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折々の記 2017 ②
【心に浮かぶよしなしごと】
【 01 】01/25~
【 02 】01/25~
【 03 】01/26~
【 04 】01/27~
【 05 】01/27~
【 06 】01/27~
【 07 】00/00~
【 08 】01/27~
【 09 】00/00~
【 01 】01/27~
【 02 】01/28~
【 03 】01/30~
【 04 】01/31~
【 05 】02/01~
【 06 】02/01~
【 07 】02/02~
【 08 】02/03~
【 09 】02/05~
【 02 】01/28
01 28 27日のニュース
(1) 米、貿易交渉「二国間で」 トランプ氏、TPP参加国と
(2) (トランプの時代)首脳会談、日本「取引」警戒 貿易・安保
(3) 大統領令の連発、日米株高を誘発 期待先行、警戒感も
(4) 国境に壁、メキシコ反発 米大統領令署名
(5) 水責め、尋問に「効果的」 トランプ氏、復活示唆
01 28 28日のニュース
(1) トランプ大統領、プーチン氏と電話会談へ 独仏首脳とも
(2) (天声人語)吉宗の爪のあか
(3) (トランプの時代)「自分第一」強権連発
(4) (いちからわかる!)どんどん出している大統領令って何?
(5) (社説)米の強圧外交 おごりが目に余る
01 30 29日のニュース
(1) 日米同盟の重要性確認 両首脳が電話会談 来月10日会談合意
(2) 日米首脳、40分協議 経済や安保、電話会談
<(3) トランプ氏会談、英ロ独仏首脳とも
(4) (トランプの時代)米英「特別な関係」強調 「自国第一」同士、二国間貿易訴え
(5) 難民受け入れ、扉閉ざす米 120日停止の大統領令
(6) (日曜に想う)「駆けつける」よりも 編集委員・大野博人
(7) (政治断簡)日本は誰の国なのか 編集委員・松下秀雄
(8) 拘束・搭乗拒否相次ぐ 中東・アフリカ国民、米大統領令受け
(9) 「移民の国、誇るべきだ」 ザッカーバーグ氏、米大統領令に懸念
(10) 米英、隠しきれぬ違い 会見、ぎこちなさも 首脳会談
(11) <考論>ジェイコブ・キルケゴール氏、ライアン・ボーン氏に聞く 米英首脳会談
(12) 英・トルコ、貿易関係強化へ 対テロでの協力も協議 首脳会談
(13) 大統領ツイート「米国側も驚き」 メキシコ経済相
(14) (社説)米政権と報道 事実軽視の危うい政治
(15) (戦後の原点)経済の民主化 誰がための企業、労使探る
(16) 軍事研究、「学問の自由」が焦点 学術会議検討委が中間まとめ、4月に結論
(1) 米、貿易交渉「二国間で」 トランプ氏、TPP参加国と
トランプ米大統領は26日(日本時間27日)にも、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する大半の国と「二国間」で貿易交渉を始めるための議会通告に署名する。AP通信が報じた。2月10日の開催で最終調整している日米首脳会談で、「米国第一」の交渉を求めるのは確実。TPPへの理解を求めていく姿勢だった安倍晋三首相も二国間交渉を排除しない考えを示した。▼2面=日本は警戒、3面=市場は期待先行、11面=壁建設に反発
■メキシコを牽制、会談中止も
トランプ氏は26日朝、自身のツイッターで「米国はメキシコに対して600億ドル(約7兆円)の貿易赤字がある。北米自由貿易協定(NAFTA)による一方的な協定で膨大な数の雇用と企業を失った。メキシコが壁の費用を払いたくなければ、今度の会談を取りやめた方がいい」と述べた。
国境の壁の建設費用と貿易赤字を「取引(ディール)」の材料に仕立て、31日に予定するメキシコのペニャニエト大統領との首脳会談の中止をちらつかせて牽制(けんせい)した。
トランプ氏は、日本との自動車貿易について「公平ではなく、話し合わなければならない」と批判し、日米の二国間協議を始める意向を示している。日本に対しても、米国の国益を最優先する「米国第一」の路線に沿って、厳しい内容の取引を突きつけてきそうだ。
安倍政権はトランプ大統領との日米首脳会談を10日に行うよう米側に打診。安倍首相は26日の衆院予算委員会で「現在、最終調整を行っている」と説明した。「お互いの関心事項について率直に意見交換をしたい」と語り、トランプ氏の真意を確認する考えだ。
首相は答弁で「TPPが持つ戦略的、経済的意義についても腰を据えてトランプ政権に働きかけをしていく」と強調する一方、トランプ氏が二国間の貿易協定の交渉を重視していることに関し、「TPPの働きかけを行っていれば、FTA(自由貿易協定)は全くできないことはない」と話し、交渉を拒否しない考えを示した。
さらに「日米間において、どのような経済連携の関係が良いのか、しっかりと見据えながら議論をしていきたい。もしそうした形になったとしても、守るべきものは当然守っていかなければいけない。二国間交渉についても、しっかりと交渉していきたい」などと述べ、交渉に応じる可能性にまで言及した。(石松恒、ワシントン=五十嵐大介)
(2) (トランプの時代)首脳会談、日本「取引」警戒 貿易・安保
【写真・図版】日米関係をめぐる安倍首相とトランプ大統領の発言
安倍晋三首相とトランプ米大統領による初の首脳会談が、2月10日の開催で最終調整されている。首相は自由貿易や日米同盟の重要性を説く考えだが、大統領は通商交渉や米軍駐留費の負担増を求める可能性もある。メキシコ国境の壁の費用負担と首脳会談の取りやめをセットにするなど「取引(ディール)外交」を進めるトランプ氏に、日本側の警戒感は強い。▼1面参照
■<貿易>TPP離脱、「二国間」を要求 首相、日米交渉否定せず
大統領就任早々に環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決めたトランプ氏に、日本政府はどう対応するのか。26日の衆院予算委員会で問われた首相は、これまで以上に踏み込んだ。
TPPの意義を「腰を据えて米側に働きかける」と従来の意思を示しつつ、「米国がTPPを承認するということに短い期間で変化することは難しい」と言及。「日米間でどのような経済連携の関係がよいかも議論していきたい。二国間の交渉についても、しっかり交渉していきたい」と米国との通商交渉に応じる可能性にも触れた。
答弁が変わった理由は、自国に有利な二国間交渉にこだわるトランプ氏の姿勢が鮮明となり、あくまで「説得を続ける」と繰り返すだけでは持たなくなった事情もありそうだ。
TPPの「永久離脱」を決めた大統領令で「個別の国と、直接一対一で将来の貿易交渉を進める」と宣言したトランプ氏だけに、首脳会談で二国間の通商交渉入りに同意を迫る可能性もある。官邸幹部は「バイ(二国間)で何をやろうかと言われ、首脳レベルで『持ち帰る』なんて言えない」と身構える。
このため、政府はすでに内閣官房にあるTPP政府対策本部を改組して日米交渉に備える体制づくりの検討に入った。別の官邸幹部は「あらゆるケースを含めていろいろと考えている」と話す。
だが、貿易自由化を前提に参加12カ国で利害を調整したTPPに比べ、米国との一対一の交渉ははるかに厳しい要求を突きつけられる。とりわけトランプ氏は日本との自動車貿易を「不公平だ」とやり玉に挙げる。内閣官房幹部は「自動車の輸出を『自主規制しろ』と言ってくることはあるだろう」と心配する。
日本は1978年に自動車関税を撤廃した。ただ、米国は近年のTPP交渉で、日本が輸入車に義務づける安全基準が「非関税障壁」だと主張。米国の安全基準を満たしていれば輸入するよう要求してきた。
この時は日本側の反発で断念したが、代わりに日本車の輸入が急増したら米国が自動車関税を引き上げられる仕組みの導入をのませた。経済産業省幹部は「交渉の入り口で、厳しい要求を突きつけてくる可能性はある」と警戒する。
本格的な交渉になれば、TPPで大幅な関税引き下げで合意していた牛肉や豚肉などの農産品の関税撤廃も求められる恐れがある。「TPP以上の譲歩なんてできるわけがない」と農林水産省幹部はいう。
貿易交渉を担う米通商代表部(USTR)は毎年、「外国貿易障壁報告書」を発表。昨年3月に公表された報告書で、日本については日本郵政の業務を拡大しないように求めたり、金融業界の規制を問題視したりしている。農業分野の開放も含めて以前から変わらない指摘だが、こうした米国側にくすぶる対日要求はトランプ新政権で一気に強まる可能性がある。(高木真也、野口陽)
■<安保>米軍駐留経費、負担増を示唆 同盟、就任後は語られず
「トランプ氏は安全保障には疎く、通商政策ほどのこだわりはない。専門家たちの意見に従うのでは」(防衛省幹部)。迫る日米首脳会談を前に、日本政府内には、米新政権がアジアの同盟国を重視する従来の姿勢を大きく変えることはないとの期待もある。
その「根拠」として挙げられるのが、マティス国防長官の日本、韓国訪問だ。稲田朋美防衛相は26日の衆院予算委員会で、マティス氏と2月3、4両日に東京で会談する予定だと明かし、「早い段階でマティス氏が我が国を含むアジアを訪問することは、アジア太平洋地域における米国の関心の高さを示すものだ」と歓迎した。
日本政府としては、オバマ前政権に引き続きトランプ新政権とも、尖閣諸島が日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることを再確認するなど、日米安保体制の継続性を担保したい考えだ。
マティス氏は日米同盟重視の立場で、国務長官に指名されたティラーソン氏は尖閣諸島が5条の適用対象だと明言している。だが、トランプ氏は大統領就任後、日米同盟についての考えを表明していない。外務省幹部は「閣僚の意見がトランプ氏の政策に反映されるのか現段階では分からない」と指摘。首相官邸幹部も「安全保障について悠長にしていられない」と話す。
トランプ氏が大統領選で在日米軍駐留経費をめぐる日本側の負担増などを示唆したことから、日本政府には「駐留経費をはじめ防衛費全体の増額を要求してくるだろう」(防衛省幹部)との声もある。
