声もある。日米貿易摩擦の再来を避けるため米国と良好な関係を保ちつつ、多国間貿易の重要性を伝える役割を新組織は求められそうだ。先行きが見通せぬ中、通商政策に携わる政府関係者はこう話す。「いずれにしても、日米首脳会談が終わってからだ」(南日慶子、古賀大己)
(10) ドル高の是正を要請 フォードCEO、トランプ氏に
米自動車大手フォード・モーターのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は24日、ホワイトハウスでのトランプ米大統領との会談後、記者団に「すべての貿易障壁の根源は為替操作にあると繰り返し伝えた」と話し、ドル高の是正を要請したことを明らかにした。トランプ氏が離脱を決めた環太平洋経済連携協定(TPP)については「為替の問題に対応できていない。悪い貿易協定からの離脱を決めた勇気に感謝したい」と歓迎した。
トランプ氏はこの日、米自動車大手「ビッグ3」の首脳らを招いて会談。トランプ氏は「必要のない規制を取りはらう」と話し、米国に新しい工場を作るよう訴えた。トランプ氏は就任後に大手企業首脳らと精力的に会談、最重要課題の米国での雇用創出への取り組みをアピールしている。
参加したのは、フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、フィアット・クライスラー・オートモービルズのトップら。トランプ氏は、この日誕生日を迎えたフォードのフィールズ氏に「おめでとう」と声をかけるなど、和やかな雰囲気で始まった。日本の自動車メーカーは招かれなかった。 (ワシントン=五十嵐大介)
(11) トヨタ、対トランプ苦慮 米工場に680億円の投資表明
"image":[ {"@type": "ImageObject","url": "https://www.asahicom.jp/articles/images/AS20170126000301_comm.jpg","width": 640,"height": 387,"description":"トヨタ自動車の米国生産は近年、高い水準が続く "}],
日本の自動車メーカーが、「米国第一主義」を掲げる米トランプ政権への対応に苦慮している。トヨタ自動車は25日、米国の主力工場の能力増強を発表。競合他社も警戒感を強めている。▼1面参照
「計画はもともと決まっていたもの。政権がどこであろうが、持続可能な経営をするために必要だと判断した」。トヨタ幹部は25日朝、米国での新たな投資について、淡々と語った。
その数時間前、日本の自動車貿易への批判を強めるトランプ大統領に呼応するように、トヨタはインディアナ州にある工場への投資計画を発表した。年産40万台の工場に6億ドル(約680億円)を投資。中型スポーツ用多目的車(SUV)の生産能力を2019年秋までに4万台分引き上げる。5千人いる従業員も400人増やす。年始に表明した米国への100億ドル(約1・1兆円)の投資計画の一部という。
トヨタの米国生産台数は近年、高水準で推移しているが、トランプ氏はお構いなしに批判を強める。米国はトヨタ車の3割を売る地域であり、トヨタは摩擦回避に懸命だ。インディアナ州はペンス副大統領のおひざ元。今回の計画は新政権へのメッセージでもある。
SBI証券の遠藤功治氏は「企業が、当初から決まっていたこと以上の投資計画を打ち出すのは難しい。できることでアピールするしかないが、どこまでトランプ氏に通じるのかが見通せない」と話す。(山本知弘)
■効果不明、他社も困惑
日本メーカーの間では、これまで米企業に限っていたトランプ氏への「アピール合戦」にトヨタ自動車も加わったとの見方が広がった。ただ、こうした「米雇用への貢献」を披露しても、トランプ氏の日本車に対する警戒感を和らげる役に立つのかは見通せない。