トランプ氏の通商政策や外交・安全保障政策をめぐる過激な言動は、大統領への正式就任を機に変化するだろう――。トランプ氏の当選直後、日本政府にあったこんな楽観論はいまや消えつつある。
首相はこの日の衆院予算委で、日米首脳会談での議題について問われるたびに「現時点で米国の方針を予断することは差し控えたい」と繰り返した。外務省幹部は「大きな方向性を話し合い、その結果に基づいて両国が動き出す。そのためにも早く首脳会談をやる必要がある」と指摘する。
首相は予算委で、訪米には麻生太郎副総理兼財務相を同行させることを明らかにし、「ペンス副大統領と麻生副総理との関係も構築していきたい」と述べた。安倍政権を前面で担うツートップで日米関係を重視する姿勢を示し、重層的な信頼関係を築く狙いだ。
ただ、首脳会談の展開は見通せない面もある。政権幹部は語る。「トランプ氏がどういうやり方で出てくるのか、まずは見ないといけない」(園田耕司、小野甲太郎)
(3) 大統領令の連発、日米株高を誘発 期待先行、警戒感も
ニューヨーク株式市場で25日、ダウ工業株平均の終値が初めて2万ドルの大台を超えた。26日の東京株式市場も全面高となった。トランプ米大統領の経済政策への期待感が再び強まり、「トランプ相場第2幕」との声もあるが、期待先行への警戒感も強い。▼1面参照
「投資家が、新政権の動きを都合の良い方に解釈したがっている」。2万ドルの節目を超えた理由を、米国の経済専門家はテレビ番組でこう解説した。
トランプ氏は25日、不法移民対策でメキシコ国境に壁を造ることを命じる大統領令に署名。保護主義の広がりと警戒されるが、市場は逆に「インフラ投資が拡大する」と好感した。就任後に連発する大統領令は内向きな通商政策などを加速させる道具にもなるが、投資家は「トランプ氏には実行力が備わっている」と前向きにとらえた。
この流れを受け、26日の東京株式市場も日経平均株価が1万9400円台をつけた。東京証券取引所第1部の銘柄の8割が上昇。同日のダウ平均も、2万ドル超の水準で取引が始まった。
トランプ氏の大統領選勝利後、日経平均は一時2万円に迫っ
た。しかし、直近の株価は1万9000円をはさんで膠着(こうちゃく)していた。
就任後、トランプ氏が次々と大統領令に署名したことで、再び政策実行力への期待が高まった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「トランプ相場の第2幕が始まったのでは」と話す。ただ、「政策が議会との調整に手間取るなどすれば、株価が下がり基調に入るリスクはある」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)との声もある。
■銘柄に明暗 金融、値上がり/製薬、値下がり
トランプ氏の経済政策の恩恵を受けると見込まれた「トランプ銘柄」が再び値上がりしている。
代表格は大手金融機関。オバマ前政権時代に大幅強化された金融規制が緩和されると「稼ぐ力」が高まるとされる。米ゴールドマン・サックスは大統領選当日に比べ、25日の終値は約3割上昇。米銀行で最大手のJPモルガン・チェースも2割強も高くなった。トランプ氏はインフラ投資に本腰を入れるとみられ、建設機械大手キャタピラー株も2割近く上げた。
一方、トランプ氏は「医薬品が高すぎる」と批判しており、ジョンソン・エンド・ジョンソンが3%超値下がりするなど製薬関連銘柄は不調だ。輸入品に頼る企業も下げており、銘柄によって「勝ち」「負け」が出ている。
日本でも金融関連や建設機械、セメント企業などの株価が特に上がった。
一方、円ドル相場はほぼ動いていない。トランプ政権の「米国第一主義」への懸念がある。三井住友信託銀行の瀬良礼子氏は「株高・ドル安の流れがトランプ氏の理想。ただ、長続きするとは思えない。いずれ調整が入る」とみる。(畑中徹=ニューヨーク、神山純一)
(4) 国境に壁、メキシコ反発 米大統領令署名
トランプ米大統領が25日、メキシコ国境への壁建設など不法移民対策を強化する大統領令に署名し、「悪い者たちを追い出す」と意気込んだ。メキシコは猛反発し、トランプ氏も応酬。予定されている首脳会談の実現も極めて不透明になった。米国内でも、移民を守ってきた自治体などから批判が相次いでいる。▼1面参照
■両首脳の応酬激化、譲らぬ主張
不法移民が犯罪と、雇用を奪う元凶とするトランプ氏は「何千もの命、何百万もの雇用、何十億ドルを守ることになる」と大統領令の効果を主張。「私には米国人の生命を守る以上に大きい義務はない」と訴えた。
壁の建設費用については、トランプ氏はいったん米国が負担するが、メキシコに返済させると繰り返している。31日にワシントンで予定されているメキシコのペニャニエト大統領との首脳会談で、負担を求めたい考えだ。
トランプ氏は25日の大統領令署名後、「メキシコの人たちに敬服している」と持ち上げ、壁が互いにメリットがあると強調。「安全な国境と経済協力。我々はかつてないほどの良好な二国間関係に高められる」と主張し、首脳会談を「大いに楽しみにしている」とも述べた。
だが、25日にメキシコのビデガライ外相らが首脳会談に向けた環境づくりのためワシントン入りしたばかりで、トランプ氏がこの日に署名をぶつけたことで、メキシコ側はメンツをつぶされる形になった。
ペニャニエト氏は25日夜のビデオ声明で、「まさに対話を始めようとしている時だった」と不快感をあらわにし、国境の壁について「遺憾であり、米国の決定を非難する。メキシコは、壁に効力があるとは思わない」としてトランプ氏の決定を強く批判。「メキシコはどんな壁にも建設費は支払わない」と、真っ向から費用負担を否定した。
トランプ氏はメキシコ側の強い反発を受け、態度を一変。26日朝になって、ツイッターで「メキシコがこの必要とされる壁の費用を払いたくなければ、今度の会談を取りやめた方がいい」とつづり、いらだちを示した。
ペニャニエト氏は壁建設だけでなく、トランプ氏が打ち出した不法移民の取り締まり強化策などにも敏感に反応。「(米国にいる)メキシコ国民の保護対策の強化を外務省に指示した」と表明し、「米国にある50カ所のメキシコ領事館が移民の権利の擁護機関となる。必要な保護を保障する」などと語った。
AP通信などによると、メキシコの複数の野党が相次いでペニャニエト氏の訪米中止を要請。メキシコ政府高官の話として、ペニャニエト氏が訪米中止を検討していると伝えた。ビデガライ外相らとトランプ政権幹部との会談が終わる26日以降に、最終判断をするとみられる。
攻撃の手を緩めないトランプ氏にどう対応するか、メキシコ政府は国内外の事情に配慮しながら、慎重な判断を迫られている。(レオン〈メキシコ中部〉=田村剛、ワシントン=杉山正)
■米国内でも批判拡大
大統領令は、米国内の一部自治体が不法移民を強制送還から守り、「米国民と我が国に計り知れないダメージをもたらしてきた」とし、移民取り締まり当局に協力しなければ政府の補助金を打ち切るとした。これに対し、対象となる都市の市長らは「市民を守る」として相次いで反発。「政府が実施に移せば、大統領令の無効を求めて提訴する」との発言も出ている。
移民当局に協力をしない自治体は「サンクチュアリ(聖域)」と呼ばれ、これまでも共和党の政治家が問題にしてきた。明確な定義はないが、警察が理由なく市民の滞在資格を問うことを禁じたり、強制退去の手続きが続いている間、身柄拘束に協力することを拒んだりする自治体が多い。
ニューヨークのデブラシオ市長は、大統領令の署名を受けて緊急会見を開き、「安全を守るどころか、むしろ損なう結果になる」と訴えた。数十万人の不法移民がいるとされるニューヨークでも、警察が移民当局の代わりに滞在資格を問うことは禁じている。デブラシオ氏はこうした政策の結果、市民と警察の信頼関係が保たれ、犯罪率も低下していると主張した。
補助金カットについてもデブラシオ氏は、ニューヨーク市警を直撃すると指摘。より広範囲な補助金カットが実施されれば、「即座に提訴する」と述べた。
ロサンゼルスのガルセッティ市長も「家族を分裂させたり、都市への補助金をカットしたりすることは、全米の安全や経済を危機に陥れる」と声明を発表。シアトルやワシントンなど米国各地の主要都市の市長も同様に懸念を表明した。
大統領令に抗議する集会も各地で続いた。ロサンゼルス市庁前では移民や支援者らがろうそくに火をともし、「私たちはトランプ政権に決して負けない」「米国は私たちの国。ここにとどまる」と声を上げた。(ニューヨーク=中井大助、ロサンゼルス=平山亜理)
(5) 水責め、尋問に「効果的」 トランプ氏、復活示唆
トランプ米大統領は25日の米ABCテレビのインタビューで、禁止されている水責めなどの拷問がテロ容疑者への尋問に効果的だとして、復活させる可能性を示唆した。
トランプ氏は水責めについて「絶対に機能すると思う」と言及。ポンペオ中央情報局(CIA)長官やマティス国防長官らに意見を求めるとし、「もし彼らがやりたいなら、できるようにしたい」と話した。
トランプ氏は情報機関の幹部から、拷問に効果があると聞いたと説明。過激派組織「イスラム国」(IS)がキリスト教徒を斬首していることを挙げ、「中世以来、聞いたことがないことをしている時、火には火で対抗しなければならない」と述べた。
オバマ前政権では、水責めなどの過酷な尋問を全面的に禁止していた。(ワシントン=杉山正)
(1) トランプ大統領、プーチン氏と電話会談へ 独仏首脳とも
トランプ米大統領は28日にロシアのプーチン大統領と電話会談する。テロ対策などについて意見交換する見通しだ。27日昼(日本時間28日未明)に英国のメイ首相と大統領就任後初の首脳会談に臨むほか、28日に独仏の首脳とも電話会談する。一方、国境の壁建設で関係が悪化したメキシコとの首脳会談は中止に。「トランプ外交」が慌ただしく動き出した。▼2面=「自分第一」、9面=為替条項の要求検討、13面=メキシコ内憂外患、16面=社説
ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、プーチン氏とトランプ氏の電話会談が28日に行われることを確認した。米メディアによると、テロ対策について話し合うという。
27日にはメイ首相と会談する。26日に米国入りしたメイ首相は米共和党の集会で演説し、「私たちには新しい時代に特別な関係を刷新する機会と責任がある」と訴えた。英国は昨年の国民投票で欧州連合(EU)から離脱を決めた。二国間の貿易交渉を進めたいトランプ氏と経済連携について協議する見通しだ。欧州の安全保障の要となる北大西洋条約機構(NATO)や、ロシアへの対応についても話し合われる。
スパイサー報道官は27日のツイッターで、トランプ氏が28日にドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領と電話会談することを明らかにした。
一方、31日に予定されたメキシコのペニャニエト大統領との首脳会談は、国境の壁建設問題で対立が激化し、急きょ中止になった。国境の壁建設の費用負担や、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉をめぐる議論が注目されていた。
トランプ氏は27日午前、自身のツイッターで「メキシコは長い間、米国を利用してきた。巨額の貿易赤字と、弱い国境を変えなければいけない」と持論を展開。また、ロイター通信は26日、トランプ氏が、2月に開く予定の安倍晋三首相との首脳会談で、自動車貿易の是正など二国間の貿易交渉を求める方針だと報じた。(ワシントン=佐藤武嗣、渡辺志帆)
(2) (天声人語)吉宗の爪のあか
▼時代劇「暴れん坊将軍」のモデルになった徳川吉宗は、日本の刑事司法の改革者でもある。量刑のばらつきを抑え、残虐な罰を減らし、取り調べ時の拷問に思い切った制限を加えた。そのひとつが「水責め」である。水おけに頭をつけて気絶寸前まで追い込むのは人道に反する。吉宗の先見の明と言うべきだろう
▼水責めも米国ではごく最近まで使われた。アルカイダ系幹部らを情報機関CIAの係官が水責めにして尋問していた。ブッシュ(子)政権は擁護したがオバマ政権は全面禁止に転じた
▼それをまた合法化するとトランプ新大統領が気炎をはく。水責めは「絶対的に効果」があり、過激派組織には「火には火」で臨むと断言した。またひとつオバマ時代の政策が葬り去られていく
▼「いきなり水責めにしても、人は口を割らないものです」。数年前に取材した米陸軍少佐の言葉を思い出す。イラクなどに駐留し、人道に反しない尋問方法を探した。「アラブ系の容疑者をしゃべらせるなら、アラビア語を話す中東系を尋問役にあて、時々は中東料理も出す。最も効果的です」
▼少佐は米軍の試みた尋問術を過去にさかのぼって調べた。たどり着いたのが、太平洋戦争中の旧日本軍捕虜たちの記録だ。「日系人に尋問され、和食で懐柔され、手もなく落ちていました」
▼トランプ政権内でもCIA長官や司法長官は水責めには慎重である。世界を威嚇する乱暴な言葉ばかりふりまく大統領など暴れん坊将軍の足もとにも及ぶまい。
(3) (トランプの時代)「自分第一」強権連発
トランプ米大統領が就任して27日で1週間が経ち、新政権の政治手法が浮き彫りになってきた。相変わらずツイッターで個人や企業の狙い撃ちを続け、ついにはメキシコ大統領を狙う「外交手段」に発展させた。自分に批判的なメディアは「偽ニュース」「黙れ」と徹底的にたたき、認めたくない情報には、都合が良いように虚言や誇張を振りまく。「自分第一」の独善ぶりが際だっている。▼1面参照
■ツイート 隣国トップ挑発し亀裂
今、トランプ氏が朝につぶやくツイッターで、米国、いや世界が動き出すのが常になってきている。
20日の就任後、個人アカウントで約40回ツイート。自身への抗議活動や批判的なメディアを攻撃し続ける。さらに、隣国の首脳も狙い撃ちにし、首脳会談まで中止に追い込まれた。
26日午前9時前。「メキシコが壁の費用を払いたくなければ、今度の会談を取りやめた方がいい」
メキシコの国境に建設することを決めた壁の建設費用と首脳会談を取引(ディール)の材料にして、メキシコのペニャニエト大統領に迫った。
31日に予定された首脳会談を控え、メキシコのビデガライ外相がトランプ政権高官と事前の話し合いのため、ワシントンに滞在中だった。メキシコ側は完全にメンツをつぶされた。これに対し、ペニャニエト氏は反発。26日に自身のスペイン語のツイッターで「米ホワイトハウスに今朝、会談には行かないと伝えた」と発信。外相の協議もキャンセルされた。
トランプ氏は就任前も、メキシコへの工場移転計画を発表した空調機器大手キヤリアなどの企業を名指しで批判。「指先介入」で計画見直しを迫った。トランプ氏を批判した労組幹部について「ひどい仕事をした」とやり玉に挙げた。
一方、自分の決定に従う者には称賛のツイートも忘れない。26日午後には、不法移民に対する政策に賛同した首長を取り上げ、「正しい決断だ。強い!」と持ち上げた。
トランプ氏個人のツイッターアカウントをフォローする人数は、豪州の人口に近い約2200万人に及び、その影響力は計り知れない。米国の大統領が法案や大統領令などではなく「指先介入」で外交や政策を動かすという異常事態は、収まる気配がない。
■対メディア 敵意前面「黙っていろ」
「メディアは黙っていろ」――。トランプ氏の最側近のスティーブン・バノン大統領上級顧問兼首席戦略官は25日、米紙ニューヨーク・タイムズの電話インタビューでメディアへの敵視をむき出しにした。
トランプ政権のもう一つの特徴は徹底した「メディアたたき」だ。バノン氏は人種差別的記事を多く掲載するニュースサイトの会長を務め、かねて主要メディアを攻撃。インタビューでも「メディアは野党だ。なぜトランプ氏が米国大統領なのか、まだ分かっていない」と息巻いた。トランプ氏自身も、就任後の演説で「私はメディアと戦争している。彼らは地球上で最も不正直だ」と宣戦布告している。
トランプ氏は先月、ツイッターを使う理由について「私のことを正確に敬意をもって報道してくれるなら、私が『ツイート』する理由ははるかに減るだろう」と語った。
世論調査会社「ギャラップ」が実施した調査では、メディアへの信用度は、1976年の72%から、昨年は32%に落ちた。共和党支持層では14%しかない。トランプ氏にとって、メディアをたたいても支持層は離れない。メディアが不都合な情報を報じてもダメージを抑制できる。そんな効果を計算しているようだ。
最近では、メディアを敵と味方に仕分ける動きも見せる。就任式の視聴率で、トランプ氏に好意的な報道を続けるフォックス・ニュースが高かったことについて、「おめでとう。『偽ニュース』のCNNより何倍も高かった。国民は賢い」とツイートした。
■虚言・誇張 聴衆人数「事実」上塗り
トランプ氏は気に入らない情報があれば、「虚言」「誇張」を駆使してやり返そうとする。その象徴として「オルタナティブ・ファクト」という言葉が話題になっている。代わりの事実という意味だ。
きっかけは20日の就任式に詰めかけた人々の人数。米メディアが、180万人が来たオバマ前大統領時と比べ「3分の1ほど」と報道。怒ったトランプ氏は、就任演説をした連邦議会から約2キロ離れたワシントン記念塔まで聴衆で埋まったと主張、「150万人いるように見えた」と訴えた。
また、ホワイトハウスのスパイサー報道官が緊急の記者会見を開き、メディア批判とともに「これまでで最多の聴衆数だ」と強調。記者の質問も受けずに会見を打ち切った。これに対し、メディアが「ウソだ」と批判を強めると、今度は、コンウェイ大統領顧問が「オルタナティブ・ファクトだ」と言い切った。
また、トランプ氏は25日朝、ツイッターで「不正投票の大きな捜査を依頼する」とつぶやいた。昨年の大統領選で、不法移民ら300万~500万人が不正に投票したとの持論を調査で確かめる考えだ。
事実ならば、民主主義を揺るがす前代未聞のスキャンダルだが、共和党内からも「根拠のない発言をやめるべきだ」とあきれた声が相次ぐ。
大統領が思い込みで発言し、政府を代表するはずの報道官がそれを擁護するという風景が常態化。発言が真実かどうか分からない状態になりつつある。サンダース上院議員は26日、懸念をこう語った。「我々は巨大な問題に直面している。妄想を抱く大統領がいることだ」(ワシントン=五十嵐大介、佐藤武嗣、杉山正)
(4) (いちからわかる!)どんどん出している大統領令って何?
■法律とほぼ同じ効力。議会や最高裁判断(はんだん)で覆ることも
アウルさん 就任(しゅうにん)したばかりのトランプ米大統領が、いろんな政策(せいさく)をどんどん発表しているね。
A 環太平洋経済連携協定(かんたいへいようけいざいれんけいきょうてい)(TPP)離脱(りだつ)や、メキシコ国境に壁を建てるなど、就任1週間の26日までに13の政策を打ち出した。連邦政府や軍に対するもので、一般的にはまとめて「大統領令(だいとうりょうれい)」と呼ばれる。実際は大統領令と大統領覚書(おぼえがき)、声明(せいめい)の3種類がある。効力は法律とほぼ同じだ。
ア なぜ、こんなにたくさん出しているの?
A 政権(せいけん)が変わったのを印象づけたいんだろう。米国の大統領は議会に法案(ほうあん)を出す権限はないし、法律ができるには時間がかかる。すぐに政策を実現(じつげん)できる手段なんだ。ただ壁の建設にはすごいお金が必要なので、議会で予算案(よさんあん)を認めてもらう必要がありそうだ。
ア 米国の大統領の権限ってすごいんだね。
A 大統領令などを出せるのは、日本の首相と比べても強い権限だ。オバマ前大統領も、銃規制(じゅうきせい)の強化(きょうか)や不法移民(ふほういみん)の救済(きゅうさい)で使った。対立(たいりつ)する共和党(きょうわとう)が下院(かいん)の多数派(たすうは)で、自分が望む法律がつくりにくかったからだ。
ア 何でもできるの?
A 憲法(けんぽう)ではっきり決まっていないけど、今の法律の枠内とされている。それに、議会は大統領が決めたことを変えるための法案を出せる。最高裁の違憲判断(いけんはんだん)で無効(むこう)になることもある。
ア まだまだ続くの?