米新車市場は好調で、日本勢にとって「新たな投資はしっかりやっていく」(ホンダの八郷隆弘社長)局面だ。ただ、北米自由貿易協定(NAFTA)の行方次第では、メキシコからの安価な車や部品の供給が滞る結果、高値になる米国産車はつくっても売れない状況になりかねない。雇用を生むはずの米国工場の新設には踏み込みづらくなる。
ある自動車大手幹部は「1社だけが『かわいいやつ』と認めてもらえばトランプ氏の政策が変わるものではない。(米国での)計画見直しは、NAFTAや税制の見直しでコストがどう変わるか見通せるようになった時だ」と話した。(青山直篤)
(12) (トランプの時代)移民拒む「トランプの壁」 公約実現、効果は不透明
国境に壁を造る。不法移民を追い出す――。トランプ米大統領が選挙中に訴えてきた「分断」を象徴する政策に踏み出す。テロ対策や不法移民対策という名のもとに、排外主義的な政策を実施する大統領令を25日から連発する構えだ。実行力をアピールする狙いだが、国内外から反発が起きるのは必至だ。▼1面参照
「国境を取り戻す。富を取り戻す」。トランプ大統領は20日の就任演説で、こう強調した。
大統領選の時から、メキシコ国境での壁建設を、不法移民がもたらす犯罪を減らし、奪われた雇用も取り戻す切り札と訴えて、支持者を熱狂させてきた。
ただ、壁建設は実行力を誇示する象徴にはなるが、本来主張した不法移民対策や、雇用を増やす効果をもたらすかは疑わしい。
ロイター通信によると、米当局が試算した壁の建設費用は、113億ドル(約1兆2800億円)を超える。これに毎年の維持費も加わり、巨額の費用が投じられることになる。
今月11日の記者会見でトランプ氏は、メキシコとの費用負担の交渉が1年半かかるとし、「私は待てない」と米国の予算で壁建設に取りかかることを宣言した。その上で、メキシコに費用を弁済させると強調したが、メキシコが支払いに応じる見通しが立っているわけではない。
一方、トランプ氏はテロ対策として、イスラム教徒の一時入国禁止も打ち出していた。今月15日の英紙などのインタビューでは、難民受け入れを進めてきたドイツのメルケル首相を「壊滅的な過ちを犯した」と批判、移民や難民をテロの温床と結びつける考えを隠さなかった。
しかし、実際に欧米で起きているテロは、中東などからの移民ではなく、国内で生まれ育った「ホームグロウンテロリスト」による犯行が多い。その脅威への対策が重要になっている。
ワシントン・ポスト紙によると、一連の排外主義的な政策に関する大統領令には、人種差別的な記事を多く掲載するニュースサイトの会長を務めていたスティーブン・バノン大統領上級顧問兼首席戦略官が深く関与しているという。
このため、国内のイスラム教徒やヒスパニック系住民から反発が予想される。全米に支部を持つ人権団体「米イスラム関係委員会」(CAIR)は24日、「大統領令は、イスラム教徒の米国への入国を完全に禁止することになる」と懸念を表明した。(ワシントン=杉山正)
■メキシコ 費用負担、一切応ぜず
「米国がメキシコに壁の建設費を支払わせようとしたり、メキシコ移民の送金をやめさせようとしたりすれば、我々は話し合いの席を立つ」。メキシコのグアハルド経済相は24日朝、地元テレビのインタビューでそう力を込めた。
グアハルド氏はビデガライ外相と25~26日にワシントンでトランプ政権の閣僚と会談する。31日に予定されるトランプ、ペニャニエト両大統領の首脳会談に向けて、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉や国境の壁建設問題、不法移民政策などについて、環境整備を行う見通しだ。
グアハルド氏は「米国が壁をつくるのをやめさせることはできない」と語る一方、「絶対に引き下がれない一線が明確にある」と強調。トランプ氏が求める壁の建設費支払いに一切応じない姿勢を鮮明にした。