A さすがにこのペースが続くとは考えにくい。過去の記録が確認しやすい狭義の大統領令で比べると、13の政策のうち四つで、オバマ氏(1期目)の同時期の五つと変わらない。オバマ氏は就任1カ月で16の大統領令を出したけれど、米調査機関(ちょうさきかん)によると、任期中(にんきちゅう)の年平均(へいきん)は35だった。これまで最も多く大統領令を出したのは、第2次世界大戦時のルーズベルト大統領だ。在任12年で3千を超(こ)えた。(津阪直樹)
(5) (社説)米の強圧外交 おごりが目に余る
トランプ米大統領のおごり高ぶる姿勢に驚きあきれ、怒りを覚える。
メキシコとの国境での壁の建設を巡って同国のペニャニエト大統領と対立し、首脳会談が中止された。トランプ氏が一方的に建設を決め、その費用負担を迫っただけに、ペニャニエト氏が猛反発したのも当然だろう。
「メキシコが壁の建設費用を払わなければ会談をキャンセルした方がよい」「米国にまっとうな敬意を払わない限り、このような会談は無駄だ」
トランプ氏はツイッターや演説でこう語った。やり方も外交儀礼に反する。メキシコが抵抗すると見るや、メキシコからの輸入に20%の課税を検討すると表明した。「米国第一」を超えて「米国だけ」の様相である。
外交はお互いの信頼関係なしには成り立たない。いくら米国が超大国とはいえ、力ずくで従わせようとしても相手国の議会や国民の反発を招き、こじれるだけだ。トランプ氏はそんなこともわからないのだろうか。
米国には不法移民が1100万人ほどいるとされ、さまざまな問題があるのは確かだ。約3200キロに及ぶメキシコとの国境のおよそ3分の1には、既に柵や壁がある。とはいえ、いきなり残りすべてに壁を築くと宣言し、費用負担を突きつけるのは常軌を逸している。
トランプ氏は、不法移民が犯罪を増やし、雇用を奪う元凶と断言する。だが、不法滞在者を含めて移民は米国の貴重な働き手かつ消費者であり、成長の一翼を担っている。壁の建設を柱とするあまりに激しい不法移民対策に対し、ニューヨーク市長ら移民が多く住む大都市のトップが相次いで異を唱えたことに、その現実が表れている。
米国の強圧的な姿勢にさらされる恐れは、メキシコだけではない。トランプ氏は演説で、貿易交渉は二国間で行うと改めて強調した。相手国に不満があれば期限を区切った通知書を送りつけるとし、「その国は『交渉を打ち切らないでほしい』と懇願してくるだろう」と語った。
国際社会が結束し、米国に理不尽さを説かねばならない。
来月には主要20カ国・地域(G20)の外相会議が予定されている。対メキシコの課税構想は、世界貿易機関(WTO)のルールに触れる恐れがある。トランプ氏が為替問題に不当な口出しをすれば、関連する国際協議の場で取り上げるべきだ。
冷静さを失わず、しかし毅然(きぜん)と対応する。日本にも米国からの要求が予想されるが、他国と連携する姿勢が欠かせない。
(1) 日米同盟の重要性確認 両首脳が電話会談 来月10日会談合意
安倍晋三首相とトランプ米大統領は28日深夜(米東部時間28日朝)、トランプ氏の就任後、初めての電話会談を行った。両首脳は、首相が訪米して2月10日にワシントンで初の首脳会談を開くことで合意。日米同盟の重要性を改めて確認したうえで、通商政策や安全保障の課題について意見を交わした。▼2面=見通せぬ出方
電話会談は午後11時過ぎから約40分間行われ、菅義偉官房長官が同席した。首相は会談後、首相官邸で記者団に「経済や安全保障の課題などにおいて、日米同盟の重要性について確認した。2月10日の首脳会談では経済、安全保障全般において率直な、有意義な意見交換をしたい」と語った。
日本政府の説明によると、電話会談では首相がトランプ氏に大統領就任の祝意を示し、「就任直後から精力的に行動され、トランプ時代の幕開けを強烈に印象づけた」と伝えた。さらに「トランプ氏の指導力によって、米国がよりいっそう偉大な国になることを期待しており、信頼できる同盟国として役割を果たしていきたい」と語った。
また、首相は「一挙手一投足に世界が注目している。経済政策に期待が高まっている」と指摘。トランプ氏は「今まで言ってきたことは全部やりたい。スタートが大事だと思っている。日本との関係は重視している」と応じたという。トランプ氏は、トランプ政権の閣僚としてマティス国防長官が2月3日に初めて訪日することに触れ、「安全保障の専門家で信頼している。色々話してほしい」とも述べた。
両首脳は両国の経済関係の重要性を確認。首相は、トランプ氏が日本の自動車貿易を批判していることなどを踏まえ、日本企業の米国経済への貢献などについて理解を求めた。一方、環太平洋経済連携協定(TPP)や日米の自由貿易協定(FTA)について具体的には踏み込まず、来月の首脳会談で本格的な議論を交わすことにしたという。
日本政府は、トランプ氏から求められれば、米国との二国間の通商交渉を受け入れる考えだ。首相は訪米に麻生太郎副総理兼財務相を同行させる方針で岸田文雄外相の同行も検討する。日米関係を最重視している姿勢を強調する狙いだ。
ホワイトハウスの発表によると、両首脳は、二国間の貿易と投資を深めていくことや、北朝鮮の脅威に対して連携して協力することも確認。また、トランプ氏は、日本の安全保障を確実とするため、米国の断固とした決意についても強調したという。
(2) 日米首脳、40分協議 経済や安保、電話会談
安倍晋三首相は28日深夜(米東部時間28日朝)、トランプ米大統領と電話会談し、2月10日に米ワシントンで初の首脳会談を行うことで合意した。この日、両首脳は約40分間にわたり経済や安全保障全般をめぐって意見交換。電話会談の終了後、首相は来月の首脳会談について「率直な、有意義な意見交換をしたい」と抱負を語った。▼1面参照
トランプ氏による「二国間外交」重視の姿勢が鮮明になるなか、日本政府は、米国との二国間の通商交渉を受け入れる考えだ。首相は27日の衆院予算委員会で「二国間を絶対に排除するのかと言われたら、そうではない」と述べ、トランプ氏から求められれば日米両政府の通商交渉にも応じる考えを明言。そのうえで「その中でしっかりと軸足を据えて、我が国の国益を守っていく」と強調した。
安倍政権は環太平洋経済連携協定(TPP)を成長戦略の柱に据えており、米側には引き続きTPPへの理解を求める考えだ。ただ、トランプ氏は就任早々にTPPから「永久離脱」する大統領令に署名。日本政府関係者は「首脳会談で『TPPに参加してほしい』と言うだけでは持たない」(政府関係者)と話す。
来月の首脳会談では、トランプ氏が日米間の通商交渉を求めるとともに、具体的な要求も突きつけてきかねない。日本に自動車輸出の自主規制を求めてきたり、日本の自動車関税は撤廃済みだが、日本の安全基準や日本独自の軽自動車向けの税制などを「非関税障壁だ」として追及したりしてくる可能性もある。
内閣官房幹部は首脳会談に向けた戦略について、「個別のテーマに絞らせないでふわっとした二国間交渉に応じ、あとは実務でやろうというところで落としたい。そうすれば時間が稼げる」と解説。トランプ氏に日米貿易の実情を訴えつつ、時間をかけて妥協点を探る考えだ。
安全保障についても、トランプ氏の出方は見通せない面がある。トランプ氏は就任後、日米同盟に対する考えを表明していないためだ。官邸幹部は「トランプ氏が大統領選中に言及した在日米軍駐留経費の負担増などを、通商交渉と絡めて突きつけてくることは十分あり得る」と警戒する。
この日の電話会談後、萩生田光一官房副長官は期待を込めてこう語った。「来たる日米首脳会談を、日米同盟の絆が揺るぎないことを改めて世界に示す機会にしたい」(福間大介、内田晃)
(3) トランプ氏会談、英ロ独仏首脳とも
トランプ米大統領は28日、ロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、オーストラリアのターンブル首相らと電話会談する。トランプ氏はロシアとの関係改善を模索する一方、欧州連合(EU)には批判的な発言をしている。オバマ前政権とは全く異なる外交方針を示すトランプ氏がロシアや欧州とどういう関係を築くのか注目される。▼2面=米英「特別な関係」、7面=会見でぎこちなさも
トランプ氏は大統領選中、プーチン氏を「賢い指導者」と称賛するなどロシア寄りの発言を繰り返してきた。オバマ政権で「冷戦後最悪」と言われた米ロ関係の再構築を模索する。
ロシアがクリミア半島(ウクライナ)を併合した問題で、オバマ政権は欧州などと対ロ経済制裁を科した。トランプ氏は27日のメイ英首相との会談後の記者会見で、制裁解除の可能性について問われ、「時期尚早だ」と明言を避け、ロシアへの配慮を見せた。
また、米情報機関は昨年の大統領選で、プーチン氏の指示でロシアがサイバー攻撃で介入したと認定。トランプ氏も「ロシアがやった」と関与を認めたが、プーチン氏の責任を追及する考えは否定している。
テロ対策を重視するトランプ氏は、シリアなどで勢力を維持する過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅でロシアと協力したい考えだ。(ワシントン=五十嵐大介、杉山正)
(4) (トランプの時代)米英「特別な関係」強調 「自国第一」同士、二国間貿易訴え
「アメリカ・ファースト」と「ブレグジット」が強力タッグを演出――。トランプ米大統領が27日(日本時間28日)、「米国第一」の外交を、欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国との首脳会談から始めた。二国間の貿易協定を強力に進め、ロシアとの関係改善ももくろむ。トランプ氏と同じ「自国第一」主義の動きが広がりつつある欧州は警戒を強めている。▼1面参照
「初の首脳会談で、メイ首相を招くことができて光栄だ。我々の特別な関係は、歴史における正義、平和を後押しする大きな力の一つだった」。27日、首脳会談後の記者会見。メイ氏のスーツと同じ赤色のネクタイを締めたトランプ氏は、珍しく手元のメモを読みながら語った。
2人を引き寄せたのは二国間の貿易協定だった。
英国は28カ国による経済統合体から離脱することを決めた。EUとの貿易交渉が難航するのは必至な中、世界一の経済大国と協定を早期に結べる見込みがつけば、経済界などの不安を抑えられるとの計算も透ける。
かたやトランプ氏も、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、二国間で貿易交渉を進める方針だ。「自国第一」の同志とも言える米英が二国間協定を結べば、象徴となりうる。
会見では、トランプ氏が「英国のEU離脱は素晴らしいものになる。誰の監視も受けずに貿易交渉ができる」と称賛すれば、メイ氏も「米英の貿易協定は互いの国の利益になる」と相思相愛ぶりを見せつけた。
ただ、その先行きは曲折が予想される。
両首脳の自由貿易に対する考えには根本的な違いがある。トランプ氏は、日本との自動車貿易を「公平でない」と批判し、中国やメキシコへの高関税をちらつかせるなど保護主義的な政策も辞さない姿勢だ。一方のメイ氏は、EU離脱後も「世界に開かれた英国」という名の下、あらゆる相手と自由貿易を広げていく方針だ。互いの損得がぶつかり合えば、交渉に影響する可能性がある。
また、英国はEUを離脱するまでは米国と正式な交渉には入れないルールになっている。EUでは、域外の国との貿易交渉はEUが一括して行うと定められているためだ。このため、本格交渉は、早くても2019年春とみられる正式の離脱後となる。(ワシントン=五十嵐大介、ロンドン=寺西和男)
■対ロ制裁やNATO、溝も
「大統領、あなたはNATO(北大西洋条約機構)を100%支持すると認めましたね」
会談後の記者会見で、メイ氏は、トランプ氏がNATO批判から支持に転じたとの言質を紹介した。
英国にとって、米国主導の軍事同盟であるNATOは欧州の安全保障の要だ。
米国と欧州の間の要として存在感を保ちたい英国にとって、「テロに対応できていない」「時代遅れだ」などとNATO批判を繰り返すトランプ氏にその重要性を伝え、米国の関与を後退させないよう求めることは、会談の大きな目的の一つだった。
メイ氏は、「加盟国が支払うべき金を払っていない」というトランプ氏の不満に応える形で、欧州の加盟国が軍事費の目標値である国内総生産(GDP)比2%を達成するよう求めていくとも述べた。
これに対し、トランプ氏は、メイ氏の「NATO100%支持」の問いかけに明確には答えなかった。また、英国との軍事などの深い関係を刷新するとは述べたものの、「NATO」という言葉自体は一度も口にしなかった。
ロシアへの対応も、食い違いがのぞいた。
メイ氏は他のEU諸国とともに、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合やウクライナ東部への軍事関与を強く非難してきた。この日も、ウクライナでの停戦合意が履行されない限り、制裁解除には応じられないとの姿勢を示した。
だがトランプ氏は、対ロ制裁解除や米ロ関係の改善に関心を寄せているとされる。米国が単独で制裁を解除すれば、EUが続けている制裁の効力は弱まる。
プーチン大統領との電話会談を控えて、トランプ氏は会見で「ロシアと素晴らしい関係が築けることを願う」「ロシアなどと一緒に『イスラム国』(IS)を制止できればよいと思う」などと語った。(ワシントン=渡辺志帆)
■身構えるEU 独首相「結束して克服」
トランプ氏とメイ氏が会談で強調した「特別な関係」の強化に、欧州は身構える。
「米政権は、私たちの貿易ルールや、国際的な問題を解決する力について、課題を突きつけている」
米英首脳会談の直前の27日、ベルリンでメルケル独首相と会談したオランド仏大統領はこう懸念を示した。トランプ氏との交渉に際しては、「欧州人の価値と利益に基づいて行動する」と強調した。
トランプ氏は米英首脳会談後の会見で、英国のEU離脱を「すばらしい」と改めて礼賛した。また、多国間の貿易協定に否定的な一方で、米英の自由貿易協定(FTA)の締結に前のめりな姿勢を示した。
EU側は「加盟国である限り、英国は第三国と貿易協定を締結できない」(欧州委員会のティマーマンス第1副委員長)との立場を堅持している。だがメイ首相は会見で「どう通商協定の基礎をつくるかについて協議した」と明かした。EU側は、メイ氏が離脱交渉を有利に進めるために、対米関係を利用するのではないかとの懸念が広がる。
ただEU側はこれまで、トランプ氏の挑発的な言動に冷静に対応しており、今回の米英首脳会談についても表立った反応を控えている。米英との関係がこじれることで、EU内の結束が乱れることにつながるのは避けたいとの思惑がある。
メルケル氏は27日の会見で、欧州が向き合う課題として自由貿易の維持、域内外の安全、気候変動対策などを挙げ、「英国の国民投票は私たちの転機となったが、(英国以外のEU加盟)27カ国で結束してこれを克服していかなければならない」と語った。
EUは来月3日、マルタで首脳会合を開く。英国のEU離脱や、トランプ政権への対応が話し合われる見通しだ。(ベルリン=高野弦、ブリュッセル=吉田美智子)
(5) 難民受け入れ、扉閉ざす米 120日停止の大統領令
トランプ米大統領は27日、シリア難民などの受け入れの停止や、特定の国に対する入国ビザ(査証)の発給停止などを盛り込んだ大統領令に署名した。テロ対策と位置づけ、事実上、イスラム教徒を狙い撃ちにした形だ。関係者からは非難と嘆きの声が上がっている。▼国際面=入国禁止で拘束も
大統領令は「外国テロリストの入国からの米国の保護」と題され、シリア難民の受け入れを国益に合致すると判断するまで停止し、シリア人以外の難民も120日間、受け入れを停止する。また、テロの懸念がある国を指定し、一部の例外を除いて90日間、入国を禁止。対象国は明らかではないが、米メディアはシリア、イラク、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンの7カ国と指摘している。
ロイター通信によると国土安全保障省の報道担当者は、7カ国の出身者は永住権を持っていても再入国できないとした。すでに、中東から米国に向かおうとする人たちが阻まれるなど影響が出始めている。
署名に先立ち、トランプ氏は「9・11(米同時多発テロ)の教訓を絶対に忘れない」と発言。トランプ氏は選挙戦の時から、イスラム教徒の難民や移民がテロの元凶だとしてきた。
国務省によると米国は1975年以降、計300万人以上の難民を再定住させてきた。2001年の米同時多発テロの直後は落ち込んだが、ブッシュ、オバマ両政権は再び拡大。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、15年の米国の再定住は世界全体の6割以上を占めた。オバマ政権は、16年会計年度にはシリアからの難民約1万人を含む約8万5千人を受け入れ、17年会計年度は目標を11万人に設定していたが、トランプ氏は大統領令で5万人以下に抑制する方針を示した。
■「自由の女神も涙」「テロリストではない」
「『自由の女神』のほおの上を涙がつたっている。建国以来の伝統が踏みにじられた」。AP通信によると、民主党のシューマー上院院内総務は大統領令を厳しく批判。パキスタン出身のノーベル平和賞受賞者で英国在住のマララ・ユスフザイさん(19)も「胸が張り裂ける」との声明を出した。
約4万5千人のソマリア系住民が住むオハイオ州コロンバス。多くは難民として内戦から逃れてきた人たちだ。オハイオ州立大の学生ジャマル・アリさん(25)もその一人。今回の大統領令について「一線を越えている。政府が宗教や国籍で差別するのが許されるのか」と嘆いた。
昨年11月、大学でソマリア系の学生によるテロとみられる事件が起き、ソマリア人社会自体がトランプ氏の格好の標的になったが、「自分たちもテロに断固反対だ。(テロリストと)同じではない」と話す。
トランプ氏の姿勢は米国の分断、人種差別を助長すると感じる。トランプ氏の当選後、アルバイト先で白人職員が「すべての移民は元いた場所に帰るべきだ」と言うのを聞いた。「トランプより支持者が怖い。隣人であり、同僚なのに」
だが、米国社会には難民再定住への反発も広がっていた。モンタナ州ミズーラに住むメアリー・プールさん(35)は15年9月、トルコの海岸に横たわるシリア難民の幼児の遺体の写真を見て心を動かされ、再定住支援の団体を知人と立ち上げた。反発は予想以上に強かった。特に問題となったのは、テロの懸念だった。
ただ、ボランティアや寄付の申し出も相次いでいる。プールさんは「困難な状況が続くが、今後も難民のためにできることをしていきたい」と話した。(ワシントン=杉山正、ニューヨーク=中井大助)
(6) (日曜に想う)「駆けつける」よりも 編集委員・大野博人
国外には「まかせてください」と胸をはる。国内には「あまり大変なことにはならないから」と説明する。
日本の外交姿勢に、そんなちぐはぐを感じることがある。国連平和維持活動(PKO)としての南スーダンへの自衛隊派遣でもあらためて思った。
安倍政権は国際社会に対して「積極的平和主義」という方針を掲げた。解釈改憲によって安全保障法制を成立させ、自衛隊の海外派遣の枠も広げた。それは危機の現場で果敢にふるまう姿勢の表明と国外からは見えるだろう。他方、国内には、自衛隊が派遣された首都のジュバは「比較的落ち着いている」と説明する。
だが情勢が悪化したとき、日本はのっぴきならない状況に追い込まれないか。
「日本が駆けつけ警護を新たな任務として付与したことを国連側は大歓迎しました。それが心配」と話すのは、その国連で東ティモール担当事務総長特別代表などとしてPKOに長く携わってきた長谷川祐弘さん(74)だ。「国連と国際社会が理解していることと日本政府の方針の間に違いがあるからです」
長谷川さんによると、今の国連にとって南スーダンでの一番大事な課題のひとつは一般市民が虐殺されないように警護すること。そこへの貢献を期待しているという。だが自衛隊がそこまで踏み込むのは無理だ。
それに治安の悪化状況によっては撤収をためらわないというのが政府の方針だが、それでは「日本の信頼を落としかねない」。
*
「日本は全体を見ていないのでは」と指摘するのは、東京外国語大学特任助教のモハメド・オマル・アブディンさん。スーダン出身の国際政治研究者だ。「地元の人たちが一番ほしいのは治安。あの国にいるかぎり、いつ撃たれるか、いつ娘たちがレイプされるかわからないという状況です。考えてみてください。そんな切迫した日々の中で、自衛隊が造る道路に人々の関心は向きません」