ところが、この発言後、トランプ氏による大統領令の署名が、グアハルド氏らの訪米に合わせて行われることが分かった。メキシコ側にとっては手痛い先制パンチを受ける形となった。
ペニャニエト氏は23日に発表した外交方針で「米国に対立も服従もしない。解決策は対話と交渉だ」と語り、「国境が、我々を分断するのではなく、つなぎ合わせるように努力しよう」と訴えた。
ただ、メキシコ国民はトランプ氏の言動に強い怒りを感じており、メキシコ政府が弱腰な態度を見せれば、批判の矛先は政府に向かいかねない。トランプ氏が「攻撃」の手を緩めないなか、ペニャニエト氏は難しい対応を迫られそうだ。(レオン〈メキシコ中部〉=田村剛)
■中東・アフリカ 対テロ名目、反発必至
中東・アフリカ7カ国からの入国制限について、7カ国の政府から声明などは出ていない。中東の衛星テレビ・アルジャジーラ(電子版)はAP通信を引用してトランプ政権の方針を伝える一方、「この政策では米国が安全にならない」とする在米イスラム教徒団体幹部の意見を伝えた。
7カ国のうちシリア、イラク、リビア、ソマリア、イエメンは過激派の活動が活発で内戦や紛争状態にある。「イスラム国」(IS)はシリアとイラクに支配領域があり、米欧で無差別テロを拡散する戦略を公言している。リビアではISが台頭。ソマリアとイエメンではアルカイダ系組織のテロが多発する。
残る2カ国のうちスーダンは、1990年代にアルカイダ指導者オサマ・ビンラディン容疑者が拠点とした。今でも戦闘員の訓練キャンプがあるとされる。
そしてイラン。国情は安定しているが、周辺国の民兵組織などを支援しているとされ、米国は「テロ支援国家」に指定する。
一方、過激派に共鳴した若者たちが数百~数千人規模でISなどに加わるサウジアラビア、エジプト、ヨルダン、チュニジアは対象外だ。この4カ国は「親米政権」という点でも共通する。専門家は「トランプ政権はこれらの国と対テロ戦で協力するだろう」と指摘する。
ただ、入国制限が、イスラム教徒に対する差別と受け止められる可能性はある。イランのソーシャルメディアでは「選挙戦で言っていた『イスラム教徒の入国禁止』を本当に始めた」と非難の声が上がった。(カイロ=翁長忠雄、テヘラン=神田大介)
(13) (論壇時評)社会の分断 他者思う大人(たいじん)はどこに 歴史社会学者・小熊英二
「私には仕事が必要だ。私の子供は大学に行く必要がある。トランプ氏はそれを約束してくれている。おそらく彼は、その人種差別的で性差別的な政策をやり通さないだろう」
米大統領選で注目されたサンダース上院議員は、有権者の真意をこう推定している〈1〉。実際に社会学者のマイク・デイヴィスによれば、トランプ投票者の2割は、トランプ個人に対しては否定的な態度をとっていたという〈2〉。
ここに見られるのは一種の悪循環だ。社会の分断が政治への不満を生み、政治を変革したいという願望が結果的に差別的な権威主義を呼び込み、さらに社会の分断を強化してしまう。ロベルト・ステファン・フォアとヤシャ・モンクは、先進諸国で「民主主義への支持」や政治への関心が低下し、権威主義への支持が増えていることを指摘している〈3〉。
日本ではどうだろう。サンダースが言うように、子供を大学に行かせられるかは収入の一つの基準である。後藤道夫の推計では、大都市部で子供2人を大学に行かせた場合、年収600万円では、税金・保険料・教育費を除いた生活費が生活保護基準を下回ってしまう〈4〉。
では、所得が600万円以下の人は何割なのか。国税庁の民間給与実態統計調査(2016年〈5〉によれば、15年の給与所得者4794万人のうち、600万円を上回るのは18%。男性の給与所得者では28%である。この数字だけから単純には言えないが、上位2割程度の所得がないと、子供2人を大学に行かせるのは苦しいといえそうだ。