アブディンさんは目が見えない。1998年に19歳で鍼灸(しんきゅう)を学びに来日したが、日本語を習得し研究の道に進んだ人だ。日本語や英語を猛スピードで読み上げるソフトをパソコンに入れて本や論文を読み書きし、メールをやりとりしながら隣国となった現地の情報も収集している。流暢(りゅうちょう)に日本語を操るこの知日派アフリカ人は「自衛隊は日本の都合で送っているようです。南スーダンに貢献しているというのとは違うのでは」と辛辣(しんらつ)だ。
ではどうすればいいのか。
長谷川さんは日本の得意技に貢献内容を切り替えては、と話す。たとえば事態の深刻化に備え、率先して各国部隊の調整役に乗り出す。密とは言いがたい部隊間の相互連絡を日本が円滑にすれば、実際の戦闘行為にかかわらなくてもありがたがられるだろう。高い技術力を生かして、現地の人たちへの重機操作などの訓練支援に重心を移すのもいいと考える。
アブディンさんは、日本の出番は「今ではなく、次の段階」という。自衛隊の強みは災害時に見られるように「復興」だから、南スーダンがインフラを再建するときに、その指導役になる。
「武器を持つことでメシを食ってきた戦闘員たちが除隊される。彼らがよりよい生活ができるようにしなければ社会は安定しない。復興建設はそのためでもあります。自衛隊が道路を造る必要はなく、現地の人たちがそんな仕事に就けるよう助ける」
たしかにそれは、インフラだけでなく社会の再建にも貢献しそうだ。
*
20年あまり前、自衛隊がPKOに派遣されたカンボジアで取材をしていて違和感を抱いた。東京からは、自衛隊やボランティアなど日本人の安全と日本の存在感について議論する声は届く。しかし、新生カンボジアとその将来自体への関心はあまり伝わってこなかった。
南スーダンについても同様な感じがぬぐえない。議論の焦点が「日本」に傾いているように見える。まずは混乱きわまる現地は何を必要としているか、から考えた方がいいのではないか。
(7) (政治断簡)日本は誰の国なのか 編集委員・松下秀雄
トランプ米大統領就任式。映像をみた第一印象は「白いな」だった。集まった支持者の多くが白人だったからだ。指名された閣僚も大半が白人男性だ。
オバマ前大統領の退任演説とあわせて考えると、こんなふうに思えてきた。
トランプ氏の「米国を再び偉大にする」は、昔のような「白人の国」に戻そうってことかな? オバマ氏は、いや「みんなの国」だと言いたいんだな? 黒人の大統領を生んだ米国で、こんな揺り戻しが起きるのか……。
オバマ氏は演説で、米国はすべての人を受け入れる国だ、民主主義には連帯感が必要だと強調した。
問題は、肌の色などの違いを超えてどう連帯するか。米国社会を研究する立命館大の南川文里教授に尋ねると、演説のキモを教えてくれた。
オバマ氏は、米国は最初から完全だったわけではないとし、「建国の父」のほか、奴隷や移民・難民、女性、性的少数者らが権利をかちとっていった歴史をひもといた。そうして「ともに変革をなしとげた我々」という感覚をつくるのがオバマ流だそうだ。
*
私たちは、日本を誰の国と考えているだろう。
「単一民族国家」という意識が根強いけれど、実際には多民族・多文化国家だ。この国には沖縄やアイヌの人々が暮らしている。肌の色や顔つきは違っても、日本国籍をもつ人も大勢いる。
でも、外見が違えば「ガイジン」とみなしていないだろうか? 「○○系日本人という発想が、定着しているとはいえません」と南川さん。
アイヌの人からも「100%の国民として受け入れられていない」という声を聞く。沖縄で米軍施設建設に抗議すると「土人」「シナ人」とののしられたりするけれど、沖縄は地上戦を経験し、いまも基地の集中のほか、所得の低さなど様々な不利を強いられている。差別と感じ、声をあげるのがおかしいか?
日本は、この社会に暮らす「みんなの国」ではなく、少数派が生きづらい「大和民族の国」になっていないか。
*
この問題を考えると、天皇制にたどりつく。日本人のイメージの中心に天皇がいる。
明治期に「国民国家」を築く際、よりどころにしたのが天皇制。民族は大きな家族、天皇家は総本家。そんな国家像を描き、出自の異なる人たちに同化を強いる一方、対等には扱わなかった。
戦後は、「日本国の象徴」「国民統合の象徴」と位置づけられた。いまの天皇はたびたび沖縄を訪れ、沖縄の言葉で「琉歌」を詠む。福祉施設や被災地を訪ね歩く。弱者に寄り添い、それぞれの文化を大切にすることを通じ、国民統合のかすがいになろうとしているようにみえる。
そうした活動や国事行為を続けるのが難しくなった時、退位するか否か。天皇が提起した問題は、天皇制とともに国民統合のあり方も問う。
これは、私たち自身の問題だ。この機会に考えてみませんか。日本は誰の国なのか。
(8) 拘束・搭乗拒否相次ぐ 中東・アフリカ国民、米大統領令受け
トランプ米大統領が大統領令で定めた、中東・アフリカ各国の国民に対する入国の一時禁止を受けて、身柄拘束や搭乗拒否が28日、各地で起き始めた。▼3面参照
米メディアによると対象国はイエメン、シリア、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国に入国するため、ニューヨークのケネディ空港に到着したイラク人男性2人が入国を認められず、身柄を拘束された。
またロイター通信などによると、エジプト航空は同日、カイロ発ニューヨーク行きの便でイラク人5人、イエメン人1人の搭乗を拒否した。カイロ国際空港の関係者が語ったという。
6人は米国への入国ビザを取得しており、乗り継ぎでカイロに到着したが、出身国に戻されたという。
大統領令は署名後、すぐに効力が発生する。カタール航空は7カ国の国籍保持者に関して、米国の永住許可証(グリーンカード)、または政府、国際機関、国連、北大西洋条約機構(NATO)の各関係者に発給されるビザの所持者だけが米国に入国できるだろうとする注意喚起の文章をウェブサイトに掲載した。
ただ、ロイター通信によると、国土安全保障省の報道担当者は、7カ国の出身者は永住権を持っていても再入国できないとした。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際移住機関(IOM)は28日、ビザ発給制限や難民の受け入れ停止などの大統領令に対して、「紛争や迫害から逃れた人々を守る米国の長い伝統と、強い指導的な役割を続けていくことを望んでいる」との共同声明を出した。声明は、「宗教や国籍、人種に関係なく、難民が平等な保護と支援、再定住の機会が与えられるべきだと強く信じている」としている。(ニューヨーク=中井大助、カイロ=翁長忠雄)
■入国禁止、中東困惑 「家族に会えない」「将来が見えない」
家族に会えない、将来が見えない――。トランプ米大統領が「テロ対策」として中東・アフリカの各国を狙い撃ちした入国の一時禁止に、困惑が広がっている。
イラクで駐留米軍の通訳として働いていた男性(26)は報道を聞き、昨年から申請を続けていた米国ビザの取得をあきらめた。
過激派組織「イスラム国」(IS)の侵食に苦しむイラク。政府軍は昨年10月から第2の都市モスルの奪還を進めるが、なお市域の半分をISが支配。首都バグダッドでもテロが絶えない。男性は家族と国を離れようと、隣国ヨルダンの首都アンマンでビザを申請し、発給を待っていた。英語を生かして米国で働くことも考えていた。朝日新聞助手の電話取材に「ショックだ。今後もビザは取れないかもしれない」と不安な胸中を話した。
米国に住むイラン人は100万人を超えるとされる。シアトルに兄が住むアジンさん(42)は「80歳の母は、兄の家族と会えないと知り、ひどく落ち込んでいる」と話した。
兄は2009年に留学で渡米。電気技師として病院に職を得た。米国はイランへの送金を禁じているため、年1回、仕送り用にためた現金を手に、2人の子どもとイランに来るのが恒例だったという。
「『アメリカを倒せ』と叫ぶ人たちと私たちは無関係。家族を引き離すなんて、血の通った人間のすることですか」と憤った。
今年のアカデミー賞で外国語映画賞の候補になったイラン映画「セールスマン」の主演女優タラネ・アリシュスティさんは、今回の措置に抗議して授賞式をボイコットする考えを明らかにした。(テヘラン=神田大介、ドバイ=渡辺淳基)
(9) 「移民の国、誇るべきだ」 ザッカーバーグ氏、米大統領令に懸念
フェイスブック(FB)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は27日、自身のFBに投稿し、移民や難民の入国を制限する大統領令などに懸念を示した。
ザッカーバーグ氏は曽祖父母がドイツ、オーストリアなどからの移民で、妻プリシラさんの両親も中国とベトナムからの移民だったと説明。「米国は移民から成る国で、我々はそれを誇りにすべきだ」「助けが必要な難民には門戸を開くべきだ」などと、移民や難民受け入れを制限する大統領令に懸念を示した。また、数年前に中学校で授業をしたとき、「最も優秀だった生徒の何人かは不法移民だった」とし、「世界中から集まる優秀な人たちがここ(米国)で生活し、働き、貢献することが、我々の利益にもなっている」とも述べた。投稿には、数時間で約23万人が「いいね!」をした。(ワシントン=宮地ゆう)
(10) 米英、隠しきれぬ違い 会見、ぎこちなさも 首脳会談
トランプ米大統領にとって就任後初めての首脳会談となったメイ英首相との会談は、二国間の「特別な関係」が強調された。ただ奔放なトランプ氏と堅実なメイ氏の「違い」も垣間見え、20分足らずの共同記者会見はぎこちなさが残った。▼1面参照
会談に先立ち、両氏は大統領執務室に置かれた英国の宰相チャーチルの胸像を前に、笑顔で握手を交わした。ホワイトハウスの廊下を並んで歩く2人が、一瞬だが手をつなぐ様子も報道陣に披露し、親密ぶりを誇示した。
記念品として、メイ氏が贈ったのは、英スコットランドの伝統的酒杯「クエイク」。取っ手がついていて、ウイスキーを回し飲みするときに使われることから、親愛や友情の象徴とされる。トランプ氏は酒を飲まないが、母親がスコットランド北部の出身であることも考慮したとみられる。
「牧師の娘の努力家と、高圧的なテレビの社交的人物。共通の性格はあるんですか」。27日の会見では、こんな質問が飛び出した。トランプ氏は「私は人付き合いの良い人。テリーザ、あなたもでしょう」とメイ氏に話を向け、「きっとすばらしい関係が築ける」と親密さを強調した。
一方のメイ氏は、折り合えない相違があったか、との問いに対して、「特別な関係で重要なのは、オープンかつ率直に議論ができること」と述べ、意見に違いがあることを言外ににじませた。
トランプ氏との関係づくりに意欲を見せるメイ氏だが、トランプ氏の女性差別的な発言については「許容できない」と批判してきた。人権問題などについては、今後も是々非々で臨む構えを見せている。(ワシントン=渡辺志帆)
(11) <考論>ジェイコブ・キルケゴール氏、ライアン・ボーン氏に聞く 米英首脳会談
■相互に利益ある経済関係、困難だ ジェイコブ・キルケゴール氏(米ピーターソン国際経済研究所)
EUからの離脱を決めたメイ首相は、米国との自由貿易協定(FTA)の締結を渇望している。トランプ大統領は有利な貿易条件を引き出せると踏んで、最初の首脳会談の相手に選んだのではないか。
ただ、互いに利益がある経済関係を築くことは極めて難しいだろう。特に英国側の利益を見いだすことができない。英国が望む金融規制改革を米国が認める可能性はない。また農業分野の自由化を認めれば、英国の農業は破壊される。両国にとって意味のある自由貿易協定は合意できない。だから、協定について会談後の会見であいまいにしか触れられなかったのではないか。
2人がレーガン大統領とサッチャー首相のような良好な関係を築けるとも思わない。メイ氏が保護貿易主義者になって、ロシアのプーチン大統領のファンだとでも言わない限り、2人の関係は極めて薄っぺらいものになるだろう。
■政治信条と性格の隔たり、障害に ライアン・ボーン氏(米シンクタンク「ケイトー研究所」)
トランプ大統領は、EU離脱を決めた英国の国民投票と米大統領選に多くの共通点があると信じ、英国に強い親近感を持っている。オバマ前政権の外交政策を否定し、伝統的な同盟国との関係を強くしたいという点でも、就任後初の首脳会談の相手に英国を選んだのは適切と言える。
メイ首相にとっても、米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶことは政治的なメリットがある。米国のような大国と新たな関係を築ければ、EU離脱は成功したと示せるからだ。
レーガン大統領とサッチャー首相の頃の同盟のように両国関係が強まる可能性は十分にあるが、大きな障害が二つある。一つは、政治信条の違いだ。移民規制などでは一致しているが、トランプ氏は保護貿易論者で、メイ氏は自由貿易論者だ。二つ目は性格だ。メイ氏は注意深く、実利的で重要なこと以外は話さない。トランプ氏は正反対だ。(いずれも聞き手・津阪直樹)
(12) 英・トルコ、貿易関係強化へ 対テロでの協力も協議 首脳会談
英国のメイ首相は28日、米国訪問後にトルコの首都アンカラを訪れ、エルドアン大統領と会談した。ユルドゥルム首相とも会談する。難民や人権の問題をめぐって欧州連合(EU)と関係が悪化しているトルコは、EU離脱を決めた英国の接近を歓迎している。
メイ氏とエルドアン氏は会談後に共同会見し、(1)対テロでの協力関係強化(2)貿易の増額(3)内戦が続くシリアの和平実現(4)南北分断が続くキプロス問題などについて協議したことを明らかにした。
メイ首相のトルコ訪問は就任後初めて。訪問に先立つ27日、英政府はトルコとの貿易協定締結に向けた作業部会の設置で合意したと発表しており、首脳会談では貿易強化が優先的に話し合われたとみられる。
また英国は、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する掃討作戦を展開するトルコとの軍事関係を強化する方針で、今月18日には、トルコ軍が包囲するシリア北部のIS最大拠点バーブを英空軍機が空爆するなど協力が進んでいる。
一方、トルコの人権状況をめぐって、メイ氏はエルドアン氏との会見で「いまトルコが法の支配を維持し、人権(擁護)義務を堅持して民主主義を持続させることは重要だ」と述べ、クギを刺した。(ワシントン=渡辺志帆、イスタンブール=春日芳晃)
(13) 大統領ツイート「米国側も驚き」 メキシコ経済相
米国とメキシコの首脳会談が中止となったことを巡り、メキシコのグアハルド経済相は27日、地元テレビのインタビューで「ホワイトハウスが抱える問題は、トランプ米大統領のツイートに、投稿の後に気付くことだ」と語った。会談中止の原因となったトランプ氏のツイートに米国側の政権幹部も驚いていたと明かし、懸念を示した。
グアハルド氏によると、トランプ氏のツイートは、メキシコ外交団が米国でトランプ政権幹部と会談しているさなかに投稿された。その内容に「全員が驚いた」という。米国側はその後も対話の継続や解決策の模索に努めていたと語り、「予測不可能な状況が問題を引き起こしている」と「ツイッター外交」を批判した。(ティフアナ〈メキシコ北部〉)
(14) (社説)米政権と報道 事実軽視の危うい政治
自由な報道による権力の監視は、民主社会を支える礎の一つである。トランプ米大統領には、その理解がないようだ。
政権は発足直後から報道機関との対立を深めている。
トランプ氏は「私はメディアと戦争状態にある」としつつ、報道機関を「地球上で最も不正直」と非難した。
大統領の側近は米紙に対し「メディアは屈辱を与えられるべきだ。黙ってしばらく聞いていろ」と語り、批判的な報道を威嚇するような発言をした。
ゆゆしい事態である。
権力者の言動をメディアが点検するのは当然のことだ。報道に誤りがあれば、根拠を示して訂正を求めればよい。政権が一方的に攻撃し、報復まで示唆するのは独裁者の振るまいだ。
そもそもこの政権は、事実の認定という出発点から、ゆがんだ対応をみせている。
就任式の観衆の数をめぐり、8年前と今回の写真を比べ、オバマ氏の時より相当少なかったとした報道に、トランプ氏は「ウソだ」と決めつけた。
「過去最多だった」とする政権の根拠のデータをメディアが疑問視すると、政権高官は「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」と強弁した。
その後もトランプ氏は「不法移民が投票しなければ、自分の得票数はクリントン氏より上回っていた」などと、根拠を示さないまま発言している。
「事実」を共有したうえで、議論を重ねて合意を築くのは民主主義の基本だ。政権が事実を曲げたり、軽視したりするようでは、論議の土台が崩れる。
政策全般について、正しい情報に基づいて決められているのか、国民や世界は疑念を深め、米政府の発表や外交姿勢も信頼を失っていくだろう。
トランプ氏は実業家時代、知名度を高めるのにメディアを利用したことを著書などで認めている。大統領選では既成政治とともに主要メディアも「既得権層」と批判し続けた。
だが大統領に就いた今、自身が批判と点検の対象になり、重い説明責任を負うことをトランプ氏は認識する必要がある。
一方、ツイッターでの発信をトランプ氏は今も続けている。政治姿勢を広い手段で明らかにすることはいいが、自分に都合の良い情報だけを強調し、気に入らない情報は抑え込むという態度は許されない。
権力と国民のコミュニケーションが多様化する時代だからこそ、事実を見極め、政治に透明性を求めるメディアの責任は、ますます重みを増している。
(15) (戦後の原点)経済の民主化 誰がための企業、労使探る
終戦直後、民主化の担い手の一つとなったのが労働組合でした。新たに制定された労働組合法のもと、ストライキが相次ぎ、労働運動は熱を帯びます。財閥解体で出直した経営者側にも、これに真剣に向き合う動きがあり、一時は大胆な「労使協調」の道が探られました。経済の民主化をめざした70年前の理念を見つめ直します。
■ゼネスト中止、協調路線遠のく
まるで革命前夜だった。
1947年1月18日。宮城(きゅうじょう)(現在の皇居)前広場に約1万5千人の労働者が集まり、宣言文を発表した。
いまや我々の生活は壊滅に追いこまれている。2月1日午前0時を期して、全国一斉にゼネストに突入する――。労働者はデモ行進に移り、首相官邸前には深夜まで革命歌が流れた。
時代のうねりは、官公庁や民間の労組による全国規模のゼネスト(ゼネラルストライキ)で頂点を極めようとしていた。
「インフレが進み、給料は上がらない。だからこそ賃上げ要求に労働者は団結した」。ストを指導した全官公庁共闘議長の伊井弥四郎は著書で振り返る。
連合国軍総司令部(GHQ)は当初、労組を民主化の担い手ととらえ、支援した。労組員は終戦の4カ月後に戦前のピーク42万人を超え、47年には570万人近くになる。
一方、財界は、各地で続発するストなどの労働争議にどう対応するか、頭を悩ましていた。
「2・1ゼネスト」を前に1月27日、前年春に発足した財界団体の経済同友会は、日本特殊鋼管社長の大塚万丈を委員長とする研究会をスタートさせた。 大塚は銀行や理化学研究所を渡り歩き、「ソロバンではなく、哲学の財界人」(経済同友会10年史)と評された人物だ。
テーマは「経済の民主化」。大塚は「理論的な掘り下げも必要だが、対症療法も考えないといけない」と語った。労組が経営者の命令を拒み、工場を管理下に置く闘争が始まっていた。対応が急務だった。
当時の労働運動は、共産党の影響で政治色を強く帯びていた。首相の吉田茂は労組を「不逞(ふてい)の輩(やから)」と非難。労組側は「内閣打倒」を目標に掲げた。
1月31日午後。GHQは、最後通告を突きつける。伊井を呼び出し、最高司令官マッカーサーの「スト中止」命令を伝えたのだ。伊井は午後9時過ぎ、NHKラジオのマイクに向かった。「司令官の命令とあれば、中止せざるを得ません」「一歩退却、二歩前進の言葉を思い出します。労働者、農民バンザイ!」。生まれたばかりの戦後労働運動の挫折だった。
日本女子大名誉教授の高木郁朗(77)は「共産党や社会党左派が内閣をつぶそうと考え、GHQは、政治闘争に発展すると危機感を持った」と指摘する。
ゼネスト中止は、財界の民主化議論にも影響を与えた。
大塚の研究会は半年余り議論を重ね、8月初めの同友会の幹事会に、「企業民主化試案」を提出した。試案は「民主化」について「産業の運営に関係のある人を漏れなく参加させ、その意思を反映する」と定義した。
戦前の企業は、資本家である財閥本社が系列企業を統治する「株主中心」だった。しかし、大塚は「資本家からの経営者の独立」を示し、経営者と労働者、資本家による「三位一体」の企業運営を提唱した。労働者に経営参加だけでなく、利益を他の2者と平等に分ける権利も認める、斬新な内容だった。