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では日本でも、上位1%に富が集中しているのか。森口千晶とエマニュエル・サエズは異なる見解を示している。それによると、1990年代以降の日本で全体に占める所得のシェアが伸びているのは、上位1%ではなく上位10%の下半分、つまり上位5%から10%の部分だ。そして2012年の所得上位5%から10%とは、年収約750万円から580万円の人々だという〈6〉。なお同年の上位1%は年収1270万円だった。
ただし森口らがいう上位10%は、無所得者を含む20歳以上の成人全ての中の10%である。これは前述したように、給与所得者では上位2割に相当する。
大ざっぱに言えば、以下のように考えられる。日本社会は、全体に低所得化している。そのなかで、大企業正社員クラスにあたる年収600万円以上の層が、上位10%として相対的に浮上している。しかしこの層も、長時間労働にあえぎ、教育費がかさめば生活は苦しい。結果として、社会の全ての領域で、大部分の人々が余裕を失っているのだ。
そして余裕がなくなればなくなるほど、事態を直視するのが難しくなる。自分の貧困も、他人の貧困も、「努力不足」「自己責任」と考えがちになる。それは、社会の分断を強化し、自分の余裕を失わせる。これでは悪循環だ。
こうした状況をどう打破していくか。湯浅誠と阿部彩の対談〈7〉は、こうした悪循環から抜けだす可能性の一端を示してくれている。
この対談は「子どもの貧困」特集の一環として行われたものだが、他の多くの問題にも触れている。なぜなら「子どもの貧困」は、「親の貧困」や「地域の貧困」が、別の形で表面化したものに他ならないからだ。さらにそこには、教育機関や行政機関などの、予算や知識や意欲の「貧困」も関わってくる。
そうである以上、個々の子供に対する食事支援や教育支援だけで、問題を解決できるわけではない。にもかかわらず湯浅や阿部がこの問題を重視する理由は、「子どもの貧困」は「本人の努力が足りないからだ」という自己責任論から免れているからだという。そのため、多くの人に理解を得やすいだけでなく、活動を促す契機になるというのだ。
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「大人(たいじん)」とは、社会の責任を負い、他者を助けるだけの余裕がある人のことだ。それに対し「小人(しょうじん)」は、自分のことで精一杯(せいいっぱい)の人を指す。そして「大人」であるか否かは、資産や才覚の有無だけでは決まらない。巨万の富があるのに他者も社会も顧みない「小人」はいる。だが「子どもの貧困」の前では、誰もが「大人」の役割を引き受けざるを得ない。そして、他者と社会を直視する余裕を、ひねりだす努力をするようになる。
児童に食事を無償提供する「こども食堂」について阿部はこう述べる。講演で貧困問題の統計や国際比較を語ると「会場に絶望感が漂う」。だが「こども食堂」の事例を話すと「これなら私でもできるかもしれない」と人が動きだす。そのとき人は「大人」になるのだ。
もちろん湯浅も阿部も、現実の厳しさは承知している。とくに彼らが懸念するのは、政治の危機につながる社会の分断が日本でも生じつつあることだ。だがだからこそ彼らは、地域活動を通じて「状況も意見も違う人たちが同じ問題について考えられるような土台」を築く意義を強調する。そうした土台がないまま、政治のリーダーシップを期待しても、権威主義しか生み出さないからだ。
サンダースは政治の役割について、こう述べている〈1〉。「私のリーダーシップがなんでももたらすかのような話がありますよ。しかしね、それは人々を結びつけるという意味なんです」。人が他者を思い、結びつくこと。そこからしか、政治と民主主義の再生も始まらない。
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〈1〉エマ・ブロックス「バーニー・サンダース、スパイク・リーに会う」(現代思想1月号)