しかし、幹事会では「機が熟していない」と批判が噴出し、世に出たものの、あくまで試案という扱いのままだった。
同友会「10年史」はこう記す。「(ゼネスト中止で)経済再建と労働運動の行き過ぎ是正という線が強まり、経営者の労働者への構えが強くなった」。財界は、労働運動と力で対決する日本経営者団体連盟(日経連)設立へと動いた。
だが、大塚の理念は消えたわけではない。現在、企業が実践を試みる「企業の社会的責任」(CSR)の考え方の源流になったと言われる。東大教授の岡崎哲二(58)は「労働運動をなだめる狙いもあったが、大塚は『企業は株主だけのものではない』とも考えていた。いまに通じる意義がそこにある」と話す。
■労組低迷、進む株主重視 民間主導の変革、熱気冷める
終戦後しばらく、日本の企業社会には、戦前の「身分制度」のなごりが残っていた。
電機メーカーでつくる産別組合、電機連合元委員長の鈴木勝利(74)は57年、中学卒で東芝に養成工として入った。事務職の職員は月給制だったが、工場で働く工員は日給制で、月ごとの勤務日数で月給の額が変わった。出勤時間も職員は工員よりも15分遅かった。
GHQの奨励で経済民主化の柱となった労組は、こうした差別的な待遇を撤廃させていった。経営者もこれを受け入れた。大塚万丈が「企業の民主化」を唱えた時代、経営者は労働者と向き合おうとした。
この70年で、労使を取り巻く環境は大きく変わった。
ストや怠業などの労働争議は55年に春闘が始まると増え、70年代には年9千件を超えた。だが二度の石油危機、バブル崩壊後の景気低迷を経て、「賃上げより雇用」の考えが定着すると減少する。15年の86件はピークの100分の1以下だ。
労組の組織率も下がり続けている。東芝労組から数えると40年以上組合活動に身を投じた鈴木は「組合に入れば賃金は上がり、不利益な問題もなくなるという実感を労働者が持てなくなった。魅力ある労組のイメージを示さないと組織率を上げるのは難しい」と話す。
経営者の姿勢も変わった。バブル崩壊後の90年代、終身雇用や年功序列などの日本型経営に限界を感じ、「市場万能」の英米型の新自由主義の考えに傾く経営者が現れた。経営者の報酬は株価と連動するようになり、従業員との収入格差は開く。
経済同友会OBで、東亜燃料工業(現東燃ゼネラル石油)社長だった中原伸之(82)は「経営者は株主への配当を重視し、賃上げに消極的になった。大塚の『三位一体』の理念からは大きく遠のいた。ドイツでは労働者を経営に参画させる道を進んだが、日本にもそんな歩み方があったはずだ」と指摘する。
現在、政府が賃上げを求める「官製春闘」が定着し、長時間労働の見直しや非正社員の処遇改善も、政府主導の「働き方改革」で進められる。そこには民間中心で、企業社会の変革をめざした戦後の熱気はない。
「終戦直後、大塚と労組の考えは、驚くほど似通っていた」と東北学院大教授の菅山真次(59)は話す。「自分たちの使命は、経済復興に貢献することであり、企業は自らの利益ではなく、公益のためにあるのだ、と考えていたのです」(編集委員・堀篭俊材)
◆文中は敬称略。次回の「戦後の原点」は2月、「沖縄 忘れられた島」を特集する予定です。
(16) 軍事研究、「学問の自由」が焦点 学術会議検討委が中間まとめ、4月に結論
大学などの学術界は、軍事研究とどう向き合うべきか――。日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」が昨年6月から計16時間以上議論し、今月16日に中間とりまとめを公表した。今後、2月4日の公開討論会を経て4月の総会で結論を出すが、これまでどんな議論が行われてきたのか。
議論の焦点の一つは、憲法23条が保障する「学問の自由」についてだ。研究成果の公開(公開性)と、研究者の創意に基づく自由な研究(自律性)の二つを巡り、意見が交わされた。
学術は、研究者が論文や学会で成果を公開し、自らの意思で独創的な研究を行うことで「公開性」と「自律性」を車の両輪として発展してきた。だが、議論の背景には学問の自由を巡る懸念がある。
具体的には、防衛装備庁が大学などを対象に2015年度に始めた「安全保障技術研究推進制度」での成果の「公開性」だ。防衛装備庁は「原則公開」とするが、山極寿一委員(京都大学長)は「防衛に関わる研究が常に公開できるとは正直思えない」と指摘。現在の制度では、防衛装備庁が研究の管理をする点を踏まえ、「公開するかどうかは基本的に研究者が判断すべきだ」と主張した。
佐藤岩夫委員(東京大教授)は成果が法の特定秘密に指定される懸念を示し、「もともと特定秘密保護法の本質は罰則による情報の秘匿にあり、学術との緊張関係は大きい」と述べた。
「自律性」への指摘も多かった。政府は自由な研究に使える運営費交付金を減らし続けている。検討委で意見を述べた名古屋大の池内了名誉教授は「多くの研究者は研究が困難になっている。たとえ防衛省の資金でも、研究を維持したいと望む研究者が生み出されてくる」と指摘した。
これに対して、小松利光委員(九州大名誉教授)は、国の安全保障への貢献は社会の負託だとし、「国の自衛のための研究は国民としての義務。そこに積極的に貢献したい研究者を否定するのは、学問の自由の束縛だ」と反論した。
杉田敦委員長(法政大教授)は、中間取りまとめを発表した際、「学問の自由」と「社会貢献」との対比で議論を整理し、「学問の自由は、仮に独善的と言われても守らなければすぐに崩れてしまう。学術会議にとって学問の自由、科学者の自由を守ることは一番重要な課題だ」と述べた。
■民生との線引きは困難
もう一つは、軍事技術につながる研究と、私たちの生活で利用する民生技術の研究は区別できるか、という点だ。
軍事技術と民生技術の両面を持つ研究の代表例にインターネットがある。ほかにも、京都大の福島雅典名誉教授が委員会に提出した要望書によると、リハビリのために開発されたパワーアシストスーツを健康な人が紛争地で装着したり、胎児心電図の技術を使って潜水艦やミサイルのシグナルをとらえたりできるような研究もある。
検討委では「軍事研究と民生技術研究は線引きできない」という意見が目立った。検討委で意見を述べた情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎教授は、大規模なサイバー攻撃は「武力の行使」になりうるとして、「セキュリティー技術の善用と悪用の区別は困難だ」と指摘。長崎大核兵器廃絶研究センター長の鈴木達治郎氏も委員会の場で「すべての科学技術は軍事転用できる」として、研究成果が軍事転用・悪用されない仕組みが必要だと訴えた。
自衛のための研究と攻撃の技術を切り分けることの検討もされた。大西隆会長(豊橋技術科学大学長)は昨年10月の総会で、学長として承認した毒ガスのフィルターの研究は「攻撃的な兵器を作ろうということではない」と説明。これに対し、「防衛的なことが攻撃的の裏返しだということもある」という意見も出た。中間とりまとめでは「こうした政治的事項について学術会議として意思決定することは適切ではない」などとして争点化を避けた。
■問われる、科学者の良心
日本学術会議は、軍事研究に対し、これまで2回の声明を出している。米ソ冷戦や朝鮮戦争直前の状況を反映した1950年の声明では「科学者としての節操を守るため、戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」と決議。ベトナム戦争を背景にした67年にも、「戦争目的の科学研究を行わない」とした。
今回、検討委員会が置かれたのは軍民両用で利用可能な技術が数多く生まれ、「時代の変化を受けてあらためて検討が必要だ」(大西会長)との問題意識からだ。ただ、現状は過去2回と変わっていない、との主張もある。井野瀬久美恵委員(甲南大教授)らによると、過去2回も「反省」一色ではなかったという。
50年声明の際には、医学や工学系の科学者から「戦争になったら科学者が国家に協力するのは当然」とする意見が寄せられたという。科学や技術がいわば両刃の剣であることも指摘されていた。井野瀬教授は、過去2回の声明は、そうした対立を乗り越えたものだととらえている。「今回の議論の本質は、科学者として守るべき良心と矜恃(きょうじ)を明確に示すことだ」と話す。(嘉幡久敬、杉原里美、竹石涼子)
■中間とりまとめの骨子
・学問の自由は政府によって制約されたり政府に動員されたりしがちであるという歴史的経験をふまえ、学術研究の自主性・自律性を担保する必要がある。
・安全保障と学術との関係を検討する際の焦点は、軍事研究の拡大・浸透が、学術の健全な発展に及ぼす影響である。
・安全保障技術研究推進制度は、将来の装備開発につなげる明確な目的があり、防衛装備庁の職員が研究の進捗(しんちょく)管理を行うなど、政府による研究への介入の度合いが大きい。
・自衛権についてどう考えるかの問題と、大学等における軍事研究についてどう考えるかの問題とは直結するものではない。
・大学等の各研究機関は、軍事研究と見なされる可能性のある研究は、その適切性を技術的・倫理的に審査する制度を設けることが望まれる。
■戦後の科学技術と軍事をめぐる動き
<1945年8月> 終戦
<1945年9月> GHQが原子力研究を禁止。その後、航空、レーダー、テレビなどの研究も禁止
<1949年1月> 日本学術会議が発足
<1950年4月> 日本学術会議が声明「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」を発表
<1950年6月> 朝鮮戦争が始まる
<1952年3月> GHQが兵器製造許可を日本政府に指令
<1952年4月> サンフランシスコ講和条約が発効
<1954年4月> 日本学術会議が核兵器研究の拒否と「公開・民主・自主」の原子力研究3原則を声明
<1967年10月> 日本学術会議が「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表
<2014年4月> 武器の「原則禁輸」を撤廃する防衛装備移転三原則が閣議決定
<2015年7月> 安全保障に役立つ技術開発を進めるための、研究費を支給する
「安全保障技術研究推進制度」の公募を防衛省が開始
<2016年5月> 日本学術会議が軍事と学術の関係を議論する検討委員会を設置
<2017年1月> 同検討委が中間とりまとめを公表
<2017年4月> 結論を出す予定