〈2〉マイク・デイヴィス「革命はこれからだ」(同)
〈3〉ロベルト・ステファン・フォア、ヤシャ・モンク「民主主義の脱定着へ向けた危険」(世界2月号)
〈4〉後藤道夫「『下流化』の諸相と社会保障制度のキマ」(POSSE・30号、16年)
〈5〉国税庁「民間給与実態統計調査」(2015年分、http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2015/pdf/001.pdf別ウインドウで開きます)
〈6〉森口千晶・大竹文雄 対談「なぜ日本で格差をめぐる議論が盛り上がるのか」(中央公論15年4月号)
〈7〉湯浅誠・阿部彩 対談「子どもの貧困問題のゆくえ」(世界2月号)
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おぐま・えいじ 1962年生まれ。慶応大学教授。近刊に高賛侑・高秀美との共編著『在日二世の記憶』(集英社新書)。
「論壇時評」一覧
(論壇時評)社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二(2017/01/26)
(論壇時評)脱ポピュリズム 「昭和の社会」と決別を 歴史社会学者・小熊英二(2016/12/22)
(論壇時評)トランプ現象 合意より分断、悪循環生む 歴史社会学者・小熊英二(2016/11/24)
(論壇時評)世襲化と格差 社会のビジョンはあるか 歴史社会学者・小熊英二(2016/10/27)
(論壇時評)テロ対策 「宗教」決めつけの落とし穴 歴史社会学者・小熊英二(2016/09/29)
(論壇時評)天皇と「公務」 「お言葉」を受け、考える 歴史社会学者・小熊英二(2016/08/25)
(論壇時評)メディアの萎縮 「まずい」報道、連帯で脱せ 歴史社会学者・小熊英二(2016/07/28)
(論壇時評)21世紀型選挙へ 人との対話が「回路」ひらく 歴史社会学者・小熊英二(2016/06/30)
(論壇時評)二つの国民 所属なき人、見えているか 歴史社会学者・小熊英二(2016/05/26)
(論壇時評)日本の非効率 「うさぎ跳び」から卒業を 歴史社会学者・小熊英二(2016/04/28)
その他のオピニオン面掲載記事
(論壇時評)社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二
(あすを探る 政治)野党共闘、問われる本気度 中北浩爾
論壇委員が選ぶ今月の3点
(担当記者が選ぶ注目の論点)ポピュリズムと排除の論理
論壇委員会から
(14) (あすを探る 政治)野党共闘、問われる本気度 中北浩爾
次の総選挙に向けた野党共闘が難航している。候補者調整に手間取っているだけではない。共産党が相互推薦・支援を求めているのに対して、民進党が最大の支持団体である連合の反対などを背景に否定的な態度をとっているためである。
野党は昨年の参院選で候補者調整に成功し、1人区で32議席中11を得た。2013年が2勝29敗であったから、大きな成果を上げたといってよい。今年中とも予想される次期総選挙でも、何らかの協力なしに野党が小選挙区で議席を伸ばすことは難しいであろう。
この問題が重要なのは、1994年の政治改革が衆議院の小選挙区制の導入を通じて目指した「政権交代ある民主主義」が、日本で定着するか否かに関わるからである。
しかし、楽観的にはなれない。なぜなら、仮に野党共闘ができたとしても大きな限界があるからだ。自民・公明と民進・共産の間には、著しい非対称性が存在している。
非対称性の一つは、協力関係の深さの違いである。自民党の小選挙区の候補者が「比例は公明」と呼びかけるなど、自民・公明は票の相互融通まで行っている。それに対して民進・共産は当面、選挙区の棲(す)み分けにとどまるしかない。
自民・公明は選挙協力に加えて連立を組み、安定した政権運営を長期間続けている。だが、民進・共産は外交・安全保障政策などで違いが大きい。共産党が過度に反米的で反大企業的な綱領の改訂を含む大胆な路線転換に踏み切らない限り、民進党との政権合意は不可能だ。
もう一つの非対称性は、固定票の大きさの違いである。自民党は下野した09年の総選挙の比例代表でも、1881万票を獲得している。それに対して民進党の前身の民主党は、政権を失った12年の総選挙の比例代表で、963万票にとどまった。投票率の違いなども影響しているが、2倍近い票差が存在する。
こうした地力の差は、地方議会の構成に端的に表れている。例えば都道府県議会で、自民党は50%前後の議席率を安定的に確保しているが、民主党・民進党は15%程度に過ぎない。個人後援会を通じて地域の人的ネットワークを組織化し、数多くの友好団体を擁する自民党の支持基盤は、依然として分厚い。
集票力の違いは、公明・共産両党の間にも存在する。最近の国政選挙をみると、公明党が比例代表で共産党のおよそ1・5倍の票を獲得している。また、公明党の方が得票数の変動幅が小さく、票の固さでも優位に立つ。
したがって、野党共闘は当面の選挙対策になったとしても、政権交代を直ちに導くものにはなり得ない。民進・共産は固定票が相対的に少ない以上、無党派層の票を大量に獲得する必要がある。そればかりか、民進党は政策距離が大きい共産党と共闘することで、かえって政権から遠ざかる危険すら招きかねない。
茨(いばら)の道だとしても、民進党は野党第1党である限り「政権交代ある民主主義」を定着させる責任を負っている。政権交代に向け無党派層にアピールする政策を打ち出す一方、解散風が一時的に止(や)んでいる今こそ、共産党に対して路線転換を積極的に働きかけるべきではないか。
共産党も本気で自公政権を倒したいのなら、「野党共闘に独自の立場を持ち込まない」という小手先の柔軟対応に終始せず、路線転換にまで踏み込まなければならない。「政権交代ある民主主義」に向けた新たな扉を日本政治が開けるか。それは共産党の覚悟にかかっている。
有権者に政権選択の機会が与えられないような小選挙区制は、民意とかけ離れた過大な議席を最大政党に与えるだけの最悪の選挙制度である。もしも野党が政権交代への道筋を見出(みいだ)し得ないのであれば、小選挙区制の見直しを含む、新たな政治改革を提起するしかない。
(なかきた・こうじ 1968年生まれ。一橋大教授・政治学。『自民党政治の変容』など)
(15) (担当記者が選ぶ注目の論点)ポピュリズムと排除の論理
ポピュリズムの隆盛から天皇退位問題まで難問に挑む論考が目を引いた。
A・K・テイラーらの「民主主義はいかに解体されていくか」(フォーリン・アフェアーズ・リポート1月号)はロシアのプーチン氏らポスト冷戦期のポピュリストの下では強権支配がゆっくりと確立するため対抗が難しいと指摘。彼らは、権力中枢に忠誠を尽くす人材を配し、「検閲システムの導入」でメディアの力を弱めるという。
現代のポピュリズムは「リベラル」や「デモクラシー」といった基本的価値を承認し、むしろ援用することでイスラムなどを排除する論理を正当化する、と水島治郎は『ポピュリズムとは何か』(中公新書)で指摘した。
天皇退位をめぐっては、天皇が電話で「ずいぶん前から考えていた」「譲位は何度もあったことで、僕がいま、そういうことを言ったとしても、何もびっくりする話ではない」と語った、と学習院時代の同級生・明石元紹が「『生前退位』有識者会議に異議あり」(文芸春秋2月号)で報告。政府について、専門家の意見を聴取したものの、「方針は初めから決まっていたのではないか」と厳しく批判する。
法学セミナー2月号では、憲法学者による「座談会 憲法から天皇の生前退位を考える(上)」で、横田耕一が「天皇という世襲の制度自体が、日本国民が主体的に何かをやっていく上において、悪い影響を与えている」と指摘。西村裕一は拡大した天皇の公的行為について「どう統制するかということも考えないといけない」と述べた。
原発問題では、地道な調査報道が光る。週刊東洋経済の8回の連載「原発最後の選択」が完結(1月21日号)。世界2月号も、連載「解題『吉田調書』」の第1部14回の終了を受けて、添田孝史、海渡雄一の「原発事故はどこまで究明されたか」を掲載した。
(16) (新横綱・稀勢がゆく)「磨いた力信じてやる」 横綱昇進で誓い 大相撲
72代横綱稀勢の里(30)=本名・萩原寛(ゆたか)、茨城県牛久市出身、田子ノ浦部屋=が25日、誕生した。日本相撲協会が番付編成会議と臨時理事会を開き、横綱昇進を正式に決めた。日本出身の横綱誕生は1998年夏場所で昇進した66代の若乃花以来、19年ぶり。▼社会面=ニュースQ3
昇進伝達式は通常、部屋で開かれるが、注目が大きく田子ノ浦部屋に報道陣が収まりきらないことから、東京・帝国ホテルで開かれた。100人超の報道陣を前に、相撲協会から派遣された伝達の使者を迎えた稀勢の里は、「謹んでお受けいたします。横綱の名に恥じぬよう、精進いたします」と、四字熟語は使わずシンプルな口上を述べた。
稀勢の里は初場所で14勝1敗の成績で初優勝。昨年、年間最多勝を獲得するなど、安定して好成績を残した点も評価された。入門時の師匠(元横綱隆の里)と同じ30歳での昇進。記者会見では「前に出る力は、15歳で(角界に)入ってから(先代師匠に)言われ続け、磨き続けてここまで上がってきた。これからもそれを信じてやるしかない」と決意を述べた。
土俵入りは「雲竜型」を選び、26日から稽古を始める。27日には東京・明治神宮で横綱推挙状授与式と初の奉納土俵入りに臨む。太刀持ちは弟弟子の高安、露払いは同じ二所ノ関一門の松鳳山が務める予定だ。新横綱として迎える春場所(エディオンアリーナ大阪)は、3月12日に初日を迎える。
■もう「もろさ」はいらない
新横綱は強さともろさが混在する。強さを支えるのが左おっつけ。もろさの要因が腰高と脇の甘さ。「それが稀勢」と言われたが、今後はそれでは厳しい。解決策は立ち合いにある。
稀勢の里は今、仕切ってから左足から出る時と右足の時がある。前者は初めからおっつけに行く場合で、相手の右を絞り上げるために脇が締まり、重心が低くなる。こうなれば、その後に押しても、左を差しても腰が据わり、危なげない。
一方、四つで捕まえにいくのが後者。左差し、右上手を取ってもひじが浮いて上体が高い場合がある。土俵際でもたつき、逆転を食うのはほとんどこちら。安全に行こうとして逆に相手に隙を与えている。
今後、白鵬らモンゴル3横綱に対抗するには、取りこぼしを避けたい。ファンを冷や冷やさせないためにも、長所のおっつけを立ち合いから生かすように、踏み込みは左足からに徹底すべきではないか。
ここまで足踏みした。しかし、「地位は人を作る」という。稀勢の里はこれから大関時代以上の努力を続けるだろう。若い力士らの手本となり、愛される「横綱」になるには、もうもろさはいらない。一考願いたい。(竹園隆浩)
■会見での主な発言
▽横綱昇進について
「(昇進に)あと1番足りない場所が続き、目の前で優勝が決まるのも何番も見た。悔しかった。我慢してやってきてよかった」
▽伝達式の口上
「自分一人で考え、今の気持ちをそのまま伝えた」
▽入門からの15年
「いい経験をたくさんさせてもらい、だめな時でも声をかけ、助けてくれる人がいた。感謝しかない」
▽目指す横綱像
「稽古場でも、普段の生き方も、常に人に見られている。人間的にも成長して、尊敬されるように。常に優勝争いに加わりたいし、目標は優勝。そして、若い力士を引っ張り上げないといけない立場でもある」
▽自身の長所
「相撲は評価できない。15歳で入門してから、前に出る力は常に言われ続け、鍛えてきた。それを信じてやるしかない」